以下、本発明に係る車両の電動制動装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
<本発明に係る車両の電動制動装置の全体構成>
図1に示すように、この電動制動装置を備える車両には、制動操作部材BP、電子制御ユニットECU、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRK、及び、蓄電池BATが備えられている。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材であって、その操作量に基づいて、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKが、車輪WHLの制動トルクを調整し、車輪WHLに制動力が発生される。
制動操作部材BPには、制動操作量取得手段BPAが設けられる。制動操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。制動操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダ(図示せず)の圧力を検出するセンサ(圧力センサ)、制動操作部材BPの操作力、及び/又は、変位量を検出するセンサ(ブレーキペダル踏力センサ、ブレーキペダルストロークセンサ)が採用される。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダルストロークのうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算される。制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。なお、制動操作量Bpaは、他の電子制御ユニット(例えば、操舵制御の電子制御ユニット、パワートレイン制御の電子制御ユニット)にて演算、又は、取得され、その演算値(信号)が通信バスを介して、ECUに送信され得る。
電子制御ユニットECUは、その内部に制動手段BRKを制御するための制御手段(制御アルゴリズム)CTLがプログラムされており、CTLに基づいてBRKを制御する。蓄電池(バッテリ)BATは、BRK、ECU等に電力を供給する電源である。
〔制御手段CTL〕
制御手段CTLは、目標押圧力演算ブロックFBT、指示通電量演算ブロックIST、押圧力フィードバック制御ブロックIPT、引き戻し制御ブロックHMC、及び、通電量調整演算ブロックIMTにて構成される。制御手段(制御プログラム)CTLは、電子制御ユニットECU内にプログラムされている。
目標押圧力演算ブロックFBTでは、制動操作量Bpa、及び、予め設定された目標押圧力演算特性(演算マップ)CHfbに基づいて、各車輪WHLの目標押圧力Fbtが演算される。Fbtは、電動制動手段BRKにおいて、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが回転部材(ブレーキディスク)KTBを押す力である押圧力の目標値である。
指示通電量演算ブロックISTでは、予め設定された指示通電量の演算特性(演算マップ)CHs1、CHs2、及び、目標押圧力Fbtに基づいて、指示通電量Istが演算される。Istは、電動制動手段BRKの電気モータMTRを駆動し、目標押圧力Fbtを達成するための、電気モータMTRへの通電量の目標値である。Istの演算マップは、電動制動手段BRKのヒステリシスを考慮して、2つの特性CHs1、CHs2で構成される。特性CHs1は押圧力を増加する場合に対応し、特性CHs2は押圧力を減少する場合に対応する。そのため、特性CHs2に比較して、特性CHs1は相対的に大きい指示通電量Istを出力するように設定されている。
ここで、通電量とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比が通電量として用いられ得る。
押圧力フィードバック制御ブロックIPTでは、目標押圧力(目標値)Fbt、及び、実押圧力(実際値)Fbaに基づいて、押圧力フィードバック通電量Iptが演算される。指示通電量Istは目標押圧力Fbtに相当する値として演算されるが、電動制動手段BRKの効率変動により目標押圧力Fbtと実押圧力Fbaとの間に誤差(定常的な誤差)が生じる場合がある。押圧力フィードバック通電量Iptは、目標押圧力Fbtと実押圧力Fbaとの偏差(押圧力偏差)ΔFb、及び、予め設定された演算特性(演算マップ)CHpに基づいて演算され、上記の誤差を減少するように決定される。なお、実押圧力Fbaは、後述する押圧力取得手段FBAによって取得(検出)され、ECUに設けられるアナログ・デジタル変換手段ADHを介して、IPTに入力される。
引き戻し制御ブロックHMCでは、制動操作量Bpaに基づいて、ねじの引き戻し作動が行われるための目標通電量(引き戻し通電量)Ihtが演算される。ここで、ねじの引き戻し作動は、ねじ部材NJBにおける「当接状態(台形ねじの場合はフランクの接触状態であり、ボールねじの場合はボールと溝との接触状態である)」を調整するものである。引き戻し制御ブロックHMCでは、制動操作が行われていない場合(即ち、Bpa=0である状態のとき)に、電気モータMTRの逆転によって、引き戻し作動が行われる。引き戻し通電量Ihtとして、引き戻し制御の継続中は、予め設定された通電量(所定値)iht1が目標値として演算される。そして、引き戻し制御の終了が判定された場合に、引き戻し通電量Ihtはゼロとされる。
引き戻し制御ブロックHMCは、基準位置演算ブロックZRP、及び、パタン選択演算ブロックPTNにて構成される。基準位置演算ブロックZRPでは、ねじ部材NJBの当接状態の基準となる位置(摩擦部材MSBが回転部材KTBに接触し始める接触開始位置)が決定されて、記憶される。パタン選択演算ブロックPTNでは、「どの当接状態に到るまでねじ部材NJBを引き戻すか」が複数の制御パタンから選択される。
先ず、ねじの当接状態と、各々の引き戻しの制御パタンについて説明する。ねじの当接状態には、摩擦部材MSBが回転部材KTBと接触して押圧部材PSNが摩擦部材MSBから力を受けている状態(即ち、押圧力Fbaが発生している状態で、以下、「押圧当接状態」と称呼する)、摩擦部材MSBと回転部材KTBとが丁度離れ始め、ねじの当接部がフリーとなる状態(即ち、ねじは動力伝達を全く行わない状態で、以下、「自由当接状態」と称呼する)、及び、押圧当接状態時とは異なる部位が当接し押圧部材PSNが回転部材KTBから離れていく状態(以下、「引き戻し当接状態」と称呼する)、の3つの状態が存在する。
従って、少なくとも自由当接状態が達成される「当接解除パタン」、少なくとも引き戻し当接状態が達成される「当接切り替えパタン」、及び、ねじの螺合限界までねじが引き戻される「限界引き戻しパタン」の引き戻し量が異なる3つの制御パタンが存在する。以下に、各制御パタンについて、ねじの当接状態の遷移、並びに、制御パタンの概要についてまとめる。
当接解除パタン:
当接解除パタンでは、ねじの当接状態が、押圧当接状態→自由当接状態へ遷移する。
当接解除パタンでは、ねじの第1当接部の当接(接触)が解除されて、第1当接部が自由状態となるまで、ねじが引き戻される。その後、ねじが、非制動時の待機位置に移動される。
当接切り替えパタン:
当接切り替えパタンでは、ねじの当接状態が、(押圧当接状態→)自由当接状態→引き戻し当接状態へ遷移する。
当接切り替えパタンでは、ねじが自由当接状態を経て、押圧当接状態時とは異なる部位(第2当接部)が当接するまで、ねじが引き戻される。台形ねじの場合、押圧当接状態にて当接していたフランク(押圧時圧力側フランクであって、第1フランク)とは反対側のフランク(押圧時遊び側フランクであって、第2フランク)が当接するまで引き戻される。その後、ねじが、非制動時の待機位置に移動される。
限界引き戻しパタン:
限界引き戻しパタンでは、ねじの当接状態が、(押圧当接状態→)自由当接状態→引き戻し当接状態へ遷移する。
限界引き戻しパタンでは、前記当接部が切り替えられる状態を経て、ねじの螺合可能の限界部位まで、ねじが引き戻される。例えば、ねじ部材NJBにおいて、ストッパにて動きが制限されるまで、ねじが引き戻される。その後、ねじが、非制動時の待機位置に移動される。
上記の当接状態は、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押す状態に因る。従って、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの接触が開始される位置(接触開始位置)が決定され、これに基づいて、当接状態が解除される基準位置Zrpが推定され得る。ここで、基準位置Zprは、押圧力Fbaが減少する場合(電気モータMTRが逆転される場合)に、ねじの当接状態が、押圧当接状態から自由当接状態に切り替わる位置である。
接触開始位置(MSBがKTBと接触し始める位置)の決定方法として、押圧力に基づく推定方法(例えば、特開2004−124950号公報を参照)、或いは、電気モータの回転角、及び、押圧力に基づく推定方法(例えば、特開2001−225741号公報を参照)が公知である。しかしながら、これら公知の方法に基づく接触開始位置の決定方法には誤差が含まれる。この誤差は、押圧力センサの検出誤差、摩擦部材MSBの摩耗(偏摩耗を含む)、及び、熱変形、BRKの動力伝達経路内におけるガタ(隙間)等に因る。このため、前記当接状態の解除(第1当接部の接触の解除)が確実に達成され得るマージン(余裕)が予め見込まれて、基準位置Zrpが設定される。即ち、基準位置Zrpは、接触開始位置の誤差影響が相殺されるように、誤差に相当する所定値zgsが加算されて決定される。ここで、上記の誤差が全て積み上げられて、誤差相当の所定値zgsが決定されると、該所定値が過大となる。従って、誤差のうちで最大のものが選択されて、所定値zgsが決定され得る。なお、各構成要素の誤差は、BRKの設計時に予め決定される。
基準位置演算ブロックZRPでは、少なくとも押圧力Fba(押圧力取得手段FBAの検出値)に基づいて、基準位置Zrp(押圧力Fbaが減少する場合に、押圧当接状態から自由当接状態に丁度切り替わる位置)が決定され、記憶される。そして、記憶された基準位置Zrp、及び、ブレーキアクチュエータBRKの諸元(ねじ隙間の諸元、ねじの螺合位置等)に基づいて、上述した各々の制御パタンが実行され得る目標位置(電気モータの回転角における目標値)が決定される。第1当接部の接触が解除される瞬間の位置である基準位置Zrpに微小所定値pαが加えられて、当接解除位置(目標値)Pt1が決定される。また、基準位置Zrpにねじ隙間長さ(既知の諸元)が加えられて当接切り替え位置(目標値)Pt2が決定される。更に、限界引き戻し位置(目標値)Pt3が設定される。なお、限界引き戻し位置Pt3は、ねじの螺合部の諸元で決定される位置であるため、基準位置Zrpに基づいて、推定される必要はない。
パタン選択演算ブロックPTNにて、3つの引き戻し制御パタンのうちで、何れか1つが選択される。制御パタンの選択は、加速操作量Apa、変速シフト位置Spa、及び、車両速度Vxaのうちの少なくとも何れか1つに基づいて決定される。加速操作量Apaは、加速操作部材(アクセルペダル)AP(図示せず)の操作量であり、加速操作量取得手段APAによって取得(検出)される。例えば、加速操作量取得手段(ストロークセンサ)APAによって、加速操作部材のストローク(変位)が、加速操作量Apaとして検出される。変速シフト位置Spaは、変速シフト部材(シフトレバー)SP(図示せず)の位置(例えば、駐車位置、前進位置、後退位置)であり、各々のシフト位置が変速シフト位置取得手段SPAによって取得(検出)される。車両速度Vxaは、車両速度取得手段VXAによって取得(検出)される。各車輪WHLに車輪速度取得手段VWAが設けられ、VWAによって取得される車輪速度(回転速度)Vwaに基づいて車両速度Vxaが演算され得る。
各制御パタンは、制動操作量Bpaが増加する場合、或いは、制動操作量Bpaが所定操作量bpa0以上の場合には選択されない。そして、何れか1つの制御パタンが、制動操作量Bpaが減少し、且つ、Bpaが所定操作量bpa0未満となる時点で選択される。制御パタン選択は、車両速度Vxa、加速操作量Apa、及び、シフト位置Spaのうちの少なくとも1つに基づいて行われる。
加速操作量Apaが第1所定操作量(予め設定される所定値)ap1以上の場合(Apa≧ap1)には、限界引き戻しパタンが選択され、加速操作量Apaが第1所定操作量ap1未満、且つ、第2所定操作量(予め設定される所定値で、ap1よりも小さい)ap2以上の場合(ap2≦Apa<ap1)には、当接切り替えパタンが選択され、加速操作量Apaが第2所定操作量ap2未満の場合(Apa<ap2)には、当接解除パタンが選択され得る。加速操作量Apaが大きい場合(即ち、車両が急加速されている場合)には、急制動される蓋然性が低いため、限界引き戻しパタンが選択され得る。一方、加速操作量Apaが小さい場合(即ち、車両が急加速されていない場合)には、運転者による急制動に備えて、当接解除パタンが選択され得る。
変速機の変速シフト位置(セレクタの操作位置)Spaが駐車位置(Pレンジ)を指示する場合には、限界引き戻しパタンが選択され得る。これは、シフト位置SpaがPレンジを示す場合には、車両は確実に停止していることに因る。
車両速度Vxaが第1所定速度(予め設定される所定値)vx1以上の場合(Vxa≧vx1)には、当接解除パタンが選択され、車両速度Vxaが第1所定速度vx1未満、且つ、第2所定速度(予め設定される所定値で、vx1よりも小さい)vx2以上の場合(vx2≦Vxa<vx1)には、当接切り替えパタンが選択され、車両速度Vxaが第2所定速度vx2未満の場合(Vxa<vx2)には、限界引き戻しパタンが選択され得る。引き戻し量が大きいほど潤滑更新の効果が大きい。一方、引き戻し量が小さいほど制動トルクの応答性が高い。このため、車両速度Vxaが小さい場合には、引き戻し量が大きい制御パタンが選択されるとともに、車両速度Vxaが大きい場合には、引き戻し量が小さい制御パタンが選択される。この結果、ねじ部材NJBの潤滑性能と、制動トルクの応答性が両立され得る。
各引き戻しの制御パタンが選択されると、引き戻しが行われる目標位置が決定される。即ち、引き戻し制御の目標位置がPt1(当接解除パタンの目標位置)、Pt2(当接切り替えパタンの目標位置)、及び、Pt3(限界引き戻しパタンの目標位置)のうちの何れか1つに決定される。そして、引き戻し制御の目標位置、及び、電気モータの実際位置(回転角)Mkaに基づいて、目標位置にMkaが到達されるまで、引き戻し通電量Iht(予め設定される所定通電量iht1)が出力される。電気モータ回転角Mkaが目標位置(Pt1、Pt2、Pt3)に一致した時点で、引き戻し通電量Ihtはゼロとされ、その後、電気モータの位置Mkaは待機位置(例えば、基準位置Zrp)にまで戻される。なお、限界引き戻しパタンでは、ストッパ(螺合端部でねじ部材NJBの回転を制限する部材)にてねじの動作が制限されるまで、電気モータMTRが逆転されればよいため、電気モータの位置(回転角)Mkaは必ずしも必要とはされない。
以上のように、ねじの当接状態が調整されることによって、ねじ隙間(フランク隙間、ボール/ボール溝の隙間等)に蓄えられている潤滑剤(例えば、グリス)GRSの移動が行われる。潤滑剤GRSの塗布状態が更新されることによって、ねじ部材NJBの潤滑状態が適切に維持され得る。
通電量調整演算ブロックIMTでは、電気モータMTRへの最終的な目標値である目標通電量Imtが演算される。引き戻し通電量(引き戻し制御の目標値)Ihtが演算されていない場合には、指示通電量Istが押圧力フィードバック通電量Iptによって調整され、目標通電量Imtが演算される。具体的には、通電量調整演算ブロックIMTでは、Iht=0であるときに、指示通電量Istに対してフィードバック通電量Iptを加えて、これが最終的な目標通電量Imtとして演算される。また、引き戻し通電量Ihtが演算される場合(Iht≠0)には、Ihtが目標通電量Imtとして演算される。そして、目標通電量Imtの符号(値の正負)に基づいて電気モータMTRの回転方向(押圧力が増加する正転方向、又は、押圧力が減少する逆転方向)が決定され、目標通電量Imtの大きさに基づいて電気モータMTRの出力(回転動力)が制御される。
〔制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRK〕
制動手段BRKは、ブレーキキャリパ(浮動型キャリパ)CPR、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTB、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSB、電気モータ(ブラシモータ、又は、ブラシレスモータ)MTR、駆動手段(電気モータMTRの駆動回路)DRV、減速機GSK、入力部材INP、シャフト部材SFT、ねじ部材NJB、押圧部材(ブレーキピストン)PSN、キー部材KYA、位置検出手段MKA、通電量取得手段IMA、及び、押圧力取得手段FBAにて構成されている。
電気モータMTRの出力(回転動力)は、減速機GSKを介して、入力部材INPに伝達される。入力部材INPの回転動力は、自在継手機構(図示せず)を介して、シャフト部材SFTに伝達される。シャフト部材SFTの回転動力(トルク)は、回転・直動変換機構であるねじ部材NJBによって、直線動力(推力)に変換され、押圧部材PSNに伝達される。そして、押圧部材(ブレーキピストン)PSNが、回転部材(ブレーキディスク)KTBに向かって前進・後退される。これにより、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBを押す力(押圧力)Fbaが調整される。回転部材KTBは車輪WHLに固定されているため、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの間に摩擦力が発生し、車輪WHLに制動力が調整される。
ブレーキキャリパCPRは、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCPR内で、押圧部材PSNがスライドされ、回転部材KTBに向けて前進又は後退される。キャリパCPRには、キー溝KYMが、シャフト部材SFTの回転軸(シャフト軸)方向に延びるように形成される。
押圧部材(ブレーキピストン)PSNは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付けて摩擦力を発生させる。キー部材KYAが、押圧部材PSNに固定される。キー部材KYAが、キー溝KYMに嵌合されることによって、押圧部材PSNは、シャフト軸まわりの回転運動は制限されるが、シャフト軸方向(キー溝KYMの長手方向)の直線運動は許容される。
電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、或いは、ブラシレスモータが採用される。電気モータMTRの回転方向において、正転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBに近づいていく方向(押圧力が増加し、制動トルクが増加する方向)に相当し、逆転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBから離れていく方向(押圧力が減少し、制動トルクが減少する方向)に相当する。電気モータMTRの出力は、制御手段CTLにて演算される目標通電量Imtに基づいて決定される。具体的には、目標通電量Imtの符号が正符号である場合(Imt>0)には、電気モータMTRが正転方向に駆動され、Imtの符号が負符号である場合(Imt<0)には、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。また、目標通電量Imtの大きさ(絶対値)に基づいて電気モータMTRの回転動力が決定される。即ち、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルクが大きく、目標通電量Imtの絶対値が小さいほど出力トルクは小さい。
位置取得手段(例えば、角度センサ)MKAは、電気モータMTRのロータ(回転子)の位置(例えば、回転角)Mkaを検出する。位置取得手段MKAは、電気モータMTRの内部に設けられる。
駆動手段(電気モータMTRを駆動するための電気回路)DRVにて、目標通電量(目標値)Imtに基づき電気モータMTRへの通電量(最終的には電流値)が制御される。具体的には、駆動手段DRVには、複数のスイッチング素子(パワートランジスタであって、例えば、MOS-FET、IGBT)が用いられたブリッジ回路が構成される。電気モータの目標通電量Imtに基づいて、それらの素子が駆動され、電気モータMTRの出力が制御される。具体的には、スイッチング素子の通電/非通電の状態が切り替えられることによって、電気モータMTRの回転方向と出力トルクとが調整される。
通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAは、電気モータMTRへの実際の通電量(例えば、実際に電気モータMTRに流れる電流)Imaを取得(検出)する。通電量取得手段IMAは、電気モータの駆動回路DRVの内部に設けられる。
減速機GSKは、電気モータMTRの動力において、その回転速度を減じて、入力部材INPに出力する。即ち、電気モータMTRの回転出力(トルク)が、減速機GSKの減速比に応じて増加され、入力部材INPの回転力(トルク)が得られる。例えば、減速機GSKは、小径歯車SKH、及び、大径歯車DKHにて構成される。減速機GSKとして、歯車伝達機構のみならず、ベルト、チェーン等の巻き掛け伝達機構、或いは、摩擦伝達機構が採用され得る。
入力部材INPは、減速機GSKの出力軸(例えば、DKHの回転軸)に固定される。入力部材INPは、シャフト部材SFTに回転動力を伝達する。入力部材INPとシャフト部材SFTとの間には、自在継手(ユニバーサルジョイント)UNVが設けられる。自在継手UNVは、2つの軸間の相対的な角度を吸収して、動力を伝達する。浮動型キャリパCPRの撓み、摩擦部材MSBの偏摩耗等によってシャフト部材SFTの揺動(首振り)が生じ、2つの軸(SFTの軸Jsf、INPの軸Jin)には偏心(軸ズレ)が生じ得るが、自在継手UNVは、この軸ズレを吸収する。
シャフト部材SFTは、回転軸部材であって、入力部材INPから伝達された回転動力をねじ部材NJBに伝達する。シャフト部材SFTの一方の端部に、自在継手機構UNVが構成され、他方の端部にねじ部材(回転・直動変換機構)NJBが設けられる。
ねじ部材NJBにて、シャフト部材SFTの回転動力が、直線動力に変換される。ねじ部材NJBは、所謂、回転・直動変換機構である。ねじ部材NJBは、ナット部材NUT、及び、ボルト部材BLTにて構成される。ねじ部材NJBが台形ねじ(「滑り」によって動力伝達が行われる滑りねじ)にて構成される場合、ナット部材NUTには、めねじ(内側ねじ)MNJが設けられ、ボルト部材BLTには、おねじ(外側ねじ)ONJが設けられる。そして、ナット部材NUTのめねじMNJと、ボルト部材BLTのおねじONJとが螺合される。シャフト部材SFTから伝達された回転動力(トルク)は、ねじ部材NJB(互いに螺合するおねじONJとめねじMNJ)を介して、押圧部材PSNの直線動力(推力)として伝達される。また、ねじ部材NJBには、滑りねじに代えて、「転がり」によって動力伝達が行われる転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。この場合、ナット部材NUT、及び、ボルト部材BLTにはねじ溝(ボール溝)が設けられ、そこにボール(鋼球)がはめ合わされることによって、回転・直動変換機構として作動される。
押圧力取得手段FBAにて、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaの反力(反作用)が取得(検出)される。押圧力取得手段FBAは、入力部材INPとキャリパCPRとの間に設けられる。具体的には、押圧力取得手段FBAはキャリパCRPに固定され、押圧部材PSNが摩擦部材MSBから受ける力が押圧力Fbaとして取得される。押圧力Fbaは、アナログ信号として検出され、電子制御ユニットECUに設けられているアナログ・デジタル変換手段ADHを介してデジタル信号に変換されて電子制御ユニットECUに入力される。
<制動手段BRKの第1の実施形態>
次に、図2を参照しながら、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKの第1の実施形態について説明する。この図2は、図1に対応する。図2において、電気モータMTR、減速機GSK、押圧部材(ブレーキピストン)CPR等は、図1と同一であるため、これらの記載が省略されている。
入力部材INPは、減速機GSKの出力軸(例えば、大径歯車DKHの回転軸)に固定される。入力部材INPは、自在継手UNVを介して、シャフト部材SFTと当接する。具体的には、入力部材INPの端部(GSKに固定される部位とは反対側)に、球面(例えば、凹状球面)が形成され、この端部が自在継手UNVの一部として機能し得る。
押圧力取得手段FBAは、キャリパCPRに固定され、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaの反力(反作用)を取得(検出)する。押圧力取得手段FBAは、入力部材INPに設けられ、Fba(アナログ信号)を出力する。
自在継手UNVが、入力部材INPとシャフト部材SFTとの間に設けられる。具体的には、入力部材INPとシャフト部材SFTとの間に球面部材(半径rqの凹型球面を有する部材)QMBが設けられるとともに、シャフト部材SFTの端面が球面形状(半径rqの凸球面形状)とされる。シャフト部材SFTと球面部材QMBとが摺動することによって、自在継手UNVとして機能する。自在継手UNVは、入力部材INPの軸Jinと、シャフト部材SFTの軸Jsfとの間の偏心(軸ズレ)を吸収して動力伝達を行う。なお、上記の軸ズレは、浮動型キャリパCPRの撓み、及び、摩擦部材MSBの偏摩耗に因る。
押圧部材PSNは、キャリパCPR内にて、PSNの軸方向(Jsp方向、即ち、SFTの軸方向Jsf)に摺動し、摩擦部材MSBを回転部材KTBに押し付ける。キー部材KYAとキー溝KYMとによって、押圧部材PSNの動きは、キャリパCPRに対する回転運動が制限されて、シャフト軸方向(キー溝KYMの長手方向)に行われる。自在継手UNVによって、Jin及びJsfの偏心が吸収されるため、シャフト部材SFTの軸(シャフト軸)Jsfと、押圧部材PSNの軸(押圧軸)Jpsとは同軸である。
押圧部材PSNは、カップ形状を有する。具体的には、押圧部材PSNは、円筒形(シリンダ形)であり、軸方向(Jps方向)において、一方が閉じられ、他方が開いている形状を有する。押圧部材PSNの内側(内周側)には、第1筒部(内壁)Et1が形成される。第1筒部Et1は、その面が直線で構成され(即ち、面が直線の集合体で形成され、母線をもって構成され)、滑らかである。ここで、直線の移動によって曲面が描かれるときに、各位置における直線が曲面の母線である。
押圧部材PSNの一方の端部は、密閉壁(隔壁)Mp1が設けられて、第1筒部Et1が閉め切られる(塞がれる)。押圧部材PSNの他方の端部(密閉壁Mp1の反対側)は、開口部(PSNの一部位)Kk1とされ、第1筒部Et1は、開いた状態となっている。
押圧部材PSN(具体的には、密閉壁Mp1)には、おねじONJを有するボルト部材BLTが固定される。第1筒部(PSNの内壁)Et1、密閉壁(PSNの隔壁)Mp1、キャップ部材(蓋)CAP、及び、第2筒部(SFTの外壁)Et2にて仕切られる貯蔵室Hchが形成される。貯蔵室Hchの内部には、気体が混入されることなく、潤滑剤GRSが充填される。貯蔵室Hchからの潤滑剤GRSの出入りが発生する箇所は、ねじ部材NJB(特に、ねじの隙間)、及び、キャップ部材CAP(特に、Et1、Et2との隙間)に限定される。
ねじ部材NJBは、シャフト部材SFTの回転動力を、押圧部材PSNの直線動力に変換する(即ち、回転・直動変換機構である)。ねじ部材NJBは、ボルト部材BLT、及び、ナット部材NUTにて構成されている。ボルト部材BLTは、押圧部材PSNの密閉壁Mp1に固定される。ボルト部材BLTには、おねじ(外側ねじ)ONJが形成されている。ナット部材NUTは、シャフト部材SFTに固定される。ナット部材NUTには、めねじ(内側ねじ)MNJが形成され、めねじMNJとおねじONJとが螺合される。ねじ部材NJBには、潤滑剤GRSが塗布される。具体的には、おねじONJとめねじMNJとの隙間に、気体が可能な限り除かれて、潤滑剤GRSが充填されている。
シャフト部材SFTは、入力部材INPの回転動力をねじ部材NJBに伝達する。入力部材INPに当接するシャフト部材SFTの端部には球面(例えば、凸状球面)が設けられ、球面部材QMBと摺動可能にて当接し、自在継手UNVの一部として機能する。
シャフト部材SFTは、入力部材INPに当接する部位とは反対側に、第1筒部Et1よりも小径のカップ形状を有する。シャフト部材SFTのカップ形状において、外側に第2筒部Et2、内側に第3筒部Et3が形成される。第2筒部Et2は、その面が直線で構成され(即ち、母線をもって構成され)、滑らかである。第3筒部Et3の一方の端部は、密閉壁Mp3が設けられてEt3が閉め切られる。第3筒部Et3の他方の端部(密閉壁Mp3の反対側)は、開口部(SFTの一部位)Kk3とされ、Et3は開いた状態となっている。
シャフト部材SFTは、押圧部材PSNの第1筒部Et1(例えば、円筒形状をもつPSN内周部)の内側に挿入される。このため、押圧部材PSNの第1筒部Et1と、シャフト部材SFTの第2筒部Et2(例えば、円筒形状をもつSFT外周部)とがオーバラップ部(重なり合う部分)Ovpをもつ。第3筒部Et3には、めねじMNJを有するナット部材NUTが固定される。第3筒部Et3(例えば、円筒形状をもつSFT内周部)、密閉壁(SFTの隔壁)Mp3、及び、ナット部材NUTにて仕切られる密閉室Hmp(外部とは隔離され、閉じられた空間)が形成される。密閉室Hmpの内部には、気体が混入されることなく(気体が可能な限り取り除かれて)、潤滑剤GRSが充填されている。密閉室からの潤滑剤の出入りが発生する箇所は、ねじ部材NJB(特に、ねじの隙間)に限られる。
キャップ部材CAPは、潤滑剤GRSが貯蔵室Hch(例えば、位置Pb3)から外部位置Pb4に流出することを防止するとともに、気体(空気)が、外部位置Pb4から貯蔵室Hch(例えば、位置Pb3)に流入することを防止するための蓋(キャップ)である。具体的には、キャップ部材CAPは、中央に穴をもつ円盤形状であり、その外周部にて第1筒部Et1と摺接し、その内周部にて第2筒部Et2と摺接する。キャップ部材CAPは、押圧部材PSN、及び、シャフト部材SFTに対して軸方向への相対移動(軸に平行な方向の直線移動であって、Jps方向、及び、Jsf方向への移動)が可能である。また、押圧部材PSN、及び、シャフト部材SFTのうちで少なくとも一方に対して、軸まわりに相対回転(軸まわりの回転運動であって、Jpsまわり、及び、Jsfまわりのうちの少なくとも1つの軸まわりの相対回転移動)が可能である。ここで、押圧部材PSNの軸Jpsと、シャフト部材SFTの軸Jsfとは同じである。
ねじ部材NJBの効率低下は、潤滑剤GRSの枯渇(グリス切れ)に因るところが大である。具体的には、潤滑剤GRSの枯渇は、潤滑剤GRSによって潤滑されている界面に気体(空気)が入り込むことによって生じ得る。このため、ねじ部材NJB内、及び、その周辺部に潤滑剤GRSが充填され、気体(例えば、空気)が存在する部位(気体部)から、これらの部位が遠ざけられる(隔離される)ことによって、ねじ部材NJBの潤滑状態が良好に維持され得る。
ねじ部材NJBの一方の端部(位置Pb1)には密閉室Hmpが形成され、この内部には、潤滑剤GRSが満充填されている。即ち、ねじ部材NJBの一方端に、壁で区画された行き止まりのチャンバ(密閉室)Hmpが設けられ、この内部の気体があり得る範囲で取り除かれた上で、潤滑剤GRSによって満たされている。このため、ねじ部材NJBの一方端の位置Pb1から気体が流入することはない。ねじ部材NJBの他方の端部(位置Pb2)には貯蔵室Hchが形成され、この内部にも潤滑剤GRSが満充填されている。即ち、Hch内においても、できる限り気体が取り除かれて、GRSが満たされている。気体が貯蔵室Hchへ流入する経路は、開口部Kk1からであるが、該経路はキャップ部材CAPによって蓋がされており(塞がれており)、この部位からの気体の流入が抑制される。例えば、特許文献3に記載されるシールでは、摺接面形状(ボール溝でシール)が直線にて形成されていないため、シール効果が十分とはいえない。これに対し、この第1実施形態では、キャップ部材CAPが摺接する第1筒部Et1、及び、第2筒部Et2は、その摺接面(摺動面)の形状が直線(直線の集合体)にて形成される。従って、気体の流入、潤滑剤GRSの流出が効果的に防止され得る。
更に、押圧部材PSN、及び、シャフト部材SFTにおいては、直径が異なる大小のカップ形状を有する2つの円筒形の部材が、夫々の開口部Kk1、Kk3で互いに向き合って、重なり合うように構成されている。従って、少なくともオーバラップ部分Ovp(PSNの内部空間)に亘って、貯蔵室Hch(潤滑剤GRSが充填されているチャンバ)が形成されている。即ち、ねじ部材NJBの端部Pb2から、気体が存在する部分Pb4に到る近傍部位に亘って、潤滑剤GRSが存在する。このオーバラップ構造によって、BRK全体の軸方向長さが伸ばされることなく、ねじ部材NJB(位置Pb2)から位置Pb4までの気体が通る道のりが十分に確保され得る。ねじ部材NJBに対して、潤滑剤GRSが充填されている区間が長く設定されることによって、気体部(位置Pb4)と隔離されるため、ねじ部材NJBへの気体流入が効果的に抑制され得る。
おねじONJ、及び、めねじMNJのねじ形状において、ねじの隙間(山頂隙間、及び、フランク隙間)が潤滑剤GRSの流路となり得る。押圧部材PSNの移動(回転部材に対する前進、或いは、後退)によって、密閉室Hmpには体積変化が生じる。具体的には、押圧部材PSNが回転部材KTBに向けて前進する場合(押圧力Fbaが増加し、制動トルクが増加する場合)には、密閉室Hmpの体積は、ボルト部材BLTが前進する分だけ増加する。逆に、押圧部材PSNが回転部材KTBから後退する場合(押圧力Fbaが減少し、制動トルクが減少する場合)には、密閉室Hmpの体積は、ボルト部材BLTが後退する分だけ減少する。ねじ部材NJB、及び、密閉室Hmpには、潤滑剤GRSが満充填されている(即ち、気体が混入されていない)ため、この体積変化は、潤滑剤GRSが、ねじ部材NJBの隙間を通って貯蔵室Hchに移動することで吸収され得る。また、この潤滑剤GRSの移動によってねじ部材NJB内の潤滑剤GRSが更新されて、潤滑状態が適正に維持され得る。
自在継手UNVは、押圧部材PSNとシャフト部材SFTとの間に設けられ得る。しかしながら、この構成が採用された場合には、第1筒部Et1(押圧部材PSNの一部であり、内周部分)と、第2筒部Et2(シャフト部材SFTの一部であり、外周部分)との平行度合が不十分であるため、キャップ部材CAPが傾き、キャップ部材CAPの軸方向の動きが阻害され得る。これに対し、この第1実施形態では、入力部材INPとシャフト部材SFTとの間に自在継手UNVが設けられるため、第1筒部Et1と第2筒部Et2との平行度合が維持され、キャップ部材CAPの円滑な摺動が確保され得る。
<ねじ部材NJBとして台形ねじが採用される場合>
次に、図3、及び、図4を参照しながら、ねじ部材NJB(特に、ねじの形状)について説明する。ねじ部材NJBは、台形ねじであり、めねじMNJと、おねじONJとで構成される。
図3は、ねじ部材NJBにおける各部位の名称を定義して説明するためのものである。めねじ(内側ねじ)MNJの形状は、めねじの山部Ymnと、めねじの谷部(溝部)Tmnとで構成される。具体的には、めねじの山頂Scm、めねじのフランクFmn、及び、めねじの谷底Tzmにて構成される。同様に、おねじ(外側ねじ)ONJの形状は、おねじの山部Yonと、おねじの谷部(溝部)Tonとで構成される。具体的には、おねじの山頂Sco、おねじのフランクFon、及び、おねじの谷底Tzoにて構成される。ここで、山頂Scm、Scoは、ねじの山部の頂で平坦な部分であり、谷底Tzm、Tzoは、ねじの谷部の底で平坦な部分である。そして、フランクFmn、Fonは、山頂Scm、Scoと、谷底Tzm、Tzoとを連絡する面である。Fmn、Fonは、ねじの回転軸線を含む断面では直線になっている。めねじMNJのフランクFmnと、おねじONJのフランクFonとの圧接によって動力の伝達が行われる。
図4は、めねじMNJとおねじONJとが螺合された状態を説明するためのものである。図4は、めねじの山部Ymn、及び、おねじの谷部Tonと、めねじの谷部Tmn、及び、おねじの山部Yonとがかみ合い、めねじMNJがおねじONJを押し付けている状態(図中では、矢印の方向に、めねじMNJがおねじONJを押圧している状態)を示している。ここで、めねじMNJ、及び、おねじONJにおいて、力が作用している側(荷重を受ける側)のフランクを、圧力側フランク(Pressure Flank)と称呼し、圧力側フランクの反対側のフランクであって、力が作用していない側のフランクを、遊び側フランク(Clearance Flank)と称呼する。
遊び側フランクにおいて、めねじMNJの遊び側フランクと、おねじONJの遊び側フランクとの隙間(ピッチ線上の距離)が、フランク隙間Cfkと称呼される。ピッチ線Pchは、ねじの有効径を定義するために用いる仮想的な円筒の母線(Generatrix)である。即ち、おねじ山の幅Wyoと、めねじ山の幅Wymとが等しくなる円筒の母線であるとともに、おねじ谷幅(おねじ溝の幅)Wtoと、めねじ谷幅(めねじ溝の幅)Wtmとが等しくなる円筒の母線ともいえる。
ねじ隙間が密閉室Hmpと貯蔵室Hchとの間の、潤滑剤GRSの移動経路となる。ねじ隙間は、ねじの断面形状において、a-b-c-d-e-f-g-hで示される部分にて表され、めねじMNJの山頂隙間Csm、おねじONJの山頂隙間Cso、及び、フランク隙間Cfkにて形成される。ここで、めねじMNJの山頂隙間(おねじの谷底隙間でもある)Csmは、めねじの山頂Scmと、おねじの谷底Tzoとの隙間である。具体的には、互いに同心にはまり合うめねじMNJとおねじONJとの断面形状(ねじの回転軸Jps、Jsfを含む断面)において、めねじの山頂(ねじ山の両側のフランクを連絡する面)を連ねる直線と、おねじの谷底(ねじ溝の両側のフランクを連絡する面)を連ねる直線との間の隙間である。同様に、おねじONJの山頂隙間(めねじの谷底隙間でもある)Csoは、おねじの山頂Scoと、めねじの谷底Tzmとの隙間である。具体的には、互いに同心にはまり合うめねじMNJとおねじONJとの断面形状(ねじの回転軸Jps、Jsfを含む断面)において、めねじの谷底を連ねる直線と、おねじの山頂を連ねる直線との間の隙間である。そして、フランク隙間Cfkは、めねじMNJのフランクFmnと、おねじONJのフランクFonとの隙間である。
押圧部材PSNの動き(移動)によって、密閉室Hmpの体積変化が発生する。即ち、押圧力Fbaが増加される場合は密閉室Hmpの体積が増加し、Fbaが減少される場合はHmpの体積が減少する。密閉室Hmpには、潤滑剤GRSが満たされているため、この体積変化は、潤滑剤GRSがねじ隙間を通って移動することによって吸収される。換言すれば、密閉室Hmpの体積が減少する場合には、密閉室Hmp内の潤滑剤GRSがねじ部材NJBに排出される。逆に、密閉室Hmpの体積が増加する場合には、潤滑剤GRSがねじ部材NJBから密閉室Hmp内に吸引される。この潤滑剤GRSの移動によって、ねじ部材NJB内の潤滑剤GRSが更新されて、潤滑状態が適正に維持され得る。
ねじ隙間(山頂隙間Csm、Cso、及び、フランク隙間Cfk)が潤滑剤GRSの流路となる場合、潤滑剤GRSの流動抵抗(粘性抵抗)が制動手段BRKの効率に影響を及ぼす。従って、ねじ隙間の断面積が潤滑剤GRSの粘度に基づいて設定される。そして、無負荷の状態(押圧力がゼロの状態)において、潤滑剤GRSの流動に必要な電気モータMTRの回転動力(即ち、潤滑剤GRS移動に起因するトルク損失)が所定値以下となるように、ねじ隙間の断面積が決定され得る。ここで、ねじ隙間の断面積は、ねじの回転軸(Jps、Jsf)を含む断面におけるCsm、Cso、及び、Cfkの総面積であって、図4に示す例では、上記の(a)乃至(h)にて囲まれた部分の面積である。
電気モータMTRの回転動力を押圧力に変換する部位は、ねじのフランクであるため、潤滑剤GRSの移動はフランク隙間に対して行われることが望ましい。ねじ部材NJBのねじ形状において、少なくともフランク隙間Cfkが潤滑剤GRSの流路となるように、ねじのピッチ線Pchにおいて、ねじ溝(ねじの谷)の幅Wtm、Wtoが、ねじ山の幅Wym、Wyoよりも大きく(広く)設定される。この隙間(フランク隙間Cfk)を介して、密閉室Hmpと貯蔵室Hchとの間で、潤滑剤GRSが移動される。ねじが螺合する場合にはある程度のバックラッシュが必要であるが、フランク隙間Cfkは、ねじ規格にて定められる標準バックラッシュよりも大きい値に設定され得る。また、フランク隙間Cfk(線分bcと線分fgとの距離)は、めねじMNJの山頂隙間Csm(線分cdと線分efとの距離)、及び、おねじONJの山頂隙間Cso(線分abと線分ghとの距離)のうちの少なくとも何れか一方よりも大きく(広く)なるように設定される。
<ねじの当接状態(特に、台形ねじの当接状態)についての説明>
次に、図5を参照しながら、先ず、上述した引き戻し作動における、ねじの当接状態(フランクの当接状態)、及び、当接状態の変化によって生じる潤滑剤(グリス)の移動について説明する。ここで、潤滑剤(グリス)GRSの移動に関し、範囲Xで示すねじの1ピッチ分の移動について説明する。
図5は、図2に対応している。即ち、ナット部材NUT(めねじ部MNJをもつ)がシャフト部材SFTに固定され、ボルト部材BLT(おねじ部ONJをもつ)が押圧部材PSNに固定されている。ねじ部材NJBには、潤滑剤(グリス)GRSが移動可能なように、山頂隙間Csm、Cso、及び、フランク隙間Cfk(第1フランク隙間Cfk1、第2フランク隙間Cfk2)が設けられている。ねじの当接状態とは、めねじMNJとおねじONJとの相互の位置関係によって発生するフランクの接触状態である。
図5(a)は、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押圧している(即ち、PSNがMSBから押圧力(反作用)Fbaを受けている)状態を表し、めねじMNJによって矢印で示す方向に、おねじONJが押されている。この当接状態が、上述した「押圧当接状態」である。押圧当接状態では、めねじの第1フランクFmn1、及び、おねじの第1フランクFon1が当接している(即ち、Fmn1及びFon1が圧力側フランクである)。ここで、第1フランクFmn1及びFon1が「押圧時の圧力側フランク(第1当接部に相当)」と称呼される。一方、めねじの第2フランクFmn2、及び、おねじの第2フランクFon2は非接触の状態であり、これらの間には隙間Cfk2が存在している(即ち、Fmn2及びFon2が遊び側フランクとなっている)。ここで、第2フランクFmn2及びFon2が「押圧時の遊び側フランク(第2当接部に相当)」と称呼される。潤滑剤GRSは、山頂隙間Csm、Cso、及び、フランク隙間Cfk2に充填されている。
図5(b)は、電気モータMTRが逆転されて、圧力側フランクであった第1フランクFmn1、Fon1が離れ始め、押圧部材PSNには押圧力Fbaが作用しないフリーな状態を表している。この当接状態が、上述した「自由当接状態」である。自由当接状態では、全てのフランクが接触していない。ねじの当接状態が、押圧状態から自由状態へ遷移する場合、押圧状態で遊び側フランクであった、めねじの第2フランクFmn2、及び、おねじの第2フランクFon2の隙間(第2フランク隙間)Cfk2が狭められることによって、おねじの山頂隙間Csoに存在していた潤滑剤GRSが、他のフランク隙間(Fmn1及びFon1の隙間である第1フランク隙間Cfk1)に押し出される。具体的には、矢印(m)、(n)、及び、(p)で示されるように、ピッチ線Pch上部のグリスGfk2uによって、おねじの山頂隙間のグリスGsoが押し出され、Gsoが第1フランク隙間(Fmn1及びFon1の隙間)Cfk1に流入される。同様に、矢印(i)、(j)、及び、(k)で示されるように、ピッチ線Pch下部のグリスGfk2sによって、めねじの山頂隙間のグリスGsmが押し出され、Gsmが第1フランク隙間Cfk1に移動される。
図5(c)は、めねじの第2フランクFmn2(めねじMNJにおいて、第1フランクFmn1の反対側のフランク)、及び、おねじの第2フランクFon2(おねじONJにおいて、第1フランクFon1の反対側のフランク)が接触して、圧力側フランクとなり、押圧部材PSN(おねじ部ONJ)が矢印の方向に引き戻される状態を表している。この当接状態が、上述した「引き戻し当接状態」である。ねじの当接状態において、「押圧当接状態(図5(a)を参照)」から「引き戻し当接状態(図5(c)を参照)」に遷移することが、「当接切り替え」と称呼される。即ち、当接切り替えとは、一方側のフランク(第1フランクFmn1、Fon1)が当接していた状態から、他方側のフランク(第2フランクFmn2、Fon2)が当接する状態に切り替わることである。引き戻し当接状態では、第2フランクFmn2、Fon2が当接されるため、第2フランク隙間Cfk2にあったグリスGfk2(=Gfk2u+Gfk2s)に相当する量のグリスGRSが、山頂隙間Csm(ScmとTzoとの隙間)、Cso(ScoとTzmとの隙間)から、第1フランク隙間(Fmn1とFon1との隙間)Cfk1に移動される。
第1フランクFmn1、Fon1は、押圧力Fbaが増加される場合に圧力側フランクとなるため、制動トルクが増加される場合に動力伝達を行うフランクFmn1、Fon1に対して、新しい潤滑剤GRSが供給される(即ち、潤滑剤GRSの更新が行われる)。これによって、ねじ部材NJBの潤滑状態が適切に維持され、BRKの効率が確保され得る。なお、第1フランクFmn1、Fon1への潤滑剤GRSの供給は、自由当接状態となる時点で開始され、引き戻し当接状態で完了される。このため、第1フランクFmn1、Fon1への潤滑剤(グリス)の更新は、少なくとも自由当接状態となること(第1フランクFmn1、Fon1が離れること)が条件とされ得る。
フランクの当接状態が遷移されることによって、山頂隙間Cms、Cosに蓄えられている潤滑剤GRSがフランク隙間Cfk(Cfk1、Cfk2)に流入され、Cfk内の潤滑剤GRSが更新される。この潤滑剤GRSの移動によって、ねじ部材NJBの潤滑状態が維持・向上され得る。ねじの1ピッチにおいて、フランク隙間(ピッチ線Pchからめねじ山頂Scmまでのフランク隙間)Cfksにて形成される断面積(断面積a5-a6-a7-a8)が、めねじMNJの山頂隙間Csmにて形成される断面積(断面積b5-b6-b7-b8)よりも大きくなること、及び、フランク隙間(ピッチ線Pchからおねじ山頂Scoまでのフランク隙間)Cfkuにて形成される断面積(断面積a1-a2-a3-a4)が、おねじONJの山頂隙間Csoにて形成される断面積(断面積b1-b2-b3-b4)よりも大きくなること、のうちで少なくとも何れか一方が満足されるように、ねじ部材NJBのねじ形状が設定され得る。即ち、「(断面積a5-a6-a7-a8)>(断面積b5-b6-b7-b8)」、及び、「(断面積a1-a2-a3-a4)>(断面積b1-b2-b3-b4)」のうちの少なくとも1つが満足されるように、ねじの形状が決定される。このため、フランク隙間に蓄えられる潤滑剤Gfk2s、Gfk2uの量が、めねじ、及び、おねじのうちの少なくとも一方の山頂隙間に蓄えられる潤滑剤Gsm、Gsoの量よりも多くなる。一方側のフランク(押圧力上昇時の遊び側フランクで、第2フランクFmn2、Fon2)の隙間が狭められることに伴って、山頂隙間に蓄えられるグリスが、他のフランク(押圧力上昇時の圧力側フランクで、第1フランクFmn1、Fon1)の隙間に、確実に押し出される。この結果、ねじ部材NJBの潤滑状態が確保され、ブレーキアクチュエータBRKの効率が維持され得る。
ねじ隙間の潤滑剤移動が好適に行われ得る台形ねじの形状についてまとめる。ねじの1ピッチにおいて、「ピッチ線Pchに対してめねじの山頂Scm側のフランク隙間Cfksにて形成される断面積(断面積a5-a6-a7-a8)が、めねじの山頂隙間Csmにて形成される断面積(断面積b5-b6-b7-b8)よりも大きいこと」、及び、「ピッチ線Pchに対しておねじの山頂Sco側のフランク隙間Cfkuにて形成される断面積(断面積a1-a2-a3-a4)が、おねじの山頂隙間Csoにて形成される断面積(断面積b1-b2-b3-b4)よりも大きくなること」、のうちで少なくとも何れか一方が満足されるように設定される。また、断面積による定義に代えて、隙間の広さによって、ねじ形状が定義され得る。具体的には、フランク隙間Cfk(隙間の広さであって、例えば、線分a1-a2と線分a3-a4との距離)は、めねじの山頂隙間Csm(隙間の広さであって、線分b5-b6と線分b7-b8との距離)、及び、おねじの山頂隙間Cso(隙間の広さであって、線分b1-b2と線分b3-b4との距離)のうちの少なくとも何れか一方よりも大きく(広く)なるように設定され得る。
<キャップ部材CAPの実施形態>
次に、図6を参照しながら、キャップ部材CAPの実施形態について説明する。
キャップ部材CAPは、中央に穴をもつ円盤形状を有し、外周部にて押圧部材PSNの第1筒部Et1(円筒形状)と摺接し、内周部にてシャフト部材SFTの第2筒部Et2(円筒形状)と摺接する。キャップ部材CAPは、押圧部材PSN、及び、シャフト部材SFTに対して軸方向への直線移動(PSNの軸Jps方向、及び、SFTの軸Jsf方向への移動)が可能であるとともに、押圧部材PSN、及び、シャフト部材SFTのうちで少なくとも一方の軸まわりに相対的に回転(Jpsまわり、及び、Jsfまわりのうちの少なくとも1つの軸まわりの回転)が可能である。ここで、PSNの軸Jps、及び、SFTの軸Jsfは同一軸である。キャップ部材CAPは、潤滑剤GRSが貯蔵室Hch(例えば、位置Pb3)から外部位置Pb4に流出することを防止するとともに、気体(空気)が位置Pb4から貯蔵室Hch(例えば、位置Pb3)に流入することを防止するための蓋(キャップ)として機能する。
第2筒部Et2とキャップ部材CAPとの隙間Csfが、第1筒部Et1とキャップ部材CAPとの隙間Cpsよりも大きく設定され得る。シャフト部材SFTは回転されるため、キャップ部材CAPとSFTとの相対的な回転摺動が、第2筒部Et2にて行われ得る。隙間Csf(CAPとSFTとの隙間)が相対的に大きく設定されるため、回転の摺動抵抗が低減され得る。第2筒部Et2にて回転摺動が許容される場合には、第1筒部Et1にて回転摺動が行われる必要はなくなる。このため、隙間Cps(CAPとPSNとの隙間)は相対的に狭く設定され得る。この結果、キャップ部材CAPが押圧部材PSN、シャフト部材SFTに対して傾斜することが抑制され得る。更に、押圧部材PSNとキャップ部材CAPとの間に、キー部材KYB、及び、これと勘合するキー溝が設けられ、キャップ部材CAPと押圧部材PSN(Et1)との間の相対的な回転運動が制限され得る。これによって、キャップ部材CAPの傾き抑制の効果が大きくされ得る。
回転部材KTBに対して押圧部材PSNが移動(前進、又は、後退)されることによって、貯蔵室Hchの体積変化が生じる。ねじ部材NJBの端部(Hchとは反対側)に密閉室Hmpが設けられる場合には、密閉室Hmpの体積変化も生じる。さらに、密閉室Hmpの体積が変化するため、潤滑剤GRSが、ねじ部材NJBを介して、貯蔵室Hchに流入、又は、流出される。キャップ部材CAPは、第1筒部Et1(押圧部材PSNの内周部)、及び、第2筒部Et2(シャフト部材SFTの外周部)と軸方向に摺動可能であるため、キャップ部材CAPの動き(スライド)によって、上記の体積変化、及び、密閉室Hmpの体積変化による潤滑剤GRSの移動が吸収される。
なお、上記の体積変化は、一連の制動操作(一制動における制動トルクの発生から解除までの操作)において発生する。この体積変化は、キャリパCPR、摩擦部材MSBの剛性に因る。摩擦部材MSBの経年的な摩耗によっても体積変化は生じ得る。制動操作による体積変化は相対的に小さいが、経年磨耗による体積変化は、制動操作による変化に比較して大きい。キャップ部材CAPによって、摩擦部材MSBの摩耗に基づく体積変化による潤滑剤GRSの移動も吸収され得る。
<制動手段BRKの第2の実施形態>
次に、図7を参照しながら、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKの第2の実施形態について説明する。図7は、図2に対応している。従って、図7において、図2に示す部材と同じ、或いは同等の機能を発揮する部材については、図2と同じ記号が付されている。上述した第1の実施形態(図2を参照)では、ボルト部材BLTが押圧部材PSNに固定され、ナット部材NUTがシャフト部材SFTに固定されているのに対し、この第2の実施形態では、ナット部材NUTが押圧部材PSNに固定され、ボルト部材BLTがシャフト部材SFTに固定されている。キャップ部材CAPは、押圧部材PSNの第1筒部Et1に内接され、シャフト部材SFTの第2筒部Et2に外接される。キャップ部材CAPは、軸方向(Jps、Jsf)に第1筒部Et1と摺動され、軸方向及び軸まわりに第2筒部Et2と摺動される。キャップ部材CAPと第1筒部Et1、第2筒部Et2との摺動性が維持され得るために、自在継手UNVが、入力部材INPとシャフト部材SFTとの間に設けられる。押圧部材PSN(例えば、壁Mp1)、及び、ねじ部材NJBの端部にて、密閉室Hmpが形成される。また、押圧部材PSN(例えば、内周部Et1)、ねじ部材NJB、及び、キャップ部材CAPにて、貯蔵室Hchが形成される。そして、ねじ部材NJBには潤滑剤(グリス)GRSが塗布され、密閉室Hmp、及び、貯蔵室Hchにも潤滑剤GRSが充填される。
この第2の実施形態においても、上述した第1の実施形態と同様の作用・効果を奏する。即ち、キャップ部材CAPによって、貯蔵室Hchが形成されているため、ねじ部材NJB(特に、位置Pa2の部分)への気体の浸入が抑制され得る。また、密閉室Hmpがねじ部材NJBの端部(位置Pa1の部分)に形成されているため、ここからの気体浸入が防止される。さらに、制動作動による密閉室Hmpの体積変化によって、ねじ部材NJBの隙間を介して、潤滑剤(グリス)GRSが更新される。これらの結果、ねじ部材NJBの潤滑状態が適切に維持され得る。
<ねじ部材NJBとしてボールねじが採用される場合>
以上の説明では、ねじ部材NJBとして、台形ねじが採用される場合について説明してきた。これに対し、図8に示すように、ねじ部材NJBとして、ボールねじが採用され得る。ボールねじが採用される場合においても、台形ねじの場合と同様に、ボールねじの隙間が潤滑剤(グリス)GRSの流路として機能し得る。具体的には、上述の密閉室Hmpの体積変化に起因する潤滑剤GRSの移動が、ボールねじナット部材NUTb(上記のナット部材NUTに相当)と、ボールねじシャフト部材BLTb(上記のボルト部材BLTに相当)との隙間Cns(Csm、Csoに相当)、NUTbのボール溝MZNとボール(鋼球)BALとの隙間Cmn(Cfkに相当)、及び、BLTbのボール溝MZBとボール(鋼球)BALとの隙間Cms(Cfkに相当)を介して行われる。
また、引き戻し動作によって、台形ねじと同様に、当接部分が切り替えられる。図8(i)は、図5(a)に対応し、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押し付けている状態(押圧当接状態)を示している。ボールねじナット部材NUTbが電気モータMTRによって回転駆動され、押圧部材PSNに固定されるボールねじシャフト部材BLTbが直線運動される。この場合、矢印の方向に、第1当接部Ba1にてNUTbはBALを押し付け、その力が第1当接部Bb1にてBLTbに伝達される。ここで、PSNがMSBを押圧している場合に接触する第1当接部Ba1、Bb1が、「押圧時の圧力側当接部」と称呼される。また、第1当接部Ba1、Bb1とは反対側に位置し、ねじが引き戻される場合に接触する第2当接部Ba2、Bb2が、「押圧時の遊び側当接部」と称呼される。
図8(ii)は、図5(c)に対応し、ねじ部材NJBが引き戻される状態(引き戻し当接状態)を示している。押圧当接状態の場合とは逆方向に、NUTbが、第2当接部Ba2にてボールBALを押し、その力でBALは、第2当接部Bb2にてBLTbを押し付ける。ねじの引き戻し動作の初期には、台形ねじの場合と同様に、ボールBALがボール溝MZN、MZBから反力を受けないフリー状態(自由当接の状態)となる。ねじの引き戻し動作によって、ボール(鋼球)BALと、ボール溝MZN、MZBとの当接状態が徐々に遷移していく。つまり、ボールねじにおいても、台形ねじと同様に、押圧当接状態から、自由当接状態を経て、引き戻し当接状態に遷移する。
台形ねじの場合の作用・効果と同様に、当接状態の遷移(例えば、当接状態の切り替え)によってボールBALとボール溝MZN、MZBと間の潤滑剤(グリス)GRSが移動され、制動トルクが増加される場合の第1当接部Ba1、Bb1の間の潤滑状態が刷新される。台形ねじと同様に、当接部Ba1、Bb1への新しい潤滑剤(グリス)の供給は、自由当接状態で始まり、引き戻し当接状態で完了される。従って、少なくとも自由当接状態にされることによって、押圧時の圧力側当接部である第1当接部Ba1、Bb1に対して、新しい潤滑剤GRSが供給され得る。
また、限界引き戻しによって、通常の制動作動では使用されていない部分にある潤滑剤GRSが、ねじ部材NJBに移動するため、ねじ部材NJBの潤滑状態が確保され得る。さらに、ボール(鋼球)BALは同一部分に力が作用し続けると疲労が生じ易いが、引き戻し動作によってBALが転動されるため、受圧部位がBAL全体として均一化され、耐久性が向上され得る。
<作用・効果>
以下、本発明の実施形態の作用・効果について説明する。本発明に係わる車両の電動制動装置では、
「車両の車輪WHLに固定された回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付けて押圧力Fbaを発生させる押圧部材PSN」と、
「前記押圧力Fbaを発生させる動力源である電気モータMTR」と、
「前記電気モータMTRの回転運動を前記押圧部材PSNの直線運動に変換するとともに、潤滑剤GRSが存在する隙間Cfk1、Cfk2、Csm、Cso、Cms、Cmnを備えたねじ部材NJB」と、
「前記押圧力Fbaを増加する場合には前記電気モータMTRを一方向に回転させ、前記押圧力Fbaを減少する場合には前記電気モータMTRを他方向に回転させる制御手段CTL」と、を備え、
前記制御手段CTLは、前記押圧力Fbaを減少する場合、前記隙間Cfk1、Cfk2、Csm、Cso、Cms、Cmnに存在する前記潤滑剤GRSが、前記押圧力Fbaが増加する場合に当接する前記ねじ部材NJBの第1当接部Fmn1、Fon1、Ba1、Bb1以外の部位から前記第1当接部Fmn1、Fon1、Ba1、Bb1に移動するまで、前記電気モータMTRを前記他方向に回転させる。
より具体的には、前記制御手段CTLは、当接していた前記第1当接部Fmn1、Fon1、Ba1、Bb1の前記当接が解除されるまで、前記電気モータMTRを前記他方向に回転させる。
また、前記ねじ部材NJBとして「台形ねじ」が採用される場合には、前記制御手段CTLは、前記めねじMNJ、及び、前記おねじONJのうち少なくとも一方の山頂隙間Csm、Csoに存在していた前記潤滑材GRSが、前記押圧力Fbaが増加する場合に当接する前記ねじ部材NJBの第1フランクFmn1、Fon1に移動するまで、前記電気モータMTRを前記他方向に回転させる。
ねじ部材NJBの潤滑状態が損なわれる主な原因は、動力伝達が行われるねじ部材NJBの第1当接部(押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押圧している場合に接触する部分であって、例えば、フランクFmn1、Fon1)に気体(空気)が入り込み、当接部の潤滑剤(例えば、グリス)が枯渇することである。本発明の実施形態では、ねじ部材NJBの隙間(例えば、山頂隙間Csm、Cso)に存在していた潤滑剤(例えば、グリス)が、ねじ部材NJBの当接部に移動されるまで電気モータMTRが逆転される。即ち、ねじ部材NJBの第1当接部が離れ、この間にねじ部材NJBの隙間から潤滑剤(例えば、グリス)が流入するまで、ねじ部材NJBが引き戻される(押圧部材PSNが回転部材KTBから離れるように移動される)。その後、電気モータMTRが正転方向に駆動され、押圧力が増加される場合には、移動された潤滑剤GRSは、ねじ部材NJBの隙間(元の位置)に再度、戻される。このように、潤滑剤GRSが当接部とねじ隙間との間で、往来して移動されることによって、常時、潤滑剤GRSの更新が継続され得る。その結果、押圧力を発生させるために、電気モータMTRの動力伝達が行われる第1当接部に、常に新たな潤滑剤が供給されるため、潤滑剤の枯渇が抑制され、ねじ部材NJBの好適な潤滑状態が維持され得る。
本発明の実施形態では、前記制御手段CTLは、前記第1当接部Fmn1、Fon1、Ba1、Bb1とは異なる(押圧力Fbaが減少する場合に当接する)前記ねじ部材NJBの第2当接部Fmn2、Fon2、Ba2、Bb2が当接するまで、前記電気モータMTRを前記他方向(逆転方向)に回転させる。また、前記ねじ部材NJBとして「台形ねじ」が採用される場合には、本発明の実施形態では、前記制御手段CTLは、前記第1フランクFmn1、Fon1とは異なる(押圧力Fbaが減少する場合に当接する)前記ねじ部材NJBの第2フランクFmn2、Fon2が当接するまで、前記電気モータMTRを前記他方向逆転方向に回転させる。
第1当接部Fmn1、Fon1、Ba1、Bb1への潤滑剤(グリス)GRSの供給は、自由当接状態となる時点で開始され、引き戻し当接状態となる時点で完了される。ねじ部材NJBにおいて、第2当接部Fmn2、Fon2、Ba2、Bb2が当接するまで電気モータMTRが逆転されるため、第1当接部Fmn1、Fon1、Ba1、Bb1の間に十分な潤滑剤GRSが補充され得る。
本発明の実施形態では、前記押圧力Fbaを取得する押圧力取得手段FBAと、前記電気モータMTRの位置Mkaを取得する位置取得手段MKAと、を備え、前記制御手段CTLは、前記押圧力Fbaに基づいて、前記電気モータMTRの目標位置Pt1、Pt2を決定し、前記電気モータの位置Mkaが前記目標位置Pt1、Pt2に一致する場合に、前記電気モータを前記他方向(逆転方向)に回転させることを終了するように構成され得る。
この場合、押圧力Fbaに基づいて、当接状態が過不足なく解除される基準位置Zrpが決定される。この基準位置Zrp、及び、BRKの諸元(予め決定されている複数の所定値)に基づいて、当接状態が変化する点が考慮されて、電気モータの逆転が停止される目標位置Pt1(当接解除が確実に行われる目標位置)、Pt2(当接切り替えの目標位置)が決定される。電気モータの実際の位置(回転角)Mkaと目標位置Pt1、Pt2とが比較され、Mkaが目標位置Pt1、Pt2に到達する時点で、電気モータの引き戻し制御が終了される。ねじの当接状態は押圧力Fbaに因るが、押圧力Fbaに基づいて目標位置Pt1、Pt2が設定され、電気モータの実際位置Mkaとの比較で、電気モータが回転されるため、押圧時の圧力側当接部(第1当接部)Fmn1、Fom1、Ba1、Bb1の間に潤滑剤GRSが確実に供給され得る。
前記ねじ部材NJBとして「台形ねじ」が採用される場合には、本発明の実施形態では、前記ねじ部材NJBは、前記ねじ部材NJBの1ピッチにおいて、前記おねじのフランクFonと前記めねじのフランクFmnとの隙間であるフランク隙間Cfkによって形成される断面積(断面積a1-a2-a3-a4、断面積a5-a6-a7-a8)が、前記おねじ及び前記めねじの山頂隙間(Cos、Cms)によって形成される断面積(断面積b1-b2-b3-b4、断面積b5-b6-b7-b8)よりも大きくなるように構成される。即ち、ねじのピッチ線Pchで区切られるおねじ山頂側(Sco側)のフランク隙間の断面積(断面積a1-a2-a3-a4)が、おねじの山頂隙間Csoの断面積(断面積b1-b2-b3-b4)よりも広いこと、及び、ねじのピッチ線Pchで区切られるめねじ山頂側(Scm側)のフランク隙間の断面積(断面積a5-a6-a7-a8)が、めねじの山頂隙間Csmの断面積(断面積b5-b6-b7-b8)よりも広いこと、のうちの少なくとも一方が満足されてねじ部材のねじ形状が決定される。
上記のようにねじ形状が設定されると、フランク隙間に蓄えられる潤滑剤Gfk2s、Gfk2uの量が、めねじ、及び、おねじのうちの少なくとも一方の山頂隙間に蓄えられる潤滑剤Gsm、Gsoの量よりも多くなる。このため、山頂隙間に蓄えられるグリスが、押圧時の圧力側フランクFmn1、Fon1の隙間に、確実に押し出され、潤滑剤の更新が効果的に行われ得る。