JP2006129839A - 抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節 - Google Patents

抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節 Download PDF

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佐知子 末松
Takeshi Watanabe
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Abstract

【課題】 免疫不全の個体において効率のよい適応免疫反応を誘導することができる人工リンパ節を提供すること。
【解決手段】 抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節の製造方法であって、以下の工程:(a)抗原で非ヒト動物を免疫する工程、および(b)免疫した非ヒト動物に、サイトカインを産生するストローマ細胞を含む高分子生体材料を移植する工程を包含する方法、ならびに、ストローマ細胞、サイトカイン、抗体産生細胞、および高分子生体材料を含む、抗原特異的な抗体および抗原特異的T細胞を産生する人工リンパ節。
【選択図】 なし

Description

本発明は、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節に関する。
現在、免疫不全状態を伴う難治性感染症に対する治療としては、抗菌剤投与以外に、免疫グロブリン療法、白血球の補充、サイトカイン療法などが行われている。しかしながら、これらの療法は、免疫状態を一過性に高めるには有用であるが、必ずしも効果的であるとは言えない。また、癌に対する免疫療法も試みられているが、その効果については、未だ期待通りの結果が得られていない。
「適応免疫」とは、抗原特異的リンパ球による免疫応答であり、体内に侵入してくる病原微生物を排除するために必須の生体防御機構である。その一連の反応の正確さと効率は、高度に組織化された二次リンパ組織の存在によって、初めて実現されることが知られている。
過去10年の間に、様々なサイトカイン遺伝子がクローニングされ、それらの遺伝子変異マウスを用いた研究から、二次リンパ組織の発生と組織構造の成熟について重要な役割を果たすサイトカイン(例えば、リンホトキシン、ケモカインなど)とストローマ細胞の存在が明らかになっている。
近年、組織工学技術と生体適合性を有する高分子材料を利用して、生体内微小環境を模倣した人工組織および/または臓器を構築し、それらを臨床適用するための様々な試みが行われている。しかしながら、リンパ組織の人工的な構築については、世界的にも殆ど報告がなく、胸腺再構築についていくつか報告がされているのみである。
例えば、Harvard大学のグループは、人工骨の材料として使用されているCell Foam内でマウス胸腺ストローマ細胞を試験管内培養して「胸腺オルガノイド(thymic organoid)」を作製し、この胸腺オルガノイドにヒト骨髄由来CD34陽性細胞を加えることによって、成熟T細胞を分化させ得ることを報告している(非特許文献1を参照のこと)。
また、英国のEdinburgh大学のグループとオーストラリアのMonash大学のグループは、モノクローナル抗体で認識される糖タンパク質「MTS24」を発現するマウス胸腺上皮細胞を培養して再凝集させた後に、ヌードマウスの腎皮下膜に移植することによって、正常なT細胞分化を支持する機能的に完全な胸腺を再構築することに成功している(非特許文献2および非特許文献3を参照のこと)。
しかしながら、これらの文献は、再構築した胸腺によって正常な胸腺におけるT細胞分化を再現できるということが主な内容であり、この再構築した胸腺が、免疫反応においてどのような効果をもたらすのかについては記載していない。
一方で、適応免疫において重要な役割を果たしている二次リンパ組織を人工的に再構築した例は、本発明者ら以外に報告がない。
本発明者らは、ストローマ細胞、サイトカイン、および高分子生体材料を人工リンパ組織の構築に必須である三要素と仮定し、ストローマ細胞とサイトカインを高分子生体材料から構成される三次元構造に組み込み、これをマウスの腎皮膜下に移植することによって、移植の3週間後には、二次リンパ組織と構造的に類似した組織(人工リンパ節)を構築できること、さらに、この三要素の組み合わせに骨髄由来の活性化樹状細胞を加えることによって、人工リンパ節構築の効率を改善できる(移植組織の約60〜80%)ことを明らかにした(特許文献1を参照のこと)。
特開2004−255110号公報 Poznansky, MC.ら、Nature Biotechnol. 18:729-34, 2000 Bennett, AR.ら、Immunity 16:803-14, 2002 Gill, J.ら、Nature Immunol. 3:635-42, 2002
しかしながら、人工的に再構築した二次リンパ組織を用いて、免疫不全症の個体において効率のよい適応免疫反応を誘導した例は未だない。従って、本発明は、免疫不全の個体において効率のよい適応免疫反応を誘導することができる人工リンパ節を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節を構築することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] 以下の工程を包含する、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節の製造方法:
(a)抗原で非ヒト動物を免疫する工程;および
(b)免疫した非ヒト動物に、サイトカインを産生するストローマ細胞を含む高分子生体材料を移植する工程。
[2]以下の工程をさらに包含する、[1]記載の方法:
(c)前記サイトカインを産生するストローマ細胞を含む高分子生体材料を移植した非ヒト動物を、前記工程(a)の抗原でさらに免疫する工程。
[3] 前記高分子生体材料が、前記工程(a)の抗原でパルスした活性化樹状細胞をさらに含む、[1]記載の方法。
[4] 前記ストローマ細胞が、TEL−2細胞である、[1]記載の方法。
[5] 前記高分子材料が、コラーゲンスポンジである、[1]記載の方法。
[6] 前記サイトカインが、リンホトキシンおよび/またはケモカインである、[1]記載の方法。
[7] 前記非ヒト動物が、非ヒト哺乳動物である、[1]記載の方法。
[8] 前記抗体が、IgGタイプの抗体である、[1]記載の方法。
[9] ストローマ細胞、サイトカイン、抗体産生細胞、および高分子生体材料を含む、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節。
[10] 抗原でパルスした活性化樹状細胞をさらに含む、[9]記載の人工リンパ節。
[11] [9]または[10]記載の人工リンパ節を含む、免疫賦活剤。
[12] 以下を含む、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節の製造用キット:
(a)抗原;
(b)サイトカイン発現ベクターおよびストローマ細胞、またはサイトカイン発現ベクターが導入されたストローマ細胞;および
(c)高分子生体材料。
[13] 以下をさらに含む、[12]記載のキット:
(d)活性化樹状細胞、または前記抗原でパルスした活性化樹状細胞。
本発明の抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節は、迅速かつ大量に抗原特異的な免疫反応を誘導し、有効な抗体を効率よく供給する強力な免疫賦活装置として、免疫不全状態または癌などの治療に有用である。
本発明は、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節の製造方法を提供し、この方法は、以下の工程:
(a)抗原で動物を免疫する工程;および
(b)免疫した動物に、サイトカインを産生するストローマ細胞を含む高分子生体材料を移植する工程;
を包含する。
好ましくは、この方法は、以下の工程をさらに包含する:
(c)前記サイトカインを産生するストローマ細胞を含む高分子生体材料を移植した動物を、前記工程(a)の抗原でさらに免疫する工程。
本発明はまた、上記方法により作製される、ストローマ細胞、サイトカイン、抗体産生細胞、および高分子生体材料を含む、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節(以下、特異抗体産生人工リンパ節と略称する)を提供する。
好ましくは、この特異抗体産生人工リンパ節は、上記方法で動物の免疫に用いたのと同じ抗原でパルスした活性化樹状細胞をさらに含む。
(人工リンパ節の構成要素)
リンパ節とは、リンパ系組織(リンパ球が非リンパ系細胞と相互作用する組織)であって、リンパ球系の細胞の成熟や適応免疫応答に重要な役割を果たす組織器官である。リンパ系組織は一次リンパ組織と二次リンパ組織に分類することができる。一次リンパ組織はリンパ球産生の場所であり、骨髄と胸腺がこれに含まれる。また、二次リンパ組織は、抗原を補足するための特殊な構造をしており、適応免疫応答が開始される場所である。二次リンパ組織(末梢リンパ組織とも呼ばれる)には、脾臓、リンパ節、粘膜関連リンパ性組織(扁桃、気管関連リンパ性組織、腸管関連リンパ性組織、パイエル板(Peyer’s patches)(PP)、その他のリンパ球系細胞の凝集塊)が含まれる。
本発明の特異抗体産生人工リンパ節は、以下の三要素を組み合わせて、予め治療目的等に応じて選択された抗原で免疫した動物に移植することにより構築され得る:
(a) リンパ節の形成に重要であるストローマ細胞を代替する細胞;
(b) リンパ節の形成に重要であるサイトカイン;および
(c) 生体適合性高分子材料から構成される三次元構造骨格。
本発明の特異抗体産生人工リンパ節は、以下に挙げる、抗原特異的な免疫反応を起こす場として必須であると考えられるリンパ節の基本構造を備える。
[1] 明確に区別されるT細胞領域とB細胞領域を有する。
正常リンパ組織と同様、本発明の特異抗体産生人工リンパ節においてもT細胞とB細胞の領域は明確に分かれており、それぞれ「T細胞領域」、「B細胞領域」と呼ぶ。特にB細胞集団は「濾胞(follicle)」とも呼ばれる。
[2] T細胞およびB細胞と共に、免疫反応において重要な役割を果たす樹状細胞が存在する。
[3] 中心部に濾胞樹状細胞のネットワークを含むB細胞領域が存在する。
濾胞樹状細胞(FDC:follicular dendritic cell)は、「濾胞中心部に存在する樹状の突起を持つ特殊な細胞」を意味し、濾胞中心部でネットワークを形成している(FDC networkという)。FDCは、樹状細胞(dendritic cell)とは別の種類の細胞である。
[4] 胚中心B細胞様のPNA(peanut agglutinin)強陽性B細胞が存在する。
抗原刺激による抗体産生に先立って、濾胞の中心部でB細胞の活発な増殖と形質細胞(抗体産生細胞)への分化が起きる。この部位を胚中心(GC:germinal center)と呼ぶが、この胚中心で活発に増殖するB細胞は、胚中心B細胞(germinal center B cell)と称する。胚中心B細胞 はPNAとよく結合する性質を持つため、PNAで染色した時にPNA強陽性(PNAhigh+)となることが知られている。
[5] 抗体産生細胞である形質細胞が存在する。
抗体産生細胞は、B細胞が最終段階まで分化した細胞であり、これを形質細胞と呼ぶ。
[6] リンパ節へのリンパ球の侵入門戸となるHEV様の血管構造が存在する。
高内皮細静脈(HEV)は、リンパ節、パイエル板などの二次リンパ組織に特異的に観察される特殊な血管構造であり、一般的な血管とは異なり、背の高い(壁が分厚い)内皮細胞を有する。このHEVは、ある種の接着因子やケモカインを発現しており、リンパ球が血流からこれらの二次リンパ組織に遊走して入ってくる時の入り口となっている。
(サイトカイン)
サイトカインとは、各種の血球細胞の増殖と分化を制御するタンパク質性の生理活性物質の総称を意味し、さらには、非免疫系細胞を含む細胞の増殖因子および増殖抑制因子をいうこともある。作用の特性から、インターロイキン、コロニー刺激因子、インターフェロン、ケモカイン、リンホカイン、腫瘍壊死因子(TNF)などに分類される。本発明において使用されるインターロイキンは、特に限定されず、IL−1〜IL−18の中から任意に選択することができる。コロニー刺激因子としては、例えば、G−CSF、M−CSF、GM−CSFなどが使用され得る。インターフェロン(IFN)としては、例えば、IFN−α、IFN−β、IFN−γなどが使用され得る。ケモカインとしては、例えば、CCL21(SLC(secondary lymphoid tissue chemokine)ともいう)、CXCL13(BLC(B lymphocyte chemoattractant)ともいう)、CCL19(ELC(Epstein-Barr virus-induced molecule 1 ligand chemokine)ともいう)などが使用され得る。TNFとしては、例えば、TNF−α、TNF−βなどが使用され得る。TNF−βは、リンホトキシンα(LTα)ともいわれる。LTαは、リンパ節(LN)およびパイエル板(PP)の器官形成のために、ならびに正常な脾臓組織構造の形成のために必須であることが見出された最初の分子である。リンホトキシンには、LTαの他に、LTβが存在する。これらのリンホトキシンもまた、本発明に使用され得る。
本発明において使用されるサイトカインは、好ましくは、リンホトキシンおよび/またはケモカインであり、より好ましくは、LTα、CCL21、CXCL13、および/またはCCL19である。
これらのサイトカインは市販されており、容易に入手することが可能である。
(ストローマ細胞)
ストローマ細胞とは、腺あるいは器官に特異的な固有の機能を持つ様々な細胞(実質細胞)を取り巻く微小環境を構成する細胞の総称であり、「支質細胞」ともいう。この「支質細胞」は、文字どおり実質の細胞を物理的に支持するとともに、細胞同士の相互作用により相手の細胞に何らかの作用を及ぼすという意味での支持機能も果たしていると考えられている。ストローマ細胞はまた、「支持細胞」あるいは「間質細胞」ともいう。
本発明において使用されるストローマ細胞としては、例えば、2週齢のBALB/cマウス胸腺から樹立されたTEL−2ストローマ細胞(Eur. J. Immunol 20: 47-53, 1990)が挙げられる。このTEL−2細胞は、10%の非働化したFCSおよび50μMの2−メルカプトエタノールを補充したRPMI−1640培地で培養することによって、維持および継代することができる。例えば、培養している細胞を、3日毎に、Trypsin−EDTA溶液で培養用ディッシュから収集し、1/10〜1/20に希釈して継代することができる。
(サイトカイン産生ストローマ細胞)
本発明に用いられる、サイトカインを産生するストローマ細胞は、サイトカインをコードする遺伝子を含む発現ベクター(サイトカイン発現ベクターともいう)を構築し、この発現ベクターを、公知の遺伝子導入技術によって、ストローマ細胞に導入することにより作製することができる。種々のサイトカインに関する遺伝子情報は公知であり、例えば、GenBankなどの公に利用可能な遺伝子データベースから入手可能である。
例えば、TEL−2ストローマ細胞において、上述のサイトカインまたはケモカインを産生させるには、それらをコードする遺伝子を含む発現ベクターをリポフェクション法などにより導入し、G418(500μg/ml)を添加した選択培地で10日から2週間培養して、薬剤耐性細胞株を得ることができる。導入遺伝子の発現は、細胞培養上清の生物活性を測定して確認することができる。生物活性の測定には、例えば、ケモカインの場合であれば、T細胞またはB細胞に対する遊走活性を測定するchemotaxis assayを用いることができる。
(高分子生体材料)
本発明において使用される高分子生体材料としては、三次元構造骨格を有する生体適合性高分子材料が使用され得る。本発明において「三次元構造骨格」とは「ストローマ細胞と、リンパ球や樹状細胞などのリンパ節構成細胞とを、三次元的に組織化させるための足場(scaffold)」を意味する。また、「生体適合性高分子材料」とは、「生体に何らかの方法で適用した時、生体が異物としてそれを排除しようとする反応を極力低く抑えるようにされた、様々な高分子から構成される材料」のことを意味する。
このような高分子生体材料としては、例えば、コラーゲン、グリコサミノグリカン、ポリグリコール酸、ポリ−L−乳酸などが挙げられる。また、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタンまたはエチレンビニルアセテートなどの非生体分解性の材料も、単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。
コラーゲンスポンジは、生体の構成成分であり、炎症反応や免疫反応を低く抑えられる点で、高分子生体材料として好ましい。「コラーゲンスポンジ」とは、コラーゲンを含むスポンジ構造を有する多孔性材料を意味し、例えば、ウシアキレス腱の不溶性コラーゲンを凍結乾燥することにより、多孔性のスポンジ状にした、三次元組織培養用コラーゲンなどが本発明に利用可能である。
本発明で使用される高分子生体材料は、それが生体分解性であっても、非生体性分解性であってもよく、生体へ移植した際に、それ自身の抗原性による免疫反応および/または物理的刺激による炎症反応を起こしにくい素材である限り、任意の素材を用いることができる。ただし、ストローマ細胞と免疫担当細胞が三次元的に組織化され、人工リンパ節として機能するためには、例えば、多孔性の高分子材料であれば、人工リンパ節の構築に適した孔径(ポアサイズ)、または、移植する高分子材料全体の大きさを選択する必要がある。このような移植物の孔径および大きさは、当業者により適宜決定され得る。
(樹状細胞)
樹状細胞とは、造血幹細胞由来の樹枝状形態をとる細胞群の総称であり、リンパ系器官のみならず、リンパ系器官以外にも広く分布している。樹状細胞は、活性化の際に、T細胞およびB細胞の有効な刺激因子となり、免疫応答の開始に重要な役割を果たしている。
本発明に用いる樹状細胞は、その前駆細胞を培養することによって得ることができる。樹状細胞の前駆細胞は、骨髄、臍帯血、末梢血由来の造血幹細胞、末梢血由来の単球細胞などを起源とする。樹状細胞の前駆細胞は、採取した骨髄液、臍帯血、あるいは末梢血液などの懸濁液から必要に応じて分離精製することができる。
樹状細胞の前駆細胞を含む細胞群を増殖させ、さらに成熟/活性化樹状細胞へと分化誘導させるには、適切な誘導剤を使用する。誘導剤として、サイトカイン類を選択して使用することができる。サイトカインとしては、例えば、GM−CSF、IL−1、IL−4、IFN−α、TNF−αなどが挙げられ、これらを単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。
例えば、樹状細胞を成熟/活性化させるには、5〜20ng/mlの上記サイトカインを加えたRPMI−1640培地、あるいはMcCoy’s培地などを使用し、最終的に活性化させるためには、LPS(lipopolysaccharide)などの活性化因子を加えて培養すればよい。さらに、このLPSと共に任意の抗原(例えば、治療目的等に応じて選択された抗原)を加えて培養することによって、樹状細胞を抗原パルスすることができる。
(抗原特異的な抗体産生能力を有する人工リンパ節の構築)
本発明の特異抗体産生人工リンパ節を構築するには、任意のサイトカインをコードする遺伝子を含む発現ベクターをストローマ細胞に導入して作製した、サイトカイン産生ストローマ細胞を高分子生体材料に付着させた後、この高分子生体材料を、治療目的等に応じて選択された抗原で免疫した動物の組織に移植すればよい。ストローマ細胞を高分子生体材料に付着させるには、高濃度に調製した細胞浮遊液に浸すか、あるいは、この細胞を、注射針(例えば、26ゲージ)を装着した注射器を用いて、高分子生体材料に注入する。
好ましくは、この高分子生体材料には、サイトカイン産生ストローマ細胞の他に、樹状細胞が加えられ得る。より好ましくは、動物の免疫に用いたのと同じ抗原(すなわち、治療目的等に応じて選択された抗原)でパルスした活性化樹状細胞が加えられ得る。
ストローマ細胞(および活性化樹状細胞)を付着させた高分子生体材料の移植の対象となる動物は、ヒトおよび非ヒト動物であり、非ヒト動物は、好ましくは、非ヒト哺乳動物(例えば、サル、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)である。
これらの動物は、高分子生体材料の移植の前に、治療目的等に応じて選択された抗原で免疫される(以下、一次免疫ともいう)。この一次免疫によって、動物の二次リンパ組織内等の免疫担当細胞(B細胞、T細胞など)は抗原刺激され、この抗原に特異的な抗体(好ましくは、IgG、IgA、および/またはIgM)を細胞表面等に発現する抗体産生細胞(B細胞)もしくは抗原特異的T細胞を生じる。
免疫に用いられる抗原としては、例えば、原虫、真菌、細菌、ウィルスなどの病原微生物が挙げられる。さらに、抗原としては、これらの病原微生物の他、癌、または特定の疾患に関係する、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、糖質なども用いられ得る。
免疫の際、これらの抗原は、好ましくは、アジュバント(例えば、alum、フロイントの完全もしくは不完全アジュバントなど)と共に動物へ投与され得る。
一次免疫に用いる抗原の量は、使用する動物の種類、年齢、体重、投与の経路などによって異なるが、例えば、成体マウスの場合、alum中に沈殿させた10μg〜1000μg、好ましくは、10〜100μgの抗原が、腹腔内投与され得る。
さらに、免疫担当細胞(例えば、B細胞)の抗原刺激を確実にするために、1〜2週間の間隔で、1または数回(例えば、1〜3回)、一次免疫を繰り返してもよい。一次免疫を繰り返す場合、抗原は、好ましくは、静脈(i.v.)投与され得る。
ストローマ細胞(および樹状細胞)を付着させた高分子生体材料は、一次免疫(一次免疫が複数回行われる場合には最後の免疫)から、好ましくは、一週間以降に動物の組織(例えば、腎皮膜下、皮下、腹腔内など)に移植される。
このような人工リンパ節における抗体産生細胞の誘導を確実にするために、一次免疫をした動物への高分子生体材料の移植の数週間(例えば、1〜3週間)後に、一次免疫に用いたのと同じ抗原で、二次免疫を行ってもよい。さらに、抗体産生細胞の誘導をより確実にするために、1〜2週間の間隔で、数回(例えば、1〜3回)、二次免疫を繰り返してもよい。このように、複数回、二次免疫を繰り返すことによって、人工リンパ節における抗体産生が著しく上昇する場合がある。
二次免疫に用いる抗原の量は、使用する動物の種類、年齢、体重、投与の経路などによって異なるが、例えば、成体マウスの場合、alum中に沈殿させた10μg〜1000μg、好ましくは、10〜100μgの抗原が、i.v.投与され得る。
一次免疫によって抗原刺激されたBリンパ球は、移植された人工リンパ節に集まり、その後、一次免疫に用いたのと同じ抗原に曝露されると、人工リンパ節においてクラススイッチを起こし、IgG、IgE、またはIgAを産生する抗体産生細胞を誘導する。本発明において、抗体産生細胞は、好ましくは、IgGタイプ(例えば、IgG、IgG、IgG、IgG)の抗体を産生する細胞である。
高分子生体材料の移植から約3週間後には、動物の体内で本発明の特異抗体産生人工リンパ節が構築され得る。このようにして構築された特異抗体産生人工リンパ節は、生体から回収され、さらに別の動物に再移植して二次免疫されるか、in vitro培養に供されるか、免疫不全症の個体に治療のために用いられるか、または、適切な保存剤(例えば、10%DMSO)を添加した培養液中で−80℃以下の低温にて保存して、使用前に調製して用いることができる。
1つの実施形態では、本発明はヒト型の特異抗体産生人工リンパ節を提供する。このようなヒト型の特異抗体産生人工リンパ節は、例えば、免疫不全動物(例えば、免疫不全マウス)にヒトリンパ球、ヒトリンパ球前駆体、骨髄細胞、および/または造血幹細胞などを導入して免疫不全動物の生体内にヒト免疫系を構築した後、このヒト免疫系を有する動物を、上記の方法に従って、治療目的等に応じて選択された抗原で一次免疫し、ストローマ細胞および/または樹状細胞を付着させた高分子生体材料を移植し、そして、必要に応じて、同じ抗原で二次免疫することによって構築できる。
(人工リンパ節の培養)
本発明の特異抗体産生人工リンパ節をin vitroにおいて培養するには、生体から回収した特異抗体産生人工リンパ節を、リンパ球や樹状細胞が生存、増殖を続けるためのサイトカインやその他の刺激因子を添加した培養液中に移して培養を行う。この培養系に、徐放性マテリアルを加えてもよい。特異抗体産生人工リンパ節をin vitroで培養する時には、新しい造血幹細胞、リンパ球または樹状細胞の前駆細胞、および、リンパ球、樹状細胞などを調製し、培養系に適宜補充しながら、培養を続ける。
(免疫賦活剤)
本発明の特異抗体産生人工リンパ節は、迅速かつ大量に抗原特異的な抗体を産生する強力な免疫賦活剤として、先天性免疫不全症候群および後天性免疫不全症候群を含む様々な免疫不全状態、悪性腫瘍または悪性腫瘍の放射線治療後の骨髄抑制による免疫不全状態などの治療に用いられ得る。
例えば、本発明の特異抗体産生人工リンパ節を、特定の病原微生物(例えば、原虫、真菌、細菌、ウイルスなど)に対して特異的な抗体または抗原特異的T細胞を産生するように設計/構築し、免疫不全状態の個体に移植することによって、この個体において、これらの病原微生物に対する適応免疫反応を惹起することができる。
また、本発明の特異抗体産生人工リンパ節は、免疫不全状態の個体の機能不全状態にある二次リンパ組織(例えば、脾臓、リンパ節など)に、抗体産生細胞、または抗原特異的T細胞を供給することで、該個体の免疫機能を賦活化することができる。
さらに、本発明の特異抗体産生人工リンパ節を、ワクチン接種に用いられるウイルス抗原に対して特異的な抗体、または抗原特異的T細胞を産生するように設計/構築して、ワクチン療法と組み合わせて使用すれば、ワクチン接種の効果を高めることができる。
本発明の特異抗体産生人工リンパ節を被験体に移植するときの量(大きさ)は、対象となる被験体により適宜設定することができる。例えば、成人に移植する場合は、本来のリンパ節と同等の大きさのもの、あるいは、本来のリンパ節よりも小さいが複数個を移植することができるものなどである。移植部位としては、皮下、腹腔内などが挙げられるが、侵襲の少なさ、移植手術手技の容易さから、皮下への移植が望ましい。
(キット)
本発明はまた、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節の製造用キットを提供する。このキットは、ヒトまたは非ヒト動物において、本発明の特異抗体産生人工リンパ節を製造するために必要な、抗原、サイトカイン発現ベクターおよびストローマ細胞またはサイトカイン発現ベクターが導入されたストローマ細胞、ならびに高分子生体材料を含む。
好ましくは、このキットは、活性化樹状細胞をさらに含む。より好ましくは、このキットは、上記抗原でパルスした活性化樹状細胞を含む。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の単なる例示を示すものにすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
以下の製造例および実施例において使用した培養液、試薬および器具は以下の通りである。
RPMI−1640:GIBCO社
2−メルカプトエタノール:Sigma社
FCS(fetal calf serum;ウシ胎仔血清): Cell Culture Technologies社
細胞培養液:10%の非働化したFCSおよび50μMの2−メルカプトエタノールを補充したRPMI−1640
Trypsin−EDTA溶液:GIBCO社
G418(geneticin):GIBCO社
リコンビナントマウス GM−CSF(granulocyte-macrophage colony stimulating factor):PeproTech社
LPS(lipopolysaccharide):Sigma社
BSA(bovine serum albumin):Sigma社
培養ディッシュ、培養プレート、ペトリディッシュ;全て、FALCON社製
(製造例1)
(組換えストローマ細胞の調製)
ストローマ細胞として、2週齢のBALB/cマウスの胸腺から樹立したTEL−2細胞(Nakashima M. et al., Eur J Immunol. 1990 Jan;20(1):47-53)を、10%ウシ胎仔血清および50μM 2−メルカプトエタノールを補充したRPMI1640中で培養した。マウスのリンホトキシンα(LTα)またはケモカイン(CCL21、CCL19およびCXCL13)cDNAを、マウス脾臓RNAからRT−PCR(reverse transcription-polymerase chain reaction)によりクローニングした。各cDNAを、pCXN2ベクター(Niwa H, et al., Gene. 1991 Dec 15;108(2):193-9)のEcoRI部位へと挿入した。このベクターは、ニワトリβアクチンプロモーター、CMVエンハンサー、およびウサギβグロビンスプライシングドナーを有する。得られた発現ベクターをTEL−2細胞へと導入し、そして安定なトランスフェクタント細胞株を、2週間のG418選択(500μg/ml)後に得た。安定なトランスフェクタント細胞株を樹立させた後、全ての細胞株を200μg/mlのG418を含む培養培地中で培養した。導入された遺伝子の発現を、LTαについては蛍光表示式細胞分取器(FACS)分析およびケモカインについては走化性アッセイにより確認した。
(製造例2)
(ストローマ細胞を吸着させたコラーゲンスポンジの調製)
コラーゲンスポンジ(”Collagen Sponge” #CS-35, KOKEN, Tokyo, Japan)を、一定の形および大きさに小さく切り、48ウェルプレートのウェルに1片ずつ入れた。製造例1に従って樹立したサイトカイン産生TEL−2ストローマ細胞を、Trypsin−EDTA溶液を用いて収集し、培養液で1回洗浄して培養液に浮遊させ、さらに、PBS(phosphate buffered saline)、0.1% BSA/PBSでそれぞれ1回ずつ洗浄した後、1mlの1% BSA/PBSを加えて細胞浮遊液を作製した。この細胞浮遊液を遠心分離に供して細胞を沈澱させてペレットの状態にし、少量の1% BSA/PBSに細胞を浮遊させて、細胞濃度の非常に濃い、均一な細胞浮遊液を作製した。この細胞浮遊液をコラーゲンスポンジの上に滴下し、スポンジを揉むようにして細胞をコラーゲンスポンジに吸着させた。少量の1% BSA/PBS溶液に細胞を浮遊させてコラーゲンスポンジに吸着させているので、乾燥させないように注意した。この細胞を吸着させたコラーゲンスポンジを入れた48ウェルプレートを、マウスの腎皮膜下への移植まで氷上に置いた。
(製造例3)
(活性化樹状細胞の調製)
7週齢から12週齢の雌性BALB/cAnNCrjマウスの大腿骨と脛骨の骨髄腔内を、26ゲージの注射針を装着した注射器を用いてPBSで洗い出し、骨髄細胞液を得た。この骨髄細胞液をナイロンメッシュでろ過して大きな細胞塊等を除き、培養液で2×10 cells/mlの濃度に調製して細胞浮遊液を作製した。なお、細胞浮遊液中には赤血球系の細胞がかなり含まれているが、赤血球系の細胞を無視して細胞の濃度を2×10cells/mlと計算した。この細胞浮遊液を、直径10cmのプラスチック製ディッシュ(ペトリディッシュ)に、1ディッシュ当たり7mlを移し、リコンビナントマウスGM−CSFを最終濃度5ng/mlとなるように添加した。3日又は4日毎に細胞上清を半分捨て、5ng/mlのGM−CSFを加えた新しい培養液を加えた。培養8日目または9日目に浮遊細胞を集め、5 ng/ml のGM−CSFを加えた新しい培養液で2x10cells/mlの細胞浮遊液を作り、1μg/mlのLPS(もしくはTNF−α)、および、抗原パルスを行う場合、高分子生体材料の移植前にマウスに接種される抗原と同じ抗原を加えて、細胞培養ディッシュで17〜20時間培養し、樹状細胞を成熟および活性化させた。
(製造例4)
(ストローマ細胞および樹状細胞を吸着させたコラーゲンスポンジの調製)
コラーゲンスポンジ(”Collagen Sponge” #CS-35, KOKEN, Tokyo, Japan)を、一定の形および大きさに小さく切り、48ウェルプレートのウェルに1片ずつ入れた。製造例1に従って樹立したサイトカイン産生TEL−2ストローマ細胞を、Trypsin−EDTA溶液を用いて収集し、培養液で1回洗浄して培養液に浮遊させ、細胞数を数えて氷上に置いた。製造例3に従って調製した活性化樹状細胞を、培養液で2回洗浄して培養液に浮遊させて細胞数を数え、氷上に置いた。その際、樹状細胞をLPSで活性化した場合は、LPSが残らないように丁寧に洗浄した。その後、それぞれの細胞を、PBS(phosphate buffered saline)、0.1% BSA/PBSでそれぞれ1回ずつ洗浄した後、1mlの1% BSA/PBSを加えて細胞濃度のほぼ同じ均一な細胞浮遊液を作製した。これらの浮遊液を1対1の容量で混合し、遠心分離により細胞を沈澱させてペレットの状態にし、さらに少量の1% BSA/PBSを加えて、非常に細胞濃度の濃い均一な細胞浮遊液を作製した。この細胞浮遊液をコラーゲンスポンジの上に滴下し、スポンジを揉むようにして細胞をコラーゲンスポンジに吸着させた。少量の1% BSA/PBS溶液に細胞を浮遊させてコラーゲンスポンジに吸着させているので、乾燥させないように注意した。この細胞を吸着させたコラーゲンスポンジを入れた48ウェルプレートは、細胞を吸着させたコラーゲンスポンジをマウスの腎皮膜下に移植するまで氷上に保った。
(製造例5)
(コラーゲンスポンジのマウスへの移植)
8週齢から14週齢の雌性BALB/cAnNCrjマウス(日本チャールズリバー社、SPF環境のマウス飼育室で飼育)に麻酔をし、体表面を70%エタノールで消毒して右側臥位にした。左季肋部の皮を約1cm切開し、その真下の筋層もほぼ同じ大きさに切開した。腎周辺の脂肪組織をピンセットでつまみ、腎臓を体外に引き出した。実体顕微鏡下で観察しながら、先の鋭利なピンセットを用いて、腎実質に傷をつけないように注意しながら、腎皮膜を開き、腎皮膜と腎臓の間にコラーゲンスポンジを挿入した。通常、片方の腎臓につき2ケ所(腎上極、下極付近)移植するため、左右の腎臓で一匹のマウスあたり計4つの、ストローマ細胞を付着させたコラーゲンスポンジを移植した。移植3週間後に移植組織(以下、人工リンパ節という)を回収した。
(実施例1)
(種々の条件で構築した人工リンパ節の抗原特異的な抗体産生能力の評価)
胸腺依存性抗原である4−ヒドロキシ−3−ニトロフェニルアセチル−オバルブミン(NP−OVA)を用いて、上記製造例に従って、以下に示す条件で構築した人工リンパ節における抗原特異的な抗体産生能力を試験した。図1に試験手順を示す。
条件(a):LTα産生TEL−2(TEL−2−LTα)細胞、およびNP−OVAでパルスした活性化樹状細胞を含むコラーゲンスポンジ(高分子生体材料)を、未感作の(naive)BALB/cマウスに移植し、移植の3週間後に、NP−OVAをi.v.投与した。
条件(b):TEL−2−LTα細胞、およびNP−OVAでパルスした活性化樹状細胞を含むコラーゲンスポンジを、NP−OVAで一次免疫したBALB/cマウスに移植し、移植の3週間後に、PBSをi.v.投与した。
条件(c):TEL−2−LTα細胞、およびNP−OVAでのパルスをしていない樹状細胞を含むコラーゲンスポンジを、NP−OVAで一次免疫したBALB/cマウスに移植し、移植の3週間後に、NP−OVAをi.v.投与した。
条件(d):TEL−2−LTα細胞、およびNP−OVAでパルスした活性化樹状細胞を含むコラーゲンスポンジを、NP−OVAで一次免疫したBALB/cマウスに移植し、移植の3週間後に、NP−OVAをi.v.投与した。
製造例1に従って、TEL−2−LTα細胞を作製した。活性化樹状細胞を、製造例3に従って、抗原パルスを行う場合、抗原としてNP−OVAを用いて調製した。製造例4に従って、これらの細胞をコラーゲンスポンジに吸着させた。コラーゲンスポンジの移植のために、BALB/cAnNCrjマウスを、日本チャールズリバー社から購入し、SPF(Specific Pathogen Free)環境下のマウス飼育室で飼育した。
条件(b)、(c)および(d)については、各々のコラーゲンスポンジの移植前の7〜10週齢の雌性BALB/cAnNCrjマウスに、alum中に沈殿させた100μgのNP−OVAを腹腔内投与した。
製造例5に従って、コラーゲンスポンジをマウスへ移植した。
コラーゲンスポンジの移植の3週間後、条件(a)、(c)および(d)の場合はNP−OVA、条件(b)の場合はPBSを、マウスにi.v.投与し、そして、投与の4日後に移植物および脾臓を収集し、NP特異的なIgG抗体産生細胞(antibody forming cell;AFC)の存在について、NP−BSAコーティングしたフィルタープレートを用いて、ELISPOT(enzyme-linked immunospot)アッセイにより評価した。MultiScreen−IP Filter Plate(MAIPS4510, Millipore, Billerica, MA)の疎水性PVDFフィルターを、PBS中の50μg/mlのNP−BSAまたはBSAを用いて、4℃で一晩コーティングし、次いで、PBS中の1%BSAでブロックした。脾臓細胞(10cells/well)または人工リンパ節由来の細胞(0.2〜1×10 cells/well)を、96ウェルプレート中のフィルター上で、37℃、5%COで2時間インキュベートした。ウェルを、50mM EDTAを含むPBSで1回、TBS−Tで2回、そしてPBSで1回洗浄した。洗浄後、フィルターを、アルカリホスファターゼ結合体化抗IgM抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合体化抗IgG抗体(いずれも、Southern Biotechnology Associates,Inc., Birmingham, AL)と共にインキュベートした。アルカリホスファターゼ活性およびHRP活性を、それぞれ、BCIP/NBT(CHEMICON International, Inc., Temecula, CA)およびAEC(BD Pharmingen, San Diego, CA)で可視化して評価した。
TEL−2−LTαおよびNP−OVAでパルスした活性化樹状細胞を含むコラーゲンスポンジを、NP−OVAで一次免疫したマウスに移植して構築した人工リンパ節(条件(d))において、NP特異的IgG AFCが最も効果的に誘導された。
これに対して、移植したコラーゲンスポンジがNP−OVAでパルスした活性化樹状細胞を含みかつNP−OVAをi.v.投与しても、移植前に一次免疫を行わなかった場合(条件(a))には、NP特定的IgGAFCは、脾臓においても、人工リンパ節においても検出されなかった。
また、マウスがNP−OVAでの一次免疫を受けかつ移植したコラーゲンスポンジがNP−OVAでパルスした活性化樹状細胞を含んでいても、移植後にNP−OVAをi.v.投与しなかった場合(条件(b))にも、NP特定的IgGAFCは、脾臓においても、人工リンパ節においても検出されなかった。
ELISPOTの結果を表1に示す。表1の括弧内は、試験したマウスの数を示す。
Figure 2006129839
免疫染色は、一次免疫したマウスの人工リンパ節において、多くのNP−結合B細胞が存在することを示した(データ示さず)。
これらの結果は、一次免疫されたリンパ球が人工リンパ節に浸潤し、二次免疫の後に、人工リンパ節においてNP特異的IgG抗体を効果的に産生したことを示す。興味深いことに、免疫条件に依存して、構築された人工リンパ節のサイズの差異を見出した。NP特異的IgGAFCが最も効果的に誘導された人工リンパ節のサイズは、NP−特異的IgG AFCの誘導が少なかった人工リンパ節よりも明らかに大きかった。
(実施例2)
(人工リンパ節の再移植)
一次免疫されたレシピエントマウスのB細胞が、人工リンパ節において、局所的に、NP特異的IgGAFCへとクラススイッチを受けたのか、あるいは、NP特異的IgG AFCが、レシピエントマウスの二次リンパ器官から人工リンパ節へと移動してきたのかを決定するために、本発明者らは、コラーゲンスポンジの移植前に一次免疫したマウスにおいて構築した人工リンパ節を、未感作(naive)BALB/cマウスの体内へと移した(図2に示される、「再移植」と呼ばれる実験アプローチ)。次いで、再移植の数日(1〜3日)後に、NP−OVAを、レシピエントBALB/cマウスにi.v.投与した。
NP特異的IgGAFCの存在を、実施例1と同様の手順でELISPOTによって評価した。その結果、NP特異的IgG AFCの存在を、NP−OVA注射の4日以内に、レシピエントマウスの再移植した人工リンパ節において検出した。他方、この時点で、レシピエントマウスの脾臓では、NP−特異的IgGではなく、IgMクラスが検出された(人工リンパ節中の10個の細胞あたり1460±911個のNP−特異的IgGAFC 対 レシピエントマウス脾臓中の10個の細胞あたり0±0.8個のNP−特異的IgG AFC(12匹のマウスによるデータ))。この結果は、一次免疫されたB細胞のNP特異的IgG AFCへのクラススイッチが、人工リンパ節において生じたことを示唆した。
(実施例3)
(人工リンパ節の再移植を行ったSCIDマウスのNP特異的IgG産生能力の評価)
本実施例のために、図2に示す手順に従って、重症複合免疫不全(SCID)マウス(C.B-17/IcrCrj-scid/scid)に対する再移植実験を4回繰り返した(6〜8匹のマウス/実験)。
人工リンパ節の再移植を行ったSCIDマウスの血清中のNP特異的IgGの存在を、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)により評価した。NP−ハプテンに対して特異的なIgGアイソタイプ抗体を、ELISAにより検出した。96ウェルアッセイプレートを、PBSN(0.05% NaNを含有するPBS)中の50μg/ml NP−BSAを用いて4℃にて一晩コーティングし、そしてTBS−T中の0.5%BSAでブロッキングした。連続希釈した血清を、各ウェルに添加し、そして4℃にて一晩、または37℃にて1時間、インキュベートした。NP−OVAで一次免疫し、そして、1回、二次免疫したマウスからプールした血清を、連続希釈の後、各プレートにコントロールとして加えた。TBS−Tを用いて洗浄した後、プレートを、HRP結合体化ヤギ抗マウスIgGと共に室温で2時間インキュベートした。HRP活性を、TMB Microwell Peroxidase Substrate System(KPL, Gaithersburg, MD)を用いて発色させ、そして光学密度を450nmで測定した。抗NP IgGの濃度を、各プレートのポジティブコントロールとして用いた血清から作成した標準曲線と比較することにより評価した。
人工リンパ節の再移植の数日(1〜3日)後に、1回、NP−OVAをi.v.投与したSCIDマウス(グループ1:図3の△)の血清において、NP−OVA投与の4日後に、早くも、NP特異的IgGが検出可能であった。
人工リンパ節の再移植の数日(1〜3日)後に1回、2週間の間隔でさらに1回(合計2回)、NP−OVAをi.v.投与したSCIDマウス(グループ2:図3の▲)の血清において、グループ1と比較して、約100〜1000倍のNP−特異的IgGが検出された。
NP特異的IgGAFCおよびNP特異的IgG抗体の存在は、SCIDマウス間で、ある程度のレベルの差異はあったものの、全てのSCIDマウスの人工リンパ節または血清中で検出された。興味深いことに、NP特異的IgGAFCはまた、ELISPOTおよび免疫染色の両方によって、移植されたSCIDマウスの脾臓においても検出された。このことは、人工リンパ節由来の細胞(NP特異的IgGAFC)が、SCIDマウスのリンパ組織を再構築することを示した。
図1は、実施例1に示す条件下での人工リンパ節の構築手順を示す。 図2は、実施例2および3に示す人工リンパ節の再移植実験の手順を示す。 図3は、再移植実験を行ったSCIDマウスの血清中のNP特異的IgGの存在を示す。●は、NP−OVAで一次免疫し、そして同じ抗原で、1回、二次免疫したBALB/cマウスの血清を示す(ポジティブコントロール)。この二次免疫したマウスの血清中のNP−特異的IgGの量を1として、各マウスの血清中のNP−特異的IgGの相対力価を算出した。○は、未感作(非免疫)BALB/cマウスの血清を示す(ネガティブコントロール)。△は、人工リンパ節の再移植の数日(1〜3日)後に、1回、NP−OVAをi.v.投与したSCIDマウス(グループ1)の血清を示す。▲は、人工リンパ節の再移植の数日(1〜3日)後に1回、2週間の間隔でさらに1回(合計2回)、NP−OVAをi.v.投与したSCIDマウス(グループ2)の血清を示す。

Claims (13)

  1. 以下の工程を包含する、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節の製造方法:
    (a)抗原で非ヒト動物を免疫する工程;および
    (b)免疫した非ヒト動物に、サイトカインを産生するストローマ細胞を含む高分子生体材料を移植する工程。
  2. 以下の工程をさらに包含する、請求項1記載の方法:
    (c)前記サイトカインを産生するストローマ細胞を含む高分子生体材料を移植した非ヒト動物を、前記工程(a)の抗原でさらに免疫する工程。
  3. 前記高分子生体材料が、前記工程(a)の抗原でパルスした活性化樹状細胞をさらに含む、請求項1記載の方法。
  4. 前記ストローマ細胞が、TEL−2細胞である、請求項1記載の方法。
  5. 前記高分子材料が、コラーゲンスポンジである、請求項1記載の方法。
  6. 前記サイトカインが、リンホトキシンおよび/またはケモカインである、請求項1記載の方法。
  7. 前記非ヒト動物が、非ヒト哺乳動物である、請求項1記載の方法。
  8. 前記抗体が、IgGタイプの抗体である、請求項1記載の方法。
  9. ストローマ細胞、サイトカイン、抗体産生細胞、および高分子生体材料を含む、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節。
  10. 抗原でパルスした活性化樹状細胞をさらに含む、請求項9記載の人工リンパ節。
  11. 請求項9または10記載の人工リンパ節を含む、免疫賦活剤。
  12. 以下を含む、抗原特異的な抗体を産生する人工リンパ節の製造用キット:
    (a)抗原;
    (b)サイトカイン発現ベクターおよびストローマ細胞、またはサイトカイン発現ベクターが導入されたストローマ細胞;および
    (c)高分子生体材料。
  13. 以下をさらに含む、請求項12記載のキット:
    (d)活性化樹状細胞、または前記抗原でパルスした活性化樹状細胞。
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