以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
図1は、本実施形態に係るオイルリングの斜視図である。また、図2は、本実施形態に係るオイルリングの分解斜視図である。オイルリング1は、図1及び図2に示されるように、合口部4が形成された環状の本体部2と、本体部2の内周面2a側に沿って設けられる環状のコイルエキスパンダ3とを備えた、いわゆる2ピースオイルリングである。
このオイルリング1は、例えば自動車の内燃機関におけるピストンの外周面に設けられたリング溝に組み付けられて使用される。オイルリング1の本体部2は、コイルエキスパンダ3の接線張力によりシリンダ内壁と略一定の圧力にて接する。そして、オイルリング1は、ピストンの駆動に併せて本体部2が有する第1及び第2のレール部11,12(詳細は後述する)の間の潤滑油をシリンダ内壁に塗布すると共に、余剰な潤滑油を第1のレール部11及び第2のレール部12によって掻き落し、適切な厚さの油膜をシリンダ内壁に形成する機能を奏するようになっている。
本体部2は、例えば複数の金属元素を含有する鋳鉄或いは鋼材によって十分な強度、耐熱性、及び弾性をもって形成されている。また、本体部2の外周面2b等には、例えば硬質クロムめっき層、クロムの窒化物層、或いは鉄の窒化物層などによる表面改質が施され、本体部2の耐摩耗性の向上が図られている。
オイルリング1における本体部2は、オイルリング1の幅方向において互いに対向する環状の第1のレール部11及び第2のレール部12と、第1及び第2のレール部11,12の中央部同士を結ぶ環状の柱部13とを有している。本体部2における第1及び第2のレール部11,12は、柱部13と一体形成されており、第1及び第2のレール部11,12の厚さは、柱部13の厚さよりも大きくなっている。なお、本体部2の内周面2aは、コイルエキスパンダ3が収容されるように柱部13側に略曲面状に窪んだ形状となっている(図4を参照)。
柱部13の幅方向における中央部には、複数の通油孔14がオイルリング1の周方向に沿って並んで設けられている。複数の通油孔14のそれぞれの周方向に沿った断面形状は、略楕円形状となっている。複数の通油孔14は、例えば切削又はレーザによる穿孔によって形成される。これら複数の通油孔14を通過する潤滑油は、柱部13よりも内周側から外周側に供給されると共に、柱部13よりも外周側から内周側に戻される。
図3は、本発明の実施形態に係るオイルリングの合口部を示す要部拡大斜視図であり、図4は、本発明の実施形態に係るオイルリングの一方の合口端部を示す要部拡大斜視図であり、図5は、本発明の実施形態に係るオイルリングがピストンに組み付けられたときの合口部を示す要部拡大側面図である。
合口部4は、図3〜図5に示されるように、本体部2の一部を切り欠いて形成された部分であり、オイルリング1の組み付け容易性の確保を目的として設けられている。一方の合口端部31と他方の合口端部32とは、図3に示されるように、オイルリング1をピストンに取り付ける前の合口部4において、所定の間隔をもって互いに対向した状態となっている。
この合口部4において、図3等に示されるように、本体部2の第1のレール部11側には、一方の合口端部31から他方の合口端部32に向かって突出する第1の突出部33と、他方の合口端部32において第1の突出部33を受ける第1の受け部34とが設けられている。また、本体部2の第2のレール部12側には、他方の合口端部32から一方の合口端部31に向かって突出する第2の突出部35と、一方の合口端部31において第2の突出部35を受ける第2の受け部36とが設けられている。
より具体的には、第1の突出部33では、第1のレール部11が一方の合口端部31から断面略矩形状に突出した状態となっており、第1の受け部34では、他方の合口端部32において第1のレール部11及び柱部13が第1の突出部33の突出量に対応して切り欠かれた状態となっている。
同様に、第2の突出部35では、第2のレール部12が他方の合口端部32から断面略矩形状に突出した状態となっており、第2の受け部36では、一方の合口端部31において第2のレール部12及び柱部13が第2の突出部35の突出量に対応して切り欠かれた状態となっている。
また、図3等に示されるように、本体部2の内周面2a側且つ第1のレール部11側には、第1の突出部33から第1の受け部34に向かって突出する第1のオス部37と、第1の受け部34において第1のオス部37を受ける第1のメス部38とが設けられている。また、本体部2の内周面2a側且つ第2のレール部12側には、第2の突出部35から第2の受け部36に向かって突出する第2のオス部39と、第2の受け部36において第2のオス部39を受ける第2のメス部40とが設けられている。
より具体的には、第1のオス部37では、第1の突出部33の内周面2a側且つ第1のレール部11側の略半分が、断面略矩形状に突出した状態となっており、第1のメス部38では、第1の受け部34の内周面2a側且つ第1のレール部11側の略半分が、第1のオス部37の形状に対応した形状に沿って切り欠かれた状態となっている。
同様に、第2のオス部39では、第2の突出部35の内周面2a側且つ第2のレール部12側の略半分が、断面略矩形状に突出した状態となっており、第2のメス部40では、第2の受け部36の内周面2a側且つ第2のレール部12側の略半分部分が、第2のオス部39の形状に対応した形状に沿って切り欠かれた状態となっている。
また、図3等に示されるように、本体部2の外周面2b側には、第1の突出部33の先端側から第2のレール部12側に向かって突出する第1の爪部41が設けられており、第2の突出部35の先端側から第1のレール部11側に向かって突出する第2の爪部42が設けられている。図5に示されるように、第1の爪部41と第2の爪部42とは、本体部2が周方向に広がったとき等に、互いに係合可能に設けられている。このとき、第1の爪部41の先端部41aと第2の爪部42の先端部42a同士のみが、互いに係合可能に設けられていることが好ましい。
より具体的には、図4に示されるように、第1の爪部41では、柱部13の内周面13aよりも外周側に位置する第1の突出部33の先端側が、断面略矩形状に折れ曲がった状態となっている。すなわち、第1の爪部41の幅は、柱部13の内周面13aから本体部2の外周面2bまでの厚さ方向における長さと略一致している。第1の爪部41は、図5に示されるように、第1の突出部33となす角度θ1が略90°となるように折れ曲がっている。角度θ1は、直角に限らず鋭角であってもよい。
同様に、第2の爪部42では、柱部13の内周面13aよりも外周側に位置する第2の突出部35の先端側が、断面略矩形状に折れ曲がった状態となっている。すなわち、第2の爪部42の幅も、柱部13の内周面13aから本体部2の外周面2bまでの厚さ方向における長さと略一致している。図5に示されるように、第2の爪部42は、第2の突出部35となす角度θ2が略90°となるように折れ曲がっている。角度θ2は、直角に限らず鋭角であってもよい。また、角度θ1と角度θ2とは、互いに同じ角度でもよいし、互いに異なった角度でもよい。
コイルエキスパンダ3は、図2に示されるように、環状に設けられたバネ状の部品であり、例えば油焼き入れされたバネ鋼等の線材によって形成される。コイルエキスパンダ3には、樹脂チューブ(封止用樹脂チューブ)21が設けられている。この樹脂チューブ21は、耐油性、耐熱性、及び強度に優れた樹脂材料(例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等)から形成されるものであり、コイルエキスパンダ3の一部を覆っている。
樹脂チューブ21は、図5に示されるように、オイルリング1がピストンに組み付けられた際に、本体部2に設けられた合口部4を本体部2の内周面2a側から封止する。より具体的には、樹脂チューブ21の長さLは、本体部2が周方向に広がり第1の爪部41と第2の爪部42とが互いに係合したときに、柱部13の端面13b,13c間に形成される空間を封止可能な長さになっている。すなわち、樹脂チューブ21の長さLは、第1の爪部41と第2の爪部42とが互いに係合したときにおける柱部13の端面13b,13c間の周方向に沿った間隔以上になっている。本実施形態では、樹脂チューブ21の長さLは、本体部2において一方の合口端部31に最も近い通油孔14の合口反対側の縁から、他方の合口端部32に最も近い通油孔14の合口反対側の縁までの周方向に沿った長さ以上になっている。また、樹脂チューブ21の直径は、幅方向における第1のレール部11と第2のレール部12との間の長さ以上になっている。
次に、図6(a)〜(d)を参照しながら、本実施形態に係るオイルリング1の本体部2における合口部4の形成方法の一例を説明する。図6(a)〜(d)は、本発明の実施形態に係るオイルリングの一方の合口端部の形成方法を説明する概略図である。まず図6(a)に示されるように、合口部4となる本体部2の一部を切り欠いた後、一方の合口端部31における第2のレール部12及び柱部13の一部を、線D1に沿って除去する。例えば、本体部2の外周面2b側からレーザを用いた切断又は放電加工によって、第2のレール部12及び柱部13の一部を除去する。これにより、一方の合口端部31に第1の突出部33及び第2の受け部36を形成する。図6(a)において除去された第2のレール部12及び柱部13は、仮想線によって示されている。
次に、図6(b)に示されるように、一方の合口端部31における第2のレール部12の一部を、線D2に沿って除去する。例えば、第2のレール部12側からレーザを用いた切断又は砥石による切断によって、第2のレール部12の一部を除去する。これにより、第2の受け部36に第2のメス部40を形成する。図6(b)において除去された第2のレール部12は、仮想線によって示されている。
次に、図6(c)に示されるように、第1の突出部33の先端から第1の突出部33の中央部付近まで周方向に沿った切れ目D3を形成した後、図6(d)に示されるように、本体部2の外周側における第1の突出部33の先端側を第2のレール部12側に向けて折り曲げる。これにより、第1の突出部33の先端側において、内周側に第1のオス部37を形成し、外周側に第1の爪部41を形成する。ここで、図6(c)に示されるように、切れ目D3における第1の突出部33の基端側の端部D31に円弧処理を施すことにより、後の折り曲げ加工が容易になる。以上に説明した方法を他方の合口端部32に適用することによって、本実施形態に係るオイルリング1の合口部4を形成できる。
以上のような方法によって形成される合口部4の構成を有するオイルリング1では、合口部4において、第1の突出部33の先端側から第2のレール部12側に向かって突出する第1の爪部41と、第2の突出部35の先端側から第1のレール部11側に向かって突出する第2の爪部42とが設けられている。これにより、合口部4の外周面2b側では、図7に示されるように、第1の突出部33における内面33a、第2の爪部42における先端部42a、第1の爪部41における第2の爪部42との対向面41b、第2の爪部42における第1の爪部41との対向面42b、第1の爪部41における先端部42a、及び第2の突出部35における内面35aによってクランクC1が形成されている。したがって、合口部4を流れる潤滑油はクランクC1を蛇行することとなり、合口部4における潤滑油の流れを十分に抑制できる。
また、第1の爪部41及び第2の爪部42は、本体部2が周方向に広がったとき等に、互いに係合可能に設けられている。このような構成により、第1の爪部41及び第2の爪部42が、オイルリング1をピストンに組み付けるときに互いに係合することでオイルリング1の拡張を抑制することができるので、オイルリング1のピストンへの組み付け性を向上することができる。
また、オイルリング1では、本体部2の第1のレール部11側且つ内周面2a側に第1のオス部37及び第1のメス部38が設けられている。このような構成により、合口部4の第1のレール部11側では、図8に示されるように、第1の受け部34における先端面34a、第1の突出部33における上記先端面34aとの対向面33b、第1の受け部34における第1のオス部37との対向面34b、第1のオス部37における第1の受け部34との対向面37a、第1のメス部38における先端面38a、及び第1のオス部37における先端面37bによってクランクC2が形成されている。さらに、オイルリング1では、本体部2の第2のレール部12側且つ内周面2a側に第2のオス部39及び第2のメス部40が設けられている。このような構成により、合口部4の第2のレール部12側では、第2の受け部36における先端面36a、第2の突出部35における上記先端面36aとの対向面35b、第2の受け部36における第2のオス部39との対向面36b、第2のオス部39における第2の受け部36との対向面39a、第2のメス部40における先端面40a、及び第2のオス部39における先端面39bによってクランクC3が形成されている。これらのクランクC2,C3がオイルリング1の使用時に閉鎖されることで、オイルリング1の厚さ方向に流れる潤滑油を遮断できる。
また、第1の爪部41は、柱部13の内周面13aよりも外周側に位置する第1の突出部33の先端側が折れ曲がることによって形成され、第2の爪部42は、柱部13の内周面13aよりも外周側に位置する第2の突出部35の先端側が折れ曲がることによって形成されている。これにより、第1の爪部41及び第2の爪部42の厚さを十分に確保でき、これらの強度を担保できる。
また、第1の爪部41の先端部41a及び第2の爪部42の先端部42a同士のみが、互いに係合可能となっている。これにより、幅方向において第1の爪部41及び第2の爪部42の長さを抑えることができ、オイルリング1がピストンへ組み付けられやすくなる。
また、第1の突出部33と第1の爪部41とがなす角度θ1、及び第2の突出部35と第2の爪部42とがなす角度θ2が鋭角であることが好ましい。これにより、クランクC1による潤滑油の蛇行の程度が大きくなり、潤滑油の流れの抑制効果を向上できる。
また、オイルリング1は、合口部4を本体部2の内周面2a側から封止する樹脂チューブ21を有し、本体部2の内周面2a側に沿って設けられる環状のコイルエキスパンダ3を備えている。そして、樹脂チューブ21は、本体部2が周方向に広がり第1の爪部41と第2の爪部42とが互いに係合するときに、柱部13の端面間に形成される空間Sを封止可能な長さLで設けられている。この場合、樹脂チューブ21によって合口部4を本体部2の内周面2a側から封止できる。したがって、合口部4において本体部2の内周面2a側から外周面2b側に流れる潤滑油を樹脂チューブ21によって遮断できる。また、樹脂チューブ21で合口部4を封止することによって、コイルエキスパンダ3による合口部4周辺の本体部2の摩耗を抑制することができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば、樹脂チューブ21は、第1の突出部33が第1の受け部34に突き当たると共に第2の突出部35が第2の受け部36に突き当たるときに柱部13の端面13b,13c間に形成される空間Sを封止可能な長さLで設けられてもよい。すなわち、樹脂チューブ21の長さLは、第1の爪部41と第2の爪部42とが互いに係合したときにおける柱部13の端面13b,13c間の周方向に沿った間隔以上であって、本体部2において一方の合口端部31に最も近い通油孔14の合口側の縁から、他方の合口端部32に最も近い通油孔14の合口側の縁までの周方向に沿った長さ以下であってもよい。この場合であっても、樹脂チューブ21による合口部4の封止効果が奏される。
また、上記実施形態では、合口部4において、第1のレール部11側に第1のオス部37及び第1のメス部38が設けられ、第2のレール部12側に第2のオス部39及び第2のメス部40が設けられているが、例えば図9に示されるように、第1の突出部33の先端部及び第1の受け部34の先端部のそれぞれが平坦に形成されていてもよい。同様に、第2のレール部12側における第2の突出部35の先端部及び第2の受け部36の先端部のそれぞれが平坦に形成されていてもよい。この場合、合口部4が簡易な構成になる。
また、例えば第1の爪部41は、第1の突出部33において第1のオス部37よりも外周側に位置する先端側が折れ曲がることによって形成されていてもよい。同様に、第2の爪部42は、第2の突出部35において第2のオス部39よりも外周側に位置する先端側が折れ曲がることによって形成されていてもよい。