JP5553384B2 - 高炭素鋼線材の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高炭素鋼線材およびその製造方法に関し、詳しくは、従来よりも高強度かつ高延性を有する鋼線を製造可能とする伸線加工用高炭素鋼線材およびその製造方法に関する。
現在、環境負荷低減の観点からタイヤの軽量化の要求が大きく、そのため、タイヤ補強材であるスチールコードの高強度化ニーズが益々高まっている。スチールコードの高強度化の手段としては、炭素の増加やクロムの添加といった鋼材成分面からのアプローチや、熱処理を適正化することによる金属組織面からのアプローチに加え、加工硬化を利用して、より高い伸線歪を加えることによって高強度化を図る加工プロセス面からのアプローチがある。
こうした高強度化の手法は一般的に知られており、上記アプローチを単独または複数組み合わせる多数の研究が精力的に行われている。これらの研究によれば、高強度化を図る上での最大の課題は、ワイヤの延性確保であり、特に表面層を起点とするデラミネーションの抑制が重要であることがわかってきた。このデラミネーション発生は、時効硬化による脆化や表層部に集中する不均一加工が原因であると考えられている。
一般に、鋼線を伸線加工する場合、ワイヤのクロス断面硬度分布は不均一となる。すなわち、鋼線の表層部ではダイス引き抜きによる大きなせん断力が発生して加工硬化が優先して進む結果、表層部の硬度が内部より高くなる。こうした表層部と内部間に生ずる硬度の不均一を解消するための手法として、例えば、特許文献1には、ダイスとワイヤの摩擦係数を下げることや、伸線加工途中での捻り矯直加工によって、表層部と中心部のビッカース硬さ差を小さくする手法が開示されている。また、特許文献2には、V字型の硬度分布を有するコードに、メカニカルな塑性変形を繰り返し与えて硬度分布を逆V字にする手法が開示されている。これらの手法は有効であり、表層部〜内部の硬度分布差を小さくすることで伸線限界が上がり、高強度高延性ワイヤの製造に寄与する。
また、特許文献3には、流動層温度の設定により、鋼線の表層部をベイナイト組織、鋼線内部をパーライト組織とするパテンティング方法が提案されている。これによれば、伸線加工後、ワイヤの捻回試験でのデラミネーション発生を抑制することが可能である。さらに、特許文献4には、鋼線の表層部をベイナイト組織またはセメンタイト球状組織とし、それより内部をパーライトまたはフェライト・パーライト組織とする二層組織構造を有する鋼線が提案されている。
さらに、熱処理後の冷却温度を制御することで、金属組織を変更させる技術も多数報告されている。例えば、特許文献5には、鋼線材を加熱してオーステナイトを生成させた後、冷却しながら塑性加工を施し、その後、一定温度でパーライト組織を生成させる技術が開示されている。また、特許文献6には、パーライトノジュールサイズを規定することで高強度かつ高延性な鋼線が開示されている。
特許第3051572号公報 特許第3108231号公報 特開平6−306481号公報 特開平7−268546号公報 特開平5−214443号公報 特開平10−287955号公報
しかしながら、特許文献1および2の手法は、伸線加工条件の大きな変更が必要であったり、伸線中または伸線後に新たなプロセスを付加する必要があるため、工業的な実現には至っていないのが現状である。また、特許文献3および4の手法は、ベイナイト組織はパーライト組織と比較して、伸線による加工硬化率が低いことから、ベイナイト組織を生じさせると、現在求められている高強度ワイヤの製造は困難となる。また、特許文献5および6の手法は工業的に実現することは困難であり、さらなる改良が必要である。
また、一方、高強度と高延性の両立には組織微細化が有効であることも知られており、様々な分野・鋼種に関して、多くの提案がされている。しかしながら、それらの手法の多くが、フェライトを主鋼とした低炭素鋼に関するものである。また、熱間加工においては、低温で大歪み付加が必要であり、工業的に実現が困難である場合が多く、必ずしも量産技術として確立されるに至っていないのが現状である。
そこで、本発明の目的は、従来よりも高強度かつ高延性を有する鋼線を製造可能とする伸線加工用高炭素鋼線材およびその製造方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、伸線加工後のワイヤの表層部〜内部の硬度分布差が小さくなるように、伸線加工による表層部の過度な硬度上昇分をある程度見越すことが必要であるという知見の下、パテンティング処理条件を適正化し、鋼線材の表層部および内部の組織を制御することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の高炭素鋼線材の製造方法は、高炭素鋼線材の直径をD、該高炭素鋼線材の表面から0.05D以下の部位を表層部、表面から0.20Dを超える部位を内部としたとき、前記表層部の組織の90%以上がラメラ間隔0.10μm以上の粗ラメラパーライト組織であり、かつ、前記内部の組織の95%以上がラメラ間隔0.10μm未満の微細パーライト組織または擬似パーライト組織である高炭素鋼線材の製造方法であって、
炭素を0.65〜1.00質量%含有する高炭素鋼線材にパテンティング処理を行う工程を有し、
前記パテンティング処理にて、前記高炭素鋼線材を850〜1100℃まで加熱し、その後、該高炭素鋼線材を冷却し、表面温度が550〜650℃の範囲の際に、圧延加工で減面率が2〜14%である減面加工を施すことを特徴とするものである。
本発明によれば、従来よりも高強度かつ高延性を有する鋼線を製造可能とする伸線加工用高炭素鋼線材およびその製造方法を提供することができる。
本発明の高炭素鋼線材の説明図である。 (a)は、本発明の高炭素鋼線材の表層部の金属組織の一例を示す図であり、(b)は、本発明の高炭素鋼線材の内部の金属組織の一例を示す図である。 本発明の高炭素鋼線材の断面硬度分布の一例を示すグラフである。 本発明の高炭素鋼線材を用いて製造したワイヤの断面硬度分布の一例を示すグラフである。
以下、本発明の好適な実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の高炭素鋼線材(以下、単に「鋼線材」とも称する。)は、炭素を0.65〜1.00質量%含有する高炭素鋼線材である。図1に示す様に、本発明の高炭素鋼線材は、高炭素鋼線材10の直径をD、高炭素鋼線材の表面から0.05D以下の部位を表層部1、表面から0.20Dを超える部位を内部2としたとき、表層部1の組織の90%以上がラメラ間隔0.10μm以上の粗ラメラパーライト組織であり、かつ、内部2の組織の95%以上がラメラ間隔0.10μm未満の微細パーライト組織または擬似パーライト組織である。このような組成を有することにより、伸線加工後のワイヤの表層部〜内部の硬度分布差を小さくすることができ、この結果、高強度かつ高延性のワイヤを得ることが可能となる。
炭素は鋼線材の強度を確保し、一定量以上のパーライト組織を生成せしめることによって伸線加工性の良否や、伸線加工後のワイヤの延性を左右する元素である。そこで、本発明においては、鋼線材の強度、伸線性および延性の全てを満足させる必要があるが、まず、主として強度確保の面から、炭素含有量を0.65質量%以上とする。炭素含有量が0.65質量%未満であると、初析フェライトが生成しやすくなるため、伸線性や延性の確保が困難になる。一方、炭素含有量が1.00質量%を超えると、初析セメンタイトの生成が避けられず、やはり伸線性および延性を著しく劣化してしまう。本発明においては、炭素含有量は、好適には0.70〜0.85質量%である。
本発明の高炭素鋼線材の表層部1の組織は、90%以上がラメラ間隔0.10μm以上の粗ラメラパーライト組織である。上述のとおり、鋼線材を伸線加工する場合、ワイヤのクロス断面硬度分布は不均一となる。すなわち、鋼線材の表層部1ではダイス引き抜きによる大きなせん断力が発生して加工硬化が優先して進む結果、表層部1の硬度が内部2より高くなる。そして、表層部1と内部2の硬度差が大きくなると、デラミネーションが発生しやすくなる。そこで、伸線加工性を維持し、かつ、伸線時の加工硬化率を極端に下げないように、表層部1の組織の90%以上をパーライト組織とする。パーライト組織の割合が90%未満であると、残りの組織であるフェライトや初析セメンタイト、脱炭層、ベイナイトまたはマルテンサイトといった組織が必然的に増加することになる。こうした組織が増加するとデラミネーションの発生核となって伸線加工性を悪化させたり、加工硬化率が著しく下がってワイヤの強度確保ができなくなる。好適には95%以上である。また、このパーライト組織の組織因子の一つであるラメラ間隔については、0.10μm以上とする必要がある。こうすることにより、伸線加工性および加工硬化率を維持しながら、表層部1の硬さを内部2の硬さより僅かに減少させることが可能となる。ラメラ間隔は、好適には0.12〜0.17μmである。
また、本発明の高炭素鋼線材の内部2の組織は、95%以上がラメラ間隔0.10μm未満の微細パーライト組織または擬似パーライト組織である。前述した鋼線材の表層部1の組織の制御理由と同様に、伸線加工性を維持し、かつ、伸線時の加工硬化率を極端に低下させないために、表面から0.20Dを超える内部2の組織は、微細パーライト組織または擬似パーライト組織を95%以上有する必要がある。本発明においては、好適には、内部2の組織の98%以上が、微細パーライト組織または擬似パーライト組織である。また、微細パーライト組織または擬似パーライト組織のラメラ間隔は0.10μm以下であることが必要であり、これにより伸線加工性、加工硬化率を維持しながら、内部2の硬さを表層部1の硬さより僅かに増加させて伸線加工後の断面硬度分布の硬度差を小さくすることが可能となる。好適には0.04〜0.09μmである。図2(a)は、本発明の高炭素鋼線材の表層部1の金属組織の一例を示す図であり、(b)は、本発明の高炭素鋼線材の内部2の金属組織の一例を示す図である。
本発明においては、表層部1のビッカース硬さが380以下であり、かつ、内部2のビッカース硬さが表層部1のビッカース硬さより大きいことが好ましい。表層部1のビッカース硬さが380を超えると、後述する本発明の製造方法における伸線加工において、表層硬化が進み、その結果、高歪加工において延性が低下するおそれがあるからである。より好ましくは、表層部1のビッカース硬さと、内部2のビッカース硬さとの硬度差が20〜50である。表層部1のビッカース硬さと、内部2のビッカース硬さとの硬度差が20未満でも確実に効果は得られるが、高歪加工を行うと、やはり表層部1の硬化が進み、脆化現象が生じる場合がある。一方、硬度差が50を超えても上記金属組織が保たれている限り、十分な延性を有するが、伸線加工後の断面硬度分布の硬度差を小さくするという考えの下では、硬度差が50を超えるとその硬度分布が逆V字型となることがある。図3は、本発明の高炭素鋼線材の断面硬度分布の一例を示すグラフであり、図4は、本発明の高炭素鋼線材を用いて製造したワイヤの断面硬度分布の一例を示すグラフである。
本発明の高炭素鋼線材に伸線加工を施して得られたワイヤは、単線、または、複数本を撚り合わせて撚りコードとして使用することができる。なお、撚りコードとする場合の撚り構造については、用途に応じ適宜決定することができ、特に制限されるものではない。なお、本発明の高炭素鋼線材から得られたワイヤは、高強度かつ高延性を有しているため、タイヤの補強材として好適に用いることができる。
次に本発明の高炭素鋼線材の製造方法について説明する。
本発明の高炭素鋼線材の製造方法は、上述した本発明の高炭素鋼線材の製造方法である。一般に、鋼線材の素材は、連続鋳造、分塊圧延および線材圧延等を経て線径5.0〜6.5mmの鋼線材に加工される。スチールコードやホースワイヤの製造方法においては、以降、乾式伸線とパテンティング処理を繰り返した後、ブラスめっきを施し、最終的に湿式伸線によって線径0.15〜0.50mmのワイヤへ加工される。さらに、スチールコードに関しては、ワイヤを複数本撚り合わせることにより製品となる。
本発明の高炭素鋼線材の製造方法においては、炭素を0.65〜1.00質量%含有する高炭素鋼線材にパテンティング処理を行うパテンティング処理工程を有し、パテンティング処理工程において、高炭素鋼線材を850〜1100℃まで加熱し、その後、高炭素鋼線材を冷却し、表面温度が550〜650℃の範囲の際に、減面率が2〜15%である減面加工を施す。この条件を満足するパテンティング処理を、高炭素鋼線材に施すことによって、上記本発明の高炭素鋼線材を得ることができる。
上述のとおり、鋼線材の強度、伸線性および延性の全てを満足させるには、まず、主として強度確保の面から、炭素含有量を0.65〜1.00質量%、好適には0.70〜0.85質量%とする必要がある。
鋼線材の表層部1と内部2との間に生ずる硬度の不均一が特に問題となるのは、ワイヤへの加工時および加工終了後である。このときの硬度差が大きくなるほどデラミネーションが発生しやすくなり、そのため湿式伸線工程や撚り線工程での断線を引き起こすのである。鋼線材の表層部1と内部2との硬度不均一は、ダイス引き抜きによって表層部1に優先的に導入されるせん断応力に起因するので、このせん断応力を緩和する手段をとることは極めて有効である。しかしながら、こうした手段は湿式伸線でのパス数増加や矯直装置の追加等を必要とするため、設備上の制約が極めて大きく、好ましくない。また、硬度不均一は歪の増加とともに大きくなるので、高強度化のために湿式伸線での歪を増加させることに限界が生ずる。すなわち、昨今のワイヤに対する高強度化のニーズに応えるためには、湿式伸線前の線材を高度に制御することが必要である。具体的には、パテンティング処理での組織および物性の作り込みが重要となる。
そこで、本発明においては、パテンティング処理の温度は850〜1100℃とする。鋼線材組織を完全にオーステナイト化させるためには加熱温度の下限は850℃とする必要がある。850℃未満では炭化物未溶解となり、後に続く冷却・減面加工でラメラ状パーライトが生成せずに上記組織を得ることができない。一方、1100℃を超えるとオーステナイト結晶粒の成長が著しくなり伸線性を確保することが困難となることに加え、エネルギーの無駄が生じ工業的な実用化には極めて不利になる。好適には870〜970℃である。なお、加熱時間は、生産性、エネルギー等を勘案して短くすることが好ましく、品質面における結晶粒粗大化防止の観点からも、均熱時間は2〜10秒程度でよい。
本発明においては、パテンティング処理による過熱からの冷却速度および冷却方法については、特に制限はない。重要な要件は表層パーライト変態が生じた後、ただちに減面加工を加えることである。しかしながら、実用的には鋼線材表面の冷却速度を20〜150℃/秒程度とするのが好ましい。すなわち、20℃/秒未満であると生産性の阻害・冷却ゾーンの長大化といった不都合が生じ、金属組織的にも初析フェライト・セメンタイト等が析出しやすくなってしまうので好ましくない。一方、冷却速度が150℃/秒を超えると表層付近のみで生じさせるパーライト変態を抑制することが困難となり、好ましい組織を得るためのプロセス制御が極めて煩雑となってしまう。冷却手法としては、自然空冷、エアブロー、またはヘリウムガス、窒素ガスによるガス吹き付けでも流動層によるものでもよい。ただし、パテンティング処理浴として、従来良く使用されていた鉛浴については、その熱伝導係数が上記手法と比較して大きいため、鋼線材断面内における変態の時間差を利用することが困難となるので、好ましくない。
また、本発明においては、減面加工における加工温度は鋼線材の化学組成、線径とオーステナイト等からの冷却速度により定められる。鋼線材の冷却速度は表層部1で大きく、内部2に行くにつれて連続的に遅くなるので、パーライト変態が表層部1より起こることを利用する。そして、この変態が生じた瞬間は、鋼線材の冷却曲線よりパーライト変態による再輝現象(リカレッセンス)を捕えることにより判断し、これを加工温度とする。より実用的には、実際に処理を施す鋼線材と冷却手法を用いて、鋼線材の冷却曲線を予め作成し、ここから読み取れる再輝現象発生温度を加工温度とするのがよい。本発明においては、鋼線材の表面温度は550〜650℃、好適には570〜620℃の範囲である。
さらに、本発明においては、減面加工における減面率が2〜15%である。減面加工の方法は問われず、ダイス引き抜き、平ローラによる圧下、溝ロールによる圧延等いずれの手法でも構わない。しかしながら、温間域での加工であること、および次に続く伸線加工のためにできるだけ円形形状を崩さないことを考えると溝圧延ロールによる方法が好ましい。この減面加工と瞬時に起こる鋼線材の内部2のパーライト変態で生じる組織は、表層部1で生じた粗ラメラパーライト対比極めて微細なラメラパーライトまたは擬似パーライトであり、表層部1よりビッカース硬さが高く、伸線性を損なわない組織となる。この減面加工による減面率が2%未満であるとラメラ微細化の効果が小さい。一方、減面率が15%を超えると断面形状が円形形状から崩れて、結果として次の伸線工程で不均一加工を施すこととなり、所望の性能を得られなくなる。好適には3〜12%である。なお、減面加工後の冷却に関しては加工を加えた際に瞬時に変態が完了するため、冷却速度および冷却方法とも、特に制限はない。生産面や設備面から、環境負荷等を総合的に判断し空冷、ガス吹き付け水冷等のいずれを選択してもよい。
本発明の高炭素鋼線材の製造方法は、炭素含有量0.65〜1.00質量%の鋼線材をパテンティング処理する際、鋼線材を850〜1100℃まで加熱し、その後、鋼線材を冷却し、表面温度が550〜650℃の範囲の際に、減面率が2〜15%である減面加工を施すことが重要であり、これにより本発明の上記高炭素鋼線材を得ることができる。これ以外の工程における処理方法や処理条件等については、所望に応じ、常法に従い適宜行うことができる。
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1〜6および比較例1〜6>
高炭素鋼線材の素材としては直径5.5mmの共析鋼線材を用いた。共析鋼線材の化学成分は炭素量0.82質量%であり、その他、ケイ素0.20質量%、マンガン0.48質量%、リン0.005質量%、硫黄0.003質量%、ニッケル0.01質量%、クロム0.02質量%、銅0.01質量%、窒素0.0031質量%、残余が鉄である。この線材を乾式伸線により直径2.2mmまで引き抜き加工を行い、これを素線として表1および2に示すパテンティング条件による試験に供した。表1および2に実施例1〜6および比較例1〜6のオーステナイト化加熱温度、冷却速度、減面加工温度および加工減面率を示す。オーステナイト化加熱温度からの冷却は、いずれの条件においても自然空冷やエアブローもしくはヘリウムガスによるガス吹き付けによって行った。得られた高炭素鋼線材につき、下記の項目について評価を行った。また、その後、得られた高炭素鋼線材を酸洗、ブラスめっき処理し、その時伸線歪が3.40で一定となるように湿式伸線を行って、Φ0.37〜0.40mmのワイヤを作製した。得られたワイヤにつき、引張り強度とデラミネーションの発生の有無につき評価した。
(パテンティング後の鋼線材の評価)
組織特性として、鋼線材の表面から中心部に向かって44μmの位置(表層部:0.02Dに相当)と、鋼線材の表面から中心部に向かって550μmの位置(内部:0.25Dに相当)の組織を観察し、それぞれのパーライトおよび擬似パーライトの面積率とラメラ間隔を測定した。また、組織観察部と同一部において、ビッカース硬さを測定した。得られた結果を、表1および2に併記する。
(ワイヤの評価方法)
ワイヤの評価は、引張り強度と捻じり試験によるデラミネーションの発生の有無で評価した。引張り強度は3400MPa以上、デラミネーションの発生が無い場合を良好と判断した。得られた結果を、表1および2に併記する。
※1:鋼線材の表面から中心部に向かって44μmの位置
※2:鋼線材の表面から中心部に向かって550μmの位置
※1:鋼線材の表面から中心部に向かって44μmの位置
※2:鋼線材の表面から中心部に向かって550μmの位置
本発明の高炭素鋼線材は、引張り強度が大きく、また、デラミネーションの発生がなく、高強度と高延性が図れていることがわかる。一方、パテンティング時の加工温度が高いもの(比較例1)は、表層部と内部の組織及び硬さが目的のバランスとなっておらず、結果として表層脆化が進み、デラミネーションが発生した。また、加工温度が低い(比較例5)と鋼線材内部の組織まで粗ラメラパーライトとなり、所望の引張り強度が得られないことに加え、デラミネーションも発生する。減面率が15%を超えると鋼線材の表層部および内部の組織バランスは維持できるが、パテンティング鋼線材の断面形状が円形形状から崩れるため、湿式伸線工程での不均一加工を助長して、途中断線した。このように、本発明の高炭素鋼線材およびその製造方法により、高強度で高延性なワイヤが製造できることが確かめられた。
1 表層部
2 内部
10 高炭素鋼線材

Claims (2)

  1. 高炭素鋼線材の直径をD、該高炭素鋼線材の表面から0.05D以下の部位を表層部、表面から0.20Dを超える部位を内部としたとき、前記表層部の組織の90%以上がラメラ間隔0.10μm以上の粗ラメラパーライト組織であり、かつ、前記内部の組織の95%以上がラメラ間隔0.10μm未満の微細パーライト組織または擬似パーライト組織である高炭素鋼線材の製造方法であって、
    炭素を0.65〜1.00質量%含有する高炭素鋼線材にパテンティング処理を行う工程を有し、
    前記パテンティング処理にて、前記高炭素鋼線材を850〜1100℃まで加熱し、その後、該高炭素鋼線材を冷却し、表面温度が550〜650℃の範囲の際に、圧延加工で減面率が2〜14%である減面加工を施すことを特徴とする高炭素鋼線材の製造方法。
  2. 前記表層部のビッカース硬さが380以下であり、かつ、前記内部のビッカース硬さが前記表層部のビッカース硬さより大きい請求項記載の高炭素鋼線材の製造方法。
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