本発明の透明電極の製造方法は、窒素原子をヘテロ原子とした複素環を有する化合物Aを用いて下地層を形成し、該下地層上に特定の構造を有する銀原子を含む銀錯体化合物Bを含有する溶液を用い、湿式塗布方式で電極層を形成し、シート抵抗値が30Ω/□以下の透明電極を製造することを特徴とし、透明電極における導電性の向上と光透過性の向上との両立を図ることができる。この特徴は、請求項1から請求項6に係る発明に共通する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の目的とする効果をより発現できる観点から、前記窒素原子を含む化合物Aが、ピリジン環を有する化合物であることが好ましい。また、前記窒素原子を含む化合物Aが、前記一般式(1)で表される化合物であること、前記一般式(1)で表される化合物が、前記一般式(2)で表される化合物であること、更には、前記一般式(2)で表される化合物が、前記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。また、前記電極層の膜厚が、4〜9nmの範囲内であることが好ましい態様である。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本発明において示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
以下、本発明の透明電極の構成とその製造方法、透明電極の用途等の詳細について、図を交えて説明する。
《透明電極》
[透明電極の構成]
図1は、本発明の透明電極の構成の一例を示す概略断面図である。
図1に示すように、本発明の透明電極1は、基材11上に、下地層1aと、この上部に湿式塗布方式により成膜された電極層1bとを積層した2層構造であり、例えば、基材11の上部に、下地層1a、電極層1bの順に設けられている。このうち下地層1aは、窒素原子をヘテロ原子とした複素環を有する化合物Aを用いて形成された構成された層であり、電極層1bは、特定の構造を有する銀原子を含む化合物Bを含有する溶液を湿式塗布方式により形成された層である。
次に、このような積層構造の透明電極1の形成に用いる基材11、透明電極1を構成する下地層1a、電極層1bの詳細な構成について説明する。尚、本発明の透明電極1でいう透明とは、波長550nmで測定した時の光透過率が50%以上であることをいう。
〔基材〕
本発明の透明電極1の形成に用いることのできる基材11としては、例えば、ガラス、プラスチック等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、基材11は透明であっても不透明であってもよい。本発明の透明電極1が、基材11側から光を取り出す電子デバイスに用いられる場合には、基材11は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な基材11としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。
ガラスとしては、例えば、シリカガラス、ソーダ石灰シリカガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。これらのガラス材料の表面には、下地層1aとの密着性、耐久性、平滑性の観点から、必要に応じて、研磨等の物理的処理を施す方法、あるいは無機物または有機物からなる被膜や、これらの被膜を組み合わせたハイブリッド被膜を形成する方法等が適用される。
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(商品名、JSR社製)あるいはアペル(商品名、三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等が挙げられる。
樹脂フィルムの表面には、無機物または有機物から構成される被膜や、これらの被膜を組み合わせたハイブリッド被膜が形成されていてもよい。このような被膜及びハイブリッド被膜は、JIS−K−7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度90±2%RH)が0.01g/(m2・24時間)以下のバリア性フィルム(バリア膜等ともいう)であることが好ましい。また、JIS−K−7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/(m2・24時間・atm)以下、水蒸気透過度が1×10−5g/(m2・24時間)以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
以上のようなバリア性フィルムを形成する材料としては、水分や酸素等の電子デバイスの劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。さらに、当該バリア性フィルムの脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層(有機層)の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
バリア性フィルムの形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載の大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
一方、基材11が不透明なものである場合、例えば、アルミニウム、ステンレス等の金属基板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等を用いることができる。
〔下地層〕
本発明に係る下地層1aは、窒素原子を含む化合物Aを用いて形成された層である。このような下地層1aが、基材11上に成膜されたものである場合、その成膜方法としては、特に制限はなく、塗布法、インクジェット法、コーティング法、ディップ法などの湿式塗布方式(ウェットプロセル)を用いる方法や、蒸着法(抵抗加熱、EB法(エレクトロンビーム法)など)、スパッタ法、CVD法などのドライプロセスを用いる方法などが挙げられる。なかでも蒸着法が好ましく適用される。
下地層1aを構成する窒素原子を含んだ化合物Aは、窒素原子をヘテロ原子とした複素環を有する化合物であることを特徴とする。窒素原子をヘテロ原子とした複素環としては、例えば、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、アゾリジン、アゾール、アジナン、ピリジン、アゼパン、アゼピン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、カルバゾール、ベンゾ−C−シンノリン、ポルフィリン、クロリン、コリン等の各基が挙げられる。
また、本発明においては、窒素原子をヘテロ原子とした複素環を有する化合物として特に好ましいのは、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物である。
以下に、本発明に好適に用いることのできる一般式(1)〜(3)で表される化合物の詳細について説明する。
(一般式(1)で表される化合物)
一般式(1)
(Ar1)n1−Y1
上記一般式(1)において、n1は1以上の整数を表し、Y1はn1が1の場合は置換基を表し、n1が2以上の場合は単なる結合手またはn1価の連結基を表す。Ar1は下記一般式(A)で表される基を表し、n1が2以上の場合、複数のAr1は同一でも異なっていてもよい。また、一般式(1)で表される化合物は、分子内に3環以上の環が縮合してなる縮合芳香族複素環を少なくとも2つ有する。
一般式(1)において、Y1で表される置換基の例としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、芳香族炭化水素基(芳香族炭素環基、アリール基等ともいい、例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基)、芳香族複素環基(例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、キナゾリニル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する任意の炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す。)、フタラジニル基等)、複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基またはヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基、ピペリジル基(ピペリジニル基ともいう)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)、リン酸エステル基(例えば、ジヘキシルホスホリル基等)、亜リン酸エステル基(例えば、ジフェニルホスフィニル基等)、ホスホノ基等が挙げられる。
これらの置換基は、上記の置換基によってさらに置換されていてもよい。また、これらの置換基は複数が互いに結合して環を形成していてもよい。
一般式(1)において、Y1で表されるn1価の連結基としては、具体的には、2価の連結基、3価の連結基、4価の連結基等が挙げられる。
一般式(1)において、Y1で表される2価の連結基としては、例えば、アルキレン基(例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、2,2,4−トリメチルヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、シクロヘキシレン基(例えば、1,6−シクロヘキサンジイル基等)、シクロペンチレン基(例えば、1,5−シクロペンタンジイル基等)等)、アルケニレン基(例えば、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、1−メチルビニレン基、1−メチルプロペニレン基、2−メチルプロペニレン基、1−メチルペンテニレン基、3−メチルペンテニレン基、1−エチルビニレン基、1−エチルプロペニレン基、1−エチルブテニレン基、3−エチルブテニレン基等)、アルキニレン基(例えば、エチニレン基、1−プロピニレン基、1−ブチニレン基、1−ペンチニレン基、1−ヘキシニレン基、2−ブチニレン基、2−ペンチニレン基、1−メチルエチニレン基、3−メチル−1−プロピニレン基、3−メチル−1−ブチニレン基等)、アリーレン基(例えば、o−フェニレン基、p−フェニレン基、ナフタレンジイル基、アントラセンジイル基、ナフタセンジイル基、ピレンジイル基、ナフチルナフタレンジイル基、ビフェニルジイル基(例えば、[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジイル基、3,3’−ビフェニルジイル基、3,6−ビフェニルジイル基等)、テルフェニルジイル基、クアテルフェニルジイル基、キンクフェニルジイル基、セキシフェニルジイル基、セプチフェニルジイル基、オクチフェニルジイル基、ノビフェニルジイル基、デシフェニルジイル基等)、ヘテロアリーレン基(例えば、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(モノアザカルボリン環ともいい、カルボリン環を構成する炭素原子のひとつが窒素原子で置き換わった構成の環構成を示す。)、トリアゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピラジン環、キノキサリン環、チオフェン環、オキサジアゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、インドール環からなる群から導出される2価の基等)、酸素や硫黄などのカルコゲン原子、3環以上の環が縮合してなる縮合芳香族複素環から導出される基等(ここで、3環以上の環が縮合してなる縮合芳香族複素環としては、好ましくはN、O及びSから選択されたヘテロ原子を、縮合環を構成する元素として含有する芳香族複素縮合環であることが好ましく、具体的には、アクリジン環、ベンゾキノリン環、カルバゾール環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、カルボリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭素原子の任意の一つが窒素原子で置き換わったものを表す。)、フェナントロリン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、チオファントレン環(ナフトチオフェン環)等)が挙げられる。
一般式(1)において、Y1で表される3価の連結基としては、例えば、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ウンデカントリイル基、ドデカントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロペンタントリイル基、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基、ピリジントリイル基、カルバゾールトリイル基等が挙げられる。
一般式(1)において、Y1で表される4価の連結基としては、上記の3価の基にさらにひとつ結合基がついたものであり、例えば、プロパンジイリデン基、1,3−プロパンジイル−2−イリデン基、ブタンジイリデン基、ペンタンジイリデン基、ヘキサンジイリデン基、ヘプタンジイリデン基、オクタンジイリデン基、ノナンジイリデン基、デカンジイリデン基、ウンデカンジイリデン基、ドデカンジイリデン基、シクロヘキサンジイリデン基、シクロペンタンジイリデン基、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基、ピリジンテトライル基、カルバゾールテトライル基等が挙げられる。
なお、上記の2価の連結基、3価の連結基、4価の連結基は、各々さらに、一般式(1)において、Y1で表される置換基を有していてもよい。
一般式(1)で表される化合物の好ましい態様としては、Y1が3環以上の環が縮合してなる縮合芳香族複素環から導出される基を表すことが好ましく、当該3環以上の環が縮合してなる縮合芳香族複素環としては、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環が好ましい。また、n1が2以上であることが好ましい。
さらに、一般式(1)で表される化合物は、分子内に上記の3環以上の環が縮合してなる縮合芳香族複素環を少なくとも2つ有する。
また、Y1がn1価の連結基を表す場合、一般式(1)で表される化合物の三重項励起エネルギーを高く保つために、Y1は非共役であることが好ましく、さらに、Tg(ガラス転移点、ガラス転移温度ともいう)を向上させる点から、芳香環(芳香族炭化水素環+芳香族複素環)で構成されていることが好ましい。ここでいう非共役とは、連結基が単結合(一重結合ともいう)と二重結合の繰り返しによって表記できないか、または連結基を構成する芳香環同士の共役が立体的に切断されている場合を意味する。
(一般式(A)で表される基)
上記一般式(1)において、Ar1は下記一般式(A)で表される基を表す。
上記一般式(A)において、Xは、N(R)、酸素原子、硫黄原子またはSi(R)(R′)を表し、E1〜E8は、C(R1)または窒素原子を表し、R、R′及びR1は各々水素原子、置換基または一般式(1)におけるY1との連結部位を表す。*は一般式(1)におけるY1との連結部位を表す。Y2は単なる結合手または2価の連結基を表す。Y3及びY4は、各々5員または6員の芳香族環から導出される基を表し、少なくとも一方は環構成原子として窒素原子を含む芳香族複素環から導出される基を表す。n2は1〜4の整数を表す。
ここで、一般式(A)のXで表されるN(R)またはSi(R)(R′)、E1〜E8で表されるC(R1)において、R、R′及びR1で各々表される置換基は、前記一般式(1)において、Y1で表される置換基と同義である。
また、一般式(A)において、Y2で表される2価の連結基としては、一般式(1)において、Y1で表される2価の連結基と同義である。
さらに、一般式(A)において、Y3及びY4で各々表される5員または6員の芳香族環から導出される基の形成に用いられる5員または6員の芳香族環としては、例えば、ベンゼン環、オキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ジアジン環、トリアジン環、イミダゾール環、イソオキサゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環等が挙げられる。
さらに、Y3及びY4で各々表される5員または6員の芳香族環から導出される基の少なくとも一方は、環構成原子として窒素原子を含む芳香族複素環から導出される基を表すが、当該環構成原子として窒素原子を含む芳香族複素環としては、例えば、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ジアジン環、トリアジン環、イミダゾール環、イソオキサゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環等が挙げられる。
〈Y3で表される基の好ましい態様〉
上記一般式(A)において、Y3で表される基としては、上記6員の芳香族環から導出される基であることが好ましく、さらに好ましくは、ベンゼン環から導出される基である。
〈Y4で表される基の好ましい態様〉
上記一般式(A)において、Y4で表される基としては、上記6員の芳香族環から導出される基であることが好ましく、さらに好ましくは、窒素原子を環構成原子と含む芳香族複素環から導出される基であり、特に好ましくは、Y4がピリジン環から導出される基であることである。
〈一般式(A)で表される基の好ましい態様〉
上記一般式(A)で表される基の好ましい態様としては、下記一般式(A−1)、(A−2)、(A−3)または(A−4)のいずれかで表される基が挙げられる。
上記一般式(A−1)において、XはN(R)、酸素原子、硫黄原子またはSi(R)(R′)を表し、E1〜E8は、各々C(R1)または窒素原子を表し、R、R′及びR1は各々水素原子、置換基または前記一般式(1)におけるY1との連結部位を表す。Y2は単なる結合手または2価の連結基を表す。E11〜E20は、各々C(R2)または窒素原子を表し、E11〜E20の少なくとも1つは窒素原子を表す。R2は、水素原子、置換基または連結部位を表す。但し、E11及びE12の少なくとも1つは、C(R2)を表し、R2は連結部位を表す。n2は1〜4の整数を表す。*は、上記一般式(1)におけるY1との連結部位を表す。
上記一般式(A−2)において、XはN(R)、酸素原子、硫黄原子またはSi(R)(R′)を表し、E1〜E8は、各々C(R1)または窒素原子を表し、R、R′及びR1は各々水素原子、置換基または前記一般式(1)におけるY1との連結部位を表す。Y2は単なる結合手または2価の連結基を表す。E21〜E25は、各々C(R2)または窒素原子を表し、E26〜E30は各々C(R2)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子またはSi(R3)(R4)を表し、E21〜E30の少なくとも1つは窒素原子を表す。R2は、水素原子、置換基または連結部位を表す。但し、E11及びE12の少なくとも1つは、C(R2)を表し、R2は連結部位を表し、R3及びR4は各々水素原子または置換基を表す。ただし、E21及びE22の少なくとも1つはC(R2)を表し、R2は連結部位を表す。n2は1〜4の整数を表す。*は、上記一般式(1)におけるY1との連結部位を表す。
上記一般式(A−3)において、XはN(R)、酸素原子、硫黄原子またはSi(R)(R′)を表し、E1〜E8は各々C(R1)または窒素原子を表し、R、R′及びR1は各々水素原子、置換基または一般式(1)におけるY1との連結部位を表す。Y2は単なる結合手または2価の連結基を表す。E31〜E35は各々C(R2)、窒素原子、酸素原子、硫黄元素またはSi(R3)(R4)を表し、E36〜E40は各々C(R2)または窒素原子を表し、E31〜E40の少なくとも1つは窒素原子を表す。R2は、水素原子、置換基または連結部位を表し、R3及びR4は各々水素原子または置換基を表す。但し、E32及びE33の少なくとも1つはC(R2)を表し、R2は連結部位を表す。n2は1〜4の整数を表す。*は、上記一般式(1)におけるY1との連結部位を表す。
上記一般式(A−4)において、XはN(R)、酸素原子、硫黄原子またはSi(R)(R′)を表し、E1〜E8は各々C(R1)または窒素原子を表し、R、R′及びR1は各々水素原子、置換基または一般式(1)におけるY1との連結部位を表す。Y2は単なる結合手または2価の連結基を表す。E41〜E50は各々C(R2)、窒素原子、酸素原子、硫黄元素またはSi(R3)(R4)を表し、少なくとも1つは窒素原子を表す。R2は、水素原子、置換基または連結部位を表し、R3及びR4は各々水素原子または置換基を表す。但し、E42及びE43の少なくとも1つはC(R2)を表し、R2は連結部位を表す。n2は1〜4の整数を表す。*は、上記一般式(1)におけるY1との連結部位を表す。
以下、一般式(A−1)〜(A−4)のいずれかで表される基について、更に説明する。
前記一般式(A−1)〜(A−4)で表される基で、Xで表されるN(R)またはSi(R)(R′)、及びE1〜E8で表されるC(R1)において、R、R′及びR1で各々表される置換基は、前記一般式(1)において、Y1で表される置換基と同義である。
一般式(A−1)〜(A−4)で表される基において、Y2で表される2価の連結基としては、前記一般式(1)において、Y1で表される2価の連結基と同義である。
一般式(A−1)におけるE11〜E20、一般式(A−2)におけるE21〜E30、一般式(A−3)におけるE31〜E40、一般式(A−4)におけるE41〜E50において、各々表されるC(R2)のR2で表される置換基は、前記一般式(1)において、Y1で表される置換基と同義である。
次に、本発明に係る一般式(1)で表される化合物のさらに好ましい態様について説明する。
(一般式(2)で表される化合物)
本発明では、前記一般式(1)で表される化合物の中でも、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。以下、一般式(2)で表される化合物について説明する。
上記一般式(2)において、Y5は、アリーレン基、ヘテロアリーレン基またはそれらの組み合わせからなる2価の連結基を表す。E51〜E66は、各々C(R3)または窒素原子を表し、R3は水素原子または置換基を表す。Y6〜Y9は、各々芳香族炭化水素環から導出される基または芳香族複素環から導出される基を表し、Y6及びY7の少なくとも一方と、Y8及びY9の少なくとも一方は、各々窒素原子を含む芳香族複素環から導出される基を表す。n3及びn4は各々0〜4の整数を表すが、n3+n4は2以上の整数である。
上記一般式(2)において、Y5で表されるアリーレン基、ヘテロアリーレン基は、前記一般式(1)において、Y1で表される2価の連結基の一例として記載されているアリーレン基、ヘテロアリーレン基と各々同義である。
Y5で表されるアリーレン基、ヘテロアリーレン基またはそれらの組み合わせからなる2価の連結基の好ましい態様としては、ヘテロアリーレン基の中で、3環以上の環が縮合してなる縮合芳香族複素環から導出される基を含むことが好ましく、また、当該3環以上の環が縮合してなる縮合芳香族複素環から導出される基としては、ジベンゾフラン環から導出される基またはジベンゾチオフェン環から導出される基が好ましい。
上記一般式(2)で、E51〜E66で各々表されるC(R3)において、R3で表される置換基は、前記一般式(1)において、Y1で表される置換基と同義である。
上記一般式(2)において、E51〜E66で各々表される基としては、E51〜E58のうちの6つ以上及びE59〜E66のうちの6つ以上が、各々C(R3)で表されることが好ましい。
上記一般式(2)において、Y6〜Y9は、各々芳香族炭化水素環から導出される基または芳香族複素環から導出される基を表すが、芳香族炭化水素環から導出される基の形成に用いられる芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。
さらに、前記芳香族炭化水素環は、前記一般式(1)において、Y1で表される置換基を有してもよい。
一般式(2)におけるY6〜Y9において、各々芳香族複素環から導出される基の形成に用いられる芳香族複素環としては、例えば、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノリン環、イソキノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭素原子の一つがさらに窒素原子で置換されている環を示す)等が挙げられる。
さらに、前記芳香族複素環は、前記一般式(1)において、Y1で表される置換基を有してもよい。
上記一般式(2)において、Y6及びY7の少なくとも一方と、Y8及びY9の少なくとも一方で表される窒素原子を含む芳香族複素環から導出される基の形成に用いられる窒素原子を含む芳香族複素環としては、例えば、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、イン
ドール環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノリン環、イソキノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭素原子の一つが、更に窒素原子で置換されている環を示す。)等が挙げられる。
上記一般式(2)において、Y7及びY9で表される基としては、各々ピリジン環から導出される基を表すことが好ましい。
また、一般式(2)において、Y6及びY8で表される基としては、各々ベンゼン環から導出される基を表すことが好ましい。
(一般式(3)で表される化合物)
本発明では、上記説明した一般式(2)で表される化合物の中でも、さらに下記一般式(3)で表される化合物が好ましい。以下、一般式(3)で表される化合物について説明する。
上記一般式(3)において、Y5は、アリーレン基、ヘテロアリーレン基またはそれらの組み合わせからなる2価の連結基を表す。E51〜E66、E71〜E88は、各々C(R3)または窒素原子を表し、R3は水素原子または置換基を表す。但し、E71〜E79の少なくとも1つ及びE80〜E88の少なくとも1つは窒素原子を表す。n3及びn4は各々0〜4の整数を表すが、n3+n4は2以上の整数である。
上記一般式(3)において、Y5で表されるアリーレン基、ヘテロアリーレン基は、一般式(1)において、Y1で表される2価の連結基の一例として記載されているアリーレン基、ヘテロアリーレン基と各々同義である。
Y5で表されるアリーレン基、ヘテロアリーレン基またはそれらの組み合わせからなる2価の連結基の好ましい態様としては、ヘテロアリーレン基で、3環以上の環が縮合してなる縮合芳香族複素環から導出される基を含むことが好ましく、また、当該3環以上の環が縮合してなる縮合芳香族複素環から導出される基としては、ジベンゾフラン環から導出される基またはジベンゾチオフェン環から導出される基が好ましい。
上記一般式(3)におけるE51〜E66、E71〜E88で各々表されるC(R3)において、R3で表される置換基としては、一般式(1)において、Y1で表される置換基と同義である。
一般式(3)において、E51〜E58のうちの6つ以上及びE59〜E66のうちの6つ以上は、各々C(R3)で表されることが好ましい。
一般式(3)において、E75〜E79の少なくとも1つまたはE84〜E88の少なくとも1つは、窒素原子であることが好ましい。
更には、一般式(3)において、E75〜E79の少なくとも1つ及びE84〜E88の少なくとも1つは、各々窒素原子であることが好ましい。
また、一般式(3)において、E71〜E74及びE80〜E83が、各々C(R3)で表されることが好ましい態様として挙げられる。
更に、一般式(2)または一般式(3)で表される化合物において、E53がC(R3)で表され、かつR3が連結部位を表すことが好ましく、さらに、E61も同時にC(R3)で表され、かつR3が連結部位を表すことが好ましい。
更に、E75及びE84が各々窒素原子であることが好ましく、E71〜E74及びE80〜E83が、各々C(R3)で表されることが好ましい。
(一般式(1)、(2)及び(3)で表される化合物の具体例)
以下に、本発明に係る一般式(1)、(2)及び(3)で表される化合物の合成例の一例として、例示化合物5の合成例を示す。
〈例示化合物5の合成〉
下記の合成フローに従って、例示化合物5を合成した。
工程1:中間体1の合成
窒素雰囲気下、3,6−ジブロモジベンゾフラン(1.0モル)、カルバゾール(2.0モル)、銅粉末(3.0モル)、炭酸カリウム(1.5モル)を、DMAc(ジメチルアセトアミド)300ml中に混合し、130℃で24時間撹拌した。これによって得た反応液を室温まで冷却後、トルエン1Lを加え、蒸留水で3回洗浄し、有機層を減圧下に溶媒を留去し、残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(n−ヘプタン:トルエン=4:1〜3:1)にて精製し、中間体1を収率85%で得た。
工程2:中間体2の合成
室温、大気下で、中間体1(0.5モル)をDMF(ジメチルホルムアミド)100mlに溶解し、NBS(N−ブロモコハク酸イミド)(2.0モル)を加え、一晩室温で撹拌した。得られた沈殿を濾過し、メタノールで洗浄し、中間体2を収率92%で得た。
工程3:化合物5の合成
窒素雰囲気下、中間体2(0.25モル)、2−フェニルピリジン(1.0モル)、ルテニウム錯体[(η6−C6H6)RuCl2]2(0.05モル)、トリフェニルホスフィン(0.2モル)、炭酸カリウム(12モル)を、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)3L中で混合し、140℃で一晩撹拌した。
反応液を室温まで冷却後、ジクロロメタン5Lを加え、反応液を濾過した。濾液は減圧下に溶媒を留去し(800Pa、80℃)、(N−メチル−2−ピロリドン)残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(CH2Cl2:Et3N=20:1〜10:1)にて精製した。
各フラクションを集めて溶媒を減圧下で留去した後、残渣をジクロロメタンに再び溶解し、水で3回洗浄後した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下に留去して、化合物5を収率68%で得た。
次いで、本発明に係る一般式(1)、(2)及び(3)で表される化合物の具体例(例示化合物1〜112)を示すが、本発明はこれらに限定されない。
〔電極層〕
本発明に係る電極層1bは、下地層上に銀原子を含む化合物Bを含有する溶液を用い、湿式塗布方式で形成されることを特徴とする。
本発明に係る電極層の形成に用いられる銀原子を含む化合物Bとしては、2−エチルヘキシルアンモニウム−2−エチルヘキシルカルバメート銀錯体、2−エチルヘキシルアンモニウムカーボネート銀錯体及び2−エチルヘキシルアンモニウムバイカーボネート銀錯体から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする。
(銀原子を含む化合物B)
本発明に適用可能な銀錯体化合物の好ましい一例として、下記一般式(4)で表される銀化合物と、一般式(5)のアンモニウムカルバメート系化合物、一般式(6)のアンモニウムカーボネート系化合物、一般式(7)のアンモニウムバイカーボネート系化合物またはこれらの混合物とを反応させて得られる銀錯体化合物が挙げられる。
一般式(4)
AgnX
上記一般式(4)において、Xは、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子、シアノ基、シアネート基(シアナート基ともいう)、カーボネート基(カルボナート基ともいう)、ニトレート基(ニトラート基ともいう)、ニトライト基(ニトリット基ともいう)、サルフェート基(サルファート基ともいう)、ホスフェート基(ホスファート基ともいう)、チオシアネート基(チオシアナート基ともいう)、クロレート基(クロラート基ともいう)、パークロレート基(パークロラート基ともいう)、テトラフロロボレート基(テトラフロロボラート基ともいう)、アセチルアセトネート基(アセチルアセトナート基ともいう)、カルボキシレート基(カルボキシラート基ともいう)及びこれらの誘導体から選ばれる置換基を表す。nは、1〜4の整数である。
上記一般式(5)〜(7)において、R1〜R6は、互いに独立して、水素原子、置換若しくは非置換の、炭素数が1〜30の範囲内にある脂肪族アルキル基、脂環族アルキル基、アリール基またはアラルキル基、複素環化合物基、または高分子化合物基を表す。R1とR2またはR4とR5は、互いに独立して、ヘテロ原子が含まれるか含まれないアルキレンで連結されて環を形成することができる。
上記一般式(4)で表される化合物を具体的に挙げると、酸化銀、チオシアナート化銀、シアン化銀、シアナート化銀、炭酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、硫酸銀、燐酸銀、過塩素酸化銀、四フッ素ボラート化銀、アセチルアセトナート化銀、酢酸銀、乳酸銀、シュウ酸銀、及びこれらの誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、上記一般式(5)〜(7)において、R1〜R6は、具体的には、例えば、水素原子や、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、アミル、ヘキシル、エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ドコデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アリール、ヒドロキシ、メトキシ、メトキシエチル、メトキシプロピル、シアノエチル、エトキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、メトキシエトキシエチル、メトキシエトキシエトキシエチル、ヘキサメチレンイミン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ピロール、イミダゾール、ピリジン、カルボキシメチル、トリメトキシシリルプロピル、トリエトキシシリルプロピル、フェニル、メトキシフェニル、シアノフェニル、フェノキシ、トリル、ベンジルの各基及びその誘導体、そしてポリアリルアミンやポリエチレンアミンのような高分子化合物及びこれらの誘導体から選択できるが、これらに限定されるものではない。
前記一般式(5)で表されるアンモニウムカルバメート系化合物の具体例としては、例えば、アンモニウムカルバメート(ammonium carbamate)、エチルアンモニウムエチルカルバメート、イソプロピルアンモニウムイソプロピルカルバメート、n−ブチルアンモニウムn−ブチルカルバメート、イソブチルアンモニウムイソブチルカルバメート、t−ブチルアンモニウムt−ブチルカルバメート、2−エチルヘキシルアンモニウム2−エチルヘキシルカルバメート、オクタデシルアンモニウムオクタデシルカルバメート、2―メトキシエチルアンモニウム2−メトキシエチルカルバメート、2−シアノエチルアンモニウム2−シアノエチルカルバメート、ジブチルアンモニウムジブチルカルバメート、ジオクタデシルアンモニウムジオクタデシルカルバメート、メチルデシルアンモニウムメチルデシルカルバメート、ヘキサメチレンイミンアンモニウムヘキサメチレンイミンカルバメート、モルホリニウムモルホリンカルバメート、ピリジニウムエチルヘキシルカルバメート、トリエチレンジアミニウムイソプロピルバイカルバメート、ベンジルアンモニウムベンジルカルバメート、トリエトキシシリルプロピルアンモニウムトリエトキシシリルプロピルカルバメート、及びこれらの誘導体からなる群から選ばれた1種または2種以上の混合物が挙げられる。
また、前記一般式(6)で表されるのアンモニウムカーボネート系化合物の具体例としては、例えば、アンモニウムカーボネート(ammonium carbonate)、エチルアンモニウムエチルカーボネート、イソプロピルアンモニウムイソプロピルカーボネート、n−ブチルアンモニウムn−ブチルカーボネート、イソブチルアンモニウムイソブチルカーボネート、t−ブチルアンモニウムt−ブチルカーボネート、2−エチルヘキシルアンモニウム2−エチルヘキシルカーボネート、2−メトキシエチルアンモニウム2−メトキシエチルカーボネート、2−シアノエチルアンモニウム2−シアノエチルカーボネート、オクタデシルアンモニウムオクタデシルカーボネート、ジブチルアンモニウムジブチルカーボネート、ジオクタデシルアンモニウムジオクタデシルカーボネート、メチルデシルアンモニウムメチルデシルカーボネート、ヘキサメチレンイミンアンモニウムヘキサメチレンイミンカーボネート、モルホリンアンモニウムモルホリンカーボネート、ベンジルアンモニウムベンジルカーボネート、トリエトキシシリルプロピルアンモニウムトリエトキシシリルプロピルカーボネート、トリエチレンジアミニウムイソプロピルカーボネート、及びこれらの誘導体から選択される1種または2種以上の混合物が挙げられる。
また、前記一般式(7)で表されるアンモニウムバイカーボネート系化合物の具体例としては、例えば、アンモニウムバイカーボネート(ammonium bicarbonate)、イソプロピルアンモニウムバイカーボネート、t−ブチルアンモニウムバイカーボネート、2−エチルヘキシルアンモニウムバイカーボネート、2−メトキシエチルアンモニウムバイカーボネート、2−シアノエチルアンモニウムバイカーボネート、ジオクタデシルアンモニウムバイカーボネート、ピリジニウムバイカーボネート、トリエチレンジアミニウムバイカーボネート、及びこれらの誘導体から選択される1種または2種以上の混合物が含まれる。
一方、上記のアンモニウムカルバメート系化合物、アンモニウムカーボネート系化合物またはアンモニウムバイカーボネート系化合物の種類及び製造方法は、特に制限する必要はない。例えば、米国特許第4,542,214号明細書(1985.9.17)では、第1アミン、第2アミン、第3アミンまたは少なくとも一つ以上のこれらの混合物と二酸化炭素からアンモニウムカルバメート系化合物を製造することができると記述しており、前記アミン1モル当たり水0.5モルをさらに添加すると、アンモニウムカーボネート系化合物が得られ、水1モル以上を添加する場合は、アンモニウムバイカーボネート系化合物が得られる。この際、常圧または加圧状態で、特別な溶媒無しに製造することができるが、溶媒を使用する場合、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール類、エチレングリコール、グリセリンのようなグリコール類、エチルアセテート、ブチルアセテート、カルビトールアセテートのようなアセテート類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類、メチルエチルケトン、アセトンのようなケトン類、ヘキサン、ヘプタンのような炭化水素系、ベンゼン、トルエンのような芳香族炭化水素系、そしてクロロホルムやメチレンクロライド、カーボンテトラクロライドのようなハロゲン置換溶媒、またはこれらの混合溶媒などが挙げられ、二酸化炭素は、気相状態でバブリング(bubbling)するか、固相ドライアイスを使用することができ、超臨界(supercritical)状態でも反応できる。本発明で使用されるアンモニウムカルバメート系、アンモニウムカーボネート系またはアンモニウムバイカーボネート系誘導体の製造には、前記の方法の他にも、最終物質の構造が同じであれば、公知のいかなる方法を使用してもよい。即ち、製造のための溶媒、反応温度、濃度または触媒などを特に限定する必要はなく、製造収率にも影響しない。
このように製造されたアンモニウムカルバメート系化合物、アンモニウムカーボネート系化合物またはアンモニウムバイカーボネート系化合物と、銀化合物とを反応させて有機銀錯体化合物または銀錯体混合物を製造することができる。
例えば、一般式(4)に示したような、少なくとも一つ以上の銀化合物と、一般式(5)〜(7)に示したような化合物またはこれらの混合物とを、窒素雰囲気下で、常圧または加圧状態で、溶媒無しに直接反応させることができる。また、溶媒を使用する場合には、溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール類、エチレングリコール、グリセリンのようなグリコール類、エチルアセテート、ブチルアセテート、カルビトールアセテートのようなアセテート類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類、メチルエチルケトン、アセトンのようなケトン類、ヘキサン、ヘプタンのような炭化水素系、ベンゼン、トルエンのような芳香族、そしてクロロホルムやメチレンクロライド、カーボンテトラクロライドのようなハロゲン置換溶媒、またはこれらの混合溶媒などを使用することができる。
(銀錯体化合物の合成例)
以下に、本発明に係る銀原子を含む化合物Bの代表例である銀錯体化合物の代表的な合成例を示す。
〈銀錯体化合物(1)の合成:2−エチルヘキシルアンモニウム−2−エチルヘキシルカルバメート銀錯体の合成〉
下記の方法に従って、酸化銀と2−エチルヘキシルアンモニウム−2−エチルヘキシルカルバメートとを反応させて、銀錯体化合物(1)として、2−エチルヘキシルアンモニウム−2−エチルヘキシルカルバメート銀錯体を合成した。
攪拌器付き50mlの三つ口フラスコに、2−エチルヘキシルアンモニウム−2−エチルヘキシルカルバメートの3.25g(10.75ミリモル)を、10mlのメタノールに溶解させた後、酸化銀を1.0g(4.31ミリモル)添加して常温で反応させた。反応溶液は、最初は黒色懸濁液で反応が進行し、銀錯体化合物が生成されるにつれて色が薄くなり、透明な色に変わることが観察されて、2時間反応した結果、無色の透明な溶液に変わった。この溶液を0.45ミクロンのメンブランフィルタを使用して濾過し、未反応の酸化銀を除去した後、真空下で溶媒を全て除去すると、白色の固体が得られる。これをエチルアセテートで再結晶して乾燥した後、質量を測定した結果、銀錯体化合物(1)として、2−エチルヘキシルアンモニウム−2−エチルヘキシルカルバメート銀錯体が、4.22g(収率:99.4%)得られた。得られた銀錯体化合物(1)の融点は57〜58℃であって、熱質量分析の結果、銀含量は22.0質量%であった。
〈銀錯体化合物(2)の合成:n−プロピルアンモニウム−n−プロピルカルバメート銀錯体の合成〉
下記の方法に従って、酸化銀とn−プロピルアンモニウムn−プロピルカルバメートとを反応させて、銀錯体化合物(2)として、n−プロピルアンモニウム−n−プロピルカルバメート銀錯体を合成した。
攪拌器付き50mlの三つ口フラスコに、n−プロピルアンモニウム−n−プロピルカルバメートの1.74g(10.75ミリモル)を、10mlのメタノールに溶解させた後、酸化銀を1.0g(4.31ミリモル)添加して、常温で2時間攪拌して反応させた結果、上記と同様な反応によって無色の透明な銀錯体化合物溶液が得られた。この溶液を0.45ミクロンのメンブランフィルタを使用してフィルタした後、真空下で溶媒を全て除去すると、白色の固体が得られるが、これを乾燥した後、質量を測定した結果、銀錯体化合物(2)として、n−プロピルアンモニウム−n−プロピルカルバメート銀錯体が、2.42g(収率:88.3%)得られた。熱質量分析の結果、130℃以下で大部分の分解が完了して銀金属が残留し、銀含量は38.4質量%であった。
〈銀錯体化合物(3)の合成:イソプロピルアンモニウムイソプロピルカルバメート銀錯体の合成〉
下記の方法に従って、酸化銀とイソプロピルアンモニウムイソプロピルカルバメートとを反応させて、銀錯体化合物(3)として、イソプロピルアンモニウムイソプロピルカルバメート銀錯体を合成した。
攪拌器付き50mlの三つ口フラスコに、イソプロピルアンモニウムイソプロピルカルバメートの1.60g(10.75ミリモル)を、10mlのメタノールに溶解させた後、酸化銀を1.0g(4.31ミリモル)添加して常温で反応させた。この反応溶液は、最初は黒色懸濁液で反応が進行され、銀錯体化合物が生成されるにつれて色が薄くなり、透明に変わることが観察されて、2時間攪拌して反応させた結果、無色の透明な溶液が得られた。
この溶液を0.45ミクロンのメンブランフィルタを使用してフィルタした後、真空下で溶媒を全て除去すると、白色の固体が得られ、これを乾燥した後、質量を測定した結果、銀錯体化合物(3)として、イソプロピルアンモニウムイソプロピルカルバメート銀錯体が2.48g(収率:95.5%)得られた。熱質量分析の結果、130℃以下で大部分の分解が完了して銀金属が残留し、銀含量は37.2質量%であった。
〈銀錯体化合物(4)の合成:n−ブチルアンモニウム−n−ブチルカルバメート銀錯体の合成〉
下記の方法に従って、酸化銀とn−ブチルアンモニウム−n−ブチルカルバメートとを反応させて、銀錯体化合物(4)として、n−ブチルアンモニウム−n−ブチルカルバメート銀錯体を合成した。
攪拌器付き50mlの三つ口フラスコに、n−ブチルアンモニウム−n−ブチルカルバメートの2.04g(10.75ミリモル)を、10mlのメタノールに溶解させた後、酸化銀を1.0g(4.31ミリモル)添加して常温で反応させた。この反応溶液は、最初は黒色懸濁液で反応が進行され、銀錯体化合物が生成されるにつれて色が薄くなり、透明に変わることが観察され、2時間攪拌して反応させた結果、無色の透明な溶液が得られた。この溶液を0.45ミクロンのメンブランフィルタを使用してフィルタした後、真空下で溶媒を全て除去すると、白色の固体が得られた。これを乾燥した後、質量を測定した結果、銀錯体化合物(4)として、n−ブチルアンモニウム−n−ブチルカルバメート銀錯体が2.79g(収率:92.0%)得られた。熱質量分析の結果、130℃以下で大部分の分解が完了され、銀金属が残り、銀含量は33.2質量%であった。
〈銀錯体化合物(5)の合成:2−エチルヘキシルアンモニウムカーボネート銀錯体の合成〉
下記の方法に従って、酸化銀と2−エチルヘキシルアンモニウムカーボネートとを反応させて、銀錯体化合物(5)として、2−エチルヘキシルアンモニウムカーボネート銀錯体を合成した。
攪拌器付き50mlの三つ首フラスコに、2−エチルヘキシルアンモニウムカーボネートの3.72g(11.61ミリモル)を、10mlのメタノールに溶解させた後、酸化銀を1.0g(4.31ミリモル)添加した。この反応溶液は、黒色懸濁液で反応が進行されるにつれて、だんだん透明な色に変わることが観察されて、2時間が経った後には、完全に無色の透明な溶液に変わった。この溶液を0.45ミクロンのメンブランフィルタを使用してフィルタし、未反応の酸化銀粒子を除去して、真空下で溶媒を全て除去すると、白色の固体が得られ、これを乾燥した後、質量を測定した結果、銀錯体化合物(5)として、2−エチルヘキシルアンモニウムカーボネート銀錯体が4.02g(収率:85.2%)が得られた。この銀錯体化合物(5)の融点は55〜57℃で、熱質量分析結果、銀含量は21.43質量%であった。
〈銀錯体化合物(6)の合成:イソプロピルアンモニウムカーボネート銀錯体(1)の合成〉
下記の方法に従って、酸化銀とイソプロピルアンモニウムカーボネートとを反応させて、銀錯体化合物(6)として、イソプロピルアンモニウムカーボネート銀錯体(1)を合成した。
攪拌器付き50mlの三つ口フラスコに、イソプロピルアンモニウムカーボネートの2.01g(11.18ミリモル)を、10mlのメタノールに溶解させた後、酸化銀を1.0g(4.31ミリモル)添加した。この反応溶液は、黒色懸濁液で反応が進行されるにつれて、だんだん透明な色に変わることが観察されて、2時間が経った後には、完全に無色の透明な溶液に変化した。この溶液を0.45ミクロンのメンブランフィルタを使用してフィルタした後、真空下で溶媒を全て除去すると、白色の固体が得られ、これを乾燥した後、質量を測定した結果、銀錯体化合物(6)として、イソプロピルアンモニウムカーボネート銀錯体(1)が2.41g(収率:80.2%)得られた。熱質量分析の結果、130℃以下で銀金属が残り、銀含量は、38.6質量%であった。
〈銀錯体化合物(7)の合成:イソプロピルアンモニウムカーボネート銀錯体(2)の合成〉
下記の方法に従って、炭酸銀とイソプロピルアンモニウムカーボネートとを反応させて、銀錯体化合物(7)として、イソプロピルアンモニウムカーボネート銀錯体(2)を合成した。
攪拌器付き50mlの三つ口フラスコに、イソプロピルアンモニウムカーボネートの2.07g(11.52ミリモル)を、10mlのメタノールに溶解させた後、炭酸銀を1.0g(3.60ミリモル)添加した。この反応溶液は、黄色懸濁液で反応が進行されるにつれて、だんだん透明な色に変わることが観察されて、6時間が経った後には、完全に無色の透明な溶液に変化した。この溶液を0.45ミクロンのメンブランフィルタを使用してフィルタした後、真空下で溶媒を全て除去すると、白色の固体が得られるが、これを乾燥した後、質量を測定した結果、銀錯体化合物(7)として、イソプロピルアンモニウムカーボネート銀錯体(2)が2.42g(収率:78.8%)得られた。熱質量分析の結果、130℃以下で銀金属が残って、銀含量は32.23質量%であった。
〈銀錯体化合物(8)の合成:2−エチルヘキシルアンモニウムバイカーボネート銀錯体の合成〉
下記の方法に従って、酸化銀と2−エチルヘキシルアンモニウムバイカーボネートとを反応させて、銀錯体化合物(8)として、2−エチルヘキシルアンモニウムバイカーボネート銀錯体を合成した。
攪拌器付き50mlの三つ口フラスコに、2−エチルヘキシルアンモニウムバイカーボネートの4.86g(25.37ミリモル)を、10mlのメタノールに溶解させた後、酸化銀を1.0g(4.31ミリモル)添加した。この反応溶液は、黒色懸濁液で反応が進行されるにつれて、だんだん透明な色に変わることが観察されて、2時間が経った後には、完全に無色の透明な溶液に変化した。この溶液を0.45ミクロンのメンブランフィルタを使用してフィルタした後、真空下で溶媒を全て除去すると、白色の固体が得られるが、これを乾燥した後、質量を測定した結果、銀錯体化物(8)として、2−エチルヘキシルアンモニウムバイカーボネート銀錯体が4.33g(収率:73.9%)得られた。前記銀錯体化合物の融点は56〜57℃であって、熱質量分析の結果、銀含量は21.48質量%であった。
本発明に係る銀錯体化合物としては、上記で示した合成法で得られる化合物に限定されるものではなく、他の銀錯体化合物の例として、例えば、特開平9−235287号公報や、J.Am.Chem.Soc.,2012,134(3),pp1419-1421に記載の化合物等を挙げることができる。
本発明に係る銀原子を含む化合物B、例えば、上記説明した銀錯体化合物を、下地層上に湿式塗布方式により塗布するのに用いる溶液(以下、電極層形成用塗布液ともいう。)を調製する際には、塗布液の粘度調節や円滑な薄膜形成のために、溶媒が必要な場合があるが、この際に使用できる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−メトキシプロパノール、ブタノール、エチルヘキシルアルコール、テルピネオールのようなアルコール類、エチレングリコール、グリセリンのようなグリコール類、エチルアセテート、ブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテートのようなアセテート類、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドンのようなケトン類、ヘキサン、ヘプタン、ドデカン、パラフィンオイル、ミネラルスピリットのような炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素系、そしてクロロホルムやメチレンクロライド、カーボンテトラクロライドのようなハロゲン置換溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、またはこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
本発明の透明電極を形成する際には、本発明に係る電極層1bは、下地層1a上に湿式塗布方式を用いて成膜されるが、電極層は成膜後に高温アニール処理等がなくても十分に導電性を有することができることを特徴とするが、必要に応じて、80〜150℃程度の比較的低温でのアニール処理等を行うことが好ましい。アニール処理の時間に特に限定は無いが、例えば、1〜30分間程度の処理が好ましい。アニールの方法としては、ホットプレート、温風処理、赤外線照射方式、輻射熱方式等が挙げられる。リジッドガラス等を基材に用いる場合には、どのようなアニール方法を用いても結果として大きな差は生じないが、樹脂フィルム等のフレキシブル基材を用いる場合は、温風処理、赤外線照射方式、輻射熱方式等の非接触方式が好ましい。
前記導電性付与のための電極層のコーティング方法は、湿式塗布方法であれば特に制限はなく、電極層形成用塗布液の物性によって、それぞれスピンコーティング、ロールコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、フロー(flow)コーティング、ドクターブレード(doctor blade)とディスペンシング、インクジェットプリンティング、オフセットプリンティング、スクリーンプリンティング、パッド(pad)プリンティング、グラビアプリンティング、フレキソプリンティング、ステンシルプリンティング、インプリンティング(imprinting)、ゼログラフィー(xerography)、リソグラフィーなどを選択して使用することができ、特に好ましいし湿式塗布方式としては、スピンコーティング、スプレーコーティング、インクジェットプリンティング方式を挙げることができる。
本発明に係る電極層1bは、膜厚が4〜9nmの範囲にあることが好ましい。膜厚が9nm以下であれば、層の吸収成分または反射成分が少なく、透明電極の透過率を高く維持できる観点から好ましい。また、膜厚が4nm以上であれば、電極層の導電性が十分となり好ましい。
上記の膜厚は、上記塗布方式毎に、その塗布方式に適した銀原子を含有する化合物の塗布液濃度と塗布時のウェット膜厚を適宜設定することにより、所望の膜厚を有する電極層を得ることができる。
下地層1aとこの上部に成膜された電極層1bとからなる積層構造の透明電極1は、電極層1bの上部が更に保護膜で覆われている構成、あるいは他の導電性層が積層されている構成であってもよい。この場合、透明電極1の光透過性を損なうことのないように、保護膜や導電性層が、共に光透過性を有することが好ましい。また、下地層1aの下部、すなわち下地層1aと基材11との間にも、必要に応じて、他の層を設けた構成としても良い。
〔透明電極の特性〕
以上のような構成からなる本発明の透明電極1は、窒素原子を含んだ化合物Aを用いて構成された下地層1a上に、銀原子を有する化合物Bを含有する溶液を湿式塗布方式を用いて塗布することにより得られる電極層1bを設けた構成である。これにより、下地層1aの上部に電極層1bを成膜する際には、電極層1bを構成する銀原子が下地層1aを構成する窒素原子を含んだ化合物と相互作用し、銀原子の下地層1a表面において銀原子を含有する化合物の凝集が抑えられる。
ここで、一般的に銀を主成分とした電極層1bの塗布成膜においては、銀粒子が島状にモトル等を形成して孤立し易く、膜厚が薄いときは均一の導電性を得ることが困難であり、シート抵抗値が高くなる。したがって、そのような場合には、導電性を確保するには膜厚を厚くする必要があるが、膜厚を厚くすると光透過率が下がるため、透明電極としては不適であった。
しかしながら、本発明で規定する構成からなる透明電極1によれば、上述したように下地層1a上に塗設した際に銀の凝集が抑えられるため、銀を主成分とした電極層1bの成膜において、前述の銀粒子を用いた場合のように、島状に孤立する状態が起こりにくく、安定して均一な電極層塗膜を得ることができ、導電性の観点で有利となる。
また、本発明の透明電極1でいう透明とは、前述のように波長550nmでの光透過率が50%以上であることをいうが、下地層1aとして用いられる上述した各材料は、銀粒子を主成分とした電極層に比較して、散乱が生じにくく、溶解状態で銀成分が存在しているため、十分な光透過性を備えた膜を得ることができる。
一方、透明電極1の導電性は主に電極層1bによって確保される。したがって上述のように、銀を主成分とした化合物により電極層1bを形成するため、より薄い膜厚で導電性を確保することができ、透明電極1における導電性の向上と光透過性の向上の両立を図ることが可能になるのである。
《透明電極の用途》
上述した構成の本発明の透明電極1は、各種電子デバイスに用いることができる。電子デバイスの例としては、有機電界発光素子、LED(light Emitting Diode)、液晶素子、太陽電池、タッチパネル等が挙げられ、これらの電子デバイスにおいて光透過性を必要とされる電極部材として、上述の透明電極1を用いることができる。
以下、用途の一例として、透明電極を用いた有機電界発光素子の実施の形態を説明する。
[透明電極の有機電界発光素子への適用]
〔有機電界発光素子の第1例〕
(有機電界発光素子の構成)
図2は、本発明の有機電界発光素子の一例として、上述した透明電極1を用いた有機電界発光素子(以下、有機EL素子ともいう。)の第1例を示す概略断面図である。以下、図2に基づいて、有機電界発光素子100の構成を説明する。
図2に示す有機電界発光素子100は、透明基板13上に設けられており、透明基板13側から順に、透明電極1、有機材料等を用いて構成された発光機能層3、及び対向電極5aをこの順に積層して構成されている。この有機電界発光素子100においては、透明電極1としては、本発明の下地層1aと電極層1bから構成される透明電極1を用いているところが特徴的である。
このため、有機電界発光素子100では、発生させた光(以下、発光光hと記す)を、少なくとも透明基板13側から取り出すように構成されている。
また、有機電界発光素子100の層構造は、限定されることはなく、一般的な層構造であって良い。ここでは、透明電極1がアノード(すなわち陽極)として機能し、対向電極5aがカソード(すなわち陰極)として機能することとする。この場合、例えば、発光機能層3は、アノードである透明電極1側から正孔注入層3a/正孔輸送層3b/発光層3c/電子輸送層3d/電子注入層3eの順で積層した構成が例示されるが、このうち少なくとも有機材料を用いて構成された発光層3cを有することが必須である。正孔注入層3a及び正孔輸送層3bは、正孔輸送/注入層とした単一層とし設けられてもよい。同じく、電子輸送層3d及び電子注入層3eは、電子輸送/注入層とした単一層として設けられていてもよい。またこれらの発光機能層3のうち、例えば、電子注入層3eは無機材料で構成されている場合もある。
また、発光機能層3としては、これらの層の他にも正孔阻止層や電子阻止層等が必要に応じて必要箇所に積層されていてもよい。さらに発光層3cは、各波長領域の発光光を発生させる各色発光層を複数層有し、これらの各色発光層を、非発光性の中間層を介して積層させた構造としても良い。中間層は、正孔阻止層、電子阻止層として機能しても良い。さらにカソードである対向電極5aも、必要に応じた積層構造であっても良い。このような構成において、透明電極1と対向電極5aとで発光機能層3が挟持された部分のみが、有機電界発光素子100における発光領域となる。
また、上記のような層構成においては、透明電極1の低抵抗化を図ることを目的とし、透明電極1の電極層1bに接して補助電極15が設けられていても良い。
以上のような構成の有機電界発光素子100は、有機材料等を用いて構成された発光機能層3の劣化を防止することを目的として、透明基板13上に、後述する封止材17で封止されている。この封止材17は、接着剤19を介して透明基板13側に固定されている。ただし、透明電極1及び対向電極5aの端子部分は、透明基板13上において発光機能層3によって互いに絶縁性を保った状態で封止材17から露出させた状態で設けられていることとする。
以下、上述した有機電界発光素子100を構成するための主要各層の詳細を、透明基板13、透明電極1、対向電極5a、発光機能層3の発光層3c、発光機能層3の他の層、補助電極15、及び封止材17の順に説明する。その後、有機電界発光素子の作製方法について説明する。
(透明基板13)
透明基板13は、先に説明した本発明の透明電極1が設けられる基材(図1における11)であり、先に図1にて説明した基材11のうち、光透過性を有する透明な基材11が用いられる。
(透明電極1:アノード)
透明電極1は、先に説明した本発明の透明電極1であり、透明基板13側から下地層1a及び電極層1bの順に成膜した構成である。ここでは、特に、透明電極1はアノードとして機能するものであり、電極層1bが実質的なアノードとなる。
(対向電極5a:カソード)
対向電極5aは、発光機能層3に電子を供給するカソードとして機能する電極膜であり、金属、合金、有機または無機の導電性化合物、及びこれらの混合物が用いられる。具体的には、アルミニウム、銀、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属、ITO、ZnO、TiO2、SnO2等の酸化物半導体などが挙げられる。
対向電極5aは、これらの導電性材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより作製することができる。また、対向電極5aとしてのシート抵抗は、数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常5nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で選ばれる。
尚、この有機電界発光素子100が、対向電極5a側からも発光光hを取り出すものである場合であれば、上述した導電性材料のうち光透過性の良好な導電性材料を選択して対向電極5aを構成すれば良い。
(発光層3c)
本発明に用いられる発光層3cは、発光材料として燐光発光化合物が含有されていることが好ましい。
この発光層3cは、電極または電子輸送層3dから注入された電子と、正孔輸送層3bから注入された正孔とが再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層3cの層内であっても発光層3cと隣接する層との界面であってもよい。
このような発光層3cとしては、含まれる発光材料が発光要件を満たしていれば、その構成には特に制限はない。また、同一の発光スペクトルや発光極大波長を有する層が複数層あってもよい。この場合、各発光層3c間には非発光性の中間層(図示せず)を有していることが好ましい。
発光層3cの膜厚の総和は1〜100nmの範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは、より低い駆動電圧を得ることができる観点から、1〜30nmの範囲内である。尚、発光層3cの膜厚の総和とは、発光層3c間に非発光性の中間層が存在する場合には、当該中間層も含む膜厚である。
複数の層を積層した構成の発光層3cの場合、個々の発光層の膜厚としては、1〜50nmの範囲に調整することが好ましく、さらに好ましくは1〜20nmの範囲に調整することである。積層された複数の発光層が、青、緑、赤のそれぞれの発光色に対応する場合、青、緑、赤の各発光層の膜厚の関係については、特に制限はない。
以上のような構成からなる発光層3cには、後述する発光材料やホスト化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜形成方法により製膜して形成することができる。
また、発光層3cには、複数の発光材料を混合してもよく、また燐光発光材料と蛍光発光材料(蛍光ドーパント、蛍光性化合物ともいう)を同一発光層3c中に混合して用いてもよい。
発光層3cの構成として、ホスト化合物(発光ホスト等ともいう)、発光材料(発光ドーパント化合物ともいう)を含有し、発光材料より発光させることが好ましい。
〈ホスト化合物〉
発光層3cに含有されるホスト化合物としては、発光層が発光材料として燐光発光化合物を含有する場合には、室温(25℃)における燐光発光の燐光量子収率が0.1未満の化合物が好ましい。さらに好ましくは燐光量子収率が0.01未満である。また、発光層3cに含有される化合物の中で、その層中での体積比が50%以上であることが好ましい。
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機電界発光素子100を高効率化することができる。また、後述する発光材料を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
用いられるホスト化合物としては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもよい。
公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、発光の長波長化を防ぎ、かつ高Tg(ガラス転移温度)化合物が好ましい。ここでいうガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS−K−7121に準拠した方法により求められる値である。
以下に、本発明で用いることのできるホスト化合物の具体例(H1〜H79)を示すが、これらに限定されない。なお、ホスト化合物H68〜H79において、x及びyはランダム共重合体の比率を表す。その比率は、例えば、x:y=1:10などとすることができる。
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物を用いることもできる。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等が挙げられる。
〈発光材料〉
本発明に係る発光層3cで用いることのできる発光材料としては、燐光発光性化合物(燐光性化合物、燐光発光材料ともいう)が挙げられる。
燐光発光性化合物とは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には室温(25℃)にて燐光発光する化合物であり、燐光量子収率が25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましい燐光量子収率は0.1以上である。
上記燐光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中での燐光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明において燐光発光性化合物を用いる場合、任意の溶媒のいずれかにおいて上記燐光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
燐光発光性化合物の発光の原理としては2種挙げられる。一つは、キャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーを燐光発光性化合物に移動させることで燐光発光性化合物からの発光を得るというエネルギー移動型であり、もう一つは、燐光発光性化合物がキャリアトラップとなり、燐光発光性化合物上でキャリアの再結合が起こり燐光発光性化合物からの発光が得られるというキャリアトラップ型である。いずれの場合においても、燐光発光性化合物の励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件となる。
燐光発光性化合物は、一般的な有機電界発光素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、好ましくは元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
本発明においては、少なくとも一つの発光層3cに2種以上の燐光発光性化合物を含有していてもよく、発光層3cにおける燐光発光性化合物の濃度比が発光層3cの厚さ方向で変化していてもよい。
燐光発光性化合物は好ましくは発光層3cの総量に対し0.1体積%以上30体積%未満である。
発光層3cに含まれる発光材料(燐光発光性化合物)としては、下記一般式(8)〜(10)で表される化合物であることが好ましい。
〈一般式(8)で表される化合物〉
下記一般式(8)で表される燐光発光性化合物(燐光発光性の金属錯体ともいう)は、有機電界発光素子100の発光層3cに発光ドーパントとして含有されることが好ましい態様であるが、発光層3c以外の発光機能層に含有されていてもよい。
上記一般式(8)において、P及びQは、各々炭素原子または窒素原子を表し、A1はP−Cと共に芳香族炭化水素環または芳香族複素環を形成する原子群を表す。A2はQ−Nと共に芳香族複素環を形成する原子群を表す。P1−L1−P2は2座の配位子を表し、P1及びP2は各々独立に炭素原子、窒素原子または酸素原子を表す。L1はP1及びP2と共に2座の配位子を形成する原子群を表す。j1は1〜3の整数を表し、j2は0〜2の整数を表すが、j1+j2は2または3である。M1は元素周期表における8族〜10族の遷移金属元素を表す。
一般式(8)において、P及びQは、各々炭素原子または窒素原子を表す。
一般式(8)において、A1がP−Cと共に形成する芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。
これらの環は、更に前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
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一般式(8)において、A1がP−Cと共に形成する芳香族複素環としては、例えば、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環等が挙げられる。
ここで、アザカルバゾール環とは、前記カルバゾール環を構成するベンゼン環の炭素原子が1つ以上の窒素原子で置き換わったものを示す。
これらの環は、更に前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
一般式(8)において、A2がQ−Nと共に形成する芳香族複素環としては、例えば、オキサゾール環、オキサジアゾール環、オキサトリアゾール環、イソオキサゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、イソチアゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環等が挙げられる。
これらの環は、更に前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
一般式(8)において、P1−L1−P2は2座の配位子を表し、P1及びP2は各々独立に炭素原子、窒素原子または酸素原子を表す。L1はP1及びP2と共に2座の配位子を形成する原子群を表す。
P1−L1−P2で表される2座の配位子としては、例えば、フェニルピリジン、フェニルピラゾール、フェニルイミダゾール、フェニルトリアゾール、フェニルテトラゾール、ピラザボール、アセチルアセトン、ピコリン酸等が挙げられる。
一般式(8)において、j1は1〜3の整数を表し、j2は0〜2の整数を表すが、j1+j2は2または3を表す、中でも、j2は0である場合が好ましい。
一般式(8)において、M1は元素周期表における8族〜10族の遷移金属元素(単に遷移金属ともいう)が用いられるが、中でも、イリジウム好ましい。
〈一般式(9)で表される化合物〉
上記一般式(8)で表される化合物の中でも、下記一般式(9)で表される化合物であることがさらに好ましい。
上記一般式(9)において、Zは、炭化水素環基または複素環基を表す。P及びQは、各々炭素原子または窒素原子を表し、A1はP−Cと共に芳香族炭化水素環または芳香族複素環を形成する原子群を表す。A3は−C(R01)=C(R02)−、−N=C(R02)−、−C(R01)=N−または−N=N−を表し、R01及びR02は、各々水素原子または置換基を表す。P1−L1−P2は2座の配位子を表し、P1及びP2は各々独立に炭素原子、窒素原子または酸素原子を表す。L1はP1及びP2と共に2座の配位子を形成する原子群を表す。j1は1〜3の整数を表し、j2は0〜2の整数を表すが、j1+j2は2または3である。M1は元素周期表における8族〜10族の遷移金属元素を表す。
一般式(9)において、Zで表される炭化水素環基としては、非芳香族炭化水素環基、芳香族炭化水素環基が挙げられ、非芳香族炭化水素環基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらの基は、無置換でも後述する置換基を有していてもよい。
また、芳香族炭化水素環基(芳香族炭化水素基、アリール基等ともいう)としては、例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等が挙げられる。
これらの基は、無置換でもよく、あるいは前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
一般式(9)において、Zで表される複素環基としては、非芳香族複素環基、芳香族複素環基等が挙げられ、非芳香族複素環基としては、例えば、エポキシ環、アジリジン環、チイラン環、オキセタン環、アゼチジン環、チエタン環、テトラヒドロフラン環、ジオキソラン環、ピロリジン環、ピラゾリジン環、イミダゾリジン環、オキサゾリジン環、テトラヒドロチオフェン環、スルホラン環、チアゾリジン環、ε−カプロラクトン環、ε−カプロラクタム環、ピペリジン環、ヘキサヒドロピリダジン環、ヘキサヒドロピリミジン環、ピペラジン環、モルホリン環、テトラヒドロピラン環、1,3−ジオキサン環、1,4−ジオキサン環、トリオキサン環、テトラヒドロチオピラン環、チオモルホリン環、チオモルホリン−1,1−ジオキシド環、ピラノース環、ジアザビシクロ[2,2,2]−オクタン環等から導出される基を挙げられる。
これらの基は、無置換でもよく、あるいは前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
芳香族複素環基としては、例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等が挙げられる。
これらの基は、無置換でもよく、あるいは前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
Zで表される基は、好ましくは芳香族炭化水素環基または芳香族複素環基である。
一般式(9)において、A1がP−Cと共に形成する芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。
これらの環はさらに、前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
一般式(9)において、A1がP−Cと共に形成する芳香族複素環としては、例えば、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、カルバゾール環、カルボリン環、アザカルバゾール環等が挙げられる。
ここで、アザカルバゾール環とは、前記カルバゾール環を構成するベンゼン環の炭素原子が1つ以上窒素原子で置き換わったものを示す。
これらの環はさらに、前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
一般式(9)においてA3で表される、−C(R01)=C(R02)−、−N=C(R02)−、−C(R01)=N−において、R01、R02で各々表される置換基は、前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基と同義である。
一般式(9)において、P1−L1−P2で表される2座の配位子としては、例えば、フェニルピリジン、フェニルピラゾール、フェニルイミダゾール、フェニルトリアゾール、フェニルテトラゾール、ピラザボール、アセチルアセトン、ピコリン酸等が挙げられる。
また、j1は1〜3の整数を表し、j2は0〜2の整数を表すが、j1+j2は2または3を表す、中でも、j2は0である場合が好ましい。
一般式(9)において、M1で表される元素周期表における8族〜10族の遷移金属元素(単に遷移金属ともいう)は、一般式(8)において説明したM1で表される元素周期表における8族〜10族の遷移金属元素と同義である。
〈一般式(10)で表される化合物〉
上記一般式(9)で表される化合物の好ましい態様の一つとして、下記一般式(10)で表される化合物が挙げられる。
上記一般式(10)において、R03は置換基を表し、R04は水素原子または置換基を表し、複数のR04は互いに結合して環を形成してもよい。n01は1〜4の整数を表す。R05は水素原子または置換基を表し、複数のR05は互いに結合して環を形成してもよい。n02は1〜2の整数を表す。R06は水素原子または置換基を表し、互いに結合して環を形成してもよい。n03は1〜4の整数を表す。Z1はC−Cと共に6員の芳香族炭化水素環もしくは、5員または6員の芳香族複素環を形成するのに必要な原子群を表す。Z2は炭化水素環基または複素環基を形成するのに必要な原子群を表す。P1−L1−P2は2座の配位子を表し、P1及びP2は各々独立に炭素原子、窒素原子または酸素原子を表す。L1は、P1及びP2と共に2座の配位子を形成する原子群を表す。j1は1〜3の整数を表し、j2は0〜2の整数を表すが、j1+j2は2または3である。M1は元素周期表における8族〜10族の遷移金属元素を表す。R03とR06、R04とR06及びR05とR06は互いに結合して環を形成していてもよい。
一般式(10)において、R03、R04、R05及びR06で各々表される置換基は、前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基と同義である。
一般式(10)において、Z1がC−Cと共に形成する6員の芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環等が挙げられる。
これらの環はさらに、前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
一般式(10)において、Z1がC−Cと共に形成する5員または6員の芳香族複素環としては、例えば、オキサゾール環、オキサジアゾール環、オキサトリアゾール環、イソオキサゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、イソチアゾール環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環等が挙げられる。
これらの環はさらに、前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
一般式(10)において、Z2で表される炭化水素環基としては、非芳香族炭化水素環基、芳香族炭化水素環基が挙げられ、非芳香族炭化水素環基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらの基は、無置換でも後述する置換基を有していてもよい。
また、芳香族炭化水素環基(芳香族炭化水素基、アリール基等ともいう)としては、例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等が挙げられる。これらの基は、無置換でもよく、前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
一般式(10)において、Z2で表される複素環基としては、非芳香族複素環基、芳香族複素環基等が挙げられ、非芳香族複素環基としては、例えば、エポキシ環、アジリジン環、チイラン環、オキセタン環、アゼチジン環、チエタン環、テトラヒドロフラン環、ジオキソラン環、ピロリジン環、ピラゾリジン環、イミダゾリジン環、オキサゾリジン環、テトラヒドロチオフェン環、スルホラン環、チアゾリジン環、ε−カプロラクトン環、ε−カプロラクタム環、ピペリジン環、ヘキサヒドロピリダジン環、ヘキサヒドロピリミジン環、ピペラジン環、モルホリン環、テトラヒドロピラン環、1,3−ジオキサン環、1,4−ジオキサン環、トリオキサン環、テトラヒドロチオピラン環、チオモルホリン環、チオモルホリン−1,1−ジオキシド環、ピラノース環、ジアザビシクロ[2,2,2]−オクタン環等から導出される基を挙げることができる。これらの基は無置換でもよく、また、前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
芳香族複素環基としては、例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等が挙げられる。
これらの環は無置換でもよく、さらに、前記一般式(1)において説明したY1で表される置換基を有してもよい。
一般式(10)において、Z1及びZ2で形成される基としては、ベンゼン環が好ましい。
一般式(10)において、P1−L1−P2で表される2座の配位子としては、前記一般式(8)において、P1−L1−P2で表される2座の配位子と同義である。
一般式(10)において、M1で表される元素周期表における8族〜10族の遷移金属元素は、前記一般式(8)において、M1で表される元素周期表における8族〜10族の遷移金属元素と同義である。
また、燐光発光性化合物は、有機電界発光素子100の発光層3cに使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
本発明に係る燐光発光性化合物は、好ましくは元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
以下に、本発明に係る燐光発光性化合物の具体例(Pt−1〜Pt−3、A−1、Ir−1〜Ir−45)を示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、これらの化合物において、m及びnは繰り返し数を表す。
本発明に適用可能な燐光発光性化合物は、例えば、Organic Letter誌、vol3、No.16、2579〜2581頁(2001)、Inorganic Chemistry,第30巻、第8号、1685〜1687頁(1991年)、J.Am.Chem.Soc.,123巻、4304頁(2001年)、Inorganic Chemistry,第40巻、第7号、1704〜1711頁(2001年)、Inorganic Chemistry,第41巻、第12号、3055〜3066頁(2002年)、New Journal of Chemistry.,第26巻、1171頁(2002年)、European Journal of Organic Chemistry,第4巻、695〜709頁(2004年)、さらにこれらの文献中に記載の参考文献等の方法を適用することにより合成できる。
〈蛍光発光材料〉
本発明においては、発光材料として蛍光発光材料を用いることができる。蛍光発光材料としては、例えば、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、または希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
(注入層:電子注入層3e、正孔注入層3a)
本発明でいう注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と発光層3cとの間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)にその詳細が記載されており、正孔注入層3aと電子注入層3eとがある。
注入層は、必要に応じて設けることができる。正孔注入層3aであれば、アノードと発光層3cまたは正孔輸送層3bの間、電子注入層3eであればカソードと発光層3cまたは電子輸送層3dとの間に存在させてもよい。
正孔注入層3aは、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層の具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン層、酸化バナジウムに代表される酸化物層、アモルファスカーボン層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子層等が挙げられる。
電子注入層3eは、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属層、フッ化カリウムに代表されるアルカリ金属ハライド層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物層、酸化モリブデンに代表される酸化物層等が挙げられる。本発明の電子注入層3eはごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は1nm〜10μmの範囲が好ましい。
(正孔輸送層3b)
正孔輸送層3bは、正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層3aや電子阻止層も、正孔輸送層3bのカテゴリーに含まれる。正孔輸送層3bは、単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものでありばよく、有機物あるいは無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また、導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
正孔輸送材料としては、上記例示した化合物を使用することができるが、その中でも、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(以下、TPDと略記。);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(以下、NPDと略記。)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(以下、MTDATAと略記。)等が挙げられる。
さらに、これらの材料を高分子鎖に導入した、あるいはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.,Applied Physics Letters,80(2002),p.139に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることから、これらの材料を用いることが好ましい。
正孔輸送層3bは、上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層3bの膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層3bは、上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
また、正孔輸送層3bの材料に不純物をドープして、p性を高くすることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
このように、正孔輸送層3bのp性を高くすると、より低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
(電子輸送層3d)
電子輸送層3dは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層3e及び正孔阻止層(図示せず)も、電子輸送層3dのカテゴリーに含まれる。電子輸送層3dは、単層構造または複数層の積層構造として設けることができる。
単層構造の電子輸送層3d、及び積層構造の電子輸送層3dにおいて、発光層3cに隣接する層部分を構成する電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、カソードより注入された電子を発光層3cに伝達する機能を有していれば良い。このような材料としては、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン、アントロン誘導体及びオキサジアゾール誘導体等が挙げられる。更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送層3dの材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(以下、Alq3と略記。)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(以下、Znqと略記。)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送層3dの材料として用いることができる。
その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送層3dの材料として好ましく用いることができる。また、発光層3cの材料としても例示されるジスチリルピラジン誘導体も電子輸送層3dの材料として用いることができるし、正孔注入層3a、正孔輸送層3bと同様にn型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送層3dの材料として用いることができる。
電子輸送層3dは、上記材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層3dの膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層3dは上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
また、電子輸送層3dに不純物をドープし、n性を高くすることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。更に、電子輸送層3dには、カリウムやカリウム化合物などを含有させることが好ましい。カリウム化合物としては、
例えば、フッ化カリウム等を用いることができる。このように電子輸送層3dのn性を高くすると、より低消費電力の素子を作製することができる。
また、電子輸送層3dの材料(電子輸送性化合物)として、本発明の透明電極に係る下地層1aを構成する材料と同様のものを用いても良い。これは、電子注入層3eを兼ねた電子輸送層3dであっても同様であり、上述した下地層1aを構成する材料と同様のものを用いても良い。すなわち、図4に示すように、電子輸送層3d上に、本発明に係る電極層1bを形成する構成である場合には、電子輸送層3dが透明電極1を構成する下地層1aであってもよい。
(阻止層:正孔阻止層、電子阻止層)
阻止層は、上記の如く有機化合物薄膜の基本構成層の他に、必要に応じて設けられる発光機能層である。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
正孔阻止層とは、広い意味では、電子輸送層3dの機能を有する。正孔阻止層は、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、上記説明した電子輸送層3dの構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。正孔阻止層は、発光層3cに隣接して設けられていることが好ましい。
一方、電子阻止層とは、広い意味では、正孔輸送層3bの機能を有する。電子阻止層は、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、上記説明した正孔輸送層3bの構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。正孔阻止層の膜厚としては、概ね3〜100nmであり、好ましくは5〜30nmである。
(補助電極15)
補助電極15は、本発明の透明電極1の抵抗を下げる目的で設けるものであって、透明電極1の電極層1bに接して設けられる。補助電極15を形成する材料は、金、白金、銀、銅、アルミニウム等の抵抗が低い金属が好ましい。これらの金属は光透過性が低いため、光取り出し面13aからの発光光hの取り出しに影響のない範囲でパターン形成される。このような補助電極15の形成方法としては、蒸着法、スパッタリング法、印刷法、インクジェット法、エアロゾルジェット法などが挙げられる。補助電極15の線幅は、光を取り出す開口率に影響を与えない観点から50μm以下であることが好ましく、補助電極15の厚さは、導電性の観点から1μm以上であることが好ましい。
(封止材17)
封止材17は、有機電界発光素子100を覆うものであって、板状(フィルム状)の封止部材であって、接着剤19によって透明基板13側に固定されるものであっても良く、封止膜であっても良い。このような封止材17は、有機電界発光素子100における透明電極1及び対向電極5aの端子部分を露出させる状態で、少なくとも発光機能層3を覆う形態で設けられている。また、封止材17に電極を設け、有機電界発光素子100の透明電極1及び対向電極5aの端子部分と、この電極とを導通させるように構成されていても良い。
板状(フィルム状)の封止材17としては、具体的には、ガラス基板、ポリマー基板、金属基板等が挙げられ、これらの基板材料をさらに薄膜状フィルムにして用いても良い。ガラス基板としては、特に、ソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー基板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属基板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブデン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。
なかでも、有機電界発光素子を薄膜化できるということから、封止材としてポリマー基板や金属基板を薄膜状フィルムにしたものを好ましく使用することができる。
さらには、フィルム状としたポリマー基板は、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/(m2・24h・atm)以下、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m2・24h)以下のものであることが好ましい。
また以上のような基板材料は、凹板状に加工して封止材17として用いても良い。この場合、上述した基板部材に対してサンドブラスト加工、化学エッチング加工等の加工が施され、凹状が形成される。
また、このような板状の封止材17を、透明基板13側に固定するための接着剤19は、封止材17と透明基板13との間に挟持された有機電界発光素子100を封止するためのシール剤として用いられる。このような接着剤19は、具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。
またこのような接着剤19としては、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
なお、有機電界発光素子100を構成する有機材料は、熱処理により劣化する場合がある。このため、接着剤19は、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、接着剤19中に乾燥剤を分散させておいてもよい。
封止材17と透明基板13との接着部分への接着剤19の塗布は、市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
また、板状の封止材17と透明基板13と接着剤19との間に隙間が形成される場合、この間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
一方、封止材17として封止膜を用いる場合、有機電界発光素子100における発光機能層3を完全に覆い、かつ有機電界発光素子100における透明電極1及び対向電極5aの端子部分を露出させる状態で、透明基板13上に封止膜が設けられる。
このような封止膜は、無機材料や有機材料を用いて構成される。特に、水分や酸素等、有機電界発光素子100における発光機能層3の劣化をもたらす物質の浸入を抑制する機能を有する材料で構成されることとする。このような材料として、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等の無機材料が用いられる。さらに封止膜の脆弱性を改良するために、これら無機材料からなる膜と共に、有機材料からなる膜を用いて積層構造としても良い。
これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
(保護膜及び保護板)
前記説明した図2においては記載を省略したが、透明基板13との間に有機電界発光素子100及び封止材17を挟んで保護膜もしくは保護板を設けても良い。この保護膜もしくは保護板は、有機電界発光素子100を機械的に保護するためのものであり、特に封止材17が封止膜である場合には、有機電界発光素子100に対する機械的な保護が十分ではないため、このような保護膜もしくは保護板を設けることが好ましい。
以上のような保護膜もしくは保護板は、ガラス板、ポリマー板、これよりも薄型のポリマーフィルム、金属板、これよりも薄型の金属フィルム、またはポリマー材料膜や金属材料膜が適用される。このうち特に、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
(有機電界発光素子100の作製方法)
ここでは一例として、図2に示す有機電界発光素子100の製造方法の一例を説明する。
はじめに、透明基板13上に窒素原子を含む化合物Aからなる下地層1aを、1μm以下、好ましくは10〜100nmの膜厚になるように蒸着法等の公知の薄膜形成方法に従って形成する。次に、銀原子を含む化合物B、例えば、銀錯体化合物を含有する溶液(電極形成用塗布液)を用いて、湿式塗布方式により、電極層1bを12nm以下、好ましくは4〜9nmの膜厚の範囲となるように下地層1a上に塗布して形成し、アノードとなる透明電極1を作製する。
次に、この上に、上記説明した正孔注入層3a、正孔輸送層3b、発光層3c、電子輸送層3dをこの順で成膜し、発光機能層3を形成する。これらの各層の成膜は、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、蒸着法、印刷法等があるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法またはスピンコート法が特に好ましい。さらに層ごとに異なる成膜法を適用してもよい。これらの各層の成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度1×10−6〜1×10−2Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚0.1〜5μmの範囲で、各条件を適宜選択することが望ましい。
以上のようにして、発光機能層3を形成した後、この上部にカソードとなる対向電極5aを、蒸着法やスパッタ法などの従来公知の成膜法によって形成する。この際、対向電極5aは、発光機能層3によって透明電極1に対して絶縁状態を保ちつつ、発光機能層3の上方から透明基板13の周縁に端子部分を引き出した形状にパターン形成する。これにより、有機電界発光素子100が得られる。また、その後には、有機電界発光素子100における透明電極1及び対向電極5aの端子部分を露出させた状態で、少なくとも発光機能層3を覆う封止材17を設ける。
以上により、透明基板13上に所望の有機電界発光素子100が形成される。このような有機電界発光素子100の作製においては、一回の真空引きで一貫して発光機能層3から対向電極5aまで作製するのが好ましいが、途中で真空雰囲気から透明基板13を取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。
このようにして得られた有機電界発光素子100に直流電圧を印加する場合には、アノードである透明電極1を+の極性とし、カソードである対向電極5aを−の極性として、電圧2V以上40V以下程度を印加すると発光が観測できる。また交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
(有機電界発光素子100の効果)
以上説明した有機電界発光素子100は、本発明の導電性と光透過性とを兼ね備えた透明電極1をアノードとして用い、この上部に発光機能層3とカソードとなる対向電極5aとを設けた構成である。このため、透明電極1と対向電極5aとの間に、十分な電圧を印加して有機電界発光素子100での高輝度発光を実現しつつ、透明電極1側からの発光光hの取り出し効率が向上することによる高輝度化を図ることが可能である。さらに、所定輝度を得るための駆動電圧の低減による発光寿命の向上を図ることも可能になる。
〔有機電界発光素子の第2例〕
(有機電界発光素子200の構成)
図3に示す有機電界発光素子200は、本発明の電子デバイスの一例として、本発明の透明電極1を用いた有機電界発光素子200の第2例を示す概略断面図である。
図3に示す第2例の有機電界発光素子200が、図2を用いて説明した第1例の有機電界発光素子100と異なる構成は、透明電極1をカソードとして用いるところにある。以下、第1例と同様の構成要素についての重複する詳細な説明は省略し、第2例の有機電界発光素子200の特徴的な構成を説明する。
図3に示す有機電界発光素子200は、透明基板13上に設けられており、第1例と同様に、透明基板13上の透明電極1として先に説明した本発明の透明電極1を用いているところが特徴的である。このため有機電界発光素子200は、少なくとも透明基板13側から発光光hを取り出すように構成されている。ただし、この透明電極1は、カソード(陰極)として用いられる。このため、対向電極5bは、アノードとして用いられることになる。
このような有機電界発光素子200の層構造が限定されることはく、一般的な層構造であって良いことは、第1例と同様である。ここで説明する第2例の場合は、一例として、カソードとして機能する透明電極1の上部に、電子注入層3e/電子輸送層3d/発光層3c/正孔輸送層3b/正孔注入層3aをこの順に積層した発光機能層3の構成が例示される。ただし、このうち少なくとも有機材料で構成された発光層3cを有することが必須である。
なお、本発明に係る発光機能層3においては、これら例示した層の他にも、第1例で説明したと同様に、必要に応じたさまざまな構成が採用される。このような構成において、透明電極1と対向電極5bとで発光機能層3が挟持された部分のみが、有機電界発光素子200における発光領域となることも第1例と同様である。
また、以上のような層構成においては、透明電極1の低抵抗化を図ることを目的とし、透明電極1の電極層1bに接して補助電極15が設けられていても良いことも、第1例と同様である。
ここで、アノードとして用いられる対向電極5bは、金属、合金、有機または無機の導電性化合物、及びこれらの混合物が用いられる。具体的には、金(Au)等の金属、ヨウ化銅(CuI)、ITO、ZnO、TiO2、SnO2等の酸化物半導体などが挙げられる。
以上のような対向電極5bは、これらの導電性材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより作製することができる。また、対向電極5bとしてのシート抵抗は、数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常5nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で選ばれる。
尚、この有機電界発光素子200が、対向電極5b側からも発光光hを取り出すものである場合、対向電極5bを構成する材料として、上述した導電性材料のうち光透過性の良好な導電性材料を選択すれば良い。
以上のような構成の有機電界発光素子200は、発光機能層3の劣化を防止することを目的として、第1例と同様に封止材17で封止されている。
以上説明した有機電界発光素子200を構成する主要各層のうち、アノードとして用いられる対向電極5b以外の構成要素の詳細な構成、及び有機電界発光素子200の作製方法は、第1例で説明した有機電界発光素子100の作製方法と同様である。このため詳細な説明は省略する。
(有機電界発光素子200の効果)
以上説明した有機電界発光素子200は、本発明の導電性と光透過性とを兼ね備えた透明電極1をカソードとして用い、この上部に発光機能層3とアノードとなる対向電極5bとを設けた構成である。このため、第1例と同様に、透明電極1(カソード)と対向電極5b(アノード)との間に十分な電圧を印加して有機電界発光素子200での高輝度発光を実現しつつ、透明電極1側からの発光光hの取り出し効率が向上することによる高輝度化を図ることが可能である。さらに、所定輝度を得るため、駆動電圧の低減による発光寿命の向上を図ることも可能になる。
〔有機電界発光素子の第3例〕
(有機電界発光素子300の構成)
図4は、本発明の電子デバイスの一例として、上述した本発明の透明電極1を用いた有機電界発光素子300の第3例を示す概略断面図である。図4に示す第3例の有機電界発光素子300は、図2を用いて説明した第1例の有機電界発光素子100と異なるところは、基板131側に対向電極5cを設け、この上部に発光機能層3と透明電極1とをこの順に積層したところにある。以下、図2で説明した第1例と同様の構成要素についての重複する詳細な説明は省略し、第3例の有機電界発光素子300の特徴的な構成を説明する。
図4に示す有機電界発光素子300は、基板131上に設けられており、基板131側から順に、アノードとなる対向電極5c、発光機能層3、及びカソードとなる透明電極1が積層されている。このうち、透明電極1として、先に説明した本発明の透明電極1を用いているところが特徴的である。このため有機電界発光素子EL300は、少なくとも基板131とは逆の透明電極1側から発光光hを取り出すように構成されている。
本発明に係る有機電界発光素子300の層構造は、ここで例示した構成に限定されることはく、一般的な層構造であって良いことは、第1例と同様である。図4で例示した第3例の場合、その構成の一例として、アノードとして機能する対向電極5cの上部に、正孔注入層3a/正孔輸送層3b/発光層3c/電子輸送層3dをこの順に積層した構成が例示される。ただし、このうち少なくとも有機材料を用いて構成された発光層3cを有することが必須である。また、電子輸送層3dは、電子注入層3eを兼ねたもので、電子注入性を有する電子輸送層3dとして設けられていることとする。
そして、特に、第3例として示した有機電界発光素子300に特徴的な構成としては、電子注入性を有する電子輸送層3dが、透明電極1における下地層1aとして設けられているところにある。すなわち、図4に示す第3例においては、カソードとして用いられる透明電極1が、電子注入性を有する電子輸送層3dを兼ねる下地層1aと、この上部に設けられた電極層1bとで構成されているのである。
このような電子輸送層3dは、先に述べた上述した透明電極1の下地層1aを構成する材料を用いて構成されていることが重要である。
なお、発光機能層3は、これらの層の他にも、図2で示した第1例で説明したのと同様に、必要に応じたさまざまな構成が採用されるが、透明電極1の下地層1aを兼ねる電子輸送層3dと、透明電極1の電極層1bとの間には、電子注入層や正孔阻止層が設けられることはない。
以上のような構成において、透明電極1と対向電極5cとで発光機能層3が挟持された部分のみが、有機電界発光素子300における発光領域となることは、第1例と同様である。
また、以上のような層構成においては、透明電極1の低抵抗化を図ることを目的とし、透明電極1の電極層1bに接して補助電極15が設けられていても良いことも、第1例と同様である。
さらに、アノードとして用いられる対向電極5cは、金属、合金、有機または無機の導電性化合物、及びこれらの混合物が用いられる。具体的には、金(Au)等の金属、ヨウ化銅(CuI)、ITO、ZnO、TiO2、SnO2等の酸化物半導体などが挙げられる。
以上のような対向電極5cは、これらの導電性材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより作製することができる。また、対向電極5cとしてのシート抵抗は、数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常5nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で選ばれる。
尚、この有機電界発光素子EL300が、対向電極5c側からも発光光hを取り出す方式の場合には、対向電極5cを構成する材料としては、上述した導電性材料のうち、光透過性の良好な導電性材料を選択して用いれば良い。また、この場合、基板131としても、第1例で説明した透明基板13と同様のものが用いられ、基板131の外側に向かう面が光取り出し面131aとなる。
(有機電界発光素子300の効果)
以上説明した図4に示す構成からなる有機電界発光素子300は、発光機能層3の最上部を構成する電子注入性を有する電子輸送層3dを下地層1aとし、この上部に電極層1bを設けることにより、下地層1aとこの上部の電極層1bとからなる透明電極1をカソードとして設けた構成である。このため、第1例及び第2例と同様に、透明電極1と対向電極5cとの間に十分な電圧を印加して有機電界発光素子300での高輝度発光を実現しつつ、透明電極1側からの発光光hの取り出し効率が向上することにより、高輝度化を達成することが可能である。さらに、所望の輝度を得るため、駆動電圧の低減による発光寿命の向上を図ることも可能になる。また、以上のような構成において、対向電極5cが光透過性を有する場合であれば、この対向電極5c側からも発光光hを取り出すことができる。
尚、以上の第3例においては、透明電極1の下地層1aが電子注入性を有する電子輸送層3dを兼ねた構成を説明した。しかしながら、下地層1aは、電子注入層を兼ねるものであっても、あるいは電子注入性を持たない電子輸送層3dを兼ねるものであっても良く、また、発光機能に影響を及ぼさない程度に極薄膜として設けられる場合であれば、電子輸送性及び電子注入性を持たなくても良い。
さらに、透明電極1の下地層1aが発光機能に影響を及ぼさない程度に極薄膜として設けられる場合であれば、基板131側の対向電極をカソードとし、発光機能層3上の透明電極1をアノードとしても良い。この場合、発光機能層3は、基板131上の対向電極(カソード)側から順に、例えば電子注入層3e/電子輸送層3d/発光層3c/正孔輸送層3b/正孔注入層3aが積層される。そしてこの上部に極薄い下地層1aと電極層1b
との積層構造からなる透明電極1が、アノードとして設けられる。
《有機電界発光素子の用途》
上述した本発明の透明電極を具備した各構成の有機電界発光素子は、上述したように面発光体であるため、各種の発光光源として用いることができる。例えば、家庭用照明や車内照明などの照明装置、時計や液晶用のバックライト、看板広告用照明、信号機の光源、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これに限定するものではなく、特に、カラーフィルターと組み合わせた液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
また、本発明に係る有機電界発光素子は、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。この場合、近年の照明装置及びディスプレイの大型化に伴い、有機電界発光素子を設けた発光パネル同士を平面的に接合する、いわゆるタイリングによって発光面を大面積化しても良い。
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。また異なる発光色を有する本発明の有機電界発光素子を2種以上使用することにより、カラーまたはフルカラー表示装置を作製することが可能である。
以下では、本発明に係る有機電界発光素子の用途の一例として照明装置について説明し、次にタイリングによって発光面を大面積化した照明装置について説明する。
〔照明装置−1〕
本発明適用可能な照明装置は、本発明に係る有機電界発光素子を具備することが好ましい。
本発明に係る照明装置に用いる有機電界発光素子は、上述した構成の本発明に係る各有機電界発光素子に共振器構造を持たせた設計としてもよい。共振器構造として構成された有機電界発光素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより上記用途に使用してもよい。
なお、本発明に係る有機電界発光素子に用いられる材料は、実質的に白色の発光を生じる有機電界発光素子(白色有機電界発光素子ともいう)に適用できる。例えば、複数の発光材料により複数の発光色を同時に発光させて混色により白色発光を得ることもできる。複数の発光色の組み合わせとしては、赤色、緑色、青色の3原色の3つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有したものでもよい。
また、複数の発光色を得るための発光材料の組み合わせは、複数のリン光または蛍光で発光する材料を複数組み合わせたもの、蛍光またはリン光で発光する発光材料と、発光材料からの光を励起光として発光する色素材料との組み合わせたもののいずれでもよいが、白色有機電界発光素子においては、発光ドーパントを複数組み合わせて混合したものでもよい。
このような白色有機電界発光素子は、各色発光の有機電界発光素子をアレー状に個別に並列配置して白色発光を得る構成と異なり、有機電界発光素子自体が白色を発光する。このため、素子を構成するほとんどの層の成膜にマスクを必要とせず、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で例えば電極膜を形成でき、生産性も向上する。
また、このような白色有機電界発光素子の発光層に用いる発光材料としては、特に制限はなく、例えば液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルター)特性に対応した波長範囲に適合するように、本発明に係る金属錯体、また公知の発光材料の中から任意のものを選択して組み合わせて白色化すればよい。
以上に説明した白色有機電界発光素子を用いれば、実質的に白色の発光を生じる照明装置を作製することが可能である。
〔照明装置−2〕
図5には、本発明の透明電極を具備した有機電界発光素子を複数用いて発光面を大面積化した照明装置の概略断面構成図を示す。
図5に示す照明装置21は、例えば、透明基板13上に有機電界発光素子100を設けた複数の発光パネル22を、支持基板23上に複数配列する(すなわちタイリングする)ことによって発光面を大面積化した構成である。支持基板23は、封止材を兼ねるものであっても良く、この支持基板23と、発光パネル22の透明基板13との間に有機電界発光素子100を挟持する状態で、各発光パネル22をタイリングする。支持基板23と透明基板13との間には接着剤19を充填し、これによって有機電界発光素子100を封止しても良い。尚、発光パネルの周囲には、アノードである透明電極1及びカソードである対向電極5aの端部を露出させておく。ただし、図面においては対向電極5aの露出部分のみを図示した。
このような構成の照明装置21では、各発光パネル22の中央が発光領域Aとなり、発光パネル22間には非発光領域Bが発生する。このため、非発光領域Bからの光取り出し量を増加させるための光取り出し部材を、光取り出し面13aの非発光領域Bに設けても良い。光取り出し部材としては、集光シートや光拡散シートを用いることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
実施例1
《透明電極の作製》
以下に説明する手順に従って、導電性領域の面積が5cm×5cmの透明電極1〜21を作製した。なお、透明電極1〜4は、比較例となる透明電極であり、透明電極5〜21は、本発明に係る透明電極である。
〔透明電極1の作製〕
下記の方法に従って、単層構造の透明電極1を作製した。
厚さ0.5mmの透明な無アルカリガラス製の基材を、市販の真空蒸着装置の基材ホルダーに固定し、真空蒸着装置の真空槽に取り付けた。また、タングステン製の抵抗加熱ボードに銀(Ag)を入れ、真空蒸着装置の真空槽内に取り付けた。次に、真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、抵抗加熱ボードを通電して加熱し、蒸着速度0.15nm/秒で、基材上に銀から構成される単層の電極層1を形成して、透明電極1を作製した。透明電極1における電極層1の膜厚は8nmであった。
〔透明電極2の作製〕
下記の方法に従って、単層構造の透明電極2を作製した。
透明な無アルカリガラス製の基材を、スピンコーターに設置し、前述の銀錯体化合物(1)(2−エチルヘキシルアンモニウム−2−エチルヘキシルカルバメート銀錯体)の1質量%メタノール溶液を25ml、ガラス製の基板上に付与した後、回転数100rpmで2分間回転させて電極層2を形成し、120℃で5分間のアニール処理を行って、透明電極2を作製した。透明電極2における電極層2の膜厚は、5nmであった。
〔透明電極3の作製〕
下記の方法に従って、単層構造の透明電極3を作製した。
透明な無アルカリガラス製の基材を、スピンコーターに設置し、前述の銀錯体化合物(5)(2−エチルヘキシルアンモニウムカーボネート銀錯体)の1質量%メタノール溶液を25ml、ガラス基板上に付与した後、回転数50rpmで2分間回転させて電極層3を形成し、120℃で5分間のアニール処理を行って、透明電極3を作製した。作製した透明電極3における電極層3の膜厚は、5nmであった。
〔透明電極4の作製〕
下記の方法に従って、下地層1及び電極層4から構成される透明電極4を作製した。ただし、下地層は、窒素原子を含有しない比較の化合物を含む塗布液を用いて形成した。
透明な無アルカリガラス製の基材を、スピンコーターに設置し、カルシウム含有量が0.3.0質量%となる濃度に調整したネオデカン酸カルシウムのヘキサン溶液の20mlをガラス基板上に付与した後、回転数50rpmで2分間回転させて下地層1を形成し、100℃で1分間アニール処理を施した。次いで、下地層1を形成した基材をふたたびスピンコーターに設置し、銀錯体化合物(1)(前出)の1質量%メタノール溶液の25mlを、ガラス基板上に付与して、回転数100rpmで2分間回転させて電極層4を形成し、120℃で5分間のアニール処理を行って、透明電極4を作製した。透明電極4における下地層1の膜厚は20nm、電極層4の膜厚は5nmであった。
〔透明電極5の作製〕
〈下地層2の形成〉
透明な無アルカリガラス製の基材上に、窒素原子を含有する例示化合物112を用いて、下記の方法に従って、下地層2を、湿式塗布法により成膜した。
0.75gの例示化合物112を、100gの2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールに溶解して得た下地層形成用塗布液2を、スピンコーターにて、1500rpm、30秒の条件で基材上に塗布した。次に、基板の表面温度を120℃まで加熱し、30分加熱して、例示化合物112から構成される下地層2を得た。別途用意した基材にて、上記と同条件で、例示化合物112から成る下地層2を塗布成膜し、膜厚を測定したところ、膜厚は25nmであった。
〈電極層5の形成〉
次に、下地層2を設けた基材を、スピンコーターに設置し、銀錯体化合物(1)(前出)の1質量%メタノール溶液を25ml、ガラス基板に形成した下地層2上に付与し、100rpmで2分間回転させて電極層5を形成し、120℃で5分間のアニール処理を行って、透明電極5を作製した。透明電極5における電極層5の膜厚は6nmであった。
〔透明電極6の作製〕
上記透明電極5の作製において、電極層5を、下記の方法で作製した電極層6に変更した以外は同様にして、透明電極6を作製した。
〈電極層6の形成〉
下地層2を形成した基材を、スピンコーターに設置し、銀錯体化合物(5)(前出)の1質量%メタノール溶液を17ml、ガラス基板に形成した下地層2上に付与し、100rpmで2分間回転させて電極層5を形成し、120℃で5分間のアニール処理を行って、透明電極6を作製した。透明電極6における電極層6の膜厚は、4nmであった。
〔透明電極7の作製〕
上記透明電極5の作製において、電極層5を、下記の方法で作製した電極層7に変更した以外は同様にして、透明電極7を作製した。
〈電極層7の形成〉
下地層2を形成した基材を、スピンコーターに設置し、銀錯体化合物(8)(2−エチルヘキシルアンモニウムバイカーボネート銀錯体)の1質量%メタノール溶液を37.5ml、ガラス基板に形成した下地層2上に付与し、100rpmで2分間回転させて電極層7を形成し、120℃で5分間のアニール処理を行って、透明電極7を作製した。透明電極7における電極層7の膜厚は、9nmであった。
〔透明電極8の作製〕
上記透明電極5の作製において、下地層2を、下記の方法で作製した下地層3に変更した以外は同様にして、透明電極8を作製した。
〈下地層3の形成〉
透明な無アルカリガラス製の基材を、市販の真空蒸着装置の基材ホルダーに固定し、下記TPDをタンタル製抵抗加熱ボードに入れ、この基板ホルダーと加熱ボードとを真空蒸着装置の第1真空槽に取り付けた。
この状態で、第1真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、TPDの入った加熱ボードに通電して加熱し、蒸着速度0.15nm/秒で、基材上に膜厚25nmのTPDからなる下地層3を設けた。
〔透明電極9の作製〕
上記透明電極8の作製において、下地層3の形成に用いたTPDに代えて、下記ポルフィリン誘導体を用いて下地層4を形成した以外は同様にして、透明電極9を作製した。
〔透明電極10の作製〕
上記透明電極8の作製において、下地層3の形成に用いたTPDに代えて、例示化合物99を用いて下地層5を形成した以外は同様にして、透明電極10を作製した。
〔透明電極11の作製〕
上記透明電極8の作製において、下地層3の形成に用いたTPDに代えて、例示化合物94を用いて下地層6を形成した以外は同様にして、透明電極11を作製した。
〔透明電極12の作製〕
上記透明電極8の作製において、下地層3の形成に用いたTPDに代えて、例示化合物10を用いて下地層7を形成した以外は同様にして、透明電極12を作製した。
〔透明電極13〜15の作製〕
上記透明電極5〜7の作製において、基材を無アルカリガラスから、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(表には、PETと略記する。)にそれぞれ変更した以外は同様にして、透明電極13〜15を作製した。
《透明電極の評価》
上記作製した各透明電極について、下記の方法に従って、透過率及びシート抵抗の測定を行った。
〔透過率の測定〕
各透明電極について、分光光度計(日立製作所製U−3300)を用い、各透明電極の基材をリファレンスとして、測定波長550nmにおける透過率T(%)を測定した。
〔シート抵抗の測定〕
各透明電極について、抵抗率計(三菱化学社製MCP−T610)を用い、4端子4探針法定電流印加方式で、シート抵抗(Ω/□)を測定した。
以上により得られた各測定結果を、表1に示す。
表1に記載の結果より明らかなように、窒素原子を含む化合物Aを用いて形成した下地層上に、銀を含む化合物Bとして銀錯体化合物を用いて電極層(銀膜)を形成することで得られた本発明の透明電極5〜15は、光透過率が50%以上であり、かつシート抵抗値が30Ω/□以下に抑えられている。これに対して、比較例である透明電極1〜4は、光透過率が50%未満であり、かつシート抵抗値が500Ω/□以上、あるいは測定が不能な特性である。
以上の結果より、本発明で規定する構成からなる透明電極は、高い光透過率と導電性とを兼ね備えていることを確認することができた。
実施例2
《発光パネルの作製》
下記の手順に従って、実施例1にて作製した透明電極1〜15をアノードとして用い、電子デバイスとして図6に記載の構成からなる両面発光型の有機電界発光素子(400)1〜15を作製し、次いで、図6に示す有機電界発光素子400を具備した発光パネル1〜15を作製した。
はじめに、実施例1で作製した透明電極1〜15の透明基板13側を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、透明電極1の形成面側に蒸着マスクを対向配置した。また、真空蒸着装置内の加熱ボードの各々に、各発光機能層3を構成する各材料を、それぞれの層の成膜に最適な量で充填した。なお、各加熱ボードはタングステン製抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
次いで、真空蒸着装置の蒸着室内を、真空度4×10−4Paまで減圧し、各材料が入った加熱ボードを順次通電して加熱することにより、以下のように各層を成膜した。
まず、正孔輸送注入材料として、下記α−NPDが入った加熱ボードに通電して加熱し、α−NPDよりなる正孔注入層と正孔輸送層とを兼ねた正孔輸送・注入層31を、透明電極1を構成する電極層1b上に成膜した。この際、蒸着速度は0.15nm/秒、膜厚は20nmとした。
次に、ホスト材料として例示化合物H4の入った加熱ボードと、燐光発光性化合物として例示化合物Ir−4の入った加熱ボードとを、それぞれ独立に通電し、ホスト材料H4と燐光発光性化合物Ir−4からなる発光層3cを、正孔輸送・注入層31上に成膜した。この際、蒸着速度がホスト材料H4:燐光発光性化合物Ir−4=100:6となるように、加熱ボードの通電条件を調節した。また、発光層3cの膜厚は30nmとした。
次いで、正孔阻止材料として下記BAlqが入った加熱ボードに通電して加熱し、BAlqよりなる正孔阻止層33を、発光層3c上に成膜した。この際、蒸着速度0.15nnm/秒で、膜厚は10nmとした。
次いで、電子輸送材料として、例示化合物10の入った加熱ボードと、フッ化カリウムの入った加熱ボードとを、それぞれ独立に通電し、例示化合物10とフッ化カリウムからなる電子輸送層3dを、正孔阻止層33上に成膜した。この際、蒸着速度が例示化合物10:フッ化カリウム=75:25になるように、加熱ボードの通電量を調節した。膜厚は30nmとした。
次に、電子注入材料としてフッ化カリウムの入った加熱ボードに通電して加熱し、フッ化カリウムより構成される電子注入層3eを、電子輸送層3d上に成膜した。この際、蒸着速度0.015nm/秒で、膜厚は1nmとした。
その後、電子注入層3eまで成膜した透明基板13を、真空蒸着装置の蒸着室から、対向電極材料としてITOのターゲットが取り付けられたスパッタ装置の処理室内に、真空状態を保持したまま移送した。次いで、処理室内において、成膜速度0.4nm/秒で、膜厚150nmのITOからなる光透過性の対向電極5aをカソードとして成膜した。以上により透明基板13上に有機電界発光素子400を形成した。
その後、有機電界発光素子400を、厚さ300μmのガラス基板からなる封止材17で覆い、有機電界発光素子400を囲む状態で、封止材17と透明基板13との間に接着剤19(シール材)を充填した。接着剤19としては、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を用いた。封止材17と透明基板13との間に充填した接着剤19に対して、ガラス基板(封止材17)側からUV光を照射し、接着剤19を硬化させて有機電界発光素子400を封止した。
なお、有機電界発光素子400の形成においては、各層の形成に蒸着マスクを使用し、5cm×5cmの透明基板13における中央の4.5cm×4.5cmを発光領域Aとし、発光領域Aの全周に幅0.25cmの非発光領域Bを設けた。また、アノードである透明電極1とカソードである対向電極5aとは、正孔輸送・注入層31〜電子注入層3eまでの発光機能層3によって絶縁された状態で、透明基板13の周縁に端子部分を引き出された形状で形成した。
以上のようにして、各透明電極を有する透明基板13上に有機電界発光素子400を設け、これを封止材17と接着剤19とで封止した電子デバイスである発光パネル(21)1〜15を作製した。
これらの各発光パネル21は、発光層3cで発生した各色の発光光hが、透明電極1側すなわち基板13側と、対向電極5a側すなわち封止材17側との両方から取り出される方式である。
《発光パネルの評価》
上記作製した各発光パネル21を構成する有機電界発光素子400について、下記の各測定を行った。
〔光透過率の測定〕
上記作製した各有機電界発光素子400について、分光光度計(日立製作所製U−3300)を用い、各有機電界発光素子400の作製に用いた透明基材13をリファレンスとして、測定波長550nmにおける透過率T(%)を測定した。
〔駆動電圧の測定〕
上記作製した各有機電界発光素子400の透明電極1側(すなわち透明基板13側)と、対向電極5a側(すなわち封止材17側)との両側での正面輝度を測定し、その和が1000cd/m2となるときの電圧を駆動電圧として測定した。尚、輝度の測定には分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング製)を用いた。得られた駆動電圧の数値が小さいほど、低電圧で駆動することができ、好ましい結果であることを表す。
以上により得られた結果を、表2に示す。
表2に記載の結果より明らかなように、本発明の透明電極をアノードとして用いて作製した有機電界発光素子5〜15は、光透過率(550nm)がいずれも44%以上であり、かつ駆動電圧も4.8V以下に抑えられている。これに対し、比較例である透明電極をアノードに用いた有機電界発光素子1〜4は、光透過率が36%以下と低く、かつ駆動電圧が6.2Vあるいは電圧を印加しても発光しなかった。
上記結果より、本発明で規定する構成からなる透明電極をアノードとして用いた有機電界発光素子は、低い駆動電圧で高輝度発光が可能であることが確認された。また、これにより、所望の輝度を得るための駆動電圧の低減と、発光寿命の向上が見込まれることが確認された。