以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法が適用されるトランジションピース部10を備えるガスタービン100の構成を一部断面で示す図である。なお、以下において、ガスタービン100のトランジションピースを例示して説明するが、例えば、CO2タービンにおける、燃焼器から排出された作動流体をタービン部に導くトランジションピースにおいても同様の損傷補修方法を適用することができる。
図1に示すように、ガスタービン100は、外気を圧縮する圧縮機110と、圧縮機110で加圧された空気と燃料とを混合して燃焼させる燃焼器ライナ120と、燃焼器ライナ120で生成した燃焼ガスをタービン部130に導くトランジションピース部10と、トランジションピース部10を通過した燃焼ガスにより回転駆動するタービン部130とを備えている。
圧縮機110は、圧縮機ケーシング111内に、動翼112が植設された圧縮機ロータ113を備えている。動翼112は、周方向に複数植設され、軸方向に複数段の動翼翼列を構成している。また、圧縮機ケーシング111の内周には、静翼114が複数配置され、静翼翼列を構成している。そして、静翼翼列と動翼翼列とが軸方向に交互に構成されている。動翼112が回転することで、外部の空気が圧縮されつつガスタービン100内に導かれる。
燃焼器ライナ120は、例えば、カン型の燃焼器からなり、圧縮機110の周囲に均等に複数備えられている。燃焼器ライナ120では、圧縮機で加圧された空気と燃料とを混合して燃焼させて、燃焼ガス生成する。
トランジションピース部10は、詳細に後述するが、燃焼器ライナ120の出口側端部に接続され、燃焼器ライナ120からの燃焼ガスを整流しつつタービン部130に導く。
タービン部130は、タービンケーシング131内に、動翼132が植設されたタービンロータ133を備えている。動翼132は、周方向に複数植設され、軸方向に複数段の動翼翼列を構成している。また、タービンケーシング131の内周には、静翼134が複数配置され、静翼翼列を構成している。そして、静翼翼列と動翼翼列とが軸方向に交互に構成されている。タービン部130に導入された燃焼ガスは、静翼134を経て動翼132に噴射され、これにより動翼132およびタービンロータ133が回転する。そして、タービンロータ133に連結された発電機(図示しない)において、回転エネルギが電気エネルギに変換される。
次に、トランジションピース部10について説明する。
図2は、第1の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法が適用されるトランジションピース部10の、燃焼ガスの流れ方向に沿う断面を示す図である。
図2に示すように、トランジションピース部10は、燃焼器ライナ120からの燃焼ガスを内部に流通してタービン部130に導くトランジションピース20と、トランジションピース20の外周を間隙空間を介して覆うように設けられた外筒30とを備える、二重管構造によって構成されている。
外筒30には、圧縮機110からの空気の一部をトランジションピース20の外表面に向けて噴出するための複数の噴出孔31が形成されている。なお、上記した圧縮機110からの空気の一部は、冷却空気CAとして機能する。
トランジションピース20の上流側端部(図2ではトランジションピース20の左側端部)は、円形に開口している。この開口端部には、円筒状の燃焼器ライナ120の出口側端部(図2では燃焼器ライナ120の右側端部)が嵌合している。一方、トランジションピース20の下流側端部(図2ではトランジションピース20の右側端部)は、矩形または扇形に開口している。このように、トランジションピース20における、燃焼ガスが流れる方向に垂直な断面の形状は、円形から扇形に変形している。また、燃焼ガスに曝されるトランジションピース20の基材21の内表面21aには、コーティング層50が形成されている。
外筒30は、トランジションピース20の形状に対応した形状を有し、燃焼器外筒121側の端部(図2では外筒30の左側端部)は、円形に開口し、静翼134側の端部(図2では外筒30の右側端部)は、矩形または扇形に開口している。また、外筒30の燃焼器外筒121側の端部(図2では外筒30の左側端部)には、燃焼器ライナ120の外周を間隙空間を介して覆うように設けられた、円筒状の燃焼器外筒121の出口側端部(図2では燃焼器外筒121の右側端部)が嵌合している。
図3は、第1の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法が適用されるトランジションピース20の斜視図である。図4は、第1の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法が適用されるトランジションピース20の断面の一部を示す図である。
図3および図4に示すトランジションピース20は、発電プラントにおいて長期間に亘って使用されたものである。このトランジションピース20の基材21の外表面21bには、損傷であるき裂60が発生している。
トランジションピース20の基材21の内表面21aには、コーティング層50が形成されている。コーティング層50は、図4に示すように、基材21の内表面21aに形成された金属材料からなる金属層51、およびこの金属層51の表面に積層して形成されたセラミックス材料からなるセラミックス層52を備える。
トランジションピース20の基材21は、例えば、Nimonic263(ヘインズアロイ社製)やハステロイX(ヘインズアロイ社製)などのNi基耐熱合金で構成されている。表1には、基材21を構成する材料の組成成分の一例を示す。
コーティング層50の金属層51は、例えば、NiCoCrAlYなどの金属で構成されている。コーティング層50のセラミックス層52は、例えば、8%のY2O3を含有して安定化されたZrO2などのセラミックスで構成されている。金属層51は、例えば、高速フレーム溶射(HVOF)、真空プラズマ溶射(VPS)などによって形成され、セラミックス層52は、例えば、大気プラズマ溶射(APS)などによって形成される。
ここでは、図4に示す、基材21の外表面21bにき裂60を有するトランジションピース20における損傷の補修方法を例示して説明する。
図5は、第1の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法の工程を説明するための流れ図である。図6〜図8は、第1の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法の工程を説明するための図であり、各工程におけるトランジションピース20の断面の一部を示している。
まず、補修を施すトランジションピース20を目視によって観察し、き裂60の有無、き裂60の発生箇所などを確認する。さらに、例えば、浸透探傷検査によって、き裂60の有無、き裂60の発生箇所などを検査する(ステップS70)。なお、損傷を確認および検査する前に、後述する洗浄処理(ステップS72)と同様の処理を施してもよい。
続いて、図6に示すように、基材21の外表面21bに形成された酸化皮膜65および基材21の内表面21aに形成されたコーティング層50を除去する(皮膜・コーティング除去工程(ステップS71))。なお、酸化皮膜65の除去とコーティング層50の除去は、いずれを先に行ってもよい。
酸化皮膜は、例えば、アルミナなどからなる研磨剤の粒子を高速で吹き付けるブラスト処理などによって除去される。また、き裂60の内部の酸化皮膜は、例えば、フッ化水素雰囲気中で熱処理(例えば、温度が1000℃下)して還元されることで除去される。
なお、酸化皮膜の除去前または除去後、例えば、砥石などを用いたグラインダによって、き裂自体を除去してもよい。
コーティング層50の除去においては、まず、基材21の内表面21aの最も外側に形成されたセラミックス層52を除去する。セラミックス層52は、例えば、アルミナなどからなる粒子を高速で吹き付けるブラスト処理などによって除去される。そして、セラミックス層52を除去した後、金属層51を除去する。金属層51は、セラミックス層52と同様に、アルミナなどからなる研磨剤粒子を高速で吹き付けるブラスト処理などによって除去される。なお、金属層51は、例えば、金属層51を除去する、塩酸、リン酸などの薬剤を使用する化学処理などで除去されてもよい。
続いて、酸化皮膜65およびコーティング層50が除去された基材21を洗浄する(ステップS72)。洗浄工程では、例えば、炭化水素などの有機溶剤が浸み込んだウエスなどを用いて、基材21の内表面21aや外表面21bの汚れや油分などが拭き取られる。
続いて、スラリー状のろう付け補修材80が入った容器に、酸化皮膜65およびコーティング層50が除去された基材21を浸漬して、図7に示すように、基材21の内外表面にろう付け補修材80を付着させる(補修材付着工程(ステップS73))。
ろう付け補修材80は、後述する拡散熱処理によって溶融するNi基溶融合金粉末と、このNi基溶融合金粉末よりも融点が高く、拡散熱処理によって溶融しないNi基非溶融合金粉末とを配合して構成された配合粉末を含んでいる。スラリー状のろう付け補修材80は、Ni基溶融合金粉末、Ni基非溶融合金粉末、および有機物系などのバインダを、例えば、混合機などによって混合することで作製される。
Ni基溶融合金粉末は、例えば、JIS Z3265で規定されている、BNi−1、BNi−1A、BNi−2、BNi−3、BNi−4、BNi−5、BNi−6、BNi−7のNi基合金や、Ni−Cr−W−Fe−Si−B系、Ni−Si−B系、Ni−Co−Cr−Mo−Fe−B系、Ni−Cr−B系、Ni−Co−Si−B系のNi基合金などで構成される。
Ni基非溶融合金粉末は、例えば、基材21を構成する材料と同じ、Nimonic263、ハステロイXなどのNi基耐熱合金で構成される。また、Ni基非溶融合金粉末は、基材21を構成する材料の化学組成に近い、例えば、IN617(Praxair社製)、IN740(Praxair社製)、IN738LC(Praxair社製)などのNi基耐熱合金で構成されてもよい。
ろう付け補修材80において、Ni基溶融合金粉末とNi基非溶融合金粉末とを合計した質量に対するNi基溶融合金粉末の質量は、10〜35%とすることが好ましい。この質量比が10%未満の場合には、ろう付けにおいてぬれ性が低下する。一方、質量比が35%を超えると、ろう付けにおいてぬれ性がよくなり過ぎて、ろう付け補修材80が基材21から流れ落ちる。
ここで、ろう付け補修材80に浸漬された基材21は、容器から引き上げられ、乾燥される。ろう付け補修材80の厚さは、施工後の剥離を抑制するために、50〜300μm程度が好ましい。そのため、この範囲内の厚さとなるまで、ろう付け補修材80への浸漬および乾燥を繰り返し行う。また、き裂60の内部全体にろう付け補修材80を確実に充填するため、例えば、容器内のろう付け補修材80を超音波によって振動させてもよい。
続いて、ろう付け補修材80が付着した基材21を真空熱処理炉内に設置し、拡散熱処理を施す(拡散ろう付け工程(ステップS74))。この拡散熱処理では、1000〜1200℃の温度で、10分〜2時間保持される。この拡散熱処理によって、Ni基非溶融合金粉末を含む溶融したNi基溶融合金粉末によってき裂60が補修され、さらに、Ni基非溶融合金粉末を含む溶融したNi基溶融合金粉末が、基材21の内表面21aおよび外表面21bにろう付けされる。
拡散熱処理を真空雰囲気中で施すことで、熱処理時におけるろう付け補修材80の酸化を防止することができる。また、拡散熱処理の温度を1000〜1200℃とすることで、Ni基溶融合金粉末を十分に溶融することができ、基材21への拡散が得られる。
続いて、ろう付け補修材80がろう付けされた基材21の内表面21aに対して、表面仕上げを施す(表面仕上げ工程(ステップS75))。これによって、後述するコーティング層工程(ステップS77)において、コーティング層50を均一の厚さに形成することができる。表面仕上げは、例えば、グラインダなどを使用して行う。
続いて、表面仕上げされた基材21を、溶体化処理および時効処理する(熱処理工程(ステップS76))。溶体化処理および時効処理は、表面の酸化皮膜の形成を防止するために、真空下において行われることが好ましい。
溶体化処理は、基材の金属組織を調整するため、1130〜1170℃の温度で行われることが好ましい。なお、拡散熱処理を施すことで、ろう付け補修材80の融点が上昇し、融点が溶体化処理温度を超える温度となるため、溶体化処理の際、ろう付け補修材80が溶融することはない。
時効処理は、最終的に基材の金属組織を最適にするため、780〜820℃の温度で行われることが好ましい。なお、溶体化処理および時効処理の時間は、基材21を構成する材料や基材21の形状などに応じて、標準的な条件で行われる。
ここで、溶体化処理後および時効処理後の冷却は、例えば、アルゴン(Ar)ガスを吹き付けることで、強制的に冷却することが好ましい。
続いて、基材21の内表面21aにろう付けされ表面仕上げされたろう付け補修材80に積層して、コーティング層50を形成する(コーティング層形成工程(ステップS77))。コーティング層50を形成する工程において、基材21の内表面21aのろう付け補修材80上に、図8に示すように、例えば、高速フレーム溶射(HVOF)、真空プラズマ溶射(VPS)などにより金属粉末を溶射することによって、金属層51を形成する。続いて、金属層51の表面に、図8に示すように、例えば、大気プラズマ溶射(APS)などによってセラミックス層52を形成する。
以上の工程を経て損傷の補修が完了する。
なお、上記において、基材21の外表面21bに形成されたき裂60が、基材21の内表面21aに至っていない一例について説明したが、内表面21aに至っている場合においても、上記した方法と同様の方法で損傷を補修することができる。
上記したように、第1の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によれば、拡散ろう付けによって、トランジションピース20を変形させることなく、損傷であるき裂60を補修することができる。トランジションピース20の基材21をスラリー状のろう付け補修材80が入った容器に浸漬することによって、ろう付け補修材80を付着させることができるため、作業が容易であるとともに、目視などで確認されなかったき裂なども広範囲に亘って補修することができる。
また、ろう付け補修材80に、トランジションピース20の基材21を構成する材料、またはその材料の化学組成に近いNi基非溶融合金粉末を含むことで、拡散熱処理後において、補修部は、基材21と同等レベルの機械的強度を有する。
(第2の実施の形態)
図9は、第2の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法の工程を説明するための流れ図である。図10〜図13は、第2の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法の工程を説明するための図であり、各工程におけるトランジションピース20の断面の一部を示している。なお、第1の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法において説明した構成と同一の構成部分には、同一の符号を付して重複する説明を省略または簡略する。
ここでは、前述した第1の実施の形態と同様に、基材21の外表面21bにき裂60を有するトランジションピース20における損傷の補修方法を例示して説明する。
まず、補修を施すトランジションピース20に対して、第1の実施の形態と同様に、損傷検査を行う(ステップS90)。
続いて、第1の実施の形態と同様に(図6参照)、基材21の外表面21bに形成された酸化皮膜65および基材21の内表面21aに形成されたコーティング層50を除去する(皮膜・コーティング除去工程(ステップS91))。
続いて、第1の実施の形態と同様に、酸化皮膜65およびコーティング層50が除去された基材21を洗浄する(ステップS92)。
続いて、図10に示すように、基材21の外表面21bに、き裂60を覆うようにシート状のろう付け補修材81を配置する(補修材配置工程(ステップS93))。ろう付け補修材81は、例えば、有機溶剤によって外表面21bに貼り付けられる。また、き裂60の大きさ(深さ)に応じて、ろう付け補修材81を複数枚積層してもよい。すなわち、溶融した際、少なくともき裂60内を充填できる程度に、ろう付け補修材81が配置される。
ろう付け補修材81は、第1の実施の形態のろう付け補修材80と同様に、拡散熱処理によって溶融するNi基溶融合金粉末と、このNi基溶融合金粉末よりも融点が高く、拡散熱処理によって溶融しないNi基非溶融合金粉末とを配合して構成された配合粉末を含んでいる。Ni基溶融合金粉末およびNi基非溶融合金粉末は、有機物系などのバインダに添加され、ろう付け補修材81は、シート状に構成されている。ろう付け補修材81の厚さは、例えば、0.5mm〜1.5mm程度である。
このシート状のろう付け補修材81は、例えば、次のように作製される。まず、バインダに上記した配合粉末を添加して混合し、混合物を剥離紙に、例えばスプレーなどによって塗布する。続いて、例えば、ローラなどで所定の厚さに圧延し、所定のサイズに切断することで、ろう付け補修材81が作製される。
Ni基溶融合金粉末およびNi基非溶融合金粉末を構成する材料は、第1の実施の形態におけるNi基溶融合金粉末およびNi基非溶融合金粉末とそれぞれ同じである。また、Ni基溶融合金粉末とNi基非溶融合金粉末とを合計した質量に対するNi基溶融合金粉末の質量である質量比も、第1の実施の形態における質量比と同じである。
続いて、ろう付け補修材81が配置された基材21を真空熱処理炉内に設置し、拡散熱処理を施す(拡散ろう付け工程(ステップS94))。拡散熱処理では、1000〜1200℃の温度で、10分〜2時間保持される。
この拡散熱処理によって、ろう付け補修材81のうち、Ni基溶融合金粉末が溶融し、図11に示すように、き裂60の内部に、溶融したNi基溶融合金粉末とともにNi基非溶融合金粉末が充填される。
ここで、図12に示すように、外表面21b側に突出したろう付け補修材81を削り取り、外表面21bを当初の表面形状とする、表面仕上げを施してもよい。表面仕上げは、例えば、グラインダなどを使用して行う。以下、表面仕上げを施した場合を例示して説明する。
続いて、表面仕上げされた基材21を、溶体化処理および時効処理する(熱処理工程(ステップS95))。溶体化処理および時効処理の条件などは、第1の実施の形態と同じである。
続いて、基材21の内表面21aに、第1の実施の形態と同様に、図13に示すように、コーティング層50を形成する(コーティング層形成工程(ステップS96))。
以上の工程を経て損傷の補修が完了する。
なお、上記において、基材21の外表面21bに形成されたき裂60が、基材21の内表面21aに至っていない一例について説明したが、内表面21aに至っている場合においても、上記した方法と同様の方法で損傷を補修することができる。
上記したように、第2の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によれば、拡散ろう付けによって、トランジションピース20を変形させることなく、損傷であるき裂60を補修することができる。また、ろう付け補修材80に、トランジションピース20の基材21を構成する材料、またはその材料の化学組成に近いNi基非溶融合金粉末を含むことで、拡散熱処理後において、補修部は、基材21と同等レベルの機械的強度を有する。
ここで、上記したシート状のろう付け補修材81は、他の構成とすることもできる。図14〜図15は、第2の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法の工程を説明するための図であり、他の構成のろう付け補修材81が配置されたときのトランジションピース20の断面の一部を示している。図16〜図17は、第2の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法の工程を説明するための図であり、他の構成のろう付け補修材81が拡散ろう付けされた後のトランジションピース20の断面の一部を示している。
図14に示すように、ろう付け補修材81の一方の表面(外側の表面)を凹凸に構成してもよい。このように構成することで、図16に示すように、拡散ろう付けされた後のろう付け補修材81の表面を凹凸面とすることができる。これによって、ろう付け補修材81の表面の表面積が増加し、冷却空気CAによる冷却効率が向上する。そのため、再使用後の高温酸化による減肉を抑制できる。
なお、凹凸の形状は、図14に示すように、矩形であってもよいし、その他、波型、V型などであってもよい。ろう付け補修材81の厚さは、例えば、0.5mm〜1.5mm程度である。
また、図15に示すように、ろう付け補修材81の厚さ方向に垂直な方向に、ろう付け補修材81を貫通するように、両端が開口するパイプ状部材82を備えてもよい。パイプ状部材82は、拡散熱処理、溶体化処理および時効処理における温度で溶融しない、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼などの材料で構成される。パイプ状部材82は、少なくとも1つ備えられ、図15に示すように、複数備えられてもよい。ろう付け補修材81の厚さは、例えば、0.5mm〜1.5mm程度である。
拡散ろう付けされた後には、図17に示すように、パイプ状部材82がろう付け補修材81の、例えば表面に配列された構成となる。ろう付け補修材81の表面の表面積が増加するとともに、パイプ状部材82内を冷却空気CAが流れるため、冷却効率が向上する。そのため、再使用後の高温酸化による減肉を抑制できる。
ここで、図14および図15に示した他の構成のろう付け補修材81を使用する場合には、拡散熱処理後の外表面21b側に突出したろう付け補修材81の削り取りは行わず、表面仕上げは施さない。
図14および図15に示した他の構成のろう付け補修材81を使用する場合においても、図10に示したろう付け補修材81を使用する場合と同様の作用効果が得られるとともに、冷却効率を向上することができる。
(第3の実施の形態)
図18は、第3の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法の工程を説明するための流れ図である。図19〜図22は、第3の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法の工程を説明するための図であり、各工程におけるトランジションピース20の断面の一部を示している。なお、第1の実施の形態および第2の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法において説明した構成と同一の構成部分には、同一の符号を付して重複する説明を省略または簡略する。
ここでは、前述した第1の実施の形態および第2の実施の形態と同様に、基材21の外表面21bにき裂60を有するトランジションピース20における損傷の補修方法を例示して説明する。
まず、補修を施すトランジションピース20に対して、第1の実施の形態と同様に、損傷検査を行う(ステップS140)。
続いて、第1の実施の形態と同様に(図6参照)、基材21の外表面21bに形成された酸化皮膜65および基材21の内表面21aに形成されたコーティング層50を除去する(皮膜・コーティング除去工程(ステップS141))。
続いて、第1の実施の形態と同様に、酸化皮膜65およびコーティング層50が除去された基材21を洗浄する(ステップS142)。
続いて、第2の実施の形態と同様に(図10参照)、基材21の外表面21bに、き裂60を覆うようにシート状のろう付け補修材81を配置する(補修材配置工程(ステップS143))。ろう付け補修材81は、例えば、有機溶剤によって外表面21bに貼り付けられる。また、き裂60の大きさ(深さ)に応じて、ろう付け補修材81を複数枚積層してもよい。すなわち、溶融した際、少なくともき裂60内を充填できる程度に、ろう付け補修材81が配置される。なお、ろう付け補修材81の構成については、第2の実施の形態で説明したとおりである。
続いて、図19に示すように、アルミニウムを含有するシート状の耐酸化性部材150をろう付け補修材81上に積層して配置する(耐酸化性部材配置工程(ステップS144))。耐酸化性部材150は、拡散熱処理によって溶融する、アルミニウムを含有するNi基溶融合金粉末と、このNi基溶融合金粉末よりも融点が高く、拡散熱処理によって溶融しないNi基非溶融合金粉末とを配合して構成された配合粉末を含んでいる。Ni基溶融合金粉末およびNi基非溶融合金粉末は、有機物系などのバインダに添加され、耐酸化性部材150は、シート状に構成されている。耐酸化性部材150の厚さは、例えば、0.5mm〜1.5mm程度である。
アルミニウムを含有するNi基溶融合金粉末は、例えば、JIS Z3265で規定されている、BNi−1、BNi−1A、BNi−2、BNi−3、BNi−4、BNi−5、BNi−6、BNi−7のNi基合金や、Ni−Cr−W−Fe−Si−B系、Ni−Si−B系、Ni−Co−Cr−Mo−Fe−B系、Ni−Cr−B系、Ni−Co−Si−B系のNi基合金などにアルミニウム(Al)を添加した材料で構成される。
アルミニウムを含有するNi基溶融合金粉末において、高温酸化特性を向上させるため、アルミニウムを0.3〜3質量%含有することが好ましい。Ni基溶融合金粉末は、第1の実施の形態におけるNi基非溶融合金粉末と同じである。
耐酸化性部材150において、アルミニウムを含有するNi基溶融合金粉末とNi基非溶融合金粉末とを合計した質量に対するアルミニウムを含有するNi基溶融合金粉末の質量は、10〜35%とすることが好ましい。この質量比が10%未満の場合には、ろう付けにおいてぬれ性が低下する。一方、質量比が35%を超えると、ろう付けにおいてぬれ性がよくなり過ぎて、ろう付け補修材80が基材21から流れ落ちる。
シート状の耐酸化性部材150は、例えば、次のように作製される。まず、バインダに上記した配合粉末を添加して混合し、混合物を剥離紙に、例えばスプレーなどによって塗布する。続いて、例えば、ローラなどで所定の厚さに圧延し、所定のサイズに切断することで、耐酸化性部材150が作製される。
続いて、ろう付け補修材81および耐酸化性部材150が配置された基材21を真空熱処理炉内に設置し、拡散熱処理を施す(拡散ろう付け工程(ステップS145))。拡散熱処理では、1000〜1200℃の温度で、10分〜2時間保持される。
この拡散熱処理によって、ろう付け補修材81のうち、Ni基溶融合金粉末が溶融し、図20に示すように、き裂60の内部に、溶融したNi基溶融合金粉末とともにNi基非溶融合金粉末が充填される。また、耐酸化性部材150のうち、アルミニウムを含有するNi基溶融合金粉末が溶融し、ろう付け補修材81の表面を覆う。耐酸化性部材150は、耐酸化層として機能する。
ここで、図21に示すように、外表面21b側に突出した耐酸化性部材150を削り取り、外表面21bを当初の表面形状とする、表面仕上げを施してもよい。この場合においても、図21に示すように、き裂60の開口部(き裂60を有する外表面21bの表面)は、耐酸化性部材150で覆われる。なお、表面仕上げは、例えば、グラインダなどを使用して行う。以下、表面仕上げを施した場合を例示して説明する。
続いて、表面仕上げされた基材21を、溶体化処理および時効処理する(熱処理工程(ステップS146))。溶体化処理および時効処理の条件などは、第1の実施の形態と同じである。
続いて、基材21の内表面21aに、第1の実施の形態と同様に、図22に示すように、コーティング層50を形成する(コーティング層形成工程(ステップS147))。
以上の工程を経て損傷の補修が完了する。
なお、上記において、基材21の外表面21bに形成されたき裂60が、基材21の内表面21aに至っていない一例について説明したが、内表面21aに至っている場合においても、上記した方法と同様の方法で損傷を補修することができる。
上記したように、第3の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によれば、拡散ろう付けによって、トランジションピース20を変形させることなく、損傷であるき裂60を補修することができる。また、補修後において、き裂60の開口部は、耐酸化層で構成されているため、耐酸化性が向上する。
また、ろう付け補修材80に、トランジションピース20の基材21を構成する材料、またはその材料の化学組成に近いNi基非溶融合金粉末を含むことで、拡散熱処理後において、補修部は、基材21と同等レベルの機械的強度を有する。
ここで、上記したシート状の耐酸化性部材150は、他の構成とすることもできる。図23〜図24は、第3の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法の工程を説明するための図であり、他の構成の耐酸化性部材150が配置されたときのトランジションピース20の断面の一部を示している。図25〜図26は、第3の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法の工程を説明するための図であり、他の構成の耐酸化性部材150が拡散ろう付けされた後のトランジションピース20の断面の一部を示している。
図23に示すように、耐酸化性部材150の一方の表面(外側の表面)を凹凸に構成してもよい。このように構成することで、図25に示すように、拡散ろう付けされた後の耐酸化性部材150の表面を凹凸面とすることができる。これによって、耐酸化性部材150の表面の表面積が増加し、冷却空気CAによる冷却効率が向上する。そのため、再使用後の高温酸化による減肉を抑制できる。
なお、凹凸の形状は、図23に示すように、矩形であってもよいし、その他、波型、V型などであってもよい。耐酸化性部材150の厚さは、例えば、0.5mm〜1.5mm程度である。
また、図24に示すように、耐酸化性部材150の厚さ方向に垂直な方向に、耐酸化性部材150を貫通するように、両端が開口するパイプ状部材151を備えてもよい。このパイプ状部材151は、拡散熱処理、溶体化処理および時効処理における温度で溶融しない、オーステナイト系ステンレス鋼などの材料で構成される。パイプ状部材151は、少なくとも1つ備えられ、図24に示すように、複数備えられてもよい。耐酸化性部材150の厚さは、例えば、0.5mm〜1.5mm程度である。
拡散ろう付けされた後には、図26に示すように、パイプ状部材151が耐酸化性部材150の、例えば表面に配列された構成となる。耐酸化性部材150の表面の表面積が増加するとともに、パイプ状部材151内を冷却空気CAが流れるため、冷却効率が向上する。そのため、再使用後の高温酸化による減肉を抑制できる。
ここで、図23および図24に示した他の構成の耐酸化性部材150を使用する場合には、拡散熱処理後の外表面21b側に突出した耐酸化性部材150の削り取りは行わず、表面仕上げは施さない。
図23および図24に示した他の構成の耐酸化性部材150を使用する場合においても、図19に示した耐酸化性部材150を使用する場合と同様の作用効果が得られるとともに、冷却効率を向上することができる。
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法は、第1の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法と、拡散ろう付け工程および熱処理工程において行われる処理のみ異なる。そのため、第4の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法を図5〜図8を参照して説明する。
ここでは、前述した第1の実施の形態と同様に、基材21の外表面21bにき裂60を有するトランジションピース20における損傷の補修方法を例示して説明する。
まず、補修を施すトランジションピース20に対して、第1の実施の形態と同様に、損傷検査を行う(ステップS70)。
続いて、第1の実施の形態と同様に(図6参照)、基材21の外表面21bに形成された酸化皮膜65および基材21の内表面21aに形成されたコーティング層50を除去する(皮膜・コーティング除去工程(ステップS71))。
続いて、第1の実施の形態と同様に、酸化皮膜65およびコーティング層50が除去された基材21を洗浄する(ステップS72)。
続いて、第1の実施の形態と同様に、スラリー状のろう付け補修材80が入った容器に、酸化皮膜65およびコーティング層50が除去された基材21を浸漬して、図7に示すように、基材21の内外表面にろう付け補修材80を付着させる(補修材付着工程(ステップS73))。
続いて、ろう付け補修材80が付着した基材21を真空熱処理炉内に設置し、拡散熱処理を施すとともに、同時に溶体化処理を施す(拡散ろう付け工程(ステップS74))。
ここで、拡散熱処理およびこの拡散熱処理と同時に施される溶体化処理では、ろう付けおよび基材21の金属組織を調整するために、1000〜1200℃の温度で、10分〜2時間保持される。すなわち、拡散熱処理および溶体化処理は、同時に、同じ温度で同じ時間行われる。この処理によって、Ni基非溶融合金粉末を含む溶融したNi基溶融合金粉末によってき裂60が補修されるともに、Ni基非溶融合金粉末を含む溶融したNi基溶融合金粉末が、基材21の内表面21aおよび外表面21bにろう付けされる。さらに、基材21の金属組織が調整される。なお、拡散熱処理および溶体化処理は、真空雰囲気中で行われる。
続いて、第1の実施の形態と同様に、ろう付け補修材80がろう付けされた基材21の内表面21aに対して、表面仕上げを施す(表面仕上げ工程(ステップS75))。
続いて、表面仕上げされた基材21を時効処理する(熱処理工程(ステップS76))。時効処理は、表面の酸化皮膜の形成を防止するために、真空下において行われることが好ましい。
時効処理は、第1の実施の形態と同様に、780〜820℃の温度で行われることが好ましい。
ここで、拡散ろう付け工程後および熱処理工程後の冷却は、例えば、アルゴン(Ar)ガスを吹き付けることで、強制的に冷却することが好ましい。
続いて、第1の実施の形態と同様に、図8に示すように、基材21の内表面21aにろう付けされ表面仕上げされたろう付け補修材80に積層して、コーティング層50を形成する(コーティング層形成工程(ステップS77))。
以上の工程を経て損傷の補修が完了する。
なお、上記において、基材21の外表面21bに形成されたき裂60が、基材21の内表面21aに至っていない一例について説明したが、内表面21aに至っている場合においても、上記した方法と同様の方法で損傷を補修することができる。
上記したように、第4の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によれば、拡散ろう付けによって、トランジションピース20を変形させることなく、損傷であるき裂60を補修することができる。トランジションピース20の基材21をスラリー状のろう付け補修材80が入った容器に浸漬することによって、ろう付け補修材80を付着させることができるため、作業が容易であるとともに、目視などで確認されなかったき裂なども広範囲に亘って補修することができる。
ろう付け補修材80に、トランジションピース20の基材21を構成する材料、またはその材料の化学組成に近いNi基非溶融合金粉末を含むことで、補修部は、基材21と同等レベルの機械的強度を有する。また、拡散熱処理と溶体化処理とを同時に行うことができる。
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法は、第2の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法と、拡散ろう付け工程および熱処理工程において行われる処理のみ異なる。そのため、第5の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法を図9〜図13を参照して説明する。
ここでは、前述した第2の実施の形態と同様に、基材21の外表面21bにき裂60を有するトランジションピース20における損傷の補修方法を例示して説明する。
まず、補修を施すトランジションピース20に対して、第2の実施の形態と同様に、損傷検査を行う(ステップS90)。
続いて、第2の実施の形態と同様に、基材21の外表面21bに形成された酸化皮膜65および基材21の内表面21aに形成されたコーティング層50を除去する(皮膜・コーティング除去工程(ステップS91))。
続いて、第2の実施の形態と同様に、酸化皮膜65およびコーティング層50が除去された基材21を洗浄する(ステップS92)。
続いて、第2の実施の形態と同様に、図10に示すように、基材21の外表面21bに、き裂60を覆うようにシート状のろう付け補修材81を配置する(補修材配置工程(ステップS93))。
続いて、ろう付け補修材81が配置された基材21を真空熱処理炉内に設置し、拡散熱処理を施すとともに、同時に、溶体化処理を施す(拡散ろう付け工程(ステップS94))。
ここで、拡散熱処理およびこの拡散熱処理と同時に施される溶体化処理では、ろう付けおよび基材21の金属組織を調整するために、1000〜1200℃の温度で、10分〜2時間保持される。すなわち、拡散熱処理および溶体化処理は、同時に、同じ温度で同じ時間行われる。この処理によって、ろう付け補修材81のうち、Ni基溶融合金粉末が溶融し、図11に示すように、き裂60の内部に、溶融したNi基溶融合金粉末とともにNi基非溶融合金粉末が充填される。さらに、基材21の金属組織が調整される。なお、拡散熱処理および溶体化処理は、真空雰囲気中で行われる。
ここで、第2の実施の形態と同様に、図12に示すように、外表面21b側に突出したろう付け補修材81を削り取り、外表面21bを当初の表面形状とする、表面仕上げを施してもよい。以下、表面仕上げを施した場合を例示して説明する。
続いて、表面仕上げされた基材21を時効処理する(熱処理工程(ステップS95))。時効処理の条件などは、第2の実施の形態と同じである。
続いて、基材21の内表面21aに、第2の実施の形態と同様に、図13に示すように、コーティング層50を形成する(コーティング層形成工程(ステップS96))。
以上の工程を経て損傷の補修が完了する。
なお、上記において、基材21の外表面21bに形成されたき裂60が、基材21の内表面21aに至っていない一例について説明したが、内表面21aに至っている場合においても、上記した方法と同様の方法で損傷を補修することができる。
上記したように、第5の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によれば、拡散ろう付けによって、トランジションピース20を変形させることなく、損傷であるき裂60を補修することができる。また、ろう付け補修材80に、トランジションピース20の基材21を構成する材料、またはその材料の化学組成に近いNi基非溶融合金粉末を含むことで、補修部は、基材21と同等レベルの機械的強度を有する。また、拡散熱処理と溶体化処理とを同時に行うことができる。
なお、第2の実施の形態と同様に、シート状のろう付け補修材81を他の構成とすることもできる(図14および図15参照)。この場合においても、拡散熱処理と溶体化処理とを同時に行うことができる。
(第6の実施の形態)
第6の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法は、第3の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法と、拡散ろう付け工程および熱処理工程において行われる処理のみ異なる。そのため、第6の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法を図18〜図22を参照して説明する。
ここでは、前述した第3の実施の形態と同様に、基材21の外表面21bにき裂60を有するトランジションピース20における損傷の補修方法を例示して説明する。
まず、補修を施すトランジションピース20に対して、第3の実施の形態と同様に、損傷検査を行う(ステップS140)。
続いて、第3の実施の形態と同様に、基材21の外表面21bに形成された酸化皮膜65および基材21の内表面21aに形成されたコーティング層50を除去する(皮膜・コーティング除去工程(ステップS141))。
続いて、第3の実施の形態と同様に、酸化皮膜65およびコーティング層50が除去された基材21を洗浄する(ステップS142)。
続いて、第3の実施の形態と同様に、基材21の外表面21bに、き裂60を覆うようにシート状のろう付け補修材81を配置する(補修材配置工程(ステップS143))。
続いて、第3の実施の形態と同様に、図19に示すように、アルミニウムを含有するシート状の耐酸化性部材150をろう付け補修材81上に積層して配置する(耐酸化性部材配置工程(ステップS144))。
続いて、ろう付け補修材81および耐酸化性部材150が配置された基材21を真空熱処理炉内に設置し、拡散熱処理を施すとともに、同時に、溶体化処理を施す(拡散ろう付け工程(ステップS145))。
ここで、拡散熱処理およびこの拡散熱処理と同時に施される溶体化処理では、ろう付けおよび基材21の金属組織を調整するために、1000〜1200℃の温度で、10分〜2時間保持される。すなわち、拡散熱処理および溶体化処理は、同時に、同じ温度で同じ時間行われる。この処理によって、ろう付け補修材81のうち、Ni基溶融合金粉末が溶融し、図20に示すように、き裂60の内部に、溶融したNi基溶融合金粉末とともにNi基非溶融合金粉末が充填される。また、耐酸化性部材150のうち、アルミニウムを含有するNi基溶融合金粉末が溶融し、ろう付け補修材81の表面を覆う。耐酸化性部材150は、耐酸化層として機能する。さらに、基材21の金属組織が調整される。なお、拡散熱処理および溶体化処理は、真空雰囲気中で行われる。
ここで、図21に示すように、外表面21b側に突出した耐酸化性部材150を削り取り、外表面21bを当初の表面形状とする、表面仕上げを施してもよい。この場合においても、図21に示すように、き裂60の開口部(き裂60を有する外表面21bの表面)は、耐酸化性部材150で覆われる。以下、表面仕上げを施した場合を例示して説明する。
続いて、表面仕上げされた基材21を時効処理する(熱処理工程(ステップS146))。時効処理の条件などは、第3の実施の形態と同じである。
続いて、基材21の内表面21aに、第3の実施の形態と同様に、図22に示すように、コーティング層50を形成する(コーティング層形成工程(ステップS147))。
以上の工程を経て損傷の補修が完了する。
なお、上記において、基材21の外表面21bに形成されたき裂60が、基材21の内表面21aに至っていない一例について説明したが、内表面21aに至っている場合においても、上記した方法と同様の方法で損傷を補修することができる。
上記したように、第6の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によれば、拡散ろう付けによって、トランジションピース20を変形させることなく、損傷であるき裂60を補修することができる。また、補修後において、き裂60の開口部は、耐酸化層で構成されているため、耐酸化性が向上する。
また、ろう付け補修材80に、トランジションピース20の基材21を構成する材料、またはその材料の化学組成に近いNi基非溶融合金粉末を含むことで、補修部は、基材21と同等レベルの機械的強度を有する。また、拡散熱処理と溶体化処理とを同時に行うことができる。
なお、第3の実施の形態と同様に、シート状の耐酸化性部材150を他の構成とすることもできる(図23および図24参照)。この場合においても、拡散熱処理と溶体化処理とを同時に行うことができる。
(機械的強度の評価)
ここでは、第1、第2、第4および第5の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によって補修されたトランジションピースの機械的強度の評価を行った。機械的強度として、引張強さを測定した。なお、比較のため、同じ材料で構成された、使用されていない新品のトランジションピースの引張強さも測定した。
第1、第2、第4および第5の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によって補修されたトランジションピースは、ガスタービンに使用され、設計寿命に到達して廃却処分となったトランジションピースであり、表1に示す化学組成のNi基合金で構成されているものを使用した。
ろう付け補修材80、81のNi基溶融合金粉末として、BNi-1(質量で、Crを14%、Feを4.5%、Siを4%、Bを3.5%含有し、残部がNi)の粉末を使用した。ろう付け補修材80、81のNi基非溶融合金粉末として、Nimonic263(質量で、Coを20%、Crを20%、Moを6%、Alを0.5%、Tiを2%含有し、残部がNi)の粉末を使用した。
ろう付け補修材80、81において、Ni基溶融合金粉末とNi基非溶融合金粉末とを合計した質量に対するNi基溶融合金粉末の質量を20%とした。
上記した質量比の混合粉末を、有機物系のバインダに添加して、混合機で混合し、スラリー状のろう付け補修材80を作製した。そして、これを剥離紙にスプレー塗布し、圧延し、切断してろう付け補修材81を作製した。なお、ろう付け補修材81の厚さは、1mmとした。
使用後のトランジションピース20の基材21の外表面21bに形成された酸化皮膜65およびトランジションピース20の基材21の内表面21aに形成されたコーティング層50を除去した。そして、第1および第4の実施の形態においては、基材21にろう付け補修材80を付着させ、第2および第5の実施の形態においては、基材21のき裂60に対応してろう付け補修材81を配置した。なお、第1および第4の実施の形態において、付着されたろう付け補修材80の厚さを200μmとした。
ここで、拡散ろう付け工程において、拡散熱処理を行い、熱処理工程において、溶体化処理および時効処理を行う場合(第1および第2の実施の形態)には、続いて、基材21を真空熱処理炉内に設置し、1150℃の温度で、2時間の拡散熱処理を施した。そして、一旦室温まで冷却した後、1150℃の温度で、2時間の溶体化処理を施した。溶体化処理後、Arガスを吹き付け、室温まで冷却した。続いて、800℃の温度で、8時間の時効処理を施した。時効処理後、Arガスを吹き付け、室温まで冷却した。
一方、拡散ろう付け工程において、拡散熱処理と同時に溶体化処理を行い、熱処理工程において、時効処理を行う場合(第4および第5の実施の形態)には、続いて、基材21を真空熱処理炉内に設置し、1150℃の温度で、2時間の拡散熱処理と同時に溶体化処理を施した。そして、この処理後、Arガスを吹き付け、室温まで冷却した。続いて、800℃の温度で、8時間の時効処理を施した。時効処理後、Arガスを吹き付け、室温まで冷却した。
引張強さは、JIS Z 2241に基づいて、同じ試験環境下で実施された。また、各トランジションピース20を3個ずつ用意し、各トランジションピース20の基材21から補修部を含む試験片を切り出し、各試験片に対して引張強さを測定した。
図27は、第1の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によって補修されたトランジションピース20の基材21の引張強さの測定結果を示す図である。図28は、第2の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によって補修されたトランジションピース20の基材21の引張強さの測定結果を示す図である。図29は、第4の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によって補修されたトランジションピース20の基材21の引張強さの測定結果を示す図である。図30は、第5の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によって補修されたトランジションピース20の基材21の引張強さの測定結果を示す図である。
なお、図27〜図30には、使用されていない新品のトランジションピース(新しいトランジションピース)の基材の引張強さの測定結果も示している。
図27〜図30に示すように、補修された基材21の引張強さは、新品の基材の引張強さと同等の値を示すことがわかる。
なお、ここでは示していないが、前述した、Ni基溶融合金粉末およびNi基非溶融合金粉末を構成する他の材料を使用した場合においても、新品の基材の引張強さと同等の値が得られている。また、第3および第6の実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法によって補修された基材21においても、新品の基材の引張強さと同等の値が得られている。
以上説明した実施形態によれば、トランジションピースの構成部材の変形を伴わずに、容易に広範囲の補修を行うことが可能となる。
上記した実施の形態においては、トランジションピースの損傷補修方法について説明したが、本損傷補修方法は、例えば、燃焼器ライナ、動翼および静翼にも適用することができる。また、上記した実施の形態において、損傷としてき裂を例示して説明したが、酸化またはエロージョンによって様々な方向に窪んだ複数の減肉部に対しても、上記した実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法を適用することができる。また、この場合においても、き裂に、上記した実施の形態のトランジションピースの損傷補修方法を適用した場合と同様の作用効果を得ることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。