(全体構成)
以下に説明する実施形態は、図1に示すように、複数のエリア41,42,…に区分されている施設において、それぞれのエリア41,42,…に配置されている負荷機器31,32,…が消費する消費電力を管理する管理装置10を備える。負荷機器31,32,…の単位時間の消費電力は計測装置50で計測される。計測装置50は、施設の全体を単位とする計測を行うほか、たとえば、エリア41,42,…を単位とする計測、負荷機器31,32,…の種類を単位とする計測、個々の負荷機器31,32,…を単位とする計測などを行う構成を備えていることが望ましい。以下では、負荷機器31,32,…を区別する必要がない場合は負荷機器30として記載し、エリア41,42,…を区別する必要がない場合はエリア40として記載する。なお、以下の実施形態において、負荷機器31,32,…は、電気負荷を想定しているが、ガス機器や水道を利用する機器を負荷機器31,32,…に含めることが可能である。
施設は、食品を扱うスーパーマーケット、コンビニエンスストア、百貨店、店舗ビル、オフィスビル、ホテル、病院のような建物空間のほか、公園、テーマパークなどでもよい。これらは施設の一例であって、施設は、複数の負荷機器が配置され、かつ配置された負荷機器での消費電力が需用者に一括して管理されている空間であれば形態は問わない。
以下に説明する実施形態は、施設が食品を扱うスーパーマーケットである場合を例として説明する。限定する趣旨ではないが、本実施形態で想定しているスーパーマーケットには、売場、レジ、バックヤード、事務室などの複数のエリア40が存在する。売場とバックヤードとには、照明機器301、空調機器302、冷蔵機器303が配置される。また、レジと事務室とには、照明機器301、空調機器302が配置される。冷蔵機器303は、食品の保存と陳列とを行う冷蔵庫または冷凍庫を意味する。売場には、冷蔵機器303として平型、多段型、リーチイン型などの各種形式のショーケースが配置され、バックヤードには、冷蔵機器303として大容量の冷蔵庫が配置される。
(管理装置)
管理装置10は、他装置との間で情報を授受したり、他装置の動作の監視や制御を行うために、他装置との接続を可能にする接続部(図示せず)を備える。接続部は、端子やコネクタのように他装置との電気的接続を可能にする装置と、信号の授受のための装置あるいは電路の開閉を行うための装置とを備える。管理装置10は、プログラムを実行することにより以下に説明する機能を実現するコンピュータを主なハードウェア要素として備える。このコンピュータは、個別のデバイスであるプロセッサとメモリとの組合せ、プロセッサとメモリとをワンチップで構成したマイコンなどを意味する。
管理装置10の接続部に接続される他装置は、本実施形態では、遠隔管理装置20と負荷機器30と計測装置50と利用者装置60とを例示するが、これら以外の他装置を接続することも可能である。
遠隔管理装置20は、1台以上のコンピュータを備えるコンピュータサーバであり、以下に説明する機能を実現するためのプログラムを実行する。そのため、接続部は、通信ネットワークNT1を通して遠隔管理装置20と通信するための図示しないインターフェイス部(以下、「I/F部」という)を備える。遠隔管理装置20は、通信可能に関連付けられた複数台のコンピュータを備えていてもよい。また、通信ネットワークNT1は、インターネットのような公衆網を用いて構築されるVPN(Virtual Private Network)が用いられる。
本実施形態で用いる負荷機器30は、管理装置10と通信する機能と、管理装置10からの指示に従って動作状態が制御される機能と、動作状態を管理装置10に通知する機能とを備える。そのため、接続部は、負荷機器30と通信するためのI/F部(図示せず)を備える。ただし、負荷機器30は、管理装置10からの通信信号によりオンオフの制御のみを受け付ける構成であってもよい。また、管理装置10と通信する機能を備えていない負荷機器30を用いることも可能である。この場合、管理装置10は、負荷機器30に給電する電路のオンオフを行うためのリレーのようなスイッチ要素を備える必要がある。
計測装置50は、計測した電力の情報を管理装置10に伝送する。接続部は、計測装置50と通信するためのI/F部(図示せず)を備える。管理装置10と計測装置50との間の通信に用いる伝送路は、有線通信路と無線通信路とのどちらでもよい。ただし、管理装置10が分電盤の近くに配置される場合は計測装置50との距離が短いから有線通信路を採用し、管理装置10が分電盤から離れて配置される場合は無線通信路を採用することが望ましい。上述したI/F部(図示せず)は、計測装置50から単位時間ごとに電力の情報を取得する。ここに、単位時間は、たとえば、1分、5分などから選択される。
利用者装置60は、ユーザインターフェイスとしての表示部と操作部とを備え、管理装置10が取得した情報を表示部に表示して可視化する機能と、施設責任者のような利用者による操作部の操作内容を管理装置10の動作に反映させる機能とを有する。表示部と操作部とは、フラットパネルディスプレイの画面にタッチパネルを重ね合わせた構成の操作表示器を備えていることが望ましい。利用者装置60は、専用装置のほか、コンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などを流用可能である。接続部は、このような利用者装置60を利用可能とする構成のI/F部(図示せず)を備える。このI/F部は、コンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などを利用者装置60として流用する場合、無線LAN(Local Area Network)やBluetooth(登録商標)の仕様が採用される。
管理装置10は、消費電力の目標値が設定される目標設定部11と、計測装置50から取得した電力を目標設定部11に設定された目標値と比較する評価部12と、評価部12の評価結果に応じて負荷機器30の動作を指示する指示部13とを備える。以下では、消費電力の目標値を「目標電力」という。目標設定部11は、節電率が与えられると、あらかじめ設定された基準電力に節電率を乗じて目標電力を求める。基準電力は、電気事業者などとの契約により定められる契約電力で規定される場合と、施設における消費電力の実績から求められる場合とがある。
目標設定部11に設定される目標電力は、施設の消費電力の低減を図るように設定される。ここに、常時の目標電力は、エリア40に存在する人が負荷機器30の運転により享受する利便性を損なわないように、エリア40に存在する人の効用に応じて定められる。また、電力事業者から節電率が指示される場合などの非常時の目標電力は、指示された節電率に見合うように定められる。
目標電力は、施設ごとに異なるから、過去の消費電力の実績と、所要の節電期間における節電率とから求められる。節電期間は、1日の時間帯、日時で指定される期間、複数日にわたる期間、曜日、年などから選択される。たとえば、1日において電力の需要がピークになる時間帯、年間において電力の需要がピークになる期間などを節電期間とすれば、消費電力のピークが抑制され、結果的に、電気事業者は供給する電力のピークを抑制することが可能になる。また、施設における年間の消費電力を低減させるように目標電力が設定される場合もある。
目標設定部11の目標値は、原則として、遠隔管理装置20から設定されるが、利用者装置60を用いて利用者が設定する場合もある。遠隔管理装置20が目標電力を設定する技術については後述する。利用者装置60を用いる場合、目標電力は、施設の全体について設定するほか、負荷機器30あるいはエリア40を単位として個別に設定することが可能である。
目標設定部11は、遠隔管理装置20から設定される第1の目標電力を記憶する第1の設定部111と、利用者装置60を用いて設定される第2の目標電力を記憶する第2の設定部112とを備える。第1の設定部111および第2の設定部112は、目標電力を達成すべき節電期間も併せて記憶する。第1の設定部111および第2の設定部112は、半導体メモリやハードディスクのような記憶装置で構成される。
目標設定部11は、所定期間における施設の消費電力の変化を記憶する電力記憶部113を備えていてもよい。電力記憶部113は、施設における実際の消費電力の推移を記憶していることが望ましいが、管理装置10の使用開始直後などには、電力記憶部113に記憶させる実績がない。したがって、管理装置10が設置される施設と同程度の規模の施設で得られた消費電力の推移を電力記憶部113に記憶させて用いることも可能である。このような他の施設の情報は、遠隔管理装置20から取得することが可能である。
電力記憶部113が設けられている場合、目標設定部11は、節電期間に相当する期間の消費電力を電力記憶部113から抽出し、指定された節電率を用いて、第1の目標電力および第2の目標電力を算出する。
遠隔管理装置20から設定される第1の目標電力は、たとえば、電力会社のような電気事業者からの要望によって設定される場合があり、処理を実行する節電期間が当日や翌日のように緊急性を有していることがある。一方、利用者装置60から設定される第2の目標電力は、処理を実行する節電期間が比較的長期にわたっていることが多い。そのため、第1の目標電力は節電期間が個別に設定され、第2の目標電力は比較的長期にわたる適用期間が設定され、適用期間における日々の時間帯が節電期間として採用される。言い換えると、第1の設定部111の節電期間は個別に設定され、第2の設定部112の節電期間は適用期間と時間帯との組合せで指定される。このように、利用者装置60で設定される節電期間が適用期間と時間帯との組合せとすれば、利用者装置60を頻繁に操作する煩わしさが解消される。
目標設定部11は、第1の目標電力と第2の目標電力とのどちらを選択するかを決めるために、目標選択部114を備える。目標選択部114は、遠隔管理装置20と利用者装置60とのいずれかからの指示により、第1の目標電力と第2の目標電力との一方を選択する。
ところで、管理装置10は、複数種類の動作モードが選択可能であり、目標選択部114は、動作モードに応じて第1の目標電力と第2の目標電力との一方を選択する。動作モードには、通常モード、遠隔優先モード、利用者優先モードなどがあり、動作モードの選択は、遠隔管理装置20あるいは利用者装置60により行われる。
利用者優先モードは、遠隔管理装置20から設定された第1の目標電力を用いると施設において重大な問題が生じる場合などに備えて、利用者装置60から第1の目標電力の使用を禁止可能にする動作モードである。すなわち、遠隔管理装置20が施設の実際の環境状態を考慮せずに第1の目標電力(あるいは節電率)を設定したとしても、第1の目標電力の使用が禁止可能であることにより、利用者は現場の環境状態に応じた負荷機器30の運転を行うことが可能になる。
たとえば、食品スーパーマーケットを運営する上で重大な問題が生じる例としては、冷蔵機器303の温度が長時間にわたって高い状態に設定される場合などがある。そこで、冷蔵機器303の温度が所定値よりも高くなると、利用者優先モードを許可するように構成すれば、利用者優先モードの乱用を防止しながらも、冷蔵機器303の温度上昇による食品の劣化を防止することが可能になる。
目標選択部114は、通常モードでは、第1の目標電力と第2の目標電力とのうち節電率の大きいほうを選択する。したがって、通常モードが選択されていると、消費電力は第1の目標電力と第2の目標電力との両方を満足することになる。
評価部12は、計測装置50から単位時間ごとに取得した電力の情報を積算することにより消費電力を求め、所要の判定期間において、目標電力に対する消費電力(積算値)の割合と判定期間の開始からの経過時間とを用いて消費電力(積算値)の推移を予測する。そして、評価部12は、判定期間の終了時に消費電力が目標電力を超えることが予測される場合、指示部13が負荷機器30の消費電力を抑制する動作を指示する。消費電力を抑制させる程度(以下、「制御レベル」という)は、消費電力と目標電力との割合によって異なる。したがって、評価部12は、消費電力と目標電力との関係に応じた制御レベルを指示部13に通知する。制御レベルは、複数段階(以下の説明では4段階)から選択可能になっている。
なお、判定期間は、たとえば30分、1日、1ヶ月、1年などから選択される。たとえば、30分ごとの消費電力について月間の最大値で電気料金の単価が定まる料金体系が採用されている場合には、判定期間として30分が選択される。また、月間あるいは年間の消費電力の節電率を目標値として設定している場合には、判定期間は1ヶ月あるいは1年になる。消費電力は、判定期間の開始から積算され、判定期間の終了をもって0にリセットされる。
指示部13は、評価部12から制御レベルが通知されると、施設の消費電力が制御レベルに見合うだけ低減されるように、消費電力を低減させる負荷機器30を選択し、かつ選択した負荷機器30の動作を決定する。制御レベルは、負荷機器30の種類および動作に対応付けられ、負荷機器30の種類および動作は時間経過に伴って変化させることも可能である。
制御レベルと負荷機器30の種類および動作との関係は、制御テーブル14に格納されている。制御テーブル14は、制御対象である負荷機器30の種類と動作との少なくとも一方を時間経過に伴って変化させるように、負荷機器30の制御手順が格納されていてもよい。指示部13は、評価部12から制御レベルが通知されると、制御テーブル14の内容を参照し、制御テーブル14から読み出した負荷機器30の種類および動作に従って負荷機器30に指示を与える。
また、制御テーブル14の内容は、負荷機器30の種類および動作について電力を制限する順番を制御レベルに対応付けてあってもよい。たとえば、食品を扱うスーパーマーケットであれば、事務室の照明機器301および空調機器302の消費電力は低減させても店舗の運営に対する影響が少ないが、冷蔵機器303の消費電力を低減させることは難しい。したがって、制御テーブル14の内容は、消費電力を低減させる割合が少ない制御レベルに対しては、事務所の照明機器301および空調機器302を対象として消費電力を低減させる動作になる。言い換えると、制御テーブルの内容は、消費電力を低減させた場合の影響が少ないほうから順に、負荷機器30の種類および動作が制御レベルに対応付けられる。
制御テーブル14の内容は書換可能であり、制御テーブル14の内容を含む情報は、遠隔管理装置20から伝送される。遠隔管理装置20から伝送された制御テーブル14の内容を含む情報は、管理装置10に設けられた更新部15が受け取り、更新部15は遠隔管理装置20から伝送された情報に従って制御テーブル14の内容を更新する。なお、制御テーブル14の内容は、利用者装置60を用いて設定することも可能である。
ところで、目標電力(あるいは節電率)は、対象となる施設を運営する上で厳しくなりすぎる場合がある。とくに、第1の目標電力は、上述したように、現場の環境状態を考慮せずに遠隔管理装置20から一方的に定められるから、この種の問題が生じやすくなる。また、利用者装置60を用いて設定される第2の目標電力についても、過小に設定されて施設の運営に問題が生じる可能性がある。
上述のことから、目標電力が過小(節電率が過大)に設定されないように、管理装置10は、目標設定部11に設定された目標電力を評価する目標評価部16を備える。目標評価部16は、施設を問題なく運営するのに最低限必要な消費電力である推奨電力(推奨値)を用い、目標設定部11に設定された目標電力を推奨電力と比較する。目標設定部11に設定された目標電力が推奨電力よりも小さい場合、目標評価部16は、利用者装置60を通して利用者の注意を喚起する。推奨電力は、原則として遠隔管理装置20から与えられるが、利用者装置60から入力してもよい。
推奨電力は、施設における消費電力の過去の実績やシミュレーションの結果を用いて、施設ごとに推定される。施設を問題なく運営するための環境状態を推定する機能、および消費電力のシミュレーションを行う機能は、後述するように、遠隔管理装置20が備える。
また、利用者装置60を通して利用者の注意を喚起する技術は、利用者装置60の表示器にコメント文を表示する技術、表示器の背景色を赤色などに変更する技術、ビープ音を発生させる技術などから選択される。管理装置10は、利用者装置60の表示器に情報を表示するために提示制御部17と、表示器に表示する表示内容を格納した提示内容記憶部18とを備える。提示内容記憶部18は、計測装置50から取得した電力と目標設定部11に設定された目標値とを評価部12が比較した結果、目標評価部16による評価の結果など、利用者装置60に表示すべき情報を記憶する。また、提示制御部17は、提示内容記憶部18に記憶された情報を利用者装置60に提示する機能を備える。提示制御部17は、指示部13が負荷機器30に指示した内容も利用者装置60に表示する。
上述したように、評価部12から指示部13に制御レベルが通知されると、指示部13は制御レベルを制御テーブル14に照合し、制御レベルに応じた負荷機器30の種類および動作を抽出する。ここで、指示部13は、制御レベルが高くなり負荷機器30による消費電力が低減されても目標電力を上回っている場合、施設を運営する上では、それ以上の節電が不可能であると判断し、提示制御部17を通して判断結果を利用者装置60に提示する。また、管理装置10は、指示部13の判断結果を用いて、動作モードを利用者優先モードに変更してもよい。利用者優先モードでは、利用者装置60の操作によって、節電の禁止、あるいは負荷機器30の消費電力の増加が可能になる。すなわち、利用者は、遠隔管理装置20から指示された第1の目標電力(あるいは節電率)を受け入れながらも、設備空間の実際の環境状態に応じて消費電力を増加させることが可能であるから、納得して節電を行うことになる。
(遠隔管理装置)
遠隔管理装置20は、複数台の管理装置10と通信可能であって、それぞれの管理装置10に同じ第1の節電率を通知するために、目標とする節電率が設定される目標指示部21と、管理装置10との間で通信ネットワークNT1を通して通信する通信インターフェイス(図示せず)とを備える。電気事業者などが定めた当日や翌日の節電期間と第1の節電率とは、情報入力部24から目標指示部21に入力され、適宜のタイミングで管理装置10に通知される。
この構成により、コンビニエンスストアや食品スーパーマーケットのように本部が多数の店舗を管理しているような業態の場合、各店舗の管理装置10に設定する第1の節電率を店舗を管理する本部の遠隔管理装置20から送信することが可能になる。また、電気事業者などから当日や翌日の特定の日時(時間帯)に節電が要求される場合にも、要求された第1の節電率を各店舗の管理装置10に送信することができる。
ところで、管理装置10において第1の節電率を満足するように負荷機器30を動作させるには、管理装置10が配置されている施設の環境条件に応じて、負荷機器30の動作を決定する必要がある。言い換えると、制御テーブル14に登録される制御レベルと負荷機器30の種類および動作との関係を適切に設定しなければならない。
一方、遠隔管理装置20は、複数台の管理装置10と通信可能であるから、管理装置10ごとの消費電力の履歴を収集することが可能である。また、通信対象である管理装置10が異なる遠隔管理装置20が他に存在している場合には、他の遠隔管理装置20から管理装置10ごとの消費電力の履歴を収集する。
収集された消費電力の履歴に関するデータは、施設の特性に関する施設情報と関連付けられ、遠隔管理装置20に設けられた情報記憶部22に保存される。すなわち、遠隔管理装置20は、施設ごとの消費電力の履歴に関する大量のデータを、施設の特性に関連付けて保存している。情報記憶部22に保存される情報は、施設の特性に関する施設情報および設定情報を、利用者装置60から管理装置10を通して受け取る。また、情報記憶部22に保存される施設情報および設定情報は、遠隔管理装置20に設けられた情報入力部24から入力することも可能になっている。
施設情報は、施設ごとの消費電力の履歴と併せて管理装置10から取得する。施設情報は、環境情報と設定情報とを含み、環境情報は、設備情報とシーン情報と外部環境情報とを含む。
設備情報は、施設が存在する地域、施設の用途に関する情報、施設のサイズに関する情報、設置されている負荷機器30の種類と電力容量に関する情報を含む。用途に関する情報は、店舗、オフィスビル、ホテルなどの区分と、売場、事務所などのエリア40の区分とを含む。また、サイズを表す情報は、エリア40の床面積で表される。負荷機器30の種類に関する情報は、照明機器301、空調機器302、冷蔵機器303の別を表す。電力容量に関する情報は、エリア40の床面積で除算され、単位面積当たりの電力負荷密度(容量原単位)として情報記憶部22に格納される。なお、エリア40の床面積は容積に代えることが可能であるが、以下では床面積を用いて説明する。
電力負荷密度は、施設のグレードや省エネルギーのための余力を示す情報になる。たとえば、照明機器301の電力負荷密度が大きいエリア40は、照度が高い傾向を表し、照度の低いエリア40に比べると、省エネルギーのための余力が大きいと言える。空調機器302や冷蔵機器303も同様である。食品スーパーマーケットであれば、空調機器302の電力負荷密度は、一般に約110W/m2で設計されることが多いが、電力負荷密度が200W/m 2 であれば、省エネルギーのための余力が大きいと言える。なお、施設のグレードは、主として、エリア40の断熱性能を表す。
シーン情報は、繁忙時間帯、開散時間帯、営業外時間帯、節電時間帯のように、負荷機器30の動作に影響する環境の情報を表す。すなわち、主として施設に存在する人の数や属性(従業員と来訪者の別)などによる環境の相違を表す。
外部環境情報は、外気温、湿度、日射量などに関する情報を表す。
一方、設定情報は、負荷機器30の動作により実現される環境の情報であり、ここでは、照明機器301の設定照度、空調機器302の設定温度、冷蔵機器の設定温度を表す。
遠隔管理装置20は、情報記憶部22が記憶しているデータを用いて、管理装置10に設けられた制御テーブル14の内容を生成する。そのため、管理装置10が配置されている施設の施設情報と、情報記憶部22が記憶している施設情報とを比較して所定の評価ルールで類似度を評価する比較部23を備える。管理装置10により管理される負荷機器30が配置された施設の特性は、情報入力部24から比較部23に与えられる。情報入力部24は、キーボードやマウスのような操作部を用いて施設の特性を入力する構成のほか、管理装置10に設けられた利用者装置60から入力された施設の特性を受け付ける構成を備えていてもよい。情報入力部24の機能は後述する。
比較部23は、情報入力部24から与えられた施設の特性のうちの環境情報をキーに用いて設定情報を抽出する。キーに用いる環境情報が文字で表される場合、キーと一致する情報を含むレコードが抽出される。また、キーに用いる環境情報が電力負荷密度や外気温のように数値で表される場合、負荷機器30の種類ごとに所定の評価ルールによって類似度が評価され、負荷機器30の種類ごとに類似度の高い設定情報が選択される。この処理については後述する。キーに用いる環境情報には、少なくとも、施設の区分、エリア40の区分、電力負荷密度、シーン情報、外気温が含まれていることが望ましい。
情報記憶部22に記憶されたデータから比較部23が抽出した設定情報が複数存在する場合は、抽出された設定情報を管理装置10に伝送し、利用者装置60に提示することによって、設定情報を利用者に選択させてもよい。
比較部23は、情報入力部24から与えられたキーに合致するデータが情報記憶部22から抽出できない場合は、管理装置10に通知し、利用者装置60を通して利用者の介入を促す。このとき、利用者装置60には、データを抽出したキーを示し、利用者に一部のキーを除外させることが望ましい。
情報記憶部22が記憶しているデータから設定情報が抽出できる場合は、類似した環境情報を持つ施設について、熟練者や専門家が設定した設定情報を利用できる。そのため、管理装置10と遠隔管理装置20との間で通信するだけで、特別な知識を持たない利用者であっても、適正な設定情報を簡便に設定することができる。つまり、管理装置10に管理される負荷機器30が配置された施設に適した設定情報を用いて、制御テーブル14の内容を短時間で定めることが可能になる。遠隔管理装置20は、比較部23が抽出したデータに基づいて制御テーブル14の内容である制御データを生成するデータ生成部25を備える。制御テーブル14の内容は、上述したように、制御レベルごとに負荷機器30の動作が対応付けられている。
ところで、施設ごとの設定内容として管理装置10から収集されるすべての情報を情報記憶部22に保存しても、収集した情報には、熟練者や専門家が設定した制御情報ではない情報も含まれる可能性がある。また、熟練者や専門家が設定した制御情報ではないにもかかわらず、施設において望ましい結果が得られた制御情報が含まれる可能性もある。そこで、情報記憶部22は、管理装置10で選択されている制御データが所定の継続時間(たとえば、1時間)を超えて変更されなかった場合、負荷機器30のこの動作を利用者にとって望ましい状態と判断して記録するようにしてもよい。つまり、情報記憶部22は、利用者が望ましい動作と判断したときの負荷機器30の制御情報を、施設情報とともに格納する。このようにして情報記憶部22に格納された情報は、成功事例となるから、他の施設において再利用される可能性が高くなる。
遠隔管理装置20は、上述した電気事業者などから通知される第1の節電率を管理装置10に通知する機能、および管理装置10に設けられた制御テーブル14の内容を定める機能のほかに、基準電力を算出する機能を備えている。すなわち、遠隔管理装置20は、管理装置10の目標評価部16に与える基準電力と推奨電力とを定めるエネルギー計算部26を備える。
エネルギー計算部26は、上述した施設の特性と同様の情報を用いて施設の消費電力をコンピュータシミュレーションにより推定する。すなわち、エネルギー計算部26は、エネルギーシミュレーションを行うアプリケーションプログラムをコンピュータで実行することにより実現される。エネルギーシミュレーションのためのアプリケーションプログラムとしては、TRNSYSやEnergyPlusなどが知られている。
これらのアプリケーションプログラムを用いるために、エネルギー計算部26に与える施設に関する情報には、施設あるいはエリア40の断熱性能、窓面積、床面積がなどが含まれる。また、この種の情報には、負荷機器30の電力容量、負荷機器30のエネルギー効率を表す効率情報、照明機器301の設定照度、空調機器302の設定温度、冷蔵機器303の設定温度、負荷機器30の運転時間なども含まれる。さらに、エネルギー計算部26には、管理装置10が配置された地域の外気温、湿度、日射量などの気象情報も与えることが必要である。
ところで、エネルギー計算部26は、エネルギーシミュレーションのためのアプリケーションプログラムを用いるから、エネルギー計算部26に入力すべき情報(パラメータ)は、200〜300種類程度になる。このように多数の情報は、熟練者あるいは専門家でなければ、エネルギー計算部26に与えることが困難である。そのため、遠隔管理装置20は、10種類程度の情報を入力するだけで、エネルギー計算部26に与える200〜300種類の情報を自動的に生成するパラメータ推定部27を備える。
パラメータ推定部27は、遠隔管理装置20が管理装置10と通信することにより利用者が入力した情報と、情報記憶部22に格納された情報とを用いて、エネルギー計算部26に与える情報(パラメータ)を推定する。管理装置10に付設された利用者装置60に入力された情報は、情報入力部24に設けられた保持部に記憶される。保持部が記憶する情報は、床面積、築年数、施設の用途(店舗、オフィスの別など)、地域、営業時間(利用時間帯)、負荷機器30の種類などの施設に関する基本条件の情報である。なお、パラメータ推定部27に与える情報は、利用者装置60から情報入力部24に入力されるだけではなく、情報入力部24に直接入力してもよい。
一方、パラメータ推定部27が情報記憶部22から抽出して用いる情報は、エリア40ごとに配置された負荷機器30の電力負荷密度、施設のグレード、負荷機器30のエネルギー効率、施設が存在する地域、外気温、湿度、日射量などを含む。さらに、パラメータ推定部27は、営業時間から負荷機器30の運転時間を推定する機能を備える。営業時間から運転時間を推定するには、データテーブルあるいは演算式を用いる。
上述した管理装置10および遠隔管理装置20と利用者装置60とを用いて施設における消費電力を低減させる動作例を以下に説明する。
(動作例1)
以下では、遠隔管理装置20が制御テーブル14の内容を生成する動作と、第1の節電率を達成するために、制御テーブル14を用いて負荷機器30を制御する動作とについて説明する。
上述したように、遠隔管理装置20は、施設に関する情報が管理装置10から情報入力部24に与えられると、比較部23において、情報入力部24に与えられた情報に対応する情報を情報記憶部22から抽出する。データ生成部25は、比較部23が情報記憶部22から抽出した情報を用いて制御テーブル14の内容を生成し、制御テーブル14の内容を管理装置10の更新部15に伝送する。更新部15は、データ生成部25から受け取った内容を制御テーブル14に書き込む。
管理装置10から情報入力部24に与えられる情報は、上述したように、設備情報、シーン情報、外部環境情報であって、これらが一致または類似するデータが情報記憶部22から抽出される。したがって、これらの情報の内容を条件とした設定情報が抽出される。抽出された設定情報は、熟練者あるいは専門家が設定した設定情報であるから、データ生成部25は、抽出された設定情報を用いることにより、制御テーブル14の内容を比較的簡単かつ適正に生成する。
このように、データ生成部25は、過去の設定情報を用いることにより、制御テーブル14の内容を自動的に生成する。なお、制御テーブル14の内容は、利用者装置60を操作すれば利用者が修正することもできる。
図2に情報記憶部22に格納された情報の一例を示す。図示例は食品スーパーマーケットを想定しており、冷蔵機器303は冷蔵ショーケースを表している。図示例では、(No、エリア、シーン、外気温、空調容量原単位、照明容量原単位、ケース容量原単位、設定温度(空調)、設定照度、設定温度(ケース))の10項目で一組のレコードを構成している。(エリア、空調容量原単位、照明容量原単位、ケース容量原単位)は設備情報、(シーン)はシーン情報、(外気温)は外部環境情報、(設定温度(空調)、設定照度、設定温度(ケース))は設定情報に相当する。(No)はレコードを区別するための番号である。負荷機器30の容量原単位は電力負荷密度で表され、単位はW/m2である。また、設定温度の単位は℃であり、設定照度の単位はlxである。なお、図示例において、「ケース」は冷蔵ショーケースの意味である。
熟練者や専門家は、電力負荷密度を勘案することによりエリア40ごとに節電が可能な余裕の程度を見積もって、負荷機器30の動作を決定している。しかし、一般の利用者にとって、電力負荷密度を勘案して負荷機器30の動作を決定する作業は困難である。本実施形態では、熟練者あるいは専門家が、設備情報、シーン情報、外部環境情報を組合せた条件に対して採用した設定情報を情報記憶部22に格納しているから、この情報を用いることにより、設定情報を簡単かつ適正に設定することができる。
いま、情報入力部24に、エリア40が売場、シーンが繁忙時間帯、外気温が29℃、空調容量原単位が140W/m2、照明容量原単位が26W/m2、ケース容量原単位が200W/m2という情報が入力されたとする。すなわち、空調機器302は冷房運転を行う場合を想定する。比較部23は、この情報(売場、繁忙、29、140、26、200)をキーとして、情報記憶部22からレコードの抽出を試みる。上述したように、比較部23は、文字で表される条件が一致し、数値で表される条件は負荷機器30の種類ごとに類似するデータを生成する。
すなわち、図示例では、「No」が「1」と「3」とのレコードは、売場かつ繁忙時間帯を表しているから、比較部23は、抽出するレコードをこれらの2個のレコードに絞り込む。次に、抽出されたレコードを用いて負荷機器30ごとに、容量原単位と外気温とを用いて類似度を評価し、類似度が高い条件に対応する設定情報を選択することにより、設定情報を決定する。ここに、照明機器301の設定照度については外気温の影響はなく、空調機器302および冷蔵機器303の設定温度については外気温の影響があるから、設定温度を決めるための類似度は外気温を含めて評価する。
上述した2個のレコードでは、照明機器301の容量原単位は、25W/m2と20W/m2とであり、情報入力部24から指示された設定照度である26W/m2との類似度は25W/m2のほう大きいから、「1」のレコードの設定照度である750lxが設定照度として採用される。また、空調機器302の設定温度は「3」のレコードの設定温度である26℃が選択され、冷蔵機器303の設定温度は「1」のレコードの設定温度である5℃が選択される。すなわち、この例では、照明機器301の設定照度は「1」に対応する値が選択され、空調機器302の設定温度は「3」に対応する値が選択され、冷蔵機器303の設定温度は「1」に対応する値が選択される。外気温は「1」のレコードでは28℃であり、「3」のレコードでは30℃であるが、条件が悪いほうの30℃が採用される。したがって、データ生成部25には、(売場、繁忙、30、150、25、200、26、750、5)という情報が引き渡される。
比較部23が類似度を評価したとき、類似度に実質的に差のない複数の設定情報が抽出された場合には、それぞれの設定情報の平均値が採用される。また、抽出されたレコードが利用された実績回数を情報記憶部22に記憶しておき、比較部23において、利用された実績回数を重みとする重み付き平均値を設定情報として採用してもよい。つまり、前記比較部23は、前記情報記憶部22から複数のレコードを抽出した場合、これらのレコードから抽出される設定情報ごとの実績回数に基づき、実績回数が多いほど大きい値になる重み係数を用いて、設定情報の重み付き平均値を算出する。このようにして算出された重み付き平均値を、データ生成部25に与える設定情報とする。また、利用者の効用を考慮する場合、情報記憶部22に記憶させるレコードに利用者名を含めておけば、利用者名をキーに用いて選択するレコードを絞り込むことが可能である。
ところで、情報入力部24で指定したキーを用いて情報記憶部22からレコードを抽出する際に、入力ミスなどによりキーに不適切な情報が含まれる可能性がある。このような不適切な情報によって情報記憶部22から情報を抽出しようとしても、適切な設定情報を得ることはできない。そのため、情報入力部24は、キーの内容を事前に判定し、適切な情報の範囲から逸脱する場合に、与えられた情報を無効として扱う機能を備えていることが望ましい。情報記憶部22に記憶される情報についても適切な情報の範囲内か否かを評価し、不適切な範囲であれば情報を無効として扱うことが望ましい。
なお、キーの内容あるいは情報記憶部22に記憶する情報が適切か否かを判断するために、環境情報に含まれる数値の情報(図示例では、外気温および容量原単位)を説明変数とし、設定情報を目的変数とした回帰式を、負荷機器30の種類ごとに作成してもよい。回帰式を用いる場合、環境情報に対して回帰式で推定される設定情報と、比較部23が抽出した設定情報との乖離度が許容範囲を逸脱しているときに、情報を無効として扱うようにすればよい。
比較部23が定めた情報は、データ生成部25に引き渡され、データ生成部25は、比較部23から引き渡された情報を基準として、制御テーブルの内容を生成する。したがって、熟練者や専門家が過去に作成した実績のある情報に基づいて新たな制御テーブル14が生成され、熟練者や専門家が作成した制御テーブルに匹敵する制御テーブル14が得られることになる。
制御テーブル14は、図3に示すように、照明機器301と空調機器302と冷蔵機器303とについて、制御レベルごとに動作の情報が対応付けられている。本実施形態では、制御レベルは0〜3の4段階から選択可能になっている。制御レベル0は省エネルギーの対策を行わない制御状態、制御レベル1は通常の省エネルギーの制御状態、制御レベル2は常習的に我慢できる範囲ではもっとも厳しい制御状態、制御レベル3は非日常的に実施される特別に厳しい制御状態である。
言い換えると、制御レベルは、数値が大きくなるほど、負荷機器30の使用による利便性が低下する制御状態であることを意味する。食品スーパーマーケットでは、制御レベル1は、通常運転に近い設定であり、繁忙時間帯に選択される。また、制御レベル2は、省エネルギー運転の設定であり、閑散時間帯に選択される。制御レベル3は節電のために選択され、制御レベル4は、いわゆるデマンドレスポンスであって、電気事業者などから要求される第2の節電率)に応える場合に選択される。つまり、制御レベルはシーン別の設定条件に相当する。
上述したように、制御テーブル14の内容が決定された管理装置10は、施設の消費電力を計測して監視する。管理装置10に設けられた評価部12は、計測装置50が計測した消費電力と、目標設定部11に設定された目標電力とを比較し、目標電力に対する消費電力の割合に基づいて、判定期間の終了時点で消費電力が目標電力以下であるか否かを予測する。
評価部12は、判定期間の終了時点での消費電力が目標電力を超えることが予測される場合は、負荷機器30での消費電力が低減されるように、制御レベルを高くする指示を指示部13に与える。一方、評価部12は、判定期間の終了時点での消費電力が目標電力を下回り、かつ目標電力と消費電力との差が所定値以上になることが予測される場合は、負荷機器30の使用による利便性を向上させるように制御レベルを低くする指示を指示部13に与える。
指示部13は、制御テーブル14に制御レベルを照合することによって、制御レベルに応じた動作状態を負荷機器30に指示する。ここで、評価部12が制御レベル3を選択しても、依然として消費電力が目標電力を超えることが予測される場合、利用者装置60を通して一部の負荷機器30の停止を促す内容を利用者に提示する。利用者装置60に提示する内容は提示内容記憶部18から読み出され、提示制御部17を通して利用者装置60に出力される。利用者装置60への出力は、たとえば、「このままではデマンドを超過するので、周囲の負荷機器の運転を停止させてください」という内容の警告を利用者装置60の画面に表示する形式を採用する。また、採用されている制御レベルに応じて緊急度が直観的に理解できるように、複数のキャラクタ(アイコン)を切り替えて利用者装置60の画面に表示してもよい。
(動作例2)
動作例1は、利用者装置60から利用者が入力した環境情報に基づいて制御テーブル14の内容を生成する処理を中心として説明した。この動作では、情報記憶部22から比較部23における評価ルールを用いて抽出した情報に基づいて制御テーブル14の内容を生成しているが、生成された内容は検証されていない。
以下では、データ生成部25が生成した制御テーブル14の内容をエネルギー計算部26に与えてエネルギーシミュレーションを行う動作について説明する。すなわち、遠隔管理装置20は、データ生成部25で生成された制御データ(制御テーブル14の内容)を、施設の環境情報と併せてエネルギー計算部26に入力する。エネルギー計算部26に入力される環境情報は、施設の用途の区分、エリア40の区分、外部環境情報、シーン情報、電力負荷密度、負荷機器30のエネルギー効率のようなエネルギーシミュレーションに必要な情報を含む。エネルギー計算部26は、エネルギーシミュレーションにより、施設の運営上で障害が生じない最低の電力である推奨電力を算出する。
管理装置10の目標評価部16は、施設を問題なく運営するための環境状態を実現するための最小限の電力である推奨電力を、基準電力と節電率とにより決まる目標電力と比較する。目標評価部16は、目標電力が推奨電力よりも小さい場合には、要求された節電率を実現困難と判断し、利用者装置60を通して利用者の注意を喚起する。利用者装置60により注意を喚起するには、たとえば、利用者装置60の背景画面を青色系から赤色系に変更するか、利用者装置60から報知音を出力するか、利用者装置60に表示するアイコンの形態を変更すればよい。
実行可能な推奨電力は、電力負荷密度と外気温の1日の最高温度とを説明変数として1日の最大電力を求める回帰式を用いて決定する。この回帰式は、管理装置10により管理される負荷機器30が配置された施設と用途および負荷機器30の構成が類似した施設の情報を情報記憶部22から抽出し、抽出した情報を用いることにより定められる。実際に推奨電力を求めるには、管理装置10が設置された施設において、該当する日の予想最高気温を上述した回帰式に当て嵌めることにより、電力負荷密度の最大値が予測されるから、求められた電力負荷密度の最大値を施設の面積に乗じる。この計算の結果は、該当する施設において該当する日の最大電力と考えられるから、この値が実行可能な推奨電力として用いられる。
上述のように、エネルギー計算部26は、施設の運営上で支障が生じない推奨電力をエネルギーシミュレーションにより予測して求める。目標評価部16は、利用者装置60を用いて設定した節電率に対応した目標電力と推奨電力とを比較し、目標電力の実現可能性を評価する。上述したように、目標電力が実現困難であれば、提示制御部17が、利用者装置60を通して利用者に注意を喚起するから、利用者は適切な節電率の設定が可能になる。
また、利用者装置60には、利用者に対して直観的でわかりやすい情報を提供するために、図4に示すように、目標電力に対する現在の消費電力の割合に応じて画面の表示を変更することが望ましい。たとえば、利用者装置60の画面に顔を表すアイコン61を表示しておき、目標電力に対する現在の消費電力に応じてアイコン61の表情を変更する。この例では、アイコン61は、目標電力に対して消費電力(積算値)に余裕があれば(たとえば、80%以下であれば)笑顔を表し、目標電力に対して消費電力が所定の閾値(たとえば、90%)を超えると泣き顔を表すようにすればよい。目標電力に対する現在の消費電力の割合は、目標評価部16が判定する。
また、目標電力と判定期間とによって傾きが決まる直線を設定し、判定期間の中で、消費電力(積算値)が当該直線の下側である場合に目標達成に近付いていることを示し、消費電力が当該直線の上側である場合に目標達成から遠ざかっていることを示してもよい。つまり、上記直線によって消費電力(積算値)の推移を判定する2領域を判定期間に設定し、消費電力(積算値)が上記直線の上側の領域か下側の領域かに応じてアイコン61の表示を切り替えるようにしてもよい。
判定期間に設定する直線は複数本であってもよい。上述のように、1本の直線を設定すれば2状態を判断することができる。これに対して、たとえば、目標電力を100%として、目標電力の120%に達する直線と、目標電力の80%に達する直線と、目標電力の100%に達する直線との3本の直線を設定すれば、4状態を判断することができる。アイコン61は、3本の直線で分割された領域ごとに形態を対応付ければよい。また、アイコン61が顔の表情であることは必須ではなく適宜のキャラクタを用いてもよい。なお、アイコン61の形態の概念には、形状だけではなく、サイズや色も含まれる。
また、上述した判定期間の開始から所定時間が経過した時点で、目標電力に対する消費電力(積算値)の割合が上記閾値を超えると、判定期間の終了時点で目標電力を超過する可能性があるから、利用者に対して適宜の負荷機器30の動作を制限するように通知する。この通知は、利用者装置60の画面へのメッセージの表示や報知音の出力により行われる。
以上説明したように、アイコン61の形態を変化させることによって目標電力に対する消費電力の余裕の程度を通知すれば、利用者に直観的にわかりやすい通知が可能になる。なお、図4に示す利用者装置60の画面の下部には、節電率を示す表示部62が設けられている。表示部62は、節電率の下限値を破線の四角で表しており、実現されている節電率を実線の四角で表している。
管理装置10において採用する節電率は、遠隔管理装置20から指示された節電率も考慮する必要がある。そこで、図4に示す例では、利用者装置60の画面に、現在の節電率が管理装置10と遠隔管理装置20とのどちらに設定された節電率かを示す情報が表示されている(「サーバ」は、遠隔管理装置20からの節電率であることを示している)。
動作例2では、施設責任者が利用者装置60を用いて節電率を設定することを可能にしながらも、遠隔管理装置20から指示された節電率との調節を図るために、管理装置10が管理する負荷機器30の動作状態をフィードバックしている。また、施設責任者のような利用者が利用者装置60から設定した節電率が、施設の運営に支障を与えないように目標電力と消費電力との関係を判断している。このような動作は目標評価部16により行われる。すなわち、目標評価部16は、利用者が設定する節電率と遠隔管理装置20から設定される節電率とのバランスがとれ、施設における節電と運営とが両立されるように、節電率を調節する。
(動作例3)
管理装置10の構成として説明したように、管理装置10の目標設定部11は、遠隔管理装置20から指示された節電率に応じた第1の目標電力と、利用者装置60を通して施設責任者のような利用者が設定した節電率に応じた第2の目標電力とが設定される。したがって、第1の目標電力と第2の目標電力とが互いに競合することが考えられる。競合を回避するために、目標設定部11は、第1の目標電力と第2の目標電力との一方を選択する目標選択部114を備えている。以下では、第1の目標電力と第2の目標電力とが競合する場合に目標電力を選択する手順について説明する。
いま、遠隔管理装置20において電気事業者などからの要請によって、当日や翌日の節電を行う事象が生じたとする。この場合、節電を行う節電期間(日時)と節電率とが遠隔管理装置20から所要の管理装置10に指示される。管理装置10は、遠隔管理装置20から節電率を受け取ると、節電率に基づいて第1の目標電力を算出し、第1の目標電力を節電期間と併せて第1の設定部111に保存する。
一方、施設管理者のような利用者が利用者装置60を用いて節電期間と節電率とを入力していると、節電率から第2の目標電力が算出され、第2の目標電力は節電期間と併せて第2の設定部112に保存される。
目標設定部11は、管理装置10に内蔵された時計部(図示せず)が計時している現在日時を参照し、参照した日時が節電期間でなければ、節電することなく負荷機器30を動作させる。また、目標設定部11は、参照した日時が節電期間であれば、該当する節電期間に応じた第1または第2の目標電力に見合うように負荷機器30を動作させる。
ここで、第1の設定部111に設定された節電期間と第2の設定部112に設定された節電期間とが重複していると、目標選択部114は、両方の目標電力を満足するように、第1の目標電力と第2の目標電力とのうち小さいほうを目標電力として採用する。言い換えると、目標選択部114は、より大きいほうの節電率を採用する。
一般に、利用者装置60を用いて設定した第2の節電率は、遠隔管理装置20から要請される第1の節電率よりも小さいと考えられ、施設で用いている負荷機器30の種類によっては、第1の節電率を採用すると運営上の障害が生じることがある。たとえば、食品スーパーマーケットでは、冷蔵あるいは冷凍を要する食品を保存している冷蔵機器303の消費電力を維持しなければ、食品が劣化し、運営に支障をきたすことになる。
そのため、遠隔管理装置20から要請された節電率が実施される節電期間に、利用者装置60を用いて意図的に小さい節電率が入力された場合、目標選択部114は、運営上の障害があったと判断し、利用者装置60から入力された節電率を優先的に用いる。たとえば、遠隔管理装置20から節電が要請された場合において、利用者装置60により設定された節電率が節電期間の開始前に15%であったのに対して節電期間の開始後に5%に引き下げられた場合、節電率は5%になる。なお、利用者装置60により設定された節電率が節電期間の開始前から0%である場合も、目標選択部114は、節電することが運営上の障害を生じる場合と判断して節電を行わない。
ただし、利用者装置60により設定される第2の節電率を、つねに優先的に使用させると、第2の節電率が乱用され、遠隔管理装置20から設定する第1の節電率が使用されなくなる可能性がある。そこで、利用者装置60から設定される第2の節電率を遠隔管理装置20から設定される第1の節電率に優先して用いるための許可条件を付しておくことが望ましい。
許可条件は、たとえば、電気料金の単価を決める判定期間(通常、30分)内での消費電力の積算値が、判定期間について設定された上限値の90%以上に達したこととする。この許可条件は、施設での需要電力(デマンド)がピーク(上限値)に近くなった場合の対応として第2の節電率を用いることを許容する。また、許可条件は、いずれかの冷蔵機器303の庫内温度が所定の基準温度よりも高いことであってもよい。この許可条件は、冷蔵機器303の庫内温度の上昇による食品の劣化を防止する場合の対応として第2の節電率を用いることを許容する。このように許可条件が成立したときにのみ、第1の節電率に優先して第2の節電率を用いることを許容することにより、第2の節電率の乱用が防止される。
以上説明した動作により、現場運営を任されている施設責任者のような利用者が、施設の運営上、遠隔管理装置20から指示された節電率での節電が難しいと判断した場合には、節電率を引き下げることができる。しかも、許可条件による制約を付加していることにより、社会的要請によって遠隔管理装置20から第1の節電率が設定されているときには、許可条件が成立しなければ利用者が設定した第2の節電率が採用されないようにして、第2の節電率の乱用を抑制することができる。
(動作例4)
遠隔管理装置20は、コンピュータシミュレーションによってエネルギーシミュレーションを行うエネルギー計算部26を備えている。施設の規模にもよるが、エネルギー計算部26においてエネルギーシミュレーションを精度よく行うには、200〜300種類の情報が必要である。このような多数個の情報を施設に合わせて正しく設定することは、施設管理者のような一般の利用者には困難であって、熟練者や専門家でなければエネルギーシミュレーションを行うことは難しい。
これに対して本実施形態は、遠隔管理装置20に設けられたパラメータ推定部27によって少数個の入力情報からエネルギー計算部26での計算に必要な多数個の情報を生成することを可能にしている。つまり、パラメータ推定部27に10個程度の入力情報を与えるだけで、熟練者や専門家ではない利用者でもエネルギーシミュレーションを行うことが可能になっている。
パラメータ推定部27に与える入力情報は、環境情報のうち利用者が容易に知ることのできる情報である。入力情報は、施設の床面積、施設の築年数、施設の用途の区分、施設が存在する地理上の地域、施設の営業時間、施設に配置された負荷機器30の種類を含む。列挙した入力情報は、必要最小限の情報であり、利用者であれば容易に入手可能である。
パラメータ推定部27は、入力情報が与えられると、情報記憶部22に格納された種々の情報を参照することにより、エネルギー計算部26での計算に必要な情報を情報記憶部22から収集する。
情報記憶部22に格納されている情報は、上述したように、エリア40ごとに配置された負荷機器30の電力負荷密度(あるいは電力容量)、エリア40の断熱性能や床面積、負荷機器30ごとのエネルギー効率、施設のグレード、負荷機器30のエネルギー効率、施設が存在する地域、外気温、湿度、日射量などを含む。さらに、パラメータ推定部27は、営業時間から負荷機器30の運転時間を推定する機能を備える。営業時間から運転時間を推定するには、情報記憶部22に格納されたデータテーブルあるいは演算式を用いる。
情報記憶部22は、冷蔵機器303については、電力容量に代えてサイズ(尺数単位)を用いることが可能である。冷蔵機器303は、業界習慣では尺数単位で表現されることが多く、また、冷蔵機器303の電力容量とエリア40の床面積とは直接的な関係がないから、電力負荷密度を用いるよりも尺数単位を用いるほうが、電力容量の推定精度が高くなる。利用者は、冷蔵機器303について尺数単位を用いる場合、エリア40の間取りから冷蔵機器303の配置される尺数を大まかに推定すればよい。
すなわち、パラメータ推定部27は、上述した入力情報が与えられると、入力情報を情報記憶部22に格納された各種情報と照合し、入力情報との類似度を評価することによって、エネルギー計算部26に与える情報を推定する。言い換えると、パラメータ推定部27は、少数の入力情報を情報記憶部22に格納された多数の情報と照合することにより、少数個の情報をエネルギー計算部26でのエネルギーシミュレーションに必要な多数個の情報に展開する。
情報記憶部22は、設備情報として、上述した情報のほかに、天井高さや窓面積率などについて標準的な情報、地理上の地域ごとの壁や窓の断熱性能について標準的な情報などを格納している。したがって、パラメータ推定部27に入力情報として、施設の床面積、施設の築年数、施設の用途の区分、施設が存在する地理上の地域が与えられると、エネルギーシミュレーションに必要な施設の天井高さ、窓面積、断熱性能などの情報を求めることができる。
また、情報記憶部22は、外気温、湿度、日射量のような外部環境情報を地域ごとに分類して格納しており、パラメータ推定部27は、施設が存在する地域が入力情報として与えられると、外部環境情報を出力する。
さらに、情報記憶部22には、設備情報、シーン情報、外部環境情報のほかに、負荷機器30に関する設定情報が格納されている。したがって、パラメータ推定部27の入力情報をキーに用いて、設備情報、シーン情報、外部環境情報の検索を行うことによって、施設に相当する負荷機器30の設定情報を抽出することができる。
なお、パラメータ推定部27は、入力情報に対して情報記憶部22から複数の情報が抽出された場合には、非数値の情報であれば多数決によって情報を絞り込み、数値の情報であれば平均値などを用いる。負荷機器30の運転時間は、施設の営業時間に基づいて情報記憶部22から抽出される。情報記憶部22には、負荷機器30の運転時間について基準値と、営業時間に応じた補正値とが格納されており、パラメータ推定部27は、施設の営業時間が入力情報として与えられると、エリア40ごとに営業時間に応じた負荷機器30の運転時間を算出する。
たとえば、営業時間が午前8時から午後10時である店舗では、営業時間の開始前1〜2時間は開店前の準備時間であり、営業時間の終了後1〜2時間は閉店後の後片付け時間になる。ここで、準備時間において、照明機器301は作業可能な程度の照度を確保するように点灯させ、空調機器302は停止させるとすれば、空調機器302の運転時間は営業時間と一致するが、照明機器301は営業時間外の1〜2時間は作業に必要な動作状態としなければならない。また、冷蔵機器303は、商品が庫内に収納されている期間には、庫内照明を除いて営業時間とは無関係に運転を継続する必要がある。
一方、24時間営業の店舗では、営業時間と関係なく来客の少ない夜間(午前0時から午前5時)において、来客が増加する時間帯に向けて商品補充や清掃のような準備を行っている。そのため、照明機器301および空調機器302についても停止させることなく運転を継続すればよい。
このことから、24時間営業ではない店舗について、営業時間に応じた補正値が情報記憶部22に保存されていれば、パラメータ推定部27は、負荷機器30の運転時間を、施設の営業時間に応じて推定することができる。
情報記憶部22は、負荷機器30の種類別にエネルギー効率(機器効率)を格納している。エネルギー効率は、たとえば、空調機器302であれば、外気温と機器効率(COP:Coefficient Of Performance)の関係で表されている。したがって、パラメータ推定部27は、施設の地域から外部環境情報を推定すると、外部環境情報に含まれる外気温を用いて機器効率を推定する。
ところで、パラメータ推定部27は、入力情報からエネルギー計算部26でのエネルギーシミュレーションに必要な情報を推定するから、入力情報の情報量が増加すれば、エネルギー計算部26に与える情報の推定精度が高まる。そのため、エネルギーシミュレーションの知識を有する熟練者や専門家のような利用者であれば、エネルギーシミュレーションの精度を高めるために、多数個の情報をエネルギー計算部26に直接入力しようとすることが考えられる。そこで、エネルギー計算部26は、熟練者や専門家などによって多数個の情報が直接入力されることを許容している。つまり、エネルギー計算部26は、情報入力部24から施設情報に含まれるすべての入力情報が入力されると、パラメータ推定部27で生成されるパラメータを用いることなく、推奨電力を算出する。また、エネルギー計算部26は、推奨電力と併せて基準電力を算出してもよい。
また、熟練者や専門家により多数個の情報がエネルギー計算部26に直接入力された場合には、情報記憶部22の内容を更新することを可能にしている。たとえば、エネルギー計算部26に対して、床面積が1000m2である売場に配置された空調機器302について電力容量が150kWとして直接入力された場合、この空調容量原単位は、150W/m2にある。このようにして求められた値は情報記憶部22に格納される。つまり、熟練者や専門家がエネルギー計算部26に直接入力した情報は、情報記憶部22に格納され、パラメータ推定部27による以後の推定に採用される。したがって、情報記憶部22に格納された情報に新たな情報が随時追加される。ここで、追加された情報に対して所定期間前の古い情報を情報記憶部22から削除すれば、情報記憶部22に格納されている情報の陳腐化が防止される。
パラメータ推定部27が入力情報に基づいてエネルギーシミュレーションに用いる情報を生成すると、エネルギー計算部26は、省エネルギーの目的や効果を制約条件として、エネルギーシミュレーションを行う。このシミュレーションにより、エネルギー計算部26は、入力情報で示された施設に対する目標電力を算出する。