ところで、上記の車両用サスペンション装置は、組付け作業時にコイルスプリングの線間隙間から作業者の手を入れることを要する構造になっており、この構造は組付け作業の作業効率を高める上で問題になる。特にダブルウイッシュボーン式サスペンションのように、コイルスプリングの線間隙間がストラット式サスペンションに比べて狭い構造の場合、作業者はコイルスプリングの線間隙間から手を入れ難いためこの組付け作業の作業効率が著しく低下することが懸念される。
そこで、本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、車両に搭載される車両用サスペンション装置の組付け作業の作業効率を高めるのに有効な技術を提供することである。
上記目的を達成するため、本発明に係る車両用サスペンション装置は車両に搭載されるものであり、ショックアブソーバ、ダストカバー部材、係合突部、被係合突部及び位置決め機構を備える。ショックアブソーバは、筒状のピストンシリンダ部材の筒内に軸状のピストンロッドが収容され、ピストンロッドがピストンシリンダ部材の一方のシリンダ端部から突出するように構成される。ダストカバー部材は、ピストンロッドのうちピストンシリンダ部材の一方のシリンダ端部から突出するロッド突出部の軸周を被覆する筒状の部材である。係合突部は、ピストンシリンダ部材の外周面の周方向に複数設けられる。被係合突部は、ダストカバー部材の一方のカバー端部の内周面の周方向に複数設けられ、一方のカバー端部の筒内にピストンシリンダ部材が挿入された状態でのピストンシリンダ部材に対するダストカバー部材の周方向の相対回転動作を利用して係合突部に係合可能である。位置決め機構は、ピストンシリンダ部材に対するダストカバー部材の径方向の位置決めを行う機能を果たすものであり、テーパー部及び複数の当接部を含む。テーパー部は、ピストンシリンダ部材の外周面のうち一方のカバー端部の筒内への挿入方向に関し一方のシリンダ端部から係合突部に向かうにつれて外径が拡張された部位である。当接部は、複数の被係合突部の内周面によって一方のカバー端部のカバー開口縁の内径を下回るように且つカバー開口縁からの軸方向距離(第1の軸方向距離)が一方のシリンダ端部とテーパー部との軸方向距離(第2の軸方向距離)を下回るように形成され、一方のカバー端部の筒内へのピストンシリンダ部材の挿入時にテーパー部に当接可能である。本構成では、ダストカバー部材のカバー開口縁よりも径方向内側に当接部が配置されるため、ピストンシリンダ部材がカバー開口縁を通じてダストカバー部材の筒内に挿入されるとき、当接部がピストンシリンダ部材のテーパー部に係合する。特に、第1の軸方向距離が第2の軸方向距離を下回る構成であるため、当接部をテーパー部に確実に係合させることができる。これに対して、第1の軸方向距離が第2の軸方向距離を上回る構成を採用した場合には、当接部をテーパー部に確実に係合させることができない。
上記構成のサスペンション装置によれば、ダストカバー部材の筒内にピストンシリンダ部材を挿入する操作を行うのみで、位置決め機構を構成するテーパー部と当接部との協働によって、ピストンシリンダ部材に対するダストカバー部材の径方向の位置決めを容易に行うことができる。その結果、ダストカバー部材が組付け前に胴曲がりしている場合であっても、ダストカバー部材の一方のカバー端部をピストンシリンダ部材に対して適正な位置に容易にセンタリングすることができる。この場合、コイルスプリングの線間隙間から手を入れて、ダストカバー部材のカバー端部とピストンシリンダ部材とを係合させるような作業は必要ないため、サスペンション装置の組付け作業の作業効率を高めることが可能になる。
上記の車両用サスペンション装置では、位置決め機構は、ピストンシリンダ部材のテーパー部の外径をaとし、ダストカバー部材の複数の当接部の内周面によって規定される内周円の直径をbとし、係合突部の外周端とカバー開口縁の内周面との間の径方向距離をcとした場合に、(b−a)/2<cなる関係を満たすのが好ましい。この関係を満たす場合、ダストカバー部材の一方のカバー端部がピストンシリンダ部材の外周面を覆うように配置されたときに、ダストカバー部材のカバー開口縁が常に係合突部の外周端よりも径方向外側に位置することとなる。従って、ダストカバー部材の組付け前の胴曲がり量にかかわらず、ダストカバー部材のカバー開口縁が係合突部に乗り上げる現象を阻止することができる。その結果、ダストカバー部材の一方のカバー端部をピストンシリンダ部材に組付ける作業がこの現象によって阻害されることがない。
上記の車両用サスペンション装置は、複数の係合突部の外周端によって規定される外周円の直径が複数の被係合突部の内周面によって規定される内周円の直径を上回るとともに、係合突部の周方向長さが隣接する2つの被係合突部の周方向間隔を下回り、且つ被係合突部の周方向長さが隣接する2つの係合突部の周方向間隔を下回るように構成されるのが好ましい。この場合、係合突部は、隣接する2つの被係合突部の間を通過した状態で、ピストンシリンダ部材に対するダストカバー部材の周方向の相対回転によって被係合突部に係合して被係合突部との間の軸方向移動が規制される。この場合、ピストンシリンダ部材に対するダストカバー部材の軸方向動作及び相対回転動作を利用して、係合突部及び被係合突部を容易に係合させることができる。
上記の車両用サスペンション装置では、位置決め機構はダストカバー部材の一方のカバー端部の内周面に設けられた規制面を含むのが好ましい。この規制面は、互いに係合した係合突部及び被係合突部の径方向の相対移動を規制する機能を果たす。この規制面によって規定される内周面の直径が複数の係合突部の外周端によって規定される外周円の直径に概ね合致する。これにより、互いに係合した係合突部及び被係合突部の径方向の相対移動を規制することができる。その結果、ピストンシリンダ部材に対するダストカバー部材の相対回転を利用して、ダストカバー部材の一方のカバー端部とピストンシリンダ部材との中心同士の適正な位置合わせ(センタリング)を行うことができる。
上記の車両用サスペンション装置では、位置決め機構はダストカバー部材の一方のカバー端部の内周面に設けられたガイド面を含むのが好ましい。このガイド面は、隣接する2つの記被係合突部の間を通過した後の係合突部をピストンシリンダ部材に対するダストカバー部材の周方向の相対回転によって当該係合突部の外周端が規制面に対向する位置までガイドする機能を果たす。これにより、係合突部をピストンシリンダ部材に対するダストカバー部材の周方向の相対回転によって当該係合突部の外周端が規制面に対向する位置まで円滑にガイドすることができる。
上記の車両用サスペンション装置では、位置決め機構は、アッパサポート及びマーキングを含むのが好ましい。アッパサポートは、ダストカバー部材のうち一方のカバー端部とは反対側の他方のカバー端部に設けられ車体への固定のための複数の締結用ボルトを有する。マーキングは、ピストンシリンダ部材に対して複数の締結用ボルトを周方向の所定の相対回転位置に設定するためにアッパサポートに目視用として設けられる。これにより、ピストンシリンダ部材の向きとマーキングの位置を目視するのみによって、係合突部と被係合突部との係合位置関係を目視することなく、係合突部及び被係合突部を適正な係合位置に配置することができる。その結果、作業者はショックアブソーバにおけるピストンロッドの初期位相によらず、ダストカバー部材をショックアブソーバの適正位置に容易に取り付けることが可能になる。
以上のように、本発明によれば、車両に搭載される車両用サスペンション装置の組付け作業の作業効率を高めることが可能になった。
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。なお、当該図面では、車両上方及び車両下方をそれぞれ矢印X1及び矢印X2で示している。車両(車体)に取付けられる前の状態の車両用サスペンション装置に対して、また車両(車体)に取付けられた後の状態の車両用サスペンション装置に対して、これらの方向を適用することができる。
図1には、車両に搭載される車両用サスペンション装置(以下、単に「サスペンション装置」ともいう)100の外観が示され、図2には、図1中のサスペンション装置100の縦断面構造が示されている。図1及び図2が参照されるように、サスペンション装置100は、その主要な構成要素として、コイルスプリング110、ショックアブソーバ120及びダストカバー部材130を含む。
コイルスプリング110は、典型的にはばね鋼をコイル状に巻いたバネであり、車重を支持しつつ衝撃を吸収する機能を果たす。コイルスプリング110は、その上端部111がアッパインシュレータ140を介してアッパサポート141に当接し、その下端部112がロアインシュレータ(図示省略)を介してロアスプリングシート150に当接している。ロアスプリングシート150は、ショックアブソーバ120に固定されている。
ショックアブソーバ120は、コイルスプリング110の振動を減衰させる機能を果たす。このショックアブソーバ120が本発明の「ショックアブソーバ」に相当する。ショックアブソーバ120は、筒状のピストンシリンダ本体部(以下、単に「シリンダ本体部」ともいう)121の筒内に軸状のピストンロッド(「アブソーバロッド」ともいう)124が収容され、ピストンロッド124がシリンダ本体部121の上端部121aから車両上方X1へ突出するように構成されている。シリンダ本体部121のうち上端部121aとは反対側の端部(下端部)は、ロアアーム(図示省略)に接続される。ピストンロッド124のロッド上端部(図3中のロッド上端部124b)は、ダストカバー部材130に設けられたアッパサポート141に接続される。
上記構造によれば、コイルスプリング110及びショックアブソーバ120への荷重入力が最終的にアッパインシュレータ140及びアッパサポート141を通して車体に伝達される。この入力に対しては、アッパインシュレータ140及びロアインシュレータの協働によって遮音効果と振動除去効果が発揮される。
ダストカバー部材130は、ピストンロッド124のうちシリンダ本体部121の上端部121aから突出したロッド突出部124aの軸周を被覆する筒状の部材である。このダストカバー部材130では、ダストカバー本体部131のカバー端部(上端部)132がアッパインシュレータ140及びアッパサポート141と一体化されている。ダストカバー本体部131は、典型的にはゴム材料等の熱可塑性エラストマーや合成樹脂によって形成される。このダストカバー本体部131は、ピストンロッド124の軸方向の動作の際の伸縮性を確保するために、例えば蛇腹構造を有するのが好ましい。このダストカバー部材130が本発明の「ダストカバー部材」に相当する。この場合、ダストカバー本体部131のみによって「ダストカバー部材」が構成されてもよいし、或いはダストカバー部材130が更なる別要素と一体化された部材によって「ダストカバー部材」が構成されてもよい。
図3が参照されるように、ダストカバー部材130のカバー端部132に設けられたアッパサポート141は、その上面にサスペンション装置100を車体に締結固定するための複数の締結用ボルト142を備えている。本実施の形態のアッパサポート141では、この締結用ボルト142がアッパサポート141の周方向に関し等間隔で3つ配置されている。この締結用ボルト142が本発明の「締結用ボルト」に相当する。また、アッパサポート141の上面にはピストンロッド124のロッド上端部124bを挿入するための挿入孔143が設けられている。この挿入孔143は互いに平行に延在する二面幅を有する。一方で、ピストンロッド124のロッド上端部124bは、この挿入孔143の形状と同様の二面幅を有する。この構造によれば、ピストンロッド124のロッド上端部124bがアッパサポート141の挿入孔143に挿入された場合、アッパサポート141に対するピストンロッド124の軸周り方向の回転動作が阻止される。その結果、ダストカバー部材130をショックアブソーバ120に組付ける際にシリンダ本体部121に対してピストンロッド124が供回りするのを防止することができる。
この場合、アッパサポート141の上面(作業者が視認可能な部位)に、挿入孔143に二面幅の向きを示す目視用のマーキング144を設けるのが好ましい。シリンダ本体部121側のアブソーバロアブッシュ(以下、単に「ロアブッシュ」ともいう)125に対してアッパサポート141の3つの締結用ボルト142を周方向の所定の相対回転位置に設定する際に、このマーキング144を用いることができる。このマーキング144が本発明の「マーキング」に相当する。なお、ロアブッシュ125は、ショックアブソーバ120を車体のロアアーム(図示省略)に接続するためにシリンダ本体部121に設けられている。これにより、ピストンロッド124のロッド上端部124bがアッパサポート141の挿入孔143に挿入された状態で、ピストンロッド124をアッパサポート141とともにシリンダ本体部121に対して軸周り方向に図3に示す位置まで相対回転させることによって、ロアブッシュ125と3つの締結用ボルト142との位相を合わせることができる。要するに、ロアブッシュ125に対して3つの締結用ボルト142を所定の相対回転位置に設定することができる。
ダストカバー部材130の他方のカバー端部(下端部)133は、シリンダ本体部121に固定されたブラケット122に組付けられる。このダストカバー部材130のカバー端部133をブラケット122に組付けるための組付け構造の詳細については図4〜図8が参照される。
図4及び図5に示すように、ブラケット122は、一方のシリンダ端部(ブラケット端部)122aによってシリンダ本体部121のうち上端部121aの周辺領域を覆うキャップ状の部材である。シリンダ本体部121にブラケット122が固定されることによって筒状のピストンシリンダ部材(以下、単に「シリンダ部材」ともいう)123が形成される。この場合、ブラケット122がシリンダ部材123の外周面を構成する。このシリンダ部材123が本発明の「ピストンシリンダ部材」に相当する。この場合、シリンダ本体部121のみによって「ピストンシリンダ部材」が構成されてもよいし、或いはシリンダ本体部121が更なる別要素と一体化された部材によって「ピストンシリンダ部材」が構成されてもよい。
ブラケット122は、第1筒部122b、第2筒部122c、テーパー部122d、係合突部122eを含む。第2筒部122cは、第1筒部122bの下方に設けられ第1筒部122bよりも外径が拡張された拡径部である。即ち、図5において第1筒部122bの外径d1と第2筒部122cの外径d2との間にd1<d2なる関係が成り立つ。テーパー部122dは、第1筒部122bと第2筒部122cとを接続するためにシリンダ本体部121の軸線に対して傾斜状に延在する部位である。このテーパー部122dでは、シリンダ部材123の外周面のうちダストカバー部材130のカバー端部133の筒内への挿入方向に関しシリンダ端部122aから係合突部122eに向かうにつれてブラケット122の外径が徐々に拡張される。このテーパー部122dが本発明の「テーパー部」に相当する。係合突部122eは、シリンダ部材123の外周面の周方向に複数設けられ、第2筒部122bから下方へ突出し且つ径方向外側へ突出する爪体構造を有する。本実施の形態のブラケット122では、この係合突部122eが第2筒部122cの周方向に関し等間隔で4つ配置されている。この係合突部122eが本発明の「係合突部」に相当する。また、ショックアブソーバ120のうちシリンダ部材123の下端部に前述のロアブッシュ125が設けられている。
図5に示すように、ダストカバー部材130のカバー端部133の内周面(「内壁面」ともいう)の周方向に被係合突部134が複数設けられている。この被係合突部134は、カバー端部133の筒内にシリンダ部材123が挿入された状態でのシリンダ部材123に対するダストカバー部材130の周方向の相対回転動作を利用して係合突部122eに係合可能である。本実施の形態のダストカバー部材130では、この被係合突部134がカバー端部133の周方向に関し等間隔で4つ配置されている。この被係合突部134が本発明の「被係合突部」に相当する。4つの被係合突部134の内周面によって規定される内周円の直径d3はブラケット122の第2筒部122cの外径d2を上回る。この内周面においてダストカバー部材130の内径が最小となる。従って、この内周面は、ダストカバー部材130のカバー端部133の筒内へのシリンダ部材123の挿入時にブラケット122のテーパー部122dに当接可能な当接部134aとなる。この当接部134aが本発明の「当接部」に相当する。
ダストカバー部材130のカバー端部133がシリンダ部材123に組付けられた状態では、ブラケット122の係合突部122eの外周端(突出面)122fとダストカバー部材130のカバー端部133のカバー開口縁(カバー先端)135の内周面との間の径方向距離がd4として規定される。また、ダストカバー部材130のカバー端部133のカバー開口縁135の内径がd5として規定される。本実施の形態では、被係合突部134の当接部134aは、カバー開口縁135の内径d5を下回るように形成されている。これにより、ダストカバー部材130のカバー開口縁135よりも径方向内側に当接部134が配置される。また、被係合突部134の当接部134aは、カバー開口縁135からの軸方向距離(第1の軸方向距離)M3がシリンダ部材123(ブラケット122)のシリンダ端部122aとテーパー部122dとの軸方向距離(第2の軸方向距離)L3を下回るように形成されている。
上記構成のサスペンション装置100は、シリンダ部材123(シリンダ本体部121及びブラケット122)に対するダストカバー部材130の径方向の位置決めを行うための位置決め機構(センタリングを行うための「センタリング機構」ともいう)を備えている。この位置決め機構は、シリンダ部材123及びダストカバー部材130の相対回転前の位置決めを可能とするものであり、ブラケット122のテーパー部122d、及びダストカバー部材130の被係合突部134(当接部134a)を含む。これにより、ダストカバー部材130のカバー端部133がシリンダ部材123のブラケット122の外周面を覆うように、ダストカバー部材130をシリンダ部材123に対して軸方向に相対移動させた場合、ダストカバー部材130の被係合突部134はブラケット122の外周面に沿って摺動する。このとき、ダストカバー部材130のカバー開口縁135よりも径方向内側に当接部134が配置されているため、シリンダ部材123がカバー開口縁135を通じてダストカバー部材130の筒内に挿入されるとき、被係合突部134の当接部134がブラケット122のテーパー部122dに係合(当接)する。ダストカバー部材130の被係合突部134は、当接部134aにおいてブラケット122のテーパー部122dに係合した後、このテーパー部122dの傾斜に沿ってブラケット122の拡径部である第2筒部122cへとガイドされる。
本実施の形態では、特に第1の軸方向距離M3が第2の軸方向距離L3を下回る構成であるため、被係合突部134の当接部134aをブラケット122のテーパー部122dに確実に係合させることができる。これに対して、第1の軸方向距離M3が第2の軸方向距離L3を上回る構成を採用した場合には、被係合突部134の当接部134aをブラケット122のテーパー部122dに確実に係合させることができない。従って、ダストカバー部材130の筒内にシリンダ部材123を挿入する操作を行うのみで、ブラケット122のテーパー部122dと被係合突部134(当接部134a)との協働によって、シリンダ部材123に対するダストカバー部材130の径方向の位置決めを容易に行うことができる。その結果、ダストカバー本体部131の蛇腹構造が原因でダストカバー部材130が組付け前に胴曲がりしている場合であっても、ダストカバー部材130のカバー端部133をブラケット122に対して適正な位置に容易にセンタリングすることができる。
この位置決め機構においては、更に上記の外径d2、直径d3及び径方向距離d4をそれぞれ「a」、「b」及び「c」とした場合、(b−a)/2<cなる関係を満たすのが好ましい。この関係を満たす場合、ダストカバー部材130のカバー端部133がブラケット122の外周面を覆うように配置されたときに、ダストカバー部材130のカバー開口縁135が常にブラケット122の係合突部122eの外周端122fよりも径方向外側に位置することとなる。従って、ダストカバー部材130の組付け前の胴曲がり量にかかわらず、ダストカバー部材130のカバー開口縁135がブラケット122の係合突部122eに乗り上げる現象を阻止することができる。その結果、ダストカバー部材130のカバー端部133をブラケット122に組付ける作業がこの現象によって阻害されることがない。
図6に示すように、ダストカバー部材130のうち隣接する2つの被係合突部134,134の間に形成される空間は、ブラケット122の係合突部122eを被係合突部134に係合させる前のステップとして被係合突部134よりも上方へ導入するための導入領域136としての機能を果たす。本実施の形態では、この導入領域136がカバー端部133の周方向に関し等間隔で4つ配置されている。ブラケット122の係合突部122eの周方向長さ(図5中の周方向長さL1)は、ダストカバー部材130の隣接する2つの被係合突部134,134の周方向間隔M2を下回るように構成されている。また、各被係合突部134の周方向長さM1は、ブラケット122の隣接する2つの係合突部122e,122eの周方向間隔(図5中の周方向間隔L2)を下回るように構成されている。本構成によれば、ダストカバー部材130のカバー端部133がブラケット122の外周面を覆うように、ダストカバー部材130をショックアブソーバ120の軸方向に移動させた場合、ダストカバー部材130の被係合突部134は、隣接する2つの被係合突部134,134の間にあるときにこれら2つの被係合突部134,134の間を通過することができる。その結果、ブラケット122の係合突部122eを導入領域136を通じて被係合突部134よりも上方へ導入することができる。
一方で、本実施の形態では、4つの係合突部122eの外周端122fによって規定される外周円の直径d6が前記の内周円の直径d3を上回るように構成されている。本構成によれば、ブラケット122の係合突部122eが導入領域136を通じて被係合突部134よりも上方へ導入された後、シリンダ部材123に対するダストカバー部材130の周方向の相対回転によって、対応する係合突部122e及び被係合突部134が係合する係合状態が形成される。この係合状態では、係合突部122eの下面と被係合突部134の上面(後述の上面134b)とが互いに当接することによって、ブラケット122の係合突部122eは対応する被係合突部134との間の軸方向移動が規制される。この場合、ブラケット122に対するダストカバー部材130の軸方向動作及び相対回転動作を利用して、係合突部122e及び被係合突部134を容易に係合させることができる。
図7に示すように、ダストカバー部材130のカバー端部133の内周面には、上面134b、規制面134c及びガイド面134dが設けられている。上面134bは、各被係合突部134の上部において水平方向に延在する延在面である。規制面134cは、各被係合突部134の上面134bから上方へと垂直方向に延在する延在面である。この場合、4つの規制面134cによって規定される内周円の直径d7は、4つの係合突部122eの外周端122fによって規定される外周円の直径d6に概ね合致している。従って、上面134bよりも上方であって且つ規制面134cよりも内方の領域は、ブラケット122の係合突部122eを係合保持するための係合領域137としての機能を果たす。ガイド面134dは、ダストカバー部材130の周方向に関し上面134bの両側に設けられ、上面134bに対して傾斜しつつ上面134bと導入領域136との間に延在している。
本構成によれば、前述のようにブラケット122の係合突部122eは、隣接する2つの被係合突部134,134の間を通過することによって導入領域136を通じて被係合突部134よりも上方へ導入される(図7参照)。導入領域136に導入されたブラケット122の係合突部122eは、ダストカバー部材130がショックアブソーバ120に対して矢印Y1又はY2の方向に相対回転(本実施の形態では、90°以上の相対回転)した場合に、4つの係合領域137のうちのいずれか1つの領域へとガイドされる。具体的には、ブラケット122の係合突部122eは、その下面が対応する被係合突部134の上面134bに当接した状態で、その外周端122fが対応する被係合突部134のガイド面134d上を摺動する。この係合突部122eは、引き続いて対応する被係合突部134の規制面134c上を摺動することによって、導入領域136から係合領域137へとガイドされる(図8参照)。
この場合、被係合突部134の規制面134c及びガイド面134dは、前述の「位置決め機構」とは別の形態の」位置決め機構を構成する。この位置決め機構は、シリンダ部材123及びダストカバー部材130の相対回転時の位置決めを可能とするものである。この位置決め機構によれば、4つの規制面134cによる内周円の直径d7を、4つの係合突部122eによる外周円の直径d6に概ね合致させることによって、互いに係合した係合突部122e及び被係合突部134の径方向の相対移動を規制することができる。この規制面134cが本発明の「規制面」に相当する。また、ガイド面134dによれば、隣接する2つの被係合突部134,134の間を通過した後の係合突部122eをシリンダ部材123に対するダストカバー部材130の周方向の相対回転によって当該係合突部122eの外周端122fが規制面134cに対向する位置まで円滑にガイドすることができる。このガイド面134dが本発明の「ガイド面」に相当する。その結果、シリンダ部材123に対するダストカバー部材130の相対回転を利用して、ダストカバー部材130のカバー端部133とシリンダ部材123との中心同士の適正な位置合わせ(センタリング)を行うことができる。
上記構成のサスペンション装置100を車体に組付ける場合、まずショックアブソーバ120の周囲にコイルスプリング110を配置する。その後、図9が参照されるように、コイルスプリング110を車両下方X2に向けて圧縮するように、コイルスプリング110の上端部111にコイルスプリング圧縮装置200を作用させる。これにより、コイルスプリング110の上端部111と下端部112との間の距離が縮まる。コイルスプリング圧縮装置200によってコイルスプリング110を所定量圧縮した状態で、ダストカバー部材130をシリンダ部材123のブラケット122に被せる第1ステップと、この第1ステップに引き続いてダストカバー部材130をブラケット122に対して位置決めする第2ステップを順次行う。第2ステップの終了後に、コイルスプリング圧縮装置200によるコイルスプリング110の圧縮を解除する。
第1ステップでは、ショックアブソーバ120とコイルスプリング110との間に、アッパインシュレータ140及びアッパサポート141と一体化されたダストカバー部材130をカバー端部133側から挿入する。この作業では、前述のようにブラケット122のテーパー部122d、及びダストカバー部材130の被係合突部134(当接部134a)の協働による位置決め作用によって、ダストカバー部材130のカバー端部133がブラケット122に対してセンタリングされる。
第2ステップでは、このダストカバー部材130をシリンダ部材123(ショックアブソーバ120)に対して図7中の矢印Y1又はY2の方向に90°以上相対回転させる。この相対回転時にピストンロッド124のロッド上端部124bをアッパサポート141の挿入孔143に挿入する。また、この相対回転時にブラケット122の係合突部122eが導入領域136に導入された状態が形成される。一方で、この状態ではブラケット122に対するダストカバー部材130のカバー端部133の周方向の相対回転が阻止されることがない。即ち、ダストカバー部材130はシリンダ部材123に対する相対回転が自在とされた「回転フリー構造」を有する。従って、ダストカバー部材130をショックアブソーバ120に対する最終的な組付け完了位置に設定するためには、ブラケット122に対してダストカバー部材130のカバー端部133が所定の相対回転位置に設定された状態、即ち、ダストカバー部材130内の係合領域137にブラケット122の係合突部122eが配置された係合状態(図8に示す係合状態)を形成させる必要がある。
そこで、この第2ステップでは図3が参照されるマーキング144を利用することができる。具体的には、シリンダ本体部121側のロアブッシュ125とマーキング144との相対位置関係が図3に示す状態にあるときに、ブラケット122の係合突部122eがダストカバー部材130内の係合領域137に位置するように、マーキング144の位置を予め設定しておく。これにより、作業者は、ロアブッシュ125の向きとマーキング144の位置を目視するのみによって、ブラケット122の係合突部122eとダストカバー部材130の被係合突部134との係合位置関係を目視することなく、係合突部122e及び被係合突部134を適正な係合位置に配置することができる(係合突部122eをダストカバー部材130の筒内の係合領域137することができる)。その結果、作業者はショックアブソーバ120におけるピストンロッド124の初期位相によらず、ダストカバー部材130をショックアブソーバ120の適正位置に容易に取り付けることが可能になる。この場合、コイルスプリング110の線間隙間から手を入れて、ダストカバー部材130のカバー端部133とブラケット122とを係合させるような作業は必要ないため、サスペンション装置100の組付け作業の作業効率を高めることが可能になる。
本発明は、上記の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
上記実施の形態のサスペンション装置100では、シリンダ本体部121にブラケット122が固定されたた構造のシリンダ部材123を採用したが、本発明ではこのシリンダ部材123に相当する部材については別の構造を採用することもできる。例えば、シリンダ本体部121自体がブラケット122に相当する構造を有する形状であってもよい。
上記実施の形態のサスペンション装置100では、位置決め機構の条件として(b−a)/2<cなる関係を設定する形態について記載したが、本発明はこの条件に限定されるものではなく、この条件に代えて或いは加えて、別の条件を設定することもできる。
上記実施の形態のサスペンション装置100では、位置決め機構の構成要素に被係合突部134の規制面134c及びガイド面134dを含む形態について記載したが、本発明の位置決め機構では、これらの規制面134c及びガイド面134dの双方、或いはガイド面134dの一方を省略することもできる。
上記実施の形態のサスペンション装置100では、アッパサポート141の上面に目視用のマーキング144を設ける場合について記載したが、本発明では必要に応じてこのマーキング144を省略することもできる。
上記実施の形態のサスペンション装置100では、シリンダ部材123側に等間隔で配置された4つの係合突部122eがそれぞれ、ダストカバー部材130側に等間隔で配置された4つの被係合突部134に係合する場合について記載したが、本発明では互いに係合する係合突部122e及び被係合突部134のそれぞれの数や配置については必要に応じて適宜に変更することもできる。