以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、トラックやバスなどに適用される重荷重用ラジアルタイヤを示している。なお、符号CLは、タイヤ赤道面である。
この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16とを備える(図1参照)。一対のビードコア11、11は、環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、アッパーフィラー121およびローアーフィラー122から成り、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。カーカス層13は、単層構造を有し、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。ベルト層14は、積層された一対のベルトプライ141〜143から成り、カーカス層13のタイヤ径方向外周に配置される。これらのベルトプライ141〜143は、スチール材あるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードを配列して圧延加工して構成され、ベルトコードをタイヤ周方向に相互に異なる方向に傾斜させることによりクロスプライ構造を構成する。トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。
また、空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に延在する複数の周方向主溝21、22と、これらの周方向主溝21、22に区画されて成る複数の陸部31〜33とをトレッド部に備える。この実施の形態では、タイヤ幅方向の最も外側にある周方向主溝22が最も深い溝深さを有し、この周方向主溝22により、セカンド陸部32とショルダー陸部33とが区画されている。なお、周方向主溝とは、溝深さ8mm以上の周方向溝をいう。
また、この空気入りタイヤ1は、細溝4および細リブ5を有する。細溝4は、タイヤ接地端の近傍に配置されて、ショルダー陸部33の縁部に沿ってタイヤ周方向に延在する。細リブ5は、細溝4により区画されたリブである。かかる構成では、タイヤ転動時にて、細リブ5が接地して積極的に摩耗することにより、ショルダー陸部33の偏摩耗が抑制される。
[水飛沫抑制用のフィン]
図2および図3は、図1に記載した空気入りタイヤのフィンを示す拡大図(図2)および斜視図(図3)である。これらの図は、フィンが1段目の嵌合部に設置されたときの様子を示している。なお、フィンの断面には、ハッチングを付してある。
また、空気入りタイヤ1は、水飛沫抑制用のフィン6を備える(図2および図3参照)。このフィン6は、タイヤ左右のバットレス部のうち少なくとも車両装着状態にて車幅方向外側に位置するバットレス部に配置される。また、フィン6は、バットレス部のプロファイルからタイヤ幅方向に突出した形状を有し、タイヤ径方向外側(タイヤ接地端側)の壁面とタイヤ径方向内側(サイドウォール部側)の壁面とを有する。また、フィン6は、タイヤ全周に渡って連続的に延在する環状かつリブ状の構造を有する。
なお、バットレス部とは、タイヤ接地端とタイヤ最大幅位置との間にある側壁部をいう。また、フィン6は、後述するように、タイヤ加硫成形後に、バットレス部に対して着脱可能に配置される。
また、フィン6の形状および位置が、以下のように設定される。
まず、タイヤ子午線方向の断面視にて、タイヤ接地端をAとする。また、タイヤ接地端Aからフィン6に接線lを引き、この接線lとフィン6との接点をBとする。また、タイヤ軸方向に対する接線lの傾斜角をθとする。また、最も深い周方向主溝(ここでは、タイヤ幅方向の最も外側にある周方向主溝22)の溝底からトレッド面のプロファイルに平行な曲線mを引き、この曲線mとタイヤの側壁面との交点をPとする。
このとき、フィン6の頂部が円弧形状の輪郭線を有し、この頂部の円弧上に接点Bが位置する。また、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面が、接線lに対してタイヤ内側に凹となる。これにより、タイヤ接地端Aから接点Bに向かうに連れてタイヤ軸方向に湾曲あるいは屈曲する側壁面が形成される。なお、この実施の形態では、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面とバットレス部のプロファイルとがタイヤ内側に凹む円弧形状の輪郭線を介して滑らかに接続されている。
また、接線lの傾斜角θが、θ<45[deg]の範囲内にあり、より好ましくは、32[deg]≦θ≦37[deg]の範囲内にある。また、フィン6とバッドレス部のプロファイルとの交点(フィン6の根元のタイヤ径方向外側の端部)が、交点Pよりもタイヤ径方向内側の壁面に配置される。また、フィン6が、タイヤ最大幅を超えないように、フィン6の配置位置および高さHが調整される。これらにより、フィン6の形状および位置が適正化される。なお、フィン6の高さHは、バットレス部のプロファイルを基準として測定される。
なお、タイヤ接地端とは、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に静止状態にて平板に対して垂直に置かれて規定荷重に対応する負荷を加えられたときのタイヤと平板との接触面におけるタイヤ軸方向の端部をいう。
また、タイヤのトレッド端とは、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に無負荷状態とされたときのタイヤのトレッド模様部分の両端部をいう。
また、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
[フィンの着脱構造]
図4は、図2に記載したフィンの設置状態を示す説明図である。同図は、フィンが2段目の嵌合部に設置されたときの様子を示している。
一般的な水飛沫抑制用のフィンを有する空気入りタイヤでは、タイヤの摩耗進行によりフィンと路面との距離が減少すると、例えば、フィンの水没などにより、フィンの水飛沫抑制効果が低下するおそれがある。
そこで、この空気入りタイヤ1は、タイヤの摩耗進行後にもフィンの水飛沫抑制効果を維持するために、以下の構成を採用する。
すなわち、この空気入りタイヤ1では、フィン6が、バットレス部の全周に渡って延在し、また、バットレス部に形成された嵌合部7に嵌め合わされて設置される(図1〜図4参照)。したがって、フィン6が、タイヤ本体から独立した部品であり、個別に製造されてバットレス部に装着される。
例えば、この実施の形態では、フィン6が、円環形状を有し、一方(バットレス部側)の端面に凸部61を有する。また、凸部61が、フィン6の全周に渡って延在するリブ状構造を有し、一様な形状、高さおよび幅を有する。また、凸部61が、根元をフィン6の径方向(タイヤ径方向)に窄めたジグゾーパズル状の輪郭を有する。また、嵌合部7が、バットレス部の壁面に形成された凹部71から成る。具体的には、凹部71が、バットレス部の全周に渡って延在する環状溝であり、フィン6の凸部61に合致した一様な溝形状、溝深さおよび溝幅を有する。そして、フィン6が、凸部61を凹部71に挿入して嵌合部7に嵌合することにより、バットレス部の壁面に固定される。また、凸部61の全体が凹部71に挿入されることにより、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面とバットレス部のプロファイルとが接続する。
また、複数段の嵌合部7が、タイヤ径方向の相互に異なる位置に配置される。これらの嵌合部7のうちタイヤ径方向の最も外側にある嵌合部7を1段目の嵌合部と呼び、以下、タイヤ径方向内側に向かって順に2段目の嵌合部、3段目の嵌合部、・・・、N段目(最終段)の嵌合部と呼ぶ。
例えば、この実施の形態では、嵌合部7として、3つの凹部71がバットレス部に形成される。また、これらの凹部71が、相互に異なる径を有する環状溝から成り、タイヤ回転軸に対して同心に配置される。このため、タイヤ子午線方向の断面視にて、これらの凹部71が、バットレス部の壁面に沿ってタイヤ径方向に所定間隔で配列される。
また、各嵌合部7に対応するフィン6が、それぞれ用意される。具体的には、フィン6が、周方向に連続した単一構造の環状部材から成り、複数段の嵌合部7のうちのいずれか一つの嵌合部7に合致する径を有する。
例えば、この実施の形態では、3つのフィン6が、3つの凹部71に対応してそれぞれ用意される。これらのフィン6は、相互に異なる径を有し、その凸部61をいずれか一つの凹部71に嵌め合わせて設置される。図2および図3では、フィン6が、タイヤ径方向の最も外側にある凹部71に設置されている。また、他の2つの凹部71には、フィン6が設置されていない。なお、タイヤ径方向外側の凹部71に嵌合するフィン6ほど、大きな径を有する。
図5および図6は、図2に記載したフィンの作用を示す説明図である。これらの図は、湿潤路走行時におけるフィンの水飛沫抑制作用を示している。また、図5は、タイヤ新品時(フィンを1段目の嵌合部に設置したとき)の様子を示し、図6は、摩耗中期(フィンを2段目の嵌合部に設置したとき)の様子を示している。
この空気入りタイヤ1では、湿潤路走行時にて、フィン6が飛散する水飛沫をタイヤ幅方向にガイドして水飛沫の飛散高さを抑制する(図5および図6参照)。これにより、隣接車線や対向車線を走行する他の車両への水飛沫の影響(乗用車のフロントガラスに水飛沫が飛散してドライバーの視界を遮ること)が抑制される。
また、タイヤ新品時には、1段目の嵌合部7にフィン6が設置される(図5参照)。そして、このフィン6が機能して、水飛沫の飛散高さが抑制される。次に、摩耗が進行して摩耗中期となると、路面からフィン6までの距離が短くなる。そこで、1段目の嵌合部7からフィン6が取り外されて、2段目の嵌合部7に新たなフィン6が設置される(図4および図6参照)。そして、このフィン6が機能して、水飛沫の飛散高さが抑制される。さらに、摩耗末期となり、路面からフィン6までの距離がさらに短くなると、2段目のフィン6が取り外されて、3段目の嵌合部7に新たなフィン6が設置される(図示省略)。そして、このフィン6が機能して、水飛沫の飛散高さが抑制される。このように、フィン6が3段の嵌合部7に対して順次設置されることにより、路面からフィン6までの距離が適正化される。これにより、タイヤ新品時から摩耗末期に至るまでのタイヤの全使用期間を通じて、フィン6による水飛沫抑制機能を確保できる。
[変形例]
図7〜図9は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。これらの図において、図7および図8は、フィンおよび嵌合部の変形例を示し、図9は、フィンの設置位置を変更するときの変形例を示している。
図1の空気入りタイヤ1では、フィン6が、1つの凸部61を有し、この凸部61を凹部71に嵌め込んで配置される(図2および図4参照)。しかし、これに限らず、フィン6が一対の凸部61、61を有し、これらの凸部61、61を異なる凹部71、71にそれぞれ嵌め込んで配置されても良い(図7参照)。かかる構成では、1つのフィン6が2つの凸部61、61を介して支持されるので、フィン6の抜け落ちが効果的に抑制される。
また、図1の空気入りタイヤ1では、凸部61が、フィン6の全周に渡って延在するリブ状形状を有し、また、フィン6の周方向に一様な断面形状を有する(図示省略)。しかし、これに限らず、凸部61が、フィン6の周方向に所定間隔で配置された複数の突起部から構成されても良い(図示省略)。この場合には、凹部71が、各凸部61に対応して配置された複数の窪みから構成される。
また、図1の空気入りタイヤ1では、凸部61が、円形状の頂部を有する(図4参照)。かかる構成では、凸部61を凹部71に対して容易に嵌め込めるので、フィン6の着脱が容易な点で好ましい。しかし、これに限らず、凸部61が、半円形の頂部を有しても良いし(図8参照)、多角形(三角形、四角形、ひし形など)の頂部を有しても良い(図示省略)。
また、図1の空気入りタイヤ1では、凸部61が根元を窄めた形状を有し、この凸部61に対応して、凹部71が開口部を窄めた形状を有する(図4参照)。これにより、凸部61が凹部71から抜け落ち難い構造を有している。また、凸部61が根元をタイヤ径方向に窄めた形状を有することにより、特に、フィンと縁石との接触時におけるフィンの抜け落ちが効果的に抑制される。
また、このとき、凸部61の最大幅W1と、窄まった根元部の最小幅W2とが、0.5≦W2/W1≦0.8の関係を有することが好ましい(図4参照)。これにより、フィン6の着脱性を確保しつつ、フィン6の抜け落ちを効果的に抑制できる。
また、図1の空気入りタイヤ1では、フィン6の凸部61と嵌合部7の凹部71とが嵌合することにより、フィン6が嵌合部7に対して着脱可能に設置される(図4参照)。そして、フィン6の設置位置を変更する場合には、最前段(路面に最も近い側)のフィン6が嵌合部7から取り外されて、後段の嵌合部7に他の新たなフィン6が設置される。しかし、これに限らず、前段のフィン6から凸部61を切り離してフィン6を取り外し、この凸部61を凹部71に残存させても良い(図9参照)。かかる構成では、残存した凸部61が凹部71を埋めるので、その後段にあるフィン6の水飛沫抑制作用が向上する。また、残存した凸部61が凹部71を塞ぐことにより、バットレス部の剛性が補強されて、フィン6の抜け落ちが抑制される。なお、前段のフィン6を嵌合部7から引き抜いて取り外した後に、その嵌合部7を所定のパッチ9で塞ぐ構成としても、同様の効果が得られる。
また、図1の空気入りタイヤ1では、フィン6が、例えば、ゴム、ビニールなどの弾性部材から成ることが好ましい。これにより、フィン6と縁石との接触時にてフィン6が弾性変形できるので、フィン6の耐脱落性が向上する。あるいは、フィン6を嵌合部7に嵌め込むときにフィン6が弾性変形できるので、フィン6の装着容易性が向上する。
また、図1の空気入りタイヤ1では、3段の嵌合部7が形成され、これらの嵌合部7に対応するフィン6が順次着脱されることにより、フィン6の設置位置が3段階で変更される(図2および図4参照)。しかし、これに限らず、2段の嵌合部7が形成されても良いし(図示省略)、4段以上の嵌合部7が形成されても良い(図示省略)。したがって、複数段の嵌合部7が形成され、フィン6の設置位置を複数段階で変更できれば良い。
[各段のフィンの設置位置]
また、この空気入りタイヤ1では、上記のように、1段目のフィン6の位置が、接線lの傾斜角θおよび交点P(溝底からの曲線m)との関係で規定される(図2参照)。このとき、1段目のフィン6におけるタイヤ接地端Aから接点Bまでのタイヤ径方向の距離D1が、10[mm]≦D1≦30[mm]の範囲内にあることが好ましく、15[mm]≦D1≦25[mm]の範囲内にあることがより好ましい。例えば、D1<10[mm]となると、路面からフィンまでの距離が近いため、フィンの水没などにより水飛沫抑制機能を十分に得られないおそれがある。また、30[mm]<D1となると、路面からフィンまでの距離が遠いため、フィンによる水飛沫抑制機能を十分に得られないおそれがある。なお、距離Dは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
また、最後段(タイヤ径方向の最も内側)のフィン6の位置は、1段目のフィン6の距離D1と最も深い周方向主溝22の溝深さGとの関係で規定される(図2参照)。具体的には、1段目のフィン6の距離D1と、最後段のフィン6におけるタイヤ接地端Aから接点Bまでのタイヤ径方向の距離D3とが、−5[mm]≦G−(D3−D1)≦5[mm]の関係を有することが好ましい。例えば、G−(D3−D1)<5[mm]となると、タイヤの摩耗末期にて最終段のフィンが使用されるときに、路面からフィンまでの距離が近くなり、フィンの水没などにより水飛沫抑制機能を十分に得られないおそれがある。また、となると、−5[mm]<G−(D3−D1)となると、最終段のフィンが使用されるときに、路面からフィンまでの距離が近くなり、フィンによる水飛沫抑制機能を十分に得られないおそれがある。なお、フィン6は、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ幅方向外側に突出しないように構成される。また、溝深さGは、新品タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
また、フィン6の配置間隔ΔD(=D2−D1=D3−D2)は、1段目のフィン6の距離D1に対して、0.1≦ΔD/D1≦1.5の関係を有することが好ましい。かかる構成では、摩耗進行により水飛沫抑制効果が低下した最前段のフィン6を取り外し、後段の嵌合部7にフィン6を設置して最前段のフィン6としたときに、このフィン6と路面との距離が適正化される。これにより、フィン6の水飛沫抑制効果が適正に確保される。例えば、1.5<ΔD/D1となると、フィン6の配置間隔ΔDが広すぎて、後段のフィン6が十分に機能しない事態が生じ得るため、好ましくない。また、ΔD/D1<0.1となると、フィンの設置数が不必要に多く、タイヤ重量が増加するため、好ましくない。
[凸部のオフセット構造]
図10〜図12は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。これらの図において、図10は、凸部のオフセット構造を示し、図11は、図10に記載した凸部の作用を示し、図12は、図10に記載した凸部のオフセット構造の変形例を示している。
図1の空気入りタイヤ1では、凸部61の中心位置が、フィン6の中心位置と同位置に配置されている(図4参照)。
これに対して、図10の変形例では、凸部61の中心位置が、フィン6の中心位置よりもタイヤ径方向外側にオフセットして配置される。ここでは、タイヤ子午線方向の断面視にて、フィン6をバットレス部のプロファイルに投影したときの線分の中点を、フィン6の中心位置とする。また、凸部61をバットレス部のプロファイルに投影したときの線分の中点を、凸部61の中心位置とする。なお、フィン6が複数の凸部61を有する構成(図7参照)では、各凸部61の中心位置の中点が、フィン6の中心位置よりもタイヤ径方向外側にオフセットして配置される。
かかる構成では、フィン6のタイヤ径方向内側の端点Iまわりのモーメントに対するフィン6の保持力が増加する(図11参照)。これにより、フィンが縁石Xなどに接触したときのフィンの抜け落ちが抑制される。また、かかる構成では、フィン6の着脱作業性が確保される。
また、上記の構成では、凸部61の中心位置のオフセット量Sがフィン6の底面の幅(バットレス部のプロファイルにおけるフィン6の端点O、Iの距離)に対して10[%]以上40[%]以下の範囲内にあることが好ましい(図10参照)。これにより、フィンの抜け落ちが効果的に抑制される。
また、上記の構成では、凸部61が、根元から先端側に向かってタイヤ径方向外側に湾曲した形状を有することが好ましい(図12参照)。例えば、図12の変形例では、タイヤ子午線方向の断面視にて、凸部61の中心線が、フィン6のタイヤ径方向外側に中心を有する円弧形状を有している。また、凸部61の中心線と凸部61との輪郭線との交点をTとするときに、この交点Tおよびフィン6のタイヤ径方向内側の端点Iを通る直線と、フィン6のタイヤ径方向外側の端点Oにおけるバットレス部のプロファイルとのなす角αが、0[deg]<α≦70[deg]の範囲内にある。かかる構成では、端点Iまわりのモーメントに対するフィン6の保持力が増加する。これにより、フィンが縁石Xなどに接触したときのフィンの抜け落ちが効果的に抑制される。また、フィン6の着脱作業性が確保される。
[フィンの着脱時期を示す表示部]
図13および図14は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。これらの図において、図13は、タイヤ新品時の様子を示し、図14は、摩耗中期におけるフィンの着脱時期を示している。
図13の変形例では、フィン6の着脱時期を示す表示部8が設けられる。この表示部8は、タイヤの摩耗進行により前段側のフィン6を取り外して後段側にフィン6を設置するときに、その着脱時期の目安として用いられる。また、少なくとも1段目(タイヤ径方向の最も外側)のフィン6の着脱時期を表示する表示部8が、設けられる。また、表示部8は、例えば、バットレス部に付された打刻や凹凸であっても良いし、周方向主溝に形成されたウェアインジケータであっても良い。
例えば、この変形例では、表示部8が、バットレス部の側壁面に形成されたライン状の打刻から成る。この表示部8は、タイヤ接地端Aに対して所定の位置に形成される。具体的には、タイヤ接地端Aから表示部8までのタイヤ径方向の距離Dmと、隣り合う嵌合部7、7にフィン6がそれぞれ設置されたときのフィン6、6の配置間隔ΔDとが、ほぼ一致するように(0.7≦Dm/ΔD≦1.3の関係を有するように)、表示部8が形成される。また、1段目のフィン6の着脱時期(1段目のフィン6を取り外して2段目のフィン6を取り付ける時期)を示す表示部8と、2段目のフィン6の着脱時期(2段目のフィン6を取り外して3段目のフィン6を取り付ける時期)を示す表示部8とが、所定間隔で形成される。
この変形例において、タイヤ新品時には、表示部8とタイヤ接地端Aとの間に距離Dmがある(図13参照)。次に、タイヤの摩耗進行により、タイヤ接地面が下がり、タイヤ接地端A’と表示部8とが一致したときに、1段目のフィン6の着脱時期となる(図14参照)。そして、これを目安として、1段目のフィン6が取り外されて、2段目の嵌合部7に新たなフィン6が設置される。さらに、2段目のフィン6の着脱時期についても、同様である。
なお、1段目のフィン6の着脱時期を示す表示部8は、タイヤの摩耗進行によりタイヤ接地端A’と表示部8とが一致したときに、タイヤ接地端A’と1段目のフィン6との距離D1’が10[mm]≦D1’<D1(好ましくは、15[mm]≦D1’≦D1)の範囲となる位置に、配置されることが好ましい(図14参照)。言い換えると、タイヤ新品時における表示部8の距離Dmと1段目のフィン6の距離D1との差D1−Dm(=D1’)が、10[mm]≦D1−Dm<D1(好ましくは、15[mm]≦D1−Dm≦D1)となるように、表示部8の距離Dmが設定される。これにより、1段目のフィン6の水飛沫抑制作用が、1段目のフィン6の着脱時期まで確保される。
同時に、1段目のフィン6の着脱時期を示す表示部8は、タイヤ接地端A’と2段目のフィン6との距離D2’が10[mm]≦D2’≦30[mm](好ましくは、15[mm]≦D2’≦25[mm])の範囲内となる位置に、配置されることが好ましい(図14参照)。言い換えると、タイヤ新品時における表示部8の距離Dmと2段目のフィン6の距離D2との差D2−Dm(=D2’)が、10[mm]≦D2−Dm≦30[mm](好ましくは、15[mm]≦D2−Dm≦25[mm])となるように、表示部8の距離Dmが設定される。これにより、2段目のフィン6の水飛沫抑制作用が適正に確保される。
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、水飛沫抑制用のフィン6をバットレス部に備える(図1〜図3参照)。また、フィン6が、バットレス部の全周に渡って延在すると共に、バットレス部に形成された嵌合部7に嵌め合わされて設置される。また、複数段の嵌合部7が、タイヤ径方向の相互に異なる位置に配置される。
かかる構成では、タイヤの摩耗進行により路面と最前段のフィン6との距離が減少してフィン6が機能しなくなったときに、最前段のフィン6を取り外して後段の嵌合部7にフィン6に設置できる(図5および図6参照)。これにより、路面とフィン6との距離が適正化されるので、タイヤの摩耗進行後にもフィン6の水飛沫抑制作用を適正に確保できる利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、フィン6が、周方向に連続した環状部材から成り、複数段の嵌合部7のうちのいずれか一つに合致する径を有する。かかる構成では、複数段の嵌合部7に対応して複数のフィン6をそれぞれ用意し、フィンを交換することにより、フィンの設置位置を変更できる。これにより、フィン6の設置位置を容易に変更できる利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、嵌合部7が、バットレス部の壁面に形成された凹部71であり、フィン6が、根元をタイヤ径方向に窄めた凸部61を有すると共にこの凸部61を凹部71に挿入して嵌合部7に嵌合する(図4参照)。これにより、フィン6と嵌合部7との嵌合構造を簡易に構成できる利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、凸部61の中心位置が、フィン6の中心位置よりもタイヤ径方向外側にオフセットして配置される(図11参照)。これにより、フィンが縁石Xなどに接触したときのフィンの抜け落ちが抑制される利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、凸部61が、根元から先端側に向かってタイヤ径方向外側に湾曲した形状を有する(図12参照)。これにより、フィンが縁石Xなどに接触したときのフィンの抜け落ちが効果的に抑制される。
また、この空気入りタイヤ1は、フィン6の着脱時期を示す表示部8を有する(図13参照)。これにより、フィン6の着脱時期を適正化できるので、フィン6による水飛沫抑制性能を適正に確保できる利点がある。
図15〜図17は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す説明図(図15)および表(図16、図17)である。
この実施例では、相互に異なる複数の空気入りタイヤについて、(1)水飛沫抑制性能、(2)耐脱落性能および(3)着脱作業性に関する評価が行われた(図15〜図17参照)。これらの性能試験では、タイヤサイズ275/80R22.5の空気入りタイヤがリムサイズ22.5×7.50のリムに組み付けられ、この空気入りタイヤに900[kPa]の空気圧およびJATMA規定の最大負荷能力が付与される。また、空気入りタイヤが、総重量25トンのトラックである試験車両に装着される。
(1)水飛沫抑制性能に関する評価では、試験車両が水深10[mm]の湿潤路を直進走行し、水飛沫の飛散高さがビデオカメラで撮影されて測定される。そして、この測定結果に基づいて、従来例のタイヤ新品時を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。なお、摩耗率0%(タイヤ新品時)、摩耗率50%(摩耗中期)および摩耗率80%(摩耗末期)にける各段階での指数が110以上であれば、フィンの水飛沫抑制性能が適正に発揮されているといえる。
(2)耐脱落性能に関する評価では、試験車両が高さ250[mm]の縁石の乗り上げ試験を20回繰り返した後に、フィンの脱落数が観察される。そして、この観察結果に基づいて、実施例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。なお、この評価は、50以上であれば許容範囲内といえる。
(3)着脱作業性に関する評価では、フィンの着脱作業に要した時間が測定され、この測定結果に基づいて、実施例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
実施例1〜6は、図1に記載した空気入りタイヤ1であり、バットレス部が3段の嵌合部7を有し、フィン6がいずれか一つの嵌合部7に対して着脱可能に設置される。また、接線lの傾斜角θがθ=35[deg]であり、最も深い周方向主溝22の溝深さGがG=18[mm]である。また、フィン6の高さHが15[mm]である。また、1段目の嵌合部7にフィン6を設置したときのフィン6の接点Bの距離D1が、D1=20[mm]であり、隣り合う嵌合部7、7にフィン6を設置したときのフィン6の配置間隔ΔDがΔD=D2−D1=D3−D2=9[mm]である。したがって、摩耗率100[%]を3段のフィン6で分担することを想定して配置間隔ΔDが設定され、また、摩耗率が33[%]進むごとにフィン6の設置位置が後段側に移動される。
また、実施例4〜6は、凸部61の中心位置が、フィン6の中心位置よりもタイヤ径方向外側にオフセットして配置される(図11参照)。また、実施例5、6は、凸部61が、根元から先端側に向かってタイヤ径方向外側に湾曲した形状を有する(図12参照)。
また、実施例7〜13は、実施例1に対して、タイヤ新品時にて1段目の嵌合部7にフィン6を設置したときの路面とフィン6との距離D1と、隣り合うフィン6、6の配置間隔ΔDとが相異する(図13参照)。また、1段目のフィン6の着脱時期を示す表示部8が設けられ、タイヤ接地端Aから表示部8までのタイヤ径方向の距離Dmと、隣り合うフィン6、6の配置間隔ΔDとが、所定の数値に設定されている。また、摩耗進行によりタイヤ接地端A’と表示部8とが一致したときに、1段目のフィン6が取り外されて2段目のフィン6が装着される。このときのタイヤ接地端A’と1段目のフィン6との距離をD1’とし、タイヤ接地端A’と2段目のフィン6との距離をD2’とする(図14参照)。
従来例の空気入りタイヤは、バットレス部に一体形成された単一のフィンを有する。このフィンは、実施例1の空気入りタイヤ1における1段目の嵌合部7に設置されたフィン6と同位置にある。
試験結果に示すように、実施例1の空気入りタイヤでは、タイヤの水飛沫抑制性能をタイヤの全使用期間に渡って維持できることが分かる(図15参照)。
また、実施例1〜3を比較すると、根元を窄めた凸部61の幅比W2/W1が適正化されることにより、フィン6の耐脱落性を確保しつつ、フィンの着脱作業性を向上できることが分かる(図16参照)。また、実施例2、4を比較すると、凸部61の中心位置が、フィン6の中心位置よりもタイヤ径方向外側にオフセットして配置されることにより、フィン6の耐脱落性が向上することが分かる。さらに、実施例4〜6を比較すると、凸部61が所定範囲内の傾斜角αをもってタイヤ径方向外側に湾曲することにより、フィン6の耐脱落性および着脱作業性が向上することが分かる。
また、実施例1と実施例7〜10を比較すると、タイヤ新品時におけるタイヤ接地端A’と1段目のフィン6との距離D1、1段目のフィン6の着脱時期におけるタイヤ接地端A’と1段目のフィン6との距離D1’、ならびに、1段目のフィン6の切除したときのタイヤ接地端A’と2段目のフィン6との距離D2’が、それぞれ15[mm]以上に設定されることにより、水飛沫抑制効果が適正に確保されることが分かる(図17参照)。また、フィン6の着脱時期を示す表示部8の位置Dmが適正化されることにより、水飛沫抑制効果が確実に確保されることが分かる。