次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明による遠心振子式吸振装置10を含む発進装置1の概略構成図である。同図に示す発進装置1は、原動機としてのエンジン(内燃機関)を備えた車両に搭載され、当該エンジンからの動力を自動変速機(AT)あるいは無段変速機(CVT)である変速機に伝達するものである。発進装置1は、遠心振子式吸振装置10に加えて、エンジンのクランクシャフトに連結されるフロントカバー(入力部材)3と、フロントカバー3に固定されるポンプインペラ(入力側流体伝動要素)4と、ポンプインペラ4と同軸に回転可能なタービンランナ(出力側流体伝動要素)5と、タービンランナ5からポンプインペラ4への作動油(作動流体)の流れを整流するステータ6と、変速機の入力軸ISに固定されるダンパハブ(出力部材)7と、ダンパハブ7に接続されるダンパ機構8と、ダンパ機構8に連結される図示しないロックアップピストンを有する例えば単板摩擦式のロックアップクラッチ(発進クラッチ)9とを含む。
ポンプインペラ4とタービンランナ5とは、互いに対向し合い、両者の間には、ポンプインペラ4やタービンランナ5と同軸に回転するようにステータ6が配置される。ステータ6の回転方向は、ワンウェイクラッチ60により一方向のみに設定される。これらのポンプインペラ4、タービンランナ5およびステータ6は、フロントカバー3とポンプインペラ4のポンプシェルとにより画成される流体伝動室(液体室)2の内部において作動油(流体)を循環させるトーラス(環状流路)を形成し、トルク増幅機能をもったトルクコンバータとして機能する。なお、発進装置1において、ステータ6やワンウェイクラッチ60を省略し、ポンプインペラ4およびタービンランナ5を流体継手として機能させてもよい。
ダンパ機構8は、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)81と、中間部材(中間要素)82と、ドリブン部材(出力要素)83とを含む。また、ダンパ機構8は、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材81と中間部材82との間に配置される複数の第1コイルスプリングSP1と、例えば第1コイルスプリングSP1よりも高い剛性(バネ定数)を有すると共に中間部材82とドリブン部材83との間に配置される複数の第2コイルスプリング(第2弾性体)SP2とを含む。
ドライブ部材81は、それぞれ対応する第1コイルスプリングSP1の一端と当接する複数の当接部を有する。ドライブ部材81の各当接部は、ダンパ機構8の取付状態において互いに隣り合う第1コイルスプリングSP1の間で両者と当接する。中間部材82は、それぞれ対応する第1コイルスプリングSP1の他端と当接する複数の第1当接部と、それぞれ対応する第2コイルスプリングSP2の端部と当接する複数の第2当接部とを有する。中間部材82の各第1当接部は、ダンパ機構8の取付状態において互いに隣り合う第1コイルスプリングSP1の間で両者と当接する。また、第2コイルスプリングSP2は、ダンパ機構8の取付状態において中間部材82の互いに隣り合う2つの第2当接部の間に配置され、当該2つの第2当接部の一方が第2コイルスプリングSP2の一端と当接し、他方が第2コイルスプリングSP2の他端と当接する。ドリブン部材83は、それぞれ対応する第2コイルスプリングSP2の端部と当接する複数の当接部を有し、ダンパハブ7に固定される。第2コイルスプリングSP2は、ダンパ機構8の取付状態においてドリブン部材83の互いに隣り合う2つの当接部の間に配置され、当該2つの当接部の一方が第2コイルスプリングSP2の一端と当接し、他方が第2コイルスプリングSP2の他端と当接する。
また、本実施形態の発進装置1では、ダンパ機構8の出力要素であるドリブン部材83に複数の第3コイルスプリング(第3弾性体)SP3を介してタービンランナ5が連結されており、これら複数の第3コイルスプリングSP3とタービンランナ5とは、ダイナミックダンパ20を構成する。これにより、ロックアップクラッチ9の係合時(ロックアップ時およびスリップ制御時)には、遠心振子式吸振装置10とダイナミックダンパ20との双方によりダンパ機構8全体の振動を良好に吸収することが可能となる。
ロックアップクラッチ9は、図示しない油圧制御装置からの油圧により動作するものであり、フロントカバー3とドライブ部材81とを直結することによりダンパ機構8を介してフロントカバー3とダンパハブ7すなわち変速機の入力軸ISとを連結するロックアップと、当該ロックアップの解除とを選択的に実行する。また、予め定められたスリップ制御実行条件が成立した際に、エンジンすなわちフロントカバー3と入力軸ISすなわちダンパハブ7との回転速度差(実スリップ速度)が目標スリップ速度に一致するように(エンジン(クランクシャフト)とドライブ部材81とに回転速度差を生じさせるように)ロックアップクラッチ9を制御するスリップ制御を実行することで、ロックアップクラッチ9を介した動力の伝達効率やエンジン(原動機)の燃費を向上させることができる。なお、スリップ制御実行条件は、例えば、ロックアップクラッチ9によるロックアップの実行時や、車両の加速中や減速中、変速機の変速中等に成立するものである。
ロックアップクラッチ9を構成する図示しないロックアップピストンは、例えばダンパハブ7により軸方向に移動自在かつ回転自在に支持される。また、ロックアップピストンの外周側かつフロントカバー3側の面には、環状の摩擦材が貼着され、上述のドライブ部材81は、ロックアップピストンの例えば外周部に連結される。なお、発進装置1は、単板摩擦式のロックアップクラッチ9の代わりに、多板摩擦式のロックアップクラッチを含むものとして構成されてもよい。
遠心振子式吸振装置10は、図2および図3に示すように、ダンパ機構8の回転要素であるドリブン部材83に対して同軸に連結(固定)されて当該ドリブン部材83と一体に回転する支持部材(フランジ)11と、それぞれ重心が予め定められた揺動軌道100(図5参照)に沿って移動するように支持部材11により揺動自在に支持されると共に周方向に隣り合う複数(本実施形態では、4個)の質量体12とを含む。また、遠心振子式吸振装置10は、フロントカバー3とポンプインペラ4のポンプシェルとにより画成されて作動油を収容する流体伝動室2(液体室)の内部に配置される。そして、遠心振子式吸振装置10は、支持部材11(ドリブン部材83)の回転に伴って、作動油で満たされた流体伝動室2の内部で複数の質量体12が当該支持部材11に対して同方向に揺動することで、ダンパ機構8のドリブン部材83に対して当該ドリブン部材83の振動とは逆方向の位相を有する振動を付与する。これにより、ロックアップクラッチ9からダンパハブ7(変速機)までの間で振動を遠心振子式吸振装置10により吸収(減衰)することが可能となる。
本実施形態において、各質量体12は、支持部材11を介して発進装置1の軸方向に対向し合うと共に図示しないリベット等により互いに連結される2つの錘120と、2つのガイドローラ15とを有する。各錘120は、図2に示すように、支持部材11の軸方向からみて当該支持部材11の外周に沿うように概ね円弧状に延びる金属板であり、左右対称の形状を有する。ガイドローラ15は、図3に示すように、2つの小径ローラ151との大径ローラ152とを一体化したものである。小径ローラ151は、大径ローラ152の軸方向における両端面から互いに反対側に突出する。
また、支持部材11には、1つの質量体12に2つずつ(一対ずつ)対応するように複数の第1ガイド切欠部(第1ガイド部)11gが形成されている。一対の第1ガイド切欠部11gは、例えば、それぞれ支持部材11の径方向外側に向けて凸となる曲線を軸線とする左右非対称あるいは左右対称の長穴として形成され、支持部材11(ドリブン部材83)の回転中心(軸心)RCを含む質量体12の揺動中心線(振幅の中心線)に関して対称に配置される。第1ガイド切欠部11g内には、対応するガイドローラ15の大径ローラ152が転動自在に挿入され、各ガイドローラ15の大径ローラ152は、対応する第1ガイド切欠部11gの内周面(基本的に、径方向外側の内周面)上を転動する。
更に、質量体12の各錘120には、2つ(一対)の第2ガイド切欠部(第2ガイド部)120gが形成されている。一対の第2ガイド切欠部120gは、例えば、支持部材11の中心に向けて凸となる曲線を軸線とする左右非対称あるいは左右対称の長穴として形成され、質量体12の揺動中心線に関して対称に配置される。第2ガイド切欠部120g内には、対応するガイドローラ15の小径ローラ151が転動自在に挿入され、各ガイドローラ15の小径ローラ151は、対応する第2ガイド切欠部120gの内周面(基本的に、径方向内側の内周面)上を転動する。
これにより、遠心振子式吸振装置10では、支持部材11の回転に伴って第1および第2ガイド切欠部11g,120gによりガイドされる各質量体12を振子支点の周りに回動させると共に揺動範囲内で振れるのに伴って当該質量体12の重心の周りに回転させることができる。従って、遠心振子式吸振装置10によれば、質量体12の振子支点周りの揺動のみならず、質量体12の重心周りの回転モーメントをも利用して支持部材11に伝達される振動を減衰することが可能となる。なお、第1ガイド切欠部11gは、1つの質量体12に1つずつ対応するように支持部材11に形成されてもよく、第2ガイド切欠部120gは、各錘120に1つずつ形成されてもよい。また、遠心振子式吸振装置は、支持部材11として、1個の質量体を揺動自在に支持する2本のアーム部材を備えた、いわゆるバイファイラ(bifilar)式の装置として構成されてもよい。
ここで、発進装置1のロックアップクラッチ9は、上述のようにスリップ制御実行条件の成立に伴い、駆動装置としてのエンジン(クランクシャフト)とダンパ機構8のドライブ部材81とに回転速度差を生じさせるようにスリップ制御される。そして、ロックアップクラッチ9がスリップ制御される際のエンジン(クランクシャフト)の回転速度に一致するフロントカバー3の回転速度(以下、「入力側回転速度」という)を“Nin”とし、ロックアップクラッチ9がスリップ制御される際のドライブ部材81の回転速度(以下、「出力側回転速度」という)を“Nout”とし、スリップ制御時にエンジンからフロントカバー3に伝達される当該エンジンからの振動の次数(以下、「入力側振動次数」という)を“qin”とし、スリップ制御時にロックアップクラッチ9を介してダンパ機構8のドライブ部材81(入力要素)に伝達される振動の次数(以下、「出力側振動次数」という)を“qout”とし、エンジンからフロントカバー3に伝達される当該エンジンからの振動の周波数を“f”とすれば、次式(1)および(2)に示す関係が成立し、式(1)および式(2)から、次式(3)に示す関係が導出される。なお、入力側振動次数qinは、例えば、3気筒エンジンの場合、qin=1.5であり、4気筒エンジンの場合、qin=2.0である。
qin=(f×60)/Nin …(1)
qout=(f×60)/Nout …(2)
qout=(Nin /Nout)×qin…(3)
上記式(3)からわかるように、ロックアップクラッチ9のスリップ制御が実行されると、それに伴ってエンジン(クランクシャフト)とダンパ機構8のドライブ部材81との間に生じる回転速度差の大きさ(|Nout−Nin|)に応じて、図4に示すように、入力側振動次数qinと出力側振動次数qoutとの間にズレが生じることになる。図4は、発進装置1が4気筒エンジンと変速機との間に設置された場合の入力側回転速度Ninと目標スリップ速度と出力側振動次数qoutとの関係を示すものである。同図において、qin=2.0(ロックアップ時)の破線よりも上側の複数の曲線は、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも低くなるようにロックアップクラッチ9がスリップ制御される場合における目標スリップ速度(≒Nin−Nout)ごとの入力側回転速度Ninと出力側振動次数qoutとの関係(図4中、下から順番に、目標スリップ速度(≒Nin−Nout)=20rpm,50rpm,100rpm,150rpm,200rpm,300rpmである場合の関係)を示す。また、図4において、qin=2.0(ロックアップ時)の破線よりも下側の複数の曲線は、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも高くなるようにロックアップクラッチ9がスリップ制御される場合における目標スリップ速度(≒Nout−Nin)ごとの入力側回転速度Ninと出力側振動次数qoutとの関係(図4中、上から順番に、目標スリップ速度(≒Nout−Nin)=20rpm,50rpm,100rpm,150rpm,200rpm,300rpmである場合の関係)を示す。
図4に示すように、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも低くなるようにロックアップクラッチ9がスリップ制御される場合には、目標スリップ速度(絶対値)が大きくなるほど、出力側振動次数qoutが入力側振動次数qinよりも大きくなる。また、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも高くなるようにロックアップクラッチ9がスリップ制御される場合には、目標スリップ速度(絶対値)が大きくなるほど、出力側振動次数qoutが入力側振動次数qinよりも小さくなる。これに対して、ロックアップクラッチ9によりフロントカバー3とダンパ機構8のドライブ部材81とが直結される場合には、エンジン(クランクシャフト)とダンパ機構8のドライブ部材81との回転速度が一致することから、上記式(3)から分かるように、出力側振動次数qoutは、入力側振動次数qinに一致する。
従って、スリップ制御されるロックアップクラッチ9と共に発進装置1を構成する遠心振子式吸振装置10によってロックアップ時(フロントカバー3とドライブ部材81との直結時)のみならずスリップ制御時においてもエンジンからの振動を良好に吸収(減衰)するためには、上述のようなロックアップ時とスリップ制御時との間における出力側振動次数qoutのズレを考慮する必要がある。このため、遠心振子式吸振装置10では、以下に説明するようにして質量体12の重心が辿る揺動軌道100が設定される。
図5は、遠心振子式吸振装置10における質量体12の重心の揺動軌道100を示す拡大図であり、図6は、揺動軌道100を設定する手順を説明するための模式図である。これらの図面に示すように、揺動軌道100は、質量体12の揺動中心線Lを中心として当該揺動中心線Lに関して対称に延びる第1軌道101と、第1軌道101の両側で質量体12の揺動中心線Lに関して対称に位置する2つの第2軌道102と、それぞれ第1軌道101と第2軌道102との間に位置する2つの中間軌道103とを含む。
第1軌道101は、支持部材11等の回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となるエピサイクロイドやエピトロコイドあるいはサイクロイドといったトロコイド曲線、すなわち基礎円あるいは定直線上を転動する転円に定められた描画点の軌跡(本実施形態では、エピサイクロイド。図6における一点鎖線参照)により構成される。本実施形態では、第1軌道101を構成するトロコイド曲線を描画する転円の中心の軌跡と揺動中心線Lとの交点を第1軌道101の振子支点PF1とし、重心が第1軌道101に沿って往復移動する際、質量体12が回転半径を変化させながら振子支点PF1の周りに揺動するものとみなす。図示するように、第1軌道101は、周方向における中央で質量体12の揺動中心線Lと交差して当該質量体12の小振幅領域を規定する。
同様に、第2軌道102も、回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となるエピサイクロイドやエピトロコイドあるいはサイクロイドといったトロコイド曲線(本実施形態では、エピサイクロイド、図6における二点鎖線参照)により構成される。本実施形態では、第2軌道102を構成するトロコイド曲線を描画する転円の中心の軌跡と揺動中心線Lとの交点を第2軌道102の振子支点PF2とし、重心が第2軌道102に沿って往復移動する際、質量体12が回転半径を変化させながら振子支点PF2の周りに揺動するものとみなす。図示するように、第2軌道102は、第1軌道101の両側に位置して質量体12の大振幅領域を規定する。
また、第1軌道101を形成するトロコイド曲線は、支持部材11の回転に伴って重心が第1軌道101の範囲内で往復移動するように質量体12が揺動することでロックアップクラッチ9のスリップ制御時にドライブ部材81に伝達される振動を減衰することができるように、当該振動の次数すなわちスリップ制御時における出力側振動次数qoutに応じて選択される。これに対して、第2軌道102を形成するトロコイド曲線は、支持部材11の回転に伴って重心が一方の第2軌道102から他方の第2軌道102までの揺動軌道100の全範囲で往復移動するように質量体12が揺動することでロックアップクラッチ9のロックアップ時(直結時)にドライブ部材81に伝達される振動を減衰することができるように、当該振動の次数すなわちロックアップ時の入力側振動次数qinに応じて選択される。
更に、本実施形態において、揺動軌道100の第1軌道101は、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも低くなるようにロックアップクラッチ9がスリップ制御される際の出力側振動次数qoutに応じて定められる。この場合、図4に示すように、出力側振動次数qoutが入力側振動次数qinに対して高次側にズレる(振動次数が大きくなる)。また、支持部材の回転中心から振子支点までの距離を“R”とし、振子支点から質量体の重心までの距離(平均値)を“r”とすれば、質量体の振動次数qは、一般にq≒√(R/r)と表すことができる。これを踏まえて、スリップ制御時の出力側振動次数qoutに応じて定められる第1軌道101の振子支点PF1と回転中心RCとの距離R1は、図6に示すように、ロックアップ時の入力側振動次数qinに応じて定められる第2軌道102の振子支点PF2と回転中心RCとの距離R2よりも長く定められる。
これにより、重心が第1軌道101の範囲内で往復移動する際の質量体12の振動次数を、重心が第1および第2軌道101,102を含む揺動軌道100の全範囲内で往復移動する際の質量体12の振動次数よりも高くすることができる。本発明者らの研究・解析の結果によれば、R2<R1≦1.15×R2という関係を満たすように、第1および第2軌道101,102を定めることで、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも低くなるようにロックアップクラッチ9がスリップ制御される際の想定目標スリップ速度(例えば20〜300rpm程度の値)に起因した振動次数のズレに良好に対応し得ることが判明している。
中間軌道103は、第1軌道101と第2軌道102との間で両者に接するように延びる曲線により構成される。中間軌道103を形成する曲線は、振子支点PF1,PF2とは反対側(径方向外側)に凸となる曲線であってもよく、振子支点PF1,PF2側(径方向内側)に凸となる曲線であってもよく、第1軌道101と第2軌道102とにより近接するように複数回湾曲された曲線であってもよい。そして、支持部材11の第1ガイド切欠部11gと質量体12(錘120)の第2ガイド切欠部120gとの形状は、上述のようにして設定される揺動軌道100に基づいて定められる。すなわち、第1ガイド切欠部11gおよび第2ガイド切欠部120gは、揺動軌道100が上述のような第1および第2軌道101,102を含むように形成される。なお、質量体12が揺動範囲内で振れるのに伴って当該質量体12を重心の周りに回転させない場合、第1ガイド切欠部11gと第2ガイド切欠部120gとは、揺動軌道100の相似曲線を軸線とする長穴とされればよい。
上述のように構成される発進装置1において、遠心振子式吸振装置10の質量体12は、ロックアップクラッチ9のスリップ制御時に、重心が揺動軌道100の第1軌道101の範囲内で移動するように支持部材11およびドリブン部材83に対して揺動し、フロントカバー3(エンジン)とドライブ部材81との回転速度差(実スリップ速度)に起因してエンジンからの振動とは異なる次数(出力側振動次数qout)をもった状態でドライブ部材81に伝達された振動とは逆方向の位相を有する振動をドリブン部材83に付与する。これにより、ロックアップクラッチ9のスリップ制御時に、遠心振子式吸振装置10によってロックアップクラッチ9と変速機との間で振動を良好に吸収(減衰)することが可能となる。
更に、ロックアップ時、すなわちロックアップクラッチ9によりフロントカバー3(エンジン)とドライブ部材81とが直結される際には、遠心振子式吸振装置10の質量体12を、重心が第1および第2軌道101,102を含む揺動軌道100の全範囲内で移動するように揺動させることができる。これにより、ロックアップクラッチ9を介してエンジンからの振動と同一の次数(入力側振動次数qin)をもった状態でドライブ部材81に伝達される振動をロックアップクラッチ9と変速機との間で良好に吸収(減衰)することが可能となる。この結果、スリップ制御されるロックアップクラッチ9と共に発進装置1を構成する遠心振子式吸振装置10の吸振性能をより向上させることができる。
また、ロックアップクラッチ9のスリップ制御時には、エンジンからロックアップクラッチ9を介してドライブ部材81に伝達される振動(振動レベル)が小さくなり、遠心振子式吸振装置10の質量体12の振れ角(振幅)が小さくなる。従って、質量体12の小振幅領域を規定するように第1軌道101を揺動中心線Lと交差させると共に、質量体12の大振幅領域を規定するように第2軌道102を第1軌道101の両側に配置すれば、スリップ制御時およびエンジンとドライブ部材81との直結時(ロックアップ時)の双方において、エンジンからロックアップクラッチ9を介してドライブ部材81に伝達される振動をロックアップクラッチ9と変速機との間でより良好に吸収(減衰)することが可能となる。
更に、遠心振子式吸振装置10において、揺動軌道100は、第1軌道101と第2軌道102との間で両者に接するように延びる中間軌道103を含む。これにより、第1軌道101および中間軌道103と、中間軌道103および第2軌道102とを滑らかに連続させて、遠心振子式吸振装置10の質量体12を支持部材11に対してよりスムースに揺動させることが可能となる。
また、上記実施形態のように、支持部材11およびドリブン部材83の回転中心RCと第1軌道101の振子支点PF1との距離R1を回転中心Rcと第2軌道102の振子支点PF2との距離R2よりも長くすれば、第1軌道101を出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも低くなるようにロックアップクラッチ9がスリップ制御される際にドライブ部材81に伝達される振動の次数(出力側振動次数qout)に応じた軌道とすると共に、第2軌道102をロックアップ時に伝達される振動の次数(入力側振動次数qin)に応じた軌道とすることが可能となる。
そして、R2<R1≦1.15×R2という関係を満たすように、第1および第2軌道101,102を定めることで、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも低くなるようにロックアップクラッチ9がスリップ制御される際に、エンジンとドライブ部材81との回転速度差(実スリップ速度)に起因して当該エンジンからの振動とは異なる次数(出力側振動次数qout)をもった状態でドライブ部材81に伝達される振動をロックアップクラッチ9と変速機との間で極めて良好に吸収(減衰)することが可能となる。
図7は、遠心振子式吸振装置における質量体の重心の揺動軌道を設定する他の手順を説明するための模式図である。同図に示す揺動軌道100Bにおいて、第1軌道101Bは、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも高くなるようにロックアップクラッチがスリップ制御される際の出力側振動次数qoutに応じて定められる。第1軌道101Bも、回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となるエピサイクロイドやエピトロコイドあるいはサイクロイドといったトロコイド曲線(図7における一点鎖線参照)により構成される。同様に、第2軌道102Bも、回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となるエピサイクロイドやエピトロコイドあるいはサイクロイドといったトロコイド曲線(図7における二点鎖線参照)により構成される。更に、中間軌道103Bは、第1軌道101Bと第2軌道102Bとの間で両者に接するように延びる曲線により構成される。
図4に示すように、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも高くなるようにロックアップクラッチがスリップ制御される場合、出力側振動次数qoutが入力側振動次数qinに対して低次側にズレる(振動次数が小さくなる)。従って、スリップ制御時の出力側振動次数qoutに応じて定められる第1軌道101Bの振子支点PF1と回転中心RCとの距離R1は、図7に示すように、ロックアップ時の入力側振動次数qinに応じて定められる第2軌道102Bの振子支点PF2と回転中心RCとの距離R2よりも短く定められる。これにより、重心が第1軌道101Bの範囲内で往復移動する際の質量体12の振動次数を重心が第1および第2軌道101B,102Bを含む揺動軌道100Bの全範囲内で往復移動する際の質量体12の振動次数よりも低くすることができる。そして、揺動軌道100Bにおいては、0.85×R2≦R1<R2という関係を満たすように、第1および第2軌道101B,102Bを定めることで、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも高くなるようにロックアップクラッチがスリップ制御される際の想定目標スリップ速度(例えば20〜300rpm程度の値)に起因した振動次数のズレに良好に対応することが可能となる。
図8は、遠心振子式吸振装置における質量体の重心の揺動軌道を設定する更に他の手順を説明するための模式図である。同図に示す揺動軌道100Cにおいて、第1軌道101Cは、回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となる円弧(図8における一点鎖線参照)により構成される。同様に、第2軌道102Cも、回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となる円弧(図8における二点鎖線参照)により構成される。更に、中間軌道103Cは、第1軌道101Cと第2軌道102Cとの間で両者に接するように延びる曲線により構成される。
また、第1軌道101Cは、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも低くなるようにロックアップクラッチがスリップ制御される際の出力側振動次数qoutに応じて定められる。従って、スリップ制御時の出力側振動次数qoutに応じて定められる第1軌道101Cの振子支点PF1と回転中心RCとの距離R1は、図8に示すように、ロックアップ時の入力側振動次数qinに応じて定められる第2軌道102Cの振子支点PF2と回転中心RCとの距離R2よりも長くなる。この場合も、R2<R1≦1.15×R2という関係を満たすように、第1および第2軌道101C,102Cを定めることで、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも低くなるようにロックアップクラッチがスリップ制御される際の想定目標スリップ速度(例えば20〜300rpm程度の値程度)に起因した振動次数のズレに良好に対応することが可能となる。
図9は、遠心振子式吸振装置における質量体の重心の揺動軌道を設定する他の手順を説明するための模式図である。同図に示す揺動軌道100Dにおいても、第1軌道101Dは、回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となる円弧(図9における一点鎖線参照)により構成される。同様に、第2軌道102Dも、回転中心RCとは反対側(径方向外側)に凸となる円弧(図9における二点鎖線参照)により構成される。更に、中間軌道103Dは、第1軌道101Dと第2軌道102Dとの間で両者に接するように延びる曲線により構成される。
また、第1軌道101Dは、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも高くなるようにロックアップクラッチがスリップ制御される際の出力側振動次数qoutに応じて定められる。従って、スリップ制御時の出力側振動次数qoutに応じて定められる第1軌道101Dの振子支点PF1と回転中心RCとの距離R1は、図9に示すように、ロックアップ時の入力側振動次数qinに応じて定められる第2軌道102Dの振子支点PF2と回転中心RCとの距離R2よりも短くなる。この場合も、0.85×R2≦R1<R2という関係を満たすように、第1および第2軌道101D,102Dを定めることで、出力側回転速度Noutが入力側回転速度Ninよりも高くなるようにロックアップクラッチがスリップ制御される際の想定目標スリップ速度(例えば20〜300rpm程度の値)に起因した振動次数のズレに良好に対応することが可能となる。
なお、上述の発進装置1は、いわゆる湿式の発進装置として構成されるが、本発明による発進装置は、ポンプインペラ、タービンランナ、ステータ等を含む流体伝動装置が省略された、いわゆる乾式の発進装置として構成されてもよい。更に、発進装置1のダイナミックダンパ20は、専用の質量体を有するように構成されてもよく、ダンパ機構8の中間部材82(中間要素)やドライブ部材81(入力要素)に連結されてもよく、発進装置1から省略されてもよい。また、遠心振子式吸振装置10が連結される回転要素は、ダンパ機構のドリブン部材83(出力要素)に限られず、ダンパ機構の中間部材82やドライブ部材81(入力要素)であってもよい。更に、発進装置1に含まれるダンパ機構は、例えば径方向に離間して配置される複数のスプリング(弾性体)が並列に作用するように構成された並列式ダンパ機構であってもよく、複数の中間要素を有するものであってもよい。
以上説明したように、本発明による発進装置は、駆動装置と変速機に連結される入力要素とを直結可能であり、前記駆動装置と前記入力要素とに回転速度差を生じさせるようにスリップ制御される発進クラッチと共に発進装置を構成する遠心振子式吸振装置において、前記発進クラッチと前記変速機との間に設けられて前記駆動装置からの動力により回転する回転要素と一体に回転する支持部材と、前記支持部材の回転に伴って重心が予め定められた揺動軌道に沿って移動するように前記支持部材により揺動自在に支持される質量体を備え、前記揺動軌道は、前記発進クラッチのスリップ制御時に前記入力要素に伝達される振動の次数に応じて定められる第1軌道と、前記発進クラッチにより前記駆動装置と前記入力要素とが直結される際に前記入力要素に伝達される振動の次数に応じて定められる第2軌道とを含むことを特徴とする。
この遠心振子式吸振装置は、駆動装置と変速機に連結される入力要素とを直結可能であり、駆動装置と入力要素とに回転速度差を生じさせるようにスリップ制御される発進クラッチと共に発進装置を構成する。この遠心振子式吸振装置は、発進クラッチと変速機との間に設けられて駆動装置からの動力により回転する回転要素と一体に回転する支持部材と、当該支持部材の回転に伴って重心が予め定められた揺動軌道に沿って移動するように支持部材により揺動自在に支持される質量体とを備える。そして、揺動軌道は、発進クラッチのスリップ制御時に入力要素に伝達される振動の次数に応じて定められる第1軌道と、発進クラッチにより駆動装置と入力要素とが直結される際に入力要素に伝達される振動の次数に応じて定められる第2軌道とを含む。
このように構成される遠心振子式吸振装置の質量体は、発進クラッチのスリップ制御時に、重心が揺動軌道の第1軌道の範囲内で移動するように支持部材および回転要素に対して揺動し、駆動装置と入力要素との回転速度差に起因して当該駆動装置からの振動とは異なる次数をもった状態で入力要素に伝達された振動とは逆方向の位相を有する振動を回転要素に付与する。これにより、発進クラッチのスリップ制御時に、遠心振子式吸振装置によって発進クラッチと変速機との間で振動を良好に吸収(減衰)することが可能となる。また、発進クラッチにより駆動装置と入力要素とが直結される際には、遠心振子式吸振装置の質量体を重心が第1および第2軌道を含む揺動軌道の全範囲内で移動するように揺動させることができる。これにより、発進クラッチを介して駆動装置からの振動と同一の次数をもった状態で入力要素に伝達される振動を発進クラッチと変速機との間で良好に吸収(減衰)することが可能となる。この結果、スリップ制御される発進クラッチと共に発進装置を構成する遠心振子式吸振装置の吸振性能をより向上させることができる。
また、前記第1軌道は、前記質量体の揺動中心線と交差して前記質量体の小振幅領域を規定してもよく、前記第2軌道は、前記第1軌道の両側に位置して前記質量体の大振幅領域を規定してもよい。すなわち、発進クラッチのスリップ制御時には、駆動装置から発進クラッチを介して入力要素に伝達される振動(振動レベル)が小さくなり、遠心振子式吸振装置の質量体の振れ角(振幅)が小さくなる。従って、質量体の小振幅領域を規定するように第1軌道を揺動中心線と交差させると共に、質量体の大振幅領域を規定するように第2軌道を第1軌道の両側に配置すれば、スリップ制御時および駆動装置と入力要素との直結時の双方において、駆動装置から発進クラッチを介して入力要素に伝達される振動を発進クラッチと変速機との間でより良好に吸収(減衰)することが可能となる。
更に、前記第1および第2軌道は、トロコイド曲線により構成されてもよく、前記第1および第2軌道を構成する前記トロコイド曲線は、エピサイクロイドであってもよい。
また、前記揺動軌道は、前記第1軌道と前記第2軌道との間で両者に接するように延びる中間軌道を含んでもよい。これにより、これにより、第1軌道および中間軌道と、中間軌道および第2軌道とを滑らかに連続させて、遠心振子式吸振装置の質量体を支持部材に対してよりスムースに揺動させることが可能となる。
更に、前記支持部材の回転中心と前記第1軌道の振子支点との距離と、前記支持部材の回転中心と前記第2軌道の振子支点との距離とは、異なっていてもよい。これにより、第1軌道を発進クラッチのスリップ制御時に入力要素に伝達される振動の次数に応じた軌道とすると共に、第2軌道を駆動装置と入力要素との直結時に入力要素に伝達される振動の次数に応じた軌道とすることが可能となる。
また、前記遠心振子式吸振装置は、前記回転中心と前記第1軌道の振子支点との距離を“R1”とし、前記回転中心と前記第2軌道の振子支点との距離を“R2”としたときに、0.85×R2≦R1<R2、またはR2<R1≦1.15×R2を満たすように構成されてもよい。これにより、発進クラッチのスリップ制御時に、駆動装置と入力要素との回転速度差に起因して当該駆動装置からの振動とは異なる次数をもった状態で入力要素に伝達される振動を発進クラッチと変速機との間で極めて良好に吸収(減衰)することが可能となる。
更に、前記発進クラッチは、前記入力要素の回転速度が前記駆動装置の回転速度よりも低くなるようにスリップ制御されてもよく、この場合、前記遠心振子式吸振装置は、R2<R1≦1.15×R2を満たすように構成されてもよい。
また、前記発進クラッチは、前記入力要素の回転速度が前記駆動装置の回転速度よりも高くなるようにスリップ制御されてもよく、この場合、前記遠心振子式吸振装置は、0.85×R2≦R1<R2を満たすように構成されてもよい。
更に、前記支持部材および前記質量体の少なくとも何れか一方は、前記質量体の重心が前記揺動軌道に沿って移動するように前記支持部材に対する前記質量体の揺動をガイドするガイド部を有してもよい。更に、前記発進装置は、前記入力要素と、前記変速機に連結される出力要素と、前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達するトルク伝達弾性体とを含むダンパ装置を含んでもよく、前記回転要素は、前記入力要素、前記出力要素、および前記トルク伝達弾性体を介して前記入力要素および前記出力要素の間に配置される中間要素の何れかであってもよい。
そして、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。