以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書で使用される科学用語、技術用語及び命名法は、特に定義されない限り、当業者により普通に理解されるものと同じ意味を有する。また、分子生物学及び免疫学の分野における一般的技術及び学術用語については、SambrookらのMolecular Cloning: A Laboratory Manual(第3版、2001年)及びEd HarlowらのAntibodies: A Laboratory Manual(1988年)に記載された手法及び定義に基づくものである。さらに、本明細書中に引用されている全ての刊行物、特許及び特許出願は、その全体が本明細書に参考として援用されるものである。
C型肝炎ウイルス(HCV)は、一本鎖の(+)鎖センスRNAをゲノムとするウイルスである。HCVのゲノムは、5’非翻訳領域(5’UTR)と、Coreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質、p7タンパク質、NS2タンパク質、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質をコードする塩基配列からなる領域、すなわち、ウイルスタンパク質コード領域と、3’非翻訳領域(3’UTR)からなる。HCVゲノム(HCV全長ゲノム)は、5’側から3’側に順番に、5’UTRと、Coreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質、p7タンパク質、NS2タンパク質、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質をコードする塩基配列と、3’UTRを配置してなるRNAである。HCV全長ゲノムの例として、J6CF株の全長ゲノムのcDNA配列を配列番号29に示した。HCVゲノムの一部からなる核酸と区別するために、その全長からなるHCVゲノムを、「HCV全長ゲノム」、「全長HCVゲノム」、「HCV全長ゲノムRNA」、「全長HCVゲノムRNA」又は「全長ゲノムRNA」ともいう。
HCVは、その実態としては、ウイルス粒子として存在する。HCVのウイルス粒子(HCV粒子)は、HCVの構造タンパク質から構成されるウイルスの殻の内部にHCVゲノムを含有している。
HCVのCoreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質及びp7タンパク質は、HCV粒子を形成する「構造タンパク質」であり、この構造タンパク質をコードする核酸を、「構造遺伝子」という。HCVのNS2タンパク質、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質は、HCV粒子を形成しない「非構造タンパク質」であり、この非構造タンパク質をコードする核酸を、「非構造遺伝子」という。非構造タンパク質は、HCVゲノムの複製、HCVタンパク質のプロセッシング等に関与する機能を有している。
HCVの5’非翻訳領域(5’UTR)は、タンパク質翻訳のための内部リボソーム進入部位(以下、IRES)及び複製に必要なエレメントを提供する。HCVの5’UTRは、ゲノムの5’末端から約340ヌクレオチドの領域である。
HCVの3’非翻訳領域(3’UTR)は、HCVの複製を補助する。HCVの3’UTRは可変領域、ポリU領域、及び約100ヌクレオチドの追加領域(X領域)を含む。
HCVは10種類のウイルスタンパク質(Coreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質、p7タンパク質、NS2タンパク質、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質)がこの順番で連結した1つの前駆体タンパク質(ポリプロテイン)として翻訳され、その後、細胞内及びウイルスのプロテアーゼにより切断されて、それぞれ、10種類の成熟したウイルスタンパク質(Coreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質、p7タンパク質、NS2タンパク質、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質)となる。HCVの前駆体タンパク質の例として、J6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を配列番号30に示した。この前駆体タンパク質は、配列番号29に示されるJ6CF株の全長ゲノム配列によってコードされている。
HCVには各種遺伝子型が知られているが、各種遺伝子型のHCVのゲノムが同様の遺伝子構造を有することが知られている。本発明において、HCVの「遺伝子型」とはSimmondsらによる国際分類に従って分類される遺伝子型を意味する。
J6CF株は遺伝子型2aに属するHCVであり、J6CF株の全長HCVゲノムの塩基配列(配列番号29)及び前駆体タンパク質のアミノ酸配列(配列番号30)は、GenBankアクセッション番号AF177036に示されている。配列番号29で表される配列は、J6CF株の全長ゲノムRNAのcDNA配列であるが、該塩基配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えたものがRNA配列である。
J6CF株の5’UTRは、配列番号29の塩基番号第1番目〜第340番目の配列からなり、Coreタンパク質コード配列は、配列番号29の塩基番号第341番目〜第913番目の配列からなり、E1タンパク質コード配列は、配列番号29の塩基番号第914番目〜第1489番目の配列からなり、E2タンパク質コード配列は、配列番号29の塩基番号第1490番目〜第2590番目の配列からなり、p7タンパク質コード配列は、配列番号29の塩基番号第2591番目〜第2779番目の配列からなり、NS2タンパク質コード配列は、配列番号29の塩基番号第2780番目〜第3430番目の配列からなり、NS3タンパク質コード配列は、配列番号29の塩基番号第3431番目〜第5323番目の配列からなり、NS4Aタンパク質コード配列は、配列番号29の塩基番号第5324番目〜第5485番目の配列からなり、NS4Bタンパク質コード配列は、配列番号29の塩基番号第5486番目〜第6268番目の配列からなり、NS5Aタンパク質コード配列は、配列番号29の塩基番号第6269番目〜第7666番目の配列からなり、NS5Bタンパク質コード配列は、配列番号29の塩基番号第7667番目〜第9442番目(終止コドン含む)の配列からなり、3’UTRは、配列番号29の塩基番号第9443番目〜第9711番目の配列からなる。なおJ6CF株のNS5Bタンパク質のアミノ酸配列を配列番号27に示す。
JFH−1株は遺伝子型2aに属するHCVであり、JFH−1株の全長HCVゲノムの塩基配列及びアミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号AB047639に示されている。JFH−1株のNS5Bタンパク質アミノ酸配列を、配列番号28に示す。JFH−1株のNS5Bタンパク質コード配列は、GenBankアクセッション番号AB047639に示される塩基配列の5’末端の第1塩基を塩基番号第1番目とした場合に、その塩基番号第7667番目〜第9442番目(終止コドン含む)の配列からなる。JFH−1株の3’UTRは、GenBankアクセッション番号AB047639に示される塩基配列の塩基番号第9443番目〜第9678番目の配列からなる。JFH−1株の3’UTRの塩基配列を配列表の配列番号31に示す。
本発明は、このようなHCVゲノムを利用して、自律複製能を付与する変異を導入した遺伝子型2aのHCV株(好ましくは、J6CF株)のサブゲノム配列又はフルゲノム配列を含む、高効率に自律複製可能なレプリコンRNA又はそれをコードするDNAを始めとする核酸を提供する。
本発明においてレプリコンRNAに導入する、遺伝子型2aのHCV株(好ましくは、J6CF株)のサブゲノムRNA又はフルゲノムRNAに自律複製能を付与することができる適応変異は、J6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列の第1680番目のアラニンのグルタミン酸へのアミノ酸置換(A1680E)である。
本発明では、このA1680E変異を、J6CF株のサブゲノムRNA又はフルゲノムRNAに、単独で又は他の適応変異と組み合わせて導入することにより、培養細胞中で高い自律複製能を有するHCVサブゲノムレプリコンRNA又はHCVフルゲノムレプリコンRNAを作製できる。
A1680E変異と共に導入する適応変異としては、限定するものではないが、J6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列のA2892S(第2892番目のアラニンのセリンへの置換)、R2959K(第2959番目のアルギニンのリジンへの置換)及びY3003F(第3003番目のチロシンのフェニルアラニンへの置換)のアミノ酸置換を引き起こす塩基変異、並びに、nt9458(c→g)の塩基変異(J6CF株の全長ゲノムの第9458番目のシトシンのグアニンへの変異)が挙げられる。好ましくは、レプリコンRNAには、A1680E変異と共に、A2892S変異、R2959K変異及びY3003F変異、並びにnt9458(c→g)の塩基変異を全て導入する。
本発明では、上記のA1680E変異を、J6CF株ゲノムRNAのNS5Bタンパク質コード配列の一部(NS5Bタンパク質の第516番目から第591番目に相当)と3’非翻訳領域がJFH−1株由来の同じ領域の配列に置換されたキメラレプリコンRNA(J6CF/JFH−1キメラレプリコンRNA)に導入することにより、培養細胞中で高い自律複製能を有するHCVサブゲノムレプリコンRNA又はHCVフルゲノムレプリコンRNAを作製することもできる。
HCVサブゲノムレプリコンRNA又はHCVフルゲノムレプリコンRNAは、上記の変異のみを含むレプリコンRNAと同等の自律複製能を有する限り、上記のA1680E、A2892S、R2959K、Y3003F、nt9458(c→g)の変異以外の変異を有していてもよい。そのような他の変異は、1又は複数個(例えば1〜50個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜5個)の塩基の置換であってよい。そのような他の変異を有するレプリコンRNAは、HCV J6CF株のゲノム配列と比較して92%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上(例えば99.5%以上)の塩基配列同一性を有する。あるいはHCVサブゲノムレプリコンRNA又はHCVフルゲノムレプリコンRNAは、上記のA1680E、A2892S、R2959K、Y3003F、nt9458(c→g)のみの変異を有することも好ましい。
本発明において「レプリコンRNA」とは、培養細胞(典型的にはHCV感受性細胞)内で自律複製する能力を有するRNAをいう。細胞に導入されたレプリコンRNAは、自律複製し、そのRNAコピーが細胞分裂後に娘細胞に分配されるため、レプリコンRNAを用いれば細胞への安定的な導入が可能である。
HCVのレプリコンRNA(HCVレプリコンRNA)とは、HCVゲノムRNAの一部又は全長を含む、自律複製するRNAのことをいう。HCVゲノムRNAの一部を含む自律複製するRNAを、HCVサブゲノムレプリコンRNAと呼び、HCVゲノムRNAの全長を含む自律複製するRNAを、HCVフルゲノムレプリコンRNAと呼ぶ。「HCVレプリコンRNA」は、HCVサブゲノムレプリコンRNAとHCVフルゲノムレプリコンRNAの両方を包含する。
本発明における「HCVサブゲノムレプリコンRNA」は、HCVの5’非翻訳領域(5’UTR)と、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質をコードする塩基配列と、3’非翻訳領域(3’UTR)を、5’から3’の順に向かってこの順番で含むことが好ましい。また、HCVサブゲノムレプリコンRNAは、その検出のために、外来遺伝子(薬剤耐性遺伝子又はレポーター遺伝子)とIRES配列を含むことが好ましく、そのような場合、外来遺伝子(薬剤耐性遺伝子又はレポーター遺伝子)とIRES配列は、HCVサブゲノムレプリコンRNAのNS3タンパク質コード配列の5’側に含むことが好ましい。本発明における好適な「HCVサブゲノムレプリコンRNA」の例は、HCVの5’非翻訳領域(5’UTR)と、Coreタンパク質コード領域の5’末端の36ヌクレオチドの配列と、外来遺伝子(薬剤耐性遺伝子又はレポーター遺伝子)と、IRES配列と、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質、及びNS5Bタンパク質をコードする塩基配列と、3’非翻訳領域(3’UTR)を、5’側から3’側に向かってこの順番で含むものである。
本発明における「HCVフルゲノムレプリコンRNA」は、HCVの5’非翻訳領域(5’UTR)と、Coreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質、p7タンパク質、NS2タンパク質、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質をコードする塩基配列と、3’非翻訳領域(3’UTR)を、5’から3’の順に向かってこの順番で配置してなるものが好ましい。
HCV全長ゲノムが自律複製能を有する場合、該ゲノムはレプリコンRNAである。HCV全長ゲノムを含むレプリコンRNAを、HCVフルゲノムレプリコンRNAと呼ぶ。HCV全長ゲノム配列からなるRNA(HCV全長ゲノムRNA)が自律複製能を有する場合、それはHCVフルゲノムレプリコンRNAである。
本発明に係る核酸は、基本的には、JFH−1株以外の遺伝子型2aのHCV株(好ましくは、J6CF株)のゲノム配列をバックボーンとし、かつ、培養細胞での自律複製能を付与する変異を有する核酸である。この核酸は、典型的には、HCVサブゲノムレプリコンRNA若しくはHCVフルゲノムレプリコンRNA、又はそれらをコードするDNAである。
一実施形態では、本発明は、C型肝炎ウイルスJ6CF株のゲノムの、5’非翻訳領域と、NS3タンパク質コード配列、NS4Aタンパク質コード配列、NS4Bタンパク質コード配列、NS5Aタンパク質コード配列、及びNS5Bタンパク質コード配列を含むウイルスタンパク質コード領域と、3’非翻訳領域とを5’側から3’側に向かってこの順番で含む核酸であって、上記NS4Aタンパク質コード配列内に、配列番号30に示されるJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に第1680番目のアラニンがグルタミン酸に置換する変異(当該アラニンのグルタミン酸へのアミノ酸置換を引き起こす塩基変異)を有する、核酸に関する。この核酸がウイルス性配列(ここで言うウイルス性配列とは、HCVゲノム由来の塩基配列のことを示す。)として全長ゲノム配列を含む場合、上記ウイルスタンパク質コード領域は、NS3タンパク質コード配列の5’側に、Coreタンパク質コード配列、E1タンパク質コード配列、E2タンパク質コード配列、p7タンパク質コード配列、及びNS2タンパク質コード配列を5’側から3’側に向かってこの順番でさらに含む。
好ましい一実施形態では、この核酸は、C型肝炎ウイルスJ6CF株のゲノムの5’非翻訳領域と、NS3タンパク質コード配列、NS4Aタンパク質コード配列、NS4Bタンパク質コード配列、NS5Aタンパク質コード配列及びNS5Bタンパク質コード配列を含むウイルスタンパク質コード領域と、3’非翻訳領域と、を5’側から3’側に向かってこの順番で含み、上記NS4Aタンパク質コード配列は、配列番号30に示されるJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に、第1680番目のアラニンがグルタミン酸に置換する変異を有し、かつ、上記NS5Bタンパク質コード配列は、配列番号30に示されるアミノ酸配列を基準とした場合に、(i) 第2892番目のアラニンのセリンへのアミノ酸置換、(ii) 第2959番目のアルギニンのリジンへのアミノ酸置換及び(iii) 第3003番目のチロシンのフェニルアラニンへのアミノ酸置換、を引き起こす変異を有し、上記3’非翻訳領域は、配列番号29に示される塩基配列を基準とした場合に、第9458番目のシトシンがグアニンに塩基置換されている核酸であってよい。
この核酸は、ウイルス性配列(HCVゲノム由来の塩基配列)としてサブゲノム配列(HCV全長ゲノムの一部からなる配列)を含むものであってよく、例えばサブゲノムレプリコンRNA又はそれをコードするDNAでありうる。この核酸は、外来遺伝子(薬剤耐性遺伝子又はレポーター遺伝子)とIRES配列とを含む場合、Coreタンパク質コード領域の5’末端の部分断片(例えば5’末端の36ヌクレオチドの配列)を外来遺伝子の5’側に含んでもよい。この場合、この核酸は、HCVの5’非翻訳領域(5’UTR)と、Coreタンパク質コード領域の5’末端の36ヌクレオチドの配列と、外来遺伝子(薬剤耐性遺伝子又はレポーター遺伝子)と、IRES配列と、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質、及びNS5Bタンパク質をコードする塩基配列と、3’非翻訳領域(3’UTR)を、5’側から3’側に向かってこの順番で含む。この核酸は、例えば配列番号4に示される塩基配列を含むサブゲノムレプリコンRNA又はそれをコードするDNA(RNAの場合には、塩基配列中のチミン(t)はウラシル(u)に読み替える)であってよい。
あるいはこの核酸は、ウイルス性配列としてフル(全長)ゲノム配列を含むものであってよく、例えばフルゲノムレプリコンRNA又はそれをコードするDNAでありうる。ウイルス性配列として全長ゲノム配列を含む上記核酸においては、上記ウイルスタンパク質コード領域は、NS3タンパク質コード配列の5’側に、Coreタンパク質コード配列、E1タンパク質コード配列、E2タンパク質コード配列、p7タンパク質コード配列、及びNS2タンパク質コード配列を5’側から3’側に向かってこの順番でさらに含む。この核酸は、例えば配列番号5に示される塩基配列を含むフルゲノムレプリコンRNA又はそれをコードするDNA(RNAの場合には、塩基配列中のチミン(t)はウラシル(u)に読み替える)であってよい。
本発明に係るこの核酸は、HCVのJ6CF株のゲノムの5’非翻訳領域と、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質をコードする塩基配列と、3’非翻訳領域とを含む核酸であってその塩基配列に変異を有する核酸であり、かつ、HCVのJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に第1680番目のアラニンのグルタミン酸への置換、第2892番目のアラニンのセリンへの置換、第2959番目のアルギニンのリジンへの置換、及び、第3003番目のチロシンのフェニルアラニンへの置換、を引き起こす変異、並びに、J6CF株のゲノムの塩基配列を基準とした場合に第9458番目のシトシンのグアニンへの変異を有する核酸でありうる。この核酸は、好ましくは、J6CF株のサブゲノム由来レプリコンRNAに上記5つの変異が導入されたJ6CF株由来変異体サブゲノムレプリコンRNA又はそれをコードするDNAである。この核酸は、配列番号4に示される塩基配列を含む核酸であってよい。
本発明に係るこの核酸は、HCVのJ6CF株の全長ゲノムの塩基配列に変異を有する塩基配列を含む核酸であり、かつ、HCVのJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に第1680番目のアラニンのグルタミン酸への置換、第2892番目のアラニンのセリンへの置換、第2959番目のアルギニンのリジンへの置換、及び、第3003番目のチロシンのフェニルアラニンへの置換、を引き起こす変異、並びに、J6CF株のゲノムの塩基配列を基準とした場合に第9458番目のシトシンのグアニンへの変異を有する核酸でありうる。この核酸は、好ましくは、J6CF株の全長ゲノム由来レプリコンRNAに上記5つの変異が導入されたJ6CF株由来変異体フルゲノムレプリコンRNA又はそれをコードするDNAである。この核酸は、配列番号5に示される塩基配列を含む核酸であってよい。
なお、本明細書において、J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA、J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAとは、変異が導入されたJ6CF株のサブゲノム配列又はフルゲノム配列を含むレプリコンRNAを指す。この変異体と区別するために、変異が導入されていないJ6CF株ゲノム配列を野生型と呼ぶ。
本発明の別の実施形態では、本発明に係る核酸は、C型肝炎ウイルスJ6CF株のゲノムの、5’非翻訳領域と、NS3タンパク質コード配列、NS4Aタンパク質コード配列、NS4Bタンパク質コード配列、NS5Aタンパク質コード配列、及びNS5Bタンパク質コード配列を含むウイルスタンパク質コード領域と、3’非翻訳領域とを5’側から3’側に向かってこの順番で含む核酸であって、上記NS4Aタンパク質コード配列が、配列番号30に示されるJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に第1680番目のアラニンがグルタミン酸に置換する変異(アラニンのグルタミン酸へのアミノ酸置換を引き起こす塩基変異)を有し、さらに、
(a) 上記NS5Bタンパク質コード配列は、配列番号27に示されるアミノ酸配列の第1番目〜第515番目のアミノ酸配列と、配列番号28に示されるアミノ酸配列の第516番目〜第591番目のアミノ酸配列と、がこの順番で連結されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする塩基配列に置換され、かつ
(b) 上記3’非翻訳領域は、配列番号31に示される塩基配列(JFH−1株由来の3’非翻訳領域)に置換されている、核酸であってもよい。
ここで、(a)に記載する、配列番号27に示されるアミノ酸配列の第1番目〜第515番目のアミノ酸配列と、配列番号28に示されるアミノ酸配列の第516番目〜第591番目のアミノ酸配列と、がこの順番で連結されたアミノ酸配列からなるタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号33に示されるアミノ酸配列である。このタンパク質をコードする塩基配列は、例えば、配列番号32に示される塩基配列であってよい。
この核酸は、ウイルス性配列としてサブゲノム配列を含むものであってよく、例えばサブゲノムレプリコンRNA又はそれをコードするDNAであってよい。この核酸は、外来遺伝子(薬剤耐性遺伝子又はレポーター遺伝子)とIRES配列とを含む場合、Coreタンパク質コード領域の5’末端の部分断片(例えば5’末端の36ヌクレオチドの配列)を外来遺伝子の5’側に含んでもよい。この場合、この核酸は、HCVの5’非翻訳領域(5’UTR)と、Coreタンパク質コード領域の5’末端の36ヌクレオチドの配列と、外来遺伝子(薬剤耐性遺伝子又はレポーター遺伝子)と、IRES配列と、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質、及びNS5Bタンパク質をコードする塩基配列と、3’非翻訳領域(3’UTR)を、5’側から3’側に向かってこの順番で含む。この核酸は、例えば配列番号1に示される塩基配列を含むサブゲノムレプリコンRNA又はそれをコードするDNA(RNAの場合には、塩基配列中のチミン(t)はウラシル(u)に読み替える)であってよい。
あるいはこの核酸は、ウイルス性配列として全長ゲノム配列を含むものであってよく、例えばフルゲノムレプリコンRNA又はそれをコードするDNAであってよい。ウイルス性配列として全長ゲノム配列を含む上記核酸においては、上記ウイルスタンパク質コード領域は、NS3タンパク質コード配列の5’側に、Coreタンパク質コード配列、E1タンパク質コード配列、E2タンパク質コード配列、p7タンパク質コード配列、及びNS2タンパク質コード配列を5’側から3’側に向かってこの順番でさらに含む。この核酸は、例えば配列番号2に示される塩基配列を含むフルゲノムレプリコンRNA又はそれをコードするDNA(RNAの場合には、塩基配列中のチミン(t)はウラシル(u)に読み替える)であってよい。
本発明に係るこの核酸は、HCVのJ6CF株のゲノムの5’非翻訳領域と、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質及びNS5Aタンパク質をコードする塩基配列と、HCVのJ6CF株のNS5Bタンパク質の第1番目から第515番目のアミノ酸残基をコードする塩基配列と、HCVのJFH−1株のNS5Bタンパク質の第516番目から第591番目のアミノ酸残基をコードする塩基配列と、HCVのJFH−1株のゲノムの3’非翻訳領域、を含む核酸の塩基配列に変異を有する核酸であり、かつ、第1680番目のアラニンのグルタミン酸への置換を引き起こす変異を有する核酸であってよい。
本発明に係るこの核酸は、また、HCVのJ6CF株のゲノムの5’非翻訳領域と、Coreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質、p7タンパク質、NS2タンパク質、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質及びNS5Aタンパク質をコードする塩基配列と、HCVのJ6CF株のNS5Bタンパク質(配列番号27)の第1番目から第515番目のアミノ酸残基をコードする塩基配列と、HCVのJFH−1株のNS5Bタンパク質(配列番号28)の第516番目から第591番目のアミノ酸残基をコードする塩基配列と、HCVのJFH−1株のゲノムの3’非翻訳領域が、5’側から3’側に向かって、5’非翻訳領域、Coreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質、p7タンパク質、NS2タンパク質、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質をコードする塩基配列、並びに3’非翻訳領域の順に配置された核酸の塩基配列に変異を有する核酸であり、かつ、第1680番目のアラニンのグルタミン酸への置換を引き起こす変異を有する、キメラ型の核酸であってよい。このキメラ型核酸は、J6CF株のHCVゲノム配列のうち、NS5Bタンパク質コード配列の一部及び3’非翻訳領域を、JFH−1株のゲノム由来の同じ領域の配列に置換し、さらに、A1680Eのアミノ酸置換を導入することにより作製できる。このJ6CF/JFH−1キメラ変異体核酸中のNS5Bタンパク質は、J6CF株由来とJFH−1株由来のキメラNS5Bタンパク質となっている。好ましくは、この核酸は、配列番号2に示される塩基配列を含む核酸であってよい。ここで、キメラ型の核酸(キメラ核酸)又はキメラ型のHCVゲノム(キメラHCVゲノム)とは、2以上の異なる株のHCVのゲノム配列を含む、核酸又はゲノムのことをいう。
本発明において、「核酸」には、RNA及びDNA、並びにその誘導体が含まれるものとする。また、本明細書における「タンパク質コード領域」、「タンパク質をコードする塩基配列」、「タンパク質をコードする配列」及び「タンパク質コード配列」とは、所定のタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列のことをいい、開始コドン及び終止コドンは含んでいても含まなくてもよいものとする。
本明細書において、核酸がRNAである場合に配列表の配列番号を引用してRNAの塩基配列又は塩基を特定するときは、その配列番号に示される塩基配列中のチミン(t)はウラシル(u)に読み替えるものとする。
本明細書においては、配列番号で示されるアミノ酸配列中の特定の位置のアミノ酸を、「配列番号“X”に示される…アミノ酸配列を基準とした場合に第“Y”番目の(アミノ酸)」という表現により指定する。例えば「配列番号30に示されるJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に第“Y”番目の(アミノ酸)」という記載は、そのアミノ酸が、配列番号30に示されるHCVのJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列においてN末端の第1アミノ酸(メチオニン)を第1番目としたときに第“Y”番目に位置するアミノ酸残基であることを意味する。「配列番号“X”に示される…アミノ酸配列を基準とした場合に第“Y”番目の(アミノ酸)」という表現を用いる場合、その指定するアミノ酸が存在するアミノ酸配列中の実際の位置は、その第“Y”番目であってもよいが、第“Y”番目でなくてもよい。具体的には、例えば「配列番号30に示されるJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に第1680番目のアラニンがグルタミン酸に置換され、かつレポータータンパク質がN末端側に挿入された、配列番号30に示される前駆体タンパク質のアミノ酸配列を含むタンパク質」と記載する場合、配列番号30では第1680番目に位置しているがレポータータンパク質の挿入によりN末端からの位置が第1680番目ではなくなったアラニンが、タンパク質中でグルタミン酸に置換されていることを意味する。
J6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列は配列番号30に示されている。配列番号30に示されるJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列(翻訳開始部位のメチオニンから数えて第3033番目のアルギニン(R)までの3033残基のアミノ酸からなる)は、配列番号29に示されるJ6CF株の全長ゲノムRNAのcDNA配列の塩基番号第341番目〜第9442番目(終止コドンを含む)の配列からなる部分の配列によりコードされる。
配列番号30に示されるJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に第1680番目のアミノ酸は、NS4Aタンパク質に含まれるアラニン(A)である。アラニン(A)からグルタミン酸(E)への置換は、A1680Eと表されるが、1680AE又は1680A→Eと表すこともできる。他のアミノ酸置換も同様に表記される。
なお、本明細書においてアミノ酸は、生物学分野で通常用いられるアミノ酸の1文字表記(Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Edition、1989年)によって記載されている。本明細書においては、アミノ酸又はアミノ酸残基を、生物学分野で通常用いられるアミノ酸の1文字表記又は3文字表記で記載し、それは水酸化、糖鎖付加、硫酸化等の翻訳後修飾を受けたアミノ酸も包含するものとする。
本明細書において、A1680E等の表記は、特定の位置のアミノ酸の置換を示すが、文脈によりそのアミノ酸置換を引き起こす塩基変異をも意味する。例えば、核酸の塩基が変異し、元の核酸がコードするアミノ酸配列における第1680番目のアラニン(A)がグルタミン酸(E)に置換された場合、該変異をA1680E置換(変異)と称することがある。また、該変異を有するアミノ酸配列をコードする核酸を、A1680E置換(変異)を含む核酸、又はA1680E置換(変異)が導入された核酸と称する場合がある。あるいは、そのような変異を、アミノ酸配列におけるA1680E置換(変異)を引き起こす塩基変異と称することもある。例えば、A1680E置換(変異)が導入されたHCVレプリコンRNAを、A1680E変異体HCVレプリコンRNAということがある。同時に複数の変異を有する場合には、例えば、A1680Eの置換とA2892S、R2959K及びY3003Fのアミノ酸置換を有する場合、「A1680E/A2892S/R2959K/Y3003Fの置換(変異)を含む」と表現することがある。「アミノ酸置換」は「アミノ酸変異」と表現する場合がある。
特定のアミノ酸置換を引き起こす塩基変異は、周知の遺伝暗号表に基づいて選択することができる。例えば、A1680E置換を引き起こす変異は、アラニンをコードするコドン「GCT」、「GCC」、「GCA」、又は「GCG」から、グルタミン酸をコードするコドン「GAA」又は「GAG」への変化をもたらす変異である。J6CF株の全長ゲノム配列(配列番号29)において、A1680E置換を引き起こす塩基変異は、コドン「GCG」(配列番号29の第5378番目〜第5380番目)を「GAA」又は「GAG」に変化させる変異である。これはすなわち、配列番号29の第5379番目〜第5380番目の塩基配列を5’−cg−3’から5’−aa−3’に変異させるか、又は第5379番目の塩基をシトシン(c)からアデニン(a)に変異させるものである。
同様に、配列表の配列番号30に示されるJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に第2892番目のアラニンのセリンへのアミノ酸置換は、A2892Sと表記される。J6CF株の全長ゲノム配列(配列番号29)において、A2892S置換を引き起こす塩基変異は、アラニンをコードするコドン「GCG」(配列番号29の第9014番目〜第9016番目)を、セリンをコードするコドン「TCT」、「TCC」、「TCA」、「TCG」、「AGT」又は「AGC」に変化させる変異である。
同様に、配列表の配列番号30に示されるJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に第2959番目のアルギニンのリジンへのアミノ酸置換は、R2959Kと表記される。J6CF株の全長ゲノム配列(配列番号29)において、R2959K置換を引き起こす塩基変異は、アルギニンをコードするコドン「AGA」(配列番号29の第9215番目〜第9217番目)を、リジンをコードするコドン「AAA」又は「AAG」に変化させる変異である。
同様に、配列表の配列番号30に示されるJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列を基準とした場合に第3003番目のチロシンのフェニルアラニンへのアミノ酸置換は、Y3003Fと表記される。J6CF株の全長ゲノム配列(配列番号29)において、Y3003F置換を引き起こす塩基変異は、チロシンをコードするコドン「TAT」(配列番号29の第9347番目〜第9349番目)を、フェニルアラニンをコードするコドン「TTT」又は「TTC」に変化させる変異である。
本明細書においては、配列番号で示される塩基配列中の特定の位置の塩基を、「配列番号“X”に示される…塩基配列を基準とした場合に第“Y”番目の(塩基)」という表現により指定する。例えば「配列番号29に示される塩基配列を基準とした場合に第“Y”番目の(塩基)」という記載は、その塩基が、配列番号29に示されるHCVのJ6CF株の全長ゲノムの塩基配列において5’末端の第1塩基を第1番目としたときに第“Y”番目に位置する塩基であることを意味する。「配列番号“X”に示される…塩基配列を基準とした場合に第“Y”番目の(塩基)」という表現を用いる場合、その指定する塩基が存在する塩基配列中の実際の位置は、第“Y”番目であってもよいが、第“Y”番目でなくてもよい。具体的には、例えば「配列番号29に示される塩基配列を基準とした場合に第9458番目のシトシン(c)がグアニン(g)に置換され、かつレポーター遺伝子が5’末端側に挿入された、配列番号29に示される全長ゲノム配列を含むレプリコンRNA」と記載する場合、配列番号29では第9458番目に位置しているがレポーター遺伝子の挿入により5’末端からの位置が第9458番目ではなくなったシトシンが、レプリコンRNA中でグアニンに置換されていることを意味する。
塩基変異を表記する場合は、アミノ酸の置換(変異)と区別するために、塩基変異の位置を示す塩基番号の前にntと付記することができる。塩基変異はまた、小文字のアルファベットを用いて表記する場合がある(アデニンはa、シトシンはc、グアニンはg、ウラシルはu、チミンはt)。例えば、塩基変異nt9458(c→g)は、第9458番目の塩基がシトシン(c)からグアニン(g)へ変異することを意味する。
本発明に係る核酸、例えばHCVサブゲノムレプリコンRNA又はHCVフルゲノムレプリコンRNAは、J6CF株のゲノム配列をバックボーンとするものである。「J6CF株のゲノムをバックボーンとする核酸」とは、J6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列(配列番号30)に対して97%以上の相同性(好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上、さらに好ましくは99.8%以上)を示すHCV前駆体タンパク質をコードする核酸を言う。ウイルス性配列としてサブゲノム配列を含む場合は、前駆体タンパク質中の当該サブゲノム配列に対応する領域のみのアミノ酸配列と比較して相同性を求める。相同性の解析は、GENETYX(登録商標)などの遺伝情報処理ソフトウエアを用いて解析することができる。例えば、JFH−1株とJ6CF株の前駆体タンパク質のアミノ酸配列の相同性を、k−tupleの値を2としてGENETYX(登録商標)で解析した場合、同一のアミノ酸は全アミノ酸残基数3033のうち2765個であり、相同性は91%となる。5つの変異(A1680E、A2892S、R2959K、及びY3003F、並びにnt9458(c→g))を導入したJ6CF株由来フルゲノムレプリコンRNAは、野生型J6CF株の全長ゲノム配列に対し、前駆体タンパク質において99.86%の相同性を有しており、J6CF株のゲノム配列をバックボーンとするものである。J6CF株のゲノム配列をバックボーンとする本発明に係る核酸は、好ましくは、J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA若しくはJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA、又はそれをコードするDNAである。
本発明において、J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA、J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAとは、それぞれ、J6CF株のゲノム配列をバックボーンとし、さらにレプリコンRNAに培養細胞での自律複製能を付与又はその複製効率を向上させる適応変異(アミノ酸変異及び/又は塩基変異)を1つ以上含む、HCVサブゲノムレプリコンRNA、HCVフルゲノムレプリコンRNAをいう。
自律複製能を付与又はその複製効率を向上させる適応変異(アミノ酸変異及び/又は塩基変異)を1つ以上含む、J6CF株と他のHCV株(例えば、JFH−1株)のゲノムのキメラであるHCVサブゲノムレプリコンRNA又はキメラ変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAも、上記基準に基づいてJ6CF株のゲノム配列をバックボーンとする限り、J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA、J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAの範囲に含まれるものとする。
本発明に係る核酸、例えばJ6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA、又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAは、さらに選択マーカー遺伝子やレポーター遺伝子等の外来遺伝子、及びIRES配列を含んでいてもよい。
例えば、変異体HCVサブゲノムレプリコンRNAは、好ましくは、5’側から3’側に順番に、HCVの5’非翻訳領域(5’UTR)と、外来遺伝子と、IRES配列と、HCVのNS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質をコードする配列と、HCVの3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む核酸である。変異体HCVサブゲノムレプリコンRNAは、5’非翻訳領域と外来遺伝子との間にJ6CF株由来のCoreタンパク質コード領域の5’末端の36ヌクレオチドの塩基配列(配列番号29の第341番目〜第376番目)を含んでもよい。
例えば、変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAは、好ましくは、5’側から3’側に順番に、HCVの5’非翻訳領域(5’UTR)と、外来遺伝子と、IRES配列と、HCVのCoreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質、p7タンパク質、NS2タンパク質、NS3タンパク質、NS4Aタンパク質、NS4Bタンパク質、NS5Aタンパク質及びNS5Bタンパク質をコードする配列と、HCVの3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む。
選択マーカー遺伝子は、その遺伝子が発現した細胞だけが選択されるような選択性を細胞に付与することができるものであり、薬剤耐性遺伝子などがある。本発明において好適な選択マーカー遺伝子の例としては、限定するものではないが、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ピリチアミン耐性遺伝子、アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられるが、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子が好ましく、ネオマイシン耐性遺伝子がさらに好ましい。
レポーター遺伝子は、その遺伝子発現の指標となる遺伝子産物をコードする遺伝子である。本発明において好適なリポーター遺伝子の例としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が挙げられる。好ましいレポーター遺伝子の例としては、限定するものではないが、トランスポゾンTn9由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、大腸菌由来のβグルクロニダーゼ若しくはβガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、クラゲ由来のエクオリン遺伝子、分泌型胎盤アルカリフォスファターゼ(SEAP)遺伝子等が挙げられる。
薬剤耐性遺伝子及びレポーター遺伝子は、HCVレプリコンRNA中にどちらか一方のみが含まれていてもよいし、両方が含まれていてもよい。薬剤耐性遺伝子やリポーター遺伝子等のマーカー遺伝子は、HCVレプリコンRNAに1つ含まれていてもよいし、2つ以上含まれていてもよい。
本発明において「IRES配列」とは、RNAの内部にリボソームを結合させて翻訳を開始させることが可能な内部リボソーム結合部位を意味する。IRES配列の好ましい例としては、EMCV IRES(脳心筋炎ウイルスの内部リボゾーム結合部位)、FMDV IRES、HCV IRES等が挙げられるが、EMCV IRES及びHCV IRESがより好ましく、EMCV IRESが最も好ましい。
本発明においては、薬剤耐性遺伝子及び/又はレポーター遺伝子が、HCVサブゲノムレプリコンRNA又はHCVフルゲノムレプリコンRNAから正しい読み枠(インフレーム)で翻訳されるように、5’非翻訳領域、ウイルスタンパク質コード配列、及び3’非翻訳領域と連結される。
上記のような本発明に係る核酸は、より好ましくは、自律複製能を有するサブゲノムレプリコンRNA又はフルゲノムレプリコンRNAである。したがって本発明は、本発明に係る核酸を含むC型肝炎ウイルスのサブゲノムレプリコンRNA又はフルゲノムレプリコンRNAも提供する。
本発明に係る核酸の作製には、J6CF株のゲノムRNAを逆転写して得たcDNA(GenBankアクセッション番号AF177036)をクローン化したDNA、及びJFH−1株のゲノムを逆転写して得たcDNA(GenBankアクセッション番号AB047639)をクローン化したDNAを用いることができる。
J6CF株由来のサブゲノムを含む核酸構築物は、J6CF株のゲノムRNAを逆転写して得たcDNAをクローン化したDNAの一部を、例えば、制限酵素で切り出すか又は相同組換えにより一部を置換することにより、作製することができる。例えば、J6CF
ゲノムクローンpJ6CFのCoreタンパク質コード領域の5’末端から第37番目〜NS2タンパク質コード領域までを、外来遺伝子とIRES配列(例えば、EMCV IRES配列)からなる塩基配列に置換することにより作製してもよい。
A1680E変異を含まないJ6CF/JFH−1キメラHCVサブゲノム又はフルゲノム(キメラHCVゲノム)を含む核酸構築物は、J6CFとJFH−1の各HCVゲノムRNAのcDNAをクローン化したベクターを鋳型にしてPCRを行い、組み合わせる各HCVゲノム領域を増幅して連結することにより、作製することができる。例えば、J6CF株の5’非翻訳領域からNS5Bタンパク質アミノ酸配列の第515番目までの領域を増幅し、JFH−1株のNS5Bタンパク質アミノ酸配列の第516番目から3’UTRまでの領域を増幅し、それらの増幅産物を連結することができる。この技法は、例えば、Wakita,T.ら、Nat. Med.、2005年、第11巻、p.791−796;Lindenbach,B.D.ら、Science、2005年、第309巻、p.623−626;Pietschmann,T.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、2007年、第103巻、p.7408−7413に記載されている。
野生型HCVゲノム配列やキメラHCVゲノム配列に、変異を導入するには、PCR法や市販の変異導入キット(例えば、東洋紡社製のKOD−Plus−Mutagenesis Kitなど)を用いることができる。PCR法としては、例えば、野生型のHCVゲノムRNAのcDNAをクローン化したベクターを鋳型とし、該cDNAの配列から設計され、目的とする変異を含む正方向及び逆方向プライマーを用いたPCRを実施することによって、変異を含む目的の配列部分を増幅することができる。具体的には、互いに重複配列を有する異なるPCR産物を複数合成し、それらのPCR産物を混合し、これを鋳型として、目的核酸の5’端を含む正方向プライマーと、該核酸の相補鎖の5’端を含む逆方向プライマーを用いるPCRを実施することによって該目的核酸を増幅する。合成した核酸の各末端を制限酵素で切断し、同じ酵素で切断した野生型のHCVゲノムRNAのcDNAをクローン化したベクターに連結することにより、目的の変異を導入できる。このような技法は、例えば、国際公開第04/104198号、国際公開第06/022422号、Wakita,T.ら、2005年、Nat.Med.、第11号、p.791−796、及びLindenbach,B.D.ら、2005年、Science、第309号、p.623−626にも記載されている。
野生型HCV全長ゲノム配列やキメラHCV全長ゲノム配列に変異を導入する場合、野生型HCV全長ゲノム配列に上記のようにして変異を導入してもよいし、あるいは、野生型HCVサブゲノム配列に変異を導入した後で野生型HCVゲノム配列からの不足の配列部分(構造遺伝子など)を連結してフルゲノム配列を作製することもできる。
本発明に係るJ6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA、又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAは、それをコードするDNAをクローン化した発現ベクターを作製し、それを宿主細胞に導入してRNAを発現させることにより、作製することができる。
これらの変異体HCVレプリコンRNAの作製に用いる発現ベクターは、常法により作製することができるが、国際公開第05/080575号に記載された技術を使用して好適に作製することができる。
具体的には、例えば、J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAに対応するDNA断片(cDNAなど)を、常法により発現ベクター中のプロモーターの下流に挿入して、DNAクローンを作製する。本発明における発現ベクターは、その制御下の遺伝子又はRNAコード配列の転写を誘導することができるプロモーターを含有するベクターをいう。発現ベクターとしては、プラスミドベクターが好ましい。プロモーターとしては、T7プロモーター、SP6プロモーター、T3プロモーターなどを用いることができるが、T7プロモーターが好ましい。ベクターとしては、pUC19(TaKaRa社)、pBR322(TaKaRa社)、pGEM−T、pGEM−T Easy、pGEM−3Z(いずれもPromega社)、pSP72(Promega社)、pCRII(Invitrogen社)、pT7Blue(Novagen社)などを使用することができる。
本発明は、上記のようにして作製される、本願発明に係る核酸を含む発現ベクターも提供する。この発現ベクターは、J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAを発現(転写誘導)することができる、本発明においてはこのような発現ベクターを「レプリコンRNA発現ベクター」と呼ぶ。
クローン化発現ベクターから上記変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又は変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAを作製するには、作製された上記DNAクローンを鋳型として、RNAポリメラーゼを用いてRNAを合成すればよい。T7プロモーターの制御下にHCV cDNAをクローン化した核酸を鋳型として、in vitroでRNAを作製する場合は、MEGAscript T7 kit(Ambion社)などを利用して合成することができる。RNA合成は、5’UTRから、常法により開始させることができる。DNAクローンがプラスミドクローンの場合には、プラスミドクローンから制限酵素によって切り出したDNA断片を鋳型として用いてRNAを合成することもできる。なお、合成されるRNAの3’末端がHCVゲノムRNAの3’UTRの末端と一致しており、他の配列が付加されたり削除されたりしないことが好ましい。
作製したJ6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA、又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAは、当業者には周知のRNA抽出法や精製法等により抽出、精製することができる。
上記のようにして作製されるJ6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAは、培養細胞中で高効率で自律複製することができる。J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAを細胞に導入することにより、レプリコンRNAが自律複製している細胞を得ることができる。本発明は、このようなJ6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(又は、HCVサブゲノム配列若しくはフルゲノム配列を含む本発明に係る核酸)が導入されている細胞も提供する。
これらのHCVレプリコンRNAを細胞に導入する方法としては、公知の任意の方法を用いることができる。例えば、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法を挙げることができるが、好ましくはリポフェクション法及びエレクトロポレーション法が、さらに好ましくはエレクトロポレーション法が挙げられる。
J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAが導入されている細胞での、HCVレプリコンRNAの自律複製能(複製能)は、例えば、そのHCVレプリコンRNAに含まれる選択マーカー遺伝子又はレポーター遺伝子等の外来遺伝子の機能、すなわち発現により得られる外来遺伝子の遺伝子産物の活性に基づいて、評価することができる。
例えば、外来遺伝子が薬剤耐性遺伝子の場合、当該遺伝子が耐性をもたらす薬剤を含有する選択培地で上記細胞を培養し、増殖する細胞数又は細胞のコロニー数を計測することにより、そのHCVレプリコンRNAの複製能を評価できる。この場合、細胞数又は細胞のコロニー数が多いほど複製能が高いと評価することができる。
外来遺伝子が酵素の場合は、典型的には、当該HCVレプリコンRNAが導入されている細胞を培養し、その細胞中の酵素活性を計測することにより、HCVレプリコンRNAの複製能を評価できる。この場合、酵素活性が高いほど複製能が高いと評価することができる。例えば、J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAがルシフェラーゼ遺伝子を含む場合、細胞中のルシフェラーゼ活性を常法により測定することができる。
また別の方法として、当該HCVレプリコンRNAを導入した細胞中のHCVレプリコンRNAの量を定量的RT−PCRにより定量することにより、レプリコンRNAの複製能を直接評価することもできる。
J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAが培養細胞において経時的な増加傾向を示す場合には、そのレプリコンRNAは自律複製能を有すると判定することができる。なお、当該HCVレプリコンRNAの複製レベルが、一時的に(例えば細胞へのトランスフェクションのおよそ24時間後までに)多少低下したとしても、その後(例えば30時間以降)継続的に増加する場合にはそのレプリコンRNAは自律複製能を有すると判定できる。これは、トランスフェクション後、複製したレプリコンRNAの量が増えてくるまでに一定の時間を要するからである。
J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAは、培養細胞におけるHCV粒子産生能を有する。当該HCVフルゲノムレプリコンRNAは、培養細胞に導入されると、培養細胞内で持続的に複製され、さらに、複製されたJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(又はHCVフルゲノム配列を含む本発明に係る核酸)は、細胞中で発現されたHCV構造タンパク質(Coreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質及びp7タンパク質)から形成されるウイルス殻中にパッケージングされ、HCV粒子として細胞外に放出される。
J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAの、培養細胞中でのHCV粒子産生能は、該RNAを細胞に導入して培養し、得られた培養上清中のHCV粒子を測定することによって評価することができる。培養上清中のHCV粒子の測定は、培養上清についてHCV粒子を構成する構造タンパク質(例えば、Coreタンパク質、E1タンパク質、E2タンパク質、又はp7タンパク質)を検出することによって行うことができる。培養上清中の構造タンパク質の検出は、例えば、Coreタンパク質、E1タンパク質、又はE2タンパク質に対する抗体を用いて行うことができる。
培養上清について検出されたHCV粒子の構造タンパク質が、経時的な増加傾向を示す場合には、その細胞はHCV粒子を産生し細胞外にHCV粒子を放出していると判定できる。J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAが、導入した培養細胞中でHCV粒子の産生をもたらすことができるかどうかは、そのレプリコンRNAの塩基配列やそれにコードされるタンパク質のアミノ酸配列が大きく関係する。したがって、HCV粒子の産生が確認できる場合、培養細胞に導入されているJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAは、培養細胞中でのウイルス粒子産生能を有するものと判定できる。
このようにしてJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(又はHCVフルゲノム配列を含む本発明に係る核酸)が導入された培養細胞から産生され放出されるウイルス粒子は、新たな培養細胞に対する感染能を有する。本発明はこのような感染性HCV粒子も提供する。この感染性HCV粒子は、J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(又はHCVフルゲノム配列を含む本発明に係る核酸)をウイルスゲノムとして含有する。
本発明に係るHCV粒子の感染能の評価は、J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAを導入して培養した細胞の培養上清を、培養細胞(例えば、Huh−7又はその派生株)に添加し、一定時間後、例えば48時間後にその細胞を抗Core抗体で免疫染色して感染細胞数を数えるか、又は細胞の抽出物をSDS−ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、ウェスタンブロット法でCoreタンパク質を検出することで感染細胞を検出することにより、行うことができる。
J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAを導入させる細胞、又はそのHCVレプリコンRNAが導入された培養細胞で産生された感染性HCV粒子を感染させる細胞は、典型的には培養細胞である。この培養細胞は、HCVレプリコンRNAの自律複製やHCV粒子の形成・感染を許容する細胞(このような細胞をHCV感受性細胞と呼ぶ)であることが特に好ましい。
本発明で用いるHCV感受性細胞としては、例えば、Huh7細胞、HepG2細胞、IMY−N9細胞等の肝由来細胞、HeLa細胞、293細胞、又はそれらの派生株が挙げられる。派生株の例としては、Huh7細胞の派生株であるHuh7.5細胞、Huh7.5.1細胞等が挙げられる。また、Huh7細胞、HepG2細胞、IMY−N9細胞、HeLa細胞又は293細胞にCD81遺伝子及び/又はClaudin1遺伝子を発現させた細胞も派生株として挙げることができる(Lindenbach,B.D.ら、Science、2005年、第309巻、p.623−626;Evans,M.J.ら、Nature、2007年、第446巻、p.801−805;Akazawa,D.ら、J.Virol.、2007年、第81巻、p.5036−5045)。中でも、Huh7細胞又はHuh7細胞の派生株(Huh7.5細胞、Huh7.5.1細胞等)が特に好ましく使用される。なお、本発明において所定の細胞の「派生株」とは、当該細胞から誘導された株をいう。
J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAを導入した細胞、及びJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAをウイルスゲノムとして含有するHCV粒子を感染させた細胞を用いれば、培養によるHCV粒子の大量生産を可能にすることもできる。
J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAを導入したHCV感受性細胞から産生され細胞外に放出されたHCV粒子を新たなHCV感受性細胞に感染させると、細胞内で当該HCVフルゲノムレプリコンRNA(ゲノムRNA)が複製され、パッケージングされ、HCV粒子が産生され、さらにこのサイクルを繰り返し行うことができる。産生されたHCV粒子の細胞への感染は、例えば上記HCVフルゲノムレプリコンRNAを導入した細胞の培養上清を、HCV感受性細胞に添加することにより実施できる。
J6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(又はHCVフルゲノム配列を含む本発明に係る核酸)をHCV感受性細胞に導入して得られるHCV粒子は、HCVワクチンとしての用途や、抗HCV抗体作製のための抗原としての用途に用いることができる。
具体的には、上記HCV粒子は、ワクチンの製造に用いることができる。ワクチン用途では、具体的には、上記の無傷のHCV粒子若しくはその一部分又はそれらの処理物を抗原としてそのままワクチンとして使用することもできるが、当該分野で既知の方法により弱毒化又は不活化したHCV粒子処理物として用いることが好ましい。ウイルスの不活化は、ホルマリン,β−プロピオラクトン,グルタルジアルデヒド等の不活化剤を,例えば、ウイルス浮遊液に添加混合し,ウイルスと反応させることにより達成することができる(Appaiahgari,M.B.&Vrati, S.、Vaccine、2004年、第22巻、p.3669−3675)。あるいはUVを照射することでHCVのRNAを分解することによりHCVの感染性を失わせることもできる(特開2009−5589)。
本発明に係る、上記HCV粒子を含むC型肝炎ウイルスワクチンは、上記の無傷のHCV粒子又はそれらの弱毒化又は不活化処理物を抗原として含むものがより好ましい。
上記ワクチンは、溶液又は懸濁液のいずれかとして、投与可能に調製され得る。あるいは、使用直前に再構成可能なように、液体中の溶解又は懸濁に適した固形物(例えば凍結乾燥調製物)の形態で調製することができる。そのような固形物又は調製物は、乳濁されてもよいし、又はリポソームにカプセル化されてもよい。
HCV粒子などの活性免疫原性成分には、薬学的に許容可能であって、活性成分に適合した賦形剤がしばしば混合され得る。適切な賦形剤には、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、又はそれらの混合物がある。
さらに、所望であれば、上記ワクチンは、少量の補助剤(例えば、加湿剤又は乳化剤)、pH緩衝剤、及び/又はワクチンの効能を高めるアジュバントを含有し得る。
アジュバントは、該免疫系の非特異的刺激因子である。それらは、上記ワクチンに対する宿主の免疫応答を増強する。したがって、好ましい形態においては、上記ワクチンはアジュバントを含む。アジュバントの効能は、HCV粒子から構成されるワクチンを投与することにより生じる抗体の量を測定することにより決定され得る。
有効であり得るアジュバントの例は、限定されないが、以下を包含する。水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(CGP11637、nor−MDPと称せられる)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(CGP19835A、MTP−PEと称せられる)及びRIBI。RIBIは、バクテリアから抽出した3成分、すなわちモノホスホリルリピドA、トレハロースジミコレート及び細胞壁骨格(HPL+TDM+CWS)を2%スクアレン/Tween(登録商標)80エマルジョン中に含有している。
所望により、アジュバント活性を有する1以上の化合物を上記ワクチンに加えることができる。当技術分野で公知のアジュバントの具体例としては、フロイント完全アジュバント及びフロイント不完全アジュバント、ビタミンE、非イオンブロック重合体、ムラミルジペプチド、サポニン、鉱油、植物油及びCarbopolが挙げられる。粘膜適用に特に適したアジュバントとしては、例えば、大腸菌(E.coli)易熱性毒素(LT)又はコレラ(Cholera)毒素(CT)が挙げられる。他の適当なアジュバントとしては、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムまたは酸化アルミニウム、油性乳剤(例えば、Bayol(登録商標)又はMarcol 52(登録商標))、サポニン又はビタミンEソリュビリゼートが挙げられる。
上記HCVワクチンは、通常、非経口的に、例えば皮下注射又は筋肉内注射のような、注射により投与される。他の投与態様に適切な別の処方としては、坐薬、及び、ある場合には経口処方薬が挙げられる。
皮下、皮内、筋肉内、静脈内に投与する注射剤において、上記HCVワクチンと医薬上許容される担体又は希釈剤の具体例としては、安定化剤、炭水化物(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、ショ糖、グルコース、デキストラン)、アルブミン又はカゼインなどのタンパク質、ウシ血清又は脱脂乳などのタンパク質含有物質、及びバッファー(例えば、リン酸バッファー)が挙げられる。
坐薬に使用される従来の結合剤及び担体としては、例えば、ポリアルキレングリコール又はトリグリセリドが含まれ得る。このような坐薬は、活性成分を0.5%〜50%までの範囲で、好ましくは1%〜20%までの範囲で含有する混合物から形成され得る。経口処方薬は、通常用いられる賦形剤を含有する。この賦形剤としては、例えば、薬学的なグレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
上記HCVワクチンは、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、持続放出処方剤、又は粉末剤の形態をとり、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の活性成分(HCV粒子又はその一部分)を含有する。
上記HCVワクチンは、投与剤形に適した方法で、そして予防及び/又は治療効果を有するような量で投与される。投与されるべき抗原量は、通常投与当たり0.01μg〜100,000μgまでの範囲であるが、これは、投与される患者、その患者の免疫系での抗体合成能、及び所望の防御の程度に依存する。また、経口、皮下、皮内、筋肉内、静脈内投与経路などの投与経路にも依存する。また、上記HCVワクチンは、単独投与スケジュールで又は複合投与スケジュールで与えられ得る。好ましくは、複合投与スケジュールである。複合投与スケジュールでは、接種の開始時期に1〜10の個別の投与を行い、続いて免疫応答を維持する及び/又は強化するのに必要とされる時間間隔で、例えば2回目の投与として1〜4ヵ月後に、別の投与を行い得る。必要であれば、数ヶ月後に引き続き投与を行い得る。投与のレジメもまた、少なくとも部分的には、個体の必要性により決定され、医師の判断に依存する。
また、上記HCVワクチンは、健常人に投与し、健常人にHCVに対する免疫応答を誘導し、新たなHCV感染に対して予防的に使用する方法がある。さらに、HCVに感染した患者に投与し、生体内にHCVに対する強い免疫反応を誘導することにより、HCVを排除する治療的ワクチンとしての使用方法がある。
本発明は、上記HCVワクチンをも提供する。このHCVワクチンはHCV感染の予防及び、C型肝炎の治療に用いることができる。
さらに、上記HCV粒子は、抗HCV抗体作製のための抗原として有用である。上記HCV粒子を、哺乳類又は鳥類に投与することにより、抗体を作製することができる。哺乳類動物として、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、モルモット、ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマなどを挙げることができる。ヒトコブラクダ、フタコブラクダ及びラマはH鎖のみからなる抗体を作製するには好適である。鳥類動物としては、ニワトリ、ガチョウ、ダチョウなどを挙げることができる。上記HCV粒子を投与された動物の血清を採取して、既知の方法に従って抗体を取得することができる。
本発明はこれらの抗HCV抗体も提供する。特に好ましい抗HCV抗体は、HCVを不活化し得る中和抗体として利用できる。
上記HCV粒子を投与して免疫した動物の細胞を用いて、モノクローナル抗体産生細胞を産生するハイブリドーマを作製することができる。ハイブリドーマを製造する方法は周知であり、Antibodies: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory、1988年)に記載された方法を用いることができる。
モノクローナル抗体産生細胞は、細胞融合により作製してもよく、また癌遺伝子DNAの導入やEpstein−Barrウイルスの感染によりBリンパ球を不死化させるような他の方法で作製してもよい。
これらの方法によって得られたモノクローナル抗体や、ポリクローナル抗体はHCVの診断やC型肝炎の治療、予防に有用である。
上記HCV粒子を抗原として用いて作製された抗体は、医薬として、医薬上許容される溶解剤、添加剤、安定剤、バッファーなどとともに投与され得る。投与経路はいずれの投与経路でもよいが、好ましくは、皮下、皮内、筋肉内投与であり、より好ましくは、静脈内投与が好ましい。
本発明に係るJ6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA若しくはJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(又は、HCVサブゲノム配列若しくはフルゲノム配列を含む本発明に係る核酸)を導入した細胞、又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(又はHCVフルゲノム配列を含む本発明に係る核酸)をウイルスゲノムとして含むHCV粒子は、HCV感染を阻害する中和抗体やHCVの感染や複製を阻害する化合物等の物質のスクリーニング用途に好適に用いることができる。例えば、被験物質の存在下又は非存在下で、上記レプリコンRNAが導入されレプリコンRNAを複製する細胞を培養するか、上記フルゲノムレプリコンRNAが導入されHCV粒子を産生する細胞を培養するか、又は上記HCV粒子をHCV感受性細胞と培養するか、あるいは、上記HCV粒子を感染させたHCV感染細胞を培養し、得られる培養物中のHCVレプリコンRNA又はHCV粒子を検出して、被験物質の影響を評価する方法が挙げられる。ここで、培養物とは培養上清、及び細胞又は細胞破砕物を含む。検出は、細胞又は細胞破砕物中のHCVレプリコンRNA又は培養上清中のHCV粒子の量の定量が好ましい。被験物質の存在下で培養物中にHCVレプリコンRNA及びHCV粒子が存在しないか、又は、被験物質の非存在下に比べて少ない場合に、用いた被験物質がHCVの感染や複製を阻害し得ると評価することができる。
本発明では、例えば、被験物質の存在下及び非存在下で、本発明に係るHCV粒子とともにHCV感受性細胞を培養し、得られる培養物中のHCV粒子又はHCVレプリコンRNAを検出し、その被験物質がHCV粒子の産生(感染・形成・放出を含む)又はHCVレプリコンRNAの複製を抑制するかどうかを判定することにより抗HCV物質をスクリーニングすることができる。
例えば、本発明は、(i)被験物質の存在下及び非存在下の双方で、本発明に係るレプリコンRNAを導入した細胞を培養するステップと、(ii)ステップ(i)で得た培養物中のレプリコンRNA(又はHCV粒子)の量を定量するステップと、(iii)被験物質の存在下で測定されたレプリコンRNA(又はHCV粒子)量を、被験物質の非存在下で測定したレプリコンRNA(又はHCV粒子)と比較して、被験物質のレプリコンRNAの複製阻害活性(又はHCV粒子産生阻害活性)を評価するステップと、を備える、抗C型肝炎ウイルス物質をスクリーニングする方法を提供する。
本発明に係るスクリーニング方法の一実施形態は、被験物質の存在下及び非存在下の双方で、J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA若しくはJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(又は、HCVサブゲノム配列若しくはフルゲノム配列を含む本発明に係る核酸)が導入されている細胞、又はJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(又はHCVフルゲノム配列を含む本発明に係る核酸)をウイルスゲノムとして含有するHCV粒子とHCV感受性細胞との混合物、を培養する培養ステップと、
上記培養ステップで培養物中に得られた当該サブゲノムレプリコンRNA、当該フルゲノムレプリコンRNA又はHCV粒子の量を定量する定量ステップと、
上記定量ステップの結果、被験物質の存在下で定量されたサブゲノムレプリコンRNA、フルゲノムレプリコンRNA又はHCV粒子の量が、それぞれ被験物質の非存在下で定量したサブゲノムレプリコンRNA、フルゲノムレプリコンRNA又はHCV粒子の量より少ない場合に、上記被験物質は抗C型肝炎ウイルス活性を有すると評価する評価ステップと、
を備える、抗C型肝炎ウイルス物質をスクリーニングする方法である。
培養物中のHCVレプリコンRNAは、HCVレプリコンRNA中の外来遺伝子の機能、すなわち該遺伝子の発現により現れる機能に基づく測定により検出することができる。例えば、外来遺伝子が酵素の場合は、その酵素活性を計測することにより、HCVレプリコンRNAを検出できる。また別の方法として、定量的RT−PCRにて培養物中の複製したRNAの量を定量することによっても、HCVレプリコンRNAを検出することができる。
培養物中のHCV粒子は、培養上清に放出されたHCV粒子を構成するタンパク質(例えば、Coreタンパク質、E1タンパク質又はE2タンパク質)に対する抗体を用いて検出することができる。培養物中のHCV粒子は、細胞中の非構造タンパク質の存在を非構造タンパク質に対する抗体を用いた免疫染色を行って検出することもできる。培養上清中のHCV粒子が含有するHCVレプリコンRNAを、特異的プライマーを用いたRT−PCR法により増幅して検出することによって、HCV粒子の存在を間接的に検出することもできる。
抗HCV物質のスクリーニングには、本発明に係る上記変異を有するJ6CF株変異体ゲノム又はJ6CF/JFH−1キメラ変異体ゲノムに外来遺伝子及びIRES配列を挿入したHCVフルゲノムレプリコンRNA(5’UTR、Coreタンパク質コード配列の5’末端の36ヌクレオチド、ルシフェラーゼ遺伝子、EMCV IRES配列、Coreタンパク質コード配列、E1タンパク質コード配列、E2タンパク質コード配列、p7タンパク質コード配列、NS2タンパク質コード配列、NS3タンパク質コード配列、NS4Aタンパク質コード配列、NS4Bタンパク質コード配列、NS5Aタンパク質コード配列、NS5Bタンパク質コード配列及び3’UTRが、5’から3’の方向に順に連結されたRNAからなる)も有利に使用することができる。なお、各領域の連結の際に、連結部位には制限酵素部位などの付加配列を含みうる。このHCVフルゲノムレプリコンRNAをHuh7細胞に導入し、HCV粒子を得て、該HCV粒子をHCV感受性細胞に感染させると同時に、被験物質を添加し、48〜72時間後にルシフェラーゼの活性を測定する。被験物質無添加の場合(被験物質不在下)と比較してルシフェラーゼ活性を抑制する効果が示された被験物質は、HCVの感染を抑制する作用があると判定できる。
同様に、配列番号1又は配列番号4に示される核酸からなる本発明に係るJ6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNAをHuh7細胞に導入し、引き続いて、被験物質を添加し、48〜72時間後にルシフェラーゼの活性を測定する。被験物質未添加と比較してルシフェラーゼ活性を抑制し得る被験物質は、HCVサブゲノムレプリコンRNAの複製を抑制する作用があると判定できる。
上記スクリーニング方法で得られる抗HCV物質は、好ましくは、ウイルス感染又は複製を抑制可能なものである。
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は説明のためのものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
まず、本発明者らは、公知文献(Murayamaら、PLoS Pathogens.、2010年、第6巻、e1000885)記載の、J6CF株のNS3ヘリカーゼ領域、NS5Bタンパク質領域の一部及び3’非翻訳領域をJFH−1株のそれに置き換えて作製したHCVフルゲノムレプリコンRNA(FGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1)の構造において、JFH−1株由来のNS3ヘリカーゼ領域をJ6CF株由来の配列に戻したRNA、すなわち、J6CF株のNS5Bの一部及び3’非翻訳領域をJFH−1株のそれに置き換えたHCVフルゲノムレプリコンRNA(FGR−J6/5BSLX−JFH1)を作製し、これを培養細胞に導入した。FGR−J6/5BSLX−JFH1は自律複製能を持たなかったが、継代を繰り返し、高い自律複製能を獲得した変異体を取得し、レプリコンRNAの自律複製能を顕著に高める変異が、NS4Aタンパク質領域中に1箇所存在することを見出した。この変異は、J6CF株の前駆体タンパク質(HCV前駆体ポリプロテイン)のアミノ酸配列(配列番号30)上の第1680番目のアラニンがグルタミン酸に置換するものである。さらに、野生型のJ6CF株のゲノムに、その1箇所の変異(NS4Aタンパク質領域中)と、公知文献(Murayamaら、PLoS Pathogens.、2010年、第6巻、e1000885)記載の4箇所の変異(NS5Bタンパク質領域及び3’非翻訳領域中)を導入し、計5箇所の変異とすることで、高い自律複製能を有し、かつ感染性HCV粒子産生能を有するJ6CF株由来フルゲノムレプリコンRNAを作製することにも成功した。以下ではより具体的に説明する。
(実施例1)J6CF/JFH−1キメラHCVサブゲノムレプリコンRNA及びHCVフルゲノムレプリコンRNA(全長HCVゲノムRNA)発現ベクターの構築
本実施例では、後述の実施例において変異体レプリコンの作製に用いる、J6CF株とJFH−1株のゲノム配列に由来するキメラ型(J6CF/JFH−1キメラ)のHCVサブゲノムレプリコンRNA(J6CF/JFH−1キメラHCVサブゲノムレプリコンRNA)及びHCVフルゲノムレプリコンRNA(J6CF/JFH−1キメラHCVフルゲノムレプリコンRNA)をそれぞれ合成するための発現ベクターを構築した。
なお、以下で言及する塩基番号は、各HCV株の全長ゲノムの5’末端の第1塩基を第1番目とした場合の塩基の番号である。また、制限酵素で消化して得られたDNA断片について、元のDNA配列での位置を塩基番号で示す場合は、その制限酵素の認識配列の開始位置の塩基番号で示す。例えば、JFH−1株の全長ゲノムをClaI及びEcoT22Iで消化した場合、ClaIの認識配列はJFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第3929番目から始まり、ClaIにより第3930番目と第3931番目の塩基の間で切断され、また、EcoT22Iの認識配列はJFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第5293番目から始まり、EcoT22Iにより第5297番目と第5298番目の塩基の間で切断されるが、ClaI及びEcoT22Iで消化して得られたDNA断片は「JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第3929番目〜第5293番目の塩基配列である(に相当する)」と記載する。
pJFH1は、公知文献(Wakita,T.ら、Nat.Med.、2005年、第11巻、p.791−796)記載のプラスミドDNAである。pJFH1は、HCV JFH−1株の全長ゲノムRNAを逆転写して得たゲノムcDNA(GenBankアクセッション番号AB047639)をpUC19プラスミド中に挿入されたT7 RNAプロモーター配列の下流にクローニングして作製された。
pJ6CFは、公知文献(Yanagi,M.ら、Virology、1999年、第262巻、p.250−263)記載のプラスミドから作製されたプラスミドDNAである。pJ6CFは、HCV J6CF株の全長ゲノムRNAを逆転写して得たゲノムcDNA(GenBankアクセッション番号AF177036)をpUC19プラスミドのT7 RNAプロモーター配列の下流にクローニングして作製された。
HCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターであるpSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Luc(図1C)は、公知文献(Murayama,A.ら、PLoS Pathogens.、2010年、第6巻、e1000885)にも記載されたプラスミドDNAである。pSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Lucの作製においては、pJFH1をClaI及びEcoT22Iで制限消化して得たDNA断片(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第3929番目〜第5293番目の塩基配列であり、NS3タンパク質の一部分に相当する)により、公知文献(Murayama,A.ら、J.Virology、2007年、第81巻、p.8030−8040)記載のプラスミドpSGR−J6CF/Luc(Coreタンパク質の5’末端の36ヌクレオチド、ルシフェラーゼ遺伝子及びEMCV IRESを含み、J6CF株のサブゲノムレプリコンRNAをコードする;図1B)の同じ領域の配列を置換し、さらに、そのプラスミドのJ6CF株の全長ゲノム(配列番号29)の塩基番号第9212番目〜第9711番目(J6CF株ゲノムの3’末端)に相当する塩基配列を、JFH−1株の全長ゲノム(GenBankアクセッション番号AB047639)の塩基番号第9212番目〜第9678番目(JFH−1株ゲノムの3’末端)の塩基配列で置換した。
具体的なpSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Luc(図1C)の作製方法は以下のとおりである。まず、pSGR−J6CF/Lucに、ClaI(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第3929番目から認識配列が始まり、ClaIにより第3930番目と第3931番目の塩基の間で切断される)及びEcoT22I(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第5293番目から認識配列が始まり、EcoT22Iにより第5297番目と第5298番目の塩基の間で切断される)の制限酵素部位をPCRで導入した後、それをClaI及びEcoT22Iで切断した。pJFH1をClaI及びEcoT22Iで消化して得たDNA断片(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第3929番目〜第5293番目の塩基配列)を、上記pSGR−J6CF/Luc切断断片に挿入することによりClaI〜EcoT22Iの領域を置換した。この結果、J6CF株のNS3へリカーゼ領域(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第3929番目〜第5293番目)が、JFH−1株の同じ領域の配列で置換された(図1C中の「N3H」領域)。こうして得られたプラスミドDNAを、pSGR−J6/N3H−JFH1/Lucと呼ぶ。
次に、1st PCR−1として、pJ6CFを鋳型として、センスプライマー8680S−2a(5’−CCTTCACGGAGGCTATGACCA−3’(配列番号7))とアンチセンスプライマー9191R−2a(5’−CCACGGGAGATGAGGGACGC−3’(配列番号8))を用いてPCRを行った。また、1st PCR−2として、pJFH1を鋳型として、センスプライマー9191S−2a(5’−GCGTCCCTCATCTCCCGTGG−3’(配列番号9))とアンチセンスプライマー9440R−IH(5’−GTGTACCTAGTGTGTGCCGCTCTA−3’(配列番号10))を用いてPCRを行った。さらに、2nd PCRとして、上記1st PCR−1と1st PCR−2で増幅した2種類の増幅断片の混合物を鋳型として、センスプライマー8680S−2a(配列番号7)とアンチセンスプライマー9440R−IH(配列番号10)を用いてPCRを行った。得られたJ6CF株とJFH−1株のキメラからなる増幅産物をSfiI及びAscIで消化したDNA断片(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第8794番目〜第9211番目の領域とJFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9212番目〜第9291番目の領域に相当)と、pJFH1をAscI及びXbaIで消化したDNA断片(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9289番目〜3’末端に相当)とを、上記のpSGR−J6/N3H−JFH1/LucのSfiI−XbaI部位(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第8789番目〜3’末端に相当)に挿入することにより、プラスミド中のJ6CF株のNS5Bタンパク質の第516番目〜第591番目のアミノ酸配列をコードする領域と3’非翻訳領域(3’UTR)の配列を、JFH−1株由来の配列へと置換した(図1C中の「5BSLX」領域)。このようにして得られたプラスミドDNAが、pSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Luc(図1C)である。すなわち、pSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Lucは、pSGR−J6CF/LucのNS3へリカーゼ領域(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第3929番目〜第5293番目)と、NS5Bタンパク質の第516番目〜第591番目のアミノ酸配列をコードする領域及び3’非翻訳領域からなる5BSLX領域とを、JFH−1株由来の塩基配列(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第3931番目〜第5297番目及び第9212番目〜第9678番目)へと置換したものである。
また、プラスミドpSGR−J6/5BSLX−JFH1/Luc(図1D)も作製した。pSGR−J6/5BSLX−JFH1/Lucは、pSGR−J6CF/LucのJ6CF株の全長ゲノムの塩基番号第9212番目〜第9711番目(J6CF株の3’末端)に相当する塩基配列を、JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9212番目〜第9678番目(JFH−1株の3’末端)に相当する塩基配列により置換したものである。
具体的なpSGR−J6/5BSLX−JFH1/Luc(図1D)の作製方法は以下のとおりである。pSGR−J6CF/Lucを用いた上記のpSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Lucの作製過程において調製された上記2nd PCRの増幅産物のSfiI−AscI切断断片(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第8789番目〜第9211番目の領域とJFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9212番目〜第9289番目の領域に相当)と、pJFH1をAscI及びXbaIで消化したDNA断片(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9289番目〜3’末端)とを、pSGR−J6CF/LucのSfiI−XbaI部位(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第8789番目〜3’末端)に挿入することにより、プラスミド中のJ6CF株のNS5Bタンパク質の第516番目〜第591番目のアミノ酸配列をコードする領域と3’非翻訳領域(3’UTR)を、JFH1株由来の同じ領域の配列へと置換した(図1D中の「5BSLX」領域)。このようにして得られたプラスミドDNAが、pSGR−J6/5BSLX−JFH1/Luc(図1D)である。すなわち、pSGR−J6/5BSLX−JFH1/Lucは、pSGR−J6CF/LucのNS5Bタンパク質の第516番目〜第591番目のアミノ酸配列をコードする領域及び3’非翻訳領域からなる5BSLX領域を、JFH−1株由来の塩基配列(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9212番目〜第9678番目)へと置換したものである。
これらJ6CF/JFH−1キメラHCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターの構造は図1にまとめて示している。図中、「T7」はT7プロモーターを意味する。T7プロモーターは、それぞれの発現ベクターからT7 RNAポリメラーゼを用いてHCVサブゲノムレプリコンRNAを転写させるために必要な配列エレメントである。「Luc」はルシフェラーゼ遺伝子、「EMCV IRES」は脳心筋炎ウイルスの内部リボソーム結合部位を示す。「NS3」はNS3タンパク質コード領域、「4A」はNS4Aタンパク質コード領域、「4B」はNS4Bタンパク質コード領域、「NS5A」はNS5Aタンパク質コード領域、「NS5B」はNS5Bタンパク質コード領域を示す。また、図中の「EcoRI」、「AgeI」、「ClaI」、「EcoT22I」、「BsrGI」、「StuI」及び「XbaI」は制限酵素部位を示す。
なお、J6CF株及びJFH−1株のNS5Bタンパク質コード領域は、いずれも、J6CF株及びJFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第7667番目〜第9442番目(終止コドンを含む)の塩基配列に相当し、591アミノ酸残基からなるNS5Bタンパク質をコードする。J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第7667番目〜第9211番目の領域は、J6CF株のNS5Bタンパク質の第1番目〜第515番目のアミノ酸配列をコードする。JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9212番目〜第9442番目(終止コドンを含む)の領域は、JFH−1株のNS5Bタンパク質の第516番目〜第591番目のアミノ酸配列をコードする。J6CF株のNS5Bタンパク質全体のアミノ酸配列を配列番号27、JFH−1株のNS5Bタンパク質全体のアミノ酸配列を配列番号28に示す。
続いて、HCVフルゲノムレプリコンRNA発現ベクターであるpFGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1を、pSGR−J6CF/Lucの代わりにpJ6CFを用いて、上記と同様の方法により、NS3へリカーゼ領域(図2C中の「N3H」領域)(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第3929番目〜第5293番目の領域)と5BSLX領域(図2中の「5BSLX」領域)を、JFH−1株由来の同じ領域の配列(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9212〜第9678番目の領域)へと置換することにより作製した(図2C)。
またpFGR−J6/5BSLX−JFH1を、pSGR−J6CF/Lucの代わりにpJ6CF(図2B)を用いて、上記と同様の方法により、5BSLX領域(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9212〜第9678番目の領域)を、JFH−1株由来の同じ領域の配列へと置換することにより作製した(図2D)。
さらに、pJ6CFのBsrGI部位(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第7781番目から認識配列が始まり、BsrGIにより第7781番目と第7782番目の塩基の間で切断される)〜StuI部位(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第9415番目から認識配列が始まり、StuIにより第9417番目と第9418番目の塩基の間で切断される)の配列を、pJFH1の同じ領域の配列へと置換することにより、プラスミドベクターpFGR−J6/5B−JFH1を作製した(図2E)。
具体的なpFGR−J6/5B−JFH1の具体的な作製方法は下記のとおりである。まずpJ6CFに、BsrGIの制限酵素部位を、J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第7781番目から始まる位置にPCRで導入した。次に、BsrGI制限酵素部位を導入したpJ6CFを、BsrGI及びStuIで消化した。pJFH1をBsrGI部位(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第7781番目から認識配列が始まり、BsrGIにより第7781番目と第7782番目の塩基の間で切断される)及びStuI部位(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9415番目から認識配列が始まり、StuIにより第9417番目と9418番目の塩基の間で切断される)で消化したDNA断片(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第7782番目〜第9417番目に相当する、NS5B断片)を用いて、上記のpJ6CFのBsrGI−StuI切断断片(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第7782番目〜第9417番目に相当)を置換した。このようにして得られたプラスミドDNAが、pFGR−J6/5B−JFH1である。
これらのJ6CF/JFH−1キメラHCVフルゲノムレプリコンRNA発現ベクターを図2にまとめて示す。図中、「T7」はT7プロモーターを意味する。「C」はCoreタンパク質コード領域、「E1」はE1タンパク質コード領域、「E2」はE2タンパク質コード領域、「p7」はp7タンパク質コード領域、「NS3」はNS3タンパク質コード領域、「4A」はNS4Aタンパク質コード領域、「4B」はNS4Bタンパク質コード領域、「NS5A」はNS5Aタンパク質コード領域及び「NS5B」はNS5Bタンパク質コード領域を示す。また、図中の「EcoRI」、「ClaI」、「EcoT22I」、「BsrGI」、「StuI」及び「XbaI」は制限酵素部位を示す。
(実施例2)HCVサブゲノムレプリコンRNA及びHCVフルゲノムレプリコンRNA(全長HCVゲノムRNA)の作製
公知文献(Kato,T.ら、JCM Nov.、2005年、第43巻、p.5679−5684)記載の発現ベクターpSGR−JFH1/Luc(ルシフェラーゼ遺伝子及びEMCV IRESを含み、JFH−1株のサブゲノムレプリコンRNAをコードする;図1A)、実施例1に開示した、上記発現ベクターpSGR−J6CF/Luc、pSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Luc及びpSGR−J6/5BSLX−JFH1/Lucを、それぞれ制限酵素XbaIで切断した。
次いで、これらのXbaI切断DNA断片のそれぞれ10〜20μgに、Mung Bean Nuclease 20Uを加えて(トータル反応液量 50μL)、30℃で30分間インキュベートした。Mung Bean Nucleaseは、二本鎖DNA中の一本鎖部分を選択的に分解して平滑化する反応を触媒する酵素である。通常、上記XbaI切断DNA断片をそのまま鋳型DNAとして用いてRNAポリメラーゼによるRNA転写を行うと、XbaIの認識配列の一部であるCUAGの4塩基が3’末端に余分に付加されたレプリコンRNAが合成されてしまう。そこで本実施例では、XbaI切断DNA断片をMung Bean Nucleaseで処理することにより、XbaI切断DNA断片からCTAGの4塩基を除去した。
この後、Mung Bean Nuclease処理後のXbaI切断DNA断片を含む溶液について、常法に従ったタンパク質除去処理により、CTAGの4塩基が除去されたXbaI切断DNA断片を精製し、これを次の反応で用いる鋳型DNAとした。この鋳型DNAから、RNA転写キットであるAmbion社のMEGAscript(登録商標)を用いて、鋳型DNAを0.5〜1.0μg含むRNA転写反応液20μLを製造業者の使用説明書に基づいて調製し、37℃で3時間〜16時間反応させた。
RNA合成終了後、反応溶液にDNaseI(2U)を添加して、37℃で15分間反応させた後、さらに酸性フェノールによるRNA抽出を行い、鋳型DNAを除去した。このようにしてHCVサブゲノムレプリコンRNAを合成した。なお、発現ベクターpSGR−JFH1/Luc、pSGR−J6CF/Luc、pSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Luc及びpSGR−J6/5BSLX−JFH1/Lucから合成したHCVサブゲノムレプリコンRNAを、それぞれ、SGR−JFH1/Luc、SGR−J6CF/Luc、SGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Luc及びSGR−J6/5BSLX−JFH1/Lucと呼ぶ。
HCVフルゲノムレプリコンRNAの合成は、実施例1で構築した発現ベクターpFGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1、pFGR−J6/5BSLX−JFH1及びpFGR−J6/5B−JFH1を用いて、上記のHCVサブゲノムレプリコンRNAの合成と同じ方法で行った。なお、発現ベクターpFGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1、pFGR−J6/5BSLX−JFH1及びpFGR−J6/5B−JFH1から合成したHCVフルゲノムレプリコンRNAを、それぞれ、FGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1、FGR−J6/5BSLX−JFH1及びFGR−J6/5B−JFH1と呼ぶ。
(実施例3)HCVサブゲノムレプリコンRNA及びHCVフルゲノムレプリコンRNA(全長HCVゲノムRNA)の細胞への導入
実施例2で作製したHCVサブゲノムレプリコンRNA又はHCVフルゲノムレプリコンRNA(HCVレプリコンRNA)をそれぞれ、Huh7.5.1細胞(Zhong J.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2005年、第102巻、p.9294−9299)にエレクトロポレーション法(van den Hoff MJら、Nucleic Acids Res.、1992年、第20巻、p.2902)にて導入(トランスフェクション)した。具体的には、下記に示す通りである。
トリプシン処理を行ったHuh7.5.1細胞をOpti−MEM I培地(Invitrogen社)で数回洗浄した後、400μLのCytomix溶液(120mM KCl、0.15mM CaCl2、10mM K2HPO4/KH2PO4、25mM Hepes、2mM EGTA、5mM MgCl2、20mM ATP、50mMグルタチオン)に懸濁し、3×106細胞/mLの懸濁液とした。4mmキュベットに細胞懸濁液を移した後、そこにHCVサブゲノムレプリコンRNA又はHCVフルゲノムレプリコンRNA 5μgを添加し、Gene Pulser II(Bio−Rad社)を用いて、260V、950μFの条件でパルスし、Huh7.5.1細胞へのHCVレプリコンRNAのエレクトロポレーション(トランスフェクション)を行った。HCVレプリコンRNAを導入した細胞をDMEM培地に懸濁し、12ウェルプレートに播種した。
(実施例4)HCVサブゲノムレプリコンRNA導入細胞内でのRNA複製
実施例3でHCVサブゲノムレプリコンRNAを導入したHuh7.5.1細胞を、12ウェルプレートに播種し、トランスフェクション4時間後、24時間後及び48時間後に細胞を回収した。回収した細胞を、250μLの溶解バッファーPassive Lysis reagent(Promega社)で溶解し、遠心して得られた上清を試料とした。ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社)及びルミノメーターLB9507(EG&G Berthold社)を用いて、試料中のルシフェラーゼ活性を測定した。
図3Aにその結果を示す。図の横軸はトランスフェクション後の時間を示し、縦軸はトランスフェクション4時間後のルシフェラーゼ活性の値を基準とした時の各時点におけるルシフェラーゼ活性の相対値を示す。図3AはHCVサブゲノムレプリコンRNAのRNA複製レベルの経時的変化を示している。図3Aに示すように、HCVサブゲノムレプリコンRNA SGR−JFH1/Luc及びSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Lucを導入した細胞ではルシフェラーゼ活性が経時的に上昇したことから、SGR−JFH1/Luc及びSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Lucは自律複製することが確認された。SGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Lucに導入したJFH−1株由来N3H配列がJ6CF株由来サブゲノムレプリコンRNAに自律複製能を付与したと考えられた。
(実施例5)HCVフルゲノムレプリコンRNA(全長HCVゲノムRNA)導入細胞からのウイルス(ウイルス粒子)産生
実施例3でHCVフルゲノムレプリコンRNAを導入したHuh7.5.1細胞を、12ウェルプレートに播種して培養し、トランスフェクション1日後、2日後及び3日後に培養上清を回収した。回収した培養上清を、0.45μmのフィルター(Millipore社)に通して夾雑物を除き、HCV Coreタンパク質の測定の試料とした。HCV Coreタンパク質の測定はHCV抗原ELISAテストキット(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス社)を用いて行った。
図3Bにその測定結果を示す。図3Bの横軸はトランスフェクション後の日数(1日後、2日後、3日後)を示し、縦軸は培養上清中のCoreタンパク質量(fmol/L)を示す。図3BはHCVフルゲノムレプリコンRNAを導入した培養細胞により産生された培養上清中のウイルスレベルを示唆する。図3Bに示すように、FGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1を導入した細胞の培養上清中のCoreタンパク質量は経時的に増加したが、FGR−J6/5BSLX−JFH1を導入した細胞の培養上清中のCoreタンパク質量は増加しなかった。したがって、FGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1を導入した細胞はウイルスを産生することが示された。FGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1に導入したJFH−1株由来N3H配列が、J6CF株由来フルゲノムレプリコンRNAにウイルス産生能を付与したと考えられた。
(実施例6)J6CF/JFH−1キメラHCVフルゲノムレプリコンRNA(全長HCVゲノムRNA)導入細胞の継代培養を通じた変異体の取得
J6CF/JFH−1キメラHCVフルゲノムレプリコンRNAであるFGR−J6/5BSLX−JFH1及びFGR−J6/5B−JFH1を、実施例3と同様の方法でHuh7.5.1細胞に導入(トランスフェクション)した。HCVフルゲノムレプリコンRNAを導入した細胞を3〜5日間隔で継代しながら培養し、その間の培養上清中のHCV Coreタンパク質量をモニターした。なお、HCV Coreタンパク質の測定は、実施例5と同様の方法で実施した。
その結果を図4に示す。図4の横軸はトランスフェクション後の日数を示し、縦軸は培養上清中のCoreタンパク質量(fmol/L)を示す。図4に示すように、FGR−J6/5BSLX−JFH1を導入した細胞については、1ヶ月を過ぎた頃から培養上清中のCoreタンパク質量は増加していき、ウイルスの産生が認められたが、FGR−J6/5B−JFH1についてはウイルスの産生は認められなかった。
次に、培養上清中のCoreタンパク質量が最大となったFGR−J6/5BSLX−JFH1導入細胞の49日目の培養上清(図4)から、ISOGEN−LS(ニッポンジーン社)を用いてウイルスゲノムRNAを抽出した。このウイルスゲノムRNAを鋳型として、逆転写酵素Super script III Reverse Transcriptase(Invitrogen社)を用いてcDNAを合成し、シークエンスした。
その結果、FGR−J6/5BSLX−JFH1のNS4Aタンパク質コード領域中において、J6CF株の前駆体タンパク質(ポリプロテイン)の第1680番目に当たるアミノ酸アラニン(A)がグルタミン酸(E)に置換される変異(A1680E)を生じる塩基変異(アラニンをコードするコドン「GCG」の第2塩基のシトシンからアデニンへの変異)を有したウイルスゲノム変異体の同定に成功した。
(実施例7)J6CF/JFH−1キメラ変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA及びキメラ変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(全長HCVゲノムRNA)の作製
J6CF/JFH−1キメラ変異体HCVレプリコンRNA発現ベクターとして、発現ベクターpSGR−J6/5BSLX−JFH1/Luc及びpFGR−J6/5BSLX−JFH1に、実施例6で同定したNS4Aタンパク質領域中のアミノ酸置換(変異)A1680Eを導入した核酸構築物を作製した。pSGR−J6/5BSLX−JFH1/LucにA1680E置換を引き起こす塩基変異を導入した発現ベクターをpSGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amut/Lucと呼び、pFGR−J6/5BSLX−JFH1にA1680E置換を引き起こす塩基変異を導入した発現ベクターをpFGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amutと呼ぶ。ここで、「4Amut」とは、アミノ酸置換A1680Eを引き起こす変異を意味する。
具体的には、下記のようにして4Amutを各発現ベクターに導入した。まず1st PCR−1として、pJ6CFを鋳型として、センスプライマー3471S−2a(5’−TGGGCACCATAGTGGTGAG−3’(配列番号11))とアンチセンスプライマーA1680Eas(5’−CACCCGGTCtCCAGGCAATACGCGGCGACG−3’(配列番号12))(プライマー配列中の小文字の塩基は、導入する塩基変異を示す)を用いてPCRを行った。次に、1st PCR−2として、pJ6CFを鋳型にして、センスプライマーA1680Es(5’−ATTGCCTGGaGACCGGGTGTGTTTGCATCA−3’(配列番号13))(プライマー配列中の小文字の塩基は、導入する塩基変異を示す)とアンチセンスプライマー6542R−IH(5’−CGCACTGGCCCTCCGTGTA−3’(配列番号14))を用いてPCRを行った。さらに2nd PCRとして、上記1st PCR−1と1st PCR−2で増幅した2種類の増幅断片の混合物を鋳型として、センスプライマー3471S−2a(配列番号11)とアンチセンスプライマー6542R−IH(配列番号14)を用いてPCRを行った。得られた増幅産物を制限酵素BbvCI及びEcoRIで消化したDNA断片(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第3662番目〜第6006番目の領域に相当)により、pSGR−J6/5BSLX−JFH1/Luc及びpFGR−J6/5BSLX−JFH1中のBbvCI〜EcoRIの領域(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第3662番目〜第6006番目の領域)を置換することによって、それぞれ、pSGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amut/Luc及びpFGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amutを作製した。
作製したこれらの変異体レプリコン発現ベクターの構造を図5C及びDに示す。図中の「A1680E」は、J6CF株の前駆体タンパク質(ポリプロテイン)の第1680番目に当たるアラニン(A)のグルタミン酸(E)への置換(A1680E)を引き起こす変異(4Amut)が導入されている位置を模式的に示す。なお、図中の他の記号は図1及び図2と同様のものを指す。
これらJ6CF/JFH−1キメラ変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターpSGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amut/Luc、及びJ6CF/JFH−1キメラ変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA発現ベクターpFGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amutから、実施例2と同様の方法で、各HCVレプリコンRNAを合成した。
発現ベクターpSGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amut/Luc及びpFGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amutから合成される各HCVレプリコンRNAを、それぞれ、SGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amut/Luc及びFGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amutと呼ぶ。これらは、J6CF株とJFH−1株のゲノム由来のキメラゲノムであってA1680E変異を有する、キメラ変異体レプリコンRNAである。
配列番号1に、J6CF/JFH−1キメラ変異体HCVサブゲノムレプリコンRNAであるSGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amut/Lucの塩基配列を示す。配列番号2には、J6CF/JFH−1キメラ変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAであるFGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amutの塩基配列を、配列番号3にはその塩基配列によってコードされるHCV前駆体タンパク質全長のアミノ酸配列を示す。なお、配列番号1及び2に示す塩基配列はDNA配列として記載されているが、該配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えた配列が対応するRNA配列であり、したがってレプリコンRNAの配列も配列番号4及び5に基づいて特定することができる。
(実施例8)J6CF/JFH−1キメラ変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA導入細胞内でのRNA複製
実施例3と同様の方法で、実施例2及び実施例7で作製したHCVサブゲノムレプリコンRNA 5μgをHuh7.5.1細胞に導入(トランスフェクション)した。HCVサブゲノムレプリコンRNA導入細胞を12ウェルプレートに播種して培養し、トランスフェクション4時間後、24時間後及び48時間後に細胞を回収した。回収した細胞を、250μLの溶解バッファーPassive Lysis reagent(Promega社)で溶解し、遠心して得られた上清を試料とした。ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社)及びルミノメーターLB9507(EG&G Berthold社)を用いて、試料中のルシフェラーゼ活性を測定した。
図6にその結果を示す。図の横軸はトランスフェクション後の時間を示し、縦軸はトランスフェクション4時間後のルシフェラーゼ活性の値を基準とした時の各時点におけるルシフェラーゼ活性の相対値を示す。図6に示すように、J6CF/JFH−1キメラ変異体HCVサブゲノムレプリコンRNAであるSGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amut/Lucを導入した細胞は、ルシフェラーゼ活性が経時的に上昇した。したがって、SGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amut/Lucは自律複製することが示された。J6CFのゲノムを細胞内で効率よく複製させる上で、NS4Aタンパク質領域中のA1680E変異の存在が重要であることが示された。
SGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amut/Lucのルシフェラーゼ活性の上昇は、JFH−1株由来のN3H配列を導入したJ6CF/JFH−1キメラHCVサブゲノムレプリコンRNAであるSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/Lucでの結果とよく類似していた(図6)。A1680E変異は、J6CF株由来レプリコンRNAにおいて、JFH−1株由来のN3H配列と同様に自律複製能付与効果を有すると言うことができる。
(実施例9)J6CF/JFH−1キメラ変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA(全長HCVゲノムRNA)導入細胞からのウイルス産生
実施例3と同様の方法で、実施例2及び実施例7で作製したHCVフルゲノムレプリコンRNA 5μgをHuh7.5.1細胞に導入(トランスフェクション)した。HCVフルゲノムレプリコンRNA導入細胞を12ウェルプレートに播種して培養し、トランスフェクション1日後、2日後及び3日後に培養上清を回収した。回収した培養上清を0.45μmのフィルター(Millipore社)に通して夾雑物を除き、HCV Coreタンパク質の測定の試料とした。HCV Coreタンパク質量の測定はHCV抗原ELISAテストキット (オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス社)を用いて行った。
図7にその結果を示す。図7の横軸はトランスフェクション後の日数を示し、縦軸は培養上清中のCoreタンパク質量(fmol/L)を示す。図7に示すように、FGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amutを導入した細胞の培養上清中のCoreタンパク質量は経時的に増加した。したがって、FGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amutを導入した細胞はウイルスを産生することが示された。
(実施例10)J6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVサブゲノムレプリコンRNA及びHCVフルゲノムレプリコンRNA(全長HCVゲノムRNA)の作製
J6CF株由来の変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA(5箇所変異導入;A1680E/A2892S/R2959K/Y3003F/nt9458(c→g)の置換(変異)導入)を合成するための発現ベクターを作製した。まず、pSGR−J6CF/Lucに、実施例6で見出されたNS4Aタンパク質領域内のA1680Eアミノ酸置換(J6CF株の前駆体タンパク質の第1680番目のアラニンのグルタミン酸への置換)を引き起こす塩基変異に加えて、NS5Bタンパク質領域内のA2892S(同第2892番目のアラニンのセリンへの置換)、R2959K(同第2959番目のアルギニンのリジンへの置換)及びY3003F(同第3003番目のチロシンのフェニルアラニンへの置換)のアミノ酸置換を引き起こす塩基変異、並びにHCVゲノムの3’末端の非翻訳領域内に存在する可変領域(VR)中のnt9458(c→g)塩基変異(J6CF株の全長ゲノム配列の第9458番目のシトシンのグアニンへの変異)を導入した核酸構築物を作製した。ここで、A2892S、R2959K、Y3003F、nt9458(c→g)変異は、公知文献(Murayamaら、PLoS Pathogns.、2010年、第6巻、e1000885)に記載されている変異である。
得られたJ6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターを、pSGR−J6/4Amut+SKF+VRm3/Lucと呼び、このベクターから実施例2と同様にして作製される変異体HCVサブゲノムレプリコンRNAをSGR−J6/4Amut+SKF+VRm3/Lucと呼ぶ。なお、「SKF」はA2892S、R2959K及びY3003Fのアミノ酸置換(変異)を指し、「VRm3」はゲノム3’末端の非翻訳領域内の可変領域のnt9458(c→g)の塩基変異を指す。
同様に、J6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVフルゲノムレプリコンRNAを合成するための発現ベクターを作製した。まずpJ6CFに、NS4Aタンパク質領域内のA1680Eアミノ酸置換、NS5Bタンパク質領域内のA2892Sアミノ酸置換、R2959Kアミノ酸置換及びY3003Fアミノ酸置換をそれぞれ引き起こす塩基置換、並びにHCVゲノムの3’末端の非翻訳領域内に存在する可変領域中のnt9458(c→g)塩基変異を導入した核酸構築物を作製した。このJ6CF株由来変異体HCVフルゲノムレプリコンRNA発現ベクターを、pFGR−J6/4Amut+SKF+VRm3と呼び、このベクターから実施例2と同様にして作製される変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAをFGR−J6/4Amut+SKF+VRm3と呼ぶ。
pSGR−J6CF/Luc及びpJ6CFへのA1680E変異の導入は、実施例7と同様に行った。さらに、A1680E変異を導入した発現ベクターへのNS5Bタンパク質領域内の3つの変異(アミノ酸置換A2892S、R2959K及びY3003F;SKF)を引き起こす塩基変異とHCVゲノムの3’末端の可変領域内の塩基変異(nt9458(c→g)塩基変異)の導入は、公知文献(Murayamaら、PLoS Pathogns.、2010年、第6巻、e1000885)に記載の、アミノ酸置換SKFを伴うHCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターpSGR−J6/N3H+3’UTR−JFH1/SKFのBamHI/StuI消化DNA断片(NS4Bコード領域の一部〜NS5Bコード領域のほぼ全体を含む)、及び公知文献(Murayamaら、PLoS Pathogns.、2010年、第6巻、e1000885)記載の、VRm3を有するHCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターpSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/VR−J6m3のStuI/XbaI消化DNA断片(NS5Bコード領域の3’側の一部と3’非翻訳領域を含む)により、A1680E変異を導入した上記発現ベクター中の同じ領域の配列を置換することによって作製した。
図8に発現ベクターpSGR−J6/4Amut+SKF+VRm3/Luc及びpFGR−J6/4Amut+SKF+VRm3の構造を示す。図中の「A1680E」、「A2892S」、「R2959K」、「Y3003F」及び「nt9458(c→g)」は、これら変異が導入されている位置を模式的に示す。なお、図中の他の記号は図1及び図2と同様のものを指す。
なお、pSGR−J6/N3H+3’UTR−JFH1/SKFは、公知文献(Murayamaら、PLoS Pathogns.、2010年、第6巻、e1000885)に記載の方法により作製した。
なお、ここでは、A2892S、R2959K及びY3003F変異導入方法の例として、pSGR−J6CF/LucにA2892S、R2959K及びY3003F変異をそれぞれ導入したベクターを作製した際の方法を示す。この作製に用いた手順を以下に示す。
まずA2892S(SKFのS)の導入については、まず、1st PCR−1として、pJ6CFを鋳型として、センスプライマー7244S−RI(5’−ACCGCTTGTGGAATCGTGGA−3’(配列番号15))とアンチセンスプライマーJ65BA450Sas(5’−GGAGTACACtGaTCCGTACATCTCAAAGTTGAGG−3’(配列番号16))を用いてPCRを行った。次に、1st PCR−2として、pJ6CFを鋳型として、センスプライマーJ65BA450Ss(5’−TGTACGGAtCaGTGTACTCCGTGAGTCCCTTG−3’)(配列番号17))とアンチセンスプライマー9454R−IH(5’−GTGTGTGCCGCTCTACCGAGCGGGGAGTAG−3’(配列番号18))を用いてPCRを行った。なお、プライマーの配列中の小文字の塩基は、導入する塩基変異を示す。さらに、2nd PCRとして、上記1st PCR−1と1st PCR−2で増幅した2種類の増幅断片の混合物を鋳型として、センスプライマー7244S−RI(配列番号15)とアンチセンスプライマー9454R−IH(配列番号18)を用いてPCRを行った。得られた増幅産物を制限酵素XhoI及びStuIで消化したDNA断片(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第7523番目〜第9415番目に相当)、及びpJFH1株をStuI及びXbaIで消化したDNA断片(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9415番目〜3’末端)により、pSGR−J6CF/LucのXhoI〜XbaIの領域(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第7523番目〜3’末端)を置換した。R2959K(SKFのK)の導入については、まず、1st PCR−1として、pJ6CFを鋳型として、センスプライマー7244S−RI(5’−ACCGCTTGTGGAATCGTGGA−3’(配列番号15))とアンチセンスプライマーJ65BR517Kas(5’−ACGGCCGCTtTCCCCCCACGGGAGATGAG−3’(配列番号19))を用いてPCRを行った。次に1st PCR−2として、pJ6CFを鋳型として、センスプライマーJ65BR517Ks(5’−GTGGGGGGAaAGCGGCCGTTTGCGGTCGA−3’(配列番号20))とアンチセンスプライマー9454R−IH(5’−GTGTGTGCCGCTCTACCGAGCGGGGAGTAG−3’(配列番号18))を用いてPCRを行った。なお、プライマーの配列中の小文字の塩基は、導入する塩基変異を示す。さらに2nd PCRとして、上記1st PCR−1と1st PCR−2で増幅した2種類の増幅断片の混合物を鋳型として、センスプライマー7244S−RI(配列番号15)とアンチセンスプライマー9454R−IH(配列番号18)を用いてPCRを行った。得られた増幅産物を制限酵素XhoI及びStuIで消化したDNA断片(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第7523番目〜第9415番目)、及びpJFH1をStuI及びXbaIで消化したDNA断片(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9415番目〜3’末端)を用いて、pSGR−J6CF/LucのXhoI〜XbaIの領域(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第7523番目〜3’末端を置換した。Y3003F(SKFのF)の導入については、まず、1st PCR−1として、pJ6CFを鋳型として、センスプライマー7244S−RI(5’−ACCGCTTGTGGAATCGTGGA−3’(配列番号15))とアンチセンスプライマーJ65BY561Fas(5’−CACGCTGTGAaAAATGTCGCCCCCGCCGG−3’(配列番号21))を用いてPCRを行い、次に1st PCR−2として、pJ6CFを鋳型として、センスプライマーJ65BY561Fs(5’−GGCGACATTTtTCACAGCGTGTCGCGTGC−3’(配列番号22))とアンチセンスプライマー9454R−IH(5’−GTGTGTGCCGCTCTACCGAGCGGGGAGTAG−3’(配列番号18))を用いてPCRを行った。なお、プライマーの配列中の小文字の塩基は、導入する塩基変異を示す。さらに2nd PCRとして、上記1st PCR−1と1st PCR−2で増幅した2種類の増幅断片の混合物を鋳型として、センスプライマー:7244S−RI(配列番号15)とアンチセンスプライマー9454R−IH(配列番号18)を用いてPCRを行った。得られた増幅産物を制限酵素XhoI及びStuIで消化したDNA断片(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第7523番目〜第9415番目)、及びpJFH1をStuI及びXbaIで消化したDNA断片(JFH−1株の全長ゲノムの塩基番号第9415番目〜3’末端)を用いて、pSGR−J6CF/LucのXhoI〜XbaIの領域(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第7523番目〜3’末端)を置換した。
pSGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1/VR−J6m3は、公知文献(Murayamaら、PLoS Pathogns.、2010年、第6巻、e1000885)に記載の方法により作製した。なお、ここでは、3’非翻訳領域内の可変領域にnt9458(c→g)変異を導入する方法の例として、pSGR−J6CF/Lucにnt9458(c→g)変異を導入したベクターを作製した際の方法を示す。まず、1st PCR−1として、pJ6CFを鋳型として、センスプライマー9254S−IH(5’−GTGAAGACCAAGCTCAAACTCACTCC−3’(配列番号23))とアンチセンスプライマーJ6VRm3as(5’−TATGGAGTGTAcCTAATGTGTGCCGCTCTAC−3’(配列番号24))を用いてPCRを行い、次に、1st PCR−2として、pJ6CFを鋳型として、センスプライマーJ6VRm3s(5’−CACACATTAGgTACACTCCATAGCTAACTGTC−3’(配列番号25))とアンチセンスプライマーM13R(5’−CAGGAAACAGCTATGAC−3’(配列番号26))を用いてPCRを行った。なお、プライマーの配列中の小文字の塩基は、導入する塩基変異を示す。さらに、2nd PCRとして、上記1st PCR−1と1st PCR−2で増幅した2種類の増幅断片の混合物を鋳型として、センスプライマー9254S−IH(配列番号23)とアンチセンスプライマーM13R(配列番号26)を用いてPCRを行った。得られた増幅産物を制限酵素SgrAI及びXbaIで消化したDNA断片(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第9328番目〜3’末端)を用いて、pSGR−J6CF/LucのSgrAI〜XbaIの領域(J6CF株の全長ゲノムの塩基番号第9328番目〜3’末端)を置換した。この結果nt9458(c→g)変異を含むJ6CF株変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターを作製できた。
次いで、J6CF株変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA及びJ6CF株変異体HCVフルゲノムレプリコンRNAは、上記で作製したJ6CF株変異体HCVレプリコンRNA発現ベクターから実施例2と同様の方法で合成した。
配列番号4に、J6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVサブゲノムレプリコンRNAであるSGR−J6+4Amut+SKF+VRm3/Lucの塩基配列を示す。配列番号5には、J6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVフルゲノムレプリコンRNAであるFGR−J6+4Amut+SKF+VRm3の塩基配列を、配列番号6にはその塩基配列によってコードされる変異体HCV前駆体タンパク質全長のアミノ酸配列を示す。なお、配列番号4及び5に示す塩基配列はDNA配列として記載されているが、該配列中のチミン(t)をウラシル(u)に読み替えた配列が対応するRNA配列であり、したがってレプリコンRNAの配列も配列番号4及び5に基づいて特定することができる。
(実施例11)J6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVサブゲノムレプリコンRNA導入細胞内でのRNA複製
実施例3と同様の方法で、実施例10で作製したJ6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVサブゲノムレプリコンRNA 5μgをHuh7.5.1細胞に導入(トランスフェクション)した。HCVサブゲノムレプリコンRNA導入細胞を12ウェルプレートに播種して培養し、トランスフェクション4時間後、24時間後及び48時間後に細胞を回収した。回収した細胞を、250μLの溶解バッファーPassive Lysis reagent (Promega社)で溶解し、遠心して得られた上清を試料とした。ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社)及びルミノメーターLB9507(EG&G Berthold社)を用いて、試料中のルシフェラーゼ活性を測定した。
図9にその結果を示す。図の横軸はトランスフェクション後の時間を示し、縦軸はトランスフェクション4時間後のルシフェラーゼ活性の値を基準とした時の各時点におけるルシフェラーゼ活性の相対値を示す。図9に示すように、J6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVサブゲノムレプリコンRNAであるSGR−J6/4Amut+SKF+VRm3/Lucを導入した細胞は、ルシフェラーゼ活性が経時的に上昇した。したがって、SGR−J6/4Amut+SKF+VRm3/Lucは自律複製することが示された。A1680E、A2892S、R2959K、Y3003F及びnt9458(c→g)の5箇所の変異が、キメラではないJ6CFゲノムを細胞内で複製させるために重要であることが明らかとなった。
(実施例12)J6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVフルゲノムレプリコンRNA(全長HCVゲノムRNA)導入細胞からのウイルス産生
実施例3と同様の方法で、実施例2、7及び10で作製したHCVフルゲノムレプリコンRNA 5μgをHuh7.5.1細胞に導入(トランスフェクション)した。HCVフルゲノムレプリコンRNA導入細胞を12ウェルプレートに播種して培養し、トランスフェクション1日後、2日後及び3日後に培地を回収した。回収した培養上清を0.45μmのフィルター(Millipore社)に通して夾雑物を除き、HCV Coreタンパク質の測定の試料とした。HCV Coreタンパク質量の測定はHCV抗原ELISAテストキット(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス社)を用いて行った。
図10にその結果を示す。図10の横軸はトランスフェクション後の日数を示し、縦軸は培養上清中のCoreタンパク質量(fmol/L)を示す。図10に示すように、FGR−J6/4Amut+SKF+VRm3を導入した細胞の培養上清中のCoreタンパク質量は経時的に増加した。したがって、FGR−J6/4Amut+SKF+VRm3を導入した細胞はウイルスを産生することが示された。
(実施例13)J6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVフルゲノムレプリコンRNA(全長HCVゲノムRNA)導入細胞から産生されたウイルス(ウイルス粒子)の感染性
実施例12で得られたHCVフルゲノムレプリコンRNA導入細胞の培養上清は産生されたウイルス(ウイルス粒子)を含むと考えられることから、その培養上清の感染力価を測定した。感染力価の測定は、トランスフェクション3日後の培養上清を用いて行った。新たなHuh7.5.1細胞をポリ−D−リシンコーティング96ウェルプレート(BD社)に1x104/ウェルとなるように播種し、翌日、この細胞に、希釈した上記培養上清を添加して細胞にウイルスを感染させた。感染処理3日後に細胞をメタノールで固定し、感染した細胞を、抗Core抗体及びAlexaFluor 488−コンジュゲート抗マウスIgG(Molecular Probes社)を用いて免疫染色した。蛍光顕微鏡下で感染フォーカス数を計測した。培養上清の感染力価は、ffu/mL(培地1mL当たりの感染フォーカス形成数(ffu;focus forming unit))で表した。
その結果を表1に示す。
その結果、HCVフルゲノムレプリコンRNAである、FGR−J6/N3H+5BSLX−JFH1、FGR−J6/5BSLX−JFH1+4Amut、及びFGR−J6/4Amut+SKF+VRm3をそれぞれ導入した細胞の培養上清について高い感染力価が測定された。
この結果、J6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVフルゲノムレプリコンRNAであるFGR−J6/4Amut+SKF+VRm3を導入した細胞から産生されたウイルス粒子も高い感染性を有することが示された。
一方、J6CF株HCVフルゲノムレプリコンRNAであるFGR−J6CF導入細胞では培養上清の感染力価は0となり、J6CF株HCVフルゲノムレプリコンRNAは、それ単独では、感染性ウイルス粒子の産生をもたらさないことが示された。
(実施例14)異なる組み合わせの変異を導入したHCVサブゲノムレプリコンRNAの作製
実施例10で変異体に導入した5箇所の変異を、異なる組み合わせでHCVサブゲノムレプリコンRNAに導入し、その効果を調べた。具体的には、まず、NS4Aタンパク質領域内のA1680E変異(4Amut変異)、NS5Bタンパク質領域内のA2892S、R2959K及びY3003Fの3つの置換(SKF変異)、3’非翻訳領域の可変領域内のnt9458(c→g)の変異(VRm3変異)の3種の変異のうち、1種又は2種を組み合わせて導入したHCVサブゲノムレプリコンRNAを作製した。
これらHCVサブゲノムレプリコンRNAを合成するための発現ベクターは、実施例10に記載した方法に従ってベクターpSGR−J6CF/Lucに各変異を導入することにより作製した(図11及び12)。図11には、1種の変異を導入したHCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクター、図12には、2種の変異を導入したHCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターの構造を示す。図11及び12中の記号は、図1、2及び8と同様のものを指す。
さらに、4Amut変異及びVRm3変異に加えてY3003F変異を単独でpSGR−J6CF/Lucに導入した核酸構築物も同様にして作製した。ここで得られた発現ベクターをpSGR−J6/4Amut+Y3003F+VRm3/Lucと呼ぶ。このHCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターの構造を図13に示す。図中の記号は、図1、2及び8と同様のものを指す。
次いで、実施例2と同様の方法で、上記HCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターからHCVサブゲノムレプリコンRNAを作製した。なお、HCVサブゲノムレプリコンRNA発現ベクターpSGR−J6/4Amut/Lucから作製されたHCVサブゲノムレプリコンRNAをSGR−J6/4Amut/Lucと呼び、他のHCVサブゲノムレプリコンRNAについても同様に名づけた。
(実施例15)異なる組み合わせの変異を含む各種変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA導入細胞内でのRNA複製
実施例3と同様の方法で、実施例10及び実施例14で作製した各J6CF株由来変異体HCVサブゲノムレプリコンRNA 5μgをHuh7.5.1細胞に導入(トランスフェクション)した。HCVサブゲノムレプリコンRNA導入細胞を12ウェルプレートに播種して培養し、トランスフェクション4時間後、24時間後及び48時間後に細胞を回収した。回収した細胞を、250μLの溶解バッファーPassive Lysis reagent(Promega社)で溶解し、遠心して得られた培養上清を試料とした。ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社)及びルミノメーターLB9507(EG&G Berthold社)を用いて、試料中のルシフェラーゼ活性を測定した。対照として、変異を有しないHCVサブゲノムレプリコンRNA SGR−JFH1/Luc及びSGR−J6CF/Lucを同様に細胞に導入して培養し、培養上清のルシフェラーゼ活性を測定した。
図14にその結果を示す。図の横軸は各HCVサブゲノムレプリコンRNAを示し、縦軸はトランスフェクション4時間後のルシフェラーゼ活性の値を基準とした時の各時点(24時間後、48時間後)におけるルシフェラーゼ活性の相対値を示す。図14に示すように、陽性対照のSGR−JFH1/Lucと同様に、J6CF株由来変異体(5箇所変異導入)HCVサブゲノムレプリコンRNAであるSGR−J6/4Amut+SKF+VRm3/Lucを導入した細胞では、ルシフェラーゼ活性が経時的に上昇した。一方、他の組み合わせの変異を有するHCVサブゲノムレプリコンRNAを導入した細胞ではルシフェラーゼ活性は経時的に減少した。したがって、SGR−J6/4Amut+SKF+VRm3/Lucのみが自律複製することが示された。J6CF株ゲノム由来レプリコンを細胞内で効率良く複製させるためには、上記5箇所の変異が全て重要であることが示された。