しかし、上述した従来のトラブルシューティングに係わる診断装置(方法)は、次のような解決すべき課題も存在した。
第一に、通常、ユーザーサイドでトラブルシューティングが困難な場合、サービスセンターに電話をかけるなどにより必要なアドバイスを貰うことになるが、この際、診断対象となる射出成形機の状態を実際に確認することなく診断を行うには、サービスセンター(サービスマン)にとって限界がある。特に、ユーザーが初心者や外国人などの場合、サービスマンからユーザーにトラブル状態の問診を行っても正確かつ詳細な情報を得るのは容易でなく、このような事態に適切に対応するには更なる改善の余地があった。
第二に、ユーザーサイドにおいても的確なトラブルシューティングを行うには限界があった。例えば、射出圧力が正常な大きさよりも低下している場合、射出圧力が異常であることは診断できるが、その原因がどこにあるのかまでは容易に診断できない場合も少なくない。この場合、ユーザー自身が自分の判断に基づき点検などを行ったとしても、できることには限界があり、無用な時間消費による生産計画の遅れや誤った診断による二次的なトラブルの発生原因にもなりかねない。
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した射出成形機の診断支援装置の提供を目的とするものである。
本発明に係る射出成形機の診断支援装置1は、上述した課題を解決するため、射出成形機Mで発生したトラブルの診断を支援する診断支援装置を構成するに際して、射出成形機Mの制御を行うための入力信号Si…の信号状態,この入力信号Si…により制御を行った制御結果に対応する出力信号So…の信号状態,及び射出成形機Mのアクチュエータ群Aを駆動する駆動源Pwの動作状態をそれぞれ確認データDi…,Do…,Dw…として取込む状態取込手段Fiと、成形機コントローラ2に付属するディスプレイ3に表示した診断支援画面Vpに、所定の選択条件Cmに基づいて選択された、入力信号Si…に係わる確認データDi…と出力信号So…に係わる確認データDo…を対比可能に表示し、駆動源Pwの動作状態に係わる確認データDw…を変化波形Wmとしてグラフィック表示する診断支援画面表示手段Fvとを備えて構成するとともに、選択条件Cmに、少なくとも、手動により成形を行う際の動作となる手動モードm1,段取りを行う際の動作となる段取りモードm2,自動により成形を行う際の動作となる自動モードm3,モータ電源に係わるモータ電源モードm4,ヒータ電源に係わるヒータ電源モードm5,の一又は二以上を含む動作モードm1,m2…から動作モード選択機能Fvmにより選択した動作モード、及び/又は,少なくとも、型締工程p1,ノズル前進工程p2,射出工程p3,計量工程p4,ノズル後退工程p5,型開工程p6,エジェクタ前進工程p7,エジェクタ後退工程p8の,一又は二以上を含む診断工程p1,p2…から診断工程選択機能Fvpにより選択した診断工程とを適用することを特徴とする。
この場合、発明の好適な態様により、アクチュエータ群Aには、少なくとも、駆動系アクチュエータAd…,加熱系アクチュエータAh…の一方又は双方を含ませることができる。また、駆動源Pwには、少なくとも、油圧ポンプPwp,電動モータの一方又は双方を含ませることができる。さらに、駆動源Pwの動作状態には、制御を指令する指令値Ecの状態とこの指令値Ecによる実際の動作に係わるモニタ値Emの状態の一方又は双方を含ませることができる。
このような構成を有する本発明に係る射出成形機の診断支援装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
(1) サービスマンが診断対象となる射出成形機の状態を確認することなくトラブル診断を行う場合であっても、必要とする詳細かつ正確な情報を容易かつ迅速に得ることができる。したがって、サービスマンが電話等により遠方のユーザーから質問等を受けた場合であっても的確な診断とアドバイスを行うことが可能となり、特に、ユーザーが初心者や外国人などの場合に用いて最適となる。
(2) 射出成形機Mにおけるトラブル診断を行う際の支援ツールとして利用できるため、トラブルを特定するトラブルシューティング(診断)に加えて、トラブルの原因に係わる診断も容易に行うことが可能となる。したがって、ユーザー自身が自分の経験や判断に基づいてトラブルシューティングを行う場合であっても、的確かつ迅速なトラブルシューティングが可能となり、ユーザーサイドの利便性をより高めることができる。
(3) 選択条件Cmに、動作モード選択機能Fvmにより一又は二以上の動作モードm1,m2…から選択した動作モードを適用したため、診断支援画面Vpに表示する個々の確認データDi…,Do…及びDw…に基づく診断の前に、関連する動作モードm1,m2…の視点からトラブルの発生範囲を絞り込むことが可能になり、トラブルシューティングの更なる容易化及び迅速化に寄与できる。
(4) 動作モードとして、少なくとも、手動により成形を行う際の動作となる手動モードm1,段取りを行う際の動作となる段取りモードm2,自動により成形を行う際の動作となる自動モードm3,モータ電源に係わるモータ電源モードm4,ヒータ電源に係わるヒータ電源モードm5,の一又は二以上を含ませたため、的確なトラブルシューティングを行う観点からの主要な動作モードを確保でき、より有効性(実効性)の高い診断支援機能の実現に寄与できる。
(5) 選択条件Cmに、診断工程選択機能Fvpにより一又は二以上の診断工程p1,p2…から選択した診断工程を適用したため、診断支援画面Vpに表示する個々の確認データDi…,Do…及びDw…に基づく診断の前に、関連する診断工程p1,p2…の視点からトラブルの発生範囲を絞り込むことが可能になり、トラブルシューティングの更なる容易化及び迅速化に寄与できる。
(6) 診断工程に、少なくとも、型締工程p1,ノズル前進工程p2,射出工程p3,計量工程p4,ノズル後退工程p5,型開工程p6,エジェクタ前進工程p7,エジェクタ後退工程p8,の一又は二以上を含ませたため、的確なトラブルシューティングを行う観点からの主要な診断工程を確保でき、より有効性(実効性)の高い診断支援機能の実現に寄与できる。
(7) 好適な態様により、アクチュエータ群Aに、少なくとも、駆動系アクチュエータAd…,加熱系アクチュエータAh…,の一方又は双方を含ませれば、射出成形機Mにおける主要かつ重要なアクチュエータ群Aのトラブル情報を把握できるため、診断支援装置1の診断支援ツールとしての十分な実効性を確保できる。
(8) 好適な態様により、駆動源Pwに、少なくとも、油圧ポンプPwp,電動モータの一方又は双方を含ませれば、アクチュエータ群Aのトラブル情報に加え、射出成形機Mの主要な駆動源Pwとなる、油圧駆動方式で用いる油圧ポンプPwp又は電動駆動方式で用いる電動モータのトラブル情報を把握できるため、診断支援装置1の診断支援ツールとしての有効性をより高めることができる。
(9) 好適な態様により、駆動源Pwの動作状態に、制御を指令する指令値Ecの状態とこの指令値Ecによる実際の動作に係わるモニタ値Emの状態の一方又は双方を含ませれば、指令値Ecとモニタ値Emのタイミングを一致させた重畳表示が可能になるため、両者の対比観察を容易に行うことができ、これにより、動作状態を容易かつ迅速に確認できる。
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る診断支援装置1を備える射出成形機Mの概略構成について、図2を参照して説明する。
図2中、仮想線で示すMは射出成形機であり、機台Mbと、この機台Mb上に設置された射出装置Mi及び型締装置Mcを備える。射出装置Miは、加熱筒11を備え、この加熱筒11の前端に図に現れない射出ノズルを有するとともに、加熱筒11の後部には材料を供給するホッパ12を備える。一方、型締装置Mcには可動型と固定型からなる金型15を備える。さらに、機台Mb上には、起設した側面パネル14を利用してディスプレイ3を配設する。このディスプレイ3は、図2に抽出拡大図で示すように縦長に配設する。また、ディスプレイ3は、図1に示すように、各種表示を行うディスプレイ本体3m及びこのディスプレイ本体3mに付設して各種入力を行うタッチパネル3tにより構成し、射出成形機Mに内蔵する成形機コントローラ2に接続する。このディスプレイ3及び成形機コントローラ2は、本実施形態に係る診断支援装置1の主要部として機能する。
次に、本実施形態に係る診断支援装置1として機能する成形機コントローラ2の構成について、図1を参照して説明する。
図1は、成形機コントローラ2のブロック系統を示す。成形機コントローラ2は、基本的に、CPU及び内部メモリ等のハードウェアを内蔵するとともに、内部メモリに各種ソフトウェアを格納するコンピュータシステムとして構成し、射出成形機Mにおける全体の制御を司る機能を備える。21はCPUであり、このCPU21には、内部バス22及びチップセット23を介してPCIバス等のローカルバスを用いたバスライン24を接続してHMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)制御系Chを構成する。このバスライン24にはハードディスク等の内部メモリ25を接続する。また、バスライン24には、表示インタフェース27を介して前述したディスプレイ3を接続するとともに、入出力インターフェイス28を介して外部メディア用ドライブ29を接続する。したがって、この外部メディア用ドライブ29には、USBメモリ等の外部メディア30を装填し、各種データ類の読出又は書込を行うことができる。
他方、チップセット23には、バスライン24と同様のバスライン31を接続してPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)制御系Cpを構成する。このため、バスライン31には、成形機コントローラ2を除いた成形機本体Mmに備える各種のスイッチ類から得る切換データXi…をCPU21に付与し、かつCPU21から得る制御指令データXo…を成形機本体Mmに付与する入出力インターフェイス33を接続するとともに、成形機本体Mmに備える各種のセンサ類から得るアナログ検出信号Yi…を、アナログ−ディジタル変換してCPU21に付与し、かつCPU21から得る制御指令データをディジタル−アナログ変換した制御信号Yo…を成形機本体Mmに付与する入出力インターフェイス34を接続する。
また、上述した内部メモリ25には、各種データを書込み可能なデータエリア25dを有するとともに、各種プログラムを格納可能なプログラムエリア25pを有する。このプログラムエリア25pには、PLCプログラムとHMIプログラムを格納するとともに、各種演算処理及び各種制御処理(シーケンス制御)を実行するための各種処理プログラムを格納する。PLCプログラムは、射出成形機Mにおける各種工程のシーケンス動作や射出成形機Mの監視等を実現するためのソフトウェアであり、HMIプログラムは、射出成形機Mの動作パラメータの設定及び表示,射出成形機Mの動作監視データの表示等を実現するためのソフトウェアである。さらに、格納する処理プログラムには、トラブルシューティングを実行するためのトラブルシューティング処理プログラム25ptが含まれるとともに、本実施形態に係る診断支援装置1の機能を実現するための診断支援プログラム(アプリケーション処理プログラム)25psが含まれる。
次に、本実施形態に係る診断支援装置1の具体的な構成について、図1〜図7を参照して説明する。
本実施形態に係る診断支援装置1は、大別して、状態取込手段Fiと診断支援画面表示手段Fvを備える。状態取込手段Fiは、基本的な機能として、射出成形機Mの制御を行うための入力信号Si…の信号状態,この入力信号Si…により制御を行った制御結果に対応する出力信号So…の信号状態,及び射出成形機Mのアクチュエータ群Aを駆動する駆動源Pwの動作状態をそれぞれ確認データDi…,Do…,Dw…として取込む機能を有する。また、診断支援画面表示手段Fvは、基本的な機能として、成形機コントローラ2に付属するディスプレイ3に診断支援画面Vpを表示し、この診断支援画面Vpに、所定の選択条件Cmに基づいて選択された、入力信号Si…に係わる確認データDi…と出力信号So…に係わる確認データDo…を対比可能に表示するとともに、駆動源Pwの動作状態に係わる確認データDw…を変化波形Wmとしてグラフィック表示する機能を有する。
以下、診断支援装置1を構成する状態取込手段Fiと診断支援画面表示手段Fvにおける各部の具体的な構成について説明する。まず、状態取込手段Fiにおける、射出成形機Mの制御を行うための入力信号Si…とは、実際に制御を行う制御対象に付与される切換信号及び制御信号の意味である。したがって、入力信号Si…の信号状態とは、切換信号及び制御信号が正常に付与されている正常状態(ON)にあるか或いは断線等により正常に付与されていない異常状態(OFF)にあるかを意味し、この正常状態(ON)又は異常状態(OFF)を示すON/OFFデータが入力信号Si…に係わる確認データDi…となる。また、入力信号Si…により制御を行った制御結果に対応する出力信号So…とは、制御された制御対象が正常に動作又は機能したことを示す正常信号(ON)或いは正常に動作又は機能しないことを示す異常信号(OFF)を意味し、この正常信号(ON)又は異常信号(OFF)を示すON/OFFデータが出力信号So…に係わる確認データDo…となる。
さらに、射出成形機Mのアクチュエータ群Aを駆動する駆動源Pwの動作状態は、駆動源Pwから出力する時間(又は位置)に対する圧力等の動作物理量の変化を監視することにより確認することができる。この場合、駆動源Pwには、少なくとも、油圧ポンプPwp,電動モータの一方又は双方を含ませることができる。これにより、アクチュエータ群Aのトラブル情報に加え、射出成形機Mの主要な駆動源Pwとなる、油圧駆動方式で用いる油圧ポンプPwp又は電動駆動方式で用いる電動モータのトラブル情報を把握できるため、診断支援装置1の診断支援ツールとしての有効性をより高めることができる。
また、アクチュエータ群Aには、少なくとも、駆動系アクチュエータAd…,加熱系アクチュエータAh…の一方又は双方を含ませることができる。したがって、駆動系アクチュエータAd…には、油圧駆動方式の場合、射出シリンダ,型締シリンダ,エジェクタシリンダ,スクリュ用オイルモータ,ノズルタッチ用シリンダ等が含まれ、電動駆動方式の場合、各種電動モータや電磁プランジャ等が含まれるるとともに、加熱系アクチュエータAh…には、加熱筒ヒータや射出ノズルヒータ等が含まれる。このように、アクチュエータ群Aに、少なくとも、駆動系アクチュエータAd…,加熱系アクチュエータAh…の一方又は双方を含ませれば、射出成形機Mにおける主要かつ重要なアクチュエータ群Aのトラブル情報を把握できるため、診断支援装置1の診断支援ツールとしての十分な実効性を確保できる。
そして、駆動源Pwの動作状態として検出される時間(又は位置)に対する油圧ポンプPwpの出力である圧力(油圧)の変化が確認データDw…として取り込まれる。この場合、駆動源Pwの動作状態には、制御を指令する指令値Ecの状態とこの指令値Ecによる実際の動作に係わるモニタ値Emの状態を適用する。したがって、例示の場合には、油圧ポンプPwpの制御を指令する圧力の指令値Ecとこの指令値Ecによる油圧ポンプPwpの実際の動作に係わる圧力のモニタ値Emの時間(又は位置)に対する変化が確認データDw…として取り込まれる。このように、駆動源Pwの動作状態として、指令値Ecの状態とモニタ値Emの状態を用いれば、指令値Ecとモニタ値Emのタイミングを一致させた重畳表示が可能になるため、両者の対比観察を容易に行うことができ、これにより、動作状態を容易かつ迅速に確認できる。
この場合、確認データDw…(指令値Ecとモニタ値Em)は、成形機本体Mmと成形機コントローラ2から検出される。この確認データDw…をはじめ、成形機本体Mm側で得られる確認データDi…,Do…は、設定した一定のサンプリング間隔おきにサンプリングされ、前述した入出力インターフェイス33,34を介して成形機コントローラ2に取り込まれる。
他方、図2〜図7には、診断支援画面表示手段Fvにおける診断支援画面Vpの具体例を示す。この診断支援画面Vpはディスプレイ3に表示される。診断支援画面Vpの基本的な構成は、図2に示すように、上から下へ、選択条件設定部Vps,入力状態表示部Vpi,出力状態表示部Vpo,動作状態表示部Vpw,を順次配して表示する。この場合、選択条件設定部Vpsは、図2〜図4に示すように、所定の選択条件Cmを設定するための動作モード選択キーKmと診断工程選択キーKpを備える。これにより、動作モード選択キーKmは、動作モード選択機能Fvmの要部を構成するとともに、診断工程選択キーKpは、診断工程選択機能Fvpの要部を構成する。
動作モード選択機能Fvmは、図3に示すように、動作モード選択キーKmに対応する「モード」の項目表示をタッチすることにより、選択可能な複数の動作モードm1,m2…がウィンドウ表示されるため、任意の動作モードm1…をタッチ選択することにより所定の選択条件Cmを設定できる。図3は自動により成形を行う際の動作となる自動モードm3を選択した場合を例示する。この自動モードm3を選択すれば、この自動モードm3に対応した、入力信号Si…に係わる確認データDi…,出力信号So…に係わる確認データDo…及び動作状態に係わる確認データDw…が選択される。また、他の動作モードとしては、手動により成形を行う際の動作となる手動モードm1,段取りを行う際の動作となる段取りモードm2,モータ電源に係わるモータ電源モードm4,ヒータ電源に係わるヒータ電源モードm5を選択可能であり、少なくとも、このような動作モードm1〜m5の一又は二以上を含ませれば、的確なトラブルシューティングを行う観点からの主要な動作モードを確保できるため、より有効性(実効性)の高い診断支援機能の実現に寄与できる。
このように、選択条件Cmとして、動作モード選択機能Fvmにより一又は二以上の動作モードm1,m2…から選択した動作モードを適用すれば、診断支援画面Vpに表示する個々の確認データDi…,Do…及びDw…に基づく診断の前に、関連する動作モードm1,m2…の視点からトラブルの発生範囲を絞り込むことが可能になるため、トラブルシューティングの更なる容易化及び迅速化に寄与できる。なお、図3(図5)中、Ksは診断の開始又は診断結果をリセットする開始キーである。
診断工程選択機能Fvpは、図4に示すように、診断工程選択キーKpに対応する「診断工程」の項目表示をタッチすることにより、選択可能な複数の診断工程p1,p2…がウィンドウ表示されるため、任意の診断工程p1…をタッチ選択することにより所定の選択条件Cmを設定できる。図4は射出工程p3を選択した場合を例示する。この射出工程p3を選択すれば、この射出工程p3に対応した確認データDi…,Do…,Dw…が選択される。また、他の診断工程としては、型締工程p1,ノズル前進工程p2,計量工程p4,ノズル後退工程p5,型開工程p6,エジェクタ前進工程p7,エジェクタ後退工程p8を選択可能であり、少なくとも、このような診断工程p1〜p8の一又は二以上を含ませれば、的確なトラブルシューティングを行う観点からの主要な診断工程を確保できるため、より有効性(実効性)の高い診断支援機能の実現に寄与できる。
このように、選択条件Cmとして、診断工程選択機能Fvpにより一又は二以上の診断工程p1,p2…から選択した診断工程を適用すれば、診断支援画面Vpに表示する個々の確認データDi…,Do…及びDw…に基づく診断の前に、関連する診断工程p1,p2…の視点からトラブルの発生範囲を絞り込むことが可能になるため、トラブルシューティングの更なる容易化及び迅速化に寄与できる。
一方、図5に示すように、診断支援画面Vpにおける入力状態表示部Vpiには入力信号Si…に係わる確認データDi…を表示するとともに、出力状態表示部Vpoには出力信号So…に係わる確認データDo…を表示する。この場合、上側に入力状態表示部Vpiを配し、下側に出力状態表示部Vpoを配することにより、確認データDi…と確認データDo…を対比可能に表示する。入力状態表示部Vpiには、入力信号Siの種類を表示する入力信号表示部41、入力信号Siの説明を表示する入力信号説明部42、入力信号Siの状態となる確認データDiを表示する入力確認データ表示部43を備える。なお、入力信号Siには、インターロック信号も含まれる。また、出力状態表示部Vpoには、出力信号Soの種類を表示する出力信号表示部45、出力信号Soの説明を表示する出力信号説明部46、出力信号Soの状態となる確認データDiを表示する出力確認データ表示部47を備える。なお、Vpdは、動作中における各種物理量を検出して表示する動作物理量表示部を示す。
さらに、図6(図7)に示すように、診断支援画面Vpにおける動作状態表示部Vpwには、駆動源Pwとなる油圧ポンプPwpの出力、即ち、油圧(圧力)の動作状態に係わる確認データDw…を変化波形Wmとしてグラフィック表示する。例示する動作状態表示部Vpwは、横軸がスクリュ位置(又は時間)、縦軸がパーセンテイジによる圧力の大きさとなる。この場合、前述したように、駆動源Pwの動作状態には、指令値Ecとモニタ値Emの状態を含ませたため、図6及び図7は、指令値Ecとモニタ値Emを同時に重畳表示した例を示している。なお、図6及び図7中、指令値Ecとモニタ値Emは、通常制御の射出工程における状態を示すとともに、指令値Ecsとモニタ値Emsは、油圧ポンプPwpを小傾転制御したときの射出工程における状態をそれぞれ示している。また、図6は異常時の状態、図7は正常時の状態をそれぞれ示し、いずれも動作条件は一致させている。加えて、例示する診断支援画面Vpは、二つの動作状態表示部Vpw,Vpwを上下二段に表示した例を示す。通常、大型の射出成形機Mでは、二台の油圧ポンプを搭載することも多いため、下段には二台目の油圧ポンプに係わる確認データを表示できる。
次に、本実施形態に係る診断支援装置1の使用方法及び機能について、図1〜図8を参照して説明する。
図8は、本実施形態に係る診断支援装置1の使用方法の一例をフローチャートで示す。今、ユーザーHuサイドにおいて、射出成形機Mを用いた生産稼働中にトラブルが発生、具体的には、成形品(製品)にショート不良(樹脂不足)が発生した場合を想定する(ステップS1,S2)。
トラブルが発生した際に、ユーザーHu自身により点検或いは射出成形機Mに備えるトラブルシューティング機能の利用により、容易に原因が判かり、対処が可能な場合には、通常の対処方法によりトラブルの解決を図ることができる(ステップS3,S4)。一方、このような対処方法によってもトラブルを解決できない場合或いは最初からトラブルの原因について見当がつかない場合においては、サービスセンターScに電話をして対処することになる。
この場合、まず、ユーザーHuはサービスセンターScに電話をする(ステップS5)。サービスセンターScではユーザーHuからの電話を受け、専門のサービスマン(担当者)が対応することになる(ステップS6)、なお、専門のサービスマンとは、少なくとも、本実施形態に係る診断支援装置1の内容及び使用方法を十分に理解していることが必要となる。サービスマンは、最初に、ユーザーHuからトラブル状態の概要を聞くとともに、ユーザーHuに対して、診断支援画面Vpの表示を指示する(ステップS7)。これにより、ユーザーHuは、診断対象の射出成形機Mを診断支援モードに切換える。この結果、前述した診断支援プログラム25psが実行され、ディスプレイ3には、図2に示す診断支援画面Vpが表示される(ステップS8)。
次いで、サービスマンはトラブル状態の概要に基づき、選択条件Cmの設定を指示する(ステップS9)。なお、ユーザーHuは、成形時にモニタリング画面により射出圧力等の通常の成形条件に係わるモニタリングデータを監視できるため、トラブル状態の概要として、生産稼働中に成形品(製品)にショート不良が発生した点、及び射出圧力が低すぎる点を、サービスマンに伝えたものとする。したがって、この場合、サービスマンは、ユーザーHuに対して、自動モードm3と射出工程p3の選択を指示することができる。これにより、ユーザーHuは、サービスマンの指示に従い、診断支援画面Vpにおける動作モード選択キーKmと診断工程選択キーKpをタッチ操作し、自動モードm3と射出工程p3を選択すれば、選択条件Cm…として、自動モードm3と射出工程p3が設定される(ステップS10)。図5〜図7は、自動モードm3と射出工程p3の選択条件Cm…により選択された確認データDi…,Do…,Dw…が表示された例を示している。
以上により、いわば診断支援準備が整うことになるため、サービスマンは、例えば、チェックリスト等を利用してユーザーHuに対して必要な問診等を行い、射出成形機Mのトラブル状態を把握する(ステップS11)。即ち、サービスマンとユーザーHuは診断支援画面Vpに対する認識は共有しているため、サービスマンはユーザーHuに対して必要なチェックを指示できるとともに、ユーザーHuはサービスマンの指示を受け、指示されたチェック項目に対応する状態を確認し、サービスマンに報告することができる(ステップS12,S13)。
例示の場合、サービスマンは、入力状態表示部Vpiと出力状態表示部Vpoから入出力状態に異常がないことを確認できるとともに、変化波形Wmの圧力(モニタ値Em,Ems)が指令値Ec,Ecsに対して極端に低下していることを確認できる。また、射出工程(流量制御状態)である点を考慮すれば、トラブルの可能性として圧力の漏洩が考えられる。したがって、サービスマンは、この状態把握に基づきトラブル原因を判断し、ユーザーHuに対して確認場所等に関する適切なアドバイスを行うことができる(ステップS14)。例えば、例示の場合、射出油圧回路の射出圧抜用のソレノイドバルブの状態を確認して貰うことができる。ユーザーHuが確認した結果、パイロットランプは消灯状態にあったものとする(ステップS15)。なお、使用されているソレノイドバルブにはパイロットランプが付属し、作動中はランプ点灯、非作動中はランプ消灯となる。
以上の状況を考慮すれば、今回のトラブル原因は、ソレノイドバルブ本体の故障或いはケーブル断線が考えられる。したがって、以降は、サービスマンがユーザーHuを訪問するなどにより、必要な部品交換等の修理を行うことができる(ステップS16,S19)。なお、このような診断支援装置1を使用してもトラブル原因が判らない場合、他の詳細データ、例えば、モニタリングデータを送信して貰うなど、必要な他の対応策を講じることができる(ステップS16,S,17,S18)。
ところで、このようなケースにおいて、本実施形態に係る診断支援装置1を使用しなければ、サービスマンとユーザーHuは相互の会話レベルで対処する必要がある。したがって、サービスマンが診断対象となる射出成形機の状態を確認することなく診断を行うには限界がある。しかし、本実施形態に係る診断支援装置1を使用すれば、サービスマンが診断対象となる射出成形機の状態を確認することなくトラブル診断を行う場合であっても、必要とする詳細かつ正確な情報を容易かつ迅速に得ることができる。したがって、サービスマンが電話等により遠方のユーザーから質問等を受けた場合であっても的確な診断とアドバイスを行うことが可能となり、特に、ユーザーが初心者や外国人などの場合に用いて最適となる。
また、本実施形態に係る診断支援装置1は、射出成形機Mにおけるトラブル診断を行う際の支援ツールとして利用できるため、トラブルを特定するトラブルシューティング(診断)に加えて、トラブルの原因に係わる診断も容易に行うことが可能となる。したがって、ユーザー自身が自分の経験や判断に基づいてトラブルシューティングを行う場合であっても、的確かつ迅速なトラブルシューティングが可能となり、ユーザーサイドの利便性をより高めることができる。
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,数量,数値,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、制御結果に対応する出力信号So…とは、制御対象の直接的な出力のみならず、間接的な出力であってもよい。また、アクチュエータ群Aとして、駆動系アクチュエータAd…と加熱系アクチュエータAh…を例示したが、いずれか一方のみ或いは双方であってもよいし、他の異なる種類のアクチュエータを含めてもよい。さらに、駆動源Pwとして、油圧ポンプPwpと電動モータを例示したが、いずれか一方のみ或いは双方であってもよいし、他の異なる種類の駆動源を含めてもよい。なお、駆動源Pwの動作状態として圧力の状態を挙げたが、動作状態を確認できる他の各種動作物理量を適用可能である。また、駆動源Pwの動作状態として、制御を指令する指令値Ecの状態とこの指令値Ecによる実際の動作に係わるモニタ値Emの状態を用いた例を示したが、いずれか一方のみの場合を排除するものではない。他方、選択条件Cmとして、動作モードm1…と診断工程p1…を例示したが、いずれか一方のみであってもよい。