<本実施の形態の構成>
図1には、本発明一実施の形態に係るウェビング巻取装置10の全体構成の概略が背面断面図により示されている。
図1に示されるように、ウェビング巻取装置10はフレーム12を備えている。フレーム12は一対の脚板16、18を備えている。これらの脚板16、18は厚さ方向に互いに対向するように設けられている。これらの脚板16、18の間にはスプール20が設けられている。スプール20は脚板16と脚板18との対向方向を軸方向として回転自在に設けられており、その軸方向一端は間接的に脚板16に支持されて、他端は間接的に脚板18に支持される。
このスプール20には長尺帯状に形成されたウェビング22の基端部が係止されており、スプール20をその軸周りの一方である巻取方向へ回転させると、ウェビング22がその基端側からスプール20の外周部に巻取られる。また、ウェビング22をその先端側から引っ張れば、スプール20の外周部に巻取られたウェビング22が引出されると共に、スプール20が巻取方向とは反対の引出方向に回転する。
このスプール20の回転半径方向側方(図1におけるスプール20の下側)にはモータ24が設けられている。モータ24における出力軸26の軸方向がスプール20の軸方向に対して直交している。図1及び図2に示されるように、モータ24の出力軸26にはギヤ28が取り付けられている。このギヤ28の側方にはギヤ30がギヤ28、ひいては出力軸26の軸方向と同じ向きを軸方向とする軸周りに回転自在に設けられている。このギヤ30にはウォームシャフト32がギヤ30に対して同軸的で且つギヤ30に対する相対回転が規制された状態で取り付けられている。
このウォームシャフト32にはウォームギヤ34が形成されており、このウォームギヤ34の側方(図1及び図2における上側)にはクラッチ40が設けられている。クラッチ40は上述したスプール20に対して同軸的なウォームホイール42を備えており、このウォームホイール42がウォームギヤ34に噛み合っている。ウォームホイール42の内側には図示しない有底円筒形状の内側回転体がウォームホイール42に対して同軸的に設けられていると共に、この内側回転体の外周部とウォームホイール42の内周部との間に板ばね状のリミットスプリングが介在している。
リミットスプリングは、例えば、基端側がウォームホイール42の内周部及び内側回転体の外周部の一方に係止されていると共に、先端側が他方に形成された凹部に入り込んでいる。このため、ウォームホイール42の巻取方向への回転はリミットスプリングを介して内側回転体に伝わり、内側回転体を巻取方向に回転させる。しかしながら、内側回転体に対してウォームホイール42が巻取方向へ相対回転しようとした際の回転力が所定の大きさを越えると、リミットスプリングが弾性変形してその先端側が上記の凹部から抜け出る。これによって、内側回転体に対してウォームホイール42が巻取方向へ相対回転できる。
また、内側回転体の内側には図示しないラチェットギヤが内側回転体やウォームホイール42に対して同軸的に設けられている。このラチェットギヤは、アダプタを介して上述したスプール20に対する相対回転が規制された状態でスプール20に繋がっている。さらに、内側回転体の内側には図示しない連結パウルが取り付けられている。連結パウルは内側回転体、ひいては、ウォームホイール42に伴われて回転すると共に、内側回転体、ひいては、ウォームホイール42の巻取方向への回転加速度が所定の大きさを越えると、内側回転体との連結部分を中心に回動して上記のラチェットギヤに噛み合う。これにより、内側回転体の巻取方向への回転がラチェットギヤに伝わり、更には、この回転がアダプタを介してスプール20に伝わる。
このため、上記のモータ24の正転駆動力によってクラッチ40のウォームホイール42が巻取方向に所定の大きさ以上の回転加速度で回転すると、連結パウルがラチェットギヤに噛み合い、更に、この状態でモータ24の正転駆動が継続されると、スプール20が巻取方向に回転してスプール20がウェビング22をその基端側から巻取る。
一方、脚板16の外側(脚板16の脚板18とは反対側)にはケース52が設けられている。図2に示されるように、ケース52には脚板16側へ向けて開口した第1収容部54、第2収容部56、及び第3収容部58が形成されている。
第1収容部54の開口形状は上記のスプール20に対して同軸の略円形(厳密には、後述する第2収容部56と重なっていることによって一部が欠けた円形)とされており、その底部中央からは支持軸60が脚板16側へ向けて突出形成されている。この第1収容部54の内側では香箱62が支持軸60に回転自在に支持されている。
この香箱62における脚板16側の面の中央からは脚板16側へ向けて円筒状の連結部64が突出形成されている。この連結部64は上述したアダプタに相対回転が規制された状態で繋がっている。この香箱62の内側には渦巻きばね66が収容されている。渦巻きばね66の渦巻き方向外側端は香箱62に形成された係止部に係止されていると共に、渦巻き方向内側端が支持軸60に係止されており、渦巻きばね66は香箱62を介して上述したスプール20を巻取方向に付勢している。
一方、第2収容部56は第1収容部54の側方(図2における下側)に形成されている。第2収容部56の開口形状は略円形、厳密に言えば、上記の第1収容部54と重なっていることによって一部が欠けた円形とされており、その底部中央からは支持軸72が脚板16側へ向けて突出形成されている。この第1収容部54内にはクラッチ82が設けられている。
図2及び図3に示されるように、クラッチ82は、ベース84を備えている。ベース84は、円板状に形成された本体部86と、本体部86の軸心部において本体部86の軸線方向一側へ向けて突設された円筒状の支軸部88と、支軸部88の周囲に同軸的に形成された断面略C字状の側壁部90とを一体に備えている。このベース84は、第2収容部56の底壁中央部に突設された支持軸72が、支軸部88の筒内に挿入されることで、支持軸72周りに回転可能に支持軸72に支持されている。
支軸部88の軸線方向一端側には、第2収容部56の底面側へ向けて開口したモータ側回転体及び第2回転体としての略有底円筒状のロータ92が同軸的に設けられている。このロータ92は、筒内にベースの側壁部90が嵌り込んだ状態で、その周方向に対してはベース84に一体的に連結されている。ロータ92の底壁94の外周部には、平歯の外歯96が形成されており、この外歯96に後述する出力分岐ギヤ172のギヤ174が噛み合っている。
ロータ92の周壁部98の径方向外側には、円筒状に形成された回転体としてのクラッチギヤ100がロータ92に対して同軸的でかつ相対回転可能に設けられている。クラッチギヤ100は本体101を備えており、この本体101の外周部には平歯の外歯102が形成されている。この外歯102は上述した香箱62の外周部で連結部64に対して同軸的に形成された外歯68に噛み合っている。また、クラッチギヤ100の本体101の内径寸法は、ロータ92の周壁部98の外径寸法よりも充分に小さく、本体101の内周面と周壁部98の外周面との間には環状の隙間が形成されている。この環状の隙間には、コイルばねとして回転伝達部材を構成するクラッチスプリング104が同軸的に配置されている。
図4に示されるように、クラッチスプリング104は、自然状態における内径寸法がロータ92の周壁部98の外径寸法と略同じ寸法に設定されると共に、自然状態における外径寸法がクラッチギヤ100の本体101の内径寸法よりも僅かに小さなコイル形状に形成されており、通常はクラッチギヤ100に対して相対回転可能とされている。
また、クラッチスプリング104の巻き方向一端部には、径方向内側に向けてロータ側係止部106が延設されており、このロータ側係止部106は、ロータ92の周壁部98に係止されている。さらに、クラッチスプリング104の巻き方向他端部には径方向内側へ向けてレバー側係止部108が延設されている。このレバー側係止部108は、ロータ92の筒内(周壁部98の内側)に配置されたレバー110に対応している。
図2及び図3に示されるように、レバー110は、円筒状の軸受部112を備えている。軸受部112の筒内には、ベース84の支軸部88が貫通しており、これにより、レバー110は、支軸部88(ベース84)に対して軸線周りに相対回転可能に支持されている。また、軸受部112の外周部には一対の連結部114及び連結部116が軸受部112を介して対向するように延出されている。
図3に示されるように、これら一対の連結部114、116には、それぞれベース84の本体部86側へ向けて突出する円柱状の連結突起118及び連結突起120が突設されている。これらの連結突起118、120は、それぞれベース84の本体部86に形成された一対の長孔122及び長孔124を貫通している。一対の長孔122、124は、互いに本体部86の周方向に沿って反対側(180度反対側)に形成されており、それぞれ本体部86の周方向に沿って湾曲している。
このため、レバー110の連結突起118及び連結突起120は、本体部86の周方向に沿って各長孔122、124内を移動できるようになっており、レバー110は、各連結突起118、120が、各長孔122、124の湾曲方向一端部又は湾曲方向他端部に当接することで、ベース84に対する回転(回動)範囲を制限されるようになっている。
また、レバー110の一方の連結部114には、圧縮コイルスプリングであるリターンスプリング126の一端部が係止されている。このリターンスプリング126の他端部は、ロータ92の周壁部98に形成された係止壁128に当接している。このリターンスプリング126は、レバー110を常にベース84の軸周り一方へ付勢しており、レバー110は、通常は一対の連結突起118、120が、本体部86の一対の長孔122、124の各湾曲方向一端部に当接した状態に保持されている。
さらに、レバー110の他方の連結部116には、係止溝130が形成されており、上述したクラッチスプリング104のレバー側係止部108が嵌合係止されている。このため、レバー110がリターンスプリング126の弾性力に抗してベース84(ロータ92)に対して軸線周り他方へ回動すると、クラッチスプリング104のレバー側係止部108がクラッチスプリング104の巻き方向一方へ移動し、これによって図4に示されるように、クラッチスプリング104の外径寸法が拡大するようになっている。
一方、図2及び図3に示されるように、ベース84の軸線方向他側(ロータ92とは反対側)には、それぞれ略半円形の板状に形成された一対のウエイト132、134が配置されている。これら一対のウエイト132、134は、同じ重量に設定されており、互いに本体部86の周方向に沿って反対側(180度反対側)に設けられている。
これら一対のウエイト132、134の各周方向一端側には軸受孔136、138が形成されている。これらの軸受孔136、138には、ベース84の本体部86に突設された支軸140又は支軸142が回転自在に嵌合している。これにより、各ウエイト132、134は、それぞれ支軸140、142(軸受孔136、138)周りにベース84の径方向へ回動可能にベース84に支持されている。
また、ウエイト132にはレバー110の連結突起120に係合する略U字状の係合爪144が形成されており、ウエイト134にはレバー110の連結突起118に係合する略U字状の係合爪146が形成されている。これにより、一対のウエイト132及びウエイト134は、レバー110を介して同期(連動)するようになっており、通常はレバー110に作用するリターンスプリング126の付勢力によって、ベース84の径方向内側に保持されている。
ここで、このクラッチ82では、ロータ92がその軸線周り一方へ回転すると、ロータ92に一体的に連結されたベース84が、ロータ92と供にその軸線周り一方へ回転するようになっている。このため、ベース84に支持された一対のウエイト132及びウエイト134が、ベース84に追従してベース84の軸線周りに回転する。このとき、一対のウエイト132及びウエイト134には遠心力が作用し、ウエイト132には支軸140周りの回転トルクが作用すると共に、ウエイト134には支軸142周りの回転トルクが作用する。
したがって、これらの回転トルクの大きさが所定値以上の場合、すなわち、一対のウエイト132及びウエイト134の回転速度が所定値以上の場合には、一対のウエイト132及びウエイト134は、レバー110に作用するリターンスプリング126の付勢力に抗してベース84の径方向外側へ支軸140又は支軸142周りに回動するようになっている。これにより、ウエイト132の係合爪144に連結突起120が係合しかつウエイト134の係合爪146に連結突起118が係合したレバー110は、ベース84に対して軸線周り他方へ回動される構成である。
また、上述したクラッチギヤ100の本体101の内周面からは複数の圧接部152がクラッチギヤ100の回転半径方向内側へ突出形成されている。これらの圧接部152はクラッチギヤ100の回転周方向へ等間隔に形成されていると共に、その先端は本体101の中心軸線を曲率の中心とす同一円周に沿って湾曲している。
上述したクラッチスプリング104は、外径寸法が拡大するように弾性変形すると、クラッチスプリング104はその外周部が圧接部152の先端に圧接する。この状態では、クラッチスプリング104の外周部と圧接部152の先端面との間にはクラッチスプリング104からの圧接荷重の大きさに比例する所定の摩擦力が生じる。これによって、クラッチスプリング104とクラッチギヤ100とは、この摩擦力によって一体的に連結されるようになっている。
さらに、これらの圧接部152は、突出方向先端側(すなわち、クラッチギヤ100の回転半径方向内側)へ向けて圧接部152における本体101の回転周方向に沿った寸法が短くなるように形成されており、このため、本体101の周方向に互いに隣り合う圧接部152の間隔は、先端側へ向けて漸次大きくなる。
また、図6の(A)に示されるように、本実施の形態では、圧接部152における本体101の周方向一方の側の斜面154と他方の側の斜面156とは、その傾斜角度θが同じ大きさに設定されている。しかしながら、斜面154の傾斜角度θと斜面156の傾斜角度θとが異なるように圧接部152の形状を設定してもよい。例えば、図7(A)に示されるように、クラッチギヤ100にクラッチスプリング104が圧接する際のクラッチギヤ100に対するクラッチスプリング104の相対回転方向側(図7の(A)における矢印C方向側)の斜面156の傾斜角度が、反対側の斜面154の傾斜角度よりも小さくなるように設定してもよい。
このように構成すると、上記のようにクラッチギヤ100に対してクラッチスプリング104が相対回転した際に、図7の(B)に示されるように、クラッチスプリング104の巻き方向一端側(ロータ側係止部106が形成されている側)が斜面156に接しても、クラッチスプリング104の巻き方向一端側が斜面154に対して傾斜が緩やかな斜面146上を円滑に滑り、クラッチスプリング104の巻き方向一端側が圧接部152の先端面上に容易に到達できる。
また、図8や図9に示されるように、斜面154、156が平面ではなく湾曲面であってもよい。
一方、図2に示されるように、上記の第3収容部58は第2収容部56の側方に形成されている。第2収容部56の開口形状は略円形、厳密に言えば、上記の第2収容部56と重なっていることによって一部が欠けた円形とされており、その底部中央からは支持軸162が脚板16側へ向けて突出形成されている。
この支持軸162には出力分岐ギヤ172が回転自在に支持されている。この出力分岐ギヤ172は上述したロータ92の外歯96に噛み合うギヤ174が形成されている。このギヤ174に対して第3収容部58の底面とは反対側にはウォームホイール176がギヤ174に対して同軸的に形成されており、このウォームホイール176がウォームシャフト32のウォームギヤ34に噛み合っている。
以上の構成のクラッチ82では、モータ24の出力軸26の回転力がギヤ28、30、ウォームシャフト32のウォームギヤ34、及び出力分岐ギヤ172を介してロータ92に伝達される構成となっている。この場合、モータ24が正転駆動して出力軸26が正転すると、ロータ92はベース84と共にその軸線周り他方へ回転し、モータ24が逆転駆動して出力軸26が逆転すると、ロータ92はベース84と共にその軸線周り一方へ回転する構成である。
なお、ウォームギヤ34、出力分岐ギヤ172のウォームホイール176、出力分岐ギヤ172のギヤ174、ロータ92の外歯96、クラッチギヤ100の外歯102、及び香箱62の外歯68によるトータルの減速比は、ウォームギヤ34及びウォームホイール42の減速比に比べて充分に低く設定されている。
一方、図1に示されるように、上述したモータ24は制御手段としてのドライバ182に電気的に接続されている。このドライバ182は車両に搭載されたバッテリー184に電気的に接続されていると共に、ドライバ182と共に制御手段を構成するECU186に電気的に接続されており、ECU186から出力された駆動制御信号に基づき、ドライバ182はモータ24を正転駆動させるための電流や逆転駆動させるための電流を流す。
さらに、ECU186は前方監視装置188を構成する演算部190を介して赤外線センサ192に電気的に接続されている。演算部190では赤外線センサ192からの検出信号に基づいて走行中の車両の前方に位置する障害物(走行中の車両の前方を走行する他の車両を含む)までの距離を演算する。ECU186はこの演算結果が所定値未満であると判定した場合に、モータ24を急激に正転駆動させるべく駆動制御信号をドライバ182に対して出力する。
また、ECU186は本ウェビング巻取装置10と共にシートベルト装置を構成するバックルに設けられたバックルスイッチ194に電気的に接続されている。バックルに装着されていたタングがバックルから抜き取られることでバックルスイッチ194から出力される電気信号が切り替わると、モータ24を急激に逆転駆動させるべく駆動制御信号をドライバ182に対して出力する。
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用を説明する。
上記構成の本実施の形態に係るウェビング巻取装置10を搭載した車両は、その走行中、赤外線センサ192からの検出信号に基づいて車両前方の障害物までの距離を演算部190が演算し、この演算結果に対応する信号がECU186に入力される。演算部190から出力された信号に基づき、て車両前方の障害物までの距離が所定値未満であるとECU186が判定すると、ECU186は正転駆動信号を出力する。
ECU186から出力された正転駆動信号がドライバ182に入力されると、ドライバ182はモータ24を急激に正転駆動させる。モータ24が正転駆動することによって出力軸26が正転すると、この回転力はギヤ28、ギヤ30を介してウォームシャフト32に伝わり、更に、ウォームシャフト32のウォームギヤ34に噛み合うクラッチ40のウォームホイール42を巻取方向に回転させる。
これによって、ウォームホイール42の巻取方向への回転加速度が所定の大きさを越えて回転を開始すると、上述したように内側回転体に設けられた連結パウルがラチェットギヤに噛み合い、ウォームホイール42の巻取方向への回転力がスプール20に伝わる。これにより、スプール20が巻取方向に回転すると、乗員の身体に装着されているウェビング22は、その長手方向基端側からスプール20に巻取られる。これによって、乗員の身体に装着されているウェビング22の僅かな弛み、所謂「スラック」が解消され、ウェビング22によって乗員の身体を更に強く拘束できる。
一方、乗員がウェビング22の装着を解除すると(バックルからタングを抜き取ると)、モータ24の出力軸26が急激に逆方向へ回転される。出力軸26の逆方向への急激な回転は、ギヤ28、30を介してウォームシャフト32に伝達され、これによってウォームギヤ34が急激に回転する。ウォームギヤ34の急激な回転は、出力分岐ギヤ172を介してクラッチ82のロータ92に伝達され、ロータ92がその軸線周り一方へ所定値以上の回転加速度で回転を開始する。このため、ロータ92に一体的に連結されたベース84が、その軸線周り一方へ所定値以上の回転加速度で回転を開始する。
ベース84の回転は、支軸140及び軸受孔136を介してウエイト132に伝達されると共に、支軸142及び軸受孔138を介してウエイト134に伝達され、ウエイト132及びウエイト134が、ベース84に追従してベース84の軸線周りに所定値以上の回転加速度で回転を開始する。
これにより、ウエイト132及びウエイト134には、遠心力が作用し、ウエイト132、134は、レバー110に作用するリターンスプリング126の付勢力に抗してベース84の径方向外側へ支軸140、142周りに回動する。このため、ウエイト132の係合爪144に連結突起120が係合しかつウエイト134の係合爪146に連結突起118が係合したレバー110が、ベース84に対して軸線周り他方へ回動される。
レバー110が、ベース84に対して軸線周り他方へ回動すると、クラッチスプリング104のレバー側係止部108はレバー110によってクラッチスプリング104の巻き方向一方へ移動する。これにより、図4に示される状態から図5に示されるように、クラッチスプリング104の外径寸法が拡大すると、クラッチスプリング104の外周部がクラッチギヤ100の圧接部152の先端面に圧接する。これにより、クラッチスプリング104は圧接部152の先端面に圧接荷重を付与する。この状態でクラッチスプリング104がベース84と共に回転すると、クラッチスプリング104の回転方向とは反対向きで且つ上記の圧接荷重に比例する摩擦力がクラッチスプリング104と圧接部152の先端面との間に発生する。
これにより、クラッチスプリング104の回転がクラッチギヤ100に伝達され、クラッチギヤ100がその軸線周り一方へ回転される。このクラッチギヤ100の外歯102には、香箱62の外歯68が噛み合っているため、香箱62が巻取方向へ回転され、ひいてはスプール20が巻取方向へ回転される。このスプール20の回転により、渦巻きばね66の付勢力不足が補われ、ウェビング22がスプール20に巻取られて収納される。
ウェビング22がスプール20に最後まで巻取られると、モータ24への給電が遮断され、モータ24の出力軸26の回転が停止される。このため、ロータ92の回転が停止され、ロータ92に一体的に連結されたベース84の回転が停止する。ベース84の回転が停止すると、ウエイト132及びウエイト134は、レバー110に作用するクラッチスプリング104の弾性力及びリターンスプリング126の弾性力によってベース84の径方向内側へ回動する。
このため、クラッチスプリング104は再び自然状態に戻り、その外周部がクラッチギヤ100の内周面から離間し、上述したクラッチスプリング104とクラッチギヤ100との連結が直ちに解除される。これにより、クラッチ82によるスプール20とモータ24の出力軸26との連結が解除され、スプール20に巻取られたウェビング22の再度の引出しが可能となる。
ところで、本実施の形態では、クラッチスプリング104と圧接部152の先端面との間の摩擦によってベース84の回転をクラッチギヤ100に伝える構成である。このため、クラッチスプリング104との摩擦により圧接部152の先端面は摩耗する。ここで、圧接部152は、その先端側へ向けて周方向寸法(圧接部152においてクラッチギヤ100の本体101の回転周方向に沿った寸法)が短くなる。したがって、図6の(B)に示されるように、圧接部152の先端が摩耗することにより、クラッチギヤ100の本体101の内周面からの圧接部152の突出寸法が実質的に短くなると、圧接部152の先端面における周方向寸法が大きくなり、これにより、クラッチスプリング104との圧接範囲Aが摩耗前の圧接範囲Bよりも大きくなる。
上記のように、隣り合う圧接部152の先端面は本体101の周方向に離間しているが、クラッチスプリング104は隣り合う圧接部152の先端面の間も連続している。このため、クラッチスプリング104は本体101の周方向に圧接部152の先端面に対して断続的に圧接している。すなわち、クラッチスプリング104は、圧接部152の先端面に圧接していない部位を有する。このため、圧接部152の先端面がクラッチギヤ100の回転周方向に連続している場合に比べて実質的にクラッチスプリング104がクラッチギヤ100に付与する荷重は小さくなる。
これに対して、上記のように圧接部152の先端面が摩耗すると圧接部152の先端面がクラッチスプリング104から受ける圧接荷重は小さくなるが、クラッチスプリング104の圧接範囲が広がる。これにより、仮に、摩耗する前と同じ大きさの圧接荷重がクラッチスプリング104から圧接部152の先端面に付与されるのであれば、圧接部152の先端面が摩耗することにより、実質的にクラッチスプリング104がクラッチギヤ100に付与する荷重は大きくなる。
すなわち、実際には、圧接部152の先端面が摩耗することによってクラッチスプリング104からクラッチギヤ100に付与する圧接荷重が小さくなるが、このような摩耗によりクラッチスプリング104との圧接範囲が広がることで、実質的な圧接荷重が増加して、圧接荷重の低下分を補うことができる。これによって、クラッチスプリング104とクラッチギヤ100との間の摩擦を安定させることができる。
また、本実施の形態では、クラッチギヤ100の本体101の内周面に圧接部152を形成した構成であるが、圧接部152は本体101の周方向に等間隔に形成されるので、クラッチスプリング104の圧接荷重は、本体101の周方向に略均一に付与される。このため、クラッチスプリング104の圧接荷重でクラッチギヤ100がその半径方向に不用意に変位することを防止又は抑制できる。
なお、換言すれば、クラッチスプリング104のような回転伝達部材が圧接部152の先端面に圧接した状態で、回転伝達部材が圧接部152の先端面の各々に付与する圧接荷重の大きさが異なるような構成の場合には、圧接部152を等間隔に形成せずに、圧接荷重の大きさや荷重分布に応じて圧接部152の間隔を異ならせてもよい。
また、本実施の形態は、回転体としてのクラッチギヤ100の本体の101の内周部に圧接部152を形成して、拡径されたクラッチスプリング104が圧接部152の先端面に圧接する構成であった。しかしながら、本発明がこのような構成に限定されるものではない。例えば、クラッチスプリング104のような捩じりコイルばねにより構成された回転伝達部材の内側に回転体を配置すると共に、回転体の外周面に圧接部を突出形成し、回転伝達部材が縮径するように弾性変形することにうより、回転伝達部材が圧接部の先端面に圧接する構成としてもよい。
さらに、本実施の形態では、回転伝達部材を捩じりコイルばねにより構成したが、回転伝達部材は圧接部の先端に圧接した際に圧接部の先端との間に生ずる摩擦によって回転力を伝えることができればよい。したがって、回転伝達部材を捩じりコイルばね以外の、例えば、板ばね等により構成してもよい。
また、例えば、図10に示されるように、隣り合う圧接部152との間をグリス溜り202として用い、このグリス溜り202に塗布しておいたグリス204がクラッチスプリング104によって圧接部152の先端面とクラッチスプリング104との間に引出される構成としてもよい。このようにしてグリス溜り202のグリス204がクラッチスプリング104によって圧接部152の先端面と間に介在することによってクラッチスプリング104と圧接部152の先端面と間の摩擦抵抗を調節でき、例えば、クラッチスプリング104と圧接部152の先端面との間の摩擦でクラッチスプリング104が圧接部152の先端面に焼付くこと等を防止できる。