第一の態様によると、本発明は、全血サンプルを電気泳動によって分析することを有する、ヘマトクリット値を測定する方法を提供する。全血サンプルを電気泳動分析に供した場合、泳動後の堆積高(赤血球の場合、ゲル内に侵入できないので、試料添加部分のゲル側に血球が積み重なった高さ)とヘマトクリット値とが比例関係にあることが判明した。また、上記関係は泳動条件などの外来要因にはよらないことも判明した。このため、本発明の方法によると、一旦、予めヘマトクリット値が既知のサンプルで検量線を作成しておくと、その検量線に基づいてヘマトクリット値を正確に測定できる。
また、第二の態様によると、本発明は、全血サンプルおよび血中成分濃度測定用試薬を混合し、測定サンプルを調製し;前記測定サンプルを電気泳動によって分析して、血中成分濃度およびヘマトクリット値を測定することを有する、血中成分濃度およびヘマトクリット値の測定方法を提供する。従来、比色分析法により、全血サンプルについて血糖値などの血中成分濃度を測定すると、血球由来の赤色がノイズとなり、血球の存在自体が測定の誤差の原因となり、試薬と血中成分との反応後に生成する色素を正確に定量できない、即ち、血中成分濃度を正確に測定できない場合がある。このため、従来では、血中成分濃度を真に正確に測定するためには、全血から血漿を一旦分離して、血漿中の所望の成分濃度を測定することが必要であった。これに対して、本発明の方法によると、電気泳動により、上記生成色素が血球と分離するため、色素を正確に定量でき、血中成分濃度を正確に測定できる。
また、上述したように、従来、ヘマトクリット値が、血糖値等の血中成分濃度の測定値に影響を与えてしまうことが問題となっている。ヘマトクリット値は、一定の血液量に対する赤血球の割合(体積パーセント)であるが、成人女性では35%〜45体積%、成人男性では40%〜50体積%、新生児では60体積%を越える場合も多く、性差や年齢差等の個人差が大きい。例えば、血糖値は、貧血患者や透析患者等のヘマトクリット値が低い(例えば、15体積%未満)患者の血液に対しては高めの値として、また、新生児や生理前の女性等のヘマトクリット値が高い(例えば、55体積%超)患者の血液に対しては低めの値として、計測される傾向にある。このため、正確な測定のためには、ヘマトクリット値を用いて血中成分濃度を補正する必要があるが、従来の方法では、手間や時間がかかる、精度や信頼性が十分でない、複数のサンプルを同時に測定することができない、などの問題があった。これに対して、上述したように、本発明の方法によると、ヘマトクリット値は電気泳動後のバンドの高さ(血球が積み重なった高さ)として、および血中成分濃度は電気泳動後に血球とは分離した色素の定量により、正確にかつ簡便に測定できる。
したがって、本発明の方法によると、ヘマトクリット値、またはヘマトクリット値及び血中成分濃度を、正確にかつ簡便に測定できる。また、本発明の方法では、電気泳動は複数サンプルの分析が可能であるため、複数のサンプルに対して、ヘマトクリット値、またはヘマトクリット値及び血中成分濃度を同時に測定できる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
[サンプル]
本発明の方法では、全血サンプルが使用される。ここで、全血サンプルは、ヘマトクリット値、またはヘマトクリット値及び血中成分濃度の測定を意図するいずれの動物由来のものであってもよい。具体的には、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)由来の血液が使用できる。
[ヘマトクリット値の測定]
本発明では、ヘマトクリット値を全血サンプルの電気泳動によって測定する。電気泳動後の堆積高は、全血サンプル中の赤血球が密に積み重なって構成されるため、このバンドの高さは赤血球の体積に比例する。すなわち、電気泳動に供する全血サンプルについて測定された、電気泳動後の堆積高(赤血球が積み重なった高さ)と、ヘマトクリット値とは、比例関係にある。また、この堆積高は、電気泳動条件に依存しない。このため、ヘマトクリット値が既知の全血サンプルについて、ヘマトクリット値と堆積高とのグラフ(検量線)を作成しておくと、そのグラフ(検量線)に基づいてヘマトクリット値を正確に測定できる。
ここで、電気泳動法は、泳動後の堆積高(血球が積み重なった高さ)とヘマトクリット値とが比例関係をもたらすものであればいずれの方法も使用できる。具体的には、アガロースゲル電気泳動、パルスフィールド電気泳動(pulsed-field gel electrophoresis;PFGE)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Poly-Acrylamide Gel Electrophoresis;PAGE)等のゲル電気泳動;泳動ゲル中にpH勾配を形成させた等電点電気泳動;等電点電気泳動(1次元目)及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を組み合わせた二次元電気泳動;尿素及びホルムアミドを変性剤として使用する変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis;DGGE);などが挙げられる。なお、上記担体電気泳動では、上記以外にも、デキストラン等のゲルを下記記載のキャピラリー高分子等の担体を代わりに使用してもよい。
ここで、本発明に係る電気泳動では、陰イオン系界面活性剤(例えば、SDS、LDS)、カオトロピック剤(例えば、尿素、ホルムアミド、グアニジン、ヨウ化カリウム)などのタンパク質変性剤を使用(例えば、上記変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)しても、あるいは上記タンパク質変性剤を使用しなくても(nativeな電気泳動)、いずれでもよい。後者の場合には、トリス−グリシンシステムを使用した高いpH条件の緩衝液を一般的に使用する。
また、キャピラリー電気泳動に用いるキャピラリー内に分子ふるい効果を持たせるようなポリマーを泳動用緩衝液等と共に充填してもよい(キャピラリー高分子溶液電気泳動)。この際、キャピラリーに充填されるポリマー(キャピラリー高分子)としては、通常この分野で用いられているものであればよく、特に限定されないが、具体的には、ポリエチレンオキサイド(ポリエチレングリコール)、ポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル類;ポリエチレンイミン等のポリアルキレンイミン;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル等のポリ(メタ)アクリル酸系ポリマー;ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド等のポリアミド系ポリマー;;ポリビニルアセテート,ポリビニルピロリドン、ポリビニルオキサゾリドン等のポリビニル系ポリマー;プルラン,エルシナン、キサンタン、デキストラン、グアガム等の水溶性ヒドロキシルポリマー;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース;およびこれらの誘導体、ならびにこれらポリマーを構成するモノマーユニットのコポリマー等が挙げられる。
これらのうち、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、アガロース電気泳動を使用することが好ましく、透明性が高く、電気的に中性であることから、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用することがより好ましい。この際、ポリアクリルアミドゲルは、濃度勾配ゲルであってもあるいは均一濃度ゲルであってもよい。具体的には、4〜16%(w/v)の濃度勾配ゲル、5〜20%(w/v)濃度勾配ゲル、あるいは8〜12%(w/v)の一定濃度ゲルを用いることができる。一般的には一定濃度ゲルよりは濃度勾配ゲルの方が、バンドがシャープである。ポリアクリルアミドゲルは適宜調製してもよいし、市販品を用いてもよい。ポリアクリルアミドゲルとしては、トリス−グリシンゲル(例えば、Novex(登録商標)トリス−グリシンゲル(Invitrogen社)等)、トリス−酢酸ゲル(例えばNuPAGE Novex(登録商標)(Invitrogen社))、またはビストリスゲル(例えば、NativePAGE Novex(登録商標)ビストリスゲル(Invitrogen社)など)が挙げられる。
電気泳動は、通常、緩衝液を電気泳動用緩衝液(ランニングバッファー)として用いて行われる。ここで、緩衝液は、血球成分および血中成分濃度を測定する場合には試薬に対して分解などの悪影響を及ぼさない限り、特に制限されず、通常電気泳動に使用される緩衝液が同様にしてあるいは適宜修正して使用できる。具体的には、緩衝液としては、緩衝能を有する従来公知の緩衝液組成物を含有する溶液であれば特に限定されず、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸、及び、その塩類等を含有する溶液等;グリシン、タウリン、アルギニン等のアミノ酸類;塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等の無機酸、及び、その塩類等を含有する溶液等が挙げられる。具体的な泳動用緩衝液としては、例えば、トリス−グリシン緩衝液、トリス緩衝液、トリス−トリシン緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、MES緩衝溶液、MOSP緩衝溶液等や、一般に電気泳動用緩衝液として使用される緩衝液が挙げられ、市販の電気泳動用キット中に提供されている緩衝液等も使用することができる。泳動用緩衝液は、一般に電気泳動用緩衝液として使用される濃度で使用することができる。
緩衝液のpHは、特に制限されず、血球成分および血中成分濃度を測定する場合には試薬に対して分解などの悪影響を及ぼさない限り、特に制限されない。ただし、血球成分および血中成分濃度を測定する場合には試薬の安定性、反応性などを考慮すると、通常、中性〜弱塩基性付近であることが好ましい。かような観点から、泳動用緩衝液のpHは、6〜9であることがより好ましい。
また、電気泳動条件は、特に制限されず、通常この分野で用いられる範囲から適宜選択すればよい。例えば、電気泳動における印加電圧は、通常、5〜2000V/cmの範囲で印加されうる。また、電気泳動時間は、通常、30分〜120分の範囲でありうる。ただし、長持間にわたる電気泳動では、血球が破壊され(溶血し)、バンド(血球の積み重なり)がブロードになり、この高さを正確に測定できない場合がある。このため、バンドの高さ(血球が積み重なった高さ)は、電気泳動開始後、1〜60分、より好ましくは5〜30分後に測定することが好ましい。同様にして、血中成分濃度をも測定する場合には、血中成分との反応により生成した色素は、電気泳動開始後血球と分離した状態で定量されることが正確な測定の点で好ましい。このような観点からは、血中成分濃度をも測定する場合には、バンドの高さ(血球が積み重なった高さ)は、電気泳動開始後、1〜60分、より好ましくは5〜30分後に定量されることが好ましい。なお、電気泳動温度は、特に制限されないが、通常、室温(20〜25℃)で行われる。
本発明では、予めヘマトクリット値が既知のサンプルを用いて、ヘマトクリット値に対する堆積高(血球が積み重なった高さ)の関係(検量線)を作成することが好ましい。この関係(検量線)は、泳動条件などの外来要因にはよらず、定常的なものであるため、検量線として有効である。このため、この検量線を利用することにより、ヘマトクリット値を正確に測定することが可能である。
電気泳動後は、堆積高(血球が積み重なった高さ)を測定することによって、ヘマトクリット値を、正確にかつ容易に測定できる。また、複数の全血サンプルに対しても、ゲルの大きさ(サンプルの測定箇所)などを適宜選択することによって、ヘマトクリット値を、同時に、正確にかつ容易に測定できる。
[血中成分濃度の測定]
本発明では、全血サンプルおよび血中成分濃度測定用試薬を混合し、測定サンプルを調製した後、前記測定サンプルを電気泳動によって分析して、血中成分濃度およびヘマトクリット値を測定することによって、ヘマトクリット値に加えて、血中成分濃度を測定できる。電気泳動によって、血中成分との反応により生成した色素は、堆積物(血球が積み重なったもの)と速やかに分離する。このため、堆積物(血球が積み重なったもの)の高さからヘマトクリット値を、また、血中成分との反応により生成した色素の量によって血中成分濃度を、それぞれ、同時に測定できる。
ここで、血中成分は、通常の血液検査で測定される血中成分でありうる。しかし、上述したように、本発明の方法は、血中成分濃度がヘマトクリット値の影響を受け、ヘマトクリット値を用いて血中成分濃度を補正する必要がある場合に特に好適に使用できる。この点から、測定対象としては、血糖値、コレステロール値、尿酸値、クレアチニン値、ナトリウム等の無機イオン値等が好ましく、血糖値、コレステロール値がより好ましく、血糖値が特に好ましい。
また、血中成分濃度の測定方法は、特に制限されず、公知の測定方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。具体的には、測定値の正確さ、操作の容易性などの点から、比色分析法等の光学的測定法が好ましく使用される。このため、以下では、血糖値を比色分析によって測定する好ましい実施形態について詳述する。しかしながら、本発明は、下記実施形態に限定されるものではなく、他の方法も同様にして適用できる。
血中成分濃度測定用試薬は、特に制限されず、測定される血中成分の種類によって従来と同様の血中成分濃度測定用試薬が適宜選択できる。例えば、酵素を用いた比色分析法の1つとして、被測定物質(全血サンプル;以下、同様)に特異的なオキシダーゼ(酸化酵素)を作用させて発生する過酸化水素をさらにペルオキシダーゼの作用で活性酸素とし、これで発色または蛍光試薬を酸化して生成する色素を比色定量する定量法がある。この場合の血中成分濃度測定用試薬は、オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ならびに異なる2分子がカップリングして機能するもの(例えば、トリンダー試薬およびカップラー試薬)または1分子だけで機能するもの(例えば、発色色素もしくは蛍光試薬)を含む。
このうち、オキシダーゼは、被測定物質を特異的に酸化して、過酸化水素を生成する。オキシダーゼの具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。すなわち、被測定物質の種類に応じて、オキシダーゼの種類を適宜選択すればよい。例えば、血糖値(グルコース)の測定にはグルコースオキシダーゼ、コレステロールの測定にはコレステロールオキシダーゼ、尿酸の測定にはウリカーゼ、ピルビン酸の測定にはピルベートオキシダーゼ等が用いられる。これらの酵素は被測定物質の基質のみを特異的に酸化するために、色々な成分を含む全血サンプルからそれぞれの被測定物質のみを限定して定量することができる。ただし、これらのみには限定されず、その他のオキシダーゼが用いられても、勿論よい。血中成分濃度測定用試薬におけるオキシダーゼの含有量は特に制限されないが、反応を効率的に進行させるという観点からは、発色または蛍光試薬 1モルに対して、好ましくは10〜1000000kUであり、より好ましくは1000〜100000kUである。なお、本発明において、オキシダーゼの含有量の値は、比色活性測定法により測定された値を採用するものとする。
ペルオキシダーゼは、被測定物質の酸化により生成した過酸化水素に作用して、活性酸素を生成させる。ペルオキシダーゼの具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。本発明の血中成分濃度測定用試薬におけるペルオキシダーゼの含有量は特に制限されないが、反応を効率的に進行させるという観点からは、上述した酸化発色化合物/塩の含有量(1モル)に対して、好ましくは10〜1000000kUであり、より好ましくは1000〜100000kUである。なお、ペルオキシダーゼの含有量の値としては、比色活性測定法により測定された値を採用するものとする。
トリンダー試薬の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、フェノール誘導体、アニリン誘導体が用いられる。フェノール誘導体の例としては、フェノール、4−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノール、2,4−ジブロモフェノール、2,6,4−トリクロロフェノール、2,6,4−トリブロモフェノール、3,5−ジクロロ−2−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨードベンゾイル酸などが挙げられる。また、アニリン誘導体の例としては、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOPS)、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−3−アセチルエチレンジアミン(EMAE)、N−エチル−N−(3−メチルフェニル)−N−サクシニルエチレンジアミン(EMSE)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)、N−(2−カルボキシエチル)−N−エチル−3−メチルアニリン(CEMB)、N,N−ビス−(4−スルホブチル)−3−メチルアニリン(TODB)、N−エチル−N−(2−サクシニルアミノエチル)−3−メチルアニリン(ESET)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADPS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HSDA)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシ−4−フルオロアニリン(FDAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)などが挙げられる。これらのトリンダー試薬をカップラー試薬と組み合わせて使用すると発色反応が起こる。なかでも、検量線の傾きを改善させうる(すなわち、測定感度を向上させうる)という観点からは、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)が特に好ましい。なお、上記トリンダー試薬は、1種単独であっても、あるいは2種以上の混合物であってもよい。カップラー試薬については具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、4−アミノアンチピリン(4−AA)、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)、アミノジフェニルアミンおよびその誘導体、ならびにWO 2008/114622号公報で報告される下記化学式(1):
上記式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり;R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立して、水素原子、カルボキシル基もしくはスルホン酸基またはこれらの塩であり、この際、R3〜R7のうち少なくとも1つは、カルボキシル基もしくはスルホン酸基またはこれらの塩であり、かつ残りは水素原子である、
で示される酸化発色化合物またはその塩などが挙げられる。
トリンダー試薬の使用量は、特に制限されないが、通常、カップラー試薬と等モル(1:1のモル比)で結合し、色素を形成して呈色する。したがって、トリンダー試薬とカップラー試薬との含有量の比は、理論上は1:1(モル比)である。しかしながら、実際にはこれらの試薬は副反応性の影響を受けるため、反応を効率的に進行させるという観点から、トリンダー試薬とカップラー試薬との含有量の比は、モル比で好ましくは1:1〜10:1であり、より好ましくは5:1〜2:1である。
発色色素または蛍光試薬としては、活性酸素で酸化されることによってその吸収波長特性や吸収強度等が変化する色素もしくは色素の前駆体(色原体)が用いられる。すなわち、活性酸素の量に応じて変化する色を測定することによって、被測定物質の量を定量することができる。発色色素または蛍光試薬は、特に制限されず、公知の発色色素または蛍光試薬が使用できる。
具体的には、発色色素としては、ベンチジン、o−トリジン、o−ジアニシジン、2,2'−アミノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリノン−6−スルホン酸)(ABTS)、ビス−(4−ジエチルアミノ)−2−スルホフェニルメタン(BSPM)、ビス[3−ビス(4−クロロフェニル)メチル−4−ジメチルアミノフェニル]アミン(BCMA)、10−N−メチルカルバモイル−3,7−ジメチルアミノ−10H−フェノチアジン(MCDP)、3,3',5,5'−テトラメチルベンチジン(TMBZ)、ビス[4−(N−アルキル−N−スルホプロピル)−2,6−ジメチルフェニル]メタン(Bis−MAPS)、N,N,N',N',N",N"−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4',4"−トリアミノトリフェニルメタン(TMP)等の1分子で機能するロイコ型色素などが挙げられる。
また、デヒドロゲナーゼを使用した測定法も使用することが可能である。デヒドロゲナーゼは特に限定されることはなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ、コレステロールデヒドロナゲーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼなどが挙げられる。発色試薬としてはデヒドロゲナーゼから発生される電子を受け、還元されて発色可能なものであれば使用することが出来る。例えばテトラジアゾニウム塩等が挙げられる。この反応にはデヒドロゲナーゼと発色試薬の間に公知のメディエイターやジアホラーゼ等の介在物資を入れても良い。なお、例えば、特開2010−172346号公報、特開2010−32501号公報、特開2009−247289号公報などに記載される方法が同様にしてあるいは適宜修飾して使用できる。
また、蛍光試薬としては、特開平8−53467公報に記載されたフェニルボロン酸化合物、ルミノールイソルミノールなどが挙げられる。
これらのうち、発色試薬が好ましく、迅速さ、精度、感度、安定性などの観点から、2分子で機能する色素、WO2008/114622号公報の色素がカプラー化合物として好ましく使用される。また、安定でかつ発色強度や波長の観点から、アニリン誘導体がトリンダー試薬として好ましく使用される。
また、上記発色または蛍光試薬は、血中成分との反応後に緩衝液中で負に帯電する色素を生成することが好ましい。すなわち、血中成分濃度測定用試薬は、血中成分との反応後に緩衝液中で負に帯電する色素を生成する化合物を含むことが好ましい。通常、電気泳動は、正の電極へ向けて行われる。このため、血中成分との反応後に緩衝液中で負に帯電する色素を使用することにより、色素は、電気泳動後、速やかに正の電極側に移動して、全血サンプル中の血球と速やかに分離する。このため、血中成分との反応により生成した色素は、バンド(血球の積み重なり)から迅速かつ効率よく分離するため、血球の赤色によるノイズを抑え、血中成分との反応後に生成する色素を正確に定量する、即ち、血中成分濃度を正確に測定することが可能になる。
ここで、血中成分との反応後に緩衝液中で負に帯電する色素としては、緩衝液中でマイナスイオンを帯びる官能基を有する色素が好ましく使用される。緩衝液中でマイナスイオンを帯びる官能基としては、特に制限されないが、硫酸基(−SO4)、リン酸基(−H2PO4)、カルボキシル基(−COOH)などが挙げられる。これらのうち、中性付近の緩衝液中での負への帯電しやすさを考慮すると、硫酸基(−SO4)が好ましい。このため、発色または蛍光試薬は、硫酸基(−SO4)、リン酸基(−H2PO4)、カルボキシル基(−COOH)を有することが好ましく、硫酸基を有することが特に好ましい。または、上記発色または蛍光試薬が硫酸基を持たない場合には、発色または蛍光試薬に、上記官能基を導入して、衝液中でマイナスイオンを帯びるようにしてもよい。ここで、発色または蛍光試薬に上記官能基を導入する方法は、特に制限されず、熱濃硫酸を用いた芳香族有機化合物への硫酸基の導入等の公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。なお、発色または蛍光試薬に上記官能基を導入する場合には、発色または蛍光に関与する位置以外の位置に官能基を導入することが好ましい。
発色または蛍光試薬の使用量は、特に制限はないが、好ましい一例を挙げると、血中成分濃度測定用試薬が固体である場合には、発色または蛍光試薬の固形分含有量が、予測される血中成分の最大量1モルに対して、1〜50モルであることが好ましく、2〜10モルであることがより好ましい。また、血中成分濃度測定用試薬が液体状である場合も同様である。
また、血中成分濃度測定用試薬は、上記に加えて、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。血中成分濃度測定用試薬に含まれうるその他の成分としては、例えば、pH緩衝剤、可溶化剤、浸透圧調整剤、界面活性剤、安定化剤、保護剤などが挙げられる。これらの各成分の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。特に、pH緩衝剤および可溶化剤の少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。
pH緩衝剤は、被測定物質の検出・定量時に血中成分濃度測定用試薬が測定サンプルと接触した際のpH変動を最小限に抑えるために配合され、これによりどのような測定サンプルを対象としても反応系のpHが一定に維持されうる。その結果、常に同条件下で反応を進行させ、測定精度を向上させることが可能となる。pH緩衝剤の具体例としては、例えば、リン酸塩、ホウ酸塩などの無機酸塩や、有機カルボン酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、有機ホウ酸塩、アミノ酸またはその塩などの有機酸塩が挙げられる。なかでも、試薬の安定性や発色性能を向上させるという観点からは、有機酸塩が好ましく、有機カルボン酸塩がより好ましい。pH緩衝剤としての有機カルボン酸塩の例としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、グリセリン酸、グルタル酸からなる群より選択される1種または2種以上の酸の塩が挙げられる。なかでも、試薬の安定性や発色性能を向上させるという観点から、フタル酸、コハク酸、クエン酸、マロン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸が好ましく、コハク酸、クエン酸が特に好ましい。pH緩衝剤が塩の形態の場合、酸とともに塩を形成する対イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンなどが挙げられ、ナトリウムイオン、カリウムイオンが特に好ましい。なお、血中成分濃度測定用試薬中に、pH緩衝剤は1種のみが単独で含まれてもよいし、2種以上が含まれてもよい。
測定に用いる酵素や色素を形成する過程の反応においては、その反応速度がpHに依存する場合が少なくない。よって、反応系のpHを、血中成分濃度測定用試薬中の酵素の至適pHに設定することで反応速度を向上させることが可能となる。また、場合によっては、反応系の発色反応に適したpHに設定することで反応速度が向上することもある。さらに、適当なpHに設定することで試薬成分の溶解性が向上し、反応速度が向上することもある。また、適当なpHに設定することで試薬成分の保存安定性が向上することもある。これらのことから、pH緩衝剤のpHは特に制限されず、血中成分濃度測定用試薬の他の成分に応じて適宜設定されうるが、発色の反応速度に優れるという観点からは、pH緩衝剤のpHは、好ましくは5〜8.6であり、より好ましくは7〜8である。また、好ましい形態において、血中成分濃度測定用試薬におけるpH緩衝剤の含有量は、発色または蛍光色素の含有量(1モル)に対して、好ましくは1〜7モルであり、より好ましくは2〜5モルである。
可溶化剤は、被測定物質の検出・定量時に血中成分濃度測定用試薬が検体と接触した際に、両者を均一に混合させるために配合され、これにより迅速に反応を進行させうる。また、検体が試薬成分と混合・反応しながら担体内部に浸透していく過程を均一かつ迅速に行わせることにも寄与する。また、可溶化剤は試薬成分を包括して空気との接触面積を減少させる効果も有し、酸化等に不安定な成分の経時的劣化を防ぐ機能をも有する。さらに、酵素などのタンパク質が乾燥状態にある場合には、可溶化剤が当該タンパク質の高次構造を安定化させて劣化を防ぐという機能も有している。可溶化剤としては、例えば、水溶性高分子、界面活性剤等が用いられうる。具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(例えば、Union Carbide Chemicals and Plastic Co.社製Triton(登録商標)シリーズ)、ソルビタンアルキレート(例えば、ICI Americas,Inc.社製Span(登録商標)シリーズ)、ソルビタンポリオキシエチレンエーテル(例えば、Uniqema社製Tweenシリーズ)、ポリオキシレン−エチレンオキシルブロックポリマー(例えば、BASF AG.社製Pluronic(登録商標)シリーズ)、ポリオキシエチレンノニルフェノール(例えば、日光ケミカルズ社製Nikkol NPシリーズ)、およびポリオキシエチレン−n−アルキルエーテル(例えば、ICI Americas,Inc.社製Brij(登録商標)シリーズ)が挙げられる。なかでも、CMC、PEG−5000〜60000、Triton(登録商標)、Tween、Pluronic(登録商標)、NP−40、Brij(登録商標)−58が好ましく、Triton(登録商標) X−100、Tween 20、Pluronic(登録商標)−F68が特に好ましい。また、好ましい形態において、血中成分濃度測定用試薬における可溶化剤の含有量は、発色または蛍光色素の含有量(1モル)に対して、好ましくは0.001〜10モルであり、より好ましくは0.01〜1モルである。
その他、血中成分濃度測定用試薬は、浸透圧調整剤、安定化剤、または保護剤などを必要に応じて含んでもよい。
電気泳動後は、堆積高(血球が積み重なった高さ)および上記バンドとは分離した血中成分との反応により生成した色素量を測定することによって、ヘマトクリット値及び血中成分濃度を、正確にかつ容易に測定できる。また、複数の全血サンプルに対しても、ゲルの大きさ(サンプルの測定箇所)などを適宜選択することによって、ヘマトクリット値及び血中成分濃度を、同時に、正確にかつ容易に測定できる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記において、特記しない限りは、操作は、室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%で行われる。
実施例1
ヘパリン入りの採血管に全血を採取し全血サンプルを得た。この全血サンプルのヘマトクリット値を、ヘマトクリット毛細管を用いて測定し、事前に分離して得た血漿を適宜加える、または全血サンプルの血漿を抜き取って全血サンプルのヘマトクリット値がHt20、Ht40、Ht60になるよう調節して、それぞれ、全血サンプル(Ht20)、全血サンプル(Ht40)、全血サンプル(Ht60)を調製した。またこれらの全血サンプルに高濃度グルコース溶液(40g/dL)を適宜添加し、全血サンプル(Ht20、100mg/dL)、全血サンプル(Ht40、100mg/dL)、全血サンプル(Ht60、100mg/dL)、全血サンプル(Ht20、300mg/dL)、全血サンプル(Ht40、300mg/dL)、全血サンプル(Ht60、300mg/dL)を作製した。また、高濃度グルコース溶液未添加の各Ht全血サンプル1mLに対し、グルコースオキシダーゼ(東洋紡GLO−201)を0.1mg添加した。添加後5分間室温で放置し、全血サンプル(Ht20、0mg/dL)、全血サンプル(Ht40、0mg/dL)、全血サンプル(Ht60、0mg/dL)を作製した。
WO 2008/114622号公報 実施例2に記載の方法と同様にして合成された4−アミノ−1−(4−スルホフェニル)−2,3−ジメチル−5−ピラゾロン(カップラー試薬)0.016g、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)(トリンダー試薬 同仁化学)0.026g、グルコースオキシダーゼ(東洋紡GLO−201)0.056g、西洋ワサビペルオキシダーゼ(東洋紡PEO−302)0.043gを50mMのPBS 1mLに溶解させ、発色試薬溶液を作製した。
全血サンプル(Ht20、0mg/dL)、全血サンプル(Ht40、0mg/dL)、全血サンプル(Ht60、0mg/dL)、全血サンプル(Ht20、100mg/dL)、全血サンプル(Ht40、100mg/dL)、全血サンプル(Ht60、100mg/dL)、全血サンプル(Ht20、300mg/dL)、全血サンプル(Ht40、300mg/dL)、全血サンプル(Ht60、300mg/dL)100μLを、それぞれ、発色試薬溶液10μLと混合して、測定サンプル(Ht20、0mg/dL)、測定サンプル(Ht40、0mg/dL)、測定サンプル(Ht60、0mg/dL)、測定サンプル(Ht20、100mg/dL)、測定サンプル(Ht40、100mg/dL)、測定サンプル(Ht60、100mg/dL)、測定サンプル(Ht20、300mg/dL)、測定サンプル(Ht40、300mg/dL)、測定サンプル(Ht60、300mg/dL)を調製した。この測定サンプル(Ht20、0mg/dL)、測定サンプル(Ht40、0mg/dL)、測定サンプル(Ht60、0mg/dL)、測定サンプル(Ht20、100mg/dL)、測定サンプル(Ht40、100mg/dL)、測定サンプル(Ht60、100mg/dL)、測定サンプル(Ht20、300mg/dL)、測定サンプル(Ht40、300mg/dL)、測定サンプル(Ht60、300mg/dL)5μLを、それぞれ、ポリアクリルアミドゲル(invitrogen; NativePAGE 4−16% ビストリスゲル,1.0mm,10ウェル)にのせ、150Vで約5分間、電気泳動を行った。なお、電気泳動中、トリス(和光純薬)3.03g、グリシン(和光純薬)14.40gをミリQ水1Lでメスアップし、水酸化ナトリウムでpHを8.6に調整したものをカソードバッファーとして、トリス(和光純薬)12.11gをミリQ水1Lでメスアップし塩酸でpH7.8に調整したものをアノードバッファーとして用いた。
その結果を、図1に示す。なお、図1において、図1Aは、測定サンプル(Ht20、0mg/dL)、測定サンプル(Ht40、0mg/dL)、測定サンプル(Ht60、0mg/dL)、測定サンプル(Ht20、100mg/dL)、測定サンプル(Ht40、100mg/dL)、測定サンプル(Ht60、100mg/dL)、測定サンプル(Ht20、300mg/dL)、測定サンプル(Ht40、300mg/dL)、測定サンプル(Ht60、300mg/dL)をポリアクリルアミドゲルにのせた時点(電気泳動開始前)の電気泳動写真;図1Bは、電気泳動を開始してから4分後の電気泳動写真;および図1Cは、電気泳動を開始してから5分後の電気泳動写真である。
また、図1Cについて、画像解析ソフトであるscion imageを用いて血球の堆積高(血球が積み重なった高さ)を測定し、堆積高(血球が積み重なった高さ)とその測定サンプルのヘマトクリット値をプロットした。その関係を図2に示す。
図2に示されるように、堆積高(血球が積み重なった高さ)とヘマトクリット値とは直線関係(比例関係)を示す。これから、堆積高(血球が積み重なった高さ)によりヘマトクリット値を正確に測定できることが考察される。なお、各サンプルについて、3連で実験を行い、その結果を図2に示す。
また、図1に示されるように、電気泳動開始前は、血液と発色試薬とは混合状態で色素の吸光度を測定することはできない(図1A)ものの、電気泳動を開始すると、血球部分と発色色素とは速やかに分離した(図1B)。この画像より、各測定サンプルレーン下の発色色素量を画像解析ソフトであるscion imageを用いて定量化した。発色色素量の定量化は各発色色素バンドの輝度分布を測定し、その結果を積分することで求めた。定量化した各測定サンプルレーン下の発色色素量と各測定サンプルに含まれるグルコース量をプロットした。その関係を図3に示す。図3に示されるように、各測定サンプルレーン下の発色色素量と各測定サンプルに含まれるグルコース量は直線関係(比例関係)を示す。これから、各測定サンプルレーン下の発色色素量より、各測定サンプルに含まれるグルコース量を正確に測定できることが考察される。
これらのことから、本発明の方法によると、この各測定サンプルレーン下の発色色素量を測定し、別途求めたヘマトクリット値をこの血中成分濃度の測定値の補正に使用することにより、血中成分濃度を正確に算出できることが期待できる。