本発明は、一次汚染物が付着した回路素子およびアルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスが導入される処理空間を有し、ガス導入口およびガス排気口を有する処理チャンバと、処理空間内に設けられたアノードおよびカソードと、アノードとカソードとの間に高周波の電界を発生させ、混合ガスのプラズマを生成させる電源装置と、ガス導入口から処理空間内に混合ガスを供給するガス供給部、とを備え、処理空間内において、一次汚染物が付着した回路素子を、混合ガスのプラズマによりクリーニングする一次汚染物クリーニング処理を実行するプラズマクリーニング装置のメンテナンス方法に関する。
本発明のメンテナンス方法では、処理チャンバの内壁、並びに、アノードおよびカソードに付着した、上記の混合ガス内のフルオロカーボンに由来する二次汚染物をクリーニングする二次汚染物クリーニング処理を実行する。二次汚染物クリーニング処理は、処理空間に回路素子が存在しない状態で、アルゴンガスをガス供給部により処理空間内に供給し、電源装置によりアノードとカソードとの間に高周波の電界を発生させ、アルゴンガスのプラズマを生成させることにより二次汚染物をクリーニングする。これにより、処理チャンバ内に残留した二次汚染物により、回路素子が汚染されるのを防止することができる。
プラズマクリーニング装置は、アルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスのプラズマにより回路素子をクリーニング(一次汚染物クリーニング処理。以下、プラズマクリーニングともいう)することで、プラズマパワーを過度に高めることなく、かつ物理的なエッチング処理だけでは除去が困難な汚染物(例えばシロキサン)でも効果的に除去することができる。そして、本メンテナンス方法によれば、プラズマクリーニング装置を、一次汚染物クリーニング処理を実行するための機構を流用してメンテナンス(二次汚染物クリーニング処理)することができる。そのため、メンテナンスを容易に実行することができるので、フルオロカーボンに由来する二次汚染物により回路素子が汚染されるのを容易に防止することができる。
また、メンテナンスのための特別な機構を他に設けたり、メンテナンスのための薬剤等を他に準備したりする必要がないので、プラズマクリーニング装置の機構を簡素化することができるとともに、ランニングコストの増大を抑えることができる。
プラズマクリーニングは、例えば、回路素子の電極間接合の前処理として行われる。このような前処理は、例えば、半導体発光装置(LED装置)の製造過程において行われる。また、プラズマクリーニングは、回路基板の表面にコーティングされるソルダーレジストによる電極部の汚染物を除去するのにも有効である。
処理空間とは、その内部に汚染物が付着した回路素子が配置され、かつその内部において回路素子にプラズマが照射される空間である。通常、プラズマクリーニング装置が備える処理チャンバ内の空間が処理空間となる。処理空間内には、通常、その内部に滞留するガスをプラズマ化するための電界を形成するアノードとカソードとが配置されている。アノードおよびカソードは、それぞれ高周波電源に接続されている。
汚染物(一次汚染物)は、特に限定されないが、回路素子が具備する電極の表面に形成される金属酸化物被膜、金属酸化物被膜の表面を覆う有機物、シロキサンなどが含まれる。また、シロキサンには、オルガノポリシロキサン、酸化ケイ素などが含まれる。
回路素子は、特に限定されないが、半導体素子、回路基板、チップ部品などが含まれる。半導体素子には、ベアチップ、電子部品パッケージなどが含まれ、回路基板には、樹脂基板、ガラス基板、セラミックス基板などが含まれる。
ここで、混合ガスにおける、アルゴンに対するフルオロカーボンのモル比は、50モル%以上であることが好ましい。混合ガスに含まれるフルオロカーボンの割合を上記範囲とすることで、フルオロカーボンに由来するプラズマ成分の分布が均一化され、化学的エッチングの効果が高められる。これにより、電極表面に形成される酸化物被膜の表面に付着している有機物やシロキサンが効率良く除去される。その結果、アルゴンに由来するプラズマ成分による物理的エッチングの効果、すなわち酸化物被膜を除去する効果も高められる。
前記混合ガスにおける、アルゴンに対するフルオロカーボンのモル比は、100モル%以上であることが更に好ましい。すなわち、混合ガス中におけるアルゴンの濃度は、モル比では、フルオロカーボン以下の濃度とすることが好ましい。このように、アルゴン濃度を比較的低く設定することで、フルオロカーボンに由来するプラズマ成分の密度を高くし、化学的エッチングの効果を高めることができる。
本メンテナンス方法の対象物としてのプラズマクリーニング装置を使用したプラズマクリーニング方法は、例えば、半導体発光素子と、半導体発光素子を搭載するマウント基板とを含む回路素子に特に適している。半導体発光素子とマウント基板との接合には、シリコーン樹脂を含むダイボンディングペーストが使用されることが多い。従って、回路素子にはシロキサンが汚染物として付着しやすい。また、マウント基板は、半導体発光素子を囲むように形成され、半導体発光素子からの出射光を反射する反射面を備える。そのため、電極の物理的エッチングによる反射面の汚染を抑える必要がある。よって、プラズマパワーを過度に高める必要がなく、シロキサンを含む汚染物を効果的に除去できる上記一次汚染物クリーニング処理が有効である。
本明細書中で、フッ素原子濃度とは、処理空間内に存在するガス中のフッ素含有成分のモル濃度を意味する。フッ素含有成分が大気中に放出されると、HFが生成し、人体に影響を及ぼす可能性がある。一方、フッ素原子濃度を、例えば3ppm以下、更には0.5ppm以下にまで低減することで、そのような懸念を排除することができる。フッ素原子濃度は、フッ素含有成分を検出するセンサで測定し、モニタすることができる。
プラズマクリーニング装置は、汚染物が付着した回路素子が搬入される処理空間を有し、ガス導入口およびガス排気口を有する処理チャンバと、処理空間内に設けられたアノードおよびカソードと、アノードとカソードとの間に高周波電界を発生させ、これによりプラズマを生成させる電源装置と、回路素子をクリーニングする期間の少なくとも一部において、ガス導入口にアルゴンとフルオロカーボンを供給するガス供給部と、ガス排気口から処理空間内を排気する減圧ポンプと、ガス導入口を開閉する導入バルブと、ガス排気口を開閉する開度可変の排気バルブと、排気バルブの開度を制御する制御部と、を具備する。制御部は、回路素子をクリーニングする期間は、排気バルブの開度をα%、ただしα<100、に設定するとともに、回路素子をクリーニングする期間の前後では、排気バルブを全開:開度100%に設定するのがよい。排気バルブの開度だけでなく、ガス供給部からガス導入口に供給されるガス量、減圧ポンプの出力および導入バルブの開度も、それぞれ所定の制御部により制御することができる。このような装置を用いると、処理空間内の圧力は、制御部の指令により、プラズマクリーニングに適した所定圧力に制御することが可能である。
二次汚染物クリーニング処理は、一次汚染物クリーニング処理を所定回数実行する毎に実行するのが好ましい。定期的に二次汚染物クリーニング処理を実行することで、より確実に、二次汚染物により、回路素子が汚染されるのを防止することができる。
また、本発明の他の形態に係るプラズマクリーニング装置のメンテナンス方法においては、一対の電極の少なくとも一方の色調が検出され、検出された色調が基準値を超えると二次汚染物クリーニング処理が実行される。
二次汚染物はプラズマを発生させるための電極にも付着する。二次汚染物が電極に付着すると電極の色調が変化する。このため、本形態においては、電極の色調に基づいて、メンテナンスの実行時期を判断する。例えば、二次汚染物のクリーニングが必要となった状態での電極の色調を実験等により予め求めておき、求められた色調に基づいて、基準値を設定する。そして、プラズマクリーニング装置が回路素子のクリーニングを重ねることで変化していく電極の色調を検出し、検出された色調が基準値に達する毎に二次汚染物クリーニング処理を実行する。これにより、メンテナンスが必要となったときにだけメンテナンスを実行することができるので、二次汚染物による回路素子の汚染を確実に防止するとともに、プラズマクリーニング装置の稼働率を最大化することができる。
また、電極の色調によりメンテナンスの実行時期を判断することで、回路素子と近接して配置されることが多い電極(特に、カソード)の汚染状況に基づいてメンテナンスの実行時期を判断できる。したがって、他の部分(例えばチャンバ内壁)の色調を検出する場合よりも、より適切にメンテナンスの実行時期を判断することができる。なお、電極以外の部分(例えばチャンバ内壁)の色調を検出することで、メンテナンスの実行時期を電極と同等以上に適切に判断しえる場合には、その部分の色調を検出してもよい。
また、色調とは、色の濃淡、明暗および強弱の少なくとも1つを含む概念である。色調を検出する方法は特に限定されないが、条件を一定にしての色調検出が容易であることから、光電色彩計を使用することで、簡易且つ安価な構成で色調を検出することができる。なお、色調検出手段として、分光光度計を使用することもできる。
以下、本発明のメンテナンス方法の実施形態について、より具体的に説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を限定するものではない。
まず、回路素子のプラズマクリーニングを行うための装置の一例について、図1を参照して詳しく説明する。
図1は、プラズマクリーニング装置20の構造を示す模式図である。プラズマクリーニング装置20は、プラズマを発生させる空間を提供する処理チャンバ11を具備する。処理チャンバ11内部の下方および上方には、カソードを兼ねた支持台12およびアノード13が対向配置して設けられている。処理チャンバ11の内部は、ガス導入口14を介してアルゴンやフルオロカーボンを供給するガス供給部19と接続されている。一方、処理チャンバ11の内部は、ガス排気口15を介して減圧ポンプ16と接続されている。
処理チャンバ11のガス導入口14およびガス排気口15には、それぞれを開閉する導入バルブ21および排気バルブ22が設けられている。減圧ポンプ16を稼動させるとともに排気バルブ22を開くことにより、処理チャンバ11の内部が減圧される。減圧された処理チャンバ11の内部にガスを導入した状態で、高周波電源17によりアノード12とカソード13との間に高周波電圧を印加すると、導入されたガスがプラズマ化される。ガス流量および減圧ポンプ16の出力の調整は、制御部18により各々制御される。また、導入バルブ21および排気バルブ22の開度も制御部18により各々制御される。
以下、図1および図2に基づいて、プラズマクリーニング装置20が行うプラズマクリーニング(一次汚染物クリーニング処理)の第一処理の手順について説明する。
まず、処理チャンバ内に、回路素子を搬入する(S1)。図1を参照すると、処理チャンバ11の内部に配設された支持台12に、図略の密閉扉から、被処理物である回路素子(例えば半導体発光素子が固定されたマウント基板6)を載置する。次に、処理チャンバ11の密閉扉を閉じ、処理チャンバ内を密閉する(S2)。次に、排気バルブ22が全開(開度100%)の状態で、ガス排気口15を介して、減圧ポンプ16により処理チャンバ11内の排気を行う(S3)。
その後、処理チャンバ11内の圧力が20Pa以下の第一設定値に減圧されるまで、排気バルブ22が全開の状態で排気が継続される。その間、制御部18は、定期的にチャンバ内の圧力が第一設定値に達したかどうかを判断する(S4)。このような判断は、例えば、処理チャンバ内に設置された図略の圧力センサからの信号を制御部18が処理することで行われる。処理チャンバ内の圧力が第一設定値に達したと判断された場合、排気バルブ22の開度が中開きの所定開度に変更される(S5)。このとき、排気バルブ22の開度は、その後、ガスが処理チャンバ内に導入された状態でプラズマクリーニングに適した所定圧力が達成されるように予め設定される。このときの排気バルブ22の開度は、例えば90%未満であればよく、80%未満であることが好ましい。
排気バルブ22の開度を変更後、処理チャンバ内に、ガス供給装置19を通じて、アルゴンおよびフルオロカーボンを、それぞれ所定の流量で同一又は個別の経路から導入する(S6)。図1を参照すると、ガス導入口14から、アルゴンおよびフルオロカーボン(例えばCF4)を含んだ混合ガスが導入される。このとき、所定流量に調整されたアルゴンとフルオロカーボンとを予め混合し、混合ガスとしてガス導入口14から導入してもよく、アルゴンとフルオロカーボンを、複数の導入口から、それぞれの流量を制御しながら個別に導入してもよい。いずれにしても、アルゴンとフルオロカーボンは、処理チャンバ11の内部で混合される。このとき、減圧ポンプ16による排気は継続されているが、排気バルブ22は中開きの状態である。従って、処理空間内の圧力は、徐々に、プラズマクリーニングに適した所定圧力(例えば5〜20Paの第二設定値)に収束する。
次に、チャンバ内の圧力が第二設定値に達したかどうかが判断される(S7)。このような判断は、例えば、処理チャンバ11内に設置された圧力センサからの信号を制御部18が処理することで行われる。処理チャンバ11内の圧力が第二設定値に達したと判断された場合には、処理空間内に高周波の電界を発生させる(S8)。これにより、混合ガスがプラズマ化され、回路素子のクリーニングを行う第一処理が開始される。このとき、高周波電源のパワーは、例えば50〜300W程度であることが好ましい。
第一処理中は、ガスの導入を継続的に行うとともに、排気バルブの開度を一定に維持して排気を継続すればよい。これにより、処理チャンバ11内をプラズマクリーニングに適した所定圧力に維持することができる。よって、処理チャンバ11内に、プラズマクリーニングに適したプラズマ成分の密度や分布が達成される。このとき、処理チャンバ内の圧力を定期的にモニタし、圧力に応じて排気バルブ22の開度を変更するフィードバック制御を行ってもよい。
第一処理の時間(所定時間T1)は、例えば5〜30秒間が好ましい。所定時間T1の経過は、プラズマクリーニング装置に備えられた図略のタイマーにより検知すればよい。所定時間T1が経過すると(S9)、制御部18は、フルオロカーボンの処理チャンバ11内への導入を停止する(S10)。これにより、第一処理が終了する。
第一処理の終了後、処理チャンバ11内へのアルゴンの導入と高周波電界の印加を継続することにより、引き続き、第二処理を行ってもよい。以下、第二処理について説明する。
第二処理では、アルゴンのみのプラズマにより、処理チャンバ11内の回路素子6のクリーニングが行われる。第二処理により、処理チャンバ11内に残留するフルオロカーボン由来の成分が除去または低減される。これにより、回路素子および装置に対するクリーニング効果に加え、フッ化水素の生成や拡散を抑制する効果が得られる。
第二処理の時間(所定時間T2)は、例えば1〜20秒間が好ましい。所定時間T2の経過は、プラズマクリーニング装置に備えられた図略のタイマーにより検知すればよい。所定時間T2が経過すると(S21)、制御部18は、処理空間内への高周波電界の印加を停止する(S22)。これにより、第二処理が終了する。その後、処理チャンバ11内へのアルゴンの導入も停止される(S23)。なお、処理チャンバ11内へのアルゴンの導入を停止してから、高周波電界の印加を停止してもよい。
次に、処理チャンバ11内へのガスの導入を停止した状態で、排気バルブ22を全開に設定し(S14)、処理チャンバ11内のガスを排気する。これにより、短時間で排気が完了する。このとき、処理チャンバ内の圧力が20Pa以下の第三設定値になるまで排気することが好ましい。そのような観点から排気に要する所定時間T3を予め設定し、図略のタイマーにより時間管理を行ってもよい。
次に、処理チャンバ内の圧力が第三設定値に達したか、または、所定時間T3が経過したか(すなわち排気が完了したか)どうかが判断される(S15)。排気が完了するまで、排気バルブ22は全開の状態で維持される。処理チャンバ11内の圧力が第三設定値に達し、または、所定時間T3が経過した場合、制御部18は、排気が完了したと判断し、排気バルブ22を完全に閉じる(S16)。その後、処理チャンバ内の空間を大気に開放し(S17)、処理チャンバの密閉扉を開くことで(S18)、回路素子の外部への取り出しが可能となる(S19)。
上記実施形態では、第一処理後に、引き続き第二処理を行う場合について説明したが、第二処理は省略してもよい。第二処理を省略する場合、第一処理の所定時間T1が経過した時点で、フルオロカーボンおよびアルゴンの処理チャンバ11内への導入を停止すればよい。そして、処理チャンバ11内へのガスの導入を停止する前または後に、処理空間内への高周波電界の印加を停止すればよい。その後、上記S14以降と同様に、排気バルブ22を全開に設定して、排気を行えばよい。
次に、処理チャンバ11に供給するアルゴンに対するフルオロカーボンのモル比について説明する。
アルゴンに対するフルオロカーボンのモル比は、アルゴンを100モル%とした場合、50モル%以上であり、100モル%以上であることが好ましい。フルオロカーボンの比率が高くなるほど、フルオロカーボンに由来するプラズマ成分の密度が高くなるとともに分布が均一化され、化学的エッチングの効果とともに、アルゴンのプラズマによる物理的エッチングの効果も得られる。その結果、回路素子間におけるエッチングレートのばらつきが抑制される。
ただし、アルゴンによる物理的エッチングの効果を十分に得るためには、アルゴンに対するフルオロカーボンのモル比を、アルゴンを100モル%とした場合、500モル%以下とすることが好ましい。これにより、回路素子の電極表面の酸化物被膜や汚染物を物理的エッチングにより除去する効果を確保することが容易となる。
図3は、アルゴンを100モル%とした場合のアルゴンに対するフルオロカーボンのモル比と、SiO2に対するエッチングレートのばらつきとの関係を示すグラフである。図3は、フルオロカーボンのモル比が高いほど、エッチングレートのばらつきが小さいことを示している。また、アルゴンを100モル%とした場合、フルオロカーボンのモル比が50モル%以上の範囲でエッチングレートのばらつきが小さくなり、100モル%以上の範囲でばらつきが更に小さくなることが理解できる。
次に、汚染物が除去される際のメカニズムについて考察する。
シロキサン等の汚染物の除去は、次のようなメカニズムによるものと考えられる。ここでは、フルオロカーボンとしてCF4を用いる場合を例にとって説明する。
アルゴン(Ar)が高周波電圧によりプラズマ化されると、電子(e-)とArイオンを生成する。CF4が高周波電圧によりプラズマ化されると、CF*(*はラジカルを示す。以下同様)、CF2*、CF3*、CF4*等を生成する。そして、ArイオンはCF*等とともに、反応性イオンエッチング(RIE(Reactive Ion Etching))の原理により、シロキサンのSi−O間の結合を切断する。このメカニズムは、ArイオンアシストによるRIEであり、アルゴンプラズマによる単純な物理的エッチングとは異なっている。ここでは、フルオロカーボンから生成されるラジカルとシロキサン由来の物質との化学反応と、アルゴンイオンの衝突による物理的エッチングとの相乗作用が得られる。このようなメカニズムにより、シロキサンは分解され、SiF4のような蒸気圧の高い物質となって除去される。シロキサン結合の酸素はCO2等のガスとなって除去されると考えられる。また、電極表面等に形成されている金属酸化物被膜も除去される。
上記プラズマクリーニング方法は、例えば、少なくとも一つの電極を表面に有する半導体発光素子を、シリコーンを含むダイボンディングペーストにより、表面に少なくとも一つの電極回路を備えるマウント基板上に固定する工程と、半導体発光素子を実装したマウント基板を加熱することにより、ダイボンディングペーストを硬化させる工程と、ダイボンディングペーストを硬化させた後、半導体発光素子を固定したマウント基板を、アルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスのプラズマによってクリーニングするプラズマ処理を行う工程と、その後、少なくとも一つの電極と電極回路とをワイヤボンディングにより接続する工程と、を備える半導体発光装置の製造方法に適用することができる。以下、図4を参照しながら、半導体発光装置の製造方法に、上記プラズマクリーニング方法を適用した場合について説明する。
まず、図4(a)に示すように、素子電極1a,1bを表面に有する半導体発光素子2(第1回路素子)を、シリコーンを含むダイボンディングペースト3により、マウント基板6(第2回路素子)の表面に固定する。マウント基板6の表面は、半導体発光素子2が配置される実装領域5aと、電極回路とを備えている。電極回路は、互いに絶縁された基板電極4a,4bを具備し、これらは素子電極1a,1bとそれぞれ接続される。
半導体発光素子2の種類は、特に限定されないが、具体的には、例えば、可視光、赤外光等の波長領域の光を発する半導体発光素子が特に限定なく用いられる。これらは、例えばGaNなどの半導体材料から作製することができる。
電極回路を備えるマウント基板は、リードフレーム4と樹脂成型によって形成された樹脂部5から構成されている。リードフレーム4は基板電極4a,4bとなる部材である。樹脂部5はリードフレーム4を上下に挟むように形成されており、その上部には実装領域5aに固定された半導体発光素子2を取り囲むように形成された反射面(reflector)5bを備える。この反射面の表面には銀メッキが施されている。従って、半導体発光素子2から出射した光は基板電極4a,4b表面と反射面5bとによって上方へ反射される。
マウント基板の構造としては、上記のような金属製のリードフレームと樹脂部を主体とするものに限定されず、プリプレグと銅箔との積層板や、窒化アルミニウム基板のようなセラミクス基板等を用いることができる。また、反射面5bとしては、特に限定されないが、光沢のある金属メッキ以外にポリフェニルフタルアミド(PPA)等の白色樹脂の表面をそのまま反射面として利用する構造でもよい。
電極回路としての基板電極4a,4bを形成する金属としては、光沢のある銀または銀を主成分とする銀合金が好ましく用いられる。電極回路は、基板電極4aと4bとを絶縁する領域を除き、反射面で囲まれた領域の全体に形成することが高輝度を得る観点から好ましい。さらに高輝度を得る観点から、基板電極4aと4bの表面に銀メッキを施すことが好ましい。
例えば、図4(a)に示すように、マウント基板6の所定の位置に、シリコーンを含むダイボンディングペースト3を塗布した後、半導体発光素子2を固定する。ダイボンディングペースト3は、例えば、ディスペンサーを用いて、マウント基板の所定の実装位置に塗布される。
シリコーンを含むダイボンディングペーストとしては、シリコーンを含む熱硬化性のダイボンディングペーストであれば、特に限定なく用いることができる。シリコーンは、ポリシロキサン構造を有し、かつ有機基を含むポリマーの総称である。
次に、半導体発光素子2が固定されたマウント基板6を加熱することにより、ダイボンディングペースト3を硬化させる。加熱温度は、ダイボンディングペーストの種類により適切に選択される。加熱手段は特に限定されないが、例えば、バッチ式もしくはインライン式のキュア装置が用いられる。このとき、電極回路等が酸化されないように、加熱の雰囲気には、窒素、アルゴンなどの不活性ガスが導入される。電極回路が銀や銀合金を具備する場合、これが酸化されると黒色に変化するため、半導体発光装置の発光効率が低下してしまう。
上記のように、ダイボンディングペースト3が硬化されることにより、半導体発光素子2がマウント基板6に固定される。このとき、ダイボンディングペーストに含まれるシリコーンの未反応物等が、分解したりすることにより気化する。そして、半導体発光素子2の表面に形成された素子電極1a,1bや、マウント基板6の表面に形成された電極回路と接触し、その場で凝縮又は反応し、その結果オルガノポリシロキサン等の汚染物が生成していると考えられる。
次に、図4(b)に示すように、半導体発光素子2を固定したマウント基板6に対し、アルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスのプラズマによってプラズマ処理(プラズマクリーニング)を行う。プラズマクリーニングは、図1を参照して説明したように、高周波電源に接続されたアノードとカソードを具備する処理空間内で行われる。フルオロカーボンは、炭化水素の少なくとも一つの水素をフッ素に置き換えた化合物でれば、特に限定なく用い得るが、その具体例としては、例えば、CF4、C2F6、C3F8、CHF3、CH2F2等が挙げられる。
次に、処理チャンバ11の内圧を適度な圧力に制御しながら、高周波電源17により、アノード12とカソード13との間に高周波電圧を印加して、導入されたアルゴンおよびフルオロカーボンをプラズマ化する。そして、プラズマ雰囲気に半導体発光素子が固定されたマウント基板を暴露させた状態で、所定時間T1を経過させることにより、第一処理が終了する。所定時間T1は、例えば5〜20秒間が好ましい。
図4(b)に示すように、フルオロカーボン由来のラジカルは、オルガノポリシロキサン等の汚染物に接触すると反応し、蒸気圧の高いガスを生成する。蒸気圧の高いガスは、減圧ポンプの作用により外部に排気される。これにより、オルガノポリシロキサン等の汚染物により覆われていた電極表面等の金属酸化物被膜が露出する。一方、プラス電荷を有するアルゴンイオンは、マイナスに帯電したカソード12に電気的に引き寄せられ、半導体発光素子2やマウント基板6に衝突する。この工程により、電極表面等に形成された金属酸化物被膜が除去される。このように、フルオロカーボン由来の活性種(ラジカル)による化学的なエッチングと、アルゴンイオンによる物理的なエッチングとが、協働的に作用する。
なお、半導体発光素子を固定したマウント基板を、アルゴンおよびフルオロカーボンの混合ガスのプラズマによってクリーニングする第一処理を行った後、さらに、アルゴンプラズマによってクリーニングする第二処理を行ってもよい。
次に、図4(c)に示すように、プラズマクリーニングされた半導体発光素子2を固定したマウント基板6において、素子電極1a,1bと基板電極4a,4bとを、それぞれ金線8a,8bで接続する。本実施形態においては、素子電極1a,1bと基板電極4a,4bとを接続する方法として、金線で接続するワイヤボンディング法を採用している。このようにして、半導体発光素子2とマウント基板6とが電気的に接続される。
上記のように形成された接続部は、図4(d)に示すように、通常、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の透明樹脂9で封止されて保護される。なお、透明樹脂には、必要に応じて、波長変換により、半導体発光素子2の発光色を変換するための蛍光体を含んでもよい。完成した半導体発光装置の上面図を図5に示す。
上述したように、アルゴンおよびフルオロカーボンの混合ガスをプラズマ化した雰囲気で、各電極表面がクリーニングされているため、素子電極1a,1bまたは基板電極4a,4bと金線との接続強度は充分に高くなり、半導体発光装置の信頼性も高いものとなる。従って、透明樹脂による封止工程においても、金線が切断されることが無く、生産の歩留まりも高くなる。
次に、プラズマクリーニング装置自体をクリーニングするメンテナンス方法について説明する。上記したように、第二処理によれば、処理空間内に残留するフッ素原子濃度を所定濃度以下とすることで、プラズマクリーニング装置自体をクリーニングする効果(メンテナンス効果)を得ることができる。ところが、タクトタイム短縮の観点からは、第二処理の実施時間はできるだけ短くすることが好ましい。あるいは、フッ素が外気に放出されることの弊害を除去し得る対策が他に取り得る場合には、タクトタイム短縮の観点からは、第二処理は実施しないことが好ましい。
上記のように、第二処理の実施時間を短くする場合や、第二処理を実施しない場合には、処理チャンバ11の内壁面や、カソード(支持台12)またはアノード13に付着する、フッ素を含有する汚染物(以下、二次汚染物ともいう)を除去するためのメンテナンスを定期的に実行する必要性が生じる。
さらには、第二処理は、回路素子がカソードである支持台12の上に載せられた状態で実行される。このため、第二処理を実行するだけでは、支持台12の表面に付着した二次汚染物を有効に除去し得ないことも考えられる。支持台12は、回路素子と近接配置される要素であり、支持台12の表面を定期的にクリーニングするメンテナンスを実行することで、マウント基板6が二次汚染物により汚染されるのを効果的に防止することができる。
具体的には、第一処理、または、第一処理および第二処理を所定回数N1だけ実行する毎に、メンテナンスを実行することが考えられる。メンテナンスの方法としては、第一処理、または、第一処理および第二処理が終了した後、回路素子を処理空間内から取り出し、処理空間内に回路素子が存在しない状態とする。その状態で、チャンバ内からフルオロカーボンを排出するとともにチャンバ内にアルゴンガスだけを導入する。そして、電源装置により、支持台12とカソード13との間に高周波の電界を発生させ、アルゴンガスのプラズマを生成させる。これにより、チャンバ内から二次汚染物を除去する。
以上の手順を図6および図7のフローチャートを参照して説明する。図6に示すように、まず、第一処理、または、第一処理および第二処理を実行する(S21)。前回にメンテナンスを実行したときからS21の手順を実行した回数Nが、予め設定された回数N1に達したかを判定する(S22)。ただし、N1は1以上の整数である。
ここで、回数Nが所定回数N1に達していなければ(S22でYes)、S21に戻り、回数Nが所定回数N1に達していれば(S22でNo)、メンテナンス処理(S23)を実行した後、S21に戻る。
図7に示すように、メンテナンス処理では、支持台12に回路素子が載置されていない状態で、処理チャンバ11内に、ガス供給装置19によりアルゴンガスを供給する(S31)。次に、電源装置により、支持台12とカソード13との間に高周波の電界を発生させ、アルゴンガスのプラズマを生成させる(S32)。これにより、処理チャンバ11内から二次汚染物を除去する。そして、S32の手順を開始してから所定時間が経過したかを判定し(S33)、所定時間が経過していなければ(S33でNo)、所定時間が経過するまで、このS33の判定手順を繰り返し実行する。所定時間が経過していれば(S33でYes)、ガス供給装置19によるアルゴンガスの供給、および電源装置による電界の発生を停止して、メンテナンス処理を終了する。
あるいは、メンテナンス処理は、処理チャンバ11内部の汚染状況に応じて実行することができる。例えば図8に示すように、処理チャンバ11の支持台12の上面(回路素子の載置面)を見通せる壁部に覗き窓31を設置する。そして、覗き窓31を通して支持台12の上面の色調を色調検出器32(例えば光電色彩計)により検出する。支持台12の上面の色調検出部分は、回路素子の載置領域の外側の領域(支持台12の周縁部分)であるのが好ましい。
検出された色調Cdが、あらかじめ設定された基準値Crに達しているか否かを判定し、達していれば、上記のメンテナンスを実行する。色調Cdが基準値Crに達していなければ、上記のメンテナンスを実行することなく、引き続き第一処理、または、第一処理および第二処理を実行する。
以上の手順を図9のフローチャートを参照して説明する。まず、第一処理、または、第一処理および第二処理を実行する(S41)。S41の手順を実行した後、支持台12の上面の色調を検出し(S42)、検出された色調Cdが、あらかじめ設定された基準値Crに達しているか否かを判定する(S33)。
ここで、色調Cdが基準値Crに達していなければ(S43でNo)、S41に戻り、色調Cdが基準値Crに達していれば(S43でYes)、図7により説明したのと同様のメンテナンス処理(S44)を実行し、S41に戻る。