本発明の無機系繊維は平均繊維径2μm以下、平均繊維長100μm未満、かつ繊維長のCV値が0.7以下である。そのため、本発明の無機系繊維を用いれば、薄く、均一な物性を有する構造体を形成することができる。例えば、無機系繊維を薄膜化した高分子膜のフィラーとして使用しても、高分子膜表面から突出しにくいため、実用上問題のない高分子膜複合体としやすい。
本発明の無機系繊維の平均繊維径は2μm以下であるが、平均繊維径が小さければ小さい程、薄く、均一な物性を有する構造体を形成することができ、より薄膜化した高分子膜に対応できるなど、近年の軽薄短小化に対応できるため、平均繊維径は1μm以下であるのが好ましい。なお、平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.01μm程度が適当であり、0.05μm以上であるのが好ましい。本発明における「平均繊維径」は繊維50点における繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は繊維を撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、繊維の長さ方向に対して直交する方向における長さをいう。
また、本発明の無機系繊維は、従来の繊維切断装置では得ることのできなかった100μm未満という平均繊維長を有するため、薄く、均一な物性を有する構造体を形成することができる。例えば、従来は困難であった、厚さが100μm未満であるような、薄膜化した高分子膜のフィラーとして使用したとしても、高分子膜からフィラーが突出しにくいため、実用上問題なく使用しやすい。この平均繊維長は無機系繊維の使用用途によって変化するため、特に限定するものではないが、95μm以下であることができ、90μm以下であることができ、85μm以下であることができ、80μm以下であることができる。一方で、無機系繊維の平均繊維長の下限は特に限定するものではないが、0.1μmが適当である。本発明における「平均繊維長」は繊維50本における繊維長の算術平均値をいい、「繊維長」は繊維を撮影した500〜5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、繊維の長さ方向における長さをいう。
本発明の無機系繊維は上述のような平均繊維長を有するものであるが、繊維長のCV値が0.7以下と繊維長が揃っており、品質が安定している。そのため、薄く、均一な物性を有する構造体を形成することができる。例えば、薄膜化した高分子膜のフィラーとして使用した場合であっても、品質の安定した高分子膜を作製することができる。この繊維長のCV値が小さければ小さい程、繊維長が揃っていることを意味するため、繊維長のCV値は0.6以下であるのが好ましく、0.5以下であるのがより好ましく、0.4以下であるのが更に好ましく、0.3以下であるのが更に好ましく、理想としては0である。この繊維長のCV値は、繊維長の標準偏差を平均繊維長で除した値、つまり、(繊維長の標準偏差/平均繊維長)である。なお、「標準偏差」は平均繊維長測定時の繊維50本の繊維長から得られる値である。
なお、無機系繊維の状態としては、例えば、無機系ゲル状繊維、無機系乾燥ゲル状繊維、無機系焼結繊維がある。無機系ゲル状繊維とは、溶媒を含む状態の繊維であり、無機系乾燥ゲル状繊維とは、無機系ゲル状繊維中に含まれる溶媒などが抜けた多孔質の繊維であり、無機系焼結繊維とは、無機系乾燥ゲル状繊維が焼結した繊維である。無機系繊維の中でも無機系焼結繊維は、剛性及び強度に優れているため、各種用途に適用することができる。
また、無機系繊維の無機成分も特に限定するものではないが、次に例示するような元素の酸化物であることができる。
(元素)リチウム、ベリリウム、ホウ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなど。
より具体的には、SiO2、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、CeO2、FeO、Fe3O4、Fe2O3、VO2、V2O5、SnO2、CdO、LiO2、WO3、Nb2O5、Ta2O5、In2O3、GeO2、PbTi4O9、LiNbO3、BaTiO3、PbZrO3、KTaO3、Li2B4O7、NiFe2O4、SrTiO3などを挙げることができる。なお、前記無機成分は、一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていても良い。例えば、SiO2−Al2O3のニ成分から構成されていても良い。
なお、無機系繊維をマトリックス樹脂との複合体のフィラーとして使用するような場合には、無機系繊維とマトリックス樹脂との親和性を高めるために、無機系繊維表面がシランカップリング剤などの表面処理剤によって、改質されているのが好ましい。
このような本発明の無機系繊維は、例えば、静電紡糸法により、平均繊維径2μm以下の無機系繊維からなる無機系繊維シートを形成した後、無機系繊維シートをプレス機で加圧して、平均繊維長100μm未満、かつ繊維長のCV値が0.7以下となるように粉砕して製造することができる。
より具体的には、静電紡糸法により、平均繊維径2μm以下の無機系繊維からなる無機系繊維シートを形成する。静電紡糸法によれば、平均繊維径2μm以下と細く、平均孔径が小さく、しかも孔径の揃った無機系繊維シートを形成できる。つまり、平均孔径が小さく、しかも孔径が揃っているということは、無機系繊維同士の交差点間の距離が短く、かつ交差点間の距離が揃っていることを意味する。
この点について、静電紡糸法により形成した無機系繊維シートにおける無機系繊維の配置状態を模式的に表す平面図である図1と、静電紡糸法以外の方法により形成した無機系繊維シートにおける無機系繊維の配置状態を模式的に表す平面図である図2をもとに説明すると、静電紡糸法によれば、図1に示すように、平均孔径が小さく、かつ孔径の揃った無機系繊維シートを形成できるため、無機系繊維同士の交差点間の距離が短く、かつ交差点間の距離が揃っている。例えば、繊維同士の交差点であるc5を基準として見た場合、c5に隣接する無機系繊維同士の交差点であるb5、c4、c6及びd4との距離は比較的短く、しかも距離がほぼ同じである。これに対して、静電紡糸法以外の方法により形成した無機系繊維シートは、図2に示すように、孔径のバラツキが大きい。例えば、繊維同士の交差点であるC5を基準として見た場合、C5に隣接する無機系繊維同士の交差点であるB5、C4、C6及びD4との距離はバラツキが大きい。
この静電紡糸法は紡糸原液に対して電界を作用させることにより、紡糸原液を延伸し、繊維化する方法である。静電紡糸法について、特開2005−194675号公報に開示の静電紡糸装置の模式的断面図である図3をもとに、簡単に説明する。
図3の静電紡糸装置は、紡糸原液をノズル2へ供給できる紡糸原液供給装置1、紡糸原液供給装置1から供給された紡糸原液を吐出するノズル2、ノズル2から吐出され、電界によって延伸された無機系繊維を捕集するアースされた捕集体3、ノズル2とアースされた捕集体3との間に電界を形成するために、ノズル2に電圧を印加できる電圧印加装置4、ノズル2と捕集体3とを収納した紡糸容器6、紡糸容器6へ所定相対湿度の気体を供給できる気体供給装置7、及び紡糸容器6内の気体を排気できる排気装置8を備えている。
このような静電紡糸装置の場合、紡糸原液は紡糸原液供給装置1によってノズル2へ供給される。この供給された紡糸原液はノズル2から吐出されるとともに、アースされた捕集体3と電圧印加装置4によって印加されたノズル2との間の電界による延伸作用を受け、繊維化しながら捕集体3へ向かって飛翔する。そして、この飛翔した無機系繊維は直接、捕集体3上に集積し、無機系繊維シートを形成する。
なお、紡糸原液としては、無機系繊維を紡糸できるように、無機系ゾル溶液を使用するのが好ましい。この無機系ゾル溶液は、最終的に得られる無機系繊維を構成する元素を含む化合物を含む溶液(原料溶液)を、100℃以下程度の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えば、アルコール)及び/又は水であることができる。
この化合物を構成する元素は特に限定するものではないが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
前記の化合物としては、例えば、前記元素の酸化物を挙げることができ、具体的には、SiO2、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、CeO2、FeO、Fe3O4、Fe2O3、VO2、V2O5、SnO2、CdO、LiO2、WO3、Nb2O5、Ta2O5、In2O3、GeO2、PbTi4O9、LiNbO3、BaTiO3、PbZrO3、KTaO3、Li2B4O7、NiFe2O4、SrTiO3などを挙げることができる。前記無機成分は、一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていても良い。例えば、SiO2−Al2O3のニ成分から構成されていても良い。
この無機系ゾル溶液は、静電紡糸できるように、粘度が0.01〜10Pa・sであるのが好ましく、0.05〜5Pa・sであるのがより好ましく、0.1〜3Pa・sであるのが更に好ましい。粘度が10Pa・sを超えると平均繊維径が2μm以下の無機系繊維を紡糸することが困難となり、0.01Pa・s未満になると繊維形状自体が得られなくなる傾向があるためである。なお、ノズルを使用する場合には、ノズル先端部分における雰囲気を原料溶液の溶媒と同様の溶媒ガス雰囲気とすることにより、10Pa・sを超える無機系ゾル溶液であっても紡糸可能な場合がある。
この無機系ゾル溶液は上述のような無機成分以外に、有機成分を含んでいることもできる。例えば、シランカップリング剤、染料などの有機低分子化合物、ポリメチルメタクリレートなどの有機高分子化合物などを挙げることができる。より具体的には、前記原料溶液に含まれる化合物がシラン系化合物である場合には、メチル基やエポキシ基で有機修飾されたシラン系化合物が縮重合したものを含んでいることができる。
前記原料溶液は、前記原料溶液に含まれる化合物を安定化する溶媒[例えば、有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド)又は水]、前記原料溶液に含まれる化合物を加水分解するための水、及び加水分解反応を円滑に進行させる触媒(例えば、塩酸、硝酸など)を含んでいることができる。また、前記原料溶液は、例えば、化合物を安定化させるキレート剤、前記化合物の安定化のためのシランカップリング剤、圧電性などの各種機能を付与することができる化合物、透明性、接着性改善、柔軟性、硬度(もろさ)調整のための有機化合物(例えば、ポリメチルメタクリレート)、ヒドロキシアパタイトなどの細胞親和性のある無機成分、あるいは染料などの添加剤を含んでいることができる。なお、これらの添加剤は、加水分解を行う前、加水分解を行う際、或いは加水分解後に添加することができる。
また、前記原料溶液は、無機系又は有機系の微粒子を含んでいることができる。前記無機系微粒子としては、例えば、酸化チタン、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化珪素、活性炭、金属(例えば、白金)を挙げることができ、有機系微粒子として、色素又は顔料などを挙げることができる。また、微粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.001〜1μm、より好ましくは0.002〜0.1μmである。このような微粒子を含んでいることによって、光学機能、多孔性、細胞親和性、触媒機能、タンパク質吸着機能、或いはイオン交換機能などを付与することができる。
原料溶液に含まれる化合物を加水分解するための水は原料によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、テトラエトキシシランの場合、水の量がアルコキシドの4倍(モル比)を超えると曳糸性のゾル溶液を得ることが困難になるため、アルコキシドの4倍以下であるのが好ましい。
なお、触媒として塩基のみを使用すると、曳糸性のゾル溶液を得ることが困難になるため、塩基のみを使用しないのが好ましい。
また、反応温度は使用溶媒の沸点未満であれば良いが、低い方が、適度に反応速度が遅く、曳糸性のゾル溶液を形成しやすい。あまり低すぎても反応が進行しにくいため、10℃以上であるのが好ましい。
なお、紡糸原液供給装置1としては、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ、ディスペンサ等を使用することができる。また、ノズル2に替えて、ノコギリ状歯車、ワイヤー、スリットなどを使用することもできる。更に、図3における捕集体3はドラム形態であるが、コンベア形態であっても良い。更に、図3においては、捕集体3がアースされているが、ノズル2をアースし、捕集体3に対して電圧を印加しても良いし、ノズル2と捕集体3のいずれに対しても電圧を印加するものの、電位差を有するように電圧を印加しても良い。
更に、電圧印加装置4としては、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を用いることができ、空気の絶縁破壊を生じることなく、紡糸原液を紡糸して繊維化できるように、電界強度が0.2〜5kV/cmとなるように印加するのが好ましい。また、印加する電圧の極性はプラスとマイナスのいずれであっても良いが、無機系繊維の拡がりを抑制し、無機系繊維が均一に分散し、孔径が揃った無機系繊維シートを製造できるように、紡糸原液の特性に合わせて適宜、極性を選択する。
図3の静電紡糸装置においては、紡糸容器6に気体供給装置7(例えば、プロペラファン、シロッコファン、エアコンプレッサー、温湿度調整機能を備えた送風機など)及び排気装置8(例えば、ファン)が接続されているため、紡糸容器6内の雰囲気を一定にすることができるため、繊維径の揃った無機系繊維シートを製造することができる。
このように静電紡糸法により形成した無機系繊維シートは、無機系ゾル溶液がゲル化した無機系ゲル状繊維の状態にある。無機系繊維シートの剛性や強度を高めるため、また、無機系繊維シートの取り扱い性を高めるため、更には、繊維長の揃った無機系繊維を製造しやすいように、熱処理を実施して、無機系乾燥ゲル状繊維又は無機系焼結繊維とするのが好ましい。この熱処理は、例えば、オーブン、焼結炉等を用いて実施することができ、その温度、時間は無機系繊維を構成する無機成分によって適宜設定し、無機系乾燥ゲル状繊維又は無機系焼結繊維とする。
次いで、この無機系繊維シートをプレス機により加圧し、平均繊維長100μm未満、かつ繊維長のCV値が0.7以下となるように粉砕して、本発明の無機系繊維を製造することができる。つまり、静電紡糸法により形成した無機系繊維シートは、前述の通り、平均繊維径2μm以下と細く、平均孔径が小さく、しかも孔径の揃った、無機系繊維同士の交差点間の距離が短く、かつ交差点間の距離が揃った状態にあるため、この状態の無機系繊維シートに対して、無機系繊維の配向を変動させないように、プレス機により加圧すると、無機系繊維同士の交差点が強く加圧され、無機系繊維は剛性が高く、変形しにくいことも相俟って、無機系繊維同士の交差点で破断されやすいため、繊維長が短く、かつ繊維長の揃った無機系繊維を製造できる。つまり、無機系繊維同士の交差点は無機系繊維同士が重なって、微視的には、無機系繊維シートの厚さが厚くなった箇所に相当するため、プレス機による圧力は無機系繊維同士の交差点に対して優先的に作用する。したがって、繊維長が短く、かつ繊維長の揃った無機系繊維を製造できる。
この点について、静電紡糸法により形成した無機系繊維シートにおける無機系繊維の配置状態を模式的に表す平面図である図1と、静電紡糸法以外の方法により形成した無機系繊維シートにおける無機系繊維の配置状態を模式的に表す平面図である図2をもとに説明すると、例えば、図1における、繊維同士の交差点a1〜a3、b1〜b5、c1〜c6、d1〜d6及びe1〜e5では、2本の無機系繊維が交差した状態にあるため、交差していない箇所と比較すると、約2倍の厚さを有する。そのため、図1の無機系繊維シートに対してプレス機により加圧すると、繊維同士の交差点a1〜a3、b1〜b5、c1〜c6、d1〜d6及びe1〜e5に対して優先的に圧力が加わり、無機系繊維の剛性も相俟って、繊維同士の交差点a1〜a3、b1〜b5、c1〜c6、d1〜d6及びe1〜e5で無機系繊維が破断する。そのため、平均繊維長が短く(100μm未満)、繊維長のCV値の揃った(0.7以下)無機系繊維を製造することができる。
これに対して、図2における、静電紡糸法以外の方法により形成した無機系繊維シートも同様に、繊維同士の交差点A1〜A3、B1〜B5、C1〜C7、D1〜D6及びE1〜E5では、2本の無機系繊維が交差した状態にあるため、交差していない箇所と比較すると、約2倍の厚さを有する。そのため、図2の無機系繊維シートに対してプレス機により加圧すると、繊維同士の交差点A1〜A3、B1〜B5、C1〜C7、D1〜D6及びE1〜E5に対して優先的に圧力が加わり、無機系繊維の剛性も相俟って、繊維同士の交差点A1〜A3、B1〜B5、C1〜C7、D1〜D6及びE1〜E5で無機系繊維が破断する。そのため、繊維長のCV値の揃った(0.7以下)無機系繊維を製造することができない。
なお、プレス機によりプレスする際の加圧力は、平均繊維径2μm以下、平均繊維長100μm未満、かつ繊維長のCV値が0.7以下の無機系繊維を製造することができる限り、特に限定するものではなく、実験により、加圧力と繊維長及び繊維長のCV値を確認し、適切な加圧力を選択する。
図1、2においては、無機系繊維シートにおける無機系繊維の配置状態を模式的に表しており、無機系繊維同士の交差点が2本の無機系繊維が交差した状態を表しているが、実際には、3本の無機系繊維が交差した交差点もあれば、4本以上の無機系繊維が交差した交差点もあるため、交差点によって、厚さが異なる。そのため、無機系繊維の交差数の多い交差点ほど、強い圧力が作用するため、弱い圧力を作用させた場合には、無機系繊維の交差数の多い交差点で無機系繊維が粉砕し、作用させる圧力を強くするにしたがって無機系繊維の交差数の少ない交差点で無機系繊維が粉砕することになる。そのため、作用させる圧力によって、ある程度、無機系繊維の繊維長を制御できるという特長がある。また、静電紡糸法によれば、ある程度繊維径の揃った無機系繊維を紡糸できる。そのため、本発明の製造方法によれば、アスペクト比(繊維長/繊維径)を制御できるという特長がある。
このような本発明の無機系繊維は繊維シート構成繊維として使用することができる。上述の通り、本発明の無機系繊維は平均繊維径が2μm以下と細く、平均繊維長が100μm未満と従来の切断装置では得ることのできなかった平均繊維長であるにもかかわらず、繊維長のCV値が0.7以下と繊維長が揃った無機系繊維であるため、この無機系繊維を含む繊維シートは薄く、均一な物性を有する繊維シートであることができる。
なお、繊維シートの形態は特に限定するものではないが、例えば、不織布形態、織物形態、編物形態、ネット形態などであることができる。このような繊維シートは常法により製造することができるが、不織布形態の場合、湿式法により繊維ウエブを形成した後、バインダー接着することにより製造することができる。
なお、バインダーとしては、無機系繊維を構成する元素を含む化合物と同様のものを使用できるが、無機系繊維を接着できる限り、無機系繊維の紡糸に使用した無機系ゾル溶液と同じであっても異なっていてもよい。例えば、バインダーとして使用する無機系ゾル溶液は曳糸性である必要はなく、曳糸性がなくてもよい。また、バインダー中に有機粒子又は無機粒子が含まれていてもよい。更に、バインダーは無機系繊維の紡糸に使用した無機系ゾル溶液を希釈したものであってもよい。特には、金属アルコキシド加水分解縮合物であるのが好ましい。
このバインダーの繊維ウエブへの付与は、例えば、繊維ウエブにバインダーを塗布又は散布する方法、或いは繊維ウエブをバイダー浴中に浸漬し、含浸する方法などを挙げることができる。なお、このような無機系ゾルバインダーを付与した場合には、付与後に焼成して、バインダーを無機化するのが好ましい。
また、本発明の無機系繊維はマトリックス樹脂と複合して、複合体の補強材として使用することができる。前述の通り、本発明の無機系繊維は平均繊維径が2μm以下と細く、平均繊維長が100μm未満と従来の切断装置では得ることのできなかった平均繊維長であるにもかかわらず、繊維長のCV値が0.7以下と繊維長が揃った無機系繊維であるため、この無機系繊維を含む複合体は均一な物性を有するものである。
なお、複合体の形態は用途によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、繊維状形態、シート状形態、直方体、円柱、角柱、円錐、角錐などの立体的形態であることができる。特に、本発明の無機系繊維は細く、平均繊維長が短いため、厚さ100μm未満の薄膜化した高分子膜であっても、無機系繊維が表面から突出しにくいため、実用上問題のない複合高分子膜としやすい。
このような複合体は常法により製造することができる。例えば、無機系繊維とマトリックス樹脂とを混合し、成形して製造することができる。なお、複合体中における無機系繊維及びマトリックス樹脂の含有量、その比率等は用途によって異なるため、特に限定するものではない。
このマトリックス樹脂も複合体の用途によって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、複合体をフレキシブル回路基板用基材として使用する場合には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、イソシアネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、マレイミド樹脂などの熱硬化性樹脂、これら熱硬化性樹脂を適宜2種類以上、配合及び/又は反応させてなる熱硬化性樹脂組成物、更に前記熱硬化性樹脂1種又はそれ以上をポリビニルブチラール、アクリロニトリル−ブタジエンゴム又は多官能性アクリレート化合物や添加剤等で変性したもの、架橋ポリエチレン、架橋ポリエチレン/エポキシ樹脂、架橋ポリエチレン/シアナート樹脂、ポリフェニレンエーテル/シアナート樹脂、その他の熱可塑性樹脂で変性した架橋硬化性樹脂(IPN又はセミIPN)を用いてなるもの、などを挙げることができる。
また、複合体をイオン伝導材として使用する場合のマトリックス樹脂としては、パーフルオロスルホン酸、金属イオンを含有するポリエチレンオキシドゲルなどを挙げることができる。更に、用途によって、低誘電率樹脂、高誘電率樹脂、イオン交換樹脂、ホール及び電子伝導性樹脂、有機半導体、紫外線硬化性樹脂、シリコーンゴム又はゲル、導電性や研磨性などを有する超微粒子複合樹脂、ポリエチレンワックス等の低強度樹脂、ウレタンフォーム、圧電性高分子、圧電性無機粒子を含む複合圧電性樹脂などをマトリックス樹脂として使用することができる。
以下、具体例によって本発明を説明するが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
<実施例1>
オルトケイ酸テトラエチル、水及び塩酸を1:2:0.0025のモル比で混合し、温度80℃で15時間加熱撹拌した。そして、エバポレータにより、シリカ濃度が44wt%になるまで濃縮した後、粘度が200〜300mPa・sになるまで増粘させて、シリカゾル溶液を得た。
その後、前記シリカゾル溶液を用い、次の紡糸条件で紡糸した後、次の焼成条件で焼成して、平均繊維径1μmのシリカ繊維シート(目付:26.0g/m2)を得た。
(紡糸条件)
・ノズルからの吐出量:1g/時間
・ノズル先端とドラム捕集体との距離:10cm
・紡糸容器内の温湿度:25℃/30%RH
・ノズルへの印加電圧:+10kV
(焼結炉での焼成条件)
・800℃/2時間
次いで、このシリカ繊維シートを約1g量取り、シリカ繊維シートを重ねて 1.5cmの厚さとした後、プレス機により、2MPaの圧力で30秒間加圧することにより粉砕して、平均繊維径1μm、平均繊維長99.2μm、繊維長のCV値0.186の無機系焼結繊維(アスペクト比:99)を作製した。
<実施例2>
実施例1と同様に作製したシリカ繊維シート(目付:26.0g/m2)を約1g量取り、シリカ繊維シートを重ねて1.5cmの厚さとした後、プレス機により、10MPaの圧力で30秒間加圧することにより粉砕して、平均繊維径1μm、平均繊維長10μm、繊維長のCV値0.266の無機系焼結繊維(アスペクト比:10)を作製した。
<実施例3>
ジルコニウムテトラノルマルブトキシド[Zr(OnBu)4]、アセト酢酸エチル、塩化ヒドラジニウム、水を1:1.75:0.02:1.5のモル比で混合し、室温下3日間攪拌した。そして、エバポレータにより、ジルコニア濃度が30wt%になるまで濃縮した後、粘度が2100〜2700mPa・sになるまで増粘させて、ジルコニアゾル溶液を得た。
その後、前記ジルコニアゾル溶液を用い、次の紡糸条件で紡糸した後、次の焼成条件で焼成して、平均繊維径500nmのジルコニア繊維シート(目付:17.4g/m2)を得た。
(紡糸条件)
・ノズルからの吐出量:1g/時間
・ノズル先端とドラム捕集体との距離:10cm
・紡糸容器内の温湿度:25℃/30%RH
・ノズルへの印加電圧:+30kV
(焼結炉での焼成条件)
・800℃/2時間
次いで、このジルコニア繊維シートを約1g量取り、ジルコニア繊維シートを重ねて1.5cmの厚さとした後、プレス機により、0.1MPaの圧力で1秒間加圧することにより粉砕して、平均繊維径500nm、平均繊維長94.0μm、繊維長のCV値0.289の無機系焼結繊維(アスペクト比:188)を作製した。
<実施例4>
実施例1と同様にして得たシリカゾル溶液を用い、次の紡糸条件で紡糸した後、次の焼成条件で焼成して、平均繊維径200nmのシリカ繊維シート(目付:13.0g/m2)を得た。
(紡糸条件)
・ノズルからの吐出量:0.2g/時間
・ノズル先端とドラム捕集体との距離:5cm
・紡糸容器内の温湿度:25℃/20%RH
・ノズルへの印加電圧:+10kV
(焼結炉での焼成条件)
・800℃/2時間
次いで、このシリカ繊維シートを約1g量取り、シリカ繊維シートを重ねて 1.5cmの厚さとした後、プレス機により、13MPaの圧力で30秒間加圧することにより粉砕して、平均繊維径200nm、平均繊維長10μm、繊維長のCV値0.164の無機系焼結繊維(アスペクト比:50)を作製した。
<比較例1>
実施例1と同様にして作製したシリカ繊維シートを自動乳鉢を用いて粉砕した。つまり、シリカ繊維シート1gを量り取り、水を適量加え、自動乳鉢を用いて、2時間粉砕して、平均繊維径1μm、平均繊維長28.2μm、繊維長のCV値1.27の無機系焼結繊維(アスペクト比:28.2)を作製した。
<比較例2>
実施例1と同様にして作製したシリカ繊維シートを自動乳鉢を用いて粉砕した。つまり、シリカ繊維シート1gを量り取り、水を適量加え、自動乳鉢を用いて、4時間粉砕して、平均繊維径1μm、平均繊維長29.2μm、繊維長のCV値0.73の無機系焼結繊維(アスペクト比:29.2)を作製した。
<比較例3>
実施例1と同様にして作製したシリカ繊維シートをボールミルを用いて粉砕しようとしたが、粉砕することができなかった。つまり、ボールミルにおける容器空間割合が、シリカ繊維シート、ボール及び隙間を1:1:1とし、ジルコニア製ボールミル(直径:3mm、重量:100g)を約180回転/分で、2時間回転させたが、シリカ繊維シートを粉砕し、無機系焼結繊維を作製することができなかった。