以下、本発明に係るガスタービンプラントの各種実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
「第一実施形態」
まず、図1〜図9を用いて、第一実施形態としてのガスタービンプラントについて説明する。
本実施形態のガスタービンプラントは、図1に示すように、燃料ガスにより駆動するガスタービン10と、このガスタービン10の駆動で発電する発電機19と、ガスタービン10に燃料ガスを供給する燃料ガス設備20と、これらを制御する制御装置100と、を備えている。
ガスタービン10は、大気を圧縮して圧縮空気を生成する空気圧縮機11と、燃料ガスに圧縮空気を混合して燃焼させ高温の燃焼ガスを生成する燃焼器12と、燃焼ガスにより駆動するタービン13と、を備えている。
空気圧縮機11は、大気を圧縮して圧縮空気を生成し、これを燃焼器12に送る。燃焼器12は、燃料ガスをこの圧縮空気と混合して燃焼させ、燃焼ガスを生成し、これをタービン13に送る。タービン13は、この高温高圧の燃焼ガスにより駆動し、このタービン13に接続されている発電機19を駆動させる。タービン13を通過した燃焼ガスは、例えば、廃熱回収装置に送られ、そこでこの燃焼ガスの熱が回収される。
燃料ガス設備20は、製鉄所の高炉からの低カロリー燃料ガスとしてのBFG(Blast Furnace Gas)が通るBFGライン21と、コークスプラントのコークス炉からの高カロリー燃料ガスとしてのCOG(Coke Oven Gas)が通るCOGライン22と、BFGライン21からのBFGとCOGライン22からのCOGとを混合する混合器23と、この混合器23でBFGとCOGとが混合されて燃料ガスを燃焼器12に送る主燃料ガスライン24と、この主燃料ガスライン24に設けられ、燃料ガスを加圧する燃料ガス圧縮機25と、燃料ガス圧縮機25で加圧された燃料ガスを主燃料ガスライン24中の上流側部分に戻す燃料リターンライン26と、を備えている。
燃料ガス圧縮機25は、燃料ガスの吸込量を調節するための吸気量調節器31を備えている。この吸気量調節器31は、燃料ガス圧縮機25の吸込口に設けられている入口案内翼32と、この入口案内翼32の開度を変える案内翼駆動装置33とを有している。また、燃料リターンライン26には、燃料ガス圧縮機25で加圧された燃料ガスのうち、主燃料ガスライン24の上流側部分に戻す燃料ガスの流量を調節するリターン流量調節弁34が設けられている。
なお、本実施形態では、燃料ガス圧縮機25の吸気量調節器31と燃料リターンライン26中のリターン流量調節弁34とで燃料流量調節器30を構成している。燃焼器12に供給する燃料ガスの流量は、燃料流量調節器30を構成する燃料ガス圧縮機25の吸気量調節器31とリターン流量調節弁34とのうち、吸気量調節器31の入口案内翼32の開度を変えることのみで調節することができる。しかしながら、本実施形態では、燃料ガスの流量調節の応答性を高めるためにリターン流量調節弁34を設けている。このため、本実施形態において、入口案内翼32の開度は、燃料ガスの目標とする流量が大きくなるに伴って大きくなり、リターン流量調節弁34の弁開度は、逆に、燃料ガスの目標とする流量が大きくなるに伴って小さくなる。なお、吸気量調節器31及びリターン流量調節弁34には、制御装置100から同一の開度指令が出力される。但し、吸気量調節器31は、開度指令が示す開度をそのまま解釈して、入口案内翼32の開度がこの開度になるよう調節するのに対し、リターン流量調節弁34は、開度指令が示す開度が大きいほど弁開度を小さくすると解釈して、弁開度がこの解釈に応じた開度になるよう調節する。
COGライン22には、COGの流量を調節するCOG流量調節弁35が設けられている。このCOG流量調節弁35は、その弁開度が変わってCOG流量を変えることで、燃料ガスの単位量当たりのカロリー値、つまり単位カロリー値を調節するカロリー調節器を成している。
主燃料ガスライン24には、この主燃料ガスライン24を通る燃料ガスの単位カロリー値を検知するカロリー計41が設けられている。また、ガスタービン10には、空気圧縮機11が吸い込む大気の温度を検知する大気温度計42と、この大気の圧力を検知する大気圧力計43と、空気圧縮機11の吐出圧、つまり圧縮空気の圧力を検知する圧縮空気圧力計44と、タービン13から排気された燃焼ガスの温度を検知する排気温度計45とが設けられている。また、発電機19には、ガスタービン出力の変化に影響を与える出力影響値の検知器として、その発電量、言い換えるとガスタービン出力を検知する出力計46が設けられている。
制御装置100は、COG流量調節弁35に対してその弁開度を指示して、燃料ガスのカロリーを制御するカロリー制御部110と、このカロリー制御部110の動作を指示するカロリー制御指示部120と、燃料流量調節器30を構成する吸気量調節器31の入口案内翼32の開度及びリターン流量調節弁34の弁開度を指示して、燃焼器12に供給される燃料ガスの流量を制御する燃料流量制御部130と、を有している。
制御装置100のカロリー制御部110は、図2に示すように、予め定められた初期設定カロリーを出力する初期設定カロリー出力部111と、大気温度計42で検知された大気温度に応じた設定カロリーである低設定カロリーを出力する低設定カロリー出力部112と、初期設定カロリーと低設定カロリーとのうちの一方の設定カロリーを出力する出力切替部113と、出力切替部113から出力された設定カロリーとカロリー計41で検知された燃料ガスのカロリー値との偏差Δを求めるカロリー偏差演算部114と、この偏差Δが0に近づくCOG流量調節弁35の弁開度を求めて、この弁開度を示す開度指令をCOG流量調節弁35に出力する開度指令出力部115と、を有している。
低設定カロリー出力部112は、大気温度と低設定カロリーとの関係を示す(温度−カロリー)特性を持っており、この(温度−カロリー)特性を用いて、大気温度計42で検知された大気温度に応じた低設定カロリーを出力する。この(温度−カロリー)特性は、図5に示すように、大気温度が高くなるに連れて、次第に低設定カロリーの値が低くなる関係である。なお、この(温度−カロリー)特性で、予め定められた大気温度許容値以上の大気温度に対する低設定カロリーの値は、初期設定カロリーよりも低い値である。また、この大気温度許容値は、ガスタービンプラントが設置される地域の年間を通じた気温の変化に基づいて定められる値で、例えば、日本においては26℃〜30℃である。
カロリー制御指示部120は、前述の大気温度許容値を出力する大気温度許容値出力部121と、この大気温度許容値と大気温度計42で検知された大気温度との比較結果に応じて、カロリー制御部110の出力切替部113に対して切替指令を出力する比較部122と、を有している。比較部122は、大気温度計42で検知された大気温度が大気温度許容値より高くなると、低設定カロリーの出力指示を示す切替指令を出力し、大気温度計42で検知にされた大気温度が大気温度許容値以下になると、初期設定カロリーの出力指示を示す切替指令を出力する。
大気温度が大気温度許容値以下である場合、カロリー制御指示部120の比較部122は、初期設定カロリー処理の実行を示す切替指令を出力する。カロリー制御部110の出力切替部113は、この切替指令を受けると、初期設定カロリー出力部111からの初期設定カロリーを出力する。カロリー偏差演算部114は、出力切替部113からの初期設定カロリーとカロリー計41で検知された燃料ガスのカロリー値との偏差Δを求める。開度指令出力部115は、この偏差Δが0に近づくCOG流量調節弁35の弁開度を求めて、この弁開度を示す開度指令をCOG流量調節弁35に出力する。この結果、燃料ガス中のCOGの混合比が変わり、燃料ガスのカロリー値はほぼ初期設定カロリーになる。
また、大気温度が大気温度許容値より高くなると、カロリー制御指示部120は、カロリー低下処理の実行を示す切替指令を出力する。カロリー制御部110の出力切替部113は、この切替指令を受けると、低設定カロリー出力部112からの低設定カロリーを出力する。この際、低設定カロリー出力部112は、初期設定カロリーよりも低く、且つ大気温度計42で検知された大気温度に応じた低設定カロリーを出力する。カロリー偏差演算部114は、出力切替部113からの初期設定カロリーとカロリー計41で検知された燃料ガスのカロリー値との偏差Δを求める。開度指令出力部115は、この偏差Δが0に近づくCOG流量調節弁35の弁開度を求めて、この弁開度を示す開度指令をCOG流量調節弁35に出力する。この結果、燃料ガス中のCOGの混合比が変わり、燃料ガスのカロリー値はほぼ低設定カロリーになる。この低設定カロリーは、前述したように、初期設定カロリーよりも低い値であるため、大気温度が大気温度許容値より高くなると、燃料ガスのカロリー値は、このカロリー制御部110による制御により、大気温度が大気温度許容値以下の場合と比べて低くなる。また、この低設定カロリーは、大気温度が高くなるに連れて低くなるので、燃料ガスのカロリー値は、このカロリー制御部110による制御により、大気温度が高くなるに連れて低くなる。
なお、ここでは、カロリー計41で検知されたカロリー値と設定カロリーとの偏差Δに基づいて、燃料ガスのカロリー値が設定カロリーになるようフィードバック制御を実行している。しかしながら、一方的に設定カロリー見合いの弁開度をCOG流量調節弁35に出力するフィードフォワード制御を実行してもよい。この場合、初期設定カロリー出力部111及び低設定カロリー出力部112は、設定カロリーの替わりに、設定カロリー見合いの弁開度を出力するようにしてもよい。
燃料流量制御部130は、タービン入口温度(ガスタービン10の状態量)がその上限値になる燃料流量に対応する入口案内翼32の開度を求める上限温度制御部140と、ガスタービン出力がその上限値になる入口案内翼32の開度を求める上限出力制御部150と、上限温度制御部140で求められた入口案内翼32の開度と上限出力制御部150で求められた入口案内翼32の開度とのうち、小さい方を出力する比較部134と、この比較部134から出力された入口案内翼32の開度を示す開度指令を出力する開度指令出力部135と、を有している。
なお、タービン入口温度上限値(ガスタービン10の状態量に関する目標値)は、タービン13を構成する部品で、燃焼ガスに接触する部品を燃焼ガスの熱から保護する目的で定められた値である。ガスタービン出力の上限値である許容出力上限値は、例えば、タービン13に接続される発電機19を保護する目的で定められた値である。
タービン入口温度は、基本的に温度計で検知することが好ましい。しかしながら、タービン入口温度は、非常に高温であるため、このタービン入口温度を連続検知できる温度計は存在しない。ところで、タービン13から排気される燃焼ガスの温度である排気温度と空気圧縮機11の圧力比(吐出圧/大気圧)とで定まるガスタービン10の特定の状態点と、タービン入口温度とには相関関係がある。そこで、ここでは、図8に示すように、タービン入口温度が上限値になる排気温度と圧力比で定まる特定の状態点の集まりを温度調節特性Uとし、この温度調節特性U上に現実の排気温度と圧力比で定まる現実の状態点Qを位置させることで、タービン入口温度をその上限値になるよう管理している。
なお、以上のように、温度調節特性Uを用いて、タービン入口温度をその上限値になるよう管理する上限温度制御に関しては、例えば、特開2003−65081号公報に詳しく記載されている。また、ここでは、図8に示す温度調節特性Uを用いた上限温度制御を採用しているが、上限温度制御には各種方法があるので、本実施形態においていずれの上限温度制御方法を採用してもよい。
具体的に、燃料流量制御部130の上限出力制御部150は、現実の排気温度と圧力比で定まる現実の状態点を把握する状態点把握部141と、温度調節特性U上の状態点を出力する上限温度状態点出力部142と、現状の状態点と温度調節特性U上の状態点との偏差Δを求める状態点偏差演算部143と、この偏差Δを0に近づけることができる入口案内翼32の開度を求める開度演算部144と、を有している。
状態点把握部141には、排気温度計45で検知された排気温度(Te)と、大気圧力計43で検知された大気圧力(Pa)と、圧縮空気圧力計44で検知された圧縮空気圧力(吐出圧:Pd)とが入力する。状態点把握部141は、図8に示すように、これらに基づいて現状の状態点Q(Te,Pd/Pa)を把握する。上限温度状態点出力部142は、例えば、この現実の状態点Qが示す排気温度Teにおける温度調節特性U上の状態点Qu(Te,Pu)の圧力比Puを出力する。そして、状態点偏差演算部143は、現実の状態点Qの圧力比Pd/Paと、温度調節特性U上の状態点Quの圧力比Puとの偏差Δを求める。
空気圧縮機11の圧力比(吐出圧/大気圧)は、燃焼ガス質量流量(燃料ガス質量流量+空気質量流量)や、ガスタービン出力とほぼ比例する。また、入口案内翼32の開度と燃料ガス質量流量とは一定の関係がある。そこで、開度演算部144は、これらの関係を用いて、周知の方法により、圧力比の偏差Δを0にする入口案内翼32の開度を求める。
燃料流量制御部130の上限出力制御部150は、許容出力上限値を出力する許容出力上限値出力部152と、出力計46で検知された出力と許容出力上限値との偏差Δを求める出力偏差演算部153と、この偏差Δを0に近づけることができる入口案内翼32の開度を求める開度演算部154と、を有している。
比較部134は、上限温度制御部140で求められた入口案内翼32の開度と上限出力制御部150で求められた入口案内翼32の開度とのうち、小さい方を出力する。開度指令出力部135は、比較部134から出力された入口案内翼32の開度を示す開度指令を吸気量調節器31及びリターン流量調節弁34に出力する。
この結果、燃焼器12に供給される燃料ガスの流量は、タービン入口温度がその上限値になる流量、又は、ガスタービン出力がその上限値になる流量になる。なお、以下では、上限温度制御部140からの出力で、タービン入口温度がその上限値になるよう燃料流量を制御することを上限温度制御とする。また、上限出力制御部150からの出力で、ガスタービン出力がその上限値になるよう燃料流量を制御すること上限出力制御とする。
本実施形態では、ガスタービン10からできる限り大きく出力を得るために、通常、タービン入口温度がその上限値になるように、上限温度制御を実行する。つまり、本実施形態において、燃料流量は、通常、上限温度制御部140で求められた入口案内翼32の開度に応じた燃料流量になる。但し、タービン入口温度がその上限値のとき、ガスタービン出力がその上限値を超える場合がある。そこで、本実施形態では、タービン入口温度が上限値を超えず、且つガスタービン出力がその上限値を超えないようにするため、燃料流量制御部130の比較部134は、上限温度制御部140で求められた入口案内翼32の開度と上限出力制御部150で求められた入口案内翼32の開度とのうち、小さい方を出力する。
次に、図3に示すシーケンス図及び図4に示すタイムチャートに従って、本実施形態のガスタービンプラントの動作について説明する。なお、以下では、簡単のため、燃料流量制御部130が上限温度制御処理を実行しているときのガスタービンプラントの動作について説明する。
大気温度が大気温度許容値以下の場合、前述したように、カロリー制御部110は、初期設定カロリー見合いの開度指令をCOG流量調節弁35に出力する、つまり初期設定カロリー処理を実行する(S1)。このため、燃焼器12に供給される燃料ガスのカロリー値は、ほぼ初期設定カロリーに維持される。また、燃料流量制御部130は、タービン入口温度がその上限値になる開度を示す開度指令を吸気量調節器31及びリターン流量調節弁34に出力する、つまり上限温度制御処理を実行する(S2)。このため、タービン入口温度は、ほぼその上限値に維持される。
図4に示すように、大気温度が上昇し始めると(t1)、空気の密度が小さくなり、空気圧縮機11が吸い込む空気の質量流量、つまり吸気質量流量が減少する。吸気質量流量が減少すると、燃料ガスの質量流量に対する吸気質量流量の割合が小さくなるので、燃料ガスのカロリー値及び質量流量に変化が無ければ、タービン入口温度が上昇する。そこで、燃料流量制御部130は、タービン入口温度がその上限値に維持されるよう、燃料ガス圧縮機25の入口案内翼32の開度を小さくして、燃料ガスの質量流量も吸気質量流量と同様に減少させる。このため、燃焼器12内に供給される燃料ガスの質量流量及び吸気質量流量の双方が減少により、タービン13を通過する燃焼ガスの質量流量(燃料ガスの質量流量+吸気質量流量)が減少して、燃料ガス圧縮機25の圧力比及びガスタービン出力が低下する。
大気温度がさらに上昇して大気温度許容値を超えると(t2)、カロリー制御指示部120は、カロリー制御部110に対してカロリー低下処理への切替指令を出力し、カロリー制御の切替を指示する、つまり切替指令を出力する(S3)。カロリー制御部110の出力切替部113は、この切替指令を受けると、低設定カロリー出力部112からの低設定カロリーを出力する。そして、カロリー制御部110の開度指令出力部115は、大気温度計42で検知された大気温度に応じた低設定カロリー見合いの弁開度を示す弁開度指令をCOG流量調節弁35に出力する(S4)。つまり、カロリー制御は初期設定カロリー処理からカロリー低下処理に移行する。この結果、COG流量調節弁35の弁開度が小さくなって、高カロリーのCOG流量が減少し、燃料ガスのカロリー値は、初期設定カロリーよりも低い低設定カロリーになる。
燃料ガスのカロリー値が低下すると、燃焼器12に供給されるカロリー値が低下するため、一時的にタービン入口温度が低下する(t3)。タービン入口温度が低下すると、上限温度制御中の燃料流量制御部130は、タービン入口温度をその上限値に維持するための入口案内翼32の開度に関する開度指令を吸気量調節器31に出力する(S5)。この結果、入口案内翼32の開度が大きくなり、燃焼器12に供給される燃料ガスの流量が増加し(t4)、タービン入口温度が上限値に復帰する(t5)。なお、制御内容を理解し易くするために、図4では、燃料ガスのカロリー値が低下によるタービン入口温度の低下(t3)を極端に描いているが、実際には、タービン入口温度の低下の程度は僅かである。
燃焼器12内に供給される燃料ガスの質量流量が増加すると(t4)、図4に示すように、タービン13を通過する燃焼ガスの質量流量も増加して、燃料ガス圧縮機25の圧力比及びガスタービン出力が上昇する。この結果、ガスタービン出力は、大気温度が上昇し始める前のガスタービン出力とほぼ同じ値になる。
このように、本実施形態では、大気温度が上昇する前に比べて燃料ガスの質量流量を増加させるため、燃料ガス圧縮機25は、燃料ガスのカロリー値が低下させられている状態で、ガスタービン10の状態量の目標値であるタービン入口温度上限値を維持できる燃料ガスの流量、つまり燃料ガスの増量後の流量を確保できる容量がある必要がある。また、空気圧縮機11は、燃料ガスのカロリー値が低下させられ、燃料ガスの流量がタービン入口温度上限値を維持できる流量になっている際、つまり、燃料ガスの流量が燃料ガスのカロリー低下前に比べて燃料ガスの流量が増加している際、この空気圧縮機11の吐出口圧力がサージ限界圧力未満である必要がある。
その後、大気温度がさらに上昇すると、カロリー制御部110は、再び、大気温度計42で検知された大気温度に応じた低設定カロリー見合いの弁開度を示す弁開度指令をCOG流量調節弁35に出力する(S4)。この結果、COG流量調節弁35の弁開度がさらに小さくなって、高カロリーのCOG流量が減少し、燃料ガスのカロリー値は、さらに低い低設定カロリーになる。燃料ガスのカロリー値が低下すると、前述の場合と同様に、一時的にタービン入口温度が低下するため、燃料流量制御部130は、タービン入口温度をその上限値に維持するための入口案内翼32の開度に関する開度指令を吸気量調節器31に出力する(S5)。この結果、入口案内翼32の開度がさらに大きくなり、燃焼器12に供給される燃料ガスの流量が増加して、タービン入口温度が上限値に復帰する。
このように、大気温度が大気温度許容値を超えた以降、さらに上昇しても、図4に示すように、燃焼器12内に供給される燃料ガスの質量流量が増加し、燃料ガス圧縮機の圧力比及びガスタービン出力は、大気温度が上昇し始める前の値とほぼ同じ値を維持することになる。
すなわち、本実施形態では、大気温度が上昇しても、ガスタービン出力の低下を抑えることができる。なお、大気温度が大気温度許容値を超えた時点(t2)で、燃料流量制御部130が上限出力制御していても、カロリー制御部110によりカロリー低下処理が実行されて、燃料ガスのカロリー値が低下すると、ガスタービン出力及びタービン入口温度が低下するため、燃料流量制御部130は、上限温度制御に移行する。そして、その後、燃料流量制御部130は、以上で説明した同様の処理を実行する。よって、大気温度が大気温度許容値を超えた時点(t2)で、燃料流量制御部130が上限出力制御していても、大気温度の上昇によるガスタービン出力の低下を抑えることができる。
ここで、カロリー低下処理中の上限温度制御部140の動作について、図8に示すガスタービンの状態図を用いて簡単に説明する。
大気温度が上昇し始めると(t1)、空気圧縮機11の吸気質量流量が減少し始めると共に、上限温度制御の実行により燃料ガスの質量流量が減少し始める。ところで、空気圧縮機11の圧力比は、前述したように、燃焼ガス質量流量(燃料ガス質量流量+空気質量流量)とほぼ比例する。このため、大気温度が上昇し始めると(t1)、上限温度制御下でのガスタービン10の状態点は、温度調節特性U上であって空気圧縮機11の圧力比が小さくなる側、言い換えると排気温度が高くなる側に移行する。
大気温度がさらに上昇して大気温度許容値を超えると(t2)、本実施形態では、カロリー低下処理が実行され、タービン入口温度が一時的に低下すると共に、排気温度も低下する(t3)。上限温度制御部140は、例えば、この時点(t3)での状態点が示す排気温度における温度調節特性U上の状態点になるように燃料流量を制御する。この結果、ガスタービン10の状態点は温度調節特性U上であって空気圧縮機11の圧力比が大きくなる側、言い換えると排気温度が低くなる側に移行し(t5)、大気温度が上昇し始めた時点(t1)の状態点とほぼ同じ位置になる。
よって、本実施形態では、大気温度が上昇しても、上限温度制御下でカロリー低下処理が実行されることにより、ガスタービン10の状態点は大気温度上昇前の状態点とほぼ同じ位置になるため、空気圧縮機11の圧力比及び燃焼ガスの質量流量も大気温度上昇前の質量流量とほとんど変わらないことになる。
再び、ガスタービンプラントの動作について、図3に示すシーケンス図及び図4に示すタイムチャートに従って説明する。
図4に示すように、大気温度が低下し始め(t6)、吸気質量流量が増加し始めると、カロリー制御部110は、大気温度計42で検知された大気温度に応じた低設定カロリー見合いの弁開度を示す弁開度指令をCOG流量調節弁35に出力する。この場合、低設定カロリーは、大気温度の低下に対して高くなるので、COG流量調節弁35の弁開度が大きくなり、高カロリーのCOG流量が増加して、燃料ガスのカロリー値が上昇する。燃料流量制御部130は、燃料ガスのカロリー上昇に伴うタービン入口温度の上昇を抑えるために、燃焼器12に供給される燃料ガスの質量流量を減少させる。このため、本実施形態では、大気温度の低下により吸気質量流量が増加しても、燃料ガスの質量流量が減少するので、燃焼ガスの質量流量はほぼ維持される。よって、大気温度が大気温度許容値より高く、カロリー低下処理が実行される間に、大気温度が変動しても、燃焼ガスの質量流量がほぼ維持され、ガスタービン出力もほぼ維持される。
大気温度がさらに低下し、大気温度許容値以下になると(t7)、カロリー制御指示部120は、カロリー制御部110に対して初期設定カロリー処理への移行を示す切替指令を出力して、カロリー制御の切替を指示する(S6)。カロリー制御部110は、この切替指令を受けると、カロリー制御をカロリー低下処理から初期設定カロリー処理に切り替える。つまり、カロリー制御部110は、予め設定されている初期設定カロリー見合いの弁開度を示す弁開度指令をCOG流量調節弁35に出力する(S7)。この結果、COG流量調節弁35の弁開度が大きくなって、高カロリーのCOG流量が増加し、燃料ガスのカロリー値は、低設定カロリーよりも高い初期設定カロリーになる。
燃料ガスのカロリー値が上昇すると、燃焼器12に供給されるカロリー値も上昇するため、一時的にタービン入口温度が上昇する(t8)。タービン入口温度が上昇すると、燃料流量制御部130は、タービン入口温度をその上限値に維持するための入口案内翼32の開度に関する開度指令を吸気量調節器31に出力する(S8)。この結果、入口案内翼32の開度が小さくなり、燃焼器12に供給される燃料ガスの流量が減少し(t9)、タービン入口温度が上限値に復帰する(t10)。なお、制御内容を理解し易くするために、図4では、燃料ガスのカロリー値が上昇によるタービン入口温度の上昇(t8)を極端に描いているが、実際には、タービン入口温度の上昇の程度は僅かである。
以上、本実施形態では、図9に示すように、大気温度が上昇して、空気圧縮機11による吸気質量流量が減少しても、上限温度制御下でカロリー低下処理が実行されることにより、燃料ガスの質量流量が増加して、燃焼ガスの質量流量がほぼ維持されるので、ガスタービン出力の低下を抑えることができる。
すなわち、図4に示すように、燃焼器12内に供給される燃料ガスの質量流量が増加すると(t4)、タービン13を通過する燃焼ガスの質量流量も増加して、燃料ガス圧縮機25の圧力比及びガスタービン出力が上昇する。この結果、ガスタービン出力は、大気温度が上昇し始める前のガスタービン出力とほぼ同じ値になる。
なお、以上の実施形態では、大気温度がその上限値を超えたか否かにより、自動的にカロリー低下処理を実行するようにしているが、このガスタービンプラントのオペレータ等がカロリー低下処理の実行に関する指令を制御装置100に入力し、この指令の入力によりカロリー低下処理を実行するようにしてもよい。また、以上では、カロリー低下処理を実行する温度範囲を予め定めた大気温度許容値に限定しているが、この温度範囲の限定を排除し、大気温度が上昇すれば、常時、その大気温度がどのような値でもカロリー低下処理を実行するようにしてもよい。
また、以上の実施形態では、ガスタービン出力の変化に影響を与える出力影響値として、大気温度を検知している。しかしながら、これは、空気圧縮機11の吸気質量流量の変化を検知するためであるから、大気温度の変りに、大気圧力を検知してもよいし、大気密度を検知してもよい。つまり、大気密度と相関関係のある大気密度相関値であれば如何なる値を検知してもよい。
大気圧力を検知する場合、大気圧力が低下すると大気密度が小さくなって、空気圧縮機11の吸気質量流量が減少するため、大気圧力に対する低設定カロリーは、図6に示すように、大気圧力の低下に伴って、低下するように設定することになる。
また、大気密度を検知する場合、大気密度が小さくなると、空気圧縮機11の吸気質量流量が減少するため、大気密度に対する低設定カロリーは、図7に示すように、大気密度が小さくなるに伴って、低下するように設定することになる。なお、大気密度を検知する場合は、例えば、大気温度及び大気圧力を検知し、これらの値から大気密度を求めるとよい。
また、以上では、燃料ガスのカロリー値を低下させるために、COGの流量を減少させているが、BFGの流量を調節できる場合には、このBFGの流量を増加させてもよい。すなわち、燃料ガスのカロリー値を低下させる場合、プラントに応じて、高カロリーガスの流量を減少させてもよいし、低カロリーガスの流量を増加させてもよい。また、不活性ガスを混合することにより、燃料ガスのカロリー値を低下させてもよい。
また、以上では、高カロリーガスとして、COGを用いているが、この替わりに、転炉ガスや天然ガスを用いてもよし、COG、転炉ガス、天然ガスのいずれか2つ以上の混合ガスを用いてもよい。
「第二実施形態」
次に、図10〜図13を用いて、第二実施形態としてのガスタービンプラントについて説明する。
本実施形態のガスタービンプラントは、図10に示すように、第一実施形態のガスタービンプラントと同様、燃料ガスにより駆動するガスタービン10と、このガスタービン10の駆動で発電する発電機19と、ガスタービン10に燃料ガスを供給する燃料ガス設備20と、これらを制御する制御装置100aと、を備えている。
本実施形態では、ガスタービン10、発電機19及び燃料ガス設備20は、第一実施形態と同様で、制御装置100aのみが第一実施形態と異なっている。そこで、以下では、制御装置100aについて主として詳細に説明する。
本実施形態の制御装置100aは、COG流量調節弁35に対してその弁開度を指示して、燃料ガスのカロリー値を制御するカロリー制御部110aと、このカロリー制御部110aの動作を指示するカロリー制御指示部120aと、燃料流量調節器30を構成する吸気量調節器31の入口案内翼32の開度及びリターン流量調節弁34の弁開度を指示して、燃焼器12に供給される燃料ガスの流量を制御する燃料流量制御部130aと、ガスタービン10の目標出力を受け付ける目標出力受付部102と、を有している。
制御装置100aのカロリー制御部110aは、予め定められた初期設定カロリーを出力する初期設定カロリー出力部111と、現状の設定カロリーCaから予め定められたカロリー変化幅分dCを減算して、その結果である低設定カロリーを出力する低設定カロリー出力部112aと、初期設定カロリーと低設定カロリーとのうちの一方の設定カロリーを出力する出力切替部113aと、出力切替部113aから出力された設定カロリーとカロリー計41で検知された燃料ガスのカロリー値との偏差Δを求めるカロリー偏差演算部114と、この偏差Δが0に近づくCOG流量調節弁35の弁開度を求めて、この弁開度を示す開度指令をCOG流量調節弁35に出力する開度指令出力部115と、を有している。
低設定カロリー出力部112aは、一旦、低設定カロリーを出力すると、予め定められた制御周期で、その時点での設定カロリーCaから予め定められたカロリー変化幅分dCを引いた値を低設定カロリーとして順次出力する。このため、低設定カロリーは、繰り返して出力される過程で、次第に低い値になる。但し、設定カロリーには下限値があるため、低設定カロリー出力部112aは、予め定められた回数だけ低設定カロリーを出力すると、以降、最後に出力した値の低設定カロリーを出力し続ける。
カロリー制御指示部120aは、目標出力受付部102が受け付けたガスタービン10の目標出力の所定比率分の値と出力計46で検知されたガスタービン出力(ガスタービン出力の変化に影響を与える出力影響値の一種)とを比較し、その比較結果に応じてカロリー低下処理への切替指令を出力する比較部122aと、カロリー低下処理から初期設定カロリー処理への切替指示を外部から受け付けて、カロリー低下処理から初期設定カロリー処理への切替指令を出力する切替受付部123と、を有している。比較部122aは、目標出力受付部102が受け付けたガスタービン10の目標出力の所定比率分の値と出力計46で検知されたガスタービン出力とを比較し、検知された出力が目標出力の所定比率分の値を下回ると、初期設定カロリー処理からカロリー低下処理への切替指令を出力する。ここで、ガスタービン10の目標出力の所定比率分は、例えば、目標出力の95%である。従って、この場合、比較部122aは、出力計46で検知された出力が目標出力の95%を下回ると、初期設定カロリー処理からカロリー低下処理への切替指令を出力する。
カロリー制御部110aの出力切替部113aは、このカロリー低下処理への切替指令を受けると、低設定カロリー出力部112aからの低設定カロリーを出力する。また、出力切替部113aは、初期設定カロリー処理への切替指令を受け付けると、初期設定カロリー出力部111からの初期設定カロリーを出力する。カロリー偏差演算部114は、出力切替部113aからの設定カロリーとカロリー計41で検知された燃料ガスのカロリー値との偏差Δを求める。開度指令出力部115は、この偏差Δが0に近づくCOG流量調節弁35の弁開度を求めて、この弁開度を示す開度指令をCOG流量調節弁35に出力する。
なお、本実施形態でも、第一実施形態と同様に、カロリー計41で検知されたカロリー値と設定カロリーとの偏差Δに基づいて、燃料ガスのカロリー値が設定カロリーになるようフィードバック制御を実行している。しかしながら、一方的に、設定カロリー見合いの弁開度をCOG流量調節弁35に出力するフィードフォワード制御を実行してもよい。この場合、初期設定カロリー出力部111及び低設定カロリー出力部112aは、設定カロリーの替わりに、設定カロリー見合いの弁開度を出力するようにしてもよい。
燃料流量制御部130aは、タービン入口温度をその上限値にするためのガスタービン10の状態点と現状のガスタービン10の状態点との偏差Δを0に近づけることができる入口案内翼32の開度を出力する上限温度制御部140aと、目標出力受付部102が受け付けたガスタービン10の目標出力と出力計46で検知された出力との偏差Δを0に近づけることができる入口案内翼32の開度を出力する目標出力制御部150aと、上限温度制御部140aからの入口案内翼32の開度と目標出力制御部150aからの入口案内翼32の開度とを比較して、小さい方の開度を出力する比較部134aと、比較部134aから出力された入口案内翼32の開度を示す開度指令を出力する開度指令出力部135aと、を有している。なお、以下では、上限温度制御部140aからの入口案内翼32の開度を比較部134aが出力している制御状態を上限温度制御といい、目標出力制御部150aからの入口案内翼32の開度を比較部134aが出力している制御状態を目標出力制御という。
上限温度制御部140aは、現状の排気温度と圧力比で定まる現状の状態点を把握する状態点把握部141と、温度調節特性U上の状態点を出力する上限温度状態点出力部142と、現状の状態点と温度調節特性U上の状態点との偏差Δを求める状態点偏差演算部143aと、この偏差Δを0に近づけることができる入口案内翼32の開度を求める開度演算部144aと、を有している。また、目標出力制御部150aは、目標出力受付部102が受け付けたガスタービン10の目標出力と出力計46で検知された出力との偏差Δを求める出力偏差演算部153aと、この偏差Δを0に近づけることができる入口案内翼32の開度を求める開度演算部154aと、を有している。
比較部134aは、上限温度制御部140aで求められた入口案内翼32の開度と目標出力制御部150aで求められた入口案内翼32の開度とのうち、小さい方を出力する。開度指令出力部135aは、比較部134aから出力された入口案内翼32の開度を示す開度指令を吸気量調節器31及びリターン流量調節弁34に出力する。
次に、図11に示すシーケンス図及び図12に示すタイムチャートに従って、本実施形態のガスタービンプラントの動作について説明する。
ガスタービン出力が目標出力の所定比率分(例えば、95%)以上の場合、前述したように、カロリー制御部110aは、初期設定カロリー見合いの開度指令をCOG流量調節弁35に出力する、つまり初期設定カロリー処理を実行する(S20)。このため、燃焼器12に供給される燃料ガスのカロリー値は、ほぼ初期設定カロリーに維持される。また、大気温度が比較的低い場合、つまり大気密度が比較的高い場合、燃料流量制御部130aは、ガスタービン出力が目標出力になる開度を示す開度指令を吸気量調節器31及びリターン流量調節弁34に出力する、つまり目標出力制御を実行する(S21)。このため、ガスタービン出力はほぼ目標出力に維持される。
大気温度が上昇し(t21)、空気の密度が小さくなると、空気圧縮機11が吸い込む空気の質量流量、つまり吸気質量流量が減少する。吸気質量流量が減少すると、ガスタービン出力が低下する(t22)。このため、出力計46で検知されたガスタービン出力と目標出力との偏差Δが大きくなり、目標出力制御中の燃料流量制御部130aは、この偏差Δが0に近づく入口案内翼32の開度を求め、この開度を示す開度指令を吸気量調節器31及びリターン流量調節弁34に出力する(S22)。この場合、入口案内翼32の開度は大きくなり、燃料流量が増加する(t23)。この結果、ガスタービン出力は元の目標出力に戻る(t24)。すなわち、多少、大気温度が上昇しても、ガスタービン出力は目標出力に維持される。
ここで、以上の変化について、図13に示すガスタービンの状態図を用いて説明する。大気温度が上昇し、空気の密度が小さくなると、前述したように、空気圧縮機11が吸い込む空気の質量流量、つまり吸気質量流量が減少する。一方で、燃料質量流量は変わらないので、ガスタービン出力が低下すると共に、空気圧縮機11の圧力比が低下する。さらに、空気の質量流量に対する燃料質量流量の割合が高まるので、タービン入口温度が上昇し、排気温度も高まる。このため、大気温度が上昇してガスタービン出力が低下した時点(t22)の状態点は、大気温度が上昇する前と比べて、排気温度が高く、且つ空気圧縮機11の圧力比が小さい位置に移動する。燃料流量制御部130aは、この状態点の変化に対して、ガスタービン出力を上げるため、燃料質量流量を増加させる。この結果、ガスタービン出力が上昇して元の目標出力に戻ると共に、空気の質量流量に対する燃料質量流量の割合が高まるので、排気温度は高まる。このため、この時点(t24)の状態点は、燃料質量流量が増加する前(t22)と比べて、排気温度が高く、且つ空気圧縮機11の圧力比が大きい位置に移動する。
大気温度がさらに上昇すると(t25)、この時点の状態点は、排気温度がさらに高く、且つ空気圧縮機11の圧力比が小さい位置に移動する。この際、この時点(t25)の状態点が温度調節特性Uよりも排気温度が高い側に位置していると、タービン入口温度がその上限値を超えていることになるので、燃料流量制御部130aは温度上限制御に移行する。温度上限制御に移行した燃料流量制御部130aは、この状態点の変化に対して、タービン入口温度を下げるため、燃料質量流量を減少させる(t26)。この結果、タービン入口温度が下がってその上限値になると共に、ガスタービン出力が低下する(t27)。このため、この時点(t27)の状態点は、燃料質量流量が減少する前と比べて、排気温度が低く、且つ空気圧縮機11の圧力比が小さい位置に移動する。
ここで、以上の状態点の変化に対するガスタービンプラントの動作について、再び、図11及び図12に従って説明する。
温度上限制御部の状態点把握部141には、第一実施形態と同様、大気圧力計43で検知された大気の圧力、圧縮空気圧力計44で検知された圧縮空気の圧力、排気温度計45で検知された燃焼ガスの排気温度が入力している。この状態点把握部141は、これら入力した値に基づいて、常時、現状の排気温度と圧力比で定まる現状の状態点を把握している。
大気温度がさらに上昇して、タービン入口温度がその上限値よりも高くなると(t25)、目標出力制御部150aは、目標出力を維持するべく、燃料流量を増加させるため、入口案内翼32の開度を更に大きくするような開度を出力する。しかし、この場合、目標出力制御部150aからの入口案内翼32の開度は、上限温度制御部140aからの入口案内翼32の開度よりも大きくなっている。従って、燃料流量制御部130aの比較部134aは、タービン入口温度をその上限値に維持するため、より開度の小さい上限温度制御部140aからの入口案内翼32の開度を選択して出力する。この結果、開度指令出力部135aには、上限温度制御部140aからの入口案内翼32の開度が入力する。すなわち、燃料流量制御部130aは目標出力制御から上限温度制御に移行する。開度指令出力部135aは、この上限温度制御部140aからの入口案内翼32の開度を示す開度指令を吸気量調節器31及びリターン流量調節弁34に出力する(S24)。この場合、入口案内翼32の開度は小さくなり、燃料流量が減少する(t26)。そして、タービン入口温度は低下してその上限値になる(t27)。
燃料流量制御部130aは、以降、目標出力が変更されない限り、流量制御指示部101が新たな切替指令を出力しない限り、上限温度制御を継続する。このため、タービン入口温度は、以降、基本的にその上限値を維持する。
上限温度制御下で大気温度がさらに上昇すると(t28)、図13に示すように、図8を用いて前述した場合と同様、ガスタービン10の状態点は、タービン入口温度がその上限値となる温度調節特性U上であって空気圧縮機11の圧力比が小さくなる側に移動する(t29)。このため、上限温度制御下で大気温度が上昇すると、ガスタービン10の出力は低下する。この際(t29)、出力計46で検知されたガスタービン10の出力が目標出力の所定比率分(例えば、95%)を下回っていると、カロリー制御指示部120aの比較部122aは、カロリー制御部110aの出力切替部113aに対して、カロリー低下処理への切替指令を出力する(S25)。カロリー制御部110aの出力切替部113aは、この切替指令を受けると、低設定カロリー出力部112aからの低設定カロリーを出力する。つまり、カロリー制御部110aは、初期設定カロリー処理からカロリー低下処理に移行する。この際、低設定カロリー出力部112aは、まず、初期設定カロリーから予め定められたカロリー変化幅分dCを引いた値を低設定カロリーとして出力する。以降、この低設定カロリー出力部112aは、その時点での設定カロリーCaから予め定められたカロリー変化幅分dCを引いた値を低設定カロリーとして繰り返して出力する。
そして、カロリー制御部110aの開度指令出力部115は、この低設定カロリー見合いの弁開度を示す弁開度指令をCOG流量調節弁35に出力する(S26)。この結果、COG流量調節弁35の弁開度が小さくなって、高カロリーのCOG流量が減少し、燃料ガスのカロリー値は、初期設定カロリーよりも低い低設定カロリーになる。
燃料ガスのカロリー値が低下すると、燃焼器12に供給されるカロリー値が低下するため、一時的に排気温度と共にタービン入口温度が低下する(t30)。タービン入口温度が低下すると、上限温度制御中の燃料流量制御部130aは、タービン入口温度をその上限値に維持するための入口案内翼32の開度に関する開度指令を吸気量調節器31に出力する(S27)。この結果、入口案内翼32の開度が大きくなり、燃焼器12に供給される燃料ガスの流量が増加し(t31)、タービン入口温度が上限値に復帰する(t32)。なお、制御内容を理解し易くするために、図12では、燃料ガスFのカロリー値が低下によるタービン入口温度の低下(t30)を極端に描いているが、実際には、タービン入口温度の低下の程度は僅かである。また、図12では、カロリー変化幅分dCやCOG流量調節弁35の開度の変化ステップを極端に描いているが、ガスタービンの出力やタービン入口温度の急激な変化を抑えるため、実際には微小な変化幅で、略連続的な動作でカロリーを変化させている。
燃焼器12内に供給される燃料ガスの質量流量が増加すると(t31)、図12に示すように、タービン13を通過する燃焼ガスの質量流量も増加して、燃料ガス圧縮機25の圧力比及びガスタービン出力が上昇する。この結果、本実施形態では、ガスタービン出力が目標出力の所定比率分(例えば、95%)より大きく下回るのを抑制することができる。
本実施形態では、以降も、カロリー制御部110aから順次低下する低設定カロリー見合いの弁開度指令が、繰り返して、COG流量調節弁35に出力され(S26)。この結果、新たな開度指令がCOG流量調節弁35に出力される毎に、燃料ガスのカロリー低下に伴うタービン入口温度の低下を抑制するため、燃料ガスの質量流量が増加して、燃料ガス圧縮機25の圧力比及びガスタービン出力が上昇する。
低設定カロリー出力部112aは、出力する低設定カロリーが予め定められたカロリー値以下になると、以降、そのときの低設定を出力し続ける。このため、図12に示すように、カロリー低下処理が開始されて、燃料ガスFのカロリー値が低下し始めてから、所定のカロリー値まで低下すると(t33)、以降、燃料ガスのカロリー値は一定になる。
このため、燃料ガスのカロリー値が一定になると、上限温度制御下では、先に説明しているように、大気温度が上昇すると、この大気温度の上昇に伴う吸気質量流量の減少に対して、燃料流量質量流量が減少して、ガスタービン出力が低下する。また、大気温度が低下すると、この大気温度の低下に伴う吸気質量流量の増加に対して、燃料流量質量流量が増加して、ガスタービン出力が上昇する。
本実施形態では、カロリー低下処理から初期設定カロリー処理への移行は、オペレータ等による制御装置100aへのその旨の入力が必要である。つまり、切替受付部123が外部から切替指示を受け付ける必要がある。切替受付部123は、この切替指示を受け付けると、カロリー制御部110aの出力切替部113aに対して切替指令を出力する。
カロリー制御部110aの出力切替部113aは、この切替指令を受け付けると、初期設定カロリー出力部111からの初期設定カロリーを出力するようになる。つまり、カロリー制御部110aは低カロリー処理から初期設定カロリー処理に移行する。この移行前の低設定カロリーは、カロリー低下処理開始時の低設定カロリーよりも低く、初期設定カロリーとの差が比較的大きい。このため、初期設定カロリーの移行直後に、直ちに、この初期設定カロリー見合いの弁開度を示す開度指令をCOG流量調節弁35に出力すると、燃料ガスのカロリー値が急激に高まることになる。そこで、カロリー制御部110aの開度指令出力部115は、初期設定カロリー出力部111からの初期設定カロリーが入力しても、直ちに、この初期設定カロリー見合いの弁開度を示す開度指令を出力せずに、弁開度の変化率が予め定められた変化率以下になるよう開度指令を出力することが好ましい。
また、切替受付部123の切替指示の受付に伴って、カロリー制御の切替と燃料流量制御の切替とを同時に行うと、ガスタービン10の制御系の乱れが大きくなるので、カロリー制御の切替と燃料流量制御の切替とにはタイムラグを設けることが好ましい。
以上、本実施形態では、大気温度が上昇して、空気圧縮機11の吸気質量流量が減少しても、ガスタービン出力が目標出力の所定比率分(例えば、95%)より大きく下回るのを抑制することができる。
なお、本実施形態では、初期設定カロリー処理からカロリー低下処理への移行のトリガーとして、ガスタービン10の出力を用いているが、替わりに、第一実施形態と同様、大気密度相関値を用いてもよい。この場合、低設定カロリー出力部112aは、第一実施形態と同様、大気密度相関値に応じた低設定カロリーを出力するようにしてもよい。また、外部からの切替指示をトリガーとしてもよい。この場合、外部からの切替指示は、切替受付部123が受け付けることになる。
仮に、例えば、大気温度が比較的低く、燃料流量制御部130aが目標出力制御を実行している際に、切替受付部123が初期設定カロリー処理からカロリー低下処理への移行の旨を示す切替指示を受け付けて、カロリー制御部110aがカロリー低下処理に移行しても、大気温度の上昇に伴うガスタービン出力の低下を抑えることができる。
「第三実施形態」
次に、図14を用いて、第三実施形態としてのガスタービンプラントについて説明する。
以上のガスタービンプラントは、いずれも、ガスタービン10の燃料ガスとしてBFG及びCOGの二種類のガスを用いるものである。しかしながら、本発明は、燃料ガスがこれに限定されるものではなく、燃料ガスのカロリー値を調節できるものであれば、他の燃料ガスでもよく、しかも、一種類のガスであってもよい。そこで、以下では、カロリー調節可能な一種のガスをガスタービンの燃料ガスとして用いるガスタービンプラントについて説明する。
本実施形態のガスタービンプラントも、基本的には、以上の実施形態におけるガスタービンプラントと同様、燃料ガスにより駆動するガスタービン10と、このガスタービン10の駆動で発電する発電機19と、ガスタービン10に燃焼ガスGを供給する燃料ガス設備20bと、これらを制御する制御装置100bと、を備えている。但し、本実施形態のガスタービンプラントの燃料ガス設備20bは、以上の実施形態と異なり、石炭ガス化設備である。
本実施形態の燃料ガス設備20bは、石炭をガス化する石炭ガス化炉50と、この石炭ガス化炉50に微粉炭を供給する石炭供給装置53と、石炭ガス化炉50に圧縮空気を供給する空気圧縮機58と、空気から酸素及び窒素を分離生成する空気分離装置54と、石炭ガス化炉50からの生成ガスに含まれているチャーを除去回収するチャー回収装置55と、チャー回収装置55でチャーが除去された生成ガスに対して除塵及び脱硫処理を施すガス精製装置56と、を備えている。
石炭ガス化炉50は、微粉炭、この酸化剤である空気や酸素、酸化抑制のための不活性ガスである窒素が供給され、微粉炭を熱分解して、揮発分(生成ガス)とチャー(未燃炭素と灰分から成る微小粒子)にするガス化炉本体51と、ガス化炉本体51で発生した熱を回収する熱交換器52と、を有している。
ガス化炉本体51には、石炭供給装置53からの微粉炭をガス化炉本体51に送る微粉炭搬送ライン61と、空気圧縮機58からの圧縮空気をガス化炉本体51に送る空気ライン62と、チャー回収装置55で回収されたチャーをガス化炉本体51に戻すチャー戻しライン63と、が接続されている。微粉炭搬送ライン61の最上流部には、空気分離装置54で分離生成された窒素を微粉炭の搬送ガスとして供給するための微粉炭搬送ガスライン64が接続されている。この微粉炭搬送ガスライン64は、途中で分岐して、チャー搬送ガスライン65としてチャー戻しライン63に接続されている。空気ライン62には、空気分離装置54で分離生成された酸素を供給するための酸素ライン66が接続されている。
空気ライン62には、空気圧縮機58からガス化炉本体51に送る圧縮空気の流量を調節する空気流量調節弁72が設けられている。微粉炭搬送ガスライン64には、空気分離装置54から微粉炭搬送ライン61に送る搬送ガスとしての窒素の流量を調節する第一窒素流量調節弁74が設けられている。また、チャー搬送ガスライン65には、微粉炭搬送ガスライン64からチャー戻しライン63に送る搬送ガスとしての窒素の流量を調節する第二窒素流量調節弁75が設けられている。酸素ライン66には、空気分離装置54から空気ライン62に送る酸素の流量を調節する酸素流量調節弁76が設けられている。また、石炭供給装置53と微粉炭搬送ライン61との間には、石炭供給装置53からの微粉炭を微粉炭搬送ライン61に定量供給する定量供給機71が設けられている。
これらの調節弁72〜76は、いずれも、そこを通るガスの流量を調節することで、生成ガスのカロリー値を調節することができるので、カロリー調節器として機能する。また、定量供給機71も、この定量供給で供給する微粉炭の量を調節することで、生成ガスのカロリー値を調節することができるので、カロリー調節器として機能する。
熱交換器52には、ガス化炉本体51で発生した生成ガスと共に一部のチャーが供給される。熱交換器52では、これらと水とを熱交換して、蒸気を発生させる。発生した蒸気は、蒸気ライン67を経て、燃焼器12からの燃焼ガスで駆動するタービン13に接続されている蒸気タービン57に供給される。すなわち、このガスタービンプラントは、IGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle)を構成している。また、この熱交換器52を通過した生成ガス及びチャーは、チャー回収装置55に送られ、そこでチャーが回収される。このチャーは、チャー戻しライン63を介して、ガス化炉本体51に戻される。ガス化炉本体51に戻されたチャーは、このチャー中に含まれている未燃炭素がガス化された後、このガス化炉本体51の下部から外部に排出される。
一方、チャー回収装置55でチャーが除去された生成ガスは、ガス精製装置56に送られ、そこで、前述したように、除塵及び脱硫処理が施される。除塵及び脱硫処理が施され生成ガスは、精製ガスライン21bを経て、ガスタービン10の燃焼器12に送られる。この精製ガスライン21bには、以上の各実施形態の主燃料ガスライン24と同様、カロリー計41が設けられている。さらに、この精製ガスライン21bには、燃料流量調節器としての精製ガス流量調節弁30bが設けられている。
ガスタービン10には、以上の実施形態の同様に、大気温度計42、大気圧力計43、圧縮空気圧力計44、排気温度計45が設けられている。また、発電機19には、出力計46が設けられている。
制御装置100bは、以上の実施形態と同様に、大気温度計42、大気圧力計43、圧縮空気圧力計44、排気温度計45、出力計46で検知された値に基づいて、カロリー調節器としての各調節弁72〜76や定量供給機71に指令を送って、ガスタービン10に供給される生成ガスのカロリー値を制御すると共に、燃料流量調節器30としての精製ガス流量調節弁30bに指令を送って、ガスタービン10に供給される生成ガスの流量を制御する。
本実施形態においても、以上の実施形態と同様に、大気温度上昇に伴ってガスタービン出力が低下した場合、制御装置100bからカロリー調節器に対して、燃料ガスである生成ガスのカロリー値が低くなるような指令を出力する。この結果、生成ガスのカロリー値が低下する。これに対して、制御装置100bは、ガスタービン10の状態量に関する目標値、例えば、タービン入口温度の上限値や目標出力を維持できよう、燃料流量調節器としての精製ガス流量調節弁30bに対して生成ガスの流量の増加を示す指令を出力する。この結果、ガスタービン10に供給される生成ガスの質量流量が増加して、ガスタービン10の出力が上昇する。
以上のように、燃料ガスのカロリー値を調節できるものであれば、燃料ガスが如何なるものでもよく、例えば、以上の他、石油残渣IGCCによる生成ガスや、液体燃料をガス化したものや、有機性廃棄物(生ゴミ等)や家畜の糞尿などを発酵させて得られる可燃性ガスなどのバイオガスをガスタービンの燃料ガスとしてもよい。
また、本実施形態では、図1などで示すように、ガス圧縮機25と、ガスタービン10とが同軸で結合され、ガスタービン10でガス圧縮機25と発電機19を駆動するが、本発明は、これに限定されない。例えば、ガス圧縮機を別の原動機で駆動する構成としてもよい。あるいは、ガス圧縮機とガスタービンと、蒸気タービン(図示せず)と、発電機とを同軸で結合してもよい。いずれの場合においても、ガスタービンによって駆動される発電機の出力を検出することによって、この発電機の出力をガスタービンの出力変化に影響を与える出力影響値の一つとして取り扱うことができる。