JP6008006B2 - 気相式水素透過試験装置および気相式水素透過試験装置の保護方法 - Google Patents

気相式水素透過試験装置および気相式水素透過試験装置の保護方法 Download PDF

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Description

本発明は、気相式水素透過試験装置に関し、特に、高圧水素ガス雰囲気下における材料の水素透過特性を安全に測定することが可能な気相式水素透過試験装置に関するものである。
また、本発明は、上記気相式水素透過試験装置の保護方法に関するものである。
近年、クリーンなエネルギー源として、また、エネルギーの多様化の観点から、世界的に水素が大きく注目されている。特に、水素ガスを燃料源とする燃料電池自動車に対する期待は大きく、燃料電池自動車の開発に関連した研究が世界的に広く進められており、一部では、すでに実用化されている。
燃料電池車はガソリンの代わりに水素ガスをタンクに積んで走行する。したがって、燃料電池自動車を普及させるためには、ガソリンスタンドに代わって燃料補給を行う水素ステーションの整備が不可欠である。水素ステーションでは、高圧水素用容器である水素用蓄圧器を用いて水素が貯蔵されており、前記蓄圧器から、車載の水素タンクへ水素が充填される。
車載の水素タンクへの充填最高圧力は、航続距離をガソリン車並とするためには、充填最高圧力を70MPaとする必要がある。そのため、車載用水素タンクには、このような高圧水素環境下で、水素を安全に貯蔵、供給できることが求められる。
同様に、水素ステーションで使用される水素用蓄圧器の充填最高圧力は、車載用水素タンクの充填最高圧力を70MPaとするためには、82MPaまで高める必要がある。したがって、水素ステーションの水素用蓄圧器は、82MPaという超高圧水素ガス環境に晒されることになる。
このような高圧水素環境下で用いられる材料の候補としては、低合金鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、プラスチックなどが挙げられる。しかし、鋼材を水素環境下で使用した場合、強度が低下し(水素脆化)、特に低合金鋼では絞りが低下するという問題がある。
材料の水素脆化は、環境から侵入した水素が、材料内部を拡散して応力集中部や粒界等に集積することによって発生する。そのため、材料における水素の透過挙動を把握することは非常に重要な課題であり、様々な研究がなされている。例えば、非特許文献1には、溶液中で発生させた水素が材料を透過する挙動を調べる電気化学的水素透過法が記載されている。また、特許文献1、2では、水素ガス中における材料の水素透過挙動を測定することが記載されている。
特開昭54−104551号公報 特公平03−047706号公報
櫛田隆弘著:「材料と環境」、Vol. 49 (2000)、p. 195〜200
しかし、非特許文献1に記載の方法は、溶液中における試験方法であるため、蓄圧器などが実際に使用される環境である水素ガス環境下における水素透過挙動を調べることはできない。また、特許文献1、2に記載されているような方法では、水素ガス中における材料中の水素透過挙動を測定することができるものの、最高でも150atm、すなわち15.2MPaの圧力下でのデータが報告されている程度であり、超高圧水素環境下での試験はこれまで行われていなかった。その主な理由は次の通りである。
(1)水素自体が極めて爆発を起こしやすい性質を有しており、例えば、空気中に4〜74%程度混合した状態で容易に爆発する。
(2)超高圧水素環境下で材料の水素透過挙動を測定するためには、試験片(材料)の一方の面を超高圧の水素ガスと接触させる一方で、材料の他方の面は試験片を透過してきた極微量の水素を分析装置によって定量するために減圧雰囲気とする必要がある。特に、分析装置として質量分析装置を用いる場合には、10−7Pa程度の超高真空とする必要がある。その結果、1枚の薄い試験片を介して、超高圧水素環境と超高真空環境を維持する必要がある。
(3)上記圧力差のため、試験中に試験片が破断する危険性がある。そして、試験片が破断した場合、高圧の水素が真空系に流入し、分析装置やそれに付随する減圧ポンプなどを破壊するおそれがある。また、水素が外部へ漏洩して空気と混合した場合、火花や静電気などによって爆発する危険性がある。
以上のような理由から、現状実用化が検討されている蓄圧器の圧力である82MPaといった超高圧環境下における材料中の水素透過挙動の試験は実現できていなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高圧水素雰囲気下における材料中の水素透過挙動を、安全に測定することが可能な気相式水素透過試験装置を提供することを目的とする。
本発明の要旨構成は、次のとおりである。
1.試験片の一方の面に高圧水素を供給し、該試験片を透過して試験片の他方の面から放出される水素を分析する気相式水素透過試験装置であって、
前記試験片の一方の面に高圧水素を供給する高圧水素供給手段と、
前記試験片の他方の面から放出される水素を分析する分析装置と、
前記高圧水素供給手段と前記試験片の一方の面とを接続する一次側配管と、
前記試験片の他方の面と前記分析装置とを接続する二次側配管と、
前記二次側配管内の圧力を測定する二次側圧力計と、
前記一次側配管に設けられ、閉状態において該一次側配管を閉鎖する一次側遮断弁と、
前記一次側配管の前記一次側遮断弁より下流に設けられ、開状態において該一次側配管の内部と外部とを連通させる一次側放出弁と、
前記二次側配管に設けられ、開状態において該二次側配管の内部と外部とを連通させる二次側放出弁と、
前記二次側配管に設けられた受動放出手段と、
前記二次側配管の前記二次側放出弁および前記受動放出手段より下流に設けられ、閉状態において該二次側配管を閉鎖する二次側遮断弁と、
前記二次側圧力計で測定された圧力が所定の値以上となったときに前記一次側遮断弁と前記二次側遮断弁を閉状態とし、前記一次側放出弁と前記二次側放出弁を開状態とする制御手段とを有し、
前記一次側遮断弁、一次側放出弁、および二次側放出弁がエア駆動式の弁であり、
前記受動放出手段が、前記二次配管内の圧力が所定値以上となった時に開状態となり該二次配管の内部と外部とを連通させる安全弁、および前記二次配管内の圧力が所定値以上となった時に破裂して該二次配管の内部と外部とを連通させるラプチャーディスクのいずれか一方または両方であり、
前記高圧水素供給手段、一次側配管、一次側遮断弁、一次側放出弁、試験片、および二次側放出弁が防爆環境に設置されており、
前記分析装置が非防爆環境に設置されている、気相式水素透過試験装置。
2.前記二次側配管の、前記二次側放出弁および前記受動放出手段より上流に設けられ、閉状態において該二次側配管を閉鎖する、エア駆動式または手動式の二次側上流遮断弁をさらに有する、前記1に記載の気相式水素透過試験装置。
3.前記1または2に記載の気相式水素透過試験装置を使用する際に、前記二次側圧力計で測定された圧力が所定の値以上となったときに前記一次側遮断弁と前記二次側遮断弁を閉状態とし、前記一次側放出弁と前記二次側放出弁を開状態とする、気相式水素透過試験装置の保護方法。
本発明によれば、試験片が水素ガスの圧力に耐えられなくなって万が一破断した場合でも、水素ガスが装置を破損せず、高圧水素雰囲気下における材料中の水素透過挙動を安全に調べることが可能となる。
本発明の一実施形態を示した概略図である。
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。なお、以下の説明における圧力の値は、特に断らない限りすべてゲージ圧とする。
本発明においては、試験片の一方の面に高圧水素を供給し、該試験片を透過して試験片の他方の面から放出される水素を分析する気相式水素透過試験装置が、
前記試験片の一方の面に高圧水素を供給する高圧水素供給手段と、
前記試験片の他方の面から放出される水素を分析する分析装置と、
前記高圧水素供給手段と前記試験片の一方の面とを接続する一次側配管と、
前記試験片の他方の面と前記分析装置とを接続する二次側配管と、
前記二次側配管内の圧力を測定する二次側圧力計と、
前記一次側配管に設けられ、閉状態において該一次側配管を閉鎖する一次側遮断弁と、
前記一次側配管の前記一次側遮断弁より下流に設けられ、開状態において該一次側配管の内部と外部とを連通させる一次側放出弁と、
前記二次側配管に設けられ、開状態において該二次側配管の内部と外部とを連通させる二次側放出弁と、
前記二次側配管に設けられた受動放出手段と、
前記二次側配管の前記二次側放出弁および前記受動放出手段より下流に設けられ、閉状態において該二次側配管を閉鎖する二次側遮断弁と、
前記二次側圧力計で測定された圧力が所定の値以上となったときに前記一次側遮断弁と前記二次側遮断弁を閉状態とし、前記一次側放出弁と前記二次側放出弁を開状態とする制御手段とを有し、
前記一次側遮断弁、一次側放出弁、および二次側放出弁がエア駆動式の弁であり、
前記受動放出手段が、前記二次配管内の圧力が所定値以上となった時に開状態となり該二次配管の内部と外部とを連通させる安全弁、および前記二次配管内の圧力が所定値以上となった時に破裂して該二次配管の内部と外部とを連通させるラプチャーディスクのいずれか一方または両方であり、
前記高圧水素供給手段、一次側配管、一次側遮断弁、一次側放出弁、試験片、および二次側放出弁が防爆環境に設置されており、
前記分析装置が非防爆環境に設置されている。
本発明の気相式水素透過試験装置の各部は、それぞれ以下に述べるような構成とすることができる。
[試験片]
水素の透過挙動を試験する試験片としては、任意の金属を含む各種材料を用いることができる。試験片の形状は特に限定されず、例えば、ディスク(円盤)状など、任意の形状とすることができる。ディスク状の試験片を用いる場合、その直径は例えば、10〜100mmとすることが好ましく、20〜80mmとすることがより好ましい。試験片の厚みについても特に限定されないが、耐圧強度や水素の透過に要する時間等の兼ね合いから、0.1〜10mmとすることが好ましく、2〜8mmとすることがより好ましい。試験に際しては、試験片10の表面を機械研磨した後、さらに化学研磨や電解研磨によって、機械研磨によって生じた試験片表面の加工層を除去しておくことが好ましい。また、試験片の水素が進入する側(一次側)または放出される側(二次側)の表面に、例えば、Pd、Niなどの金属を、めっきや蒸着等の方法により被覆しておいてもよい。
試験片は、高圧水素にさらされる一方の面と、減圧環境にさらされる他方の面とが、それぞれ気密状態を保てるように両面をシールした状態で保持される。前記シールには、メタルOリング、メタルガスケットなどを用いることが好ましい。
また、試験片は、高圧水素および減圧環境にさらされることから、これら環境に耐えうる強度と非常に高い気密性とを有する試験片保持部にて保持されることが好ましい。前記試験片保持部は、特に、試験片の高圧水素にさらされる面が保持されている側では高圧状態に、試験片の減圧環境にさらされる面が保持されている側では減圧(場合によっては超高真空)状態に、それぞれ耐えられる強度を有する。また、前記試験片保持部は、試験中に、該試験片保持部内部の高圧水素が外部へ漏れ出さず、また、外気が試験片保持部内部に侵入しない程度の気密性を有する。この試験片保持部としては、各種公知技術のものを始め、任意のものが利用できる。特に、昇温時のガス放出の低いこと、気密性が高いこと、強度が高いこと、加工性が良いこと、コストなどの点から、前記試験片保持部は、超高真空用に使用されるステンレス鋼を加工した物とすることが好ましい。
さらに、この試験片保持部には、試験片を実際に保持する試験片保持冶具と、前記試験片保持冶具を内部に有する気密チャンバーとを設けることができる。一方で、試験片保持冶具自体に必要な強度と気密性を持たせることにより、気密チャンバーを設けずに、試験片保持部を試験片保持冶具のみとすることもできる。また、上記気密チャンバーと試験片保持冶具以外に、試料片保持部には、試験中に試験片とその周囲の空間の温度を一定に保つ為の温度調整手段を設けることもできる。この温度調整手段は、例えば、試験片の温度を室温超えとするための加熱手段、試験片の温度を室温未満とするための冷却手段、試験片の温度を測定するための温度測定手段、温度測定手段で測定した温度を加熱手段や冷却手段へフィードバックし試験片の温度を設定温度に制御するための温度制御手段などを含む。これら、温度調整手段としては、任意の方法や装置を適宜選択して用いることができる。
[高圧水素供給手段]
上記試験片の水素が侵入する一方の面に接続される側(以下、「一次側」という)には、高圧水素供給手段が設置される。前記高圧水素供給手段としては、試験に必要な圧力の水素を供給可能なものであれば任意のものを使用できる。例えば、水素ボンベから取り出した水素ガスを圧縮機(コンプレッサー)で所望の圧力として供給する装置を用いることができる。
[分析装置]
上記試験片の水素が放出される他方の面に接続される側(以下、「二次側」という)には、試験片を透過してきた微量の水素ガスを検出、定量するための分析装置が設置される。前記分析装置としては、例えば、質量分析器やガスクロマトグラフなどを用いることができる。
上記分析装置として質量分析器を用いる場合には、四重極質量分析計(QMS)、磁場偏向型質量分析計、飛行時間型質量分析計(TOF−MS)などを使用できる。具体的には、例えば10秒間隔など、一定の時間間隔で連続に水素を定量できる装置を使用することが好ましい。
定量の妨げとなるバックグラウンド水素の量を低減するため、後述する二次側配管の内部など、試験片の二次側表面から質量分析計までの空間をポンプで減圧し、1.0×10−5Pa以下の高真空とすることが好ましい。前記ポンプとしては、例えば、ロータリーポンプとターボ分子ポンプを組み合わせて用いることができる。また、さらに真空度を向上させるために、前記組み合わせに、非蒸発型ゲッターポンプ、スパッタイオンポンプなどを併用してもよい。各ポンプは1台ずつ使用してもよく、複数台使用しても良い。二次側の真空度は低いほど好ましく、具体的には、1.0×l0−6Pa以下とすることが好ましく、1.0×10−7Pa以下とすることがより好ましい。
上記分析装置としてガスクロマトグラフを用いる場合には、熱伝導度検出器、水素炎イオン化検出器、ヘリウムプラズマイオン化検出器、電子捕獲型検出器、光イオン化検出器、フレーム光度型検出器など、水素を検出可能な検出器を用いる。ガスクロマトグラフを用いた水素の定量は目的に応じたタイミングで行えばよく、例えば、水素透過量がある一定の定常状態になった時点で行ってもよいし、5分間隔など、一定の時間間隔で連続に行うこともできる。
クロマトグラフを用いる場合には、材料から放出される水素を検出器まで運ぶキャリアガスを使用する。前記キャリアガスの種類は、使用する検出器に応じた適切なガスを選択すればよく、例えば、熱伝導度検出器を用いる場合にはアルゴンガスを、水素炎イオン化検出器を用いる場合にはヘリウムガスを、それぞれ用いることができる。キャリアガスの純度は高いほどよく、5N以上であることが好ましく、6N以上であることがより好ましい。
[配管]
本発明の気相式水素透過試験装置においては、前記高圧水素供給手段と前記試験片の一方の面が一次側配管により接続される。また、前記試験片の他方の面と前記分析装置とは二次側配管によって接続される。前記一次側配管および二次側配管には、それぞれの使用圧力に対応した金属等の材質からなる配管を適宜選択して使用すればよい。二次側配管は、高真空を達成するために内部容積を可能な限り低減することが望ましい。また、清浄度が要求されることから、内面を電解研磨したステンレス鋼製等のチューブを用いることが好ましい。
なお、本発明において、「高圧水素供給手段と試験片の一方の面が一次側配管により接続される」とは、高圧水素供給手段から供給される高圧水素が、試験片の一方の面へ到達できる機能を持つ状態になることを示す。言い換えれば、試験片の一方の面と一次側配管の端とが直接接する状態だけでなく、例えば、上記試験片保持部の試験片の一方の面側へ一次側配管の端部が連結されることで、試験片保持部の内部で、試験片の一方の面へ高圧水素が供給される状態も含む。
同様に、本発明において、「試験片の他方の面と分析装置とは二次側配管により接続される」とは、試験片の他方の面から放出される放出水素が、分析装置へ到達できる機能を持つ状態になることを示す。言い換えれば、試験片の他方の面と二次側配管の端とが直接接する状態だけでなく、例えば、上記試験片保持部の試験片の他方の面側へ二次側配管の端部が連結されることで、試験片保持部の内部で、試験片の他方の面からの放出水素が分析装置へ送られる状態も含む。
[二次側圧力計]
上記二次側配管には、二次側配管内の圧力を測定するための二次側圧力計が設けられる。本発明の気相式水素透過試験装置においては、前記二次側圧力計を用いて常時圧力を測定し、該圧力があらかじめ定めた基準以上となったとき、試験片が破断したものと判断し、後述するように弁の開閉を行って安全を確保する。圧力計の種類は特に限定されず、試験片破断時の圧力上昇を検知できるものであれば任意のものを使用できる。
[遮断弁]
上記一次側配管と二次側配管には、それぞれ遮断弁(一次側遮断弁、二次側遮断弁)が設けられている。本発明の気相式水素透過試験装置による試験が正常に行われている時には、一次側遮断弁は、開(昇圧時)または閉(昇圧完了時)の状態、二次側遮断弁は、常に開の状態とし、一次側配管と二次側配管の内部を水素が通過することができる。しかし、試験片が破断して一次側の高圧水素が二次側へ流入した場合、二次側圧力計における圧力の上昇として異常を検知し、二次側圧力計で測定される圧力があらかじめ定めた基準以上となったとき、制御手段によって前記遮断弁がいずれも閉状態とされる。一次側遮断弁が閉状態となることにより、高圧水素供給手段から供給される水素ガスが、該一次側遮断弁よりも下流側に進まなくなるため、二次側へそれ以上高圧水素が流入することを防止できる。また、二次側遮断弁が閉状態となることにより、二次側配管に流入した水素ガスが、分析装置や該分析装置に接続された真空ポンプ等に流入して、それらの装置が破損することを防止できる。
[放出弁]
同様に、上記一次側配管と二次側配管には、それぞれ放出弁(一次側放出弁、二次側放出弁)が設けられている。前記放出弁は、通常は閉状態となっているが、上記二次側圧力計で測定される圧力があらかじめ定めた基準以上となったとき、制御手段によって開状態とされる。この2つの放出弁を開くことによって、一次側配管および二次側配管の内部に存在する高圧水素ガスが速やかに外部へ放出されるため、下流の分析装置へ高圧ガスが流入して装置が破損することを防止できる。また、一次側放出弁および二次側放出弁を開放する際には、該一次側放出弁および二次側放出弁よりも上流側に設けられている一次側遮断弁を閉鎖するため、該一次側遮断弁を閉鎖した際に配管内に存在していた分以上の高圧水素ガスが装置外へ放出されることもない。
なお、上記の遮断弁および放出弁以外にも、本発明の機能を損なわない限りにおいて任意の位置に、任意の構造の弁を設けることができる。
[制御手段]
上記遮断弁および放出弁の開閉は、制御手段によって行われる。前記制御手段は、二次側圧力計で測定された圧力が所定の値以上となったとき、前記一次側遮断弁と前記二次側遮断弁を閉状態とし、前記一次側放出弁と前記二次側放出弁を開状態とする制御を行う。
[受動放出手段]
本発明の気相式水素透過試験装置は、二次側配管の二次側遮断弁よりも上流に、さらに受動放出手段を備えている。ここで、受動放出手段とは、所定の条件を満たした際に自動的に、すなわち別途設けられている二次側圧力計や制御手段によらず、独立して配管内のガスを放出する機能を備えているものを意味する。具体的には、前記受動放出手段として、安全弁およびラプチャーディスクのいずれか一方または両方を使用する。安全弁はリリーフ弁とも呼ばれ、バネなどの作用により配管内の圧力が所定値以上となったときにのみ開状態となり、配管内のガスを外部へ放出する機能を有している。また、ラプチャーディスクは破裂板とも呼ばれる薄い金属板等からなる部材であり、配管内の圧力が設定値以上となると破断して、配管内のガスを外部へ放出する機能を有している。安全弁およびラプチャーディスクの種類は特に限定されず、装置使用時の圧力等に応じて選択すればよい。
本発明では、二次側圧力計と制御装置によって制御される放出弁と、上記受動放出手段とを併用することにより、試験片破断時に二次側へ流入した高圧水素ガスを確実かつ速やかに外部へ放出し、分析装置などの破損を防止することができる。また、受動放出手段として用いられる安全弁とラプチャーディスクは、いずれも外部制御手段からの制御や電源を必要としない受動型の放出手段であるため、万が一、停電や故障など何らかの理由によって放出弁が動作しないような場合であっても機能を喪失することなく、安全を確保することができる。また、安全弁とラプチャーディスクの両方を設置すれば、さらに冗長性を高められるため好ましい。
[防爆環境・非防爆環境]
本発明の気相式水素透過試験装置では、上述したように、試験片が破断した際には放出弁を開いて水素ガスを周囲へ放出する。そのため、気相式水素透過試験装置の周囲で火花等が発生すると周囲の空気と混合された水素ガスが爆発を起こす危険性がある。これを防止するため、本発明では高圧水素を取り扱う部分と、高圧水素が放出される可能性のある部分、具体的には高圧水素供給手段、一次側配管、一次側遮断弁、一次側放出弁、試験片、および二次側放出弁を防爆環境に設置する。前記防爆環境としては、例えば、防爆室を使用することができる。また、前記防爆環境の中に設置されるものはすべて防爆仕様とする。一方、分析装置は非防爆環境に設置する。したがって、二次側配管は上流部分(試験片側)が防爆環境に、下流側(分析装置側)が非防爆環境に、それぞれ配置される。二次側圧力計と二次側遮断弁は防爆環境と非防爆環境のいずれに設置してもよいが、防爆環境に設置する場合には、防爆仕様のものとする必要があるため、非防爆環境に設置することが好ましい。防爆仕様の遮断弁としては、後述するエア駆動方式の弁を用いることができる。
なお、本発明の気相式水素透過試験装置に含まれる上記以外の部材や装置、および本発明の気相式水素透過試験装置に併設される他の装置等は、基本的には防爆環境・非防爆環境のいずれに設置してもよいが、防爆仕様でないものについては非防爆環境に設置し、防爆環境に設置する必要があるものについてはすべて防爆仕様とする。
[弁の駆動方式]
本発明の気相式水素透過試験装置が有する弁のうち、少なくとも一次側遮断弁、一次側放出弁、および二次側放出弁はエア駆動式の弁(エアオペレートバルブ)とする。これらの弁は、防爆環境中に設置されており、該防爆環境中には試験片が破断した際に高圧水素が放出される。したがって、これらの弁をエア駆動方式の弁とすることにより、水素を放出した場合でも爆発を防止することができる。本発明では、このように、放出弁等の水素を放出するための機構と、防爆環境およびエア駆動方式の弁とを組み合わせたことにより、試験片が破断した場合であっても、高圧水素ガスを安全に外部へ放出し、分析装置などの破損を防止することが可能となっている。なお、一次側遮断弁、一次側放出弁、および二次側放出弁以外の弁については任意の駆動方式とすることができるが、防爆環境に設置されるものについては、エア駆動式、手動式、または防爆仕様の電磁駆動式など、防爆仕様の弁とする。
本発明の気相式水素透過試験装置においては、二次側配管の、二次側放出弁および受動放出手段より上流に、二次側上流遮断弁をさらに設けることが好ましい。前記二次側上流遮断弁は、閉状態において該二次側配管を閉鎖するものであり、エア駆動式または手動式とする。本発明の試験装置では、微量の水素の検出精度を維持するために、二次側の真空系内部を清浄な状態に保つ必要がある。しかし、試験片が取り付けられていない状態では、二次側配管の試験片側が開放状態となり、二次側配管の内部へ外気が入り込んでしまうおそれがある。そこで、上記のように二次側上流遮断弁を設け、試験片交換時や装置を使用しない時など、試験片が設置されていない状態のときに該二次側上流遮断弁を閉状態とすれば、二次側上流遮断弁よりも下流側へ外気が流入することを防止できる。
次に、図面を用いて、本発明の実施形態について具体的に説明する。以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明は、該実施形態の説明によって何ら限定されるものではない。
図1は、本発明の一実施形態を示した概略図である。気相式水素透過試験装置1は、防爆室2と非防爆室3とにわたって設置されており、試験片10、高圧水素供給手段20、および四重極質量分析計30を備えている。試験片10は、ディスク状の金属であり、例えば、鋼板を用いることができる。
試験片10は、試験片保持部11によって保持されている。試験片保持部11は、気密チャンバー111と試験片保持冶具112を有しており、試験片10は、試験片保持冶具112によって気密チャンバー111内に保持、固定されており、図示されないメタルOリングによって両面がシールされている。
高圧水素供給手段20は、水素ボンベ21と圧縮機22を備えており、さらにボンベ21にはエア駆動式のバルブシャッター23が取り付けられている。高圧水素供給手段20と、試験片保持部11の試験片10の一方の面の側との間は一次側配管40で接続されている。この一次側配管40により、高圧水素供給手段20から試験片10の一方の面まで、高圧水素を送ることができる。さらに、一次側配管40には上流側から順番に、エア駆動弁41、ロータリーポンプ42、エア駆動弁43、エア駆動弁44、安全弁45が、図1に示したように取り付けられている。ロータリーポンプ42は、装置使用開始時に一次側配管内を排気するためのものである。また、エア駆動弁43、44は、それぞれ一次側遮断弁、一次側放出弁として機能するものである。本実施形態においては、一次側の圧力を110MPaまで上げて試験を行うことを想定し、一次側配管40に接続される弁としては、すべて耐圧110MPaのものを用いた。
分析装置としての四重極質量分析計30には、四重極質量分析計の内部と二次側配管の内部とを減圧するためのターボ分子ポンプ31とロータリーポンプ32が接続されている。そして、四重極質量分析計30と、試験片保持部11の試験片10他方の面の側との間は二次側配管50で接続されている。この二次側配管50により、試験片10の他方の面から放出された水素を、四重極質量分析計まで運ぶことができる。さらに、二次側配管50には、上流側から順番に、エア駆動弁51、エア駆動弁52、安全弁53、ラプチャーディスク54、エア駆動弁55、および二次側圧力計56が、図1に示したように取り付けられている。エア駆動弁51、52、55は、それぞれ二次側上流遮断弁、二次側放出弁、二次側遮断弁として機能するものである。なお、本実施形態においては二次側配管に接続されたバルブとして、それぞれ次の耐圧のものを選定した;エア駆動弁51:0.1MPa、エア駆動弁52:8MPa、安全弁53:0.2MPa、ラプチャーディスク54:0.45MPa、エア駆動弁55:0.1MPa。バルブは一般的に耐圧が高いものほど大型化するため、二次側の高真空を達成するためには必要以上に高耐圧の弁を用いることは避けることが好ましい。
二次側圧力計56には制御装置60が接続されており、さらに制御装置60にはバルブシャッター23、エア駆動弁43(一次側遮断弁)、エア駆動弁44(一次側放出弁)、エア駆動弁52(二次側放出弁)、およびエア駆動弁55(二次側遮断弁)が接続されている。前記バルブシャッターおよびエア駆動弁の開閉は、図示されない圧縮空気供給装置からのエアの供給を、制御装置60が備える電磁弁によって制御することによって行われる。
なお、試験片保持部11の大きさは、少なくとも、試験片を内部に収納でき、かつ、一次側配管40および二次側配管50が接続できる大きさであればよい。一方、試験片保持部11の内部容積が過大であると、分析装置30による水素の定量精度が低下する場合がある。そのため、試験片保持部11の大きさは、分析装置30の分解能や分析限界を考慮して決定することが好ましい。
次に、本実施形態の気相式水素透過試験装置1の動作について説明する。なお、以下の説明において、試験片破断時の安全対策のために設けられている放出弁(エア駆動弁44、52)および安全弁45、53は、試験片破断時以外、常に閉状態とする。
本実施形態の気相式水素透過試験装置1を使用する際には、まず、二次側上流遮断弁としてのエア駆動弁51を閉じた状態で、試験片保持具11に試験片10をセットし、その後、一次側配管40と二次側配管50の内部の排気を行う。一次側配管40の排気は、バルブシャッター23を閉、エア駆動弁41を開とした状態で、ロータリーポンプ42を使用して行う。また、二次側配管50の排気はターボ分子ポンプ31およびロータリーポンプ32を用いて行う。
所望の真空度が得られた後、ロータリーポンプ42を停止するとともにエア駆動弁41を閉じて一次側の排気を終了する。次いで、バルブシャッター23を開き、圧縮機22を稼働させて一次側配管40内へ高圧水素を供給する。一次側配管内が所望の圧力に達した後はバルブシャッター23およびエア駆動弁43を閉じ、水素の供給を停止する。一方、二次側では試験片を透過して二次側配管50内へ放出された水素を四重極質量分析計30を用いて測定する。前記測定は、例えば、10秒ごとに継続的に行えばよい。これにより、試験片10の水素透過特性を評価することができる。
本実施形態の気相式水素透過試験装置1においては、圧力計56を用いて二次側配管内50内の圧力を連続的にモニターしている。試験中に試験片が破断した場合、一次側の高圧水素が二次側に流入して二次側配管内50の圧力が上昇するため、試験片10の破断を圧力計56によって検知することができる。二次側圧力計56で測定される圧力が予め定めた閾値以上となった時、試験片が破断したものと見なして、遮断弁としてのエア駆動弁43、55を閉状態とするとともに、放出弁としてのエア駆動弁44、52を開状態とする。また、水素ボンベ21に取り付けられているバルブシャッター23を閉状態として、ボンベからの水素の供給を停止する。この際、遮断弁としてのエア駆動弁やバルブシャッターが既に閉状態となっている場合には、そのまま閉状態とすればよい。以上の動作は、二次側圧力計50に接続された制御装置60によって、同時に行われる。
さらに、二次側配管50内が所定の圧力以上になると、安全弁53が開状態となるとともにラプチャーディスク54が破断して、二次側配管50と外部とを連通させ、二次側へ流入した高圧水素を外部へ放出させる。安全弁53とラプチャーディスク54の動作は制御装置によらず、自動的に行われる。
なお、上記の動作とは別に、何らかの理由により一次側配管内の圧力が高まって、予め定めた値以上となった場合、安全弁45が開状態となって一次側配管40内と外部とを連通させ、高圧水素を放出する。
このように、二次側圧力に基づいて制御される複数の遮断弁と放出弁に加え、受動放出手段を設けることにより、試験片が破断した場合に高圧水素が二次側へ流入し、分析装置などが破損することを確実に防止することができる。また、一次側配管、一次側遮断弁、一次側放出弁、受動放出手段、試験片、および二次側放出弁は防爆室2に設置されているため、一次側配管40や試験片保持具11等から水素の漏洩が生じた場合や、試験片破断時に放出弁、安全弁、およびラプチャーディスクから水素が放出された場合にも、爆発が起ることを防止できる。したがって、本発明の気相式水素透過試験装置によれば、その危険性のためにこれまで困難であった高圧水素雰囲気下における材料中の水素透過挙動の測定を、極めて安全に行うことが可能になる。
1 気相式水素透過試験装置
2 防爆室
3 非防爆室
10 試験片
11 試験片保持部
111 気密チャンバー
112 試験片保持冶具
20 高圧水素供給手段
21 水素ボンベ
22 圧縮機
23 バルブシャッター
30 四重極質量分析計(分析装置)
31 ターボ分子ポンプ
32 ロータリーポンプ
40 一次側配管
41 エア駆動弁
42 ロータリーポンプ
43 エア駆動弁(一次側遮断弁)
44 エア駆動弁(一次側放出弁)
45 安全弁
50 二次側配管
51 エア駆動弁(二次側上流遮断弁)
52 エア駆動弁(二次側放出弁)
53 安全弁(受動放出手段)
54 ラプチャーディスク(受動放出手段)
55 エア駆動弁(二次側遮断弁)
56 二次側圧力計
60 制御装置

Claims (3)

  1. 試験片の一方の面に高圧水素を供給し、該試験片を透過して試験片の他方の面から放出される水素を分析する気相式水素透過試験装置であって、
    前記試験片の一方の面に高圧水素を供給する高圧水素供給手段と、
    前記試験片の他方の面から放出される水素を分析する分析装置と、
    前記高圧水素供給手段と前記試験片の一方の面とを接続する一次側配管と、
    前記試験片の他方の面と前記分析装置とを接続する二次側配管と、
    前記二次側配管内の圧力を測定する二次側圧力計と、
    前記一次側配管に設けられ、閉状態において該一次側配管を閉鎖する一次側遮断弁と、
    前記一次側配管の前記一次側遮断弁より下流に設けられ、開状態において該一次側配管の内部と外部とを連通させる一次側放出弁と、
    前記二次側配管に設けられ、開状態において該二次側配管の内部と外部とを連通させる二次側放出弁と、
    前記二次側配管に設けられた受動放出手段と、
    前記二次側配管の前記二次側放出弁および前記受動放出手段より下流に設けられ、閉状態において該二次側配管を閉鎖する二次側遮断弁と、
    前記二次側圧力計で測定された圧力が所定の値以上となったときに前記一次側遮断弁と前記二次側遮断弁を閉状態とし、前記一次側放出弁と前記二次側放出弁を開状態とする制御手段とを有し、
    前記一次側遮断弁、一次側放出弁、および二次側放出弁がエア駆動式の弁であり、
    前記受動放出手段が、前記二次配管内の圧力が所定値以上となった時に開状態となり該二次配管の内部と外部とを連通させる安全弁、および前記二次配管内の圧力が所定値以上となった時に破裂して該二次配管の内部と外部とを連通させるラプチャーディスクのいずれか一方または両方であり、
    前記高圧水素供給手段、一次側配管、一次側遮断弁、一次側放出弁、受動放出手段、試験片、および二次側放出弁が防爆環境に設置されており、
    前記分析装置が非防爆環境に設置されている、気相式水素透過試験装置。
  2. 前記二次側配管の、前記二次側放出弁および前記受動放出手段より上流に設けられ、閉状態において該二次側配管を閉鎖する、エア駆動式または手動式の二次側上流遮断弁をさらに有する、請求項1に記載の気相式水素透過試験装置。
  3. 請求項1または2に記載の気相式水素透過試験装置を使用する際に、前記二次側圧力計で測定された圧力が所定の値以上となったときに前記一次側遮断弁と前記二次側遮断弁を閉状態とし、前記一次側放出弁と前記二次側放出弁を開状態とする、気相式水素透過試験装置の保護方法。
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