以下、本発明による回転電機の固定子の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る回転電機を示す片側断面図、図2はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の要部を示す斜視図、図3はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子を示す斜視図、図4はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における固定子鉄心を構成する鉄心ブロックを示す斜視図、図5はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における固定子巻線を構成する巻線アッセンブリを示す斜視図、図6はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における巻線アッセンブリを構成する巻線体を示す斜視図、図7はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における巻線アッセンブリを構成する巻線体を示す正面図、図8はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における巻線アッセンブリを構成する巻線体を示す端面図、図9はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子において3つの巻線体が1つのスロットを共有して固定子鉄心に装着されている状態を第2コイルエンド側から見た要部端面図、図10はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子において3つの巻線体が1つのスロットを共有して固定子鉄心に装着されている状態を第2コイルエンド側から見た展開図、図11はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子において固定子鉄心に装着された巻線体を径方向外方から見た展開図、図12はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子において16個の巻線体を周方向に1スロットピッチで配列した状態を示す斜視図、図13はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子において16個の巻線体を周方向に1スロットピッチで配列した状態を第1コイルエンド側から見た端面図である。なお、図10では、便宜上、コイルエンド部を直線的に示している。
図1および図2において、回転電機100は、有底円筒状のフレーム2およびフレーム2の開口を塞口する端板3を有するハウジング1と、フレーム2の円筒部に内嵌状態に固着された固定子10と、フレーム2の底部および端板3にベアリング4を介して回転可能に支持された回転軸6に固着されて、固定子10の内周側に回転可能に配設された回転子5と、を備えている。
回転子5は、軸心位置に挿入された回転軸6に固着された回転子鉄心7と、回転子鉄心7の外周面側に埋め込まれて周方向に等ピッチで配列され、磁極を構成する永久磁石8と、を備えた永久磁石型回転子である。なお、回転子5は、永久磁石式回転子に限定されず、絶縁しない回転子導体を、回転子鉄心のスロットに収納して、両側を短絡環で短絡したかご形回転子や、絶縁した導体線を回転子鉄心のスロットに装着した巻線形回転子を用いてもよい。
つぎに、固定子10の構成について具体的に図3乃至図13を参照しつつ説明する。なお、固定子巻線20の絶縁構造については後述するので、ここでは省略する。
固定子10は、図3に示されるように、固定子鉄心11と、固定子鉄心11に装着された固定子巻線20と、を備えている。ここで、説明の便宜上、回転子5の極数を8極、固定子鉄心11のスロット数を48個、固定子巻線20を三相巻線とする。すなわち、スロットは、毎極毎相当たり2個の割合で固定子鉄心11に形成されている。
鉄心ブロック12は、円環状の固定子鉄心11を周方向に48等分割したもので、図4に示されるように、電磁鋼板を積層一体化して作製され、断面円弧形のコアバック部12aと、コアバック部12aの内周壁面から径方向内方に突出するティース12bと、を備えている。そして、固定子鉄心11は、ティース12bを径方向内方に向けて、コアバック部12aの周方向の側面同士を突き合わせて、48個の鉄心ブロック12を周方向に配列、一体化して、円環状に構成されている。周方向に隣り合う鉄心ブロック12により構成されるスロット13が、内周側に開口するように、周方向に等角ピッチで配列されている。ティース12bは周方向幅が径方向内方に向って漸次狭くなる先細り形状に形成されており、スロット13の断面は長方形となっている。
固定子巻線20は、図3に示されるように、固定子鉄心11に装着された巻線アッセンブリ21に結線処理が施されて構成される。巻線アッセンブリ21は、図5に示されるように、6スロット角度間隔で周方向に連続する3つのスロット13の組に収納される巻線体22を1スロットピッチで周方向に配列して構成される。後述する巻線端22hが、それぞれ軸方向に第2コイルエンド側に延び出て、巻線アッセンブリ21の内径側に1スロットピッチで周方向に配列され、後述する巻線端22iが、それぞれ軸方向に第2コイルエンド側に延び出て、巻線アッセンブリ21の外径側に1スロットピッチで周方向に配列されている。そして、巻線アッセンブリ21の巻線端22h,22iに結線処理が施される。
なお、6スロット角度間隔とは、連続する6つのティース12bの両側のスロット13のスロット中心間の間隔である。ここでは、6スロット角度間隔が1磁極ピッチに相当する。
コイル体としての巻線体22は、例えば、エナメル樹脂で絶縁被覆された、かつ接続部のない連続した銅線やアルミニウム線などからなる長方形断面の導体線19をエッジワイズ巻きにδ状のコイルパターンを2度巻いて作製された分布巻き巻線である。具体的には、巻線体22は、図6から図8に示されるように、第1直線部22a、第1コイルエンド部22e、第2直線部22b、第2コイルエンド部22f、第3直線部22c、第3コイルエンド部22gおよび第4直線部22dからなるδ状のコイルパターンを導体線19の長方形断面の短辺の長さ方向に2つ配列し、第4直線部22dと第1直線部22aとを渡り線23で連結して構成される。そして、渡り線23がコイルエンド部を構成し、導体線19の巻き始め端部が巻線端22hを構成し、巻き終わり端部が巻線端22iを構成する。
このように構成された巻線体22では、第1直線部22aおよび第3直線部22cが、長方形断面の長辺の長さ方向を周方向に向け、長方形断面の短辺の長さ方向に距離lをあけて1列に4本配列されている。また、第2直線部22bが、第1直線部22aおよび第3直線部22cの列から周方向一側に6スロット角度間隔離れて、長方形断面の長辺の長さ方向を周方向に向け、長方形断面の短辺の長さ方向に隙間3lをあけて2本配列される。また、第4直線部22dが、第1直線部22aおよび第3直線部22cの列から周方向他側に6スロット角度間隔離れて、長方形断面の長辺の長さ方向を周方向に向け、長方形断面の短辺の長さ方向に隙間3lをあけて2本配列される。ここで、距離lは導体線19の短辺の長さである。
図9および図10は、それぞれ、3つの巻線体22が、1つのスロット13を共用して固定子鉄心11に装着されている状態を示し、図11は固定子鉄心に装着された巻線体22を径方向外方から見た状態を示している。ここで、説明の便宜上、周方向に6スロット角度間隔で並ぶ3つのスロット13を周方向の並び順に1番目のスロット131、2番目のスロット132、3番目のスロット133とする。
1つの巻線体22に着目すれば、2番目のスロット132のスロット開口側から第1層の第1直線部22aから軸方向他端側(第1コイルエンド側)に延び出た第1コイルエンド部22eは、傾斜角度θで周方向に1番目のスロット131側に延び、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトされ、その後逆向きの傾斜角度θで周方向に1番目のスロット131側に延び、1番目のスロット131のスロット開口側から第2層の第2直線部22bに連結されている。ついで、1番目のスロット131のスロット開口側から第2層の第2直線部22bから軸方向一端側(第2コイルエンド側)に延び出た第2コイルエンド部22fは、傾斜角度θで周方向に2番目のスロット132側に延び、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトされ、その後逆向きの傾斜角度θで周方向に2番目のスロット132側に延び、2番目のスロット132のスロット開口側から第3層の第3直線部22cに連結されている。
ついで、2番目のスロット132のスロット開口側から第3層の第3直線部22cから第1コイルエンド側に延び出た第3コイルエンド部22gは、傾斜角度θで周方向に3番目のスロット133側に延び、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトされ、その後逆向きの傾斜角度θで周方向に3番目のスロット133側に延び、3番目のスロット133のスロット開口側から第4層の第4直線部22dに連結されている。
ついで、3番目のスロット133のスロット開口側から第4層の第4直線部22dから第2コイルエンド側に延び出た渡り線23は、傾斜角度θで周方向に2番目のスロット132側に延び、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトされ、その後逆向きの傾斜角度θで周方向に2番目のスロット132側に延び、2番目のスロット132のスロット開口側から第5層の第1直線部22aに連結されている。2番目のスロット132のスロット開口側から第5層の第1直線部22aから第1コイルエンド側に延び出た第1コイルエンド部22eは、傾斜角度θで周方向に1番目のスロット131側に延び、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトされ、その後逆向きの傾斜角度θで周方向に1番目のスロット131側に延び、1番目のスロット131のスロット開口側から第6層の第2直線部22bに連結されている。
ついで、1番目のスロット131のスロット開口側から第6層の第2直線部22bから第2コイルエンド側に延び出た第2コイルエンド部22fは、傾斜角度θで周方向に2番目のスロット132側に延び、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトされ、その後逆向きの傾斜角度θで周方向に2番目のスロット132側に延び、2番目のスロット132のスロット開口側から第7層の第3直線部22cに連結されている。ついで、2番目のスロット132のスロット開口側から第7層の第3直線部22cから第1コイルエンド側に延び出た第3コイルエンド部22gは、傾斜角度θで周方向に3番目のスロット133側に延び、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトされ、その後逆向きの傾斜角度θで周方向に3番目のスロット133側に延び、3番目のスロット133のスロット開口側から第8層の第4直線部22dに連結されている。
そこで、2番目のスロット132の第1層の第1直線部22aと1番目のスロット131の第2層の第2直線部22bとが、第1コイルエンド部22eにより連結され、1番目のスロット131の第2層の第2直線部22bと1番目のスロット131の第3層の第3直線部22cとが、第2コイルエンド部22fにより連結され、2番目のスロット132の第3層の第3直線部22cと3番目のスロット133の第4層の第4直線部22dとが、第3コイルエンド部22gにより連結され、δ状のコイルパターンを構成する。
さらに、2番目のスロット132の第5層の第1直線部22aと1番目のスロット131の第6層の第2直線部22bとが、第1コイルエンド部22eにより連結され、1番目のスロット131の第6層の第2直線部22bと1番目のスロット131の第7層の第3直線部22cとが、第2コイルエンド部22fにより連結され、2番目のスロット132の第7層の第3直線部22cと3番目のスロット133の第8層の第4直線部22dとが、第3コイルエンド部22gにより連結され、δ状のコイルパターンを構成する。
このように、巻線体22は、2つのδ状のコイルパターンを渡り線23で連結して、径方向に2層に配列されて、構成される。第1から第3コイルエンド部22e,22f,22gおよび渡り線23において、第1から第4直線部22a,22b,22c,22dの端部から頭頂部に至る傾斜部は、軸方向から見て、略円弧状に形成されている。そして、3つの巻線体22が共用するスロット13には、第1から第4直線部22a,22b,22c,22dが、導体線19の長方形断面の長辺の長さ方向を周方向に向けて、径方向に1列に並んで、収納されている。
ここで、巻線体22が1スロットピッチで配列した状態について図12および図13を参照して説明する。なお、図12および図13は、16個の巻線体22を周方向に1スロットピッチで配列した状態を示している。
図12および図13において、左端に配設された巻線体2221の内径側から1層目に位置する第1直線部22aから延び出た第1コイルエンド部22eは、反時計回りに隣の巻線体2222の内径側から1層目に位置する第1直線部22aから延び出た第1コイルエンド部22eの上方を通って周方向に反時計回りに延び、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトして、反時計回りに隣の巻線体2222の第1コイルエンド部22eの下方を通って周方向に反時計回りに延び、第2直線部22bに接続される。
巻線体2221の第2直線部22bから延び出た第2コイルエンド部22fは、図示されていないが、図13の裏面側で、巻線体2222の第2直線部22bから延び出た第2コイルエンド部22fの下方を通って周方向に時計回りに延び、頭頂部の手間で出現し、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトして、巻線体2222の第2コイルエンド部22fの上方を通って周方向に時計回りに延び、第3直線部22cに接続される。
巻線体2221の第3直線部22cから延び出た第3コイルエンド部22gは、巻線体2222の第3直線部22cから延び出た第3コイルエンド部22gの下方を通って周方向に時計回りに延び、頭頂部の手前で出現し、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトして、反時計回りに隣の巻線体2222の第3コイルエンド部22gの上方を通って周方向に時計回りに延び、第4直線部22dに接続される。
巻線体2221の第4直線部22dから延び出た渡り線23は、図示されていないが、図13の裏面側で、巻線体2222の第4直線部22dから延び出た渡り線23の下方を通って周方向に反時計回りに延び、頭頂部の手前で出現し、頭頂部で径方向外方に距離lだけシフトして、巻線体2222の渡り線23の上方を通って周方向に反時計回りに延び、内径側から5層目に位置する第1直線部22aに接続される。
なお、巻線体22の内径側から5層目から8層目に至る第1直線部22a、第1コイルエンド部22e、第2直線部22b、第2コイルエンド部22f、第3直線部22c、第3コイルエンド部22gおよび第4直線部22dも同様に構成されているので、ここでは説明を省略する。
16個の巻線体22は、図12および図13に示されるように、第1から第4直線部22a,22b,22c,22dを各頭頂部で径方向に距離lだけシフトさせているので、互いに干渉することなく、周方向に1スロットピッチで配列される。そして、48個の巻線体22を周方向に1スロットピッチで配列し、図5に示される巻線アッセンブリ21が組み立てられる。この巻線アッセンブリ21では、径方向に1列に並んだ8本の第1から第4直線部22a,22b,22c,22dが、1スロットピッチで周方向に48列配列される。そして、径方向に1列に並んだ8本の第1から第4直線部22a,22b,22c,22dの各列が、スロット13のそれぞれに収納される。
つぎに、巻線アッセンブリ21の組み立て方法について図を参照しつつ説明する。図14から図16はそれぞれこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における巻線アッセンブリの組み立て方法を説明する斜視図、図17から図21はそれぞれこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における巻線アッセンブリの組み立て方法を説明する模式図である。
まず、導体線19をδ状のコイルパターンに連続して2回巻き回して巻線体22を作製する。ここで、説明の便宜上、巻線体22を組み付け順に巻線体221、巻線体222、巻線体223、巻線体2247、巻線体2248とする。
そして、図14および図17に示されるように、1番目および2番目の巻線体221,222を軸方向高さ位置を揃えて周方向に隣接させる。ついで、図15および図18に示されるように、2番目の巻線体222の外径側の第2直線部22bを、1番目の巻線体221の第4直線部22d間に差し込む。ついで、2番目の巻線体222の第2直線部22bが、1番目の巻線体221の第2直線部22bから1スロットピッチ(隣り合う2つのスロットのスロット中心間の間隔)離間した位置となるまで、2番目の巻線体222を周方向に移動させる。これにより、2つの巻線体221,222が、図16および図19に示されるように、組み立てられる。2つの巻線体221,222の組立体は、巻線体222の導体線19が巻線体221の導体線19間の隙間に入り込み、径方向に重なり合い、剛性が高まる。
ついで、図20に示されるように、3番目の巻線体223を巻線体221,222の組立体に軸方向高さ位置を揃えて周方向に隣接させる。ついで、図21に示されるように、3番目の巻線体223の外径側の第2直線部22bを、巻線体221,222の第4直線部22d間に差し込む。ついで、3番目の巻線体223の第2直線部22bが、2番目の巻線体222の第2直線部22bから1スロットピッチ離間した位置となるまで、3番目の巻線体223を周方向に移動させる。これにより、3つの巻線体221,222,223が、組み立てられる。
そして、巻線体22を順次、軸方向高さ位置を揃え、周方向に移動させて、48個の巻線体22を組み付け、円環状の巻線アッセンブリ21が組み立てられる。ついで、図示していないが、48個の鉄心ブロック12が、ティース12bのそれぞれを、巻線アッセンブリ21の隣り合う第1から第4直線部22a,22b,22c,22dの列間の径方向外方に位置させるように、周方向に略等角ピッチで配列される。ついで、周方向に配列された鉄心ブロック12を、径方向内方に移動させる。これにより、鉄心ブロック12のティース12bのそれぞれが隣り合う第1から第4直線部22a,22b,22c,22dの列間に挿入される。
そして、鉄心ブロック12をさらに内径側に移動させると、隣り合う鉄心ブロック12のコアバック部12aの周方向の側面同士が突き合わされ、鉄心ブロック12の径方向内方への移動が阻止される。これにより、図3に示されるように、巻線アッセンブリ21が固定子鉄心11に装着される。さらに、巻線アッセンブリ21を結線して固定子巻線20が構成され、固定子10が作製される。そして、各スロット13には、第1から第4直線部22a,22b,22c,22dが長方形断面の長辺の長さ方向を周方向に向けて径方向に1列に配列されて8本収納されている。
このように構成された回転電機100では、導体線19をδ状のコイルパターンに連続して2回巻き回して作製された巻線体22を周方向に1スロットピッチで配列して構成された巻線アッセンブリ21により固定子巻線20が構成されている。
巻線体22は、第1から第3コイルエンド部22e,22f,22gおよび渡り線23の頭頂部を径方向に第1から第4直線部22a,22b,22c,22dの径方向寸法に略等しいlだけシフトするように構成されているので、頭頂部での曲げ半径が小さくなる。これにより、コイルエンドの径方向および軸方向寸法が小さくなり、回転電機100の小型化が実現される。
スロット13内に径方向に1列に配列された第1から第4直線部22a,22b,22c,22dが長方形断面に形成されているので、占積率が高められ、回転電機100の高出力化が図られる。
また、第1から第4直線部22a,22b,22c,22dが長方形断面の長辺の長さ方向を周方向に向けてスロット13内に径方向に1列に配列されているので、スロット深さ方向の寸法が小さくなり、回転電機100の径方向寸法の小型化を図ることができる。
つぎに、固定子巻線20の絶縁について説明する。図22はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子において3つの巻線体が同一スロット群に装着された状態を第1コイルエンド側から見た模式図、図23はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子において3つの巻線体が同一スロット群に装着された状態を第2コイルエンド側から見た模式図である。
図22において、第1コイルエンド側では、3つの巻線体22が共有する1つのスロット13に着目すれば、2番目の巻線体222の第1コイルエンド部22eがスロット13の内径側から1層目の直線部から周方向一側に延び出し、3番目の巻線体223の第1コイルエンド部22eがスロット13の内径側から2層目の直線部から周方向他側に延び出し、2番目の巻線体222の第3コイルエンド部22gがスロット13の内径側から3層目の直線部から周方向他側に延び出し、1番目の巻線体221の第3コイルエンド部22gがスロット13の内径側から4層目の直線部から周方向一側に延び出している。さらに、2番目の巻線体222の第1コイルエンド部22eがスロット13の内径側から5層目の直線部から周方向一側に延び出し、3番目の巻線体223の第1コイルエンド部22eがスロット13の内径側から6層目の直線部から周方向他側に延び出し、2番目の巻線体222の第3コイルエンド部22gがスロット13の内径側から7層目の直線部から周方向他側に延び出し、1番目の巻線体221の第3コイルエンド部22gがスロット13の内径側から8層目の直線部から周方向一側に延び出している。
図22から、第1および第3コイルエンド部22e,22gが、スロット13の2層目と3層目の直線部から周方向の同じ方向に延び出していることがわかる。同様に、第1および第3コイルエンド部22e,22gが、スロット13の4層目と5層目の直線部から周方向の同じ方向に延び出していることがわかる。また、第1および第3コイルエンド部22e,22gが、スロット13の6層目と7層目の直線部から周方向の同じ方向に延び出していることがわかる。つまり、第1コイルエンドでは、スロット13の2層目と3層目の直線部、4層目と5層目の直線部、および6層目と7層目の直線部のそれぞれから延び出した同じ相のコイルエンド部が、径方向に隣り合って配置され、コイルエンド部間の電位差は小さい。
図22から、第1コイルエンド部22eが、スロット13の1層目と2層目の直線部から周方向の逆の方向に延び出していることがわかる。また、第3コイルエンド部22gが、スロット13の3層目と4層目の直線部から周方向の逆の方向に延び出していることがわかる。また、第1コイルエンド部22eが、スロット13の5層目と6層目の直線部からから周方向の逆の方向に延び出していることがわかる。さらに、第3コイルエンド部22gが、スロット13の7層目と8層目の直線部から周方向の逆の方向に延び出していることがわかる。つまり、第1コイルエンドでは、スロット13の1層目と2層目の直線部、3層目と4層目の直線部、5層目と6層目の直線部および7層目と8層目の直線部のそれぞれから延び出した異なる相のコイルエンド部が、径方向で交差し、コイルエンド部間の電位差が大きくなる。
このように、第1コイルエンドにおいては、異なる相のコイルエンド部が径方向に隣り合う形態と、同じ相のコイルエンド部が径方向に隣り合う形態とが、径方向に交互に繰り返されるように、コイルエンド部が径方向に配列されている。
したがって、第1コイルエンドにおいては、径方向に隣り合う異なる相のコイルエンド部間の絶縁耐圧を高める必要がある。つまり、1層目と2層目の直線部から延び出した第1コイルエンド部22e間、3層目と4層目の直線部から延び出した第3コイルエンド部22g間、5層目と6層目の直線部から延び出した第1コイルエンド部22e間、7層目と8層目の直線部から延び出した第3コイルエンド部22g間の絶縁耐圧を高める必要がある。
また、第1コイルエンドは、第1コイルエンド部22eが周方向に1スロットピッチで配列した第1コイルエンド部22eの層と、第3コイルエンド部22gが周方向に1スロットピッチで配列した第2コイルエンド部22gの層とを、径方向に交互に4層配列して構成される。そこで、異なる相の第1コイルエンド部22eが周方向に隣り合い、かつ異なる相の第3コイルエンド部22gが周方向に隣り合い、コイルエンド部間の電位差が大きくなる。したがって、周方向に隣り合う第1コイルエンド部22e間、および第3コイルエンド部22g間の絶縁耐圧を高める必要がある。
図23において、第2コイルエンド側では、3つの巻線体22が共有する1つのスロット13に着目すれば、3番目の巻線体223の第2コイルエンド部22fがスロット13の内径側から2層目の直線部から周方向一側に延び出し、2番目の巻線体222の第2コイルエンド部22fがスロット13の内径側から3層目の直線部から周方向他側に延び出し、1番目の巻線体221の渡り線23がスロット13の内径側から4層目の直線部から周方向他側に延び出し、2番目の巻線体222の渡り線23がスロット13の内径側から5層目の直線部から周方向一側に延び出している。さらに、3番目の巻線体223の第2コイルエンド部22fがスロット13の内径側から6層目の直線部から周方向一側に延び出し、2番目の巻線体222の第2コイルエンド部22fがスロット13の内径側から7層目の直線部から周方向他側に延び出している。
図23から、第2コイルエンド部22fと渡り線23が、スロット13の3層目と4層目の直線部から周方向の同じ方向に延び出していることがわかる。同様に、第2コイルエンド部22fと渡り線23が、スロット13の5層目と6層目の直線部から周方向の同じ方向に延び出していることがわかる。つまり、第2コイルエンドでは、スロット13の3層目と4層目の直線部、および5層目と6層目の直線部のそれぞれから延び出した同じ相のコイルエンド部が径方向に隣り合って配置され、コイルエンド部間の電位差は小さい。
図23から、第2コイルエンド部22fが、スロット13の2層目と3層目の直線部から周方向の逆の方向に延び出し、第2コイルエンド部22fおよび渡り線23が、スロット13の4層目と5層目の直線部から周方向の逆の方向に延び出し、第2コイルエンド部22fが、スロット13の6層目と7層目の直線部から周方向の逆の方向に延び出していることがわかる。つまり、第2コイルエンドでは、スロット13の2層目と3層目の直線部、4層目と5層目の直線部、および6層目と7層目の直線部のそれぞれから延び出した異なる相のコイルエンド部が径方向で交差し、コイルエンド部間の電位差が大きくなる。
このように、第2コイルエンドにおいては、異なる相のコイルエンド部が径方向に隣り合う形態と、同じ相のコイルエンド部が径方向に隣り合う形態とが、径方向に交互に繰り返されるように、コイルエンド部が径方向に配列されている。
したがって、第2コイルエンドにおいては、径方向に隣り合う異なる相のコイルエンド部間の絶縁耐圧を高める必要がある。つまり、第2コイルエンドにおいては、2層目と3層目の直線部から延び出した第2コイルエンド部22f間、4層目と5層目の直線部から延び出した第2コイルエンド部22fと渡り線23との間、6層目と7層目の直線部から延び出した第2コイルエンド部22f間の絶縁耐圧を高める必要がある。
また、第2コイルエンドは、第2コイルエンド部22fが周方向に1スロットピッチで配列した第2コイルエンド部22fの層と、渡り線23が周方向に1スロットピッチで配列した渡り線23の層とを、径方向に交互に3層配列して構成される。そこで、異なる相の第2コイルエンド部22fが周方向に隣り合い、かつ異なる相の渡り線23が周方向に隣り合い、コイルエンド部間および渡り線間の電位差が大きくなる。したがって、周方向に隣り合う第2コイルエンド部22f間、および渡り線23間の絶縁耐圧を高める必要がある。
また、スロット13内に径方向に1列に並んで挿入されている8本の第1から第4直線部22a,22b,22c,22dは、同じ相の巻線体22の直線部により構成されている。そこで、隣り合う直線部間の電位差は小さい。
ここで、固定子巻線20の結線構造の具体例を説明する。図24はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における固定子巻線の結線図である。
1番、7番、13番・・・43番のスロット13からなるスロット群に挿入された8個の巻線体22と、2番、8番、14番・・・44番のスロット13からなるスロット群に挿入された8個の巻線体22とが、直列に接続され、U相巻線となる。3番、9番、15番・・・45番のスロット13からなるスロット群に挿入された8個の巻線体22と、4番、10番、16番・・・46番のスロット13からなるスロット群に挿入された8個の巻線体22とが、直列に接続され、V相巻線となる。5番、11番、17番・・・47番のスロット13からなるスロット群に挿入された8個の巻線体22と、6番、12番、18番・・・48番のスロット13からなるスロット群に挿入された8個の巻線体22とが、直列に接続され、W相巻線となる。そして、U相巻線、V相巻線およびW相巻線をY結線し、図24に示される固定子巻線20が構成される。なお、周方向に配列する48個のスロット13を、周方向の並び順に1番のスロット、2番のスロット、3番のスロット・・・48番のスロットとした。
そこで、U相巻線を構成する巻線体22のコイルエンド部が、U相巻線を構成する他の巻線体22のコイルエンド部と径方向に隣り合う場合、コイルエンド部間に生じる最大電位差は、給電部(Uout)と中性点(N)との間の電位差V0となる。また、U相巻線を構成する巻線体22のコイルエンド部が、V相巻線を構成する他の巻線体22のコイルエンド部と径方向に隣り合う場合、コイルエンド部間に生じる最大電位差は、給電部(Uout)と給電部(Vout)との間の電位差V1となる。さらに、U相巻線を構成する巻線体22のコイルエンド部が、V相巻線を構成する他の巻線体22のコイルエンド部と周方向に隣り合う場合、コイルエンド部間に生じる最大電位差は、給電部(Uout)と給電部(Vout)との間の電位差V1となる。なお、スロット13内において、径方向に隣り合う直線部間に生じる最大電位差は、給電部(Uout)と中性点(N)との間の電位差V0となる。
つぎに、導体間の距離と部分放電開始電圧との関係を図25に示す。図25から、導体間の距離が長くなると、部分放電開始電圧が高くなることが分かる。つまり、電位差V0がかかる導体間では、距離d0より長い距離だけ離間させることで、部分放電の発生を抑制できる。また、電位差V1がかかる導体間では、距離d1より長い距離だけ離間させることで、部分放電の発生を抑制できる。
これらのことから、第1コイルエンドでは、例えば、スロット13の1層目と2層目の直線部から延び出した第1コイルエンド部22e間の絶縁距離をd1より長くし、スロット13の2層目と3層目の直線部から延び出した第1および第3コイルエンド部22e,22g間の絶縁距離をd0より長くすることで、部分放電の発生を抑制できる。また、第2コイルエンドでは、例えば、スロット13の2層目と3層目の直線部から延び出した第2コイルエンド部22f間の絶縁距離をd1より長くし、スロット13の3層目と4層目の直線部から延び出した第2コイルエンド部22f間の絶縁距離をd0より長くすることで、部分放電の発生を抑制できる。さらに、スロット13内では、例えば、径方向に隣り合う第1および第2直線部22a,22b間の絶縁距離をd0より長くすることで、部分放電の発生を抑制できる。
つぎに、この実施の形態1における絶縁構造について図を参照しつつ説明する。図26はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における巻線体に絶縁シートを装着する工程を示す斜視図、図27はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における固定子の第1コイルエンドを径方向内方から見た一部破断展開図、図28はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の第1コイルエンドをスロット位置で切断した状態を示す斜視図、図29はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の第1コイルエンドをスロット位置で切断した状態を示す断面図、図30はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の第1コイルエンドをスロット位置で切断した状態を示す要部断面図である。なお、図27では、1層目の直線部から延び出すコイルエンド部の傾斜部が省略されている。
絶縁シート30は、ガラスクロス、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニルサルファイド、ポリテトラフルオロエチレンなどからなる絶縁性シートの一面に、シリコーン系などからなる粘着剤を塗布したものでる。絶縁シート30は、必要な寸法の矩形形状に切り取られた後、2箇所を折り曲げて、粘着剤の塗布面を内側にしたU字状に曲げ成形される。巻線体22は、エナメル樹脂で絶縁被覆された、かつ接続部のない連続した銅線やアルミニウム線などからなる長方形断面の導体線19をエッジワイズ巻きにδ状のコイルパターンを2度巻いて作製される。
そして、絶縁シート30が、巻線体22の第1から第3コイルエンド部22e,22f,22gおよび渡り線23のそれぞれに装着され、粘着剤により固着される。このとき、絶縁シート30は、図26に示されるように、第1コイルエンド部22eの第1直線部22a側の傾斜部、第2コイルエンド部22fの第2直線部22b側の傾斜部、第3コイルエンド部22gの第3直線部22c側の傾斜部、および渡り線23の第4直線部22d側の傾斜部のそれぞれに、それぞれの内径側を向く側面を除く3面を覆うように取り付けられる。また、絶縁シート30は、第1コイルエンド部22eの第2直線部22b側の傾斜部、第2コイルエンド部22fの第3直線部22c側の傾斜部、第3コイルエンド部22gの第4直線部22d側の傾斜部、および渡り線23の第1直線部22a側の傾斜部のそれぞれに、それぞれの外径側を向く側面を除く3面を覆うように取り付けられる。
そして、巻線アッセンブリ21が、絶縁シート30が取り付けられた巻線体22を用いて作製される。ついで、鉄心ブロック12を巻線アッセンブリ21に装着し、結線処理が施され、固定子10が作製される。
そこで、絶縁シート30は、図27に示されるように、スロット13の2層目の第2直線部22bから右斜め上方に延び出した第1コイルエンド部22eの傾斜部に、その外径側を向く側面を除く3面を覆うように取り付けられる。また、絶縁シート30は、図27に示されるように、スロット13の3層目の第4直線部22dから左斜め上方に延び出した第3コイルエンド部22gの傾斜部に、その内径側を向く側面を除く3面を覆うように取り付けられる。なお、図27では、スロット13の1層目の第1直線部22aから左斜め上方に延び出した第1コイルエンド部22eの傾斜部が省略されている。そこで、3層目の第3直線部22cと4層目の第4直線部22dから延び出た第3コイルエンド部22gの頂部が、第1コイルエンド部22eの頂部の右側に見えている。
また、第1コイルエンドでは、図28から図30に示されるように、スロット13の2層目と3層目の直線部、4層目と5層目の直線部、および6層目と7層目の直線部のそれぞれから延び出た第1および第3コイルエンド部22e,22gが直接接している。また、スロット13の1層目と2層目の直線部から延び出した第1コイルエンド部22e間、3層目と4層目の直線部から延び出した第3コイルエンド部22g間、5層目と6層目の直線部から延び出した第1コイルエンド部22e間、および7層目と8層目の直線部から延び出した第3コイルエンド部22g間が、それぞれ絶縁シート30を介して接している。
このように構成された固定子10では、図30に示されるように、スロット13の1層目と2層目の直線部から延び出した第1コイルエンド部22e間の絶縁厚みLaは(2d+2w)となる。スロット13の2層目と3層目の直線部から延び出た第1および第3コイルエンド部22e,22g間の絶縁厚みLbは(2d)となる。また、周方向に隣り合う第1コイルエンド部22e間の絶縁距離Lcは(2d+2w)となる。但し、導体線19は断面矩形の導体部28と導体部28の外周面に被覆形成された絶縁被膜としてのエナメル被膜29とから構成され、dはエナメル被膜29の膜厚である。wは絶縁シート30の厚みである。
ここで、部分放電開始電圧V0、V1は、V0<V1であるので、部分放電開始電圧がV0、V1であるときの絶縁距離をd0,d1とすれば、固定子巻線20のコイルエンドにおける絶縁耐圧を確保するには、La,Lc>d1>Lb>d0を満足するようにd、wを設定すればよい。また、Lb>d0となっているので、固定子巻線20のスロット13内に挿入されている直線部における絶縁耐圧が確保される。つまり、固定子巻線20の絶縁耐圧を確保するには、エナメル被膜29の膜厚dおよび絶縁シート30の厚みwは、d1>2d>d0、w>(d1-2d)/2を満足するように設定すればよい。
この実施の形態1によれば、固定子巻線20は、8本の直線部が各スロット13内に径方向に1列に並んで挿入され、コイルエンド部が、同じスロット13内に挿入されている、径方向に隣り合う2本の直線部から周方向に延び出す方向が異なる方向と同じ方向とを径方向に交互に繰り返すように、かつ、1磁極ピッチ離れたスロットの対に挿入されている直線部の対をそれぞれ接続して構成されている。周方向の異なる方向に延び出して径方向に隣り合うコイルエンド部間の絶縁厚みLa、周方向の同じ方向に延び出して径方向に隣り合うコイルエンド部間の絶縁厚みLb、および周方向に隣り合うコイルエンド部間の絶縁距離Lcが、La,Lc>Lbを満足するように構成されている。そこで、径方向に隣り合う同じ相のコイルエンド部間の絶縁厚みLbが不必要に厚くならないので、導体部28の断面積を小さくすることなく、コイルエンドの径方向寸法の増大を抑えることができる。これにより、回転電機100の効率の低下および大径化が抑えられる。
相巻線に生じる最大電位差V0で部分放電が発生する絶縁距離をd0、異なる相巻線間に生じる最大電位差V1で部分放電が発生する絶縁距離をd1とし、周方向の異なる方向に延び出して径方向に隣り合うコイルエンド部間の絶縁厚みLa、周方向の同じ方向に延び出して径方向に隣り合うコイルエンド部間の絶縁厚みLb、および周方向に隣り合うコイルエンド部間の絶縁距離Lcが、La,Lc>d1>Lb>d0を満足するように構成されている。これにより、固定子巻線20の絶縁耐圧が確保され、部分放電の発生を防止することができる。
巻線体22を構成する導体線19が、導体部28と導体部28の外周に被覆されたエナメル被膜29とから構成され、絶縁シート30がコイルエンド部に装着されている。そして、エナメル被膜29の膜厚dが、d1>2d>d0を満足するように形成されている。絶縁シート30の厚みwが、w>(d1-2d)/2を満足するように形成されている。これにより、径方向に隣り合う同じ相のコイルエンド部間の絶縁は、エナメル被膜29のみにより確保される。したがって、導体部28の断面積を過度に小さくすることがなく、導体線19の高抵抗化が抑えられ、回転電機100の効率を向上させることができる。
導体部28に被覆されたエナメル被膜29と導体線19に固着される絶縁シート30により導体線19間の絶縁距離を確保している。そこで、長方形断面のコイルエンド部の一面の絶縁厚みを薄く、残る3面の絶縁厚みを厚くすることが簡易にできるので、La,Lc>d1>Lb>d0を満足する絶縁構造を簡易に実現できる。
絶縁シート30を巻線体22の各コイルエンド部に装着している。そこで、後工程に、絶縁シート30の剥がれを誘発するコイルエンド部の曲げ工程が無く、粘着性の弱い粘着剤を絶縁シート30の粘着剤に用いることができる。
なお、上記実施の形態1では、導体線19を曲げ成形して作製された巻線体22の各コイルエンド部に絶縁シート30を装着しているが、絶縁シート30を導体線19に装着し、絶縁シート30が装着された導体線19を曲げ成形して巻線体22を作製してもよい。この場合、絶縁シート30を装着する装置の挿入スペースが多くあり、生産性が向上する。このとき、U字状に曲げ成形された絶縁シート30を導体線19に装着してもよいし、図31に示されるように、粘着剤が塗布されたシート材から必要な寸法に切り取られた矩形平板状の絶縁シート30を導体線19の1面に貼り付けた後、導体線19に巻き付けるように貼り付けてもよい。
実施の形態2.
図32はこの発明の実施の形態2に係る回転電機の固定子における絶縁シートを示す平面図、図33はこの発明の実施の形態2に係る回転電機の固定子における絶縁シートの装着方法を説明する図である。
図32において、絶縁シート31は、粘着剤が一面に塗布された略矩形平板状に形成される。この絶縁シート31は、長辺の長さ方向と平行な2本の折り曲げ線35により短辺の長さ方向に第1側面部32、底面部33および第2側面部34の3つの領域に分けられている。そして、第1側面部32はその長さ方向一端側を欠損した欠損部32aを有し、第2側面部はその長さ方向他端側を欠損した欠損部34aを備える。また、底面部33はその長さ方向一端側を欠損部32a側に張り出した張り出し部33aを備えている。このように構成された絶縁シート31は、粘着剤の塗布面を内側にして、折り曲げ線35で折り曲げて、U字状に曲げ成形される。
なお、実施の形態2は、絶縁シート30に替えて絶縁シート31を用いている点を除いて、上記実施の形態1と同様に構成されている。
この実施の形態2では、図33の(a)に示されるように、U字状の曲げ成形された絶縁シート31を、第1側面部32を軸方向外方に向けて、かつ欠損部34aを第3直線部22c側に向けて、巻線体22の第3コイルエンド部22gの第3直線部22c側の傾斜部に外径側から装着している。また、U字状の曲げ成形された絶縁シート31を、第1側面部32を軸方向外方に向けて、かつ欠損部34aを第4直線部22d側に向けて、巻線体22の第3コイルエンド部22gの第4直線部22d側の傾斜部に内径側から装着している。
これにより、絶縁シート31は、図33(b)に示されるように、第3コイルエンド部22gの第3直線部22c側の傾斜部に、その内径側を向く側面を除く3面を覆うように装着される。また、絶縁シート31は、第3コイルエンド部22gの第4直線部22d側の傾斜部に、その外径側を向く側面を除く3面を覆うように装着される。
絶縁シート31は、第1側面部32の長さ方向一端側に欠損部32aを有しているので、絶縁シート31を第3コイルエンド部22gの傾斜部に装着する際に、第3コイルエンド部22gの頭頂部と第1側面部32との干渉が回避される。さらに、絶縁シート31は、底面部33の長さ方向一端側に張り出し部33aを有している。これにより、底面部33の長さ方向一端側が、第3コイルエンド部22gの頭頂部の径方向内方又は外方を向く面を覆うことができる。また、第2側面部34の長さ方向一端側が、第3コイルエンド部22gの頭頂部の軸方向内方を向く面を覆うことができる。
また、絶縁シート31は、第2側面部34の長さ方向他端側に欠損部34aを有しているので、絶縁シート31を第3コイルエンド部22gの傾斜部に装着する際に、第3コイルエンド部22gの根元部と第2側面部34の干渉が回避される。これにより、第1側面部32の長さ方向他端側が、第3コイルエンド部22gの根元部の軸方向外方を向く面を覆うことができる。また、底面部33の長さ方向他端側が、第3コイルエンド部22gの根元部の径方向内方又は外方を向く面を覆うことができる。
なお、図示していないが、絶縁シート31は、第1コイルエンド部22e、第2コイルエンド部22fおよび渡り線23にも同様に装着されるので、ここではその説明を省略する。
このように、実施の形態2によれば、各コイルエンド部の異なる相のコイルエンド部と径方向および周方向に相対する面の絶縁シート31で覆われる面積が増大するので、固定子巻線の絶縁性能を高めることができる。
なお、上記各実施の形態では、8本の直線部がスロット内に径方向に1列に並んで挿入されているが、スロット内に挿入される直線部の本数は8本に限定されず、2n本(但し、nは2以上の整数)であればよい。
また、上記各実施の形態では、直線部が矩形断面の長辺の長さ方向を周方向に向けてスロット内に径方向に1列に配列されているものとしているが、直線部は矩形断面の短辺の長さ方向を周方向に向けてスロット内に径方向に1列に配列してもよい。
また、上記各実施の形態では、導体線をδ状のコイルパターンを2度巻いて作製された巻線体をコイル体として用いている。しかし、各スロットにおいて、直線部が径方向に1列に並んで2n本(但し、nは2以上の整数)挿入され、第1および第2コイルエンドにおいて、コイルエンド部が、同じスロット内に挿入されている、径方向に隣り合う2本の直線部から周方向に延び出す方向が異なる方向と同じ方向とを径方向に交互に繰り返すように、かつ、1磁極ピッチ離れたスロットの対に挿入されている直線部の対をそれぞれ接続して、固定子巻線が構成されていれば、導体線をδ状のコイルパターンに1度巻いて作製された巻線体、導体線をU字状に曲げて作製されたセグメントコイル、導体線を略6角形に巻いて作製されたセグメントコイルなどをコイル体として用いてもよい。
また、上記各実施の形態では、スロットが径方向内方に開口するように形成された固定子鉄心を用いているが、スロットが径方向外方に開口するように形成された固定子鉄心を用いてもよい。
また、上記各実施の形態では、導体線が断面矩形に作製されているが、導体線の断面は矩形に限定されず、例えば円形断面でもよい。
また、上記各実施の形態では、8極48スロットの回転電機について説明しているが、極数およびスロット数は、8極48スロットに限定されないことは言うまでもないことである。また、スロット数が毎極毎相当たり2の割合で形成されているものとしているが、毎極毎相当たりのスロット数は2に限定されず、1でもよく、3以上でもよい。