JP5893269B2 - アルツハイマー病に関する方法及び組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、アルツハイマー病に関する方法及び組成物に関する。とくに本発明は、健常状態における発現と比較して、アルツハイマー病状態で差異的に発現するタンパク質を同定し、且つそれを記載し、とくに、アルツハイマー病に関連するタンパク質を同定し、且つそれを記載する。さらに、本発明は、差異的に発現するタンパク質を用いたアルツハイマー病の診断方法を提供する。さらにまた、本発明は、アルツハイマー病の予防及び治療のための化合物の同定方法、及びそれらの治療上の使用方法を提供する。
認知症は、高齢者の主要な公衆衛生問題の一つであり、また人口の高齢化が進む中、認知症患者数の増大により、世界中の保険制度は多大な経済的負担を課せられつつある。半数を超える認知症患者がアルツハイマー病(AD)に罹患している。ADの罹患率及び発生率は急激な増加を示している。ヨーロッパにおけるADの罹患率は、60-69歳の0.3%、70-79歳の3.2%、80-89歳の10.8%である(Rocca, Hofman et al., 1991)。AD発症後の生存期間はおよそ5-12年である(Friedland, 1993)。
アルツハイマー病(AD)は、高齢者における最も一般的な認知症の原因であり、現在までのところ治療法のない、人間を衰弱させていく神経変性疾患である。それは、脳の部分の、主に記銘に関わる領域である海馬の神経細胞を破壊する。アルツハイマー病は、認知機能及び機能的自律性の不可逆的な進行性の喪失をもたらす。ADの最も初期の兆候は単なる物忘れと間違われてしまうかもしれないが、それらの中には最終的にADと診断されるものもあり、これらの初期の兆候は容赦なく精神退廃というより重篤な症状へと進行していく。ADが進行するのに要する時間には個人差があるが、進行した兆候は、重篤な記憶障害、混乱、言語障害、人格及び行動の変化、並びに判断力の低下を含む。ADに罹患した人は、非社会的及び凶暴的になることがある。疾患が重篤な認知症へ進行するにつれ、患者は自分自身の世話ができなくなり、しばしば施設に入所することや在宅での専門的なケアを必要とする。ADと診断された後に長い年月生きる患者もいるが、診断後の平均的寿命は8年である。
以前、ADは脳の生検または患者の死後解剖により限定的にのみ診断することができた。これらの方法は、AD脳の特徴的な老人斑や神経原線維変化という病変の存在を証明し、依然としてADの病理学的診断の判断基準とされている。しかしながら、臨床現場で脳の生検が実施されることはほとんどなく、診断は脳脊髄液中並びに血中のアポE及びタウタンパク質またはアミロイドβペプチドといった生化学的マーカーの測定を含む、一連の神経学的、心理測定的及び生化学的テストに依存している。
バイオマーカーは、もしかすると、AD及び他の認知症の診断にとって、次の段階へ進む鍵となるかもしれない。ADに対する診断テストの必要条件を満たす生物学的マーカーにはいくつかの利点があるであろう。理想的な生物学的マーカーとは、脳画像及び神経病理学的テストにおいて神経の変性が観察される前に、疾患のごく初期の段階でADの症例を同定できるものであろう。バイオマーカーは、できる限り早く治療を開始するための最初のインジケーターとなりうるであろうし、また、新しい治療、とくに神経病理学的変化の進行を予防することに焦点を当てている治療の有効性をスクリーニングするのにも非常に有用である。また、生物学的マーカーは疾患の進行を追跡するのにも有用であろう。
ADの病理学的特徴に関連したマーカー;老人斑及び神経原線維変化(Aβとタウ)は最も広範囲に研究されている。ADにおける、Aβ1-40、Aβ1-42、及びタウの脳脊髄液中濃度、または両タンパク質の結合についての研究は最も見込みのあるものである。総Aβタンパク質またはAβ1-40の濃度は変わらないが、脳脊髄液中のAβ1-42は減少しているという報告が多くある(Ida, Hartmann et al., 1996; Kanai, Matsubara et al., 1998; Andreasen, Hesse et al., 1999)。
米国特許第4,376,110号 米国特許第4,946,778号 米国特許第5,093,246号
広い意味で本発明は、アルツハイマー病の診断のための方法及び組成物に関する。とくに本発明は、健常状態の発現と比較して、アルツハイマー病状態において差異的に発現するタンパク質を同定し、且つそれを記載する。
第一の特徴点として本発明は、被験者におけるアルツハイマー病の診断方法を提供する。この方法は、前記被験者からの組織サンプルまたは体液サンプルにおいて、ここに記載する方法により同定された1つ以上の差異的に発現するタンパク質を検出することを含む。
すべての特徴点として本発明の方法は、進行したアルツハイマー病だけでなく軽度認知障害(MCI)等のアルツハイマー病前段階に関しても使用して良い。
もう一つの特徴点として本発明は、ヒトまたは動物被験者における、アルツハイマー病の性質または程度の測定方法を提供する。この方法は、前記被験者からの組織サンプルまたは体液サンプルにおいて、ここに記載する方法により同定された1つ以上の差異的に発現するタンパク質を検出することを含む。従って、本発明の方法は、アルツハイマー病の進行またはMCIからアルツハイマー病への疾患の進行をモニターする方法を含む。また、例えば、MCIからアルツハイマー病への進行について、またはアルツハイマー病の継続期間若しくは重篤度について予測する方法も含む。
好ましい実施態様では、この方法は以下の工程:
(a)異なるレベルのアルツハイマー病症状を示す被験者由来のまたはそのような被験者を表す関連組織若しくは体液サンプルにおいて、少なくとも1つのタンパク質が差異的に発現するというパラダイムを確立する工程;
(b)前記被験者から組織サンプルまたは体液サンプルを入手する工程;
(c)前記サンプル中の、差異的に発現するタンパク質の存在、非存在若しくは発現の程度を測定する工程;並びに
(d)そのような測定と臨床情報の間の事前の相関関係を参考にして、アルツハイマー病の性質または程度と前記測定とを関連づける工程;
を含む。
ある実施態様では、本発明の方法を用いることにより前記疾患の進行を追跡し、疾患の重篤度(例えば、全体的な認知症重篤度)を判定しても良い。別の実施態様では、本発明の方法を用いることにより、診断時点までの疾患の継続期間を判定できる。例えば、免疫グロブリンλ鎖C領域(Ig lamda chain C region)の発現は(図6のスポット177参照)、全体的な認知症重篤度と相関している可能性がある。血清アルブミン前駆体(serum albumin precursor)の発現は(図6のスポット165参照)、疾患の継続期間と負の相関にある可能性がある。
この方法により、当該技術分野で入手可能な予防的または治療的処置に対して、患者のアルツハイマー病タイプを種々のタイプと関連させ、それにより治療に対する患者の応答を促すことができる。
いくつかの実施態様では、1つ以上のタンパク質が差異的に発現し、アルツハイマー病の性質または程度の複合タンパク質フィンガープリントを提供する。好ましくは、少なくとも4つのタンパク質が差異的に発現する。
好ましいことに、本発明の方法に用いられる患者サンプルは、組織サンプルまたは血液、血漿、血清若しくは尿サンプル等の体液サンプルである。被験者からより容易に採取できるので、列挙されたような体液を使用することが好ましい。これは、コスト、簡易性、迅速性及び被験者の健康という点において、明らかに利点がある。血液、血漿等の血液産物、及び尿はとくに好ましい。
差異的に発現するタンパク質を検出する工程の前に、下に記載するような、サンプルから最も多く存在するタンパク質を除くための除去工程が先行しても良い。
好ましいことに、少なくとも1つの差異的に発現するタンパク質は、図6、図7または図12に示されるタンパク質である。好ましい実施態様では、差異的に発現するタンパク質は、アポリポプロテインA-IV前駆体(apolipoprotein A-IV precursor)、アポリポプロテインC-III前駆体(apolipoprotein C-III precursor)、トランスシレチン(transthyretin)、ガレクチン7(galectin 7)、補体タンパクC4前駆体(complement C4 precursor)、α-2-マクログロブリン前駆体(alpha-2-macroglobulin precursor)、免疫グロブリンα-1鎖C(Ig alpha-1 chain C)、ヒストン2B(histone 2B)、免疫グロブリンλ鎖C領域(Ig lamda chain C region)、フィブリノーゲンγ鎖前駆体(fibrinogen gamma chain precursor)、補因子H(complement factor H)、インターアルファトリプシン重鎖H4前駆体(inter-alpha-trypsin heavy chain H4 precursor)、補体タンパクC3前駆体(complement C3 precursor)、クラステリン前駆体(clusterin precursor)、γ若しくはβアクチン(gamma若しくはbeta actin)、ハプトグロビン前駆体(haptoglobin precursor)、または図6のスポットID番号2、14、15、123、165、176、184に見られる血清アルブミン前駆体アイソフォーム(serum albumin precursor isoform)、またはその断片である。好ましい断片は、アポA-IVのC末断片、またはアナフィラトキシン・ドメインを欠失した補体タンパクC4前駆体のC4α領域である。その断片は、例えば、アポリポプロテインA-IVのアミノ酸270-309残基、または補体タンパクC4のアミノ酸1446-1744残基を含む、あるいはSDS-PAGEで10-16kDaのポリペプチドまたは28kDaのポリペプチドとして移動するアポリポプロテインA-IVのN末断片であり、あるいは図7に示した分子量6430、14640、27147、または14646 Daのタンパク質のいずれかの断片である。別の好ましい断片は、図9、図10及び図13−19に太字で示した領域を含む。
好ましい断片は、アミノ酸の長さが50残基未満、100残基未満、150残基未満、200残基未満、250残基未満、300残基未満、350残基未満、400残基未満、500残基未満、600残基未満、700残基未満、800残基未満、900残基未満、1000残基未満、1100残基未満、1200残基未満、1300残基未満、1400残基未満、1500残基未満、1600残基未満、1700残基未満、1800残基未満、1900残基未満または2000残基未満である。
ある差異的に発現するタンパク質の発現は、対照被験者と比較してアルツハイマー病被験者において発現が増加しているかもしれない。別の差異的に発現するタンパク質は、対照被験者と比較してアルツハイマー病被験者において発現が減少しているかもしれない。図6、図8及び図12に、ここで開示された前記タンパク質の発現が、対照被験者に対してアルツハイマー病被験者において増加しているか減少しているかを示す。これらの図から、ここに列挙されたすべてのタンパク質に対して、発現の増加または減少が病状を示していることは従って明らかである。上に列挙した好ましいタンパク質を含む。
好ましいことに、差異的に発現するタンパク質は、対照被験者に対してアルツハイマー病患者に見られるレベルの間で、少なくとも1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2.0倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、5倍、10倍以上の発現の違いを示す。
前記差異的に発現するタンパク質は、例えば、ELISAアッセイまたはウエスタンブロッティングでそのタンパク質に対する特異的抗体を用いることにより検出できる。あるいはまた、二次元ゲル電気泳動、またはLS/MS/MS、MALDI-TOF若しくはSELDI-TOFを含むマススペクトロメトリー法により他の中から検出できる。前記サンプルは、分析のために固相支持体に固定化される。
ある実施態様では、被験者サンプルから調製された二次元ゲルのスポットパターンに基づいてのみ、診断がなされても良い。アルツハイマー病またはMCI被験者から得られたスポットパターンを、個々のタンパク質を同定する必要なく、対照被験者から得られたパターンと直接比較しても良い。
ある実施態様では、1つ以上のバイオマーカーに対して特異的な抗体を加え、固定化した抗体がそのバイオマーカータンパク質を捕獲する、という抗体サンドイッチ法を用いる。前記捕獲されたタンパク質を、その後、シグナルを発する物質(酵素、蛍光タグ、放射ラベル等)を直接標識した二次抗体、またはさらに増幅させる方法(標識された二次抗体、酵素を用いたストレプトアビジン/ビオチン・システム、フルオロフォア、放射ラベル等)を用いることにより検出する。他の免疫学的手法としては、患者サンプルを一次元または二次元ゲル電気泳動後、ウエスタンブロッティングのような手法により固体表面に転写、その後、ADのバイオマーカーに対する特異的抗体を用いて検出する方法を含む。
代替的な実施態様では、患者からのサンプルまたはADを表す関連組織を用いて前記ウエスタンブロッティング法を行い、その後、AD患者の血中には存在するが対照には存在しないバイオマーカーに対する特異的抗体の存在を検出することにより、バイオマーカーに対する自己抗体を検出する。
前記方法は、アルツハイマー病に対する有効な治療を決定することをさらに含む。
さらなる特徴点として本発明は、アルツハイマー病の発症または進行を防ぐために、アルツハイマー病状態において差異的に発現する1つ以上のタンパク質の発現を、健常状態に見られるものへ回復させるであろう薬剤を用いる治療法を提供する。好ましくは、前記タンパク質の発現は健常状態まで回復する。
さらなる特徴点として本発明は、アルツハイマー病を緩和するための最も適切且つ有効な治療を予測するために、アルツハイマー病に罹患した個体からの組織サンプルまたは体液サンプルまたは尿中に差異的に発現するタンパク質のパターンを用いる方法を提供する。
また本発明は、アルツハイマー病治療における有効性を判定するための薬剤のスクリーニング法を提供し、この方法は以下の工程:
(a)スクリーニングされる薬剤で治療を受けたアルツハイマー病症状を示す被験者由来またはそのような被験者を表す関連組織サンプルを入手する工程;
(b)治療を受けた被験者由来またはそのような被験者を表す組織中の、差異的に発現するタンパク質の存在、非存在若しくは発現の程度を測定する工程;並びに
(c)治療を受けたアルツハイマー病症状を示す被験者において、差異的に発現するタンパク質の発現、活性若しくは量を変化させる程度に従って、薬剤を選択または拒絶する工程;
を含む。
選択的に、前記方法はさらに、前記工程(a)の前に、アルツハイマー病症状を示す被験者及び健常被験者由来またはそのような被験者を表す関連組織において、少なくとも1つのタンパク質が差異的に発現するというパラダイムを確立する工程を含む。
好ましくは、差異的に発現するタンパク質の発現を、健常被験者のものに移行させる場合、その薬剤を選択する。さらに好ましくは、その発現を健常被験者のものまで移行させることができた場合、その薬剤を選択する。
また本発明は、アルツハイマー病治療における有効性を判定するための薬剤のスクリーニング法を提供し、この方法は以下の工程:
(a)スクリーニングされる薬剤で治療を受けたアルツハイマー病症状を示す被験者由来、またはそのような被験者を表す関連組織若しくは体液サンプルを経時的に入手する工程;
(b)前記サンプル中の、差異的に発現するタンパク質の存在、非存在若しくは発現の程度を測定する工程;並びに
(c)治療を受けたアルツハイマー病症状を示す被験者において、差異的に発現するタンパク質の発現に経時的に変化をもたらす薬剤かどうかを測定する工程;
を含む。
選択的に、前記方法はさらに、前記工程(a)の前に、アルツハイマー病症状を示す被験者及び健常被験者由来またはそのような被験者を表す関連組織若しくは体液において、少なくとも1つのタンパク質が差異的に発現するというパラダイムを確立する工程;及び/またはアルツハイマー病症状を示す被験者及び健常被験者において、前記差異的に発現するタンパク質の発現が経時的に相違するというパラダイムを確立する工程を含む。
経時的なサンプルは、隔週、隔月、隔年で採取する。例えば、毎月、2ヶ月おき、3ヶ月おき、4ヶ月おき、6ヶ月おき、8ヶ月おき、または12ヶ月おきにサンプルを採取する。
経時的なタンパク質の発現の変化は、その被験者からのサンプル中の初期の発現レベルと比較して、及び/または健常被験者からのサンプル中の発現レベルと比較して、増加または減少しているかもしれない。その発現の変化を経時的に減速または停止させる場合、その薬剤を選択する。
前記スクリーニング法では、異なるレベルのタンパク質発現を示す以下の被験者:
(a)健常被験者とアルツハイマー病症状を示す被験者;並びに
(b)前記薬剤で治療を受けていないアルツハイマー病症状を示す被験者と薬剤治療を受けたアルツハイマー病症状を示す被験者;
を含む。
代替的な実施態様では、タンパク質の発現レベルが異なる以下の被験者:
(a)前記薬剤で治療を受けた及び受けていない健常被験者;並びに以下の一方または両方
(b)前記薬剤で治療を受けた及び受けていない軽度認知障害被験者;並びに
(c)前記薬剤で治療を受けた及びを受けていないアルツハイマー病症状を示す被験者;
を含む。
好ましくは、前記薬剤で治療を受けた及び受けていない健常被験者において、異なるレベルのタンパク質発現は見られない。
アルツハイマー病症状を示す被験者は、好ましくはアルツハイマー病に罹患したヒト患者である。
あるいはまた、アルツハイマー病症状を示す被験者は、突然変異型アミロイド前駆体タンパク質(APP)トランスジェニックマウス、プレセニリン1(PS-1)トランスジェニックマウス、及び/またはAPP/PS-1ダブルトランスジェニックマウス等のモデル動物かもしれない。
組織または体液サンプルは、例えば、脳組織、血液、血漿、血清、唾液または脳脊髄液サンプルである。
ある実施態様では、前記関連組織またはそのタンパク質含有抽出物について実施する二次元ゲル電気泳動を用いることによりパラダイムを確立する。
別の実施態様では、前記関連組織またはそのタンパク質含有抽出物についてのSELDI分析を用いることによりパラダイムを確立する。好ましくは、前記組織または抽出物は固相支持体、例えばチップに固定化される。
好ましいことに、サンプルから最も多く存在するタンパク質を除き、バックグラウンドを下げるために、二次元ゲル電気泳動またはSELDI分析の前に、除去工程が先行しても良い。
この方法は、前記方法により同定された差異的に発現するタンパク質を単離する工程、及び選択的に、その単離されたタンパク質を特徴づけする工程をさらに含む。
好ましくは、少なくとも1つの差異的に発現するタンパク質は、図6、図7、図8若しくは図12に示されたタンパク質、またはそのげっ歯類同等物である。好ましい実施態様では、差異的に発現するタンパク質は、アポリポプロテインA-IV前駆体、アポリポプロテインC-III前駆体、トランスシレチン、ガレクチン7、補体タンパクC4前駆体、補因子H、S100カルシウム結合タンパク質(S100 calcium binding protein)またはセルロプラスミン(ceruloplasmin)、インター-α-トリプシン重鎖H4前駆体、補体タンパクC3前駆体、クラステリン前駆体、γ若しくはβアクチン、ハプトグロビン前駆体、またはその断片である。好ましい断片は、アポA-IVのC末断片、またはアナフィラトキシン・ドメインを欠失した補体タンパクC4前駆体のC4α領域である。例えば、その断片はアポリポプロテインA-IVのアミノ酸270-309残基、または補体タンパクC4のアミノ酸1446-1744残基を含む。
好ましい断片は、図9、図10及び図13−19に強調した1つ以上の配列を含むであろう。
さらなる特徴点として本発明は、前記方法を用いて薬剤を同定することを含み、その薬剤を製造し、且つ製薬組成物を供給するのに適当な担体でそれを製剤化するさらなる工程を含む、製薬組成物を作製する方法を提供する。
さらなる特徴点として本発明は、軽度認知障害被験者及び/またはアルツハイマー病被験者及び健常被験者からの組織または体液サンプルにおいて、差異的に発現するタンパク質を同定する方法を提供する。この方法は、以下の工程:
i)組織サンプル若しくは体液サンプル、またはそのタンパク質含有抽出物を、固相支持体に固定化する工程;
ii)固定化したタンパク質を表面増強レーザー脱離飛行時間質量分析法を用いて分析する工程;
iii)アルツハイマー病被験者及び健常被験者間の、タンパク質発現の差を検出するために得られたスペクトルを比較する工程;
を含む。
また、異なるレベルのアルツハイマー病症状を示す被験者由来またはそのような被験者を表す関連組織において、差異的に発現し、且つここに記載する方法または前記組織若しくはそのタンパク質含有抽出物について二次元ゲル電気泳動を実施することにより得ることができるそのようなタンパク質を提供する。この方法は、以下の工程:
(a)3mm×180mmのアクリルアミドポリマーの非直線状固定化pH勾配(IPG)ゲルを準備する工程;
(b)前記IPGゲルを、尿素(8M)、3-[(コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS、2%w/v)、0.5% IPGファルマライト、及び微量のブロモフェノールブルーの水溶液25mlを含むカセット中で再水和する工程;
(c)前記カセットから液体を除き、湿った電極芯、電極、及びサンプルカップを備えた電気泳動トレーに前記ゲルを移し、ゲルとカップを低粘度のパラフィン油で覆う工程;
(d)前記IPGゲルの陰極末端で、尿素(8M)、CHAPS(4%w/v)、Tris(40mM)、0.5% IPGファルマライト、及び微量のBromophenol Blue中の関連生体組織を乾燥粉末にした材料の水溶液200μgをサンプルカップにアプライする工程;
(e)前記ゲルについて、3時間500Vの定電圧で、その後1時間500Vから1000Vの直線的増加の勾配電圧で、その後2時間1000Vの定電圧で、その後2時間1000Vから8000Vの直線的増加の勾配電圧で、その後、タンパク質がゲル中でpI依存的な最終地点へ移動するのに十分な時間8000V定電圧で、等電点電気泳動を実施する工程;
(f)前記ゲルを、Tris-HCl(50mM)pH6.8、尿素(6M)、グリセロール(30%v/v)、SDS(2%w/v)及びDTT(10mg/ml)を含む水溶液100mlの入ったトレー内で平衡化する工程;
(g)この溶液を、Tris-HCl(50mM)pH8.8、尿素(6M)、グリセロール(30%v/v)、SDS(2%w/v)、ヨードアセタミド(25mg/ml)、及び微量のBromophenol Blueを含む水溶液100mlで置換し、20分間インキュベートする工程;
(h)リーディングバッファーとしてのTris-HCl(0.375M)pH8.8中で、TEMED(0.5%w/v)、過硫酸アンモニウム(0.1%w/v)、及びチオ硫酸ナトリウム(5mM)を添加して重合させる、アクリルアミド/ピペラジン−ジアクリリル架橋剤(9-16%T/2.6%C)の縦勾配スラブゲル160×200×1.5mmを準備する工程;
(i)前記ゲルをsec-ブタノールで約2時間浸し、その後ブタノールを除去し、水で置換する工程;
(j)前記IPGゲル断片を二次元電気泳動に適したサイズに切断し、陽極末端から6mm及び陰極末端から14mmを除去する工程;
(k)前記スラブゲルを、70℃に加熱したアガロース(0.5%w/v)及びリーディングバッファーとしてのTris-グリシン-SDS(25mM-198mM-0.1%w/v)の水溶液で浸し、この浸した溶液を介してスラブゲル上に前記IPGゲルをのせる工程;
(l)8-12℃、5時間40mAの定電流で、二次元電気泳動を実施する工程;並びに
(m)ゲルを洗浄する工程;
を含む。
本発明は部分的に、二次元電気泳動による高感度タンパク質検出に関わる体系的な探索手法に基づく。差異的に発現するタンパク質の特徴づけを助けるために、Genomic Solutions社から入手可能であるようなタンパク質の標準マーカーセットを、余分なレーンにのせて二次元電気泳動を実施しても良い。
後に挙げる例は、アルツハイマー病関連の標的タンパク質を同定するために、本発明の実験的パラダイムが効果的に使用されることを証明する。
<定義>
ここで使用される「差異的な発現」は、組織または体液タンパク質発現における、少なくとも1つの認識可能な差異を表す。それは、組織タンパク質発現における量的に測定可能な差異、半量的に見積もり可能な差異、または質的に検出可能な差異であっても良い。従って、差異的に発現するタンパク質(ここではDEPと称する)は、健常状態の組織において強く発現し、アルツハイマー病状態の組織においてあまり強く発現していない、あるいは全く発現していないものでも良い。逆に、それはアルツハイマー病状態の組織において強く発現し、健常状態においてあまり強く発現していない、または全く発現していないものでも良い。さらに、健常状態と疾患状態の間の比較で、タンパク質がいずれかの認識可能な変化を受けている場合は、その発現は差異的とみなされて良い。
用語「パラダイム」は、見本例、試験モデルまたは標準を意味する。
差異的に発現するタンパク質をスクリーニング方法に用いる場合はどこでも、前記タンパク質の差異的な発現性を事前に測定したというパラダイムを確立する予備工程を、過去のある時点で実施していなければならない。一度パラダイムを確立すると、スクリーニング方法を実施するすべての場合で再確立する必要はない。用語「パラダイムを確立する」は、それに応じて解釈されなければならない。
「関連組織」は、脳機能に関わるいずれかの組織、とくにアルツハイマー病に関わる組織を意味する。
「患者の組織/体液、…を表す…」は、前述の生物学的変化を研究目的のために模擬実験できるいずれかの組織または体液を意味し、例えば一次細胞培養、または関連組織から究極的に由来する細胞系を含む。
用語「被験者」は、ヒト及び動物の被験対象物を含む。
前記の治療は、1つ以上の薬剤または食物の投与、及び/または食餌若しくは運動等の他の因子を含むことができる。
差異的に発現するタンパク質(DEP)は、「フィンガープリントタンパク質」、「標的タンパク質」または「パスウェイタンパク質」を含む。
ここで使用される用語「フィンガープリントタンパク質」は、DEPを意味し、その発現は単独または他のDEPと組み合わせて、アルツハイマー病罹患の疑いのある患者の状態をモニターまたは評価するために用いることができる。これらのタンパク質は、通常組み合わせて、とくに4つ以上の組み合わせで用いられるため、便宜上「フィンガープリントタンパク質」と称される。ただし場合により、この目的のために、単独で、または他の1つのみとともに若しくは他の2つのタンパク質とともに用いられる可能性に対しては偏見をもたない。そのようなフィンガープリントタンパク質は、例えばアルツハイマー病の特定のタイプを診断するために用いることができ、従って、そのタイプに対する特異的な治療を提案するために用いることができる。
ここで使用される用語「診断」は、患者における前記疾患の存在、非存在または可能性に関するいずれかの情報の提供を含む。それはさらに、それと関係するまたは経験的に関係する疾患若しくは症状のタイプまたは分類に関する情報の提供を含む。これは、例えば、前記疾患の重篤度を診断することを含むかもしれない。それは、前記疾患の医学的過程について、例えばその継続期間や重篤度、MCIからアルツハイマー病への進行過程について診断することを含む。
現在、発症から今現在までの継続期間(継続期間が長いほどより重篤な疾患に相当する)と臨床診断とにより、病状を診断する。これらの診断測定は、記憶及び他の認知に対する臨床テスト、機能(日常生活を送る能力)に対する臨床テスト、及び全体的な認知症重篤度の臨床診断を含む。ADに対して有望な治療の試行は、現在、これらの測定により評価されている。米国食品医薬品局(FDA)と他の医療承認機関は、認知機能及び全機能の両方についてのこれらの診断測定を重要な部分として要求している。世界的な認知症評価尺度(Global Dementia Scale)は、全機能についてのそのような測定の一つである。それは、標準化された一連の重篤度基準の代わりに、認知及び機能を含む重篤度について評価者により診断される。
ここで使用される用語「標的タンパク質」はDEPを意味し、そのレベルまたは活性はアルツハイマー病を緩和するための治療により調節できる。患者における標的タンパク質のレベルまたは活性は、例えば標的タンパク質、それと相互作用する別のタンパク質または遺伝子を投与することにより、あるいはそれと相互作用するまたは低下させる薬剤、例えば前記タンパク質に対する抗体、前記タンパク質の競合的阻害剤、または相当する遺伝子の転写若しくは翻訳のプロセスに作用する薬剤を投与することにより調節を果たすことができる。
ここで使用されるアルツハイマー病に関連した用語「緩和」は、1つ以上の非所望の症状またはその影響を低減するいずれかの形態を意味する。患者のアルツハイマー病症状のいずれかの改善は、用語「緩和」の範囲内にある。改善はまた、疾患の進行を減速させることも含む。
あるいは、またはさらに、前記DEPは、脳機能の調節に関与する少なくとも1つの他のタンパク質または遺伝子と相互作用しうる。そのような他のタンパク質は、ここでは「パスウェイタンパク質」(PP)と称する。パスウェイタンパク質は別のDEPでありうるが、この用語PPは、DEPと相互作用するタンパク質に適用され、DEP自体には適用されない。
例として、本発明の実施態様は、添付する図面を参考にしてより詳細に記載されるであろう。
図1は、健常被験者(上)及びアルツハイマー病被験者(下)について、SELDI分析により同定された6430Daのスペクトルを示す。 図2は、健常被験者(上)及びアルツハイマー病被験者(下)について、SELDI分析により同定された14640Daのスペクトルを示す。 図3は、健常被験者(上)及びアルツハイマー病被験者(下)について、SELDI分析により同定された27147Daのスペクトルを示す。 図4は、プールされた健常被験者(上)及びアルツハイマー病被験者(下)について、SELDI分析により同定された14646Daのスペクトルを示す。 図5は、SELDI分析に用いられたチップから抽出した物質から得られた銀染色のゲルを示す。切り出して、LC/MS/MSで分析したバンド1-6を矢頭で示す。 図6は、二次元ゲル分析及びマススペクトロメトリー法により同定された差異的に発現するタンパク質を示す。 図7は、SELDI及びLC/MS/MSにより同定された差異的に発現するタンパク質を示す。 図8は、qPSTにより同定された差異的に発現するタンパク質を示す。 図9は、Q10 SAX2 SELDIチップで単離した14.6kDaのバンドについて、アポリポプロテインA-IV(P06727)に対して得られたシークエンス範囲(太字で示す)を示す。 図10は、二次元電気泳動のスポット164について、補体タンパクC4前駆体(P01028)に対して得られたシークエンス範囲(太字で示す)を示す。 図11は、プレ除去分析から得られた二次元ゲルを示す。差異的に発現するスポットは円で囲んで示す。 図12は、プレ除去分析で同定された差異的に発現するスポットを一覧にして示す。第3欄はヒトタンパク質の登録番号を、第4欄は対照サンプルにおける標準化したスポットの平均値を、第6欄は疾患サンプルにおける標準化したスポットの平均値を、第8欄は疾患サンプルにおける標準化したスポットの平均値を対照サンプルで割った値を、第9欄はスチューデントのt検定により比較したスポット値の有意差(p値)を、第10欄はスポットが検出された対照群のゲル数を示す。CVは変動係数である。 図13は、プレ除去分析でα-2-マクログロブリン(P01023)に対して得られたシークエンス範囲(太字で示す)を示す。シグナルシークエンスは下線を引いて示す。 図14は、プレ除去分析でインター-α-トリプシンインヒビター重鎖H4前駆体(Q14624)に対して得られたシークエンス範囲(太字で示す)を示す。シグナルシークエンスは下線を引いて示す。 図15は、プレ除去分析で補体タンパクC3前駆体(P01024)に対して得られたシークエンス範囲(太字で示す)を示す。シグナルシークエンスは下線を引いて示す。 図16は、プレ除去分析でクラステリン前駆体(P10909)に対して得られたシークエンス範囲(太字で示す)を示す。シグナルシークエンスは下線を引いて示す。 図17は、プレ除去分析で補体タンパクC4前駆体(P01028)に対して得られたシークエンス範囲(スポット832は太字で、スポット652は太字の斜体で示す)を示す。シグナルシークエンスは下線を引いて示す。 図18は、プレ除去分析でγアクチン(P63261)に対して得られたシークエンス範囲(太字で示す)を示す。シグナルシークエンスは下線を引いて示す。 図19は、プレ除去分析でハプトグロビン前駆体(P00738)に対して得られたシークエンス範囲(太字で示す)を示す。シグナルシークエンスは下線を引いて示す。
アルツハイマー病の治療のための方法及び組成物。「標的タンパク質」及び/またはフィンガープリントタンパク質と称されるタンパク質は、健常状態における発現と比較してアルツハイマー病の疾患状態において差異的に発現すると記載する。また、そのようなフィンガープリント及び標的タンパク質を同定する方法も記載する。
ここで使用される「差異的な発現」は、健常及び疾患被験者からのサンプルにおいて、タンパク質が異なるレベルで存在することを示す。
また、アルツハイマー病状態についての予後及び診断上の評価方法、並びにアルツハイマー病の素因を示す被験者の同定方法を下に記載する。
1.差異的に発現するタンパク質及びパスウェイタンパク質の同定
ある実施態様では、本発明は、アルツハイマー病に関連するタンパク質の同定方法に関する。そのようなタンパク質は、健常状態における発現と比較してアルツハイマー病状態において差異的に発現するタンパク質を表す。そのような差異的に発現するタンパク質は、「標的」または「フィンガープリント」タンパク質を表す。
そのようなタンパク質の同定方法をセクション1に記載する。そのような差異的に発現するタンパク質についてさらに特徴づけする方法、並びに標的及び/またはフィンガープリントタンパク質として同定する方法を後記セクション1.1に表す。
ここで使用される「差異的な発現」は、タンパク質発現において、質的及び量的な相違の両方について表す。従って、差異的に発現するタンパク質は、健常状態に対してアルツハイマー病状態において、その発現が質的に活性化または完全に不活性化しているかもしれない。そのような質的に制御されたタンパク質は、指定の組織、細胞タイプ、または体液サンプル中で、対照またはアルツハイマー病被験者のどちらか一方では検出可能であるが、両方の被験者では検出できない発現パターンを示すであろう。あるいはまた、そのような質的に制御されたタンパク質は、指定の組織、細胞タイプ、または体液サンプル中で、対照被験者またはアルツハイマー病被験者のどちらか一方では検出可能であるが、両方の被験者では検出できない発現パターンを示すであろう。ここで使用される「検出可能」は、ここに記載する技術を用いることにより検出可能なタンパク質の発現パターンを表す。
あるいはまた、差異的に発現するタンパク質は発現が調節されている、すなわち、健常状態に対してアルツハイマー病状態において、量的に増加または減少しているかもしれない。健常状態に対してアルツハイマー病状態における発現の差の程度は、二次元電気泳動のゲルについての銀染色等の標準的な特徴づけの技術により、十分に可視化できる量である必要がある。発現の差を可視化する他の特徴づけの技術が、当該技術分野でよく知られている。これらは、画分の連続的なクロマトグラフィー分離及びそのピークの比較、キャピラリー電気泳動、マイクロチップについてのSELDI分析とqPST分析を含んだマイクロチャネルネットワークを用いた分離を含む。
クロマトグラフィー分離は、ファルマシア社の文献に記載されているような高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により実施でき、そのクロマトグラムは、分離時間に対して280nmの吸収光をプロットした形で得ることができる。不完全な分離のピークを示す材料は、その後再度クロマトグラフィー分離等を実施する。
キャピラリー電気泳動(CE)は、多くの文献、例えば、P/ACE 5000システムについてベックマン社から提供されている文献「Total CE Solutions」に記載されている技術である。この技術は、微小キャピラリー管に入ったサンプルに電位をかけることに依存する。この管は、負に荷電したシリケートガラス等の荷電した表面になっている。反対に荷電したイオン(この例では、正イオン)は、その表面に引き寄せられ、その後、前記表面と同じ極性を有する適切な電極(この例では、陰極)へ移動する。サンプルのこの電気浸透の流れ(EOF)の中で、正イオンが最速で移動し、その後に荷電していない物質と負イオンが続く。従って、タンパク質は基本的にそれ自身の電荷に従って分離される。
マイクロチャネルネットワークは、ある程度キャピラリーのように機能し、重合物質の光衝撃波により形成することができる。この技術では、適切な紫外線吸収性を有する重合体、例えばポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート上で、爆発的に発火する高エネルギー光パルスを生み出すために、紫外線レーザーが用いられる。その副次的な光量子が、限定された空間を有する化学結合を切断し、内部圧力の上昇、
規模爆発及び消散物質の放出を引き起こし、マイクロチャネルを形成する空間を後に残す。マイクロチャネルの物質は、キャピラリー電気泳動と同様にEOFに基づいて分離する。それは、各チップがそれぞれのサンプル注入器、分離カラム及び電気化学的検出器を備えたマイクロチップの形成に適用できる(J. S. Rossier et al., 1999, Electrophoresis 20: 727-731参照)。
プロテインチップ技術と組み合わせた表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析法(SELDI-TOF-MS)は、迅速且つ高感度にタンパク質をプロファイリングする方法も提供でき、二次元ゲル電気泳動に代わる方法として相補的な様式で用いられる。プロテインチップシステムは、タンパク質サンプルがチップ表面の化学的性質(例えば、陰イオン性、陽イオン性、疎水性、親水性等)に選択的に結合できるアルミニウムチップからなる。結合したタンパク質はその後、モル過剰のエネルギー吸収小分子とともに共結晶化される。その後、TOF-MSによるタンパク質分離及び検出を備えた、N2 320nmの極短パルス紫外線レーザーにより、チップを分析する。実験内の各グループについてのスペクトル分析表を比較し、関心のあるいずれかのピークについて、タンパク質を同定するために確立された前述の技術を用いることにより、さらに分析することができる。
定量的タンパク質配列タグ(qPST)技術は、差異的に発現するタンパク質を検出するために用いても良い。簡潔には、比較のためにサンプル中のタンパク質を、安定的同位体のタグで標識する。各サンプルに対し異なる同位体を用いる。タンパク質は酵素により切断され、各サンプル中の標識されたペプチドは、マススペクトロメトリー法により定量される。この方法では、それぞれの同位体のピークの大きさを直接比較することにより、異なるサンプル中で同じ質量を有するタンパク質の発現を比較することができる。
差異的に発現するタンパク質を検出する前に、サンプルの中から最も多く存在するタンパク質を除くための除去工程が先行しても良い。血清/血漿のタンパク質組成物の大多数は、ほんのいくつかのタンパク質からなる。例えば、アルブミンは、35-50mg/mlの濃度で存在し、16%を占める免疫グロブリンを含む総タンパク質内容のうち、およそ54%を示す。対照的に、疾患に反応して変化するタンパク質は、例えば組織漏出の結果として、10ng/mlで循環するかもしれない。このようにタンパク質濃度が広範囲に動くことは、分析上の主要な課題であり、この課題を克服するために、最も多く存在するタンパク質(例えば、5、6、7、8、9または10の最も多く存在するタンパク質)を除くのに複数のアフィニティー除去カラムを用いることができる。これは、開始材料が多く用いられるほど、多く存在する分子による干渉がより少ないので、より小さな範囲における変化を検出可能にする。いずれかの検出法の前に、そのような除去手法を適用できる。
差異的に発現するタンパク質はさらに、標的タンパク質及び/またはフィンガープリントタンパク質として記載されても良い。ここで使用される「フィンガープリントタンパク質」は、その発現パターンが予防上または診断上のアルツハイマー病の評価の一部として利用され、あるいはまた、その発現パターンがアルツハイマー病の治療に対して有効な化合物を同定する方法に用いられる、差異的に発現するタンパク質を表す。フィンガープリントタンパク質は、標的タンパク質またはパスウェイタンパク質の特性も備えても良い。
ここで使用される「標的タンパク質」は、タンパク質の発現レベルまたは活性の調節がアルツハイマー病の進行を防ぐことに作用するような、アルツハイマー病に関わる差異的に発現するタンパク質を表す。標的タンパク質は、フィンガープリントタンパク質またはパスウェイタンパク質の特性も備える。
1.1差異的に発現するタンパク質の特徴づけ
前記の方法により同定された差異的に発現するタンパク質は、例えば、ここに記載するそのような方法によりさらに特徴づけられる。そのようなタンパク質を、ここでは「同定されたタンパク質」と表すであろう。
ここに記載するそのような分析は、同定されたタンパク質の生物学的機能に関する情報を提供する。さらに、差異的に発現するタンパク質の生物学的機能についての評価により、標的及び/またはフィンガープリントタンパク質として称することが許されるであろう。
具体的に、さらなる特徴づけにより、発現したタンパク質の調節またはそのタンパク質活性の調節がアルツハイマー病を緩和するかもしれないことを示す差異的に発現するいずれかのタンパク質は、前記セクション1に定義するように「標的タンパク質」と称されるであろう。
その発現パターンが、アルツハイマー病に相関した「フィンガープリント」タンパク質のプロファイルに寄与する差異的に発現するいずれかのタンパク質は、「フィンガープリントタンパク質」と称されるであろう。「フィンガープリントプロファイル」は下でさらに十分に議論されるであろう。各標的タンパク質が、フィンガープリントタンパク質としても機能するということに注意すべきである。
様々な技術が、同定されたタンパク質のさらなる特徴づけに利用できる。第一に、同定されたタンパク質に相当するヌクレオチド配列は、当該技術分野でよく知られた標準的な技術を利用することにより入手でき、例えば、同定されたタンパク質の生物学的機能に関する情報を提供するかもしれない1つ以上の既知の配列モチーフとの相同性を明らかにするために用いてもよい。
第二に、同定されたタンパク質の生物学的機能を、適切なin vivo及びin vitroシステムを利用することにより、より直接的に評価しても良い。In vivoシステムは、アルツハイマー病様症状及び/または病理を生まれつき示す動物システム、あるいはそのような症状及び/または病理を示すように設計された動物システムを含むが、これに制限されない。さらに、そのようなシステムは、アルツハイマー病のさらなる特徴づけのためのシステムを含み、また生まれつき発症するシステム及びトランスジェニック動物システムを含むが、これに制限されない。
In vitroシステムは、そのような動物またはアルツハイマー病被験者由来の細胞系を含む。動物モデルは、アルツハイマー病に関わる1つ以上の細胞タイプを含み、この疾患の培養細胞モデルとして用いることができる細胞系を作製するために用いられる。本発明のトランスジェニック動物に由来する初期培養は利用できるが、継続的な細胞系の構築が好ましい。継続的な細胞系がトランスジェニック動物に由来するのに用いられる技術の例として、Small et al., 1985, Mol. Cell Biol. 5: 642-648を参照。
好ましいアルツハイマー病トランスジェニック動物モデルは、グリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK)を過剰発現しているマウス(Lucas et al., 2001, EMBO J. 20: 27-39参照)、APPまたはPS1の変異型対立遺伝子を過剰発現しているマウス、及びAPPとPS1の両変異型対立遺伝子を過剰発現しているダブル(APP/PS1)トランスジェニックマウスモデルを含む。変異型APPトランスジェニック系(Tg2576)と、変異型PS1トランスジェニック系(PS1M146L)との交配により得られたダブルトランスジェニックマウスは、Holcomb et al., 1998, Nat Med. 4: 97-100)に報告されている。
同定されたタンパク質の生物学的機能についてのさらなる特徴づけでは、これらのタンパク質の発現は、前記in vivo及び/またはin vitroシステム、すなわち、例えばトランスジェニック動物及び/または細胞系において、過剰発現または過少発現させたシステム中で調節され、その後、そのシステムにおける引き続く効果を分析する。あるいはまた、関心のあるin vivo及び/またはin vitroシステム内で活性レベルを増減することにより、同定されたタンパク質の活性を調節し、その後、引き続く効果を分析する。
そのような特徴づけにより得られた情報により、関心のあるタンパク質を用いたアルツハイマー病に対する適切な治療方法を提案できる。治療は、例えば、タンパク質発現及び/またはタンパク質活性の調節を含む。ここに記載する特徴づけの手順は、そのような調節が、関心のあるタンパク質の発現または活性の増減にどこで関わるべきかを示す。そのような治療方法について、後記セクション4で議論する。
2.差異的に発現するタンパク質
前記セクション1で同定された差異的に発現するタンパク質を含む、同定されたタンパク質をここに記載する。具体的に、そのような同定されたタンパク質のアミノ酸配列を記載する。さらに、同定されたタンパク質に対する抗体、及び同定されたタンパク質をさらに特徴づけ、且つ利用する細胞及び動物に基づいたモデルについても、このセクションで議論する。
2.1差異的に発現するタンパク質またはパスウェイタンパク質に対する特異的抗体
本発明はまた、1つ以上の差異的に発現するタンパク質またはパスウェイタンパク質のエピトープを特異的に認識できる抗体の産生方法に関する。そのような抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAbs)、ヒト化抗体またはキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、F (ab’)2断片、Fab発現ライブラリーにより産生される断片、抗イディオタイプ(anti-Id)抗体、及び前記いずれかのエピトープ結合領域を含むが、これに制限されない。そのような抗体を、アルツハイマー病治療法の一部として利用でき、及び/またはフィンガープリント、標的、若しくはパスウェイ遺伝子タンパク質の異常レベルについて、またはそのようなタンパク質の異常型の存在について、患者を検査するための診断技術の一部として使用しても良い。
差異的に発現するタンパク質またはパスウェイタンパク質に対する抗体を産生するために、様々な宿主動物に、差異的に発現するタンパク質若しくはパスウェイタンパク質、またはその一部を接種することにより免疫する。そのような宿主動物は、例としてごく少数の名を挙げると、ウサギ、マウス及びラットを含むが、これに制限されない。様々なアジュバントが、宿主の種に応じて免疫反応を増幅させるために用いられる。それは、リゾレシチン、プルロニック・ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ジニトロフェノール等の活性物質、及びBCG(カルメット・ゲラン菌)、コリネバクテリウム・パルバム等の潜在的に有用なヒトアジュバントを含む。
ポリクローナル抗体は、標的タンパク質または抗原作用を有するその派生物等の抗原を免疫された動物の血清に由来する、抗体分子の不均質な集団である。ポリクローナル抗体を産生するために、前記宿主動物に、前記アジュバントを付加した差異的に発現するタンパク質またはパスウェイタンパク質を接種することにより免疫する。
モノクローナル抗体は、特定の抗原に対する抗体の均質な集団であり、抗体分子の生産のために、継続的な培養の細胞系により提供するいずれかの技術により得ることができる。これらは、Kohler及びMilsteinのハイブリドーマ技術(1975, Nature 256: 495-497; 及び米国特許第4, 376, 110号)、ヒトβ細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al., 1983, Immunology Today 4: 72; Cole et al., 1983, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80: 2026-2030)、及びEBVハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss Inc.: 77-96)を含むが、これに制限されない。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD及びそれらのサブクラスを含むいずれかの免疫グロブリンクラスである。本発明のmAbを産生するハイブリドーマは、in vitroまたはin vivoで培養できる。現在、高い力価のmAbを産生するには、in vivoの方法が好ましいとされる。
さらに、「キメラ抗体」の作製のために、適切な生物学的活性を有するヒト抗体分子由来の遺伝子と、適切な抗原特異性を有するマウスの抗体分子由来の遺伝子とを接合することにより開発された技術(Morrison et al., 1984, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81: 6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature 312: 604-608; Takeda et al., 1985, Nature 314:452-454)を用いることができる。キメラ抗体とは、その分子内で、マウスmAbとヒト免疫グロブリン不変領域に由来する可変領域とを有するような、異なる部分が異なる動物種に由来する分子のことである。
あるいはまた、一本鎖抗体の作製のために記載された技術(米国特許第4,946,778号; Bird, 1988, Science 242: 423-426; Huston et al., 1988, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883; Ward et al., 1989, Nature 334:544-546)は、差異的に発現するタンパク質またはパスウェイタンパク質−一本鎖抗体を作製するのに適用できる。一本鎖抗体は、アミノ酸の架橋を介して、Fv領域の重鎖と軽鎖を連結させることにより形成され、一本鎖ポリペプチドとなる。
特定のエピトープを認識する抗体断片は、既知の技術により作製できる。例えば、そのような断片は、抗体分子のペプシン消化により産生されるF (ab’)2断片、及びF (ab’)2断片のジスルフィド架橋を還元することにより産生されるFab断片を含むが、これに制限されない。あるいはまた、Fab発現ライブラリーは、適切な特異性を有するモノクローナルFab断片を迅速簡便に同定するために構築されても良い(Huse et al., 1989, Science 246: 1275-1281)。
3.アルツハイマー病症状の緩和のためのアッセイ
ここに記載される差異的に発現するタンパク質は、アルツハイマー病を予防または緩和できる化合物を検査するのに用いても良い。
そのような化合物は、臨床試験でヒト被験者において検査される。差異的に発現するタンパク質を健常レベルまで回復させるいずれかの化合物は、アルツハイマー病の治療に対して、潜在的に、すなわち、アルツハイマー病症状を軽減するまたはアルツハイマー病の進行を遅らせることに有用かもしれない。
治療の介入に関して、マーカータンパク質を健常レベルまで回復させる、または部分的に回復させるいずれかの治療は、アルツハイマー病の治療的介入の候補とみなされるべきである。テスト薬剤の投与量は、後記セクション6で議論しているように、投与反応曲線を得ることにより決定される。
同様に、アルツハイマー病の発症を予防できる、またはアルツハイマー病の進行を防ぐことができるいずれかの治療は、アルツハイマー病の治療的介入の候補とみなされるべきである。
さらに、前記のようなアルツハイマー病の動物モデルを、アルツハイマー病症状を治療できる化合物を同定するために用いても良い。そのような動物モデルを、そのような疾患を治療するのに有効かもしれない薬剤、製薬、治療、及び介入を同定するためのテスト基質として用いることができる。介入を受けたモデル動物の反応を、マーカータンパク質の発現をアッセイすることにより、及びそれを野生型マウスのものと比較することによりモニターすることができる。
アルツハイマー病症状を緩和またはアルツハイマー病の進行を妨げる化合物の能力を評価するために、タンパク質の発現パターンを動物モデルシステムと合わせて利用しても良い。例えば、1つ以上のフィンガープリントタンパク質の発現パターンにより、その後そのような評価に用いられるフィンガープリントプロファイルの一部を形成することができる。フィンガープリントプロファイルを、動物モデルシステム内のアルツハイマー病状態に対して特徴づけすることができる。その後、そのようなフィンガープリントプロファイルを修正する必要のあるテスト化合物の有効性を確認するために、及びプロファイルをより適切なフィンガープリントのプロファイルに類似させるために、これら既知のフィンガープリントプロファイルを比較しても良い。例えば、化合物の投与により、アルツハイマー病モデルシステムのフィンガープリントシステムは対照システムにさらに類似し、またはフィンガープリントプロファイルのさらなる変化が防止される。あるいはまた、化合物の投与により、対照システムのフィンガープリントプロファイルはアルツハイマー病の状態によく類似するようになり、例えば、それは、関心のある化合物をさらに特徴づけするために用いてもよく、または、さらなる動物モデルを作製するために用いても良い。
4.アルツハイマー病治療のための化合物及び方法
アルツハイマー病症状を緩和し、またはアルツハイマー病の進行を減速または停止する方法及び組成物を下に記載する。少なくとも部分的に、標的タンパク質の異常なレベルにより、または異常な活性を示す標的タンパク質の存在により、アルツハイマー病症状が引き起こされる可能性がある。例えば、そのような標的タンパク質のレベル及び/または活性を低減することにより、アルツハイマー病症状が緩和するであろう。標的タンパク質の遺伝子発現レベル、または標的タンパク質の活性レベルを低減する技術について、セクション4.1で議論する。
あるいはまた、少なくとも部分的に、標的タンパク質の発現レベルを欠失させる若しくは低減することにより、または標的タンパク質の活性レベルを低減することにより、アルツハイマー病症状が引き起こされる可能性がある。例えば、そのような標的タンパク質の遺伝子発現レベル及び/または活性を増強させることにより、アルツハイマー病症状が緩和するであろう。標的タンパク質の遺伝子発現レベル、または標的タンパク質の活性レベルを増強する技術について、セクション4.2で議論する。
4.1標的タンパク質の発現、合成または活性を阻害する化合物
前述のように、アルツハイマー病に関わる標的タンパク質の活性を増強することにより、そのような疾患が引き起こされるかもしれない。様々な技術を、そのような標的遺伝子及び/または標的タンパク質の発現、合成、または活性を阻害するために用いることができる。
例えば、阻害活性を示す化合物を、軽度認知障害またはアルツハイマー病症状を予防するために本発明に従って用いても良い。そのような分子は、ペプチド(例えば、標的タンパク質である膜貫通受容体の細胞外可溶性領域を示すペプチド)、リン酸化ペプチド、有機小分子若しくは無機小分子、または抗体(例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、抗イディオタイプ抗体、キメラ抗体若しくは一本鎖抗体、及びFab断片、F (ab’)2断片、Fab発現ライブラリー断片、及びそのエピトープ結合断片を含む)を含むが、これに制限されない。前記化合物の有効な投与量及び投与法を決定するための技術について、後記セクション6.1に記載する。さらに、阻害的抗体の技術について、後記セクション4.1.2に記載する。
さらに、標的タンパク質の遺伝子の発現を阻害する相補的塩基配列(アンチセンス)、短い干渉RNA(siRNA)及びリボザイム分子もまた、異常な標的タンパク質の遺伝子活性を阻害するために本発明に従って用いることができる。そのような技術について、後記セクション4.1.1に記載する;トリプルヘリックス分子を、異常な標的タンパク質の遺伝子活性を阻害するために用いても良い。
4.1.1阻害的アンチセンス、リボザイム及びトリプルヘリックスへのアプローチ
アンチセンス、リボザイム及びトリプルヘリックス分子を、野生型、または適切であれば、変異型標的タンパク質の遺伝子活性のどちらかを低減または阻害するように設計する。そのような分子の作製及び使用するための技術は、当該技術分野でよく知られている。
アンチセンスRNA及びDNA分子は、標的RNAに相補的にハイブリダイズし、タンパク質への翻訳を妨げることにより、mRNAの翻訳を直接阻害するように作用する。アンチセンスDNAに関しては、例えば、関心のある標的遺伝子ヌクレオチド配列の-10から+10領域の間である、翻訳開始点に由来するオリゴデオキシ・リボヌクレオチドが好ましい。
リボザイムとは、RNAの特異的切断を触媒することが可能な酵素的RNA分子である。(レビューとして、Rossi, J., 1994, Current Biology 4: 469-471を参照)。リボザイムの作用メカニズムは、相補的な標的RNAに対するリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションと、それに続くヌクレオチド内切断を含む。リボザイム分子の組成物は、標的タンパク質のmRNAに対して相補的な1つ以上の配列、及びmRNA切断に関わる既知の触媒配列とを含まなければならない。この配列について、米国特許第5,093,246号を参照。例えば、本発明の範囲内では、標的タンパク質をコードするRNA配列のヌクレオチド内切断を特異的且つ効率的に触媒するハンマーヘッド型リボザイムを設計する。
可能性のあるいずれかのRNA標的内での特異的リボザイム切断部位を、以下の配列: GUA、GUU及びGUCを含むリボザイム切断部位に対する関心のある分子を調べることにより、初めに同定する。一度同定したら、その切断部位を含む標的タンパク質遺伝子の領域に相当する15から20のリポヌクレオチドである短いRNA配列は、前記オリゴヌクレオチド配列を不適合にする二次構造等の予測される構造的特徴について評価することができる。候補配列の適合性を、リボヌクレアーゼ保護アッセイを用いることにより相補的オリゴヌクレオチドとハイブリダイズできるかどうかを調べることにより評価しても良い。
RNA干渉(RNAi)は、動物及び植物において、その抑制される遺伝子の配列に一致した二本鎖RNA(dsRNA)を用いて配列特異的に転写後の遺伝子を抑制する手法である。RNAiは、短い二本鎖RNA分子(短い干渉RNAsまたはsiRNAs)により実施される。siRNAsを、10-15塩基の短いRNAオリゴヌクレオチドとして、または後に切断されてsiRNAsを生じる長いdsRNAsとして細胞内に導入することができる。前記RNAを、細胞内にRNAの形で導入しても良いし、または、DNA若しくはRNAベクターから転写しても良い。
siRNA分子を、当該技術分野で知られた、標準的な固相または液相合成技術を用いることにより合成することができる。あるいはまた、siRNA分子若しくは長いdsRNA分子を、好ましくは下に記載するベクター内に含まれる核酸配列の転写により、遺伝子組換え的に作製することができる。
もう一つの選択肢は、細胞内で短いヘアピンRNA分子(shRNA)を発現させることである。shRNAは、合成siRNAsよりもより安定的である。shRNAは、小さなループ配列で隔てられた短い反転した繰返しからなる。一つの反転した繰返しは、標的遺伝子に相補的である。shRNAは、その後、標的遺伝子mRNAを分解し遺伝子発現を抑制するsiRNAへ処理される。shRNAは、ヒトH1または7SKプロモーター等のRNAポリメラーゼIIIプロモーターの制御の下で、shRNA配列をコードするDNAコンストラクトを細胞にトランスフェクションすることにより、細胞内で作ることができる。あるいはまた、shRNAは、外因的に合成され、細胞に直接導入できる。shRNA配列は、好ましくは長さが40から100塩基の間、より好ましくは長さが40から70塩基の間である。そのヘアピンのステム部分は、好ましくは長さが19から30塩基である。そのステム部分は、ヘアピン構造を安定化させるために、G-Uの組合せを含む。
転写阻害のためのトリプルヘリックス形成に用いられる核酸分子は、一本鎖且つデオキシヌクレオチドからなるべきである。これらオリゴヌクレオチドの塩基組成は、Hoogsteen塩基対の法則によるトリプルヘリックス形成を促すように設計するべきであり、その法則は、通常、二重構造の一本鎖に存在するプリンまたはピリミジンのどちらかの相当な伸張を必要とする。ヌクレオチド配列はピリミジンに基づき、生じたトリプルヘリックスの会合する3本の鎖に交差して、TAT及びCGC+の3塩基を生じるであろう。ピリミジンリッチな分子は、二本鎖の中の一方の鎖のプリンリッチな領域に対して相補的な塩基を、その鎖と平行な向きに提供する。さらに、例えば、G残基の伸張を含む、プリンリッチな核酸分子を選択する。これらの分子は、GCペアに富むDNA二本鎖を有するトリプルヘリックスを形成するであろう。このとき、多数のプリン残基が標的二本鎖の一方の鎖に位置し、三重鎖の3本の鎖に交差してGGCの3塩基を生じる。
あるいはまた、トリプルへリックス形成のための標的となりうる可能性のある配列は、いわゆる「スイッチバック」核酸分子を作製することにより増大するかもしれない。スイッチバック分子は、二本鎖のうちの第一の鎖と塩基対を形成し、その後もう一方の鎖と塩基対を形成するように、5’-3’と3’-5’の交互の様式で合成される。これは、二本鎖の一方の鎖に存在するプリンまたはピリミジンのどちらかの相当な伸張の必要を排除する。
本発明のアンチセンスRNA及びDNA、siRNAs、リボザイム及びトリプルヘリックス分子を、DNA及びRNA分子の合成についての当該技術分野で既知のいずれかの方法により調製することができる。それらは、例えば固相ホスホアミダイト化学合成等の、当該技術分野で既知のオリゴデオキシリボヌクレオチド及びオリゴリボヌクレオチドを化学的に合成するための技術を含む。あるいはまた、RNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードするDNA配列のin vitro及びin vivoの転写により作製することができる。そのようなDNA配列は、T7またはSP6ポリメラーゼプロモーター等の適切なRNAポリメラーゼプロモーターを組み込んだ多様なベクター内に組み込まれても良い。あるいはまた、使用されるプロモーターに依存して構成的に誘導可能なアンチセンスRNAを合成するアンチセンスcDNAコンストラクトを、細胞系内に安定的に導入することができる。
4.1.2標的タンパク質を阻害するための抗体
標的タンパク質に対して特異的、且つその活性を阻害する抗体を、標的タンパク質の機能を阻害するために用いることができる。所望の場所で、変異型標的タンパク質に対する特異的抗体を用いても良く、それはそのような変異型標的タンパク質の産物の活性を阻害する。そのような抗体は、そのタンパク質自体に対して、またはそのタンパク質の一部に相当するペプチドに対して、前記セクション2に記載する標準的な技術を用いることにより作製することができる。前記抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fab断片、一本鎖抗体、キメラ抗体等を含むが、これに制限されない。
標的遺伝子のタンパク質が細胞内にあり、抗体全体が用いられる場合、内在化抗体が好ましい。しかしながら、リポフェクチンまたはリポソームを、細胞内の標的タンパク質のエピトープに結合する抗体またはFab領域の断片を輸送するために用いても良い。抗体の断片が用いられる場合、標的タンパク質の結合ドメインに結合する最小の阻害断片が好ましい。例えば、標的タンパク質に結合する抗体の可変領域のドメインに相当する、アミノ酸配列を有するペプチドを使用することができる。そのようなペプチドは、当該技術分野で既知の技術により、化学的に、または組換えDNA技術を用いて合成することができる(例えば、前記Creighton, 1983;前記Sambrook et al., 1989を参照)。
あるいはまた、細胞内標的タンパク質のエピトープに結合する一本鎖中和抗体を投与しても良い。そのような一本鎖抗体を、例えばMarasco et al.(Marasco, W. et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 7889-7893)に記載するような方法を利用することにより、標的細胞集団内に一本鎖抗体をコードするヌクレオチド配列を発現することにより投与することができる。
標的タンパク質が細胞外にある場合、または標的タンパク質が膜貫通タンパク質である場合、後記セクション6に記載する、ペプチド投与に適したいずれかの投与方法を、阻害的標的タンパク質抗体がその作用部位へ効果的に作用するために利用することができる。
4.2標的タンパク質の活性を回復させる方法
アルツハイマー病を引き起こす標的タンパク質は、アルツハイマー病の疾患状態では過少発現しているかもしれない。あるいはまた、標的タンパク質の活性が低下し、アルツハイマー病症状を引き起こしているかもしれない。標的タンパク質のレベルを、アルツハイマー病症状が予防されるまたは緩和されるレベルへ増強する方法について、このセクションに記載する。標的タンパク質の活性レベルは、例えば、標的タンパク質の存在レベルを増加させる、または存在する活性を有する標的タンパク質のレベルを増加させることにより、増強することができる。
標的タンパク質を、例えばアルツハイマー病症状を緩和するのに十分なレベルで、症状を示す患者に投与することができる。下のセクション6に記載するいずれかの技術を、そのような投与に利用しても良い。下に記載するような技術を利用することにより、当該技術分野における技術の一つで、健常な標的タンパク質の効果的で毒性のない濃度を決定する方法が簡単に分かるであろう。
さらに、患者を遺伝子置換療法により治療することができる。健常な標的タンパク質遺伝子の1つ以上のコピー、または標的タンパク質遺伝子の機能を有する健常な標的タンパク質の産生を導く遺伝子の一部を、リポソームのような細胞内へDNAを導入する他の粒子に加えて、以下のベクターを用いることにより細胞に導入することができる。そのベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、及びレトロウイルスベクターを含むが、これに制限されない。さらに、健常な標的タンパク質の遺伝子配列をヒト細胞に導入するために、前記のような技術を利用しても良い。
健常な標的タンパク質の遺伝子配列を含む細胞、好ましくは自己由来の細胞を、その後、患者のアルツハイマー病症状を予防するまたは緩和する位置に導入、または再導入することができる。そのような細胞置換技術は、例えば、標的タンパク質が分泌される細胞外タンパク質である場合に好ましい。
さらに、標的タンパク質に特異的に結合し、直接的あるいは間接的に結合することにより標的タンパク質の機能を活性化するように作用する抗体を投与することができる。そのような抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fab断片、一本鎖抗体、キメラ抗体等を含むが、これに制限されない。その抗体は、上のセクション2.3に記載したそのような標準的な技術を用いることにより作製でき、そのタンパク質自体に対して、またはそのタンパク質の一部に相当するタンパク質に対して作製することができる。その抗体を、例えば前記技術に従って投与することができる。
5.薬剤の調製及び投与方法
アルツハイマー病を治療または緩和するために、標的タンパク質の発現、合成及び/または活性に効果を有する、同定された化合物、核酸分子及び細胞を臨床上有効な量で患者に投与することができる。臨床上有効な量とは、アルツハイマー病症状を緩和するのに十分な化合物量、あるいはまた、前記症状を緩和するタンパク質濃度を発現するのに十分な核酸量を表す。
5.1有効な投与量
そのような化合物の毒性及び治療有効性は、細胞培養または実験動物における標準的な製薬手法、例えばED50(集団の50%において臨床的に有効な量)を測定することにより、及びあらゆる副作用のED50(毒性-TD50)を測定することにより決定することができる。毒性と治療有効性の間の投薬量比は、治療指数であり、TD50/ED50という比として表すことができる。大きな治療指数を示す化合物は好ましい。有毒な副作用を示す化合物が用いられるかもしれないが、患部組織の部位を標的とするそのような化合物のデリバリーシステムは、細胞への起こりうるダメージを最小限にし、よって副作用が低減されるように注意深く設計されるべきである。
動物実験から得られたデータは、ヒトに使用する一定範囲の投薬量を処方するために用いることができる。そのような化合物の投薬量は、毒性が僅かかまたは全くないED50を含む循環濃度の範囲内であることが好ましい。その投薬量は、この範囲内で、利用する投薬形態及び利用する投与経路に応じて変更することができる。
5.2製剤化及び使用
本発明に従って用いられる製薬組成物を、従来の方法で、生理学的に許容される1つ以上の担体または賦形剤を用いることにより製剤化することができる。
従って、化合物並びにその生理学的に許容される塩及び溶媒和物を、吸入若しくは通気(口または鼻のいずれかを通して)または経口、頬、非経口、及び腸管による投与向けに製剤化することができる。
経口投与向けに、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、ミクロクリスタリンセルロース、またはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、マグネシウム、ステアリン酸、タルク、またはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはスターチグリコレートナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等の製薬上許容される賦形剤を用いた従来の方法により、製薬組成物を調製し、例えば、錠剤またはカプセルの形態をとることができる。錠剤は、当該技術分野で既知の方法により被覆される。経口投与向けの液体調剤は、例えば、溶液、濃縮糖液、または懸濁液の形態をとり、または使用前に水または他の適切な媒体と併せるための乾燥製品として提供しても良い。そのような液体調剤は、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);及び保存料(例えば、メチルまたはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエート、またはソルビン酸)等の製薬上許容される添加剤を用いた従来の方法により調製することができる。調剤は、緩衝塩、香料、着色料、及び甘味料も適宜含有しても良い。
経口投与向けの調剤は、活性化合物を制御して放出するように適切に調製することができる。
頬からの投与向けに、組成物は従来の方法により製剤化された錠剤または舐剤の形態をとることができる。
吸入による投与向けに、本発明に係る組成物は、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適切な気体を使用して、加圧パックまたは噴霧器からのエアゾールスプレーの形態で簡便に運搬される。加圧エアロゾールの場合には、投薬単位は、計量した量を運搬するための弁を設けることにより決定することができる。吸入または通気に用いるための、例えばゼラチンのカプセル及びカートリッジは、その化合物とラクトースまたはデンプン等の適切な粉末ベースとの粉末混合物を包含して製剤化することができる。
化合物を、例えば大量瞬時投与または連続投与の注射による非経口投与向けに製剤化することができる。注射向けの製剤は、例えばアンプル中またはマルチ投薬容器中に保存料を添加して、単位量の形態で提供することができる。その組成物は、懸濁液、油性若しくは水性の媒体状の溶液または乳化剤といった形態をとることができ、また懸濁剤、安定化剤及び/または分散剤等の製剤化剤の形態をとることができる。あるいはまた、その活性成分は、例えば、発熱物質を含まない滅菌水といった適切な媒体と使用前に併せるための粉末の形態をとるかもしれない。
化合物を、例えばココアバターまたは他のグリセリド等の従来の坐薬支持体を含む坐剤または停留浣腸等の結腸組成物中に処方することもできる。
前述の製剤に加え、化合物を蓄積調剤としても製剤化することができる。
そのような長時間作用する製剤は、移植(例えば、皮下または筋肉内への移植)により、または筋肉内注射により投与することができる。従って、その化合物は、例えば、適切な高分子物質または疎水性物質(例えば、許容できるオイル状のエマルジョンとして)またはイオン交換樹脂、または例えば微溶性塩のような微溶性誘導体として製剤化することができる。
組成物を、所望により、活性成分を含む1以上の単位量を含んだパックまたはディスペンサー装置中に処方することができる。パックは、例えば、ブリスター包装等の金属またはプラスチック製ホイルからなる。そのパックまたはディスペンサー装置に、投与のための使用説明書を添付しても良い。
6.アルツハイマー病の診断
アルツハイマー病の診断のために、軽度認知障害及びアルツハイマー病の進行をモニターする、アルツハイマー病の素因、及び、例えば、臨床試験の間、いずれかのアルツハイマー病化合物の有効性をモニターする、アルツハイマー病の治療のための臨床的評価を受けている患者をモニターする等の様々な方法を実施することができる。差異的に発現するタンパク質及びフィンガープリントタンパク質を、アルツハイマー病の性質または程度を明らかにするために用いることもでき、疾患の治療の特徴づけ、及び/または選択に役立てることもできる。
アルツハイマー病は、進行性で潜行性の発症、認知機能における2つ以上の欠陥、及びその認知症を説明できるいずれか他の疾患がないこと、を特徴とする。
記憶の喪失に加えて、見当識障害、注意持続時間の短縮、及び言語障害が生じる。日常生活を送る能力の低下、及びおそらく感覚障害、人格変化が生じる。行動的な症状は、妄想、攻撃性、振戦、憤慨、放浪、幻覚、及び睡眠障害を含む。
見当識、記銘力、計算力及び注意力、想起力、言語力、及び視空間機能を評価する簡易テストを、初期診断のために用いることができる。
標準的なCTまたはMRIによる構造の画像化もまた用いることができる。通常、頭部の非造影CTスキャンで十分であるが、高血圧または糖尿病の患者については、脳血管障害の危険性があるのでMRIが好ましい。
アルツハイマー病は、神経原線維変化及び老人斑を示す検死または脳生検により、組織学的に確認できる。
個人のアルツハイマー病の危険性について同定することは、軽度認知障害(MCI)の診断を含むかもしれない。MCIは、健常な老化と認知症の間の遷移状態である。MCIには異なるタイプがある。記憶に加えて、認知機能に関わる複数の領域で認知障害があるかもしれない。いくつかの症例では、記憶は健常であるが、認知機能の別のある領域が異常である。
健忘性MCIは、アルツハイマー病発症の危険な状態であるようだ。健忘性障害は、記憶力に対する主観的な訴えにより定義される。これらの患者は、同年齢の人と比較して、公式な検査での年齢及び教養に対する記憶機能が乏しい。一般的な認知機能、及び日常生活を送る能力は完全に健常でなければならない。健忘性タイプのMCIは、海馬の萎縮、側頭葉内側部における神経原線維変化、及び脳脊髄液(CSF)中のタウレベルの上昇と関連している。
アルツハイマー病またはアルツハイマー病の素因を診断するための方法には、例えば、前述の差異的に発現するタンパク質及びフィンガープリントタンパク質、並びに差異的に発現するタンパク質に対する直接的な抗体等の薬剤を利用しても良い。とくに、そのような薬剤は、健常状態と比較して、標的タンパク質が過剰に存在するかまたは過少に存在するかのどちらかを検出するのに用いることができる。
ここに記載する方法は、例えば、少なくとも1つの特定の差異的に発現する/フィンガープリントタンパク質、またはここに記載する抗差異的に発現する/フィンガープリントタンパク質抗体試薬を含む、プレパック診断キットを利用することにより実施でき、例えば、臨床現場でアルツハイマー病症状を示す患者を診断するために簡便に使用できる。
フィンガープリントタンパク質が発現するいずれかの細胞タイプ、組織または体液を、ここに記載する診断に利用しても良い。適切なサンプルタイプの例として、細胞サンプル、組織サンプル、及び血液、尿、血清、唾液、脳脊髄液または血漿等の液体サンプルを含む。
ここで利用できる方法の中で、アルツハイマー病治療のための臨床試験における、化合物の有効性をモニターする方法がある。そのような化合物は、例えば上のセクション4に記載するような化合物でありうる。そのような方法は、患者サンプルにおいて、健常状態における発現と比較して、アルツハイマー病の疾患状態において差異的に発現するタンパク質を検出する方法を含む。
臨床試験の間に、検査された化合物の存在または非存在での、例えば、ただ1つの差異的に発現するタンパク質の発現、あるいはまたアルツハイマー病に関わる細胞のフィンガープリントパターンを測定することができる。その化合物の有効性の後に、得られた発現データを、健常状態におけるそれに相当する既知の発現パターンと比較することを続けることができる。有効性を示す化合物とは、タンパク質の発現及び/またはフィンガープリントパターンを健常状態のものへより近づけるように変える化合物、あるいはタンパク質の発現及び/またはフィンガープリントパターンを安定化する、すなわち疾患の進行を妨げる化合物である。
健常状態における発現と比較して、アルツハイマー病の疾患状態において差異的に発現するタンパク質の検出は、臨床試験でアルツハイマー病治療に対して可能性のある化合物の有効性をモニターすることに用いることもできる。臨床試験の間に、例えば、検査中の化合物の存在または非存在での、関連した細胞及び/または組織及び/または体液において差異的に発現するタンパク質のレベル及び/または活性を測定することができる。化合物の有効性の後に、得られたタンパク質レベル及び/または活性データを、健常状態における細胞及び/または組織及び/または体液に対して相当する既知のレベル及び/または活性と比較することを続けることができる。有効性を示す化合物とは、アルツハイマー病被験者からの細胞及び/または組織及び/または体液サンプルのパターンを、健常状態のものへより近づけるように変える化合物、あるいはそのパターンを安定化する、すなわち疾患の進行を妨げる化合物である。
《被験者》
実験集団は、長期的に調査された、ADに罹患した人(NINCDS-ADRDA, probable)、他の認知症患者、及び健常年配者の大きな群集に基づく集団から抽出される。詳細な臨床診断を有する1000を超える被験者について、サンプルが入手可能である。臨床検査データは、体系的な診断、認知検査、及び行動検査を含む。およそ50ml(BD社の採血管vacutainer K3Eの15%の4×10ml、及びexetainerに1×10ml)の血液が各被験者から採血される。被験者は、採血の2時間より前から飲食をしない。1本のBD社vacutainer K3E(血漿)及びextainer(血清)がプロテオミクス研究に用いられる。プロテオミクスのために回収された前記血清/血漿サンプルを、回収から2時間以内に8分間3000回転で遠心する。
《分析》
8M 尿素、2% w/v CHAPS、0.5% IPGファルマライト(pH3-10; Amersham Biotech社, UK)からなる2D用溶解バッファー中で、血清/血漿サンプルを溶解及び再水和した。その後、溶解したサンプルを18cm 3-10NL Immobiline pH 勾配ゲル(pH3-10のポリアクリルアミドゲル) を用いた等電点電気泳動にかけた。再水和したゲルのIPG等電点電気泳動は、IPGphor泳動装置で、以下のプロトコール:
ステップ1:1時間500V step-n-hold(s/h:すなわち、ゲルにかける電流を表示された時間特定の設定でステップの泳動時間中、徐々に増やしていく);
ステップ2:2時間500V s/h
ステップ3:1時間500から1000Vの直線的増加の勾配電圧(G)
ステップ4:2時間1000V s/h
ステップ5:2時間1000から8000V G
ステップ6:8時間8000V s/h
を用いて16時間実施した。
その後、等電点電気泳動したIPGゲルは、10mg/mlジチオトレイトール(DTT)を加えたSDS平衡化バッファー(50m M Tris-HCl pH8.8、6M 尿素、30%v/vグリセロール、2% SDS、及び微量のブロモフェノールブルー)で20分間平衡化した。その後、20分間の25mg/mlヨードアセタミドのステップが続く。その後、平衡化したゲルは、Ettan Dalt II システムを用いて10%アクリルアミド二次元等電点電気泳動ゲルで分離した。
電気泳動後、前記ゲルを別々の染色ボックスに入れ、室温で1時間40%エタノール/10%酢酸を用いて固定し、Hochstrasseプロトコールに従って染色した(表1)。ゲルの分析はMelanie 3 ソフトウェア及びMann-Whitney順位和検定を用いて行い、被験者グループの比較には偽発見率(False Discovery Rate)統計分析を行った。
表1:Hochstrasse染色プロトコール
Figure 0005893269
《サンプルの準備》
ゲル内での還元、アルキル化及び消化(トリプシンを用いた)を、マススペクトロメトリーによる分析の前に行った。システイン残基は、DTTで還元され、ヨードアセタミド処理により誘導体化され、安定的なカルバミドメチル(CAM)誘導体を形成した。トリプシン消化は、37℃で1時間行った後、室温/オーバーナイトで行った。
《MALDI-TOFマススペクトロメトリー》
消化したサンプル(3μl)を脱塩し、ZipTipC18(Millipore社)を用いて濃縮した。4μl の50%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸にペプチドを溶出した。その後、0.5μlをマトリックス(α-シアノ-4-ヒドロキシ-ケイ皮酸)0.5μlを備えた目的のプレート上へのせた。Voyager De-Pro、MALDI-TOFマススペクトロメーター(Applied Biosystems社)を用いてペプチドマスフィンガープリントを得た。マススペクトルを、遅延引出し(delayed extraction)を備えたリフレクトロン・モード(reflectron mode)で得た。その後、得られたマススペクトルを固定し、30ppm以上の正確性を達成するために、質量2163.0569Daの自己消化によるトリプシンペプチドを用いた。
《LC/MS/MS》
一連のアセトニトリルと水溶液の洗浄により、ゲル断片からペプチドを抽出した。抽出物を最初の上清で浸し、凍結乾燥した。その後、各サンプルを6μlの50mM炭酸水素アンモニウムに再懸濁し、LC/MS/MSにより分析した。Ultimate LC システム(Dionex社, UK)を用いて、クロマトグラフィー分離を行った。75μm C18 PepMapカラムを用いた逆相クロマトグラフィーによりペプチドを分解した。200nl/mlの流速で前記ペプチドを溶出するために、0.05%ギ酸の中にアセトニトリルを勾配により供給した。QTOFmicro(Waters Corporation)に適合させたZ-スプレー源(Z-spray source)を用いたエレクトロスプレーのイオン化により、前記ペプチドをイオン化した。前記機器を自動切換えモードで稼動するように設定し、衝突により誘起する断片化により配列順序を決定するために、前駆体イオンをその強度に基づいて選択した。MS/MS分析は、ペプチドの質量電荷比(m/z)と荷電状態に基づいて選択される衝突エネルギープロファイルを用いることにより行った。
(結果)
対照グループ(n=50)及び患者グループ(n=50)すべてについての二次元ゲル画像を統計解析にかけた。計16個のタンパク質スポットが重要な結果を示す(p<0.05)(図6参照)。
図6に示す結果は、複数のMS/MSスペクトルの正確な一致に基づいているように、明らかに一致している。得られたペプチド範囲をもつ選ばれたタンパク質の配列を図8から図10に示す。
《ペプチドフィンガープリンティングを用いた分類予測》
二次元電気泳動におけるペプチドスポットのパターンにより、臨床的に判断されるような事例性を予測できるかどうかを判断するために、分類予測を行った。データのトレーニングセットに基づくグループに設定された分類を予測するためのアルゴリズムを記憶している管制機器、Support Vector Machines(SVM)を用いた。SVMは、マイクロアレイ解析に最も一般的に用いられる。しかしながら、その統計上の課題はプロテオミクスに類似しており、様々なプロテオミクス研究の分類予測モデルとして、SVMがあらかじめ用いられている。GeneSpring(Silicon Genetics社)を用いて、オリジナルの25の患者及び25の対照をトレーニングセットとして指定し、その後、その複製の25の患者及び25の対照をテストセットとして指定した。同定されたすべてのタンパク質を可能性のある識別分子として用い、パラメーターPolynomial Dot Product Order 1及びDiagonal Scaling Factor 1を用いて、テストサンプル50中の34が、患者または対照として正確に同定された。二次元電気泳動のデータについてSVM解析のみを用いた感度は56%、特異性は80%であった。
《患者と対照間で差異のあるペプチドの同定》
患者と対照の初めのセット、及びその複製セットにおける標準化したスポットの吸光度を比較した。各スポットの患者と対照間の平均差を、Wilcoxen順位和検定(Mann-Whitney)を用いて比較した。平均差のないゼロ仮定に対するp値を保存し、増加する値により分類し順位づけした。棄却された仮説のうち誤って棄却された真の帰無仮説の割合(FDR)インデックスを、順位番号と理論上の確率との割合(スポット総数で割った順位番号)として算出した。15スポットが、.05以下のFDRを示すことが同定された。その後、これらはLC/MS/MSを用いて同定される。
《臨床的指標とペプチドスポットの相関関係》
患者と対照は同程度の年齢であるが、観察されたペプチドまたはスポットの差異が年齢、性別またはAPOE遺伝子型に起因している可能性があった。従って、年齢、性別及びAPOE遺伝子型を有する100の被験者すべてにおいて、患者と対照間で差異のある15スポットに対する相関解析を行った。まず、変数を比較するための基準を定めるために、データをユニット分散に応じて増減した(すなわち、各値を特定変数に対するすべての値の標準偏差で割った)。その後、Pearsonの相関係数を算出した。どのスポットも、年齢、性別またはAPOE遺伝子型との強い相関関係は見られなかった。2つのスポットが年齢と、2つのスポットが性別と、また1つのスポットがAPOE遺伝子型と弱い相関関係を示した。
理想的なバイオマーカーとは、患者と対照間で差異があるだけでなく、疾患の進行のマーカーとなるものであろう。従って、50すべての症例のうち、患者-対照間で差異を示す15のスポットは、MMSE(Mini Mental State Examination:認知機能検査)及びGDS(Global Dementia Rating Scale:総合的知的機能低下評価尺度)により判定されたように、認知症の継続期間及び程度と相関した。2つのスポットが、疾患の進行及び全体的な認知症重篤度の評価(スポット177に関してr2=0.29)、及び疾患の継続期間(スポット166に関してr2=-0.29)と僅かに且つ有意に相関した。従って、1つのペプチド−免疫グロブリンλ鎖C領域(スポット177)は全体的な認知症重篤度と相関している。検討された疾患の進行及び継続期間に対するもう一つのマーカーは、アルブミン(スポット165)と負の相関を示す。
《プレ除去分析》
この実験において、二次元ゲル電気泳動の工程の前に、6つの最も大量に存在するタンパク質を除くために、ヒト血漿サンプルを除去した。
(方法)
Agilent社の除去カラムを用いて、60のヒト血漿サンプル(30の対照被験者及び30の疾患被験者)を除去した。前記サンプルを二次元電気泳動で分離した(pH3-10、10% SDS、75μgのタンパク質をのせた)。ゲルを銀染色し、スキャンし(8bit、200dpi)、Progenesisソフトウェアを用いて定量的に分析した。分離ゲルからゲル断片を取り上げるために、いくつかの対照サンプルを混合し、3つのゲルに処理した(2つのゲルには205μgのタンパク質をのせ、1つのゲルには350μgのタンパク質をのせた)。分離ゲルを流すために、疾患サンプルについても同じ方法を実施した。その後、タンパク質のスポットを脱色し、トリプシン処理し、及びポリペプチドをSpotハンドリング・ワークステーション(GE Amersham Biosciences社)を備えたMALDIターゲットプレート上にのせた。作製されたペプチドプロファイルを、Swiss-Protデータベースと組み合わせたMs-Fitプログラムを用いて分析した。
(結果)
対照及び疾患サンプルから抽出したタンパク質のゲル画像をProgenesis(v2005)で分析した。各グループ(対照及び疾患)は29枚の分析ゲルに基づいた。スポットの検出、一致判定をProgenesisで行い、その後、スポットデータをExcelに移行し、イン−ハウス(in-house)で展開したマクロを変動係数(CV%)、t検定及びRegulation facto or changeを算出するために用いた。
11スポットを、以下の選択基準:少なくとも60%以上のゲルに検出され、2倍の増減及びp<0.005、に基づいた分析に選択した。図11に、参照用ゲルにおけるこの11スポットの位置を示す。この画像は、対照サンプルから抽出したタンパク質の二次元プロファイルと一致する。ゲルに検出される11スポットの標準化した値を分析し、図12に示す。
すべてのタンパク質スポットを3から6枚の異なる分離ゲルから取り出し、MS分析にかけた。すべてのタンパク質について、図12に示すように同定することができた。減少したスポットについては、α-2-マクログロブリン前駆体(174; 178)の2スポット、インター-α-トリプシンインヒビター重鎖H4前駆体(232)の1スポット、図12に灰色で示すようにクラステリン前駆体(712)と補体タンパクC3前駆体(713)とが混合した1スポットを認めた。増加したスポットについては、補体タンパクC4前駆体(652; 832)の2スポット、アクチン(675)の1スポット、及びハプトグロビン前駆体(702; 703; 706)の3スポットを認めた。
同定されたタンパク質の範囲を推定し、異なる鎖またはアイソフォームを区別するために、各スポットに対し、ペプチドマスの共通のリストを確立した。このリストにより、3から6枚の分離ゲルから取り出した同一スポットに一致するすべてのペプチドマスを再分類する。一致したペプチドに属するアミノ酸を、図13から図19に下線を引いて示す
(考察)
分析した前記11スポットは、対照及び疾患サンプル間で増減する7つのタンパク質、つまり、α-2-マクログロブリン、インター-α-トリプシンインヒビター重鎖H4、補体タンパクC3、補体タンパクC4、アクチン及びハプトグロビンであると確認した。
α-2-マクログロブリンタンパク質は、固有の“トラッピング”機構により、プロテアーゼの4つのクラスすべてを阻害することができる。ペプチド・マス・フィンガープリンティング(PMF)分析により一致した、ゲルスポットの分子量(~100kDa、図11、スポット174; 178)は、そのタンパク質の主にN末を網羅している(図14)。従って、前記同定されたタンパク質は、α-2-マクログロブリンの全長配列の断片に相当するかもしれない。α-2-マクログロブリンとして同定されたスポットが同一連鎖スポットに属するように(図11)、この2つのスポット間の差異は翻訳後修飾に起因する可能性がある。
インター-α-トリプシンインヒビター重鎖H4には、2つのアイソフォームがある。アイソフォーム1は930アミノ酸を有し、アイソフォーム2は914アミノ酸を有する。このタンパク質は、プラズマ・カリクレインにより切断され、100kDaと35kDaの断片を生じる。生じた100kDaの断片は、さらに70kDaへ変換される。PMF分析により一致したマスは、688アミノ酸までの配列を網羅する。この配列は、アイソフォーム1に相当し、70kDaの断片と短い潜在的活性ペプチドを含むかもしれない。この場合、理論分子量及び理論等電点(それぞれ74kDa及びpI 6.04)は、ゲルスポットからの分子量及び等電点とよく一致する(図11、スポット232参照)。
補体タンパクC3前駆体は、補体システムの活性化に中心的な役割を果たしている。このタンパク質は、2つの鎖(α及びβ)を含む。補体タンパクC3のα鎖に一致する、714アミノ酸から1360アミノ酸の配列(図15)を網羅するペプチドマスが同定された。α鎖の理論分子量及び理論等電点(それぞれ115kDa及びpI 5.55)は、ゲルスポットからの分子量及び等電点と一致しない(図11、スポット712、713参照)。α鎖は、異なる断片に処理される。補体システムの活性化の間に一時的なペプチドが生じるようだ。補体タンパクC3として同定されたスポットが同一連鎖スポットに属するように(図11)、その差異は翻訳後修飾に起因する可能性がある。
補体タンパクC4は、補体システムの古典的経路の活性化に中心的な役割を果たしている。このタンパク質は、3つの鎖(α、β及びγ)を含む。スポット832に対してα及びβ鎖を、スポット652に対しα鎖のみを網羅するペプチドマスを同定した(図17)。これらの鎖の理論分子量及び理論等電点は、ゲルスポットからの分子量及び等電点と異なる(図11、スポット652、832参照)。補体タンパクC3と同様に、クラステリン前駆体は2つの鎖(α及びβ)を含む。α及びβ鎖を網羅するペプチドマスを同定した(図16)。Clusterinの理論分子量及び理論等電点(それぞれ50kDa及びpI 5.89)は、ゲルスポットからの分子量及び等電点と一致する(図11、スポット712参照)。全長タンパク質が同定されたようだ。
《表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析法(SELDI-TOF-MS)》
アルツハイマー病被験者及び対照被験者間で差異のあるタンパク質ピークを同定するために、SELDI-TOF-MS及びProteinChip技術を組み合わせ、その後、物質のさらなる特徴づけ及び存在する成分の同定を進めるために、チップから物質を抽出した。
(方法:SELDI分析)
SELDI分析はAD患者サンプル及び対照サンプルの比較を含み、データはプールされたサンプルだけでなく、個体群のサンプルの両方に対して得られている。それぞれの場合において、対照及びAD患者からの血清のスペクトルプロファイルを比較した。
A).個体群の分析
個体からの対照及びADの血清をQ10-SAX2chipsにかけた。:
n=4対照
n=4 AD
血清サンプルは、血清20μlをSELDI用溶解バッファー30μlで希釈することにより新鮮に調製された。サンプル5μlを必要に応じて各スポットにのせた。
前記チップを以下のプロトコールを用いて処理した。
(チップの準備)
PAPペンを用いて各スポットの周りに疎水性の円を描く。このPAPは、チップをSELDI機器に25分間放置すると完全に乾く。
(サンプルの準備)
血清を40:60の比(血清40μl + 溶解バッファー60μl)でSELDI用溶解バッファーに希釈する。典型的に、この希釈によりサンプルは20mg/mlから30mg/mlの濃度になるであろう。従って、溶解バッファーの5μlを用いると、100μgから150μg間のタンパク質を各スポットへのせることが可能であろう。
サンプルを混合し、使用直前まで氷上でインキュベートし、使用直前に短時間遠心する(30秒、14,000回転)。
(チップの平衡化)
チップをFalconチューブに入れ、100mM Trisバッファー(室温pH9)を10-15ml加え、回転式ミキサーで5分間混合する。この操作を2回繰り返す。
(サンプルのアプライ)
最後の平衡化工程の後、チップを取り出し、柔らかいティッシュで慎重に乾かす。サンプル5μlを各スポットに滴下し、チップを密封式湿度室に入れ、30分間振とう機に置く。
(チップの洗浄)
インキュベーション後、各スポットから慎重にサンプルを除去し、チップをFalconチューブに入れる。100mM Trisバッファー(pH9)を10-15ml加え、Falconチューブを回転式ミキサーで5分間混合する。この操作を4回以上繰返し、チップを滅菌蒸留水(DDW)で2回洗浄する。
(チップの乾燥)
最後の洗浄工程の後、チップを取り出し、柔らかいティッシュで慎重に乾かし、25分間室温で風乾する。
(SPAのアプライ)
飽和したSPAマトリックス(新しく調製したもの)2×0.6μlを各スポットにピペットで滴下する。最初のアプライは、二度目の0.6μlをアプライする前に乾くことになる。SPAを乾燥させるために、SELDI機器に10分間放置する。
その後、前記チップをSELDI機器で読む。
データの分析に、以下の基準:
クラスター分析の基準:5 s/n;100% スペクトル;0.3% マス;2 s/n;add est.ピーク
標準化:総イオン数3,000から30,000Da間のみ
を適用した。
(結果)
同一サンプルのスポット間の再現性は非常に高かった。高い相関関係を達成した。対照と認知症グループにおける患者間のばらつきが見られた。これは、特異体質性の差異だけでなく、タンパク質量の差異に起因するかもしれない。非常に厳密なクラスター分析を用いると、3つのピークが統計的に有意(p=0.05)であることが分かり、その信頼性を確かめるためにこれらを視覚的に確認した。関心のあるこの3つのピーク(図1−3参照)は以下のとおりである。
分子量6,430Da、1.62倍ADにおいて存在量多、p=0.027
分子量14,640Da、2.29倍ADにおいて存在量多、p=0.036
分子量27,147Da、2.82倍ADにおいて存在量多、p=0.004574
B).プールされたサンプルの分析
プールされたサンプルの分析を、上の記載と全く同じ方法及び基準を用いて分析した。しかしながら、ここでは、3つのプールされた対照に対し、3つのプールされたADサンプルを分析した。この各プールは、少なくとも25の個体からの血清を含む。この方法では、ADに罹患した75以上の個体からのサンプルを網羅し、それらを75の個体数を示す対照集団に対して比較した。プールされたグループを、それぞれ25、25、25の独自の個体からなるADプール1、2及び3のように記載する。
(結果)
非常に厳密なクラスター分析を用いると、1つのピークが統計的に有意(p=0.05)であることが分かり、その信頼性を確かめるためにこれを視覚的に確認した。関心のあるこのピーク(図4参照)は以下のとおりである。
分子量14,646Da、1.72倍ADにおいて存在量多、p=0.037
(SELDIピークの同定方法)
SELDI分析により同定された差異的に発現するタンパク質を、さらにSDS-PAGEにより分析した。差異的に発現するタンパク質の分子量に相当するバンドを、マススペクトロメトリー分析のために切り出した。
Chip Q10の 854及び855(“個体”サンプル)から、Laemmliバッファー中で10分間ボイルすることにより物質を抽出し、対照及び疾患スポットを別々のエッペンドルフチューブにまとめた。抽出した物質をSDS-PAGE(18%、Tris-glycine、Novex社)を用いて分離し、コロイド状クマシーブルー(CCB)で染色したが、バンドは可視化されなかった。その後、同じゲルを改変版(MSに適合する)銀染色で再染色した(図5)。
11から20kDaの間に、6本のバンドが可視化され、これらを前述のLC/MS/MSによる分析のために、第1対照レーンから切り出した。
同定されたタンパク質を図7に示す。
《同定されたタンパク質のさらなる分析》
(アポリポプロテインA-IV)
Q10 SAX2 SELDIチップで単離された14.6kDaのバンドについて、アポリポプロテインA-IV(P06727)に対して得られたシークエンス範囲を図9に示す。
SELDIプロファイリング実験中に観察された関心のあるバイオマーカーの分子量は、14,640±6Daと決定した。完全長タンパク質がより高い分子量(45kDa)に観察されるという事実、及びLC/MS/MS分析で観察されるペプチドが前記タンパク質のC末領域だけを示しているという事実に基づいて、この14.6kDaの分子はApoA-IVの断片であると考えられる。観察される分子量は、Swiss Protデータベース内のエントリーP06727のアポリポプロテインA-IVに定義されるシークエンス270-396残基に対して推定される平均分子量14,636Daとよく一致する。
従って、270-396残基を含む全長アポリポプロテインA-IV及びアポリポプロテインA-IVのC末断片の両方とも、アルツハイマー病の血清バイオマーカーとなるかもしれない。
(補体タンパクC4前駆体)
二次元電気泳動のスポット164について、補体タンパクC4前駆体(P01028)に対して得られたシークエンス範囲を図10に示す。下線太字で示したいくつかのペプチドに基づいてスポット164を同定し、スポット164中のタンパク質を1466-1744に及ぶC末断片と確定した。
《定量的タンパク質配列タグ(qPST)分析》
10の疾患サンプル及び10の対照サンプルを、6つの最も大量に存在するタンパク質に対して、それぞれ免疫除去した。疾患サンプルまたは対照サンプルのどちらかからなる2つのプールを作製し、qPST手順へ適用した(CNBrによるプレ切断、ジメチルグリシンによる標識、トリプシン処理、及び強陽イオン交換による分画化)。得られたSCX画分を、標準的な手法に従ったQTOF-II機器を用いるLC/MS及びLC/MS/MSにより分析した(異なる3つのデータ収集法によるLC/MS及びLC/MS/MS)。
(結果)
[タンパク質の同定]
前述のように、3つの異なるMS/MS収集方法:
1.できる限り多くのペプチドIDを得るための分析に依存したデータ収集
2.増減する対、すなわち、疾患サンプル及び対照サンプル間でシグナル強度が異なるペプチドを含む「包含リスト」によるデータ収集(増減基準:≧2/≦0.5)
3.対をなさないMSシグナルを含む「包含リスト」によるデータ収集
を実施した。
これら3つの手法から得られた結果を考慮し、重複部分を補正し、88のタンパク質IDが得られた。
[包含リスト(増減≧2.0/≦0.5を示す対)MS/MS法による増減するタンパク質に対する直接的検索及び交差試験]
8つのペプチドを、増減に対し交差試験できると認定した。これら8つのペプチドは5つのタンパク質を表す(タンパク質IDを得るために、ProteinProphetアルゴリズムを用いてペプチドを分類した)。
これら5つのタンパク質のIDを図8に示す。
タンパク質1を示す2つのペプチドは、免疫グロブリンα-1鎖C領域にも見られることから、タンパク質ID1と2は、実際は一つのID(免疫グロブリンα-1鎖C領域)を表す。
仮定タンパク質DKFZP686C02220は、固有のタンパク質である(実際上、一つのペプチドが固有であり、もう一つのペプチドはいくつかのタンパク質において見られる)。このタンパク質は、免疫グロブリンの典型的な特性を備え(InterProエントリーに関して)、もう一つのペプチドは免疫グロブリンα-2鎖C領域にも見られる。
タンパク質4及び5は、両ペプチドともにハプトグロビン前駆体に見られるので、一つのタンパク質ID(ハプトグロビン前駆体)を表すが、使用したアルゴリズムによると相当するペプチドは別々のタンパク質として分類された。
《ウエスタンブロッティングを用いたアポA-IVの確認》
前記14.6kDaの分子がアポA-IVの断片であることを確認するために、ウエスタンブロッティングを行った。
血漿サンプルをDDWで1:10に希釈し、Bradford色素結合法を用いて分析した(希釈したサンプルは適量に分注して扱うことができる)。
16%アクリルアミドゲル、1.5mm厚、10ウェル(NOVEX社)に、1レーンあたり20μgのサンプルを用いて(サンプルが変性させた一次抗体または二次抗体の場合は、1レーンあたり2μg)、1時間80V;1時間30分125VでSDS-PAGEを行った。これに続き、ニトロセルロース膜に1時間30分50Vでウエスタンブロッティングを行った。ブロットを以下の抗体:
抗ApoA-IV抗体(N末特異的)、Santa Cruz Biotechnology社
抗ApoA-IV抗体(C末特異的)、Santa Cruz Biotechnology社
を用いてプローブした。
両抗体ともに、ヒト由来のアポA-IVのアミノ末端(N末)またはカルボキシル末端(C末)付近に位置するペプチドに対して作製された、アフィニティー精製されたヤギ由来のポリクローナル抗体である。N末及びC末に対してプローブすることにより、アポA-IVタンパク質及び/またはアポA-IV断片を検出する可能性が増すであろうため、これらの抗体を選択した。
いくつかのバンドについて、アポA-IV特異的、且つADに特異的な可能性があることが分かった。これらのバンドは、対照サンプルまたはADサンプルに対する二次抗体のみの対照ブロットでは検出されない。
10-16kDa領域に見られるバンド3−6は、ADのバンド3−6に特異的であるが、変性させた抗アポA-IV抗体のレーンに見られるバンドと同じ位置にあるようにも見える。バンド3−6は、抗アポA-IV N末特異的抗体を用いたブロットでより強く検出されていることも分かる。
他に2つの重要なバンドが検出された。バンド1はおよそ45kDaの位置に検出され、全長の成熟型アポA-IVタンパク質に相当していると考えられる。バンド2はおよそ28kDaの位置に検出され、アポA-IVのN末断片であると考えられる。
《補因子Hの確認》
方法:
(サンプルの希釈)
血漿サンプルをリン酸緩衝食塩水(PBS)で1:8に希釈した。等量の2×Laemmliサンプルバッファーを加え、使用まで10分間ボイルした。
(ウエスタンブロッティング)
SDS電気泳動は、Fisher Scientific社の36ウェル、1.5mm厚のゲルを用いて行った(すべての溶液はNational Diagnostics社から購入した)。サンプルは4%濃縮ゲルを有する10%分離ゲルで分離した(すべての溶液はNational Diagnostics社から購入した)。サンプル(20μl)は、初めに30分間110Vで、その後、60分間150Vで色素の先端が泳動用バッファーにちょうど入り始めるまで分離した。セミドライ式転写機(Bio-Rad社)を用いて、45分間15VでゲルをPVDF膜(Amersham Biosciences社)へ転写した。その後、膜をPBS-Tweenで調製された5%ミルクでブロッキングし、4℃/オーバーナイトで補因子Hの一次抗体(Abcam社、UK)を用いてプローブした。バンドを化学発光ウエスタン検出キットECL+(Amersham Biosciences社)で検出し、膜をStorm蛍光スキャナー(Amersham Biosciences社)でスキャンした。免疫反応を示したバンドが139kDa(CFH:補因子H)に検出され、その光学密度をImage Quantソフトウェア(Amersham Biosciences社)を用いて定量した。統計解析ツールSPSSパッケージを用い、分布を利用しない(non-parametric)Mann-Whitney検定で解析した。
(結果)
NINCDS-ADRDA probable ADの128人、及び健常年配者対照の78人からの血漿サンプルから、ウエスタンブロッティングの結果を得た。ADに罹患した患者では、CFHに32%の増加があった(Mann-Whitney;表2)。
表2
Figure 0005893269
男性に対し、女性全体で相対的に高いCFH値を示すという性別差が見られた(p=0.05)。しかしながら、性別を分けて考慮したとしても、AD患者は対照と比較して高いCFHを示した(p<0.01;表3)。
表3
Figure 0005893269
受信者動作曲線(ROC)分析により、CFHは偶然ではない良い診断テストであることが示された。
ここで言及される参考文献は、すべて明白に参考文献に含まれる。
(参考文献)
Figure 0005893269
Figure 0005893269

Claims (27)

  1. 被験体においてアルツハイマー病を診断するために、前記被験体からの組織サンプルまたは体液サンプルにおいて一つ以上の差異的に発現するタンパク質の発現レベルを測定する方法であって、前記一つ以上のタンパク質は、図6、図7、図8または図12で示されたものより選択され、前記差異的に発現するタンパク質が登録番号P01023のα-2-マクログロブリン前駆体を含み、前記α-2-マクログロブリン前駆体が、健常状態における発現と比較して、アルツハイマー病状態で差異的に発現する、方法。
  2. アルツハイマー病の性質または程度を測定するためのデータを取得する、請求項1に記載の方法。
  3. 時間の経過にともなうアルツハイマー病の進行を測定するためのデータを取得する、請求項2に記載の方法。
  4. 測定と臨床情報の間の事前の相関関係を参考にして、α-2-マクログロブリン前駆体の発現レベルの測定とアルツハイマー病の進行とを関連づける工程;をさらに含む、請求項3に記載の方法。
  5. アルツハイマー病の重篤度を測定するためのデータを取得する、請求項4に記載の方法。
  6. 組織または体液サンプルは、血液、血漿、または血清サンプルである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 対照被験体のものと比較して、前記タンパク質の発現の増加を検出する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 対照被験体のものと比較して、前記タンパク質の発現の減少を検出する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
  9. 差異的に発現するタンパク質に対する特異的抗体を用いて、またはマススペクトロメトリー法により、前記タンパク質を検出する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 差異的に発現するタンパク質を二次元ゲル電気泳動を使用して検出する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
  11. 前記サンプルを固相支持体に固定化する、請求項9に記載の方法。
  12. 4つ以上の差異的に発現するタンパク質を検出することを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 前記差異的に発現するタンパク質が、図6、図7または図12に示される1つまたは複数の以下のタンパク質またはその断片:免疫グロブリンα-1鎖C、アポリポプロテインA-IV、補因子H、あるいは図6のスポット2に見られる血清アルブミン前駆体をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  14. アルツハイマー病を治療するのにおける有効性を判定するための薬剤のスクリーニング方法であって、以下の工程:
    (a)スクリーニングされる薬剤で治療を受けたアルツハイマー病症状を示す被験体由来のまたはそのような被験体を表す関連組織若しくは体液サンプルにおいて、差異的に発現するタンパク質の存在、非存在若しくは発現の程度を測定する工程
    (b)治療を受けたアルツハイマー病症状を示す被験者において、差異的に発現するタンパク質の発現、活性若しくは量を変化させる程度に従って、薬剤を選択または拒絶する工程を含み、
    前記差異的に発現するタンパク質が登録番号P01023のα-2-マクログロブリン前駆体である、方法。
  15. 前記差異的に発現するタンパク質の発現を、健常被験体のものに移行させる場合、その薬剤を選択する、請求項14に記載の方法。
  16. 前記タンパク質の発現を、健常被験体のものまで移行させる場合、その薬剤を選択する、請求項14に記載の方法。
  17. スクリーニングされる薬剤で治療を受けたアルツハイマー病症状を示す被験体由来のまたはそのような被験体を表す関連組織若しくは体液サンプルの、経時的に入手した、前記サンプル中の、前記差異的に発現するタンパク質の存在、非存在若しくは発現の程度を測定する工程;および
    治療を受けたアルツハイマー病症状を示す被験者において、差異的に発現するタンパク質の発現に経時的に変化をもたらす薬剤かどうかを測定する工程
    を含む、請求項14に記載の方法。
  18. 差異的なレベルのタンパク質発現を示す被験体は、
    (a)健常被験体とアルツハイマー病症状を示す被験体;並びに
    (b)前記薬剤で治療を受けていないアルツハイマー病症状を示す被験体と前記薬剤の治療を受けたアルツハイマー病症状を示す被験体;
    を含む、請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。
  19. 前記薬剤で治療を受けた及び受けていない健常被験体から得られたサンプルにおいて、差異的なレベルのタンパク質発現は観察されない、請求項18に記載の方法。
  20. アルツハイマー病症状を示す被験体は、アルツハイマー病に罹患したヒト患者である、請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。
  21. アルツハイマー病症状を示す被験体は、突然変異型アミロイド前駆体タンパク質(APP)トランスジェニックマウス、プレセニリン1(PS-1)トランスジェニックマウス、APP/PS-1ダブルトランスジェニックマウス、及び/またはグリコーゲンシンターゼキナーゼ・トランスジェニックマウスであり、健常被験体は野生型マウスである、請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。
  22. 組織または体液サンプルは、脳組織サンプルである、請求項21に記載の方法。
  23. 組織または体液サンプルは、血液、血漿、または血清サンプルである、請求項21に記載の方法。
  24. 差異的に発現するタンパク質は、図6、図7、図8及び図12に示される、登録番号P15924であるデスモプラキン以外の1つまたは複数のタンパク質、またはそのげっ歯類同等物をさらに含む、請求項14から23のいずれか一項に記載の方法。
  25. 前記差異的に発現するタンパク質が、図6、図7、図8または図12に示される1つまたは複数の以下のタンパク質またはその断片:アポリポプロテインA-IV前駆体、アポリポプロテインC-III前駆体、トランスシレチン、ガレクチン7、補体タンパクC4前駆体、ヒストン2B、免疫グロブリンλ鎖C領域、フィブリノーゲンγ鎖前駆体、補因子H、インター-α-トリプシン重鎖H4前駆体、補体タンパクC3前駆体、クラステリン前駆体、γ若しくはβアクチン、ハプトグロビン前駆体、または図6のスポット番号 No.2、14、15、123、165、176、184に見られる血清アルブミン前駆体アイソフォーム、またはそのげっ歯類同等物をさらに含む、請求項24に記載の方法。
  26. 前記断片はアポリポプロテインA-IVのアミノ酸270-309残基、または補体タンパクC4の1446-1744残基、またはそのげっ歯類同等物を含む、請求項25に記載の方法。
  27. 前記差異的に発現するタンパク質が、図6、図7または図12に示される1つまたは複数の以下のタンパク質またはその断片:α-2-マクログロブリン、免疫グロブリンα-1鎖C、アポリポプロテインA-IV、補因子H、あるいは図6のスポット2に見られる血清アルブミン前駆体の一つ以上、またはそのげっ歯類同等物をさらに含む、請求項25に記載の方法。
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