JP6947451B2 - バイオマーカー、診断用組成物、及び診断用キット - Google Patents
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急性脳症では、多くが死亡したり後遺症を生じたりするため、医学的、社会的に大きな問題を生じている。
しかしながら、AESD用の診断用マーカーは知られておらず、従来技術1の診断方法でも、一相性脳症とAESDとを区別することはできなかった。
このため、病初期にAESDであることを検出することは難しかった。
本発明の診断用組成物は、けいれん重積型(二相性)急性脳症を診断するための診断用組成物であって、α2−Macroglobulinのタンパク質に特異的に結合する抗体を含むことを特徴とする。
本発明の診断用キットは、けいれん重積型(二相性)急性脳症を診断するための診断用キットであって、α2−Macroglobulinのタンパク質に特異的に結合する抗体を含むことを特徴とする。
本発明の発明者らは、一相性脳症と、二相性のAESDとを病初期に判別するバイオマーカーを探索するため、鋭意実験を行った。その結果、髄液中に発現するタンパクのうち、いくつかのものの発現量が変化することを早期診断マーカーとして用いることで脳症を検出する方法を見いだし、本発明を完成するに至った。
患者の髄液中で、これらのタンパク質をバイオマーカーとして発現の定性、定量を行うことでAESDの早期診断、早期治療が可能となることが期待される。
本実施形態に係る脳症の検出方法の被験者は、急性脳症が疑われる患者であり、脳症非発症者、急性でない脳症発症者、及び脳症を引き起こす各種感染症の患者を含む。
本実施形態において、2D−DIGE法による急性脳症患者髄液を用いたプロテオーム解析により、初回けいれん後、早期に二相性の脳症を発症するリスクを判定するバイオマーカーを同定することが可能となった。
これにより、髄液内で変化している分子を測定することで、AESDの発症機序と病態を解明することが可能となる。
なお、本実施形態のプロテオーム解析として、その他の高性能な分析機器を駆使した解析法を用いてもよい。
また、本発明の実施の形態に係る脳症の検出方法は、指標として、Monocyte differentiation antigen CD14については発現量が増加し、Apolipoprotein E、Gelsolin、Clusterin、及びα2−Macroglobulinについては発現量が減少することに基づくことを特徴とする。
なお、本実施形態において、「一種以上」とは、各構成のうち一つ又は複数の組み合わせのいずれかであることを示す。すなわち、いずれか一つを用いてもよいし、これらのうち二つ〜全てについての任意の組み合わせを含む。
つまり、上述の脳症の検出方法の例においては、Monocyte differentiation antigen CD14、Apolipoprotein E、Gelsolin、Clusterin、及びα2−Macroglobulinからなる群のタンパク質については、一つ又は複数のタンパク質の組み合わせのいずれかの変動を検出する。
また、本発明の実施の形態に係るバイオマーカーとして、AESDで発現量が減少していたGelsolinは、細胞分化や接着、アポトーシスに関係しているタンパクである。
また、本発明の実施の形態に係るバイオマーカーとして、AESDで発現量が減少していたClusterin(以下、「CLU」と記載する。)は、免疫グロブリンや補体等と複合体を形成する糖タンパク質である。CLUは、脳を含む多くの組織で広く発現され、マクロファージの誘引、補体攻撃抑制、アポトーシス阻害、膜の再形成等に関連する。また、CLUは、けいれん誘発性の神経細胞障害に対する保護に関連している。
これに対して、本実施形態によれば、AESDの免疫学的応答の関与が機構のうちの1つであることを示唆した。すなわち、脳症の初期で大量のステロイドを投与するステロイドパルス療法及び免疫抑制療法により、AESDの2回目の発作を抑える療法の開発が期待できる。
一方、本実施形態によれば、AESDでは、発現量減少したタンパク質はアポトーシス、免疫学的応答及び神経修復に関係していた。このため、AESD患者においては、神経修復能力が他の脳症患者より低い可能性が示唆される。このため、各種の神経修復を促進する薬剤による治療により、AESDの後遺症を抑制することが期待できる。
なお、本実施形態のバイオマーカーは、患者がAESDを発症していることを確認する発症マーカー、又は患者がAESDを発症していないことを確認する健常マーカーのいずれとしても使用可能である。
また、本発明の実施の形態に係る診断用キットは、けいれん重積型(二相性)急性脳症を診断するための診断用キットであって、Monocyte differentiation antigen CD14、Apolipoprotein E、Gelsolin、Clusterin、及びα2−Macroglobulinからなる群の一種以上のタンパク質に特異的に結合する抗体を含むことを特徴とする。
これに対して本実施形態の診断用組成物、診断用キットにより、病初期の1回目のけいれん等の発作後に、髄液中のMonocyte differentiateon antigen CD14、Apolipoprotein E、Gelsolin、Clusterin、及びα2−Macroglobulinの一種以上の発現変化を診断し、早期治療を行うことで、予後の改善が得られる可能性がある。すなわち、髄液を取得して、本実施形態のバイオマーカーを計測することで、AESDの早期診断により適切な治療が行われ、後遺症が抑えられる可能性がある。
また、従来、AESDの治療は大量のステロイドを投与するステロイドパルス療法が適応であるものの、本実施形態の診断用組成物、診断用キットによりAESDでなく「一相性脳症」であると診断された場合、自然軽快が期待される。このため、副作用の可能性のあるステロイドパルス療法をしなくてもよくなる。
また、ELISA法は、検出対象タンパク質について、特異的に結合する一次抗体と、この一次抗体に特異的に結合し、かつ標識(ラベル)する二次抗体により検出する方式である。検出は、例えば、それぞれの基質を加えた後、蛍光若しくは化学発光物質または酵素反応による可視光を計測する。
このように、本実施形態のバイオマーカーを用いることで、効果がある化合物を容易にスクリーニングすることも可能となる。
(髄液サンプル)
対象は、患者の親権者のインフォームドコンセントを得たAESDが3例(年齢:11か月〜1歳3か月)の髄液(S1〜S3)であった。また、比較対象(control)は、一相性脳症が3例(年齢:11か月〜2歳0か月)の髄液(C1〜C3)であった。髄液は、初回けいれん後、10時間以内(2時間〜10時間)に採取した。髄液のタンパク濃度は採取直後に計測した。
各患者の臨床症状の特徴は、下記の表1の通りであった。
2D−DIGEに適したタンパク質サンプルとするため、タンパク質30μg分の髄液を2−D Clean−up Kit(GE Healthcare社製)を用いて、塩等の夾雑物を除去した。タンパク質サンプルは6μlのLysis Buffer[30mM Tris−HCl(pH 8.5),7M Urea,2M Thiourea,4%(w/v)CHAPS]で再溶解し、タンパク濃度5μg/μlとした。
蛍光試薬として、CyDye DIGE fluor minimal dye −for 2−D fluorescence difference gel electrophoresis(GE Healthcare社製)を用い、標準的なプロトコルに従って、タンパク質サンプルの蛍光標識を行った。各15μg(3μl)のタンパク質サンプルに対して、400pmolのCy3標識試薬乃至Cy5標識試薬を0.3μlずつ混合し、暗所、氷上で30分間静置して標識反応を行った。さらに内部標準として、全てのタンパク質サンプルから5μgずつ集めた内部標準サンプルプールを作製し、内部標準サンプル30μg(6μl)に対して、400pmolのCy2標準試薬を0.6μl混和し、同様に標識反応を行った。標識反応後のサンプルは、10mMリジンを蛍光標識試薬と等量添加し、氷上で10分以上静置して反応を停止した。
同一ゲルに添加するタンパク質サンプルを、下記の表2のように混合した。
標識反応後、混合した2D−DIGEサンプルは、2x sample buffer[7M Urea,2M Thiourea,4%(w/v)CHAPS,1%(v/v)IPG Buffer pH 3−11 NL(GE Healthcare社製), 2%(w/v)DTT]を添加し、氷上で10分間静置した。これに膨潤buffer[7M Urea,2M Thiourea,4%(w/v)CHAPS,0.5%(v/v)IPG Buffer pH 3−11 NL(GE Healthcare社製),0.2%(w/v)DTT,0.0004%BPB]を添加し、総タンパク質量150μgに対して、総液体量が350μlとなるように調整した。
このサンプルを固定化pH勾配(IPG)ゲルであるImmobiline Drystrip 18cm pH 3−11 NL(GE Healthcare社製)に添加し、等電点電気泳動を行った。等電点電気泳動には、Ettan IPGphor Isoelectric Focusing Unit(Amersham Biosciences社製)を用い、サンプルを添加したIPGゲルを20℃、12時間膨潤させた後、(1)500V,1時間、(2)1000V,1時間、(3)8000V,8時間のプログラムで37.5kVhrに達するまで泳動した。
等電点電気泳動を行ったIPGゲルは、SDS化/還元処理Buffer[50mM Tris−HCl,6M Urea,30%(v/v)Glycerol,1%(w/v)SDS,0.25%(w/v)DTT]中で、15分間、振盪した後、さらにSDS化/アルキル化処理Buffer[50mM Tris−Hcl,6M Urea,30%(v/v)Glycerol,1%(w/v)SDS,4.5%(w/v)Iodoacetamide,0.001%(v/v)BPB]中で15分間振盪し、SDS化と還元アルキル化を行った。
2次元目のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動には、SE600 Vertical Electrophoresis System(Hoefer社製)を用いた。無蛍光ガラスプレート(18cm×16cm)を用いて作製した12%SDS−ポリアクリルアミドゲル上に一次元展開したIPGゲルを設置し、0.5%アガロースゲルで封入した。(1)800V,20mA,15分間、(2)1000V,60mA,5時間のプログラムで、泳動の先端がゲルの底面に達するまで泳動を行った。
2D−DIGEゲルは、Typhoon 9410(Amersham Biosciences社製)を用いて、Cy2、Cy3、Cy5の蛍光色素に対応する励起光/蛍光フィルター(Excitation/Emission Cy2=488/522nm, Cy3=532/580 nm,Cy5=633/670nm)で蛍光標識タンパク質ゲル画像を取得した(Pixel Size=100μm)。
画像解析には、二次元電気泳動ゲル画像解析ソフトウェアであるProgenesis SameSpots(Nonlinear Dynamics社製)を用い、ゲル画像の歪み補正とゲル間のスポットマッチングを行った。スポットマッチングとは、複数のゲルで同一位置に存在するスポットを検出することであり、対応するスポットがないものや適切なスポットの形態をなしていないものは解析から除外した。最終的にすべてのスポットについて、適切なマッチングができているか手動で確認した。そして、すべてのゲル画像に共通して存在するスポットを同定し、内部標準サンプルを介した定量値の標準化、Anovaによる有意差検定を行った。
2D−DIGE解析に使用したサンプルと同様に調整したタンパク質サンプル150μgを用いて、上述の方法で二次元電気泳動を行い、質量分析用ゲルを作成した。質量分析用ゲルは、固定液[40%(v/v)ethanol、10%(v/v)acetic acid]中で18時間振盪し、固定した後、Flamingo Fluorscent Gel Stain(Bio−Rad Laboratories社製)染色液(1x)中で3時間、遮光、振盪して、染色した。次に染色後の質量分析用ゲルから、FluoroPhorestar 3000(Anatech社製)を用いて、タンパク質スポットの切り出しを行った。発現差異のあったタンパク質スポットを直径1.8mmのゲルピッカーで切り出し、回収した。ゲル片は超純水とアセトニトリルで洗浄した後、減圧下で乾燥させた。次にゲル片に10mM DTT/100mM NH4HCO3溶液を加え、56度で45分間反応させた後、55mM Iodoacetamide/100mM NH4HCO3溶液を加え、室温で30分間反応させ、還元アルキル化を行った。ゲル片を再度、超純水、アセトニトリル、100mM NH4HCO3で洗浄、乾燥させた後、トリプシン溶液(12.5ng/μl トリプシン、50mM NH4HCO3)を添加し、氷上で45分間静置した。続いて溶液を除去し、50mM NH4HCO3を加えて、37℃で16時間反応させた。トリプシンによってゲル内で消化されたペプチド断片は、25mM NH4HCO3、アセトニトリル、5%(v/v)ギ酸で回収し、減圧下で乾燥させた。
ペプチド断片抽出液は、液体クロマトグラフ/タンデム質量分析装置として高速液体クロマトグラフ Paradigm MS4(Michrom BioResources社製)及び質量分析装置 Finnigan LTQ(Thermo Fisher Scientific社製)を使用して、抽出液に含まれるペプチド断片の質量分析を行った。サンプルは、トラップカートリッジ(Peptide Cap Trap, Michrom BioResources社製)によりオンラインで脱塩・濃縮処理を行った後、LC部に導入した。LC部では、流速150μl/minで、固定相にL−column Micro(0.1×50mm、3μm、12nm、化学物質評価研究機構社製)、移動相にA溶媒(2%アセトニトリル、0.1%ギ酸)とB溶媒(90%アセトニトリル、0.1%ギ酸)を使用し、B溶媒の濃度を5%(0min)から45%(20min)まで直線勾配で上げ、ペプチド断片を連続的に溶出した。ペプチド断片は、MS部において、エレクトロスプレー法によるイオン化を行った後、イオントラップによって分離し、MSスペクトル(質量範囲m/z 450−2000)を取得した。さらに特定のm/zのイオン(プリカーサーイオン)を選択し、このイオンの衝突誘起解離によって生じるプロダクトイオンのMS/MSスペクトル(MS/MS解析)を取得した。得られたMSスペクトル及びMS/MSスペクトルについては、タンパク質同定解析ソフトMASCOTTM(Matrix Science社製)に供し、MS/MS ion searchによるタンパク質同定を行った。なおタンパク質データベースとして、Swiss−Protを使用した。
同定タンパク質をAESDで増加したタンパク質、減少したタンパク質に分け、Scaffold(Proteome Software, Inc., http://www.proteomesoftware.com)を用いて、GO(Gene Ontology)解析を行いこれらがどのような機能、特徴を有するかを検討し、バイオマーカーの候補となるタンパク質を抽出した。
(2D−DIGEを用いた網羅的なタンパク質発現解析と有意差を示すタンパク質スポットの同定)
図1に示すように、上記方法にてAESD症例の髄液、一相性脳症症例の髄液から抽出したタンパク質を2D−DIGEによって分離し、Cy2、Cy3、Cy5の蛍光色素に対応する励起画像を取得した結果、それぞれのゲル画像においてタンパク質スポットを検出した。この検出スポットについて、スポットマッチングを行い、すべてのゲル画像において共通して存在するタンパク質スポット(マッチングスポット)を1163個同定した。
このマッチングスポットについて、発現差異解析を行ったところ、AESDと一相性脳症との間に1.3倍以上の発現量の有意差を認めたタンパク質スポットを21個同定した。また、目視で2群に差があると思われたタンパク質スポットを2個、計23個を同定した。
発現差異を認めたタンパク質スポットについては、質量分析用ゲルからスポットの切り出しを行い、LC−MS/MSとMS/MS ion researchによるタンパク質同定を行った。発現差異を認めた23個のタンパク質スポットのうち、16個のスポットで解析が可能であった。同定したタンパク質の重複を除いた11種類のタンパク質について、解析ソフトウェア「Scaffold」を用いてGO解析を行った。7種類はAESDで発現が増加し、他の4種類のタンパク質はAESDで発現が減少していた。
これらのタンパク質、発現増加の割合、anovaの算出結果等を、下記の表3に示す:
また、AESDで低下したタンパク質は、Apolipoprotein E(図1の符号a、UniProtKB/Swiss−Prot:P02649)、Gelsolin(図1の符号b、UniProtKB/Swiss−Prot:P06396)、Clusterin(図1の符号c、UniProtKB/Swiss−Prot:P10909)、α2−Macroglobulin(図1の符号d、UniProtKB/Swiss−Prot:P01023)であった。
いずれのタンパク質も細胞外に局在する性質を有した。特にAESDで上昇したタンパク質群は、炎症(免疫応答)に関連するタンパク質であった。一方、AESDで低下するタンパク質群として、GSN(Gelsolin)は繊毛形成に関与し、CLU(Clusterin)は細胞外シャペロンとして働き、ストレス誘導性のタンパク質凝集を阻害する。ApoE(Apolipoprotein E)は抗酸化作用を示し、アミロイドβやtauの重合を阻害する。A2M(α2−Macroglobulin)はプロテアーゼの阻害作用を有する。興味深いことにApoEとA2Mは同じレセプターLRP−1(UniProt ID: Q07954)を共有している。LRP−1は肝臓、肺臓以外に脳にも多く発現しており、神経機能にも関与している。
Claims (3)
- けいれん重積型(二相性)急性脳症の診断用のバイオマーカーであって、
髄液中のα2−Macroglobulinのタンパク質マーカーである
ことを特徴とするバイオマーカー。 - けいれん重積型(二相性)急性脳症を診断するための診断用組成物であって、
α2−Macroglobulinのタンパク質に特異的に結合する抗体を含む
ことを特徴とする診断用組成物。 - けいれん重積型(二相性)急性脳症を診断するための診断用キットであって、
α2−Macroglobulinのタンパク質に特異的に結合する抗体を含む
ことを特徴とする診断用キット。
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