リンパ組織は、一次リンパ組織と二次リンパ組織に分類される。一次リンパ組織はリンパ球産生のための場所であり、骨髄と胸腺が含まれる。二次リンパ組織は適応免疫が開始される場所であり、脾臓、リンパ節及び粘膜関連リンパ組織が含まれる。二次リンパ組織では、リンパ球がT細胞領域とB細胞領域とに分かれて存在している。B細胞領域は濾胞とも呼ばれ、抗原刺激を受けたB細胞は濾胞へと移動し、そこで増殖し、濾胞の中心に胚中心を形成する。脾臓は白脾髄と赤脾髄とで構成され、白脾髄は動脈枝の周りにT細胞領域とB細胞領域のあるリンパ鞘で、リンパ節と非常によく似た構造をしている。リンパ節では全ての抗体のうちのIgAの割合は20%程度に過ぎないが、粘膜関連リンパ組織では抗体総含量に対するIgAの割合が80%にも及ぶことが知られている。
粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue;MALT)は皮膜を持たないリンパ組織塊で、消化管、気道、泌尿生殖器の粘膜固有層と粘膜下組織に認められる。
本発明は、標的抗原を用いて動物を免疫した後、その免疫した動物の二次リンパ組織又はその細胞(二次リンパ組織細胞)を免疫不全動物に移植して抗原投与により免疫するという二段階の免疫工程を用いて、抗原特異的モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製する方法を提供する。
より具体的には、本発明は、非免疫不全の非ヒト動物に抗原を投与して免疫する非ヒト動物免疫工程(工程(a))と、
前記免疫工程で免疫した前記非ヒト動物から二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞を採取し、該二次リンパ組織又は該二次リンパ組織細胞を免疫不全非ヒト動物に移植する移植工程(工程(b))と、
前記移植工程で移植を行った免疫不全非ヒト動物に、前記抗原を投与して免疫する免疫不全非ヒト動物免疫工程(工程(c))と、
前記免疫不全非ヒト動物免疫工程で免疫した免疫不全非ヒト動物から、脾細胞又はリンパ節細胞を取得する取得工程(工程(d))と、
前記取得工程で取得した脾細胞又はリンパ節細胞をミエローマ細胞と融合させて抗体産生ハイブリドーマを作製するハイブリドーマ作製工程(工程(e))と、
を含む、抗原特異的抗体産生ハイブリドーマを作製する方法を提供する。
本発明の典型的な実施形態では、
(a)抗原で非ヒト動物を免疫し;
(b)免疫した非ヒト動物から採取した二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞を免疫不全非ヒト動物に移植し;
(c)二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞を移植した免疫不全非ヒト動物を、前記抗原で免疫し;
(d)前記(c)で免疫した免疫不全非ヒト動物から、脾細胞又はリンパ節細胞を取得し;そして
(e)前記(d)で取得した脾細胞又はリンパ節細胞を不死化細胞(ミエローマ細胞など)と融合させて抗体産生ハイブリドーマを形成させることにより、
抗原特異的抗体産生ハイブリドーマを作製することができる。
本発明の方法では、まず、ハイブリドーマに産生させる抗体の標的となる抗原(標的抗原)を用いて、非ヒト動物を免疫する。ここで用いる抗原は任意の免疫原性物質であってよく、タンパク質、タンパク質断片、融合タンパク質等を始めとするポリペプチド又はペプチドであってもよい。本発明の方法では比較的免疫原性が低い物質を抗原として用いてもよい。有用な抗原の例は、限定するものではないが、ウイルスタンパク質(構造タンパク質又は非構造タンパク質)が含まれる。ウイルスタンパク質は、ヒト又は非ヒト哺乳動物を宿主とするウイルス由来のものであってよいが、他の生物種を宿主とするウイルス由来のものであってもよい。本発明に用いる抗原としては例えば、ウイルスのエンベロープタンパク質又はスパイクタンパク質と呼ばれる、ウイルス表面のエンベロープに存在しウイルス感染能に関与する糖タンパク質が特に好ましい。
本発明に用いる抗原の具体例としては、C型肝炎ウイルス(HCV)タンパク質、例えば、構造タンパク質であるCore、E1、E2、及びp7、並びに非構造タンパク質であるNS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A、及びNS5B等が挙げられる。なおE1及びE2はエンベロープタンパク質である。ここで使用する抗原が由来するC型肝炎ウイルスは、遺伝子型1a、1b、2a、2b、2c、3a、3b、4、5a、又は6aのウイルス株であり得る。本発明に用いる抗原が由来するC型肝炎ウイルスは、限定するものではないが、例えば、HCV−TH、JFH−1、JCH−1、J6CF、H77等の株であってもよい。
抗原の別の好ましい例としては、インフルエンザウイルスタンパク質、例えば、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、RNAポリメラーゼαサブユニット(PA)、RNAポリメラーゼβ1サブユニット(PB1)、RNAポリメラーゼβ2サブユニット(PB2)、マトリクスタンパク質M1及びM2、核タンパク質NP、並びに非構造タンパク質NS1及びNS2が挙げられるが、エンベロープタンパク質であるヘマグルチニン又はノイラミニダーゼは特に好ましい。ヘマグルチニンは任意のサブタイプ(典型的にはH1〜H16)を使用できるが、サブタイプH1が好適例として挙げられる。ノイラミニダーゼも任意のサブタイプ(典型的にはN1〜N9)を使用できるが、サブタイプN1が好適例として挙げられる。また、本発明に用いる抗原が由来するインフルエンザウイルスは、A型又はB型インフルエンザウイルスであってよく、例えば、H1N1(Aソ連型)、H3N2、H1N2、及びH2N2(A香港型)、H9N1、並びにH5N1等の様々な亜型であってよい。なおこれらの亜型名の「H1」、「H3」等はヘマグルチニンのサブタイプを表し、「N1」、「N2」等はノイラミニダーゼのサブタイプを表す。本発明に用いる抗原が由来するインフルエンザウイルスは、任意の生物種を宿主とするものであってよく、限定するものではないが、例えばヒトインフルエンザウイルス、トリインフルエンザウイルス、ブタインフルエンザウイルス等、又はそれらの変異体であってもよい。 非ヒト動物免疫工程(工程(a))において抗原を投与する非ヒト動物は、非免疫不全の非ヒト動物(以下、「非ヒト動物」と略す。)であり、すなわち、抗体産生能を含む免疫能を有し、T細胞及びB細胞を保有している、ヒト以外の動物である。この非ヒト動物は、好ましくは正常非ヒト動物である。非ヒト動物は、限定するものではないが、哺乳動物、げっ歯動物、鳥類等であってよい。非ヒト動物は、例えば、サル、イヌ、モルモット、マウス、ラットヒツジ、ヤギ、若しくはニワトリ等の家畜動物、愛玩動物又は実験動物であってもよい。より好ましい非ヒト動物は、げっ歯動物であり、マウスやラット等が挙げられるが、より好ましくは、マウスである。非ヒト動物は、任意の系統や種類であってよく、ヒト化動物やヒト抗体産生動物等の遺伝子操作した非ヒト動物も包含する。非ヒト動物としてヒト抗体産生動物を用いれば、ヒト抗体の取得も可能になる。
抗原で非ヒト動物を免疫する方法として、標的抗原に対する液性免疫を誘導できる任意の方法を用いることができるが、通常は、抗原を投与して非ヒト動物を免疫すればよい。抗原は単独で投与してもよいし、アジュバント、担体又は希釈剤とともに投与しても構わない。アジュバントとしては、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、又は水酸化アルミニウム等の任意のアジュバントを使用することができる。抗原の投与経路(免疫経路)としては、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、経鼻投与(点鼻投与など)、経肺投与、直腸内投与などの非経口経路を始めとする任意の経路が挙げられる。目的のアイソタイプの抗体の誘導を引き起こすことが可能な投与経路を用いることが好ましい。例えばIgAクラスの抗体の誘導を引き起こす免疫経路を選択することができ、そのような例としては経鼻投与を含む経粘膜投与が挙げられる。
非ヒト動物に対する免疫(抗原投与)の回数は、単回でも複数回(例えば、2回、3回、4回又は5回以上)でもよいが、複数回行うことがより好ましい。複数回免疫する場合は、1−6週間に1回の頻度で繰り返し投与することが好ましい。複数回免疫を行う場合、投与経路は同一であってもよいが、2種以上の投与経路を組み合わせてもよい。
抗原での免疫後、非ヒト動物における抗原特異的抗体価が上昇していることが望ましいが、その上昇レベルは高くなくてもよく、二次リンパ組織に抗原特異的抗体産生細胞が存在していればよい。抗原で免疫した非ヒト動物は、例えばアレルギーモデル動物等の疾患モデル動物であってもよい。
本発明の方法では、抗原で免疫した非ヒト動物に、ストローマ細胞(サイトカイン産生ストローマ細胞等)及び/又は樹状細胞又はそれらを含む高分子生体材料を移植して人工リンパ節を形成させる工程(特許文献1)を含まない。本発明において人工リンパ節とは、人工的操作により非ヒト動物が生来有するリンパ節とは異なる部位に後天的に形成されたリンパ節(異所性リンパ節)をいう。人工リンパ節は高分子生体材料、外来性ストローマ細胞及び/又は免疫担当細胞(サイトカイン等で活性化された樹状細胞等)を含みうる。
抗原で免疫した非ヒト動物からは、二次リンパ組織又はその細胞(二次リンパ組織細胞)を採取して、免疫不全非ヒト動物に移植する。ここで二次リンパ組織は、限定するものではないが、脾臓、リンパ節又は粘膜関連リンパ組織である。リンパ節は任意のリンパ節、例えば一次リンパ節、二次リンパ節又は三次リンパ節であってよく、具体的には表頸、上腕、腋窩、鼠蹊部、及び膝窩リンパ節等であってもよい。本発明において「二次リンパ組織」は、生来備わっている(生来の)二次リンパ組織を意味し、したがって人工リンパ節を含まない。粘膜関連リンパ組織としては、例えば、鼻粘膜リンパ組織(NALT;Nasal-associated lymphoid tissue)、気管支関連リンパ組織(BALT;Bronchial−associated lymphoid tissue)、咽頭粘膜リンパ組織、上気道粘膜リンパ組織(扁桃)、腸管粘膜組織(GALT;Gut-associated lymphoid tissue)、虫垂粘膜組織、パイエル板(Payer’s patch)、腸間膜リンパ節、縦隔リンパ節(Mediastinal lymph node)等が挙げられる。本発明の方法において二次リンパ組織は、膵臓やリンパ節等の臓器・器官全体を採取するか、又は組織構造を保持した組織片として採取して、それを免疫不全非ヒト動物に移植することができる。本発明において二次リンパ組織細胞とは、二次リンパ組織を構成するリンパ系細胞集団をいい、例えば二次リンパ組織に含まれる細胞集団をPBS等に懸濁した細胞懸濁液として調製することができる。移植する二次リンパ組織片は胚中心の少なくとも一部を含む。移植に用いる二次リンパ組織片又は二次リンパ組織細胞はまた、抗体産生細胞、樹状細胞、B細胞及びT細胞等のリンパ系細胞を含むことも好ましい。二次リンパ組織細胞は、複数部位の二次リンパ組織からの細胞の混合物であってもよい。
本発明において、抗原免疫した非ヒト動物から採取した二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞を移植する免疫不全非ヒト動物は、先天性免疫不全であっても、後天性免疫不全であってもよい。この免疫不全非ヒト動物は、少なくとも液性免疫能が欠損又は顕著に機能低下(より好ましくは欠損)していることが好ましく、液性免疫能と細胞性免疫能の両方が欠損又は顕著に機能低下(より好ましくは欠損)していることがさらに好ましい。免疫不全非ヒト動物は、T細胞及びB細胞の少なくとも一方が欠損又は減少していることが好ましく、T細胞及びB細胞の両方が欠損又は減少している複合免疫不全を示すことがより好ましい。免疫不全非ヒト動物は、哺乳動物、げっ歯動物、鳥類等であってよいが、これらに限定されるものではない。免疫不全非ヒト動物は、例えば、サル、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、若しくはニワトリ等の家畜動物、愛玩動物又は実験動物であってよい。免疫不全非ヒト動物は、マウスやラット等のげっ歯動物であってよいが、より好ましくは、マウスである。免疫不全非ヒト動物は、任意の系統や種類であってよく、ヒト化動物やヒト抗体産生動物等の、遺伝子操作したヒト以外の動物も包含する。二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞を移植する免疫不全非ヒト動物は、その二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞を採取した非ヒト動物と同一生物種であることがより好ましい。例えば免疫不全マウスとしては、重度複合免疫不全マウス(Severe Combined Immunodeficient mouse;SCIDマウス)を用いてもよい。免疫不全マウスを用いる場合、その具体例としては、C.B.17-SCID、NOD SCID、NOG SCID等のSCIDマウスの他、ヌードマウス、Rag1ノックアウトマウス、Rag2ノックアウトマウス等も挙げられる。免疫不全ラットを用いる場合、その具体例としては、X−SCIDラット(Mashimoら、PLoS ONE 5:e8870 (2010))を挙げることができる。
二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞の免疫不全非ヒト動物への移植は、常法により行うことができる。ここで「移植」とは、組織全体(臓器・器官等)若しくはその組織片、又は細胞を、免疫不全非ヒト動物の体内に導入することを意味する。なお細胞の移植は「移入」ということがある。二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞を移植する部位は、組織生着に適した任意の場であってよいが、好ましい例として、腎皮膜下への移植や皮下への移植などが挙げられ、腎皮膜下に移植することがより好ましい。腎皮膜下への移植は、具体的には腎皮膜と腎臓との間に組織又は組織片を挿入することによって行うことができる。移植する組織片の数は限定されないが、2個以上、例えば3個若しくは4個又は5個以上を移植することも好ましい。二次リンパ組織細胞の移植(移入)は、非経口経路で行えばよく、例えば腹腔内投与又は静脈内投与等が挙げられるが、腹腔内投与がより好ましい。移入する細胞数は、当業者が適宜定めることができるが、1x106個以上、例えば1x107〜1x108個であることが好ましい。二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞を移植した免疫不全非ヒト動物は再構成動物とも称される。
本発明の方法により、抗原特異的IgAモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製することもできる。抗原特異的IgAモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製する場合、二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞として、粘膜関連リンパ組織又は粘膜関連リンパ組織細胞を、免疫不全非ヒト動物に移植することが好ましい。粘膜関連リンパ組織は、上述した具体例のような任意の粘膜関連リンパ組織であってよいが、好ましい例としては、鼻粘膜リンパ組織(NALT;Nasal-associated lymphoid tissue)、縦隔リンパ節が挙げられる。
本発明の一態様では、非ヒト動物を所定の標的抗原(アレルゲン物質など)で免疫して得られる疾患モデル動物から摘出した二次リンパ組織(例えば、粘膜関連リンパ組織)又はその細胞を、免疫不全非ヒト動物に移植してもよい。なお、免疫疾患を発症している疾患モデル動物や、免疫異常が認められ目的の抗体が高産生されているような非ヒト動物から摘出した二次リンパ組織(例えば、粘膜関連リンパ組織)又はその細胞を、免疫不全非ヒト動物に移植することにより、同様の免疫不全非ヒト動物を作製することもできる。あるいは、非ヒト動物に癌細胞を移入した担癌モデル動物から摘出した粘膜関連リンパ組織又はその細胞を、免疫不全非ヒト動物に移植することによっても同様の免疫不全非ヒト動物を作製することができる。
本発明の方法では、免疫不全非ヒト動物に二次リンパ組織を移植することにより、標的抗原特異的モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの形成効率を、顕著に増加させることができる。したがって二次リンパ組織の移植を行う本発明の方法では、目的のハイブリドーマを高効率に作製することができる。
二次リンパ組織又は二次リンパ組織細胞を免疫不全非ヒト動物に移植した後、非ヒト動物の免疫に用いた標的抗原で、その免疫不全非ヒト動物をさらに免疫する。ここで、本発明における免疫不全非ヒト動物の「免疫」とは、免疫不全非ヒト動物の体内で標的抗原に特異的な抗体が産生されることをいい、免疫不全非ヒト動物自身のリンパ系細胞による抗体産生に限定されず、むしろ、免疫不全非ヒト動物に移植されたリンパ系細胞による抗原特異的抗体の産生を意図する。移植されたリンパ系細胞による抗原特異的抗体の産生をもたらすこの免疫不全非ヒト動物の免疫は、移植された抗原感作リンパ系細胞に対する追加免疫(ブースト)に相当する。
標的抗原による免疫不全非ヒト動物の免疫は、標的抗原の1回以上の投与によって行うことができる。標的抗原のこの投与は、2回又は3回以上行うことがより好ましい。標的抗原の投与の間隔は、7−14日程度とすることが好ましい。抗原の投与経路は、追加免疫(ブースト)に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、皮内投与などが挙げられる。抗原投与量は、マウスの場合、1μg−1000μg、好ましくは5μg−200μgである。
標的抗原の投与(追加免疫)により、上記免疫不全非ヒト動物(再構成動物)では標的抗原に対する血中抗体価が上昇する。追加免疫を行った後(例えば、投与後3−10日目)に免疫不全非ヒト動物から脾細胞又はリンパ節細胞を取得する。この脾細胞又はリンパ節細胞の取得は、免疫不全非ヒト動物から脾臓又はリンパ節を摘出し、そこから細胞を採取することにより行うことができる。採取した脾細胞又はリンパ節細胞を、同種又は異種動物のミエローマ細胞等の不死化細胞と細胞融合させれば、自律増殖能を持ったハイブリドーマ細胞を作製することができる。
脾細胞又はリンパ節細胞とミエローマ細胞等の不死化細胞との細胞融合は、公知の方法(ケーラーら、Nature (1975) vol. 256、p.495-497)によって実施できる。例えば、両細胞を洗浄した後、ミエローマ細胞等の不死化細胞1に対し脾細胞又はリンパ節細胞を1−10の割合で混合し、融合促進剤として、平均分子量1000−6000のポリエチレングリコール又はポリビニールアルコールを加え、細胞融合装置等を用いて電気刺激(例えば、エレクトロポレーション)を負荷することにより、細胞融合を誘導することができる。
細胞融合に使用可能なミエローマ細胞の例としては、例えば、マウス由来の株化細胞であるP3−X63Ag8−U1(P3−U1)、SP2/0−Ag14(SP2/0)、P3−X63−Ag8653(653)、P3−X63−Ag8(X63)、P3/NS1/1−Ag4−1(NS1)等、さらにラット由来の株化細胞であるYB2/O、Y3−Ag1.2.3等が挙げられる。これらの細胞株は、理化学研究所バイオリソースセンター、ATCC(American Type Culture Collection)又はECACC(European Collection of Cell Cultures)等から入手可能である。
このようにして細胞融合により形成されたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液で培養することにより選択することができる。HAT培養液での培養は、非融合細胞が死滅するのに十分な時間(数日から数週間)行えばよい。
得られたハイブリドーマクローン群には、標的抗原特異的モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが非常に高頻度で含まれる。したがって本発明の方法で形成されるハイブリドーマクローン群からは、標的抗原特異的モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを高効率でスクリーニングすることができる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングは、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、ウエスタンブロット、フローサイトメトリーなど公知の方法で行うことができる。例えば、標的抗原を吸着させたマイクロプレートにハイブリドーマ培養上清を添加し、さらに放射性物質や酵素等で標識した抗イムノグロブリン抗体を加えて、マイクロプレートに結合したモノクローナル抗体を検出する方法、又は、抗イムノグロブリン抗体を吸着させたマイクロプレートにハイブリドーマ培養上清を添加し、さらに放射性物質や酵素等で標識したタンパク質を加え、マイクロプレートに結合したモノクローナル抗体を検出する方法等が挙げられる。特定のアイソタイプの抗体、例えば、抗原特異的IgAモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングするためには、イムノグロブリンを検出する抗体にIgA認識抗体を使用すればよい。
このようにして得られる標的抗原特異的モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを細胞培養することにより、標的抗原特異的モノクローナル抗体を、大量に調製することができる。例えば、上記スクリーニングで得られたハイブリドーマ細胞を、無血清培地、例えば、Hybridoma−SFM(インビトロジェン社)に馴化させ、無血清培地にて培養して得た培養上清からモノクローナル抗体を調製できる。培養には、例えば、フラスコ、シャーレ、スピナーカルチャーボトル、ローラーボトル又は高密度培養フラスコCELLine(ベクトンデッキンソン社)を使用することができる。
あるいは、大量にモノクローナル抗体を調製する場合には、例えば、6−8週齢のヌードマウス又はSCIDマウスの腹腔内に、0.5mLのプリスタン(2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン)を投与し、2週間飼育した後に5×106〜2×107細胞/匹のハイブリドーマ細胞を腹腔内に投与し、10−21日間飼育することによって得られる腹水から標的抗原特異的モノクローナル抗体を調製することもできる。
なお、ハイブリドーマ細胞を作製せず、標的抗原で免疫した非ヒト動物の脾細胞又はリンパ節細胞からRNAを調製し、抗体遺伝子のcDNAライブラリーを作製し、該cDNAを大腸菌又は動物細胞等で発現させて目的のモノクローナル抗体(例えば、IgAモノクローナル抗体)を産生するクローンをスクリーニングすることによって、目的のモノクローナル抗体(例えば、IgAモノクローナル抗体)を大量に調製することもできる。
したがって本発明はまた、上記のようにして作製した標的抗原特異的モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを培養することを含む、標的抗原特異的モノクローナル抗体の製造方法も提供する。
本発明は、一態様として、非ヒト動物を標的抗原で免疫し、該動物から粘膜関連リンパ組織を摘出し、その粘膜関連リンパ組織又はその細胞(粘膜関連リンパ組織細胞)を免疫不全非ヒト動物に移植し、得られた再構成動物に抗原を投与して追加免疫し、該標的抗原に対する抗体を産生する抗体産生細胞又はそれを含む脾細胞又はリンパ節細胞を該再構成動物から採取し、それをミエローマ細胞等の不死化細胞と融合させて標的抗原特異的抗体産生ハイブリドーマを作製し、該抗体産生ハイブリドーマを培養して標的抗原特異的IgAモノクローナル抗体を産生させて、培養上清からその標的抗原特異的IgAモノクローナル抗体を単離することによる、標的抗原特異的IgAモノクローナル抗体の製造方法も提供する。
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は説明のためのものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
[実施例1]抗原免疫BALB/cマウス由来リンパ節又はリンパ節細胞および脾臓又は脾細胞のSCIDマウスへの移植
本実施例では、抗原刺激したリンパ球をin vivoで増幅させるべく、T細胞及びB細胞を持たない免疫不全マウスであるSCIDマウス(重症複合免疫不全マウス)(C.B−17/Icr−scid/scidJcl、日本クレア社より購入)に、抗原で免疫した正常マウス(BALB/c系統)の二次リンパ節又は脾臓の組織片を移植した。また比較実験として、二次リンパ節又は脾臓から単離した細胞を同様のSCIDマウスの静脈内に移入し、その効果を比較した。
まず、抗原として用いるため、C型肝炎ウイルス(HCV)TH株(Wakita et al., J.Biol.Chem., 269:14205-14210, (1994)及びMoradpour et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 246: 920-924 (1998))由来の組換えエンベロープタンパク質を調製した。具体的にはHCV TH株のゲノム(Wakita, T. et al., J. Biol. Chem., 269, p.14205-14210 (1994))の328位〜717位の配列に相当する、E2タンパク質をコードするDNAを、動物細胞用タグ化タンパク質発現ベクター(タグ:One−STrEP−tag)中に組み込み、これをCOS1細胞(アフリカミドリザル腎臓由来)に導入し、タンパク質を発現させ、得られた組換えHCVエンベロープタンパク質E2(以下、TH株E2タンパク質とも称する)を単離精製した。
このTH株E2タンパク質溶液とアジュバントImjectAlum(商標)(PIERCE社)とを等量ずつ混和して調製した抗原溶液を、8週齢の雌性BALB/cマウス(日本クレア)の腹腔内に抗原量10μg/headとなる量で2週間おきに2回投与した。2回目の免疫の2週間後にリンパ節(表頸、上腕、腋窩、鼠蹊部、及び膝窩)及び脾臓を採取し、氷上に置いた。得られた各リンパ節を混合し、一部は移植に使用し、一部から細胞を単離した。
単離した細胞について、1匹あたり細胞数1x107個を、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)200μLに懸濁し、それを8週齢の雌性SCIDマウスの静脈内に投与することによりマウスにリンパ節細胞を移入(移植)した。脾臓に関しても同様に、一部を移植に使用し、一部から細胞を単離し、1匹あたり細胞数1x107個を、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)200μLに懸濁し、それを8週齢の雌性SCIDマウスの静脈内に投与することによりマウスに脾細胞を移入した。
組織移植については、8週齢の雌性SCIDマウスをイソフルランによって麻酔し、背部をバリカンで毛剃りした。マウスを70%エタノールで消毒後、片側臥位にし、左季肋部の皮を約1cm切開し、その真下の筋層も約1cm切開した。腎周辺の脂肪をピンセットで摘んで腎臓を体外に引き出した。マイクロピンセットを用いて腎皮膜を2−3mm程度破り、腎皮膜と腎臓との間に、上記で採取及び調製したリンパ組織片(リンパ節又は脾臓)を挿入した。腎臓を体内に戻し、筋層及び皮膚を縫合した。片腎につき2個、計4個の組織片(リンパ節又は脾臓のいずれか)を移植した。
組織移植あるいは細胞移入の2、16、及び30日後(それぞれ、第1追加免疫、第2追加免疫、第3追加免疫と称する)に、上記で調製したTH株E2タンパク質溶液を抗原量10μg/headとなる量で、上記の各SCIDマウスの腹腔内に投与し、各追加免疫の4日後にヘパリナイズキャピラリー(テルモ社)を用いて採血を行った。
得られた血液サンプルについて、ELISAによって血中の抗原特異的抗体を定量した(図1A)。このELISAでは、免疫に用いた抗原のものとは異なるタグを付加した組換えTH株E2タンパク質をイムノプレートに固相化し、これを用いて血液サンプル中の抗原(TH株エンベロープタンパク質E2)特異的抗体量を測定した。縦軸は450nmでの吸光度を示す。丸印は個体値、棒印は平均値を示す。なお図1A中、「LN」は標的抗原で免疫したBALB/cマウス由来のリンパ節を移植した実験群、「Spleen」は標的抗原で免疫したBALB/cマウス由来の脾臓を移植した実験群である。「LN cell」は標的抗原で免疫したBALB/cマウス由来のリンパ節細胞を移入(静脈内投与)した実験群、「Spleen cell」は標的抗原で免疫したBALB/cマウス由来の脾細胞を移入(静脈内投与)した実験群である。「1st」「2nd」「3rd」は、SCIDマウスでの第1〜第3追加免疫の後にそれぞれ採取した血液サンプルを示す。ここでは、TH株E2タンパク質を含むタグ化タンパク質One-StrEP-tag-THE2を抗原溶液の調製に用いた。
図1Aの「LN」及び「Spleen」の結果に示すように、抗原免疫マウス由来組織片を移植したSCIDマウスでは、2度目の抗原投与(第2追加免疫)により血中抗体価の上昇が認められ、3度目の抗原投与(第3追加免疫)を行うことによって、さらに大きな抗体価の上昇が観察された。
一方、「LN cell」及び「Spleen cell」の結果に示すように、抗原免疫細胞を移入したSCIDマウスにおいても、2度目の抗原投与(第2追加免疫)により血中抗体価の上昇が認められ、3度目の抗原投与(第3追加免疫)を行うことによって、さらに大きな抗体価の上昇が観察された。しかし、組織片移植の場合と比較するとその程度は低く、組織片の腎皮膜下移植が有効であることが示された。
以上より、抗原感作されたリンパ系細胞をSCIDマウスに移入して追加免疫を行うことにより、その抗原に対する血中抗体価を大幅に上昇させることができることが示された。このことは、標的抗原に対する抗原特異的抗体の産生をSCIDマウス中で効果的に誘導できたことを示している。
[実施例2]抗原免疫BALB/cマウス由来リンパ組織(リンパ節又は脾臓)片のSCIDマウスへの移植
本実施例では、無処置マウスあるいは抗原免疫マウス由来のリンパ組織(リンパ節又は脾臓)を、SCIDマウスに腎皮膜下(組織生着に適した場である)に移植することにより、抗原TH株E2タンパク質に対する抗原特異的抗体の産生を誘導した。
具体的には、実施例1と同様の方法で、TH株E2タンパク質を含む抗原溶液を用いて免疫したBALB/cマウスから2回目の免疫の2週間後にリンパ節(表頸、上腕、腋窩、鼠蹊部)及び脾臓を採取し、それぞれ氷冷PBS中に置いた。一方、無処置マウスは抗原免疫群と週齢を合わせたBALB/cマウスを用い、リンパ節(表頸、上腕、腋窩、鼠蹊部)及び脾臓を採取し、それぞれ氷冷PBS中に置いた。
8週齢の雌性SCIDマウスをイソフルランによって麻酔し、背部をバリカンで毛剃りした。マウスを70%エタノールで消毒後、片側臥位にし、左季肋部の皮を約1cm切開し、その真下の筋層も約1cm切開した。腎周辺の脂肪をピンセットで摘んで腎臓を体外に引き出した。マイクロピンセットを用いて腎皮膜を2−3mm程度破り、腎皮膜と腎臓との間に、上記で採取及び調製したリンパ組織片(リンパ節又は脾臓)を挿入した。腎臓を体内に戻し、筋層及び皮膚を縫合した。片腎につき2個、計4個の組織片(リンパ節又は脾臓のいずれか)を移植した。組織移植の2、16、30日後に、実施例1で調製したTH株E2タンパク質溶液を、抗原量10μg/headとなる量でそのSCIDマウスの腹腔内に投与し、その各追加免疫の4日後に採血を行った。
得られた血液サンプルについて、実施例1と同様に、ELISAによって血中の抗原特異的抗体を定量した(図1B)。免疫に用いた抗原のものとは異なるタグを付加した組換えエンベロープタンパク質E2をイムノプレートに固相化し、これを用いて血液サンプル中の抗原(TH株エンベロープタンパク質E2)結合性抗体量を測定した。縦軸は450nmでの吸光度を示す。丸印は個体値、棒印は平均値を示す。なお図1B中、「無処置LN」はナイーブBALB/cマウス由来のリンパ節を移植した対照群、「無処置Spleen」はナイーブBALB/cマウス由来の脾臓を移植した対照群である。「pre免疫LN」は、実施例2において標的抗原で免疫したBALB/cマウス由来のリンパ節を移植した実験群、「pre免疫Spleen」は、実施例2において標的抗原で免疫したBALB/cマウス由来の脾臓を移植した実験群である。「1st」「2nd」「3rd」は、SCIDマウスでの第1〜第3追加免疫の後にそれぞれ採取した血液サンプルを示す。ここでは、TH株E2タンパク質を含むタグ化タンパク質One-StrEP-tag-THE2を抗原溶液の調製に用いた。
図1Bの「pre免疫LN」及び「pre免疫Spleen」の結果に示すように、抗原免疫リンパ組織を移植したSCIDマウスでは、2度目の抗原投与(第2追加免疫)により抗原に対する血中抗体価の大幅な上昇が認められ、3度目の抗原投与(第3追加免疫)を行うことによって、さらに顕著に大きな抗体価上昇が観察された。一方、「無処置LN」及び「無処置Spleen」の結果に示すように、抗原免疫を行っていないマウス由来のリンパ組織を移植した場合の抗体価の上昇は3度目の抗原投与(第3追加免疫)においても弱く、あらかじめ抗原免疫を行ったマウス由来のリンパ組織を移植することが効果的であることが示された。
[実施例3]抗原免疫粘膜リンパ組織のSCIDマウスへの移植
(1) OVA(卵白アルブミン)誘発アレルギーモデルマウスの作製
OVA溶液(SIGMA社)とImjectAlum(PIERCE社)を等量ずつ混和し、調製した溶液を10μg/headとなる量で8週齢の雌性BALB/cマウス(日本クレア)に1週おきに2回腹腔内投与した。続いてそのマウスに、OVA溶液を100μg/headの量で3日連続、点鼻投与した。これにより、OVA(オボアルブミン)誘発アレルギーモデルマウスが作製された。
(2) OVA誘発アレルギーモデルマウス由来NALTのSCIDマウスへの移植
上記のとおり作製したOVA誘発アレルギーモデルマウスから、鼻粘膜リンパ組織(NALT;Nasal−associated lymphoid tissue)を採取し、氷冷PBS中に置いた。8週齢の雌性SCIDマウス(日本クレア)をイソフルランによって麻酔し、背部をバリカンで毛剃りした。70%エタノールでマウスを消毒後、片側臥位にし、左季肋部の皮を約1cm切開し、その真下の筋層も約1cm切開した。腎周辺の脂肪をピンセットで摘んで腎臓を体外に引き出した。マイクロピンセットを用いて腎皮膜を2−3mm程度破り、腎皮膜と腎臓との間に、上記で採取したリンパ組織片(鼻粘膜リンパ組織)を挿入した。腎臓を体内に戻し、筋層及び皮膚を縫合した。片腎につき2個、計4個のリンパ組織片(鼻粘膜リンパ組織)を移植した。
組織移植の2日後及び16日後に、OVA 100μg/headを静脈内に投与し、その2度目の追加免疫の4日後に採血を行った。
得られた血液サンプルについて、ELISAによって血中のOVA特異的抗体価をアイソタイプ別に測定した。アイソタイプ別の抗体価測定はOVAを固相化したELISAによって行った。まず、イムノプレート(Nunc社)にOVAを5μg/wellずつ添加し、4℃で一晩静置することによって固相化した。ブロッキング・ワン(ナカライテスク社)でブロッキングを行った後、血清希釈液を各ウェルに添加し、室温で1−2時間反応させた。0.05%Tween20/ PBSで洗浄後、HRP標識抗マウス抗体(抗IgG1,抗IgG2a,抗IgA,抗total IgG)を添加し、室温で1時間反応させた。0.05%Tween20/PBSで洗浄後、TMB基質(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)を添加し、発色が適当になったところで2N硫酸を添加して反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
また比較のため、免疫を行っていないBALB/cマウス(ナイーブ(naive)マウス)の腋窩リンパ節を移植したSCIDマウスにおける血中のOVA特異的抗体価の測定も行った。
組織移植の16日後の追加免疫の後に採取した血液サンプルに関する測定結果を図2に示す。IgG2a、IgG2b、IgMタイプの抗原特異的抗体価の上昇は観察されなかったのに対し、IgAタイプでは抗原特異的抗体の誘導が確認された。図2中の黒丸はNALTを移植したSCIDマウス、白丸は免疫を行っていないBALB/cマウス由来腋窩リンパ節を移植したSCIDマウスの測定値を示している。図2AはIgG1、図2BはIgG2a、図2CはIgM、図2DはIgAの結果を示す。縦軸は吸光度(450nm)、横軸は血清の希釈倍率を示す。
さらに、アイソタイピングキット(PIERCE社)を用い、キットのプロトコールに従って血清の評価を行った。IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgAのそれぞれに対する二次抗体を用いて血清中の各アイソタイプに対し吸光度測定し、得られた吸光度の合計値を100として、各アイソタイプの吸光度からその割合(%)を算出した(図3)。その結果、OVA誘発アレルギーモデルマウス由来NALTを移植したSCIDマウス(図中のB)では、血清中IgA抗体の割合が、通常免疫を施した対照マウス(図中のA)と比較して、3倍以上高いことが示された(図3)。なお、図中のAは、OVA抗原をAlumアジュバントと共にBALB/cマウスに4度投与(初回免疫+3回の追加免疫)(通常免疫)した後に採取された血液サンプル(対照群)の結果を示す。図中のBは、OVA免疫アレルギーモデルマウス由来NALTを移植し追加免疫を行ったSCIDマウスからの血液サンプル(実験群)である。
以上から、抗原免疫したNALT(鼻粘膜リンパ組織)をSCIDマウスに移植することによる本発明の方法で、IgAを選択的に強く誘導できることが示された。
[実施例4]NALT移植SCIDマウス由来リンパ細胞からのハイブリドーマの作製
OVA誘発アレルギーモデルマウス由来NALTを移植したSCIDマウスの脾臓から調製した脾細胞と、マウスミエローマ細胞株SP2/0とを、常法により融合させ、融合細胞懸濁液を100μL/wellで96ウェルプレートの各ウェルに播種し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。翌日、2倍濃度のHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン;インビトロジェン社)を含む培地RPMI 1640を各ウェルに100μL加え、引き続き37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。5−10日間培養し、各ウェルの培養上清に含まれる抗原(OVA)結合性抗体をスクリーニングした。その結果、培養上清中にIgAタイプのOVA結合性抗体(モノクローナル抗体)が検出された。
このように、本発明の方法により、従来法では取得が困難であった抗原特異的IgAモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを容易に取得できることが示された。
[実施例5]抗原免疫リンパ組織移植SCIDマウスの末梢リンパ組織中の細胞の解析
NP−OVAを抗原として用いて、実施例2と同様にして作製した抗原免疫BALB/cマウス由来リンパ組織(リンパ節)を移植したSCIDマウスにおけるリンパ組織(リンパ節又は脾臓)中に存在する細胞の属性を、フローサイトメトリーを用いて解析した。
抗原免疫リンパ節移植SCIDマウスに、実施例2と同様にして、抗原を用いた3回の追加免疫を行った。3度目の追加免疫後にSCIDマウスからリンパ節(上腕、腋窩)及び脾臓を摘出した。そのリンパ節及び脾臓から細胞(リンパ節細胞、脾細胞)を単離し、トリス−塩化アンモニウム等張緩衝液(ACT溶液)で処理することによって赤血球を除去した後、Fcブロック液(抗CD16抗体及び抗CD32抗体;Mouse BD Fc Block(商標)、BD Pharmingen社))に懸濁し、4℃で20分間インキュベートした。1%BSA/PBS溶液で細胞を洗浄後、蛍光標識した各種抗体(抗CD3抗体/抗B220抗体、抗CD4抗体/抗CD8抗体、抗CD4抗体/抗CD44抗体/抗CD62L抗体;BD社)を添加して4℃で30分間反応させた。1%BSA/PBS溶液で洗浄後、フローサイトメトリーにて解析を行った。フローサイトメトリーを用いて測定した各細胞群のドットプロットを図4に示す。
抗原免疫リンパ節移植SCIDマウスのリンパ節及び脾臓から調製した細胞群では、抗CD3抗体で検出されるT細胞、及び抗B220抗体で検出されるB細胞の存在が確認された。さらに詳しく解析した結果、リンパ節及び脾臓のいずれにおいても、CD4+、CD62Llow、CD44high画分に分類されるメモリーT細胞が、高率で存在していることが示された(図4のI、L)。SCIDマウスの脾臓からの細胞群ではCD4+、CD62Llow、CD44high画分の細胞が90.09%、SCIDマウスのリンパ節からの細胞群では同画分の細胞が60.53%であった。
一方、抗原NP−OVAで免疫したBALB/cマウスの脾臓及びリンパ節の細胞群では、CD4+、CD62Llow、CD44high画分の細胞は脾臓で30.75%、リンパ節で17.24%であった。
この結果から、抗原免疫リンパ組織をSCIDマウスに移植することにより、SCIDマウスの脾臓及びリンパ節中のメモリーT細胞が顕著に増加したことが示された。メモリーT細胞は、再び同じ抗原に出会った際の速やかな免疫反応の誘導に関与していることが知られている。したがって、抗原免疫リンパ組織移植SCIDマウスで追加免疫(ブースト)により強い抗体誘導が起こった理由の1つとして、SCIDマウスのリンパ組織でメモリーT細胞が大幅に増加したことが考えられた。
[実施例6]抗原免疫リンパ節移植SCIDマウス由来脾細胞からのハイブリドーマ作製
マウス骨髄腫(ミエローマ)細胞株SP2/0を、血清を含まないRPMI 1640培地にて2回洗浄した。
次に実施例2で作製した抗原TH株E2タンパク質で免疫したBALB/cマウスのリンパ節を移植したSCIDマウスより脾細胞を採取及び調製し、血清を含まないRPMI 1640培地にて3回洗浄した。
上記のSP2/0細胞とマウス脾細胞とを1:5の比率になるように混和し、1200rpmで3分間遠心し、上清を完全に吸引して除去した後、チューブをタッピングしてペレットをほぐした。細胞融合のため、細胞に37℃にて温めておいたPEG1500(ロシュ社)1mLを添加し、続いて9mLの血清不含RPMI 1640培地を加えて希釈した。希釈液中の細胞を1200rpmで3分間遠心して回収し、脾細胞が1x107個/mLとなるようにRPMI 1640培地(15%FBS、10%BMコンディムド(Condimed)H1(ロシュ社)を含む)に懸濁した。この細胞懸濁液を100μL/wellで96ウェルプレートの各ウェルに播種し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。翌日、2倍濃度のHAT(インビトロジェン社)を含むRPMI 1640を各ウェルに100μL加え、引き続き37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。5−10日間培養し、各ウェルの培養上清を回収した。
ハイブリドーマ培養上清中に含まれる抗原(TH株E2タンパク質)結合性抗体の有無は、ELISA法により以下のようにしてスクリーニングした。まず、イムノプレート(Nunc社)に抗原を50ng/wellずつ添加し、4℃で一晩静置することによって固相化した。ブロッキング・ワン(ナカライテスク社)でブロッキングを行った後、ハイブリドーマの培養上清を各ウェルに添加し、室温で1−2時間反応させた。0.05%Tween20/PBSで洗浄後、HRP標識抗マウスIgG抗体を添加し、室温で1時間反応させた。0.05%Tween20/PBSで洗浄後、TMB基質(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)を添加し、発色が適当になったところで2N硫酸を添加して反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。その結果を図5に示す。
抗原免疫リンパ節移植SCIDマウス由来脾細胞からのハイブリドーマ作製では、ほぼ全てのクローンが、その培養上清について強い陽性反応(吸光度0.5以上)を示した(図5A)。通常免疫法により免疫したBALB/cマウスの脾細胞からのハイブリドーマ作製(対照群)の結果(図5B)と比較すると、その違いは顕著であった。図5中の各枠は、ELISA法による各クローンの吸光度測定値を示す。この結果は、本発明の方法により、標的抗原に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを非常に効率良く作製できることを示した。図5Aは、C型肝炎ウイルスエンベロープタンパク質(TH株E2タンパク質)を抗原として免疫したBALB/cマウスのリンパ節を移植したSCIDマウスの脾臓由来の脾細胞より作製したハイブリドーマに関する検出結果である。図5Bは、通常免疫法により免疫したBALB/cマウスの脾臓由来の脾細胞より作製したハイブリドーマに関する検出結果である。陽性反応を吸光度0.3以上とし、0.5以上をより強い陽性反応とした。陽性反応クローンの枠には影をつけて示した。
[実施例7]抗原TH株E2タンパク質に対するモノクローナル抗体を含むハイブリドーマ培養上清によるHCV感染阻害評価
実施例6と同様にして作製した抗原免疫リンパ組織移植SCIDマウス由来脾細胞から作製されたハイブリドーマにより産生された抗原特異的モノクローナル抗体について、その抗原TH株E2タンパク質を表面に有するHCV粒子の細胞感染を阻害する活性を有するかどうかを評価した。
(1) 感染性HCV様粒子(HCVpp)の作製
HCV感染を引き起こすために用いる感染性HCV様粒子(HCVpp)の作製は、Bartoschらの方法に準じて行った(文献:Bartosch, B. et al.(2003) J. Exp. Med., 197, 633−642)。この方法では、レトロウイルス融合タンパク質Gag−polを発現するベクター、HCVエンベロープタンパク質を発現するベクター、レポーター遺伝子を発現するレトロウイルスパッケージングベクターの3種類のベクターを動物細胞で共発現させることにより、レポーター遺伝子がパッケージングされており、HCVエンベロープタンパク質をそのウイルスの表面に発現するシュード(偽)ウイルス粒子を作製することができる。
遺伝子型1bのエンベロープタンパク質をもつHCVppを作製するために、HCV構造タンパク質発現ベクターとして組換えプラスミドpcDNA THdC−E2を使用した。この組換えプラスミドは、遺伝子型1bのHCV株であるTH株のポリプロテイン(Wakita, T. et al., J. Biol. Chem., 269, p.14205-14210 (1994))のN末端から132番のアミノ酸残基から747番のアミノ酸残基まで(コアの一部、E1、E2タンパク質)をコードする核酸を、pcDNA3.1にクローン化した発現ベクターである。
Gag−pol発現ベクターとしては、マウス白血病ウイルス(Murine leukemia virus;MLV)のgagとpolをコードする遺伝子をクローン化した発現ベクターGag−Pol 5349を使用した。レポーター遺伝子発現ベクターとしては、ルシフェラーゼ遺伝子をクローン化したレトロウイルスパッケージングベクターLuc126を用いた。
HEK293T細胞を、10% FCS−DMEM培地(以下、DMEM−10Fと記載)にて継代培養した。HEK293T細胞を、2.5×106細胞/ディッシュとなるように、コラーゲンコートした10cmディッシュ(IWAKI社)に播種し、一晩培養した。所定量のOpti−MEM(Gibco社)、Lipofectamine2000(Dibco社)及び3種類の上記発現ベクター(pcDNA THdC−E2、Gag−Pol 5349及びLuc126)を混合し、室温で20分インキュベートした。HEK293T細胞の培地をOpti−MEM 9mLに交換し、ここに上記で調製したLipofectamine2000と3種類のDNA(発現ベクター)からなる複合体を添加し、37℃、5%CO2で6時間インキュベートした。反応終了後、PBSで一回洗浄し、DMEM−10F 8mLを添加して37℃、5%CO2で48時間インキュベートした。培養終了後、上清を回収し、0.22μmフィルターで濾過したものをHCVpp溶液とした。HCVpp溶液は1mLずつ分注し、−80℃にて保存した。
このようにして得られた、遺伝子型1bのTH株の構造タンパク質をもつシュードHCV粒子(HCVpp)をTH HCVppと呼称する。
(2)感染阻害活性の測定
(1)で作製したTH HCVppを用いた細胞感染系で、実施例6と同様にして抗原免疫リンパ組織移植SCIDマウス由来脾細胞から作製されたハイブリドーマの培養上清中に含まれる抗体のHCV感染阻害活性を測定した。
具体的には、上記(1)で得たTH HCVpp溶液に、採取したハイブリドーマ培養上清を等量加え、37℃で30分インキュベーションした。このようにして処理したウイルス液を、前日に48穴プレート中で2x104細胞/ウェルで培養しておいたHuh7細胞(培養培地は廃棄)に、100μl/ウェルで加えて、37℃で3時間インキュベーションした。次いで、加えたウイルス液を捨てた後、Huh7細胞をPBSで1回洗浄し、500μl/ウェルの培養培地を加えて37℃で72時間インキュベーションした。培地を捨て、PBSで3回洗浄した後、細胞溶解液CCLR(Promega社)を加えて細胞を溶解し、遠心分離により細胞塊を除去し、その上清をサンプルとした。サンプル20μlとルシフェリン基質溶液50μlを混和し、直ちに発光強度を測定した。HCV粒子が細胞に感染した場合、HCVpp粒子に導入したルシフェラーゼ遺伝子が細胞内で発現し、その活性により蛍光が検出されることになる。一方、対照実験として、ハイブリドーマ培養上清に代えて培地RPMI 1640を、TH HCVppと混合して同様に発光強度の測定を行った。対照実験の測定値(対照)を100%感染率として、ハイブリドーマ培養上清とTH HCVppを混合した場合の測定値を、相対的な感染率(%)で表した。すなわち、感染率が低いほど、用いたハイブリドーマ培養上清に含まれるモノクローナル抗体のHCV感染阻害活性が高いことを示す。
その結果、図6に示すように、試験したハイブリドーマ培養上清の感染率は、培地と比較して50%であることから、ハイブリドーマ培養上清にはHCVppの感染を阻害する活性があることが示された。なお図6中、「sup.」は各ハイブリドーマクローンの培養上清サンプルである。「no env.」はHCVのエンベロープタンパク質を持たないレトロウイルス粒子である。
以上の結果から、本発明の方法により、抗原を認識でき抗原に対する活性阻害能を有するモノクローナル抗体(いわゆる中和抗体)を効率良く作製できることが示された。
[実施例8]インフルエンザウイルスタンパク質に対するIgA抗体の作製
(1)不活化インフルエンザウイルスによる免疫
8週齢の雌性BALB/cマウス(日本クレア)を「通常免疫群」と「二次リンパ組織移植群」の2群に分けて、不活化したPR8株(H1N1亜型)のインフルエンザウイルス粒子(北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターより分与されたウイルスをニワトリ卵にて増殖させ不活化した)を100μg経鼻投与(免疫)した。不活化インフルエンザウイルス粒子(PR8株)は、PBSで希釈し、100μg/10μLとして使用した。経鼻投与は、ピペットマンを用いて、BALB/cマウスの鼻より10μLを投与することにより行った。
2か月後、「二次リンパ組織移植群」の免疫したBALB/cマウスから脾臓及び縦隔リンパ節を採取した。脾臓は3mm四方程度(厚みは2〜3mm程度)に切り、縦隔リンパ節はハサミで切りこみを入れ、移植に使用した。麻酔下で8週齢の雌性SCIDマウス(日本クレア)の腎皮膜下に、採取した脾臓又は縦隔リンパ節を移植した(腎臓1つに対し、2つの組織断片を移植)。すなわちSCIDマウス1匹あたり、脾臓断片4つ又は縦隔リンパ節4つを移植した。移植から4日後、SCIDマウスに不活化インフルエンザウイルス粒子(PR8株)100μgを尾静脈より投与した(追加免疫)。2週間後及びさらにその2週間後に不活化インフルエンザウイルス粒子(PR8株)100μgをSCIDマウスに尾静脈より投与した(追加免疫)。最終追加免疫から4日後に、SCIDマウスから心採血によって血液を採取し、血清を調製した。
「通常免疫群」も同じスケジュールで不活化インフルエンザウイルス粒子(PR8株)100μgをBALB/cマウスに尾静脈より投与(追加免疫)し、最終追加免疫から4日後に、BALB/cマウスから心採血によって血液を採取し、血清を調製した。「通常免疫群」と「二次リンパ組織移植群」の免疫スケジュールを図7に示した。図7Aの「通常免疫群」では、不活化インフルエンザウイルス粒子(PR8株)をBALB/cマウスに経鼻投与後、同ウイルスを3回静脈内投与にて追加免疫するスケジュールで免疫した。図7Bの「2次リンパ組織移植群」では、不活化インフルエンザウイルス粒子(PR8株)をBALB/cマウスに経鼻投与後、BALB/cマウスから二次リンパ組織を採取し、SCIDマウスの腎皮膜下に該組織を移植後、同ウイルスをSCIDマウスに3回静脈内投与にて追加免疫するスケジュールで免疫した。
(2)ELISAによる血清中の抗体価の評価
図7に示したスケジュールにより不活化インフルエンザウイルス粒子(PR8株)で免疫したマウス及び、対照として無処置マウス(免疫を行っていないBALB/cマウス(ナイーブ))の血清中の抗体価の測定を行った。
インフルエンザウイルス粒子(PR8株)のウイルス破砕液をPBSで希釈調製し、イムノプレート(Nunc社;MaxSorp)に50μL/ウェルを分注し、4℃で一晩、固相化した。固相化プレートを0.05%Tween−20含有PBSで3回洗浄後、1%BSA含有PBSで、室温にて1時間ブロッキングした。ブロッキング液を除き、同様にプレートを3回洗浄後、1%BSA含有PBSで希釈した各マウスの血清を加え、室温にて1時間反応させた。なお、IgGを測定する場合は血清を24,300倍、IgAを測定する場合は血清を10,000倍に希釈したものを用いた。その後、プレートから血清を除去し、同様に5回洗浄後、1%BSA含有PBSで希釈した検出用抗体を加え、室温にて1時間反応させた。検出用抗体には、HRP−ヤギ抗マウスIgG又はHRP−ヤギ抗マウスIgA(いずれもZymed社)を用いた。反応後、プレートから検出用抗体を除去し、同様に8回洗浄後、Sure Blue/TMB(KPL社)を100μL加え、5〜15分後に、2N硫酸を50μL加え、反応を停止させた。プレートリーダー(iMark;BIORAD社)を用いて吸光度(450nm)を測定した。
その結果を図8に示す。通常免疫群(レーン2)、二次リンパ組織移植群(脾臓移植)(レーン3)及び二次リンパ組織移植群(縦隔リンパ節移植)(レーン4)のいずれの免疫方法でも、インフルエンザウイルス(PR8株)タンパク質に対する特異的なIgGの誘導が確認された(図8A)。一方、インフルエンザウイルス(PR8株)タンパク質に対する特異的なIgAの誘導は、縦隔リンパ節移植の場合(レーン4)に著しく高値であった(図8B)。
なお図8AはPR8特異的IgG、図8BはPR8特異的IgAの結果を示す。縦軸は吸光度(450nm)を示す。IgGを測定するときは各マウスの血清を24,300倍に、IgAを測定するときは各マウスの血清を10,000倍に希釈して測定した。レーン1:無処置マウス(ナイーブ)、レーン2:通常免疫群、レーン3:二次リンパ組織移植群(脾臓移植)、レーン4:二次リンパ組織移植群(縦隔リンパ節移植)。
(3)ウエスタンブロットによるインフルエンザウイルスHA抗原に対する抗体の検出
次に各免疫マウスの血清中のインフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)抗原に対する抗体を検出するために、ウエスタンブロットを行った。
HEK293T細胞を6cmディッシュあたり6×105個で播種し、18時間培養した。インフルエンザウイルス(PR8株)のHA遺伝子をクローン化した動物細胞発現ベクターpCAG−PR8(HA1)、又はH3N2亜型A型インフルエンザウイルスのHA遺伝子をクローン化した動物細胞発現ベクターpCAG−Aichi(HA3)を、それぞれ2μg、Lipofectamine 2000(Invitrogen社)を用いて、添付書に従って、HEK293T細胞にそれぞれ導入した。なお、これらの発現ベクターは、CAGプロモーターの制御下にHA遺伝子を発現するベクターであり、北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターより入手した。
遺伝子導入2日後に各細胞を回収し、細胞溶解液を調製した(pCAG−PR8(HA1)導入HEK293T細胞及びpCAG−Aichi(HA3)導入HEK293T細胞)。同様に、対照として、HEK293T細胞の細胞溶解液を調製した。細胞溶解液のタンパク質量を測定し、各20μgをSDS−PAGEにて電気泳動した。その電気泳動産物をニトロセルロース膜に転写し、定法に従って、ウエスタンブロットを行った。
インフルエンザウイルスのHAタンパク質が転写されたニトロセルロース膜にそれぞれ2000倍に希釈した3種類のマウス血清(通常免疫群、二次リンパ組織移植群(脾臓移植)及び二次リンパ組織移植群(縦隔リンパ節移植))を加え、室温にて反応させた。1時間後、血清を除去し、ニトロセルロース膜を洗浄後、HRP−ヤギ抗マウスIgG又はHRP−ヤギ抗マウスIgAを加え、室温にて1時間反応させた。検出用抗体を除去、ニトロセルロース膜を洗浄し、ウェスタンブロッティング検出試薬ECL(GEヘルスケア・ジャパン)にて検出した(図9)。
なお図9Aは通常免疫群、図9Bは二次リンパ組織移植群(脾臓移植)、図9Cは二次リンパ組織移植群(縦隔リンパ節移植)を示す。レーン1はHEK293T細胞、レーン2はpCAG−PR8(HA1)導入HEK293T細胞、レーン3はpCAG−Aichi(HA3)導入HEK293T細胞を示す。図9はインフルエンザウイルスHAタンパク質を発現するHEK293T細胞(pCAG−PR8(HA1)導入HEK293T細胞及びpCAG−Aichi(HA3)導入HEK293T細胞)の細胞溶解液を電気泳動し、インフルエンザウイルスHAタンパク質をニトロセルロース膜に転写後、2,000倍に希釈した各マウス血清を反応させ、インフルエンザウイルスHA抗原に結合した抗体がIgGであるかIgAであるかをECL法にて検出した結果を示している。
その結果、通常免疫群及び二次リンパ組織移植群(脾臓移植)では、インフルエンザウイルス(PR8株)のHAタンパク質を認識するIgGのみが検出されたのに対し、二次リンパ組織移植群(縦隔リンパ節移植)では、インフルエンザウイルス(PR8株)のHAタンパク質を認識するIgG及びIgAが検出された。
以上から、縦隔リンパ節を移植したSCIDマウスでIgAが有意に誘導されることが示され、本発明の方法は抗原特異的IgA抗体を効果的に誘導する方法であることが確認された。