JP5955368B2 - 浸水防止堰 - Google Patents

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Description

本発明は浸水防止堰に関する。
豪雨、河川の氾濫、高潮、津波等で起こる洪水などによって生じた大量の水が流入することを防止する浸水防止堰を形成する従来工法としては、袋の中に土砂を詰めて土嚢を形成し、この土嚢を上下ならびに左右に多数積み重ねることが行われている。しかし、この方法では、袋の中に土砂を詰める作業や、多数の土嚢を積み上げる作業に極めて多くの手間や時間がかかるとともに、重労働を強いるという難点がある。
このように多くの手間や時間をかけたり、重労働を強いたりしなくても、浸水防止堰を形成可能な構造として、例えば、特許文献1等に比較的簡単な構造の流水止めフェンスが開示されている。
この流水止めフェンスは、図11、図12に示すように、底面部(底面膜)51aおよび斜辺部(堰膜)51bを有する防水シート51と、これらの防水シート51の片側の幅方向一定間隔毎に設けられて、防水シート51の底面部51aと斜辺部51bとをつなげる側面視略三角形状の隔壁部52と、防水シート51の斜辺部51bの先端に取り付けられた浮力材53と、防水シート51の底面部51aの先端部に取り付けられた重り54とで構成されている。なお、隔壁部52はその底辺の長さよりも高さが小さい略扁平な形状とされている。また、特許文献2にも同様な構造の浸水防止堰(FLOOD CONTOROL BARRIER)が開示されている。
前記流水止めフェンスを、浸水を防止したい領域に対して防水シート51の背面側が臨む姿勢で前記領域の周囲などに配設することで、防水シート51の開口部側から水が流入すると、水面の高さまで浮力材53が浮いて、防水シート51の斜辺部51bにより水が受けられ、防水シート51の背面側に臨む前記領域に浸水することを防止できる。この場合に、前記流水止めフェンスの設置作業は、単に、この流水止めフェンスを、浸水を防止したい領域の周囲などに配設するだけでよいため、設置作業を容易に、かつ、多くの手間や時間をかけることなく行うことができる。
特開2002−235311号公報 米国公開特許2004/0071510号公報
しかしながら、このように斜辺部51bの先端部に浮力材53を取り付けられた防水シート51を用いた流水止めフェンスでは、浮力材53が取り付けられている斜辺部51bの先端部の高さと、水面の高さとが同じになる構成であるため、突然高い波が押し寄せた場合などには、この波が防水シート51の斜辺部51bを乗り越えてしまい、浸水を防止したい領域内に浸水してしまうおそれがある。
また、複数の浮力材53の隙間では、常に防水シート51の斜辺部51bの先端において押し寄せる波の越流によって少量の浸水が起こり続け、このような越流が生じたとき、防水シート51上に載り上げた水の荷重によって、防水シート51の傾斜した斜辺部51bが押し下げられるために、特に高い波が押し寄せた場合には十分な効果を得ることができなかった。このような構造で越流を防止するためには、浮力材53の直径を極端に大きいものにして、斜辺部51bの先端が押し寄せた波よりも十分に高くなるようにしなければならなかった。
このような越流は、特許文献2に記載されているように、浮力材53を全体で1個の比較的大きいものとすることによって防ぐことができるものの、突然高い波が押し寄せた場合には、越流が生じて斜辺部51bに越流水が乗りあがってしまうと、その水の荷重によって浮力材53の浮力だけでは斜辺部51bを十分に持ち上げられなくなることがあり、浸水を防止したい領域内に浸水してしまうおそれがある。
また、このような構造で、十分に高い水(例えば、1mの高さ)でも浸水を防止できるようにするためには、防水シート51の斜辺部51bや底面部51aの奥行き方向の長さが極めて大きいものを作成しなければならず、流水止めフェンスとして大型化する短所もある。
本発明は上記課題を解決するもので、高い波が押し寄せた場合などでも、浸水を防止することができ、しかも、高い波に対して浸水を防止する場合でも大型化しなくても済ませることが可能な浸水防止堰を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するために本発明の浸水防止堰は、少しの水深で良好に起立して高い波等が押し寄せた場合でも浸水を防止することができるように、それぞれ可撓性を有する防水布からなる底面部と堰壁部とを備え、前記底面部の奥端部と前記堰壁部の下端部とが、前記堰壁部が倒伏姿勢から起立可能な状態で一体に形成され、前記堰壁部には、複数の芯材収納部が設けられて、堰壁部の下端部近傍箇所から上端部近傍箇所まで芯材が収納され、前記底面部の上面と堰壁部の前面側とをつなげて堰壁部の起立時の角度を規制する、可撓性を有する規制隔壁部が設けられ、前記芯材収納部が内面防水布と外面防水布からなる袋状とされ、前記芯材が、前記内面防水布と前記外面防水布の間隔を離間させ、剛性を有するスペーサーであることを特徴とする。ここで、可撓性とは、曲げ撓めることが可能な性質を意味し、起立とは、堰壁部が倒伏状態から起き上がって、堰壁部の上端部が水位より十分に高い位置となるように立ち上がることを意味する。堰壁部の上端部が水位より十分に高い位置となることによって高い波等が押し寄せた場合でも浸水を防止することができる。
また、本発明における芯材を挿入する挿入口が、前記外面防水布の下辺側に形成されていることを特徴とする。また、本発明は、芯材が、発泡樹脂板であることを特徴とする。
また、本発明の前記堰壁部は、複数の芯材収納部が幅方向に隣接し、芯材収納部間が可撓性を有する防水布からなる堰接続部を介し、一体に形成されていることを特徴とする。
また、本発明の前記規制隔壁部は、底面部の上面につなげられた辺と堰壁部の一側面につなげられた辺との交差する角度が、60度以上90度未満の状態となるようよう形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記底面部および前記堰壁部における幅方向の両端辺の少なくとも一方に、他の浸水防止堰を接続可能なファスナーが取り付けられていることを特徴とする。
本発明によれば、それぞれ可撓性を有する防水布からなる底面部と堰壁部とを備え、前記堰壁部に、芯材収納部を設けて、堰壁部の下端部近傍箇所から上端部近傍箇所まで芯材を収納したことにより、芯材が収納された堰壁部の全体が極めて軽くて全体的に浮力を有する構造とすることができるとともに芯材によりある程度の剛性を有する構造とすることができる。
したがって、堰壁部の下部などの堰壁部の一部まで水が溜まるだけで、堰壁部が水圧のみによって自動的に起立する構造とすることができる。これにより、堰壁部の下部まで水が溜まった状態で高い波が押し寄せた場合でも、起立した堰壁部により、堰壁部を越えて波などが浸水する越流を防止でき、浸水防止に対する信頼性を良好に維持することができる。また、堰壁部が起立する構造とすることで、従来のように斜辺部で浸水を防止するものと比較して、起立時に堰壁部の高さに対応する寸法を、斜辺部の場合の高さに対応する長さよりも小さくしながら、つまり、堰壁部を極めて大きくしなくても越流による浸水を確実に防止でき、これにより、堰壁部ひいては浸水防止堰として大型化しなくても済ますことが可能となる。
また、堰壁部の芯材収納部を袋状とすることで、簡単な構造でありながら芯材を確実に収納することができる。また、芯材を挿入する挿入口を、堰壁部の下辺側に形成することで、芯材収納部に水が溜まってしまうことを防止できて、信頼性をさらに向上することができる。
また、前記堰壁部において、前記複数の芯材収納部が幅方向に隣接し、芯材収納部間が可撓性を有する防水布からなる堰接続部を介し、一体に形成された構造としたことにより、浸水防止堰を使用しない時には、前記堰壁部に前記底面部を重ねるとともに、さらに、堰接続部に対応する箇所で折曲することで、浸水防止堰全体を良好に折り畳むことができ、コンパクトに折り畳んだ状態で小さな空間に収納することが可能となる。
また、前記規制隔壁部の前記底面部の上面につなげられた辺と前記堰壁部の一側面につなげられた辺との交差する角度が、60度以上90度未満の状態となるよう形成することにより、比較的短い長さ(起立高さ)の堰壁部で浸水を良好に防止でき、堰壁部、ひいては、浸水防止堰として大型化しなくても済ますことが可能となる。
また、前記底面部および前記堰壁部における幅方向の両端辺の少なくとも一方に、他の浸水防止堰を接続可能なファスナーを取り付けることにより、他の浸水防止堰を容易に接続することができて、浸水を防止する箇所の長さ(領域の大きさ)に良好かつ簡単に対応して浸水を防止できる。
本発明の実施の形態に係る浸水防止堰(起立状態)を斜め前方から見た斜視図である。 本発明の実施の形態に係る浸水防止堰(起立状態)を斜め後方から見た斜視図である。 同浸水防止堰の平面図である。 同浸水防止堰の背面図である。 同浸水防止堰の側面図である。 同浸水防止堰の要部拡大側面図である。 同浸水防止堰の規制隔壁部の布目を示す側面図である。 同浸水防止堰の規制隔壁部の斜視図である。 (a)〜(c)はそれぞれ同浸水防止堰の側面図で、(a)は水が無い状態、(b)は水が少し(約10cm)溜まった状態、(c)は水がある程度(約30cm)溜まった堰壁部が起立した状態を示す。 (a)〜(d)はそれぞれ同浸水防止堰を折り畳む際の手順を示す図である。 従来の浸水防止堰の側面図である。 同従来の浸水防止堰の斜視図である。
以下、本発明の実施の形態に係る浸水防止堰を図面に基づき説明する。
[浸水防止堰の全体構成]
図1〜図5などにおける1は、本発明の実施の形態に係る浸水防止堰である。図1〜図5などに示すように、浸水防止堰1は、それぞれ可撓性を有する防水布からなる底面部2と堰壁部4とを備えている。底面部2の奥端部(奥端辺)と堰壁部4の下端部(下端辺)とを防水布の可撓性により、堰壁部4が倒伏姿勢から起立可能な状態で一体に形成されており、この一体に形成された部分が防水布の可撓性によってヒンジとして機能する。堰壁部4には、複数の芯材収納部5が設けられて、堰壁部4の下端部(下端辺)近傍箇所から上端部(上端辺)近傍箇所まで芯材6が収納されている。浸水防止堰1には、底面部2の上面と堰壁部4の前面側とをつなげて、堰壁部4の起立時の角度を規制する規制隔壁部7が設けられ、底面部2には重り8が配設されている。
堰壁部4には、防水布からなる複数の芯材収納部5が幅方向に隣接し、芯材収納部5同士が、可撓性を有する防水布からなる堰接続部10を介して横方向に延びる帯状に形成されている。そして、堰壁部4の下端部から底面部2が前方に延びるように配設されており、また、各堰接続部10の前面からその上辺部が斜め下方にのびるように規制隔壁部7が接続されて底面部2に繋げられている。
底面部2および堰壁部4における幅方向の両端辺の少なくとも一方(この実施の形態では両端辺)に、浸水防止堰1同士を横方向につなげることが可能な面ファスナー(ファスナーの一例)11が取り付けられている。
また、図1(仮想線)や図9(c)(実線)に示すように、堰壁部4は、堰壁部4の下部(この実施の形態では約30cmの深さ)まで水Wが溜まると、起立姿勢となるよう構成されており、この起立姿勢では、堰壁部4が水面の高さを越える高さまで起立する。
[堰壁部]
堰壁部4は、可撓性を有する防水布により形成されている。図4や図6などに示すように(なお、図6においては理解し易いすいように、芯材6の厚みや芯材収納部5の厚みなどを厚めに図示している)、堰壁部4は、その断面構造が、芯材6を収納可能な袋(封筒)型の芯材収納部5を有する二重の防水布を溶着して水密状態に形成された構造である。また、堰壁部4は、芯材収納部5に芯材6を収納することで堰壁として必要な平面性と剛性、並びに水よりも十分小さい密度を備えることができる。堰壁部4は底面部2に対して起立可能な状態で、堰接続部10を介して、幅方向に複数の芯材収納部5が隣接して配置されることにより形成されている。さらに、堰壁部4の芯材収納部5および堰接続部10は、その折り畳み単位の数、すなわち、芯材6の数が複数個(この実施の形態では8個)で構成されているが、7個以下または9個以上を横並びに隣接させてもよい。
堰壁部4を形成する防水布は、例えば、ポリエステル糸からなる織編物の表面に、塩化ビニル樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体等からなる合成樹脂を被覆してなる防水布で構成するとよい。ここで、防水布とは、織物、編物、不織布、又はネットなどの布帛に合成樹脂を被覆または含浸させたものであり、好ましくは、織物に合成樹脂フィルムを貼り合わせしたターポリンである。なお、防水布は、ナイロン糸、オレフィン糸等からなる織編物の表面に、ウレタン、ポリエステル系エラストマー等からなる合成樹脂フィルムを被覆してなるターポリンでも構わない。
[底面部]
底面部2は、堰壁部4と一体に成形して、堰壁部4の下から浸水することを防止するように敷設する防水布である。底面部2は堰壁部4と同一素材の防水布で形成されることが好ましい。底面部2は堰壁部4へと延長する1枚の防水布により形成されてよい。図3などに示すように、底面部2は、堰壁部4の幅方向の長さに合わせて、長方形状に形成され、芯材収納部5の下面防水布20と接合することができ、堰壁部4の内面防水布17、上面防水布19、外面防水布18と一体に設けられていてもよい。
堰壁部4の高さHと底面部2の前面方向への長さLの比(H:L)は、2:1から1:3が好ましい。長さの比が2:1よりも小さいと底面部2の防水布上に溜まった水の重量が少なくなるため、満水時に堰壁部4が後方(背面)側に転倒することがある。また1:3よりも大きいと不要に底面部2の面積が大きくなって、折り畳んで収納するときの体積や重量がかさむため好ましくない。実施例のように長さの比を約2:5とするのがより好ましい。但し、堰の設置場所に段差や起伏があるときには、底面部2の前面方向への長さを適宜の寸法に延ばしてよい。
底面部2を形成する防水布は、上述のとおり、堰壁部4を形成する防水布と同様のものが使用できる。
[芯材収納部]
芯材収納部5は、堰壁部4を形成する防水布によって包囲された芯材6を収納する空間であり、袋状の一端に開口部を備え、芯材を挿入して収納することができる。
図6に示すように、芯材収納部5は、堰壁部4の内面を形成する内面防水布17と、外面を形成する外面防水布18と、上面を形成する上面防水布19とから形成される。なお、芯材収納部5は、内面防水布17の上部(または下部)と、外面防水布18の上部(または下部)とを直接溶着することにより形成しても構わない。また、芯材収納部5は、芯材6を出し入れ可能な挿入口(開口部)21を備えることが好ましい。芯材収納部5に挿入口21を備えることで、芯材6が損傷又は変形した場合に、挿入口21から芯材6を交換することができる。更に、堰壁部4の下面を形成する下面防水布20を備えることが好ましい。下面防水布20があると芯材6が抜け出ることを防止することができる。下面防水布20を備えなくても、紐やボタン、スライドファスナーなどで開口を閉塞させることができる。
挿入口21は、必要に応じて、芯材収納部5の少なくとも一か所に設けられる開口部分であり、その開口部分に面ファスナー22、23を設けることで挿入口21を開閉自在にし、芯材6の出し入れを可能としている。具体的には、雄面ファスナーと雌面ファスナーのうちの一方の面ファスナー22を下面防水布20の下端(下辺部)に設け、他方の面ファスナー23を外面防水布18の下端(下辺部)に設けることができる。そして、挿入口21から芯材収納部5に芯材6を収納したうえで、面ファスナー22、23によって挿入口21を閉じることで、芯材6を芯材収納部5に収納する。なお、挿入口21は、内面防水布17、外面防水布18、上面防水布19、又は下面防水布20のうちいずれに設けても構わないが、挿入口21は、浸水防止堰1の使用時に意図せず開放することがないよう下面防水布20に設けることが好ましく、これにより、堰壁部4(芯材収納部5)の挿入口21から芯材6が抜け出ることを防止できるとともに、仮に芯材収納部5へ水がはいっても水が溜まることを防止できるため、後述する堰壁部全体の密度を一定に保つことができて、浸水防止堰1としての信頼性をさらに向上させることができる。
芯材収納部5を形成する防水布は、上述のとおり、堰壁部4を形成する防水布と同様のものが使用できる。
芯材収納部5を袋状(封筒状)のシートとして芯材6を内部に収容することで柔軟な防水布に堰壁としての剛性が付与され、堰壁の密度を水の密度よりも小さくすることができる。また、内部に芯材を収納することで芯材が外部から衝撃を受けた場合に、芯材6を保護して傷付き難くし、又は破損し難くする作用効果も有する。例えば、前記芯材6を収納する芯材収納部5としては、高さが約100cm、幅が約50cm、厚みが約5cmのものを用いるとよいが、これに限るものではない。また、防水性や耐水性の乏しい芯材6を用いた場合でも、芯材収納部5により防水性を得ることができる。また、芯材収納部5をターポリンで形成することにより、屋外で長時間利用しても、芯材が劣化しにくく、キズ付きにくいため、良好な信頼性を維持できる。
[堰接続部]
図1〜図4、図8などに示すように、堰接続部10は、芯材6を収納する芯材収納部5の間を分断する部分であり、芯材収納部5の連結ヒンジとしても機能する。堰接続部10は、芯材収納部5同士が隣接する部分において、内面防水布17と外面防水布18とが厚み方向に高周波溶着、超音波溶着、熱風溶着、熱コテ溶着、熱板溶着等により溶着されて形成されている。また、堰接続部10は、堰壁部4の幅方向における堰接続部10の幅が、後述する規制隔壁部7の一端部(短辺32、第1舌片36)を取り付け可能であり、且つ堰壁部4を折り畳むことが可能な程度の幅で形成される。具体的には、堰接続部10の幅は、40mm〜400mmであることが好ましく、80mm〜240mmであることがより好ましく、120mm〜200mmであることが特に好ましい。
このように堰接続部10を形成することで、芯材6が堰壁部4の幅方向へ移動することを防止する。また、堰壁部4の前側(内側)へ水が大量に溜まった際に、芯材収納部5が撓んで変形しようとする応力を軽減し、芯材6が堰壁部4の幅方向に曲がり過ぎて破損することを防止する。加えて、芯材6を収容したまま堰接続部10の位置で折り畳み可能である。さらに、規制隔壁部7により堰接続部10を前側(内側)へ引っ張る際に、堰接続部10における内面防水布17を支持する(引っ張る)だけでなく、外面防水布18も同時に支持する(引っ張る)ことができるため、内面防水布17のみを引っ張る構造とする場合よりも、破断強度を向上させることができる。
堰接続部10を形成する防水布は、上述のとおり、堰壁部4を形成する防水布と同様のものが使用できる。
[芯材]
芯材6は、堰壁部4に剛性と平面性を与え、内面防水布17と外面防水布18の間隔を一定以上に離間させる板状のスペーサーとして機能する。ここでスペーサーとは、物と物の間に挟むか固定して使用し、空間を確保するための器具のことをいう。芯材6は堰壁部4の形状を維持するための補強部材でもある。また芯材6は耐水性を有し、水に濡れても変質し難いものが好ましく、更に吸水性の無いものがより好ましい。芯材6は軽量性の観点から発泡樹脂板(例えば、独立気泡の発泡ポリエチレン板)により形成されていることが好ましい。例えば、高さが約95cm、幅が約45cm、厚みが約4cmの発泡樹脂板を用いることができるが、これに限るものではない。なお、芯材6は、堰壁部4の形状を維持し、堰壁部4が起立する過程で芯材が座屈して堰壁部4が折れ曲がらない程度の剛性を有するものであれば、弾性変形可能な板状の部材であってもよく、例えば、木製の板や箱体、樹脂または金属製、プラスチック製、紙製のハニカム構造体、針金による金網状の構造体、樹脂板、合成樹脂性網状体マット、ニードルパンチ不織布、スポンジ、エアマット等、またはこれらを組み合わせた構造体を用いることもできる。芯材6の見かけ密度は0.001〜0.8g/cmが好ましい。より好ましくは0.01〜0.6g/cmである。また、芯材6の剛性は、堰壁部4の高さおよび厚み、ならびに堰壁部4を形成する防水布の質量を考慮して適宜に採用してよい。例えば、コンクリートパネル(耐水ラワンベニヤ)などを芯とし、その上端部に発泡ポリエチレン板を貼り合わせて積層したような複合構造の芯材でも使用できる。このような複合構造の芯材であれば、芯材として適当な剛性を与える機能と、内面防水布17と外面防水布18との間隔を確保するスペーサーの機能とをより自由に設計することができる。
芯材6は、見かけ密度が小さいと芯材6を収納した堰壁部4の密度が水の密度、即ち1g/cm未満となり、少しの水深(この実施の形態では約30cm)で良好に起立する構造体が用いられる。
芯材を含む堰壁全体の密度が水の密度より低い密度となるようにすることが好ましく、芯材を含む堰壁全体の密度は0.01〜0.8g/cmであることがより好ましい。さらに好ましくは0.02〜0.5g/cmである。密度が0.8g/cmより大きいと、堰壁部4が倒伏状態のときに越流が生じやすく、堰壁部4の背面、即ち外面防水布の上に越流水が乗ることで堰壁部4が起立し難くなる。密度が0.01g/cmより小さいと堰壁部4の厚みが厚くなりすぎて、コンパクトに折り畳むことができない。
[規制隔壁部]
次に、規制隔壁部7について説明する。規制隔壁部7は、堰壁部4と底面部2とに接続する部材であり、その一端部が堰接続部10に取り付けられ、その他端部が底面部2に取り付けられている。この実施の形態では、図7に示すように、規制隔壁部7は、長辺31および短辺32の二つの斜辺と、その一端部で長辺31と接する底辺33と、短辺32と底辺33との間に形成される切欠き部38と、からなる略三角形状に形成されるシート片である。
規制隔壁部7は、繊維構造物を用いることができる。繊維構造物は、特に限定されないが、糸、ロープ、織物、編物、不織布、又はネット、あるいは、これらを用いた防水布などであってよい。上述したように、防水布とは、織物、編物、不織布、又はネット状の布帛に合成樹脂を被覆、又は含浸させたものであり、好ましくは、合成樹脂フィルムを貼り合わせしたターポリンである。この実施の形態では、規制隔壁部7は、芯材収納部5および底面部2と同様に、ポリエステル糸からなる織物の両面に、塩化ビニル樹脂またはエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる合成樹脂フィルムを貼り合わされてなるターポリンで形成されている。規制隔壁部7に用いる防水布は底面部2及び堰接続部10と同一組成のものを用いると接合することが容易になる。
規制隔壁部7は、複数本の糸状物が少なくとも1方向に配列された繊維構造物であり、かつ繊維構造物は、糸状物の配列方向を規制隔壁部7に作用する張力の方向に対応させて形成することが好ましい。糸状物の配列方向を規制隔壁部7に作用する張力の方向に配置すると、規制隔壁部7が緊張状態になった場合に、伸びが小さくなり、堰壁部4の背面側への傾倒を抑制することができる。具体的には、糸状物の配列方向を、底面部2に対して30度〜60度となるように形成してよい。この場合、繊維構造物は、織物、ネット、又はターポリンを用いることがより好ましい。例えば、1方向に配列された糸状物や織物の両面を合成樹脂フィルムで貼り合せてなるターポリン、又は押出成型などで得られる成型ネットなどを用いることができる。この実施の形態では、図7に示すように、規制隔壁部7のターポリンに使用されるポリエステル糸の織編物は、ポリエステル糸からなる経糸34と緯糸35を交互に浮き沈みさせて織った平織りにより形成され、経糸34および緯糸35のうち一方の糸の長さ方向の向き(布目)を、規制隔壁部7に作用する張力の方向に対応させて形成されている。具体的には、経糸34および緯糸35のうち一方の糸が、規制隔壁部7の底辺33に対して概ねバイアス方向となるように形成されている。規制隔壁部7のターポリンに使用される織物の布目をバイアス方向に用いることにより、規制隔壁部7が、規制隔壁部7に作用する張力の方向(短辺32の方向、図7の右方向)に、伸縮変形し難い構造となる。
また、図1〜図4などに示すように、規制隔壁部7は、堰接続部10に配置される。規制隔壁部7は、全ての堰接続部10に1つ配置されることが好ましい。また、各堰接続部10の高さに規制隔壁部7の高さをほぼ合せて配置することにより、堰壁部4が高くなった場合でも、堰壁部4が背面側に傾倒することを防止することができる。例えば、発泡ポリエチレン板を芯材6とするとき、水平方向にかかる水圧によって芯材6が背面方向に撓もうとするが、規制隔壁部7の高さを堰接続部10の高さにほぼ合わせることによって、この撓みを抑制することが可能となる。水圧は水深に比例して堰壁部4に作用するので、水平方向にかかる水圧による撓みの少ない芯材6を用いるとき、規制隔壁部7の高さを堰接続部10の高さに合わせる必要がない場合もある。
そして、図8などに示すように、規制隔壁部7は、その短辺32が堰接続部10における内面防水布17(前面部分)に取り付けられ、その底辺33が底面部2の上面部分に取り付けられる。
規制隔壁部7を堰接続部10(内側部分)に取り付けることで、規制隔壁部7が堰接続部10を引っ張る際に、内面防水布17と外面防水布18とが、前側に向けて引っ張られる。そして、堰接続部10に隣接する(2か所の堰接続部10に挟まれる)芯材6の両端部も、堰接続部10とともに前側へ向けて引っ張られる。このため、押し寄せる水等による水平方向にかかる水圧を、芯材6全体で負担することができる。
なお、規制隔壁部7を、内面防水布17(内側部分)のみに取り付けると、芯材収納部5が袋状(封筒状)となっていることから、規制隔壁部7が堰壁部4を引っ張る際に、堰壁部4の内面防水布17のみを前側へ向けて引っ張ることとなり、好ましくない。
規制隔壁部7は、堰壁部4に水が溜まった状態において、緊張状態となるように、その長さや大きさが選択されて取り付けられている。例えば、規制隔壁部7は、その壁接続辺(短辺32)と底部接続辺(底辺33)とのなす角度を60度〜120度とすることができる。例えば、発泡ポリエチレン板を芯材6として使用し、底面部2に対して堰壁部4がほぼ垂直に起立した浸水防止堰1を得たい場合には、規制隔壁部7の壁接続辺(短辺32)と底部接続辺(底辺33)とのなす角度を60度以上90度未満とすることが好ましい。より好ましくは70度〜88度、さらに好ましくは75度〜85度である。規制隔壁部7の壁接続辺(短辺32)と底部接続辺(底辺33)とのなす角度を90度未満にすると、堰壁部4が予め前側へ傾倒した姿勢となり、水が溜まった状態での水圧で堰壁部4が背面側へ膨らむように湾曲して、見かけ上、堰壁部4が垂直に起立(直立)した状態となる。この実施の形態では、図7に示すように、規制隔壁部7は、その短辺32が、底辺33に対して8度(短辺32と底辺33とのなす角度が82度)で傾斜している。規制隔壁部7の短辺32が底辺33に対して所定の角度で傾斜していることで、規制隔壁部7を芯材収納部5の堰接続部10に取り付けた際に、堰接続部10が前側へ向けて引っ張られた状態となる。すなわち、浸水防止堰1の設置時には、堰壁部4の芯材6が、予め前側へ傾倒した状態となる。このため、洪水などにより多くの水が押し寄せた際に、堰壁部4の芯材6が、水圧によって、堰壁部4が後方(背面側)に傾倒することがない。また、前側へ傾倒した姿勢に規制することによって、排水後には自動的に元の倒伏状態に復帰することができる。
また、図8に示すように、必要に応じて、短辺32と底辺33との間には、切欠き部38が形成されていてよい。規制隔壁部7の取り付けられる芯材収納部5の堰接続部10の下部付近は、各防水布の溶着部が集中する部分であり、そのような部分へさらに規制隔壁部7を溶着すると、溶着が不充分となる場合がある。そこで、規制隔壁部7に切欠き部38を形成することで、溶着が集中する部分への規制隔壁部7の溶着を避け、溶着の信頼性を向上させる効果がある。また、堰接続部10の下部付近は、水等が溜まり易く、水ぬけの悪い部分である。そのため、規制隔壁部7に切欠き部38を形成することで、水ぬけ性を向上させることができる。
さらに、図8に示すように、規制隔壁部7は、その短辺32の端縁部近傍に、略L字状の第1舌片36が短辺32の端縁部に溶着される。そして、溶着した第1舌片36と短辺32の端縁部を180度開いて、芯材収納部5の堰接続部10に溶着して接合することにより、芯材収納部5の堰接続部10に接続される。これにより、規制隔壁部7は、短辺32において、芯材収納部5と一体に形成される。
また同様に、規制隔壁部7は、その底辺33の端縁部近傍に、略L字状の第2舌片37が底辺33の端縁部に溶着される。そして、溶着した第2舌片37と底辺33の端縁部を180度開いて、底面部2に溶着して接合することにより、底面部2に接続される。これにより、規制隔壁部7は、底辺33において、底面部2と一体に成形される。
このように、第1舌片36および第2舌片37をそれぞれ180度開いて、芯材収納部5の堰接続部10或いは底面部2に溶着することから、堰壁部4への水圧が、短辺32の端縁部および底辺33の端縁部の剥離力として働くことを抑制している。
規制隔壁部7にターポリンを用いないで、例えばネットなどを用いるときには、このようなターポリン製の2つの第1舌片36および2つの第2舌片37でネット製の規制隔壁部7を挟むようにそれぞれの箇所に縫製して、これらを堰接続部10および底面部2に溶着して接合することにより一体に成形してよい。
壁接続辺(短辺32)の長さHと底部接続辺(底辺33)の長さLの比(H:L)は、2:1から1:3が好ましい。長さの比が2:1よりも小さいと底部接続辺の接合部が破損することがある。また長さの比が1:3よりも大きいと不必要に規制隔壁部7が大きくなり、底面部2の前面側方向への長さが大きくなりすぎる。
[重り]
図5に簡略的に示すように、底面部2の先端部(前辺部)は、袋状に折り返され、この折り返し部分に重り8が適当間隔毎に収納されている。重り8としては、例えば、幅が約10cm、奥行が約5cm、厚みが約6mmの鉄の平板を用いるとよいが、これに限るものではない。この重り8を底面部2の先端部(前辺部)に入れ、必要に応じて、底面部2の先端部(前辺部)における折り返し部分の重り8の間の部分や、両端部を縫うなどして重り8が折り返した部分の内部で横方向に移動しないよう規制することが好ましいがこれに限るものではない。
[浸水防止堰接続用のファスナー]
図1〜図4に示すように、この実施の形態では、底面部2および堰壁部4における幅方向の両端辺に、浸水防止堰1同士を横方向につなげることが可能な面ファスナー11が取り付けられている。すなわち、当該浸水防止堰1の一方の両端辺の底面部2および堰壁部4には雄面ファスナーが取り付けられ、当該浸水防止堰1の他方の両端辺の底面部2および堰壁部4には雌面ファスナーが取り付けられる。これにより、浸水防止領域に対応する防水箇所の長さに対応する寸法となるように、前記面ファスナー11同士を係止させて複数の浸水防止堰1同士を接続(連結)する。なお、面ファスナーに代えて防水性を有する線ファスナーを用いてもよい。また、このような浸水防止堰を直線状につなぎ合わせるだけではなく、緩やかな曲線となるものと組み合わせたり、直角につなぎ合わせるためのコーナー用ユニットを介して接続させたりしてもよい。また、建築物や構築物へ直接係止させてもよい。
以下、本発明の一実施形態の浸水防止堰を実施例として、本発明を詳細に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ポリエステル織物(経、緯糸繊度1000デニール、経密度19本/インチ、緯密度20本/インチ、組織:平織)の両面に軟質塩化ニルフィルムを貼り合わせした、厚さ0.85mm、質量1000g/mのターポリンを用いて、長さ2.5m、幅5.1mの底面部2、および高さ1m、幅5.1mの堰壁部4を一体に形成した。
堰壁部4は、それぞれ前記ターポリンからなる内面防水布17、外面防水布18及び上面防水布19からなり、内面防水布17と外面防水布18との間に袋状の芯材収納部5を設け、芯材収納部間を60cmで隣接するように高周波ウエルダーで溶着させて7箇所の堰接続部10を形成した。
次いで、前記ターポリンからなる略三角形状に形成した規制隔壁部7に第1舌片36と第2舌片37とを設けて、これら180度に開いた舌片を介して堰壁部4の堰接続部10および堰壁部の両端部と、底面部2との上面との間を、合計36箇所にわたって高周波ウエルダーで溶着して、合計9ケ所の規制隔壁部7を接続した。
前記各規制隔壁部7は、短辺32と底辺33とのなす角度を80度とし、その角には約10cmの切り欠き部を設けた。また、前記略三角形の各規制隔壁部7に用いたターポリンの糸条の一方の方向を、規制隔壁部7の長辺31に合うように裁断して用いた。
芯材6として、高さ95cm、幅45cm、厚み4cmで、質量約500g、密度約0.029g/cm、圧縮弾性係数(JIS K6767 25%圧縮強度)0.048MPaの、独立気泡の発泡ポリエチレン板を芯材収納部5に収納した。
底面部の先端は折り返して縫製して奥行き6cmの袋状となし、これに長さ10cm、幅5cm、厚さ6mmの鉄製の平板を重りとして内包させ、20cmピッチで底面部の先端全幅にわたって配置することにより、本発明の浸水防止堰を得た。なお、芯材を含む堰壁の密度は、約0.10g/cmであった。
(実施例2)
芯材6を多層の片面段ボール紙を積層した積層段ボール板に置きかえる以外は実施例1と同様にして本発明の浸水防止堰を得た。
なお、積層ダンボール板は、表裏のライナー間にコルゲート加工をした中芯を中ライナーを介して5層積層した積層段ボール板を用い、高さ95cm、幅45cm、厚み4cmで、質量約770g、見かけ密度約0.045g/cmであった。なお、芯材を含む堰壁の密度は、約0.12g/cmであった。
実施例1、2の浸水防止堰について、両側と前面とを壁で囲んだ平地に、堰壁部4が底面部2の上に倒伏した状態で敷設し、その前面側から水を流し込む実験を行ったところ、この実施の形態では約1mの堰壁部4の高さに対して、水深約30cmという少しの水圧で自動的に起立し、起立時に芯材6が座屈して堰壁部4が折れ曲がることも無かった。
水位が80cmに達するまで継続して試験を行ったが、浸水が生じることや、堰壁部4が背面側に向けて転倒することがなく良好に作用した。また、排水に応じて約30cmの水深になるまで堰壁部4の起立状態が維持され、約30cmよりも水位が下がることで、堰壁部4は自動的に倒伏して行き、完全に排水した後は初期の堰壁部4が底面部2の上に倒伏した状態に復帰した。
芯材6として発泡ポリエチレン板の厚みを2cm、質量を約250gにし、他は実施例1と同様にして浸水防止堰を得(堰壁部全体の密度が約0.17g/cm)、上記と同様の水を流し込む実験を行ったところ、水深約30cmで堰壁部4の起立がはじまろうとしたが、発泡ポリエチレン板が座屈したため、手で折れ曲がった堰壁部4の先端を一度持ち上げることによって、堰壁部4は簡単に起立した。この場合も浸水防止の作用効果は問題なくあり、越流も生じなかった。また、排水に応じて約30cmの水位になるまで堰壁部4の起立状態が維持され、約30cmよりも水位が下がることで、堰壁部4は自動的に倒伏して行き、完全に排水した後は初期の堰壁部4が底面部2の上に倒伏した状態に復帰したことは実施例1、2と同様であった。
[浸水防止堰の設置方法]
浸水防止堰1を設置する場合には、豪雨、河川の氾濫、高潮、津波等で起こる洪水などの水が流入する方向に底面部2の先端(前辺部)や、規制隔壁部7が臨むように、すなわち、堰壁部4が起立した際に、堰壁部4の前面(図1に示されている面)側が臨み、堰壁部4の背面(図2に示されている面)側が浸水を防止する領域となるよう(例えば、浸水を防止するための建物などがある領域となるよう)に、浸水防止堰1を幅方向に広げた状態で設置する。なお、この際、水が無い状態では、図9(a)に示すように、堰壁部4は水Wによる浮力を発生していないため、堰壁部4は底面部2に上方から重なった状態(倒伏状態)である。
[水流入時などについて]
水Wが底面2上に流入し始めると、堰壁部4の芯材6による浮力が発生するが、水深が小さい状態(例えば約10cmほど)では、浮力が小さいため、図9(b)に示すように、堰壁部4の先端(最終的に上端となる部分)が水面に合わせて徐々に上昇し、堰壁部4が徐々に起き上がり始めて起立状態側に傾斜し始めて傾斜姿勢となる。このとき堰壁部4の先端は水面高さ(水位)とほぼ同じ高さにある。
続けて水Wが底面2上に流入して、水深が増加して例えば約30cmになり、溜まった水Wが堰壁部4の下部まで達すると、図1、図9(c)に示すように、堰壁部4に作用する水圧により、堰壁部4が起立姿勢まで起立し、水面の高さよりも、堰壁部4の先端(上端)が高い状態となる。
このように、堰壁部4の下部などの堰壁部4の一部まで水が溜まるだけで、堰壁部4が起立するため、このように堰壁部4の下部まで水が溜まった状態で高い波がさらに押し寄せた場合でも、起立した堰壁部4により、堰壁部4を越えて波などが浸水することを防止できる。この結果、浸水防止や越流防止に対する信頼性を極めて良好に維持することができる。
また、この際、規制隔壁部7により堰壁部4が背面側に傾倒しないように規制されているため、堰壁部4は、背面側に傾倒することなく、溜まった水を保持した状態で、浸水を良好に防止できる。また、規制隔壁部7を堰壁部4の堰接続部10に取り付けることで、堰接続部10の内面防水布17と外面防水布18とを、同時に前側へ向けて引っ張ることができるため、規制隔壁部7によって確実に堰壁部4の傾倒(変形)を防止することができ、信頼性が向上する。
なお、この後、流入した水が引いてゆき、水深が小さくなると、これに伴って、堰壁部4も倒伏姿勢側に徐々に傾斜し、水が殆どなくなった状態では、堰壁部4は底面部2に上方から重なった状態(倒伏状態)に戻ることとなる。
[浸水防止堰の折り畳み方法]
次に、浸水防止堰1の折り畳み方法について説明する。
図10(a)に示すように、浸水防止堰1はまず、底面部2と堰壁部4とを連結する接続連結ヒンジとして機能する底面部2の奥端を、底面部2の上面に重なるように前側に折り曲げる。なお、規制隔壁部7は、堰壁部4を底面部2に重なるように折り畳んだ際に、堰壁部4とともに内部に折り畳まれる。また、図10(b)に示すように、底面部2における堰壁部4と重なっていない部分を前後方向に対して折り畳んで、折り畳んだ底面部2と堰壁部4とを重ね合わせ、前後方向にコンパクトな状態とする。
図10(c)、図10(d)、に示すように、底面部2と堰壁部4とを重ねて折り畳んだものを、堰壁部4の堰接続部10が設けられている箇所で、幅方向に対しても、いわゆるアコーディオン式に順次折り曲げて折り畳む。これにより、図10(d)に示すように、浸水防止堰1を略立方体形状のコンパクトな状態に折り畳むことができる。
上記構造によれば、それぞれ可撓性を有する防水布からなる底面部2と堰壁部4とを備え、堰壁部4に、芯材収納部5を設けて、堰壁部4の下端部近傍箇所から上端部近傍箇所まで芯材6を収納したことにより、芯材6が収納された堰壁部4の全体が極めて軽くて全体的に浮力を有する構造とすることができるとともに、芯材6によりある程度の剛性を有する構造とすることができる。
したがって、上記のように、堰壁部4の下部などの堰壁部4の一部まで水が溜まるだけで、堰壁部4が水圧のみによって自動的に起立する構造とすることができ、これにより、堰壁部4の下部まで水が溜まった状態で高い波が押し寄せた場合でも、起立した堰壁部4により、堰壁部4を越えて波などが浸水することを防止でき、防水に対する信頼性を良好に維持することができる。
また、上記構造によれば、堰壁部4をほぼ直立する姿勢に起立させることができるので、起立時に堰壁部4の高さに対応する寸法を、従来のように斜辺部で浸水を防止する構造のものでは50cmの高さを形成するために1mの長さのものが必要であったが、本発明の実施の形態では、堰壁部4として、例えば、1mの堰壁部4で約1m高さの浸水を防止することができる。また、これに対応して、規制隔壁部7や底面部2の前後方向(奥行き方向)に対する長さも比較的小さいもので済ますことができ、堰壁部4、ひいては浸水防止堰1として大型化しなくても、十分に浸水を防止できるものを得ることができる。
また、堰壁部4の芯材収納部5を袋状とすることで、簡単な構造でありながら芯材6を確実に収納することができる。また、芯材6を挿入する挿入口21を、堰壁部4の下辺側に形成することで、水が溜まった場合でも芯材6が挿入口21とは反対側の堰壁部4の上辺部に作用するだけなので、堰壁部4の挿入口21から芯材6が抜け出ることを防止できて、信頼性をさらに向上することができる。
また、堰壁部4において、複数の芯材収納部5が隣接し、芯材収納部5間が可撓性を有する防水布からなる堰接続部10を介し、一体に形成される構造としたことにより、浸水防止堰1を使用しない時には、堰壁部4に底面部2を重ねるとともに、さらに、堰接続部10に対応する箇所で折曲することで、浸水防止堰1全体を良好に折り畳むことができ、極めてコンパクトに折り畳んだ状態で小さな空間に収納することが可能となる。
また、規制隔壁部7による、底面部2の上面につなげられた辺と堰壁部4の一側面(前面)につなげられた辺との交差する角度が、60度以上90度未満の状態となるようよう形成し、側面視略三角形状とすることにより、比較的短い長さ(起立高さ)の堰壁部4で浸水を良好に防止でき、堰壁部4、ひいては、浸水防止堰1として大型化しなくても済ますことが可能となる。
また、底面部2および堰壁部4における幅方向の両端辺に、他の浸水防止堰1を接続可能な面ファスナー11などのファスナーを取り付けることにより、他の浸水防止堰1を容易に接続することができて、浸水を防止する箇所の長さ(領域の大きさ)に良好かつ簡単に対応して浸水を防止できる。
上記構造によれば、堰接続部10を底面部2や堰壁部4と同じ防水布から形成したので、浸水防止堰1として極めて簡単な構造であり、かつ、持ち運びも容易であり取扱いやすい利点がある。つまり、例えば、底面部2と堰壁部4とを接合するヒンジとして、金属製のヒンジを用いたり、堰壁部同士を平板状の金属板で連結する構成としたりすると、浸水防止堰を折り畳んで収納することができない。また、底面部2を用いずに、堰壁部4を接合するヒンジを設置面に直接固定するよう構成した場合には、浸水防止堰を持ち運び可能な可搬式とできなくなる。これに対して、本発明の構成によれば、コンパクトに収納できるとともに、必要な場合だけ、持ち運んで容易に設置できる利点がある。
また、上記実施の形態では、規制隔壁部7が、経糸34及び緯糸35からなる平織りのシートで形成されている場合を述べたが、上述のとおり、これに限定されるものではなく、横方向の水の通りを良くするために、規制隔壁部7を、経糸34及び緯糸35からなるメッシュ状のシートで形成しても構わない。また、上記実施の形態では、規制隔壁部7をシート状の部材で形成している場合を述べたが、上述のとおり、これに限定されるものでなく、堰壁部4を支持可能な構造であればよく、例えば、ロープ等で位置を規制する(支持する)構造としても構わない。
1 浸水防止堰
2 底面部
4 堰壁部
5 芯材収納部
6 芯材
7 規制隔壁部
8 重り
10 堰接続部
11 面ファスナー(ファスナー)
17 内面防水布
18 外面防水布
19 上面防水布
20 下面防水布
W 水

Claims (6)

  1. それぞれ可撓性を有する防水布からなる底面部と堰壁部とを備え、
    前記底面部の奥端部と前記堰壁部の下端部とが、前記堰壁部が倒伏姿勢から起立可能な状態で一体に形成され、
    前記堰壁部には、複数の芯材収納部が設けられて、堰壁部の下端部近傍箇所から上端部近傍箇所まで芯材が収納され、
    前記底面部の上面と堰壁部の前面側とをつなげて堰壁部の起立時の角度を規制する、可撓性を有する規制隔壁部が設けられ、
    前記芯材収納部が内面防水布と外面防水布からなる袋状とされ、
    前記芯材が、前記内面防水布と前記外面防水布の間隔を離間させ、剛性を有するスペーサーである
    ことを特徴とする浸水防止堰。
  2. 記芯材を挿入する挿入口が、前記外面防水布の下辺側に形成されていることを特徴とする、請求項1記載の浸水防止堰。
  3. 前記芯材が、発泡樹脂板であることを特徴とする、請求項1または2に記載の浸水防止堰。
  4. 前記堰壁部は、前記複数の芯材収納部が幅方向に隣接し、
    芯材収納部間が可撓性を有する防水布からなる堰接続部を介し、一体に形成されていることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の浸水防止堰。
  5. 前記規制隔壁部は、底面部の上面につなげられた辺と堰壁部の一側面につなげられた辺との交差する角度が、60度以上90度未満の状態となるよう形成されていることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の浸水防止堰。
  6. 前記底面部および前記堰壁部における幅方向の両端辺の少なくとも一方に、他の浸水防止堰を接続可能なファスナーが取り付けられていることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の浸水防止堰。
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