JP5914191B2 - アセテートを含む交信撹乱剤を用いた交信撹乱方法 - Google Patents
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Description
防除方法、いわゆる交信撹乱方法とそれに使用される交信撹乱剤に関するものである。
しかし、多くの交信撹乱剤は放出に対する温度依存性を有するため、気温が低い春先における放出量の確保に苦労してきた。一方、第1世代は第2世代以降と比較して発生期間が長いため、放出量のロスが多く、夏場以降の放出量が低くなる欠点があった。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、交信撹乱剤からの放出量は少なくてもよいが、発生期間が長いために放出ロスが多くなる第1世代には交信撹乱剤を用いずに、最も防除が必要な害虫密度の高い第2世代の成虫発生前から交信撹乱剤を用い始めても、安定かつ効率的な交信撹乱効果を実現することを目的とする。また、発生時期の異なる2種以上の害虫を同時に防除する際の発生時期の違いによる放出ロスを抑えることも目的とする。
また、前述のワタアカミムシの例では、第2世代前には綿の樹が40〜60cm程の大きさになるため、手で施用する場合には設置作業の面で容易になることに加え、散布剤の場合でも地面に落下する量が減り、防除効果がより高くなる。
アルコールが誘引活性のない成分として含まれる場合とは、例えば、虫の体内においてアセテートの性フェロモンが生合成される際、その前駆体がアルコールであるためアセテートになり得なかったアルコールが残るような場合及び加水分解によって生成されるアルコール体を含む場合等である。含まれるアルコールが誘引活性のない成分であるか否かは、ルアーを用いて、アセテートを主体とするフェロモン成分にアルコールを添加しても添加効果がない場合又は誘引阻害効果がある場合をアルコールが誘引活性のない成分とした。なお、従来は特に誘引阻害効果がある場合は、不純物として含まれるアルコールをできる限り少なくなるようにしていた。
ここで、誘引活性成分とは、害虫の雌が雄を引きつけるための有効成分で、通常、天然性フェロモン成分に含まれる成分のいくつか又は全部をいう。
ハマキ類としては、チャハマキ(Homona magnanima)、チャノコカクモンハマキ(Adoxophyes honmai)、リンゴコカクモンハマキ(Adoxophyes orana fasciata)、スリーラインリーフローラー(Pandemis limitata)、オブリックバンデッドリーフローラー(Choristoneura rosaceana)、フォールスコドリングモス(Cryptophlebia leucotreta)等が例示される。
ヨトウ類としては、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、コットンリーフワーム(Spodoptera littoralis)等が例示される。
スカシバ類としては、ピーチツリーボーラー(Synanthedon exitiosa)、コスカシバ(Synanthedon hector)、アップルクリアーウイングモス(Synanthedon myopaeformis)、レッサーピーチツリーボーラー(Synanthedon pictipes)、カレントボーラー(Synanthedon tipuliformis)、レパードモス(Zeuzera pyrina)等が例示される。
また、該アセテートに由来するアルコールを1.5質量%以下しか含まない害虫は、ナシヒメシンクイ(Grapholitha molesta:OFM)及びオムニヴァスリーフローラー(Platynota stultana)等が例示される。
なお、従来の交信撹乱剤の中には、アセテートの性フェロモンの製造上の問題で、アルコールが極微量に含まれることもあるが、これはアルコールの含有量を極力少なくするようにしたにも拘らず含まれてしまうもので、その含有量は1質量%以下のものが多く、意図的に加えたものではなく、本発明が制限されるものではない。
更に、その性フェロモン組成物には上記アセテートの性フェロモン以外の性フェロモンが含まれていても構わない。
E4−13AcはE4−トリデセニルアセテートを表し、
Z9−14AcはZ9−テトラデセニルアセテート、E10−14AcはE10−テトラデセニルアセテート、E11−14AcはE11−テトラデセニルアセテート、Z11−14AcはZ11−テトラデセニルアセテート、E11−14OHはE11−テトラデセニルアルコール、Z11−14OHはZ11−テトラデセニルアルコール、E4,E10−14AcはE4,E10−テトラデカジエニルアセテート、E9,E11−14AcはE9,E11−テトラデカジエニルアセテート、Z9,E11−14AcはZ9,E11−テトラデカジエニルアセテート、Z9,E12−14AcはZ9,E12−テトラデカジエニルアセテートを表し、
Z7,Z11−16AcはZ7,Z11−ヘキサデカジエニルアセテート、Z7,E11−16AcはZ7,E11−ヘキサデカジエニルアセテートを表し、
E2−18AcはE2−オクタデセニルアセテート、E2,Z13−18AcはE2,Z13−オクタデカジエニルアセテート、E3,E13−18AcはE3,E13−オクタデカジエニルアセテート、E3,Z13−18AcはE3,Z13−オクタデカジエニルアセテート、Z3,E13−18AcはZ3,E13−オクタデカジエニルアセテート、Z3,Z13−18Acは、Z3,Z13−オクタデカジエニルアセテートを表す。
表1において、各化合物の比は、質量比である。
これにより、発生時期の異なる2種以上の害虫を同時に防除する際の発生時期の違いによる性フェロモン量の放出ロスを抑えることもできる。
そこで、ナシヒメシンクイが有する天然性フェロモンアセテートに由来するアルコールを通常含まれる1.0質量%から1.5質量%以上、好ましくは2.5〜5.0質量%に増加することにより、ピーチトィッグボーラーの第1世代の成虫発生前、ナシヒメシンクイの第1世代の成虫の交尾及び産卵の終了後で第2世代の成虫発生(5月中〜下旬)前に施用することにより、性フェロモン量の放出ロスを最小限にして、両害虫を同時に防除する方法が用いられる。この場合、ピーチトィッグボーラーにおけるアルコールは誘引成分として働いているが、本発明のアルコール添加をする対象ではなく単なる相手の害虫である。
同様に、5月中〜下旬に第1世代の害虫の成虫が発生するリンゴ害虫コドリンガとナシヒメシンクイの同時防除の場合も、コドリンガの第1世代の成虫発生前、ナシヒメシンクイの第1世代の成虫の交尾及び産卵の終了後で第2世代の成虫発生前に施用することにより、性フェロモン量の放出ロスを最小限にして、両害虫を同時に防除することが可能である。
1室以上を有する容器において、各室への交信撹乱剤の収納量は、放出期間、性フェロモン物質の揮発性及び容器の材質との親和性等によって異なるが、好ましくは50〜500mgである。
ただし、例え上記のような条件を満たしても、取り扱う際に特別な場所が要求される物
質や、環境に悪影響を及ぼすような製剤は好ましくない。
<交信撹乱剤の製造>
所定の内径、肉厚を持つポリエチレンチューブからなる高分子製容器を押出成型して作
製した。次に、アセテートの性フェロモンに占める含有率に応じてアルコールを調製しながら目的の性フェロモン組成物を作成した。その溶液をポリエチレンチューブの一端から注入し、チューブの両端を高周波加熱しながら加圧して溶融封鎖し、溶融部分を切断して徐放性製剤が試作された。交信撹乱剤は害虫を防除する圃場に、必要量の性フェロモン物質が放出されるように割り振って等間隔に点在させて配置した。
誘引阻害率以外の交信撹乱効果の推定方法であり、対象となる作物体の種類により被害果率及び被害房率等がある。
果樹の場合には、{(被害果数)/(調査果数)}×100の式で表される被害果率が用いられる。特にブドウでは、{(被害房数)/(調査房数)}×100で表される被害房率が効果の判定基準の一つとなっている。
ヨーロピアングレープヴァインモスに関して、それぞれの面積2haの圃場を設けた。比較例1及び2として第1区、第2区には、4月15日に表2に示す異なる量のE7,Z9−ドテカジエニルアルコールを含んだ性フェロモンE7,Z9−ドデカジエニルアセテートを240mg充填した交信撹乱剤を500本/ha設置した。実施例1及び2として第3区、第4区には6月1日に所定の交信撹乱剤を同数設置した。更に、比較例3として最も近い試験区から北東200m離れた地点に第5区を設け、交信撹乱剤を設置しないコントロール区とした。
なお、比較例3である第5区の殺虫剤区には、第2世代にクロロピリホス剤を1回、第3世代にクロロピリホス剤を1回、BT剤を2回散布した。全ての交信撹乱剤を設置した区域には、第3世代のみBT剤を2回散布した。中心部にフェロモントラップを設置し、1週間に一度捕集数を数え、ピンセットで虫を除去した。各区の中に測定点を5点設け、それぞれの点で5本の樹を選び各樹上部の4房の被害の有無を各世代数えた。
殺虫剤は改良がなされているが、殺虫剤の散布回数を減らすことができれば環境上好ましい。殺虫剤は、例えば、性フェロモンを用いた交信撹乱剤を用いる対象害虫以外の害虫の防除のために用いられる。
一方、第2世代の成虫発生前に1.8質量%のアルコールを添加した交信撹乱剤を設置した第3区では収穫時の被害も低く、アルコールの添加量を更に増加して4.1質量%のアルコールを添加した交信撹乱剤を施用した第4区では、収穫時の被害が更に低かった。
なお、表中のアルコール体含量は、(アルコール体質量)/(アセテート体質量)×100で求めた。
ナシヒメシンクイに関して、オーストラリアのモモ園における害虫密度が低い圃場と高い圃場の各6haを東西に3等分し、比較例4及び7として第2区の中央区に表3に示すようにZ:E=93.1:6.0比のZ/E8−ドデセニルアセテートフェロモンと該アセテートに対して0.9質量%のZ/E8−ドデセニルアルコールを含む混合物240mgを充填した交信撹乱剤500本/haを9月1日に処理した。そして、両端の区域に、第1世代のフェロモン防除をせずにZ:E比は同じであり、アセテートに対してそれぞれ0.9質量%(第1区、比較例5及び8)と3.2質量%(第3区、実施例3及び4)のZ/E8−ドデセニルアルコールを含んだ製剤を10月5日に処理した。100m離れた圃場を殺虫剤区(第4区、比較例6及び9)とし、殺虫剤区には、9月17日、10月15日と22日にアジンホスメチル剤を散布した。
中心部に測定樹を10本選定し、それぞれの樹から10の新しい枝を選び、芯折れ率を測定した。第2世代後には各調査樹から、それぞれ20個の果実を取り、被害の有無を調べた。
なお、表中のアルコール体含量は、(アルコール体質量)/(アセテート体質量)×100で求めた。
ナシヒメシンクイ(OFM)とピーチトィッグボーラー(PTwB)との併用の交信撹乱剤の試験を実施した。ナシヒメシンクイのフェロモンは、Z:E=94:6比のZ/E8−ドデセニルアセテート(Z/E8−12Ac)と該アセテートに対して表4に示す量のZ/E8−ドデセン−1−オール(Z/E8−12OH)を含む混合物を用いた。ピーチトィッグボーラーの性フェロモンとしては、E5−デセニルアセテート(E5−10Ac)と該アセテートに対して表4に示す量のE5−デセン−1−オール(E5−10OH)を含む混合物を使用した。
交信撹乱剤は、ツインチューブ剤を用いて、片側にナシヒメシンクイのフェロモンを240mg、他方のチューブにピーチトィッグボーラーのフェロモンを320mg充填した。
それぞれの圃場の中心部の4畝を選び、1畝、3畝、7畝、9畝とし、端から50mの地点から1本おきに5本の測定樹を5樹、合計20本の測定樹を決めた。5月25日と6月30日に各樹から枝の先端を10個決め芯折れの有無を調べた。また、6月30日に、各測定樹から果樹を10個選び、被害の有無を調べた。被害果は割って、害虫の被害を調べた。また、7月26日に同様に被害の有無を調べた。その結果を表5に示す。
なお、表中のアルコール体含量は、(アルコール体質量)/(アセテート体質量)×100で求めた。
一方、いずれにしても第1世代のナシヒメシンクイの密度が極端に高くない限り、ナシヒメシンクイの第1世代の防除が節減できる可能性があることを示している。そのときはピーチトィッグボーラーのフェロモンを初期に失わないので、ピーチトィッグボーラーの防除に良い効果が得られている。ナシヒメシンクイの密度が高いときには、ピーチトィッグボーラーのシーズン初期でのロスを覚悟して、フェロモンの充填量を増加するか、本数を増加することも考えられる。
なお、芯折れ率は害虫の密度の目安として記載し、発明の効果は被害果率で判断することが一般的である。
レッサーピーチツリーボーラーに関して、4.2haの圃場を3等分し、比較例12として中心の第2区には表6に示すようにアセテートに対してアルコール0.5質量%の製剤を4月25日(第1世代の成虫発生前)に施用し、比較例13として第1区にはアルコール0.5質量%の交信撹乱剤を5月25日(第2世代の成虫発生前)に施用し、実施例6として第3区にはアルコール2.8質量%の交信撹乱剤を5月25日に施用した。比較例14として第4区は、殺虫剤区であり、5月15日と6月10日にパーメスリンを散布した。レッサーピーチツリーボーラーの性フェロモンとしては、アセテートとしてE3,Z13−オクタデカジエニルアセテートとZ3,Z13−オクタデカジエニルアセテートの67:33(質量比)の混合物にそのアルコールを表6のように添加し、50mg充填した交信撹乱剤を各区に500本/ha施用した。
Claims (3)
- 天然性フェロモンとして1種類以上のアセテートを含み、該アセテートに由来するアルコールを実質的に含まないハマキ類(Leafroller)、ヨトウ類(Spodoptera)、スカシバ類(Synanthedon)、ワタアカミムシ(Pectinophoragossypiella:PBW)、ヨーロピアングレープヴァインモス(Lobesia botrana:EGVM)、トマトピンワーム(Keiferia lycopersicella:TPW)、ライトブラウンアップルモス(Epiphyes postvittana:LBM)、スモモヒメシンクイ(Grapholita dimorpha)、キンモンホソガ(Phyllonorycter ringoniella)、トマトリーフマイナー(Tuta absoluta)及びヨーロピアンゴートモス(Cossus cossus)、並びに該アセテートに由来するアルコールを1.5質量%以下しか含まないナシヒメシンクイ(Grapholitha molesta:OFM)及びオムニヴァスリーフローラー(Platynota stultana)からなる群から選ばれる少なくとも1種類の害虫を対象とし、上記アセテートと該アセテートに由来する各アルコールを少なくとも含み、該各アルコールを該アセテートに対して1.5〜10質量%含む交信撹乱剤を、上記害虫の第1世代には用いずに、上記害虫の第1世代の成虫の交尾及び産卵の終了後で害虫密度の高い第2世代の成虫発生前から施用を開始することを特徴とする交信撹乱方法。
- 上記害虫が、発生時期の異なる2種類の害虫のうちの早く発生する害虫であり、上記第1世代の成虫の交尾及び産卵の終了後で第2世代の成虫発生前であって、かつ上記害虫が選ばれる上記群に含まれない遅く発生する害虫にとって第1世代の発生前の施用の開始となる請求項1に記載の交信撹乱方法。
- 上記早く発生する害虫がナシヒメシンクイであり、上記遅く発生する害虫がピーチトィッグボーラー又はコドリンガである請求項2に記載の交信撹乱方法。
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