JP5990000B2 - Maldi質量分析法用測定試料調製方法 - Google Patents
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Description
しかし、意外にもマトリックス溶液の冷却によって該混合結晶の不均一性は増大せず、スイートスポットの形成を温度条件のみの設定で制御することが可能であり、スイートスポットの形成を制御することで、プレスキャンをしなくても、マニュアル測定であっても、質の高いマススペクトルを取得することが可能となることを見出して本発明に至った。
[1]MALDI質量分析法において、測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させ、該混合結晶のうちの特定の多形構造を利用してイオン化効率を高めることを特徴とするMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
[2]MALDI質量分析法において、測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の結晶化条件を制御し、該混合結晶のうちスイートスポットとなり得る特定の多形構造を形成させ、スイートスポットとなり得る特定の多形構造を利用してイオン化効率を高めることを特徴とする[1]に記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
[3]該マトリックスが、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)であり、スイートスポットとなり得る多形構造が準安定結晶β晶であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
[4]MALDI質量分析法において、測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の温度条件を制御することによって、該混合結晶のうちスイートスポットとなり得る特定の多形構造を形成させることを特徴とする[1]ないし[3]の何れかに記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
[5]MALDI質量分析法において、試料支持部材上に測定対象分子を含む試料を載せた後にマトリックス溶液を載置し、又は試料支持部材上に測定対象分子を含む試料とマトリックス溶液を同時に載置し、該溶液を乾燥させて該試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の温度条件を制御し、該混合結晶のうちスイートスポットとなり得る特定の多形構造を形成させることを特徴とする[1]ないし[4]の何れかに記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
[6]該マトリックスが、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)であり、測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の温度を、マトリックス溶液の凝固点以上15℃以下の範囲に設定することを特徴とする[1]ないし[5]の何れかに記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
[7]MALDI質量分析法において、測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際、試料支持部材の温度を、マトリックス溶液の凝固点以上15℃以下の範囲に設定することを特徴とする[1]ないし[6]の何れかに記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
[8]測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の溶媒が、水及び/又はアセトニトリルであることを特徴とする[1]ないし[7]の何れかに記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
[9]試料支持部材上に測定対象分子を含む試料を載せた後であって、マトリックス溶液を載置する前に、測定対象分子と反応することによってイオン化効率を高める誘導体化剤の溶液を該試料支持部材上に滴下して乾燥する工程を挿入することを特徴とする[1]ないし[8]の何れかに記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
[10][1]ないし[9]の何れかに記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法を使用して調製されたMALDI質量分析法用測定試料を用いてイオン化効率を高めることを特徴とするMALDI質量分析法。
マトリックスはレーザーの光エネルギーを吸収して、共存する測定対象分子の脱離及びイオン化を達成する物質であれば限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
acid)、3−アミノキノリン(3-Aminoquinoline)、2−ヒドロキシ−5−メトキシ安息香酸(2-Hydroxy-5-methoxybenzoic acid)、2,5−ジメトキシ安息香酸(2,5-Dimethoxybenzoic acid)、4,7−フェナントロリン(4,7-Phenanthroline)、p−クマル酸(p-Coumaric acid)、1−イソキノリノール(1-Isoquinolinol)、2−ピコリン酸(2-Picolinic acid)、1−ピレンブタン酸ヒドラジド(1-Pyrenebutanoic acid, hydrazide)(PBH)、1−ピレンブタン酸(1-Pyrenebutyric acid)(PBA)、1−ピレンメチルアミンハイドロクロライド(1-Pyrenemethylamine hydrochloride)(PMA)。
本発明のMALDI質量分析法用測定試料の調製方法において、該測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を作製する方法には、特に限定はないが、例えば、好ましい方法として、以下の(1)法〜(3)法が挙げられる。
(1)試料支持部材上に測定対象分子を含む試料を載せた後に、乾燥後又は乾燥する前にマトリックス溶液を載置し、次いで、該溶液を乾燥させて、該混合結晶を析出させる方法。
(2)試料支持部材上に測定対象分子を含む試料とマトリックス溶液を同時に載置し、次いで、該溶液を乾燥させて、該混合結晶を析出させる方法。
(3)試料支持部材上に該マトリックス溶液を載置し、次いで該溶液を乾燥させ該マトリックスの結晶を析出させた後、同一又は異なる化学構造を有するマトリックスと測定対象分子を含む溶液を重層し、次いで該溶液を乾燥させて混合物を生成させる方法。
(1)試料支持部材上に測定対象分子を含む試料を載せた後にマトリックス溶液を載置し、又は、
(2)試料支持部材上に測定対象分子を含む試料とマトリックス溶液を同時に載置し、次いで、該溶液を乾燥させて、該混合結晶を析出させる方法、である。
上記(1)法は、本発明において特に好適な方法であり、測定対象分子を含む試料を先に試料支持部材上に存在させ、次いで、マトリックス溶液(好ましくは実質的にマトリックスのみを溶解した溶液)を、該試料に重層し、試料を溶解させながら、試料支持部材(以下、「プレート」と略記することがある)上で乾燥させて、結晶を析出させる測定試料の調製方法である。
(A)測定対象分子を含む試料の溶液をプレート上で乾燥する工程と、その後に、
(B)マトリックスのみを溶媒に溶解した溶液を、上記プレートに滴下する工程
(1)法においては、上記工程(A)と工程(B)の間に、
(C)測定対象分子と反応することによってイオン化効率を高める誘導体化剤の溶液を、上記プレート上に滴下して乾燥する工程
を行なうことが、イオン化効率を更に高めるために好ましい。
(2)試料支持部材上に測定対象分子を含む試料とマトリックス溶液を同時に載置し、該溶液を乾燥させて、試料支持部材上に該混合結晶を析出させる方法も好ましい。かかる(2)法の測定試料の調製方法は、「Dried Droplet法」として知られているものである。(1)の調製方法で、試料支持部材上に測定対象分子を含む試料を載せた後に、乾燥する前にマトリックス溶液を載置する方法も同様である。
本発明のMALDI質量分析法用測定試料の調製方法において、「該測定対象分子を含む試料」とマトリックスとの混合結晶を作製する方法は特に限定はなく、何れの方法においても、測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の結晶化条件を制御することによって、スイートスポットとなり得る特定の多形構造を形成させることが好ましい。該混合結晶のうちスイートスポットとなり得る特定の多形構造の形成を促進させる。
「混合結晶を析出させる際の温度」とは、何れの「測定試料の調製方法」においても、プレート上で析出直前及び/又はプレート上で析出中の溶液の温度をいう。
すなわち、上記の温度範囲であると、DHBAの飽和溶解度が温度に依存して低下し、マトリックス結晶化の駆動力となる濃度勾配が大きくなり、DHBA溶液が不安定な高エネルギー状態となって、DHBAの結晶化が速度論的に進行するために、スイートスポットとなり得る準安定型の多形構造の結晶核が数多く形成される。
準安定型の多形構造の結晶核が多数形成されると、生成したDHBA結晶の核と測定対象分子が相互作用することによって、マトリックス結晶中に取り込まれる対象分子が増加する。特に、イオン化効率が低い対象分子の場合には、マトリックス結晶の表面に吸着しているのみではイオン化されず、結晶内部に取り込まれている必要がある。対象分子は、結晶の成長段階では結晶内部に取り込まれ難い。
本発明で用いられるマトリックスの種類は特に限定はなく、MALDI質量分析法に用いられるマトリックスならば何れも用いられるが、特に針状に結晶化する物質は、結晶化の際の温度を低温に保つことによって、スイートスポットになり得る特定の結晶構造への測定試料の取り込みが促進されるため、本発明に好適に使用できる。
本発明は、該マトリックスが、針状に結晶化する物質であることを特徴とする上記のMALDI質量分析法用測定試料調製方法でもある。
中でも、マトリックスとして最も好ましくは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)である。
本発明のMALDI質量分析法が適用される測定対象分子は特に限定はないが、生体由来の分子又は生体試料中の分子であることが好ましく、具体的には、糖、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、核酸、糖脂質等であることが、本発明の効果をより発揮できるので好ましい。「測定対象分子」としては、天然物から調製されるもの、天然物を化学的又は酵素学的に一部改変して調製されるものの他、化学的又は酵素学的に調製されるものも好ましい。また、生体に含まれる分子の部分構造を有するものや生体に含まれる分子を模倣して作製されたものも好ましい。また、プレートに載せる前に、すでに誘導体化がなされていてもよい。
イオン化に用いられるレーザーとしては、窒素レーザー(337nm)、YAGレーザー3倍波(355nm)、NdYAGレーザー(256nm)、炭酸ガスレーザー(2940nm)等が挙げられるが、窒素レーザーが好ましい。イオンの分離検出方法は特に限定はなく、二重収束法、四重極集束法(四重極(Q)フィルター法)、タンデム型四重極(QQ)法、イオントラップ法、飛行時間(TOF)法等を用いて、イオン化した分子を質量/電荷比(m/z)に従って分離し検出する。好ましくは、QIT−TOFである。
本発明において、準安定結晶β晶の部分に優れたスイートスポットが存在する作用・原理は明確ではないが、以下のようにも考えられる。ただし、本発明は、以下の作用・原理の及ぶ範囲に限定されるものではない。
すなわち、スイートスポットとなる「測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶」の中では、測定対象分子が効率的に脱離・イオン化するために好ましい状態で取り込まれていると考えられる。特に、マトリックス結晶化の初期に結晶核ができる際に、マトリックス溶液の温度をより低く設定すると、マトリックス結晶核の生成が促進され、準安定結晶β晶が広範囲に一斉に結晶化し、スイートスポットの形成に好ましい影響を与えるためと考えられる。
<プレート上で、23℃で乾燥、安定結晶α晶と準安定結晶β晶を検出>
まず、シリコン基板に金を蒸着させた金基板プレート(試料支持部材)に、測定対象分子である糖ペプチド1(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、500fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、室温(23℃)、大気圧下で放置し乾燥させた。
<密閉容器内で、4℃で析出、準安定結晶β晶であることを確認>
高純度マトリックスDHBA(LaserBio Labs製)200mgにアセトニトリルを3mL加え、50℃に加熱し溶解させた。不溶物質を熱時濾去した後、溶液を密閉容器に入れ4℃に冷却し、30分間静置した後、析出した針状の白色結晶を濾取し、アセトニトリルにより洗浄した。室温下で乾燥し、結晶性物質を得た。
なお、試料支持部材上でも、温度条件を同じにすれば、密閉容器内と同様の結晶構造が得られ易いと考えられる。
<密閉容器内で、4℃で析出、準安定結晶β晶であることを確認>
高純度マトリックスDHBA(LaserBio Labs製)200mgにクロロホルムとアセトンを体積比3:1で混合させた溶媒6mLを加え、50℃に加熱し溶解させた。不溶物質を熱時濾去した後、溶液を密閉容器に入れ4℃に冷却し、30分間静置した後、析出した針状の白色結晶を濾取し、母液と同一の組成の溶媒により洗浄した。室温下で乾燥し、針状の結晶性物質を得た。
粉末X線回折測定装置には、島津製作所製 XRD−6100を使用し、X線源としてはCuKα線を用い、以下の測定条件で実施した。
ステップ幅:0.02deg
スキャンスピード:2.0deg/min
加速電圧:40kV
加速電流:40mA
走査範囲:5〜50deg
よって、前記「準安定結晶β晶」は、非特許文献3に「Disordered」と示される結晶構造を有するものである。
<密閉容器内で、25℃で析出、安定結晶α晶であることを確認>
高純度マトリックスDHBA(LaserBio Labs製)200mgにアセトニトリルを3mL加え、50℃に加熱し溶解させた。不溶物質を熱時濾去した後、溶液を密閉容器に入れ室温下の25℃にて一昼夜静置し、析出した板状の白色結晶を濾取し、アセトニトリルにより洗浄した。室温下で乾燥し、結晶性物質を得た。
よって、前記「安定結晶α晶」は、非特許文献1に「Ordered」と示される結晶構造を有するものである。
試料支持部材上でも、温度条件を同じにすれば、密閉容器内と同様の結晶構造が得られ易いと考えられる。
<プレート上で、15℃で乾燥、準安定結晶β晶を優先的に調製>
まず、質量分析用プレート(試料支持部材)に、測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、室温(23℃)、大気圧下で放置し乾燥させた。
<プレート上で、23℃で乾燥、安定結晶α晶と準安定結晶β晶を検出>
実施例2と同様に、測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、乾燥させ、PDAMによる誘導体化を行った後、キシレン(SIGMA社製)に浸し余剰のPDAMを除去し十分に乾燥させた。DHBA溶液を滴下するまでは、実施例2と同様の操作を行った。
図12(a)と(b)のマススペクトルを比較すると、測定対象分子のシグナル強度は明らかに図12(a)の方が2倍程度高く良好である。更に、図13(a)と(b)を比較すると、何れの場合においても、円周上の根元からシグナルが得られる傾向があるが、明らかに図13(a)の方が検出されたポイント数が多かった。すなわち、実施例2で作製した測定試料は円周上にある大部分の結晶から良好なシグナルが得られるが、比較例2で作製した測定試料は、結晶のごく一部からしかシグナルが生じていなかった。
<プレート上で、25℃で乾燥、安定結晶α晶を優先的に調製>
実施例2と同様に測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、乾燥させ、PDAMによる誘導体化を行った後、キシレン(SIGMA社製)に浸し余剰のPDAMを除去し十分に乾燥させた。DHBA溶液を滴下するまでは、実施例2と同様の操作を行った。
<PDAMラベルあり/プレート冷却/マトリックス溶液冷却>
まず、質量分析用プレート(試料支持部材)に、測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、室温(23℃)、大気圧下で放置し乾燥させた。
<PDAMラベルあり/プレート室温/マトリックス溶液室温>
実施例2と同様に、測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、乾燥させ、標識試薬PDAMを用いて反応させ、洗浄を行った。DHBA溶液を滴下するまでは、実施例3と同様の操作を行った。
図15(a)と図15(b)のマススペクトルを比較すると、測定対象分子のシグナル強度は明らかに図15(a)の方が3倍程度高く良好である。更に、図17(a)と図17(b)を比較すると、何れの場合においても、試料支持部材の円周に沿って結晶の根元部分からシグナルが得られる傾向があるが、図17(a)の場合には明らかに検出ポイント数が多かった。すなわち、実施例3で作製した測定試料は、良好なシグナルが得られる大半の結晶の根元部分が試料支持部材の円周に沿って形成されており、該結晶部分にレーザー照射することによっても短時間で良好なシグナルが得られたが、比較例4で作製した測定試料の場合には、結晶のふちの部分にレーザー照射しても良好なシグナルを得ることは難しかった。
<PDAMラベルあり/プレート冷却/マトリックス溶液室温>
実施例3と同様に、測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、乾燥させ、標識試薬PDAMを用いて反応させ、洗浄を行った。DHBA溶液を滴下するまでは、実施例3と同様の操作を行った。
<PDAMラベルあり/プレート室温/マトリックス溶液冷却>
実施例3と同様に、測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、乾燥させ、標識試薬PDAMを用いて反応させ、洗浄を行った。DHBA溶液を滴下するまでは、実施例3と同様の操作を行った。
図16(c)及び図16(d)のマススペクトルを図15(a)及び図15(b)と比較すると、測定対象分子のシグナル強度は、図15(a)>図16(c)>図16(d)>図15(b)の順に高く良好である。また、図17及び図18の(a)〜(d)を比較すると、スイートスポットの数は、図17(a)>図18(c)>図18(d)>図17(b)の順に多かった。すなわち、実施例4及び5で作製した測定試料は、プレートあるいはマトリックス溶液の一方のみを冷却することによって、双方を冷却したとき程の効果はないが、通常の室温下で試料を調製するときよりは良好なシグナルが得られる。
<プレート冷却/マトリックス溶液冷却>
まず、質量分析用プレート(試料支持部材)(島津製作所製、384ウェルサンプルプレート)に、測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、室温(23℃)、大気圧下で放置し乾燥させた。
<プレート室温/マトリックス溶液室温>
実施例6と同様に、測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、乾燥させた。DHBA溶液を滴下するまでは、実施例6と同様の操作を行った。
図19(a)と図19(b)のマススペクトルを比較すると、測定対象分子のシグナル強度は明らかに図19(a)の方が2倍程度高く良好である。更に、図20(a)と図20(b)を比較すると、何れの場合においても、結晶の根元部分から良好なシグナルが得られる傾向があるが、明らかに図20(a)の方が検出されたポイント数が多かった。すなわち、実施例6で作製した測定試料は、大半の結晶の根元部分から良好なシグナルが得られるが、比較例5で作製した測定試料の場合には、一部の結晶の根元部分からしかシグナルが生じていなかった。また自動分析により得られたマススペクトルの検出限界をS/N>3とした場合、実施例6の図20(a)では、10fmolの測定試料まで検出可能であったが、比較例5の図20(b)では50fmolを検出することができなかった。
<ウェル境界のないプレート/PDAMラベルあり/プレート冷却/マトリックス溶液冷却>
まず、質量分析用プレート(試料支持部材)のウェル境界のない平らな面に、測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を1μL滴下し、乾燥させ、標識試薬PDAMを用いて反応させ、洗浄を行った。DHBA溶液を滴下するまでは、実施例3と同様の操作を行った。
<境界のないプレート/PDAMラベルあり/プレート室温/マトリックス溶液室温>
実施例7と同様に、測定対象分子である糖ペプチド(化学構造を図1に示す)を水に溶解して、100fmol/μLにした水溶液を質量分析用プレート(試料支持部材)の境界のない平らな面に1μL滴下し、乾燥させ、標識試薬PDAMを用いて反応させ、洗浄を行った。DHBA溶液を滴下するまでは、実施例7と同様の操作を行った。
図21(a)と図21(b)のマススペクトルを比較すると、測定対象分子のシグナル強度は明らかに図21(a)の方が2倍程度高く良好である。更に、図22(a)と図22(b)を比較すると、何れの場合においても、結晶の根元部分からシグナルが得られる傾向があるが、図22(a)の場合には明らかに検出されたスイートスポットの数が多かった。すなわち、実施例7で作製した測定試料は、マトリックスの結晶化の際のプレート温度を15℃に設定することにより、混合結晶の形成位置を制御した結果、結晶のふちの位置でのスイートスポット数が増えた。実施例3と実施例7を比較すると、このマトリックス結晶のスイートスポット形成に対する効果は、支持部材とマトリックス溶液の温度を室温より低い温度に制御したことによるものであり、プレート上の突起などの物理的な境界とは無関係であることが明らかである。
<ペプチド混合物/プレート冷却/マトリックス溶液冷却>
まず、20μgの牛血清アルブミン(Sigma−Aldrich社製)に、界面活性剤としてSodium 3−{(2−methyl−2−undecyl−1,3−dioxolan−4−yl)methoxy}−1−propanesulfonate(RapiGest SF(waters社製))を最終濃度が0.1%となるように加え、100℃で5分間加熱した。冷却後、10mmol/L重炭酸アンモニウムと10mmol/Lジチオトレイトールを含む水溶液に溶解し、55℃で45分間インキュベートした。
反応後、135mmol/Lのヨードアセトアミドを5μL加え、暗所で45分間静置した。次に、1μgのトリプシンを加え、37℃で一晩反応させた。
<ペプチド混合物/プレート室温/マトリックス溶液室温>
実施例8と同様に、測定対象分子であるペプチド混合物を水に溶解して、質量分析用プレートに1μL滴下し、乾燥させた。DHBA溶液を滴下するまでは、実施例8と同様の操作を行った。
図23(a)と図23(b)を比較すると、図23(a)の場合には、明らかに、検出されたスイートスポットはマトリックス結晶のふちにそって分布している。すなわち、実施例8で作製した測定試料は、マトリックスの結晶化の際のプレート温度を15℃に設定することにより、すべてのペプチドのスイートスポットが均一に位置した。従って、マトリックス結晶のふちにそってレーザーを照射すれば、容易にすべてのペプチドのスイートスポットを同時に検出することができ、効率よくMSスペクトルを取得することができる。
一方、比較例7では、各ペプチドのスイートスポットは、必ずしもマトリックス結晶のふちに存在しているとは限らず、またペプチドの種類によって分布が異なるため、スイートスポットをあらかじめ見極めることは難しく、質の高いMSスペクトルを取得するためには測定試料全体を測定する必要がある。
従って、本発明では、MALDI質量分析法の試料調製において、良好なMSスペクトルを得るためには測定試料中に多数のスイートスポットとなるマトリックスの結晶多形を形成させることが効果的であり、マトリックス結晶がスイートスポットとなるかならないかの違いは、マトリックスの結晶多形の違いに依存し、更にマトリックス溶液の溶媒を迅速に乾燥させるよりは、プレートと溶液の温度を低温にする方法が、スイートスポットの形成に関して最も有効であることが明らかとなった。
Claims (8)
- MALDI質量分析法用測定試料調製方法であって、測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の結晶化条件を制御し、該混合結晶のうちスイートスポットとなり得る特定の多形構造を形成させ、スイートスポットとなり得る特定の多形構造を利用してイオン化効率を高め、
該マトリックスが、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)であり、スイートスポットとなり得る多形構造が準安定結晶β晶であることを特徴とするMALDI質量分析法用測定試料調製方法。 - MALDI質量分析用測定試料調製方法であって、測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の温度条件を制御することによって、該混合結晶のうちスイートスポットとなり得る特定の多形構造を形成させることを特徴とする請求項1に記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
- MALDI質量分析法用測定試料調製方法であって、試料支持部材上に測定対象分子を含む試料を載せた後にマトリックス溶液を載置し、又は試料支持部材上に測定対象分子を含む試料とマトリックス溶液を同時に載置し、該溶液を乾燥させて該試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の温度条件を制御し、該混合結晶のうちスイートスポットとなり得る特定の多形構造を形成させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
- 測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の温度を、マトリックス溶液の凝固点以上15℃以下の範囲に設定することを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
- MALDI質量分析法用測定試料調製方法であって、測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際、試料支持部材の温度を、マトリックス溶液の凝固点以上15℃以下の範囲に設定することを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
- 測定対象分子を含む試料とマトリックスの混合結晶を析出させる際の溶媒が、水及び/又はアセトニトリルであることを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
- 試料支持部材上に測定対象分子を含む試料を載せた後であって、マトリックス溶液を載置する前に、測定対象分子と反応することによってイオン化効率を高める誘導体化剤の溶液を該試料支持部材上に滴下して乾燥する工程を挿入することを特徴とする請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法。
- 請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載のMALDI質量分析法用測定試料調製方法を使用して調製されたMALDI質量分析法用測定試料を用いてイオン化効率を高めることを特徴とするMALDI質量分析法。
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