以下に、本発明に係る制御装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
本発明の実施の形態1〜5では、一例として、2つのモータ201,202を用いてウェブ301(紙やフィルムなどのシート状の材料)に張力をかけながら搬送を行うウェブ搬送装置を制御対象1002とし、このウェブ搬送装置の張力制御に本発明の実施の形態1〜5に係る制御装置(10,20,30,40,50)を適用した場合の例を説明する。ウェブ搬送装置の張力制御においては、張力制御部(501,511)の制御パラメータが不適切な値であるとウェブ301の張力が乱れ、ウェブ301の破断や変形、弛みを生じる可能性があるため、高精度な制御パラメータの調整を必要とする。本発明の実施の形態1〜5に係る制御装置によれば、張力制御部(501,511)の制御パラメータを高精度に調整することができるため、ウェブの破断や変形、弛みを防止することができる。以下、構成例を具体的に説明する。
図1−1は、本発明の実施の形態1に係る制御装置10のブロック図であり、図1−2は、本発明の実施の形態1に係る制御装置10の制御対象1002のブロック図であり、図1−3は、本発明の実施の形態1に係る制御装置10の制御部1001のブロック図である。
図1−1に示すように制御装置10は、自動調整部1000、制御部1001、および加算器51を備える。
図1−2に示すように制御対象1002は、モータ201、モータ202、エンコーダ211、エンコーダ212、カップリング221、カップリング222、駆動ローラ231、駆動ローラ232、速度制御部241、速度制御部242、ウェブ301、張力センサ302、加算器52、減算器61、および減算器62を備える。
モータ201は速度制御部241から供給される電流によって駆動され、モータ202は速度制御部242から供給される電流によって駆動される。エンコーダ211はモータ201の速度を検出しモータ速度検出値271として出力する。エンコーダ212はモータ202の速度を検出しモータ速度検出値272として出力する。カップリング221はモータ201の回転軸と駆動ローラ231とを接続し、カップリング222はモータ202の回転軸と駆動ローラ232とを接続している。
加算器52は、速度増分値111と基準速度指令値との和である速度指令値261を出力する。減算器61は速度指令値261とモータ速度検出値271との偏差を計算し、減算器62は速度指令値262とモータ速度検出値272との偏差を計算する。速度制御部241は減算器61で計算された偏差を入力とし、速度指令値261を追従するような電流を出力する。速度制御部242は減算器62で計算された偏差を入力とし、速度指令値262を追従するような電流を出力する。
駆動ローラ231はモータ201よりトルクが伝達することで回転し、駆動ローラ232はモータ202よりトルクが伝達することで回転する。ウェブ301は駆動ローラ231,232により搬送され、駆動ローラ231と駆動ローラ232に速度差をつけることで、ウェブ301が引っ張られて張力を発生する。ウェブ301に発生する張力は駆動ローラ231,232間で一定である。張力センサ302はウェブ301に発生する張力を検出し、張力検出値112(制御量)を出力する。
制御対象1002は外部より基準速度指令値を受け付けており、基準速度指令値がモータ202の速度指令値262となる。また、モータ201については、制御対象1002に入力された速度増分値111を、基準速度指令値に印加したものが速度指令値261である。
制御対象1002は、モータ201に対する速度増分値111を入力とし、かつ、張力検出値112を出力とする1入力1出力システムである。そして、制御対象1002では、モータ201に対する速度増分値111を入力とし、かつ、張力検出値112を出力とする伝達関数を、制御対象1002の動特性を示す伝達関数とする。
図1−3に示すように、制御部1001は、張力制御部501および減算器63を備える。減算器63は制御部1001の外部より入力される張力指令値と張力検出値112の偏差を計算する。
張力制御部501は、減算器63で計算される偏差を入力とし、操作量として中間速度増分値110を出力する。ここでは中間速度増分値110は、張力検出値112が張力指令値を追従するための、モータ201の速度の増分値である。張力制御部501は、例えばPID制御器や、位相進み・遅れ補償器であり、その張力制御部501の伝達関数を決定するパラメータを制御パラメータと呼ぶこととする。
張力制御部501は、制御パラメータ信号105を受け付けており、制御パラメータは制御パラメータ信号105により変更することが可能である。
加算器51は、中間速度増分値110と励起信号101の和である、速度増分値111を出力する。
図1−1に示すように自動調整部1000は、励起信号発生部1、フィルタ決定部2、フィルタ適用部3、制御対象演算部4、制御パラメータ演算部5、および終了判定部6を備える。
励起信号発生部1は、外部より入力される自動調整開始指令と、終了判定部6からの判定信号106と、制御対象1002からの張力検出値112とを入力とし、自動調整開始指令と判定信号106と張力検出値112とに基づいて励起信号101の出力のタイミングを決定し、励起信号101を出力する。励起信号101は、複数の周波数成分を含んだ信号であり、例えばステップ信号やインパルス信号のようなものでもよい。
フィルタ決定部2は、張力検出値112を入力として、張力検出値112の時間応答に基づいて、同定用フィルタの周波数特性を決定し、同定用フィルタの周波数特性を決めるパラメータを、フィルタパラメータ信号107として出力する。例えば、同定用フィルタはローパスフィルタである。
フィルタ適用部3は、励起信号101と張力検出値112を入力とし、励起信号101と張力検出値112に同定用フィルタを適用し、同定用入力信号102と同定用出力信号103を計算し、同定用入力信号102と同定用出力信号103を出力する。フィルタ適用部3は、フィルタパラメータ信号107を受け付けており、フィルタパラメータ信号107に基づいて、同定用フィルタの周波数特性を変更することができる。また、フィルタ適用部3は、励起信号101と張力検出値112とを時間同期して所定のサンプリング周期hごとに記録することができる。
制御対象演算部4は、同定用入力信号102と同定用出力信号103を入力として、同定用入力信号102と同定用出力信号103に基づいて制御対象1002の伝達関数を計算し、制御対象1002の伝達関数を決めるパラメータを、制御対象パラメータ信号104として出力する。
制御パラメータ演算部5は、制御対象パラメータ信号104を入力として、制御対象パラメータ信号104に基づいて、張力制御部501の制御パラメータを計算し、この制御パラメータを制御パラメータ信号105として出力する。
終了判定部6は、制御パラメータ信号105を入力として、制御パラメータ信号105に基づいて自動調整の操作の再開または終了の判定を行い、再開または終了の判定信号を、判定信号106として出力する。
図2は、本発明の実施の形態1に係る制御装置10による制御パラメータの自動調整方法を説明するフローチャートである。
まず、初期設定を行う(ステップST1)。初期設定とは、自動調整を開始する前に必要となる設定のことである。自動調整を開始する前に必要となる設定項目は、張力制御部501の制御パラメータの初期値と、励起信号発生部1より出力される励起信号101の種類と大きさと、自動調整の終了判定用の閾値αsetと、である。このときの制御パラメータの初期値は、ウェブ301の張力を安定化することができるように調整されているものとするが、その応答性は低くてもかまわない。以下では、張力制御部501はPID制御を行うものとする。張力制御部501のPID制御器の比例ゲインの初期値、積分ゲインの初期値、微分ゲインの初期値をそれぞれ、cp(0),ci(0),cd(0)とすると、cp(0),ci(0),cd(0)が制御パラメータであり、初期の設定項目はcp(0),ci(0),cd(0)である。
以下では、励起信号101をステップ信号とし、その大きさは初期設定においてユーザが決定しておくものとする。また、速度制御部241,242は既に調整されており、モータ201,202の速度は速度指令値261,262を十分に追従できるものとする。
制御部1001には張力指令値が入力され、制御対象1002には基準速度指令値が入力され、張力指令値および基準速度指令値に基づいてモータ201,202が駆動されることによりウェブ301の搬送が開始される(ステップST2)。張力指令値と基準速度指令値は、制御装置10のオペレータにより、または上位のコントローラにより、制御装置10の外部から与えられるものとする。
自動調整部1000には自動調整開始指令が与えられる(ステップST3)。自動調整開始指令は、制御装置10のオペレータにより、または上位のコントローラにより、制御装置10の外部から与えられるものとする。
以降のステップST4からステップST15までの操作は、複数回繰り返されることを前提とする。ステップST4からステップST15までの操作を1回の自動調整操作と定め、以下ではi回目(i≧1)の自動調整操作について説明を行う。自動調整開始指令が入力された場合に、i=1とする。
励起信号発生部1は、自動調整開始指令が入力されるか、または自動調整操作の再開を指示する内容の判定信号106を受け付けると、張力検出値112が整定した状態であることの確認を行う(ステップST4)。ここで、張力検出値112が整定した状態とは、張力検出値112が定常的に一定値である状態とする。
張力検出値112が整定した状態であることの確認方法は、例えば、張力検出値112の時間応答を記録し、十分に長い時定数を持つローパスフィルタを用いて張力検出値112の時間応答を平均化し、平均化された値が一定時間内に一定振幅以内であることを、整定した状態の判定条件とする。
励起信号発生部1では張力検出値112が整定するまでステップST4の処理が繰り返され(ステップST4,No)、張力検出値112が整定した状態であることを確認した後に(ステップST4,Yes)、励起信号101としてステップ信号が出力され、中間速度増分値110に対してこの励起信号101が印加される(ステップST5)。励起信号101を中間速度増分値110に対して印加することで、整定していた張力検出値112を励振させる試験を励起試験と呼ぶこととする。
フィルタ適用部3は、励起信号発生部1からの励起信号101が中間速度増分値110に印加された時点から、励起信号101と張力検出値112とを時間同期しながら記録する(ステップST6)。
ここで、励起信号101が印加されてからq番目に記録された励起信号101をU(i)(q)、励起信号101が印加されてからq番目に記録された張力検出値112をT(i)(q)、とする。励起信号101を印加した時点でq=1とする。
張力検出値112が整定するまでステップST6の処理が繰り返され(ステップST7,No)、フィルタ適用部3は、張力検出値112が整定した状態であることを確認した時点で(ステップST7,Yes)、励起信号101と張力検出値112の記録を停止する(ステップST7)。このとき、モータ201,202を停止させ、ウェブ301の搬送を停止してもよい。
フィルタ決定部2は、i回目の自動調整操作において、励起信号101を印加してから張力検出値112の時間応答がピークに至るまでのピーク時間tp(i)を算出する(ステップST8)。
同定用フィルタの遮断周波数をωcとする。フィルタ決定部2は、算出したtp(i)に基づいて、i回目の自動調整操作において使用する同定用フィルタの遮断周波数ωc (i)を計算し、同定用フィルタを生成する(ステップST9)。同定用フィルタの遮断周波数ωc (i)は次の式(1)のように計算する。
ここでγ1は定数であり、γ1は0.1〜10程度の値に設定しておく。また、i回目の自動調整操作において生成された同定用フィルタの伝達関数をF(i)とする。
フィルタ適用部3は、励起信号101と張力検出値112に対して同定用フィルタを適用することで、同定用入力信号102と同定用出力信号103を計算する(ステップST10)。励起信号101を印加した時点から、q番目に記録した励起信号101と張力検出値112とに対して同定用フィルタを適用した信号を、それぞれ、同定用入力信号102をUF (i)(q)とし、同定用出力信号103をTF (i)(q)とする。UF (i)(q)とTF (i)(q)は、次の式(2)、式(3)のようにU(i)(q)とT(i)(q)にフィルタF(i)をそれぞれ適用することで計算される。
ここでU(i)(q)とT(i)(q)は、それぞれi回目の自動調整操作における、励起信号を印加した時点(q=1)からq番目に記録された、励起信号101と、張力検出値112である。
制御対象演算部4は、同定用入力信号102および同定用出力信号103に基づいて、励起信号101を入力とし、張力検出値112を出力とする閉ループ制御系の伝達関数を計算する(ステップST11)。ここで、i回目の自動調整操作において計算される、励起信号101を入力、張力検出値112を出力とする閉ループ制御系の伝達関数をGid (i)(s)とすると、Gid (i)(s)を次の式(4)のように4次遅れ系として同定する。
このとき、b0 (i),b1 (i),b2 (i),b3 (i),b4 (i)は、Gid (i)(s)の特性を決めるパラメータを表す。
制御対象演算部4は、未知のパラメータb0 (i),b1 (i),b2 (i),b3 (i),b4 (i)を含む伝達関数Gid (i)(s)と、同定用入出力信号UF (i)(q)とTF (i)(q)で成立する関係式(5)を利用し、最小二乗法を用いることで、未知パラメータb0 (i),b1 (i),b2 (i),b3 (i),b4 (i)を計算し、Gid (i)(s)を同定する。
ここで、Sは離散系の微分演算子であり、S=(1−z−1)/hと定義される。z−1はz変換における遅延要素、hはサンプリング時間を表すものとする。なお、S2はSを2回作用させることを意味し、2階微分を計算することを表す。S3,S4についても同様である。
制御対象演算部4は、ステップST11で計算された閉ループ制御系の伝達関数Gid (i)(s)に基づいて、制御対象1002の伝達関数を計算する(ステップST12)。
i回目の自動調整操作において計算される、制御対象1002の伝達関数P(i)(s)を次の式(6)のように3次遅れ系として計算する。
このとき、a0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)は、P(i)(s)の特性を決めるパラメータを表す。a0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)は、次の式(7)のように計算する。
ここで、cp(i−1),cd(i−1)は、i−1回目の自動調整操作において調整された制御パラメータである。同定される閉ループ制御系の伝達関数Gid (i)(s)と、既知のcp(i−1),cd(i−1)に基づいて、a0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)が式(7)のように計算され、制御対象1002の伝達関数P(i)(s)が同定される。ただし、1回目の自動調整操作(i=1)において、cp(i−1),cd(i−1)は初期設定をした制御パラメータを代入する。制御対象演算部4は、計算したa0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)を制御対象パラメータ信号104として出力する。
制御パラメータ演算部5は、制御対象1002の伝達関数P(i)(s)に基づいて制御パラメータを計算する(ステップST13)。一例として、以下に説明する、閉ループ制御系の分母多項式がバターワース標準形のモデルの分母多項式と一致するように、閉ループ制御系に含まれる制御パラメータを調整する方法が挙げられる。
i回目の自動調整操作において調整される張力制御部501の制御パラメータと、i回目の自動調整操作において同定される既知の制御対象1002の伝達関数P(i)(s)と、を含む励起信号101から張力検出値112までの閉ループ制御系の伝達関数をGat (i)(s)とすると、Gat (i)(s)は次の式(8)のように計算する。
ここで,cp(i),ci(i),cd(i)は、i回目の自動調整操作において調整される制御パラメータである。cp(i),ci(i),cd(i)の計算方法については、例えば、この閉ループ伝達関数Gat (i)(s)のラプラス演算子sに掛かる係数が、バターワース標準形のモデルの係数と一致するように、次の式(9)の係数を一致するようにcp(i),ci(i),cd(i)を計算する。
ここで、wは閉ループ制御系の応答性を表す変数であり、式(9)の係数比較により、wはcp(i),ci(i),cd(i)と共に一意に計算される。
ここでは、制御パラメータの決定方法について、閉ループ制御系の係数がバターワース標準形のモデルの係数と一致するように、cp(i),ci(i),cd(i)を計算する例を示したが、制御対象1002の伝達関数に基づいて制御パラメータを調整する方法は上記のものに限られない。他の計算方法として、例えば、一巡伝達関数のゲイン余裕と位相余裕が、それぞれ0以上の所定値となるようにcp(i),ci(i),cd(i)を計算する方法があげられる。
そして、制御パラメータ演算部5は、制御部1001の制御パラメータをステップST13で計算された制御パラメータに変更する(ステップST14)。変更のタイミングは、制御パラメータが算出された時点でもよい。
終了判定部6は、制御パラメータ演算部5からの制御パラメータに基づいて自動調整操作の再開または終了の判定を行う(ステップST15)。自動調整操作の再開または終了の判定方法に関して、例えば、制御パラメータの比例ゲインcp(i)を取り出し、i−1回目のcp(i−1)の計算値とi回目のcp(i)の計算値の変化率α(i)=(cp(i)−cp(i−1))/cp(i−1)を計算し、その変化率α(i)が予め設定された規定値αsetよりも小さければ終了、そうでなければ継続と判定するようにしてもよい。1回目の自動調整操作(i=1)において、cp(i−1)には初期設定を行った比例ゲインを代入しておけばよい。または、自動調整操作を必ず2回以上施行するものと決めておき、1回目の自動調整操作においてはステップST15の判定を行わず、自動調整操作を再開してステップST16に移行してもよい。
ステップST15において、α(i)<αsetの関係が満たされない場合(ステップST15,No)、自動調整操作の再開を指示する内容の判定信号106が終了判定部6から励起信号発生部1に送信され、自動調整操作が再開される。自動調整操作を再開する場合、自動調整部1000は、i=i+1として、そしてステップST4に移行する(ステップST16)。ただし、前回の自動調整操作においてステップST7の後にウェブ搬送を停止させた場合、自動調整部1000はウェブ搬送を再開させ、ステップST4に移行する。
ステップST15において、α(i)<αsetの関係が満たされた場合(ステップST15,Yes)、自動調整部1000は自動調整操作を終了する。
自動調整操作を終了した時点で、調整された制御パラメータにより、高応答かつ安定な制御部が得られるため、ウェブの破断や変形、弛みを防止できるウェブ搬送が実現できる。
このように、本実施の形態は、ウェブ301の張力の閉ループ制御を行っている状態で、モータ201の速度指令値261に対して励起信号101として速度増分値を印加することで、張力検出値112を励振させ(ステップST5)、その際の励起信号101と張力検出値112に同定用フィルタを適用した信号を、同定用入力信号102と同定用出力信号103とし(ステップST10)、同定用入力信号102と同定用出力信号103とに基づいて閉ループ制御系の伝達関数を同定し(ステップST11)、閉ループ制御系の同定結果に基づいて制御対象1002の伝達関数を同定し(ステップST12)、制御対象1002の伝達関数P(i)(s)に基づいて制御パラメータを計算するようにしたものである(ステップST13)。
このとき、調整結果の制御パラメータの応答性に影響を与える同定用フィルタの遮断周波数をフィルタ決定部2において自動的に決定することにより、制御装置10のオペレータが試行錯誤を繰り返して、同定用フィルタの遮断周波数を調整する必要がなく、簡易的かつ短時間に制御パラメータの調整を行うことができる。
ステップST9において、フィルタ決定部2が同定用フィルタの遮断周波数ωc (i)を、張力検出値112の時間応答のピーク時間tp(i)に基づいて決定することの効果について、以下で述べる。
ステップST11において、式(5)より、閉ループ制御系の伝達関数Gid(s)を決めるパラメータb0 (i),b1 (i),b2 (i),b3 (i),b4 (i)を計算する。式(5)は同定用フィルタを、励起信号101および張力検出値112に適用した場合の計算式である。仮に、同定用フィルタを使用しなければ、Gid (i)(s)を同定するための計算式は次の式(10)のようになる。
ここで、U(i)(q)とT(i)(q)は、それぞれi回目の自動調整操作における、励起信号101を印加した時点(q=1)からq番目に記録された、励起信号101と、張力検出値112である。
高次の動特性を同定するためにはデータの微分処理を行う必要があるが、一般に測定値である張力検出値112はノイズを含んでおり、微分操作はノイズの高周波成分を励起するため、微分係数Sk・T(i)(q)(1≦k≦4)を計算するための微分操作によって、張力検出値112に含まれるノイズの高周波成分が励起される。
ノイズは同定精度を低下させる原因となるため、ステップST10においてフィルタ処理を行うことでノイズの低減を行う。同定用フィルタは、Gid (i)(s)の同定のための微分操作により生じた、高周波数帯域のノイズを除去する役割を果たす。その遮断周波数ωc (i)は、張力検出値112に含まれる高周波数帯域のノイズを除去するために、適切な周波数に設定する必要がある。
ただし、張力検出値112にはその周波数応答成分のうちに、閉ループ制御系の伝達関数Gid (i)(s)の動特性を同定するために必要な制御帯域の信号が含まれている。同定用フィルタの遮断周波数ωc (i)を過剰に低く設定すると、張力検出値112の信号から、閉ループ制御系の制御帯域の信号を除去することとなり、閉ループ制御系の動特性を示す信号を欠落させてしまうため、閉ループ制御系を正確に同定することができない。閉ループ制御系を正確に同定できなければ、閉ループ制御系の伝達関数から計算される、制御対象1002の伝達関数についても正確に同定されず、ひいては、制御対象1002の伝達関数から計算される、張力制御部501の制御パラメータについても高精度に調整をすることができない。
これらの理由から、同定用フィルタが張力検出値112のノイズを除去した上で、閉ループ制御系の動特性を示す信号を十分に含んだ信号を生成するように、閉ループ制御系の制御帯域を推定し、閉ループ制御系の制御帯域の推定結果に基づいて遮断周波数ωc (i)を制御帯域近辺に設定する必要がある。
閉ループ制御系の制御帯域は、制御対象1002の伝達関数と、張力制御部501の伝達関数に依存しており、張力制御部501の制御パラメータである比例ゲイン、積分ゲインなどの制御ゲインが大きいほど、制御帯域は大きい。
図3は、本発明の実施の形態1に係る制御装置10において、自動調整操作を行った際の、張力検出値の時間応答波形を示す図である。一般に、閉ループ制御を組んだ状態で励起信号101を印加したとき、実線で示すように制御ゲインが大きい場合、制御部1001は入力された励起信号101に対して速い補償の動作をするので、張力検出値112の時間応答が速くなり、ピーク時間が小さくなる。また、点線で示すように制御ゲインが小さい場合、張力検出値112の時間応答は遅くなり、ピーク時間が大きくなる。そのため、ピーク時間の逆数は制御ゲインの大きさと、制御ゲインによって決まる制御帯域を推定する良い尺度となり、その定数倍(例えば0.1〜10倍)もまた同様に良い尺度となる。
実施の形態1の自動調整操作によれば、遮断周波数ωcを閉ループ制御系の制御帯域近辺とする同定用フィルタを使用することにより、高周波数成分のノイズを除去し、制御帯域の周波数成分を残した信号を用いて、閉ループ制御系の伝達関数の正確な同定を行うことができ、張力制御部501の制御パラメータを高精度に調整することができる。
次に、ステップST16以降で上述の自動調整操作を繰り返すことによる効果について説明する。
1回目の自動調整操作(i=1)においては、ステップST1において、閉ループ制御系の応答性が低い制御パラメータに調整された状態、すなわち閉ループ制御系の制御帯域がごく小さい状態にて、励起信号101を印加し、その際の張力検出値112の挙動から制御帯域を推定し、自動調整操作を行う(ステップST4〜ステップST15)。ステップST10の同定用フィルタ処理において、励起信号101と張力検出値112から、制御帯域以上の情報をカットするので、制御対象1002の周波数特性のうち、制御帯域以下は正確に同定できるが、制御帯域以上の周波数特性に関しては正確であるかの保証はない。このようにして同定された制御対象1002の周波数特性に基づいて制御パラメータを算出すると、制御帯域以下の伝達関数が正確なので安定な制御パラメータを算出することはできるが、高応答、すなわちなるべく制御帯域が大きい制御を実現する制御パラメータに調整することが困難である。よって、閉ループ制御系に含まれる制御対象1002を同定し、制御パラメータの調整をする場合には、制御帯域が大きい閉ループ制御系に対する入力信号と、出力信号を用いたほうが、制御対象1002の同定と制御パラメータの調整を正確に行えると言える。そこで、小さい制御帯域以下のみが正確な制御対象1002の伝達関数をもとに、仮の制御パラメータを計算し、i=2では、仮の制御パラメータが設定された状態で自動調整操作を再度実行する。このような操作を複数回繰り返すことで、正確に同定される制御帯域が徐々に大きくなっていき、最終的には、高応答かつ安定な制御を実現する制御パラメータが算出される。
実施の形態1では、閉ループ制御系を4次遅れ系として同定する例を説明したが、3次遅れ系や5次遅れ系など他の次数であってもほぼ同様に実施できる。また、制御対象1002の伝達特性が指定できるものであれば、状態空間システムで表現されるモデルとして同定するようにしてもよい。
また、張力制御部501の伝達特性をPID制御として説明を行ったが、他の制御、例えば、PI制御、位相進み・遅れ補償などを用いてもよい。
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2に係る制御装置20のブロック図である。実施の形態2において、実施の形態1と同一または類似の部分には同一または類似の符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。実施の形態1ではステップST5において、励起信号発生部1より出力されるステップ信号である励起信号101の大きさは、ステップST1の初期設定で予め決定されているものとしたが、i回目(i≧2)の自動調整操作においては、i−1回目の自動調整操作において計算された制御対象1002の伝達関数と、制御パラメータに基づいて、励起信号101の大きさが決定されてもよい。
実施の形態2の自動調整部2000は、実施の形態1の自動調整部1000における構成要素に加えて、励起信号決定部7を有する。なお、実施の形態2の制御装置20は励起信号決定部7を除いて実施の形態1と同様の構成要素で構成されている。ここでは、図4に示すように、実施の形態2の自動調整部に符号2000を付して、実施の形態1と区別することとする。
自動調整部2000において、励起信号決定部7は、制御対象パラメータ信号104と、制御パラメータ信号105を入力とし、制御対象パラメータ信号104と制御パラメータ信号105に基づいて、励起信号101の信号の大きさを決定し、励起信号101の信号の大きさを励起強度信号108として出力する。
励起信号発生部1は、励起強度信号108を入力として、励起強度信号108に基づいて、励起信号101の大きさを変更することができる。
図5は、本発明の実施の形態2に係る制御装置20による制御パラメータの自動調整方法を説明するフローチャートである。
まず、初期設定を行う(ステップST21)。初期設定とは、自動調整を開始する前に必要となる設定のことである。自動調整を開始する前に必要となる設定項目は、張力制御部501の制御パラメータの初期値と、励起信号発生部1より出力される励起信号101の種類と、1回目の自動調整操作における励起信号101の大きさと、自動調整の終了判定用の閾値αsetと、励起信号101を印加した際の張力検出値112の変動量の最大値と、である。制御パラメータの初期値は、ウェブ301の張力を安定化することができるように調整されているものとするが、その応答性は低くてもかまわない。また、励起信号101はステップ信号とする。
ステップST22〜ステップST36では、実施の形態1のステップST2〜ステップST16と同じ処理がそれぞれ行われる。
ステップST36において、iがインクリメントされた後に、励起信号決定部7において、i回目の自動調整操作において印加される励起信号101の大きさを決定する(ステップST37)。
初期設定において予め設定された、励起信号101を印加した際の張力検出値112の変動量の最大値をΔTPとする。また、i回目の自動調整操作において印加される励起信号101の大きさをΔu(i)とする。
i−1回目の自動調整操作において計算された制御対象1002の伝達関数を決めるパラメータa0 (i−1),a1 (i−1),a2 (i−1),a3 (i−1)と、張力制御部501の制御パラメータcp(i−1),ci(i−1),cd(i―1)に基づいて、例えば、Δu(i)を次の式(11)で計算する。
ただし、式(11)において、d(i−1)=d1 (i−1)/sqrt(−d1 (i−1)・d1 (i−1)+4・d0 (i−1)・d2 (i−1))、d0 (i−1)=ci(i−1)、d1 (i−1)=a0 (i−1)+cp(i−1)、d2 (i−1)=a1 (i−1)+cd(i−1)、である。
励起信号決定部7は、式(11)で計算されたΔu(i)を励起強度信号108として出力する。このとき、1回目の自動調整操作における励起信号101の大きさΔu(1)は、ステップST21の初期設定において制御装置20のオペレータにより決定される。
ステップST37の終了後、ステップST24へと移行する。
式(11)のように励起信号101の大きさを決定する場合の効果について説明する。
i−1回目の自動調整操作において、計算された制御対象1002の伝達関数と、制御パラメータを含む制御部1001とで構成される閉ループ制御系の伝達関数Gat (i−1)(s)は次の式(12)のようになる。
また、4次遅れ系の伝達関数であるGat (i−1)(s)を、2次遅れ系で近似する伝達関数であるG^at (i−1)(s)とすると、G^at (i−1)(s)は次の式(13)のようになる。
i回目の自動調整操作における、励起信号101を印加した際の、張力変動量の時間tにおける予測値をΔT〜(i)(t)とする。tは励起信号101が印加した時点で、t=0とする。大きさがΔu(i)で表される励起信号101を印加した際の、ΔT〜(i)が満たす微分方程式は式(13)の伝達関数のパラメータを用いて、次の式(14)のようになる。
式(14)において、Dは連続系の微分演算子であり、D=d/dtである。また、x(t)は単位ステップ関数であり、次の式(15)で定義される。
励起信号101を印加する前には、張力検出値112が整定しているので、ΔT〜(i)(0)=D・ΔT〜(i)(0)=0が、式(14)の初期条件として得られる。ここで、d0 (i−1)=ci(i−1)、d1 (i−1)=a0 (i−1)+cp(i−1)、d2 (i−1)=a1 (i−1)+cd(i−1)、とおくと、式(14)より、次の式(16)が成り立つ。
また、t>0において、D・ΔT〜(i)(t)=0を満たすtは、i回目の自動調整操作における張力検出値112のピーク時間の予測値tp〜(i)であると考える。tp〜(i)は次の式(17)で計算される。
式(16)と式(17)より、ピーク時間tp〜(i)における張力検出値112の変動量の予測値ΔT〜(i)(tp〜(i))が次の式(18)で計算できる。
よって、式(18)より、張力検出値112の変動量のピークを、ΔT〜(i)(tp〜(i))とするような入力の大きさΔu(i)は次の式(19)で計算できる。
ただし、式(19)において、d(i−1)=d1 (i−1)/sqrt(−d1 (i−1)・d1 (i−1)+4・d0 (i−1)・d2 (i−1))である。
ステップST37における、励起信号101の大きさを決定する式(11)は、式(19)と同じ形の式であり、それは、i−1回目の自動調整操作において計算した制御対象1002の伝達関数と、制御部により構成される閉ループ制御系の伝達関数を、2次遅れ系で近似した伝達関数において、予め設定した時間応答の変動量の最大値ΔTPを、実現するような励起信号101の大きさΔu(i)を計算したものとなる。
例えば、励起信号101の大きさが過大であり、張力がウェブ301に掛けられる限界張力値を超えてしまえば、ウェブ301が破断や変形をしてしまう原因となる。また、励起信号101の大きさが過小であれば、励起信号101を印加したことによる張力変動量が小さくなり、同定用出力信号のS/N比が低くなり、ノイズの影響を大きく受けて、制御対象1002を同定することができない。
初期設定において、励起信号101を印加する際の張力変動量の最大値ΔTPを、ウェブの限界張力値よりも小さくなるように、かつ、張力センサ302から検出されるノイズの大きさよりも十分に大きくなるように、設定しておくことで、励起信号決定部7が式(11)により、励起信号101の大きさを適切に決定するため、ウェブ301の破断や変形を避けて、精度のよい自動調整を行うことができる。
また、式(11)では、閉ループ制御系の伝達関数を2次遅れ系と近似してΔu(i)を算出したが、近似を行わずに閉ループ制御系の伝達関数を4次遅れ系として、Δu(i)を算出してもよい。
実施の形態2の自動調整部2000の構成は、励起信号決定部7を除く構成や処理手順が、実施の形態1の自動調整部1000と同じなので、実施の形態1と同様に、フィルタ決定部において同定用フィルタの遮断周波数を決定し、自動調整操作を繰り返すことで、高精度な制御パラメータの調整を行うことができる。
実施の形態2では、閉ループ制御系を4次遅れ系として同定する例を説明したが、3次遅れ系や5次遅れ系など他の次数であってもよい。また、制御対象1002の伝達特性が指定できるものであれば、状態空間システムで表現されるモデルとして同定するようにしてもよい。
また、張力制御部501の伝達特性をPID制御として説明を行ったが、他の制御、例えば、PI制御、位相進み・遅れ補償などを用いてもよい。
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3に係る制御装置30のブロック図である。実施の形態3において、実施の形態1と同一または類似の部分には同一または類似の符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。実施の形態1では、同定用フィルタの遮断周波数は、張力検出値112の時間応答のピーク時間に基づいて決定されたが、i回目の自動調整操作における同定用フィルタの遮断周波数は、i−1回目の自動調整操作において計算された制御対象1002の伝達関数と、制御パラメータに基づいて決定されてもよい。
実施の形態3の自動調整部3000のフィルタ決定部12は、張力検出値112に加えて、制御対象パラメータ信号104と制御パラメータ信号105を入力として用いる。なお、実施の形態3の制御装置30はフィルタ決定部12を除いて実施の形態1と同様の構成要素で構成されている。ここでは、図6に示すように、実施の形態3の自動調整部に符号3000、実施の形態3のフィルタ決定部に符合12をそれぞれ付して、実施の形態1と区別することとする。
自動調整部3000において、フィルタ決定部12は、張力検出値112と、制御対象パラメータ信号104と、制御パラメータ信号105を入力とし、張力検出値112、または、制御対象パラメータ信号104と制御パラメータ信号105に基づいて、同定用フィルタの遮断周波数を決定する。フィルタ決定部12は、決定された同定用フィルタの遮断周波数をフィルタパラメータ信号107として出力する。
図7は、本発明の実施の形態3に係る制御装置30による制御パラメータの自動調整方法を説明するフローチャートである。
まず、ステップST41〜ステップST47の処理が行われる。ステップST41〜ステップST47では、実施の形態1のステップST1〜ステップST7と同じ処理がそれぞれ行われる。
自動調整操作の繰り返し回数iを調べ、i=1のとき(ステップST48,No)、つまり1回目の自動調整操作においてはステップST49に移行し、i≧2のとき(ステップST48,Yes)、つまり2回目以降の自動調整操作においてはステップST51に移行する(ステップST48)。
i=1の場合には、ステップST49とステップST50において、実施の形態1のステップST8とステップST9と同じ処理がそれぞれ実行され、張力検出値112のピーク時間を調べ、ピーク時間に基づいて同定用フィルタの遮断周波数ωc (1)が決定される。または、制御装置30のオペレータが初期設定において、予め遮断周波数ωc (1)を設定しておき、i=1の場合にのみ、初期設定において設定されたωc (1)を用いてもよい。
i≧2の場合には、フィルタ決定部12において、i−1回目の自動調整操作における、制御対象パラメータ信号(制御対象1002の伝達関数P(i)(s))、および制御パラメータ信号105に基づいて同定用フィルタの遮断周波数ωc (i)を計算する(ステップST51)。
ステップST50およびステップST51の処理が実行された後、制御装置30では、実施の形態1のステップST10〜ステップST16と同様の処理(ステップST52〜ステップST58が行われる。
遮断周波数ωc (i)の計算方法については、例えば、閉ループ制御系の一巡伝達関数に基づいて、次のように遮断周波数ωc (i)を計算する。
張力制御部501の伝達関数を次の式(20)のようにおく。
フィルタ決定部12は以下の式(21)を満たすω*(i)を計算する。
ここで、j=sqrt(−1)であり、abs(x)は複素数xの絶対値を表す。フィルタ決定部12において、式(21)を満たすω*(i)を計算し、ωc (i)=γ2・ω*(i)として、遮断周波数ωc (i)を計算する。ここでγ2は定数であり、γ2は0.1〜10程度の値に設定しておく。また、i回目の自動調整操作において生成された同定用フィルタの伝達関数をF(i)とする。フィルタ決定部12は、計算された遮断周波数ωc (i)をフィルタパラメータ信号107として出力する。
上記のように遮断周波数ωc (i)を決定する効果について説明する。
式(21)を満たすω*(i)は一巡伝達関数P(i)(s)・C(i)(s)のボード線図上でゲインが0[dB]となる周波数となっている。
ω*(i)より小さな周波数帯域の偏差に対しては、張力制御部501が効果的に作用するが、ω*(i)より大きな周波数帯域の偏差に対しては、張力制御部501が及ぼす効果が小さいと言える。よって、ω*(i)は閉ループ制御系の制御帯域近辺を表す良い指標となっており、定数γ2を0.1〜10に設定することで、高周波数成分のノイズを除去した上で、制御帯域の周波数成分を十分に残すことができる同定用フィルタを設計し、高精度な同定と制御パラメータの調整を行うことができる。
実施の形態3の自動調整部3000の構成は、フィルタ決定部12を除く構成や処理手順が、実施の形態1の自動調整部1000と同じなので、実施の形態1と同様に、フィルタ決定部12において同定用フィルタの遮断周波数を決定し、自動調整操作を繰り返すことで、高精度な制御パラメータの調整を行うことができる。
実施の形態3では、閉ループ制御系を4次遅れ系として同定する例を説明したが、3次遅れ系や5次遅れ系など他の次数であってもほぼ同様に実施できる。また、制御対象1002の伝達特性が指定できるものであれば、状態空間システムで表現されるモデルとして同定するようにしてもよい。
また、張力制御部501の伝達特性をPID制御として説明を行ったが、他の制御、例えば、PI制御、位相進み・遅れ補償などを用いてもよい。
実施の形態4.
図8−1は、本発明の実施の形態4に係る制御装置40のブロック図である。図8−2は、本発明の実施の形態4に係る制御装置40の制御部2001のブロック図である。実施の形態4において、実施の形態1と同一または類似の部分には同一または類似の符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。実施の形態1では、ステップST5において、励起信号発生部1により出力される励起信号101が張力制御部501から出力される操作量(中間速度増分値110)に対して印加されているが、励起信号101は張力指令値に対して印加されてもよい。
実施の形態4の制御装置40は、励起信号101を張力指令値に対して印加することで、張力検出値112の応答を調べて同定用フィルタの決定と、制御対象1002の同定を行い、制御パラメータを調整する。
図8−1に示すように制御装置40は、自動調整部4000、制御部2001、および加算器53を備える。制御対象1002は実施の形態1と同様の構成である。
自動調整部4000は、励起信号発生部1、フィルタ決定部22、フィルタ適用部3、制御対象演算部14、制御パラメータ演算部5、終了判定部6を備える。励起信号発生部1、フィルタ適用部3、制御パラメータ演算部5、終了判定部6は実施の形態1と同様の機能を持つ。
フィルタ決定部22は、張力検出値112を入力として、張力検出値112の時間応答に基づいて、同定用フィルタの周波数特性を決定し、同定用フィルタの周波数特性を決めるパラメータを、フィルタパラメータ信号107として出力する。
制御対象演算部14は、同定用入力信号102と同定用出力信号103を入力として、同定用入力信号102と同定用出力信号103に基づいて制御対象1002の伝達関数を計算し、制御対象1002の伝達関数を決めるパラメータを、制御対象パラメータ信号104として出力する。
図8−2に示すように制御部2001は、張力制御部511および減算器64を備える。減算器64は加算器53からの中間張力指令値113と制御対象1002からの張力検出値112との偏差を計算する。
張力制御部511は、減算器64で計算される偏差を入力とし、操作量として速度増分値111を出力する。ここでは速度増分値111は張力検出値112が中間張力指令値113を追従するための、モータ201の速度の増分値である。張力制御部511は、例えばPID制御器や、位相進み・遅れ補償器であり、その張力制御部511の伝達関数を決定するパラメータを制御パラメータと呼ぶこととする。
加算器53は、制御装置40の外部より与えられる張力指令値と励起信号101との和である中間張力指令値113を出力する。
図9は、本発明の実施の形態4に係る制御装置40による制御パラメータの自動調整方法を説明するフローチャートである。
まず、ステップST61〜ステップST64の処理が行われる。ステップST61〜ステップST64では、実施の形態1のステップST1〜ステップST4と同じ処理がそれぞれ行われる。
励起信号発生部1は張力検出値112が整定した状態であることを確認した後に(ステップST64,Yes)、励起信号101としてステップ信号を出力し、張力指令値に対して、励起信号101としてステップ信号を印加する(ステップST65)。張力指令値に対して励起信号101が印加されると、整定していた張力検出値112が励振され、自動調整操作における励起試験が実行開始される。
ステップST66とステップST67では、それぞれ実施の形態1のステップST6とステップST7と同じ処理が行われる。
フィルタ決定部22は、i回目の自動調整操作において、励起信号101を印加してから張力検出値112の時間応答が整定するまでの整定時間ts(i)を算出する(ステップST68)。フィルタ決定部22は、算出したts(i)に基づいて、i回目の自動調整操作において使用する同定用フィルタの遮断周波数ωc (i)を計算し、同定用フィルタを生成する(ステップST69)。同定用フィルタの遮断周波数ωc (i)は次の式(22)により計算する。
ここでγ3は定数であり、γ3は0.1〜10程度の値に設定しておく。また、i回目の自動調整操作において生成された同定用フィルタの伝達関数をF(i)とする。
フィルタ適用部3は、励起信号101と張力検出値112に対して同定用フィルタを適用することで、同定用入力信号102と同定用出力信号103を計算する(ステップST70)。
励起信号101を印加した時点からq番目に記録した励起信号101と張力検出値112に対して同定用フィルタを適用した信号を、それぞれ、同定用入力信号102をUF (i)(q)、同定用出力信号103をTF (i)(q)とする。UF (i)(q)とTF (i)(q)は次のように計算する。
ここでU(i)(q)とT(i)(q)は、それぞれi回目の自動調整操作における、励起信号101を印加した時点(q=1)からq番目に記録された、励起信号101と、張力検出値112である。
制御対象演算部14において、同定用入力信号102と同定用出力信号103に基づいて、励起信号101を入力、張力検出値112を出力とする閉ループ制御系の伝達関数を計算する(ステップST71)。ここで、i回目の自動調整操作において計算される前記閉ループ制御系の伝達関数をGid (i)(s)とすると、Gid (i)(s)を次の式(25)のように4次遅れ系として同定する。
このとき、b0 (i),b1 (i),b2 (i),b3 (i),b4 (i),c0 (i),c1 (i),c2 (i)は、Gid (i)(s)の特性を決めるパラメータを表す。
制御対象演算部14は、Gid (i)(s)を用いて表されるUF (i)(q)とTF (i)(q)の次の関係式(26)を最小二乗法で解くことで、b0 (i),b1 (i),b2 (i),b3 (i),b4 (i),c0 (i),c1 (i),c2 (i)を計算する。
制御対象演算部14は、ステップST71で計算された閉ループ制御系の伝達関数Gid (i)(s)に基づいて、制御対象1002の伝達関数を計算する(ステップST72)。
i回目の自動調整操作において計算される、制御対象1002の伝達関数P(i)(s)を次の式(27)のように3次遅れ系として計算する。
このとき、a0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)は、P(i)(s)の特性を決めるパラメータを表す。a0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)は、次の式(28)のように計算する。
ここで、cp(i−1),cd(i−1)は、i−1回目の自動調整操作において調整された制御パラメータである。同定される閉ループ制御系の伝達関数Gid (i)(s)と、既知のcp(i−1),cd(i−1)に基づいて、a0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)が式(28)のように計算され、制御対象1002の伝達関数P(i)(s)が同定される。ただし、1回目の自動調整操作(i=1)において、cp(i−1),cd(i−1)は初期設定をした制御パラメータを代入する。制御対象演算部14は、計算したa0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)を制御対象パラメータ信号104として出力する。
ステップST73〜ステップST76では実施の形態1のステップST13〜ステップST16と同様の処理が行われる。
実施の形態4の自動調整部4000の構成は、励起信号101の印加方法を除く構成や処理手順が、実施の形態1の自動調整部1000と同じなので、実施の形態1と同様に、フィルタ決定部22において同定用フィルタの遮断周波数を決定し、自動調整操作を繰り返すことで、高精度な制御パラメータの調整を行うことができる。
実施の形態4では、閉ループ制御系を4次遅れ系として同定する例を説明したが、3次遅れ系や5次遅れ系など他の次数であってもほぼ同様に実施できる。また、制御対象1002の伝達特性が指定できるものであれば、状態空間システムで表現されるモデルとして同定するようにしてもよい。
また、張力制御部511の伝達特性をPID制御として説明を行ったが、他の制御、例えば、PI制御、位相進み・遅れ補償などを用いてもよい。
実施の形態5.
図10は、本発明の実施の形態5に係る制御装置50のブロック図である。実施の形態5において、実施の形態1と同一または類似の部分には同一または類似の符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。実施の形態1では、ステップST10において、励起信号101に対して同定用フィルタを適用して同定用入力信号102を生成し、閉ループ制御系の伝達関数の同定を行い、その閉ループ制御系の同定結果の伝達関数に基づいて制御対象1002の伝達関数を計算したが、モータに対する速度指令(速度増分値111)に対して同定用フィルタを適用して同定用入力信号102を生成し、閉ループ制御系の同定を行わずに、制御対象1002の伝達関数の同定を行ってもよい。
実施の形態5の制御装置50では、モータ201に対する速度増分値111に対して同定用フィルタを適用した信号を、同定用入力信号102として、制御対象1002の伝達関数の同定を行う。
図10に示すように制御装置50は、自動調整部5000、制御部1001、および加算器51を備える。制御部1001と制御対象1002は実施の形態1と同様の構成である。
自動調整部5000は、励起信号発生部1、フィルタ決定部2、フィルタ適用部13、制御対象演算部24、制御パラメータ演算部5、および終了判定部6を備える。励起信号発生部1、フィルタ決定部2、制御パラメータ演算部5、終了判定部6は実施の形態1と同様の機能を持つ。
フィルタ適用部13は、モータ201に対する速度増分値111と張力検出値112とを入力とし、速度増分値111と張力検出値112に同定用フィルタを適用し、同定用入力信号102と同定用出力信号103を計算し、同定用入力信号102と同定用出力信号103を出力する。フィルタ適用部13は、フィルタパラメータ信号107を受け付けており、フィルタパラメータ信号107に基づいて、同定用フィルタの周波数特性を変更することができる。また、フィルタ適用部13は、速度増分値111と、張力検出値112を時間同期して記録することができる。
制御対象演算部24は、同定用入力信号102と同定用出力信号103を入力として、同定用入力信号102と同定用出力信号103に基づいて制御対象1002の伝達関数を計算し、制御対象1002の伝達関数を決めるパラメータを、制御対象パラメータ信号104として出力する。
図11は、本発明の実施の形態5に係る制御装置50による制御パラメータの自動調整方法を説明するフローチャートである。
まず、ステップST81〜ステップST89の処理が行われる。ステップST81〜ステップST89では、実施の形態1のステップST1〜ステップST9と同じ処理がそれぞれ行われる。
i回目の自動調整操作において、ステップST89で生成された同定用フィルタの伝達関数をF(i)とする。
フィルタ適用部13において、速度増分値111と張力検出値112に対して同定用フィルタを適用することで、同定用入力信号102と同定用出力信号103を計算する(ステップST90)。励起信号101を印加した時点からq番目に記録した速度増分値111と張力検出値112に対して同定用フィルタを適用した信号を、それぞれ、同定用入力信号102をUF (i)(q)、同定用出力信号103をTF (i)(q)とする。UF (i)(q)とTF (i)(q)は次の式(29)、式(30)のように計算する。
ここでU(i)(q)とT(i)(q)は、それぞれi回目の自動調整操作における、励起信号101を印加した時点(q=1)からq番目に記録された、速度増分値111と、張力検出値112である。
制御対象演算部24は、同定用入力信号102と同定用出力信号103に基づいて、速度増分値111を入力とし、張力検出値112を出力とする制御対象1002の伝達関数を計算する(ステップST91)。
ここで、i回目の自動調整操作において計算される、速度増分値111を入力とし、張力検出値112を出力とする制御対象1002の伝達関数をP(i)(s)とすると、P(i)(s)を次の式(31)のように3次遅れ系として同定する。
このとき、a0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)は、P(i)(s)の特性を決めるパラメータを表す。P(i)(s)を用いて表されるUF (i)(q)とTF (i)(q)の次の関係式(32)を最小二乗法で解くことで、a0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)を計算する。
制御対象演算部24は、計算したa0 (i),a1 (i),a2 (i),a3 (i)を制御対象パラメータ信号104として出力する。
ステップST92〜ステップST95では、それぞれ実施の形態1のステップST13〜ステップST16と同じ処理が行われる。
実施の形態5の制御装置50において、モータ201に対する速度増分値111に対して同定用フィルタを適用した信号を、同定用入力信号102として、制御対象1002の伝達関数の同定を行うことの効果について説明する。
実施の形態5においては、自動調整操作を開始する前の張力制御部501は、ウェブ301の張力を安定化することができるように調整されているものの、その初期設定されている制御パラメータが未知の場合がある。
実施の形態5の自動調整操作においては、1回目の自動調整操作において制御対象1002の伝達関数を同定する際には、閉ループ制御系の同定を行ってから閉ループ制御系の伝達関数と初期設定された制御パラメータに基づいて制御対象1002の伝達関数を計算するのではなく、同定用入力信号102と同定用出力信号103が、それぞれ制御対象1002の伝達関数の入力と出力になっているため、制御対象1002の伝達関数を直接的に同定することが可能であるため、初期の制御パラメータを必要としない。そのため、初期の制御パラメータが未知の場合にでも、自動調整操作を行い、制御パラメータを調整することができる。
実施の形態5の自動調整部5000の構成は、フィルタ適用部13の入力信号を除く構成や処理手順が、実施の形態1の自動調整部1000と同じなので、実施の形態1と同様に、フィルタ決定部において同定用フィルタの遮断周波数を決定し、自動調整操作を繰り返すことで、高精度な制御パラメータの調整を行うことができる。
実施の形態5では、閉ループ制御系を4次遅れ系として同定する例を説明したが、3次遅れ系や5次遅れ系など他の次数であってもほぼ同様に実施できる。また、制御対象1002の伝達特性が指定できるものであれば、状態空間システムで表現されるモデルとして同定するようにしてもよい。
また、張力制御部501の伝達特性をPID制御として説明を行ったが、他の制御、例えば、PI制御、位相進み・遅れ補償などを用いてもよい。
実施の形態6.
図12−1は、本発明の実施の形態6に係る制御装置60のブロック図である。図12−2は、本発明の実施の形態6に係る制御装置60の制御対象2002のブロック図である。図12−3は、本発明の実施の形態6に係る制御装置60の制御部3001のブロック図である。実施の形態6において、実施の形態1と同一または類似の部分には同一または類似の符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。実施の形態6では制御装置60を、冷凍サイクル装置の温度制御に適用した構成例を説明する。
図12−1に示すように制御装置60は、自動調整部6000、制御部3001、加算器54を備える。また図12−2に示すように制御対象2002は、コンプレッサ401、膨張弁402、室外熱交換器403、室内熱交換器404、冷媒405、送風機407、温度センサ408、速度制御部411、開度制御部412を備える冷凍サイクル装置である。コンプレッサ401、膨張弁402、室外熱交換器403、および室内熱交換器404が冷媒配管で順次接続されている。図示例では冷媒配管に通流する冷媒405の流れる方向406が示されている。
コンプレッサ401は速度制御部411から供給される電流によって駆動される。膨張弁402は、開度制御部412から供給される電流によって駆動される。室外熱交換器403では、冷媒405が液化することで冷媒405から室外空気へ熱が放出される。室内熱交換器404では、冷媒405が気化することで室内空気から冷媒405へ熱が吸収される。送風機407は室内熱交換器404近傍の空気と室内の空気を強制的に循環させる。温度センサ408は室内の温度を検出し、温度検出値122(制御量)を出力する。速度制御部411は制御対象2002の外部より入力される速度指令値121を入力とし、コンプレッサ401の速度が速度指令値121を追従するような電流を出力する。開度制御部412は、膨張弁402の開度を調整する電流を出力する。
制御対象2002は、コンプレッサ401に対する速度指令値121を入力とし、温度検出値122を出力とする1入力1出力システムであり、コンプレッサ401に対する速度指令値121を入力とし、温度検出値122を出力とする伝達関数を、制御対象2002の動特性として考える。
図12−3に示すように制御部3001は、温度制御部601、減算器65を備える。減算器65は制御部3001の外部より入力される温度指令値と温度検出値122の偏差を計算する。
温度制御部601は、減算器65で計算される偏差を入力とし、操作量として中間速度指令値120を出力する。ここでは中間速度指令値120は温度検出値122が温度指令値を追従するための、コンプレッサ401の速度指令値である。温度制御部601は、例えばPID制御器や、位相進み・遅れ補償器であり、その温度制御部601の伝達関数を決定するパラメータを制御パラメータと呼ぶこととする。
加算器54は、中間速度指令値120と励起信号101の和である、速度指令値121を出力する。
温度制御部601は、制御パラメータ信号105を受け付けており、制御パラメータは制御パラメータ信号105により変更することが可能である。
自動調整部6000は、励起信号発生部41、フィルタ決定部42、フィルタ適用部43、制御対象演算部4、制御パラメータ演算部5、および終了判定部6を備える。
励起信号発生部41は、外部より入力される自動調整開始指令と終了判定部6からの判定信号106と温度検出値122とを入力とし、自動調整開始指令と判定信号106と温度検出値122とに基づいて、励起信号101の出力のタイミングを決定し、励起信号101を出力する。励起信号101は、複数の周波数成分を含んだ信号であり、例えばステップ信号やインパルス信号のようなものでもよい。
フィルタ決定部42は、温度検出値122を入力として、温度検出値122の時間応答に基づいて、同定用フィルタの周波数特性を決定し、同定用フィルタの周波数特性を決めるパラメータを、フィルタパラメータ信号107として出力する。例えば、同定用フィルタはローパスフィルタである。
フィルタ適用部43は、励起信号101と温度検出値122を入力とし、励起信号101と温度検出値122に同定用フィルタを適用し、同定用入力信号102と同定用出力信号103を計算し、同定用入力信号102と同定用出力信号103を出力する。フィルタ適用部43は、フィルタパラメータ信号107を受け付けており、フィルタパラメータ信号107に基づいて、同定用フィルタの周波数特性を変更することができる。また、フィルタ適用部43は、励起信号101と、温度検出値122を時間同期して記録することができる。
制御対象演算部4と、制御パラメータ演算部5と、終了判定部6は、実施の形態1において説明した内容と同様の機能を持つ。
図13は、本発明の実施の形態6に係る制御装置60による制御パラメータの自動調整方法を説明するフローチャートである。
まず、初期設定を行う(ステップST101)。初期設定とは、自動調整を開始する前に必要となる設定のことである。自動調整を開始する前に必要となる設定項目は、温度制御部601の制御パラメータの初期値と、励起信号発生部41より出力される励起信号101の種類と大きさと、自動調整の終了判定用の閾値αsetと、である。このときの制御パラメータの初期値は、温度検出値122を安定化することができるように調整されているものとするが、その応答性は低くてもかまわない。以下では、温度制御部601はPID制御を行うものとする。温度制御部601のPID制御器の比例ゲインの初期値、積分ゲインの初期値、微分ゲインの初期値をそれぞれ、cp(0),ci(0),cd(0)とすると、cp(0),ci(0),cd(0)が制御パラメータであり、初期の設定項目はcp(0),ci(0),cd(0)である。
以下では、励起信号101をステップ信号とし、その大きさは初期設定においてユーザが決定しておくものとする。また、速度制御部411は既に調整されており、コンプレッサ401の速度は速度指令値121を十分に追従できるものとする。
制御部3001は温度指令値を受け付け、温度指令値に基づいてコンプレッサ401を駆動させ、冷凍サイクルを開始させる(ステップST102)。温度指令値は、制御装置60のオペレータにより、または上位のコントローラにより、制御装置60の外部から与えられるものとする。
自動調整部6000には自動調整開始指令が与えられる(ステップST103)。自動調整開始指令は、制御装置60のオペレータにより、または上位のコントローラにより、制御装置60の外部から与えられるものとする。
以降のステップST104〜ステップST110およびステップST111〜ステップST115までの操作は、複数回繰り返されることを前提とする。ステップST104〜ステップST115までの操作を1回の自動調整操作と定め、以下ではi回目(i≧1)の自動調整操作について説明を行う。自動調整開始指令が入力された場合に、i=1とする。
励起信号発生部41は自動調整開始指令が入力されるか、または自動調整操作の再開を指示する内容の判定信号106を受け付けると、温度検出値122が整定した状態であることの確認を行う(ステップST104)。ここで、温度検出値122が整定した状態とは、温度検出値122が定常的に一定値である状態とする。
温度検出値122が整定した状態であることの確認方法は、例えば、温度検出値122の時間応答を記録し、十分に長い時定数を持つローパスフィルタを用いて温度検出値122の時間応答を平均化し、平均化された値が一定時間内に一定振幅以内であることを整定した状態の判定条件とする。
励起信号発生部41では温度検出値122が整定するまでステップST104の処理が繰り返され(ステップST104,No)、温度検出値122が整定した状態であることを確認した後に(ステップST104,Yes)、励起信号101としてステップ信号が出力され、中間速度指令値120に対してこの励起信号101が印加される(ステップST105)。励起信号101を中間速度指令値120に対して印加することで、整定していた温度検出値122を励振させる試験を励起試験と呼ぶこととする。
フィルタ適用部43は、励起信号発生部41からの励起信号101が中間速度指令値120に印加された時点から、励起信号101と温度検出値122とを時間同期しながら記録する(ステップST106)。
ここで、励起信号101が印加されてからq番目に記録された励起信号101をU(i)(q)、励起信号101が印加されてからq番目に記録された温度検出値122をT(i)(q)、とする。励起信号101を印加した時点でq=1とする。
温度検出値122が整定されるまでステップST106の処理が繰り返され(ステップST107,No)、フィルタ適用部43は、温度検出値122が整定した状態であることを確認した時点で(ステップST107,Yes)、励起信号101と温度検出値122の記録を停止する(ステップST107)。
フィルタ決定部42は、i回目の自動調整操作において、励起信号101を印加してから温度検出値122の時間応答がピークに至るまでのピーク時間tp(i)を算出する(ステップST108)。
同定用フィルタの遮断周波数をωcとする。フィルタ決定部42は、算出したtp(i)に基づいて、i回目の自動調整操作において使用する同定用フィルタの遮断周波数ωc (i)を計算し、同定用フィルタを生成する(ステップST109)。同定用フィルタの遮断周波数ωc (i)は前述した式(1)により計算される。
ここで式(1)のγ1は定数であり、γ1は0.1〜10程度の値に設定しておく。また、i回目の自動調整操作において生成された同定用フィルタの伝達関数をF(i)とする。
フィルタ適用部43は、励起信号101と温度検出値122に対して同定用フィルタを適用することで、同定用入力信号102と同定用出力信号103を計算する(ステップST110)。励起信号101を印加した時点からq番目に記録した励起信号101と温度検出値122に対して同定用フィルタを適用した信号を、それぞれ、同定用入力信号102をUF (i)(q)とし、同定用出力信号103をTF (i)(q)とする。UF (i)(q)とTF (i)(q)は、次の式(33)と式(34)のように計算される。
ここでU(i)(q)とT(i)(q)は、それぞれi回目の自動調整操作における、励起信号101を印加した時点(q=1)からq番目に記録された、励起信号101と、温度検出値122である。
ステップST110までの処理が実行された後、制御装置60では、実施の形態1のステップST11〜ステップST16と同様の処理(ステップST111〜ステップST116)が行われる。
実施の形態6の自動調整操作によれば、閉ループ制御系の伝達関数の正確な同定を行うことで、温度制御部601の制御パラメータを高精度に調整することができ、温度指令値に対する応答性の良い、快適性の高い冷凍サイクル装置を実現することができる。
実施の形態6の自動調整部6000の構成は、実施の形態1の自動調整部1000と同じなので、実施の形態1と同様に、フィルタ決定部において同定用フィルタの遮断周波数を決定し、自動調整操作を繰り返すことで、高精度な制御パラメータの調整を行うことができる。
実施の形態6では、閉ループ制御系を4次遅れ系として同定する例を説明したが、3次遅れ系や5次遅れ系など他の次数であってもほぼ同様に実施できる。また、制御対象2002の伝達特性が指定できるものであれば、状態空間システムで表現されるモデルとして同定するようにしてもよい。
また、温度制御部601の伝達特性をPID制御として説明を行ったが、他の制御、例えば、PI制御、位相進み・遅れ補償などを用いてもよい。
実施の形態7.
図14−1は、本発明の実施の形態7に係る制御装置70のブロック図である。図14−2は、本発明の実施の形態7に係る制御装置70の制御対象3002のブロック図である。図14−3は、本発明の実施の形態7に係る制御装置70の制御部4001のブロック図である。実施の形態7において、実施の形態1または実施の形態3と同一または類似の部分には同一または類似の符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。実施の形態7では制御装置70を、テーブルの位置決め装置に適用した構成例を説明する。
図14−1に示すように制御装置70は、自動調整部7000、制御部4001、加算器55を備える。
また図14−2に示すように制御対象3002は、モータ701、エンコーダ702、カップリング703、ボールねじ704、テーブル705、位置センサ706、速度制御部711、および減算器66を備える。
モータ701は速度制御部711から供給される電流によって駆動される。エンコーダ702はモータ701の速度を検出しモータ速度検出値707として出力する。カップリング703はモータ701の回転軸とボールねじ704とを接続している。テーブル705はボールねじ704に設置されており、ボールねじ704の回転運動を並進運動に変換する機構を持つ。
制御対象3002は外部より速度指令値131を受け付けている。減算器66は速度指令値131とモータ速度検出値707との偏差を計算する。速度制御部711は減算器66で計算された偏差を入力とし、速度指令値131を追従するような電流を出力する。
ボールねじ704はモータ701よりトルクが伝達することで回転し、テーブル705が並進して、その位置を変更する。位置センサ706はテーブル705の位置を検出して、位置検出値132(制御量)として出力する。
速度指令値131を入力とし、かつ、位置検出値132を出力とする伝達関数を制御対象3002の動特性を示す伝達関数とする。
図14−3に示すように、制御部4001は、位置制御部801および減算器67を備える。減算器67は外部より入力される位置指令値と位置検出値132の偏差を計算する。
位置制御部801は、減算器67で計算される偏差を入力とし、操作量として中間速度指令値130を出力とする。位置制御部801は、例えばPID制御器や位相進み、遅れ補償器であり、その位置制御部801の伝達関数を決定するパラメータを制御パラメータと呼ぶこととする。
位置制御部801は、制御パラメータ信号105を受け付けており、制御パラメータは制御パラメータ信号105により変更することが可能である。
加算器55は、中間速度指令値130と励起信号101の和である、速度指令値131を出力とする。
図14−1に示すように自動調整部7000は、励起信号発生部71、フィルタ決定部12、フィルタ適用部73、制御対象演算部74、制御パラメータ演算部5、終了判定部6を備える。
励起信号発生部71は外部より入力される自動調整開始指令と、終了判定部6からの判定信号106と、制御対象3002からの位置検出値132とを入力とし、自動調整開始指令と判定信号106と位置検出値132とに基づいて、励起信号101の出力のタイミングを決定し、所定の期間、励起信号101を出力する。励起信号101は、複数の周波数成分を含んだ信号であり、例えばランダム信号のようなものでもよい。
フィルタ適用部73は励起信号101と位置検出値132を入力とし、励起信号101と位置検出値132に同定用フィルタを適用し、同定用入力信号102と同定用出力信号103とを計算し、同定用入力信号102と同定用出力信号103を出力する。フィルタ適用部73は、フィルタパラメータ信号107を受け付けており、フィルタパラメータ信号107に基づいて、同定用フィルタの周波数特性を変更することができる。また、フィルタ適用部73は、励起信号101と、位置検出値132を時間同期して記録することができる。
制御対象演算部74は同定用入力信号102と同定用出力信号103を入力として、同定用入力信号102と同定用出力信号103に基づいて制御対象3002の伝達関数を計算し、制御対象3002の伝達関数を決めるパラメータを、制御対象パラメータ信号104として出力する。
制御パラメータ演算部5と、終了判定部6は実施の形態1において説明した内容と同等の機能を持つ。またフィルタ決定部12は実施の形態3で説明した内容と同等の機能を持つ。
図15は、本発明の実施の形態7に係る制御装置70による制御パラメータの自動調整方法を説明するフローチャートである。
まず、初期設定を行う(ステップST121)。初期設定とは、自動調整を開始する前に必要となる設定のことである。自動調整を開始する前に必要となる設定項目は、位置制御部801の制御パラメータの初期値と、同定用フィルタの遮断周波数の初期値と、励起信号発生部71より出力される励起信号101の種類と大きさと、励起信号101を出力する期間と、自動調整の終了判定用の閾値αsetと、である。このときの制御パラメータの初期値は、位置検出値132を安定化することができるように調整されているものとするが、その応答性は低くてもかまわない。以下では、位置制御部801はPID制御を行うものとする。位置制御部801のPID制御器の比例ゲインの初期値、積分ゲインの初期値、微分ゲインの初期値をそれぞれ、cp(0),ci(0),cd(0)とすると、cp(0),ci(0),cd(0)が制御パラメータであり、初期の設定項目はcp(0),ci(0),cd(0)である。
以下では励起信号101をランダム信号とし、その大きさと、ランダム信号が出力される期間は初期設定においてユーザが決定しておくものとする。
また、速度制御部711は既に調整されており、モータ701の速度は速度指令値131を十分に追従できるものとする。
制御部4001は位置指令値を受け付け、位置指令値に基づいてモータ701を駆動させ、位置決め動作を開始させる(ステップST122)。位置指令値は、制御装置70のオペレータにより、または上位のコントローラにより、制御装置70に与えられるものとする。
自動調整部7000には自動調整開始指令が与えられる(ステップST123)。自動調整開始指令は、制御装置70のオペレータにより、または上位のコントローラにより、制御装置70の外部から与えられるものとする。
以降のステップST124〜ステップST129およびステップST130〜ステップST135の操作は、複数回繰り返されることを前提とする。ステップST124〜ステップST135までの操作を一回の自動調整操作と定め、以下ではi回目(i≧1)の自動調整操作について説明を行う。自動調整開始指令が入力された場合に、i=1とする。
励起信号発生部71は自動調整開始指令が入力されるか、または自動調整操作の再開を指示する内容の判定信号106を受け付けると、位置検出値132が整定した状態であることの確認を行う(ステップST124)。ここで位置検出値132が整定した状態とは、位置検出値132が定常的に一定値である状態とする。
位置検出値132が整定した状態であることの確認方法は、例えば位置検出値132の時間応答を記録し、十分に長い時定数を持つローパスフィルタを用いて位置検出値132の時間応答を平均化し、平均化された値が一定時間内に一定振幅以内であることを整定した状態の判定条件とする。
励起信号発生部71では位置検出値132が整定するまでステップST124の処理が繰り返され(ステップST124,No)、位置検出値132が整定した状態であることを確認した後に(ステップST124,Yes)、励起信号101としてランダム信号が出力され、中間速度指令値130に対して印加することで(ステップST125)、整定していた位置検出値132を励振させる試験を励起試験と呼ぶこととする。
フィルタ適用部73は、励起信号発生部71からの励起信号101が中間速度指令値130に印加された時点から、励起信号101と位置検出値132とを時間同期しながら記録する(ステップ126)。
ここで、励起信号101が印加されてからq番目に記録された励起信号101をU(i)(q)、励起信号101が印加されてからq番目に記録された位置検出値132をT(i)(q)、とする。励起信号101を印加した時点でq=1とする。
励起信号発生部71によりランダム信号が出力される所定の期間が終了するまでステップST126の処理が繰り返され(ステップST127,No)、フィルタ適用部73は、所定の期間が終了したことを確認した時点で(ステップST127,Yes)、励起信号101と位置検出値132の記録を停止する(ステップST127)。
フィルタ適用部73は、励起信号101と位置検出値132に対して同定用フィルタを適用することで、同定用入力信号102と同定用出力信号103を計算する(ステップST128)。
励起信号101を印加した時点からq番目に記録した励起信号101と位置検出値132に対して同定用フィルタを適用した信号を、それぞれ、同定用入力信号102をUF (i)(q)とし、同定用出力信号103をTF (i)(q)とする。UF (i)(q)とTF (i)(q)は、次の式(35)と式(36)のように計算される。
ここでU(i)(q)とT(i)(q)は、それぞれi回目の自動調整操作における、励起信号101を印加した時点(q=1)からq番目に記録された、励起信号101と、位置検出値132である。
制御対象演算部74は同定用入力信号102と同定用出力信号103に基づいて励起信号101を入力として位置検出値132を出力する閉ループ制御系の伝達関数を計算する(ステップST129)。i回目の自動調整操作において計算される、励起信号101を入力、位置検出値132を出力とする閉ループ制御系の伝達関数をGid (i)(s)とする。
まず、制御象演算部74は式(37)のデータ行列DMを計算する。
ここで式(37)のnとkは、例えば、共に、UF (i)として記録されたデータ数の1/3程度の値に設定しておけばよい。
次に制御対象演算部74はデータ行列DMのLQ分解を計算する。
次に制御対象演算部74はL22の特異値分解を行う。L22の特異値を大きいものから順にならべて、それらを対角成分とした特異値行列のうち、比較的大きい特異値を対角成分に持つ部分行列をΣ1、比較的小さい特異値を対角成分に持つ部分行列をΣ2として式(39)のように特異値分解を計算する。このとき、例えば最大特異値の1/100以上の大きさの特異値がΣ1の成分となり、最大特異値の1/100未満の大きさの特異値がΣ2の成分となるようにΣ1とΣ2を定義してもよい。
さらに制御対象演算部74は拡大観測行列Obを次のように計算する。
制御対象演算部74は、式(38)より得られるL11、L21、および式(40)より得られる拡大観測行列Obを用いて次の式(41)、(42)、(43)を導く。
ここで、pは状態方程式における状態ベクトルの次数である。また、mは拡大観測行列Obの行数である。例えば、pは4〜30程度の値に設定しておけばよい。
制御対象演算部74は式(41)、(42)、(43)の解A、B、C、Dを計算し、A、B、C、Dに基づいて中間伝達関数Gid (i)(z)を次の式(44)で計算する。
式(44)において、Iは行列Aと同じ次数の単位行列を表す。また、zはz変換における進み要素である。式(44)の中間伝達関数Gid (i)(z)は閉ループ伝達関数Gid (i)(s)を離散系で表現したものであるから、中間伝達関数Gid (i)(z)を連続系の伝達関数に変換して、閉ループ伝達関数Gid (i)(s)を計算する。このとき、例えば、中間伝達関数Gid (i)(z)を双一次変換し、次の式(45)で定義されるGid*(i)(s)を計算する。
さらにGid*(i)(s)の係数と、次の式(46)に基づいてb0 (i),b1 (i),b2 (i),b3 (i),b4 (i)を計算する。
閉ループ伝達関数Gid (i)(s)が次の式(47)で得られる。
ステップST129までの処理が実行された後、制御装置70では、実施の形態1のステップST12〜ステップST16と同様の処理(ステップST130〜ステップST134)が行われる。
フィルタ決定部12では、i−1回目の自動調整操作において調整される位置制御部801の制御パラメータと、i−1回目の自動調整操作において同定される既知の制御対象3002の伝達関数P(i−1)(s)とに基づいて、遮断周波数ω*(i)が次の式(48)を満たすように計算される(ステップST135)。
ここで、j=sqrt(−1)であり、abs(x)は複素数xの絶対値を表す。フィルタ決定部12において、式(48)を満たすω*(i)を計算し、ωc (i)=γ3・ω*(i)として、遮断周波数ωc (i)を計算する。ここでγ3は定数であり、γ3は0.1〜10程度の値に設定しておく。フィルタ決定部12は、計算された遮断周波数ωc (i)をフィルタパラメータ信号107として出力する。
実施の形態7の自動調整操作によれば、閉ループ制御系の伝達関数の正確な同定を行うことで、位置制御部801の制御パラメータを高精度に調整することができ、位置指令値に対する応答性の良い位置決め装置を実現することができる。
実施の形態7の自動調整部7000の構成は、実施の形態3の自動調整部3000と同じなので、実施の形態3と同様に、フィルタ決定部において同定用フィルタの遮断周波数を決定し、自動調整操作を繰り返すことで、高精度な制御パラメータの調整を行うことができる。
実施の形態7では位置制御部801の伝達特性をPID制御として説明を行ったが、他の制御、例えば、PI制御、位相進み・遅れ補償などを用いてもよい。
なお、実施の形態1〜5では制御装置10〜50をウェブ搬送装置の張力制御に適用した例を説明し、実施の形態6では制御装置60を冷凍サイクル装置の温度制御に適用した例を説明し、実施の形態7では制御装置70を位置決め装置の位置制御に適用した例を説明したが、本発明の制御装置10〜70の制御対象はこれらに限定されるものではなく、フィードバック制御が適用される制御対象であればどのような制御対象でもよい。
また、実施の形態1〜7に示した制御装置10〜70は、本発明の内容の一例を示すものであり、更なる別の公知技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは無論である。