JP5970367B2 - 遠心振子式吸振装置およびその次数設定方法 - Google Patents

遠心振子式吸振装置およびその次数設定方法 Download PDF

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Description

本発明は、駆動装置からの動力により回転する回転要素に連結される支持部材と、当該支持部材により揺動自在に支持される質量体とを備え、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置およびその次数設定方法に関する。
従来、この種の遠心振子式吸振装置を備えた力伝達装置として、少なくとも1つの入力体と、出力体と、少なくとも部分的に運転媒体、特に油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置と、当該振動減衰装置に連結された遠心振子式の回転数適応型動吸振器とを含み、駆動装置と被駆動装置との間で動力を伝達するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この力伝達装置において、回転数適応型動吸振器は、油影響に関連して、駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されている。そして、次数オフセット値qFは、励振の次数qに合致しないように、励振の次数qの変化に比例して変化するように定められる。
特表2011−504987号公報
上記特許文献1に記載された有効次数qeffの設定手法は、質量体と回転する油との間の相対運動による抵抗、すなわち粘性抵抗を考慮して有効次数qeffを設定するものであると考えられる。しかしながら、特許文献1に記載された手法は、理論的な裏付けに乏しいものであり、本発明者らの研究によれば、作動油といった液体の存在下における質量体の揺動に対する粘性抵抗の影響は小さいことが判明している。従って、特許文献1に記載されたように遠心振子式吸振装置における質量体の振動次数を設定しても、遠心振子式吸振装置の吸振性能を向上させることができず、場合によっては吸振性能を低下させてしまうおそれもある。
そこで、本発明は、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置における質量体の振動次数をより適正に設定して吸振性能を向上させることを主目的とする。
本発明による遠心振子式吸振装置およびその次数設定方法は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
本発明による遠心振子式吸振装置は、
駆動装置からの動力により回転する回転要素に連結される支持部材と、前記支持部材により揺動自在に支持される質量体とを備え、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置において、
前記質量体の振動次数は、前記駆動装置で発生する減衰すべき振動の次数を基に、少なくとも前記駆動装置の回転に伴って前記液体室内で発生する遠心液圧により前記質量体に作用する力を考慮して定められることを特徴とする。
本発明者らは、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置に関して鋭意研究を行った結果、この種の遠心振子式吸振装置では、作動油といった液体の存在下における質量体の揺動に対する粘性抵抗の影響は極めて小さく、液体の存在下における質量体の揺動は、回転要素の回転に伴って液体室内で発生する遠心液圧による力の影響を大きく受けることを見出した。従って、質量体の振動次数を、駆動装置で発生する減衰すべき振動の次数を基に、少なくとも、駆動装置(当該駆動装置により駆動される回転要素)の回転に伴って液体室内で発生する遠心液圧により質量体に作用する力を考慮して定めれば、質量体の振動次数をより適正に設定して吸振性能を向上させることが可能となる。
また、前記振動次数は、前記回転要素が任意の回転角速度で回転する際に前記遠心液圧により前記質量体に作用する力を該任意の回転角速度の二乗値で除した値から定められてもよい。すなわち、前記質量体が振子支点周りに揺動するように前記支持部材に連結される場合には、前記振動次数を“n”とし、前記回転要素の回転中心から前記振子支点までの距離を“R”とし、前記振子支点から前記質量体の重心までの距離を“r”とし、前記遠心液圧により前記質量体に作用する力を前記回転角速度の二乗値で除した値を更に前記質量と前記振子支点から前記質量体の重心までの距離との積で除した値を“α”としたときに、前記振動次数nは、
n=√[(R/r−α]
なる関係式を用いて定められてもよい。
これにより、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置における質量体の振動次数を、回転要素の回転に伴って液体室内で発生する遠心液圧により質量体に作用する力を考慮したより適正なものとすることが可能となる。
そして、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置は、前記減衰すべき振動の次数を“Ntag”としたときに、
Ntag−0.2≦n≦Ntag+0.2
なる関係式を満たすように設計されてもよく、より好ましくは、
Ntag−0.1≦n≦Ntag+0.1
なる関係式を満たすように設計されてもよい。これにより、遠心液圧により質量体に作用する力の影響に加えて、製造公差等の影響をも考慮して質量体の振動次数をより適正に設定することが可能となる。
また、前記遠心液圧により前記質量体に作用する力は、少なくとも、前記液体の密度と、前記質量体の外周面と内周面との面積差とを用いて定められてもよい。これにより、遠心液圧により質量体に作用する力を容易に得ることが可能となる。
本発明による遠心振子式吸振装置の次数設定方法は、
駆動装置からの動力により回転する回転要素に連結される支持部材と、前記支持部材により揺動自在に支持される質量体とを備え、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置の次数設定方法において、
前記質量体の振動次数を、前記駆動装置で発生する減衰すべき振動の次数を基に、少なくとも前記駆動装置の回転に伴って前記液体室内で発生する遠心液圧により前記質量体に作用する力を考慮して定めることを特徴とする。
この方法によれば、質量体の振動次数をより適正に設定して、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置の吸振性能を向上させることが可能となる。
また、前記振動次数を、前記回転要素が任意の回転角速度で回転する際に前記遠心液圧により前記質量体に作用する力を該任意の回転角速度の二乗値で除した値から定めてもよい。すなわち、前記質量体が振子支点周りに揺動するように前記支持部材に連結される場合には、前記振動次数を“n”とし、前記回転要素の回転中心から前記振子支点までの距離を“R”とし、前記振子支点から前記質量体の重心までの距離を“r”とし、前記遠心液圧により前記質量体に作用する力を前記回転角速度の二乗値で除した値を更に前記質量と前記振子支点から前記質量体の重心までの距離との積で除した値を“α”としたときに、前記振動次数nを、
n=√[(R/r−α]
なる関係式を用いて定めてもよい。
そして、前記減衰すべき振動の次数を“Ntag”としたときに、
Ntag−0.2≦n≦Ntag+0.2
なる関係式を満たすように前記遠心振子式吸振装置を設計してもよく、より好ましくは、
Ntag−0.1≦n≦Ntag+0.1
なる関係式を満たすように前記遠心振子式吸振装置を設計してもよい。
また、前記遠心液圧により前記質量体に作用する力を、少なくとも、前記液体の密度と、前記質量体の外周面と内周面との面積差とを用いて定めてもよい。
本発明の一実施形態に係る遠心振子式吸振装置を備えた発進装置を示す概略構成図である。 本発明の一実施形態に係る遠心振子式吸振装置を示す概略構成図である。 遠心振子式吸振装置を構成する質量体の振動次数の設定方法を説明するための説明図である。 遠心振子式吸振装置を構成する質量体の振動次数の設定方法を説明するための説明図である。
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る遠心振子式吸振装置10を備えた発進装置1の概略構成図である。同図に示す発進装置1は、原動機としてのエンジン(内燃機関)を備えた車両に搭載され、当該エンジンからの動力を自動変速機(AT)あるいは無段変速機(CVT)である変速機に伝達するものである。発進装置1は、遠心振子式吸振装置10に加えて、エンジンのクランクシャフトに連結されるフロントカバー(入力部材)3と、フロントカバー3に固定されたポンプインペラ(入力側流体伝動要素)4と、ポンプインペラ4と同軸に回転可能なタービンランナ(出力側流体伝動要素)5と、タービンランナ5からポンプインペラ4への作動油(作動流体)の流れを整流するステータ6と、変速機の入力軸ISに固定されるダンパハブ(出力部材)7と、ダンパハブ7に接続されたダンパ機構8と、ダンパ機構8に連結される図示しないロックアップピストンを有する単板摩擦式のロックアップクラッチ9とを含む。
ポンプインペラ4とタービンランナ5とは、互いに対向し合い、両者の間には、ポンプインペラ4やタービンランナ5と同軸に回転するようにステータ6が配置される。また、ステータ6の回転方向は、ワンウェイクラッチ60により一方向のみに設定される。これらのポンプインペラ4、タービンランナ5およびステータ6は、フロントカバー3とポンプインペラ4のポンプシェルとにより画成される流体伝動室(液体室)2の内部において、作動油(流体)を循環させるトーラス(環状流路)を形成し、トルク増幅機能をもったトルクコンバータとして機能する。なお、発進装置1において、ステータ6やワンウェイクラッチ60を省略し、ポンプインペラ4およびタービンランナ5を流体継手として機能させてもよい。
ダンパ機構8は、ロックアップクラッチ9のロックアップピストンと一体回転可能な入力要素としてのドライブ部材81と、複数の第1コイルスプリング(第1弾性体)SP1と、第1コイルスプリングSP1を介してドライブ部材81と係合する中間部材(中間要素)82と、例えば第1コイルスプリングSP1よりも高い剛性(バネ定数)を有すると共に第1コイルスプリングSP1から発進装置1の径方向に離間して配置される複数の第2コイルスプリング(第2弾性体)SP2と、第2コイルスプリングSP2を介して中間部材82と係合するドリブン部材(出力要素)83とを有する。
ドライブ部材81は、それぞれ対応する第1コイルスプリングSP1の一端と当接する複数の当接部を有し、複数の第1コイルスプリングSP1を保持する。中間部材82は、それぞれ対応する第1コイルスプリングSP1の他端と当接する複数の当接部と、それぞれ対応する第2コイルスプリングSP2の一端と当接する複数の当接部とを有する。ドリブン部材83は、それぞれ対応する第2コイルスプリングSP2の他端と当接する複数の当接部を有し、ダンパハブ7に固定される。また、本実施形態の発進装置1では、第1および第2コイルスプリングSP1,SP2の間で振動しがちなダンパ機構8の中間部材82が複数の第3コイルスプリング(第3弾性体)SP3を介してタービンランナ5に連結されており、これら複数の第3コイルスプリングSP3とタービンランナ5とは、ダイナミックダンパ20を構成する。これにより、ロックアップクラッチ9の係合時(ロックアップ時)には、遠心振子式吸振装置10とダイナミックダンパ20との双方により中間部材82の振動やダンパ機構8全体の振動を良好に吸収することが可能となる。
ロックアップクラッチ9は、図示しない油圧制御装置からの油圧により動作するものであり、ダンパ機構8を介してフロントカバー(入力部材)3とダンパハブ7すなわち変速機の入力軸ISとを連結するロックアップを実行すると共に当該ロックアップを解除することができる。ロックアップクラッチ9を構成する図示しないロックアップピストンは、例えばダンパハブ7により軸方向に移動自在かつ回転自在に支持される。また、ロックアップピストンの外周側かつフロントカバー3側の面には、環状の摩擦材が貼着され、上述のドライブ部材81は、ロックアップピストンの外周部に連結される。なお、発進装置1は、単板摩擦式のロックアップクラッチ9の代わりに、多板摩擦式のロックアップクラッチを含むものとして構成されてもよい。
遠心振子式吸振装置10は、図1に示すように、ダンパ機構8の回転要素であるドリブン部材83に対して同軸に取り付けられる支持部材(フランジ)11と、それぞれ支持部材11により揺動自在に支持されると共に周方向に隣り合う複数(例えば3〜4個)の質量体12とを含み、フロントカバー3とポンプインペラ4のポンプシェルとにより画成されて作動油を収容する流体伝動室2(液体室)の内部に配置される。そして、遠心振子式吸振装置10は、支持部材11の回転に伴って、作動油で満たされた流体伝動室2の内部で複数の質量体12が当該支持部材11に対して同方向に揺動することで、ダンパ機構8のドリブン部材83に対して当該ドリブン部材83の振動(共振)とは逆方向の位相を有する振動を付与し、それによりフロントカバー3からダンパハブ7までの間で振動を吸収(減衰)する。
本実施形態において、支持部材11には、1つの質量体12に2つ(一対)ずつ対応するように図示しない第1ガイド切欠部が形成されており、各質量体12には、2つ(一対)の図示しない第2ガイド切欠部が形成されている。そして、支持部材11と各質量体12とは、支持部材11の第1ガイド切欠部の内周面を転動する第1ローラ(コロ)と各質量体12の第2ガイド切欠部の内周面を転動する第2ローラ(コロ)とを一体化したガイドローラ(何れも図示省略)を介して互いに連結される。そして、1つの質量体12に対応した支持部材11の一対の第1ガイド切欠部は、例えば、それぞれ支持部材11の径方向外側に向けて凸となる曲線を軸線とする左右非対称あるいは左右対称の長穴として形成され、質量体12の揺動中心線(ドリブン部材83(支持部材11)の回転中心(軸心)と振子支点PFとを含む直線)に関して対称に配置される。これに対して、各質量体12の一対の第2ガイド切欠部は、例えば、支持部材11の中心に向けて凸となる曲線を軸線とする左右非対称あるいは左右対称の長穴として形成され、質量体12の揺動中心線に関して対称に配置される。
これにより、本実施形態の遠心振子式吸振装置10では、上記ガイドローラが支持部材11の第1ガイド切欠部と当該質量体12の第2ガイド切欠部との双方によりガイドされることにより、支持部材11の回転に伴い、図2に示すように、各質量体12を振子支点PFの周りに回動させると共に、揺動範囲内で振れるのに伴って当該質量体12の重心Gの周りに回転させることができる。この結果、質量体12の振子支点PFの周りの揺動のみならず、質量体12の重心Gの周りの回転モーメントをも利用して支持部材11に伝達される振動を減衰することが可能となる。なお、第1ガイド切欠部は、1つの質量体12に1つずつ対応するように支持部材11に形成されてもよく、第2ガイド切欠部は、各質量体12に1つずつ形成されてもよい。また、遠心振子式吸振装置は、支持部材11として、1個の質量体を揺動自在に支持する2本のアーム部材を備えた、いわゆるバイファイラ(bifilar)式の装置として構成されてもよい。
次に、図2から図4を参照しながら、遠心振子式吸振装置10における質量体12の振動次数の設定方法について説明する。
本発明者らは、上述のような作動油を収容する流体伝動室2といった液体室の内部に配置される遠心振子式吸振装置に関し、まず、作動油といった液体が及ぼす質量体の運動への影響について鋭意研究を行った。そして、様々な解析を行った結果、この種の遠心振子式吸振装置では、作動油といった液体の存在下における質量体の揺動に対する粘性抵抗の影響が極めて小さく、液体の存在下における質量体の揺動は、エンジンからの動力により回転するドリブン部材83のような回転要素の回転に伴って流体伝動室2といった液体室内で発生する遠心液圧(遠心油圧)による力の影響を大きく受けることが判明した。
ここで、ドリブン部材83といった回転要素の回転に伴って、図3に示すような円弧状の質量体12xが重心周りに回転することなく振子支点PFの周りに揺動する際に当該質量体12xに対して作用する遠心液圧による力を考える。図3に示す質量体12xは、回転要素(支持部材)の回転中心RCを中心とする円柱面状の外周面と、回転中心RCを中心とする凹円柱面状の内周面と、それぞれ揺動中心線(図中一点鎖線参照)と平行をなす2つの側面と、一様な厚みを有するものである。このような質量体12xに作用する遠心液圧による力Fpは、回転中心RCから質量体12xの外周面までの距離(曲率半径)を“Ro”とし、回転中心RCから質量体12xの内周面までの距離(曲率半径)を“Ri”とし、質量体12xの厚みを“t”とし、質量体12xの揺動中心線から左右の端部までの長さを“L”とし、回転要素の回転角速度を“ω”とし、作動油といった液体の密度を“ρ”としたときに、次式(1)のように表される。
Figure 0005970367
また、ドリブン部材83といった回転要素が回転すると、質量体12xには遠心力Fcが作用するから、当該回転要素の回転に伴って質量体12xが振子支点PFの周りに揺動する際に当該質量体12xに作用する力Fは、質量体12xの質量を“m”とし、回転中心RCから振子支点PFまでの距離を“R”とし、振子支点PFから質量体12xの重心Gまでの距離を“r”としたときに、次式(2)のように表される。そして、質量体12xに作用する遠心液圧による力Fpを回転角速度ωの二乗値で除すると共に更に質量mと距離rとの積で除して無次元化した値を次式(3)のように“α”とすれば、質量体12xに作用する力Fは、次式(4)のように表される。
Figure 0005970367
更に、回転要素の回転に伴って振子支点PFの周りに揺動する際の質量体12xの振子支点PFの周りの回転角度を“φ”としたときに、質量体12xを備える遠心振子式吸振装置の運動方程式は、次式(5)のように表される。ただし、式(5)の右辺の項は、質量体と回転する液体(作動油)との間の相対運動による粘性抵抗の影響を示す粘性項であり、“c”は定数である。また、式(5)の粘性項に適切なモデルを導入することで、当該粘性項を次式(6)のように表すことが可能であり、式(6)の関係を用いれば、式(5)を次式(7)のように変形することができる。ただし、式(6)において、“μ”は、粘性係数であり、“k”は、液体の粘度と質量体の揺動の周波数とから定まる係数であり、“A”は、質量体12xの表面積である。
Figure 0005970367
そして、(7)式から得られる質量体12xの固有振動数に粘性項を示す無次元された値“β”を導入することにより、液体の存在下で重心周りに回転することなく振子支点PFの周りに揺動する質量体12xの振動次数nxを示す次式(8)を得ることができる。ただし、上述のように、作動油といった液体の存在下における質量体の揺動に対する粘性抵抗の影響は極めて小さい。従って、式(8)における“β”を無視することができることから、液体の存在下で重心周りに回転することなく振子支点PFの周りに揺動する質量体12xの振動次数nxは、次式(9)のように表すことができる。
Figure 0005970367
なお、質量体に作用する遠心液圧による力Fpを回転角速度ωの二乗値で除すると共に更に質量mと距離Rとの積で除して値αを得るに際して、質量体の形状が上述の質量体12xのように比較的単純なものである場合には、遠心液圧により質量体に作用する力Fpを、液体の密度ρと、質量体の外周面と内周面との面積差とを用いて定めることで、力Fpを容易かつ精度よく得ることが可能となる。また、質量体の形状が複雑なものである場合には、当該質量体12の形状を考慮した数値計算を行って力Fpを求めればよい。
上述のような作動油といった液体が及ぼす質量体の運動への影響に加えて、本発明者らは、振子支点の周りに揺動すると共に重心の周りに回転するように支持部材に連結される質量体を備えた遠心振子式吸振装置における当該質量体の振動次数の設定についても鋭意研究を行った。そして、本発明者らは、研究の過程で、いわゆるコロ式の遠心振子式吸振装置に着目し、様々な解析を行った結果、この種の遠心振子式吸振装置における質量体の運動は、形式(構造)に関わらず、いわゆるコロ式の遠心振子式吸振装置における質量体の運動として取り扱い得ることを見出した。
コロ式の遠心振子式吸振装置は、図4に示すように、上記遠心振子式吸振装置10の支持部材11に相当する部材に形成されたガイド切欠部110(図4の例では、円形の開口)と、ガイド切欠部110の内周面(図4の例では、凹円周面)であるガイド面111を転動するコロ(ローラ)120とを含むものである。図4に示すようなコロ式の遠心振子式吸振装置において、質量体としてのコロ120は、重心G(軸心)の周りに回転しながら曲面状のガイド面111を転動する。これを踏まえて、本発明者らは、コロ式の遠心振子式吸振装置におけるコロの運動を、当該コロの重心周りの回転を伴わないガイド面に沿った並進運動(滑動)と、コロの重心周りの回転運動とに分けて、重心周りに回転せずに振子支点周りにのみ揺動するコロの運動に、コロの重心周りの回転運動を付加したものとして取り扱うこととした。
ここで、重心周りに回転することなく振子支点周りに揺動する質量体を備えた遠心振子式吸振装置における質量体の振動次数は、上述のように回転中心RCから振子支点PFまでの距離を“R”とし、振子支点PFから質量体の重心Gまでの距離を“r”としたときに、√(R/r)と簡易的に表されることが知られている。これに対して、コロ式の遠心振子式吸振装置におけるコロ120の振動次数は、√[(2・R)/(3・r)]と簡易的に表されることが知られているが、研究に際して、本発明者らは、√[(2・R)/(3・r)]と√(R/r)との差(減少分)に着目した。そして、本発明者らは、ガイド面111に沿ったコロ120の並進運動が振子支点PFの周りにおける質量体の揺動に相当するものであることを踏まえて、両者の差が、コロ120の重心Gの周りの回転運動、具体的には、コロ120の半径rrと振子支点PFからコロ120の重心Gまでの距離rとの比(r/rr)の二乗に比例するコロ120の重心Gの周りの回転による慣性モーメントに起因して生じると評価し、次式(10)を導出した。ただし、式(10)における“nr”は、コロ120の振動次数を示し、“mr”は、コロ120の質量を示し、“Ir”は、コロ120の慣性モーメントを示し、“m・r2”は、コロ120の並進による慣性モーメントを示し、“Ir・(r/rr2”は、コロ120の回転による慣性モーメントを示す。本発明者らは、解析等による検証を経て、上述のような評価が極めて妥当なものであり、振子支点周りに揺動すると共に重心周りに回転するように支持部材に連結される質量体を備えた遠心振子式吸振装置における当該質量体の運動は、形式(構造)に関わらず、重心周りに回転することなく振子支点周りに揺動する質量体の運動に、質量体の重心周りの回転運動を付加したものとして取り扱い得ることを確認した。
Figure 0005970367
一方、コロ120が揺動中心で静止していたときのガイド面111とコロ120との接線taから、コロ120が揺動範囲の片側へと振れたときのガイド面111とコロ120との接線tbまでのガイド面111に沿った距離d1は、振子支点PFからコロ120の重心Gまでの距離rと当該コロ120の半径rrとの和(r+rr)と、コロ120(重心G)の振子支点PFの周りの回転角度φとから、d1=(r+rr)・φと表される。また、コロ120が揺動中心で静止していたときのガイド面111とコロ120との接線taから、コロ120が揺動範囲の片側へと振れたときのガイド面111とコロ120との接線tbまでのコロ120の外周面に沿った距離d2は、コロ120の並進および重心Gの周りの回転により、コロ120の振子支点PFの周りの回転角度φと重心Gの周りの回転角度θとの和(φ+θ)と、コロの半径rrとから、d2=rr・(φ+θ)と表される。そして、コロ120がガイド面111を滑ることなく転動すれば、距離d1と距離d2とは一致し(d1=d2)、θ/φ=r/rrという関係が成立するから、この関係を利用すれば、コロ120の半径rrと振子支点PFからコロ120の重心Gまでの距離rとの比(r/rr)を、コロ120の振子支点PFの周りの回転角度φと重心周りの回転角度θとの比(θ/φ)に置き換えることができる。これにより、コロ120の重心Gの周りの回転による慣性モーメント(Ir・(r/rr2)は、コロ120の振子支点PFの周りの回転角度φと重心周りの回転角度θとの比(θ/φ)を用いて、Ir・(θ/φ)2と表すことができる。
従って、振子支点周りに揺動すると共に重心周りに回転するように支持部材に連結される質量体を備えた遠心振子式吸振装置における質量体の振動次数は、重心周りに回転することなく振子支点周りに揺動する質量体の振動次数を基に、質量体の重心周りの回転運動(回転による慣性モーメント)、すなわち質量体の振子支点周りの回転角度と重心周りの回転角度とを更に考慮して定めることができる。具体的には、遠心振子式吸振装置が液体を収容する液体室内に配置されない場合(乾式の場合)、振動次数を“nz”とし、質量体の質量を“m”とし、回転中心RCから振子支点PFまでの距離を“R”とし、振子支点PFから質量体の重心Gまでの距離を“r”とし、質量体の振子支点PFの周りの回転角度を“φ”とし、質量体の重心Gの周りの回転角度を“θ”とし、質量体の慣性モーメントを“I”としたときに、次式(11)を用いて振動次数nzを定めることができる。
Figure 0005970367
更に、作動油(液体)を収容する流体伝動室2(液体室)内に配置される遠心振子式吸振装置10における質量体12の振動次数nを定める際には、上記式(9)と同様にして、回転要素としてのドリブン部材83の回転に伴って流体伝動室2で発生する遠心液圧により質量体12に作用する力を考慮すればよい。すなわち、式(11)に遠心液圧により質量体12に作用する力を示す値αを導入するには、重心周りに回転することなく振子支点周りに揺動する質量体を備えた遠心振子式吸振装置における質量体の振動次数を示す簡易式n=√(R/r)と上記(9)式との関係を考慮して、式(11)の最右辺における“R/r”を“(R/rーα)”で置き換えればよい。
従って、作動油を収容する流体伝動室2内に配置される湿式の遠心振子式吸振装置10では、振動次数を“n”とし、質量体12の質量を“m”とし、回転中心RCから振子支点PFまでの距離を“R”とし、振子支点PFから質量体12の重心Gまでの距離を“r”とし、質量体12の振子支点PFの周りの回転角度を“φ”とし、質量体12の重心Gの周りの回転角度を“θ”とし、質量体12の慣性モーメントを“I”とし、遠心油圧(遠心液圧)により質量体12に作用する力Fpを回転角速度ωの二乗値で除した値を更に質量mと距離rとの積で除した値を“α”としたときに、次式(12)を用いて振動次数nを定めればよい。
Figure 0005970367
そして、遠心振子式吸振装置10は、エンジンで発生する減衰すべき振動の次数を“Ntag”としたときに、上記式(12)から得られる振動次数nが、
Ntag−0.2≦n≦Ntag+0.2 …(13)
より好ましくは、
Ntag−0.1≦n≦Ntag+0.1 …(14)
なる関係式を満たすように設計されるとよい。
すなわち、質量体12の質量mや形状(慣性モーメントI)、距離R,r、回転角度θ,φといったパラメータを上記式(13)または(14)を満たすように定めることで、製造公差等の影響をも考慮して質量体12の振動次数nをより適正に設定することが可能となる。また、重心周りに回転することなく振子支点PFの周りに揺動する質量体12xを備えた湿式の遠心振子式吸振装置では、上記式(9)から得られる振動次数nxが上記式(13)または(14)を満たすように質量体12の質量mや形状(慣性モーメントI)、距離R,r、回転角度θ,φといったパラメータを定めればよい。更に、振子支点周りに揺動すると共に重心周りに回転するように支持部材に連結される質量体を備えた乾式の遠心振子式吸振装置では、上記式(11)から得られる振動次数nzが上記式(13)または(14)を満たすように質量体12の質量mや形状(慣性モーメントI)、距離R,r、回転角度θ,φといったパラメータを定めればよい。そして、遠心振子式吸振装置10等は、式(9)、(11)、(12)から得られる振動次数nx,nz,nがエンジンで発生する減衰すべき振動の次数Ntagと完全に一致するように設計されてもよく、振動次数nx,nz,nが次数Ntagを中心とした狭い範囲(例えば、Ntag±0.05の範囲)内に含まれるように設計されてもよい。
なお、遠心振子式吸振装置10等により減衰すべき振動の次数Ntagは、基本的に、遠心振子式吸振装置10等が連結されるエンジンの気筒数に応じたものとなり、例えば、3気筒エンジンの場合、Ntag=1.5、4気筒エンジンの場合、Ntag=2となる。ただし、減衰すべき振動の次数Ntagは、エンジンの気筒数に応じたものに限られず、ダンパ機構やロックアップクラッチ等の使用態様や特性等を考慮して、エンジンの気筒数に応じた値を若干増減させた値とされてもよい。更に、遠心振子式吸振装置10等における振動次数の設定に際しては、式(9)、(11)または(12)から得られる値を仮の次数とした上で、当該仮の次数をシミュレーションや実験の結果等に基づいて増減する(オフセットする)ことにより最終的な振動次数を得てもよい。
以上説明したように、作動油(液体)を収容する流体伝動室2(液体室)内に配置される遠心振子式吸振装置10における質量体12の振動次数nを、駆動装置としてのエンジンで発生する減衰すべき振動の次数Ntagを基に、ドリブン部材83といった回転要素の回転に伴って流体伝動室2内で発生する遠心油圧(遠心液圧)により質量体12に作用する力を考慮して定めれば、質量体12の振動次数nをより適正に設定して遠心振子式吸振装置10の吸振性能を向上させることが可能となる。
なお、例えば乾式タイプの発進装置では、ポンプインペラ、タービンランナ、ステータ等を含む流体伝動装置が省略されたり、ダイナミックダンパのマスとしての質量体が別途設けられたりしてもよい。また、遠心振子式吸振装置10が連結される回転要素は、ダンパ機構のドリブン部材(出力要素)に限られず、ダンパ機構の中間部材やドライブ部材(入力要素)であってもよく、駆動装置に機械的に連結されて回転する回転部材であれば、ダンパ機構を構成する回転要素以外の変速機内の回転部材(回転軸)等であってもよい。そして、上記実施形態における主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施形態はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
本発明は、遠心振子式吸振装置の製造産業において利用可能である。
1 発進装置、2 流体伝動室、3 フロントカバー、4 ポンプインペラ、5 タービンランナ、6 ステータ、7 ダンパハブ、8 ダンパ機構、9 ロックアップクラッチ、10 遠心振子式吸振装置、11 支持部材、12,12x 質量体、20 ダイナミックダンパ、81 ドライブ部材、82 中間部材、83 ドリブン部材、110 ガイド切欠部、111 ガイド面、120 コロ、IS 入力軸、SP1 第1コイルスプリング、SP2 第2コイルスプリング、SP3 第3コイルスプリング。

Claims (12)

  1. 駆動装置からの動力により回転する回転要素に連結される支持部材と、振子支点周りに揺動するように前記支持部材に連結される質量体とを備え、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置において、
    前記質量体の振動次数を“n”とし、前記回転要素の回転中心から前記振子支点までの距離を“R”とし、前記振子支点から前記質量体の重心までの距離を“r”とし、前記駆動装置の回転に伴って前記回転要素が任意の回転角速度で回転する際に前記液体室内で発生する遠心液圧により前記質量体に作用する力を該任意の回転角速度の二乗値で除した値を更に前記質量体の質量と前記振子支点から前記質量体の重心までの距離rとの積で除した値を“α”としたときに、
    前記振動次数nは、前記駆動装置で発生する減衰すべき振動の次数を基に、
    n=√(R/r−α)
    なる関係式を用いて定められることを特徴とする遠心振子式吸振装置。
  2. 請求項に記載の遠心振子式吸振装置において、
    前記減衰すべき振動の次数を“Ntag”としたときに、
    Ntag−0.2≦n≦Ntag+0.2
    なる関係式を満たすように設計されることを特徴とする遠心振子式吸振装置。
  3. 請求項1または2に記載の遠心振子式吸振装置において、
    前記減衰すべき振動の次数を“Ntag”としたときに、
    Ntag≦n≦Ntag+0.2
    なる関係式を満たすように設計されることを特徴とする遠心振子式吸振装置。
  4. 請求項1からの何れか一項に記載の遠心振子式吸振装置において、
    前記遠心液圧により前記質量体に作用する力は、少なくとも、前記液体の密度と、前記質量体の外周面と内周面との面積差とを用いて定められることを特徴とする遠心振子式吸振装置。
  5. 駆動装置からの動力により回転する回転要素に連結される支持部材と、振子支点周りに揺動するように前記支持部材に連結される質量体とを備え、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置の次数設定方法において、
    前記質量体の振動次数を“n”とし、前記回転要素の回転中心から前記振子支点までの距離を“R”とし、前記振子支点から前記質量体の重心までの距離を“r”とし、前記駆動装置の回転に伴って前記回転要素が任意の回転角速度で回転する際に前記液体室内で発生する遠心液圧により前記質量体に作用する力を該任意の回転角速度の二乗値で除した値を更に前記質量体の質量と前記振子支点から前記質量体の重心までの距離rとの積で除した値を“α”としたときに、
    前記振動次数nを、前記駆動装置で発生する減衰すべき振動の次数を基に、
    n=√(R/r−α)
    なる関係式を用いて定めることを特徴とする遠心振子式吸振装置の次数設定方法。
  6. 請求項に記載の遠心振子式吸振装置の次数設定方法において、
    前記減衰すべき振動の次数を“Ntag”としたときに、
    Ntag−0.2≦n≦Ntag+0.2
    なる関係式を満たすように前記遠心振子式吸振装置を設計することを特徴とする遠心振子式吸振装置の次数設定方法。
  7. 請求項5または6に記載の遠心振子式吸振装置の次数設定方法において、
    前記減衰すべき振動の次数を“Ntag”としたときに、
    Ntag≦n≦Ntag+0.2
    なる関係式を満たすように前記遠心振子式吸振装置を設計することを特徴とする遠心振子式吸振装置の次数設定方法。
  8. 請求項からの何れか一項に記載の遠心振子式吸振装置の次数設定方法において、
    前記遠心液圧により前記質量体に作用する力を、少なくとも、前記液体の密度と、前記質量体の外周面と内周面との面積差とを用いて定めることを特徴とする遠心振子式吸振装置の次数設定方法。
  9. 駆動装置からの動力により回転する回転要素に連結される支持部材と、前記支持部材により揺動自在に支持される質量体とを備え、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置において、
    前記質量体の振動次数は、前記駆動装置で発生する減衰すべき振動の次数を基に、少なくとも前記駆動装置の回転に伴って前記液体室内で発生する遠心液圧により前記質量体に作用する力を考慮して定められ、
    前記遠心液圧により前記質量体に作用する力は、前記質量体の外周面に作用する遠心液圧による力から、該質量体の内周面に作用する遠心液圧による力を減じることにより求められることを特徴とする遠心振子式吸振装置
  10. 請求項9に記載の遠心振子式吸振装置において、
    前記振動次数は、前記減衰すべき振動の次数を基に、該振動次数が前記遠心液圧により前記質量体に作用する力に応じた量だけ小さくなるものとして定められることを特徴とする遠心振子式吸振装置。
  11. 請求項9または10に記載の遠心振子式吸振装置において、
    前記遠心液圧により前記質量体に作用する力は、前記質量体の前記外周面に対して遠心力と逆方向に作用し、前記質量体の前記内周面に対して前記遠心力と同方向に作用することを特徴とする遠心振子式吸振装置。
  12. 駆動装置からの動力により回転する回転要素に連結される支持部材と、前記支持部材により揺動自在に支持される質量体とを備え、液体を収容する液体室内に配置される遠心振子式吸振装置の次数設定方法において、
    前記駆動装置の回転に伴って前記液体室内で発生する遠心液圧により前記質量体に作用する力を、前記質量体の外周面に作用する遠心液圧による力から、該質量体の内周面に作用する遠心液圧による力を減じることにより求め、
    前記質量体の振動次数を、前記駆動装置で発生する減衰すべき振動の次数を基に、少なくとも前記遠心液圧により前記質量体に作用する力を考慮して定めることを特徴とする遠心振子式吸振装置の次数設定方法
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