JP5914144B2 - 金属ワイヤの製造方法および金属ワイヤ - Google Patents

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本発明は、金属ワイヤの製造方法(以下、単に「製造方法」とも称する)および金属ワイヤに関し、詳しくは、簡便な手法により、従来よりも金属ワイヤの延性を向上させることができる高抗張力金属ワイヤの製造方法およびその製造方法により得られた金属ワイヤに関する。
タイヤや高圧ホース等のゴム物品の補強材として用いられる金属ワイヤには、様々な特性が要求されている。例えば、金属ワイヤをコードとしてタイヤの補強材として用いる場合、環境問題の観点からタイヤには軽量化が求められているため、タイヤの補強材となるコードを高抗張力化して、その使用量を減らすことが求められる。コードを高抗張力化する手法としては、コードを構成する金属ワイヤ自体を高抗張力化することが有効である。この金属ワイヤの高抗張力化には、伸線加工して得られる金属ワイヤの出発材である金属ワイヤ材について、その成分組成を調整したり、または伸線加工に工夫を凝らすことが行われている。これらにより、高抗張力化を達成しているが、一方で高抗張力化に伴って金属ワイヤの延性が低下することが問題になる。
現在、金属ワイヤの延性を回復させる手段としては、金属ワイヤに低温かつ短時間の熱処理、いわゆるブルーイング処理を施すことが一般的である。このブルーイング処理を金属ワイヤに施すことで延性の回復を図っている。例えば、特許文献1および2では、抗張力が3000MPa未満のスチールコードに、400℃付近の温度域で一定の保持時間でなされるブルーイング処理を施すことによって、スチールコードの破断伸びを高める技術が提案されている。
また、特許文献3では、スチールワイヤに伸線加工、めっき処理および340℃以上500℃以下の温度域にて数秒〜数十秒のブルーイング処理を施すことによって、弾性伸びを増加させる技術が提案されている。さらに、特許文献4では、炭素鋼線に250℃以上440℃以下の温度域で、保持時間を6秒以上15分以下の間に調節したブルーイング処理を施すことによって、炭素鋼線の内部摩擦の最大値を、180℃以上220℃以下の温度域において、好適な範囲として延性を向上させる技術が提案されている。
一方、金属ワイヤは、シリコン、ガラスおよびセラミック等の脆性材料等を切断するソーワイヤとしても用いられている。これらを切断する場合、被加工物の切断面の精度や、得られる薄板の厚みの均一性が問題になることがある。このような問題に対して、特許文献5では、ソーワイヤに捻じりを与えることで、ソーワイヤの偏摩耗を防止し、切断面の精度や薄板の均一性を向上させるソーワイヤの捻じり機構が提案されている。また、特許文献6では、捻じり付与装置を用いて、ソーワイヤと被加工物の切断面との接触面を周期的、またはランダムに変化させることで、ソーワイヤの偏摩耗を防ぐ技術が提案されている。
また、ソーワイヤで被加工物を切断する際には、一般に研磨材がソーワイヤにコーティングされ、この研磨材が切断加工を補助している。したがって、切断工程においては、ソーワイヤにはこの研磨材の連行特性も重要なファクターとなる。そこで、特許文献7では、研磨材の連行性を改善したモノフィラメント金属ソーワイヤが提案されている。
特開平9―228274号公報 特表2001―512191号公報 特開2000―80441号公報 特開平11―269557号公報 特開平11−348029号公報 特開平11−254288号公報 特表2008−519698号公報
特許文献1〜4で提案されている技術は、300℃以上で熱処理することで、破断時の伸びを5%程度向上させることができるが、同時に抗張力が15%以上低下してしまうブルーイング処理を基調としている。この熱処理は、抗張力が3000MPa未満の金属ワイヤに対して、主に適用されている。その理由は、抗張力が3000MPa以上の金属ワイヤに上記熱処理を適用すると、伸線ミクロ組織であるパーライトが均一に分断してしまい、金属ワイヤに曲げや捻じりを加えると、定領域で脆化破面であるデラミネーションが発生してしまうという問題や、セメンタイトが球状化してしまうため、曲げ強度特性も低下してしまうという問題を有しているためである。また、熱を必要とするので、消費エネルギーが大きく、二酸化炭素の排出量も大きくなるため、環境面からも改善が求められている。
また、金属ワイヤをソーワイヤとして用いた場合、被加工物の切断精度や得られる薄板の厚みの均一性を確保する技術のみではなく、シリコン等の被加工物を切断する際の断線を防止する技術も必要である。ソーワイヤの断線を防止するためには、ソーワイヤに用いる金属ワイヤの抗張力を大きくすることが考えられる。しかしながら、金属ワイヤを高抗張力化すると延性が低下してしまい、被加工物を切断する際に断線が発生しやすくなる。特に、抗張力が3000MPa以上の金属ワイヤにおいては、この傾向は顕著である。
そこで、本発明の目的は、簡便な手法により、従来よりも金属ワイヤの延性を向上させることができる高抗張力金属ワイヤの製造方法およびその製造方法により得られた金属ワイヤを提供することにある。
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、金属線材に所定の捻じりを加えることで、抗張力の低下を10%程度に抑えつつ、塑性伸びを0.5%以上向上させることができ、これにより、上記課題を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の金属ワイヤの製造方法は、2500MPa以上の抗張力を有する金属ワイヤに対して捻じり加工を加える金属ワイヤの製造方法であって、
前記金属ワイヤの線径をD(mm)、前記捻じり加工において前記金属ワイヤの単位長さ(100Dmm)あたりに加える捻回値をT(回/100Dmm)、前記金属ワイヤの単位長さあたり(100Dmm)に加えた場合に該金属ワイヤが破断するときの捻回値をTmax(回/100Dmm)、としたとき、下記式、
5≦T≦0.36×Tmax
で表される関係を満足するように捻じり加工を加えることを特徴とするものである。
本発明の製造方法においては、前記ねじり加工を加える前の前記金属ワイヤの抗張力は3000MPa以上であることが好ましい。
本発明によれば、簡便な手法により、従来よりも金属ワイヤの延性を向上させることができる高抗張力金属ワイヤの製造方法およびその製造方法により得られた金属ワイヤを提供することができる。
実施例および比較例の金属ワイヤの応力−歪み曲線を示すグラフである。
以下、本発明の金属ワイヤの製造方法について、詳細に説明する。
本発明の金属ワイヤの製造方法は、2500MPa以上の抗張力を有する金属ワイヤに対して捻じり加工を加えるものであって、この捻じり加工においては、金属ワイヤの線径をD(mm)、捻じり加工において金属ワイヤの単位長さ(100Dmm)あたりに加える捻回値をT(回/100Dmm)、金属ワイヤの単位長さあたり(100Dmm)に加えた場合に、この金属ワイヤが破断するときの捻回値をTmax(回/100Dmm)、としたとき、下記式(1)、
3≦T≦0.7×Tmax (1)
で表される関係を満足するように捻じり加工を加える。
抗張力が2500MPa以上の金属ワイヤに対して、上記式(1)を満足するような捻じり加工を加えることのみで、金属ワイヤの抗張力の低下を10%程度に抑えつつ、破断時の伸び率を0.5%以上向上させることができる。T(回/100Dmm)が3未満であると、金属ワイヤに十分な破断時の伸びを付与することができない。一方、T(回/100D)の値が0.7×Tmax(回/100Dmm)を超えても、金属ワイヤの破断時の伸びの向上が見られないばかりか、金属ワイヤの延性が低下してしまう傾向がある。
本発明の製造方法において、捻じり加工を加える金属ワイヤの抗張力を2500MPa以上としているのは、捻じり加工において金属ワイヤの抗張力が10%程度低下したとしても、十分な抗張力を確保できるためである。本発明の製造方法は、上述したように、従来のブルーイング処理ではデラミネーションが発生したり、曲げ強度特性が低下したりしてしまう3000MPa以上の抗張力を有する金属ワイヤにも適用することが可能であるため、好適には3000MPa以上の抗張力を有する金属ワイヤ、より好適には3500MPa以上の抗張力を有する金属ワイヤに適用することができる。なお、本発明の金属ワイヤの製造方法では、従来のブルーイング処理とは異なり、熱を加える必要もないため、製造コストや環境に対する負荷という点においても優れている。
本発明の製造方法においては、TおよびTmaxの値が下記式(2)、
5≦T≦0.55×Tmax (2)
で表される関係を満足するように捻じり加工を加えることが好ましい。T(回/100Dmm)およびTmax(回/100Dmm)の値が、上記式(2)を満足させることで、金属ワイヤの抗張力の低下を抑えつつ、十分な破断時の伸び率を得ることができるとともに、高抗張力な金属ワイヤであっても、曲げや捻じれによる脆化も良好に防止することができる。
本発明の金属ワイヤの製造方法に用いる金属ワイヤは抗張力が2500MPa以上のものであれば、ワイヤ径や材質等については、特に制限されるものではなく公知のものであればいずれも使用可能である。例えば、炭素含有量0.7質量%以上の高炭素金属ワイヤを用いることができる。
また、本発明の金属ワイヤの製造方法は、2500MPa以上の抗張力を有する金属ワイヤに対して、上記式(1)の関係を満足するように捻じり加工を加えることのみが重要であり、これにより、従来よりも延性に優れた高抗張力を有する金属ワイヤを得ることができるのであり、これ以外に特に制限はなく、常法に従い適宜設定することができる。例えば、原料の金属ワイヤ材から、乾式伸線工程により所定の中間線径の金属線材を得た後、この金属線材にパテンティング(熱処理)、所望に応じてブラスめっき処理を施して、所望の最終線径の金属ワイヤを得るために湿式伸線処理に供すればよい。この場合、乾式伸線や湿式伸線に用いる伸線機も通常使用されている伸線機を用いることができ、伸線条件も常法を用いることができる。
次に本発明の金属ワイヤについて説明する。
本発明の金属ワイヤは、上記本発明の金属ワイヤの製造方法により製造されたものである。上述した本発明の金属ワイヤの製造方法により得られた金属ワイヤは、2500MPa以上の抗張力を有する金属ワイヤに上記式(1)、好ましくは上記式(2)で表される関係を満足する捻じり加工を加えたものであり、これにより、捻じり加工を加える前の金属ワイヤと比較して、抗張力の低下を10%程度に抑えつつ、破断時の伸び率を0.5%以上向上させたものである。
本発明の金属ワイヤは、高抗張力でありながら、延性にも優れており、特に、タイヤに代表されるようなゴム物品の強用材や、ソーワイヤとして好適に用いることができる。
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<従来例、実施例1、2、参考例および比較例>
線径0.24mm、抗張力3739MPaの金属ワイヤに100D換算でT=0、5、10、15、20(回/100Dmm)の捻じりを加えて、抗張力、破断時の伸びを確認した。得られた結果を基に、抗張力低下率(%)および伸び向上率(%)を算出した。結果を表1に示す。また、従来例、実施例1、2、参考例および比較例の金属ワイヤの応力−歪み曲線を図1に示す。
Figure 0005914144
実施例1、2、参考例から、Tが5以上になると、破断時の伸びが大きく向上しているが、Tmaxの70%を超えるT=20(回/100Dmm)となると、破断時の伸びはほとんど変化は見られず、強力も減少していることがわかる。

Claims (2)

  1. 2500MPa以上の抗張力を有する金属ワイヤに対して捻じり加工を加える金属ワイヤの製造方法であって、
    前記金属ワイヤの線径をD(mm)、前記捻じり加工において前記金属ワイヤの単位長さ(100Dmm)あたりに加える捻回値をT(回/100Dmm)、前記金属ワイヤの単位長さあたり(100Dmm)に加えた場合に該金属ワイヤが破断するときの捻回値をTmax(回/100Dmm)、としたとき、下記式、
    ≦T≦0.36×Tmax
    で表される関係を満足するように捻じり加工を加えることを特徴とする金属ワイヤの製造方法。
  2. 前記ねじり加工を加える前の前記金属ワイヤの抗張力が3000MPa以上である請求項記載の金属ワイヤの製造方法。
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