上記のような変速段の切り替えに伴う回転数合わせでは、モータの駆動又は回生による入力軸の目標回転数は、変速先(次段)の変速ギヤの回転数と同一の回転数に設定していた。そして、モータの駆動又は回生により入力軸の回転数がこの目標回転数に達したと判断した時点で、モータの駆動又は回生を停止して、回転数合わせのための制御を中止(終了)するようにしていた。その後、同期係合装置による変速ギヤと入力軸との同期係合動作(インギヤ動作)が行われる。
しかしながら、上記のように変速機の入力軸とエンジンのクランク軸との間にクラッチ(発進クラッチ)が介在している構成の変速機では、発進クラッチの締結を解除した状態でも、発進クラッチには僅かながらの伝達トルク(引き摺りトルク)が生じる。特に、発進クラッチが湿式クラッチの場合には、クラッチ内の作動油の攪拌によって引き摺りトルクが生じる。そのため、作動油の温度が低い場合や圧力が高い場合には、当該引き摺りトルクは、乾式クラッチを設けている場合と比較して大きなトルクとなる。このような発進クラッチの引き摺りトルクによって、入力軸の回転数がエンジンのクランク軸の回転数に近づいていく。そのため、上記モータの駆動又は回生による回転数合わせ制御で入力軸の目標回転数を変速先の回転数に設定しても、実際に同期係合装置による同期係合動作が行われるときには、発進クラッチに生じる引き摺りトルクによって、入力軸の回転数がエンジンの回転数に近づくことで、入力軸の回転数が目標回転数とは異なる回転数になってしまう。従来は、このような入力軸の回転数のずれは、同期係合装置の機械的構造で強制的に吸収していた。したがって、電動機による回転数合わせを行っても、同期係合装置にかかる負荷を完全に無くすことはできず、また、同期係合動作に伴う騒音や振動の発生にもつながる懸念があった。
また、同期係合装置による同期動作において、インギヤ時(ボーク時)のトルク増加は捩りトルクとして入力軸に作用する。この入力軸に作用する捩りトルクは、同期係合装置によるインギヤ動作の終了後(ギヤドグの掻き分け終了後)に一気に解放される。したがって、その場合に振動・騒音が発生したり、同期係合装置や入力軸など変速機の各部に負荷がかかったりする。特に、入力軸とエンジンのクランク軸との間の発進クラッチが湿式クラッチの場合には、当該発進クラッチの係合が解除されていてもある程度のトルクが伝達されるため、耐久性、騒音・振動の点で不利となる。また、入力軸と電動機の回転軸が連結された構成の変速機では、入力軸の慣性重量が大きいため、上記のような捩りトルクによる振動や騒音、あるいは負荷の問題がより顕著となるおそれが高い。
また、モータと同期係合装置を同軸上に配置した構造の変速機の場合、同期係合装置によるオフギヤ動作前にモータのトルクを入力軸にかけていた場合には、オフギヤ動作時に入力軸に捩れトルクが残留する。この入力軸に残留している捩れトルクによって、同期係合装置によるオフギヤ動作の際に引き抜き荷重が増大する。したがって、この残留している捩れトルクを考慮せずにオフギヤ動作を実施した場合、オフギヤ不能になるおそれがある。
なお、特許文献1に示す従来技術では、電動機の駆動力がクラッチを介して駆動輪へ伝達される構成であるため、同期係合装置による同期動作の際に電動機の回転数を零にすることで、電動機の駆動力がクラッチを介して駆動輪に伝達されることを回避して、駆動輪に伝達される駆動力を安定させるようにしている。しかしながら、同期係合装置による同期動作の際に電動機の回転数を零にすると、同期係合動作でショックが発生するなど、スムーズな同期係合動作の妨げとなるおそれがある。
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電動機が入力軸に連結された有段変速機を備えるハイブリッド車両において、入力軸に対して変速ギヤを同期係合させる同期係合動作に伴う振動・騒音などの発生を効果的に低減することができ、スムーズな同期係合動作が可能となるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明は、第1駆動源(2)と、第2駆動源としての電動機(3)と、電動機(3)との間で電力の授受が可能な蓄電器(30)と、電動機(3)の回転軸に連結された入力軸(IMS)と、入力軸(IMS)と第1駆動源(2)の回転軸(2a)との係合/解放を切換可能なクラッチ(C1)と、駆動輪側に駆動力を出力するための出力軸(CS)と、入力軸(IMS)の回転を出力軸(CS)に伝達可能に連結するために入力軸(IMS)と出力軸(CS)との間に設けられた複数のギヤ列と、複数のギヤ列を構成する変速ギヤ(43,45,47)の一つを入力軸(IMS)に対して選択的に同期係合させることで、入力軸(IMS)と出力軸(CS)との間で複数の変速段を成立させる同期係合装置(81,82)と、を備える変速機(4)と、変速機(4)、第1駆動源(2)、電動機(3)を制御する制御手段(10)と、を備え、制御手段(10)は、同期係合装置(81,82)により入力軸(IMS)上のいずれかの変速ギヤ(43,45,47)を入力軸(IMS)に同期係合させるとき、電動機(3)の駆動又は回生により入力軸(IMS)の回転数を上昇又は下降させて、該入力軸(IMS)の回転数を変速元の変速ギヤ(43,45,47)の回転数から変速先の変速ギヤ(43,45,47)の回転数に向けて補正する回転数合わせを行ってから同期係合装置(81,82)による同期係合動作を行うハイブリット車両の制御装置であって、制御手段(10)は、入力軸(IMS)の目標回転数として、変速先の変速ギヤ(43,45,47)の回転数である本来の目標回転数(XN0)を第1駆動源(2)の回転軸(2a)の回転数(NE)との差が大きくなる方向へ補正してなる補正目標回転数(XN1,XN2)を設定し、電動機(3)による回転数合わせにおいて、入力軸(IMS)の回転数(NM)が補正目標回転数(XN1,XN2)となるように制御することを特徴とする。
また、上記課題を解決するための本発明は、第1駆動源(2)と、第2駆動源としての電動機(3)とを備え、第1駆動源(2)の回転軸(2a)及び電動機(3)の回転軸から入力された駆動力を変速して出力する変速機(4)と、電動機(3)との間で電力の授受が可能な蓄電器(30)と、変速機(4)、第1駆動源(2)、電動機(3)を制御する制御手段(10)と、を備え、変速機(4)は、電動機(3)の駆動力及び第1駆動源(2)の駆動力が入力される第1入力軸(IMS)と、第1駆動源(2)の駆動力が入力される第2入力軸(SS)と、第1入力軸(IMS)又は第2入力軸(SS)に入力された駆動力を変速するための複数の駆動ギヤ(42〜47)と、複数の駆動ギヤ(42〜47)と噛合する複数の従動ギヤ(51〜53)が固定され、駆動ギヤ(42〜47)と従動ギヤ(51〜53)とを介して変速された駆動力を出力する出力軸(CS)と、第1駆動源(2)の回転軸(2a)と第1入力軸(IMS)との係合/解放を切換可能な第1クラッチ(C1)と、第1駆動源(2)の回転軸(2a)と第2入力軸(SS)との係合/解放を切換可能な第2クラッチ(C2)と、第1入力軸(IMS)上の駆動ギヤ(43,45,47)のいずれか1つを選択的に第1入力軸(IMS)に同期係合させる第1同期係合装置(81,82)と、第2入力軸(SS)上の駆動ギヤ(42,44,46)のいずれか1つを選択的に第2入力軸(SS)に同期係合させる第2同期係合装置(83,84)と、を備え、制御手段(10)は、変速段の切り替えに際して、第1同期係合装置(81,82)により第1入力軸(IMS)上のいずれかの駆動ギヤ(43,45,47)を第1入力軸(IMS)に同期係合させるとき、電動機(3)の駆動又は回生により第1入力軸(IMS)の回転数を上昇又は下降させて、該第1入力軸(IMS)の回転数を変速元の駆動ギヤ(43,45,47)の回転数から変速先の駆動ギヤ(43,45,47)の回転数に向けて補正する回転数合わせを行ってから第1同期係合装置(81,82)による同期係合動作を行うハイブリット車両の制御装置であって、制御手段(10)は、第1入力軸(IMS)の目標回転数として、変速先の駆動ギヤ(43,45,47)の回転数である本来の目標回転数(XN0)を第1駆動源(2)の回転軸(2a)の回転数(NE)との差が大きくなる方向へ補正してなる補正目標回転数(XN1,XN2)を設定し、電動機(3)による回転数合わせにおいて、第1入力軸(IMS)の回転数(NM)が補正目標回転数(XN1,XN2)となるように制御することを特徴とする。
本発明にかかるハイブリット車両の制御装置によれば、電動機の回転軸が入力軸に連結された有段変速機において、同期係合装置により入力軸上の変速ギヤを入力軸に対して同期係合させる同期係合動作(インギヤ動作)を行うとき、入力軸の目標回転数を第1駆動源の回転数との差が大きくなる方へオフセット(補正)した補正目標回転数に合わせるようにして同期係合動作を実施する。これにより、クラッチの引き摺りトルクによって入力軸の回転数が第1駆動源の回転数に近付くように変化することを利用して、入力軸の回転数が変速先の変速ギヤの回転数により近い状態で同期係合動作を実施することが可能となる。したがって、同期係合動作による振動・騒音などの発生(変速ショックの発生)を効果的に低減することができる。よって、変速機構の各部(同期係合装置のシンクロナイザリング、シフトフォークやそれらを駆動するためのアクチュエータ機構など)にかかる負荷を低減することができ、変速機の耐久性を向上させることができる。また、同期係合装置が備えるギヤ(ドグギヤ)などの接触による異音の発生を抑制できるため、振動・騒音の低減を図ることができ、車両走行の快適性が向上する。
また、上記のハイブリッド車両の制御装置では、制御手段(10)は、本来の目標回転数(XN0)が第1駆動源(2)の回転軸(2a)の回転数(NE)よりも低いときには、補正目標回転数(XN1)を本来の目標回転数(XN0)よりも低い回転数に設定するとよい。
あるいは、制御手段(10)は、本来の目標回転数(XN0)が第1駆動源(2)の回転軸(2a)の回転数(NE)よりも高いときには、補正目標回転数(XN2)を本来の目標回転数(XN0)よりも高い回転数に設定するとよい。
第一駆動源を用いて入力軸側に駆動力を与えた走行状態にて変速先の変速段に対する本来の目標回転数が第1駆動源の回転数よりも高いときには、電動機による回転数合わせの補正目標回転数を本来の目標回転数よりも高い回転数まで上げておき、クラッチの引き摺りトルクによって入力軸の回転数が下降することを利用して、当該入力軸の回転数が下降する過程で変速先の変速ギヤとの回転数合わせを行うようにする。一方、上記走行状態にて変速先の変速段に対する本来の目標回転数が第1駆動源の回転数よりも低いときには、電動機による回転数合わせの補正目標回転数を本来の目標回転数よりも低い回転数まで下げておき、クラッチの引き摺りトルクによって入力軸の回転数が上昇することを利用して、当該入力軸の回転数が上昇する過程で変速先の変速ギヤとの回転数合わせを行うようにする。これらによって、同期係合動作時(インギヤ時)に同期係合装置及び変速機にかかる負荷を効果的に低減できると共に、同期係合動作に伴い発生する振動・騒音をより効果的に低減できる。
また、上記ハイブリッド車両の制御装置では、入力軸(IMS)又は第1入力軸(IMS)と第1駆動源(2)の回転軸(2a)との係合/解放を切換可能なクラッチ(C1)又は第1クラッチ(C1)は、湿式クラッチであってよい。入力軸と第1駆動源との間に設けたクラッチが湿式クラッチの場合、該クラッチ内の作動油の攪拌による引き摺りトルクが生じる。この引き摺りトルクは、作動油の温度が低い場合や圧力が高い場合には比較的に大きなトルクとなる。これに対して、本発明にかかる上記の回転数合わせの制御を行うことで、入力軸が当該引き摺りトルクの影響を受ける場合でも、同期係合装置及び変速機にかかる負荷を効果的に低減できると共に、同期係合動作に伴い発生する振動・騒音を効果的に低減できる。
また、上記ハイブリッド車両の制御装置では、制御手段(10)は、同期係合装置(81,82)により変速ギヤ(43,45,47)を入力軸(IMS)に同期係合させるインギヤ動作又は変速ギヤ(43,45,47)の入力軸(IMS)への係合を解除するオフギヤ動作を実施する際に、予め電動機(3)の駆動又は回生により入力軸(IMS)に捩れを解消するためのトルクを付与し、その後、所定時間(Dta,Dtd)が経過してから同期係合装置(81,82)によるインギヤ動作又はオフギヤ動作を開始するとよい。
上記構成の変速機が備える入力軸には、伝達トルクによって捩れが発生する。特に、入力軸の軸長が長い場合には当該捩れの影響が大きくなる。そして、入力軸に捩れが発生した状態でインギヤ動作又はオフギヤ動作を実行すると、スムーズなインギヤ動作又はオフギヤ動作の妨げとなるおそれがある。そのため、同期係合装置によるインギヤ動作又はオフギヤ動作を行う際には、入力軸の捩れが解消してからインギヤ動作又はオフギヤ動作を実行することが望ましい。そのためここでは、予め電動機の駆動又は回生により入力軸に捩れを解消するためのトルクを付与し、その後、所定時間(入力軸の捩れの解消に必要な余裕時間)が経過するのを待ってから同期係合装置によるインギヤ動作又はオフギヤ動作を実行する。これにより、伝達トルクによる入力軸の捩れの影響を受けずに済むので、同期係合装置によるスムーズなインギヤ動作又はオフギヤ動作が可能となる。
また、上記ハイブリッド車両の制御装置では、制御手段(10)は、電動機(3)による回転数合わせを行う際、該回転数合わせに必要な電動機(3)の駆動又は回生の制御の指令を出す時点(t18,t28)は、制御信号の伝達に伴う応答遅れの時間(Dtc,Dtf)を加味して決定するとよい。
電動機による回転数合わせの制御を行ったとしても、制御信号の伝達に伴う遅れ時間が発生するために、実際に同期係合装置による同期係合動作が行われるときには、入力軸の回転数と目標回転数との間にずれが生じてしまうおそれがある。この場合、当該回転数のずれは、同期係合装置の機械的構造によって吸収することになり、スムーズな同期係合動作の妨げとなる。そのためここでは、制御信号の伝達に伴う遅れ時間を考慮して電動機による回転数合わせの制御の指令を出すとよい。これにより、実際に同期係合装置による同期係合動作が行われるときの入力軸の回転数を目標回転数により近付けることが可能となる。したがって、同期係合装置の機械的構造で吸収する回転数のずれを少なく抑えることができ、スムーズな同期係合動作が可能となる。また、同期係合装置及び変速機にかかる負荷を低減できる。
また、上記ハイブリッド車両の制御装置では、制御手段(10)は、同期係合装置(81,82)によるインギヤ動作又はオフギヤ動作の後に電動機(3)による回転数合わせの制御を行う場合には、インギヤ動作又はオフギヤ動作の終了後、所定時間(Dtb,Dte)が経過してから電動機(3)による回転数合わせの指令を出すとよい。すなわち、同期係合装置によるインギヤ動作又はオフギヤ動作の後、入力軸の捩れが解放されたと判断するまで回転数合わせの制御の指令を遅らせるようにするとよい。
同期係合装置によるインギヤ動作又はオフギヤ動作に伴い入力軸の捩れが発生する。そのため、同期係合装置によるインギヤ動作又はオフギヤ動作の後で電動機による回転数合わせを行う場合には、この入力軸の捩れが解放されたと判断するまで、電動機による回転数合わせの制御の指令を遅らせるようにする。これにより、入力軸の捩れの影響を受けずに済むことで、より正確な回転数合わせが可能となる。
また、上記ハイブリッド車両の制御装置では、同期係合装置(81,83)を駆動するためのアクチュエータ機構を備え、制御手段(10)は、同期係合装置(81,83)による同期係合動作が行われる時点(t20,t30)の直前(t19,t29)まで電動機(3)による回転数合わせの制御が行われるように、電動機(3)による回転数合わせの制御とアクチュエータ機構による同期係合装置(81,82)の駆動の制御とを協調させるとよい。
この構成によれば、電動機による回転数合わせの制御と、アクチュエータ機構によって同期係合装置を駆動する動作(ギヤアクチュエータ動作)とを協調させることで、変速先の変速ギヤと入力軸との回転数差がより少ない状態での同期係合動作が可能となる。これにより、振動や騒音がより少ないスムーズな同期係合動作を実現できる。また、同期係合装置の負荷をより効果的に低減することができる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
本発明にかかるハイブリッド車両の制御装置によれば、電動機の駆動又は回生によって入力軸に対して変速ギヤを同期係合させる同期係合動作に伴う振動・騒音などの発生を効果的に低減することができ、スムーズな同期係合動作が可能となる。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる車両駆動用電動機の制御装置を備えた車両の構成例を示す概略図である。本実施形態の車両1は、図1に示すように、駆動源としての内燃機関2及び電動機3を備えたハイブリッド自動車の車両であって、さらに、電動機3を制御するためのインバータ20と、バッテリ30と、トランスミッション(変速機)4と、ディファレンシャル機構5と、左右のドライブシャフト6R,6Lと、左右の駆動輪WR,WLとを備える。ここで、電動機3は、モータでありモータジェネレータを含み、バッテリ30は、蓄電器でありキャパシタを含む。また、内燃機関2は、エンジンであり、ディーゼルエンジンやターボエンジンなどを含む。内燃機関(以下、「エンジン」と記す。)2と電動機(以下、「モータ」と記す。)3の回転駆動力は、変速機4、ディファレンシャル機構5およびドライブシャフト6R,6Lを介して左右の駆動輪WR,WLに伝達される。
また、車両1は、エンジン2、モータ3、変速機4、ディファレンシャル機構5、インバータ20およびバッテリ30をそれぞれ制御するための電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)10を備える。電子制御ユニット10は、1つのユニットとして構成されるだけでなく、例えばエンジン2を制御するためのエンジンECU、モータ3やインバータ20を制御するためのモータジェネレータECU、バッテリ30を制御するためのバッテリECU、変速機4を制御するためのAT−ECUなど複数のECUから構成されてもよい。本実施形態の電子制御ユニット10は、エンジン2を制御するとともに、モータ3やバッテリ30、変速機4を制御する。
電子制御ユニット10は、各種の運転条件に応じて、モータ3のみを駆動源とするモータ単独走行(EV走行)をするように制御したり、エンジン2のみを駆動源とするエンジン単独走行をするように制御したり、エンジン2とモータ3の両方を駆動源として併用する協働走行(HEV走行)をするように制御する。
また、電子制御ユニット10には、制御パラメータとして、アクセルペダルの踏込量を検出するアクセルペダルセンサ31からのアクセルペダル開度、ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキペダルセンサ32からのブレーキペダル開度、ギヤ段(変速段)を検出するシフトポジションセンサ33からのシフト位置、モータ3の回転数を検出するモータ回転数センサ34からのモータ回転数、内側メインシャフト(第1入力軸)IMS、外側メインシャフトOMS、カウンタシャフトCSなど各回転軸の回転数を検出する回転軸センサ39からの回転数、バッテリ30の温度を検出するバッテリ温度センサ36からのバッテリ温度、バッテリ30の残容量(SOC)を測定する残容量検出器35からの残容量などの各種信号が入力されるようになっている。
エンジン2は、燃料を空気と混合して燃焼することにより車両1を走行させるための駆動力を発生する内燃機関である。モータ3は、エンジン2とモータ3との協働走行やモータ3のみの単独走行の際には、バッテリ30の電気エネルギーを利用して車両1を走行させるための駆動力を発生するモータとして機能するとともに、車両1の減速時には、モータ3の回生により電力を発電する発電機として機能する。モータ3の回生時には、バッテリ30は、モータ3により発電された電力(回生エネルギー)により充電される。
次に、本実施形態の車両が備える変速機4の構成を説明する。図2は、図1に示す変速機4のスケルトン図である。図3は、図2に示す変速機4の各シャフトの係合関係を示す概念図である。変速機4は、前進7速、後進1速の平行軸式トランスミッションであり、乾式のツインクラッチ式変速機(DCT:デュアルクラッチトランスミッション)である。
変速機4には、エンジン2の機関出力軸をなすクランクシャフト2aおよびモータ3に接続される内側メインシャフト(第1入力軸)IMSと、この第1入力軸IMSの外筒をなす外側メインシャフト(第2入力軸)OMSと、第1入力軸IMSにそれぞれ平行なセカンダリシャフト(第2入力軸)SS、アイドルシャフトIDS、リバースシャフトRVSと、これらのシャフトに平行で出力軸をなすカウンタシャフトCSとが設けられる。
これらのシャフトのうち、外側メインシャフトOMSがアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSSに常時係合し、カウンタシャフトCSがさらにディファレンシャル機構5(図1参照)に常時係合するように配置される。
また、変速機4は、奇数段用の第1クラッチC1と、偶数段用の第2クラッチC2とを備える。第1および第2クラッチC1,C2は湿式のクラッチである。第1クラッチC1は第1入力軸IMSに結合される。第2クラッチC2は、外側メインシャフトOMS(第2入力軸の一部)に結合され、外側メインシャフトOMS上に固定されたギヤ48からアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSS(第2入力軸の一部)に連結される。
第1入力軸IMSのモータ3よりの所定箇所には、プラネタリギヤ機構70のサンギヤ71が固定配置される。また、第1入力軸IMSの外周には、図2において左側から順に、プラネタリギヤ機構70のキャリア73と、3速駆動ギヤ43と、7速駆動ギヤ47と、5速駆動ギヤ45が配置される。3速駆動ギヤ43、7速駆動ギヤ47、5速駆動ギヤ45はそれぞれ第1入力軸IMSに対して相対的に回転可能であり、3速駆動ギヤ43は、プラネタリギヤ機構70のキャリア73に連結しており、1速駆動ギヤとしても兼用される。更に、第1入力軸IMS上には、3速駆動ギヤ43と7速駆動ギヤ47との間に3−7速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)81が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、5速駆動ギヤ45に対応して5速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)82が軸方向にスライド可能に設けられる。所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段が第1入力軸IMSに連結される。第1入力軸IMSに関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、奇数段の変速を行うための第1変速機構S1が構成される。第1変速機構S1の各駆動ギヤは、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。
セカンダリシャフトSS(第2入力軸)の外周には、図2において左側から順に、2速駆動ギヤ42と、6速駆動ギヤ46と、4速駆動ギヤ44とが相対的に回転可能に配置される。更に、セカンダリシャフトSS上には、2速駆動ギヤ42と6速駆動ギヤ46との間に2−6速シンクロメッシュ機構83が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、4速駆動ギヤ44に対応して4速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)84が軸方向にスライド可能に設けられる。この場合も、所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段がセカンダリシャフトSS(第2入力軸)に連結される。セカンダリシャフトSS(第2入力軸)に関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、偶数段の変速を行うための第2変速機構S2が構成される。第2変速機構S2の各駆動ギヤも、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。なお、セカンダリシャフトSSに固定されたギヤ49はアイドルシャフトIDS上のギヤ55に結合しており、該アイドルシャフトIDSから外側メインシャフトOMSを介して第2クラッチC2に結合される。
リバースシャフトRVSの外周には、リバース駆動ギヤ58が相対的に回転可能に配置される。また、リバースシャフトRVS上には、リバース駆動ギヤ58に対応してリバースシンクロメッシュ機構85が軸方向にスライド可能に設けられ、また、アイドルシャフトIDSに係合するギヤ50が固定されている。リバース走行する場合は、シンクロメッシュ機構85のシンクロを入れて、第2クラッチC2を係合することにより、第2クラッチC2の回転が外側メインシャフトOMS及びアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSに伝達され、リバース駆動ギヤ58が回転される。リバース駆動ギヤ58は第1入力軸IMS上のギヤ56に噛み合っており、リバース駆動ギヤ58が回転するとき第1入力軸IMSは前進時とは逆方向に回転する。第1入力軸IMSの逆方向の回転はプラネタリギヤ機構70に連結したギヤ(3速駆動ギヤ)43を介してカウンタシャフトCSに伝達される。
また、リバースシャフトRVS上には、オイルポンプ(補機)60が設置されている。したがって、第1クラッチC1を係合することによる第1入力軸IMSの回転又は第2クラッチC2を係合することによる外側メインシャフトOMSの回転がリバース駆動ギヤ58及びリバースシャフトRVSを介してオイルポンプ60に伝達されて、該オイルポンプ60が駆動する。
カウンタシャフトCS上には、図2において左側から順に、2−3速従動ギヤ51と、6−7速従動ギヤ52と、4−5速従動ギヤ53と、パーキング用ギヤ54と、ファイナル駆動ギヤ55とが固定的に配置される。ファイナル駆動ギヤ55は、ディファレンシャル機構5のディファレンシャルリングギヤ(図示せず)と噛み合うようになっており、これにより、カウンタシャフトCSの出力軸の回転がディファレンシャル機構5の入力軸(つまり車両推進軸)に伝達される。また、プラネタリギヤ機構70のリングギヤ75には、該リングギヤ75の回転を停止するためのブレーキ41が設けられる。
上記構成の変速機4では、2−6速シンクロメッシュ機構83のシンクロスリーブを左方向にスライドすると、2速駆動ギヤ42がセカンダリシャフトSSに結合され、右方向にスライドすると、6速駆動ギヤ46がセカンダリシャフトSSに結合される。また、4速シンクロメッシュ機構84のシンクロスリーブを右方向にスライドすると、4速駆動ギヤ44がセカンダリシャフトSSに結合される。このように偶数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第2クラッチC2を係合することにより、変速機4は偶数の変速段(2速、4速、又は6速)に設定される。
3−7速シンクロメッシュ機構81のシンクロスリーブを左方向にスライドすると、3速駆動ギヤ43が第1入力軸IMSに結合されて3速の変速段が選択され、右方向にスライドすると、7速駆動ギヤ47が第1入力軸IMSに結合されて7速の変速段が選択される。また、5速シンクロメッシュ機構82のシンクロスリーブを右方向にスライドすると、5速駆動ギヤ45が第1入力軸IMSに結合されて5速の変速段が選択される。シンクロメッシュ機構81、82がいずれのギヤ43、47、45も選択していない状態(ニュートラル状態)では、プラネタリギヤ機構70の回転がキャリア73に連結したギヤ43を介してカウンタシャフトCSに伝達され、1速の変速段が選択されることになる。このように奇数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第1クラッチC1を係合することにより、変速機4は奇数の変速段(1速、3速、5速、又は7速)に設定される。
変速機4で実現すべき変速段の決定及び該変速段を実現するための制御(第1変速機構S1及び第2変速機構S2における変速段の選択(シンクロの切り替え制御)と、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合及び係合解除の制御等)は、公知のように、運転状況に従って、電子制御ユニット10によって実行される。
ここで、モータ3の駆動による変速段の切替時の回転数合わせ制御について説明する。ここでいう変速段の切替時の回転数合わせとは、偶数段(2速段、4速段、6速段)で走行中に1速側連結状態、3速側連結状態、5速側連結状態、7速側連結状態のいずれかとするときに、第1回転軸IMSに連結されたモータ3を駆動させることで、第1入力軸IMSの回転数をカウンタシャフトCS上の従動ギヤ51〜53によって空転している3速駆動ギヤ43又は5速駆動ギヤ45又は7速駆動ギヤ47の回転数に合わせることである。このとき、1速又は3速側連結状態にするときは3速駆動ギヤ43の回転数、5速側連結状態にするときは5速駆動ギヤ45の回転数、7速側連結状態にするときは7速駆動ギヤ47の回転数に合わせる。
第1入力軸IMSの回転数と3速駆動ギヤ43又は5速駆動ギヤ45又は7速駆動ギヤ47の回転数とが合っていない状態で第1変速機構S1(シンクロメッシュ機構81,82)による同期係合動作を行うと、伝達過渡状態において、同期に伴う摩擦力によって両者の回転数が合ってから接続が完了する。このときの摩擦力によってシンクロメッシュ機構81,82の各部が摩耗したり、振動や騒音が発生したりする恐れがある。これに対して、上記のようにモータ3による回転数合わせを行ってから変速段を切り替えるようにすれば、シンクロメッシュ機構81,82の各部の摩耗や振動、騒音の発生を抑制することができる。
ところが、既述のように、本実施形態の変速機4では、第1入力軸IMSとエンジン2のクランク軸2aとの間に第1クラッチ(発進クラッチ)C1が介在しているため、第1クラッチC1の締結を解除した状態でも、第1クラッチC1には僅かながらの伝達トルク(引き摺りトルク)が生じる。特に、第1クラッチC1が湿式クラッチの場合には、第1クラッチC1内の作動油の攪拌によって引き摺りトルクが生じる。そのため、作動油の温度が低い場合や圧力が高い場合には、当該引き摺りトルクは、乾式クラッチを設けている場合と比較して大きなトルクとなる。このような第1クラッチC1の引き摺りトルクによって、第1入力軸IMSの回転数がエンジン2のクランク軸2aの回転数に近づいていく。そのため、モータ3の駆動又は回生による回転数合わせの制御で、第1入力軸IMSの目標回転数を変速先の回転数に設定しても、実際にシンクロメッシュ機構81,82による同期係合動作が行われるときには、第1入力軸IMSの回転数がエンジン2の回転数に近づくことで、第1入力軸IMSの回転数が目標回転数とは異なる回転数になってしまう。
これに対して、本実施形態では、第1入力軸IMSに対して駆動ギヤ43,45,47を同期係合させるシンクロメッシュ機構81,82による同期係合動作(インギヤ動作)を行うとき、第1入力軸IMSの目標回転数をエンジン2の回転数との差が大きくなる方へオフセット(補正)した補正目標回転数に合わせるようにして同期係合動作を実施するようにしている。これにより、第1クラッチC1の引き摺りトルクによって第1入力軸IMSの回転数がエンジン2の回転数に近付くように変化することを利用して、第1入力軸IMSの回転数が変速先の駆動ギヤ43,45,47の回転数により近い状態で同期係合動作を実施することが可能となる。以下、当該制御の詳細について説明する。
図4は、変速段(奇数変速段)の切り替え(アップシフト)の際にモータ3による回転数合わせの制御を行う場合の各値の変化を示すタイミングチャートである。同図のタイミングチャートでは、上段のグラフには、第1入力軸IMSの回転数(NM)の変化とエンジン2の回転数(NE)の変化とが示されており、中段のグラフには、モータトルクの変化とモータ3の駆動制御の要求とが示されており、下段のグラフには、シンクロメッシュ機構81,82を作動するためのギヤアクチュエータ信号(ギヤアクチュエータストローク)の変化とギヤ段(目標ギヤ段及び実ギヤ段)の変化とが示されている。なお、中段のグラフでモータトルクが0未満(負の値)の場合は、モータ3による回生を行っていることで、モータ3から第1入力軸IMSに対して回生トルクが付与されている状態である。
図4のタイミングチャートに示す制御は、変速段の切り替えとして、変速元の変速段(3速段)よりも変速先の変速段(5速段)が高い変速段であるアップシフトを行う場合の制御である。以下では、変速元が3速段であり変速先が5速段である場合を例に説明する。この制御では、時刻t0の時点では、シンクロメッシュ機構82で3速段が係合している。その状態で、時刻t11にモータトルク(回生トルク)が0になるように制御する。その後、時刻t1でギヤアクチュエータストロークが変化することで、3速段の係合状態からのオフギヤ動作が行われる。この場合、モータトルク(回生トルク)が0になる時刻t11からオフギヤ動作のためにギヤアクチュエータストロークが変化する時刻t12との間には、遅れ時間Dta(=t12−t11)が設定されている。この遅れ時間Dtaは、時刻t11以前に付与されていたモータトルクによって第1入力軸IMSに生じる捩れの影響を解消するために設けている時間である。その後、時刻t13で、3速段のオフギヤ動作のためのギヤアクチュエータのストロークが終了する(3速段のオフギヤ動作が終了する)。そして、時刻t14でモータ3の回転要求が出され、XT2(<0)のモータトルクが発生する。このモータトルクXT2は、第1入力軸IMSの回転数を減少させて5速段の駆動ギヤ45の回転数に合わせるためのトルク(回生トルク)である。そして、モータトルクXT2の発生と同時に第1変速機構S1の実ギヤ段が3速段からニュートラルになる。
その後、時刻t15で、第1入力軸IMSの回転数の目標回転数XN1に向けた下降が始まる。その後、時刻t16で第1入力軸IMSの回転数が目標回転数XN1になる。その時点で、モータトルクがXT2からXT1(XT2<XT1<0)に変化する。これにより、以降、第1入力軸IMSの回転数が目標回転数XN1に維持される。すなわち、モータトルクXT1は、第1入力軸IMSの回転数を目標回転数XN1に維持するために必要なトルクである。このモータトルクXT1は、第1ラッチC1の引き摺りトルク及び変速機4内(第1入力軸IMS上など)で生じるフリクションなどに依存して決まる値である。また、モータトルクXT2は、第1入力軸IMSの回転数を目標回転数XN1に合わせる(目標回転数XN1まで下降させる)ために必要なトルクである。なお、このモータトルクXT2は、バッテリ30の出力に制限があるときには、必要に応じて当該制限に基づいて値を変化させる。
その後、時刻t17で、5速段のインギヤ動作に向けたギヤアクチュエータのストロークが開始される。時刻t18で、シンクロメッシュ機構81に対してボーク及びインギヤの指令が出される。またその際に、モータ3に対する回転要求が解除され、それ以降、0Nm(空転)要求となる。その後、時刻t19でモータトルクがXT1から0に変化する。ここで、時刻t18でモータ3に対する回転要求が解除されてから、時刻t19で実際にモータトルクが0Nmになるまでの間に時間差Dtc(=t19−t18)分のタイムラグがあるが、この時間差Dtcは、制御信号の通信に伴う応答遅れによるものである。このように、回転数合わせに必要なモータ3の回生に関する制御の指令を出す時点t18は、制御信号の伝達に伴う応答遅れの時間Dtcを加味して決定される。
時刻t19でモータトルクが0Nmになることで、それ以降、第1クラッチC1の引き摺りトルクによって、第1入力軸IMSの回転数がエンジン2の回転数に近付くように上昇してゆく。これにより、図4のA部分に示すように、第1入力軸IMSの回転数が上昇する過程で次段(5速段)の回転数と一致することで、シンクロメッシュ機構81による同期係合動作がスムーズに行われる。そして、時刻t20でボーク及びインギヤの指令が解除されると共に、モータトルクの指令(回転要求)が完全に解除され、実ギヤ段が次段(5速段)に切り替わる。これにより、前変速段から次変速段への変速動作(3速段から5速段へのアップシフト)が完了する。
図5は、変速段(奇数変速段)の切り替え(ダウンシフト)の際にモータ3による回転数合わせの制御を行う場合の各値の変化を示すタイミングチャートである。図5のタイミングチャートに示す制御は、変速段の切り替えとして、変速元の変速段よりも変速先の変速段が低い変速段であるダウンシフトを行う場合の制御である。以下では、変速元が5速段であり変速先が3速段である場合を例に説明する。この制御では、時刻t0の時点では、第1変速機構S1のシンクロメッシュ機構81で5速段が係合している。その状態で、時刻t21にモータトルク(回生トルク)が0になるように制御する。その後、時刻t22でギヤアクチュエータストロークが変化することで、3速段の係合状態からのオフギヤ動作が行われる。この場合、モータトルク(回生トルク)が0になる時刻t21とオフギヤ動作のためにギヤアクチュエータストロークの変化が開始される時刻t22との間には、遅れ時間Dtd=t22−t21が設定されている。この遅れ時間Dtdは、時刻t21以前に付与されていたモータトルクによって第1入力軸IMSに生じる捩れの影響を解消するために設けている遅れ時間である。その後、時刻t23で、5速段のオフギヤ動作のためのギヤアクチュエータのストロークが終了する(5速段のオフギヤ動作が終了する)。そして、時刻t24でモータ3の回転要求が出され、XT4(>0)のモータトルクが発生する。このモータトルクXT4は、第1入力軸IMSの回転数を増加させて3速段の駆動ギヤ43の回転数に合わせるためのトルク(駆動トルク)である。そして、このモータトルクXT4の発生と同時に目標ギヤ段が3速段に設定される。
その後、時刻t25で、第1入力軸IMSの回転数の目標回転数XN2に向けた上昇が始まる。その後、時刻t26で第1入力軸IMSの回転数が目標回転数XN2になる。その時点で、モータトルクがXT4からXT3(XT4>XT3>0)に変化する。これにより、以降、第1入力軸IMSの回転数が目標回転数XN2に維持される。すなわち、モータトルクXT3は、第1入力軸IMSの回転数を目標回転数XN2に維持するために必要なトルクである。このモータトルクXT3は、第1ラッチC1の引き摺りトルク及び変速機4内で生じるフリクションなどに依存して決まる値である。また、モータトルクXT4は、第1入力軸IMSの回転数NMを目標回転数XN2に合わせる(目標回転数XT2まで上昇させる)ために必要なトルクである。なお、このモータトルクXT4は、バッテリ30の出力に制限があるときには、必要に応じて当該制限に基づいて値を変化させる。
その後、時刻t27で、3速段のインギヤ動作に向けたギヤアクチュエータのストロークが開始される。時刻t28で、シンクロメッシュ機構82に対してボーク及びインギヤの指令が出される。またその際に、モータ3に対する回転要求が解除され、それ以降、0Nm(空転)要求となる。その後、時刻t29でモータトルクがXT3から0に変化する。ここで、時刻t28でモータ3に対する回転要求が解除されてから、時刻t29で実際にモータトルクが0Nmになるまでの間に時間差Dtf=t29−t28があるが、この時間差Dtfは、制御信号の通信に伴う応答遅れによるものである。時刻t29でモータトルクが0になることで、それ以降、第1クラッチC1の引き摺りトルクにより、第1入力軸IMSの回転数がエンジン2の回転数に近付くように下降してゆく。これにより、図5のB部分に示すように、第1入力軸IMSの回転数が下降する過程で次段(3速段)の回転数と一致することで、シンクロメッシュ機構82による同期係合動作がスムーズに行われる。そして、時刻t30でボーク及びインギヤの指令が解除されると共に、モータトルクの指令(回転要求)が完全に解除され、実ギヤ段が次段(3速段)に切り替わる。これにより、前変速段から次変速段への変速動作(5速段から3速段へのダウンシフト)が完了する。
図6は、本発明にかかるモータ3による回転数合わせの制御(図4に示すアップシフトの際の制御)に対応する従来制御を説明するためのタイミングチャートである。図6に示す従来制御では、時刻t0の時点では、第1変速機構G1のシンクロメッシュ機構82で3速段に係合している。その後、時刻t31にモータトルク(回生トルク)が0になるように制御すると共に、ギヤアクチュエータのストロークが変化することで、3速段の係合状態からのオフギヤ動作が行われる。この従来制御では、時刻t31以前に付与されていたモータトルクによって第1入力軸IMSに生じる捩れの影響がオフギヤ動作時に残ってしまうため、オフギヤ動作をスムーズに行えない懸念がある。
その後、時刻t32でモータ3の回転要求が出され、XT5(<0)のモータトルクが発生する。このモータトルクXT5は、第1入力軸IMSの回転数を次段である5速段の駆動ギヤ45の回転数に合わせるためのトルク(回生トルク)である。そして、このモータトルクXT5の発生の後、時刻t33に第1入力軸IMSの回転数の目標回転数XN3に向けた下降が始まる。その後、時刻t34で第1入力軸IMSの回転数が目標回転数XN3になる。その時点で、モータトルクがXT5から0に変化する。時刻t34でモータトルクが0になることで、それ以降、第1クラッチC1の引き摺りトルクにより、第1入力軸IMSの回転数がエンジン2の回転数に近付くように上昇してゆく。そのため、この従来制御では、時刻t4で一度次段回転数と第1入力軸IMSの回転数とが一致した後、次段回転数と第1入力軸IMSとの差が再び大きくなってゆく。
その後、時刻t35で、5速段のインギヤ動作に向けたギヤアクチュエータのストロークが開始される。時刻t36で、シンクロメッシュ機構81に対してボーク及びインギヤの指令が出される。時刻t37でシンクロメッシュ機構81による同期係合動作が行われる。この際、第1入力軸IMSの回転数と次段回転数との間にはずれ(差回転)があるが、この回転数のずれは、シンクロメッシュ機構81の機械的構造によって強制的に吸収される。そして、時刻t38でボーク及びインギヤの指令が解除されると共に、モータトルクの指令(回転要求)が解除され、実ギヤ段が次段(5速段)に切り替わる。
図7は、上記の回転数合わせの制御を行うことによる同期係合時(インギヤ時)の荷重低減効果を説明するための図で、(a)は、従来のモータ3による回転数合わせの制御(図6のタイミングチャートに示す制御)におけるインギヤ側トルクとインギヤを妨げるトルクとの比較を示す図、(b)は、本発明にかかるモータ3による回転数合わせの制御(図4のタイミングチャートに示す制御)におけるインギヤ側トルクとインギヤを妨げるトルクとの比較を示す図である。ここでは、車両1の停車時に変速段がニュートラルの状態から、シンクロメッシュ機構81により1速段にインギヤした場合を示している。
図7(a)に示す従来の制御では、1速段のシンクロメッシュ機構81が発生するトルク(インデックストルク)と変速機4内で発生する摩擦力(フリクション)によるトルクとの合計であるインギヤ側のトルクと、モータ3のコギングトルクやリプルトルクなどのトルクと第1クラッチC1の引き摺りトルクとの合計であるインギヤを妨げるトルクとが釣り合っている。すなわち、従来の制御では、第1入力軸IMSの回転数をエンジン2のクランク軸2aの回転数から離れる方向(回転数差が大きくなる方向)へ変化させて同期していたことで、第1クラッチC1の引き摺りトルクがインギヤを妨げるトルクとして作用していた。
これに対して、本発明にかかる制御では、1速段のシンクロメッシュ機構81が発生するトルク(インデックストルク)と変速機4内で発生する摩擦力(フリクション)によるトルクと第1クラッチC1の引き摺りトルクとの合計であるインギヤ側のトルクと、モータ3のコギングトルクやリプルトルクなどのインギヤを妨げるトルクとが釣り合っている。すなわち、本発明にかかる制御では、第1入力軸IMSの回転数をエンジン2のクランク軸2aの回転数に近づく方向(回転数差が小さくなる方向)へ変化させて同期していることで、第1クラッチC1の引き摺りトルクがインギヤ側のトルクとして作用している。このように、本発明にかかる制御では、従来制御と比較して、第1入力軸IMSの回転数合わせにおける第1クラッチC1の引き摺りトルクの作用方向が変化していることで、インギヤ側のトルクとインギヤを妨げるトルクとの釣り合い点のトルクが従来よりも低いトルクに抑えられている。これにより、従来制御と比較して、シンクロメッシュ機構81(82)にかかる負荷を低く抑えることができる。
以上説明したように、本発明にかかる制御によれば、モータ3の回転軸が第1入力軸IMSに連結された有段変速機において、第1入力軸IMSに対して変速ギヤ(駆動ギヤ)43,45,47を同期係合させるシンクロメッシュ機構81,82による同期係合動作(インギヤ動作)を行うとき、第1入力軸IMSの目標回転数をエンジン2の回転数NEとの差が大きくなる方へオフセットした補正目標回転数XN1,XN2に合わせるようにして同期係合動作を実施するようにした。これにより、第1クラッチC1の引き摺りトルクによって第1入力軸IMSの回転数がエンジン2の回転数に近付くように変化することを利用して、第1入力軸IMSの回転数が変速先の駆動ギヤ43,45,47の回転数により近い状態で同期係合動作を実施することが可能となる。したがって、同期係合動作による振動・騒音などの発生(変速ショックの発生)を効果的に低減することができる。そのため、第1変速機構S1の各部(シンクロメッシュ機構81,82のシンクロナイザリング、シフトフォークやそれらを駆動するためのアクチュエータ機構など)にかかる負荷を低減することができ、変速機4の耐久性を向上させることができる。また、シンクロメッシュ機構81,82が備えるギヤ(ドグギヤ)などの接触による異音の発生を抑制できるため、振動・騒音の低減を図ることができ、車両走行の快適性が向上する。
また、図4に示す制御のように、変速元の変速段よりも変速先の変速段が高い変速段のとき、すなわちアップシフトを行う場合において、本来の目標回転数XN0がエンジン2の回転数NEよりも低いときには、モータ3による回転数合わせの補正目標回転数XN1を本来の目標回転数XN0よりも低い回転数まで下げておき(XN1<XN0)、第1クラッチC1の引き摺りトルクによって第1入力軸IMSの回転数NMが上昇することを利用して、当該第1入力軸IMSの回転数NMが上昇する過程で変速先の駆動ギヤ43,45,47との回転数合わせを行うようにしている。
その一方で、図5に示す制御のように、変速元の変速段よりも変速先の変速段が低い変速段のとき、すなわちダウンシフトを行う場合において、本来の目標回転数XN0がエンジン2の回転数NEよりも高いときには、モータ3による回転数合わせの補正目標回転数XN2を本来の目標回転数XN0よりも高い回転数まで上げておき(XN2>XN0)、第1クラッチC1の引き摺りトルクによって第1入力軸IMSの回転数NMが下降することを利用して、当該第1入力軸IMSの回転数NMが下降する過程で変速先の駆動ギヤ43,45,47との回転数合わせを行うようにしている。これらにより、第1クラッチC1の引き摺りトルクを利用して、同期係合動作時(インギヤ時)にシンクロメッシュ機構81,82及び変速機4にかかる負荷を効果的に低減できると共に、同期係合動作に伴い発生する振動・騒音をより効果的に低減できる。
また、本実施形態の制御では、シンクロメッシュ機構81,82により駆動ギヤ43,45,47を第1入力軸IMSに同期係合させるインギヤ動作、又は駆動ギヤ43,45,47の第1入力軸IMSへの係合を解除するオフギヤ動作を行う際に、予めモータ3の駆動又は回生により第1入力軸IMSに捩れを解消するためのトルク(図4で時刻t11まで付与されるトルク、及び図5で時刻t21まで付与されるトルク)を付与し、その後、所定時間Dta,Dtdが経過してからシンクロメッシュ機構81,82によるインギヤ動作又はオフギヤ動作を実行するようにしている。
上記構成の変速機4が備える第1入力軸IMSには、モータ3又はエンジン2からの伝達トルクによって捩れが発生する。特に、第1入力軸IMSの軸長が長い場合には、この捩れの影響が大きくなる。そして、第1入力軸IMSに捩れが発生した状態でシンクロメッシュ機構81,82によるインギヤ動作又はオフギヤ動作を実行すると、スムーズなインギヤ動作又はオフギヤ動作の妨げになるおそれがある。そのため、シンクロメッシュ機構81,82によるインギヤ動作又はオフギヤ動作を行う際には、第1入力軸IMSの捩れが解消してからインギヤ動作又はオフギヤ動作を実行することが望ましい。したがってここでは、予めモータ3の駆動又は回生により第1入力軸IMSに捩れを解消するためのトルクを付与し、その後、所定時間(第1入力軸IMSの捩れの解消に必要な余裕時間)が経過するのを待ってから、シンクロメッシュ機構81,82によるインギヤ動作又はオフギヤ動作を実行するようにしている。これにより、伝達トルクによる第1入力軸IMSの捩れの影響を受けずに済むので、シンクロメッシュ機構81,82によるスムーズなインギヤ動作又はオフギヤ動作が可能となる。
また、本実施形態の制御では、モータ3による回転数合わせを行う際、該回転数合わせに必要なモータ3の駆動又は回生の制御の指令を出す時点t18,t28は、制御信号の伝達に伴う応答遅れの時間Dtc,Dtfを加味して決定するようにしている。
モータ3による回転数合わせの制御を行ったとしても、制御信号の伝達に伴う遅れ時間が発生するために、実際にシンクロメッシュ機構81,82による同期係合動作が行われるときには、第1入力軸IMSの回転数と目標回転数との間にずれが生じてしまうおそれがある。この場合、当該回転数のずれは、シンクロメッシュ機構81,82の機械的構造によって吸収することになるため、スムーズな同期係合動作の妨げとなる。そのためここでは、制御信号の伝達に伴う遅れ時間を考慮してモータ3による回転数合わせの制御の指令を出すようにしている。これにより、実際にシンクロメッシュ機構81,82による同期係合動作が行われるときの第1入力軸IMSの回転数を目標回転数により近付けることが可能となる。したがって、シンクロメッシュ機構81,82の機械的構造で吸収する回転数のずれを少なく抑えることができ、スムーズな同期係合動作が可能となる。また、シンクロメッシュ機構81,82及び変速機4にかかる負荷を低減できる。
また、本実施形態の制御では、シンクロメッシュ機構81,82によるインギヤ動作又はオフギヤ動作の後にモータ3による回転数合わせの制御を行う場合には、インギヤ動作又はオフギヤ動作の終了後、所定時間Dtb,Dteが経過してからモータ3による回転数合わせの指令を出すようにしている。
シンクロメッシュ機構81,82によるインギヤ動作又はオフギヤ動作に伴い第1入力軸IMSの捩れが発生する。そのため、シンクロメッシュ機構81,82によるインギヤ動作又はオフギヤ動作の後でモータ3による回転数合わせを行う場合には、この第1入力軸IMSの捩れが解放されたと判断するまで、モータ3による回転数合わせの制御の指令を遅らせるようにする。これにより、第1入力軸IMSの捩れの影響を受けずに済むことで、より正確な回転数合わせが可能となる。
また、本実施形態の制御では、シンクロメッシュ機構81,83による同期係合動作が行われる時点(t20,t30)の直前(t19,t29)までモータ3による回転数合わせの制御が行われるように、モータ3による回転数合わせの制御と、アクチュエータ機構によるシンクロメッシュ機構81、82の駆動の制御とを協調させるようにしている。
モータ3による回転数合わせの制御と、アクチュエータ機構によってシンクロメッシュ機構81,82を駆動する動作(ギヤアクチュエータ動作)とを協調させることで、変速先の変速ギヤと第1入力軸IMSとの回転数差がより少ない状態での同期係合動作が可能となる。これにより、振動や騒音がより少ないスムーズな同期係合動作を実現できる。また、シンクロメッシュ機構81,82にかかる負荷をより効果的に低減することができる。
なお上記では、本発明にかかるハイブリッド車両の制御装置による制御対象の変速機として、上記の第1、第2変速機構S1,S2及び第1、第2クラッチC1,C2を備えたデュアルクラッチ式の変速機4を示したが、本発明にかかる制御を実施する変速機は、デュアルクラッチ式の変速機には限らず、他の構成の変速機であってもよい。そして、本発明にかかる制御を実施する変速機の最低限の構成としては、モータ3の回転軸に連結された入力軸と、駆動輪側に連結された出力軸と、入力軸と出力軸との間に設置された一又は複数の同期係合装置を有する変速機構とを含み、複数の変速段を切り替えて設定することでエンジンとモータの少なくともいずれかの駆動力を駆動輪に伝達可能な変速機であればよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。