JP6028759B2 - 鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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(1)鋼板表面における圧延方向のヤング率を高めるためには、鋼板表面で{110}<111>および{112}<111>集合組織を発達させることが有効である。
(2)そのためには、鋼板表面から板厚の1/2位置までの未再結晶温度域でのパス圧下率、パス間時間、累積圧下率を適正に規定することが必要である。
(3)引張強度を780MPa以上とする場合、特定成分組成の鋼を熱間圧延後、Ar3変態点以上から冷却速度10℃/s以上で400℃以下まで冷却し、焼もどし温度を適正に規定した焼戻し処理することが必要である。
(4) また、圧延機および冷却装置と同一の製造ライン上に設置された加熱装置を用いると、焼戻し処理時間が短縮されて短納期対応が可能となる。
1. 成分組成が、質量%で、C:0.06〜0.25%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.5〜2%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.008%、及びMo:0.01〜1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、鋼板表面圧延方向のヤング率が220GPa以上であることを特徴とする鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板。
2.成分組成が、質量%で、C:0.06〜0.25%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.5〜2%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.008%、及びMo:0.01〜1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、旧γ粒径が15〜40μmで、かつ鋼板表面における{110}<111>および{112}<111>集合組織の集積度が3以上で鋼板表面圧延方向のヤング率が220GPa以上であることを特徴とする鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板。
3.更に、成分組成が、質量%で、Cu:2%以下、Ni:4%以下、Cr:2%以下、W:2%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする1または2に記載の鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板。
4.更に、成分組成が、質量%で、B:0.0003〜0.003%、Ca:0.01%以下、REM:0.02%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする1乃至3のいずれか一つに記載の鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板。
5.1乃至4のいずれか一つに記載の成分組成を有する鋼を鋳造後、Ar3変態点以下に冷却することなく、あるいはAr3変態点以下に冷却後、Ac3変態点以上に再加熱して、未再結晶域での1パス圧下率10〜20%、パス間時間20s以下、累積圧下率40%以上の圧延を含んだ熱間圧延を行い、その後、Ar3変態点以上から冷却速度10℃/s以上で400℃以下の温度まで冷却した後、Ac1点以下に焼もどすことを特徴とする鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板の製造方法。
6.1乃至4のいずれか一つに記載の成分組成を有する鋼を鋳造後、Ar3変態点以下に冷却することなく、あるいはAr3変態点以下に冷却後、Ac3変態点以上に再加熱して、未再結晶域でのパス圧下率10〜20%、パス間時間が20s以下、累積圧下率が40%以上の圧延を含んだ熱間圧延を行い、その後、Ar3変態点以上から冷却速度10℃/s以上で250℃以下の温度まで冷却した後、圧延機および冷却装置と同一の製造ライン上に設置された加熱装置を用いて、平均昇温速度1℃/s以上で、Ac1点以下に焼もどすことを特徴とする鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板の製造方法。
Cは、構造用鋼に求められる強度を得るために必要不可欠な元素であるが、多量に含有すると、溶接熱影響部のマルテンサイトの生成量が多くなり靭性を低下させるので、上限を0.25%とした。また、0.06%より含有量が少ないと、十分な強度が得られず、合金元素の大量含有が必要になり溶接性が低下するので、下限を0.06%とする。好ましくは0.12〜0.22%、より好ましくは、0.12〜0.18%である。
Siは脱酸剤として作用し、本発明では適度な脱酸を行うために0.01%以上含有する必要があるが、0.8%を超えて含有すると、母材および溶接熱影響部の靭性が顕著に低下するとともに溶接性が著しく低下する。このため、Siの範囲を0.01〜0.8%とした。好ましくは、0.05〜0.8%である。
Mnは母材強度を確保する観点から0.5%以上含有する必要がある。一方、2%より多く含有すると、過剰に焼入性を高め、溶接熱影響部の靭性を著しく低下させることから、2%以下とする必要がある。好ましくは、0.6〜1.6%である。
Pは、0.015%を超えて含有すると、母材および溶接熱影響部の靭性を著しく低下させるため、0.015%以下に制限する。
Sは、0.005%を超えて含有すると、母材および溶接熱影響部の靭性を顕著に低下させるため、0.005%以下とする。
Alは溶鋼を十分に脱酸するために、0.005%以上含有する必要がある。一方、0.1%より多く含有すると、母材中に固溶するAl量が多くなり、母材靭性を低下させるので、0.1%以下に制限する必要がある。好ましくは、0.01〜0.06%である。
Nは、Tiなどと窒化物を形成することによって組織を微細化し、母材および溶接熱影響部の靭性を向上させる効果を有するために含有する。しかし、0.0005%未満の含有では組織微細化の効果が十分ではなく、一方、0.008%を超える含有では、母材中に固溶するN量が増大し、母材靭性を著しく低下させ、さらに溶接熱影響部においても粗大な炭窒化物を形成し靭性を低下させるので、0.0005〜0.008%の範囲に制限する必要がある。好ましくは、0.001〜0.006%である。
Mo:0.01〜1%
Moは、母材の高強度化に有効な元素であるが、0.01%未満ではその効果が不十分である一方、多量に含有すると合金炭化物の析出による強度の上昇を引き起こし、靭性を低下させるので0.01〜1%とする。好ましくは、0.2〜0.8%である。
Nbは鋼の強化に有効な元素であり、特に集合組織の発達に大きく寄与する元素であるが、0.001%未満ではその効果が不十分であり、0.1%を超える含有は母材の靭性を著しく低下させるので、0.001〜0.1%とする。好ましくは0.001〜0.05%である。
Vは母材の強度・靭性の向上に効果があり、また、VNとして析出することで固溶Nの低下に有効であるが、0.001%未満の含有ではその効果が不十分であり、0.5%より多く含有すると硬質なVCの析出により靭性が低下するので、0.001〜0.5%にする。好ましくは、0.01〜0.1%である。
Tiは圧延加熱時あるいは溶接時にTiNを生成し、オーステナイトの粗大化を効果的に抑制し、母材および溶接熱影響部の靭性を向上させる。しかし、0.03%より多く含有すると、Ti窒化物が粗大化し母材および溶接熱影響部の靭性を低下させるので0.03%以下に制限する必要がある。
Cuは低温靭性を損なうことなく鋼の強度の向上が図れるが、2%より多く含有すると熱間圧延時に鋼板表面に割れを生じるので2%以下とする。
Niは、鋼の強度および溶接熱影響部の靭性を向上させる有益な元素である。しかし、Ni含有量が4%を超えると経済性が劣る。従って、Niを含有する場合にはその含有量を4%以下とする。好ましくは2%以下である。
Crは、強度および靭性の向上に有効な元素であるが、Cr含有量が2%を超えると、溶接性が低下する。従ってCrを含有する場合にはその含有量を2%以下とする。好ましくは、0.1%〜1%である。
Wは強度を向上する作用を有している。その効果を得るために0.05%以上含有することが好ましい。しかしながら、2%を超えると溶接性が低下する。従って、Wを含有する場合は、その含有量を2%以下とする。好ましくは、0.05〜2%である。
Bは、オーステナイト粒界に偏析することで粒界からのフェライト変態を抑制し、焼入性を高める効果を有するが、この効果を十分に発揮させるためには0.0003%以上含有する必要がある。しかし、0.003%を超えて含有すると、析出物となり焼入性を低下させ、靭性が低下するので、上限を0.003%とする。好ましくは0.0005〜0.0020%である。
Caは硫化物系介在物の形態制御に必要不可欠な元素である。しかし0.01%を超える含有は、清浄度の低下を招く。従って硫化物系介在物の形態制御のために、Caを含有する場合には、その含有量を0.01%以下に限定する。
REMもCaと同様に鋼中で酸化物および硫化物を形成して材質を改善する効果があるが、0.02%より多く含有してもその効果が飽和するため、0.02%以下とする。
[集合組織]
鋼板表面における圧延方向のヤング率を220GPa以上とするため、鋼板の表面での集合組織として、ヤング率が高い<111>方向が圧延方向に配向した{110}<111>および{112}<111>の集積度を3以上とする。当該集積度が3未満では、圧延方向のヤング率は220GPa未満となり、鋼板の剛性を高めることができない。なお、本発明で、鋼板の表面とは、板表面から板厚方向に少なくとも1/10板厚位置(板厚の1/10位置)までの領域を指す。
旧γ粒径を15〜40μmとするのは、旧γ粒径が15μm未満では、焼入性が低下し十分な強度が確保できず、旧γ粒径が40μmを超える場合は靭性が著しく低下するためである。
鋳片を、Ar3変態点以下に冷却することなくそのまま熱間圧延を開始しても、一度冷却した鋳片をAc3変態点以上に再加熱した後に熱間圧延を開始してもよい。鋼がオーステナイト化される温度域で圧延を開始すれば、本発明の有効性は失われない。なお、本発明は、転炉法・電気炉法等で溶製されたいかなる鋼や、連続鋳造・造塊法等で製造されたいかなるスラブについても有効であるので、特に鋼の溶製方法や製造方法は特定しない。
熱間圧延終了後、引張強度780MPa以上の母材強度を確保し、ヤング率を高めるため、Ar3変態点以上の温度から冷却速度10℃/s以上で所定の冷却停止温度まで強制冷却を施す。冷却停止温度は、400℃以下とし、冷却停止後、焼戻し処理を圧延機および冷却装置と同一の製造ライン上に設置された加熱装置を用いて行う場合は、250℃以下とする。
冷却後、Ac1点以下の温度に焼もどしを行う。焼もどしは、平均昇温速度を1℃/s以上とし、鋼板温度をAc1点以下に加熱することで、加熱時のCの拡散を抑制して、マルテンサイトラス界面の粗大な炭化物の生成を効果的に抑制し、マルテンサイトラス間に生成する炭化物サイズを100nm以下とするので、靭性が向上する。
Claims (6)
- 成分組成が、質量%で、C:0.06〜0.25%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.5〜2%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.008%、及びMo:0.01〜1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、鋼板表面における圧延方向のヤング率が220GPa以上であることを特徴とする鋼板表面圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板。
- 成分組成が、質量%で、C:0.06〜0.25%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.5〜2%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.008%、及びMo:0.01〜1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、旧γ粒径が15〜40μmで、かつ鋼板表面における{110}<111>および{112}<111>集合組織の集積度が3以上で、鋼板表面圧延方向のヤング率が220GPa以上であることを特徴とする鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板。
- 更に、成分組成が、質量%で、Cu:2%以下、Ni:4%以下、Cr:2%以下、W:2%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板。
- 更に、成分組成が、質量%で、B:0.0003〜0.003%、Ca:0.01%以下、REM:0.02%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板。
- 請求項1乃至4のいずれか一つに記載の成分組成を有する鋼を鋳造後、Ar3変態点以下に冷却することなく、あるいはAr3変態点以下に冷却後、Ac3変態点以上に再加熱して、未再結晶域での1パス圧下率10〜20%、パス間時間20s以下、累積圧下率40%以上の圧延を含んだ熱間圧延を行い、その後、Ar3変態点以上から冷却速度10℃/s以上で400℃以下の温度まで冷却した後、Ac1点以下に焼もどすことを特徴とする鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板の製造方法。
- 請求項1乃至4のいずれか一つに記載の成分組成を有する鋼を鋳造後、Ar3変態点以下に冷却することなく、あるいはAr3変態点以下に冷却後、Ac3変態点以上に再加熱して、未再結晶域でのパス圧下率10〜20%、パス間時間が20s以下、累積圧下率が40%以上の圧延を含んだ熱間圧延を行い、その後、Ar3変態点以上から冷却速度10℃/s以上で250℃以下の温度まで冷却した後、圧延機および冷却装置と同一の製造ライン上に設置された加熱装置を用いて、平均昇温速度1℃/s以上で、Ac1点以下に焼もどすことを特徴とする鋼板表面における圧延方向のヤング率が高い高張力厚鋼板の製造方法。
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