JP5937019B2 - 磁気センサに基づく結合反応速度の定量的な分析 - Google Patents

磁気センサに基づく結合反応速度の定量的な分析 Download PDF

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Description

生物学的処理は、対である第1の分子及び第2の分子間の分子間相互作用に影響される。このような分子間相互作用の例として、核酸ハイブリダイゼーション相互作用、タンパク質間相互作用、タンパク質−核酸相互作用、酵素−基質相互作用、及び、例えば抗体−抗原相互作用、受容体−作用薬又は拮抗剤相互作用のような受容体−リガンド相互作用がある。
米国特許出願公開第2005/0100930 号明細書
DNA ハイブリダイゼーションの親和性に基づく検出、抗原−抗体結合、及びDNA −タンパク質相互作用は全て、基礎科学研究、臨床診断、生物分子工学及び薬剤設計に重要な役割を果たすことが示されている。技術の進歩と共に、分子的同一性及び反応の詳細を決定するための精確且つ高感度であり高効率且つ迅速な方法に対する需要があり、分析方法の発展が常に求められている。このような差し迫った必要性を満たすために、研究者は、希少な分子を検出するための感度を向上させるべく分子の標識化に取り組んでいる。しかしながら、このような標識化は拡散と立体的現象とを変えることがある。更に、高効率又は速度要件のため古典的な平衡法を使用し得ないことが多く、そのため、反応速度、拡散現象及び表面固定の影響についての詳細な理解が意味のある反応パラメータの抽出にとって非常に重要である。
所与の分子間相互作用の反応速度を評価するとき、様々な量的な反応速度パラメータが対象になり得る。対象となる1つの量的な反応速度パラメータは会合速度定数である。会合速度定数(つまり、ka,kon )は、抗体と抗原との結合親和性のような平衡状態での2つの分子の結合親和性について記述している数学的な定数である。対象となる別の量的な反応速度パラメータは解離速度定数(つまり、kd,koff)である。解離速度定数は、受容体/リガンドの複合体が構成分子に解離するときのように、より小さな構成要素に可逆的に分離する(解離する)際のより大きな対象物の性質について記述している数学的な定数である。対象となる第3の量的な反応速度パラメータは、拡散制限速度定数(kM)であり、標識分子がセンサの方に拡散する速度について記述している数学的な定数である。
分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する方法を提供する。本方法の実施形態の態様では、検出可能な分子結合相互作用を生成すべく、磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に接触する磁気センサを備えた磁気センサデバイスを作製し、前記磁気センサから実時間信号を得て、該実時間信号から、分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する。更に、本方法で使用すべく構成されたシステム及びキットを提供する。
本開示の態様は、分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する方法を含んでいる。本方法では、検出可能な分子結合相互作用を生成すべく、磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に接触する磁気センサを備えた磁気センサデバイスを作製し、前記磁気センサから実時間信号を得て、該実時間信号から、分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する。
ある実施形態では、前記結合反応速度パラメータは会合速度定数(ka)である。ある場合には、前記結合反応速度パラメータは解離速度定数(kd)である。ある場合には、前記結合反応速度パラメータは拡散制限速度定数(kM)である。ある実施形態では、前記結合反応速度パラメータは、会合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)及び拡散制限速度定数(kM)の内の少なくとも1つである。
ある実施形態では、前記磁気センサは、磁気的な標識分子に特に結合する分子を有しており、前記磁気的な標識分子を前記磁気センサに加えることにより、前記磁気センサの前記アッセイ混合物への接触を行わせる。
ある実施形態では、前記磁気センサは、前記磁気的な標識分子に特に結合する分子と特に結合する捕捉プローブを備えており、前記磁気的な標識分子に特に結合する分子を前記磁気センサに加え、その後、前記磁気的な標識分子を前記磁気センサに加えることにより、前記磁気センサの前記アッセイ混合物への接触を行わせる。
ある場合には、前記磁気センサは、前記磁気的な標識分子に特に結合する分子と特に結合する捕捉プローブを備えており、前記磁気的な標識分子に特に結合する分子と前記磁気的な標識分子とを有する反応混合物を生成し、その後、該反応混合物を前記磁気センサに加えることにより、前記磁気センサの前記アッセイ混合物への接触を行わせる。
ある実施形態では、前記磁気センサはスピンバルブセンサである。ある場合には、前記磁気センサは磁気トンネル接合センサである。
ある場合には、前記分子結合相互作用は、核酸ハイブリダイゼーション相互作用、タンパク質間相互作用、受容体−リガンド相互作用、酵素−基質相互作用又はタンパク質−核酸相互作用のような結合相互作用である。
ある場合には、定量的に決定するステップが、適合アルゴリズムを用いた前記実時間信号の処理を含んでいる。ある場合には、前記適合アルゴリズムは2区画適合アルゴリズムである。ある実施形態では、2区画適合アルゴリズムはバルク区画及び表面区画を含んでいる。
本発明の態様は、2以上の別個の分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する方法を更に含んでおり、該方法では、前記2以上の別個の分子結合相互作用の夫々に、異なる磁気的な標識分子が含まれる。前記方法では、2以上の別個の分子結合相互作用を生成すべく、磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に夫々接触する2以上の別個の磁気センサを備えた磁気センサデバイスを作製し、前記磁気センサから夫々実時間信号を得て、該実時間信号から、2以上の別個の分子結合相互作用の夫々に関して結合反応速度パラメータを定量的に決定する。
ある実施形態では、前記結合反応速度パラメータは会合速度定数(ka)である。ある場合には、前記結合反応速度パラメータは解離速度定数(kd)である。ある場合には、前記結合反応速度パラメータは拡散制限速度定数(kM)である。ある実施形態では、前記結合反応速度パラメータは、会合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)及び拡散制限速度定数(kM)の内の少なくとも1つである。
ある実施形態では、前記分子結合相互作用は、核酸ハイブリダイゼーション相互作用、タンパク質間相互作用、受容体−リガンド相互作用、酵素−基質相互作用又はタンパク質−核酸相互作用のような結合相互作用である。
本開示の態様は更に、磁気センサデバイスを含んでいる。該磁気センサデバイスは、磁気的な標識分子を検出すべく構成された磁気センサと、該磁気センサから実時間信号を得て、該実時間信号から分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定すべく構成されたプロセッサとを備えている。
ある実施形態では、前記結合反応速度パラメータは会合速度定数(ka)である。ある場合には、前記結合反応速度パラメータは解離速度定数(kd)である。ある場合には、前記結合反応速度パラメータは拡散制限速度定数(kM)である。ある実施形態では、前記結合反応速度パラメータは、会合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)及び拡散制限速度定数(kM)の内の少なくとも1つである。
ある場合には、前記磁気センサはスピンバルブセンサである。ある場合には、前記磁気センサは磁気トンネル接合センサである。
ある実施形態では、前記磁気センサは2以上の検出領域を有している。ある場合には、前記磁気センサは4以上の検出領域を有している。ある場合には、該検出領域は直列且つ並列に接続されている。
ある場合には、前記磁気センサデバイスは2以上の別個の磁気センサを備えている。ある場合には、前記磁気センサデバイスは100 以上の別個の磁気センサを備えている。ある場合には、前記磁気センサデバイスは1000以上の別個の磁気センサを備えている。
ある実施形態では、前記磁気センサデバイスは、前記磁気的な標識分子と、該磁気的な標識分子に特に結合する分子とを有している。
本開示の態様は更に、(a) 磁気ラベルと、(b) (i) コンピュータによって実行されるとき、磁気センサから得られた実時間信号から分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定すべく前記コンピュータを作動するコンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読媒体、及び、(ii) 前記コンピュータプログラムを得るためのアドレスを有する物理的な基板の内の少なくとも1つとを備えていることを特徴とするキットを含んでいる。
本開示の実施形態に係る、磁気センサに結合された捕捉抗体、捕捉抗体に結合された検体、及び磁気タグに取り付けられた検出抗体を備えたサンドイッチアッセイを示す概略図である。 本開示の実施形態に係る、磁気センサに結合された捕捉DNA 、捕捉DNA に結合された対象DNA 、及び磁気タグに取り付けられた検出DNA を備えたDNA サンドイッチアッセイを示す概略図である。 本開示の実施形態に係る2区画反応拡散モデルを示す概略図である。標識抗体が移送工程でセンサ表面に移動し、その後、接合流れにより結合して離れる。 本開示の実施形態に係る、(a) ストレプトアビジン−ビオチン結合相互作用、及び(b) EpCAM 抗原へのEpCAM 抗体の結合相互作用に関する実時間結合データと反応速度モデルとの比較を示すグラフである。反応速度モデルが実時間結合データに適合されると、会合速度定数、解離速度定数及び拡散制限速度定数が適合性から計算される。図3(c)及び図3(d)に示されている実時間結合曲線が、本開示の実施形態に係る、マグネトナノセンサと表面プラズモン共鳴(SPR )システムとを夫々比較するための並行実験におけるCEA 抗原へのCEA 抗体の結合反応速度のモニタリングを示す。GMR バイオセンサが、5.0 ×104M-1s-1の会合速度定数ka及び4.4 ×10-4s-1 の解離速度定数kdの計算値を与え、一方、SPR 実験により4.44×104M-1s-1 の会合速度定数ka及び 1.17×10-4s-1 の解離速度定数kdが与えられた。 本開示の実施形態に係る(一定の縮尺で図示されていない)抗体−抗原結合を示す概略図である。左側では、磁気タグで標識化された抗体が濃度Csの溶液中でGMR センサの表面に接近している。拡散した磁気的な標識抗体は、結合されていないとき、検出されるにはGMR センサから離れ過ぎている。センサ表面には、最初の表面濃度nmaxで固定された抗原が存在する。右側に図示されているように、磁気的な標識抗体が抗原に結合すると、磁気タグからの磁場が、基本的に近接度に基づいたGMR センサによって検出される。捕捉された抗体−抗原複合体の表面濃度がnとして表されている。 本開示の実施形態に係る一定の縮尺で図示されている磁気的な標識抗体を示す概略図である。磁気タグが、デキストランポリマに埋め込まれ、次に抗体又は受容体により機能化された複数の酸化鉄コアを含んでいる。 本開示の実施形態に係る1,008 個の磁気センサを含む1mm2のダイの写真を示す図である。 本開示の実施形態に係る、完全に処理されたダイの光学顕微鏡写真の画像及び走査型電子顕微鏡(SEM )の画像を示す図である。1,008 個のGMR バイオセンサが16のサブアレイに分割されており、各サブアレイは90μm ×90μm の領域を占めている。 本開示の実施形態に係る、EpCAM タンパク質の表面濃度が2倍連続希釈法で5アトモル(nmax)から20ゼプトモル(nmax/256)まで希釈されたときの、式M.6 で分析モデルによって予測され、表面に固定されたEpCAM 抗原への抗EpCAM 抗体の結合曲線(点線)、及び測定された実験データ(実線)を示すグラフである。分析モデルによって予測された曲線に対する、この実験中の全ての曲線の適合誤差R2が0.98であった。 本開示の実施形態に係る、MNP 抗EpCAM タンパク質の溶液濃度が希釈されていないとき、2倍希釈されたとき、及び8倍希釈されたときの、分析モデルによって予測され、センサ表面に固定された833 ゼプトモル(nmax/6)のEpCAM 抗原へのMNP 抗EpCAM 抗体の結合曲線(点線)、及び測定された実験データ(実線)を示すグラフである。分析モデルへの全ての曲線の適合誤差R2が0.96であった。y軸が、最初のMRに正規化されたMRの変化として百万分率(ppm )で示されている。 本開示の実施形態に係る、12個の複製センサ上の抗原への抗CEA 抗体の多重反応速度解析と、3個の複製センサ上の抗原への抗VEGF抗体の多重反応速度解析とを示すグラフである。 ビオチンのストレプトアビジンへの結合反応速度をモニターする25個の複製センサの結果を示すグラフである。 SPR の結果を示すグラフである。 本開示の実施形態に係る、並行実験中にCEA 抗原に結合するCEA 抗体の反応速度をモニターするときの、同様の実時間結合曲線を与えるマグネトナノセンサに基づくプラットフォームの結果を示すグラフである。 本開示の実施形態に係る、センサ毎の磁気タグの数を経時的に示すグラフである。(図7の右側に示されている)負荷質量毎のSEM 像が、分析モデルによって予測された数と実験中に結合されたMNP の数とを比較するために得られた。 本開示の実施形態に係る、固定された様々な抗原負荷に関するセンサ信号を径時的に示すグラフである。 本開示の実施形態に係る、エピトープ解析及び交差反応性の考察のための選択的なタンパク質の配向を示す概略図である。 本開示の実施形態に係る、EGFRを捕捉し、抗EGFR抗体−MNP 複合体が結合するとき検出された、(制御として)抗EGFR捕捉抗体により機能化された抗EGFR Ab センサに関するグラフを示す。 本開示の実施形態に従って、モニターされた反応速度がEGFRと結合する抗EGFR抗体−MNP 複合体に関連していることを確認するグラフを示す。y軸が、最初のMRに正規化されたMRの変化として百万分率(ppm )で示されている。 本開示の実施形態に係る、高密度のGMR センサアレイを使用して、二次元空間におけるタンパク質の拡散運動を様々な時間で視覚的に示す図である。y軸の単位が、最初のMRに正規化されたMRの変化として百万分率(ppm )で示されている。 本開示の実施形態に従って、複数グループの磁気センサを使用してチップアレイ上のタンパク質の拡散運動をモニターするための実験装置の写真を示す図である。図11(a) では、4グループの4つのセンサが、CEA に捕捉抗体と共に選択的に固定されている。図11(a) に円で囲まれている各グループのセンサは図11(b) のグラフの一致する曲線に対応する。未反応の捕捉抗体を洗い流した後、MNP タグで標識化された検出抗体が反応ウェルで十分インキュベートされている。 本開示の実施形態に係る信号の変化を経時的に示すグラフである。反応ウェルの左上角部に可溶性のCEA 抗原を追加した際に、反応ウェル上のCEA タンパク質の移動を空間及び時間の両方で視覚化することが可能になった。 並列且つ直列に接続された72個の磁気センサストラップを含むGMR センサ構造の光学顕微鏡画像を示す図である。図12の挿入図は、複数の結合された磁気ナノ粒子タグを有するGMR センサの1つの磁気センサストラップの走査電子顕微鏡(SEM )画像を示す図である。 本開示の実施形態に係る、センサ表面に結合された磁気的な標識抗体の数の関数として式M.6 の各項の寄与を示す対数目盛のプロットを示す図である。 本開示の実施形態に係る、表面に固定されたEpCAM 抗原への抗EpCAM 抗体の、ラングミュア吸着モデルによって予測された結合曲線(点線)、及び実験的に測定された結合曲線(実線)を示すグラフである。
分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する方法を提供する。本方法の実施形態の態様では、検出可能な分子結合相互作用を生成すべく、磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に接する磁気センサを備えた磁気センサデバイスを作製し、磁気センサから実時間信号を得て、実時間信号から、分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する。更に、本方法で使用すべく構成されたシステム及びキットを提供する。
本発明を更に詳細に説明する前に、本発明は、説明される特定の実施形態に限定されておらず、言うまでもなく変更され得ることを理解すべきである。更に、本発明の範囲が添付の請求項によってのみ限定されているので、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけに用いられており、限定することを意図していないことを理解すべきである。
値の範囲が提示されている場合、該範囲の上限と下限との間で、文脈に別の方法で明示されていない限り下限の単位の10分の1まで介在する値、及び、前記範囲内の全ての他の値又は介在する値が本発明の範囲内に包含されることを理解すべきである。これらのより小さな範囲の上限及び下限が、より小さな範囲内に個別に含まれてもよく、前記範囲内の特に除外された限度に応じて本発明の範囲内に更に包含される。前記範囲が前記限度の一方又は両方を含んでいる場合には、これらの含まれた限度の一方又は両方を除外した範囲が更に本発明に含まれる。
ある範囲が、用語「約」の後に続く数値と共に本明細書に示されている。用語「約」の後に続く正確な数字と、用語「約」の後に続く数字に近いか又は近似した数字との文字どおりのサポートを提供するために、用語「約」が本明細書に使用されている。数字が具体的に述べられた数字に近いか又は近似した数字であるか否かを判断する際に、述べられていない近いか又は近似した数字は、数字が示されている文脈で、具体的に述べられた数字の実質的な同値を示す数字であってもよい。
本明細書に使用されている全ての技術的な用語及び科学的な用語は、別の方法で定義されていない限り、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書に述べられている方法及び材料と同様の又は相当する全ての方法及び材料が本発明の実施又は試験で更に使用され得るが、典型的な例証となる方法及び材料を説明する。
個々の公報又は特許が参照して組込まれるべく具体的に個々に示され、公報に挙げられている方法及び/又は材料と関連して方法及び/又は材料を開示して説明するために参照して本明細書に組込まれるように、本明細書で引用された全ての公報及び特許が参照して本明細書に組込まれる。いかなる公報の引用も、該公報が出願日より前に開示されているためであり、このような公報に先行しているという権利が先の発明により本発明に与えられないことの自認として解釈されるべきではない。更に、提示された公報の日付は、個別に確認される必要がある実際の発行日とは異なる場合がある。
尚、本明細書及び添付の請求項に使用されているように、単数形の「1つの(a )」、「1つの(an)」及び「その(the )」は、文脈に別の方法で明示されていない限り、複数の指示対象を含む。更に請求項は、任意の全ての要素を除外して記載されている。従って、この記載は、請求項の要素の記載に関する「唯一の(sololy)」、「のみの(only)」等の排他的用語の使用、又は「否定的な(negative)」限定の使用のための先行記載として機能すべく意図されている。
明瞭化のために別個の実施形態で述べられている本発明のある特徴が、単一の実施形態で組み合わせて提供されてもよいと認識される。逆に、簡潔化のために単一の実施形態で述べられている本発明の様々な特徴が別々に提供されてもよく、又は任意の適切なサブコンビネーションで提供されてもよい。1つ1つの組み合わせが、このような組み合わせが実施可能な処理及び/又はデバイス/システム/キットを包含する程度に個々に明示的に開示されているように、実施形態の全ての組み合わせが特に本発明によって包含され、本明細書に開示されている。更に、このような可変性要素について述べている実施形態に記載されている全てのサブコンビネーションも、化学基の1つ1つのこのようなサブコンビネーションが本明細書に個々に明示的に開示されているように特に本発明によって包含され、本明細書に開示されている。
当業者が本開示を読むと明らかであるように、本明細書に説明され例示されている個々の実施形態は夫々、別個の構成要素及び特徴を有しており、別個の構成要素及び特徴は、本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他の複数の実施形態のいずれの特徴からも容易に分離されてもよく、又は他のいずれの特徴とも容易に組み合わされてよい。全ての記載されている方法は、記載された事象の順序で、又は論理的に可能な任意の他の順序で実行され得る。
本発明の実施形態について更に説明する際に、まず、本方法の実施形態の態様を更に詳細に説明する。次に、本発明の方法を実施する際に使用されてもよいシステム及びキットの実施形態を検討する。
方法
上記に要約されているように、本発明の実施形態は、対象の分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する方法に関する。対象の結合相互作用は、ある実施形態では、第1の分子と第2の分子との間、例えば第1の生体分子と第2の生体分子との間の結合相互作用である。例えば、第1の分子及び第2の分子の内の一方が磁気的な標識分子であってもよく、第1の分子及び第2の分子の内の一方が、磁気的な標識分子に特に結合する分子であってもよい。「定量的に決定すること」は、量の観点から、例えば数値として対象の結合反応速度パラメータを表現することを意味している。「結合反応速度パラメータ」は、所与の分子間相互作用を少なくとも部分的に定義し、分子間相互作用の挙動を定義すべく採用され得る測定可能な結合反応速度因子を意味している。対象の結合反応速度パラメータは、これらに限定されないが、会合速度定数(つまり、ka,kon )、解離速度定数(つまり、kd,koff)、拡散制限速度定数(つまり、kM)、活性化エネルギー(つまり、EA)、拡散係数などのような移送パラメータを含んでいる。
上記に要約されているように、本発明の方法は、
1) 磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に接する磁気センサデバイスを作製するステップ、
2) 磁気センサデバイスから実時間信号を得るステップ、及び
3) 実時間信号から、分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定するステップ
を含んでもよい。これらのステップの各々を、更に詳細に説明する。
磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に接する磁気センサデバイスの作製
本方法の態様は、磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に接する磁気センサデバイスの作製を含んでいる。本方法は、対象の結合相互作用の要素分子(つまり、対象の結合相互作用の結合対要素)と磁気ラベルとを含む組成物(例えば、アッセイ混合物)に磁気センサが接するデバイス又は構造物の作製を含んでおり、磁気ラベルは、対象の結合相互作用の要素分子の内の1つの部分又は領域であってもよく、又は別個の分子の成分、例えば対象の結合相互作用の2つの要素分子の内の1つに特に結合する第3の分子の成分であってもよい。磁気センサと接する組成物又はアッセイ混合物内で、磁気ラベルは、磁気的な標識分子を生成すべく、結合対要素の内の1つと、例えば共有結合で又は非共有結合で安定して関連付けられてもよい。以下に更に述べるように、磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に接する磁気センサデバイスを作製するステップは、例えば、結合対要素がいつ互いに接するかという観点で、又は磁気センサ、磁気センサデバイスに対する結合対要素の構成などの観点で様々な異なる処理サブコンビネーションを含んでもよい。
結合対
本明細書に述べられている本方法に従って定量的且つ動的に分析されるべき所与の結合相互作用は、第1の生体分子及び第2の生体分子のような結合対の分子から構成されてもよい。結合対の分子は、対象の結合相互作用に応じて大きく異なってもよい。対象の結合相互作用は、結合対の分子間のいかなる相互作用も含んでおり、結合相互作用は、結合相互作用の環境条件下で結合対の分子間の特異性で生じる。対象の結合相互作用の例として、これらに限定されないが、核酸ハイブリダイゼーション相互作用、タンパク質間相互作用、タンパク質−核酸相互作用、酵素−基質相互作用、及び受容体−リガンド相互作用、例えば抗体−抗原相互作用、受容体−作用薬又は拮抗剤相互作用がある。
対象の分子結合相互作用を有する分子の例として、これらに限定されないが、生体高分子及び小分子があり、小分子は有機的又は無機的な小分子であってもよい。「生体高分子」は、1又は複数のタイプの反復単位の高分子である。生体高分子は、(合成的に生成されてもよいが)生物システムで見つけられてもよく、ペプチド、ポリヌクレオチド及び多糖に加えて、アミノ酸類似体、非アミノ酸基、ヌクレオチド類似体若しくは非ヌクレオチド基から構成されているか又は含有するこのような要素を含んでもよい。そのため、生体高分子は、従来の主要要素が非天然で生じる主要要素又は合成的な主要要素と置き換えられたポリヌクレオチドと、従来の塩基の一又は複数が、ワトソン・クリック形水素結合相互作用に関与し得る(天然又は合成の)基と置き換えられた核酸(又は合成で若しくは自然に生じる類似体)とを含んでいる。例えば、「生体高分子」は、(cDNAを含む)DNA 、RNA 、オリゴヌクレオチド、PNA 、及び米国特許第5,948,902 号明細書及び本明細書で引用されている参考文献に記載されているような他のポリヌクレオチドを含んでもよい。「生体単量体」は単一の単位のことであり、(例えば、2つの連結基を有する単一のアミノ酸又はヌクレオチドであり、2つの連結基の内の一方又は両方が着脱可能な保護基を有してもよい)生体高分子を形成すべく同一の生体単量体又は他の生体単量体と連結され得る。
本明細書で使用される用語「ペプチド」は、1つのアミノ酸のαカルボキシル基と別のアミノ酸のαアミノ基とのアミド形成によって生成された任意の高分子化合物のことである。本明細書で使用される用語「オリゴペプチド」は、約10乃至20に満たない残基、つまりアミノ酸の単量体単位を有するペプチドのことである。本明細書で使用される用語「ポリペプチド」は、10乃至20を超える残基を有するペプチドのことである。本明細書で使用される用語「タンパク質」は、約50を超える残基の特異的な配列のポリペプチドのことであり、D型、L型、改良型などを含んでいる。「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は相互に交換可能に使用されてもよい。
本明細書で使用される用語「核酸」は、ヌクレオチド、例えばデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド又は合成的に生成された化合物(例えば、米国特許第5,948,902 号明細書及び本明細書で引用されている参考文献に記載されているPNA )から構成されたポリマーを意味している。ヌクレオチドは、2つの自然に生じる核酸の方法に類似した配列特異的な方法で自然に生じる核酸と交配することが可能であり、例えば、ワトソン・クリック形塩基対相互作用に関与し得る。核酸は、10,000以上の塩基を含めて、例えば2以上の塩基、10以上の塩基、100 以上の塩基、500 以上の塩基、1000以上の塩基のあらゆる長さになり得る。本明細書で使用される用語「ポリヌクレオチド」は、一般的に長さが約100 のヌクレオチドより長いヌクレオチドモノマーから構成された一本鎖ポリマー又は二本鎖ポリマーのことである。ポリヌクレオチドは一本鎖又は多本鎖の構成を含んでおり、このような構成では、1又は複数の鎖が別の鎖と完全に並んでもよいし、並ばなくてもよい。本明細書で使用される用語「リボ核酸」及び「RNA 」は、リボヌクレオチドから構成されたポリマーを意味する。本明細書で使用される用語「デオキシリボ核酸」及び「DNA 」は、デオキシリボヌクレオチドから構成されたポリマーを意味する。本明細書で使用される用語「オリゴヌクレオチド」は、例えば長さが150 のヌクレオチドであり、長さが約50乃至約160 のヌクレオチドを含んで、長さが約25乃至約175 のヌクレオチドのような、長さが約10乃至約200 のヌクレオチドである1本鎖のヌクレオチドマルチマーを意味する。
ある場合には、結合対の分子はリガンド及び受容体であり、所与の受容体又はリガンドは生体高分子であってもよいし、又は生体高分子でなくてもよい。本明細書で使用される用語「リガンド」は、対象の組成物を共有結合で又は化学的に結合し得る部分のことである。リガンドは、自然に生じてもよいし、又は合成されてもよい。リガンドの例として、これらに限定されないが、細胞膜受容体のための作動薬及び拮抗剤、毒素及び毒液、ウイルス性のエピトープ、ホルモン、アヘン剤、ステロイド、ペプチド、酵素基質、捕捉因子、薬剤、レクチン、糖類、オリゴヌクレオチド、核酸、オリゴ糖類、タンパク質などがある。
本明細書で使用される用語「受容体」はリガンドへの親和性を有する部分である。受容体は、自然に生じてもよいし、又は合成されてもよい。受容体は、不変の状態で使用されてもよいし、又は他の種との凝集体として使用されてもよい。受容体は、結合要素に直接又は特定の結合物質を介して共有結合で又は非共有結合で取り付けられてもよい。受容体の例として、これらに限定されないが、抗体、細胞膜受容体、特定の抗原決定基を有する単クローン抗体及び抗血清、ウイルス、細胞、薬剤、ポリヌクレオチド、核酸、ペプチド、捕捉因子、レクチン、糖類、多糖類、細胞膜、細胞器官などがある。受容体は、本技術分野で抗リガンドと呼ばれることもある。受容体という用語が本明細書で使用されているので、意味の差を意図していない。2つの分子が分子識別によって結合し、複合体が形成されるとき、「リガンド受容体対」が形成される。
磁気センサデバイス
対象の磁気センサデバイスは、センサの表面と関連付けられた磁気ラベルに応じて電気信号を生成するデバイスである。対象の磁気センサデバイスは、これらに限定されないが、巨大磁気抵抗(GMR )デバイスを含む磁気抵抗センサデバイスを含んでいる。対象のGMR デバイスは、これらに限定されないが、スピンバルブ検出器及び磁気トンネル接合(MTJ )検出器を含んでいる。
スピンバルブ検出器
ある場合には、磁気センサはスピンバルブ検出器である。スピンバルブ検出器は、例えば銅のような非磁性層によって間隔を置いて配置された2つの強磁性層から構成された金属の多層薄膜構造である。ピン層と呼ばれる一方の強磁性層の磁化が、一定の方向に拘束されている一方、自由層と呼ばれる他方の強磁性層の磁化が、印加される磁場を受けて自由に回転することが可能である。スピンバルブの電気抵抗が、ピン層の磁化方向に対する自由層の相対的な磁化方向によって決まる。2つの磁化が平行であるとき、電気抵抗が最も低く、逆平行であるとき、電気抵抗が最も高い。電気抵抗の相対変化が磁気抵抗(MR)比と呼ばれる。ある場合には、スピンバルブのMR比が、小さな磁場で約10%より大きく、例えば約100 Oeに達することが可能である。従って、スピンバルブは、センサ表面と関連付けられた磁気的な標識分子を検出するための検出素子として機能し得る。
ある実施形態では、スピンバルブは、約5%乃至約12%を含む約3%乃至約15%のような、約1%乃至約20%の磁気抵抗(MR)比を有する。従って、ある実施形態では、スピンバルブは、狭い帯域(つまり、約1Hz以下)で又はロックイン検出で大きさが約10nmである単一の磁気ラベルを検出することが可能である。これらの場合には、雑音帯域を狭くすることによって、十分な信号対雑音比(SNR )が単一のナノ粒子検出のためであっても達成される。
スピンバルブの検出が面内モードで行われてもよい(例えば、リー(Li)等著,「応用物理ジャーナル(J. Appl. Phys)」,第93号(10):7557,2003年参照)。他の実施形態では、検出システムでのAC刺激場(AC tickling field)による電磁場干渉(EMI )信号が検出可能であるとき、垂直モードが使用され得る。EMI 信号は、AC刺激場の周波数fに集中する傾向があり、そのため、EMI 信号は、周波数2fでロックイン検出を行なうことにより略除去され得るか、又は低減され得る。更にある場合では、2ブリッジ回路が、残りのEMI 信号を略除去するために使用され得る。2つの異なる周波数でAC変調センス電流及びAC刺激場を用いた他の信号取得・処理方法が使用されてもよい(例えば、エス−ジェイ ハン(S-J Han),エイチ.ユー(H. Yu),ビー.マーマン(B. Murmann),エヌ.ポーマンド(N. Pourmand)及びエス.エックス.ワン(S. X. Wang)著,「IEEE国際固体回路会議(ISSCC )の科学技術論文の要約(IEEE International Solid-State Circuits Conference (ISSCC) Dig. Tech. Papers)」,アメリカ合衆国(USA ),カリフォルニア州(CA),サンフランシスコのマリオット(San Francisco Marriott),2007年2月11−15日)。
ある実施形態では、磁気ラベルによるスピンバルブ検出器の信号が、スピンバルブ自体の形状及びバイアス場に加えて、磁気ラベルとスピンバルブの自由層との距離によって決まる。粒子の中心からスピンバルブの自由層の中央平面までの距離が増大するにつれて、単一の磁気ラベルによるスピンバルブ検出器の電圧信号が減少する。
ある実施形態では、磁性粒子からの検出磁場がスピンバルブ検出器と粒子との距離とともに単調に減少するので、磁気ラベルの検出を容易にすべくスピンバルブの自由層がピン層の上にある。スピンバルブを保護する不活性化層の厚さを含めて磁気ラベルと自由層の上面との距離の最小化により、磁性粒子の検出を容易にしてもよい。
ある実施形態では、スピンバルブ検出器が、スピンバルブ検出器の1又は複数の表面上に不活性化層を含んでもよい。複数の実施形態(例えばスピンバルブ検出器が、平均径が50nm以下である磁気ナノ粒子タグと共に使用される実施形態)では、スピンバルブ検出器に、薄い(例えば、40nm以下、30nm以下、20nm以下又は10nm以下を含んで、50nm以下のような60nm以下の)不活性化層が組み合わされる。ある実施形態では、更に大きなミクロンサイズの磁粉が使用される。ある場合には、現在開示されているスピンバルブ検出器との使用に適した不活性化薄層が、約1nm乃至約3nmを含めて約1nm乃至約5nmのような、約1nm乃至約10nmの厚さを有することが可能である。ある実施形態では、現在開示されているスピンバルブ検出器との使用に適した薄い不活性化層が、約25nm乃至約35nmを含めて約20nm乃至約40nmのような、約10nm乃至約50nmの厚さを有することが可能である。不活性化層は、これらに限定されないが、タンタルTa、金Au、これらの酸化物、これらの組み合わせなどを含んでもよい。
スピンバルブ検出器、及びスピンバルブ検出器の使用のためのプロトコルに関する更なる詳細が、米国特許出願公開第2005/0100930 号明細書及び米国特許出願公開第2009/0104707 号明細書に提示されており、これらの開示が、参照して本明細書に組み込まれる。
磁気トンネル接合検出器
ある実施形態では、磁気センサは磁気トンネル接合(MTJ )検出器である。MTJ 検出器は、センス電流がフィルム面に垂直に流れるアルミナ又は酸化マグネシウムMgO のような絶縁層(例えば、絶縁トンネルバリア)に非磁性のスペーサが置き換えられるという点を除いてスピンバルブ検出器と同様に構成されている。2つの強磁性電極間の電子トンネルが2つの強磁性電極の相対的な磁化によって制御される。つまり、2つの強磁性電極の磁化が平行であるとき、トンネル電流は高く、逆平行であるとき、トンネル電流は低い。ある実施形態では、MTJ 検出器は、下部電極、トンネルバリアの両側に配置された磁性多層膜、及び頂部電極を含んでいる。ある場合には、MTJ 検出器は200 %を超える磁気抵抗比(エス.イケダ(S. Ikeda),ジェイ.ハヤカワ(J. Hayakawa),ワイ.エム.リー(Y. M. Lee),エフ.マツクラ(F. Matsukura),ワイ.オーノ(Y. Ohno),ティー.ハニュウ(T. Hanyu)及びエイチ.オーノ(H. Ohno)著,「IEEEの電子装置に関する会報(IEEE Transactions on Electron Devices)」,第54巻,第5号,p.991 −1001,2007年)と大きなデバイス抵抗とを有しており、より高い出力電圧信号を発生させる。
ある実施形態では、MTJ 検出器は2層の頂部電極を有する。第1の層は金属層(例えば、金の層)とすることが可能であり、ある場合には、40nm以下、30nm以下、20nm以下又は10nm以下を含めて、50nm以下のような60nm以下の厚さを有してもよい。第2の層は、例えば銅、アルミニウム、パラジウム、パラジウム合金、酸化パラジウム、プラチナ、プラチナ合金、酸化白金、ルテニウム、ルテニウム合金、酸化ルテニウム、銀、銀合金、酸化銀、スズ、スズ合金、酸化スズ、チタン、チタン合金、酸化チタン、それらの組み合わせなどの導電性金属とすることが可能である。ある場合には、第2の層の開口の大きさが、MTJ 検出器より僅かに小さい。ある実施形態では、使用中に、関連付けられた磁気ラベルと自由な磁性層の上面との距離が5nm乃至10nmの範囲を含む5nm乃至20nmの範囲のような5nm乃至30nmの範囲を含んで5nm乃至50nmのような5nm乃至100 nmの範囲を有するようにMTJ 検出器は構成されている。ある場合には、この構成は、薄い金電極のみが使用される場合に生じ得る頂部電極内での電流集中の低減又は実質的な防止を容易にする(例えば、ヴァン デ ヴィールドンク(van de Veerdonk),アール.ジェイ.エム.(R. J. M. )等著,「米国応用物理学会レター誌(Appl. Phys. Lett.),71:2839 ,1997年)。
MTJ 検出器は、センス電流がフィルム面に垂直に流れるという点を除いて、面内モード又は印加された変調場の垂直モードのいずれかでスピンバルブ検出器と同様に作動することが可能である。スピンバルブ検出器に関して上述したように、ある実施形態では、印加された変調場の垂直モードがEMI の低減のために使用されることが可能であり、同様に、薄い不活性化層がMTJ 検出器にも適用される。更に、MTJ 検出器上の薄い金の第1の頂部電極は電導、不活性化、及び特定の生体分子プローブの取り付けを容易にすることができる。
ある実施形態では、同一の検出幅及び粒子検出距離で、MTJ 検出器はスピンバルブ検出器より大きな信号を与えることが可能である。例えば、接合領域が0.2 μm ×0.2 μmであり面積抵抗が1kOhm−μm2であるMTJ 検出器が250 mVのバイアス電圧及び250 %のMRでHb=35 Oe及びHt=100 Oe rmsの状態で作動すると、その中心が自由層の中央面から35nm離れており直径が11nmである単一のCoナノ粒子からの電圧信号が約200 μV であり得る。ある場合には、この電圧は、同様の大きさのスピンバルブ検出器の電圧に対して同程度の大きさであるか、又は更に大きい。
MTJ 検出器、及びMTJ 検出器の使用のためのプロトコルに関する更なる詳細は、米国特許出願公開第2005/0100930 号明細書及び米国特許出願公開第2009/0104707 号明細書に提示されており、これらの開示は参照して本明細書に組み込まれる。
磁気センサデバイスの構成
磁気センサデバイスは、例えばセンサの構成に関して、磁気センサデバイスがバッチ又はフロースルー使用などのために構成されているか否かに関係なく様々な異なる構成を有してもよい。そのため、対象の分子結合相互作用の結合要素と磁気ラベルとの混合物と接触すべく磁気センサデバイスの磁気センサを備えるいずれの構成が使用されてもよい。従って、磁気センサデバイスの構成は、これらに限定されないが、(センサがウェルのような流体格納構造の底又は壁と関連付けられる)ウェル構造、例えば、センサが流体の入力及び出力を有するフローセルの壁と関連付けられるフロースルー構造などを含んでもよい。
ある実施形態では、主題の磁気センサデバイスは、基板表面に2以上の別個の磁気センサを表示する基板表面を含んでいる。ある実施形態では、磁気センサデバイスは、磁気センサのアレイを有する基板表面を含んでいる。
「アレイ」は、アドレス指定可能な領域、例えば空間的にアドレス指定可能な領域の任意の二次元配列、略二次元配列(及び三次元配列)を含んでいる。複数のセンサがアレイ上の特定の所定の位置(つまり、「アドレス」)に配置されているとき、アレイは「アドレス指定可能である」。アレイの特徴(つまり、センサ)は、介在する空間によって離れてもよい。所与の基板が、基板の前面に配置された1、2、4又は更に多くのアレイを支持してもよい。使用に応じて、同一であるか、又は互いに夫々異なる対象を検出し得るアレイのいずれか又は全てが複数の別個の磁気センサを含んでもよい。アレイは、2以上、4以上、8以上、10以上、50以上、100 以上、1000以上、10,000以上又は100,000 以上を含む1又は複数の磁気センサを含んでもよい。例えば、64個の磁気センサが8×8のアレイに配置され得る。ある実施形態では、磁気センサは、例えば、10mm2 以下のような50mm2 以下、20mm2 以下を含む1cm2 以下である、10cm2 以下又は5cm2 以下の、又は更に小さい面積のアレイに配置され得る。例えば、磁気センサは、例えば50μm ×50μm 以下である90μm ×90μm 以下のような100 μm ×100 μm 以下の大きさを含む10μm ×10μm 乃至200 μm ×200 μm の範囲の大きさを有してもよい。
ある実施形態では、磁気センサは複数の線形の磁気抵抗セグメントを含んでもよい。例えば、磁気センサは、12以上、16以上、例えば32以上、例えば64以上、72以上又は128 以上を含む8以上のような4以上の線形の磁気抵抗セグメントを含むことが可能である。磁気抵抗セグメントの幅は夫々、例えば250 nm以下の、500 nm以下、750 nm以下のような1000nm以下であり得る。ある場合には、磁気抵抗セグメントの厚さは夫々、例えば10nm以下、20nm以下、30nm以下を含む40nm以下のような50nm以下であり得る。磁気抵抗セグメントの長さは夫々、例えば100 nm以下又は50nm以下であり、250 nm以下、500 nm以下、750 nm以下、1000nm以下であり得る。
磁気抵抗セグメントは共に直列で接続されてもよく、又は、磁気抵抗セグメントは共に並列で接続されてもよい。ある場合には、磁気抵抗セグメントは共に直列且つ並列に接続されている。このような場合には、2以上の磁気抵抗セグメントが共に並列に接続され、且つ2以上のグループのこのように並列に接続された磁気抵抗セグメントが共に直列に接続されてもよい。並列且つ直列に共に接続されている磁気抵抗セグメントを含む磁気センサの一例が図12に示されている。
ある実施形態では、所与のデバイスの少なくとも一部又は全ての磁気センサ又はセンサが、センサの表面に安定して関連付けられた結合対要素を有する。結合対要素は、行なわれる特定のアッセイの性質に応じて変わってもよい。そのため、結合対要素は、対象の分子結合相互作用の分子又は対象の分子結合相互作用に関与する分子、例えば、磁気的な標識分子に特に結合する分子と特に結合する捕捉プローブであってもよい。「安定して関連付ける」は、結合対要素及びセンサ表面が、使用条件、例えばアッセイ条件下で過渡期間より長い期間互いに対して空間的位置を維持することを意味する。そのため、結合対要素及びセンサ表面は、非共有結合で又は共有結合で安定して互いに結合され得る。非共有結合の例として、非特異性吸着、静電気に基づく結合(例えば、イオン相互作用、イオン対相互作用)、疎水性相互作用、水素結合相互作用、支持面に共有結合で取り付けられた特異的な結合対要素による特異的結合などがある。共有結合の例として、センサ表面に存在する官能基、例えば−OHと結合対要素との間に形成された共有結合があり、官能基は自然に生じてもよいし、又は導入された連結基の要素として存在してもよい。従って、結合対要素は吸着されてもよく、物理吸着されてもよく、化学吸着されてもよく、又は磁気センサの表面に共有結合で取り付けられてもよい。
所与のデバイスが2以上の磁気センサを含んでいる場合、各センサは、各センサの表面と関連付けられた同一の又は異なる結合対要素を有してもよい。従って、各磁気センサが別個の分子と特に結合するように、磁気的な標識分子に結合する異なる捕捉プローブ又は分子がこのようなデバイスのセンサ表面に存在してもよい。このようなデバイスは、いかなる結合対要素も存在しないセンサを更に含んでもよい(例えば、このような何も存在しないセンサが基準電気信号又は制御電気信号のソースとして機能してもよい)。
マルチセンサデバイスでは、いかなる検体特異的プローブも支持しない、磁気センサ間の領域が存在してもよい。このようなセンサ間の領域は、存在する場合、様々な大きさ及び構成を有してもよい。ある場合には、これらのセンサ間の領域は、異なるセンサ間の流体移動を低減するか又は防止すべく構成されてもよく、例えば、センサ間の領域が疎水性の材料及び/又は(壁のような)流体バリアを含んでいる。
ある実施形態では、例えば1又は複数のアレイの別個のセンサを支えてもよいデバイスの基板が、(他の形状が可能であるが)一般的に直方体として形成されており、基板の長さは、例えば50mm以下又は10mm以下である1mm以上及び100 mm以下のような1mm以上及び150 mm以下であり、幅は、50mm以下又は10mm以下を含んで100 mm以下のような1mm以上及び150 mm以下であり、厚さは、例えば0.5 mm以上及び1.5 mm以下である、0.2 mm以上及び1.5 mm以下を含んで0.1 mm以上及び2mm以下のような0.01mm以上及び5.0 mm以下である。
電子通信要素、例えば導電性のリードが存在してもよく、一又は複数のセンサを、例えばプロセッサ、ディスプレイなどのデバイス要素のような「オフチップ」要素に電子的に結合すべく構成されている。
以下に更に詳細に述べるように、所与の磁気センサデバイスは、上述したようなセンサ構造(例えば、アレイ)に加えて様々な構成要素を含んでもよい。更なるデバイス要素は、これらに限定されないが、信号処理要素、データ表示要素(例えばグラフィカルユーザインターフェース)、データ入出力デバイス、電力源、流体処理要素などを含んでいる。
磁気ラベル
本方法の実施形態では、いかなる便利な磁気ラベルが使用されてもよい。磁気ラベルは、磁気センサと十分に関連付けられたとき、磁気センサによって検出可能であり、磁気センサに信号を出力させる標識部分である。磁気ラベルの中心と磁気センサの表面との距離が50nm以下を含んで100 nm以下のような200 nm以下である場合、対象の磁気ラベルは磁気センサと十分に関連付けられ得る。
ある実施形態では、磁気ラベルはナノ粒子である。ある実施形態の実施に有用なナノ粒子は磁性の(例えば強磁性の)コロイド状の材料及び粒子である。磁性ナノ粒子は高モーメントの磁性ナノ粒子とすることが可能であり、反強磁性的に結合された高モーメントの強磁性体の2以上の層を含む超常磁性の又は合成した反強磁性のナノ粒子であってもよい。これらのタイプのナノ粒子の両方が、磁場が存在しない状態で「非磁性」として生じて、略塊にならない。ある実施形態によれば、使用に適した磁化可能なナノ粒子は、これらに限定されないが、常磁性材料、超常磁性材料、強磁性材料、フェリ磁性材料、及びこれらの組み合わせのような1又は複数の材料を含んでいる。
ある実施形態では、(本明細書で磁気タグと称される)磁性ナノ粒子は、溶液中で塊にならないような僅かな残留磁気を有する。僅かな残留磁気を有する磁性ナノ粒子の例として、超常磁性粒子及び反強磁性粒子がある。ある場合には、磁気タグは、約100 Oeの磁場下で検出可能な磁気モーメントを有する。ある場合には、磁気タグの大きさは対象の生体分子の大きさと同様であり、そのため、磁気タグが対象の分子間の結合相互作用に干渉しない。ある実施形態では、磁気タグは、アッセイ条件での使用を容易にするように略同一の形状を有しており、生物環境下で化学的に安定している。ある場合には、磁気タグは生体適合性を有しており、つまり水溶性であり、対象の生体分子、例えば対象検体に特に結合する受容体に容易に取り付けられるように機能化される。
ある実施形態では、磁性ナノ粒子は、コバルトCo、鉄Fe又はコバルト鉄CoFeのナノ結晶のような高モーメントの磁性ナノ粒子であり、室温で超常磁性であってもよい。磁性ナノ粒子は、これらに限定されないが、適切な溶液中での塩類の還元又は組成物の分解のような化学的経路によって作製され得る。このような磁性ナノ粒子の例として、これらに限定されないが、エス.サン(S. Sun)及びシー.ビー.ムレイ(C. B. Murray)著,「応用物理ジャーナル(J. Appl. Phys)」,第85号:4325,1999年,シー.ビー.ムレイ(C. B. Murray)等著,「エムアールエス報告(MRS Bulletin)」,26:985,2001年、及びエス.サン(S. Sun),エイチ.ツェン(H. Zeng),ディー.ビー.ロビンソン(D. B. Robinson),エス.ロックス(S. Raoux)、ピー.エム.ライス(P. M. Rice),エス.エックス.ワン(S. X. Wang)及ジー.リー(G. Li)著,「米国化学会のジャーナル(J. Am. Chem. Soc.)」,第126 号,p.273 −279 ,2004年に述べられている磁性ナノ粒子がある。ある実施形態では、磁性ナノ粒子は、制御された大きさ(例えば約5−12nm)で合成でき、単分散であり、オレイン酸で安定化する。本明細書での使用に適した磁性ナノ粒子は、これらに限定されないが、コバルトCo、コバルト合金、フェライト、窒化コバルト、酸化コバルト、コバルト−パラジウムCo-Pd 、コバルト−白金Co-Pt 、鉄、鉄合金、鉄−金Fe-Au、鉄−クロムFe-Cr 、鉄−窒素Fe-N 、酸化鉄Fe3O4 、鉄−パラジウムFe-Pd 、鉄−白金Fe-Pt 、鉄−ジルコニウム−ニオブ−ホウ素Fe-Zr-Nb-B、マンガン−窒素Mn-N 、ネオジム−鉄−ホウ素Nd-Fe-B 、ネオジム−鉄−ホウ素−ニオブ−銅Nd-Fe-B-Nb-Cu 、ニッケルNi、ニッケル合金などを含んでいる。複数の実施形態では、金の薄層が磁気コア上にめっきされるか、又は、ポリ−L−リジンで被覆されたガラス表面が磁気コアに取り付けられ得る。適切なナノ粒子が、例えばナノプローブ社(Nanoprobes, Inc.)(イリノイ州ノースブルック(Northbrook, IL))及びリード・アドバンスト・マテリアルズ社(Reade Advanced Materials)(ロードアイランド州プロヴィデンス(Providence, RI))から市販されている。
ある場合には、ナノ粒子の磁気タグが、化学的経路の代わりに物理的な方法(例えば、ダブリュ.フー(W. Hu),アール.ジェイ.ウィルソン(R. J. Wilson),エー.コー(A. Koh),エー.フー(A. Fu),エー.ゼット.ファラネッシュ(A. Z. Faranesh),シー.エム.エルハート(C. M. Earhart),エス.ジェイ.オスターフェルド(S.J.Osterfeld),エス.ジェイ.ハン(S.-J. Han),エル.ズ(L. Xu),エス.グチーノ(S. Guccione),アール.シンクレア(R. Sinclair)及びエス.エックス.ワン(S. X. Wang)著,先端材料(Advanced Materials),第20号,1479−1483,2008年参照)によって作製され、検出されるべき対象の生体分子の標識化に適している。磁気タグは、FexCo1-x(ここでx は0.5 乃至0.7 である)又はFexCo1-xベースの合金のような2以上の強磁性層を含んでもよい。ある場合には、FexCo1-xは24.5kGaussの飽和磁化を有する。これらの強磁性層は、ルテニウムRu、クロムCr、金Auなど又はこれらの合金のような非磁性スペーサ層によって分離されてもよい。ある場合には、スペーサ層は、生じる粒子の最終的な残留磁気が0であるか又は略0であるように反強磁性的に結合された強磁性層を含んでいる。ある実施形態では、反強磁性結合はRKKY交換相互作用(例えば、エス.エス.ピー.パーキン(S. S. P. Parkin)等著,「フィジカルレビューレターズ(Phys. Rev. Lett.)」,第64(19)号,2304,1990年参照)と、静磁相互作用(ジェイ.シー.スロンチェウィスキー(J. C. Slonczewski)等著,「IEEEトランザクション・マグネティック(IEEE Trans. Magn.)」,第24(3)号,2045,1988年参照)とによって達成され得る。ある場合には、反強磁性結合強度は、粒子が100 Oeの外部磁場によって飽和され得る(つまり、全ての層の磁化が平行になる)ような強度である。ある場合には、反強磁性結合強度は、スペーサ層の層厚及び合金組成によって決まる。
特定の実施形態では、ナノ粒子の生体接合を容易にするために、金のキャップ(又は機能的に類似しているか又は等しい材料のキャップ)が反強磁性材料の層の上に層として重ねられており、そのため、ナノ粒子が金のチオール又は他の便利なリンケージによって生体分子に接合され得る。ナノ粒子が水溶性であるように、界面活性剤がナノ粒子に加えられてもよい。ナノ粒子の周囲が、化学的な安定性のために金Au又は他の不活性層で不動態化され得る。
全ての便利なプロトコルが上述されたナノ粒子を作製するために使用されてもよい。例えば、ナノ粒子の層が、基板に堆積されたナノメートル規模の強磁性のスペーサ層、又は表面が略平坦な剥離層を含むことが可能である。ある場合には、マスク層は押印、エッチング、自己組立などによって形成され得る。次に、マスク層及び他の不必要な層が完全に除去され、汚れが落とされてもよい。その後、マスク層のネガ像であるナノ粒子を剥離して、剥離層が除去されてもよい。その後、粒子は界面活性剤及び生体分子と接触してもよい。ある場合には、基板は、徹底的な汚れ落とし及び化学機械研磨(CMP )の後に再利用され得る。
他の実施形態では、ナノ粒子は引き算の作製方法で作製される。この場合、層は、剥離層の後に堆積されたマスク層上に直接配置される。層はマスク層を介してエッチングされ、最終的に基板から剥離される。これらのナノ粒子は、付加的な作製方法の場合とは対照的にマスク層のポジ像から生成される。
ある実施形態では、ナノ粒子が対象の結合相互作用に干渉しないように、本発明での使用に適した磁性ナノ粒子の大きさは、対象の分子結合相互作用の生体分子の大きさと同様である。従って、磁性ナノ粒子の大きさは、複数の実施形態では、例えば、5nm乃至20nmを含めて5nm乃至150 nmのような5nm乃至250 nm(平均径)のサブミクロンサイズである。例えば、平均径が5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm、11nm、12nm、13nm、14nm、15nm、16nm、17nm、18nm、19nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、45nm、50nm、55nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100 nm、110 nm、120 nm、130 nm、140 nm、150 nm及び300 nmである磁性ナノ粒子と、これらの値の内の任意の2つの値の範囲に平均径を有するナノ粒子とが、本明細書での使用に適している。更に、本明細書での使用に適した磁性ナノ粒子は、球状に加えて、ディスク状、棒状、コイル状、繊維状などに形成され得る。
ある実施形態では、磁気ラベルはコロイド状に安定しており、例えば、ナノ粒子の組成物は安定コロイドとして存在してもよい。「コロイド状に安定している」は、ナノ粒子が略塊にならないようにナノ粒子が均一に溶液中で分散していることを意味する。ある実施形態では、凝集を防ぐために、ナノ粒子は、ゼロの印加磁場で最終的な磁気モーメントを有さない(、又は非常に小さな磁気モーメントを有してもよい)。全ての大きさの反強磁性粒子はゼロ磁場でゼロ磁気モーメントを有してもよい。対照的に、強磁性粒子の大きさは、ある場合には、約10nm以下を含んで約15nm以下のような約20nm以下である「超常磁性の限度」未満であってもよい。
ある実施形態では、合成ナノ粒子は、大きなウエハ及び標準的な真空薄膜堆積処理を使用して多量に作製され得る。例えば、6インチの円形ウエハで、各粒子がウエハ上に60nm×60nmの正方形を占めると仮定すると、直径が30nmであるナノ粒子が1回当たり約5×1012粒子の割合で作製され得る。
ある場合には、所与の対象の結合相互作用の分子と磁気ラベルとは安定して互いに関連付けられる。「安定して関連付けられる」は、生体分子及び磁気ラベルが、使用条件、例えばアッセイ条件下で過渡期間より長い期間、互いに対する空間的位置を維持することを意味する。そのため、生体分子及び磁気ラベルは、非共有結合又は共有結合で安定して互いに関連付けられ得る。非共有結合の例として、非特異性吸着、静電気に基づく結合(例えば、イオン相互作用、イオン対相互作用)、疎水性相互作用、水素結合相互作用、支持面に共有結合で取り付けられた特異的な結合対要素による特異的な結合などがある。共有結合の例は、磁気ラベルの表面に存在する官能基、例えば−OHと生体分子との間に形成された共有結合を含んでおり、官能基は自然に生じてもよいし、又は導入された連結基の要素として存在してもよい。
アッセイ混合物の作製
磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に接する磁気センサを備えた磁気センサデバイスは、任意数の異なるプロトコルを使用して作製されてもよい。例えば、磁気的な標識分子に特に結合する第1の分子が、センサ表面上の捕捉プローブに結合され、その後、磁気的な標識分子(例えば、磁気的に標識化されてもよい第2の生体分子)と接触する。このような場合には、本方法は、第1の分子と特に結合し、更に磁気的な標識分子と特に結合する捕捉プローブを表示する磁気センサを備えた磁気センサデバイスを作製し、その後、磁気センサを第1の分子及び磁気的な標識分子と接触させる。表面に結合して磁気的な標識分子と特異的な結合が可能な第1の分子を磁気センサに加え、その後、磁気的な標識分子を磁気センサに加えることにより、第1の分子及び磁気的な標識分子の磁気センサへの接触を順次行わせる。
或いは、磁気的な標識分子に特に結合する第1の分子と磁気的な標識分子とが、複合体を形成すべく磁気センサと接触する前に組み合わせられてもよく、形成された複合体が、磁気センサ上の捕捉プローブに結合可能であってもよい(例えば、第1の分子と捕捉プローブとの結合相互作用の結合反応速度が対象である)。これらの場合には、磁気的な標識分子に特に結合する第1の分子と磁気的な標識分子とを含む反応混合物を作製し、その後、反応混合物を磁気センサに加えることにより、第1の分子及び磁気的な標識分子と磁気センサとの接触を行わせる。
更に他の実施形態では、磁気的な標識分子に特に結合する第1の分子が、まず磁気センサ上に置かれ、その後、第2の分子である磁気的な標識分子と接触する。このような場合には、本方法では、第1の分子を表示する磁気センサを備えた磁気センサデバイスを(介在する捕捉プローブ無しで)作製し、その後、磁気センサを磁気的な標識分子と接触させる。
図1(a)及び図1(b)は、抗体/検体相互作用の結合反応速度及び核酸ハイブリダイゼーション相互作用の結合反応速度の夫々の定量分析で使用されてもよいアッセイプロトコルを概略的に示している。図1(a)では、使用されるプロトコルが、GMR センサの表面に安定して関連付けられる捕捉抗体が検体に結合され、検体が、磁気タグに取り付けられる検出抗体に結合されるサンドイッチアッセイプロトコルである。図1(b)では、使用されるプロトコルが、捕捉DNA がGMR センサの表面に関連付けられ、対象のDNA が捕捉DNA と交配され、磁気タグに取り付けられた検出DNA が対象のDNA と交配されるDNA サンドイッチアッセイである。図1(a)及び図1(b)に示されているプロトコルに従ってデバイスを作製する際に、捕捉結合要素(例えば捕捉抗体又は捕捉DNA )と対象要素(例えば検体又は対象のDNA )との相互作用の結合反応速度が対象であってもよい。このような実施形態では、まず対象要素と標識化された要素とが結合条件下で互いに接触し、その結果としての複合体がセンサ表面と接触する。或いは、図1(a)及び図1(b)に示されているプロトコルに従ってデバイスを作製する際に、標識化された結合要素(例えば標識抗体又は標識DNA )と対象要素(例えば検体又は対象DNA )との相互作用の結合反応速度が対象であってもよい。このような実施形態では、まず対象要素と捕捉要素とが結合条件下で互いに接触し、その結果としての複合体と関連付けられたセンサ表面が標識化された要素と接触する。
上述された(添加を含む)接触ステップは、対象の結合相互作用が生じてもよい条件下で行われる。接触の温度が変わる間、ある場合では、温度は20乃至40℃の範囲を含んで5乃至60℃のような1乃至95℃の範囲を有する。アッセイの様々な要素が水性媒体中に存在してもよく、多くの追加の要素、例えば塩類、緩衝剤などを含んでもよいし、又は含まなくてもよい。ある場合には、接触がストリンジェント条件下で行われる。ストリンジェント条件は、プローブの対象の二本鎖の融解温度未満の20乃至30℃のような15乃至35℃の範囲の温度によって特徴付けられてもよく、融解温度は、多くのパラメータ、例えば温度、緩衝組成物、プローブ及び対象の大きさ、プローブ及び対象の濃度などによって決まる。そのため、ハイブリダイゼーションの温度は、約55乃至70℃の範囲を有してもよく、通常約60乃至68℃の範囲を有する。変性剤が存在する状態では、温度は約35乃至45℃の範囲を有してもよく、通常約37乃至42℃の範囲を有する。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件がハイブリダイゼーション緩衝剤の存在によって特徴付けられてもよく、ハイブリダイゼーション緩衝剤は、(a) 例えば3乃至6×SSC の高塩濃度を有するか、(又は同様の濃度を有する他の塩類を有する)、(b) SDS (0.1 乃至20%)、トリトンX100 (0.01乃至1%)、ノニデットNP40(0.1 乃至5%)などのような洗浄剤の存在、(c) EDTA(例えば0.1 乃至1μM )、塩化テトラメチルアンモニウムのような他の添加剤、(d) 例えば PEG 、硫酸デキストラン(5乃至10%)、CTAB、SDS などの急結剤、(e) 例えばホルムアミド、尿素などの変性剤などの特徴の内の1又は複数によって特徴付けられる。ストリンジェント条件は、ストリンジェンシーが上述された特定の条件と少なくとも同程度厳密である条件である。
センサ表面と接触する試料は単純な試料又は複雑な試料であってもよい。「単純な試料」は、結合相互作用の1又は複数の要素と、もしあれば溶剤以外に少数の他の分子種とを含んでいる試料を意味する。「複雑な試料」は、対象の結合相互作用の1又は複数の要素と、対象ではない多くの異なるタンパク質及び他の分子とを更に含んでいる試料を意味する。ある実施形態では、複雑な試料は、血液又は血液の一部、例えば血清である血液試料である。ある実施形態では、複雑な試料は血清試料である。ある実施形態では、本発明の方法でアッセイされる複雑な試料は、(15,000以上、20,000以上又は25,000以上のような)例えば103 以上、104 以上であり100 以上を含んで20以上のような10以上の、分子構造の観点で互いに異なる別個の(つまり異なる)分子的実体を含む試料である。
磁気センサからの実時間信号の取得
(例えば上述したように、対象の結合相互作用の結合要素と磁気ラベルとを有する)アッセイ混合物に接する磁気センサを備えたデバイスの作製に続いて、本方法の態様は、磁気センサからの実時間信号の取得を含んでいる。そのため、ある実施形態はデバイスからの実時間信号の取得を含んでいる。従って、対象の結合相互作用の発生に関連付けられた実時間信号のリアルタイムでの展開が観察されてもよい。実時間信号は、対象の所与の時間に亘って得られた2以上のデータ点から構成されており、ある実施形態では、得られた実時間信号は、対象の所与の時間に亘って連続的に得られた(例えばトレースの形態の)連続的な一組のデータ点である。対象の時間は、ある場合には、1分乃至15分を含んで10秒乃至1時間のような1秒乃至10時間の範囲内であってもよい。実時間信号のデータ点の数が変わってもよく、ある場合には、データ点の数は、実時間信号の時間的経過に亘る連続的な範囲のデータの提示に十分である。
ある実施形態では、アッセイシステムが「湿潤」状態である間に、すなわち、アッセイ要素(例えば、結合要素及び磁気ラベル)を含んでいる溶液が未だにセンサ表面に接している状態で、実時間信号が観察される。そのため、非結合の分子又は無関係の分子を全て洗う必要がない。(例えば、他の箇所で上述したように直径が150 nm以下の)ナノ粒子である磁気タグからの距離が増大するにつれて、ナノ粒子である磁気タグによって生成される磁場が急激に減少するので、この「湿潤」検出が可能である。従って、捕捉された結合要素に結合された磁気ラベルのセンサでの磁場は、センサから更に離れておりブラウン運動中であり溶液中で結合していない磁気ラベルからの磁場を超える。本明細書で使用される用語「近接検出」は、結合されたナノ粒子のセンサでの優位性のことである。「近接検出」構想に基づき、センサ表面で特に結合された磁気的な標識接合体が、溶液中で非特異性のナノ粒子である磁気タグを洗い流さずに定量化され得る。
対象の所与の結合相互作用のために、アッセイは、単一の結合対要素濃度又は、2以上、3以上、5以上、10以上、100 以上、1,000 以上の異なる濃度のような複数の結合対要素濃度に関する実時間信号を得てもよい。所与のアッセイが、複数の異なる結合対要素濃度を用いて同一の捕捉プローブ濃度を有する同一のセンサと接触してもよく、若しくは逆の場合でもよく、又は必要に応じて異なる濃度の捕捉プローブ及び結合対要素の組み合わせであってもよい。
実時間信号からの結合反応速度パラメータの定量的な決定
上に要約したように、本方法では、実時間信号の取得に続いて、実時間信号から分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定してもよい。言い換えれば、対象の結合反応速度パラメータが実時間信号から得られるように、実時間信号は対象の結合反応速度パラメータを定量的に決定するために使用される。
ある場合には、対象の結合反応速度パラメータが、適合アルゴリズムを用いて実時間信号を処理することによって定量的に決定される。適合アルゴリズムは、例えば上述したように所与のアッセイから得られた1又は複数の実時間信号に式を適合させることによって対象の結合反応速度パラメータを決定する1組の規定を意味する。いかなる便利な適合アルゴリズムが使用されてもよい。
ある実施形態では、2区画モデルが実時間データに適合させるために使用される。対象の2区画モデルは、溶液中の磁気的な標識分子が移送工程(拡散及流れ)によって、表面に結合された結合相手、例えば捕捉された第1の生体分子に接近し、その後、会合及び解離の化学工程によって表面に結合された結合相手に結合すると仮定される。このような場合には、2区画モデルの2区画はバルク区画及び表面区画である。図2は、複数の実施形態で使用される2区画反応拡散モデルを概略的に示しており、図2では、(標識抗体として図示されている)標識分子が移送工程によりセンサ表面に移動し、その後接合流れによって結合して離れる。ある場合には、磁気的な標識分子の濃度が各区画内で均一であると仮定し、表面区画(Cs)内の磁気的な標識分子のみがセンサ表面上の結合箇所で反応し、バルク区画(C0)内の標識分子が表面に拡散する。ある場合には、使用された2区画モデルで「迅速な混合」が行われると仮定しない。
このシステムのための支配方程式が、
dCs/dt = kM(C0−Cs)−kaCs(Bmax−B)+kdB (1)
dB/dt = kaCs(Bmax−B)−kdB (2)
と記載され、境界条件が、
Cst=0 = C0 (3)
B|t=0 = 0 (4)
である。ここで、Bはセンサ表面上の結合された第1/第2の生体分子接合体の濃度であり、Bmaxは利用可能な受容体の最初の濃度であり、ka(=kon )は会合速度定数であり、kd(=koff)は解離速度定数であり、kMは拡散制限速度定数である。この一般的な一組の微分方程式の分析的な解が存在しないので、数値的適合アルゴリズムが使用される。
上記に提示された式(1)は、表面区画内の第2の標識分子の濃度Csを記述するために使用される。この式(1)は、受容体との会合及び解離による第2の標識分子の最終的な流出量を引いた、バルク区画からの拡散による表面区画への第2の標識分子の流入が、表面区画内の第2の標識分子の濃度Csの増加率に等しいことを仮定している。拡散は、システム全体が結合工程中に静止したままであるこれらの実施形態で唯一の質量移送機構である。
式(2)は、センサ表面に結合された第1/第2の生体分子接合体の濃度Bを記述するために使用される。この式(2)は、解離を引いた、標識化された第2の生体分子の会合による流入が第1/第2の生体分子接合体の濃度Bの増加率に等しいことを仮定している。
最後に、実時間信号は第1/第2の生体分子接合体の濃度Bに比例すると仮定されており、つまり、以下のようになる。
V=gB, Vmax=gBmax (5)
適合パラメータである5つの未知のパラメータka,kd,kM,g 及びVmaxが存在する。これら5つの適合パラメータの内、ka,kd,kM及びg は、1つのアッセイで同一の第1及び第2の捕捉生体分子を有する全てのセンサに関して同一であると仮定されており、従って、汎用適合パラメータと呼ばれる。表面に結合された結合相手の濃度、例えば、センサ表面上に固定された捕捉分子、第1の生体分子の濃度を精確に制御することが困難であるので、Vmaxはセンサ毎に異なる。1つのアッセイで全てのセンサが同一のチップ上にあり同一に処理されるときであっても、Bmaxが多少変化し、従ってVmaxが多少変化する。
ある場合には、2区画モデルは、ディー.マイツカ(D. Myszka)等著,「分析生化学(Anal. Biochem)」,265:326-330,1998年に述べられている2区画モデルの変形例であり、例えば2区画モデルが、上述されたパラメータと適合すべく変形されている。
必要に応じて、固定された結合相手の濃度がセンサにより意図的に変えられてもよい。そのため、異なる形状の信号曲線が得られ、例えば大域解析(global analysis)又は大域適合(global fitting)と称されるプロトコルで分析され得る。このような場合には、(例えば、上述されているような)2区画結合モデルが、異なる検体濃度C(及び/又は異なるレベルの表面誘導体化Bmax )で得られた複数の実時間信号に同時に適合される。「大域適合」として本技術分野で知られているように、このような大域適合により、実時間データに基づいて、単一の汎用適合パラメータである会合速度定数ka又は解離速度定数kdが全てのデータに十分適合するか否かが確証される。元の実時間データ曲線に重ね合わされた適合曲線を表示することにより、完了した適合結果がオペレータに図表で提示されてもよい。
必要に応じて、適合の近似度が更に、標準的な統計処置であるカイ二乗(X2)の値によって提示されてもよい。ある場合には、カイ二乗の値が実験中のノイズと同一の大きさであるとき、十分な適合性が存在するとみなされる。R2と称されてもよい決定係数が、適合性の指標として更に使用されてもよい。信号曲線にn個の点が存在するとき、信号曲線がsiであり、適合曲線がfi(i=1,2,....,n)である場合、決定係数R2は、以下のように定義されてもよい。
2=1−(SSerr/SStot) (6)
Figure 0005937019
1つのアッセイからN本の信号曲線が得られる場合、各信号曲線は決定係数R2の値を有しており、1−R2の平均値が全てのN本の信号曲線に関する最適な適合性を得るべく最小化される。
ある場合には、「残差プロット」が更に提示されてもよく、「残差プロット」は、実験データと適合データとの差異を信号曲線毎に示す適合曲線から実験データがどの位逸脱しているかを図表で示す。オペレータがその後、適合性が十分であるか否かを判断してもよい。そうでなければ、最も不十分な適合性を示す一又は複数の実時間信号が除外されてもよく、適合性の処理が、1組の減じた実時間信号を用いて再実行される。適合性が十分になるまで、この適合性の処理が繰り返されてもよい。
対象の別の適合アルゴリズムは、以下の実験のセクションに開示されている特定の適合アルゴリズムを含んでいる。
必要に応じて、上記の定量化決定プロトコルは、上述されたプロトコルを行なうように構成されたソフトウェア及び/又はハードウェアによって実行されてもよい。
多重解析
本発明の態様は、同一のセンサを用いた2以上の別個の結合相互作用の多重解析を含んでいる。「多重解析」は、結合分子及び/又は磁気的な標識分子が例えば異なる配列によって互いに異なる様々な組の結合分子間の2以上の別個の結合相互作用が定量的に分析されることを意味する。ある場合には、組の数が、100 以上又は1000を含んで20以上、例えば50以上であり4以上、6以上、8以上などのような2以上の別個の組である。そのため、ある場合には、磁気センサデバイスは、別個の結合相互作用を特に夫々検出する、100 以上又は1000以上を含んで20以上、例えば50以上であり2以上、4以上、6以上又は8以上の別個の磁気センサのような2以上の別個の磁気センサを含んでもよい。ある実施形態では、2乃至50又は2乃至20の別個の結合相互作用のような2乃至1000の別個の結合相互作用の多重解析が対象である。従って、これらの実施形態では、磁気センサデバイスは4乃至1000の別個の磁気センサのような2乃至1000の別個の磁気センサを含んでもよく、別個の磁気センサは、別個の結合相互作用を特に夫々分析する。他の場合では、磁気センサデバイスは、別個の結合相互作用を特に夫々分析する4以下の別個の磁気センサを含んで10以下のような20以下の別個の磁気センサを含んでもよい。
デバイス及びシステム
本発明の態様は、対象の分子結合相互作用の1以上の結合反応速度パラメータを定量的に決定するように構成されている磁気センサデバイス及びシステムを更に含んでいる。磁気センサデバイス及びシステムは一般的に、磁気センサと、磁気センサから実時間信号を受けて、実時間信号から分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定するように構成された定量分析モジュール(例えばプロセッサ)とを備えている。これら2つの構成要素は、単一のデバイスとして同一の製品に一体化されてもよく、又は(例えばシステムとして)2以上の異なるデバイスに分配されてもよい。システムでは、2以上の異なるデバイスが、例えば有線又は無線の通信プロトコルに従って互いに通信する。
従って、本発明の態様は、上述された結合相互作用を定量的に評価するように構成されたシステム、例えばコンピュータに基づくシステムを更に含んでいる。「コンピュータに基づくシステム」は、本発明の情報を分析すべく使用されるハードウェア手段、ソフトウェア手段及びデータ記憶手段のことである。コンピュータに基づくシステムの実施形態の最小限のハードウェアは、中央処理装置(CPU )(例えばプロセッサ)、入力手段、出力手段及びデータ記憶手段を含んでいる。現在入手可能なコンピュータに基づくシステムの内のいずれも、本明細書に開示されている実施形態での使用に適している。データ記憶手段は、上述されているような存在する情報の記録を含むあらゆる製品、又はこのような製品にアクセス可能なメモリーアクセス手段を含んでもよい。
データを「記録する」とは、コンピュータ可読媒体内のプログラム又は他の情報が、本技術分野で公知であるこのような方法のいずれかを使用して情報を記憶する処理のことである。いずれの便利なデータ記憶構造が、記憶された情報にアクセスすべく使用される手段に基づいて選択されてもよい。様々なデータプロセッサプログラム及びフォーマット、例えばワード処理テキストファイル、データベースフォーマットなどが記憶のために使用され得る。
「プロセッサ」は、必要な機能を行なういずれかのハードウェア及び/又はソフトウェアの組み合わせたもののことである。例えば、本明細書におけるいずれのプロセッサも、電子制御装置、本体装置、サーバ又は(例えばデスクトップ若しくは持ち運び可能な)パーソナルコンピュータの形態で利用可能であるようなプログラム可能なデジタルマイクロプロセッサであってよい。プロセッサがプログラム可能である場合には、適切なプログラムが、離れた場所からプロセッサに通信され得るか、又は(磁気か光学か又は固体素子に基づく持ち運び可能か又は固定されたコンピュータ可読記憶媒体のような)コンピュータプログラム製品に予め保存され得る。例えば、磁気媒体又は光ディスクがプログラムを担持しており、対応する場所で夫々のプロセッサと通信する適切なリーダによって読み取られ得る。
主題であるシステムの実施形態は、(a) システムと1又は複数のユーザとの間での(例えばユーザのコンピュータ又はワークステーションを介した)情報転送を容易にするための通信モジュール、及び、(b) 開示された定量分析方法に含まれる1又は複数のタスクを行なうための処理モジュールを含んでもよい。
ある実施形態では、制御ロジック(プログラムコードを含むコンピュータソフトウエアプログラム)が記憶されている、コンピュータが使用可能な媒体を備えたコンピュータプログラム製品について述べられている。制御ロジックは、コンピュータのプロセッサによって実行されるとき、本明細書に述べられている機能をプロセッサに行なわせる。他の実施形態では、複数の機能が、例えばハードウェア状態の機器を使用して主としてハードウェアで実行される。本明細書に述べられている機能を行うようなハードウェア状態の機器の実行は、いずれの便利な方法及び技術を使用して達成されてもよい。
本発明のシステム及びデバイスは、センサデバイス及び定量分析モジュールに加えて、例えばモニタ、プリンタ及び/又はスピーカのデータ出力デバイス、例えばインタフェースポート、キーボードなどのデータ入力デバイス、流体処理要素、動力源などのような多くの追加の要素を含んでもよい。
有用性
主題の方法、システム及びキットは、対象の結合相互作用の結合反応速度パラメータの定量的な決定が必要とされる様々な異なる用途で使用される。ある実施形態では、結合相互作用は、これらに限定されないが、核酸ハイブリダイゼイション、(例えば以下の実験のセクションで更に詳細に述べられるような)タンパク質間相互作用、受容体−リガンド相互作用、酵素−基質相互作用、タンパク質−核酸相互作用などのような結合相互作用である。
ある場合には、主題の方法、システム及びキットは、分子結合相互作用のリアルタイムでの観察が必要とされる薬剤開発プロトコルで使用される。例えば、薬剤開発プロトコルは、抗体及び抗原間の分子結合相互作用、核酸間のハイブリダイゼーション相互作用、タンパク質間の結合相互作用、受容体及びリガンド間の結合相互作用、酵素及び基質間の結合相互作用、又はタンパク質及び核酸間の結合相互作用などをリアルタイムでモニターするために主題の方法、システム及びキットを使用してもよい。例えば、CEA 及びVEGFは腫瘍マーカであり、ベバシズマブ(bevacizumab)(アバスチン(Avastin);ジェネンテック社(Genentech),ロシュ社(Roche))のような抗VEGF抗体の薬剤が、効果的な抗癌剤である。別の例は、化学療法剤であるエドレコロマブ(edrecolomab)に調剤された抗EpCAM 抗体である。これらのような結合相互作用をモニターすることにより、他の抗体に基づく薬剤の開発が容易になる。
主題である方法、システム及びキットは、複雑な試料に含まれる結合対間の分子結合相互作用の分析に使用される。ある場合には、対象ではなく複雑な試料に存在してもよい他のタンパク質又は分子から対象の結合分子を分離することなく、複雑な試料が直接分析されてもよい。ある場合には、タンパク質の非特異的結合、対象ではない分子、及び未結合の磁性ナノ粒子は、主題である方法、システム及びキットで検出可能な信号を実質的に生成しない。従って、主題である方法、システム及びキットは、複雑な試料が使用されてもよく、且つ対象の結合相互作用を検出するために必要なセンサを洗浄することなく対象の結合相互作用がリアルタイムでモニターされてもよいアッセイプロトコルで使用されてもよい。
本明細書で開示されているリアルタイムの結合アッセイ及び反応速度モデルが、エピトープ解析のような用途に使用されてもよい。例えば、GMR センサアレイは、高度な並行方法でエピトープ解析を行なうことが可能である。抗原は、捕捉抗体を使用してセンサ表面上に特異なイントラ分子構造で選択的に固定され得る。捕捉された抗原の露出したエピトープの動的な相互作用が、様々な受容体又は抗体への親和性のために調べられ得る。例えば、上皮成長因子受容体(EGFR)が、EpCAM のようなEGF 様反復を有するタンパク質に加えてEGF 自体も結合することが可能である。異なる単クローン抗体を使用してEGF 様反復を有するタンパク質を捕捉し、配向したタンパク質へのEGFRの結合を調べることにより、エピトープマッピングが、EGF 様反復を有する様々なリガンドに対するEGFRの親和性を評価すべく決定され得る。露出したエピトープを調べるためにGMR センサを使用することにより、特定の対象物との薬理相互作用の大量スクリーンから、プロテオームでの対象物の特定の領域のための並行スクリーニングまでの範囲の用途が可能になる。
主題である方法、システム及びキットは更に、空間及び時間の両方での分子結合相互作用のモニタリングに使用される。例えば、主題である方法、システム及びキットは細胞タンパク質のセクレトーム(secretome)解析によって局所的な細胞間連絡をモニターするために使用されてもよい。空間及び時間における細胞タンパク質の分泌の拡散をモニターすることによって、細胞間連絡の機構が決定されてもよい。
主題である方法、システム及びキットは、細胞生物学における信号伝達に関連する受容体−リガンド結合相互作用を理解するためか、又はプロテオーム全体に対して対象の特定の組成物をプロファイリングするための基礎科学研究に使用される。更に、指向性タンパク質進化(directed protein evolution)の研究における大量スクリーンから、薬剤のオンターゲット(on-target)及びオフターゲット(off-target)の交差反応の結合反応速度の調査まで臨床医学への用途が幅広い。
コンピュータに関連した実施形態
ある実施形態の態様は更に、様々なコンピュータに関連した実施形態を含んでいる。具体的には、前のセクションで述べたデータ解析方法がコンピュータを使用して行なわれてもよい。従って、実施形態は、対象の結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定するために、上記の方法を使用して生成されたデータを分析するためのコンピュータに基づくシステムを提供する。
ある実施形態では、方法は「プログラミング」の形態でコンピュータ可読媒体にコード化されており、本明細書で使用される用語「コンピュータ可読媒体」は、実行及び/又は処理のためにコンピュータに指示及び/又はデータを与えることに関与するあらゆる記憶媒体又は伝送媒体のことである。記憶媒体の例として、コンピュータの内部にあるか又は外部にあるかに無関係に、フロッピーディスク、磁気テープ、CD-ROM 、DVD 、Blu-Ray 、ハードディスクドライブ、ROM 、集積回路、光磁気ディスク、又はPCMCIAカード又はフラッシュメモリカードなどのようなコンピュータ可読カードがある。情報を含むファイルが、コンピュータ可読媒体に「記憶され」てもよく、「記憶する」は、情報がコンピュータにより後でアクセス可能であり取り出し可能であるような情報の記録を意味する。媒体として非一時的な媒体、つまり、プログラミングが物理的な構造に記録されているように、物理的な構造に関連付けられている物理媒体が対象である。非一時的な媒体は、無線プロトコルによって伝送された電子信号を含んでいない。
コンピュータ可読媒体に関して、「固定記憶装置」は永続的なメモリのことである。固定記憶装置は、コンピュータ又はプロセッサへの電力供給の終了によって消去されない。コンピュータハードドライブ、CD-ROM、Blu-Ray 、フロッピーディスク及びDVD は全て固定記憶装置の例である。ランダムアクセスメモリ(RAM )は非永続的なメモリの例である。固定記憶装置内のファイルは編集可能であっても、再書き込み可能であってもよい。
キット
上述された方法の1又は複数の実施形態を実施するためのキットが更に提供される。主題であるキットは変更されてもよく、様々なデバイス及び試薬を含んでもよい。対象の試薬及びデバイスは、磁気センサデバイス、磁気センサデバイスの(磁気センサアレイ又はチップのような)要素、磁性ナノ粒子、結合剤、緩衝剤などに関して本明細書に述べられている要素を含んでいる。
ある場合には、キットは、(例えば上述されたような)方法での使用のための試薬と、コンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読媒体と、コンピュータプログラムを得るためのアドレスを有する物理的な基板とを少なくとも含んでおり、前記コンピュータプログラムは、コンピュータにロードされると、磁気センサから得られた実時間信号から、第1及び第2の分子間の結合相互作用の結合反応速度パラメータをコンピュータに定量的に決定させる。
上記の構成要素に加えて、主題であるキットは、主題である方法を実施するための説明書を更に含んでもよい。これらの説明書は、様々な形態で主題であるキットに存在してもよく、これらの説明書の内の1又は複数がキット中に存在してもよい。これらの説明書が存在してもよい一形態は、適切な媒体又は基板上の印刷情報であり、例えば情報が印刷された、キットの包装紙、添付文書などに印刷される一又は複数枚の紙である。別の手段は、情報が記録されているコンピュータ可読媒体、例えばフロッピーディスク(登録商標)、CD、DVD 、Blu-Ray などである。存在してもよい更に別の手段は、除去された箇所の情報にアクセスするためにインターネットを通じて使用されてもよいウェブサイトアドレスである。いかなる便利な手段がキットに存在してもよい。
以下の例を、限定のためではなく例証を目的として提示する。
実験
I.結合反応速度の決定
A.材料及び方法
オスターフィールド(Osterfield)等著,「米国科学アカデミー紀要(Proc.Nat'l Acad.Sci USA)」,150:20637-206340,2008年、及びズ(Xu)等著,「バイオセンス バイオエレクトロン(Biosens. Bioelectron)」,24:99-103,2008年に述べられている巨大磁気抵抗(GMR )センサアレイが、以下の一般的なプロトコルで使用された。
1.表面機能化
センサ表面が、結合対要素、例えば捕捉抗体、第1の生体分子などをセンサ表面上に安定して関連付けるべく機能化された。ポリエチレンイミン(PEI )のようなカチオン性ポリマーが、帯電した抗体を物理吸着によってセンサ表面に非特異的に結合するために使用され得る。或いは、共有結合化学が、抗体又は遊離チオール基上に遊離アミンを使用するために採用され得る。オリゴヌクレオチドの安定した吸着のための表面機能化に関する更なる詳細は、ズ(Xu)等著,「バイオセンス バイオエレクトロン(Biosens. Bioelectron)」,24:99-103,2008年に提示されており、抗体に関して、オスターフィールド(Osterfield)等著,「米国科学アカデミー紀要(Proc.Nat'l Acad.Sci USA)」,150:20637-206340,2008年に提示されている。その後、対象の結合対要素が、結合要素をセンサ表面に安定して関連付けるためにセンサ表面と接触した。
2.表面機能化及び結合対の関連付けに続いて、センサ表面はアッセイ中に非特異性の結合を防ぐために保護された。表面を保護するために、PBS 内の1%のBSA から構成された保護緩衝剤が反応ウェルに1時間加えられた。使用されてもよい追加の保護プロトコルが、ズ(Xu)等著,「バイオセンス バイオエレクトロン(Biosens. Bioelectron)」,24:99-103 ,2008年、及びオスターフィールド(Osterfield)等著,「米国科学アカデミー紀要(Proc.Nat'l Acad.Sci USA)」,150:20637-206340,2008年に述べられている。
3.保護に続いて、センサ表面が、対象の第1の生体分子の溶液、例えば第1の生体分子の精製溶液、又は第1の生体分子を含む複雑な試料と接触した。このステップのために、〜1nL−100 μL の溶液を含む反応ウェルが使用され、インキュベーション時間は、用途に応じて5分乃至2時間の範囲内であった。
4.インキュベーションに続いて、対象のタグ(例えば、磁性ナノ粒子)で予め標識化された第2の生体分子を含む溶液がセンサ表面と接触した。
5.次に、第1の生体分子への第2の生体分子の結合反応速度がモニターされ、結合軌跡に基づいて結合速度定数を計算するために使用された。
B.結果及び議論
GMR バイオセンサからの実時間データが、ビオチン−ストレプトアビジン相互作用のオン速度及びオフ速度(図3(a) )を計算するために使用された。ビオチニル化された二重鎖DNA がセンサ表面上に固定され、ストレプトアビジンが標識化された磁気タグがシステムに加えられた。4.45×106M-1s-1 のオン速度が、3.2 %の適合誤差及び4.4 ×10-4s-1 の拡散制限速度定数kMの状態で計算された。同一のビオチン−ストレプトアビジン結合実験がBIAcore 3000の表面プラズモン共鳴(SPR )機器を使用して行われ、5.5 ×106M-1s-1のオン速度が得られGMR センサアレイでの結果と略一致していた。
次に、抗体−抗原結合反応速度(図2)を調べるためのGMR センサアレイの能力が実証された。GMR センサアレイ中のGMR センサが、100 μg/mL及び10μg/mLで5乃至10の複製センサ上でEpCAM タンパク質により機能化された。モデルを使用して、複数の濃度で存在する固定された抗原への磁気的な標識抗体の結合工程をシミュレートすることが可能であった。適合データ(図3(b))から、選ばれたEpCAM 抗体−抗原相互作用に関して、3.4 %の全体の適合誤差及び4.2 ×10-4s-1の拡散制限速度定数kMの状態で、会合速度定数kaが2.93×105M-1s-1であり、解離速度定数kdが2.83×10-3s-1であることが決定された。
同様のリアルタイム実験が、高親和性のCEA 抗原−抗体結合反応速度を定量化するために実行された。1μg/mL及び10μg/mLのCEA がGMR センサ表面上で固定され、20μg/mL、10μg/mL、5μg/mL、2.5 μg/mL及び1.2 μg/mLのCEA がSPR 分析によって検査された。会合速度定数及び解離速度定数が各プラットフォームでモニターされ、結果が比較された(図3(c)及び図3(d))。この場合も、GMR センサアレイ及びSPR は同様の反応速度定数を与えた。GMR バイオセンサに関して、会合速度定数kaは5.0 ×104M-1s-1 であり、解離速度定数kdが4.4 ×10-4s-1 であることが決定された。一方、SPR 実験が4.44×104M-1s-1 の会合速度定数ka、及び1.17×10-4s-1 の解離速度定数kdを与えた。従って、これらの結果は、磁気的に反応するバイオセンサが結合速度定数を精確に測定するために使用され得ることを実証した。
II.抗体開発及び薬剤スクリーニングのためのタンパク質相互作用の高処理分析及び反応速度モデル
A.材料及び方法
1.センサ
実験で使用された巨大磁気抵抗(GMR )センサは、Si/Ta(5)/シード層/IrMn(8)/CoFe(2)/ Ru/(0.8)/CoFe(2)/Cu(2.3)/CoFe(1.5)/Ta(3)のタイプのボトムスピンバルブ構造を有している。尚、括弧内の数字の単位は全てナノメートルである。各チップはGMR センサのアレイを含んでおり、GMR センサは300 nmの厚さのTa/Au/Taリードによって周囲のボンディングパッドに接続されている。センサ及びリードを腐食から保護するために、2つの不活性化層がイオンビームスパッタリングによって堆積された。まず、SiO2(10nm)/Si3N4(20nm)/SiO2(10nm)の薄い不活性化層が、結合パッドの領域のみを露出して全てのセンサ及びリードの上に堆積され、次に、SiO2(100nm)/Si3N4(150nm)/SiO2(100nm)の厚い不活性化層が、能動的センサ及び結合パッドの領域を露出して参照センサ及びリードの上に堆積された。磁気抵抗比率がパターニング後に約12%であった。スピンバルブの拘束方向が面内方向であり、センサストリップに垂直であった。自由層の容易軸が、形状異方性によってセンサストリップと平行に設定された。この構成により、GMR センサが、GMR センサのMR伝達曲線の最も反応し易い領域で動作することが可能になった。
GMR 効果により、センサの抵抗が、銅のスペーサ層によって分離された2つの磁性層の磁化の方向と共に変化した。
R(θ)=R0−(1/2)δRmaxcosθ (M.1)
ここで、R0はゼロ磁場下の抵抗であり、δRmaxは最大の抵抗変化であり、θは2つの磁性層の磁化間の角度である。ボトムスピンバルブ構造では、底部の磁性層(ピン層)の磁化が一定の方向に拘束される一方、上部の磁性層(自由層)の磁化方向が外部磁場と共に自由に回転可能であった。その結果、磁気ラベルからの漂遊磁界が、自由層の磁化を変更することが可能であり、従って、GMR センサの抵抗を変更することが可能である。
2.磁気ラベル
磁気ラベルは、「MACS」粒子と称され、ミルテニーバイオテク株式会社(Miltenyi Biotech Inc.)から入手した。MACS粒子は夫々、デキストランのマトリックスによって共に保持された10nmのFe2O3 ナノ粒子のクラスタであった。Fe2O3 ナノ粒子の大きさが小さいため、全径が50nmであり、10%の磁性材料(wt/wt)を含有したMACS粒子は超常磁性であった。MACS粒子は、例えばEpCAM (CEA,VEGF)実験のために検討された対応する検体により機能化され、MACS粒子は、EpCAM (CEA,VEGF)抗体により機能化され、ビオチン−ストレプトアビジン実験のために、MACS粒子はストレプトアビジンにより機能化された。
3.表面化学
センサ表面がまず、アセトン、メタノール及びイソプロピルアルコールで洗い流された。次に、センサが3分間酸素プラズマに露出された。脱イオン水中の2%(w/v )のポリアリルアミン溶液が5分間センサに用いられた。これらに限定されないが、無水物(anhydrise)、ポリアリルカルボン酸塩などを含む溶液のような他の溶液が必要に応じて使用されてもよい。その後、チップが脱イオン水で洗い流され、45分間150 ℃で焼かれた。その後、カルボキシル基が導入された表面に関して、10%(w/v )のEDC 溶液及び10%(w/v )のNHS 溶液が室温で1時間センサ表面に加えられた。捕捉タンパク質(EpCAM (RDシステムズ社(RD Systems)製の960-EP-050)、CEA (RDシステムズ社製の4128-CM-050)若しくはVEGF(RDシステムズ社製の293-VE165))、又は捕捉抗体(EpCAM に対する抗体(アブカム社(Abcam )製のab20160 若しくはR&D 社製の960 )、CEA (バイオスパシフィック社(BiosPacific)製の5910)又はVEGF(アブカム社製のab69479))が、360 ピコリッタの液滴で3回(全量1ナノリットル)各センサにロボット制御で加えられた。再現性をモニターするために、GMR センサアレイ上にランダムに分配された3乃至8個のセンサが、同一の捕捉タンパク質と共にインキュベートされた。制御センサが、1mg/mL のBSA 又は500 μg/mLの非相補的な抗体(一般的には、抗サバイビン抗体(ヌーヴバイオロジカル社(Novus Biologicals, LLC)製のH00000332-P01))のいずれかで同様に固定された。センサアレイの全表面が30分間PBS 中の1mg/mL のBSAで保護された。
4.反応速度アッセイ
或いは、反応速度アッセイは以下のようにモデル化され得る。
センサ表面が適切な捕捉タンパク質により機能化された後、GMR センサアレイが試験ステーションに置かれ、リアルタイムでモニターされた。BSA 保護緩衝剤が洗い流され、(上述されたように生成された)50μL の磁気的な標識検出抗体の溶液が反応ウェルに加えられた。GMR センサアレイは、磁気的な標識検出抗体が対応するタンパク質に結合するとき経時的にモニターされた。その後、各タンパク質に特有の結合曲線が作図され、結合速度定数が決定され得る。反応速度アッセイが5分間行われた。
5.モデル及び適合
1つの製品を作製するために相互に作用する2つの分子の処理が、以下のように一般化され得る。
Figure 0005937019
ここで、Csは表面の近くでの溶液内の反応物の濃度であり、Lは表面上のリガンド又は受容体の濃度であり、nは相互作用による製品の表面濃度である。単純なモデルでは、反応物の内の少なくとも1つが過剰であると仮定される。しかしながら、本明細書で示されたモデルでは、センサ表面上の反応物受容体は補充されない。その結果、L及びnの合計がLの元の濃度と等しくなるべきである。
[L]+[n]=[L]0=[nmax]
モデル[L]0=[nmax]に関して、nmaxは、表面上の検体の最大濃度によってではなく、密充填されたMNP の最大濃度によって制限される。所与の時間における対象物に結合された磁気的な標識抗体の数n(t)がGMR バイオセンサアレイを使用してモニターされた。この相互作用の結合速度定数を定量化するために、分析モデルが、体積V内の反応物の質量保存及び反応性を示すセンサ表面Aを仮定して導き出された。以下の式M1.1は、溶液内の標識抗体の変化速度を表現している一方、式M1.2は、センサ表面への標識抗体の結合速度を表現している。
V(dCs/dt)=−AkonCs(nmax−n)+Akoffn (M1.1)
A(dn/dt)=AkonCs(nmax−n)−Akoffn (M1.2)
ここで、Csはセンサの表面での磁気的にタグ付けされた抗体の濃度であり、C0は磁気的にタグ付けされた抗体のバルク濃度であり、nmaxは、センサ表面上の面積当たりの可能な結合箇所での最大モルであり、nは、センサ上に生成され結合されたMNP 抗体−抗原複合体の表面濃度である。Vはセンサの上方の溶液の体積であり、Aは反応面積(この場合、各センサの表面積)である。更に、kon は会合速度定数であり、koffは解離速度定数である。
抗体−抗原解離が本実験のタイムスケールで無視され得るので、解離速度定数koffが0であると仮定してこの連立方程式は単純化され得る。従って、単純化された式M1.1及び式M1.2の合計によって、保存式が以下のとおりになる。
V(dCs/dt)+A(dn/dt)=0 (M1.3)
境界条件がt=0、n=0及びCs=C0であると仮定すると、Cs=C0−nA/Vが与えられ、そのため、以下の式M1.4が与えられる。
dn/dt=kon(C0−n*(A/V))(nman−n) (M1.4)
括弧内の用語は、バルク反応物の減少及び利用可能な表面箇所の減少を夫々表している。この式は、式M1.5での分析的な解を有しており、観察された結合反応速度を精確にモデル化している。
Figure 0005937019
Csは、センサの表面での磁気的にタグ付けされた抗体の濃度であり、C0は、磁気的にタグ付けされた抗体のバルク濃度であり、nmaxは、面積当たりの表面結合箇所での最大モルであり、nは、センサ上に生成され結合されたMNP 抗体−抗原複合体の表面濃度である。Vはセンサの上の溶液の体積であり、Aは反応面積(この場合各センサの表面積)である。溶液には、V/A の比率が存在し、特徴的な拡散高さとみなされ得る。この特徴的な高さより上の溶液内では何れも、実験の時間フレーム内でセンサに結合しない。更に、kon は会合速度定数であり、koffは解離速度定数である。
体積内の反応速度及び表面での反応速度の両方が議論されているので、n 及びnmaxがモル/cm2 で表現されているのに対して、Cs及びC0はモル/cm3 で表現されている。溶液の速度に体積を掛けて表面の速度に面積を掛けることによって、結合速度定数は、各式に同一の単位(時間当たりのモル)で表現され得る。
4つの適合パラメータkon ,C0,nmax及び(溶液の反応性部分の有効厚さである)V/A が存在する。これらの中で、kon 及びV/A は「汎用適合パラメータ」であり、同一の受容体−検体対からの全ての信号曲線に対して同一である一方、nmax及びC0は「局所的な適合パラメータ」であり、検体の表面濃度又は抗体−MNP 複合体の溶液濃度が全ての実験に亘って一定ではない場合があるので、異なる信号曲線に対して異なる。
C0V/A >> nmaxであるとき、分析モデルはラングミュアモデルに変わる。
Figure 0005937019
解離速度定数koffが本実験のタイムスケールで無視され得ると仮定すると、この式は、解をラングミュア結合モデルに一致させる。上記の式は、以下で導き出される式M.25と同一である。
6.適合誤差
適合誤差は、以下のように定義される。N本の信号曲線が1つのチップから測定される場合、曲線jがnj個のデータ点を有し、Di,jが曲線jのi番目のデータ点として表示され、Si,jがシミュレートされた曲線jのi番目のデータ点として表現される場合、信号曲線jに関する適合誤差は以下の式(M.2 )として表現される。
Figure 0005937019
ここで、Dmax,jは信号曲線の最大信号である。このように、センサアレイでの実験による結合曲線が夫々モデルから予測された結合曲線と比較される。その後、この誤差は、最適な適合性を得て会合速度定数kon を計算するために最小化にされる。絶対誤差が信号曲線の最大信号によって表示され、従って、適合誤差は信号レベルの百分率であった。そのため、大きな信号曲線に関する百分率に基づく相対的な適合誤差が、小さな信号曲線の百分率に基づく相対的な適合誤差と同様であった。全体の適合誤差は以下のように表現される。
Figure 0005937019
この全体の適合誤差は、本明細書に示された反応速度データの適合で最小限度に抑えられる。
7.従来の2区画モデル
表面上の捕捉物質への溶液内のリガンドの結合反応速度が、2区画反応としてモデル化されてもよい。このため、反応速度及び移送速度の両方がモデルに組み込まれ得る。モデルでは、表面区画内の可溶性リガンドが会合及び解離の化学処理によって表面と反応し(図2参照)、拡散、流れ及び対流によってバルク区画から徐々に補充される。各区画内では、濃度が、空間内で均一であると仮定されるが、経時的に変わってもよい。バルク区画内のリガンドの濃度C0が均一であると仮定される一方、表面区画中内のリガンドの濃度Csは結合反応により減少するが、バルクリガンドの拡散及び表面で結合された複合体の解離によって補充される。この2区画の反応は以下のように記述され得る。
Figure 0005937019
ここで、CS及びC0は表面区画及びバルク区画で磁気的にタグ付けされた抗体の溶液濃度を夫々表し、Rは表面上で固定されたリガンド又は受容体の表面濃度(つまり、使用可能な結合箇所での面密度)であり、nは結合されたMNP 抗体−抗原複合体の表面濃度であり、kMは拡散制限速度定数であり、kon 及びkoffは夫々会合速度定数及び解離速度定数である。CS及びnの最終的な反応速度は、以下の一組の式によって定義され得る。
V(dCs/dt)=VkM(C0−Cs)−AkonCsR+Akoffn (M.6)
dn/dt=konCsR−koffn (M.7)
反応速度が体積及び表面の両方で分析されたので、R 、n 及びnmaxはモルm-2 で表現されるのに対して、Cs及びC0はモルm-3 で表現される。溶液の速度を表面区画の体積V と掛け、表面の速度をセンサの反応面積A と掛けることにより、各式は同一の単位(モル/s)で表され得る。時間t=0での初期条件はCs=C0及びn=0である。遊離測定中に、反応物は全て洗い流され、従ってC0=0である。
数値的方法が、式M.6 を解くために使用されてもよい。表面プラズモン共鳴(SPR )の実験装置は2区画モデルの簡素化を制限する。SPR では、可溶性リガンドは標識化されておらず(迅速な拡散速度になり)、高流速下で反応面に導入される。従って、拡散制限速度定数kMは、観察される動的な相互作用における主な役割を果たすことができる。
8.分析的な解を有する修正された2区画モデル
SPR 機器とは対照的に、単一のGMR センサシステムの実施形態は、分子結合の事象の信号を強調するためにラベルを利用しており、測定中に意図的な流れが存在しなかった。ラベルの大きさ(例えば46nm)及び流れの欠如により、バルク区画と表面区画との間の可溶性リガンドの拡散速度及び対流が著しく低減した。拡散速度が反応速度より著しく遅い場合、従来の2区画モデルを、分析的に解明可能な修正された形態に変えることが可能である。
この仮定を検証するために、数値的方法が、(図5(a)に示されている)EpCAM のリアルタイムの結合データに適合すべく式M.6 及び式M.7 を解くために使用された。本発明の磁気的な標識抗体に関して抽出された拡散制限速度定数kMは約1.0 ×10-4s-1であった。従って、図13に示され、以下のセクションで説明するように、会合速度、(解離速度定数koffがほとんどの抗体に関して約1.0 ×10-6s-1 であると仮定した)解離速度及び拡散速度の寄与が、式M.6 で各要素の相対的な重要性を確立するために作図され得る。
速度式M.6 から、式M.6 の右側の項は夫々、表面に結合されたEpCAM 抗体−抗原複合体の数nの関数として作図された(図13)。(ppm 単位の)正規化されたMR信号は、表面に結合された150 のMNP が1ppm のMR信号を生じる関係に基づいて(モル/μm2単位で)nに変換された(図7参照)。結合反応全体に亘って、会合速度の項は解離速度及び拡散速度の両方の項より大きいままであった。従って、磁気ナノ粒子のラベルは、磁気的な標識抗体の表面区画への拡散を著しく遅らせるのに十分な大きさであった。これは、表面区画への可溶性の抗体MNP の再生が無視され得ることを意味している(つまり、拡散制限速度定数kM〜0)。更に図13は、解離速度定数koffがこれらの結合実験のタイムスケールで無視され得るという仮定が有効であったことを示している。しかしながら、以下に示されるように、解離速度定数koffは遊離反応速度の測定で無視され得ない。
図13は、センサ表面に結合された磁気的な標識抗体の数の関数として式M.6 の各項の寄与を示す対数目盛のプロットを示している。図5(a) に示されているEpCAM 結合に関する実験データが、このグラフのために会合速度定数kon ,解離速度定数koff及び拡散制限速度定数kMの値を数値的に計算するために使用された。X軸は、結合反応の間にセンサ表面に結合された磁気的な標識抗体の表面濃度を表している(図表中のnの値は実際の実験データから導き出された)。n=0で実験が始まり、n〜120 モル/μm2で、信号は略飽和状態に達するか、又は結合実験が終了した。結合反応全体に亘って、会合速度の項は解離速度及び拡散速度の両方の項より大きいままであった。従って、(解離速度定数koffの曲線が会合速度定数kon の曲線よりずっと下であったので、)解離速度定数koffが無視し得るとの仮定が有効であった。更に、(拡散制限速度定数kMの曲線が会合速度定数kon の曲線よりずっと下であったので)、磁気ナノ粒子のラベルは、磁気的な標識抗体の反応区画への拡散を遅らせることのみを可能にするほど十分に大きかった。これは、表面区画への可溶性の抗体MNP の移送が無視され得ることを意味している(つまり、拡散制限速度定数kMは約0であった)。
表面区画内のMNP 抗体がバルク区画からの低速の拡散によって大きく補充されなかったので、質量平衡は、以下に示すように、表面での溶液内の未反応の抗体MNP の濃度CSが、最初の濃度C0と体積Vで割った製品の形成で消費された量nAとの差に等しいことを必要とした。
Cs=C0−n(A/V) (M.8 )
同様に、質量平衡は、自由な結合箇所での表面濃度Rが、最初の表面濃度R0とMNP 抗体−抗原複合体の形成で消費された量との差に等しいことを必要とした。1つのMNP が複数の抗原に結合する親和性の影響を回避するために、R0の大きさは、表面上で密充填されたMNP の最大濃度よりかなり小さくなければならない。従って、R0は、以下に示すように、表面に堆積された抗原の最大濃度nmaxに置き換えられる。
R=R0−n=nmax−n (M.9 )
従って、式M.7 は以下のように変換される。
dn/dt=kon(C0−n(A/V))(nmax−n) (M.10)
ここで、括弧内の2つの項は、表面区画内のタグ付けされた抗体の減少と、利用可能な表面結合箇所の減少とを夫々表す。式M.7 は、以下の分析的解を有する。
Figure 0005937019
多くの分析的に可解な反応速度モデルは、相互作用する反応物の内の1つが分析的解の導出のために過剰なままであることを必要とする。しかしながら、式M.11で示されたモデルでは、両方の反応物が結合工程中に著しく減少してもよい。このモデルの適応性によって、更に一般化可能な一組の実験が厳密な反応条件に反することなく行われ得る。更に、ほとんどの反応速度モデルは、会合速度定数を決定するためにシステムが平衡に達することを必要とする。しかしながら、本明細書で示されたモデルでは、平衡の到達が必要ではなく、会合速度定数が飽和の前に5分以下で決定され得る。
分析モデルでは5つのパラメータkon ,C0,nmax,V 及びA が存在する。これらの中で、kon ,V 及びA は、同一の受容体−検体対からの全ての信号曲線に関して同一に固定されている一方、検体の表面濃度又は抗体MNP 複合体の溶液濃度が変更される場合、nmax及びC0は異なる。
9.分析モデルはラングミュアの吸着に変換され得る
C0V/A>>nmaxであるとき、表面区画内の反応物の無視し得る減少に対応して、式M.10は以下の式M.12になる。
dn/dt=konC0(nmax−n) (M.12)
また、分析モデルはラングミュアモデルに変わる。従って、式M.11は以下のようになる。
Figure 0005937019
解離速度定数koffが無視し得ると更に仮定すると、この結果はラングミュアの結合反応速度と一致する。本発明の結合データとラングミュアモデルとの比較が図14に示されている。分析モデルのこの誘導形式である式M.13は、以下に導き出されるラングミュア等温線(式M.14−式M.25)と同一であり、式M.25で示されている。
図14は、表面に固定されたEpCAM 抗原への抗EpCAM 抗体の、ラングミュア吸着モデルによって予測された結合曲線(点線)、及び実験的に測定された結合曲線(実線)を示すグラフである。EpCAM タンパク質の表面被覆が、2倍の連続希釈法で(nmaxに対応する)5アトモルから(nmax/256に対応する)19.5ゼプトモルまで希釈された。重ね合わされたグラフから、ラングミュア吸着モデルは、検査された一組の濃度に関してGMR センサの実施形態によって観察されたリアルタイムの結合反応速度について十分に記述していなかった。従って、新しいモデルが、観察された結合反応速度について適切に記述するために導き出された。本明細書に示された分析モデルは、信号の迅速な開始及びより遅い持続的な上昇の両方を説明する追加の項を含んでいる。
ラングミュア等温線は、固体表面上の分子の被覆又は吸着を、一定温度での表面の上の媒体の濃度に関連付けている。ラングミュアの式は、表面のリガンドL、媒体内で浮遊している標識分子C、及び吸着された分子複合体CLを考慮して導き出されることが可能であり、その後、吸着工程が以下の式M.14として表現され得る。
Figure 0005937019
会合速度Ra及び解離速度Rdが夫々以下の式M.15及び式M.16として表現される。
Ra=kon[C][L] (M.15)
Rd=koff[CL] (M.16)
ここで、kon 及びkoffは夫々会合速度定数及び解離速度定数であり、角括弧が濃度を表す。
全体の利用可能なリガンドの濃度が[Lmax]であり、吸着された分子の正規化された表面被覆率がθである場合、以下のように表現される。
[L]+[CL]=[Lmax] (M.17)
θ=[CL]/[Lmax] (M.18)
従って、[L] は以下のように表現される。
[L]=(1−θ)[Lmax] (M.19)
式M.19及び式M.18を夫々式M.15及び式M.16に置き換えることにより、以下が与えられる。
Ra=kon(1−θ)[Lmax][C] (M.20)
Rd=koffθ[Lmax] (M.21)
解離速度定数koffが実験のタイムスケールで無視し得ると仮定し、Raに関して解くと、以下が与えられる。
Figure 0005937019
[C] が時間に無関係であり、[Lmax]が[CL]に無関係であると仮定すると、部分積分によって解くことにより、以下の解が与えられる。
Figure 0005937019
10.遊離反応速度のモデル
抗体は非常に高い親和性で対象物に結合する。従って、このような遊離現象を観察するために、解離速度定数は、より長い時間(例えば数分)を必要とし一般的に小さい。更に、抗体の親和性により、遊離反応速度が拮抗的阻害を使用してモニターされた。溶液に高濃度の対象物を入れることによって、遊離反応速度のより精確な測定が観察され得る。
抗体の遊離速度に関する速度式が、以下のように記述され得る。
Figure 0005937019
従って、遊離溶液を加えた後の時間tでの表面に結合されたMNP 抗体の濃度は以下のように表現される。
Figure 0005937019
ここで、n0はセンサ表面での吸着されたMNP 抗体の最初の濃度である。
B.結果及び議論
センサ表面に固定された対応する対象物に結合する多くの別個のタンパク質の反応速度を同時にモニターすべく、個々にアドレス指定可能であり、磁気的に反応するナノセンサのアレイを用いて結合反応速度を測定する方法を提供する。これらのマグネトナノセンサは、1mm2 のチップ面積当たり1,000 個を超えるセンサに調整された。検体のエピトープ解析が実証され、溶液内のタンパク質の拡散の空間的動態が可視化された。これらの実験に関連して、表面に固定されたタンパク質への標識タンパク質のリアルタイムな結合について精確に記述する分析的な反応速度モデルが導き出された。分析モデルは、表面プラズモン共鳴を使用した同様の実験結果及び文献からのデータに略一致した。この分析モデルは、20ゼプトモル(20×10-21 )以下の溶質の感度で抗体−抗原結合のために適用されてもよい。
1.GMR センサ
センサ表面に固定された抗原へのリガンド複合体のリアルタイムな結合反応速度をモニターするために、可溶性リガンドが磁性ナノ粒子(MNP )により予め標識化された(図4(a))。抗体MNP 複合体がリアルタイムで捕捉されると、抗体MNP 複合体からの磁場が、下にあるGMR センサに電気抵抗の変化を引き起こした。GMR センサアレイの迅速且つリアルタイムな読出しにより、結合反応速度がモニターされ、関連する反応速度定数を決定するために定量化された。
対象のタンパク質又は抗体を標識化するMNP は、TEM 分析によって決定されるように、デキストランポリマに埋め込まれた12個の10nmの酸化鉄コアであった(図4(b))。(重み付けされた動的光散乱の数から)ナノ粒子全体の直径の平均が46±13nmであった。ストークス・アインシュタインの関係に基づいて、これらの粒子は約8.56×10-12m2s-1の並進拡散係数を有した。MNP は、−11mVのゼータ電位を有した。これらの粒子は超常磁性であり、コロイド状に安定していたので、これらは反応中に凝集せず、沈殿しなかった。更に、GMR センサは、磁気タグからの双極子磁場の近接度に基づいた検出器として作動し、センサ表面の150 nm以内のタグのみが検出された。従って、未結合のMNP タグは、結合していないとき、無視し得る信号となった。結合された磁気的な標識抗体のみが下にあるGMR センサによって検出され、このMNP −GMR ナノセンサシステムはリアルタイムな反応速度の解析に有用になった。
GMR センサアレイは、1mm2 のチップ面積に1,008 個のセンサを用いて作製された(図4(c))。計算された特徴的な密度は1cm2 当たり100,000 個を超えるGMR センサであった。センサアレイは1組のサブアレイとして設計されており、各サブアレイは90μm ×90μm の領域を占めた(図4(d))。センサアレイはロボット制御のスポッタ(spotter)と適合した。サブアレイ内の各センサは、VLSI技術を用いて作製された共有の6ビット制御バスを介して行及び列のデコーダによって個々にアドレス指定可能であった。GMR センサアレイは、タンパク結合反応速度の並行な多重モニタリングを可能にした。
GMR センサの別の実施形態が図12に示されている。図12では、12個の細長い線形の磁気センサセグメントが共に並列に接続されており、これらの並列に接続された6グループのセグメントが共に直列に接続されて、合計72個の磁気センサセグメントを備えた磁気センサが与えられた。磁気センサは、100 μm×100 μm であった。各磁気センサセグメントの幅が750 nmであり、厚さが20nmであり、長さが100 μm であった。図12の挿入図は、磁気センサセグメントに結合されたナノ粒子のSEM 画像を示している。
2.結合反応速度のモデル
上述されたように、会合速度定数(kon )及び解離速度定数(koff)を計算可能であるように、リアルタイムの結合反応速度データを適合することが可能である分析モデルが導き出された。
結合反応は、二段階工程であり、バルク溶液内の抗体がまず、表面に捕捉された抗原に拡散及び流れによって接近し、次に表面に結合された対象物に会合及び解離の化学処理によって結合するか、又は対象物から離れる。バルク溶液内の抗体の濃度が空間的に均一である場合、以下が与えられる。
Cs=C0−n(A/V) (1)
ここで、Csはセンサの表面での磁気的にタグ付けされた抗体の濃度であり、C0は磁気的にタグ付けされた抗体の最初のバルク濃度であり、nは、結合されたMNP 抗体−抗原複合体の表面濃度である。Vは結合反応に関係するセンサの上の溶液の体積であり、Aは反応面積(この場合、1つのセンサの表面積)である。簡単な反応速度に基づいて、表面反応は以下のように記述される。
dn/dt=kon(C0−n(A/V))(nmax−n)−koffn (2)
括弧内の2つの項は、バルク反応物及び利用可能な表面箇所の減少を夫々説明しており、nmaxはセンサ表面上の可能な結合箇所での濃度であり、kon は会合速度定数であり、koffは結合反応のための解離速度定数である。体積及び表面濃度の両方が議論されているので、n及びnmaxがモルm-2 で表現されている一方、Cs及びC0がモルm-3 で表現されている。尚、nmaxは、表面上の検体の最大濃度によってではなく、密充填されたMNP の最大濃度によって制限されている。従って、センサ表面に集中するMNP と関係する立体効果を除くために、検査された最も高い検体の表面濃度が、密充填された抗体MNP 複合体の表面濃度より少なくとも10倍低かった。
抗体−抗原解離が本実験のタイムスケールで無視され得るので、この式は、解離速度定数koffが0であると仮定することにより単純化されてもよい。式2は、以下の分析的な解を有する。
Figure 0005937019
利用可能な表面箇所に対する溶液分子の超過を意味するC0V>>nmaxAである場合、反応速度はラングミュア吸着に従う。しかしながら、これが該当しないとき、溶液から、特にセンサの表面の近くで反応物がかなり減らされてもよく、そのため、(特に標識分子が)反応前に巨視的な距離(〜V/A )に亘って拡散するために、反応速度は、後の反応物の要件によって遅らされる。この特徴的な拡散距離V/A は、結合反応に関与する流体の深さ、つまり、表面の結合に利用可能な溶液の区画を定義することにより、この反応速度モデルにおいて考慮される。特徴的なV/A の高さより上の溶質は何も、関連する時間フレーム内の結合反応に寄与しなくてよい。
C.実験結果
この分析的な解を調べるために、上皮細胞接着分子(EpCAM )抗体−抗原結合反応速度が、上記のモデルを使用して決定され、実験結果が文献と比較された。
センサに結合した分子の濃度を変える
図5(a)に示された第1の組の実験で、表面に結合したEpCAM タンパク質への、MNP で標識化された抗EpCAM 抗体の結合アッセイが行なわれた。モデル内のC0,nmax及びV/A は、大きさ及び濃度から決定された固定値であり、会合速度定数kon は、反応速度モデルによって予測された結合曲線の実験データへの最適適合によって決定された。濃度が変わる表面に結合されたEpCAM タンパク質への、濃度が固定されたMNP 抗EpCAM 抗体の結合アッセイが行なわれた。倍数希釈が、一連のセンサ表面を前処理するために使用され、5アトモルのEpCAM タンパク質の負荷質量(例えば、センサ表面に結合された機能的なタンパク質の量)で始めて、連続して20ゼプトモルまで希釈した。結合曲線間で変わった唯一のパラメータはnmaxであった。他の全てのパラメータは不変であった。モデルでこの1つのパラメータを変更するとき、各実験結合曲線は精確に適合された(図5(a))。パラメータの値は、(無希釈の)nmax=9.5×10-10 mol m-2,C0=6.8 ×10-7 M,A =5.4 ×10-9m2,及びV =5.5 ×10-12m3 であった。従って、会合速度定数kon =2.5 ×104M-1s-1がデータに最も適合した。モデルによって予測された曲線へのこの実験中の全ての曲線の適合誤差R2が0.98であった。更に、MNP 抗体の溶液が洗い流され、抗原負荷緩衝剤と置き換えられた後、解離速度定数は、順次データを基礎的な指数関数型崩壊モデルnRelease(t) =nmaxe-koff(t)に適合させることにより計算された。ここで、n0は洗浄の際の結合されたMNP の表面濃度である。従って、抗EpCAM 抗体−抗原の解離速度定数koffは2.0 ×10-6s-1 であると決定された。このため、会合速度定数kon と比較したとき、解離速度定数koffが基本的に無視され得るという上記の仮定が確認される。
アッセイ混合物内の検体の濃度を変える
図5(b)に示された第2の組の実験では、各センサは、833 のゼプトモルのEpCAM タンパク質の一定の負荷質量(図5aで使用されている最大量の1/6 )で固定された。センサに適用された抗体MNP 複合体の濃度は、(モデルのC0,C0/2及びC0/8に対応して)無希釈の抗体MNP 複合体の溶液、2倍希釈の抗体MNP 複合体の溶液及び8倍希釈の抗体MNP 複合体の溶液に変えられた。抗体−抗原相互作用は、C0が変更されてもnmaxが変更されても同一のままであったので、上記の相互作用について記述する速度定数はこれらの実験全体に亘って同一のままであった。分析モデルを適合する際に、分析モデルの有効性を証明して、2.5 ×104M-1s-1 の同一の会合速度定数kon が得られた。分析モデルへの全ての曲線の適合誤差R2が0.96であった。これらの結果は、文献で報告された正常範囲内にあり、結合及び導き出された結果の精確さを予測するための反応速度モデルの有効性を確認した(表1参照)。
CEA に対するMNP 抗癌胎児性抗原(CEA )抗体、VEGFに対するMNP 抗血管内皮成長因子(VEGF)抗体、及びビオチンに対するMNP ストレプトアビジンの結合反応速度を定量化するために、同様のリアルタイムの実験が行なわれた(図6(a)乃至図6(d))。抗CEA 抗体に関して、結合速度定数及び解離速度定数が、同一の試薬を用いてGMR センサ及びSPR 機器の両方でモニターされ、結果が比較された(図6(c)及び図6(d))。
図6(a)は、12個の複製センサ上の抗原への抗CEA 抗体と、3つの複製センサ上の抗原への抗VEGF抗体との多重反応速度分析のグラフを示している。CEA 抗体−抗原の会合速度定数konは、2.8 %の平均適合誤差で3.3 ×104M-1s-1 であり、VEGF抗体−抗原の会合速度定数kon は、8.2 %の平均適合誤差で1.6 ×104M-1s-1 であった。図6(b)は、ビオチンのストレプトアビジンへの結合反応速度をモニターする25個の複製センサの結果を示すグラフである。会合速度定数kon は、1.6 %の適合誤差で4.67×106M-1s-1 であった。遊離反応速度が更に、ビオチンの競合アッセイを使用してモニターされた。図6(c)は、SPR の結果のグラフを示しており、図6(d)は、並行実験中にCEA 抗原に結合するCEA 抗体の反応速度をモニターするとき、同様の実時間結合曲線を提示するマグネトナノセンサに基づいたプラットフォームの結果を示すグラフである。GMR バイオセンサは、5.0 ×104M-1s-1の会合速度定数kon 及び4.4 ×10-4s-1 の解離速度定数koffを与え、一方、SPR 実験は、5.2×104M-1s-1 の会合速度定数kon 及び3.03×10-4s-1 の解離速度定数koffを与えた。SPR の動作範囲は2桁より小さく、GMR センサの動作範囲は4桁より大きかった。GMR センサの動作範囲は、より高い溶質濃度で更に増加され得る。図6(d)では、結合曲線の最初の1000秒が、分析モデルに従って会合速度定数kon の値を抽出するために使用された。
本明細書で示された分析モデルを使用するとき、GMR センサアレイの測定とSPR の測定とは、互いに一致する反応速度定数であり文献で報告された値に一致する反応速度定数を生成し(表1)、MNP 標識化が測定された速度定数にほとんど影響を与えないことを示した。
Figure 0005937019
表1は、GMR センサアレイ及びSPR を使用したときの、ストレプトアビジンに対するビオチン、EpCAM 抗体に対するEpCAM 抗原、CEA 抗体に対するCEA 抗原、及びVEGF抗体に対するVEGF抗原の結合に関する会合速度定数の比較を示している。SPR の実験及びGMR センサの実験の両方に関して、同一の抗体対が使用された。反応速度を分析する両方の方法が文献と一致した。
センサに結合された磁気タグの数の定量化
走査型電子顕微鏡検査(SEM )により、分析システムが各センサ上で捕捉されたタンパク質の数を定量し得ることが確認された。従って、センサ表面に結合された磁気タグの絶対数にGMR 信号を較正することにより、MNP 毎に結合されたタンパク質の質量、及びMNP 毎に生成された信号が導き出された。例えば、EpCAM タンパク質は、3乃至8個の複製センサ上で2.5 アトモルから始めて78ゼプトモルまで2倍増加で連続的に希釈された。20倍希釈のMNP 抗体複合体が全てのセンサに加えられ、結合反応速度がモニターされた。20分間のインキュベーション後に、磁気的な標識抗体の溶液が洗い流され、結合反応が終了し、その時点での夫々の表面濃度を有するセンサがSEM により撮像された(図7)。リアルタイムの実験データを正規化し、正規化した実験データをモデルに適合することによって、最初のMRに正規化されたMRの変化(△MR/MR0 )として測定されたセンサ信号が、各センサに結合された磁気タグの数に変換された。例えば、2.5 アトモルのEpCAM タンパク質により機能化されたセンサが実験の時間内で192,000 個の磁気タグを捕捉した。SEM の画像は、実験結果が反応速度モデルと一致したことを示した。従って、反応速度モデルはセンサ毎に結合されたタグの数と、所与の反応中に結合するタンパク質の数とを定量化すべく使用されてもよい。
モデルを使用して、全ての150 個のMNP が夫々1ppm の信号を生成する。センサの検出の下限値(LOD )が、(2つの標準偏差を加えた、非相補的な抗体で被覆されたセンサの平均背景信号によって定義された)約20ppm である。従って、0.6 粒子/μm2以下が検出され得る。
更に、モデルは、センサ表面の飽和がいつ生じるかを説明することが可能であった。タンパク質の表面濃度がセンサ表面上のMACSの最大濃度に近似するように、検体の負荷質量が増加したので、信号の飽和が観察された。この飽和は、5アトモル以上の負荷質量で生じた。負荷質量は、センサ表面上に公知の濃度及び体積のタンパク質を堆積することにより計算された。未反応のタンパク質を洗い流した後、ある量の結合したタンパク質がナノ粒子により標識化された。走査型電子顕微鏡検査によって、結合した有効なタンパク質の数が定量化された。5アトモル以上の負荷質量で、ナノ粒子間の立体効果が明らかになった。全ての実験で、5アトモル以下の負荷質量が使用された。低濃度のタンパク質がセンサ表面に堆積されたとき、センサ表面上での結合したタンパク質間の距離が1MNP の直径より離れており、そのため、各ナノ粒子が2以上の抗原に結合することが防止される。例えば、5アトモルで、最も大きな負荷質量が検査され、センサ表面上でのタンパク質間の平均距離が約60nmであった。MNP の直径が僅かに46nmであったので、単一のMNP が2以上の結合したタンパク質に同時に結合する可能性はほとんどなかった。従って、親和性(例えば、2以上の分子間での多重結合相互作用の組み合わされた強度)が略無視され得る。例えば、10アトモルのタンパク質がセンサ表面に堆積されたとき、5アトモル以下で信号と比較されたとき、センサ表面が飽和に近づいていたことが実験的に示された(図8)。10アトモルの負荷質量は、モデルによってnmaxが1.95×10-9 mol m-2と等しいと説明された。モデルによって予測されたこの飽和値がセンサの物理的な限界値及び密充填されたMNP の幾何学構造と比較されたとき、値は略一致した。単一層のMNP の大きさによって制約されたタンパク質の最大の表面濃度は、1.0 ×10-9モルm-2 であった。
エピトープ解析
エピトープ解析の実験が、本明細書に開示されたリアルタイム結合アッセイ及び反応速度モデルを使用して行なわれた。1組の異なる抗EpCAM 単クローン抗体がGMR センサに固定された。抗EGFR抗体により機能化されたセンサが内部制御として含まれた。その後、EpCAM が溶液に加えられ、各捕捉抗体の上に特異な構成で捕捉された。続いて、EGFRタンパク質が追加された。捕捉されたEpCAM がEGF 様反復を露出した場合、EGFRは結合可能であった。しかしながら、捕捉されたEpCAM タンパク質がEGF 様反復を覆うように配向された場合、EGFRは結合不可能であった(図9(a))。
図9(b)は、EGF 様領域を明らかにするために抗EpCAM 抗体♯1がEpCAM タンパク質を結合したことを示している。しかしながら、EpCAM −抗EpCAM 抗体#2複合体はEGF 様領域を隠した。抗EpCAM Ab♯1センサ及び抗EpCAM Ab♯2センサは、EpCAM の特異エピトープに特有な単クローンの抗EpCAM 抗体により機能化された。EpCAM が抗EpCAM 抗体♯1に結合したとき、EGF 様領域が露出され、抗EGFR抗体MNP 複合体は結合可能であった。しかしながら、捕捉されたEpCAM タンパク質が抗EpCAM 抗体♯2に結合したとき、EGF 様領域は露出されず、結合は行われなかった。
抗EGFR抗体MNP 複合体の結合曲線を、EpCAM 又はEGFRの捕捉抗体によって捕捉されたEGFRタンパク質に正規化すると、結合反応速度は、正規化された結合曲線に示されている結合反応速度と同一であった(図9(c))。各センサ上の巨大分子構造の構成は異なっていたが、動的な相互作用は同一であった。図9(c)では、結合曲線が正規化された。2本の結合曲線が同一の結合軌跡をたどったので、これら2つの実験に関連した動的な相互作用は同一であった。
分子結合相互作用の空間的・時間的なモニタリング
リアルタイム結合アッセイを使用した別の実験は、(アレイ構造の高密度による)空間及び(迅速且つリアルタイムな読出しによる)時間の両方でのタンパク質の結合事象をモニターすることであった。単クローンの抗CEA 捕捉抗体がセンサアレイ上に吸着させた。溶液中で抗CEA 抗体により標識化された磁気タグは、CEA 抗原タンパク質の移送の前にセンサアレイの上方でインキュベートされた。CEA 抗原がアレイ上に注入され、磁気的な標識検出抗体が捕捉されたCEA 抗原タンパク質に結合したとき、アレイ上でのCEA 抗原の拡散がモニターされた。CEA 抗原タンパク質をセンサ表面に結合し、次に磁気的な標識抗体を結合することにより、空間的に分配されたセンサ上でMR信号が変化した。センサへのCEA 抗原の結合は、センサに結合したCEA 抗原へのMNP 抗CEA 抗体の結合反応速度を観察することにより可視化された(図10及び図11(a)及び11(b))。経時的な信号の変化が、4グループの4つの磁気センサによって検出された(図11(a)及び11(b))。タンパク質の結合事象、タンパク質の拡散及びタンパク質の運動が高い空間的・時間的分解能で分析された。注入されたタンパク質の拡散係数のような移送パラメータが、タンパク質拡散モデルを用いて様々なセンサ箇所でのMR信号の時間的経過を適合させることにより導き出されてもよい。
実験結果は、本明細書に開示されているリアルタイムの磁気センサデバイスが、タンパク質間の相互作用を検出するために高効率且つ高感度なリアルタイムの結合アッセイであったことを示した。上記で導き出された反応速度モデルは、標識化されたタンパク質間の相互作用に関連する支配的な処理の分析モデルを与えた。リアルタイムな分子結合アッセイ及び分析モデルは、タンパク質の結合速度定数を測定し、且つ所与のセンサに結合されたタンパク質の数を精確に定量化するために使用された。タンパク質のエピトープ解析実験及びタンパク質の拡散実験も行なわれた。
前述の発明は理解の明瞭化のために説明及び実例によって詳細に記述されているが、一定の変更及び調整が、添付の請求項の趣旨又は範囲から逸脱せずに本発明になされてもよいことは、本発明の教示を考慮した本技術分野の当業者にとって容易に明らかである。
従って、前述の記載は本発明の原理を例証しているに過ぎない。本明細書に明示的に説明され示されていないが、本発明の原理を具体化し、本発明の趣旨及び範囲内に含まれている様々な構成を当業者が考案することが可能であることが認識される。更に、本明細書に述べられている実例及び条件付きの文言が全て、本技術の促進のために本発明者によって寄与された本発明の趣旨及び概念の読者による理解を容易にすることを本質的に意図されており、このような具体的に述べられた実例及び条件に限定することなく解釈されるべきである。更に、本発明の原理、態様及び実施形態と本発明の具体的な実例とを述べている本明細書の全ての記載は、本明細書の構造的な均等物及び機能的な均等物の両方を包含すべく意図されている。更に、このような均等物は、現在公知である均等物と、今後開発される均等物、つまり構造にかかわらず同一の機能を行なうべく開発される全ての要素との両方を含んでいることが意図されている。従って、本発明の範囲は、本明細書に示され説明された例示的な実施形態に限定されるように意図されていない。むしろ、本発明の範囲及び趣旨は添付された請求項によって具体化される。
本出願は、米国特許法第119 条(e) に基づいて、2010年3月12日に出願された米国仮特許出願第61/313,604 号明細書の優先権の利益を主張しており、その開示全体が参照してここに組み込まれる。
本発明は、米国国立癌研究所(National Cancer Institute)からのNo. 1U54CA119367と、米国国立科学財団(National Science Foundation)からのNo. ECCS−0801385−000 とに基づき米国政府の支援によりなされている。米国政府は本発明の権利を有している。

Claims (15)

  1. 分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する方法において、
    検出可能な分子結合相互作用を生成すべく、磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に接触する磁気センサを備えた磁気センサデバイスを作製し、
    前記磁気センサの表面から非特異性の磁気ラベルを除去することなく、前記磁気センサから実時間信号を得て、
    該実時間信号を2区画適合アルゴリズムを用いて処理することによって、前記実時間信号から、分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定し、
    前記2区画適合アルゴリズムは、バルク区画及び表面区画を有する2区画モデルの適合アルゴリズムであって、磁気的な標識分子の濃度が各区画で均一であると仮定し、前記表面区画内の磁気的な標識分子が前記磁気センサの表面上の結合箇所で反応し、前記バルク区画内の磁気的な標識分子が前記表面区画に拡散する適合アルゴリズムであることを特徴とする方法。
  2. 前記結合反応速度パラメータは、会合速度定数、解離速度定数及び拡散制限速度定数の内の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 前記磁気センサは、磁気的な標識分子に特に結合する分子を有しており、
    前記磁気的な標識分子を前記磁気センサに加えることにより、前記磁気センサの前記アッセイ混合物への接触を行わせることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  4. 前記磁気センサは、前記磁気的な標識分子に特に結合する分子と特に結合する捕捉プローブを備えており、
    前記磁気的な標識分子に特に結合する分子を前記磁気センサに加え、その後、前記磁気的な標識分子を前記磁気センサに加えることにより、前記磁気センサの前記アッセイ混合物への接触を行わせることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  5. 前記磁気センサは、前記磁気的な標識分子に特に結合する分子と特に結合する捕捉プローブを備えており、
    前記磁気的な標識分子に特に結合する分子と前記磁気的な標識分子とを有する反応混合物を生成し、その後、該反応混合物を前記磁気センサに加えることにより、前記磁気センサの前記アッセイ混合物への接触を行わせることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  6. 前記分子結合相互作用は、核酸ハイブリダイゼーション相互作用、タンパク質間相互作用、受容体−リガンド相互作用、酵素−基質相互作用及びタンパク質−核酸相互作用からなるグループから選択された結合相互作用であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  7. 2以上の別個の分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する方法において、
    2以上の別個の分子結合相互作用を生成すべく、2以上の異なる磁気的な標識分子を有するアッセイ混合物に夫々接触する2以上の別個の磁気センサを備えた磁気センサデバイスを作製し、
    前記磁気センサの表面から非特異性の磁気ラベルを除去することなく、前記磁気センサから夫々実時間信号を得て、
    該実時間信号を2区画適合アルゴリズムを用いて処理することによって、前記実時間信号から、2以上の別個の分子結合相互作用の夫々に関して結合反応速度パラメータを定量的に決定し、
    前記2区画適合アルゴリズムは、バルク区画及び表面区画を有する2区画モデルの適合アルゴリズムであって、磁気的な標識分子の濃度が各区画で均一であると仮定し、前記表面区画内の磁気的な標識分子が前記磁気センサの表面上の結合箇所で反応し、前記バルク区画内の磁気的な標識分子が前記表面区画に拡散する適合アルゴリズムであることを特徴とする方法。
  8. 前記結合反応速度パラメータは、会合速度定数、解離速度定数及び拡散制限速度定数の内の少なくとも1つであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
  9. 前記分子結合相互作用は、核酸ハイブリダイゼーション相互作用、タンパク質間相互作用、受容体−リガンド相互作用、酵素−基質相互作用及びタンパク質−核酸相互作用からなるグループから選択された結合相互作用であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
  10. 磁気センサデバイスにおいて、
    磁気的な標識分子を検出すべく構成された磁気センサと、
    該磁気センサの表面から非特異性の磁気ラベルを除去することなく、前記磁気センサから実時間信号を得て、該実時間信号を2区画適合アルゴリズムを用いて処理することによって、前記実時間信号から分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定すべく構成されたプロセッサと
    を備えており、
    前記2区画適合アルゴリズムは、バルク区画及び表面区画を有する2区画モデルの適合アルゴリズムであって、磁気的な標識分子の濃度が各区画で均一であると仮定し、前記表面区画内の磁気的な標識分子が前記磁気センサの表面上の結合箇所で反応し、前記バルク区画内の磁気的な標識分子が前記表面区画に拡散する適合アルゴリズムであることを特徴とする磁気センサデバイス。
  11. 前記結合反応速度パラメータは、前記分子結合相互作用に関する会合速度定数、解離速度定数及び拡散制限速度定数の内の少なくとも1つであることを特徴とする請求項10に記載の磁気センサデバイス。
  12. 前記磁気センサは、直列且つ並列に接続された4以上の検出領域を有していることを特徴とする請求項10に記載の磁気センサデバイス。
  13. 1000以上の別個の磁気センサを備えていることを特徴とする請求項10に記載の磁気センサデバイス。
  14. 磁気的な標識分子と、該磁気的な標識分子に特に結合する分子とを更に備えていることを特徴とする請求項10に記載の磁気センサデバイス。
  15. (a) 磁気ラベルと、
    (b) (i) コンピュータによって実行されるとき、磁気センサの表面から非特異性の磁気ラベルを除去することなく、前記磁気センサから実時間信号を得て、該実時間信号を2区画適合アルゴリズムを用いて処理することによって、前記実時間信号から分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定すべく前記コンピュータを作動するコンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読媒体、及び、
    (ii) 磁気センサの表面から非特異性の磁気ラベルを除去することなく、前記磁気センサから実時間信号を得て、該実時間信号を2区画適合アルゴリズムを用いて処理することによって、前記実時間信号から分子結合相互作用の結合反応速度パラメータを定量的に決定する方法を実施するための説明書
    の内の少なくとも1つと
    を備えており、
    前記2区画適合アルゴリズムは、バルク区画及び表面区画を有する2区画モデルの適合アルゴリズムであって、磁気的な標識分子の濃度が各区画で均一であると仮定し、前記表面区画内の磁気的な標識分子が前記磁気センサの表面上の結合箇所で反応し、前記バルク区画内の磁気的な標識分子が前記表面区画に拡散する適合アルゴリズムであることを特徴とするキット。
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