JP7331592B2 - 表面に有機層が形成された衛生設備部材の製造方法 - Google Patents

表面に有機層が形成された衛生設備部材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、表面に有機層が形成された衛生設備部材の製造方法に関する。好適には、室内または水がかかり得る環境で、使用される衛生設備部材の製造方法に関する。
室内において、金属部材は、取っ手やレバーなど、手で触れる頻度の高い部分に使用される。そのため、指紋等の皮脂汚れなどが付着し、外観が損なわれる。これらの汚れは、拭取り清掃されるが、粘性が高く、拭取りにより引き伸ばされるなど、除去のために何度も擦る必要があり、清掃が大きな負担となっていた。そのため、簡単な清掃で皮脂汚れを除去できることが求められている。
また、水まわりで用いられる部材(水まわり部材とも言う。)は、水が存在する環境下で用いられる。よって、水まわり部材の表面には水が付着しやすい。この表面に付着した水が乾燥することで、水まわり部材の表面に、水道水に含まれる成分であるシリカやカルシウムを含んだ水垢が形成されてしまうという問題が知られている。また、水まわり部材の表面に、タンパク質や皮脂、カビ、微生物、石鹸などの汚れが付着してしまうという問題も知られている。
水まわり部材の表面にこれらの汚れを付着させないことは困難であるため、清掃によって表面の汚れを落とし原状を回復させることが通例行われている。具体的には、洗剤や水道水を利用して布やスポンジなどで水まわり部材の表面をこするなどの作業によりこれらの汚れを落とす。そのため、水まわり部材に対して、汚れの取れやすさ、つまり易除去性が求められている。
また、水まわり部材は、高い意匠性も求められる。特に、表面に金属元素を含む金属部材は、美しい外観のために水まわり部材の表面に好ましく使用される。従って、金属部材の意匠を損なうことなく、易除去性を付与することが求められる。
これに関して、撥水性防汚層を用いた水垢除去技術が知られている。特開2000-265526号公報には、陶器表面の水酸基をシールドする防汚層を設けることで、珪酸スケール汚れの固着を抑制することが記載されている。この防汚層は、陶器表面の水酸基とフッ化アルキル基含有有機珪素化合物、加水分解性基含有メチルポリシロキサン化合物、およびオルガノポリシロキサン化合物を混合したものを塗布・乾燥した防汚層を開示している。
また、特開2004-217950号公報には、水栓などのめっき処理が施された面に対して、フッ素含有基及び錯形成能を有する基を含むフッ素含有化合物を含むめっき皮膜用表面処理剤で処理することによって、水垢易除去性が得られることが記載されている。
特開2000-265526号公報 特開2004-217950号公報
本発明者らは、今般、水栓等の水回りの衛生設備部材の表面に、特定の有機層を形成することで、汚れの易除去性およびその持続性を得ることができることを見出した。さらに、この汚れの易除去性を備える有機層の製造にあたり、特定の時点で洗浄操作を行うことで、より優れた特性の有機層が得られるとの知見を得た。すなわち、衛生設備部材の表面に有機層を形成する工程の後に、好ましくは特定の界面活性剤を含む水溶液により形成された有機層を処理することで、より優れた特性の有機層が得られることが見出された。本発明は、このような知見に基づくものである。
したがって、本発明による衛生設備部材の製造方法は、
基材と、
前記基材上に、金属元素と酸素原子とを含む金属酸化物層と、
前記金属酸化物層上に、疎水基と、前記金属元素に対し配位性を有する官能基とを備える非高分子の有機配位子を含み、かつ、前記官能基を介して前記金属酸化物層と結合してなる有機層と
を含み、前記有機層を最表面に備えてなる、衛生設備部材の製造方法であって、
前記金属酸化物層が形成された前記基材を準備する工程、
前記有機層を形成する成分を前記基材表面に適用する工程、
前記有機層を形成する成分を前記基材表面に固定する工程、および
前記基材表面に固定されていない前記有機層を形成する成分を除去する工程
を含んでなることを特徴とするものである。
また、本発明によれば、金属表面上に有機層を形成する方法が提供され、
この方法は、
金属元素と酸素原子とを含む金属酸化物層を表面に備えた基材の表面に、疎水基と、前記金属元素に対し配位性を有する官能基とを備える非高分子の有機配位子を含み、かつ、前記官能基を介して前記金属酸化物層と結合してなる有機層を形成する方法であって、
前記金属酸化物層が形成された前記基材を準備する工程、
前記有機層を形成する成分を前記基材表面に適用する工程、
前記有機層を形成する成分を前記基材表面に固定する工程、および
前記基材表面に固定されていない前記有機層を形成する成分を除去する工程
を含んでなることを特徴とするものである。
本発明によれば、汚れの易除去性を長期にわたり維持できる衛生設備部材が提供される。
基材上に有機層を形成した本発明の衛生設備部材の構成を表す概略図である。 本発明の衛生設備部材において基材上に形成した有機層を分子レベルで表した概略図である。 従来技術の金属部材において基材上に形成した有機層を分子レベルで表した概略図である。 試料3のXPS分析により得られたC1sスペクトルを示す。 試料3のXPS分析により得られたP2pスペクトルを示す。 試料3のアルゴンイオンスパッタを用いたXPS分析により得られた炭素原子濃度のデプスプロファイルを示す。 試料3のアルゴンガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)を用いたXPS分析により得られた炭素原子濃度のデプスプロファイルを示す。 試料3のQ-TOF-MS/MS分析により得られたマススペクトル((a)ポジティブ、(b)ネガティブ)を示す。 試料3のTOF‐SIMS分析により得られた二次イオンマススペクトル(ネガティブ)を示す。 試料3のSERSラマン分析により得られたラマンスペクトル((a)180-3600cm-1 (b)280-1190cm-1)を示す。
本発明の衛生設備部材は、図1に示すように、少なくともその表面が金属元素を含む基材70と、金属元素を含む金属酸化物層20と、金属酸化物層20の上に設けられた有機層10とを含む、衛生設備部材100である。基材70から有機層10に向かう方向をZ方向とする。基材70、金属酸化物層20、および有機層10は、Z方向にこの順に配置される。
本発明において、有機層10は、後述するR-Xを用いて形成される層であり、単分子層であることが好ましく、自己組織化単分子層(self assembled monolayers、SAM)であることがより好ましい。自己組織化単分子層は、分子が緻密に集合した層となるため、金属酸化物層の表面に存在する水酸基の大部分をシールドすることができる。自己組織化し得る分子は、界面活性剤の構造であり、金属酸化物層と高い親和性を持つ官能基(ヘッド基)と、金属酸化物層と低い親和性を持つ部位を持つ。ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基をヘッド基に持つ界面活性剤分子は、金属酸化物層の表面にSAMを形成する能力を有する。SAMの厚さは、構成分子1分子の長さと同程度となる。ここで、「厚さ」とは、SAMのZ方向の長さを指し、必ずしもR-X自身の長さではないことを意味する。SAMの厚さは10nm以下、好ましくは5nm以下、より好ましくは3nm以下である。また、SAMの厚さは、0.5nm以上、好ましくは1nm以上である。SAMの厚さがこのような範囲になるような構成分子を用いることで、金属酸化物層を効率的に被覆することができ、汚染物質の易除去性に優れた衛生設備部材を得ることができる。
本発明において、SAMは、有機分子が固体表面に吸着する過程で基材の表面上に形成される分子の集合体であり、分子同士の相互作用によって集合体を構成する分子が密に集合し得る。本発明において、SAMは炭化水素基を含む。これによって、分子同士に疎水性相互作用が働き、分子が密に集合することができるため、汚れの易除去性に優れた衛生設備部材を得ることができる。
本発明において、SAMは、一般式R‐X(Rは炭化水素基または炭化水素基内の1ないし2個所に炭素以外の原子を有する基であり、Xはホスホン酸基、リン酸基、及びホスフィン酸基から選ばれる少なくとも1種である。)で表される化合物を用いて形成される層である。
有機層
本発明において、有機層10は、後述する非高分子の有機配位子R-Xからなる層であり、R-Xが単層で形成された単分子層であることが好ましく、R-Xからなる自己組織化単分子層(self assembled monolayers、SAM)であることがより好ましい。自己組織化単分子層は、分子が緻密に集合した層となるため、基材上の水酸基の大部分をシールドすることができる。自己組織化しうる分子は、界面活性剤の構造であり、基材と高い親和性を持つ官能基(ヘッド基)と基材と低い親和性を持つ部位を持つ。ある種の官能基をヘッド基に持つ界面活性剤分子は、金属酸化物層に含まれる金属元素に対し配位性を有するため、金属酸化物層上にSAMを形成する能力を有する。SAMは面方向の結合を有しないため、熱による解裂が起こらない。そのため、熱変化に伴う層剥離が起きにくい。SAMの厚さは、構成分子1分子の長さと同程度となる。ここで、「厚さ」とは、SAMのZ方向に沿う長さを指す。ここで、図1において、基材70から有機層10に向かう方向をZ方向とする。SAMの厚さは10nm以下、好ましくは5nm以下、より好ましくは3nm以下である。また、SAMの厚さは、0.5nm以上、好ましくは1nm以上である。SAMの厚さがこのような範囲になるような構成分子を用いることで、基材を効率的に被覆することができ、汚染物質の易除去性に優れた衛生設備部材を得ることができる。
本発明において、SAMは、有機分子が固体表面に吸着する過程で基材表面上に形成される分子集合体であり、分子同士の相互作用によって集合体構成分子が密に集合する。本発明において、SAMは炭化水素基を含む。これによって、分子同士に疎水性相互作用が働き、分子が密に集合することができるため、汚れの易除去性に優れた衛生設備部材を得ることができる。
本発明において、非高分子の有機配位子R-Xは、疎水基Rと、金属酸化物層に含まれる金属元素に対し配位性を有する官能基Xとを備える。非高分子の有機配位子R-Xは、官能基Xを介して金属酸化物層と結合する。ここで、「非高分子」とは、国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による高分子科学の基本的術語の用語集(日本語訳)の定義1.1(すなわち、相対分子質量の大きい分子で、相対分子質量の小さい分子から実質的または概念的に得られる単位の多数回の繰返しで構成された構造をもつもの。http://main.spsj.or.jp/c19/iupac/Recommendations/glossary36.htmlを参照)に該当しない化合物を意味する。SAMは、このような非高分子の有機配位子R‐Xを用いて形成される層である。
非高分子の有機配位子R-X
本発明において、有機層10は非高分子の有機配位子R-Xを用いて形成される層である。疎水基Rは、CとHとからなる炭化水素基であることが好ましい。Rの炭化水素基の骨格内に1ないし2個所で炭素以外の原子が置換されていても良い。置換される原子は、酸素、窒素、硫黄が挙げられる。好ましくは、Rの片末端(Xとの結合端ではない側の端部)はメチル基である。これによって、衛生設備部材の表面が撥水性となり、汚れの易除去性を高めることができる。R-XがZ方向に配列した有機層10は面方向の結合を有しないため、熱により有機基R同士の間隔が広がり、水が浸入し、層剥離につながる可能性もあると考えられるが、有機層10を形成しているR-Xの緻密性は、熱による影響を抑え、耐水性を向上させるものと考えられる。緻密な有機層が水の浸入を阻むためだと推察される。
Rは、CとHとからなる炭化水素基であることが、より好ましい。炭化水素基は、飽和炭化水素基でもよいし、不飽和炭化水素基でもよい。また、鎖式炭化水素でもよいし、芳香環などの環式炭化水素を含んでもよい。Rは、好ましくは鎖式飽和炭化水素基であり、より好ましくは直鎖式の飽和炭化水素基である。鎖式飽和炭化水素基は、柔軟な分子鎖であるため、基材を隙間なく覆うことができ、耐水性を高めることができる。Rが鎖式炭化水素基の場合は、好ましくは炭素数が6以上25以下のアルキル基である。Rは、より好ましくは炭素数が10以上18以下のアルキル基である。炭素数が多い場合には、分子同士の相互作用が大きく、SAMの分子間隔dを狭くすることができ、耐水性をさらに高めることができる。一方、炭素数が大きすぎる場合には、単分子層の形成速度が遅く、生産効率が悪くなる。
Rはハロゲン原子を含有してもよいが、含有しないことが好ましい。Rは高極性の官能基(スルホン酸基、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、アンモニウム基、複素環骨格)を、片末端側に含んでもよいが、含まないことが好ましい。ハロゲン原子やこれらの官能基を含有しない化合物を用いて形成される層は、汚れの易除去性およびその耐久性が高くなる。
Rはハロゲン原子を含有しないことが好ましい理由として、以下の作用機序が考えられる。
前記のR-Xで表される化合物が衛生設備部材の表面に結合されるためには、金属酸化物層が必要である。金属酸化物層の表面は、親水性であるが、当該表面に有機層を形成することにより撥水性となり、水垢付着防止性能が発現する。そのため、有機層は特開2004-217950号公報に記載されたようなフッ素含有化合物を用いて形成することが、高い撥水性の表面が得られるため、良いと考えられていた。しかしながら、フッ素含有化合物を用いて形成される有機層の表面にあっては、水垢付着防止性能が低くなってしまうことを発明者らは見出した。これは、フルオロアルキル基の撥水性が非常に高いために水に対して斥力が働くことと、親水性を呈する金属酸化物層は水に対して誘引力が働くこととの複合作用により、水が有機層の内部に浸入して水に溶解している無機成分(ケイ酸塩など)と金属酸化物との結合が促進され、水垢の固着が助長されるためであると推察される。
これに対し、例えば直鎖の炭化水素基を備えたアルキルホスホン酸のように、フッ素を含有しない化合物を用いて有機層を形成した場合、水垢付着防止性能は高く、汚れの易除去性が得られることを、発明者らは見出した(第1の効果)。これは、フッ素を含有しない化合物を用いて形成された有機層はフッ素含有化合物を用いて形成された有機層に比べて撥水性が低いため、水が金属酸化物層の側に浸入する作用が弱いためであると推察される。
また、有機層への水の浸入を防止できることは、有機層の耐久性を高める上でも有利に働くと考えられる。R-Xと金属酸化物との結合は、水の存在によって、加水分解され得る。そのため、フッ素含有化合物等を用いて形成される水が浸入しやすい有機層の場合、水が存在する環境で使用すると、R-Xが金属酸化物から脱離してしまい、汚れの易除去性を持続させることができないことも発明者らは見出した。
これに対し、水の浸入を防止することができる直鎖の炭化水素基を備えたアルキルホスホン酸等を用いることで、R-Xと金属酸化物との結合の加水分解を起こりにくくして、汚れの易除去性を持続させることができる。さらに、金属酸化物層がCr、Zr、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素(M)を含むことで、金属酸化物層とR-Xとの間に安定な結合(M-O-P結合)を形成することができる。そのため、わずかに有機層に水が浸入した場合にも、R-Xと金属酸化物との結合が加水分解されることによるR-Xの脱離を抑制することができる。このような安定なM-O-P結合は、水が存在する環境下で使用した場合や、清掃のために摺動した場合における耐久性を有機層に与える(第2の効果)。
以上のことから、本発明の衛生設備部材は、汚れの易除去性(第1の効果)と、有機層の耐久性(第2の効果)とをともに備えることで、十分な持続性を確保できるものである。
上記に加えて、次のようなことも推察される。すなわち、図2(a)に示すように、R‐Xを用いた場合には、衛生設備部材100の表面の、有機層10を構成するR同士の間隔dが狭くなり、水垢が金属酸化物層の水酸基と結合するのが抑制されるために、易除去性が向上したものと推察される。ここで「間隔d」とは、R間の間隔である。さらに、柔軟なRが折れ曲がるようにして基材を覆うため、基材と有機層を形成する化合物との結合部分に水分子が浸入しにくくなる。これにより、有機層を形成する化合物と金属酸化物との結合は加水分解が起こりにくくなるため、耐水性が向上したものと推察される。
一方、特開2000-265526号公報、および特開2004-217950号公報に開示された技術においては、フッ素原子を含む炭化水素基を用いている。この場合、(i)分子サイズが大きく、分子自体の立体障害で分子が緻密に並ぶことができない、(ii)分子同士の相互作用が弱いため、図3に示すように、部材200においては、有機層10を構成するフッ素を含む炭化水素基間の間隔dが広くなる。したがって、金属酸化物層表面にシールドされていない水酸基が残存してしまい、水垢Sと化学結合を形成するため、十分な水垢易除去性を得ることができなかったと推測される。また、フッ素を含む炭化水素基は、剛直で曲がりにくい分子のため、分子間の隙間をさらに覆うことができない。このため、基材と有機層との結合部分に水分子が浸入しやすくなり、耐水性が低くなると推察される。
官能基Xは、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基、カルボキシル基、βジオール基、アミノ基、水酸基、ヒドロキシアミド基、αまたはβ-ヒドロキシカルボン酸基、シラン、アルキン、アルケン、スルフィド基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
カルボキシル基、βジオール基、アミノ基、水酸基、ヒドロキシアミド基、αまたはβ-ヒドロキシカルボン酸基は、官能基同士で重合することなく、金属酸化物層に含まれる金属元素に配位(吸着)するため、緻密な有機層が形成される。
シラン、アルキン、アルケンは、官能基同士で重合することがあるため、重合していない官能基のみが金属酸化物層に含まれる金属元素に配位(吸着)する。重合した分だけ有機層の緻密性が低下するため、重合が抑制されるように、原料の保管および有機層を形成させるための処理液の調合において、重合を促進する要因と原料との接触を避けることが好ましい。重合を促進する要因として、シランの場合は熱および水分、アルキンおよびアルケンの場合は熱および光が挙げられる。スルフィド基は、金にのみ特異的に配位する官能基であるため、金属酸化物層に含まれる金属元素が金である場合にのみ有用である。
本発明の好ましい態様によれば、Xは、リン原子を含む官能基のうち、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはホスホン酸基である。これにより、耐水性が高く、かつ汚染物質の易除去性に優れた衛生設備部材を効率的に得ることができる。
一般式R‐Xで表される有機ホスホン酸化合物は、好ましくはオクタデシルホスホン酸、ヘキサデシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、デシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸であり、より好ましくはオクタデシルホスホン酸、ヘキサデシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、デシルホスホン酸である。さらに、より好ましくは、オクタデシルホスホン酸である。
R-Xにおいて、官能基Xは、Xを有する分子であってもよい。ホスホン酸基を有する分子としてホスホン酸、リン酸基を有する分子として(有機)リン酸、ホスフィン酸基を有する分子としてホスフィン酸、カルボキシル基を有する分子としてカルボン酸、βジオール基を有する分子としてプロトカテク酸、没食子酸、ドーパ、カテコール(オルトヒドロキシフェニル)基、アミノ基を有する分子としてアミノ酸、水酸基を有する分子としてアルコール、ヒドロキシアミド基を有する分子としてヒドロキサム酸、αまたはβ-ヒドロキシカルボン酸基を有する分子としてサリチル酸、キナ酸、シランを有する分子としてアルコキシシラン、クロロシラン、スルフィド基を有する分子としてチオール類を用いてもよい。
本発明において、有機層は、二種類以上のR‐Xから形成されていてもよい。二種類以上のR‐Xから形成された有機層とは、上述した化合物が複数種類混合されてなる有機層を意味する。また、本発明において、有機層は、水垢易除去性を損なわない範囲において、R‐X以外の有機分子を微量に含んでいてもよい。
有機層の厚さは、上限値が、好ましくは50nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。有機層の厚さは、下限値が、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1nm以上である。好適な範囲はこれらの上限値と下限値とを適宜組み合わせることができる。ここで、「厚さ」とは、有機層のZ方向の長さを指す。
有機層の厚さを測定する方法として、X線光電子分光法(XPS)、X線反射率法(XRR)、エリプソメトリー法、および表面増強ラマン分光法のいずれかを用いることができるが、本発明においては、有機層の厚さをXPSで測定する。有機層が二種類以上のR‐Xから形成されている場合にも、XPSで測定される厚さをその有機層の平均厚さと見なし、以下に示す測定で得られる厚さを有機層の厚さとする。その場合、有機層の厚さは、アルゴンイオンスパッタまたはアルゴンガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)によるスパッタとXPS測定とを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により測定できる(後述の図6および図7参照)。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、縦軸を各原子濃度(単位:at%)とし、横軸をスパッタ時間として作成することができる。横軸をスパッタ時間とする分布曲線においては、スパッタ時間は深さ方向における表面からの距離に概ね相関する。Z方向における衛生設備部材(または有機層)の表面からの距離として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したスパッタ速度とスパッタ時間との関係から、衛生設備部材(または有機層)の表面からの距離を算出することができる。
アルゴンイオンスパッタの場合はスパッタ時間0分の測定点を、表面(0nm)とし、表面から深さ20nmの距離になるまで測定を行う。表面から深さ20nm付近の炭素濃度を基材中の炭素原子濃度とする。表面から深さ方向に炭素原子濃度を測定し、基材の炭素原子濃度よりも1at%以上高い炭素原子濃度となる最大深さを、有機層の厚さとして評価する。
また、Ar-GCIBの場合は以下の通りに有機層の厚さを評価する。最初に、膜厚基準試料としてシリコンウェハ上にオクタデシルトリメトキシシランを用いて形成される有機層を成膜した標準試料を作成し、X線反射率測定(XRR)(パナリティカル社製X‘pert pro)を実施し、反射率プロファイルを得る。得られた反射率プロファイルは、解析ソフトウェア(X‘pert Reflectivity)を用いてParrattの多層膜モデル、Nevot-Croseのラフネスの式へのフィッティングにより標準試料の膜厚を得る。次に、標準試料についてAr-GCIB測定を実施し、SAMのスパッタ速度(nm/min)を得る。衛生設備部材の表面に有する有機層の膜厚は、得られたスパッタ速度を用いてスパッタ時間をZ方向の衛生設備部材の表面からの距離に換算する。XRRの測定、解析条件及びAr-GCIBの測定条件はそれぞれ以下の通りである。
(XRR測定条件)
装置:X‘pert pro(パナリティカル)
X線源:CuKα
管電圧:45kV
管電流:40mA
Incident Beam Optics
発散スリット:1/4°
マスク:10mm
ソーラースリット:0.04rad
散乱防止スリット:1°
Diffracted Beam Optics
散乱防止スリット:5.5mm
ソーラースリット:0.04rad
X線検出器:X‘Celerator
Pre Fix Module:Parallel plate Collimator0.27
Incident Beam Optics:Beam Attenuator Type Non
Scan mode:Omega
Incident angle:0.105-2.935
(XRR解析条件)
以下の初期条件を設定する。
Layer sub:Diamond Si(2.4623g/cm3)
Layer 1:Density Only SiO2(2.7633g/cm3)
Layer 2 Density Only C(1.6941g/cm3)
(Ar-GCIB測定条件)
装置:PHI Quantera II(アルバック・ファイ製)
X線条件:単色化AlKα線、25W、15kv
分析領域:100mφ
中和銃条件:20μA
イオ銃条件:7.00mA
光電子取出角:45°
Time per step:50ms
Sweep:10回
Pass energy:112eV
測定インターバル:10min
スパッタ―セッティング:2.5kV
結合エネルギー:測定元素による
測定試料について、スパッタ時間0分の測定点を表面(0nm)とし、スパッタ時間100分まで測定する。なお、有機層の厚さの測定においては、おおよその値を半定量的に求める場合にはアルゴンイオンスパッタを採用し、厚さを定量的に求める場合には、深さ分解能が高いAr-GCIBを用いる。
本発明において、表面の有機層の厚さを測定する場合、測定前に衛生設備部材の表面を洗浄し、表面に付着した汚れを十分に除去する。例えば、エタノールによる拭取り洗浄、および中性洗剤によるスポンジ摺動洗浄の後、超純水にて十分にすすぎ洗いを行う。また、表面にヘアライン加工やショットブラスト加工などが施された、表面粗さが大きな衛生設備部材の場合は、できるだけ平滑性の高い部分を選んで測定する。
本発明において、以下に示す方法で有機層がR-Xを用いて形成される層であることを詳細に確認する前に、有機層がRを有する化合物を用いて形成されていることを、C-C結合およびC-H結合の測定により簡易的に確認してもよい。C-C結合およびC-H結合は、X線光電子分光法(XPS)、表面増強ラマン分光法、高感度赤外反射吸収(Infrared Reflection Absorption Spectroscopy:IRRAS)法によって確認することができる。XPSを用いる場合、C1sピークが現れる範囲(278-298eV)のスペクトルを得て、C-C結合およびC-H結合に由来する284.5eV付近のピークを確認する。C-C結合およびC-H結合を測定する場合には、測定前に衛生設備部材の表面を洗浄し、表面に付着した汚れを十分に除去する。
本発明において、以下に示す方法で有機層がR-Xを用いて形成される層であることを詳細に確認する前に、有機層がXを有する化合物を用いて形成されていることを、リン原子(P)または、リン原子(P)と酸素原子(O)との結合(P-O結合)の測定により簡易的に確認してもよい。リン原子は、X線光電子分光法(XPS)によりリン原子濃度を求めることで確認できる。P-O結合は、例えば、表面増強ラマン分光法、高感度赤外反射吸収法、X線光電子分光法(XPS)により確認することができる。XPSを用いる場合、P2pピークが現れる範囲(122‐142eV)のスペクトルを得て、P-O結合に由来する133eV付近のピークを確認する。
本発明において、有機層がR-Xを用いて形成される層であることは、以下の手順で詳細に確認する。先ず、XPS分析にて表面元素分析を行い、C、P、Oが検出されることを確認する。次に、質量分析にて表面に存在する成分の分子に由来する質量電荷比(m/z)から分子構造を特定する。質量分析は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF‐SIMS)または高分解能質量分析法(HR-MS)を用いることができる。ここで高分解能質量分析法とは、質量分解能が0.0001u(u:Unified atomic mass units)又は0.0001Da未満の精度で測定可能で精密質量から元素組成が推定できるものを指す。HR-MSとしては、二重収束型質量分析法、飛行時間型タンデム質量分析法(Q-TOF-MS)、フーリエ変換型イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FT-ICR-MS)、オービトラップ質量分析法などが挙げられ、本発明においては飛行時間型タンデム質量分析法(Q-TOF-MS)を用いる。質量分析は、部材から十分な量のR-Xを回収できる場合は、HR-MSを用いることが望ましい。一方、部材のサイズが小さいこと等の理由で、部材から十分な量のR‐Xが回収できない場合は、TOF‐SIMSを用いることが望ましい。質量分析を用いる場合、イオン化したR-Xに相当するm/zのイオン強度が検出されることで、R-Xの存在を確認できる。ここでイオン強度は、測定範囲においてイオン強度が算出されている範囲の中で最も値が低いm/zを中心に前後50Daの平均値の信号の3倍以上を有することで検出されているとみなす。
飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS)装置には、例えば、TOF-SIMS5(ION-TOF社製)を用いる。測定条件は、照射する1次イオン:209Bi ++、1次イオン加速電圧25kV、パルス幅10.5or7.8ns、バンチングあり、帯電中和なし、後段加速9.5kV、測定範囲(面積):約500×500μm、検出する2次イオン:Positive、Negative、Cycle Time:110μs、スキャン数16とする。測定結果として、R-Xに由来する2次イオンマススペクトル(m/z)を得る。2次イオンマススペクトルは、横軸は質量電荷比(m/z)、縦軸は検出されたイオンの強度(カウント)として表される。
高分解能質量分析装置として飛行時間型タンデム質量分析装置(Q-TOF-MS)、例えば、Triple TOF 4600(SCIEX社製)を用いる。測定には、例えば、切り出した基材をエタノールに浸漬させ、有機層を形成するために用いた成分(R-X)を抽出し、不要成分をフィルターろ過後、バイアル瓶(1mL程度)に移した後に測定する。測定条件は、例えば、イオン原:ESI/Duo Spray Ion Source、イオンモード(Positive/Negative)、IS電圧(-4500V)、ソース温度(600℃)、DP(100V)、CE(40V)でのMS/MS測定を行う。測定結果として、MS/MSスペクトルを得る。MS/MSスペクトルは、横軸は質量電荷比(m/z)、縦軸は検出されたイオンの強度(カウント)として表される。
Rの片末端がCおよびHからなること及びRがCとHとかるなる炭化水素であることの確認は表面増強ラマン分光を用いて確認する。
表面増強ラマン分光を用いる場合は、Rの片末端がCおよびHからなること及びRがCとHとかるなる炭化水素に由来するラマンシフト(cm-1)を確認することで行う。表面増強ラマン分光分析装置は、透過型表面増強センサおよび共焦点顕微ラマン分光装置からなる。透過型表面増強センサは、例えば、特許第6179905号に記載されるものを用いる。共焦点顕微ラマン分光装置は、例えば、NanoFinder30(東京インスツルメンツ)を用いる。測定には、切り出した衛生設備部材の表面に透過型表面増強ラマンセンサを配置した状態で測定する。測定条件は、Nd:YAGレーザー(532nm、1.2mW)、スキャン時間(10秒)、グレーチング(800 Grooves/mm)、ピンホールサイズ(100μm)で行う。測定結果としてラマンスペクトルを得る。ラマンスペクトルは、横軸はラマンシフト(cm-1)、縦軸は信号強度である。Rの片末端がメチル基の場合はメチル基に由来するラマンシフト(2930cm-1付近)を確認する。Rの末端が他の炭化水素である場合は相当するラマンシフトを確認する。また、RがCとHとかるなる炭化水素がアルキル基(-(CH-)の場合は、ラマンシフト2850cm-1付近、2920cm-1付近が検出されることで確認する。また、他の炭化水素基の場合は、相当するラマンシフトを確認する。ラマンシフトの信号は、測定範囲で最も信号強度が低い範囲の100cm-1の信号強度の平均値の3倍以上あることで検出されているとみなす。
RがCとHとかるなる炭化水素であることの確認はTOF-SIMSを用いることができる。TOF-SIMS分析を用いる場合は、R-Xの確認と同じ分析条件で得られる2次イオンマススペクトルの中でm/z=14ごとに検出されるピークがアルキル基(-(CH-)に由来することをもって確認する。
有機層が単分子層であることの確認は、上述の方法で得られた有機層の厚さと上述の方法で同定された一般式R‐Xで表される化合物の分子構造に基づいて行うことができる。まず、同定された分子構造に基づき、一般式R‐Xで表される化合物の分子長を推定する。そして、得られた有機層の厚さが推定された化合物の分子長の2倍未満であれば単分子層とみなす。なお、有機層の厚さは、異なる3点を測定して得られた厚さの平均値とする。また、有機層が2種類以上の一般式R‐Xで表される化合物から形成されている場合には、得られた有機層の厚さが推定された化合物の最も長い分子長の2倍未満であれば単分子層とみなす。
有機層がSAMであることの確認は、上述の有機層が単分子層であることの確認に加えて、有機層が緻密な層を形成していることを確認することによって行うことができる。有機層が緻密な層を形成していることの確認は、上述の表面のリン原子濃度により行うことができる。すなわち、リン原子濃度が1.0at%以上であれば、有機層は緻密な層を形成していると言える。
有機層と金属酸化物層とは、図2(b)に示されるように、金属酸化物層由来の金属原子(M)及び化合物R-X由来のリン原子(P)が酸素原子(O)を介して結合(M-O-P結合)している。M-O-P結合は、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)や表面増強ラマン分光法、赤外反射吸収法、赤外吸収法、X線光電子分光法(XPS)により確認することができるが、本発明においては、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)および表面増強ラマン分光法の2つを併用することにより確認する。Xがホスホン酸基の場合、1つのXにつき最大で3つのM-O-P結合を形成することができる。1つのXが複数のM-O-P結合で金属酸化物に固定されることにより、有機層の耐水性および耐摩耗性が向上する。
本発明において、M-O-P結合は以下の手順で確認する。まずXPS分析にて表面元素分析を行い、C、P、Oが検出されることを確認する。次に、飛行時間型二次イオン質量分装置(TOF-SIMS)、例えば、TOF-SIMS5(ION-TOF社製)を用いる。測定条件は、照射する1次イオン:209Bi ++、1次イオン加速電圧25kV、パルス幅10.5or7.8ns、バンチングあり、帯電中和なし、後段加速9.5kV、測定範囲(面積):約500×500μm、検出する2次イオン:Positive、Negative、Cycle Time:110μs、スキャン数16とする。測定結果として、R-Xと金属酸化物元素Mの結合体(R-X-M)に由来する二次イオンマススペクトル及びM-O-Pに由来する2次イオンマススペクトル(m/z)をそれぞれ得ることで確認する。2次イオンマススペクトルは、横軸は質量電荷比(m/z)、縦軸は検出されたイオンの強度(カウント)として表される。
次に、表面増強ラマン分光分析によってM-O-P結合に由来するラマンシフト(cm-1)を確認する。表面増強ラマン分光分析装置は、透過型表面増強センサおよび共焦点顕微ラマン分光装置からなる。透過型表面増強センサは、例えば、特許第6179905号に記載されるものを用いる。共焦点顕微ラマン分光装置は、例えば、NanoFinder30(東京インスツルメンツ)を用いる。測定には、切り出した衛生設備部材の表面に透過型表面増強ラマンセンサを配置した状態で測定する。測定条件は、Nd:YAGレーザー(532nm、1.2mW)、スキャン時間(10秒)、グレーチング(800 Grooves/mm)、ピンホールサイズ(100μm)で行う。測定結果としてラマンスペクトルを得る。ラマンスペクトルは、横軸はラマンシフト(cm-1)、縦軸は信号強度である。M-O-Pの結合由来の信号は、M-O-P結合の結合状態を第一原理計算ソフトパッケージ:Material Studioを用いて推定したラマンスペクトルから帰属を行うことができる。第一原理計算の計算条件として、構造最適化については、例えば、使用ソフト(CASTEP)、汎関数(LDA/CA―PZ)、カットオフ(830eV)、K点(2*2*2)、擬ポテンシャル(Norn―conserving)、Dedensity mixing(0.05)、スピン(ON)、Metal(OFF)で行う。また、ラマンスペクトル計算は、例えば、使用ソフト(CASTEP)、汎関数(LDA/CA―PZ)、カットオフ(830eV)、K点(1*1*1)、擬ポテンシャル(Norn―conserving)、Dedensity mixing(All Bands/EDFT)、スピン(OFF)、Metal(OFF)で行う。M-O-Pの結合状態として、例えば、ホスホン酸基の場合、1つのホスホン酸基あたりのM-O-P結合が1つの状態、1つのホスホン酸基あたりのM-O-P結合が2つの状態、1つのホスホン酸基あたりのM-O-P結合が3つの状態が考えられる。本発明の衛生設備部材では、少なくともいずれか一つの結合状態を含んでいることを確認する。表面増強ラマン分光分析から得られたラマンスペクトルを第一原理計算で得られたラマンスペクトルで帰属する際には、M-O-Pの結合状態ごとに特徴的なラマンシフトが二か所以上一致していることをもって確認する。ここで、ラマンシフトが一致しているとは、比較するM-O-P結合に由来すると考えられるラマンシフトの値の±2.5cm-1(5cm-1)の範囲において、第一原理計算、表面増強ラマン分光分析の両方で信号が検出されていることを意味する。
本発明の衛生設備部材において、表面のリン原子濃度は、好ましくは1.0at%以上10at%未満である。リン原子濃度をこの範囲とすることで、有機層は緻密であることを示している。これによって、十分な耐水性を有し、水垢易除去性に優れた衛生設備部材を得ることができる。より好ましくは、リン原子濃度は1.5at%以上10at%未満である。これによって、さらに耐水性、および水垢易除去性を高めることができる。
本発明の衛生設備部材の表面のリン原子濃度は、X線光電子分光法(XPS)によって、求めることができる。測定条件は、条件1を用い、ワイドスキャン分析(サーベイ分析ともいう)を行う。
(条件1)
X線条件:単色化AlKα線(出力25W)
光電子取出角:45°
分析領域:100μmφ
操作範囲:15.5-1100eV
XPS装置には、PHI Quantera II(アルバック・ファイ製)を用いることができる。X線条件(単色化AlKα線、25W、15kv)、分析領域:100μmφ、中和銃条件(Emission:20μA)、イオン銃条件(Emission:7.00mA)、光電子取出角(45°)、Time per step(50ms)、Sweep(10回)、Pass energy(280eV)、走査範囲(15.5~1100eV)の条件でワイドスキャン分析することによりスペクトルを得る。スペクトルは、有機層から検出される炭素原子、リン原子など、および基材から検出される原子、例えば、Crめっき基材であれば、クロム原子、酸素原子のそれぞれを含む形で測定される。検出された原子の濃度は、得られたスペクトルから、例えばデータ解析ソフトウェアPHI MultiPuk(アルバック・ファイ製)を用いて算出することができる。得られたスペクトルは、C1sピークを284.5eVとしてチャージ補正した後に、測定された各原子の電子軌道に基づくピークに対してShirely法でバックグラウンドを除去した後にピーク面積強度を算出し、データ解析ソフトウェアに予め設定されている装置固有の感度係数で除算する解析処理を行い、リン原子濃度(以下、C)を算出することができる。また、同様にして、炭素原子濃度(以下、C)、酸素原子濃度(以下、C)、金属原子濃度(以下、C)を得ることができる。濃度算出には、リンはP2pピーク、炭素はC1sピーク、酸素はO1sピーク、クロムはCr2p3ピーク、チタンはTi2pピーク、ジルコニウムはZr3dピーク、のピーク面積を用いる。
本発明において、表面の分析をする場合、衛生設備部材の中で曲率半径が比較的大きい部分を選択して、分析可能なサイズに切断したものを測定試料とする。切断時には、分析・評価する部分をフィルム等で覆うことで、表面の損傷がないようにする。測定前に衛生設備部材の表面を洗浄し、表面に付着した汚れを十分に除去する。例えば、中性洗剤によるスポンジ摺動洗浄の後、超純水にて十分にすすぎ洗いを行う。本発明において、XPS分析で検出される元素は、炭素、酸素、リン、ならびに、基材および金属酸化物層に由来する原子である。基材および金属酸化物層に由来する原子は、基材および金属酸化物層を構成する金属原子の他に、窒素などを含むこともある。基材がクロムめっきを含む場合は、炭素、酸素、リン、クロムが検出される。これ以外の元素が検出される場合は、金属酸化物層の表面に付着した汚染物質と考えられる。汚染物質由来の原子濃度が高く検出される場合(汚染物質由来の原子濃度が3at%を超える場合)は、異常値と見なす。異常値が得られた場合、異常値を除いて原子濃度を算出する。異常値が多い場合は、衛生設備部材の表面を再度洗浄して測定をやり直す。また、衛生設備部材が、その表面にヘアライン加工などが施された、表面粗さが大きな金属部材の場合は、できるだけ平滑性の高い部分を選んで測定する。
本発明の衛生設備部材において、その表面の炭素原子濃度は、好ましくは35at%以上であり、より好ましくは40at%以上であり、さらに好ましくは43at%以上であり、最も好ましくは45at%以上である。また、炭素原子濃度は、好ましくは70at%未満であり、より好ましくは65at%以下であり、さらに好ましくは60at%以下である。炭素原子濃度の好適な範囲はこれらの上限値と下限値とを適宜組み合わせることができる。炭素原子濃度をこのような範囲とすることにより、水垢易除去性を高めることができる。
本発明の衛生設備部材の表面の炭素原子濃度(以下、C)は、リン原子濃度の測定と同様に、X線光電子分光法(XPS)によって求めることができる。測定条件は、上述の条件1を用い、ワイドスキャン分析を行う。
本発明の衛生設備部材は、少なくともその表面が金属元素を含む基材70と、基材70上に形成された金属酸化物層20を含む。金属酸化物層20は、少なくとも前記金属元素と酸素を含む層である。金属酸化物層20には、酸化状態の前記金属元素が含まれる。基材70と金属酸化物層20との間には、明確な境界はなくてもよい。前記金属元素は、当該元素を含む純金属または合金が不動態皮膜を形成し得るものであり、本発明においては、Cr、Zr、Ti、およびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種である。前記金属元素をこのような範囲とすることで、基材表面に安定な不動態層を形成することができる。ここで安定な不働態層とは、金属酸化物を含み、かつ十分な耐水性を持つ層を指す。前記金属元素をこのような範囲とすることで、基材表面の金属酸化物層がより安定な不動態層となり、更に耐水性を高めることができる。前記金属元素は、X線光電子分光法(XPS)によって求めることができる。
なお、不動態皮膜を形成し得る金属元素としては、Cr、Zr及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。Cr、Zr及びTiの他に、不動態皮膜を形成し得る金属元素としてはNiやAlも知られている。しかしながら、NiまたはAlと酸素元素とからなる金属酸化物層の衛生設備部材への適用は、より好ましい金属元素を適用した場合に比べて水垢除去性が低下し、さらに広範囲に分布する斑点の発生による外観不良を呈する傾向にあることがわかった。このため特に使用者にとっての美観が重要となる衛生設備部材への適用は、好ましくない。水垢除去性の低下や外観不良の発生は、衛生設備部材の長期的な使用によって有機層に水が浸入し、金属酸化物層が劣化するためであると考えられる。
金属酸化物層20は、基材70の表面に形成された不動態層、または、基材70の表面に人工的に形成された層であるが、耐水性や耐摩耗性などの耐久性に優れた有機層を得られる点で、不動態層であることが好ましい。人工的に形成する手段としては、例えば、ゾルゲル法、化学蒸着法(CVD)、物理蒸着法(PVD)のいずれかが挙げられる。
また、基材70には、領域70bが設けられていてもよい。領域70bは、例えば、金属めっきや物理蒸着法(PVD)にて形成された金属を含む層である。領域70bは、金属元素のみから構成されていてもよいし、金属窒化物(例えば、TiN、TiAlNなど)、金属炭化物(例えば、CrCなど)、金属炭窒化物(例えば、TiCN、CrCN、ZrCN、ZrGaCNなど)の形態で含んでもよい。基材70は、支持材70cを含む。支持材70cの材質は、金属でもよいし、樹脂やセラミック、陶器、ガラスであってもよい。領域70bは支持体70cの上に直接形成されていてもよいし、領域70bと支持体70cの間に異なる層を含んでいてもよい。領域70bが設けられる基材70としては、例えば、黄銅や樹脂で形成された支持材70cに金属めっき処理により領域70bを設けた金属めっき製品が挙げられる。一方、領域70bが設けられない基材70としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)のような金属成型品が挙げられる。基材70の表面性状は、特に限定されるものではなく、光沢を有する鏡面、梨地、ヘアラインなどの艶消し面に適用することができる。
本発明の衛生設備部材において、その表面の酸素原子/金属原子濃度比(O/M比)は1.7よりも大であることが好ましく、より好ましくは1.8以上である。O/M比をこのような範囲とすることで、本発明の衛生設備部材は、比較的酸化度の高い金属酸化物層に緻密な有機層を強く結合させる事が可能となることから、さらに耐水性および耐摩耗性を高めることができる。
O/M比(RO/M)は、XPS分析で得られた上記のCおよびCを用いて、式(A)によって算出することができる。
O/M=C/C ・・・ 式(A)
なお、Rがエーテル基、カルボニル基を含む場合のRO/Mを算出する場合、CoがR-Xに由来する酸素原子濃度CO´と金属基材に由来する酸素原子濃度との合計となることに留意し、式(B)に基づいて算出することができる。
O´の求め方:TOF-SIMSまたはHR-MSで特定した分子構造から、Rに含まれる炭素原子に対する酸素原子の比率から、Cとの相対比較によりRに含まれる酸素原子濃度CO´を概算する。
O/M=(C-CO´)/C ・・・ 式(B)
本発明の衛生設備部材において、金属酸化物層の金属元素の酸化状態については、XPSによって確認することができる。測定条件は、条件2を用い、ナロースキャン分析を行う。
(条件2)
X線条件:単色化AlKα線(出力25W)
光電子取出角:45°
分析領域:100μmφ
操作範囲:元素毎に異なる(次の段落を参照)
XPS装置には、PHI Quantera II(アルバック・ファイ製)を用いることができる。X線条件(単色化AlKα線、25W、15kv)、分析領域:100μmφ、中和銃条件(Emission:20μA)、イオン銃条件(Emission:7.00mA)、光電子取出角(45°)、Time per step(50ms)、Sweep(10回)、Pass energy(112eV)の条件でナロースキャン分析することにより、各金属元素ピークのスペクトルを得る。例えば金属酸化物層に含まれる金属元素がCrの場合、570-590eVの範囲をナロースキャン分析することにより、Cr2p3ピークのスペクトルを得る。酸化状態のクロム(Cr)は、577eV付近のピークの存在により確認できる。酸化状態のチタン(Ti)は、Ti2pピークのスペクトルのうち、469eV付近のピークの存在により確認できる。酸化状態のジルコニウム(Zr)は、Zr3dピークのうち、182eV付近のピークの存在により確認できる。
本発明の衛生設備部材は、その表面における水滴接触角が、好ましくは90°以上であり、より好ましくは100°以上である。水滴接触角は、静的接触角を意味し、基材に2μlの水滴を滴下し、1秒後の水滴を基材側面から撮影することによって求められる。測定装置としては、例えば接触角計(型番:SDMs-401、協和界面科学株式会社製)を用いることができる。
本発明において、「衛生設備」とは、建物の給排水設備または室内用の備品であり、好ましくは、室内用の備品である。また、好ましくは、水がかかり得る環境で用いられるものである。
本発明において、水がかかり得る環境としては、水を用いる場所であれば良く、住宅や、公園、商業施設、オフィスなどの公共施設などの水を用いる場所が挙げられ、そのような場所としては、好ましくは、バスルーム、トイレ空間、化粧室、洗面所、台所などが挙げられる。
本発明において、室内用の備品としては、住宅や商業施設などの公共施設で用いられ、かつ人が触れるものであり、好ましくは、バスルーム、トイレ空間、化粧室、洗面所、または台所などで用いられる備品である。本発明の、室内用の備品として使用される衛生設備部材としては、めっきやPVDコートしたものを含む製品が挙げられる。具体的には、水栓、排水金具、止水金具、洗面器、扉、シャワーヘッド、シャワーバー、シャワーフック、シャワーホース、手すり、タオルハンガー、キッチンカウンター、キッチンシンク、排水カゴ、キッチンフード、換気扇、排水口、大便器、小便器、温水洗浄便座、温水洗浄便座の便蓋、温水洗浄便座のノズル、操作盤、操作スイッチ、操作レバー、取っ手、ドアノブなどが挙げられる。本発明の衛生設備部材は、水栓、水栓金具、排水金具、止水金具、洗面器、シャワーヘッド、シャワーバー、シャワーフック、シャワーホース、手すり、タオルハンガー、キッチンカウンター、キッチンシンク、排水カゴであることが好ましい。特に、本発明の衛生設備部材は、水栓として、あるいは湯を吐水する水栓として好適に使用できる。
有機層が緻密に形成された衛生設備部材、すなわち、その表面のリン原子濃度が1.0at%以上である衛生設備部材や、有機層がSAMである衛生設備部材は、温水に曝された状態にあっても、有機層の耐久性に優れているため、湯を吐水する水栓として好適に使用できる。
衛生設備部材の製造方法
本発明による衛生設備部材の製造方法は、少なくとも下記の工程を含んでなる。
工程(A) 金属酸化物層が形成された基材を準備する工程、
工程(B) 有機層を形成する成分を前記基材表面に適用する工程、
工程(C) 有機層を形成する成分を前記基材表面に固定する工程、および
工程(D) 前記基材表面に固定されていない前記有機層を形成する成分を除去する工程。
以下、これら工程を説明する。
工程(A) 金属酸化物層が形成された基材を準備する工程
本発明において、「金属酸化物層が形成された基材」とは、態様(i)表面に金属酸化物層を備えていない基材の当該表面に、金属酸化物層が別途形成されたもの、および態様(ii)表面に元々金属酸化物層を備えている基材そのもの、これら双方を包含する。
以下、金属酸化物層が形成された基材が上記態様(i)の場合、および上記態様(ii)の場合に分けて工程(A)を説明する。
態様(i)
この態様において、金属酸化物層が形成された基材を準備する工程(A)は、表面に元々金属酸化物層を備えていない基材を用意し、この基材の表面に金属酸化物層を別途設けることによって行われる。すなわち、表面に不動態皮膜を形成し得ない基材を用意し、この基材の表面に不動態皮膜を形成し得る金属元素またはその合金を適用することにより不動態皮膜(金属酸化物層)を形成する。
表面に元々金属酸化物層を備えていない基材(表面に不動態皮膜を形成し得ない基材)として、例えば、樹脂(プラスチック)、セラミック、陶器、ガラス、または不動態皮膜を形成し得ない金属(例えば、銅)またはその合金(例えば、銅合金(黄銅など))が挙げられる。このような基材の表面に不動態皮膜を形成し得る金属元素またはその合金を適用する方法として、公知の方法、例えば、湿式めっき法並びに物理蒸着法(PVD)および化学蒸着法(CVD)等の乾式めっき法を含む各種のコーティング法が挙げられる。
この態様において、不動態皮膜を形成し得る金属元素またはその合金を適用する前に、基材の表面を洗浄する工程を設けてもよい。洗浄により基材表面に付着している汚れ、例えば金属酸化物層の形成を阻害するような付着物を除去する。洗浄は、洗浄剤を用いた洗浄、プラズマ処理、超音波照射、紫外線照射、オゾン処理、またはこれらの組み合わせにより行ってよい。また、基材の表面を、特に洗浄剤を用いて洗浄した後、すすぎの工程を設けてもよい。すすぎにより基材表面から洗浄剤が除去される。
この態様において、用意した基材の表面に、予め金属めっきや塗装を公知の方法により施してもよい。この場合において、金属めっきの材料として、不動態皮膜を形成し得る金属元素またはその合金を用いる場合、形成される金属めっき層は不動態皮膜、すなわち金属酸化物層である。したがって、金属酸化物層を形成する工程を別途設ける必要はない。
他方、金属めっきの材料として、不動態皮膜を形成し得ない金属元素またはその合金を用いる場合、基材の表面に設けた金属めっき層や塗膜の表面に、金属酸化物層を形成する工程を別途設ければよい。
なお、用意した基材の表面に予め不動態皮膜となる金属めっきを施す場合、基材を用意する工程と、金属めっきを施す工程は、通常、同一の者により実施されることが条件となる。
態様(ii)
この態様において、金属酸化物層が形成された基材を準備する工程(A)は、表面に元々金属酸化物層を備えている基材そのものを準備することによって行われてよい。すなわち、基材自体が元々金属、好ましくは不動態皮膜を形成し得る金属元素またはその合金を含有しており、これら金属元素または合金が不動態皮膜(金属酸化物層)を形成している基材そのものを準備する。表面に元々金属酸化物層を備えている基材そのものの例として、ステンレス鋼(SUS)が挙げられる。
この態様において、基材自体が金属を含む材料であるが、この金属が不動態皮膜を形成し得ない金属元素またはその合金である場合、当該基材の表面に金属酸化物層を形成する工程を別途設ければよい。ここで、基材の表面に不動態皮膜を形成し得る金属元素またはその合金を適用する前に、基材の表面を洗浄する工程を設けてもよい。洗浄により基材表面に付着している汚れ、例えば金属酸化物層の形成を阻害するような付着物を除去する。洗浄は、洗浄剤を用いた洗浄、プラズマ処理、超音波照射、紫外線照射、オゾン処理、またはこれらの組み合わせにより行ってよい。また、基材の表面を、特に洗浄剤を用いて洗浄した後、すすぎの工程を設けてもよい。すすぎにより基材表面から洗浄剤が除去される。
本発明において、工程(A)で準備された金属酸化物層が形成された基材は、バルク体であってもよく、あるいは積層体であってもよい。つまり、金属酸化物層が形成された基材において、表面の金属酸化物層とそれ以外の領域との間には、明確な境界はなくてもよく、あるいは、表面の金属酸化物層とそれ以外の領域との間に、異なる層をさらに含んでいてもよい。また、金属酸化物層が形成された領域は、基材の表面の一部であってよい。
工程(B) 有機層を形成する成分を金属酸化物層が形成された基材の表面に適用する工程
次いで、工程(A)で準備した金属酸化物層が形成された基材の表面に、有機層を形成する成分を適用する。(以下、「金属酸化物層が形成された基材」を「基材」と言い換えることがある。)
有機層を形成する成分は、上述した非高分子の有機配位子(R-X)を少なくとも含む。有機層を形成する成分は、当該成分を溶解または分散可能な溶媒に当該成分を溶解または分散させた溶液または分散液の状態で、基材の表面に湿式適用されることが好ましい。このような溶媒として、例えば、アルコール等のプロトン性溶媒、ジオール類やカルボン酸類等の非プロトン性溶媒が挙げられる。
有機層を形成する成分を基材表面に湿式適用することで、当該成分を基材表面に緻密に被覆することができる。湿式適用の方法として、例えば、有機層を形成する成分を含む溶液または分散液に基材を浸漬させる浸漬法、同溶液または分散液を基材表面にスプレーもしくはワイピング等する塗布法、あるいは同溶液または分散液のミストを基材表面に接触させるミスト法などの方法が挙げられる。本発明においては、浸漬法を用いるのが好ましい。有機層を形成する成分を含む溶液または分散液に基材を浸漬させる際の温度及び時間は、基材や有機層を形成する成分の種類によって異なるが、一般的には0℃以上60℃以下、1分以上48時間以下である。浸漬時間を長くすることで、有機層を形成する成分を基材表面に緻密に被覆することができる。
工程(C) 有機層を形成する成分を金属酸化物層が形成された基材の表面に固定する工程
次いで、工程(B)で基材表面に被覆された有機層を形成する成分を、当該基材表面に固定する。
有機層を形成する成分の基材表面への固定は、加熱により行われることが好ましい。有機層を形成する成分が被覆された基材を加熱することで、当該成分に含まれる非高分子の有機配位子(R-X)が備える官能基(X)中の特定原子(Y)が、金属酸化物層に含まれる金属元素(M)に配位(吸着)して、M-O-Y結合の形成が促進され、もって、有機層が基材表面に固定される。加熱により基材表面に固定されたR-Xを含む有機層は高い耐摩耗性を有する。加熱処理は、大気中で行われてもよく、液中で行われてもよい。加熱温度は適宜決定されてよいが、50℃以上200℃以下が好ましく、60℃以上150℃以下がより好ましい。また、加熱時間は適宜決定されてよいが、1分以上が好ましい。
工程(D) 基材表面に固定されていない有機層を形成する成分を除去する工程
次いで、工程(C)を行った後に基材表面に固定されていない有機層を形成する成分(以下、「余剰物」ということもある)を除去する。この行程(D)においては、金属酸化物層の上に存在する余剰物、および、基材の金属酸化物層が形成されていない部分に主に吸着によって存在する余剰物を除去する。
有機層を形成する成分を基材表面に固定した後に、基材表面に固定することができなかった余剰物を除去する工程を行うことにより、非高分子の有機配位子(R-X)が緻密に配列された有機層を安定して形成することができるとの利点が得られる。水まわりでの使用に耐え得る高い耐久性(耐水性、耐摺動性)を有する有機層を高効率に得ることが可能となる。有機層を形成する成分を基材表面に固定する工程(C)の前に、例えば、有機層を形成する成分を基材表面に単に適用した後に、基材表面に被覆されていない有機層を形成する成分を除去する工程を行うと、本来除去が望まれないR-X、すなわち後の固定工程(C)において基材表面に吸着され得るR-Xまでもが事前に除去されてしまうため、緻密な有機層の形成が阻害され、有機層の品質(水まわりでの使用に耐え得る高い耐久性)が担保され難い。
また、有機層を形成する成分を基材表面に固定した後に余剰物を除去する工程を行うことにより、衛生設備部材が立体形状物である場合において、その内部を適切に洗浄できる。例えば、有機層を形成する成分を基材表面に湿式適用する際に用いた該成分の水溶性または水分散性の残存物が衛生設備部材の通水路を構成する部材の内部にあると、場合によっては水質に悪影響を及ぼすおそれがあるが、本発明の製造方法によれば、余剰物の除去を固定工程(C)の後に行うため、通水路の残存物を低減することができ、良好な水質が確保される。
工程(D)における余剰物の除去は、例えば洗浄により行われる。洗浄は、例えば、洗浄剤を用いて行ってよい。このような洗浄剤として、酸、塩基、水、有機溶剤、界面活性剤、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
一方で、余剰物の除去に使用する酸や界面活性剤の中には、金属酸化物層に含まれる金属元素に吸着しやすい成分がある。つまり、有機層を形成する成分である非高分子の有機配位子(例えば、アルキルホスホン酸)を基材表面に固定した後に、余剰物を除去する工程において、金属酸化物層に吸着しやすい酸や界面活性剤を使用すると、金属酸化物層の表面においてアルキルホスホン酸が吸着していない部分(アルキルホスホン酸の欠陥部分)に、金属酸化物層に吸着しやすい酸や界面活性剤が吸着してしまい、見かけ上の被覆量が上昇するため、検査工程にて不良品が検出できないとの課題を本発明者らは見出した。
本発明の余剰物の洗浄工程(D)では、金属酸化物層に含まれる金属元素に吸着しやすい酸や界面活性剤を使用せず、金属酸化物層に含まれる金属元素に吸着しない酸や界面活性剤を使用することで、上記の課題を解決し、検査工程の信頼性を向上させることができる。
本発明の余剰物の洗浄工程(D)では、酸として、金属酸化物層の金属元素に配位する官能基を持たないスルホン酸系の酸、無機酸、ピラニア溶液を用いることができる。ただし、強酸は有機層に過度な負荷を与え、有機層の緻密性を損なうおそれがあるため、使用しないことが好ましい。また、界面活性剤として、金属酸化物層の金属元素に配位しない親水性基であるスルホン酸基を持つSDS、Triton-Xを用いることが好ましい。
塩基として、例えば、NaOH水溶液が用いられる。ただし、高濃度の強塩基は過度な負荷を与え、有機層の緻密性を損なうおそれがあるため、使用しないことが好ましい。有機溶剤として、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンが用いられる。
洗浄剤を用いた洗浄以外に、プラズマ処理(例えば、酵素プラズマ処理)、超音波照射、紫外線照射、オゾン処理により基材表面を洗浄してもよい。超音波照射による洗浄は、結晶化して除去し難い有機層を形成する成分r-x(例えば、アルキルホスホン酸、より具体的には、オクタデシルホスホン酸)を除去し易くするため好ましい。洗浄剤を用いた洗浄と、プラズマ処理、超音波照射、紫外線照射、オゾン処理による洗浄とを組み合わせてもよい。洗浄は、必要に応じて複数回行ってもよい。洗浄は、拭きあげよりもマイルドな負荷で行うことが好ましい。
本発明において、洗浄は、水または水とその他の洗浄剤とを含む水系洗浄液を用いて行うことが好ましい。余剰物除去(洗浄)工程(d)は固定(加熱)工程(c)の後に行われるため、安全性が確保される。洗浄は、水または水系洗浄液に基材を浸漬して行うことが好ましい。洗浄は、水または水系洗浄液と超音波洗浄との組み合わせ、水または水系洗浄液と界面活性剤(好ましくは、SDSまたはTriton-X)洗浄との組み合わせが挙げられる。
余剰物を除去する工程(D)の後に、特に、洗浄剤を用いて余剰物を除去した後に、すすぎの工程を設けてもよい。すすぎにより有機層表面の洗浄剤を除去する。すすぎは、例えば、水洗により行われる。水はイオン交換水または超純水であることが好ましい。水の変わりに、場合により、有機溶剤を用いてもよい。水洗は、具体的には、基材を水槽に浸漬する、基材に水をかけ流す等の方法で行われる。すすぎは、必要に応じて複数回行ってもよい。
工程(A)から工程(D)を経て得られた衛生設備部材は、その後検査工程に付され、例えば、有機層に含まれる非高分子の有機配位子(例えば、アルキルホスホン酸)の量が所定の基準値を満たしているか等が検査される。
任意工程
前洗浄
本発明において、工程(A)で準備した金属酸化物層が形成された基材の表面に、有機層を形成する成分を適用する前に、すなわち工程(A)と工程(B)の間に、基材の表面を洗浄する工程を設けてもよい。洗浄により基材表面に付着している汚れ、とりわけ有機層の形成を阻害するような付着物を除去する。
洗浄は、例えば、洗浄剤を用いて行ってよい。このような洗浄剤として、酸、塩基、水、有機溶剤、界面活性剤、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
後の工程(B)で基材表面に被覆される非高分子の有機配位子(例えば、アルキルホスホン酸)は、基材表面の結合サイトに1分子ずつ吸着・結合を形成する。このとき、基材表面の結合サイトに既に別の分子が吸着している場合、そのサイトにはアルキルホスホン酸は吸着できない。これにより、基材表面と結合するアルキルホスホン酸の数が低下し、後に形成される有機層の緻密性が低下する。基材表面の洗浄などに使用する酸や界面活性剤の中には、基材表面に吸着しやすい成分がある。したがって、洗浄工程では、基材表面に吸着しやすい酸や界面活性剤を使用せず、基材表面に吸着しない酸や界面活性剤を使用することで、後に形成される有機層の緻密性を損なうことなく、洗浄を行うことができる。
例えば、基材表面に金属元素が存在する場合、洗浄工程において、酸として、基材表面に存在する金属元素に配位する官能基を持たないスルホン酸系の酸、無機酸、ピラニア溶液を用いることができる。このような酸を用いることにより、後の工程(B)で基材表面に被覆される非高分子の有機配位子(例えば、アルキルホスホン酸)の配列の緻密性を損なうことなく、洗浄を行うことができる。ただし、強酸は過度な負荷を与え、非高分子の有機配位子の配列の緻密性を損なうおそれがあるため、使用しないことが好ましい。また、界面活性剤として、基材表面に存在する金属元素に配位しない親水性基であるスルホン酸基を持つSDS、Triton-Xを用いることが好ましい。このような界面活性剤を用いることにより、後の工程(B)で基材表面に被覆される非高分子の有機配位子の配列の緻密性を損なうことなく、洗浄を行うことができる。
塩基として、例えば、NaOH水溶液が用いられる。ただし、強塩基は過度な負荷を与え、非高分子の有機配位子の配列の緻密性を損なうおそれがあるため、使用しないことが好ましい。有機溶剤として、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンが用いられる。
洗浄剤を用いた洗浄以外に、プラズマ処理(例えば、酵素プラズマ処理)、超音波照射、紫外線照射、オゾン処理により基材表面を洗浄してもよい。また、洗浄剤を用いた洗浄と、プラズマ処理、超音波照射、紫外線照射、オゾン処理による洗浄とを組み合わせてもよい。例えば、エタノール洗浄と超音波洗浄との組み合わせ、SDSまたはTriton-X溶液洗浄と超音波洗浄との組み合わせが挙げられる。洗浄は、必要に応じて複数回行ってもよい。
すすぎ
特に、洗浄剤を用いて基材表面を洗浄した後、すすぎの工程を設けてもよい。すすぎにより基材表面の洗浄剤を除去する。すすぎは、例えば、水洗により行われる。水はイオン交換水または超純水であることが好ましい。水の変わりに、場合により、有機溶剤を用いてもよい。水洗は、具体的には、基材を水槽に浸漬する、基材に水をかけ流す等の方法で行われる。すすぎは、必要に応じて複数回行ってもよい。
すすぎ工程の後、基材を乾燥させてもよい。乾燥により基材表面から水分を除去する。
乾燥方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、加熱、エアブローやガス(窒素ガス、不活性ガス等)ブロー、またはこれらを併用してもよい。
前処理
本発明において、工程(A)で準備した金属酸化物層が形成された基材の表面に、好ましくは洗浄・すすぎ処理された当該基材の表面に、有機層を形成する成分を適用する前に、基材の表面に含有されている不動態皮膜を形成し得る金属元素またはその合金を不動態化処理してもよい。不動態化処理により金属酸化物層を十分に形成する、つまり補強することができる。
不動態化処理は、プラズマ処理、紫外線照射、オゾン処理等の酸化処理の他に、強酸化剤による処理、酸素のある雰囲気中での加熱、酸液中で陽極分極、酸化剤中での浸漬処理により行われてよい。
乾燥
本発明において、工程(B)と工程(C)の間に、つまり工程(C)において、有機層を形成する成分が被覆された基材を加熱する前に、当該基材を乾燥させることが好ましい。基材を乾燥させることで、有機層を形成する成分を湿式適用した際の溶液または分散液に含まれていた溶媒を揮発させる。乾燥方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、加熱、エアブローやガス(窒素ガス、不活性ガス等)ブロー、またはこれらを併用してもよい。乾燥方法が加熱の場合、乾燥温度は溶媒の沸点以下であればよく、乾燥時間は溶媒の種類に応じて適宜決定すればよい(例えば、30秒以上)。
本発明において、工程(B)と工程(C)は同時に行われてもよい。すなわち、工程(C)が工程(B)を兼ねていてもよい。有機層を形成する成分の基材表面への適用および固定を同時に行うことにより、工程(B)および工程(C)を一回的に実施することができ、衛生設備部材の製造を効率的に行うことが可能となる。
また、本発明において、有機層を形成する成分が被覆された基材の乾燥および加熱は同時に行われてもよい。すなわち、基材を加熱する工程が基材を乾燥させる工程を兼ねていてもよい。加熱工程に乾燥工程を取り込むことで、基材の乾燥と加熱を一回的に実施することができ、衛生設備部材の製造を効率的に行うことが可能となる。
さらに、本発明において、工程(B)、有機層を形成する成分が被覆された基材の乾燥工程、および工程(C)は同時に行われてもよい。例えば、工程(B)において、有機層を形成する成分を含む溶液または分散液に基材を浸漬させる際、当該溶液または分散液を過熱することで、有機層を形成する成分の基材表面への被覆、基材の乾燥、および基材の加熱による有機層を形成する成分の基材表面への固定を一回的に実施することができ、衛生設備部材の製造を効率的に行うことが可能となる。
本発明において、工程(C)の後に、加熱された状態の有機層を形成する成分が固定された基材を冷却する工程を設けてもよい。冷却は公知に方法により行われてよい。
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
試験I(参考例)
1.試料作製
1-1.基材
基材として、黄銅にニッケルクロムメッキした板(試料1~7、12~14、16~18、および20)、黄銅にニッケルクロムメッキした板に物理蒸着法(PVD)によって金属を含む表面を形成した板(試料8~10および15)、ステンレス鋼板(SUS304)(試料11)、および黄銅板(試料19)を使用した。基材表面の汚れを除去する為に、中性洗剤入りの水溶液で超音波洗浄し、洗浄後流水で十分に基材を洗い流した。さらに、基材の中性洗剤を除去する為、イオン交換水で超音波洗浄し、その後、エアーダスターで水分を除去した。
さらに、黄銅にニッケルクロムメッキした水栓金具(品番:TENA40A、TOTO(株)製;試料21)を使用した。基材表面の汚れの除去を上記同様に行った。試料1~18、20、および21は、基材の表面に不動態層からなる金属酸化物層を備えたものである。試料20は金属酸化物層が存在しない。
1-2.前処理
(試料1、5~12、17、および19)
基材を光表面処理装置(PL21-200(S)、センエンジニアリング製)の中に導入し、所定の時間UVオゾン処理を行った。
(試料2)
基材をプラズマCVD装置(PBII-C600、栗田工業製)の中に導入し、真空度約1Paの条件にて、所定の時間アルゴンスパッタ処理した。続けて装置内に酸素を導入して酸素プラズマ処理を行った。
(試料3、および試料21)
基材を水酸化ナトリウム水溶液に所定時間浸漬したのち、イオン交換水にて十分にすすぎ洗いを行った。
(試料4)
基材を希硫酸に所定時間浸漬したのち、イオン交換水にて十分にすすぎ洗いを行った。
(試料13)
基材を酸化セリウムからなる研磨剤で擦り洗いしたのち、イオン交換水にて十分にすすぎ洗いを行った。
(試料14)
基材を弱アルカリ性研磨剤(製品名:きらりあ、TOTO製)で擦り洗いしたのち、イオン交換水にて十分にすすぎ洗いを行った。
(試料18)
基材をダイヤモンドペースト研磨剤(粒度1μm)で研磨したのち、イオン交換水にて十分にすすぎ洗いを行った。
(試料15、16および20)
基材の前処理は実施しなかった。
1-3.有機層の形成
(試料1~5および8~16、18、19、および21)
有機層を形成するための処理剤として、オクタデシルホスホン酸(東京化成工業製、製品コードO0371)をエタノール(富士フイルム和光純薬製、和光一級)に溶解させた溶液を用いた。基材を処理剤の中に所定時間浸漬し、エタノールにて掛け洗い洗浄した。浸漬時間は、試料1~5および8~16、19、および21では1分以上、試料18では10秒以下とした。その後、乾燥機にて120℃で10分間乾燥させ、基材表面に有機層を形成させた。
(試料6)
有機層を形成するための処理剤として、ドデシルホスホン酸(東京化成工業製、製品コードD4809)をエタノールに溶解させた溶液を用いた。浸漬時間は1分以上とした。その後、乾燥機にて120℃で10分間乾燥させ、基材表面に有機層を形成させた。
(試料7)
有機層を形成するための処理剤として、オクタデシルホスホン酸とフェニルホスホン酸(東京化成工業製、製品コードP0204)を重量比が1:1になるように、エタノールに溶解させた溶液を用いた。浸漬時間は1分以上とした。その後、乾燥機にて120℃で10分間乾燥させ、基材表面に有機層を形成させた。
(試料17)
フッ素原子を含む炭化水素基による有機層を形成するための処理剤として、(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホン酸(東京化成工業製、製品コードH1459)をエタノールに溶解させた溶液を用いた。浸漬時間は1分以上とした。その後、乾燥機にて120℃で10分間乾燥させ、基材表面にフッ素原子を含む有機層を形成させた。
(試料20)
有機層は形成させなかった。
作製した試料の概要を表1に示す。
Figure 0007331592000001
2.分析・評価方法
上記にて作成した各試料について、以下の分析・評価を実施した。試料21については、約10mm×約10mmのサイズに切断したものを測定試料とした。測定試料は、曲率半径が比較的大きい部分である、スパウトの側面から切り出した。切断時には、分析・評価する部分をフィルムで覆うことで、表面の損傷がないようにした。
2-1.水滴接触角測定
測定前に中性洗剤を用いて各試料をウレタンスポンジで擦り洗いし、超純水で十分にすすぎを行った。各試料の水滴接触角測定には、接触角計(型番:SDMs-401、協和界面科学株式会社製)を用いた。測定用の水は超純水を用い、滴下する水滴サイズは2μlとした。接触角は、いわゆる静的接触角であり、水を滴下してから1秒後の値とし、異なる5か所を測定した平均値を求めた。ただし、5カ所の中に異常値が現れた場合は、異常値を除いて平均値を算出した。測定結果を、水接触角・初期、として、表2に示す。
2-2.水垢汚れの除去性
各試料の表面に、水道水を20μl滴下し、24時間放置することにより、試料表面に水垢を形成した。水垢を形成した試料を以下の手順で評価した。
(i)乾いた布を用いて、試料の表面に対して軽い荷重(50gf/cm)を掛けながら、10回往復摺動させた。
(ii)乾いた布を用いて、試料の表面に対して重い荷重(100gf/cm)を掛けながら、10回往復摺動させた。
(i)の工程で除去できたものを『◎』、(ii)の工程で除去できたものを『〇』とし、除去できなかったものを『×』として、表1にまとめた。
なお、水垢除去の可否は、試料の表面を流水で洗い流し、エアーダスターで水分を除去した後、試料の表面に水垢が残存しているかを目視で判断した。評価結果を、水垢除去性・初期として、表2に示す。
2-3.耐水試験
各試料の表面を、70℃温水に所定時間浸漬させた後、試料の表面を流水で洗い流し、エアーダスターで水分を除去した。耐水試験後の各試料について、水垢汚れの除去性を評価した。浸漬時間2時間後に2-2の(ii)の方法で除去できたものを『〇』とし、除去できなかったものを『×』とした。さらに、浸漬時間48時間後に2-2の(ii)の方法で除去できたものを『〇~◎』とし、浸漬時間120時間後に(ii)の方法で除去できたものを『◎』とした。評価結果を、水垢除去性・耐水試験後、として、表2に示す。
2-4.皮脂汚れの除去性
表3に記載された皮脂汚れ溶液を、ウエスにてガラス表面に薄く塗布した。1cmに切断したウレタンスポンジ(3M製)に、ガラス上の皮脂汚れ溶液を写し取り、試料表面にスタンプすることで、皮脂汚れを付着させた。
(i)湿らせた布を用いて、試料の表面に対して軽い荷重(50gf/cm)を掛けながら、5回往復摺動させた。
(i)の工程で除去できたものを『〇』とし、(i)の工程で除去できなかったものを『×』とした。なお、皮脂汚れ除去の可否は、目視で判断した。評価結果を、皮脂汚れ除去性・初期、として、表2に示す。
2-5.耐摩耗試験
各試料表面を、メラミンスポンジを用いて、メラミンスポンジに水を含ませた状態で、試料面に対して荷重(200gf/cm)をかけながら、3000往復摺動させた。摺動後、試料表面を流水で洗い流し、エアーダスターで水分を除去した。摩耗試験後の各試料について、水滴接触角測定、および皮脂汚れの除去性を評価した。評価結果を、水接触角・耐摩耗試験後、および皮脂汚れ除去性・耐摩耗試験後、として、表2に示す。
2-6.各原子濃度の測定
各試料の表面の各原子濃度は、X線光電子分光法(XPS)により求めた。測定前に、中性洗剤を用いてウレタンスポンジで擦り洗いをした後、超純水にて十分にすすぎ洗いを行った。XPS装置には、PHI Quantera II(アルバック・ファイ製)を用いた。X線条件(単色化AlKα線、25W、15kv)、分析領域:100μmφ、中和銃条件(Emission:20μA)、イオン銃条件(Emission:7.00mA)、光電子取出角(45°)、Time per step(50ms)、Sweep(10回)、Pass energy(280eV)、走査範囲(15.5~1100eV)の条件でワイドスキャン分析することによりスペクトルを得た。検出された原子の濃度は、得られたスペクトルから、データ解析ソフトウェアPHI MultiPuk(アルバック・ファイ製)を用いて算出した。得られたスペクトルは、C1sピークを284.5eVとしてチャージ補正した後に、測定された各原子の電子軌道に基づくピークに対してShirely法でバックグラウンドを除去した後にピーク面積強度を算出し、データ解析ソフトウェアに予め設定されている装置固有の感度係数で除算する解析処理を行い、リン原子濃度(以下、C)、酸素原子濃度(以下、C)、金属原子濃度(以下、C)、および炭素原子濃度(以下、C)を算出した。濃度算出には、リンはP2pピーク、炭素はC1sピーク、酸素はO1sピーク、クロムはCr2p3ピーク、チタンはTi2pピーク、ジルコニウムはZr3dピーク、のピーク面積を用いた。各濃度の値は、異なる3か所を測定した平均の値とした。ただし、3カ所の中に異常値が現れた場合は、異常値を除いて平均値を算出した。得られたリン原子、酸素原子、金属原子、および炭素原子の濃度を表2に示す。
2-7.RO/Mの算出
XPS分析で得られたCおよびCを用いて、式(A)によって、RO/Mを算出した。得られたRO/Mの値を表2に示す。
O/M=C/C ・・・ 式(A)
2-8.C1sスペクトル
測定前に、中性洗剤でスポンジ摺動洗浄後、超純水にて十分にすすぎ洗いを行った。XPS装置には、PHI Quantera II(アルバック・ファイ製)を用いた。X線条件(単色化AlKα線、25W、15kv)、分析領域:100μmφ、中和銃条件(Emission:20μA)、イオン銃条件(Emission:7.00mA)、光電子取出角(45°)、Time per step(50ms)、Sweep(10回)、Pass energy(112eV)、走査範囲(278~298eV)の条件で測定することにより、C1sスペクトルを得た。試料3のC1sスペクトルを図4に示す。
2-9.P2pスペクトル
測定前に、中性洗剤でスポンジ摺動洗浄後、超純水にて十分にすすぎ洗いを行った。XPS装置には、PHI Quantera II(アルバック・ファイ製)を用いた。X線条件(単色化AlKα線、25W、15kv)、分析領域:100μmφ、中和銃条件(Emission:20μA)、イオン銃条件(Emission:7.00mA)、光電子取出角(45°)、Time per step(50ms)、Sweep(10回)、Pass energy(112eV)、走査範囲(122~142eV)の条件で測定することにより、P2pスペクトルを得た。試料3のP2pスペクトルを図5に示す。
2-10.酸化物層の金属元素確認
試料1~19について、金属元素が酸化物状態であることを、X線光電子分光法(XPS)で確認した。測定前に、中性洗剤でスポンジ摺動洗浄後、超純水にて十分にすすぎ洗いを行った。XPS装置には、PHI Quantera II(アルバック・ファイ製)を用いることができる。X線条件(単色化AlKα線、25W、15kv)、分析領域:100μmφ、中和銃条件(Emission:20μA)、イオン銃条件(Emission:7.00mA)、光電子取出角(45°)、Time per step(50ms)、Sweep(10回)、Pass energy(112eV)の条件でナロースキャン分析することにより、各金属元素ピークのスペクトルを得た。ナロースキャン分析の範囲は、試料1~7、11、12~14、16~18についてはCr2p3ピークの範囲、試料8、9、15についてはTi2pピークの範囲、試料10についてはZr3dピークの範囲、得られたピークは、Shirely法でバックグラウンドを除去しいずれの試料においても、酸化状態の金属元素を含むことが確認された。
2-11.有機層の厚さ評価1
有機層の厚さは、XPSデプスプロファイル測定により評価した。XPS測定は、2-9と同様の条件で行った。アルゴンイオンスパッタ条件は、スパッタ速度を1nm/minとなる条件とした。このスパッタ速度を用いて、スパッタ時間を、Z方向の試料表面からの距離に換算した。スパッタ時間0分の測定点を、表面(0nm)とし、表面から深さ20nmの距離になるまで測定した。表面から深さ20nm付近の炭素濃度を基材中の炭素原子濃度とした。試料表面から深さ方向に炭素原子濃度を測定し、基材の炭素原子濃度よりも1at%以上高い炭素原子濃度となる最大深さを、有機層の厚さとして評価した。いずれの試料も、有機層の厚さは5nm以下であった。測定例として、試料3のXPSデプスプロファイルを図6に示す。
2-12.有機層の厚さ評価2
有機層の厚さは、アルゴンガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)を用いたXPSデプスプロファイル測定により評価した。XPS測定は、2-9と同様の条件で行った。アルコンスパッタ条件は、イオン源:Ar2500+、加速電圧:2.5kV、試料電圧:100nA、スパッタ領域:2mm×2mm、帯電中和条件1.1V、イオン銃:7Vで行った。スパッタ速度は、標準試料として予めX線反射率法(XRR)で膜厚を測定したシリコンウェハ上に成膜したオクタデシルトリメトキシシラン(1.6nm)に対してAr-GCIB測定することによって求めた値(0.032nm/min)を用いた。
標準試料の膜厚はX線反射率測定(XRR)(パナリティカル社製X‘pert pro)を実施し、反射率プロファイルを得る。得られた反射率プロファイルは、解析ソフトウェア(X‘pert Reflectivity)を用いてParrattの多層膜モデル、Nevot-Croseのラフネスの式へのフィッティングにより標準試料の膜厚を得た。次に、標準試料についてAr-GCIB測定を実施し、有機層のスパッタ速度(0.029nm/min)を得た。試料(有機層)上の有機層の膜厚は得られたスパッタ速度を用いてスパッタ時間をZ方向の試料表面からの距離に換算した。XRRの測定、解析条件及びAr-GCIBの測定条件はそれぞれ以下の通りである。
(XRR測定条件)
装置:X‘pert pro(パナリティカル)
X線源:CuKα
管電圧:45kV
管電流:40mA
Incident Beam Optics
発散スリット:1/4°
マスク:10mm
ソーラースリット:0.04rad
散乱防止スリット:1°
Diffracted Beam Optics
散乱防止スリット:5.5mm
ソーラースリット:0.04rad
X線検出器:X‘Celerator
Pre Fix Module:Parallel plate Collimator0.27
Incident Beam Optics:Beam Attenuator Type Non
Scan mode:Omega
Incident angle:0.105-2.935
(XRR解析条件)
以下の初期条件を設定する。
Layer sub:Diamond Si(2.4623g/cm
Layer 1:Density Only SiO(2.7633g/cm
Layer 2 Density Only C(1.6941g/cm
(Ar-GCIB測定条件)
装置:PHI Quantera II(アルバック・ファイ製)
X線条件:単色化AlKα線、25W、15kv
分析領域:100mφ
中和銃条件:20μA
イオ銃条件:7.00mA
光電子取出角:45°
Time per step:50ms
Sweep:10回
Pass energy:112eV
測定インターバル:10min
スパッタ―セッティング:2.5kV
結合エネルギー: C1s(278~298eV)
このスパッタ速度を用いて、スパッタ時間を、Z方向の試料表面からの距離に換算した。スパッタ時間0分の測定点を、表面(0nm)とし、スパッタ時間100分まで測定することで、試料の表面から深さ方向に炭素原子濃度を測定した。横軸をスパッタ速度から換算した深さ(nm)、縦軸を表面の炭素(C1s)濃度を100%として深さごとにプロットしたデプスプロファイルを描画し、デプスプロファイル曲線の変曲点の横軸から有機層の膜厚を算出した。膜厚は、異なる3か所を測定した平均の値とした。ただし、3カ所の中に異常値が現れた場合は、異常値を除いて平均値を算出した。結果を表2に示す。測定例として、試料3のXPSのAR-GCIBデプスプロファイルを図7に示す。デプスプロファイルの変曲点から得られた膜厚は2.0nmであった。
Figure 0007331592000002
Figure 0007331592000003
(R-Xの確認)
R-Xの確認はTOF-SIMS、ESI-TOF-MS/MSを用いた。
(TOF-SIMSによるR-Xの確認)
TOF-SIMSの測定条件は、照射する1次イオン:209Bi ++、1次イオン加速電圧25kV、パルス幅10.5or7.8ns、バンチングあり、帯電中和なし、後段加速9.5kV、測定範囲(面積):約500×500μm、検出する2次イオン:Positive、Negative、Cycle Time:110μs、スキャン数16とした。
処理剤としてオクタデシルホスホン酸(C1839P)を用いた試料1~5、7~16、18、19、および21については、ポジティブモードにおいて、m/z=335(C1840)、ネガティブモードにおいてm/z=333(C1838)のピークがそれぞれ検出されることを確認した。
処理剤としてドデシルホスホン酸(C1227P)を用いた試料6については、ポジティブモードにおいて、m/z=251(C1228)、ネガティブモードにおいてm/z=249(C1226)のピークがそれぞれ検出されることを確認した。
処理剤として、オクタデシルホスホン酸(C1839P)とフェニルホスホン酸(CP)を重量比が1:1となるように用いた試料7について、オクタデシルホスホン酸に関しては試料1と同じピークが検出されることを確認した。フェニルホスホン酸に関しては、ポジティブモードにおいて、m/z=159(C)、ネガティブモードにおいてm/z=157(C)のピークがそれぞれ検出されることを確認した。
(ESI-TOF-MS/MS)
ESI-TOF-MS/MS測定には、Triple TOF 4600(SCIEX社製)を用いた。測定には、切り出した基材をエタノールに浸漬させ、有機層を形成するために用いた各処理剤を抽出し、不要成分をフィルターろ過後、バイアル瓶(1mL程度)に移した後に測定する。測定条件は、イオン原:ESI/Duo Spray Ion Source、イオンモード(Positive/Negative)、IS電圧(4500/-4500V)、ソース温度(600℃)、DP(100V)、CE(40V/-40V)でのMS/MS測定を行った。
処理剤としてオクタデシルホスホン酸(C1839P)を用いた試料1~5、7~16、18、19、および21については、MS/MS分析のポジティブモードにおいてm/z=335.317(C1840)、ネガティブモードにおいてm/z=333.214(C1838)、m/z=78.952(C1838のフラグメントイオンPO )のピークがそれぞれ検出されることを確認した。図8に、試料3のQ-TOF-MS/MS分析により得られたスペクトルを示す。
処理剤としてドデシルホスホン酸(C1227P)を用いた試料6については、MS/MS分析のポジティブモードにおいてm/z=251.210(C1227)、ネガティブモードにおいてm/z=249.138(C1226)、m/z=78.954(C1227のフラグメントイオンPO )のピークがそれぞれ検出されることを確認した。
処理剤として、オクタデシルホスホン酸(C1839P)とフェニルホスホン酸(CP)を重量比が1:1となるように用いた試料7について、オクタデシルホスホン酸に関しては試料1と同じピークが検出されることを確認した。フェニルホスホン酸に関しては、MS/MS分析のポジティブモードにおいてm/z=159.036(C)、ネガティブモードにおいてm/z=156.985(C)のピークがそれぞれ検出されること、さらにMS/MS分析のポジティブモードにおいてm/z=79.061(C 3+のフラグメントイオン)のピークがそれぞれ検出されることを確認した。
(Rの片末端(Xとの結合端ではない側の端部)がCおよびHからなることの確認)
Rの片末端がCおよびHからなること及びRがCとHとかるなる炭化水素であることの確認は表面増強ラマン分光を用いた。
(表面増強ラマンによる確認)
表面増強ラマン分光分析装置としては、表面増強ラマンセンサとして、特許第6179905号に記載される透過型表面増強センサ及び共焦点顕微ラマン分光装置としてNanoFinder30(東京インスツルメンツ)を用いた。測定には、切り出した基材表面に透過型表面増強ラマンセンサを配置した状態で測定した。測定条件は、Nd:YAGレーザー(532nm、1.2mW)、スキャン時間(10秒)、グレーチング(800 Grooves/mm)、ピンホールサイズ(100μm)で行った。
処理剤としてオクタデシルホスホン酸(C1839P)を用いた試料1~5、8~16、18、および19、ならびに、処理剤としてドデシルホスホン酸(C1227P)を用いた試料6については、ラマンシフト2930cm-1が検出されることでRの片末端がメチル基であることを確認した。
また、ラマンシフト2850、2920cm-1が検出されることでRがCとHとかるなる炭化水素であることを確認した。
(M-O-P結合の確認)
M-O-P結合の確認は、TOF-SIMS、表面増強ラマン分光を用いた。
(TOF-SIMSによるM-O-Pの確認)
TOF-SIMSの測定条件は、照射する1次イオン:209Bi ++、1次イオン加速電圧25kV、パルス幅10.5or7.8ns、バンチングあり、帯電中和なし、後段加速9.5kV、測定範囲(面積):約500×500μm、検出する2次イオン:Positive、Negative、Cycle Time:110μs、スキャン数16とした。測定結果として、R-Xと金属酸化物元素Mの結合体(R-X-M)に由来する二次イオンマススペクトル及びM-O-Pに由来する2次イオンマススペクトル(m/z)をそれぞれ得ることで確認した。図9に試料3のTOF-SIMS分析により得られたネガティブードでの二次イオンマススペクトルを示す。
金属酸化物層にCrを含み、処理剤としてオクタデシルホスホン酸(C1839P)を用いた試料1~5、11~14、および16については、ネガティブモードにおいて、m/z=417(C1838POCr)、m/z=447、(C1837Cr)(R-X-M)のいずれかのイオン、146(POCr)(O-M-O-P)のイオンが検出されることを確認した。
金属酸化物層にTiを含み、処理剤としてオクタデシルホスホン酸(C1839P)を用いた試料8、9、および15については、ネガティブモードにおいて、m/z=413(C1838POTi)、m/z=443、(C1837Ti)(R-X-M)のいずれかのイオン、m/z=142(POTi)(O-M-O-P)のイオンが検出されることを確認した。
金属酸化物層にZrを含み、処理剤としてオクタデシルホスホン酸(C1839P)を用いた試料10については、ネガティブモードにおいて、m/z=456(C1838POZr)、m/z=486(C1837Zr)(R-X-M)のいずれかのイオン、m/z=186(POZr)(O-M-O-P)のイオンが検出されることを確認した。
試料19については、R-X-Mに由来する二次イオンマススペクトル及びM-O-Pに由来する2次イオンマススペクトル(m/z)の検出は確認されなかった。
処理剤としてドデシルホスホン酸(C1227P)を用いた試料6については、ネガティブモードにおいて、m/z=332(C1225POCr)(R-X-M)、146(POCr)(O-M-O-P)のイオンが検出されることを確認した。
処理剤として、オクタデシルホスホン酸(C1839P)とフェニルホスホン酸(CP)を重量比が1:1となるように用いた試料7について、オクタデシルホスホン酸に関しては試料1と同じピークが検出されることを確認した。フェニルホスホン酸に関しては、ポジティブモードにおいて、m/z=159(CPCr)(R-X-M)、ネガティブモードにおいてm/z=146(POCr)(O-M-O-P)のイオンが検出されることを確認した。
(表面増強ラマンによるM-O-Pの確認)
表面増強ラマン分光分析装置としては、表面増強ラマンセンサとして、特許第6179905号に記載される透過型表面増強センサ及び共焦点顕微ラマン分光装置としてNanoFinder30(東京インスツルメンツ)を用いた。測定には、切り出した基材表面に透過型表面増強ラマンセンサを配置した状態で測定した。測定条件は、Nd:YAGレーザー(532nm、1.2mW)、スキャン時間(10秒)、グレーチング(800 Grooves/mm)、ピンホールサイズ(100μm)で行った。
M-O-P結合に由来する信号は、酸化物層上で固定化されるM-O-P結合の結合状態を事前に第一原理計算ソフトパッケージとしてMaterial Studioを用いて推定したラマン信号から帰属を行った。第一原理計算の計算条件として、構造最適化については、使用ソフト(CASTEP)、汎関数(LDA/CA―PZ)、カットオフ(830eV)、K点(2*2*2)、擬ポテンシャル(Norn―conserving)、Dedensity mixing(0.05)、スピン(ON)、Metal(OFF)で行った。また、ラマンスペクトル計算は、使用ソフト(CASTEP)、汎関数(LDA/CA―PZ)、カットオフ(830eV)、K点(1*1*1)、擬ポテンシャル(Norn―conserving)、Dedensity mixing(All Bands/EDFT)、スピン(OFF)、Metal(OFF)で行った。
基材の金属元素にクロムを含む試料1~7、11~14、16、および21について、M-O-Pの各結合状態に由来する信号が検出されることを以下のように確認した。
ラマンシフト377cm-1、684cm-1、772cm-1、1014cm-1のうち2つ以上の信号を検出することで、第一原理計算で得られたホスホン酸にクロム原子が1つ結合した状態(1つのホスホン酸基あたりのM-O-P結合が1つの状態:「結合1」)を含んでいることを確認した。
ラマンシフト372cm-1、433cm-1、567cm-1、766cm-1、982cm-1のうち2つ以上の信号を検出することで、第一原理計算で得られたホスホン酸にクロム原子が2つ結合した状態(1つのホスホン酸基あたりのM-O-P結合が2つの状態:「結合2」)を含んでいることを確認した。
ラマンシフト438cm-1、552cm-1、932cm-1、1149cm-1のうち2つ以上の信号を検出することで、第一原理計算で得られたホスホン酸にクロム原子が3つ結合した状態(1つのホスホン酸基あたりのM-O-P結合が3つの状態:「結合3」)を含んでいることを確認した。
図10に試料3の透過型表面増強ラマンスペクトルを示す。試料3はラマンシフト377cm-1、684cm-1、772cm-1、1014cm-1、372cm-1、433cm-1、567cm-1、766cm-1、982cm-1、438cm-1、552cm-1、932cm-1、1149cm-1の信号が検出されていることから、ホスホン酸にクロム原子が、結合1、結合2、および結合3の全ての結合を含んでいることを確認した。
基材の金属元素にジルコニウムを含む試料10について、M-O-Pの各結合状態に由来する信号が検出されることを以下のように確認した。
ラマンシフト684cm-1、770cm-1、891cm-1、901cm-1のうち2つ以上の信号を検出することで、第一原理計算で得られたホスホン酸にジルコニウム原子が1つ結合した状態(1つのホスホン酸基あたりのM-O-P結合が1つの状態:「結合1」)を含んでいることを確認した。
ラマンシフト694cm-1、716cm-1、1272cm-1、1305cm-1、1420cm-1のうち2つ以上の信号を検出することで、第一原理計算で得られたホスホン酸にジルコニウム原子が2つ結合した状態(1つのホスホン酸基あたりのM-O-P結合が2つの状態:「結合2」)を含んでいることを確認した。
ラマンシフト559cm-1、943cm-1、1006cm-1、1110cm-1のうち2つ以上の信号を検出することで、第一原理計算で得られたホスホン酸にジルコニウム原子が3つ結合した状態(1つのホスホン酸基あたりのM-O-P結合が3つの状態:「結合3」)を含んでいることを確認した。
試料10はラマンシフトの信号が検出されていることから、ホスホン酸にジルコニウム原子が、結合1、結合2、および結合3の全ての結合を含んでいることを確認した。
試験II(実施例1、2・比較例1)
1.試料作製
1-1.金属酸化物層が形成された基材の準備
金属酸化物層が形成された基材として、黄銅にニッケルクロムメッキした板を準備した。サイズ100mm×50mm×1mmtとした。基材表面の汚れを除去する為に、中性洗剤入りの水溶液で超音波洗浄し、洗浄後流水で十分に基材を洗い流した。さらに、基材の中性洗剤を除去する為、イオン交換水で超音波洗浄し、その後、エアーダスターで水分を除去した。
1-2.準備した金属酸化物層が形成された基材に、以下の処理工程を施し、実施例1~2、比較例1を作製した。
実施例1
1)基材を水酸化ナトリウム水溶液に所定時間浸漬したのち、イオン交換水にて十分にすすぎ洗いを行った。
2)基材を処理剤に浸漬し、基材表面に有機層を形成する成分を被覆した。処理剤として、オクタデシルホスホン酸(東京化成工業製、製品コードO0371)をエタノール(富士フイルム和光純薬製、和光一級)に溶解させた溶液を用いた。浸漬時間は30分とした。
3)表面に有機層を形成する成分を被覆した基材を乾燥機にて50℃で1分間放置し、エタノールを揮発させた。
4)表面に有機層を形成する成分を被覆した基材を乾燥機にて120℃で10分間加熱し、基材表面に有機層を形成する成分を固定化させた。
5)表面に有機層を形成する成分を固定した基材を冷却した。
6)表面に有機層を形成する成分を固定した基材をエタノールにて掛け洗い洗浄した。これにより、基材表面に固定していない有機層を形成する成分を除去した。洗浄時間を、1秒、10秒、60秒とした。
このようにして、試料1を作製した。
実施例2
試料1の作製方法と同様に上記の処理工程1)から5)を行った。
6)表面にSAMを固定した基材を0.1wt%界面活性剤水溶液(界面活性剤名:ドデシル硫酸ナトリウム)に浸漬し、超音波照射して洗浄し、試料2を作製した。超音波条件は、38kHz、360W、50℃とした。洗浄時間を、1秒、10秒、60秒とした。その後、イオン交換水にて掛け洗い洗浄を行い、基材表面に残存した界面活性剤を除去した。
このようにして、試料2を作製した。
比較例1
1)基材を水酸化ナトリウム水溶液に所定時間浸漬したのち、イオン交換水にて十分にすすぎ洗いを行った。
2)基材を処理剤に浸漬し、基材表面に有機層を形成する成分を被覆した。処理剤として、オクタデシルホスホン酸(東京化成工業製、製品コードO0371)をエタノール(富士フイルム和光純薬製、和光一級)に溶解させた溶液を用いた。浸漬時間は1分とした。
3)表面に有機層を形成する成分を被覆した基材を浸漬液から取出し、エタノールにて掛け洗い洗浄した。これにより、基材表面に被覆していない有機層を形成する成分を除去した。洗浄時間を、1秒、10秒、60秒とした。
4)表面に有機層を形成する成分を被覆した基材を乾燥機にて50℃で1分間放置し、エタノールを揮発させた。
5)表面に有機層を形成する成分を被覆した基材を乾燥機にて120℃で10分間加熱し、基材表面に有機層を形成する成分を固定化させた。
6)表面に有機層を形成する成分を固定した基材を冷却した。
このようにして、試料3を作製した。
2.評価方法
2-1.水滴接触角測定
測定前に中性洗剤を用いて試料1~3を擦り洗いし、超純水で十分にすすぎを行った。各試料の水滴接触角測定には、接触角計(型番:SDMs-401、協和界面科学株式会社製)を用いた。測定用の水は超純水を用い、滴下する水滴サイズは2μlとした。接触角は、いわゆる静的接触角であり、水を滴下してから1秒後の値とし、異なる5か所を測定した平均値を求めた。ただし、5カ所の中に異常値が現れた場合は、異常値を除いて平均値を算出した。測定結果を表4に示す。
Figure 0007331592000004

Claims (13)

  1. 基材と、
    前記基材上に、金属元素と酸素原子とを含む金属酸化物層と、
    前記金属酸化物層上に、疎水基と、前記金属元素に対し配位性を有する官能基とを備える非高分子の有機配位子を含み、かつ、前記官能基を介して前記金属酸化物層と結合してなる有機層と
    を含み、前記有機層を最表面に備えてなる、衛生設備部材の製造方法であって、
    前記金属酸化物層が形成された前記基材を準備する工程、
    前記有機層を形成する成分を前記基材表面に適用する工程、
    前記有機層を形成する成分を前記基材表面に固定する工程、および
    前記基材表面に固定されていない前記有機層を形成する成分を除去する工程
    を含んでなり、
    前記基材表面に固定されていない前記有機層を形成する成分を除去する工程が、水系洗浄液を用いた洗浄により行われ、
    前記水系洗浄液は、界面活性剤と水とを含んでなる、方法。
  2. 前記界面活性剤は、スルホン酸塩および非イオン性界面活性剤からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の方法。
  3. 基材と、
    前記基材上に、金属元素と酸素原子とを含む金属酸化物層と、
    前記金属酸化物層上に、疎水基と、前記金属元素に対し配位性を有する官能基とを備える非高分子の有機配位子を含み、かつ、前記官能基を介して前記金属酸化物層と結合してなる有機層と
    を含み、前記有機層を最表面に備えてなる、衛生設備部材の製造方法であって、
    前記金属酸化物層が形成された前記基材を準備する工程、
    前記有機層を形成する成分を前記基材表面に適用する工程、
    前記有機層を形成する成分を前記基材表面に固定する工程、および
    前記基材表面に固定されていない前記有機層を形成する成分を除去する工程
    を含んでなり、
    前記基材表面に固定されていない前記有機層を形成する成分を除去する工程が、超音波を用いた洗浄により行われる、方法。
  4. 前記基材が、金属、樹脂、セラミック、陶器またはガラスを含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記金属酸化物層は、Cr、Zr、Ti及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素と酸素元素を含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記有機層を形成する成分が、一般式R-X(ここで、Rは炭化水素基であり、Xはホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基、カルボキシル基、βジオール基、アミノ基、水酸基、ヒドロキシアミド基、αまたはβ-ヒドロキシカルボン酸基、シラン、アルキン、アルケンから選ばれる少なくとも1種である)で表される化合物である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記Xが、ホスホン酸基である、請求項に記載の方法。
  8. 前記有機層は、前記金属元素をMとしたときに、M-O-P結合によって前記金属酸化物層と結合している、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  9. 前記有機層を形成する成分を前記基材表面に適用する工程が、前記有機層を形成する成分の溶液または分散液に前記基材を浸漬する、前記有機層を形成する成分の溶液または分散を前記基材表面に塗布する、または前記有機層を形成する成分の溶液または分散液のミストを前記基材表面に接触させることにより行われる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記有機層を形成する成分を前記基材表面に固定する工程が、加熱により行われる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  11. 前記有機層を形成する成分を前記基材表面に固定する工程が、前記有機層を形成する成分を前記基材表面に適用する工程を兼ねている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 前記衛生設備部材が水栓に用いられるものである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 金属元素と酸素原子とを含む金属酸化物層を表面に備えた基材の当該表面に、疎水基と、前記金属元素に対し配位性を有する官能基とを備える非高分子の有機配位子を含み、かつ、前記官能基を介して前記金属酸化物層と結合してなる有機層を形成する方法であって、
    前記金属酸化物層が形成された前記基材を準備する工程、
    前記有機層を形成する成分を前記基材表面に適用する工程、
    前記有機層を形成する成分を前記基材表面に固定する工程、および
    前記基材表面に固定されていない前記有機層を形成する成分を除去する工程
    を含んでなり、
    前記基材表面に固定されていない前記有機層を形成する成分を除去する工程が、界面活性剤と水とを含んでなる水系洗浄液を用いた洗浄により行われるか、または、超音波を用いた洗浄により行われることを特徴とする、方法
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