本発明のSiC単結晶成長方法において、原料溶液としてはケイ素元素および炭素元素を含む溶液を用いる。この原料溶液にSiC種結晶を接触させて、少なくともSiC種結晶近傍の溶液を過冷却状態にする。このことで、原料溶液のC濃度がSiC種結晶近傍において過飽和状態になるようにし、SiC種結晶上にSiC単結晶を成長(主としてエピタキシャル成長)させる。液相成長法では、熱平衡状態に近い環境で結晶成長が進行するため、積層欠陥などの欠陥の密度が低い良質なSiC単結晶を得ることが可能である。なお、原料溶液の材料は特に限定されず、一般的なものを使用することができる。例えば、原料溶液のSi源としては、SiまたはSi合金を用いることができる。具体的には、Siを主成分とし、Ti、Cr、Sc、Ni、Al、Co、Mn、Mg、Ge、As、P、N、O、B、Dy、Y、Nb、Nd、Feから選ばれる少なくとも一種を加えた合金溶液等である。原料溶液のC源としては、黒鉛、グラッシーカーボン、SiC、メタン、エタン、プロパン、アセチレンなどの炭化水素ガス、および、下記に上げる元素Xの炭化物(X=Li、Be、B、Na、Mg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Br、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ba、Hf、Ta、W、La、Ce、Sm、Eu、Ho、Yb、Th、U、Pu)から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。なお、SiC種結晶としては、4H−SiCおよび6H−SiCに代表される種々の結晶多形を用いることができる。
何れの場合も、SiC単結晶におけるステップ進展方向の逆方向に沿って原料溶液を流動させることで、結晶成長面に存在するステップバンチングの少なくとも一部を解き、結晶成長面を略平滑化することが可能である。また、原料溶液の流動方向をSiC単結晶のステップ進展方向に沿った方向にすることで、ステップバンチングを生じさせ、結晶成長面に高さの高いステップを形成することが可能である。ところで、本明細書において、原料溶液の流動方向を単結晶のステップ進展方向に沿った方向にする、とは、原料溶液の流動方向をステップ進展方向と平行または略平行な方向にすることをいう。原料溶液の流動方向とステップ進展方向とは、交差角が±15°以内となれば良い。原料溶液の流動方向とステップ進展方向との交差角は10°以内であるのが好ましく、±5°以内であるのがより好ましい。
なお本明細書において、原料溶液の流動とは対流でなく強制流を指す。つまり、一般的に液相成長法において、原料溶液には温度勾配等が形成されているため、外力により原料溶液を強制流動させない場合にも、原料溶液の対流が生じている場合がある。本発明の製造方法においては、この対流を打ち消す程度に原料溶液を強制流動させる。原料溶液の強制流動方法は特に問わない。例えば、坩堝等の容器内に収容された原料溶液中で結晶成長をおこなう場合には、容器に外力を加え、容器を回転または振動させることで、容器内の原料溶液に間接的に外力を作用させ、強制流動を生じさせても良い。或いは、原料溶液に直接磁場を印加することで、原料溶液を強制流動させても良い。なお、原料溶液が流動する、とは、液槽中の原料溶液と種結晶の結晶成長面との少なくとも一方が他方に対して相対的に位置変化する、と言い換えることができる。つまり、種結晶自体を位置変化させることで原料溶液と種結晶とを相対的に位置変化させつつ、結晶成長をおこなうことも可能である。
また、本明細書におけるステップの高さhとは、図1に示すテラス面P1とP2との距離を指す。より詳しくは、ステップの高さは以下のように説明できる。図1に示すように、任意のステップS1のテラス面(つまりSiC種結晶自体の結晶成長方向における先端面)をテラス面P1とし、当該テラス面P1を通る直線を直線L1とする。また、当該ステップS1のステップ進展方向の先側に隣接する他のステップS2のテラス面をP2とし、当該テラス面P2を通る直線を直線L2とする。この場合にステップS1の高さは直線L1と直線L2との距離に相当する。なお、本明細書においては、70nmを超える高さのステップをマクロステップと呼ぶ。
(実施形態)
(試験1)
以下、具体例を挙げて、本発明のSiC単結晶およびその製造方法を説明する。
高周波加熱グラファイトホットゾーン炉を用いて、SiC単結晶を製造した。この単結晶成長装置を模式的に表す説明図を図2に示す。単結晶成長装置20は、カーボン製の坩堝21と、この坩堝21を加熱する加熱要素22と、坩堝21の内部に対して自在に位置変化可能である保持要素23と、坩堝21を回転させる坩堝駆動要素24と、これらを収容するチャンバー(図略)とを持つ。坩堝21は上方に開口する有底の略円筒状をなす。坩堝21の内径は45mmであり、深さは50mmである。加熱要素22は誘導加熱式のヒータである。加熱要素22はコイル状の導線25と、導線25と図略の電源とを接続する図略のリード線とを持つ。導線25は坩堝21の外側に巻回されて、坩堝21と同軸的なコイルを形成している。保持要素23は、ロッド状をなすディップ軸部26と、ディップ軸部26を駆動するディップ軸駆動部(図略)と、を持つ。ディップ軸部26の直径は10mmであり、ディップ軸部26の長手方向の一端部(図2中下端部)は二つに分岐している。各々の先端にはSiC種結晶1を保持可能な保持部28が形成されている。保持要素23は後述する位置調整要素3に保持されている。
試験1においては、この単結晶成長装置を用い、溶液引き上げ(TSSG:Top Seeded Solution Growth)法に基づいて、SiC種結晶1を坩堝21の中の原料溶液29に浸すとともに引き上げながら結晶成長させた。
詳しくは、坩堝駆動要素24によって坩堝21を一方向に回転させ、図3に示すように、坩堝21内において原料溶液29の流れを図中矢印に示すように一方向に形成した。より具体的には、カーボン製の坩堝21中でSi(純度11N、株式会社トクヤマ製)を加熱要素22により加熱することで、坩堝21に含まれるCを坩堝21中のSi融液に溶出させて、原料溶液29を得た。なお、前処理として、SiC種結晶およびSiは予め、メタノール、アセトン、および精製水(18MΩ/cm)中でそれぞれ超音波洗浄した。
単結晶成長装置20における加熱要素22の設定温度は1700℃であり、坩堝21中には21℃/cmの図2中上下方向(坩堝21の液面−底面方向)に向けた温度勾配が形成された。つまり、坩堝21中に収容されている原料溶液29は、導線25の近傍に位置しかつ坩堝21の内面21aに隣接する部分において最も高温である。坩堝21の中心部に近づく程(坩堝の内面21aから離れる程)、あるいは、坩堝21の軸方向すなわち図2に示す上下方向に導線25から離れる程、原料溶液29の温度は低くなる。このように坩堝21中の原料溶液29に温度勾配を形成した状態で、チャンバー内部に高純度(99.9999体積%)のアルゴンガスを供給しつつ、SiC種結晶1(以下、単に種結晶1と呼ぶ)を保持したディップ軸部26を坩堝中21に挿入した。
保持要素23は、図2に示すディップ軸部26と位置調整要素3とを含む。より具体的には、ディップ軸部26は位置調整要素3に保持され、坩堝21の径方向および回転軸L0方向に対して移動可能であり、坩堝21内部における略全領域に種結晶1を配置し得る。位置調整要素3は、坩堝21の上方に配置され略板状をなすxyテーブル30と、xyテーブル30に取り付けられているx方向案内部30xと、x方向案内部30xに取り付けられているy方向案内部30yと、xyテーブル30に取り付けられているz方向案内部30zとを持つ。
図4に示すように、x方向案内部30xおよびy方向案内部30yはそれぞれ略棹状をなす。x方向案内部30xはxyテーブル30に固定されている。y方向案内部30yの一端部はx方向案内部30xにスライド可能に取り付けられている。したがって、y方向案内部30yはx方向案内部30xの長手方向(図4中矢印x方向)に沿ってスライド可能である。y方向案内部30yとx方向案内部30xとの間には、x方向駆動部31xが介在している。x方向駆動部31xは、第1モータ(図略)と、第1モータの回転運動をx方向の直線運動に変換するとともにy方向案内部30yに伝達する第1伝達機構(図略)とを含み、y方向案内部30yをx方向に自動的にスライドさせる。
y方向案内部30yにはディップ軸部24aが取り付けられている。ディップ軸部24aはy方向案内部30yの長手方向(図4中矢印y方向)に沿ってスライド可能である。y方向案内部30yとディップ軸部24aとの間には、y方向駆動部31yが介在している。y方向駆動部31yは、第2モータ(図略)と、第2モータの回転運動をy方向の直線運動に変換するとともにディップ軸部24に伝達する第2伝達機構(図略)とを含み、ディップ軸部24をy方向に自動的にスライドさせる。
xyテーブル30にはz方向案内部30zが取り付けられている。z方向案内部30zはz方向(図2中上下方向)に沿ってスライド可能である。xyテーブル30とz方向案内部30zとの間には、z方向駆動部31zが介在している。z方向駆動部31zは、第3モータ(図略)と、第3モータの回転運動をz方向の直線運動に変換するとともにxyテーブルに伝達する第2伝達機構(図略)とを含み、xyテーブルをz方向に自動的にスライドさせる。なお、ディップ軸部24、x方向案内部30xおよびy方向案内部30yもまた、xyテーブル30に従動して上下にスライドする。
x方向案内部30xの長手方向xとy方向案内部30yの長手方向yとは、互いに交差する方向(試験1においては略直交する方向)であり、ディップ軸部24aはxyテーブル30と平行な面上、つまり、xy平面上を自在に移動可能である。ディップ軸部24aの長手方向はy方向案内部30yの長手方向yおよびx方向案内部30xの長手方向xと交差する方向(試験1では略直交する方向)であり、かつ、上述したようにディップ軸部24aは高さ方向(坩堝21の深さ方向:z軸方向)にスライド可能である。このため、ディップ軸部24aに保持された種結晶1は、坩堝21内をx軸方向およびy軸方向に移動可能であるとともに、xyテーブルと略直交する方向(z軸方向、図2に示す上下方向)にも移動可能である。つまり、試験1で用いた結晶製造装置においては、坩堝21内の略全領域にわたって種結晶1を配置可能である。またディップ軸部24aは、x方向駆動部31x、y方向駆動部31yおよびz方向駆動部31zによって、坩堝21の回転軸L0を中心としxy平面上を円弧方向に移動可能である。換言すると、ディップ軸部24aは坩堝21の回転軸L0を中心としてxy平面上を公転可能である。
さらに、ディップ軸部24aにはモータ39が取り付けられている。モータ39はディップ軸部24aとともにx軸方向、y軸方向およびz軸方向に移動する。このモータ39は、ディップ軸部24aを回転(自転)駆動可能である。この結晶製造装置においては、ディップ軸部24aを回転(公転および/または自転)させることでも、原料溶液(SiC溶液)29を流動させることができる。つまり、モータ39、x方向駆動部31x、y方向駆動部31y、z方向駆動部31zおよびディップ軸部24aは、溶液流動要素として用いることも可能である。
種結晶1としては、気相成長法(昇華法)で製造された4H−SiC単結晶(10mm×10mm×厚さ0.35mm)を用いた。図5に示すように、この種結晶1の結晶成長面すなわち(0001)面に、[11−20]方向に向けたオフセット面を切削形成した。このときのオフ角は1.25°であった。この種結晶1を二つ準備し、図2に示すように、各保持部28に各々一つずつ取り付けた。このとき各種結晶1のなかでオフ角を形成した結晶成長面は、坩堝21中の原料溶液29に対面した。そして、ディップ軸駆動部によりディップ軸部26を坩堝21の内部に向けて進行させ、種結晶1を原料溶液29に浸漬した。原料溶液29が温度の低い種結晶1付近で冷却されることで、種結晶1の表面にSiC結晶が成長した。なお、結晶成長は加速るつぼ回転法(accelerated crucible rotation technique)に基づいておこなった。つまり結晶成長中は坩堝駆動要素24によって坩堝21を回転させた。この坩堝21の回転によって、坩堝21内の原料溶液29が坩堝21の回転方向と同方向に流動した(図3)。また、坩堝21内には2つの種結晶(種結晶1a、種結晶1b)が配置され、各種結晶1a、1bは坩堝21の回転軸L0よりも坩堝21の径方向外側に配置されている。このため、原料溶液29は種結晶1の結晶成長面の近傍においても流動した。
ところで、上述したように、2つの種結晶1a、1bの表面には[11−20]方向に向けたオフ角が形成されている。このため、各種結晶1a、1b上に成長するSiC単結晶のステップ進展方向は[11−20]方向に案内されている。これに対して原料溶液29は、種結晶1aの近傍においてはステップ進展方向と略同方向になるように流動し、かつ、種結晶1bの近傍においてはステップ進展方向と略逆方向になるように流動した。なお、このときの坩堝21の回転速度(最高速度)は約20rpmであった。
なお、x方向案内部30x、y方向案内部30yおよびディップ軸部26には、各々の長手方向に沿って目盛りが形成されている。x方向案内部30x、y方向案内部30yおよびディップ軸部26の目盛りによって、ディップ軸部26、ひいてはディップ軸部26に固定されている種結晶1の坩堝21中における座標を把握することが可能であり、種結晶1を坩堝21内における望み通りの位置に再現性高く配置することが可能である。
坩堝21内における原料溶液の流動方向および流速は、例えば、坩堝21の回転数や原料溶液の量、温度等に基づいて演算することができる。そして、検知または演算により得た原料溶液の流動方向に基づいて、ディップ軸部26および種結晶1の位置を適宜調整することで、種結晶1上のSiC単結晶のステップ進展方向と原料溶液の流動方向とを逆方向または同方向にすることができる。
SiC種結晶1a上におけるSiC単結晶のステップ進展方向と原料溶液29の流動方向とを略同方向とし、SiC種結晶1b上におけるSiC単結晶のステップ進展方向と原料溶液29の流動方向とを略逆方向としつつ、結晶成長を続け、原料溶液29よりも低温の種結晶1a、1bの結晶成長面上にSiC単結晶を成長させた。このときの成長温度は1700℃であった。また、原料溶液29の流動速度は8.6cm/sであった。
成長開始(つまり種結晶1と原料溶液29との接触開始後)から20分後、ディップ軸駆動部によりディップ軸部26を上方に移動させ、結晶成長した2つの種結晶1(つまりSiC単結晶)を原料溶液29から引き上げた。引き上げた2つのSiC単結晶10は、表面に残存する原料溶液を除去するため、HNO3とHFとの混液(HNO3:HF=2:1)でエッチングした。以上の工程で、試験1のSiC単結晶を得た。このうち、種結晶として1aを用いたものを試験1aのSiC単結晶と呼び、種結晶として1bを用いたものを試験1bのSiC単結晶と呼ぶ。試験1aのSiC単結晶および試験1bのSiC単結晶の何れにも、ステップの進展を伴う結晶成長が生じていた。
原子間力顕微鏡(AFM)を用い、試験1aのSiC単結晶および試験1bのSiC単結晶に形成されたステップの高さを測定した。測定結果を図6および図7に示す。詳しくは、図6の上図は試験1aのSiC単結晶の表面の高さ分布を表し、図6の下図は上図中A−B間の高さのプロファイルを表す。図7の上図は試験1bのSiC単結晶の表面の高さ分布を表し、図7の下図は上図中C−D間の高さのプロファイルを表す。図6に示すように、原料溶液の流動方向とステップ進展方向とが略同一方向であった試験1aのSiC単結晶において、ステップの平均高さは103nmであり、ステップ高さの高いマクロステップが形成されていた。これに対して、図7に示すように、原料溶液の流動方向とステップ進展方向とが略逆方向であった試験1bのSiC単結晶において、ステップの平均高さは66nmであり、試験1aのSiC単結晶のように大きなステップは形成されていなかった。
結晶成長中のSiC単結晶1aおよび1bにおけるステップ高さの経時変化を表すグラフを図8に示す。図8に示すように、SiC溶液29の流動方向とステップ進展方向とが同方向であった試験1aのSiC単結晶に関しては、結晶成長時間が経過するのに伴い(つまり、結晶成長が進行するのに伴い)、ステップ高さが高くなった。つまり、ステップバンチングが進行し、ステップ高さの高いステップ(マクロステップ)が形成された。一方、SiC溶液29の流動方向とステップ進展方向とが逆方向であった試験1bのSiC単結晶に関しては、結晶成長時間が経過するのに伴い、ステップ高さが低くなった。つまり、ステップバンチングが解け、結晶成長面が平滑化された。このように、本発明の結晶成長方法によると、結晶成長面におけるステップバンチングを減少させ(ステップバンチングを解き)、結晶成長面を平滑化することが可能である。また、本発明の結晶成長方法によると、結晶成長面におけるステップバンチングの形成を進行させることができ、マクロステップを形成しつつ単結晶を結晶成長させ得る。そして、貫通らせん転位等の欠陥を基底面の欠陥が変換された単結晶を得ることができる。
試験1では、坩堝21を回転させることによって、原料溶液29を流動させたが、例えばディップ軸部26を原料溶液29中で回転運動または往復運動させる等して、原料溶液29を流動させることもできる。この場合、ディップ軸部26を駆動するための軸部駆動要素(例えばモータ等)や、軸部駆動要素の駆動力をディップ軸部26に伝達するための軸伝達部(例えばギヤやラックアンドピニオン機構、プーリー機構、クランクシャフト等)を設ければ、ディップ軸部26を自動的に駆動できる。
ところで、SiC単結晶を結晶成長させる際に、種結晶における貫通らせん転位上にマクロステップを進展させる場合には、結晶成長方向に延びる欠陥(例えば貫通らせん転位や貫通刃状転位等)を、基底面に略平行な欠陥(基底面の積層欠陥や基底面転位)等に変換させることができる。つまり、本発明のSiC単結晶の製造方法により、ステップ進展方向に沿って原料溶液を流動させつつ結晶成長させることで、SiC単結晶の結晶成長面にステップバンチングを生じさせ、ひいてはマクロステップを形成することができる。そして、欠陥上にマクロステップを進展させることで、貫通らせん転位等の欠陥の低減したSiC単結晶を得ることが可能である。そして、その後、本発明のSiC単結晶の製造方法により、ステップ進展方向の逆方向に沿って原料溶液を流動させつつ結晶成長させることで、貫通らせん転位等の欠陥が低減し、かつ、表面が平滑化したSiC単結晶を得ることが可能である。
〔ステップ高さと貫通らせん変換率との関係〕
(参考試験1)
参考試験1のSiC単結晶製造方法は、SiC種結晶の(0001)面に形成するオフ角が1.25°となるように切削加工を施したこと、および、原料溶液を結晶成長面に対して一方向に強制流動させなかったこと以外は試験1のSiC単結晶製造方法と同じ方法である。参考試験1のSiC単結晶製造方法により、参考試験1のSiC単結晶を得た。
(参考試験2)
参考試験2のSiC単結晶製造方法は、種結晶の(0001)面に形成するオフ角が2°となるように切削加工を施したこと以外は、参考試験1のSiC単結晶製造方法と同じ方法である。参考試験2のSiC単結晶製造方法により、参考試験2のSiC単結晶を得た。
(参考試験3)
参考試験3のSiC単結晶製造方法は、オフ角の角度以外は参考試験1のSiC単結晶製造方法と同じ方法である。具体的には、参考試験3において種結晶に形成したオフ角は4°であった。参考試験3のSiC単結晶製造方法により、参考試験3のSiC単結晶を得た。
(参考試験4)
参考試験4のSiC単結晶製造方法は、オフ角の角度以外は参考試験1のSiC単結晶製造方法と同じ方法である。具体的には、参考試験4において種結晶に形成したオフ角は0.75°であった。参考試験4のSiC単結晶製造方法により、参考試験4のSiC単結晶を得た。
(参考評価試験)
〔貫通らせん転位の変換率〕
放射光X線を用いたX線トポグラフィー法を用いて、上記の参考試験1〜3のSiC単結晶を観察し、各SiC単結晶に残存する欠陥を評価した。なお、結晶成長前の種結晶についても同じ方法で欠陥の評価をおこなった。X線トポグラフィー法については、ビームラインとしてPhoton factory BL−15Cを用いた。波長は0.150nmであり、反射面は(11−28)であった。
図9は、種結晶、および、参考試験1の方法による結晶成長の初期におけるSiC単結晶を同一箇所で撮像したX線トポグラフィー像である。より具体的には、図9中左に示す像が種結晶のX線トポグラフィー像であり、図9中右に示す像が結晶成長初期における参考試験1のSiC単結晶のX線トポグラフィー像である。成長前の種結晶には点状のコントラストで表される貫通らせん転位TSDが数多く存在している。この貫通らせん転位TSDの多くは、成長後の結晶においてステップ進展方向に延びる線状のコントラストに変換している。TEM観察の結果から、このようなコントラストを示す欠陥は、部分転位を伴うフランク型の積層欠陥SFであることが明らかとなった。この結果から、参考試験1の製造方法によると種結晶に存在する貫通らせん転位を基底面の積層欠陥に変換し得ることがわかる。
図10〜図12は、種結晶、参考試験3の方法による結晶成長の初期におけるSiC単結晶、および参考試験3のSiC単結晶を同一箇所で撮像したX線トポグラフィー像である。より具体的には、図10に示す像は種結晶のX線トポグラフィー像である。図11に示す像は結晶成長初期における参考試験3のSiC単結晶のX線トポグラフィー像である。図12に示す像は参考試験3のSiC単結晶のX線トポグラフィー像である。図10、11に示すように、参考試験1に比べてオフ角を大きくした参考試験3のSiC単結晶は、成長初期において殆どの貫通らせん転位TSDが積層欠陥SFに変換している。そして、図12に示すように参考試験3の製造方法で得られたSiC単結晶はステップが進展した痕跡である段差が数多く形成され、殆どの貫通らせん転位TSDおよび積層欠陥SFは消失している。この結果から、オフ角の角度を大きくした参考試験3の製造方法によっても、種結晶に存在する貫通らせん転位を基底面の積層欠陥に変換し得ることがわかる。
上記の方法で得たX線トポグラフィー像から選択される任意の1mm×5mmの領域を目視でカウントすることにより、各参考試験に用いた種結晶の貫通らせん転位の数、および、各参考試験で得られたSiC単結晶の貫通らせん転位の数を計測した。そして、各参考試験で用いた各種結晶における貫通らせん転位の数を100個数%として、各参考試験による貫通らせん転位の変換率(%)を算出した。結果を図13に示す。
図13に示すように、オフ角の角度が大きくなる程、貫通らせん転位から積層欠陥への変換率(%)が高くなる。
〔ステップ高さとオフ角との関係〕
共焦点レーザー顕微鏡を用い、各参考試験で得られたSiC単結晶に形成されているステップの高さを測定した。具体的には、共焦点レーザー顕微鏡としてオリンパス株式会社製、LEXT OLS−3100を用い、各SiC単結晶をテラス面側から撮像した。参考試験1のSiC単結晶のレーザー顕微鏡像を図14に示し、参考試験2のSiC単結晶のレーザー顕微鏡像を図15に示し、参考試験3のSiC単結晶のレーザー顕微鏡像を図16に示す。図14〜図16に示す各像の濃淡はステップの高さを示す。ステップ進展方向は各図中上下方向(淡色側→濃色側方向)である。図14〜図16に示すように、参考試験1〜3のSiC単結晶には、バンチングした多数のステップが形成されている。そしてこれら多数のステップが縞状に整列していることから、これらのSiC単結晶においてステップが進展したこともわかる。さらに、各ステップの高さは参考試験3>参考試験2>参考試験1であることもわかる。一例として、図14に示す参考試験1のSiC単結晶のレーザー顕微鏡像を基に得た、SiC単結晶のステップを模式的に表す説明図を図17に示す。これらの図から、参考試験1〜3のSiC単結晶におけるステップの高さおよびテラス幅を読み取った。参考試験1〜3の各SiC単結晶におけるステップ高さとオフ角との関係を図18に示し、参考試験1〜3の各SiC単結晶におけるテラス幅とオフ角との関係を図19に示す。図18に示すように、オフ角が大きい程、ステップ高さの高いステップが形成された。このため、オフ角が大きい程、ステップ高さの高いステップ(マクロステップ)を多く含むSiC単結晶を得ることができると考えられる。
参考試験1〜3において種結晶に形成したオフ角と、図18に示される各SiC単結晶におけるステップ高さの最小値と、の関係を貫通らせん転位の変換率とともに図13に示す。図13に示すように、貫通らせん転位の変換率と、SiC単結晶におけるステップ高さの最小値とには正の相関があり、ステップ高さの最小値が大きい程、貫通らせん転位の変換率が高くなることがわかる。オフ角1.25°でありステップ高さの最小値が80nmである参考試験1のSiC単結晶においては90%以上の貫通らせん転位が変換した。また、オフ角4°でありステップ高さの最小値が100nmである参考試験3のSiC単結晶では99%以上の貫通らせん転位が変換した。このように、ステップ高さの高いマクロステップを形成することで、貫通らせん転位の積層欠陥への変換率は大きく向上する。
なお、本発明のSiC単結晶の製造方法においては、全てのステップがマクロステップでなくても良い。少なくとも一つのマクロステップが形成されれば、貫通らせん転位の変換率が向上し、貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を得ることが可能である。勿論、上述したようにマクロステップが多く形成されれば(例えば、参考試験3のようにステップ高さの最小値が100nm以上である場合等には)、貫通らせん転位の著しく低減したSiC単結晶を得ることができる。つまり、本発明のSiC単結晶の製造方法によると、マクロステップの数や高さを適宜調整することで、貫通らせん転位のないSiC単結晶を得ることも可能である。参考までに、図19に示すように、オフ角が大きい程、テラス幅は小さくなる。
マクロステップの数は、多ければ多い方が好ましい。一つの貫通らせん転位上を複数のマクロステップが進展すれば、貫通らせん転位が変換される頻度が高まるからである。好ましいマクロステップの数は、以下の計算に基づき、好ましいマクロステップの密度として表すことができる。
上述したように、参考試験3のSiC単結晶においては貫通らせん転位のほぼ100%が変換していた。このSiC単結晶の厚さ(結晶成長した分の厚さ)は20μmであった。このときのマクロステップの高さの最小値は100nm(0.1μm)であったため、結晶成長面上をマクロステップが進展する現象が200回以上生じると、SiC単結晶の貫通らせん転位のほぼ全てが変換すると考えられる。換言すると、一つの貫通らせん転位上をマクロステップが200回以上進展すれば貫通らせん転位はほぼ確実に変換すると考えられる。参考試験3のSiC種結晶における結晶成長面は1cm×1cmであったため、特に好ましいマクロステップの密度(線密度)は200個/cm以上であると言える。なお、実際にはマクロステップの線密度が100個/cm以上あれば、大多数の貫通らせん転位は変換する。つまり、マクロステップの好ましい線密度は100個/cm以上であると言える。マクロステップの線密度は、250個/cm以上であるのがより好ましく、500個/cm以上であるのがさらに好ましい。なお、貫通らせん転位の変換が生じたSiC単結晶における平均的なマクロステップの線密度ρは1000個/cm程度であったため、マクロステップの線密度ρは1000個/cm以上であるのが特に好ましく、2000個/cm以上であるのがより一層好ましいといえる。
参考までに、ここでいうマクロステップの数とは、結晶成長における任意の時点におけるマクロステップの個数をいう。マクロステップの個数は、SiC単結晶上に残存する縞状の段差の数と近似する。この縞状の段差の数をステップの個数と見なしても良い。また、SiC種結晶における結晶成長面の大きさは、SiC単結晶における結晶成長面の大きさと近似する。したがって、SiC単結晶の結晶成長面に残存する縞状の段差の密度を測定することで、マクロステップの密度を測定することが可能である。なお、SiC単結晶の結晶成長面に残存する縞状の段差の数は、レーザー顕微鏡下で測定することができる。
ところで、上述した好ましいマクロステップの個数または密度は、以下のように表現することもできる。
マクロステップの平均高さをh(cm)、SiC単結晶の成長厚さをt(cm)、マクロステップの線密度、つまり、単位長さ(1cm)あたりに縞状の段差が幾つあるかをρ(1/cm)、平均的なマクロステップの間隔Waveを1/ρ(cm)とする。
結晶成長面上をマクロステップが進展する場合を、結晶成長面上の任意の点Aに注目して考える。SiC単結晶が厚さt成長すると、点A上をマクロステップがn=t/h(回)通過する。また、点A上をマクロステップがn回通過するためには、点Aからn×Wave(cm)だけ離れたところから点Aに向けてマクロステップが進展する必要がある。つまり、SiC単結晶のステップ進展方向に向けた長さがy(cm)とすると、厚さt(cm)成長するということは、SiC種結晶全体のステップ進展方向に向けた長さのt/yの割合を成長したことになる。
また、貫通らせん転位が変換するのに必要なマクロステップ通過回数がN回とすると、SiC単結晶は厚さN×hだけ成長する必要がある。また、マクロステップが貫通らせん転位をN回通過するためには、貫通らせん転位からN×Wave(cm)離れたところのマクロステップが貫通らせん転位を通過する必要がある。つまり、マクロステップはN×Wave(cm)以上進展する必要がある。
平均的なマクロステップの線密度ρは1000個/cmである。また、マクロステップの好ましい高さは上記のとおり0.1μmである。このため、上式を考慮すると、一つの貫通らせん転位上をマクロステップが100回以上進展するためには、SiC単結晶の成長厚さは、100×0.1μm=10μm以上である事が好ましい。より好ましい成長厚さは、20μm以上である。また、マクロステップの好ましい進展距離(cm)は、100×Wave=100×1/ρ=100×1/1000=1/10cm=1mmである。
なお、多くの貫通らせん転位を変換するためには、マクロステップが広域にわたって連続的に進展するのが好ましい。図12に示すX線トポグラフィー像の全長は約1000μmである。マクロステップはこの像の全域にわたって形成され、その線密度は上述した好ましい範囲つまり100個/cm以上である。このため、マクロステップは100個/cm以上(より好ましくは200個/cm)の線密度で1mm以上にわたって連続するのが好ましいと言える。マクロステップが連続する長さは長ければ長い方が好ましい。このため、マクロステップは100個/cm以上(より好ましくは200個/cm)の線密度で3mm以上にわたって連続するのが好ましく、5mm以上にわたって連続するのが好ましいと考えられる。
また、SiC単結晶における貫通らせん転位の総数を低減するためには、マクロステップが多くの貫通らせん転位上を進展するのが好ましい。つまり、種結晶の結晶成長面上において、マクロステップが進展する領域を大きくするのが好ましい。例えば、マクロステップが結晶成長面全体を進展する場合には、SiC単結晶に残存する貫通らせん転位の総数を大きく低減できる。結晶成長面におけるマクロステップの進展領域は、SiC単結晶における(0001)結晶成長面を100面積%としたときに、30面積%以上であるのが好ましく、50面積%以上であるのがより好ましい。なお、SiC単結晶の表面(結晶成長面)において、上述した規則的な縞状の段差が生じている領域を、マクロステップが進展した領域だとみなすことができる。上述したように、SiC種結晶における結晶成長面とSiC単結晶における結晶成長面とは同じ面積だとみなすことが可能であるため、本発明の製造方法で得られたSiC単結晶の結晶成長面、および、この結晶成長面上において縞状の段差が残存する領域の面積を測定することで、マクロステップの進展領域を測定することが可能である。SiC種結晶の結晶成長面全体にマクロステップを進展させるためには、例えば、参考試験1のように種結晶の結晶成長面にオフ角を設けるのが好ましいが、この方法に限定されない。
このように、マクロステップを進展させることにより欠陥の少ないSiC単結晶を得ることができる理由は明らかではないが、以下のように推測される。
図20に示すように(0001)面に対して略垂直な方向に延びる貫通らせん転位TSDは、上述したマクロステップSmを進展させることで、図21、22に示すように(0001)面(つまり基底面)に対して略平行な方向に延びる積層欠陥SFに変換されると考えられる。
図20〜22中矢印で示すように、SiC単結晶が結晶成長する際に各ステップSが進展する方向(ステップ進展方向)は、(0001)面と略平行な方向である。一方、貫通らせん転位TSDの成長方向は(0001)面と略垂直な方向である。つまりステップ進展方向と貫通らせん転位TSDの成長方向とは略直交する。したがって、マクロステップSmを持つSiC種結晶1の結晶成長時においては、図21に示すようにマクロステップSmが貫通らせん転位TSDの上を通過しつつ結晶成長する。すると、図22に示すように貫通らせん転位TSDの成長方向が(0001)面と略平行な方向に変化し、積層欠陥SFに変換される。このような現象が生じる理由は明らかではないが、ステップの高さが関係すると考えられる。つまり、貫通らせん転位TSDの成長方向と、SiC単結晶のステップ進展方向とは略直交する。このため、結晶成長面(0001)に形成されているステップの高さが大きい場合には(つまり、ステップがマクロステップSmであれば)、鏡像力(image force)によって貫通らせん転位TSDが曲げられ易く、基底面の積層欠陥SFに変換され易いと考えられる。換言すると、本発明のSiC単結晶の製造方法では、種結晶1にマクロステップSmを形成し、このマクロステップSmが貫通らせん転位TSD上を進展しさえすれば、貫通らせん転位TSDを変換することができる。従来の結晶成長方法においては、高さの高いステップSを形成しないように結晶成長させるのが良いとされていた。このため、従来の結晶成長方法によると、高さの低いステップSのみが形成され、マクロステップSmが形成されず、貫通らせん転位TSDを変換することもできなかったと考えられる。
また、図23に示すように貫通らせん転位TSDの積層欠陥SFへの変換が生じた後に、さらにSiC単結晶10の結晶成長を続けると、種結晶1に由来し貫通らせん転位TSDを含む層(第1の層11)と、この第1の層11に連続して形成され積層欠陥SFを含む第2の層12と、この第2の層12に連続して形成され第1の層11に比べて貫通らせん転位TSDの少ない第3の層13と、の3層を持つSiC単結晶10が得られる。積層欠陥SFは基底面の欠陥であり、結晶成長方向には継承されないためである。第2の層12は第1の層11に比べて貫通らせん転位TSDの数が少なく、積層欠陥SFの数が多い。第3の層13は貫通らせん転位TSDが積層欠陥SFへ変換した後に成長した部分であるため、第1の層11に比べて貫通らせん転位TSDの数は大きく低減し、かつ、積層欠陥SFの数も大きく低減する。したがって、このSiC単結晶10から第3の層13を切り出すことで、貫通らせん転位TSDの非常に少ないSiC単結晶10を得ることができる。また、SiC単結晶10の用途によっては、SiC単結晶10の結晶成長方向にわたって貫通形成された欠陥の数が低減されれば良く、SiC単結晶10の結晶成長方向の一部分に貫通らせん転位TSDが存在していても良い場合もある。このような場合には、上述した製造方法で得られたSiC単結晶10をそのまま使用することも可能である。
このようにしてSiC単結晶を製造する場合には、貫通らせん転位のない(または貫通らせん転位の非常に少ない)SiC単結晶を比較的容易かつ短時間で製造できる利点がある。また、このようにして得た貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を種結晶として用いれば、一般的な液相法や気相法によって、貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を結晶成長させることも可能である。つまり、SiC単結晶上におけるステップバンチングを進行させる本発明の製造方法によると、SiC単結晶の結晶成長面にマクロステップを形成することができ、ひいては貫通らせん転位の少ないSiC単結晶を容易かつ短時間で製造することが可能である。
ところで、上述したように、らせん転位の成長速度がステップ進展速度より大きいと、ステップは進展せず、らせん転位が残存するとともにスパイラル成長が生じる。したがって、図24に示すように、マクロステップの高さをh、マクロステップのステップ進展速度をVstep、テラス幅をw、らせん転位の成長速度をvspiralとすると、ステップの進展が生じるための条件は下記のように表される。
Vspiral<(h×vstep)/w
参考試験においては、Vspiral=9μm/時間、vstep=500μm/時間であった。これらを上式に代入すると、0.018<h/wとなる。これが、SiC単結晶の結晶成長時にステップが進展するための条件となる。参考試験1(ステップ高さの最小値80nm、オフ角1.25°、貫通らせん転位の変換率90%)の場合w=8.5μmであったので、これを代入すると、ステップが進展する条件は、近似的に、70nm<hと考えることができる。このような範囲において、マクロステップによる貫通らせん転位の変換が起こると考えられる。つまり、ステップ形成工程において高さ70nmを超えるマクロステップを形成すれば、貫通らせん転位の低減したSiC単結晶を得ることができる。
マクロステップの高さが高い程、貫通らせん転位の積層欠陥への変換率は高くなる。したがって、鏡像力を考慮すると、マクロステップの高さは高い方が好ましい。具体的には、マクロステップの高さは80nm以上であるのが好ましく、100nm以上であるのがより好ましい。このようなマクロステップを少なくとも一つ、好ましくは複数形成した第2の種結晶を用いてSiC単結晶を成長させることで、貫通らせん転位の大きく低減したSiC単結晶を得ることが可能である。
〔ステップ高さとステップ進展との関係〕
ノマルスキー型微分干渉顕微鏡(Leica DM4000 M)を用いて試験4のSiC単結晶を撮像した顕微鏡像を図25に示す。図25に示すように、参考試験4のSiC単結晶の成長表面には、貫通らせん転位によるスパイラル成長によって生じた多くのヒロック(hillock:ステップ状でない隆起)が観察された。この結果から、参考試験4のSiC単結晶においてはスパイラル成長がステップの進展に優先して生じていることがわかり、参考試験4のSiC単結晶においては貫通らせん転位の変換が生じているものの、多くは生じていないことが示唆される。つまり、参考試験4の製造方法では種結晶にマクロステップが形成されているが、その数は参考試験1等と比較すると少なく、貫通らせん転位の変換頻度もまた参考試験1に比べると低かったと考えられる。
つまり、参考試験1〜参考試験3のSiC単結晶の製造方法ではマクロステップ形成工程において高さ70nmを超えるステップであるマクロステップが数多く形成されるとともに、多くの貫通らせん転位上をマクロステップが進展しているのに対し、参考試験4のSiC単結晶の製造方法では、マクロステップ形成工程において形成されたステップは高さ70nm未満のステップが多く、その数も比較的少なかったと考えられる。つまり、オフ角を形成することによりマクロステップを形成する場合には、オフ角の角度を1°以上にするのが好ましいことがわかる。
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。例えば、結晶成長工程の前に、原料溶液を流動させつつオフ角を形成していない種結晶を結晶成長させることで、ステップ進展方向を原料溶液の流動方向に案内する工程(準備工程)を設けても良い。そして、この準備工程で得た単結晶を種結晶として結晶成長工程に用いても良い。
また、結晶成長工程における原料溶液の流動方向は、単結晶のステップ進展方向と完全に一致していなくても良い。例えば、単結晶の一部分におけるステップ進展が他の部分におけるステップ進展方向と異なっても良いし、原料溶液の一部が他の部分と異なる方向に流動しても良い。
(付記)
本発明のSiC単結晶の製造方法における結晶成長工程は平滑化工程を含むものであるが、平滑化工程を行わずバンチング工程のみをおこなうことも可能である。つまり、本明細書の記載から以下の技術思想を把握することが可能である。
(付記項1)
ケイ素(Si)および炭素(C)を含む原料溶液中で液相成長法によりSiC種結晶の結晶成長面にSiCからなるステップを進展させてSiC単結晶を結晶成長させる結晶成長工程を含み、
前記結晶成長工程は、前記原料溶液に外力を加え前記原料溶液を前記ステップの進展方向に沿って流動させることで、前記結晶成長面にステップバンチングを生じさせるバンチング工程を含むSiC単結晶の製造方法。
(付記項2)
前記結晶成長工程は、前記原料溶液を前記ステップ進展方向の逆方向に沿って流動させることで、前記結晶成長面におけるステップバンチングの少なくとも一部を解く平滑化工程を備える付記項1に記載のSiC単結晶の製造方法。