しかしながら、内部に断熱層としての空洞部を有する構造の中空基板を用いたサーマルヘッドは、中空基板の製造工程における加工ばらつきによって印字濃度にバラツキが生じるため、特許文献1に記載のサーマルヘッドのように抵抗値に応じたランク分けだけでは、中空基板の加工ばらつきによるサーマルヘッドの印字品質(印字濃度)の向上を図ることができないという不都合がある。
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、消費電力の低減および安定した印字品質を図ることができるサーマルヘッド、プリンタを提供することを目的とする。また、このようなサーマルヘッドを簡易に製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、少なくとも一方の対向面に断熱用凹部を有する平板状の支持基板と上板基板とが、前記断熱用凹部を閉塞して断熱用空洞部を形成するように積層状態に接合されて構成される積層基板と、該積層基板における前記上板基板の表面の前記断熱用凹部に対向する位置に形成された発熱抵抗体と、前記積層基板における前記上板基板の表面に形成されて開放状態または非開放状態に設定された複数の識別用素子と、前記発熱抵抗体の両端および前記識別用素子の両端に接続され、これら発熱抵抗体および識別用素子に電力を供給する一対の電極部とを備え、前記積層基板が、前記支持基板と前記上板基板の少なくとも一方の対向面に設けられた識別用凹部が閉塞されることにより形成される識別用空洞部を有し、前記識別用素子が、前記識別用空洞部に対向する位置に配置され、前記上板基板の厚さおよび前記断熱用空洞部の形状の少なくとも一方と、前記複数の識別用素子の開放状態と非開放状態の組合せとが対応づけられているサーマルヘッドを提供する。
本発明によれば、積層基板の断熱用空洞部は、上板基板側から支持基板側に伝達される熱を遮断する中空断熱層として機能する。したがって、上板基板の表面における断熱用凹部に対向する位置に形成される発熱抵抗体で発生した熱量のうち、支持基板側に逃げる熱量が断熱用空洞部による断熱によって抑制され、利用可能な熱量を増加させることができる。
ここで、利用可能な熱量は、発熱抵抗体の抵抗値の他、上板基板の厚さや断熱用空洞部の形状に依存する。そこで、上板基板の厚さと断熱用空洞部の形状(空洞部の深さや上面積、容積など)の少なくとも一方と開放状態と非開放状態の組合せとが対応づけられた識別用素子の導通状態を一対の電極部により検出すれば、上板基板の厚さや断熱用空洞部の形状に依存する大凡の発熱効率を認識することができる。
したがって、サーマルプリンタに装着した状態で、識別用素子の導通状態を検出してその検出結果に基づいて印加エネルギーを補償することにより、上板基板の厚さや断熱用空洞部の形状(空洞部の深さや上面積、容積など)に依存する印刷濃度のバラツキを抑制し、消費電力の低減および安定した印字品質を図ることができる。
上記発明においては、前記積層基板が、前記支持基板と前記上板基板の少なくとも一方の対向面に設けられた識別用凹部が閉塞されることにより形成される識別用空洞部を有し、前記識別用素子が、前記識別用空洞部に対向する位置に配置されている。
このように構成することで、識別用素子を開放状態に設定する場合、例えば切断する場合にドリルやレーザを用いても、識別用素子の直下に配置される識別用空洞部により支持基板に外力が加わるのを防ぐことができる。したがって、支持基板に識別用素子の形成によるクラックの発生や残留応力の蓄積がなく、信頼性の向上を図ることができる。
また、上記発明においては、開放状態に設定された前記識別用素子の前記識別用空洞部に対向する領域部分が前記上板基板とともに除去され、非開放状態に設定された前記識別用素子の前記識別用空洞部に対向する領域部分が前記上板基板とともに残存していることとしてもよい。
識別用空洞部上の上板基板は支持基板に外力を加えることなく除去し易い。したがって、このように構成することで、支持基板には開放状態の識別用素子および非開放状態の識別用素子の形成による外力の影響がなく、基板全体の強度の保持および信頼性の向上を図ることができる。
また、上記発明においては、前記識別用空洞部が、前記識別用素子ごとに個別に形成されていることとしてもよい。
このように構成することで、識別用素子を開放状態に設定する場合、例えば切断する場合に、開放すべき識別用素子の識別用空洞部周辺に外力を与えてしまっても、支持基板全体へのクラックの広がりを抑制することができ、隣接する終端状態にあるべき識別用素子を破壊せずに、開放すべき識別用素子のみを開放状態に設定できる。これにより、信頼性を維持することができる。
また、上記発明においては、前記発熱抵抗体を保護する保護膜を備え、該保護膜が前記識別用素子上に形成されていないこととしてもよい。
保護膜は大きな応力を有するため、識別用素子上に保護膜が形成されていると、識別用素子とその直下に配置された上板基板を除去する等、識別用素子を開放状態に設定する際に、保護膜の応力により、保護膜および上板基板の破壊箇所を起点としたクラックが発生し易い。この場合、支持基板にもクラックが発生し、基板全体の強度が低下する傾向がある。そこで、識別用素子上に保護膜を形成しないことで、スクラッチ耐性は弱くなるものの、支持基板にクラックを発生させることなく識別用素子を開放状態に設定することができ、基板全体の強度を維持することができる。
また、上記発明においては、前記識別用素子が、前記発熱抵抗体と同一材料からなることとしてもよい。
このように構成することで、非開放状態の識別用素子の導通状態を抵抗値により検出することができる。また、一対の識別用素子間で、任意の抵抗値を設定することができる。したがって、識別用素子の非開放状態を短絡状態のみに設定する場合と比較して、識別用素子の電極数を低減することができる。
また、上記発明においては、前記識別用素子が、前記断熱用凹部上を該断熱用凹部の配列方向に沿って延びる配列軸に対して交差する方向にずらした位置に配置されていることとしてもよい。
このように構成することで、印字の際に、識別用素子がプラテンローラによる荷重や摩擦を直接受けるのを防ぐことができる。これにより、終端状態の識別用素子がプラテンローラによる荷重や摩擦によって破壊するのを防止することができる。また、開放状態の識別用素子の淵に残った残渣(バリ)によって、表面が傷つくのを防止することができる。結果として、識別用素子の設定による不良発生を防止し、高い信頼性を維持することができる。
本発明は、上記いずれかのサーマルヘッドと、該サーマルヘッドの前記発熱抵抗体に感熱記録媒体を押し付けながら送り出す加圧機構とを備えるプリンタを提供する。
本発明によれば、サーマルヘッドにより少ない電力かつ安定した印字品質で感熱紙に印刷することができ、バッテリーの持続時間を長期化させることができる。
本発明は、少なくとも一方の対向面に断熱用凹部および識別用凹部を形成した平板状の支持基板と上板基板とを、前記断熱用凹部および識別用凹部を閉塞して断熱用空洞部および識別用空洞部を形成するように積層状態に接合する接合工程と、該接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板の厚さを測定する板厚測定工程と、前記接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板の表面の前記断熱用空洞部に対向する位置に発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程と、前記上板基板の表面の前記識別用空洞部に対向する位置に複数の識別用素子を形成し、該複数の識別用素子の開放状態および非開放状態の組合せと前記板厚測定工程により測定された前記上板基板の厚さとを対応づける識別用素子設定工程とを含むサーマルヘッドの製造方法を提供する。
本発明によれば、接合工程により、上板基板と支持基板との間に断熱用空洞部を有する積層基板が形成される。断熱用空洞部は、上板基板側から支持基板側に伝達される熱を遮断する中空断熱層として機能する。また、抵抗体形成工程により、積層基板における断熱用空洞部に対向する位置の上板基板の表面に発熱抵抗体が形成されることで、発熱抵抗体で発生した熱量のうち、支持基板側に逃げる熱量を断熱用空洞部による断熱によって抑制し、利用可能な熱量を増加させることができる。
この場合において、利用可能な熱量は、発熱抵抗体の抵抗値の他、上板基板の厚さや断熱用空洞部の形状(空洞部の深さや上面積、容積など)に依存する。そこで、板厚測定工程により上板基板の厚さを測定し、識別用素子設定工程により複数の識別用素子を形成して、その識別用素子の開放状態および非開放状態の組合せと測定された上板基板の厚さとを対応づける。
これにより、サーマルヘッドを装着したサーマルプリンタ側から識別用素子の導通状態を検出することで、サーマルプリンタ側において上板基板の厚さに依存する大凡の発熱効率を認識することができる。したがって、印刷濃度にバラツキを生じないように、サーマルヘッドに加える電圧を精度よく補償することで消費電力の低減および印字品質の安定を図ることが可能なサーマルヘッドを簡易に製造することができるができる。
本発明は、少なくとも一方の対向面に断熱用凹部および識別用凹部を形成した平板状の支持基板と上板基板とを、前記断熱用凹部および識別用凹部を閉塞して断熱用空洞部および識別用空洞部を形成するように積層状態に接合する接合工程と、該接合工程により形成される前記断熱用空洞部の形状を測定する形状測定工程と、前記接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板の表面の前記断熱用凹部に対向する位置に発熱抵抗体を形成する抵抗体形成工程と、前記上板基板の表面の前記識別用凹部に対向する位置に複数の識別用素子を形成し、該複数の識別用素子の開放状態および非開放状態の組合せと前記形状測定工程により測定された前記断熱用空洞部の形状とを対応づける識別用素子設定工程とを含むサーマルヘッドの製造方法を提供する。
本発明によれば、形状測定工程により断熱用空洞部の形状(空洞部の深さや上面積、容積など)が測定され、識別用素子設定工程により複数の識別用素子が形成されて、その識別用素子の開放状態および非開放状態の組合せと測定された断熱用空洞部の形状とが対応づけられる。
これにより、サーマルヘッドを装着したサーマルプリンタ側から識別用素子の導通状態を簡易に検出することで、サーマルプリンタ側において断熱用空洞部の形状に依存する大凡の発熱効率を認識することができる。したがって、印刷濃度にバラツキを生じないように、サーマルヘッドに加える電圧を精度よく補償することで消費電力の低減および印字品質の安定を図ることが可能なサーマルヘッドを簡易に製造することができる。
上記発明においては、前記接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板の厚さを測定する板厚測定工程を備え、前記識別用素子設定工程が、前記複数の識別用素子の開放状態および非開放状態の組合せと前記板厚測定工程により測定された前記上板基板の厚さとをさらに対応づけることとしてもよい。
このように構成することで、板厚測定工程により上板基板の厚さを測定し、識別用素子設定工程により複数の識別用素子の開放状態および非開放状態の組合せと断熱用空洞部の形状および上板基板の厚さとが対応づけられる。したがって、消費電力がより低減し印字品質がより安定したサーマルヘッドを簡易に製造することができるができる。
また、上記発明においては、前記接合工程により前記支持基板に接合された前記上板基板を薄板化する薄板化工程を備えることとしてもよい。
このように構成することで、薄板化工程によって上板基板を薄板化することにより、上板基板の熱を低減することができる。
また、上記発明においては、前記識別用素子設定工程が、前記上板基板および前記識別用素子の前記識別用空洞部に対向する領域部分を除去することにより前記開放状態の識別用素子を形成し、前記上板基板と識別用素子の前記識別用空洞部に対向する領域部分を残存させることにより前記非開放状態の識別用素子を形成することとしてもよい。
識別用空洞部上の上板基板は支持基板に外力を加えることなく除去し易い。このように構成することで、識別用形成構成において、支持基板に外力を与えることなく開放状態の識別用素子および非開放状態の識別用素子の形成することができる。したがって、基板全体の強度を保持し、基板全体へのクラック発生や残留応力の蓄積がない信頼性の高いサーマルヘッドを製造することができる。
また、上記発明においては、前記識別用凹部を前記識別用素子ごとに個別に形成する凹部形成工程を含むこととしてもよい。
このように構成することで、識別用素子を開放状態に設定する場合、例えば切断する場合に、開放すべき識別用素子の識別用空洞部周辺に外力を与えてしまっても、支持基板全体へのクラックの広がりを抑制することができ、隣接する終端状態にあるべき識別用素子を破壊せずに、開放すべき識別用素子のみを開放状態に設定できる。これにより、信頼性を維持したサーマルヘッドを製造することができる。
また、上記発明においては、前記識別用凹部を、前記断熱用凹部上を該断熱用凹部の配列方向に沿って延びる配列軸に対して交差する方向にずらした位置に形成する凹部形成工程を含むこととしてもよい。
このように構成することで、識別用素子設定工程により、断熱用凹部上を断熱用凹部の配列方向に沿って延びる配列軸に対して交差する方向にずらした位置に識別用素子が形成される。したがって、印字の際に、識別用素子がプラテンローラによる荷重や摩擦を直接受けないようにすることができる。これにより、終端状態の識別用素子がプラテンローラによる荷重や摩擦によって破壊されるのを防ぐとともに、開放状態の識別用素子の淵に残った残渣(バリ)によって表面が傷つくのを防ぐことができる。したがって、識別用素子の設定による不良発生を防止し、高い信頼性を維持することができるサーマルヘッドを製造することができる。
また、上記発明においては、前記識別用素子設定工程に先立って、前記発熱抵抗体を覆う保護膜を形成する保護膜形成工程を含み、該保護膜形成工程が、前記識別用素子上には前記保護膜を形成しないこととしてもよい。
保護膜は大きな応力を有するため、識別用素子上に保護膜が形成されていると、識別用素子の直下に配置された上板基板を除去する等、識別用素子を開放状態に設定する際に、保護膜の応力により保護膜および上板基板の破壊箇所を起点としたクラックが発生し易い。この場合、支持基板にもクラックが発生し、基板全体の強度が低下することがある。識別用素子上に保護膜を形成しないことで、スクラッチ耐性は弱くなるものの、識別用素子設定工程により基板全体の強度を維持したまま開放状態の識別用素子を形成することができる。
また、上記発明においては、前記識別用素子設定工程が、前記発熱抵抗体と同一材料により前記識別用素子を形成することとしてもよい。
このように構成することで、非開放状態の識別用素子の導通状態を抵抗値により検出することができる。また、一対の識別用素子間で、任意の抵抗値を設定することができる。したがって、識別用素子の非開放状態を短絡状態のみに設定する場合と比較して、識別用素子の電極数を低減したサーマルヘッドを製造することができる。
本発明に係るサーマルヘッドおよびプリンタによれば、消費電力の低減および安定した印字品質を図ることができるという効果を奏する。また、本発明に係るサーマルヘッドの製造方法によれば、そのようなサーマルヘッドを簡易に形成することができるという効果を奏する。
以下、本発明の一実施形態に係るサーマルヘッド、プリンタおよびサーマルヘッドの製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッド10は、図1〜図4に示されるように、略平板状に形成されている。このサーマルヘッド10は、ガラス材料からなる積層基板13と、積層基板13上に形成された複数の発熱抵抗体15と、積層基板13上の各発熱抵抗体15に接して形成された電極部17A,17Bと、識別用の識別用回路30と、発熱抵抗体15を含む積層基板13の一表面を覆い磨耗や腐食から保護する保護膜19とを備えている。矢印Yは、感熱紙の送り方向を示している。
積層基板13は、絶縁性のガラス基板により構成される平板状の支持基板12と、支持基板12と同じ材料からなるガラス基板あるいは支持基板12の材料に性質が近い絶縁性のガラス基板により構成される平板状の上板基板14とが積層状態に接合されて構成されている。
支持基板12は、例えば、300μm〜1mm程度の厚さを有している。支持基板12には、上板基板14に対向する一表面に、長手方向に沿って延びて矩形状に開口する開口部を有する断熱用凹部21と、断熱用凹部21から離間して配され、断熱用凹部21よりも開口面積が小さい複数の識別用凹部31A,31Bとが形成されている。本実施形態においては、支持基板12は1つの断熱用凹部21と2つの識別用凹部31A,31Bを有している。
上板基板14は、例えば、5〜100μm程度の厚さを有している。この上板基板14は、支持基板12の断熱用凹部21および識別用凹部31A,31Bを有する一表面に、それぞれの開口を閉塞するように積層状態に接合されている。また、上板基板14は、支持基板12の接合面とは反対側に配される一表面に発熱抵抗体15が形成されており、発熱抵抗体15において発生した熱の一部を蓄える蓄熱層として機能するようになっている。
発熱抵抗体15は、例えば、Ta系やTaシリサイド系等の材料からなり、矩形状に形成されている。また、発熱抵抗体15は、長手方向の長さが支持基板12の断熱用凹部21の幅寸法より大きい寸法を有している。この発熱抵抗体15は、上板基板14の一表面において、支持基板12の断熱用凹部21に対向する位置に配置されている。具体的には、各発熱抵抗体15は、長手方向を上板基板14の幅方向に向けて配され、上板基板14の長手方向(支持基板12の断熱用凹部21の長手方向)に沿って所定の間隔をあけて配列されている。
電極部17A,17Bは、発熱抵抗体15の長手方向の一端に個別に接続される複数の個別電極17Aと、すべての発熱抵抗体15の長手方向の他端に共通に接続される共通電極17Bとにより構成されている。また、電極部17A,17Bは、それぞれ1〜3μm程度の厚さを有している。電極部17A,17Bには、例えば、Al、Al−Si、Au、Ag、Cu、Pt等の電極材料が用いられる。
これらの電極部17A,17Bは、外部電源(図示略)からの電力を発熱抵抗体15に供給して、発熱抵抗体15を発熱させることができるようになっている。発熱抵抗体15における個別電極17Aと共通電極17Bとの間の領域、すなわち、発熱抵抗体15における支持基板12の断熱用凹部21のほぼ真上に位置する領域が発熱部15aとなる。
識別用回路30は、複数(本実施形態においては2つ。)の識別用素子35A,35Bと、識別用素子35A,35Bに接続された識別用電極(電極部)37A,37B,38とにより構成されている。これら識別用素子35A,35Bと識別用電極37A,37B,38は互いに一体型に形成されており、それぞれ1〜3μm程度の厚さを有している。
具体的には、識別用電極37A,37B,38は、電極部17A,17Bと同様の電極材料により形成されている。また、識別用電極37A,37B,38は、上板基板14の幅方向に沿って延び、上板基板14の長手方向に沿って端から識別用電極37A、識別用電極38、識別用電極37Bの順に間隔をあけて配列されている。さらに、これらの識別用電極37A,37B,38は、長手方向の一端が互いに連結されている。
識別用素子35A,35Bは、識別用電極37A,37B,38を形成する電極材料により構成された回路である。この識別用素子35Aは、識別用電極37Aの長手方向の途中位置に配置され、識別用電極37Aよりもやや細径化された形状を有している。一方、識別用素子35Bは、識別用電極37Bの長手方向の途中位置に配置され、識別用電極37Bよりもやや細径化された形状を有している。
また、識別用素子35A,35Bは、上板基板14の一表面において、それぞれ支持基板12の識別用凹部31A,31B上に配置されている。そして、識別用素子35Aは、識別用凹部31Aに対向する領域が残存し、電気的に短絡状態(非開放状態)に設定されている。一方、識別用素子35Bは、識別用凹部31Bに対向する領域が切断され、電気的に開放状態に設定されている。
上板基板14および保護膜19における識別用凹部31Bに対向する領域は、図4に示すように、識別用素子35Bの切断部分とともにそれぞれ完全に除去されている。このようにすることで、識別用凹部31Bの淵に残った残渣(バリ)によって、サーマルヘッド10の表面が傷つくのを防ぎ、識別用素子35A,35Bの設定による不良発生を防止することができる。
保護膜19は、発熱抵抗体15と、電極部17A,17Bおよび識別用回路30の一部とを含む上板基板14の一表面に形成されている。保護膜19には、SiO2、Ta2O5、SiAlON、Si3N4、ダイヤモンドライクカーボン等の保護膜材料が用いられる。
このように構成されたサーマルヘッド10は、支持基板12の断熱用凹部21の開口および識別用凹部31A,31Bの開口がそれぞれ上板基板14により閉塞されることで、発熱抵抗体15の発熱部15aの真下に断熱用空洞部23が形成され、識別用素子35A,35Bの直下にそれぞれ識別用空洞部33A,33Bが形成される。
断熱用空洞部23は、全ての発熱抵抗体15に対向する連通構造を有している。この断熱用空洞部23は、発熱抵抗体15の発熱部15aにおいて発生した熱が上板基板14側から支持基板12側へ伝達されるのを抑制する中空断熱層として機能するようになっている。
識別用空洞部33A,33Bは、識別用素子35A,35Bごとに個別に形成されている。このようにすることで、例えば識別用素子35Bを切断する等して開放状態に設定する場合に、支持基板12の開放すべき素子35Bの識別用空洞部33B周辺に外力を与えてしまっても、支持基板12全体へのクラックの広がりを抑制することができ、隣接する終端状態にあるべき識別用素子35Aを破壊せずに、開放すべき識別用素子35Bのみを開放状態に設定できる。これにより、信頼性を維持することができる。
次に、このように構成されたサーマルヘッド10の製造方法について、図5のフローチャートを用いて説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッド10の製造方法は、凹部形成工程SA1、接合工程SA2、薄板化工程SA3および板厚測定工程SA4を含む積層基板形成工程と、抵抗体形成工程SA5、電極形成工程SA6、識別用素子形成工程(識別用素子設定工程)SA7、および保護膜形成工程SA8を含む薄膜形成工程と、識別条件設定工程(識別用素子設定工程)SA9とを含んでいる。
ここで、図6は発熱部(印字部)形成工程を示し、最終的に図2に示す構造が得られる。一方、図7は識別用素子形成工程を示し、最終的に図3に示す構造が得られる。
凹部形成工程SA1は、支持基板12と上板基板14の少なくとも一方の対向面に断熱用凹部21および識別用凹部31A,31Bを形成するようになっている。本実施形態においては、図6(a)および図7(a)に示すように、一定の厚さを有するガラス基板(支持基板12)の一表面において、抵抗体形成工程SA5により形成される発熱抵抗体15が対向することとなる位置に断熱用凹部21を形成し、識別用素子形成工程SA7により形成される識別用素子35A,35Bが対向することとなる位置に識別用凹部31A,31Bを形成するようになっている。これらの断熱用凹部21および識別用凹部31A,31Bは、例えば、支持基板12の一表面にサンドブラスト、ドライエッチング、ウェットエッチングまたはレーザ加工を施すことによって形成される。
支持基板12にサンドブラストによる加工を施す場合は、支持基板12の一表面にフォトレジスト材を被服し、このフォトレジスト材を所定パターンのフォトマスクを用いて露光した後、断熱用凹部21または識別用凹部31A,31Bを形成する領域以外の部分を固化させる。その後、支持基板12の一表面を洗浄して固化していないフォトレジスト材を除去することで、断熱用凹部21または識別用凹部31A,31Bを形成する領域にエッチング窓が形成されたエッチングマスクが得られる。この状態で、支持基板12の一表面にサンドブラストを施すことにより、所定深さの断熱用凹部21および識別用凹部31A,31Bが形成される。
また、支持基板12にエッチングによる加工を施す場合は、サンドブラストによる加工と同様に、支持基板12の一表面に、断熱用凹部21または識別用凹部31A,31Bを形成する領域にエッチング窓が形成されたエッチングマスクを形成する。そして、この状態で、支持基板12の一表面にエッチングを施すことにより、所定深さの断熱用凹部21および識別用凹部31A,31Bが形成される。ガラス基板の場合は、フッ酸系のエッチング液等を用いたウェットエッチングを行うこととしてもよい。その他、リアクティブイオンエッチング(RIE)やプラズマエッチング等のドライエッチングを用いることとしてもよい。
接合工程SA2は、図6(b)および図7(b)に示すように、支持基板12の一表面に、厚さ5μm〜100μmの薄板ガラス(上板基板14)を断熱用凹部21の開口および識別用凹部31A、31Bの開口を閉塞するように積層状態に接合するようになっている。これにより、断熱用凹部21および識別用凹部31A,31Bが閉塞されることによって支持基板12と上板基板14との接合部にそれぞれ断熱用空洞部23および識別用空洞部33A,33Bが形成された積層基板13が形成される。ここで、断熱用凹部21の深さが断熱用空洞部23の厚さになるので、中空断熱層の厚さの制御は容易である。
次いで、薄板化工程SA3は、図6(c)および図7(c)に示すように、積層基板13における上板基板15を薄板化するようになっている。ここで、100μm以下の厚さの薄板ガラス(上板基板14)は、製造やハンドリングが困難であり高価でもある。そこで、このような薄い上板基板14を支持基板12に直接接合する代わりに、まず、製造やハンドリングが容易な厚さを有する上板基板14を支持基板12に接合し、その後、エッチングや研磨等によって上板基板14を所望の厚さに加工する。このようにすることで、支持基板12の一表面にごく薄い上板基板14を容易かつ安価に形成することができる。
上板基板14のエッチングには、上記のように凹部21,31A,31Bの形成に用いる各種エッチングを用いることができる。また、上板基板14の研磨には、例えば、半導体ウェーハ等の高精度研磨に用いられるCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)等を用いることができる。
次いで、板厚測定工程SA4は、積層基板13における上板基板14の厚さを測定するようになっている。例えば、支持基板13の断熱用凹部21に対向する上板基板14の領域に光を照射し、上板基板14の表面および裏面における反射光によって、その表面および裏面の位置を検出して上板基板14の厚さを測定する。
ここで、発熱抵抗体15が形成される前の積層基板13は、断熱用凹部21に対向する上板基板14の表面およびその裏面がともに空気に面している。すなわち、この断熱用凹部21に対向する上板基板14の表面は外部露出して外気に接しており、裏面は断熱用凹部21を閉塞することで断熱用空洞部23内の空気に接している。
したがって、例えば、上板基板14のこの領域に青色レーザ光を照射すると、上板基板14と空気との屈折率の相違により、上板基板14の表面および裏面においてそれぞれ青色レーザ光が反射される。そして、上板基板14の表面および裏面においてそれぞれ反射された反射光をセンサ等(図示略)により検出するだけで、支持基板12と上板基板14とが接合された状態であっても上板基板14の正確な厚さ寸法を光学的に測定することができる。
次に、このようにして形成された積層基板13における上板基板14の一表面に、抵抗体形成工程SA5により、図6(d)に示すように発熱抵抗体15を形成するようになっている。発熱抵抗体15は、例えば、スパッタリングやCVD(化学気相成長法)、または、蒸着等の薄膜形成法により、上板基板14上にTa系やTaシリサイド系等の発熱抵抗体材料の薄膜を成膜し、リフトオフ法やエッチング法等により、発熱抵抗体材料の薄膜を成形することにより、所望の形状に形成されるようになっている。
次いで、電極形成工程SA6は、図6(e)に示すように、上板基板14の一表面に電極部17A,17Bを形成するようになっている。また、識別用素子形成工程SA7は、図7(d)に示すように、上板基板14の一表面に識別用回路30を形成するようになっている。これら電極形成工程SA6および識別用素子形成工程SA7は同一の方法により同時に形成することができる。
そこで、電極形成工程SA6および識別用素子形成工程SA7は、それぞれスパッタリングや蒸着法等により上板基板14の表面に上記電極材料を成膜し、所望の形状の個別電極部17Aおよび共通電極17Bと、所望の形状の識別用素子35A,35Bおよび識別用電極37A,37B,38をそれぞれ形成するようになっている。
次いで、保護膜形成工程SA8は、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD法等により、図6(f)および図7(e)に示すように、上板基板14の一表面上の発熱抵抗体15と識別用素子35A,35Bを含む領域に上記保護膜材料を成膜して、保護膜19を形成するようになっている。
最後に、識別条件設定工程SA9は、板厚測定工程SA4により測定された上板基板14の厚さに基づいて、短絡状態に形成されている識別用素子35A,35Bの識別用空洞部33A,33Bに対向する領域を残存または切断するようになっている。
例えば、図8に示すように、上板基板14の厚さtがt1よりも薄い場合は、識別用素子35A、35Bの両方を残存させて短絡状態に設定する(ランクA)。また、上板基板14の厚さtがt1以上でt2よりも薄い場合は、識別用素子35Aは残存させて短絡状態に設定し、識別用素子35Bは切断して開放状態に設定する(ランクB)。
また、上板基板14の厚さtがt2以上でt3以下の場合は、識別用素子35Aは切断して開放状態に設定し、識別用素子35Bは残存させて短絡状態に設定する(ランクC)。また、上板基板14の厚さtがt3よりも厚い場合は、識別用素子35A,35Bの両方とも切断して開放状態に設定する(ランクD)。なお、厚さt1<t2<t3の関係とする。
このように、本実施形態においては、識別用素子35A,35Bが開放状態または短絡状態の2値により識別され、上板基板14の厚さと識別用素子35A,35Bの開放状態および非開放状態の組合せとが対応づけられる。
識別用素子35A,35Bの切断方法としては、上板基板14および保護膜19における識別用空洞部33A,33Bに対向する領域とともに、識別用素子35A,35Bにおける識別用空洞部33A,33Bに対向する領域を切断して除去するようになっている。
例えば、識別用素子35A,35B上の保護膜19表面から識別用空洞部33A,33Bに向けて、先端が先鋭化されたプローブを押し付けて、保護膜19、識別用素子33A,33Bおよび上板基板14をそれぞれ除去することとしてもよい。また、識別用素子35A,35B上の保護膜19表面に、ガラス材料に吸収される波長を持つレーザ(例えば、CO2レーザ等。)を照射して、保護膜19、識別用素子35A,35Bおよび上板基板14をそれぞれ除去することとしてもよい。
本実施形態においては、上板基板14の厚さがt1≦t<t2の関係、すなわち、ランクBの状態にあるとする。したがって、識別条件設定工程SA9により、識別用素子35Aが残存させられて短絡状態に設定される一方、識別用素子35Bにおける識別用空洞部33Bに対向する領域が切断されて上板基板14および保護膜19とともに除去され、開放状態に設定される。
以上の各工程により、積層基板13が支持基板12と上板基板14との接合部に断熱用空洞部23を有するとともに、積層基板13における上板基板14の一表面に、上板基板14の厚さと開放状態および非開放状態の組合せとが対応づけられた識別用素子35A,35Bが形成されたサーマルヘッド10が完成する。
このようにして製造されたサーマルヘッド10は、アルミ等の金属、樹脂、セラミックスまたはガラス等からなる板状部材の放熱板(図示略)に固定することができる。これにより、サーマルヘッド10の熱が放熱板を介して放熱される。
また、このサーマルヘッド10は、図9に示すようなサーマルプリンタ(プリンタ)100に用いることができる。サーマルプリンタ100は、本体フレーム2と、水平配置されるプラテンローラ4とを備え、プラテンローラ4の外周面にサーマルヘッド10を対向させるように装着することができるようになっている。また、サーマルプリンタ100には、プラテンローラ4とサーマルヘッド10との間に感熱紙3等の印刷対象物を送り出す記録紙を巻回したロール6と、サーマルヘッド10を感熱紙3に対して所定の押圧力で押し付ける加圧機構8とが備えられている。
このサーマルプリンタ100は、加圧機構8の作動により、サーマルヘッド10および感熱紙3がプラテンローラ4に押し付けられるようになっている。駆動用IC(図示略)により個別電極17Aに選択的に電圧を印加すると、選択された個別電極17Aが接続されている発熱抵抗体15に電流が流れ、その発熱抵抗体15が発熱する。この状態で、加圧機構8の作動により、プラテンローラ4に対してサーマルヘッド10を感熱紙3に押し付けることで、感熱紙3がサーマルヘッド10の熱により発色して印字することができる。
また、サーマルプリンタ100には、サーマルヘッド10が装着された状態で識別用素子35A,35Bの導通状態を検出可能な検出回路(図示略)と、検出回路により検出された識別用素子35A,35Bの導通状態に基づいて、サーマルヘッド10に供給する電圧を調節する調節部(図示略)とが設けられている。
検出部は、識別用素子35A,35Bの導通状態、すなわち、識別用素子35Aおよび識別用素子35Bが開放状態に設定されているかあるいは非開放状態に設定されているかを識別用電極部37A,37B,38を介して検出することができるようになっている。
調節部は、検出部により検出された開放状態と非開放状態の組合せに応じて上板基板14の厚さのランクA〜Dを認識し、これに応じた電圧を設定してサーマルヘッド10に供給するようになっている。具体的には、上板基板14が厚いほど、蓄熱効果が高く発熱効率が低下するので、調節部によりそれを補うようにサーマルヘッド10に供給される電圧が増大させられる。一方、上板基板14が薄いほど、蓄熱効果が低く発熱効率が上昇するので、調節部によりそれを補うようにサーマルヘッド10に供給される電圧が低下させられる。
以上説明したように本実施形態に係るサーマルヘッド10およびサーマルプリンタ100によれば、上板基板15の厚さと開放状態と非開放状態の組合せとが対応づけられた識別用素子35A,35Bの導通状態を識別用電極部37A,37B,38により検出することにより、上板基板15の厚さに依存するサーマルヘッド10の大凡の発熱効率を認識することができる。
したがって、サーマルプリンタ100にサーマルヘッド10を装着した状態で、検出部により識別用素子35A,35Bの導通状態を検出して調節部によりその検出結果に基づいて印加エネルギーを補償することで、上板基板15の厚さに依存する印刷濃度のバラツキを抑制し、消費電力の低減および安定した印字品質を図ることができる。また、本実施形態に係るサーマルヘッドの製造方法によれば、このようなサーマルヘッド10を簡易に製造することができる。
また、加工バラツキが大きい場合においても、印加エネルギーを簡易に設定して許容範囲内の印字品質(印字濃度)を確保することができる。したがって、加工精度を緩めることができ、製造工程を簡略化して安価に高効率なサーマルヘッド10を製造することが出来る。
また、断熱用空洞部23の形成と同工程により識別用空洞部33A,33Bを形成するとともに、電極部17A,17Bの形成と同時に識別用素子35A,35Bを形成することで、パターン印刷等によるランクマーク形成のための工程を増やさずに識別用素子35A,35Bを容易に形成することができる。したがって、識別用素子35A,35Bを形成するためのコスト増を抑制することができる。
本実施形態は以下のように変形することができる。
本実施形態においては、識別用素子35A,35Bを開放状態に設定する場合において、上板基板14、識別用素子35A,35Bおよび保護膜19における識別用空洞部33A,33Bに対向する領域を除去したまま空洞状態にすることとしたが、第1変形例としては、図10および図11に示すように、上板基板14、識別用素子35A,35Bおよび保護膜19における識別用空洞部33A,33Bに対向する領域を除去した後、識別用空洞部33A,33B上のその除去した空洞部分に樹脂またはガラスペースト等の封止剤39を埋めて、空洞部分を封止することとしてもよい。
その空洞部分を封止剤39で封止することで、空洞部分にゴミや埃などが詰まるのを防ぎ、ゴミや埃による不良発生を防止することができる。また、空洞部分のエッジやエッジの欠けによりサーマルヘッド10の表面が傷つくのを防ぎ、識別表示による不良発生を防止することができる。
また、本実施形態においては、識別用素子35A,35Bごとに識別用空洞部33A,33Bを形成することとしたが、第2変形例としては、図12に示すように、積層基板13が、全ての識別用素子35A,35Bに対向する連通構造を有する識別用空洞部43を備えることとしてもよい。すなわち、1つの識別用空洞部43が全ての識別用素子35A,35Bを跨ぐように形成されていることとしてもよい。この場合、支持基板12および上板基板14の対向面の少なくとも一方に、識別用空洞部43を形成する識別用凹部41を設けることとすればよい。
このようにすることで、識別用素子35A,35Bごとに識別用空洞部33A,33Bを形成する場合と比較して、識別用空洞部43の形成が容易となる。すなわち、識別用素子35A,35Bごとに個別に識別用空洞部33A,33Bを形成する場合は、各識別用空洞部33A,33B間に隔壁を設ける必要があり、高い加工精度が要求されるのに対し、本変形例のようにすることでそのような隔壁を設ける必要がなく、要求される加工精度を緩和することができる。
また、本実施形態においては、識別用素子35A,35B上にも保護膜19を形成することとしたが、第3変形例としては、図13および図14に示すように、識別用回路30上には保護膜19を形成しないこととしてもよい。この場合、保護膜形成工程SA8において、識別用素子35A,35B上にマスクを施し、発熱抵抗体15を覆い識別用素子35A,35Bは覆わないように保護膜19を形成することとすればよい。
保護膜19は大きな応力を有するため、識別用素子35A,35B上に保護膜19が形成されていると、識別用素子35A,35Bとその直下に配置された上板基板14を除去する等して識別用素子35A,35Bを開放状態に設定する際に、保護膜19の応力により、保護膜19および上板基板14の破壊箇所を起点としたクラックが発生し易い。この場合、支持基板12にもクラックが発生し、サーマルヘッド10全体の強度が低下する傾向がある。
識別用素子35A,35B上に保護膜19を形成しないことで、スクラッチ耐性は弱くなるものの、支持基板12にクラックを発生させることなく識別用素子35A,35Bを切断する(開放状態に設定する)ことができ、サーマルヘッド10全体の強度を強いまま維持することができる。
また、本実施形態においては、識別用素子として電極材料により形成された識別用素子35A,35Bを例示して説明したが、第4変形例としては、例えば、図15〜図17に示すように、識別用素子として発熱抵抗体15と同一材料からなる識別用素子45A,45Bを採用することとしてもよい。
この場合、サーマルヘッド10が、識別用回路30に代えて、複数(本実施形態においては2つ)の識別用素子45A,45Bと、識別用素子45A,45Bに接続された電極材料からなる2つの識別用電極47A,47Bとにより構成された識別回路40を備えることとすればよい。
また、識別用電極47A,47Bは上板基板14の幅方向に沿って平行に配列し、これらの識別用電極47A,47Bに2つの識別用素子45A,45Bを並列に接続することとすればよい。また、2つの識別用素子45A,45Bの直下にそれぞれ識別用空洞部43A,43Bを配置することとすればよい。
また、本変形例に係るサーマルヘッドの製造方法は、図18のフローチャートに示すように、抵抗体形成工程SA5による発熱抵抗体15の形成と同時に、識別用素子形成工程SB6による識別用素子45A,45Bの形成を行うこととすればよい。また、識別用素子形成工程SB6は、抵抗体形成工程SA5による発熱抵抗体15の形成と同様の方法により、識別用素子45A,45Bを形成することとすればよい。他の工程については、図5に示すフローチャートの対応する各工程と同様である。
本変形例においては、図19に示すように、上板基板14の厚さtがt1よりも薄い場合は、識別用素子45A,45Bの両方を残存させて非開放状態に設定する(ランクA)。この場合、識別用素子45Aからは抵抗値R1が得られ、識別用素子45Bからは抵抗値R2が得られ、これらの端子間抵抗値は(R1×R2)/(R1+R2)となる。以下、R1≠R2とする。
また、上板基板14の厚さtがt1以上でt2よりも薄い場合は、識別用素子45Aは残存させて非開放状態に設定し、識別用素子45Bは切断して開放状態に設定する(ランクB)。この場合、識別用素子45Aから抵抗値R1が得られ、端子間抵抗値はR1となる。
また、上板基板14の厚さtがt2以上でt3以下の場合は、識別用素子45Aは切断して開放状態に設定し、識別用素子45Bは残存させて非開放状態に設定する(ランクC)。この場合、識別用素子45Bから抵抗値R2が得られ、端子間抵抗値はR2となる。
また、上板基板14の厚さtがt3よりも厚い場合は、識別用素子45A,45Bの両方を切断してそれぞれ開放状態に設定する(ランクD)。この場合、端子間抵抗値も開放となる。
これにより、上板基板14の厚さと識別用素子35A,35Bの開放状態および非開放状態の組合せとが対応づけられる。
本変形例においては、上板基板14の厚さがt1≦t<t2の関係、すなわち、ランクBの状態にあるとする。したがって、識別条件設定工程SA9により、識別用素子45Aを残存させて非開放状態に設定される一方、識別用素子45Bにおける識別用空洞部43Bに対向する領域が切断されて上板基板15および保護膜19とともに除去され、開放状態に設定される。したがって、端子間抵抗値はR1となる。
本変形例によれば、非開放状態の識別用素子45Aの導通状態を抵抗値R1により検出することができる。また、一対の識別用素子45A,45B間で、任意の抵抗値を設定することができる。したがって、識別用素子45A,45Bの非開放状態を短絡状態のみに設定する場合と比較して、識別用素子45A,45Bの電極数を低減することができる。非開放状態を短絡状態のみに設定する場合は、識別素子数が2個に対して、電極は3個必要であったが、本実施例では、2個の識別用素子45A,45Bに対して、2個の電極47A、47Bで構成することができる。
本実施形態においては、識別用素子35A,35Bが、それぞれ断熱用凹部23上を断熱用凹部23の配列方向に沿って延びる配列軸上に配置されている構成を例示して説明したが、第5変形例としては、識別用素子35A,35Bが、それぞれ上記配列軸に対して交差する方向にずらした位置、すなわち、図20に示すように、配列軸Sに対して上板基板14の幅方向にずらした位置に配置されていることとしてもよい。
このようにすることで、印字の際に、識別用素子35A,35Bがプラテンローラ4による荷重や摩擦を直接受けることがない。これにより、識別用素子35Aのように終端状態の識別用素子が、プラテンローラ4による荷重や摩擦によって破壊されるのを防ぐことができる。また、識別用素子35Bのように開放状態の識別用素子の淵に残った残渣(バリ)によって、サーマルヘッド10の表面が傷つくのを防ぐことができる。結果として、識別用素子35A,35Bの設定による不良発生を防止し、高い信頼性を維持することができる。第1変形例〜第4変形例においても同様である。
また、上記一実施形態および変形例においては、複数の識別用素子35A,35Bの開放状態と非開放状態の組合せと上板基板14の厚さとを対応づけることとしたが、これに代えて、複数の識別用素子35A,35Bの開放状態と非開放状態の組合せと断熱用空洞部23の形状(空洞部の深さや上面積、容積など)とを対応づけてもよいし、複数の識別用素子35A,35Bの開放状態と非開放状態の組合せと上板基板14の厚さおよび断熱用空洞部23の形状の両方を対応づけてもよい。
断熱用空洞部23が大きいほど断熱効果が高く印字部への発熱量は向上し、断熱用空洞部23が小さいほど断熱効果が低く支持基板側への放熱が多くなり、印字部への発熱量は低減する。識別用素子35A,35Bの開放状態と非開放状態の組合せと断熱用空洞部23の形状とを対応づける場合は、サーマルヘッドの製造方法としては、接合工程SA2により支持基板12と上板基板14との接合部に形成される断熱用空洞部23の形状(空洞部の深さや上面積、容積など)を測定する形状測定工程を含むこととすればよい。
サーマルヘッド10において利用可能な熱量は、発熱抵抗体15の抵抗値の他、上板基板14の厚さや断熱用空洞部23の形状に依存するので、上板基板14の厚さと断熱用空洞部23の形状の少なくとも一方と開放状態と非開放状態の組合せとが対応づけられた識別用素子35A,35Bの導通状態を識別用電極部37A,37B,38により検出すれば、上板基板14の厚さや断熱用空洞部23の形状に依存する大凡の発熱効率を認識することができる。
さらに、上板基板14の厚さおよび/または断熱用空洞部23の形状に加えて、発熱抵抗体15の抵抗値も識別用素子35A,35Bの開放状態および非開放状態の組合せと対応づけることとしてもよい。サーマルヘッド10を定電圧駆動する場合においては、発熱抵抗体15の抵抗値が小さいほど発熱量が大きくなり、抵抗値が大きいほど発熱量が小さくなる。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、本発明を上記の実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの一実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
また、上記一実施形態および変形例においては、サーマルヘッド10がランクBの状態、すなわち、識別用素子35A、45Aを非開放状態に設定し、識別用素子35B,45Bを開放状態に設定する構成を例示して説明したが、2つの識別用素子35A,35Bまたは2つの識別用素子45A,45Bを備える構成においては、上板基板14の厚さに応じて、図8または図19に示すランクA〜Dのいずれに設定してもよい。
また、上記実施形態および変形例においては、識別用素子として、2つの識別用素子35A,35Bおよび2つの識別用素子45A,45Bを例示して説明したが、識別用素子の数はこれに限定されるものではなく、複数備えることとすればよい。また、識別用素子35A,35Bおよび識別用素子45A,45Bによりそれぞれ2系統の回路を形成し、4つのランクA〜Dに識別することとしたが、これに限定するものではない。例えば、回路がn系統であれば、ランクを2n個に識別することができる。