以下、本発明の実施の形態(以下、単に「実施形態」と記す)を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。まず、本実施形態に係る車両と動力伝達装置の構成の概略について、図1を用いて説明する。図1は、実施形態に係る車両及び動力伝達装置の構成を示す模式図である。
車両1には、駆動輪9を駆動するための原動機として内燃機関5が設けられている。内燃機関5は、燃料のエネルギを機械的エネルギに変換して出力する熱機関であり、本実施形態においては、シリンダ内をピストンが往復運動するピストン往復動機関である。内燃機関5は、機関出力軸6から機械的動力を出力する。機関出力軸6は、動力伝達装置10の入力軸11と結合されている。なお、以下の説明において、内燃機関5が機関出力軸6から出力した機械的動力を「機関出力」と記す。内燃機関5が機関出力軸6から出力する機関出力は、後述する制御装置100により制御される。また、内燃機関5は、制御装置100により、所定の停止条件が成立した場合に作動が停止するよう制御され、且つ所定の始動条件が成立した場合に始動するよう制御される。
車両1には、内燃機関5が機関出力軸6から出力した機械的動力を、入力軸11で受けて、駆動輪9に向けて伝達する動力伝達装置10が設けられている。本実施形態において、動力伝達装置10は、内燃機関5からの機械的動力を、作動流体を介してトルクを増大可能なトルクコンバータ20と、トルクコンバータ20からの機械的動力を回転方向を切替えて伝達可能な前後進切替機構30と、内燃機関5と駆動輪9との間における動力伝達を遮断可能な常閉クラッチ60と、内燃機関5からの機械的動力を回転速度を変化させて駆動輪9に向けて伝達可能な変速機構70とを有している。以下にこれらの詳細について、図1及び図2を用いて説明する。図2は、実施形態に係る動力伝達装置の構成を説明する模式図である。
トルクコンバータ20は、ポンプインペラ22とタービンランナ24とステータ25とを有し、ポンプインペラ22からの機械的動力を、作動流体を介してトルクを増大させてタービンランナ24に伝達可能な流体伝動装置である。トルクコンバータ20は、ポンプインペラ22で受けた機械的動力を、作動流体(例えば、ATF:自動変速機用フルード)を介してタービンランナ24に伝達する。ポンプインペラ22からタービンランナ24に流れた作動流体は、ステータ25により流動方向を変えられて、再びポンプインペラ22に流入する。トルクコンバータ20は、ポンプインペラ22からタービンランナ24に伝達されるトルクを増大させることが可能に構成されている。
ポンプインペラ22は、トルクコンバータ20のうち入力側を構成する部材、すなわち動力伝達装置10の入力軸11に結合されており、入力軸11は、ポンプインペラ22と一体に回転する。一方、タービンランナ24は、前後進切替機構30の入力軸31に結合されている。ステータ25は、ワンウェイクラッチ27に結合されており、当該ワンウェイクラッチ27は、動力伝達装置10を構成する部材のうち静止している部材(以下、静止部材と記す)に係合可能に構成されている。なお、静止部材には、動力伝達装置10の外装をなすハウジング等がある。
なお、本実施形態において、トルクコンバータ20は、ポンプインペラ22とタービンランナ24とを連結させることが可能なクラッチであるロックアップクラッチ28を有している。ロックアップクラッチ28が連結状態にある場合、ポンプインペラ22とタービンランナ24は、一体に回転し、内燃機関5からの機関出力は、そのままタービンランナ24から前後進切替機構30に伝達される。
なお、本明細書において、クラッチ(例えば、ロックアップクラッチ28、前進クラッチ40、常閉クラッチ60)を作動させず、駆動側の回転部材と被駆動側の回転部材との間における動力伝達が遮断された状態を「解放状態」と記す。一方、クラッチを作動させて、駆動側の回転部材と被駆動側の回転部材が同一の回転速度で一体に回転する状態を「連結状態」と記す。また、駆動側の回転部材と被駆動側の回転部材が係合して、これら回転部材の間においてトルクの伝達がある状態を「係合状態」と記す。つまり「係合状態」には、上述した「連結状態」が含まれる。
また、本明細書において、ブレーキ(例えば、後進ブレーキ50)を作動させて運動体の回転を止めて静止させた状態を「停止状態」と記す。一方、当該ブレーキを作動させておらず、静止体に対して運動体が自由に回転する状態を「非作動状態」と記す。また、運動体と静止体が接して運動体の回転が制動される状態を「制動状態」と記す。つまり「制動状態」には、上述した「停止状態」が含まれる。
前後進切替機構30は、ダブルピニオン式(デュアルプラネタリー式)の遊星歯車33を有している。遊星歯車33は、入力軸31に結合されたサンギア34と、当該サンギア34と噛み合う内側プラネタリピニオン35と、内側プラネタリピニオン35と噛み合う外側プラネタリピニオン36と、内側プラネタリピニオン35と外側プラネタリピニオン36を回転可能に支持するプラネタリキャリア38と、外側プラネタリピニオン36と噛み合うリングギア39とを有している。プラネタリキャリア38は、後述する常閉クラッチ60の入力軸61に結合されている。
また、前後進切替機構30は、遊星歯車33のうちサンギア34とプラネタリキャリア38を連結可能なクラッチである前進クラッチ40と、遊星歯車33のリングギア39の回転を制動可能なブレーキである後進ブレーキ50とを有している。
前進クラッチ40は、多板式のクラッチとして構成されており、回転中心軸の軸方向に摩擦材41が複数配列されている。前進クラッチ40は、摩擦材41に生じる摩擦力により、駆動側の回転部材と被駆動側の回転部材が係合して係合状態となる、いわゆる「摩擦クラッチ」である。前進クラッチ40においては、サンギア34とプラネタリキャリア38のうち、一方が駆動側の回転部材となり、他方が被駆動側の回転部材となる。つまり、前進クラッチ40が連結状態に操作されると、サンギア34とプラネタリキャリア38は、連結されて一体に回転する。前進クラッチ40は、解放状態に操作されると、サンギア34とプラネタリキャリア38との間における機械的動力の伝達が遮断されて、サンギア34とプラネタリキャリア38は、それぞれ別個に回転することができる。
なお、前進クラッチ40は、電磁作動によって係合状態となる「電磁クラッチ」として構成されており、通電することにより磁界を生じさせる電磁石44と、電磁石44が生じさせた磁界に引き付けられて摩擦材41を押す部材(以下、押し部材と記す)46と、押し部材46を摩擦材41が係合しない向きに付勢する付勢部材(以下、リターンスプリングと記す)48を有している。電磁石44を通電させると、押し部材46が、リターンスプリング48の付勢力に抗して摩擦材41を押し、回転中心軸の軸方向に隣り合う摩擦材41の間に摩擦力が生じる。このようにして、前進クラッチ40は、サンギア34とプラネタリキャリア38が完全に係合する連結状態となる。一方、電磁石44に通電していない場合、押し部材46は、リターンスプリング48の付勢力により、摩擦材41を押す向きとは逆向きに付勢されて移動し、前進クラッチ40は、解放状態となる。電磁石44への通電の有無、すなわち前進クラッチ40の連結状態と解放状態との切替操作は、制御装置100により制御される。
後進ブレーキ50は、多板式のブレーキとして構成されており、回転中心軸の軸方向に摩擦材51が複数配列されている。後進ブレーキ50は、摩擦材51に生じる摩擦力により、運動体であるリングギア39と静止部材(例えば、動力伝達装置10のハウジング)が係合して、運動体の回転が制動される制動状態となる、いわゆる「摩擦ブレーキ」である。
なお、後進ブレーキ50は、電磁作動によって制動状態となる「電磁クラッチ」として構成されており、通電することにより磁界を生じさせる電磁石53と、電磁石53が生じさせた磁界に引き付けられて摩擦材51を押す部材(以下、押し部材と記す)55と、押し部材55を摩擦材51が係合しない向きに付勢する付勢部材(以下、リターンスプリングと記す)57とを有している。電磁石53を通電させると、押し部材55が、リターンスプリング57の付勢力に抗して摩擦材51を押し、回転中心軸の軸方向に隣り合う摩擦材51の間に摩擦力が生じる。このようにして、後進ブレーキ50は、リングギア39の回転が完全に止まる停止状態となる。一方、電磁石53に通電していない場合、押し部材55は、リターンスプリング57の付勢力により、摩擦材51を押す向きとは逆向きに付勢されて移動し、後進ブレーキ50は、非作動状態となる。電磁石53への通電の有無、すなわち後進ブレーキ50の停止状態と非作動状態との切替操作は、制御装置100により制御される。
以上のように構成された前後進切替機構30は、前進クラッチ40が係合状態(連結状態含む)に操作されると共に後進ブレーキ50が解放状態に操作されることにより、サンギア34とプラネタリキャリア38とリングギア39が一体に回転する。これにより、前後進切替機構30は、入力軸31で受けた機関出力を、回転方向及び回転速度を変化させることなく、常閉クラッチ60の入力軸61に伝達することが可能となっている。このような前後進切替機構30の作動を、以下に「前進作動状態」と記す。
一方、前進クラッチ40が解放状態に操作されると共に後進ブレーキ50が停止状態に操作されることにより、プラネタリキャリア38は、サンギア34の回転方向とは逆向きに回転する。これにより、前後進切替機構30は、入力軸31で受けた機関出力を、回転方向を逆向きに変化させて、常閉クラッチ60の入力軸61に伝達することが可能となっている。このような前後進切替機構30の作動を、以下に「後進作動状態」と記す。
また、前進クラッチ40が解放状態に操作されると共に後進ブレーキ50が解放状態に操作されることにより、サンギア34と、プラネタリキャリア38との間における機械的動力の伝達が遮断される。これにより、前後進切替機構30は、入力軸31で受けた機関出力を、常閉クラッチ60の入力軸61に伝達することがなくなる。このような前後進切替機構30の作動を、以下に「ニュートラル作動状態」と記す。
以上のように、前後進切替機構30は、前進クラッチ40の連結状態/解放状態と後進ブレーキ50の停止状態/非作動状態が制御されることにより、内燃機関5の機関出力軸6からの機械的動力(機関出力)を、回転速度及び回転方向を変化させることなく常閉クラッチ60に伝達する前進作動状態と、機関出力を回転方向を逆向きに変化させて常閉クラッチ60に伝達する後進作動状態と、機関出力を、常閉クラッチ60に伝達しないニュートラル作動状態を切替え可能に構成されている。前進クラッチ40の連結状態/解放状態と、後進ブレーキ50の停止状態/非作動状態は、制御装置100により協調して制御される。
常閉クラッチ60は、その係合状態と解放状態とを切替える動作(以下、「係合/解放動作」と記す)を操作する力が作用していないときに解放状態となるよう構成されたクラッチ、いわゆるノーマルクローズ(normally closed)式のクラッチとして構成されている。常閉クラッチ60の詳細について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る動力伝達装置の構成を示す模式図であり、常閉クラッチの詳細を説明するための図である。
なお、以下の説明において、常閉クラッチ60の回転中心軸の軸方向のうち、隣り合う摩擦材62を係合させる向き(軸方向内側)を「軸方向係合側」と記して、図に矢印Eで示す。一方、回転中心軸の軸方向のうち軸方向係合側とは逆向き、すなわち隣り合う摩擦材62を係合させない向き(軸方向外側)を「軸方向解放側」と記して、図に矢印Dで示す。
図2に示すように、常閉クラッチ60は、多板式のクラッチとして構成されており、回転中心軸の軸方向に摩擦材62が複数配列されている。常閉クラッチ60は、摩擦材62に生じる摩擦力により、駆動側の回転部材と被駆動側の回転部材が係合して係合状態となる、いわゆる「摩擦クラッチ」である。常閉クラッチ60においては、その入力軸61と、変速機構70の入力軸71のうち、一方が駆動側の回転部材となり、他方が被駆動側の回転部材となる。つまり、常閉クラッチ60が連結状態に操作されると、その入力軸61と変速機構70の入力軸71が連結されて一体に回転する。常閉クラッチ60は、解放状態に操作されると、その入力軸61と変速機構70の入力軸71との間における機械的動力の伝達が遮断される。
常閉クラッチ60は、油圧を受けて作動し、回転中心軸の軸方向係合側に移動することにより、摩擦材62を押すことが可能な部材(以下、油圧ピストン部材と記す)64と、隣り合う摩擦材62を係合させる向きに(軸方向係合側に)油圧ピストン部材64を付勢する付勢部材(以下、単に「スプリング」と記す)66とを有している。
常閉クラッチ60のスプリング66は、回転中心軸の軸方向係合側に、すなわち常閉クラッチ60が係合状態となる向きに、油圧ピストン部材64を付勢している。油圧ピストン部材64は、スプリング66により油圧ピストン部材64に作用する力(以下、付勢力と記す)を受けて、軸方向係合側に移動して摩擦材62を押す。スプリング66の付勢力は、内燃機関5が非作動状態にあるため油圧供給装置110が作動しておらず、油圧供給装置110から常閉クラッチ60に油圧が供給されていない状態において、常閉クラッチ60において「滑り」が生じつつも、入力軸61から変速機構70の入力軸71に機械的動力を伝達可能に設定されている。
なお、常閉クラッチ60の「滑り」とは、常閉クラッチ60の入力軸61と変速機構70の入力軸71との間に回転速度差が生じて、入力軸61からの機械的動力の一部が、摩擦材62において熱として放散されて、残りの機械的動力が変速機構70の入力軸71に伝達されるような状態を意味している。常閉クラッチ60は、油圧供給装置110から油圧の供給を受ける。
常閉クラッチ60は、油圧ピストン部材64を軸方向係合側に移動させるための油圧室(以下、係合側油圧室と記す)68と、油圧ピストン部材64を軸方向解放側に移動させるための油圧室(以下、解放側油圧室と記す)67とを有している。解放側油圧室67と係合側油圧室68は、油圧供給装置110から油圧の供給を受ける。
油圧供給装置110は、図1に示すように、機関出力軸6からの機械的動力を受けて作動可能なオイルポンプ120を含んでいる。オイルポンプ120は、機関出力軸6からの機械的動力を、トルクコンバータ20のポンプインペラ22を介して受けて作動し、油圧を発生させる。また、オイルポンプ120は、駆動輪9からの機械的動力を受けて作動して、油圧を発生させることも可能に構成されている。本実施形態の動力伝達装置10においては、図2に二点鎖線矢印Gで示すように、油圧供給装置110は、駆動輪9からの機械的動力の一部を、変速機構70の入力軸71から取り出して、当該機械的動力を受けて作動することが可能に構成されている。なお、図2に二点鎖線矢印Fで示すように、油圧供給装置110は、機関出力軸6からの機械的動力の一部を、動力伝達装置10の入力軸11から取り出して、当該機械的動力を受けて作動することが可能に構成されている。つまり、油圧供給装置110は、駆動輪9からの機械的動力を受けて作動可能であり且つ機関出力軸6からの機械的動力を受けて作動可能なオイルポンプ120を含み、機関出力軸6からの機械的動力(二点鎖線矢印F)と、駆動輪9からの機械的動力(二点鎖線矢印G)とのうち、少なくとも一方からの機械的動力を受けて作動して、常閉クラッチ60に油圧を供給することが可能に構成されている。
ここで、本実施形態の油圧供給装置110の詳細について図3を用いて説明する。図3は、油圧供給装置と常閉クラッチの構成を示す模式図であり、油圧供給装置が有するオイルポンプの作動を説明する図である。図3に示すように、油圧供給装置110は、機械的動力を受けて作動し、油圧を発生させて常閉クラッチ60に向けてオイルを吐出するオイルポンプ120を有している。オイルポンプ120は、機関出力軸6に連動して回転する部材である第1回転部材121と、駆動輪9に連動して回転する部材である第2回転部材122が接続されている。オイルポンプ120は、第1回転部材121及び第2回転部材122のうち、少なくとも一方から機械的動力を受けて作動して油圧を発生させる、いわゆるツインドライブ式のオイルポンプである。
すなわち、第1回転部材121と第2回転部材122との双方が回転している場合と、第1回転部材121が回転しており、且つ第2回転部材122が回転していない場合と、第1回転部材121が回転しておらず、且つ第2回転部材122が回転している場合に、油圧供給装置110は作動して油圧を発生させる。本実施形態において、第1回転部材121は、図2に示すように、動力伝達装置10のうち機関出力軸6と結合されている入力軸11に連動して回転するよう構成されている。一方、第2回転部材122は、変速機構70のうち、駆動輪9と係合している変速機構70の入力軸71に連動して回転するよう構成されている。オイルポンプ120は、第1回転部材121及び第2回転部材122のうち、いずれか一方が回転することにより作動して、常閉クラッチ60の解放側油圧室67及び係合側油圧室68に向けてオイルを吐出する。機関出力軸6と駆動輪9のうち少なくとも一方が回転していれば、油圧供給装置110は、オイルポンプ120から常閉クラッチ60にオイルを供給することができる。
以上のように構成された油圧供給装置110は、図2に矢印Aで示すように、油圧供給装置110が解放側油圧室67に油圧を供給すると、油圧ピストン部材64は、解放側油圧室67の油圧を受けて、軸方向解放側に操作される。このとき、油圧ピストン部材64は、スプリング66の付勢力に抗して軸方向解放側に移動する。解放側油圧室67に供給される油圧を制御することにより、常閉クラッチ60を解放状態にすることが可能となっている。
一方、図2に矢印Cで示すように、係合側油圧室68に油圧を供給すると、油圧ピストン部材64は、係合側油圧室68の油圧を受け、軸方向係合側に操作されて、摩擦材62を押す。常閉クラッチ60は、解放側油圧室67及び係合側油圧室68に油圧が作用していない場合であっても、スプリング66の付勢力が作用することにより係合状態となるよう構成されている。係合側油圧室68が油圧の供給を受けることにより、常閉クラッチ60は、入力軸61と変速機構70の入力軸71との間に回転速度差が生じない、すなわち当該常閉クラッチ60において滑りが生じない「連結状態」にすることができる。
以上のように構成された油圧供給装置110は、機関出力軸6が回転してない場合であっても、駆動輪9が回転していれば、駆動輪9からの機械的動力を受けて作動して、常閉クラッチ60に油圧を供給することができる。また、駆動輪9が回転していない場合であっても、機関出力軸6が回転していれば、機関出力軸6からの機械的動力を受けて作動して、常閉クラッチ60に油圧を供給することができる。
以上のように、常閉クラッチ60は、油圧供給装置110から油圧の供給を受けることにより、係合/解放動作を行うことが可能となっている。一方、油圧供給装置110から油圧の供給を受けていない場合、常閉クラッチ60は、係合/解放動作を行うことができなくなっている。しかし、常閉クラッチ60は、油圧供給装置110から解放側油圧室67及び係合側油圧室68に油圧の供給を受けておらず、その係合/解放動作を操作する操作力が作用していない場合であっても、スプリング66による付勢力が油圧ピストン部材64に作用することにより、係合状態となるように構成されている。これにより、後述する内燃機関5を始動した直後の車両1の発進に備えている。常閉クラッチ60のうち出力側、すなわち駆動輪9側には、変速機構70の入力軸71が結合されている。
変速機構70は、変速比を連続的に変化させることが可能な連速可変変速機(いわゆるCVT)として構成されている。変速機構70は、常閉クラッチ60からの機械的動力を受ける入力軸71と、入力軸71と同軸に設けられ、当該入力軸71と同期回転する入力側プーリ72と、入力軸71に対して所定の間隔をあけて平行に設けられ、減速機構80に機械的動力を出力する出力軸73と、出力軸73と同軸に設けられ、当該出力軸73と同期回転する出力側プーリ74と、入力側プーリ72及び出力側プーリ74に巻き掛けられて、入力軸71からの機械的動力を出力軸73に伝達する動力伝達部材75(図に破線で示す)とを有している。なお、動力伝達部材75には、金属製のベルトやチェーン等を用いることができる。
変速機構70は、図示しない油圧アクチュエータにより駆動されて、入力側プーリ72のプーリ幅を変化させることで、当該入力側プーリ72に巻き掛けられた動力伝達部材75がなす「巻き掛け径」を変化させることが可能に構成されている。同様に、変速機構70は、出力側プーリ74のプーリ幅を変化させることで、当該出力側プーリ74に巻き掛けられた動力伝達部材75がなす「巻き掛け径」を変化させることが可能に構成されている。このような変速機構70は、制御装置100により制御されて、入力側プーリ72のプーリ幅と、出力側プーリ74のプーリ幅を変化させることで、それぞれのプーリ72,74において、動力伝達部材75の巻き掛け径を変化させる。出力側プーリ74における動力伝達部材75の巻き掛け径Roと入力側プーリ72における動力伝達部材75の巻き掛け径Riとの比率(Ro/Ri)が、入力軸71の回転速度Niと出力軸73の回転速度Noの比率である変速比(Ni/No)となる。変速機構70は、入力側プーリ72と出力側プーリ74のうち少なくとも一方のプーリ幅を連続的に変化させることにより、変速比(Ni/No)を連続的に変化させることが可能となっている。
変速機構70が入力軸71で受けた機械的動力は、図1に示すように、入力側プーリ72と出力側プーリ74との間で、回転速度を変化させて(すなわちトルクを変化させて)減速機構80に伝達される。変速機構70から減速機構80に伝達された機械的動力は、差動装置90により左右の駆動軸に分配されて駆動輪9に伝達される。駆動輪9と車両1が走行する路面との間には、車両1を駆動する駆動力[N]が生じる。このようにして、変速機構70は、常閉クラッチ60からの機械的動力を、回転速度を変化させて駆動輪9に向けて伝達する。変速機構70の出力軸73及び入力軸71は、駆動輪9に連動して回転する。
以上のように構成された動力伝達装置10において、常閉クラッチ60は、解放状態に操作されることにより、機関出力軸6と駆動輪9との間における機械的動力の伝達(以下、単に「動力伝達」と記す)を遮断することが可能に構成されている。また、常閉クラッチ60は、油圧供給装置110からの油圧を受けて、当該常閉クラッチ60の係合/解放動作を操作する力(以下、操作力と記す)が作用することにより解放状態に操作されるよう構成されている。また、常閉クラッチ60は、油圧供給装置110から油圧の供給を受けておらず、当該常閉クラッチ60の係合/解放動作を操作する操作力が作用していない場合であっても、付勢部材であるスプリング66による付勢力が油圧ピストン部材64に作用することにより、油圧ピストン部材64が摩擦材62を押す向きに付勢されて、係合状態(連結状態を含む)となるよう構成されている。
動力伝達装置10は、原動機としての内燃機関5と結合されて車両1に搭載される。車両1は、内燃機関5における燃料消費を抑制するため、アイドリング状態で作動している内燃機関5を、所定の停止条件が成立した場合に自動的にその作動を停止させる機能(以下、アイドリングストップ機能と記す)を備えている。車両1には、アイドリングストップ機能を実現するために、内燃機関5及び動力伝達装置10を協調して制御する制御手段として、車両1用の電子制御装置(単に「制御装置」と記す)100が設けられている。
また、車両1には、運転者により操作可能なシフトレバー(図示せず)が設けられており、運転者は、所望の走行レンジを選択することが可能となっている。走行レンジには、車両1の前進走行を可能にするドライブレンジ(以下、Dレンジと記す)と、原動機(内燃機関5)の機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断するニュートラルレンジ(以下、Nレンジと記す)と、車両1の後進走行を可能にするリバースレンジ(以下、Rレンジと記す)が含まれている。加えて、走行レンジには、駐車(パーキング)時等、車両1が停止している間(以下、単に「車両停止中」と記す)に選択され、動力伝達装置10において駆動輪9と連動して回転する歯車(図示せず)を機械的にロックして、駆動輪9を回転しない状態にするパーキングレンジ(以下、Pレンジと記す)が含まれている。
制御装置100は、演算処理装置としてCPU、主記憶装置としてのRAM、補助記憶装置としてのROM等(図示せず)を有している。上述した各種の制御対象を制御する制御処理を示したプログラム、及び当該制御処理プログラムにおいて予め設定されている定数(以下、制御定数と記す)は、制御装置100のROMに予め記憶されている。なお、上述の制御処理においてRAMに設定される変数を「制御変数」と記す。
また、制御装置100は、図2に示すように、駆動輪9の回転速度を検出可能な車輪速センサ102から、駆動輪9の回転速度に係る信号を受けており、車両1の走行速度(以下、車速と記す)を制御変数として推定している。また、制御装置100は、アクセルペダルの操作位置を検出するアクセルペダセンサ104から、アクセルペダルの操作位置に係る信号を受けており、アクセルペダルの操作量(以下、アクセル操作量と記す)を制御変数として推定している。また、制御装置100は、ブレーキペダルの操作を検出するブレーキペダルセンサ106から、ブレーキペダルの操作の有無に係る信号を受けており、ブレーキペダルの操作の有無を、制御変数(制御フラグ)として検出している。
また、制御装置100は、運転者により選択された走行レンジを検出するシフトポジションセンサ108から、当該走行レンジに係る信号を受けており、運転者により選択された走行レンジを制御変数(制御フラグ)として検出している。
制御装置100は、車速、アクセル操作量、ブレーキペダルの操作の有無、運転者により選択された走行レンジ等を制御変数として取得し、所定の停止条件が成立した場合には、アイドリングストップ機能により、内燃機関5が作動を停止するよう制御する。なお、アイドリングストップ機能により、内燃機関5の作動を停止させている状態を、以下に「非作動状態」と記す。これに対して、内燃機関5が作動している状態を、単に「作動状態」と記す。停止条件には、例えば、車速がゼロであり、且つブレーキペダルが操作されている(踏み込まれている)という条件がある。また、制御装置100は、車両1が走行している間(以下、単に「車両走行中」と記す)であっても、アクセルペダルが操作されていない、且つブレーキペダルが操作されている等の条件により、上述の停止条件が成立した場合には、内燃機関5が作動を停止するよう制御し、内燃機関5を非作動状態にする。
一方、制御装置100は、アイドリングストップ機能により内燃機関5が非作動状態となった場合において、車速、アクセル操作量、ブレーキペダルの操作の有無、走行レンジ等を制御変数として取得し、所定の始動条件が成立した場合には、非作動状態にある内燃機関5が始動するように制御して、内燃機関5を作動状態にする。始動条件には、例えば、ブレーキペダルが操作されておらず、且つアクセルペダルが操作されている(アクセルペダルが踏み込まれた)という条件がある。このような場合、制御装置100は、内燃機関5を始動させて、機関出力軸6から再び機械的動力を出力する。以上のようにして、制御装置100は、所定の停止条件が成立した場合に、内燃機関が作動を停止するよう制御し、且つ所定の始動条件が成立した場合に、内燃機関が始動するよう制御する。
ところで、上述のような車両1においては、車両走行中において、アイドリングストップ機能により内燃機関5を非作動状態にしてから、例えば、減速中など車両走行中に内燃機関5を始動させた直後、機関出力軸6からの機械的動力を駆動輪9に伝達して、再び車両1を加速させたいという要望がある。機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断可能な常閉クラッチ60は、油圧供給装置110から油圧の供給を受けて作動する。内燃機関5が非作動状態にある場合、油圧供給装置110は、機関出力軸6からの機械的動力(図2の二点鎖線矢印F参照)を受けて作動することができない。しかし、車両走行中において内燃機関5が非作動状態にあり、機関出力軸6が回転していない場合であっても、油圧供給装置110は、回転している駆動輪9から機械的動力(図2の二点鎖線矢印G参照)の一部を受けて作動して、常閉クラッチ60に油圧を供給することができる。
制御装置100は、車両走行中においてアイドリングストップ機能により内燃機関5の作動を停止させる場合には、油圧供給装置110が常閉クラッチ60の解放側油圧室67に油圧を供給するよう制御することにより、常閉クラッチ60を解放状態にして、機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断することが可能となっている。本実施形態の動力伝達装置10においては、アイドリングストップ機能により車両走行中において内燃機関5が非作動状態となった場合には、油圧供給装置110が駆動輪9からの機械的動力を受けて作動して常閉クラッチ60に油圧を供給し続けることにより、常閉クラッチ60の解放状態を維持することができる。
以上のように構成された車両1において、制御装置100は、アイドリングストップ機能を実現するための制御の一部として、前後進切替機構30の前進作動状態、後進作動状態、及びニュートラル作動状態を切替える制御と、常閉クラッチ60の解放状態/係合状態とを切替える制御(以下、単に「前後進切替機構と常閉クラッチの協調制御」と記す)を実行する。以下に、前後進切替機構と常閉クラッチの協調制御の詳細について、図4〜図7を用いて説明する。なお、「前後進切替機構と常閉クラッチの協調制御」のうち、内燃機関5が作動状態にある場合に実行されるサブルーチンを、以下に「機関作動時制御ルーチン」と記す。一方、内燃機関5が非作動状態にある場合であって車両走行中に実行されるサブルーチンを、以下に「機関非作動時走行中制御ルーチン」と記す。また、内燃機関5が非作動状態にある場合であって、車両停止中(いわゆる停車中)に実行されるサブルーチンを、以下に「機関非作動時停車中制御ルーチン」と記す。図4は、車両用制御装置が実行する前後進切替機構と常閉クラッチの協調制御を示すフローチャートである。図5は、前後進切替機構と常閉クラッチの協調制御において実行される機関作動時制御ルーチンを示すフローチャートである。図6は、前後進切替機構と常閉クラッチの協調制御において実行される機関非作動時走行中制御を示すフローチャートである。図7は、前後進切替機構と常閉クラッチの協調制御において実行される機関非作動時停車中制御を示すフローチャートである。
図4に示すように、制御装置100は、ステップS02において、各種の制御変数を取得する。この制御変数には、運転者により選択されている走行レンジ、アクセル操作量、ブレーキペダルの操作の有無、車速等が含まれている。
そして、ステップS04において、制御装置100は、内燃機関5が作動している状態(作動状態)にあるか、アイドリングストップ機能により内燃機関5が作動を停止している状態(非作動状態)にあるかを判定する。内燃機関5が作動状態にある(S04,Yes)場合、制御装置100は、ステップS100において、図5に示す機関作動時制御ルーチンを実行する。
[機関作動時制御ルーチン]
図5に示すように、機関作動時制御ルーチンのステップS102において、制御装置100は、運転者により走行レンジをDレンジにする操作がされたか否かを判定する。Dレンジにする操作がされた(S102,Yes)場合、制御装置100は、油圧供給装置110を制御して、常閉クラッチ60に解放動作を行わせる(S104)。
そして、ステップS106において、制御装置100は、常閉クラッチ60が解放状態になったが否かを判定する。常閉クラッチ60が解放状態になっていない(S106,No)場合には、ステップS104において解放動作を継続させる。このようにして、制御装置100は、常閉クラッチ60が解放状態となるよう制御している。常閉クラッチ60が解放状態になった(S106,Yes)場合には、ステップS108に進む。
そして、制御装置100は、前進クラッチ40を連結状態にすると共に後進ブレーキ50を非作動状態にすることにより、前後進切替機構30を前進作動状態にする(S108)。その後、制御装置100は、常閉クラッチ60を係合状態にする(S110)。
このように、内燃機関5が作動しており、且つDレンジが選択されている場合、制御装置100は、常閉クラッチ60を解放状態にして機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断して、前後進切替機構30を前進作動状態にした後、常閉クラッチ60を係合状態にする。これにより、動力伝達装置10は、機関出力軸6からの機械的動力を、前後進切替機構30において回転方向を変えることなく駆動輪9に伝達して、車両1を前進させることができる。
一方、ステップS102において、走行レンジをDレンジにする操作がされていない場合、制御装置100は、ステップS120において、運転者により走行レンジをRレンジにする操作がされたか否かを判定する。Rレンジにする操作がされた(S120,Yes)場合、制御装置100は、油圧供給装置110を制御して、常閉クラッチ60に解放動作を行わせる(S122)。
そして、ステップS124において、制御装置100は、常閉クラッチ60が解放状態になったか否かを判定する。常閉クラッチ60が解放状態になっていない(S124,No)場合には、ステップS122において解放動作を継続させる。このようにして、制御装置100は、常閉クラッチ60が解放状態となるよう制御している。常閉クラッチ60が解放状態になった(S124,Yes)場合には、ステップS126に進む。
そして、制御装置100は、前進クラッチ40を解放状態にすると共に後進ブレーキ50を停止状態にすることにより、前後進切替機構30を後進作動状態にする(S126)。その後、制御装置100は、常閉クラッチ60を係合状態にする(S128)。
このように、内燃機関5が作動しており、且つRレンジが選択されている場合、制御装置100は、常閉クラッチ60を解放状態にして機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断して、前後進切替機構30を後進作動状態にした後、常閉クラッチ60を係合状態にする。これにより、動力伝達装置10は、機関出力軸6からの機械的動力を、前後進切替機構30において回転方向を逆向きに変えて、駆動輪9に伝達して、車両1を後進させることができる。
一方、ステップS120において、走行レンジをRレンジにする操作がされていない場合、すなわち走行レンジがNレンジ又はPレンジである場合、制御装置100は、前進クラッチ40を解放状態にすると共に後進ブレーキ50を非作動状態にすることにより、前後進切替機構30をニュートラル作動状態に制御する(S130)。このとき、制御装置100は、常閉クラッチ60を解放状態にする(S132)。
このように、内燃機関5が作動しており、且つNレンジ又はPレンジが選択されている場合、制御装置100は、前後進切替機構30をニュートラル作動状態にすると共に、常閉クラッチ60を解放状態にする。このような状態にしておくことで、その後、運転者によりDレンジが選択された場合には、前進クラッチ40を連結状態にするだけで、前後進切替機構30を前進作動状態にすることができ、車両1の発進(前進)に備えることができる。また、運転者によりRレンジが選択された場合には、後進ブレーキ50を停止状態にするだけで、前後進切替機構30を後進作動状態にすることができ、車両1の発進(後進)に備えることができる。
以上、図5に示す機関作動時制御ルーチン(S102〜S132)について説明した。内燃機関5の作動状態において、Dレンジが選択されている場合には、前後進切替機構30を前進作動状態にすると共に常閉クラッチ60を係合状態にして、車両1の発進(前進)に備えている。また、Rレンジが選択されている場合には、前後進切替機構30を後進作動状態にすると共に常閉クラッチ60を係合状態にして、車両1の発進(後進)に備えている。この状態から、内燃機関5が機関出力軸6から出力する機械的動力(機関出力)を増大させるだけで、車両1を前進又は後進させることができる。一方、Nレンジ又はPレンジが選択されている場合には、前後進切替機構30をニュートラル作動状態にすると共に常閉クラッチ60を解放状態にしている。その後においてDレンジが選択された場合に、前後進切替機構30を前進作動状態に切替えることや、Rレンジが選択された場合に前後進切替機構30を後進作動状態に切替えることを容易にしている。
図4に戻り、ステップS04において、内燃機関5が作動状態ではない(No)と判定された場合、例えば、アイドリングストップ機能により内燃機関5が非作動状態となっている場合、制御装置100は、現在において車両1が走行しているか否か、すなわち車両走行中であるか否かを判定する(S06)。なお、車両走行中であるか否かの判定は、車速が、所定の判定閾値以下であるか否かを判定することにより実現することができる。アイドリングストップ機能により内燃機関5が非作動状態であり、且つ車両走行中である(S06,Yes)場合、制御装置100は、ステップS200において、図6に示す機関非作動時走行中制御ルーチンを実行する。
[機関非作動時走行中制御ルーチン]
図6に示すように、機関非作動時走行中制御ルーチンのステップS202において、制御装置100は、常閉クラッチ60に解放動作を行わせて解放状態にする。常閉クラッチ60において機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達が遮断される。これにより、車両走行中において、非作動状態にある内燃機関5の機関出力軸6が、駆動輪9に連動して回転すること防止する。
そして、ステップS204において、制御装置100は、運転者により走行レンジをDレンジにする操作がなされたか否かを判定する。Dレンジにする操作がされた(S204,Yes)場合、制御装置100は、前進クラッチ40を連結状態にすると共に後進ブレーキ50を非作動状態にすることにより、前後進切替機構30を前進作動状態にする(S206)。
このように、車両走行中において内燃機関5がアイドリングストップ機能により作動しておらず、且つDレンジが選択されている場合、制御装置100は、常閉クラッチ60を解放状態にして機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断すると共に、前後進切替機構30を前進作動状態にする。これにより、車両走行中において、機関出力軸6の回転駆動、すなわち内燃機関5のクランキングを行って、非作動状態にある内燃機関5を再び始動させることができる。内燃機関5が始動した後、解放状態にある常閉クラッチ60を再び係合状態にすることにより、機関出力軸6からの機械的動力を、前後進切替機構30において回転方向を変化させることなく駆動輪9に向けて伝達して、車両1を前進させることができる。
一方、ステップS204において、Dレンジにする操作がされていない(No)場合、制御装置100は、ステップS210において、運転者により走行レンジをRレンジにする操作がされたか否かを判定する。Rレンジにする操作がされた(S210,Yes)場合、制御装置100は、前進クラッチ40を解放状態にすると共に後進ブレーキ50を停止状態にすることにより、前後進切替機構30を後進作動状態にする(S212)。
このように、車両走行中において内燃機関5がアイドリングストップ機能により作動しておらず、且つRレンジが選択されている場合、制御装置100は、常閉クラッチ60を解放状態にして機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断すると共に、前後進切替機構30を後進作動状態にする。これにより、車両走行中において、機関出力軸6の回転駆動、すなわち内燃機関5のクランキングを行って、非作動状態にある内燃機関5を再び始動させることができる。内燃機関5が始動した後、解放状態にある常閉クラッチ60を再び係合状態にすることにより、機関出力軸6からの機械的動力を、前後進切替機構30において回転方向を逆向きに変化させて駆動輪9に向けて伝達して、車両1を後進させることができる。
一方、ステップS210において、走行レンジをRレンジにする操作がされていないと判定された場合、すなわち車両走行中において走行レンジがNレンジである場合、制御装置100は、常閉クラッチ60を、スプリング66の付勢力の作用により係合状態にする(S220)。すなわち、制御装置100は、図2に示すように、油圧供給装置110から常閉クラッチ60の解放側油圧室67及び係合側油圧室68に油圧を供給させることなく、スプリング66の付勢力の作用により常閉クラッチ60を係合状態にする。そして、制御装置100は、前進クラッチ40を解放状態にすると共に後進ブレーキ50を非作動状態にすることにより、前後進切替機構30をニュートラル作動状態に制御する(S222)。
このように、車両走行中において、内燃機関5がアイドリングストップ機能により作動しておらず、且つNレンジが選択されている場合、制御装置100は、常閉クラッチ60をスプリング66の付勢力の作用により係合状態にすると共に、前後進切替機構30をニュートラル作動状態にする。これにより、機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断して、非作動状態にある内燃機関5の機関出力軸6が、駆動輪9に連動して回転することを防止することができる。このとき、常閉クラッチ60は、スプリング66の付勢力の作用により係合状態となるため、油圧供給装置110から当該常閉クラッチ60に油圧を供給する必要がなくなる。
以上、図6に示す機関非作動時走行中制御ルーチン(S202〜S222)について説明した。内燃機関5が非作動状態であり、且つ車両走行中である場合において、Dレンジが選択されている場合には、常閉クラッチ60を解放状態にした後、前後進切替機構30を前進作動状態にして、車両走行中の内燃機関5の始動に備えている。また、Rレンジが選択されている場合には、常閉クラッチ60を解放状態にした後、前後進切替機構30を後進作動状態にして、車両走行中の内燃機関5の始動に備えている。この状態から、内燃機関5を始動させた後、常閉クラッチ60を係合状態にして、さらに機関出力軸6から出力する機械的動力を増大させるだけで、車両1を前進又は後進させることができる。一方、Nレンジが選択されている場合には、常閉クラッチ60をスプリング66の付勢力の作用により係合状態にすると共に、前後進切替機構30をニュートラル作動状態にする。これにより、車両走行中に内燃機関5が非作動状態にある場合に、常閉クラッチ60に対して油圧を供給することなく、機関出力軸6の連れ回りを防止することができる。
図4に戻り、ステップS06において、車両走行中ではない(No)と判定された場合、すなわち、アイドリングストップ機能により内燃機関5が非作動状態であり、且つ車両停止中(いわゆる停車中)である(S06,No)場合、制御装置100は、ステップS300において、図7に示す機関非作動時停車中制御ルーチンを実行する。
[機関非作動時停車中制御ルーチン]
図7に示すように、機関非作動時停車中制御ルーチンのステップS302において、制御装置100は、スプリング66の付勢力の作用により常閉クラッチ60を係合状態にする。これにより、油圧供給装置110が、常閉クラッチ60に油圧を供給する必要がなくなる。
そして、ステップS304において、制御装置100は、運転者により走行レンジをDレンジにする操作がなされたか否かを判定する。Dレンジにする操作がなされた(S304,Yes)場合、制御装置100は、前進クラッチ40を連結状態にすると共に後進ブレーキ50を非作動状態にすることにより、前後進切替機構30を前進作動状態にする(S306)。
このように、車両停止中において内燃機関5がアイドリングストップ機能により作動しておらず、且つDレンジが選択されている場合、制御装置100は、常閉クラッチ60を係合状態にし、且つ前後進切替機構30を前進作動状態にする。これにより、車両停止中に非作動状態にある内燃機関5を始動させた後、油圧供給装置110が常閉クラッチ60に十分な油圧を供給できなくても、機関出力軸6から出力した機械的動力を、前後進切替機構30において回転方向を変化させることなく駆動輪9に伝達して、車両1を発進(前進)させることができる。
一方、ステップS304において、Dレンジにする操作がされていない(No)場合、制御装置100は、ステップS310において、運転者により走行レンジをRレンジにする操作がされたか否かを判定する。Rレンジにする操作がされた(S310,Yes)場合、制御装置100は、前進クラッチ40を解放状態にすると共に後進ブレーキ50を停止状態にすることにより、前進クラッチ40を後進作動状態にする(S312)。
このように、車両停止中において内燃機関5がアイドリングストップ機能により作動しておらず、且つRレンジが選択されている場合、制御装置100は、常閉クラッチ60を係合状態にし、且つ前後進切替機構30を後進作動状態にする。これにより、車両停止中に非作動状態にある内燃機関5を始動させた後、油圧供給装置110が常閉クラッチ60に十分な油圧を供給できなくても、機関出力軸6から出力した機械的動力を、前後進切替機構30において回転方向を逆向きに変化させて駆動輪9に伝達して、車両1を発進(後進)させることができる。
一方、ステップS310において、走行レンジをRレンジにする操作がされていないと判定された場合、すなわち車両停止中において走行レンジがNレンジ(又はPレンジ)である場合、制御装置100は、前進クラッチ40を解放状態にすると共に後進ブレーキ50を非作動状態にすることにより、前後進切替機構30をニュートラル作動状態にする(S320)。
このように、車両停止中において、内燃機関5がアイドリングストップ機能により作動しておらず、且つNレンジが選択されている場合、制御装置100は、常閉クラッチ60をスプリング66の付勢力の作用により係合状態にすると共に、前後進切替機構30をニュートラル作動状態にする。これにより、常閉クラッチ60は、スプリング66の付勢力の作用により係合状態となっているため、車両停止中において油圧供給装置110から当該常閉クラッチ60に油圧を供給する必要がなくなる。内燃機関5を始動させるときに、前後進切替機構30を前進作動状態にする又は後進作動状態にするだけで、車両1を発進させることができる。
以上、図7に示す機関非作動時停車中制御ルーチン(S302〜S320)について説明した。内燃機関5が非作動状態であり、且つ車両停止中である場合において、Dレンジが選択されている場合には、常閉クラッチ60を、スプリング66の付勢力の作用により係合状態にした後、前後進切替機構30を前進作動状態にして、車両走行中の内燃機関5の始動に備えている。また、Rレンジが選択されている場合には、前後進切替機構30を後進作動状態にして、車両走行中の内燃機関5の始動に備えている。この状態から、内燃機関5を始動させた後、機関出力軸6から出力する機械的動力を増大させるだけで、車両1を発進させることができる。一方、Nレンジが選択されている場合には、前後進切替機構30をニュートラル作動状態にしている。運転者によりDレンジが選択された場合に、前進クラッチ40を連結状態にするだけで、前後進切替機構30を前進作動状態にして車両1の発進に備えることができる。
以上に説明したように本実施形態の動力伝達装置10は、内燃機関5が機関出力軸6から出力した機械的動力を、駆動輪9に向けて伝達する。内燃機関5は、所定の停止条件が成立した場合に作動が停止するよう制御され、且つ所定の始動条件が成立した場合に始動するよう制御されるものである。動力伝達装置10は、機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断可能であり、係合状態と解放状態とを切替える動作(係合/解放動作)を操作する力が作用していないときに係合状態となるよう構成されており、且つ、油圧の供給を受けることにより解放状態に操作されることが可能な摩擦クラッチである常閉クラッチ60を備える。さらに、動力伝達装置10は、駆動輪9からの機械的動力を受けて作動可能であり且つ機関出力軸6からの機械的動力を受けて作動可能なオイルポンプ120を含み、常閉クラッチ60に油圧を供給可能な油圧供給装置110を備えている。車両走行中においてアイドリングストップ機能により内燃機関5が非作動状態となっている間においても、機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断する常閉クラッチ60に十分な油圧を供給して、当該常閉クラッチ60を解放状態に操作することができる。当該車両走行中に内燃機関を始動させた直後に、機関出力軸6からの機械的動力を駆動輪9に伝達して車両1を加速させることが可能である。油圧供給装置110は、車両走行中において内燃機関5が非作動状態にある場合には、駆動輪9からの機械的動力を受けて作動して常閉クラッチ60に油圧を供給することができる。一方、車両停止中において内燃機関5が作動状態にある場合には、機関出力軸6からの機械的動力を受けて作動して常閉クラッチ60に油圧を供給することができる。
また、本実施形態の動力伝達装置10において、油圧供給装置110は、機関出力軸6に連動して回転する第1回転部材と121と、駆動輪9に連動して回転する第2回転部材122の双方から機械的動力を受けて作動することが可能なオイルポンプ120を含み、当該オイルポンプ120は、第1回転部材121と第2回転部材122のうち少なくとも一方が回転している場合に作動して、常閉クラッチ60に向けてオイルを吐出するものとした。機関出力軸6と駆動輪9のうち少なくとも一方が回転していれば、油圧供給装置110は、オイルポンプ120から常閉クラッチ60にオイルを供給することができる。
また、本実施形態の車両1は、内燃機関5が機関出力軸6から出力した機械的動力を、動力伝達装置10を介して駆動輪9に伝達するものである。当該車両1において、動力伝達装置10は、機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断可能であり、係合状態と解放状態とを切替える動作を操作する力が作用していないときに係合状態となるよう構成されており、且つ、油圧の供給を受けることにより解放状態に操作されることが可能な摩擦クラッチである常閉クラッチ60と、駆動輪9からの機械的動力を受けて作動可能であり且つ機関出力軸6からの機械的動力を受けて作動可能なオイルポンプ120を含み、当該常閉クラッチ60に油圧を供給可能な油圧供給装置110とを備え、さらに、所定の停止条件が成立した場合に内燃機関5の作動が停止するよう制御し、且つ所定の始動条件が成立した場合に内燃機関5が始動するよう制御する制御装置100を有するものとした。制御装置100の制御により、車両走行中においてアイドリングストップ機能により内燃機関5が非作動状態となっている場合においても、制御装置100は、機関出力軸6と駆動輪9との間における動力伝達を遮断可能な常閉クラッチ60に十分な油圧を供給して、車両走行中に内燃機関を始動させた後、機関出力軸6からの機械的動力を駆動輪9に伝達させて発進させることができる。
また、本実施形態の車両1において、制御装置100は、内燃機関5が非作動状態であり且つ車両走行中である場合には、常閉クラッチ60が解放状態となるよう油圧供給装置110を制御するものとした。車両走行中に常閉クラッチ60を解放状態にすることにより、駆動輪9と機関出力軸6との間における動力伝達を遮断して、非作動状態にある内燃機関5の機関出力軸6が、駆動輪9に連動して回転することを防止することができる。
なお、上述した実施形態においては、変速機構70は、変速比を連続的に変化させることが可能な連続可変変速機(CVT)であるものとしたが、本発明に係る変速機構の態様は、これに限定されるものではない。本発明の変速機構は、常閉クラッチ60からの機械的動力を、回転速度を変化させて駆動輪9に向けて伝達可能なものであれば良く、例えば、入力軸で受けた機械的動力を、複数の変速段のうちいずれか一つにより回転速度を変化させて、駆動輪に向けて伝達する、いわゆる有段の自動変速機を用いるものとしても良い。
なお、上述した実施形態において、油圧供給装置110は、機関出力軸6に連動して回転する第1回転部材121と、駆動輪9に連動して回転する第2回転部材122から機械的動力を受けることが可能なオイルポンプ120を含むものとしたが、本発明の油圧供給装置の態様は、これに限定されるものではない。本発明の油圧供給装置は、駆動輪9からの機械的動力を受けて作動して、常閉クラッチ60に対して油圧を供給可能でものあれば良い。例えば、油圧供給装置は、機関出力軸6に連動して回転する回転部材が接続されオイルポンプとは別に、駆動輪9に連動して回転する回転部材が接続されたオイルポンプを備え、当該オイルポンプから常閉クラッチ60に油圧を供給するものとしても良い。また、常閉クラッチ60に対して油圧を供給するオイルポンプのみを、駆動輪9に連動して回転する回転部材に接続し、駆動輪9からの機械的動力を受けて作動するよう構成するものとしても良い。
また、上述した実施形態において、油圧供給装置110に含まれるオイルポンプ120は、駆動輪9からの機械的動力を、変速機構70の入力軸71から取り出して、当該機械的動力を受けて作動することが可能に構成されているものとしたが、オイルポンプ120が駆動輪9からの機械的動力を受ける態様は、これに限定されるものではない。オイルポンプ120は、内燃機関5が非作動状態にある場合において、駆動輪9が回転している場合に作動可能に構成されていれば良く、駆動輪9からの機械的動力を、変速機構70の出力軸73から取り出して、当該機械的動力を受けて作動するよう構成しても良い。