以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。まず、図1〜図3を参照して、本発明の第1実施形態である潮流計12の概略について説明する。図1は、その潮流計12の構成を概略的に示す概略図であり、図2は、潮流計12が搭載された船舶11によって、水中の潮流の速度を計測する場合の状態を側面より示す模式図であり、図3は、同計測を行う場合の状態を斜視した模式図である。
潮流計12は、図1〜図3に示す通り船舶11に搭載され、使用者により設定された水中の深度での該船舶11の周囲における潮流の速度(速さと方向)を計測するものであり、深度の深い場所のみならず深度の浅い場所の潮流の速度を、精度よく計測できるように構成されている。潮流計12は、海における潮流だけでなく、湖や池、川等における水中の水の流れの速度も計測できる。
潮流計12は、本体13と、本体13に設けられた操作ボタン14と、本体13に一体形成された表示装置15と、超音波ビームTBを送受信する振動子31(図4参照)を有する送受波ユニット16と、送受波ユニット16を昇降させる昇降装置17とを有している。本体13と、操作ボタン14と、表示装置15とは、船舶11の操舵室内に配置されるとともに、送受波ユニット16と昇降装置17とは、船舶11の船底内に配置されている。
操作ボタン14は、使用者によって操作可能なボタンであり、使用者が潮流計12に対し各種設定を行う場合に操作されるものである。例えば、潮流の計測対象となる深度(以下「解析深度」という)が、操作ボタン14によって使用者により設定される。本実施形態では、操作ボタン14により設定可能な解析深度として、10m,20m,30m,40m,50m,60m,70m,80m,90m,100mの中から選択できるようになっている。解析深度は複数設定可能に構成されており、解析深度が複数設定された場合には、各々の解析深度において潮流の速度が計測される。
送受波ユニット16は、昇降装置17によって昇降されることで、船舶11の船底から水中に対して出没自在となっている。潮流計12は、設定された解析深度における潮流の速度を計測する場合、昇降装置17を駆動して送受波ユニット16を船舶11の船底から突出させ、送受波ユニット16から細いビーム状の超音波ビームTBを送信(照射)する。潮流計12は、解析深度付近にあるプランクトン等の散乱体Gから反射されたその超音波ビームTBの反射波を送受波ユニット16により受信する。
送受波ユニット16は、全周型ソナーによって構成されており、送受波ユニット16により送受信される超音波ビームTBの方位角δ(スキャン角、図3参照)と俯角θ(チルト角、図2参照)とを変更できる。
ここで、方位角δ(スキャン角)とは、船舶11が浮かぶ水面を上面視した場合の超音波ビームTBの送受信方向を表す角度である。本実施形態では、上記水面を上面視した場合に、船舶11の前方方向(船舶11が前進する方向)に超音波ビームTBを送受信するときを0度とし、超音波ビームTBの送受信方向が船舶11の時計回りに変化するにつれて方位角δが増加するように、方位角δの大きさを定義する。
また、俯角θ(チルト角)とは、超音波ビームTBの送受信方向と船舶11が浮かぶ水面(水平面)とがなす角度であり、超音波ビームTBを水面(水平面)と平行に送受信する場合を0度とし、超音波ビームTBの送受信方向が水面(水平面)から離れて水面と垂直な方向に向くにつれて俯角θが増加するように、俯角θの大きさを定義する。
潮流計12は、一の解析深度における潮流の速度を計測する場合、送受波ユニット16を駆動し、超音波ビームTBの俯角θをその一の解析深度に適した角度に自動的に設定しつつ、図3に示す通り、方位角δを例えば0度,90度,180度及び270度と変化させながら、各々の方向(即ち、直交する4つの方向)に超音波ビームTBを送信する。超音波ビームTBの俯角θの決定方法については、図6を参照して後述する。
潮流計12は、各方向に送信された超音波ビームTBに対して、一の解析深度付近にある散乱体Gから反射された超音波ビームTBの反射波を送受波ユニット16にて受信し、各反射波のドップラシフト量に基づいて、その一の解析深度における潮流の速度を算出する。複数方向(本実施形態では4方向)に送受信された超音波ビームTBのドップラシフト量に基づいて潮流の速度を算出することにより、潮流の速度の速さと方向(ベクトル)が把握できる。このようにして、操作ボタン14により設定された解析深度における潮流の速度が算出されると、その算出された速度が、その他の情報(例えば、解析深度、船舶11の速度、船舶11下の水深、水温等)とあわせて表示装置15に表示され、使用者に示される。
次いで、図4を参照して、送受波ユニット16の詳細構成について説明する。図4は、送受波ユニット16の断面を模式的に示した断面図である。送受波ユニット16は、上端が開口され下端部が半球状をなす有底円筒状の下ケース21と、下端が開口され上端部が円板状をなす有蓋円筒状の上ケース22と、上ケース22の下端開口及び下ケース21の上端開口を閉塞する円板状の蓋体23とにより構成される。蓋体23の上面と上ケース22とで上側収納空間24が形成され、蓋体23の下面と下ケース21とで下側収納空間25が形成されている。
蓋体23の中央部には、貫通孔26が形成されている。蓋体23上の中央部にはステッピングモータによって構成されたスキャンモータ27が固着され、スキャンモータ27の下面からはスキャンモータ27の出力軸27aが、貫通孔26に回転可能に挿通された状態で真下に向かって延びている。出力軸27aの先端(下端)は、下側収納空間25の上部まで達している。
出力軸27aの先端には、円板状の支持板28が設けられており、支持板28の上面の中心部が出力軸27aの先端に接続されている。支持板28の下面には、略逆U字状をなす支持フレーム29が設けられており、支持フレーム29の下端部間には、水平に延びる回転軸30が回転可能に架設されている。
回転軸30の中央部には、細いビーム状の超音波ビームTBを1つの方向に送信し、その送信した超音波ビームTBの反射波を受信可能な振動子31が固着されている。回転軸30における振動子31と隣り合う位置には、略半円状のチルト歯車32が固着されており、回転軸30、振動子31及びチルト歯車32は、互いに一体して回転するように構成されている。
支持フレーム29の上端部には、ステッピングモータによって構成されたチルトモータ33が固着されている。チルトモータ33は、チルト歯車32側に向かって延びる出力軸33aを備えている。出力軸33aの先端には、小歯車33bが設けられ、小歯車33bは、チルト歯車32と噛合している。
スキャンモータ27が駆動されると、出力軸27aが回転し、それに伴って支持板28、支持フレーム29、及び、回転軸30が出力軸27aを軸として一体して回転することで、回転軸30に固着された振動子31が、やはり出力軸27aを軸として回転する。
これにより、振動子31による超音波ビームTBの送信方向は、船舶11が浮かぶ水面を上面視した場合に時計回り又は反時計回りに変化させることができる。即ち、スキャンモータ27を駆動することにより、振動子31によって送信される超音波ビームTBの方位角δ(スキャン角)が変更される。
一方、チルトモータ33が駆動されると、出力軸33aが回転し、それに伴って小歯車33bが回転して、その小歯車33bと噛合するチルト歯車32が回転することで、チルト歯車32が固着された回転軸30がチルト歯車32の回転に合わせて回転し、その回転軸30に固着された振動子31が回転軸30を軸として回転する。
これにより、振動子31の向く方向(振動子31から送信される超音波ビームTBの送信方向)と船舶11が浮かぶ水面(水平面)とのなす角度である俯角θ(チルト角)が、チルトモータ33を駆動することによって、変更される。
次いで、図5を参照して、潮流計12の電気的構成について説明する。図5は、潮流計12の電気的構成を示したブロック図である。潮流計12の本体13(図1参照)は、制御装置50を有している。制御装置50は、潮流計12の動作を制御するものである。制御装置50は、図5に示す通り、CPU(Central Proccesing Unit)51と、ROM(Read Only Memory)52と、RAM(Random Access Memory)53とを有しており、それらがバスライン55を介して入出力ポート54に接続されている。
入出力ポート54には、上述した操作ボタン14、表示装置15、及び、昇降装置17(図1参照)が接続されている。また、上述のスキャンモータ27及びチルトモータ33(図4参照)は、モータドライバ61を介して入出力ポート54と接続され、振動子31(図4参照)は、送受信回路62を介して入出力ポート54と接続される。
CPU51は、ROM52に記憶されたプログラムデータ52aに従って、潮流計12の動作を制御するための各種演算を実行する演算装置であり、例えば、図7に示す潮流計測処理を実行する。潮流計測処理の詳細については、図7を参照して後述する。
ROM52は、CPU51によって実行されるプログラムデータ52aを記憶するほか、固定値データ等を記憶するための書き換え不能な不揮発性のメモリである。なお、書き換え不能なROMに代えて、書き換え可能な不揮発性のメモリ(例えば、フラッシュメモリ)を用いてもよい。
ROM52は、固定値データとして、例えば、深度俯角変換テーブル52bを記憶する。深度俯角変換テーブル52bは、設定された解析深度の潮流の速度を計測する場合に、その解析深度に適した超音波ビームTBの送受信方向の俯角θを決定するためのテーブルである。即ち、潮流計12は、送受波ユニット16を全周型ソナーによって構成し、また、深度俯角変換テーブル52bを設けることによって、潮流の速度を計測する解析深度に応じて、その解析深度に適した超音波ビームTBの送受信方向の俯角θとなるように、該俯角θを自動的に変化させることができるように構成されている。
ここで、図6を参照して、深度俯角変換テーブル52bの詳細について説明する。図6(a)は、深度俯角変換テーブル52bの内容を模式的に示した模式図であり、(b)は、解析深度と深度俯角変換テーブル52bによって変換される俯角θとの関係を示したグラフである。
図6(a)に示す通り、解析深度10mに対して俯角θとして30度が対応付けられ、解析深度20mに対して俯角θとして30度が対応付けられ、解析深度30mに対して俯角θとして35度が対応付けられ、解析深度40mに対して俯角θとして40度が対応付けられ、解析深度50mに対して俯角θとして45度が対応付けられ、解析深度60mに対して俯角θとして50度が対応付けられ、解析深度70mに対して俯角θとして55度が対応付けられ、解析深度80mに対して俯角θとして60度が対応付けられ、解析深度90mに対して俯角θとして60度が対応付けられ、解析深度100mに対して俯角θとして60度が対応付けられる。
即ち、図6(b)に示す通り、使用者により解析深度が10m又は20mに設定された場合、超音波ビームTBの俯角θとして30度に設定される。つまり、超音波ビームTBの俯角θの下限値が30度となるように設定されている。
超音波ビームTBの俯角θの大きさを0度付近に設定すると、水面において発生する波により超音波ビームTBが反射されるおそれがある。そのため、その波面からの反射波が送受波ユニット16にて受信されたり、散乱体Gに超音波ビームTBが届かなかったり、散乱体Gからの反射波が送受波ユニット16に届かなかったりするおそれがある。よって、この場合、正しく潮流の速度を計測できないおそれがあった。これに対し、本潮流計12は、超音波ビームTBの俯角θが30度以上となるように設定されるので、そのような問題を回避でき、潮流の速度を問題なく計測できる。
また、使用者により解析深度が80m,90m,100mに設定された場合は、超音波ビームTBの俯角θとして60度に設定される。つまり、超音波ビームTBの俯角θの上限値が60度となるように設定されている。
超音波ビームTBの俯角θの大きさを90度付近に設定すると、水面とおおよそ平行な潮流によって移動する散乱体Gからの反射波において、ドップラシフトはほとんど発生せず、その潮流の速度を計測できない。また、超音波ビームTBの俯角θの大きさを90度付近に設定すれば、他の俯角θで超音波ビームTBを送信した場合よりも超音波ビームTBが最も短い距離で海底に到達することになり、超音波ビームTBのサイドローブによる反射波の影響によって深度の深いところにある散乱体Gからの反射波が埋もれてしまうおそれがある。これにより、深い深度での潮流の速度が計測できなくなるおそれがある。これに対し、本潮流計12は、超音波ビームTBの俯角θが60度以下となるように設定されるので、そのような問題を回避でき、潮流の速度を問題なく計測できる。
また、本実施形態では、図6(b)に示す通り、解析深度が深い場合は超音波ビームTBの俯角θを大きく設定して、深度の深い位置まで超音波ビームTBを届かせる一方、解析深度が浅い場合には超音波ビームTBの俯角θを小さく設定する。これによる効果については、図8を参照しつつ後述する。
図5に戻り説明を続ける。RAM53は、書き換え可能な揮発性のメモリであり、CPU51によるプログラムの実行時に各種のデータを一時的に記憶する。RAM53は、解析深度データ53a、俯角データ53b、潮流データ53cを少なくとも記憶する。
解析深度データ53aは、使用者により設定された解析深度に関するデータである。例えば、使用者が解析深度として20m、40m、60m、80mを設定した場合、設定された解析深度が20m、40m、60m、80mであることを示すデータが解析深度データ53aとしてRAM53に格納される。CPU51は、解析深度データ53aによって示される解析深度に対して、潮流の速度を計測する処理を実行する。
ただし、潮流計12の電源がオンされた直後は、解析深度データ53aの初期値として、所定の解析深度を示すデータ(例えば、解析深度10m、20m、30m、40mを示すデータ)がRAM53に格納される。よって、使用者により解析深度の設定が行われなかった場合は、この初期値によって示される解析深度での潮流の速度の計測が行われる。
なお、潮流計12の電源がオフされるときに、解析深度データ53aの値を別途設けられたフラッシュメモリ等に格納し、潮流計12の電源がオンされたときにそのフラッシュメモリ等に格納された値を解析深度データ53aとしてRAM53に格納するようにしてもよい。これにより、電源を一旦オフした場合であっても、使用者が前回設定した解析深度がそのまま解析深度データ53aに設定されるので、使用者が一度設定した解析深度を再び設定しなくてもすむようにすることができる。
俯角データ53bは、解析深度の潮流の速度を計測するために設定された超音波ビームTBの俯角θを示すデータである。解析深度データ53aにて示される解析深度の中から一の解析深度における潮流の速度を計測する場合に、その一の解析深度に対応する超音波ビームTBの俯角θが深度俯角変換テーブル52bにて決定され、その決定された俯角θを示すデータが俯角データ53bとしてRAM53に格納される。
CPU51は、この俯角データ53bに示される俯角θで超音波ビームTBが送受信されるように、送受波ユニット16のチルトモータ33を駆動する制御を行う。これにより、この俯角データ53bに示される俯角θで、送受波ユニット16から超音波ビームTBが送受信されることになる。
潮流データ53cは、計測された潮流の速度を示すデータである。CPU51は、俯角θを俯角データ53bに示される俯角θで固定しつつ、方位角δをα度、(90+α)度、(180+α)度、(270+α)度と順次変えながら4方向に超音波ビームTBを送受信し、各方向における反射波のドップラシフト量に基づいて潮流の速度を算出する。ここで、αは0以上90未満の任意の値である(以下、同じ)。この算出された潮流の速度を示すデータが、潮流データ53cとしてRAM53に格納される。CPU51は、このRAM53に格納された潮流データ53cに基づいて、計測した潮流の速度を表示装置15に表示する。
次に、図7を参照して、制御装置50が実行する潮流計測処理の詳細について説明する。図7は、潮流計測処理を示すフローチャートである。潮流計測処理は、電源がオンされた場合、または、潮流の速度の計測が開始される場合にCPU51によって実行が開始される。この潮流計測処理は、電源がオフされるまで、または、使用者による操作ボタン14の操作などによって潮流の速度の計測を終了するまで、継続して実行され続ける。
潮流計測処理では、まず、昇降装置17を駆動し、送受波ユニット16を降下させる(S1)。これにより、送受波ユニット16が船舶11の船底から水中に突出され、振動子31による超音波ビームTBの送受信が可能となる。
次いで、解析深度データ53bによって示される解析深度の数(潮流の速度の計測対象とする深度の総数)Nを設定する(S2)。上述した通り、潮流計12は、潮流の速度の計測対象とする解析深度を使用者によって複数設定可能に構成されており、S2の処理では、その使用者によって設定された解析深度の数Nが設定される。例えば、使用者により解析深度として20m、40m及び60mが設定された場合、S2の処理では、解析深度の数Nとして「3」が設定される。
なお、使用者による解析深度の設定が行われていない場合は、解析深度データ53bに所定の解析深度を示すデータが電源オン時に初期値として設定されているので、その初期値として設定された所定の解析深度の数が、NとしてS2の処理により設定される。例えば、解析深度データ53bの初期値として、10m、20m、30m、40mが設定される場合は、解析深度の数Nとして「4」が設定されることになる。
次いで、RAM53に変数nの領域を確保して、該変数nに1を代入する(S3)。この変数nは、解析深度データ53bにて示される全ての解析深度に対して、順番にその解析深度における潮流の速度を計測するために用意されたものである。
そして、解析深度データ53bにて示される1以上の解析深度のうち、深度の浅い順でn番目の解析深度を設定する(S4)。なお、S4の処理では深度の浅い順でn番目の解析深度を設定するが、深度の深い順でn番目の解析深度を設定してもよいし、解析深度データ53bにて示される解析深度の順番で設定してもよい。
次いで、S4の処理にて設定された解析深度に対応する俯角θを深度俯角変換テーブル52bによって決定し、決定した俯角θを示す俯角データ53bをRAM53に格納する(S5)。そして、俯角データ53bにて示される俯角θで超音波ビームTBが送受信されるよう、モータドライバ61を介してチルトモータ33を駆動する(S6)。これにより、振動子31が回転軸30(図4参照)を軸として回転され、振動子31から送受信される超音波ビームTBの俯角θを、S5の処理により決定した解析深度に対応する俯角θとすることができる。
次いで、RAM53に変数mの領域を確保して、該変数mに0を代入する(S7)。ここで、変数mは、S4の処理にて設定された解析深度における潮流の速度を計測する場合に、4つの方位角δで超音波ビームTBを送受信するために用意されたものである。
次いで、方位角δが(90・m+α)度で超音波ビームTBが送受信されるよう、モータドライバ61を介してスキャンモータ27を駆動する(S8)。これにより、振動子31が出力軸27a(図4参照)を軸として回転され、振動子31から送受信される超音波ビームTBの方位角δを(90・m+α)度とすることができる。
次いで、送受信回路62を介して振動子31から超音波ビームTBを送信し、その超音波ビームTBに対して、S4の処理にて設定された解析深度における散乱体Gから反射された反射波を該振動子31にて受信する(S9)。そして、反射波の受信によって生じる受信信号に基づいて周波数解析を実行し、ドップラシフト量を算出して、解析深度における潮流の速度vを算出する(S10)。ここで、S10により算出される潮流の速度vは、S5及びS6の処理にて設定された俯角θと、S8の処理により設定された方位角δとをもつ超音波ビームTBの送受信によって算出されるものであり、それによって算出される潮流の速度vは、俯角θと方位角δとの方向によって示される成分である。
そこで、S10の処理に次ぐS11の処理では、水面(水平面)に対して平行に流れる潮流の速度を求めるために、S10の処理で算出した潮流の速度vに対して、以下の式(1)による俯角補正を行い、潮流の速度の俯角0度(水平方向)と方位角δとで示される方向の成分v’を算出する(S11)。S11の処理で算出された潮流の速度v’は、RAM53に一時的に保持される。
v’=v/cosθ ・・・(1)
次いで、変数mが3か否かを判断し(S12)、変数mが3でなければ(S12:No)、変数mに1加算して(S13)、S8の処理に戻る。そして、S8〜S12の処理を変数mが3になるまで繰り返す。これにより、S4により設定された解析深度における潮流の速度を計測する場合、超音波ビームTBの俯角θが、解析深度に応じてS5,S6の処理にて設定された俯角θに固定されつつ、方位角δがα度、(90+α)度、(180+α)度、(270+α)度と変化しながら、超音波ビームTBが送受信される。
そして、これら4方向の超音波ビームTBのそれぞれの反射波のドップラシフト量から、俯角0度と各方位角δ(α度、(90+α)度、(180+α)度、(270+α)度)とで示される4つの方向の潮流の速度の成分v’が算出される。
S12の判断により、変数mが3であると判断されると(S12:Yes)、S8〜S12の処理によって算出された俯角0度と各方位角δ(α度、(90+α)度、(180+α)度、(270+α)度)とで示される4つの方向の潮流の速度の成分v’をベクトル合成し、S4の処理にて設定された解析深度での潮流の速度(速さと方向)を算出して、その算出した潮流の速度を示すデータを潮流データ53cとしてRAM53に格納する(S14)。
そして、S14の処理にてRAM53に格納された潮流データ53cにより示される潮流の速度をS4の処理により設定された解析深度における潮流の速度として表示装置15に表示する(S15)。
次いで、変数nが、S2の処理にて設定された解析深度の数Nと等しいか否かを判断し(S16)、変数nが解析深度の数Nと等しくないと判断される場合は(S16:No)、変数nに1加算して(S17)、S4の処理へ戻る。そして、S4〜S16の処理を、変数nの値が解析深度の数Nとなるまで繰り返す。これにより、解析深度データ53aにて示される、潮流の速度の計測対象とする全ての解析深度に対して、潮流の速度の計測が行われ、その計測が行われた各々の解析深度における潮流の速度が表示装置15に表示される。
一方、S16の判断により、変数nが解析深度の数Nと等しいと判断される場合は(S16:Yes)、次いで、解析深度データ53aの変更があったか否かを判断する(S18)。そして、解析深度データ53aの変更がないと判断される場合は(S18:No)、S3の処理に戻り、再び、解析深度データ53aにて示される全ての解析深度での潮流の速度を計測する。また、解析深度データ53aの変更があると判断される場合は(S18:Yes)、S2の処理へ戻り、変更後の解析深度データ53aに基づき、新たに設定された全ての解析深度における潮流の速度の計測が行われる。
次いで、図8を参照して、本実施形態の潮流計12の効果について説明する。図8(a)は、潮流計12が搭載された船舶11より俯角θ=60度で超音波ビームTBを送受信した場合の超音波ビームTBの状態を模式的に示した模式図であり、図8(b)は、潮流計12が搭載された船舶11より俯角θ=30度で超音波ビームTBを送信した場合の超音波ビームTBの状態を模式的に示した模式図である。
上述した通り、潮流計12は、潮流の速度の計測対象となる解析深度が深い場合は超音波ビームTBの俯角θを大きく設定して深度の深い位置まで超音波ビームTBを届かせる一方、解析深度が浅い場合には超音波ビームTBの俯角θを小さく設定する。
ここで、超音波ビームTBのQ値を高くするために、一般的に超音波ビームTBのパルス幅を長く設定する。例えば、超音波ビームTBのパルス幅は5ミリ秒に設定される。この場合、水中での音速は1500m/秒であるので、超音波ビームTBの水中での音柱は1500m/秒×5ミリ秒=7.5mに達する。即ち、船舶11の船底から突出された送受波ユニット16(おおよそ水面)より超音波ビームTBの送受信方向に7.5mの範囲にある散乱体Gからの反射波では、ドップラシフト量を正確に算出できないため、その範囲において潮流の速度を計測できない。
また、ドップラシフト量を精度よく算出するためは、周波数解析に用いるデータ数を多く用意する必要があり、一般的に周波数解析幅も長く設定される。例えば、周波数解析に、超音波ビームTBの送受信方向に20mの範囲にある散乱体Gからの反射波を使用する。よって、周波数解析が可能な最も浅いエリアは、超音波ビームTBの送受信方向に7.5m〜27.5mとなり、潮流の速度を計測可能な最も浅い解析深度はその方向に27.5mとなる。
従来の潮流計は、解析深度にかかわらず超音波ビームTBの俯角θは固定されており、深度の深い位置での潮流の速度を計測するために、その俯角θが60度程度に設定されている。この場合、超音波ビームTBのパルス幅を5ミリ秒に設定し、周波数解析幅を20mに設定すると、図8(a)に示す通り、周波数解析が可能な最も浅いエリアは、7.5m×sin60°〜27.5m×sin60°、即ち、6.5m〜23.8mとなる。
よって、超音波ビームTBのパルス幅を5ミリ秒と長く設定し、周波数解析幅を20mと長く設定した場合、10mといった浅場の潮流の速度を計測しようとしても正しく計測できないおそれがある。逆に、超音波ビームTBの俯角θを60度にしたまま10mのような浅場の潮流の速度を計測しようとした場合、超音波ビームTBのパルス幅を短くするか、周波数解析幅を短くする必要があり、精度よく計測できない。
これに対し、潮流計12は、解析深度に応じて超音波ビームTBの俯角θを変更できるように構成されており、10mといった浅場での潮流の速度を計測する場合、超音波ビームTBの俯角θを30度に設定する。超音波ビームTBの俯角θが30度に設定された場合に、超音波ビームTBのパルス幅を5ミリ秒に設定し、周波数解析幅を20mに設定しても、図8(b)に示すとおり、周波数解析が可能な最も浅いエリアは、7.5m×sin30°〜27.5m×sin30°、即ち、3.75m〜13.75mとなる。
つまり、浅場での潮流の速度を計測する場合、超音波ビームTBの俯角θを小さく設定することで、振動子31より超音波ビームTBを送信してから、浅場にある散乱体Gからの反射波が振動子31に到達するまでの時間を長くできるので、超音波ビームTBのパルス幅を短くしたり、周波数解析幅を短くしたりしなくても、浅場における潮流の速度を計測できるのである。
また、潮流計12は、解析深度が浅い場合に超音波ビームTBの俯角θを小さく設定することで、次に説明する通り、潮流計測の速度分解能を向上させることができる。例えば、振動子31の周波数fcが400kHzの場合、水中での波長λは、水中の音速cが1500m/秒であるので、
λ=c/fc=1500/(400×103)=3.75×10−3[m]
となる。
ここで、周波数解析を行う場合に、サンプリング周波数fsが74609HzのADコンバータを使用し、周波数解析に使用するサンプリング点数Nを2048点とすると、周波数分解能fdは、
fd=fs/N=74609/2048=36.4[Hz]
となる。
よって、船舶11の運動を無視するとして、この場合の速度分解能vdは、
vd=(λ/2)fd=(3.75×10−3/2)×36.4=0.068[m/s]
となる。
この速度分解能vdは、超音波ビームTBの送受信方向(俯角θと方位角δとの方向)の速度成分の分解能である。そこで、超音波ビームTBの俯角θが60度である場合に、上記式(1)にて俯角補正がなされた潮流の速度における速度分解能vd60’は、
vd60’=vd/cos60°=0.136[m/s]=0.265[knot]
となる。
一方、超音波ビームTBの俯角θが30度である場合に、上記式(1)にて俯角補正がなされた潮流の速度における速度分解能vd30’は、
vd30’=vd/cos30°=0.0785[m/s]=0.153[knot]
となる。このように、俯角θが30度の超音波ビームTBにおける速度分解能vd30’のほうが、俯角θが60度の超音波ビームTBにおける速度分解能vd60’よりも高い分解能が得られるのである。
以上説明した通り、第1実施形態における潮流計12によれば、送受波ユニット16が全周型ソナーにより構成され、超音波ビームTBの送受信を行う場合にその俯角θを変更可能に構成されているので、計測対象となる解析深度にあわせて、超音波ビームTBの俯角θを変化させることができる。
これにより、深度の深い位置での潮流の速度を計測する場合は超音波ビームTBが深度の深い位置まで届くように超音波ビームTBの俯角θを大きく設定する一方、浅場の潮流の速度を計測する場合は、超音波ビームTBの俯角θを小さく設定することで、超音波ビームTBのパルス幅やドップラシフト量を計測するために必要な周波数解析幅を長く設定できる。よって、浅場の潮流の速度を計測する場合であっても周波数分解能の低下を防ぐことができる。また、超音波ビームTBの俯角θを小さく設定することで、速度分解能そのものを高めることができる。その結果、深度の深い場所のみならず深度の浅い場所の潮流の速度を、精度よく計測できる。
また、潮流の速度の計測対象となる解析深度がS4の処理により設定されると、その設定された解析深度に適した超音波ビームTBの俯角θが自動的に設定される。これにより、計測対象となる解析深度において潮流の速度を計測するために適した俯角θを設定し、その俯角θで超音波ビームTBの送受信を行うことができる。
また、使用者により設定可能な解析深度に対して、その解析深度に適した超音波ビームTBの俯角θが対応付けられた深度俯角変換テーブル52bが設けられているので、解析深度が設定されると、深度俯角変換テーブル52bによってその解析深度に適した超音波ビームTBの俯角θを即座に決定することができる。
また、俯角変換テーブル52bでは、設定された解析深度(例えば10m)が所定の解析深度(例えば30m)よりも浅い場合に、その所定の解析深度に対して設定される俯角θ(この例では35度)よりも小さい俯角θ(この例では30度)が設定される。これにより、深度が浅い場合には、小さい俯角θで超音波ビームTBの送受信が行われるので、浅場の潮流の速度を精度よく計測できる。
また、一の解析深度に対して設定された俯角θにおいて、4つの方位角δで超音波ビームTBの送受信が行われるように、方位角δを変化させながら振動子31を駆動する。そして、これらの4つの方位角δでそれぞれ受信された各反射波のドップラシフト量に基づき、潮流の速度が算出される。潮流の速度を計測する場合、その速さと方向(ベクトル)を求めるためには2以上の方位角δで超音波ビームTBの送受信を行う必要がある。従来は、超音波ビームTBの送受信を行う方位角δ毎に振動子を少なくとも1つ用意していた。つまり、例えば4つの方位角δで超音波ビームTBの送受信を行う場合は、少なくとも4つの振動子を用意していた。これに対し、潮流計12では、1つの振動子31に対して超音波ビームTBの方位角δを変化させることができる。よって、1つの振動子31を用いるだけで、解析深度に応じた俯角θを設定しつつ、4つの方位角δの方向に超音波ビームTBを送受信し、深度の深い場所のみならず深度の浅い場所の潮流の速度を精度よく計測できる。
なお、本実施形態では、4つの方位角δの方向に超音波ビームTBを送受信する場合について説明したが、上述した通り、潮流の速度を計測する場合にその速さと方向(ベクトル)を求めるためには、2以上の方位角δで超音波ビームTBの送受信を行えばよい。よって、2以上の方位角δで超音波ビームTBの送受信が行われるように、方位角δを変化させながら振動子31を駆動するように構成してもよい。これにより、1つの振動子31を用いるだけで、解析深度に応じた俯角θを設定しつつ、2以上の方位角δの方向に超音波ビームTBを送受信し、深度の深い場所のみならず深度の浅い場所の潮流の速度を精度よく計測できる。
次いで、第2実施形態における潮流計12について説明する。第1実施形態における潮流計12は、深度俯角変換テーブル52bを用意し、解析深度が設定されると、その深度俯角変換テーブル52bによってその解析深度に適した超音波ビームTBの俯角θを決定した。これに対し、第2実施形態における潮流計12は、この深度俯角変換テーブル52bを用いず、解析深度が設定された場合に、潮流計測処理のS5の処理において、計算により、設定された解析深度に適した超音波ビームTBの俯角θを決定する。なお、その他の潮流計12の構成、及び、潮流計測処理の各処理は、第1実施形態と同一であるので、その説明を省略する。
第2実施形態における潮流計12は、深度計(図示せず)を有している。そして、CPU51により実行される潮流計測処理では、超音波ビームTBの俯角θを決定するS5の処理を実行する前に、船舶11直下の水深hを深度計によって測定する。
なお、必ずしも深度計を潮流計12に設ける必要はなく、潮流計12は、外部に設けられた深度計によって測定された水深hの入力を得るように構成されてもよい。また、潮流計12の送受波ユニット16を用いて、船舶11から垂直方向(俯角θが90度の方向)に超音波ビームTBを送信し、海底、湖底といった底からの反射波を受信して船舶11直下の水深hを測定してもよい。
ここで、超音波ビームTBを船舶11から垂直方向(俯角θが90度の方向)に送信した場合、散乱体Gからの反射波が底からの反射波に埋もれ、散乱体Gからの反射波を受信できない不感帯が生じる。この不感帯の長さlは、超音波ビームTBのパルス幅、周波数解析を行うFFT(高速フーリエ変換器)のゲート幅、その他振動子31の特性によって決定されるものであり、現物試験にて予め適合する定数を決定しておく。
そして、水深hと不感帯の長さlとから、超音波ビームTBの測定可能距離r=h−lを定義する。潮流計測処理のS5の処理では、設定された解析深度をdとすると、俯角θを次の式(2)を用いて算出し、設定する。
θ=90°−arccos(d/r) ・・・(2)
これにより、解析深度dが浅くなる(小さくなる)ほど、俯角θが自動的に小さく設定される。よって、深度の深い位置での潮流の速度を計測する場合は超音波ビームTBが深度の深い位置まで届くように超音波ビームTBの俯角θを大きく設定できる一方、浅場の潮流の速度を計測する場合は、超音波ビームTBの俯角θを小さく設定できる。
従って、第1実施形態にて上述したとおり、浅場の潮流の速度を計測する場合であっても、超音波ビームTBのパルス幅やドップラシフト量を計測するために必要な周波数解析幅を長く設定できるので、周波数分解能の低下を防ぐことができる。また、超音波ビームTBの俯角θを小さく設定することで、速度分解能そのものを高めることができる。その結果、深度の深い場所のみならず深度の浅い場所の潮流の速度を、精度よく計測できる。
また、使用者により設定可能な解析深度の間隔が短い場合など、多数の解析深度が設定可能である場合に、第1実施形態のような俯角変換テーブルを用いると必要なメモリ容量が増大するが、第2実施形態にように計算式を用いて解析深度に応じた超音波ビームTBの俯角θを決定すれば、メモリ容量の増大を抑制できる。
その他、第2実施形態における潮流計12は、第1実施形態と同一の構成によって、同一の効果を奏する。
次いで、第3実施形態における潮流計12について説明する。第1及び第2実施形態における潮流計12は、解析深度が設定されると、その解析深度に応じた超音波ビームTBの俯角θを決定した。これに対し、第3実施形態における潮流計12は、超音波ビームTBの俯角θが使用者から設定される。なお、その他の潮流計12の構成、及び、潮流計測処理の各処理は、第1実施形態と同一であるので、その説明を省略する。
第3実施形態における潮流計12では、使用者が操作ボタン14を操作することで、潮流の計測対象となる解析深度が設定されると共に、その解析深度を計測する場合の超音波ビームTBの俯角θが設定される。具体的には、使用者により解析深度が設定されると、それに対応付ける形で超音波ビームTBの俯角θの入力を促す画面が表示装置15に表示される。
使用者は、その画面に従って、超音波ビームTBの俯角θを操作ボタン14により入力する。入力された俯角θを示すデータは、RAM53に格納される。解析深度が複数設定された場合は、各々の解析深度に対して、超音波ビームTBの俯角θが設定できるようになっている。なお、一度設定された超音波ビームTBの俯角θは、使用者が操作ボタン14を操作して変更可能としてもよい。
また、潮流計12の電源がオンされた直後に、解析深度データ53aの初期値として所定の解析深度を示すデータ(例えば、解析深度10m、20m、30m、40mを示すデータ)がRAM53に格納されるのにあわせて、各々の解析深度に対する超音波ビームTBの俯角θも初期値(例えば、30度、30度、35度、40度)が設定される。初期値が設定された超音波ビームTBの俯角θは、使用者が操作ボタン14を操作して変更可能としてもよい。
なお、潮流計12の電源がオフされるときに、解析深度データ53aの値を別途設けられたフラッシュメモリ等に格納すると共に、解析深度データ53aにて示される各々の解析深度に対応付ける形で、対応する解析深度に対して設定された超音波ビームTBの俯角θをフラッシュメモリ等に格納してもよい。そして、潮流計12の電源がオンされたときにそのフラッシュメモリ等に格納された値に基づいて、解析深度データ53aの値をRAM53に設定し、また、その解析深度データ53aにて示される各々の解析深度に対応する超音波ビームTBの俯角θを示すデータをRAM53に設定するようにしてもよい。
これにより、電源を一旦オフした場合であっても、使用者が前回設定した解析深度がそのまま解析深度データ53aに設定され、また、使用者が前回設定した各解析深度での超音波ビームTBの俯角θがそのまま設定されるので、使用者が一度設定した解析深度及び超音波ビームTBの俯角θを再び設定しなくてもすむようにすることができる。
そして、第3実施形態における潮流計12の潮流計測処理では、S4の処理にて解析深度が設定されると、その設定された解析深度に対応して使用者により設定された超音波ビームTBの俯角θを示すデータを、S5の処理により俯角データ53bに設定する。
これにより、使用者が入力した俯角θで超音波ビームTBの送受信が行われることになる。よって、使用者が潮流の速度を計測したい解析深度にあわせて超音波ビームTBの送受信方向の俯角θを調整できる。したがって、深度の浅い場所から深い場所までの潮流の速度を、使用者が超音波ビームTBの俯角θを調整しながら精度よく計測できる。
その他、第3実施形態における潮流計12は、第1及び第2実施形態と同一の構成によって、同一の効果を奏する。
次いで、図9を参照して、第4実施形態における潮流計12について説明する。第1〜第3実施形態における潮流計12では、設定された全ての解析深度に対して、その解析深度における潮流を測定する場合に超音波ビームTBを送受信する場合について説明した。そして、解析深度毎に、その解析深度に適した超音波ビームTBの俯角θを設定し、その俯角θにて超音波ビームTBを送受信する場合について説明した。
これに対し、第4実施形態における潮流計12は、複数の解析深度が設定された場合であっても、超音波ビームTBの送受信を1つの俯角θに対して行い、その1つの俯角θに対して送受信された超音波ビームTBの反射波を用いて、複数の解析深度における潮流の速度を算出する。俯角θは、最も深い解析深度に適したものを選択する。
第4実施形態における潮流計12は、制御装置50にて実行される潮流計測処理が第1実施形態における潮流計12と異なる。なお、第4実施形態における潮流計12の構成は、第1実施形態における潮流計12と同一であるため、その説明を省略する。
図9は、第4実施形態における潮流計12の制御装置50が実行する潮流計測処理を示すフローチャートである。第4実施形態における潮流計測処理は、第1実施形態における潮流計測処理と同様に、電源がオンされた場合、または、潮流の速度の計測が開始される場合にCPU51によって実行が開始され、電源がオフされるまで、または、使用者による操作ボタン14の操作などによって潮流の速度の計測を終了するまで、継続して実行され続ける。
第4実施形態における潮流計測処理では、まず、昇降装置17を駆動し、送受波ユニット16を船舶11の船底から水中に突出されるまで降下させ(S21)、振動子31による超音波ビームTBの送受信が可能な状態にする。
次いで、解析深度データ53bによって示される解析深度の数(潮流の速度の計測対象とする深度の総数)Nを設定する(S22)。そして、解析深度データ53bにて示される1以上の解析深度のうち、最も深い解析深度を設定する(S23)。解析深度データ53bにて示される解析深度の数が1つ、つまり、N=1の場合は、その解析深度そのものがS23の処理にて設定される。
次いで、S23の処理にて設定された最も深い解析深度に対応する俯角θを深度俯角変換テーブル52bによって決定し、決定した俯角θを示す俯角データ53bをRAM53に格納する(S24)。なお、S24の処理において、第2実施形態の潮流計12のように、上述した式(2)を用いて、最も深い解析深度に対応する俯角θを決定してもよい。
S24の処理の後、俯角データ53bにて示される俯角θで超音波ビームTBが送受信されるよう、モータドライバ61を介してチルトモータ33を駆動する(S25)。これにより、振動子31から送受信される超音波ビームTBの俯角θを最も深い解析深度に適した俯角θとすることができる。
次いで、RAM53に変数mの領域を確保して、該変数mに0を代入する(S26)。ここで、変数mは、潮流の速度を計測する場合に、4つの方位角δで超音波ビームTBを送受信するために用意されたものである。そして、方位角δが(90・m+α)度で超音波ビームTBが送受信されるよう、モータドライバ61を介してスキャンモータ27を駆動する(S27)。その後、送受信回路62を介して振動子31から超音波ビームTBを送信し、その超音波ビームTBに対して散乱体Gから反射された反射波を該振動子31にて受信する(S28)。
次いで、変数mが3か否かを判断し(S29)、変数mが3でなければ(S29:No)、変数mに1加算して(S30)、S27の処理に戻る。そして、S27〜S29の処理を変数mが3になるまで繰り返す。これにより、超音波ビームTBの俯角θが、最も深い解析深度に対応する俯角θに固定されつつ、方位角δがα度、(90+α)度、(180+α)度、(270+α)度と変化しながら、超音波ビームTBが送受信される。
一方、S29の判断により、変数mが3であると判断されると(S29:Yes)、RAM53に変数nの領域を確保して、該変数nに1を代入する(S31)。この変数nは、解析深度データ53bにて示される全ての解析深度に対して、順番にその解析深度における潮流の速度を算出するために用意されたものである。
続くS32〜S35の処理では、この変数nによって示されるn番目の解析深度における潮流の速度を算出する。なお、S32〜S35の処理では、深度の浅い順でn番目の解析深度における潮流の速度を算出するが、深度の深い順でn番目の解析深度における潮流の速度を算出してもよいし、解析深度データ53bにて示される解析深度の順番で、潮流の速度を算出してもよい。
S32の処理では、S28の処理により俯角θが固定されつつ4つの方位角δで送受信された超音波ビームTBのそれぞれについて、その反射波の受信によって生じる受信信号に基づき、n番目の解析深度における散乱体Gから反射された反射波の周波数解析を実行し、ドップラシフト量を算出して、当該解析深度における潮流の速度vを算出する(S32)。
ここで、S32により、超音波ビームTBが送受信される4つの方位角δ毎に算出された潮流の速度vは、S23及びS24の処理にて設定された俯角θと、各方位角δとをもつ超音波ビームTBの送受信によって算出されたものであり、それによって算出された潮流の速度vは、俯角θと方位角δとの方向によって示される成分である。
そこで、S33の処理では、水面(水平面)に対して平行に流れる潮流の速度を求めるために、S32の処理で方位角δ毎に算出したそれぞれの潮流の速度vに対して、上述した式(1)による俯角補正を行い、潮流の速度の俯角0度(水平方向)と各方位角δ(α度、(90+α)度、(180+α)度、(270+α)度)とで示される4つの方向の成分v’を算出し、RAM53に保持する(S33)。
そして、S33の処理によって算出された俯角0度と各方位角δとで示される4つの方向の潮流の速度の成分v’をベクトル合成し、n番目の解析深度での潮流の速度(速さと方向)を算出して、その算出した潮流の速度を示すデータを潮流データ53cとしてRAM53に格納する(S34)。その後、S34の処理にてRAM53に格納された潮流データ53cにより示される潮流の速度をn番目の解析深度における潮流の速度として表示装置15に表示する(S35)。
次いで、変数nが、S22の処理にて設定された解析深度の数Nと等しいか否かを判断し(S36)、変数nが解析深度の数Nと等しくないと判断される場合は(S36:No)、変数nに1加算して(S37)、S32の処理へ戻る。そして、S32〜S36の処理を、変数nの値が解析深度の数Nとなるまで繰り返す。これにより、解析深度データ53aにて示される、潮流の速度の計測対象とする全ての解析深度に対して、潮流の速度が算出され、その算出された各々の解析深度における潮流の速度が表示装置15に表示される。
一方、S36の判断により、変数nが解析深度の数Nと等しいと判断される場合は(S36:Yes)、次いで、解析深度データ53aの変更があったか否かを判断する(S38)。そして、解析深度データ53aの変更がないと判断される場合は(S38:No)、S26の処理に戻り、再び、最も深い解析深度に対応する俯角θで4つの方位角δの方向に超音波ビームTBを送信し、その反射波を用いて解析深度データ53aにて示される全ての解析深度での潮流の速度を計測する。また、解析深度データ53aの変更があると判断される場合は(S38:Yes)、S22の処理へ戻り、変更後の解析深度データ53aに基づき、新たに超音波データTBの俯角θを設定し、その俯角θで超音波ビームTBを送受信して、新たに設定された全ての解析深度における潮流の速度の計測を行う。
以上説明した通り、第4実施形態における潮流計12によれば、複数の解析深度が設定された場合であっても、1の解析深度に適した俯角θで超音波ビームTBが送信され、その反射波を用いて、設定された各解析深度における潮流の速度が計測される。よって、設定された解析深度毎に、その解析深度に適した俯角θで超音波ビームTBを送受信して該解析深度における潮流の速度を計測する第1実施形態の潮流計12と比して、超音波ビームTBの送受信回数を少なくできるので、潮流の速度の計測を素早く行うことができる。
また、超音波ビームTBの俯角θは、設定された解析深度のうち最も深い解析深度に適したものに設定されるので、その最も深い解析深度まで超音波ビームTBを届けることができ、その解析深度における潮流の計測を確実に行うことができる。また、設定された最も深い解析深度が浅場であった場合、超音波ビームTBの俯角θは小さく設定される。これにより、解析深度が浅場であっても、第1実施形態にて説明した通り、周波数分解の低下を抑制でき、また、速度分解能そのものを高めることができるので、精度よく、潮流の速度を計測できる。
その他、第4実施形態における潮流計12は、第1〜第3実施形態の同一の構成によって、同一の効果を奏する。
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、各実施形態は、それぞれ、他の実施形態が有する構成の一部または複数部分を、その実施形態に追加し或いはその実施形態の構成の一部または複数部分と交換等することにより、その実施形態を変形して構成するようにしても良い。また、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
上記第1及び第4実施形態では、超音波ビームTBの俯角θの下限値が30度となるように、その俯角θを設定する場合について説明したが、必ずしも下限値は30度に限られるものではなく、その下限値を0度よりも大きく俯角θの上限値よりも小さい任意の値にしてもよい。特に、下限値をより0度に近い値とすることにより、より浅い深度における潮流の速度を精度よく計測できる。また、俯角θの下限値を設けずに、0度まで設定できるようにしてもよい。即ち、超音波ビームTBを水平方向に送受できるようにしてもよい。これにより、水面に波がほとんど立っていない状態にあれば、水面の表層における潮流の速度を計測できる。
上記第1及び第4実施形態では、超音波ビームTBの俯角θの上限値が60度なるように、その俯角θを設定する場合について説明したが、必ずしも上限値は60度に限られるものではなく、その上限値を90度よりも小さく俯角θの下限値よりも大きい任意の値にしてもよい。俯角θの上限値をより90度に近い値とすることにより、より深い深度における潮流の速度を計測できる。ただし、上述した通り、俯角θを小さくして超音波ビームTBの送受信を行ったほうが、速度分解能が向上するので、できる限り上限値を小さい値にするのが好ましい。
上記第2実施形態では、設定された解析深度に対応する超音波ビームTBの俯角θを計算式に基づいて算出する場合について説明したが、算出された俯角θが所定の下限値(例えば30度)よりも小さい場合には、その俯角θを所定の下限値(30度)に決定してもよい。これにより、水面において発生する波面の影響を抑制できるので、浅場における潮流の速度を問題なく計測できる。また、算出された俯角θが所定の上限値(例えば60度
よりも大きい場合には、その俯角θを所定の上限値(60度)に決定してもよい。これにより、超音波ビームTBの俯角θが必要以上に大きくなることを抑制でき、速度分解能が低くなることを抑制できる。
上記第1,第2及び第4実施形態では、設定された解析深度に対して、超音波ビームTBの俯角θが、深度俯角変換テーブル52bにより、又は、計算により決定される場合について説明したが、これらに基づいて超音波ビームTBの俯角θが決定された後、使用者が操作ボタン14を操作することによってその俯角θを変更できるように構成していもよい。この俯角θの変更は、超音波ビームTBの送受信が行われる前に行えるようにしてもよいし、超音波ビームTBの送受信が行われながら変更できるようにしてもよい。これにより、使用者が潮流の速度を計測したい解析深度にあわせて超音波ビームTBの送受信方向の俯角θを調整できる。したがって、深度の浅い場所から深い場所までの潮流の速度を、使用者が超音波ビームTBの俯角θを調整しながら精度よく計測できる。
特に、第4実施形態では、超音波ビームTBの俯角θとして、設定された解析深度のうち最も深い解析深度に対応する値を設定するので、設定された解析深度に浅場の解析深度が含まれていた場合、最も深い解析深度にあわせて設定された俯角θでは、その浅場の潮流の速度が精度よく計測できない場合が生じ得る。これに対し、使用者が操作ボタン14を操作することによってその俯角θを変更できるように構成することで、第4実施形態の潮流計12において解析深度が浅い位置から深い位置まで設定されたとしても、各解析深度の潮流の速度を、使用者が超音波ビームTBの俯角θを調整しながら精度よく計測できる。
上記第3実施形態では、使用者により解析深度が設定されると、それに対応付ける形で超音波ビームTBの俯角θの入力を促す画面が表示装置15に表示される場合について説明したが、その俯角θの入力を促す画面において、俯角θの候補を表示し、その値を使用者が操作ボタン14を操作して増減することで、俯角θの設定を行えるようにしてもよい。俯角θの候補は、対応する解析深度から、第1実施形態のような深度俯角変換テーブルや第2実施形態のような計算式を用いて決定してもよい。これにより、使用者が設定した解析深度に対して適した俯角θの目安を予め使用者に示すことができ、また、解析深度に適した俯角θを使用者に設定させやすくすることができる。
上記第4実施形態では、上述した通り、設定された解析深度に浅場の解析深度が含まれていた場合、最も深い解析深度にあわせて設定された俯角θでは、その浅場の潮流の速度が精度よく計測できない場合が生じ得る。
そこで、潮流計12は、表示装置15において、精度よく計測できなかった潮流の速度を、点滅して表示させたり、他の解析深度における潮流の速度と比して輝度を低くして表示させたりするなど、精度よく計測できてないことが使用者に分かるように表示するようにしてもよい。また、潮流計12は、精度よく計測できなかった潮流の速度を非表示としてもよい。
また、設定された解析深度のうち、最も深い解析深度に適した俯角θで超音波ビームTBを送受信しては、設定された浅場の解析深度における潮流の速度が精度よく計測できないと判断される場合に、最も深い解析深度に適した俯角θで超音波ビームTBを送受信するのとは別に、その浅場の解析深度に適した俯角θを、深度俯角変換テーブル52bにより、又は、上述した式(2)により設定して、超音波ビームTBを送受信し、該浅場の潮流の速度を計測してもよい。これにより、深い解析深度から浅い解析深度までの潮流の速度を精度よく計測できる。
また、設定された解析深度のうち、最も深い解析深度に適した俯角θで超音波ビームTBを送受信しては、設定された浅場の解析深度における潮流の速度が精度よく計測できないと判断される場合に、一旦最も深い解析深度に対応して設定された俯角θを、その浅場の解析深度における潮流の速度が精度よく計測できる俯角θまで小さくするように制御装置50が制御してもよい。これにより、深い解析深度から浅い解析深度までの潮流の速度を精度よく計測できる俯角θで、超音波ビームTBの送受信を行うことができる。
第4実施形態では、超音波ビームTBの俯角θとして、設定された解析深度のうち最も深い解析深度に対応する値を設定する場合について説明したが、最も浅い解析深度に対応する値を設定してもよい。これにより、設定された解析深度に浅場が含まれていた場合であっても、その浅場の潮流の速度を精度よく計測できる。
この場合、深い解析深度の潮流の速度が計測できない場合が生じ得る。これに対し、超音波ビームTBの俯角θが決定された後、超音波ビームTBの送受信が行われる前や、超音波ビームTBの送受信が行われる間、使用者が操作ボタン14を操作することによってその俯角θを変更できるように構成していもよい。これにより、使用者が潮流の速度を計測したい解析深度にあわせて超音波ビームTBの送受信方向の俯角θを調整できる。また、設定された解析深度のうち、最も浅い解析深度に適した俯角θで超音波ビームTBを送受信しては、設定された深い解析深度における潮流の速度が精度よく計測できないと判断される場合に、最も浅い解析深度に適した俯角θで超音波ビームTBを送受信するのとは別に、その深い解析深度に適した俯角θを、深度俯角変換テーブル52bにより、又は、上述した式(2)により設定して、超音波ビームTBを送受信し、該深い解析深度の潮流の速度を計測してもよい。これにより、深い解析深度から浅い解析深度までの潮流の速度を精度よく計測できる。
また、このような場合に、一旦最も浅い解析深度に対応して設定された俯角θを、深い解析深度における潮流の速度が計測できる俯角θまで大きくするようにしてもよい。これにより、深い解析深度から浅い解析深度までの潮流の速度を精度よく計測できる俯角θで、超音波ビームTBの送受信を行うことができる。
また、超音波ビームTBの俯角θとして、設定された解析深度の中央値や平均値に対応する俯角θを、深度俯角変換テーブル52bにより、又は、上述した式(2)により設定してもよい。これにより、深い解析深度から浅い解析深度までの潮流の速度を精度よく計測できる可能性の高い俯角θで、超音波ビームTBの送受信を行うことができる。
上記第4実施形態では、超音波ビームTBの俯角θを深度俯角変換テーブル52bにより設定する場合について説明したが、この超音波ビームTBの俯角θの設定を、深度俯角変換テーブル52bや計算等に拠らず、第3実施形態のように、使用者が操作ボタン14を操作して行ってもよい。これにより、使用者が潮流の速度を計測したい解析深度にあわせて超音波ビームTBの送受信方向の俯角θを調整できる。よって、深度の浅い場所から深い場所までの潮流の速度を、使用者が超音波ビームTBの俯角θを調整しながら精度よく計測できる。
上記各実施形態では、全周型ソナーで構成された送受波ユニット16を1つ用いて、俯角θを解析深度に応じて設定しつつ、方位角δを順次変化させながら4方向に超音波ビームTBを送受信する場合について説明した。これに対し、4つ(又は2以上)の方位角δ方向毎に、対応する方位角δに向けて超音波ビームTBを送受信可能であり且つ俯角θを変更可能な送受波ユニットを設け、各々の送受波ユニットから送受信される超音波ビームTBの俯角θを解析深度に応じて設定するように構成してもよい。これにより、各方位角δ方向に対して解析深度に応じた俯角θの超音波ビームTBを一度に送受信できるので、解析深度における潮流の速度を素早く計測できる。