JP5984213B2 - 溶接性に優れる被覆管用オーステナイト系Fe−Ni−Cr合金 - Google Patents

溶接性に優れる被覆管用オーステナイト系Fe−Ni−Cr合金 Download PDF

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Description

本発明は、シーズヒーターの被覆管等に用いられる、母材の耐食性に優れかつ溶接部の耐食性、加工性にも優れるオーステナイト系Fe−Ni−Cr合金に関するものである。
電気調理器や電気給湯器、電気温水器などの熱源には、ニクロム線を使用したシーズヒーターが多く用いられている。このシーズヒーターは、金属材料を丸めて溶接した被覆管の中にニクロム線を挿入し、空間部にマグネシア粉末などを充填して完全に密封し、ニクロム線に電気を流して発熱させることで加熱を行うものである。この加熱方法は、火気を使わないため安全性が高く、いわゆるオール電化住宅に必要なアイテムとして、電気調理器や電気給湯器等に幅広く用いられるようになってきており、その需要は、近年、急激に拡大している。
しかし、上記シーズヒーターの被覆管に穴開きやき裂が生じた場合には、漏電やニクロム線の断線を引き起こす原因となり、熱源としての機能を果たさなくなる。例えば、シーズヒーターが、電気給湯器等のような湿潤環境において使用される際の問題点としては、水道水に含まれる塩素による被覆管の腐食がある。この腐食は、パッキングシール等のすき間部において発生する事例が多く報告されている。そこで、この対策としては、構造上すき間がないよう設計することが一般的になされている。
また、すき間部分ではない箇所においても、ヒーターの使用を開始した早い段階から腐食が進行して被覆管に穴が開き、最終的に破断に至る事例が少なからず報告されている。この腐食は、溶接部の溶接金属や熱影響部(以降、これらを合わせて「溶接部」ともいう。)に、溶接時の熱によってσ相やCr炭化物が析出することによる耐食性の劣化が原因であると考えられている。従って、被覆管用材料には、オーステナイト相の安定性が高く、溶接部にσ相が析出しないオーステナイト単相であることに加えて、溶接部にCr炭化物が析出しないことが必要とされる。
また、被覆管は、一般に、帯状の板材を丸めて環状とし、溶接することにより製造されるが、近年、生産性を高める観点から、溶接速度の高速化が進行しつつあり、溶け込み不良等の溶接欠陥が発生し易い状況となってきている。さらに、近年、シーズヒーターの小型化や高効率化を実現するため、シーズヒーターのU字曲げ径やスパイラル径を小さくする傾向にあり、溶接部が受ける加工もますます厳しくなってきている。そのため、溶接部に溶け込み不良や、介在物に起因した表面疵等の欠陥があると、加工時に溶接部で割れが頻発するようになる。
また、被覆管は、最終的には軽度の研摩を施し、溶接によって生じたスケールや欠陥、製造工程のハンドリング等で生じた小さな疵等を除去するのが一般的であるが、上記の溶接部の欠陥は、この作業性を著しく低下させる。また、研摩で除去されずに残存した溶接部の欠陥は、使用時の耐食性の低下を引き起こす。したがって、シーズヒーターに用いられる被覆管には、溶接部に欠陥がないこと、あるいは、欠陥があっても軽度の研摩で容易に除去できるレベルであることが求められる。
ところで、上記シーズヒーターの被覆管には、従来、Alloy840やAlloy800(NCF800)等の高耐食性の材料が主に用いられてきた。しかし、これらの材料は、厳しい湿潤環境で使用する場合には、耐食性がまだ十分ではないという問題があり、この対策として、CrやMo等の添加量を増加して耐食性の向上を図っている。
なお、特許文献1には、塩化物の存在する高温乾食環境での耐食性を改善した材料として、Mo,WあるいはVを所定量添加したFe−Ni−Cr合金が開示されている。
特公昭64−008695号公報
しかしながら、これらの材料は、いずれもCr,Mo,Siなど、σ相やCr炭化物の析出を促進する元素を多量に含有するものであり、溶接部のオーステナイト相の安定性やCr炭化物の析出に対する配慮がなされていないだけでなく、溶接部の加工性については何らの考慮もされていない。そのため、近年における厳しい曲げ加工には十分に対応できない。また、特許文献1の合金は、湿潤環境下での耐食性については何ら考慮がなされていないため、シーズヒーターの被覆管への使用可否は不明である。
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、母材の耐食性のみならず溶接部の耐食性や加工性にも優れる被覆管用材料、すなわち、溶接部におけるオーステナイト相の安定性に優れ、Cr炭化物やσ相の析出を抑制できるだけでなく、厳しい曲げ加工等によっても溶接部に欠陥が生じ難い被覆管用オーステナイト系Fe−Ni−Cr合金を提供することにある。
発明者らは、上記課題の解決に向けて、Fe−Ni−Cr合金におけるCr炭化物やσ相の析出に及ぼす鋼の成分組成の影響に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、オーステナイト相の安定性に優れる従来にはない成分系を見出し、本発明を開発するに至った。
上記知見に基く本発明は、C:0.005〜0.03mass%、Si:0.15〜1.00mass%、P:0.030mass%以下、S:0.0020mass%以下、Mn:2.5mass%以下、Ni:18〜40mass%、Cr:18〜30mass%、Mo:0.3〜4.0mass%、Co:0.09〜4.0mass%、Cu:0.03〜0.30mass%およびAl:0.03〜0.45mass%を含有し、さらに、Ti,NbおよびVのうちから選ばれる1種以上をTi:0.004〜0.50mass%、Nb:0.001〜0.50mass%およびV:0.001〜0.50mass%の範囲、かつ、それらのうちの1種以上を0.10〜0.50mass%の範囲で含有し、さらに、上記成分が下記(1)式;
γ=1.5Ni+Mn+1.5Co+4.6Cu−6.9Cr−16.3Mo−27.6Si−3.3Al≧−180 ・・・(1)
および(2)式;
(Ti+Nb+V)/C≧10 ・・・(2)
を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する被覆管用オーステナイト系Fe−Ni−Cr合金である。ただし、上記(1)式および(2)式中の元素記号は、その元素の含有量(mass%)を表わす。
本発明の上記被覆管用オーステナイト系Fe−Ni−Cr合金は、P,S,B,SnおよびPbを、B:0.0020mass%以下、Sn:0.050mass%以下およびPb:0.0050mass%以下、かつ、下記(3)式;
max=78P+103S+76B+4.5Sn+42Pb≦2.5 ・・・(3)
を満たして含有することを特徴とする。ただし、上記(3)式中の元素記号は、その元素の含有量(mass%)を表わす。
また、本発明の上記被覆管用オーステナイト系Fe−Ni−Cr合金は、Ca,Mg,NおよびOの含有量がそれぞれCa:0.0015mass%以下、Mg:0.050mass%以下、N:0.02mass%以下およびO:0.0050mass%以下であり、かつ、任意の断面における30μm以上の介在物個数が30個/10mm以下であることを特徴とする。
本発明によれば、溶接部におけるオーステナイト相の安定性に優れるのでCr炭化物やσ相の析出を抑制できるだけでなく、厳しい曲げ加工等によっても溶接部に欠陥が生じ難いFe−Ni−Cr合金を提供することができるので、加工形状が厳しいシーズヒーターの被覆管用材料として好適に用いることができる。
Mo含有量と、硬さ変化ΔHVとの関係を示すグラフである。 オーステナイト相の安定性を示すパラメータγと、硬さ変化ΔHVとの関係を示すグラフである。 (Ti+Nb+V)/Cと、Cr炭化物の粒界被覆率との関係を示すグラフである。 P含有量と、溶接部の最大割れ長さとの関係を示すグラフである。 パラメータLmaxと、溶接部の最大割れ長さとの関係を示すグラフである。 母材中の介在物個数と、溶接金属表面に付着した異物個数との関係を示すグラフである。
まず、本発明の基本的な技術思想について説明する。
シーズヒーターが電気給湯器のような湿潤環境下で使用される場合、使用を開始した当初から著しい腐食が進行することがある。発明者らは、この問題が生じた被覆管を調査したところ、溶接部、即ち、溶接金属や熱影響部に著しい腐食が生じていることが確認された。さらに、被覆管の断面組織を観察したところ、腐食が生じた溶接部には、σ相やCr炭化物の第二相が析出していることが確認された。
また、発明者らは、種々の成分組成を有する板厚1.0mmのFe−Ni−Cr合金の板材に、ビードオンプレート溶接(溶接電流100A、溶接速度600mm/min)を施し、その溶接部(溶接痕の盛り上がり部)の断面組織を光学顕微鏡で観察した。なお、溶接部断面の組織の現出には、KOH溶液あるいはシュウ酸溶液を用いた電解エッチング法を用いた。その結果、ある種の組成の合金においては、腐食が生じた被覆管に見られたものと同じσ相やCr炭化物が確認された。
これらの結果から、シーズヒーターの被覆管の腐食は、溶接部に析出したσ相やCr炭化物に起因するものであると推定された。というのは、σ相やCr炭化物が析出すると、その周辺部は局部的にCr濃度が低下するため、母材の耐食性は良好であっても、σ相やCr炭化物が形成された周辺部では耐食性が低下し、腐食が発生し易くなるからである。なお、σ相やCr炭化物の析出は、合金の成分組成によって大きく影響されると考えられる。そこで、σ相およびCr炭化物の析出、すなわち、オーステナイト相の安定性に及ぼす合金の成分組成の影響に着目し、以下に説明する調査を行った。
<σ相に及ぼす成分組成の影響について>
σ相は、金属間化合物の1種であり、高温で高Crフェライト相の変質により生じ、主として粒界に析出して著しい硬化や脆化をもたらす。したがって、オーステナイト単相であれば、σ相の析出は起こらない。Fe−Ni−Cr合金に添加されているCrやMo,Si,Al等は、母材の耐食性を向上させる有用な元素であるが、フェライト相を安定化する元素であるため、多量に添加すると、溶接部におけるσ相の析出を促進する。これに対して、CやN,Mn,Ni,Co等は、オーステナイト相を安定化する元素であるため、適正量の添加によりσ相の析出を抑制することができる。したがって、CrやMoなどの元素の添加量は、母材の耐食性を確保するだけでなく、溶接部にσ相が析出しない、即ち、オーステナイト相の安定性が十分に確保できる範囲に制御する必要がある。
そこで、溶接部のオーステナイト相の安定性に及ぼす成分組成の影響を調査するため、先述した様々な成分組成を有する板厚1.0mmのFe−Ni−Cr合金の板材にビードオンプレート溶接を施した試験片の母材と溶接部の断面のビッカース硬さHVを測定し、母材の硬さと溶接部の最高硬さとの差ΔHV(=溶接部最高HV−母材HV)を求めた。その理由は、σ相が析出すると硬さが上昇するので、その変化からσ相の生成有無を判断できるからである。
一例として、図1に、Mo含有量とΔHVとの関係を示した。なお、図1には、上記溶接を施した試験片から、溶接部が幅中央部になるようにして、板厚1mm×幅25mm×長さ50mmの試料を採取し、ASTM G48 MethodCに準拠し、15℃の6mass%FeCl+1mass%HClの水溶液中に48hr浸漬する腐食試験を実施した後、溶接金属の表面や熱影響部の断面に発生した孔食の深さを非接触段差測定機(ハイソメット;ユニオン光学(株)製)で測定し、25μm以上の孔食が発生したものは×、25μm未満のものは○で示した。この図から、Mo含有量が4mass%以上で硬さが急激に上昇していることがわかる。そこで、硬さが急激に変化している前後の試験片の溶接部断面を、KOH溶液で電解エッチングし、組織観察したところ、硬さが上昇した試験片にはσ相の析出が確認された。この結果は、Mo含有量の増加に伴い、オーステナイト相の安定性が低下し、σ相が溶接部に析出したことを示している。
そこで、上記と同様にして、Mo以外のフェライト相安定化元素であるCr,Si,Alおよびオーステナイト相安定化元素であるNi,Mn,Co,Cuについて、それぞれの元素がオーステナイト相の安定性を及ぼす影響度を調査し、オーステナイト相の安定性、即ち、σ相の析出し易さを表わす下記式で定義されるパラメータγを見出した。
γ=1.5Ni+Mn+1.5Co+4.6Cu−6.9Cr−16.3Mo−27.6Si−3.3Al
(ただし、上記(1)式中の元素記号は、その元素の含有量(mass%)を表わす。)
図2は、上記パラメータγと、前述したビードオンプレート溶接を施した試験片の母材硬さと溶接部断面の最高硬さの差ΔHVとの関係を示したものである。なお、図2には、図1と同様にしてASTM G48 MethodCに準拠した腐食試験を実施し、25μm以上の孔食が発生したものは×、25μm未満のものは○で示した。この図から、上記式で表されるγが−180より小さくとなるとΔHVが急激に上昇する、即ち、σ相が析出するようになること、そして、σ相の析出に伴って耐食性も低下していることがわかる。
よって、本発明の被覆管用材料における成分組成は、σ相の析出を防止する観点から、上記パラメータγの値が−180以上となるよう制御することとした。
<Cr炭化物に及ぼす成分組成の影響について>
Cr炭化物は、(Fe,Cr)23を主体とするものであり、その構成元素であるC,Crの含有量が高くなると、また、Cの固溶限を減少させるNiの含有量が高くなると、析出し易くなる。一方、TiやNb,V等の元素は、Crより優先的にCと結合して固着し、炭化物あるいは炭窒化物を形成する。そのため、これらの元素の添加は、Cr炭化物の形成を抑止する上では有効である。
しかし、本発明が対象としている被覆管用Fe−Ni−Cr合金の溶接部におけるCr炭化物の析出に対しては、上記CやCr,Ti,Nb,V等の元素やその他の元素がどのように影響するのかは、まだ十分に明らかとはなっていない。したがって、母材が被覆管としての耐食性を備えた成分系において、その影響を明らかにする必要がある。
そこで、発明者らは、上記各元素の含有量が、Cr炭化物の析出に及ぼす影響を調査するため、前述した種々の成分組成を有するビードオンプレート溶接した試験材から溶接部を含む試料を採取し、その溶接部を含む断面をJIS G0571に規定されたシュウ酸でエッチングした後、光学顕微鏡を用いて組織観察し、熱影響部内で溝状にエッチングされている粒界長さの全粒界長さに対する割合(以降、「Cr炭化物の粒界被覆率」あるいは単に「粒界被覆率」ともいう。)を調査した。ここで、溝状にエッチングされた粒界長さを測定する理由および「Cr炭化物の粒界被覆率」と称する理由は、溝状にエッチングされた粒界部分は、析出したCr炭化物で覆われ、その周囲にCr欠乏相が生じているため、耐食性が低下している部分であると考えられるからである。
また、上記ビードオンプレート溶接を行った試験片から、溶接部を含む板厚1mm×幅30mm×長さ100mmの試料を採取し、23mass%HSO+1.2mass%HCl+1mass%FeCl+1mass%CuClの沸騰溶液中に16hr連続して浸漬し、その後、溶接方向が曲げ方向と平行かつ溶接面側が外側となるようにして、曲げ半径R8mmの曲げ試験を行い、割れの発生有無を調べ、その結果、割れが発生したものを鋭敏化有り(×)、割れが発生しなかったものを鋭敏化なし(○)と判定した。
図3は、上記実験結果を示したものである。この図から、合金の成分組成と粒界腐食との間には明瞭な相関があり、(Ti+Nb+V)/Cの値が10以上では溝状にエッチングされる粒界の割合、即ち、Cr炭化物の粒界被覆率は20%以下であるが、10未満になると急激にCr炭化物の粒界被覆率が大きくなること、特に、(Ti+Nb+V)/Cの値が5未満では、粒界被覆率が60%以上となり、曲げ試験で割れが発生するようになることがわかる。これらの結果は、TiやNb,Vを適正量添加することによって、Cr炭化物の析出が抑止され、鋭敏化を防止できることを示している。なお、本実験を行った成分組成の範囲内では、NiやCrの影響は、上記元素ほど顕著ではなかった。
以上の結果から、本発明においては、Cr炭化物の粒界析出を抑制する観点から、(Ti+Nb+V)/Cの値を10以上とする。
次に、発明者らは、被覆管を曲げ加工する際、溶接部に割れが発生する原因について調査した。その理由は、前述したように、近年、被覆管の生産性を向上するため、溶接速度を高める傾向にあり、それに伴って溶接欠陥が発生し易くなり、耐食性の低下を招くおそれが増加していること、また、シーズヒーターの小型化や高効率化に伴い、被覆管が受ける加工が益々厳しくなってきており、曲げ加工時に溶接部に割れ等が発生するという問題が顕在化してきているからである。
そこで、発明者らは、割れが発生した被覆管溶接部の表面および断面を調査したところ、上記の割れは下記2つに大別できることを知見した。
・タイプI:溶接部に発生した微小割れに起因する加工割れ
・タイプII:溶接部の表面に付着した異物に起因した凹凸が起点となる加工割れ
したがって、被覆管の曲げ加工時における割れを防止するためには、溶接部に発生した微小割れや、溶接部表面に付着した異物による凹凸等の欠陥を、被覆管製造工程における研摩で完全に除去してやる必要がある。しかし、研摩で完全に除去することは、生産性を大きく低下することになるため、欠陥はできる限り軽減かつ低減してやるのが望ましい。
そこで、上記2つのタイプの割れ防止策について、以下に検討した。
<タイプI:溶接部に発生した微小割れに起因する加工割れについて>
溶接部に発生するタイプIの微小割れは、溶接金属が凝固する際、低融点化合物を形成して延性の低下を招く元素、例えば、P,S,B,Sn,Pbなどの元素が関与している可能性が高いと考えられる。というのは、P,SはNiと低融点化合物を形成し、BはNi、Nb等と低融点の共晶生成物を形成し、SnはCu等と低融点化合物を形成し、Pbは単独あるいはNiと低融点化合物を形成し、高温における延性を低下させるため、溶接時に割れを生じさせると考えられるからである。
そこで、これらの低融点化合物を形成する元素の添加量を種々に変えたFe−Cr−Ni合金の板材(板厚3mm)を用いて、バレストレイン試験を行い、それぞれの成分が割れに及ぼす影響を調査した。ここで、上記バレストレイン試験とは、所定の形状に加工した試験片の一端を治具で固定し、添加材なしのTIG溶接でビードオンプレート溶接を行い、その途中で溶接中の試験片を瞬間的に塑性曲げして強制的に高温割れを発生させることで、母材および溶接部の耐高温割れ性を評価する試験である。なお、上記バレストレイン試験におけるTIG溶接条件は、溶接電流120A、溶接速度120mm/minとし、歪を掛ける方向は溶接方向と平行方向(トランス・バレストレイン試験)として0.5%の歪ε(=(t/2R)×100(%)、ここで、R:曲げ半径(300mm)、t:試験片の板厚(3mm)を付与した。また、割れ性の評価は、溶接金属に発生した割れの最大長さを測定することで評価した。
さらに、バレストレイン試験で発生した割れが、その後の曲げ加工によってどの程度まで拡大されるか、すなわち、溶接部の加工性に及ぼす影響を調べるため、溶接面の反対側の面を放電加工で減厚して1mmの板厚とした後、割れが発生した部分が頂点となるようにして溶接方向と平行方向に曲げ半径R8mmの曲げ試験を行い、再度、割れ長さを測定し、最大割れ長さが0.5mm以上に拡大したものを×、0.5mm未満0.4mm以上のものを△、0.4mm未満のものを○と判定した。
上記の実験結果の一例として、Pの含有量が最大割れ長さに及ぼす影響を図4に示した。この図から、Pの含有量が増加すると、バレストレイン試験で発生する割れの最大長さが急激に大きくなること、また、最大割れ長さが0.5mm以下であれば、その後の曲げ試験でも割れは拡大しないが、0.5mmを超えると、割れが大きく拡大するようになることがわかった。また、割れ長さが0.5mm以下であれば、研摩による除去が可能であり、さらに、割れが0.4mm以下であれば、研摩で容易に除去できることもわかった。
そこで、P以外の各元素についても、上記と同様にして、その含有量が溶接部の最大割れ長さに及ぼす影響を調査し、割れの最大長さを0.5mm以下に抑制するための条件について調査した。その結果、溶接部の最大割れ長さは、下記式で表されるパラメータLmax
max=78P+103S+76B+4.5Sn+42Pb
(ただし、上記式中の元素記号は、その元素の含有量(mass%)を表わす。)
と極めてよい相関があり、図5に示したように、Lmaxの値を2.5以下に制御することによって、溶接部(溶接金属)に発生する最大割れ長さを0.5mm以下に抑制できることが明らかとなった。
<タイプII:溶接部表面に付着した異物に起因した加工割れについて>
次に、発明者らは、溶接部(溶接金属)表面の異物付着に起因する割れ防止策を検討するため、表面に付着している異物の成分分析を行った。その結果、上記異物は、Al,Ti,Si,Ca,Mg等の酸化物や窒化物を主体とするもので、母材中の非金属介在物に近い成分組成のものであることがわかった。そして、この結果から、溶接部表面の異物は、母材中に存在する非金属介在物に由来したものであることが推測された。すなわち、溶接時に母材金属は溶融するが、母材中に存在する非金属介在物は、一般に高融点であるため、溶融せずに溶融金属の表面に浮上して凝集し、その後、凝固する際、そのまま表面に残存して凹凸を形成する。あるいは、母材中の非金属介在物が、溶接時に新たに生成される介在物の核となって、さらに大きな介在物あるいはクラスターを形成し、凹凸を形成すると考えられるそして、このような凹凸が溶接部の表面に多数存在すると、曲げ加工時に応力集中が起き、割れの起点となるものと考えられる。
そこで、先述したビードオンプレート溶接した試験片の母材中に含まれる介在物個数と、溶接部(溶接金属)の表面に観察される異物の個数を調査した。ここで、母材中に含まれる介在物個数は、上記試験片の中で、溶接の影響を受けていない部分の任意の断面を200倍の光学顕微鏡で400μm×500μmの面積を50視野(延べ測定面積10mm)観察し、30μm以上の介在物の個数を計測した値である。一方、溶接部(溶接金属)の表面の異物個数は、溶接条件が安定した長さ200mmの溶接部の表面を、光学顕微鏡を用いて100倍で50視野(延べ測定面積40mm)観察し、30μm以上の異物の個数を計測した値である。
また、溶接部表面に付着した異物が、曲げ加工性に及ぼす影響を調査するため、ビードオンプレート溶接した面、即ち、異物が付着した面が外側となるようにして溶接方向と平行に曲げ半径R8mmの曲げ試験を行った。なお、上記曲げ試験には、溶接ままの試験片と、SiC研摩紙(#120)で溶接部(溶接金属の表面)が平らになるよう研摩した試験片の2種類を用いた。その結果、溶接ままで溶接金属部に割れが発生したものを×、割れが発生しなかったものを○と判定した。ただし、溶接ままでは溶接金属部に割れが発生したが、研摩を行うことで割れを防止できたものは△と判定した。
それらの結果を図6に示した。この図から、母材中の介在物個数が多いものほど、溶接金属表面の異物個数が多くなること、したがって、溶接部表面に付着した異物は、母材中に存在する非金属介在物に由来したものであることが確認できた。また、溶接金属表面の異物個数が多いものほど大きな異物が発生し、割れが助長される傾向があることがわかった。そして、溶接部を研摩する場合には、母材中の介在物個数が30個/10mmを超えると、あるいは、溶接金属表面の異物個数が25個/40mmを超えると、一方、溶接部を研摩しない場合には、母材中の介在物が25個/10mmを超えると、あるいは、溶接金属表面上の異物個数が20個/40mmを超えると、母材中の介在物あるいは溶接金属表面の異物が起点となって割れが発生することもわかった。よって、本発明では、溶接部に軽度の研摩を施して使用することを考慮し、母材中の介在物個数を30個/10mm以下に制限することとした。
なお、母材中の介在物個数を上記範囲に低減するには、溶接条件を厳格に管理することに加えて、介在物を構成する元素をできる限り低減することが有効である。しかし、介在物を構成する元素のうち、Al,Ti,Siは、本発明においては必須の添加元素であり、低減するには限界がある。そこで、本発明では、Al,Ti,Siの量を極力低減することに加えて、他の介在物構成元素である、Ca,Mg,NおよびOを低減することによって、母材中に存在する介在物の個数を低減することとした。これによって、溶接金属表面に観察される異物の個数を大幅に低減することができ、曲げ加工性に優れた溶接部を得ることが可能となる。
次に、本発明のFe−Ni−Cr合金の成分組成について説明する。
C:0.005〜0.03mass%
Cは、オーステナイト相を安定化する元素であるため、0.005mass%以上含有させる必要がある。しかし、Cを過剰に添加すると、溶接部の粒界にCr炭化物が析出してその周囲にCr欠乏層が生じ、耐食性の低下を引き起こすため、上限は0.03mass%とする。好ましくは0.01〜0.025mass%の範囲である。
Si:0.15〜1.00mass%
Siは、溶接金属の溶け込み性を向上する効果がある。また、脱酸材としての作用もあるので、0.15mass%以上含有させる。しかし、Siの多量の添加は、オーステナイト相の安定性を低下させ、σ相の析出を促進する。また、介在物を形成し、曲げ加工時に溶接部の割れを引き起こす原因ともなるため、上限は1.00mass%とする。好ましくは0.15〜0.8mass%の範囲である。
Mn:2.5mass%以下
Mnは、オーステナイト相を安定化する元素であり、また、脱酸元素としても有用な元素である。しかし、過剰の添加は、MnSを形成して耐食性を低下させるため、2.5mass%を上限とする。好ましくは1.0mass%以下である。なお、相安定性が確保できる場合には、さらに低減し、0.5mass%以下とするのがより好ましい。
P:0.030mass%以下
Pは、溶接時に粒界に偏析し、粒界部の耐食性を低下させる元素である。また、Ni等と低融点の化合物を形成し、溶接部の割れを促進するため、0.030mass%以下に制限する。好ましくは0.025mass%以下である。
S:0.0020mass%以下
Sは、溶接金属の溶け込み性を改善する効果があるが、MnSを形成し、耐食性に悪影響を及ぼす元素でもある。また、粒界に偏析してNiと低融点化合物を形成し、溶接時の割れを促進するので、上限は0.0020mass%とする。好ましくは0.0015mass%以下である。
Ni:18〜40mass%
Niは、オーステナイト相を安定化する元素であるため、18mass%以上含有させる必要がある。しかし、多量の添加は、熱間強度の上昇による製造性の低下や原料コストの上昇を招く。また、含有量が多くなると、強固な酸化スケールを生成するようになり、酸洗性を低下させる。よって、Niの上限は40mass%とする。好ましくは20〜38mass%の範囲である。
Cr:18〜30mass%
Crは、被覆管の耐食性を向上させる重要な元素であり、18mass%以上の含有を必要とする。しかし、Cr添加量が多くなると、オーステナイト相の安定性が低下し、溶接部にσ相やCr炭化物が析出し易くなり、溶接部の耐食性の低下を引き起こすため、上限は30mass%とする。好ましくは20〜25mass%の範囲である。
Mo:0.3〜4.0mass%
Moは、湿潤環境下や高温大気環境下での母材の耐食性を向上する効果があるので、0.3mass%以上含有させる。しかし、過剰の添加は、オーステナイト相の安定性を低下させ、溶接部におけるσ相の析出を促進するため、上限は4.0mass%とする。好ましくは0.2〜2.8mass%の範囲である。
Co:4.0mass%以下
Coは、CやN,Niと同様、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。しかし、CやNは、溶接性に悪影響を及ぼすため、多量の添加が制限されることから、Coを添加することによって相安定性を確保するのが望ましい。しかし、多量の添加は原料コストの上昇を招くので、上限を4.0mass%とする。好ましくは2.0mass%以下である。
Cu:0.03〜0.30mass%
Cuは、オーステナイト相を安定化する元素であり、特に溶接部の相安定性の向上に有効であるため、0.03mass%以上含有させる。しかし、Cuは、溶接時に割れを生じさせる有害元素でもあり、特にSnと共存すると、その悪影響は顕著となる。そこで、本発明においては、Cuの上限を0.30mass%とする。好ましくは0.20mass%以下である。
Al:0.03〜0.45mass%
Alは、脱酸剤として、また、耐食性向上のために添加される元素あり、それらの効果を得るためには0.03mass%以上の添加が必要である。しかし、過剰の添加は、オーステナイト相の安定性を低下させ、また、母材中の介在物を増加させ、溶接部の曲げ加工性を害するようになるので、上限は0.45mass%とする。好ましくは0.35mass%以下である。
γ=1.5Ni+Mn+1.5Co+4.6Cu−6.9Cr−16.3Mo−27.6Si−3.3Al:−180以上
本発明のFe−Ni−Cr合金は、Ni,Mn,Co,Cu,Cr,Mo,SiおよびAlが前述した組成範囲を満たすことに加えてさらに、オーステナイト相の安定性を表わすパラメータγが−180以上となるよう含有していることが必要である。図2に示したように、γが−180未満となると、オーステナイト相の安定性が低下し、溶接部にσ相が析出するようになり、耐食性を低下するからである。したがって、溶接時の加熱によってもσ相が析出しないよう、γ≧−180の範囲に制限する必要がある。好ましいγは−155以上である。
また、本発明のFe−Ni−Cr合金は、Ti,NbおよびVのうちから選ばれる1種または2種以上を下記の範囲で含有することが必要である。
Ti:0.10〜0.50mass%以下
Tiは、C,Nを炭窒化物として固着し、Cr炭化物の析出を抑止することによって、溶接部の耐食性低下を効果的に防止する元素であり、斯かる効果を得るためには、少なくとも0.10mass%の添加が必要である。しかし、過剰の添加は、母材中の介在物の総量を増加し、ひいては、被覆管の表面欠陥や溶接部表面に付着した異物の個数を増加し、曲げ加工性を害するようになるので、上限は0.50mass%とする。好ましくは0.35mass%以下である。
Nb:0.10〜0.50mass%以下
Nbは、Tiと同様、Cを固着し、Cr炭化物の析出を抑止することで、溶接部の耐食性低下を効果的に防止する元素であり、斯かる効果を得るためには、少なくとも0.10mass%の添加が必要である。しかし、過剰の添加は、CやBと低融点化合物を形成し、溶接時の割れを助長するようになるため、上限は0.50mass%とする。好ましくは0.30mass%以下である。
V:0.10〜0.50mass%以下
Vは、Ti,Nbと同様、Crより優先的に炭化物を形成して、Cr炭化物の析出を抑止する効果がある。斯かる効果を得るためには、少なくとも0.10mass%の添加が必要である。しかし、0.50mass%を超える添加は、上記効果が飽和し、添加量に見合う効果が得られなくなるので、上限は0.50mass%とする。好ましくは0.30mass%以下である。
(Ti+Nb+V)/C:10以上
上記のように、Ti,NbおよびVは、いずれも溶接時の加熱による溶接部粒界へのCr炭化物の析出を抑止し、耐食性の低下を防止する効果がある。斯かる効果を得るためには、Ti,NbおよびVそれぞれの添加量を上述した範囲に制御した上で、さらに、図4に示したように、それらの元素の合計含有量とCとの比(Ti+Nb+V)/Cを10以上として含有させる必要がある。好ましくは12以上である。
本発明のFe−Ni−Cr合金は、溶接部の加工性および表面性状を向上する観点から、上記必須成分以外の成分であるB,Sn,Pb,Ca,Mg,NおよびOは、下記の範囲に制限することが好ましい。
B:0.0020mass%以下
Bは、C,Nbと低融点化合物を形成して溶接部の延性を低下し、割れの起点となるため、0.0020mass%以下に制限するのが好ましい。より好ましくは0.0015mass%以下である。
Sn:0.050mass%以下
Snは、積極的に添加する元素ではなく、Snめっきや半田付けを施した鋼板を含むスクラップ等から不可避的に混入してくる不純物元素であり、単独であるいはCuと低融点化合物を形成し、溶接時における割れを助長する有害な元素である。よって、Snは0.050mass%以下に制限するのが好ましい。より好ましくは0.030mass%以下である。
Pb:0.0050mass%以下
Pbは、積極的に添加する元素ではなく、Pbを含む快切鋼や半田が施された鋼板を含むスクラップ等から不可避的に混入してくる不純物元素である。このPbは、溶接時に単独であるいはNi等と低融点の化合物を形成し、溶接部の割れを引き起こす原因となるので、0.0050mass%以下に制限するのが好ましい。より好ましくは0.0030mass%以下である。
Ca:0.0015mass%以下
Caは、脱酸剤として、また、Sを固定し、熱間加工性や耐食性を改善するために添加される元素である。しかし、過剰の添加は、母材中に含まれるCa系介在物量を増加させ、溶接部表面の異物付着を増加させる原因となるため、添加する場合は0.0010mass%以下に制限するのが好ましい。
Mg:0.050mass%以下
Mgは、溶接部に非金属介在物を形成し、溶接部の加工性を低下させる元素であるので、0.050mass%以下に抑えるのが好ましい。より好ましくは0.030mass%以下である。
N:0.02mass%以下
Nは、オーステナイト相を安定化する元素であるため、0.003mass%以上含有させるのが好ましい。しかし、Nは、Ti,Al等と窒化物を形成する元素であり、多量の添加は、フリーなTiやAlを低減したり、有害な介在物を増大したりするので、上限は0.02mass%とするのが好ましい。より好ましくは0.010mass%以下である。
O:0.0050mass%以下
Oは、溶接金属の溶け込み性の改善に有効な元素である。しかし、酸化物系介在物を形成して母材中に含まれる介在物量を増加させ、溶接部表面の異物付着量を増大させ、加工時に溶接部の割れを引き起こす原因となるため、できる限り低減するのが望ましい。よって、本発明では、Oは0.0050mass%以下に制限するのが好ましい。より好ましくは0.0030mass%以下である。
max=78P+103S+76B+4.5Sn+42Pb:2.5mass%以下
P,S,B,SnおよびPbは、NiやC,Mn,Nb等と低融点化合物を形成し、溶接部の割れを引き起こすため、前述した範囲内で、できる限り低減することが好ましい。さらに、これらの元素は、お互いに低融点化合物を形成して溶接時の割れを促進するため、図5に示したように、一括して制御するのが望ましい。そこで、本発明では、先述した各成分の影響度を考慮した下記式で表されるパラメータLmax
max=78P+103S+76B+4.5Sn+42Pb
を導入し、このLmaxが2.5mass%以下となるよう、上記各元素の含有量を制御するのが望ましい。より好ましいLmaxは2.0mass%以下である。
表1に示す各種成分組成を有するFe−Ni−Cr合金(No.1〜35)を溶製し、連続鋳造法にて厚さ150mm×幅1000mm×長さ6000mmのスラブとし、このスラブを1000〜1300℃に加熱後、熱間圧延して板厚3mmの熱延板とし、熱延板焼鈍し、酸洗し、冷間圧延して板厚1.0mmの冷延板とし、その後、焼鈍し、酸洗して冷延焼鈍材とした。次いで、上記のようにして得た各種冷延焼鈍材を、下記の評価試験に供した。なお、参考例としてAlloy840(No.36)およびAlloy800(No.37)についても同様にして冷延焼鈍材を作製し、同様の評価試験に供した。
<母材の耐食性評価>
上記冷延焼鈍板の母材の耐食性を評価するため、板厚1mm×幅25mm×長さ50mmの試験片を採取し、ASTM G48 Method Cに準拠して25℃の6mass%FeCl+1mass%HCl溶液に48hr浸漬する腐食試験を行った。上記腐食試験後、試験片表面に発生した孔食深さを、非接触段差測定機(ハイソメット;ユニオン光学(株)製)を用いて測定し、0.025mm以上を耐食性劣(×)、0.025mm未満を耐食性良(○)と評価した。
<σ相の溶接部への析出有無の確認>
板厚1.0mmの冷延焼鈍板に、TIG溶接(溶接電流100A、溶接速度600mm/min)でビードオンプレート溶接を施した試験材を作製し、その試験材から溶接部を含む試料を切り出し、溶接部の熱影響部断面をKOHでエッチングし、光学顕微鏡を用いて組織観察することでσ相の析出有無を調査した。その結果、σ相が確認されたものを相安定性劣(×)、σ相が確認されなかったものを相安定性良(○)と評価した。
<σ相析出による溶接部の耐食性評価>
上記のビードオンプレート溶接した試験材から、溶接部を幅中央に含む、板厚1mm×幅25mm×長さ50mmの試料を切り出し、溶接部の耐食性を評価した。上記耐食性は、上記試料を、ASTM G48 Method Cに準拠して、25℃の6mass%FeCl+1mass%HCl溶液に48hr浸漬する腐食試験をした後、溶接金属表面に発生した孔食深さを、非接触段差測定機(ハイソメット;ユニオン光学(株)製)を用いて測定し、その結果、孔食の最大深さが0.025mm以上のものを耐食性劣(×)、0.025mm未満を耐食性良(○)と評価した。
<Cr炭化物の溶接部への析出有無の確認>
上記のビードオンプレート溶接した試験材から、溶接部を含む試料を切り出し、溶接部断面をJIS G0571に規定されたシュウ酸でエッチングし、熱影響部の粒界が溝状にエッチングされた割合(Cr炭化物による粒界被覆率(%))を測定し、60%以上を×、60%未満を○と評価した。
<Cr炭化物析出による溶接部の鋭敏化評価>
上記のビードオンプレート溶接した試験材から、溶接部を長さ方向1/2の位置に幅方向に平行となるように含む、板厚1mm×幅30mm×長さ100mmの試料を採取し、23mass%HSO+1.2mass%HCl+1mass%FeCl+1mass%CuClの沸騰溶液中に16時間連続して浸漬した後、溶接部が外側の頂点になるようにして溶接方向と平行方向に曲げ半径R8mmの曲げ試験を行い、割れの発生の有無を調査し、割れが生じたものをCr炭化物が析出して鋭敏化したもの(×)、割れが生じなかったものをCr炭化物の析出がなく、鋭敏化なしのもの(○)と評価した。
<溶接部の割れ性評価>
板厚3mmの熱延板を用いて、バレストレイン試験を実施し、溶接部の割れ性を評価した。上記バレストレイン試験は、溶接電流120A、溶接速度120mm/minの条件でTIG溶接しながら、曲げ半径R300mmで0.5%の曲げ歪を溶接方向と平行方向に付与した。そして、溶接金属の凝固点直下で発生した割れの最大長さを測定し、溶接部の割れ性を評価した。
<溶接部割れの試験溶接部の曲げ試験>
上記バレストレイン試験で発生した割れが、曲げ加工によりどの程度まで拡大するかを調べるため、バレストレイン試験で発生した割れを残したまま、溶接面とは反対の面を放電加工で減厚して1mmの板厚とし、割れが発生した部分が頂点となるようにして溶接方向と平行方向に曲げ半径R8mmの曲げ試験を行い、再度、割れ長さを測定し、最大割れ長さが0.4mm未満のものを○、0.4mm以上0.5mm未満のものを△、0.5mm以上のものを×と判定した。
<溶接部の性状評価>
板厚1.0mmの焼鈍板に、TIG溶接(溶接電流40A、溶接速度900mm/min)でビードオンプレート溶接を施し、溶接条件が安定した長さ200mmの溶接部の表面を、光学顕微鏡を用いて100倍で50視野(延べ測定面積40mm)観察し、表面に付着した30μm以上の大きさの異物の個数を測定した。
<溶接部の曲げ試験>
上記ビードオンプレート試験した試験材から溶接部を幅中央に含む板厚1mm×幅30mm×長さ100mmの試料を採取し、溶接面側を外側にして溶接方向と直角方向に、曲げ半径R8mmの曲げ試験を各3回実施し、曲げ試験後、溶接部に発生した割れの有無を調査した。また、試料採取後にSiC研摩紙(#120)で、溶接部の溶接金属表面が平らになるよう研摩したものを用意し、同様の方法で試験を行い、割れ発生有無を調査した。その結果、いずれの条件においても割れの発生が認められなかったものを○、研摩無しでは割れが発生したが、研摩後では割れが発生しなかったものを△、いずれの条件においても割れが発生したものを×と評価した。
<母材の介在物個数評価>
ビードオンプレート溶接した試験材の中で、溶接の影響を受けていない母材の任意の断面を200倍の光学顕微鏡で観察し、400μm×500μmの面積中に存在する30μm以上の介在物個数を測定し、上記測定個数の50視野(延べ測定面積10mm)の個数を測定した。
Figure 0005984213
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表2から、本発明の条件を満たす鋼は、母材の耐食性に優れるだけでなく、溶接部のオーステナイト相の耐食性、相安定性、加工性のいずれにも優れていることがわかる。
本発明のオーステナイト系Fe−Ni−Cr合金は、温水給湯器等の湿潤腐食環境下で使用される被覆管に限定されるものではなく、例えば、高温湿潤環境下で使用されるボイラ配管や、高温乾食環境下で使用されるガス配管等にも好適に用いることができる。

Claims (3)

  1. C:0.005〜0.03mass%、Si:0.15〜1.00mass%、P:0.030mass%以下、S:0.0020mass%以下、Mn:2.5mass%以下、Ni:18〜40mass%、Cr:18〜30mass%、Mo:0.3〜4.0mass%、Co:0.09〜4.0mass%、Cu:0.03〜0.30mass%およびAl:0.03〜0.45mass%を含有し、さらに、Ti,NbおよびVのうちから選ばれる1種以上をTi:0.004〜0.50mass%、Nb:0.001〜0.50mass%およびV:0.001〜0.50mass%の範囲、かつ、それらのうちの1種以上を0.10〜0.50mass%の範囲で含有し、さらに、上記成分が下記(1)式および(2)式を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する被覆管用オーステナイト系Fe−Ni−Cr合金。

    γs=1.5Ni+Mn+1.5Co+4.6Cu−6.9Cr−16.3Mo−27.6Si−3.3Al≧−180 ・・・(1)
    (Ti+Nb+V)/C≧10 ・・・(2)
    (ただし、上記(1)式および(2)式中の元素記号は、その元素の含有量(mass%)を表わす。)
  2. P,S,B,SnおよびPbを、B:0.0020mass%以下、Sn:0.050mass%以下およびPb:0.0050mass%以下、かつ、下記(3)式を満たして含有することを特徴とする請求項1に記載の被覆管用オーステナイト系Fe−Ni−Cr合金。

    Lmax=78P+103S+76B+4.5Sn+42Pb≦2.5 ・・・(3)
    (ただし、上記(3)式中の元素記号は、その元素の含有量(mass%)を表わす。)
  3. Ca,Mg,NおよびOの含有量がそれぞれCa:0.0015mass%以下、Mg:0.050mass%以下、N:0.02mass%以下およびO:0.0050mass%以下であり、かつ、任意の断面における30μm以上の介在物個数が30個/10mm 以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の被覆管用オーステナイト系Fe−Ni−Cr合金。
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