A.第1実施形態:
A−1.スパークプラグの構成:
図1は、第1実施形態におけるスパークプラグの概略構成を説明するための説明図である。図1において、スパークプラグ100の中心軸である軸線CA1の右側には、スパークプラグ100の側面構成を例示し、軸線CA1の左側には、スパークプラグ100の断面構成を例示している。以下の説明では、接地電極40が配置されている側(図1下方側)をスパークプラグ100の「先端側」と呼び、端子金具19が配置されている側(図1上方側)をスパークプラグ100の「後端側」と呼ぶ。
スパークプラグ100は、中心電極10と、絶縁碍子20と、主体金具30と、接地電極40とを備えている。中心電極10は絶縁碍子20によって保持され、絶縁碍子20は主体金具30によって保持されている。接地電極40は主体金具30の先端側に取り付けられている。スパークプラグ100は、中心電極10、絶縁碍子20および主体金具30の軸心が、軸線CA1と一致するように構成されている。
中心電極10は、略棒形状の電極であり、ニッケルまたはニッケルを主成分とするニッケル合金(例えば、インコネル(登録商標))によって形成されている。中心電極10は絶縁碍子20の内側に収容され、外側面がスパークプラグ100の外部と電気的に絶縁されている。中心電極10の先端側は、絶縁碍子20の先端側から突出している。中心電極10の後端側は、シール体16、セラミック抵抗17、シール体18を介して端子金具19に電気的に接続されている。端子金具19は後端部が絶縁碍子20の後端側から突出している。
絶縁碍子20は、略円筒形状の絶縁体であり、軸線CA1に沿った貫通孔である軸孔28を備えている。絶縁碍子20は、軸孔28の内側に中心電極10を収容している。絶縁碍子20は、アルミナを始めとする絶縁性セラミックス材料を焼成することによって形成されている。
主体金具30は、略円筒形状の金具であり、内側に絶縁碍子20が配置されている。主体金具30は、ニッケルメッキや亜鉛メッキがなされた低炭素鋼や、無メッキのニッケル合金などによって形成されている。主体金具30は、中心電極10から電気的に絶縁された状態で絶縁碍子20の外側面にカシメ固定されている。主体金具30は、先端面31と取付ネジ部32とを備えている。主体金具30の先端面31は、主体金具30の先端側を構成する環状の面である。先端面31には、接地電極40が接合されている。先端面31の環の中央から、絶縁碍子20および中心電極10が突出している。主体金具30の取付ネジ部32は、外側面にネジ山が形成された部位であり、このネジ山を内燃機関200のネジ孔210に螺合させることによって、スパークプラグ100を内燃機関200に取り付けることができる。
接地電極40は、屈曲した略棒状形状の電極であり、ニッケルまたはニッケルを主成分とするニッケル合金よって形成されている。接地電極40の一方の端部である基端部41は主体金具30の先端面31に接合されており、他方の端部である先端部42は中心電極10の先端側の端部と対向するように構成されている。接地電極40の先端部42と中心電極10の先端側の端部との間には、火花放電のための間隙(放電ギャップ)が形成される。接地電極40の先端部42における中心電極10と対向する位置(放電ギャップを形成する位置)には、耐火花消耗性や耐酸化消耗性を向上させるために、電極チップ(貴金属チップ)450が接合されている。
図2は、スパークプラグの接地電極を拡大した説明図である。図2(a)には、軸線CA1に直交する方向から見た接地電極40と中心電極10の先端側を示している。図2(b)には、図2(a)の矢印X方向から見た接地電極40を示している。
接地電極40は、電極母材410と、中間母材430と、貴金属チップ450とを備えている。電極母材410は、屈曲した略棒状形状の電極であり、基端部401が主体金具30の先端面31に接合されている。電極母材410は、主体金具30の先端面31から軸線CA1に沿った方向に延びた後、軸線CA1に交差する方向に屈曲している。電極母材410の先端部402は、軸線CA1に交差する方向を向いている。
電極母材410は、略四角形状の断面を有し、内側面403、外側面404、横側面405、406の4つの側面を備えている。内側面403は、屈曲した電極母材410の内側に形成された面であり、先端部402の近傍において中心電極10の先端と対向している。外側面404は、屈曲した電極母材410の外側に形成された面であり、内側面403の裏側の面に該当する。横側面405、406は、それぞれ内側面403および外側面404の両方に隣接する面である。内側面403の先端部402側には、貴金属チップ450が取り付けられている。ここでは、貴金属チップ450は、中間母材430を介して電極母材410に取り付けられている。
中心電極10と貴金属チップ450との間には、放電ギャップSGが形成されている。スパークプラグ100は、内燃機関200に取り付けた状態で、端子金具19(図1)を介して2万〜3万ボルトの高電圧が中心電極10に印加されることによって、放電ギャップSGに火花を発生させる。
中間母材430は、略中空円筒形状の部材であり、貴金属チップ450の外周を囲むようにして、貴金属チップ450と共に電極母材410に埋設されている。中間母材430の貫通孔の内側には、貴金属チップ450が挿入されている。中間母材430は、内側の貴金属チップ450と外側の電極母材410の両方に接合されている。これらの接合は、溶融溶接(例えば、レーザー溶接、アーク溶接、ガス溶接など)によっておこなわれる。これによって、貴金属チップ450は、中間母材430を介して電極母材410に取り付けられる。中間母材430は、インコネル(登録商標)を始めとするニッケルを主成分とするニッケル合金によって形成されている。中間母材430の材料は、電極母材410と同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
貴金属チップ450は、全体として略円柱形状の外形を有し、2つの分割チップ450a、450bによって構成されている。分割チップ450a、450bは、それぞれ半円形状の断面を有する柱状体であり、2つを寄せ合わせることによって、略円柱形状の貴金属チップ450が構成される。すなわち、貴金属チップ450は、分割チップ450a、450bを集合させた集合体として構成されている。また、言い換えれば、貴金属チップ450は、自身の軸CAcの方向に沿った切断面Fpcによって2つに切断された構成を備えている。分割チップ450a、450b同士は、切断面Fpcにおいて接着剤などによって弱く接合されていてもよい。貴金属チップ450の直径については特に限定はないが、1.0mm〜5.0mm程度とすることが好ましく、1.5mm〜5.0mmとすることがより好ましい。貴金属チップ450は、自身の軸CAcが軸線CA1の延長線上となるように配置されている。貴金属チップ450(すなわち、各分割チップ450a、450b)は、火花放電や酸化に対する耐久性が電極母材410よりも優れた貴金属を含有する金属によって形成されている。例えば、貴金属チップ450は、白金を主成分とし20質量%のロジウムを含有する合金によって形成することができる。貴金属チップ450は、火花放電や酸化に対する耐久性が電極母材410よりも優れた貴金属(例えば、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウムなど)によって形成されてもよいし、そのような貴金属を主成分とする合金によって形成されてもよい。
図3は、貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。図3(a)には、中心電極10の先端側から見た貴金属チップ450の接合構造を示している。図3(b)には、図3(a)の矢視F3b−F3bから見た貴金属チップ450の断面を示している。
図3(b)に示すように、電極母材410の内側面403には、中間母材430の外形とほぼ同じ略円筒形状に窪んだ凹部416が形成されている。凹部416の内側には、貴金属チップ450および中間母材430が取り付けられている。凹部416は、凹部底面417と、凹部側面418とを備えている。凹部底面417は、貴金属チップ450の軸CAcに交差する略円形形状の面である。凹部側面418は、貴金属チップ450の軸CAcに沿った内周面であり、凹部底面417および電極母材410の内側面403の両方に接している。
中間母材430は、上端面431と、下端面432と、外周面435と、内周面438とを備えている。上端面431および下端面432は、それぞれ貴金属チップ450の軸CAcに交わる平面であり、中間母材430の両端面を構成している。外周面435と内周面438は、貴金属チップ450の軸CAcに沿った面であり、それぞれ上端面431および下端面432と隣接している。上端面431は、電極母材410の内側面403と同一平面上に位置している。下端面432は、電極母材410の凹部底面417に当接している。外周面435は、電極母材410の凹部側面418に当接している。内周面438は、貴金属チップ450のチップ外周面455に当接している。
貴金属チップ450は、チップ上端面451と、チップ下端面452と、チップ外周面455とを備えている。チップ上端面451とチップ下端面452は、それぞれ貴金属チップ450の軸CAcに交わる面であり、貴金属チップ450の両端面を構成している。チップ上端面451は、中心電極10の先端側に対向している。チップ下端面452は、電極母材410の凹部底面417に当接している。チップ外周面455は、貴金属チップ450の軸CAcに沿った面であり、チップ上端面451側の一部が電極母材410の内側面403から突出しており、チップ下端面452側の一部が中間母材430の内周面438に当接している。
分割チップ450a、450bは、それぞれ、チップ上端面451の一部と、チップ下端面452の一部と、チップ外周面455の一部と、を備えている。以後、分割チップ450aに形成されたチップ上端面451の一部、チップ下端面452の一部、チップ外周面455の一部をそれぞれ、チップ上端面451a、チップ下端面452a、チップ外周面455aとも呼ぶ。また、分割チップ450bに形成されたチップ上端面451の一部、チップ下端面452の一部、チップ外周面455の一部をそれぞれ、チップ上端面451b、チップ下端面452b、チップ外周面455bとも呼ぶ。また、分割チップ450a、450bは、切断面Fpcにおいて互いに当接する当接面456をそれぞれ備えている。分割チップ450aが備える当接面456を当接面456aとも呼び、分割チップ450bが備える当接面456を当接面456bとも呼ぶ。
図3に示すように、接地電極40には、2種類の溶融部(第1溶融部420と第2溶融部440)が形成されている。第1溶融部420は、中間母材430と貴金属チップ450とを溶融溶接によって接合した際に形成された溶融部分であり、中間母材430と貴金属チップ450とが溶融している。第1溶融部420は、分割チップ450aと中間母材430との間、および、分割チップ450bと中間母材430との間にそれぞれに形成されている。以後、分割チップ450aと中間母材430との間に形成された第1溶融部420を第1溶融部420aとも呼び、分割チップ450bと中間母材430との間に形成された第1溶融部420を第1溶融部420bとも呼ぶ。本実施形態の第1溶融部420aと第1溶融部420bとは、互いに交わったり、一体的に形成されておらず、それぞれ互いに異なる第1溶融部420として形成されている。第2溶融部440は、電極母材410と中間母材430とを溶融溶接によって接合した際に形成された溶融部分であり、電極母材410と中間母材430とが溶融している。なお、ここでは、溶融部420、440を形成する溶融溶接は、レーザー溶接を用いているものとする。溶融部420、440を形成する溶融溶接は、アーク溶接やガス溶接などであってもよい。
中間母材430と貴金属チップ450とをレーザー溶接によって接合する際には、中間母材430の内側に貴金属チップ450を挿入した状態で、中間母材430の外周面435から貴金属チップ450の軸CAcに向けてレーザーを照射する。これによって、第1溶融部420は、中間母材430と貴金属チップ450との境界面を跨いで、中間母材430の外周面435から貴金属チップ450の軸CAcに向かって凸状に形成される。ここでは、第1溶融部420は、分割チップ450aと中間母材430との間に2箇所形成され、分割チップ450bと中間母材430との間に2箇所形成されている。第1溶融部420の数は任意に設定することができる。
電極母材410と中間母材430とをレーザー溶接によって接合する際には、貴金属チップ450が接合された中間母材430を電極母材410の凹部416に挿入した状態で、電極母材410の凹部側面418と中間母材430の外周面435との境界に、貴金属チップ450の軸CAcに沿ってレーザーを照射する。これによって、第2溶融部440は、電極母材410の内側面403から凹部側面418に沿った円柱状に形成される。ここでは、第2溶融部440は、第1溶融部420に干渉しない複数の箇所(例えば、8箇所)に形成されている。第2溶融部440の数は任意に設定することができる。
図4は、図3(b)の矢視F4−F4から見た貴金属チップの断面を示す説明図である。図3(b)の矢視F4−F4によって示す平面PLは、第1溶融部420の先端部分、すなわち、貴金属チップ450に形成されている第1溶融部420において、貴金属チップ450の軸CAcに最も近い部分(以後、「最深点Pdp」とも呼ぶ)を通り、貴金属チップ450の軸CAcに直交する平面である。
図4(a)に示すように、平面PLには、貴金属チップ450の外周線450RLと、中間母材430の外周線430RLと、第1溶融部420の断面である第1溶融領域420CAと、第2溶融部440の断面である第2溶融領域440CAとが形成されている。貴金属チップ450の外周線450RLは、チップ外周面455(図3)と平面PLとの交線である。中間母材430の外周線430RLは、中間母材430の外周面435(図3)と、平面PLとの交線である。貴金属チップ450の外周線450RLは、第1溶融領域420CAによって複数に分断されている。図4(a)では、第1溶融領域420CAに溶接前の貴金属チップ450の外周の仮想線を仮想外周線450VLとして示している。この仮想外周線450VLは、溶接前の外周線であり、現実には溶接によって消失している。貴金属チップ450の外周は、外周線450RLと仮想外周線450VLによって表すことができる。
平面PLにおいて、貴金属チップ450の外周線450RLには、分割チップ450aの外周線450aRLと、分割チップ450bの外周線450bRLと、が含まれている。分割チップ450aの外周線450aRLは、チップ外周面455a(図3)と平面PLとの交線である。分割チップ450bの外周線450bRLは、チップ外周面455b(図3)と平面PLとの交線である。また、仮想外周線450VLには、仮想外周線450aVLと、仮想外周線450bVLと、が含まれている。仮想外周線450aVLとは、第1溶融部420aの断面である第1溶融領域420aCAに示される仮想線である。仮想外周線450bVLとは、第1溶融部420bの断面である第1溶融領域420bCAに示される仮想線である。平面PLにおいて、外周線450aRLと仮想外周線450aVLによって表される分割チップ450aの外周部を「分割チップ450aの外周部分」とも呼ぶ。また、外周線450bRLと仮想外周線450bVLによって表される分割チップ450bの外周部を「分割チップ450bの外周部分」とも呼ぶ。貴金属チップ450の外周線は、分割チップ450aの外周部分と分割チップ450bの外周部分によって構成されている。また、本実施形態では、分割チップ450aの外周部分と分割チップ450bの外周部分は、長さが等しい。
本実施形態の第1溶融部420は、分割チップ450a、450bのそれぞれの外周部分において、貴金属チップ450の外周線に沿った方向(以後、「外周方向」とも呼ぶ)の仮想外周線450VLの長さ(第1溶融部420の外周方向の長さ)の合計が、外周部分の長さ(第1溶融部420の外周方向の長さとチップ外周面455の外周方向の長さの和)の30%以上になるように構成されている。具体的には、図4(b)に示すように、例えば、分割チップ450aにおいて、分割チップ450aの外周部分の外周方向における長さを外周長さLcpとし、第1溶融領域420aCAに示された仮想外周線450aVLの長さLvlの合計長さをΣLvlとすると、外周長さLcpと合計長さΣLvlは、以下の式(1)を満たす。
ΣLvl≧0.3×Lcp ・・・(1)
分割チップ450bについても分割チップ450aと同様に、分割チップ450bの外周部分の外周長さをLcpとし、仮想外周線450bVLの長さLvlの合計長さをΣLvlとすると、上記の式(1)を満たす。以後、分割チップの外周部分の外周長さLcpに占める、仮想外周線の合計長さΣLvlの割合(ΣLvl/Lcp)を「接合長さ割合」とも呼ぶ。
また、本実施形態の第1溶融部420は、分割チップ450a、450bごとに、貴金属チップ450の幾何学的重心を通る任意の直線と交差する溶融部の合計数が複数にならないように構成されている。具体的には、図4(b)に示すように、貴金属チップ450の接合前における幾何学的重心を重心Gcとし、重心Gcを通る任意の直線を直線LNとすると、例えば、分割チップ450aにおいて、直線LN上に2つの第1溶融部420aが同時に存在しないように構成されている。なお、ここでは、直線LN上に、分割チップ450aとの間に形成されている第1溶融部420aと、分割チップ450bとの間に形成されている第1溶融部420bとが1つずつ存在している。言い換えれば、本実施形態の分割チップは、貴金属チップ450の幾何学的重心Gcを通る直線LNに関して、直線LNと交差する溶融部の分割チップ450a、450bごとの合計数が0または1となるように構成されている。なお、本実施形態の貴金属チップ450は、平面PLにおいて、幾何学的重心Gcと軸CAcとが同じ位置となっている。
A−2.スパークプラグの製造方法:
図5は、本実施形態のスパークプラグの製造方法を説明するためのフローチャートである。ここでは、本実施形態の接地電極40の製造方法を中心に説明する。接地電極40を製造するにあたり、まず、電極母材410、中間母材430および分割チップ450a、450bを用意する(ステップS110)。なお、貴金属チップ450の取り付けに先立って用意される電極母材410は、完成品のスパークプラグ100における電極母材410のように屈曲しておらず、真っ直ぐに延びた線材であってもよい。接地電極40の各部材を用意した後、中間母材430と貴金属チップ450とをレーザー溶接してチップ接合体を作成する(ステップS120)。
図6は、チップ接合体の組み立て工程を説明するための説明図である。図6(a)に示すように、分割チップ450aと分割チップ450bの互いの当接面456a、456bを当接させることによって、貴金属チップ450を構成する。得られた貴金属チップ450を図6(b)に示すように、中間母材430の内周面438の内側に挿入する。その後、中間母材430の外周面435から貴金属チップ450の軸CAcに向けてレーザーを照射して、中間母材430と貴金属チップ450とをレーザー溶接する。これによって、中間母材430および貴金属チップ450に第1溶融部420(図3)が形成され、チップ接合体が完成する。
チップ接合体を作成した後、チップ接合体と電極母材410とを抵抗溶接する(図5、ステップS130)。具体的には、チップ接合体を電極母材410の凹部416(図3)に挿入した後、チップ接合体と電極母材410とを加圧しつつ、チップ接合体および電極母材410に電流を流すことによって、チップ接合体を電極母材410の凹部底面417に抵抗溶接する。なお、ステップS130の抵抗溶接は省略することもできる。
チップ接合体と電極母材410とを抵抗溶接した後、チップ接合体と電極母材410とをレーザー溶接する(ステップS140)。具体的には、電極母材410の凹部側面418と中間母材430の外周面435との境界に、貴金属チップ450の軸CAcに沿ってレーザーを照射して、電極母材410と中間母材430とをレーザー溶接する。これによって、電極母材410および中間母材430に第2溶融部440(図3)が形成される。
チップ接合体と電極母材410とをレーザー溶接した後、スパークプラグ100を構成する各種部品の組み付け(ステップS150)を経て、スパークプラグ100を完成させることができる。なお、チップ接合体と電極母材410とをレーザー溶接した電極中間品を主体金具30に溶接してから、主体金具30に他の部材を組み付け、最後に、主体金具30に溶接した電極中間品を折り曲げて接地電極40を完成させることが好ましい。
A−3.接地電極の耐久性評価:
図7は、サンプル♯01〜♯14のスパークプラグにおける接地電極の構成を説明するための説明図である。接地電極の構成の異なるサンプル♯01〜♯14の14通りのスパークプラグを使用して、接地電極の耐久性の評価をおこなった。各サンプル♯01〜♯14の接地電極の構成は以下のとおりである。
<サンプル♯01〜♯04>
サンプル♯01〜♯04の貴金属チップ450は、図3と同様の構成であり、2つの分割チップ450a、450bによって構成されている。サンプル♯01〜♯04は、それぞれ第1溶融部420の数が異なる。第1溶融部420の総数は、サンプル♯01、♯02、♯03、♯04の順に、2個、4個、6個、8個となっている。図7(a)は、サンプル♯02を例示している。各サンプル♯01〜♯04において、第1溶融部420は、貴金属チップ450の外周に等間隔に形成されている。各分割チップの外周部分の外周長さLcpに占める、仮想外周線の合計長さΣLvlの割合である接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)は、サンプル♯01、♯02、♯03、♯04の順に、10%、30%、60%、80%となっている。
<サンプル♯05〜♯08>
サンプル♯05〜♯08の貴金属チップ450Aは、サンプル♯01の貴金属チップ450と同様の外形(略円柱形状)を有している。一方、貴金属チップ450Aは、サンプル♯01の貴金属チップ450とは異なり、4つの分割チップ450c、450d、450e、450fによって構成されている。各分割チップ450c、450d、450e、450fは、扇形の水平断面を有する柱状体であり、4つを寄せ合わせることによって貴金属チップ450Aが構成されている。サンプル♯05〜♯08は、それぞれ第1溶融部420の数が異なる。第1溶融部420の総数は、サンプル♯05、♯06、♯07、♯08の順に、2個、4個、6個、8個となっている。各サンプル♯05〜♯08において、第1溶融部420は、貴金属チップ450Aの外周に等間隔に形成されている。接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)は、サンプル♯05、♯06、♯07、♯08の順に、10%、30%、60%、80%となっている。
<サンプル♯09〜♯12>
サンプル♯09〜♯12の貴金属チップ450Xは、サンプル♯01の貴金属チップ450と同様の外形を有している。一方、貴金属チップ450Xは、サンプル♯01の貴金属チップ450とは異なり、複数の分割チップによって構成されておらず、一金属体として構成されている。サンプル♯09〜♯12は、それぞれ第1溶融部420の数が異なる。第1溶融部420の数は、サンプル♯09、♯10、♯11、♯12の順に、2個、4個、6個、8個となっている。各サンプル♯09〜♯12において、第1溶融部420は、貴金属チップ450Xの外周に等間隔に形成されている。接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)は、サンプル♯09、♯10、♯11、♯12の順に、10%、30%、60%、80%となっている。
<サンプル♯13、♯14>
サンプル♯13、♯14の貴金属チップ450Xは、サンプル♯09の貴金属チップ450Xと同じである。すなわち一金属体として構成されている。サンプル♯13、♯14は、第1溶融部420の数が異なる。第1溶融部420の数は、サンプル♯13、♯14の順に、2個、4個となっている。サンプル♯13、♯14のそれぞれの第1溶融部420は、貴金属チップ450Xの外周において、貴金属チップ450Xの重心Gcを挟んで対向する位置に他の第1溶融部420が存在しないように形成されている。接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)は、サンプル♯13、♯14の順に、10%、30%となっている。なお、第1溶融部420が貴金属チップ450Xの重心Gcを挟んで対向しないようにするために、接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)を60%、80%とすることはできなかった。
図8は、サンプル♯01〜♯14のスパークプラグの耐久性の評価結果を示した説明図である。耐久性の評価試験では、サンプル♯01〜♯14の各スパークプラグをそれぞれ30個ずつ用意した。用意したサンプル♯01〜♯14を6気筒コージェネレーションエンジンに取り付け、定格出力で1000時間の運転(耐久試験)を行った。耐久試験の後、すべてのサンプル♯01〜♯14について、第1溶融部420の最深点Pdpを通る平面PLが現れるまで貴金属チップ450を研磨し、その研磨断面である平面PLを顕微鏡にて観察した。顕微鏡による平面PLの観察において、貴金属チップ450の外周に沿った亀裂が全箇所の第1溶融部420の全域に完全に入っている完全断裂の有無を確認した。
図8には、サンプル♯01〜♯14ごとに、30個のスパークプラグのうち、完全断裂となったスパークプラグの数を示した。なお、各スパークプラグにおいて、存在するすべての第1溶融部420のうち、1つの第1溶融部420でも完全に亀裂が入っていないものが存在する場合には、そのスパークプラグは完全断裂となったスパークプラグに算入しなかった。また、図8には、サンプル♯01〜♯14ごとに、接合強度の測定結果を示した。接合強度は、プッシュバック試験により測定した。なお、ここでは、サンプル♯01〜♯14ごとに、30個のスパークプラグの接合強度の平均値を示した。また、図8には、接合強度についての判定結果を示した。判定の基準は次の通りである。
◎(優):接合強度が350N以上のサンプル
○(良):接合強度が300N以上であり、かつ350Nより小さいサンプル
・(不可):接合強度が300Nより小さいサンプル
図8の評価結果によれば、サンプル♯01〜♯04およびサンプル♯05〜♯08のスパークプラグは、サンプル♯09〜♯12のスパークプラグよりも、完全破断数が少なく、かつ、接合強度が大きいことがわかる。すなわち、溶融部が貴金属チップの外周に等間隔に形成されているスパークプラグにおいて、貴金属チップを複数の分割チップによって構成すると、貴金属チップを1つの貴金属体として構成した場合と比べて、完全破断数が低減し、かつ、接合強度が増大することがわかる。これは、貴金属チップを複数の分割チップによって構成すると、貴金属チップと母材(ここでは、中間母材)との間に熱膨張差が発生しても、分割チップ同士がずれたり、互いの距離が変化することによって、貴金属チップと母材との間の溶融部にかかる熱応力を低減させることができるためと考えられる。以上のことから、貴金属チップを複数の分割チップによって構成したスパークプラグは、貴金属チップを1つの貴金属体として構成したスパークプラグよりも好ましいこといえる。
なお、図8の評価結果によれば、サンプル♯13、♯14のスパークプラグの完全破断数および接合強度は、サンプル♯01〜♯04およびサンプル♯05〜♯08のスパークプラグの完全破断数および接合強度と同程度となっている。すなわち、溶融部が貴金属チップの重心を介して対向する位置に存在しないスパークプラグは、貴金属チップを複数の分割チップによって構成したスパークプラグと同程度の耐久性を有している。これは、溶融部が貴金属チップの重心を介して対向する位置に存在するスパークプラグでは、冷熱サイクル下において貴金属チップと電極母材との間に熱膨張差が発生すると、貴金属チップの両側の溶融部が貴金属チップを介して互いに引っ張り合うのに対して、溶融部が対向する位置に存在しないスパークプラグでは、その効果が抑制されるためと考えられる。しかし、サンプル♯13、♯14のように溶融部が対向する位置に存在しないスパークプラグでは、その構成上、接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)の上限が低くならざるをえないため、溶融部数を増やすことが困難となる。
図8の判定結果によれば、サンプル♯02〜♯04およびサンプル♯06〜♯08のスパークプラグは、接合強度判定が「◎」となっていることがわかる。すなわち、貴金属チップが複数の分割チップによって構成されたスパークプラグにおいて、接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)を30%以上にすると、接合強度が第1の判定基準値(ここでは、350N)より大きくなることがわかる。一方、サンプル♯14のスパークプラグでは、接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)が30%であるにもかかわらず、接合強度判定が「◎」となっていない。これは、サンプル♯14のスパークプラグは、溶融部が重心Gcを介して互いに対向する位置に存在しないが、接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)の増加によって、溶融部同士が互いに対向する位置に近づくため、冷熱サイクル下において、溶融部が貴金属チップを介して互いに引っ張り合う応力成分が増大して十分な接合強度が得られなかったと考えられる。以上のことから、貴金属チップが複数の分割チップによって構成されたスパークプラグにおいて、接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)を30%以上とすることが好ましいといえる。
以上説明した第1実施形態のスパークプラグ100によれば、貴金属チップ450が複数の分割チップ450a、450bによって構成されているため、電極からの貴金属チップの脱落を抑制することができる。具体的には、本実施形態のスパークプラグ100は、貴金属チップが複数の分割チップによって構成されているため、冷熱サイクル下において貴金属チップと母材(ここでは、中間母材)のそれぞれが膨張と収縮を繰り返しても、分割チップ同士がずれたり、互いの距離が変化することによって、貴金属チップと母材との間の溶融部にかかる熱応力を低減させることができる。これにより、溶融部において完全断裂が発生しにくくなり、電極からの貴金属チップの脱落を抑制することができる。
図9は、耐久試験後のスパークプラグを例示した説明図である。図9(a)は、本実施形態のスパークプラグの耐久試験後の平面PLを示している。図9(b)は、比較例のスパークプラグの耐久試験後の平面PLを示している。ここでは、本実施形態のスパークプラグとして、貴金属チップを構成する2つの分割チップに対して、溶融部がそれぞれ一箇所ずつ形成されたものを使用した。また、比較例のスパークプラグとして、1つの貴金属体からなる貴金属チップに対して、本実施形態のスパークプラグと同じ位置に溶融部が形成されたものを使用した。これらのスパークプラグには、同条件の耐久試験をおこなった。その結果、図9(a)に示すように、実施形態のスパークプラグでは、溶融部に複数の微少の亀裂が存在するが、完全断裂は存在しなかった。一方、図9(b)では、貴金属チップの周方向に沿った亀裂が溶融部全体に形成されており、完全断裂が存在していることがわかる。図9(a)に示すように、本実施形態のスパークプラグでは、分割チップ間に隙間が存在する。そのため、本実施形態のスパークプラグは、貴金属チップと中間母材との間に熱膨張差が発生しても、この隙間の間隔が変化することによって、貴金属チップと母材との間の溶融部にかかる熱応力を低減させることができる。
また、第1実施形態のスパークプラグ100によれば、各分割チップ450a、450bは、それぞれ互いに異なる第1溶融部420a、440bによって母材(ここでは、中間母材)に接合されているため、電極からの貴金属チップの脱落をさらに抑制することができる。具体的には、本実施形態のスパークプラグ100は、2つの分割チップ間の隙間と母材との間に形成さていないため、冷熱サイクル下において2つの分割チップの相対的な位置関係の変化が変化したときや、2つの分割チップと母材のそれぞれが膨張と収縮を繰り返したときに溶融部にかかる熱応力を低減させることができる。
また、第1実施形態のスパークプラグ100によれば、各分割チップ450a、450bは、それぞれ中心電極10と対向するチップ上端面451a、451bを備えているため、火花による消耗を各分割チップで負担することができる。また、各分割チップ450a、450bの一方が脱落したときのスパークプラグの耐火花消耗性や耐酸化消耗性の低下を抑制することができる。
A−4.変形例:
図10は、第1実施形態の第1変形例の貴金属チップを例示した説明図である。図10は、第1実施形態の図6に対応している。スパークプラグ100は、図6の貴金属チップ450に代えて、図10(a)の貴金属チップ450Bを備えていてもよい。貴金属チップ450Bは、6つの分割チップ450g、450h、450i、450j、450k、450lによって構成されている。各分割チップ450g〜lは、それぞれ扇形の水平断面を有する柱状体であり、6つを寄せ合わせることによって、略円柱形状の貴金属チップ450Bが構成される。得られた貴金属チップ450Bを図10(b)に示すように、中間母材430の内側に挿入し、その後、レーザー溶接によって各分割チップ450g〜lをそれぞれ中間母材430に接合することでチップ接合体を得ることができる。このように、第1実施形態のスパークプラグ100に用いられる貴金属チップは、任意の数の分割チップによって構成されていてもよい。
図11は、第2変形例の貴金属チップを例示した説明図である。図11は、図6に対応している。スパークプラグ100は、図6の貴金属チップ450に代えて、図11(a)の貴金属チップ450Cを備えていてもよい。貴金属チップ450Cは、2つの分割チップ450m、450nによって構成されている。分割チップ450mは、チップ上端面451の全部と、チップ外周面455の一部であるチップ外周面455mと、を備えている。一方、分割チップ450nは、チップ外周面455の一部と、チップ下端面452の全部と、を備えている。分割チップ450m、450nは、1つの円柱をその中心軸に対して斜めに傾いた切断面に沿って切断した形状を有している。そのため、分割チップ450mと分割チップ450nとを寄せ合わせることによって、略円柱形状の貴金属チップ450Cが構成される。得られた貴金属チップ450Cを図11(b)に示すように、中間母材430の内側に挿入し、その後、レーザー溶接によって各分割チップ450m、nをそれぞれ中間母材430に接合することでチップ接合体を得ることができる。このように、第1実施形態のスパークプラグ100に用いられる分割チップは、貴金属チップを構成する複数の面のうちの一部の面を含んでいなくてもよい。
図12は、第3変形例の貴金属チップを例示した説明図である。図11は、図6に対応している。スパークプラグ100は、図6の貴金属チップ450に代えて、図12(a)の貴金属チップ450Dを備えていてもよい。貴金属チップ450Dは、2つの分割チップ450o、450pによって構成されている。分割チップ450o、450pは、平坦なチップ上端面を備えていない。分割チップ450oと分割チップ450pとを寄せ合わせることによって、チップ外周面とチップ上端面とが明確に区別されていない貴金属チップ450Dが構成される。得られた貴金属チップ450Cを図11(b)に示すように、中間母材430の内側に挿入し、その後、レーザー溶接によって各分割チップ450o、pを中間母材430にそれぞれ接合することでチップ接合体を得ることができる。このように、第1実施形態のスパークプラグ100に用いられる貴金属チップは、平坦なチップ上端面を備えていなくてもよい。
図13は、第4変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。図13は、第1実施形態の図3(a)に対応している。図13では、第2溶融部440の図示を省略している。第1実施形態のスパークプラグ100(図3(a))は、分割チップ450a、450bが接地電極40の延伸方向に並んで配置され、貴金属チップ450の切断面Fpcが接地電極40の延伸方向に直交するように構成されているが、分割チップ450a、450bの配置方向や、切断面Fpcの向きは、任意に設定することができる。例えば、図13に示すように、スパークプラグ100は、分割チップ450a、450bが接地電極40の延伸方向に直交する方向に並んで配置され、切断面Fpcが接地電極40の延伸方向に沿うように構成されてもよい。このように、貴金属チップ450の電極母材410に対する取り付け方向には特に限定はない。
図14は、第5変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。第1実施形態のスパークプラグ100は、分割チップ450a、450bの当接面456a、456bが平坦に形成され、貴金属チップ450の切断面Fpcが1つの平面として構成されているが、貴金属チップ450の切断面Fpcは、1箇所以上で折れ曲がった面であってもよいし、曲面によって構成されていてもよい。例えば、図14に示すように、スパークプラグ100は、分割チップ450q、450rの間の切断面Fpcが折れ曲がった2つの平面で構成されていてもよい。
図15は、第6変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。第1実施形態のスパークプラグ100は、第1溶融部420が貴金属チップの外周に概ね等間隔に形成されているが、図15に示すように、スパークプラグ100は、第1溶融部420が貴金属チップの外周に等間隔に形成されていなくてもよい。また、第1実施形態のスパークプラグ100は、分割チップ450aと中間母材430とを接合する第1溶融部420aと、分割チップ450bと中間母材430とを接合する第1溶融部420bと、が互いに交わらないように構成されているが、図15に示すように、分割チップ450a、450bの両方と中間母材430とを接合する第1溶融部420abが形成されていてもよい。また、第1実施形態のスパークプラグ100は、第1溶融部420aの数と第1溶融部420bの数とが等しくなるように構成されているが、図15に示すように、スパークプラグ100は、第1溶融部420aの数と第1溶融部420bの数が異なっていてもよい。
図16は、第7変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。第1実施形態のスパークプラグ100は、第1溶融部420が中間母材430の外周から貴金属チップ450の軸CAcに向かって凸状に形成されているが、図16に示すように、スパークプラグ100は、第1溶融部420が貴金属チップ450の外周に沿うように形成されていてもよい。このように、スパークプラグ100は、第1溶融部420の形状について特に限定はなく、任意の形状であってよい。
図17は、第8変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。第1実施形態のスパークプラグ100は、貴金属チップの切断面Fpcが貴金属チップの軸CAcを通るように構成されているが、貴金属チップの切断面Fpcは、軸CAcを通らないように構成されていてもよい。例えば、スパークプラグ100は、図3の貴金属チップ450に代えて、図17の貴金属チップ450Fを備えていてもよい。貴金属チップ450Fは、3つの分割チップ450s、450t、450uによって構成されている。分割チップ450tは、扇形の水平断面を有する柱状体であり、貴金属チップ450Fの外周面のうち、軸CAcを介して対向する外周面の一部を備えている。分割チップ450tは、分割チップ450sと分割チップ450uの間に配置され、貴金属チップ450Fの軸CAcが内側に含まれている。このような構成にすれば、分割チップ450sと分割チップ450tとの間の切断面Fpcと、分割チップ450tと分割チップ450uとの間の切断面Fpcのいずれも、軸CAcを通らない。
また、第1実施形態のスパークプラグ100は、中間母材430の厚さが一定となるように構成されているが、図17の中間母材430Aのように厚さは一定となっていなくてもよい。ここでの中間母材430の厚さとは、外周面435と内周面438との間の距離(図3)である。また、第1実施形態のスパークプラグ100は、中間母材430は1つの部材として構成されているが、中間母材430は、複数の部材によって構成されていてもよい。図17の中間母材430Aは、3つの母材片430a、430b、430cによって構成されている。母材片430a、430b、430cは、互いに接合されていてもよいし、貴金属チップ450Fに対してのみ接合されていてもよい。
図18は、第9変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。第1実施形態のスパークプラグ100は、中間母材430が略中空円筒形状に形成されているが、中間母材430の形状は、円筒形状以外の任意の形状とすることができる。例えば、図18に示すように、スパークプラグ100は、略中空四角柱状に形成された中間母材430Bを備えていてもよい。
図19は、第10変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。第1実施形態のスパークプラグ100は、貴金属チップ450が略円筒形状に形成されているが、貴金属チップ450の形状は、円筒形状以外の任意の形状とすることができる。例えば、スパークプラグ100は、図3の貴金属チップ450および中間母材430に代えて、図19の貴金属チップ450Gおよび中間母材430Cを備えていてもよい。貴金属チップ450Gは、2つの分割チップ450v、450wによって構成されている。各分割チップ450v、450wは、四角形の水平断面を有する柱状体であり、2つを寄せ合わせることによって、四角柱状の貴金属チップ450Gが構成される。中間母材430Cは、外形が円柱状に形成され、内側に四角形の貫通孔を備えている。この貫通孔に貴金属チップ450Gを挿通させた後にレーザー溶接をおこなうことによっても、チップ接合体を構成することができる。
図20は、第11変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。第1実施形態のスパークプラグ100は、貴金属チップ450のチップ外周面455と電極母材410の凹部側面418との間に中間母材430が隙間なく配置されているが、チップ外周面455と凹部側面418との間には、中間母材430が存在せずに中空となっている部分が存在してもよい。例えば、スパークプラグ100は、図3の貴金属チップ450および中間母材430に代えて、図20の貴金属チップ450Gおよび中間母材430Dを備えていてもよい。貴金属チップ450Gは、四角形の断面を有する分割チップ450v、450wによって構成されている。中間母材430Dは、4つの母材片430d、430e、430f、430gによって構成されている。母材片430d〜gは、互いの間に隙間Svが形成されている。このような構成にすれば、貴金属チップ450のチップ外周面455と電極母材410の凹部側面418との間に中空部が形成される。
図21は、第12変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。第1実施形態のスパークプラグ100は、貴金属チップ450と中間母材430からなるチップ接合体が、電極母材410に1つ取り付けられているが、このチップ接合体は電極母材410に複数取り付けてもよい。例えば、スパークプラグ100は、図3の貴金属チップ450および中間母材430からなるチップ接合体に代えて、図21のように、貴金属チップ450Hおよび中間母材430Eからなるチップ接合体を2つ備えていてもよい。各貴金属チップ450Hは、それぞれ2つの分割チップ450x、450yによって構成されている。分割チップ450x、450yは、それぞれ三角形の断面を有する柱状体であり、2つを寄せ合わせることによって、三角形状の貴金属チップ450Hが構成される。中間母材430Eは、L字状の柱状体であり、内側が分割チップ450x、450yと当接している。2つのチップ接合体は、互いの分割チップ450x、450y同士が対向するように配置されている。このようにすることで、電極母材410には、全体としてほぼ四角形状の貴金属チップが形成される。
図22は、第13変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。第1実施形態のスパークプラグ100は、分割チップ450a、450b同士は隙間なく当接するように構成されているが、貴金属チップ450は、内部に中空となっている部分が存在してもよい。例えば、スパークプラグ100は、図3の貴金属チップ450および中間母材430に代えて、図22の貴金属チップ450Iおよび中間母材430Fを備えていてもよい。貴金属チップ450Iは、4つの分割チップ450α、450β、450γ、450δによって構成されている。分割チップ450α〜δは、それぞれ柱状体であり、4つを寄せ合わせることによって、内側に隙間Svが形成された三角柱状の貴金属チップ450Iが構成される。中間母材430Fは、三角形状の筒状体であり、内側に貴金属チップ450Iが配置されている。このようにすることで、貴金属チップ450Iの内側は中空部が形成される。
図23は、第14変形例の貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。第1実施形態のスパークプラグ100は、貴金属チップ450が電極母材410の凹部側面418と当接していないが、貴金属チップ450は、電極母材410の凹部側面418と当接していてもよい。例えば、スパークプラグ100は、図3の貴金属チップ450および中間母材430に代えて、図23の貴金属チップ450Gおよび中間母材430Gを備えていてもよい。貴金属チップ450Gは、四角形の断面を有する分割チップ450v、450wによって構成されている。中間母材430Gは、2つの母材片430h、430iによって構成されている。母材片430h、430iは、それぞれ平板状の外形を備え、貴金属チップ450Gの切断面Fpcを挟んで対向する位置に配置されている。このようにすることで、貴金属チップ450は、電極母材410の凹部側面418と当接する。
B.第2実施形態:
B−1.スパークプラグの構成:
図24は、第2実施形態における貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。図24は、第1実施形態の図3に対応している。図24(a)には、中心電極10の先端側から見た貴金属チップ450の接合構造を示している。図24(b)には、図24(a)の矢視F24b−F24bから見た貴金属チップ450と電極母材410の断面を示している。
第2実施形態のスパークプラグ100Aは、第1実施形態のスパークプラグ100と比較すると、中間母材430を備えていない点と、電極母材410の形状が異なる。それ以外の構成については、第1実施形態のスパークプラグ100と同様である。第2実施形態のスパークプラグ100Aは、中間母材430を介さずに貴金属チップ450が電極母材410Aに直接的に取り付けられている。電極母材410Aは、第1実施形態の電極母材410と比較すると、内側面403Aに段状部Pdが形成されている点が異なる。電極母材410Aは、この段状部Pdを介して、軸CAc方向の厚みが変わるように構成されている。具体的には、電極母材410Aは、段状部Pdより先端部402側における内側面403Aと外側面404との間の厚みが、段状部Pdより基端部401側における厚みよりも厚くなるように構成されている。
第2実施形態の溶融部460は、電極母材410Aと貴金属チップ450とを溶融溶接によって接合した際に形成された溶接部分であり、電極母材410Aと貴金属チップ450とが溶融している。溶融部460aは、分割チップ450aと電極母材410Aとの間に形成され、溶融部460bは、分割チップ450bと電極母材410Aとの間に形成されている。ここでは、溶融部460を形成する溶融溶接は、レーザー溶接を用いているものとする。溶融部460を形成する溶融溶接は、アーク溶接やガス溶接などであってもよい。
電極母材410Aと貴金属チップ450とをレーザー溶接によって接合する際には、貴金属チップ450を電極母材410の凹部416に挿入した状態で、段状部Pdおよび電極母材410Aの先端部402から貴金属チップ450の軸CAcに向けてレーザーを照射する。これによって、溶融部460は、電極母材410の段状部Pdまたは先端部402から貴金属チップ450の軸CAcに向かって凸状に形成される。ここでは、溶融部460は、分割チップ450aと電極母材410Aとの間、および、分割チップ450bと中間母材430との間にそれぞれ1箇所ずつ形成されている。溶融部460の数は任意に設定することができる。
以上説明した第2実施形態のスパークプラグ100Aによれば、貴金属チップ450が複数の分割チップ450a、450bによって構成されていれば、中間母材430を備えていなくても、電極からの貴金属チップの脱落を抑制することができる。具体的には、スパークプラグ100Aは、貴金属チップが複数の分割チップによって構成されているため、貴金属チップ450と電極母材410のそれぞれが膨張と収縮を繰り返しても、分割チップ同士がずれたり、互いの距離が変化することによって、貴金属チップ450と電極母材410との間の溶融部460にかかる熱応力を低減させることができる。これにより、溶融部460において完全断裂が発生しにくくなり、電極からの貴金属チップの脱落を抑制することができる。なお、第2実施形態においても、接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)は、30%以上が好ましい。また、各分割チップ450a、450bは、平面PLにおいて、貴金属チップ450の幾何学的重心Gcを通る任意の直線LNと交差する溶融部460の分割チップ毎の合計数が0または1となるように構成されていることが好ましい。
C.第3実施形態:
C−1.スパークプラグの構成:
図25は、第3実施形態における貴金属チップの接合構造を説明するための説明図である。図25は、第1実施形態の図3に対応している。図25(a)には、中心電極10の先端側から見た貴金属チップ450の接合構造を示している。図25(b)には、図25(a)の矢視F25b−F25bから見た貴金属チップ450と電極母材410の断面を示している。
第3実施形態のスパークプラグ100Bは、第1実施形態のスパークプラグ100と比較すると、中間母材430を備えていない点と、貴金属チップ450の向きが異なる。それ以外の構成については、第1実施形態のスパークプラグ100と同様である。第3実施形態のスパークプラグ100Bは、中間母材430を介さずに貴金属チップ450が電極母材410Aに直接的に取り付けられている。第3実施形態の貴金属チップ450は、分割チップ450aと分割チップ450bが電極母材410の延伸方向(図25上下方向)と直交する方向(図25左右方向)に並んで配置されている。
第3実施形態の溶融部470は、電極母材410と貴金属チップ450とを溶融溶接によって接合した際に形成された溶接部分であり、電極母材410と貴金属チップ450とが溶融している。溶融部470aは、分割チップ450aと電極母材410との間に形成され、溶融部470bは、分割チップ450bと電極母材410との間に形成されている。レーザー溶接によって電極母材410と貴金属チップ450とを接合する際には、貴金属チップ450を電極母材410の凹部416に挿入した状態で、電極母材410の横側面405、406から貴金属チップ450の軸CAcに向けてレーザーを照射する。これによって、溶融部470は、電極母材410の横側面405、406から貴金属チップ450の軸CAcに向かって凸状に形成される。溶融部470の数は任意に設定することができる。
以上説明した第3実施形態のスパークプラグ100Bによれば、中間母材430を備えておらず、電極母材410の内側面403に段状部Pdを備えていなくても、電極からの貴金属チップの脱落を抑制することができる。なお、第3実施形態においても、接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)は、30%以上が好ましい。また、各分割チップ450a、450bは、平面PLにおいて、貴金属チップ450の幾何学的重心Gcを通る任意の直線LNと交差する溶融部460の分割チップ毎の合計数が0または1となるように構成されていることが好ましい。
D.第4実施形態:
D−1.スパークプラグの構成:
図26は、第4実施形態におけるスパークプラグの概略構成を説明するための説明図である。図26(a)には、軸線CA1に直交する方向から見た中心電極の先端側を示している。図26(b)には、接地電極側から見た中心電極の先端側を示している。
第4実施形態のスパークプラグ100Cは、第1実施形態の貴金属チップ450と同様の構成を有する貴金属チップ150が中心電極10の先端に取り付けられている。貴金属チップ150は、略円柱形状の外形を有し、2つの分割チップ150a、150bによって構成されている。分割チップ150a、150bは、それぞれ半円形状の断面を有する柱状体であり、2つを寄せ合わせることによって、略円柱形状の貴金属チップ150が構成される。貴金属チップ150は、自身の軸CAcが軸線CA1の延長線上となるように配置されている。貴金属チップ150は、第1実施形態の貴金属チップ450と同様の金属によって形成することができる。
貴金属チップ150は、第1実施形態と同様に、中間母材130の内側に配置され、中間母材130と共に電極母材110の先端部に設けられた凹部に埋設されている。中間母材130は、第1実施形態の中間母材430と同様に、略円筒形状の外形を備え、内側の貴金属チップ150と外側の電極母材110の両方に接合されている。
図26(b)に示すように、中心電極10には、2種類の溶融部(第1溶融部120と第2溶融部140)が形成されている。第1溶融部120は、中間母材130と貴金属チップ150とを溶融溶接によって接合した際に形成された溶融部分であり、中間母材130と貴金属チップ150とが溶融している。第2溶融部140は、電極母材110と中間母材130とを溶融溶接によって接合した際に形成された溶融部分であり、電極母材110と中間母材130とが溶融している。溶融部120、140を形成する溶融溶接は、レーザー溶接、アーク溶接、ガス溶接などを用いることができる。
中間母材130と貴金属チップ150とをレーザー溶接によって接合する際には、中間母材130の内側に貴金属チップ150を挿入した状態で、中間母材130の外周面から貴金属チップ150の軸CAcに向けてレーザーを照射する。これによって、第1溶融部120は、中間母材130の外周面から貴金属チップ150の軸CAcに向かって凸状に形成される。一方、電極母材110と中間母材130とをレーザー溶接によって接合する際には、貴金属チップ150が接合された中間母材130を電極母材110の凹部に挿入した状態で、電極母材110の凹部と中間母材130の外周面との境界に、貴金属チップ150の軸CAcに沿った方向にレーザーを照射する。これによって、第2溶融部140は、貴金属チップ150の軸CAcに沿った円柱状に形成される。
以上説明した第4実施形態のスパークプラグ100Cによれば、貴金属チップを複数の分割チップによって構成することによって、電極からの貴金属チップの脱落を抑制する効果は、接地電極に限定さない。すなわち、中心電極であっても貴金属チップを複数の分割チップによって構成することによって同様の効果を得ることができる。なお、中心電極においても、接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)は、30%以上が好ましい。また、分割チップ150aや分割チップ150bは、上述の平面PLに対応する平面において、貴金属チップ150の幾何学的重心Gcを通る任意の直線LNと交差する第1溶融部120の分割チップ毎の合計数が0または1となるように構成されていることが好ましい。
E.第5実施形態:
E−1.スパークプラグの構成:
図27は、第5実施形態におけるスパークプラグの概略構成を説明するための説明図である。図27(a)(b)は、第4実施形態の図26(a)(b)に対応している。第5実施形態のスパークプラグ100Dは、第4実施形態のスパークプラグ100Cと比較すると、中間母材430を備えていない点が異なる。それ以外の構成については、第4実施形態のスパークプラグ100Cと同様である。第5実施形態のスパークプラグ100Dは、中間母材130を介さずに貴金属チップ150が電極母材110に直接的に取り付けられている。
第5実施形態の溶融部160は、電極母材110と貴金属チップ150とを溶融溶接によって接合した際に形成された溶接部分であり、電極母材110と貴金属チップ150とが溶融している。溶融部160aは、分割チップ150aと電極母材110との間に形成され、溶融部160bは、分割チップ150bと電極母材110との間に形成されている。溶融部160を形成する溶融溶接は、レーザー溶接、アーク溶接、および、ガス溶接などを用いることができる。
電極母材110と貴金属チップ150とをレーザー溶接によって接合する際には、貴金属チップ150を電極母材110の凹部に挿入した状態で、電極母材110の側面と貴金属チップ150の外周面との境界に向けてレーザーを照射する。これによって、電極母材110と貴金属チップ150とのレーザー溶接による溶融部160は、電極母材110と貴金属チップ150との境界から貴金属チップ150の軸CAc側に向けて傾斜した凸状に形成される。以上説明した第5実施形態のスパークプラグ100Dによれば、複数の分割チップによって構成される貴金属チップは、中心母材がなくても中心電極に取り付けることができる。
F.他の実施形態:
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。例えば、前述の各実施形態や変形例における貴金属チップの接合構造を、適宜組み合わせて適用してもよい。
接地電極40の電極母材410の断面形状は、四角状に限るものではなく、円形状、楕円形状、三角形状、n角形状(n≧5)など種々の形状で実施することができる。また、電極母材410は、単一材料によって構成されていてもよいし、外層部と芯部からなる多層構造を備えていてもよい。
また、中間母材130、430は、円筒状、三角筒状、四角筒状、U字状に限るものではなく、楕円筒状、n角筒状(n≧5)など種々の形状で実施することができる。
また、貴金属チップにおける溶融部の接合長さ割合(ΣLvl/Lcp)は、30%以上が好ましいが、30%より小さい構成であっても、十分に電極からの貴金属チップの脱落を抑制することができる。
また、貴金属チップ450に形成される複数の第1溶融部420の軸CAc方向の高さは揃っていることが好ましいが、それぞれ異なっていてもよい。この場合、平面PLは、軸CAc方向の高さの異なる最深点Pdp毎に複数設定することができるが、特定の平面PLを設定したときに、この平面PLと交差せずに、第1溶融領域420CAが形成されない第1溶融部420が存在してもよい。
また、図4(b)に示すように、平面PLにおいて、各分割チップ450a、450bは、貴金属チップ450の幾何学的重心Gcを通る任意の直線LNと交差する溶融部の分割チップ毎の合計数が0または1となるように構成されていることが好ましい。しかしながら、直線LNと交差する溶融部の分割チップ毎の合計が2以上となる構成であっても、十分に電極からの貴金属チップの脱落を抑制することができる。