JP5881287B2 - オートインデューサー−2阻害剤 - Google Patents

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Description

本発明は、オートインデューサー−2阻害剤に関する。
自然界において、微生物は様々な環境下で生存しなければならない。貧栄養、低温度、高温、pH変化はもちろんのこと、生体内においては貪食細胞又は抗菌性液性因子(補体、抗体、リゾチーム等)が存在する環境での生存を余儀なくされる。このような状況下で、細菌は自らの存在環境の変化を敏感に感知する機構を獲得してきた。そのような機構の1つとして、微生物は特異的な情報伝達物質を介して環境における自らの密度を感知し、その密度に応じて自らの様々な生物活性を巧妙に制御していることが明らかとなっている。このような細胞間の情報伝達機構は、クオラムセンシングシステムと称される。
クオラムセンシングは、発光性海洋細菌であるビブリオ・フィシェリ及びビブリオ・ハーベイにおいて最初に報告された。しかし、最近では、多くの細菌における一般的な遺伝子調節機構であると認識されている。この現象により、細菌は、生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生及び胞子形成などといった活動を一斉に行うことができる。
クオラムセンシングシステムを有する細菌は、オートインデューサーと呼ばれるシグナル伝達分子を合成し、放出し、そのシグナル伝達分子に応答して、遺伝子発現を細胞密度の関数として制御する。これまで、アシルホモセリンラクトンがオートインデューサー−1として、4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオンがオートインデューサー−2として同定されている。
ビブリオ属細菌、緑膿菌、セラチア、エンテロバクターなど臨床上重要な細菌がクオラムセンシングにオートインデューサー−1を利用することが報告されている。また、ビブリオ・ハーベイが、種内連絡には種特異性の高いオートインデューサー−1を利用し、種間連絡には種特異性の低いオートインデューサー−2を利用することが知られている。さらに最近の研究では、ある種の病原性細菌がオートインデューサー−2による種間でのクオラムセンシングにより、病原因子の産生を調節していることも示されている。このような病原性細菌としては、齲蝕原性菌であるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、胃潰瘍及び胃ガンを惹起すると言われているヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、食中毒、ガス壊疽、出血性腸炎などの原因菌であるウェルシュ菌(Clostridium perfringens)等が挙げられる。従って、オートインデューサー−2を阻害する活性を有する物質が求められていた。
オートインデューサー−2を阻害する物質としては、これまで、フラノン化合物、シクロペンテン化合物などが報告されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
特表2003−532698号公報 特表2003−532698号公報 特表2005−506953号公報 特開2009−115791号公報
本発明は、オートインデューサー−2を阻害する活性を有し、感染症の予防及び治療等に有効な、オートインデューサー−2阻害剤の提供を課題とする。
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、エラグ酸及びその塩がオートインデューサー−2を阻害する活性を有するとともに、感染症に対して有効な化合物であることを見い出した。本発明はこの知見に基づいて完成するに至った。
本発明は、エラグ酸又はその塩を有効成分とするオートインデューサー−2阻害剤に関する。
また、本発明は、前記オートインデューサー−2阻害剤を含有してなる、歯周病の予防及び/又は治療剤に関する。
また、本発明は、前記オートインデューサー−2阻害剤を含有してなる、齲蝕病の予防及び/又は治療剤に関する。
さらに、本発明は、前記オートインデューサー−2阻害剤を含有してなる、医薬組成物、食品組成物、口腔用組成物又は化粧料組成物に関する。
本発明によれば、オートインデューサー−2を阻害する活性を有し、感染症の予防及び治療等に有効な、オートインデューサー−2阻害剤が提供される。
本発明のオートインデューサー−2阻害剤は、エラグ酸又はその塩を有効成分として含有する。
本発明に用いるエラグ酸又はその塩は、広く一般に入手することができる。例えば、通常の合成方法により化学的に合成してもよいし、天然物から抽出してもよい。また、本発明では市販のものを用いてもよい。
エラグ酸の塩としては、薬学的に許容できる塩であれば特に制限されないが、例えば、塩基付加塩が挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム及びトリエチルアミン等のアミン類との塩、アルギニン及びリジン等の塩基性アミノ酸との塩が挙げられる。本発明において、エラグ酸の塩としては、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩及びアルギニン塩が好ましく、ナトリウム塩及びアルギニン塩がより好ましく、ナトリウム塩がさらに好ましい。
本発明において、前記有効成分を溶媒に溶解/分散させ、オートインデューサー−2阻害剤としてもよい。本発明で用いることができる溶媒としては特に制限はないが、水、エタノール、プロピレングリコール、ジメチルスルホキサイド等が挙げられ、水及びエタノールが好ましい。
本発明のオートインデューサー−2阻害剤において、有効成分として、エラグ酸又はその塩のうちいずれか1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
本発明におけるオートインデューサー−2(以下、「AI−2」ともいう)としては、細菌が産生するものでAI−2活性を有するものであれば特に制限はない。
本発明におけるAI−2の具体例としては、下記式で表される4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオン(本明細書において、DPDともいう)、及びDPDが有するAI−2活性と同等のAI−2活性を有する化合物が包含される。
Figure 0005881287
前記DPDは、細菌のAI−2受容体と結合するときにボロンを取り込んで、フラノシルボレートジエステルに変換される。本発明におけるAI−2の別の具体例としては、前記フラノシルボレートジエステルが挙げられる。また、DPDはリン酸されてリン酸化DPD(Phospho-DPD)となり、AI−2活性を発現することが知られている(例えば、Taga M.et al.,Mol.Microbiol.,42,p.777-793,2001参照)。本発明におけるAI−2は、リン酸化DPDも包含する。
前記フラノシルボレートジエステル及びPhospho-DPDの具体例を以下に示す。しかし、本発明はこれらに制限するものではない。
Figure 0005881287
本発明においてAI−2を阻害することは、AI−2がクオラムセンシングを介して細菌に及ぼす影響を阻害することをさし、AI−2活性を阻害すること、AI−2分解すること、AI−2のAI−2受容体への結合を阻害することなどが包含される。
本発明においてAI−2活性は、AI−2がクオラムセンシングシステムを有する細菌に影響を及ぼす活性、すなわち、AI−2を介するクオラムセンシングによりもたらされる細菌の機能を促進する活性をさす。細菌は、AI−2を介するクオラムセンシングにより、発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生及び胞子形成等を行うことが知られている。したがって、AI−2活性は、換言すれば、AI−2を認識する細菌、すなわちAI−2受容体を有する細菌による生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生及び/又は胞子形成の活性ということができる。本発明においてAI−2活性は、特に、細菌の病原因子産生活性をさす。
前記病原因子としては、例えば、エンテロトキシン、アデニル酸シクラーゼ毒素、アドヘシン、アルカリプロテアーゼ、溶血毒、炭疽毒素、APX毒素、α毒素、β毒素、δ毒素、C2毒素、C3毒素、ボツリヌス毒素、束状線毛構造サブユニット、C5Aペプチダーゼ、心臓毒、走化性、コレラ毒素、毛様体毒素、クロストリジウム細胞毒、クロストリジウム神経毒、コラーゲン接着遺伝子、細胞溶解素、嘔吐毒素、内毒素、表皮剥脱毒素、外毒素、細胞外エラスターゼ、フィブリノゲン、フィブロネクチン結合タンパク質、線維状赤血球凝集素、フィンブリア、ゼラチナーゼ、赤血球凝集素、ロイコトキシン、リポタンパク質シグナルペプチダーゼ、リステリオリシンO、Mタンパク質、神経毒、非フィンブリアアドヘシン類、浮腫因子、透過酵素、百日咳毒素、ホスホリパーゼ、線毛、孔形成毒素、プロリンパーミアーゼ、セリンプロテアーゼ、志賀毒素、破傷風毒素、チオール活性化細胞溶解素、気管細胞溶解素、ウレアーゼなどが挙げられるが、本発明はこれらに制限されない。
本発明のAI−2阻害剤の有効成分で影響を及ぼすことができる細菌、換言すれば、本発明のAI−2阻害剤の有効成分で増殖・生育を抑制できる細菌は、AI−2によりその機能、例えば、生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生及び胞子形成などが促進される細菌である。例えば、AI−2受容体を有する細菌、好ましくはAI−2受容体を有し、AI−2を産生する細菌を対象とすることができる。
AI−2活性は、AI−2を認識することにより発光するレポーター細菌、好ましくはAI−2受容体及びルシフェラーゼを有する細菌を用いるバイオアッセイにより測定することができる(例えば、Keersmaecker S.C.J.et al.,J.Biol.Chem.,280(20),p.19563-19568,2005参照)。具体的には、ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)BB170株をレポーター細菌とし、被検化合物の存在下で培養し、培養後の発光強度をケミルミネッセンス計などで測定することにより、AI−2活性を測定することができる。
AI−2を阻害することにより影響を及ぼす、又は増殖・生育を抑制することができる細菌としては、例えば、ビブリオ(Vibrio)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属細菌、エルシニア(Yersinia)属細菌、エシェリキア(Escherichia)属細菌、サルモネラ(Salmonella)属細菌、ヘモフィルス(Haemophilus)属細菌、ヘリコバクター(Helicobacter)属細菌、バシルス(Bacillus)属細菌、ボレリア(Borrelia)属細菌、ナイセリア(Neisseria)属細菌、カンピロバクター(Campylobacter)属細菌、デイノコックス(Deinococcus)属細菌、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属細菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌、シゲラ(Shigella)属細菌、エロモナス(Aeromonas)属細菌、エイケネラ(Eikenella)属細菌、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、アクチノマイセス(Actinomyces)属細菌、バクテロイデス(Bacteroides)属細菌、カプノサイトファガ(Capnocytophaga)属細菌、クレブシエラ(Klebsiella)属細菌、ハロバチルス(Halobacillus)属細菌、フゾバクテリウム(Fusobacterium)属細菌、エルウィニア(Erwinia)属細菌、エルベネラ(Elbenella)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、リステリア(Listeria)属細菌、マンヘイミア(Mannheimia)属細菌、ペプトコッカス(Peptococcus)属細菌、プレボテラ(Prevotella)属細菌、プロテウス(Proteus)属細菌、セラチア(Serratia)属細菌及びベイロネラ(Veillonella)属細菌などが挙げられる。より具体的には、ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)、ビブリオ・フィシェリ(Vibrio fischeri)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)、シュードモナス・ホスホレウム(Pseudomonas phosphoreum)、ポリフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgfdorferi)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、ペスト菌(Yersinia pestis)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、デイノコックス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、箕田赤痢菌(Shigella flexneri)、シゲラ・ボイデイ(Shigella boydii)、セレウス菌(Bacillus cereus)、バチルス・クブチリス(Bacillus cubtilis)、エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、チフス菌(Salmonella enterica)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、ヘリコバクター・ヘパティカス(Helicobacter hepaticus)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、スタフィロコッカス・ハエモリティカス(Staphylococcus haemolyticus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトコッカス・サンギニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・アンギノーサス(Streptococcus anginosus)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、ビブリオ・ブルニフィカス(Vivrio vulnificus)、ビブリオ・ミミクス(Vibrio mimicus)、ビブリオ・アングイラルム(Vibrio anguillarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)、エルウィニア・カロトバラ(Erwinia carotovara)、ハロバチルス・ハロフィラス(Halabacilus halophilus)、セラチア・ピムチカ(Serratia pymuthica)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)、バクテロイデス・ディスタソニス(Bacteroides distasonis)、リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、アエロモナス・ハイドロフィリア(Aeromonas hydrophilia)、マンヘイミア・ハエモライティカ(Mannhemia haemolytica)、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、アクチノマイセス・ナエスランディ(Actinomyces naeslundii)、ペプトコッカス・アナエロビウス(Peptococcus anaerobius)、フゾバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ベイロネラ・パルラ(Veillonella parvula)、カプノサイトファガ・スプティゲナ(Capnocytophaga sputigena)及びプレボテラ・インタメディア(Prevotella intermedia)などが挙げられる。
本発明のAI−2阻害剤の有効成分は、ストレプトコッカス・ミュータンス、ポリフィロモナス・ジンジバリス、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・ゴルドニ、ストレプトコッカス・サングイニス、ストレプトコッカス・ミティス、アクチノマイセス・ナエスランディ、ペプトコッカス・アナエロビウス、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス、フゾバクテリウム・ヌクレアタム、ベイロネラ・パルラ、カプノサイトファガ・スプティゲナ、プレボテラ・インタメディア及びラクトバチルス・サリバリウスなどに対するAI−2の阻害に対し、特に好ましく用いられる。
生体内において、AI−2量とある種の感染症の症状とが相関関係を有し、本発明のAI−2阻害剤の有効成分を投与することにより歯周病、齲蝕病等の感染症の症状を低減できる。したがって、一実施形態において本発明は、前記オートインデューサー−2阻害剤を含有してなる、歯周病又は齲蝕病の予防及び/又は治療剤に関する。さらに、本発明のAI−2阻害剤は、歯周病、齲蝕病等の感染症の予防及び/又は治療剤として用いることができる。さらには、本発明のAI−2阻害剤は、歯周病、齲蝕病等の感染症の予防及び/又は治療剤などに含有させることができる。
本発明のAI−2阻害剤の有効成分を投与することにより予防及び/又は治療することができる感染症は、AI−2を阻害することにより予防及び/又は治療することができる感染症であり、換言すれば、AI−2を利用するクオラムセンシングシステムを有する細菌、具体的にはAI−2を阻害することにより影響を及ぼすことができる上記のような細菌に関連する感染症である。
前記有効成分を投与することにより予防及び/又は治療することができる感染症の具体例として、口腔、皮膚、膣、消化(GI)管、食道及び気道等における感染症が挙げられる。より具体的には、ストレプトコッカス・ミュータンス等により引き起こされる齲蝕病;ポルフィロモナス・ジンジバリス等により引き起こされる歯肉炎、歯骨炎等の歯周病;日和見生物により引き起こされる日和見感染症;肺炎レンサ球菌及びインフルエンザ菌等により引き起こされる急性中耳炎(AOM)及び滲出性中耳炎(OME);インフルエンザ菌により引き起こされるインフルエンザ;ヘリコバクター・ピロリにより引き起こされる十二指腸潰瘍、胃ガン及び胃潰瘍;コレラ菌により引き起こされるコレラ;ペスト菌により引き起こされるペスト;髄膜炎菌により引き起こされる髄膜炎;ネズミチフス菌などのサルモネラ属細菌により引き起こされるサルモネラ中毒;ウェルシュ菌により引き起こされる食中毒、ガス壊疽及び出血性腸炎;及び大腸菌等により引き起こされる下痢症などが挙げられる(後述の実施例、並びにYoshida A.et al.,Appl.Environ.Microbiol.,71(5),p.2372-2380,2005;Wen Z.T.et al.,J.Bacteriol.,189(9),p.2682-2691,2004;Osaki T. et al.,J.Med.Microbiol.,55(Pt11),p.1477-1485,2006;及びOhtani K.et al.,Mol.Microbiol.,44(1),p.171-179,2002等参照)。
本明細書において感染症の予防には、感染症の発症を抑えること及び遅延させることが含まれ、感染症になる前の予防だけではなく、治療後の感染症の再発に対する予防も含まれる。本明細書において感染症の治療には、感染症を治癒すること、症状を改善すること及び症状の進行を抑えることが包含される。
本発明のAI−2阻害剤、並びに前記感染症の予防及び/又は治療剤の投与対象は、好ましくは哺乳動物である。本明細書において哺乳動物は、温血脊椎動物をさし、例えば、ヒト及びサルなどの霊長類、マウス、ラット及びウサギなどの齧歯類、イヌ及びネコなどの愛玩動物、並びにウシ、ウマ及びブタなどの家畜が挙げられる。本発明のAI−2阻害剤、並びに前記感染症の予防及び/又は治療剤は、霊長類、特にヒトへの投与に好適である。感染症に罹患しているヒト、感染症と診断されているヒト、感染症に罹患する可能性があるヒト、感染症を予防する必要があるヒトに投与することが特に好ましい。
本発明のAI−2阻害剤、並びに前記感染症の予防及び/又は治療剤の形態は特に制限されないが、例えば、医薬組成物、食品組成物、口腔用組成物若しくは化粧料組成物とするか、又はこれらに含有させることができる。
医薬組成物を調製する場合は、通常、前記有効成分と好ましくは薬学的に許容される担体を含む製剤として調製する。薬学的に許容される担体とは、一般的に、前記有効成分とは反応しない、不活性の、無毒の、固体又は液体の、増量剤、希釈剤又はカプセル化材料等をいい、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物、植物性油などの溶媒又は分散媒体などが挙げられる。
医薬組成物は、経口により、非経口により、例えば、皮膚に、皮下に、粘膜に、静脈内に、動脈内に、筋肉内に、腹腔内に、膣内に、肺に、脳内に、眼に、及び鼻腔内に投与される。経口投与製剤としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、ペレット剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤及び吸入剤などが挙げられる。非経口投与製剤としては、坐剤、保持型浣腸剤、点滴剤、点眼剤、点鼻剤、ペッサリー剤、注射剤、口腔洗浄剤並びに軟膏、クリーム剤、ゲル剤、制御放出パッチ剤及び貼付剤などの皮膚外用剤などが挙げられる。本発明の医薬組成物は、徐放性皮下インプラントの形態で、又は標的送達系(例えば、モノクローナル抗体、ベクター送達、イオン注入、ポリマーマトリックス、リポソーム及びミクロスフェア)の形態で、非経口で投与してもよい。
医薬組成物はさらに医薬分野において慣用の添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤などがあり、必要に応じて使用できる。長時間作用できるように徐放化するためには、既知の遅延剤等でコーティングすることもできる。賦形剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、軽質無水ケイ酸、ゼラチン、結晶セルロース、ソルビトール、タルク、デキストリン、デンプン、乳糖、白糖、ブドウ糖、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム等が使用できる。結合剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、カゼインナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、精製水、ゼラチン、デンプン、トラガント、乳糖等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類等が挙げられる。抗酸化剤としては、トコフェロール、没食子酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、アスコルビン酸等が挙げられる。必要に応じてその他の添加剤や薬剤、例えば制酸剤(炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、合成ヒドロタルサイト等)、胃粘膜保護剤(合成ケイ酸アルミニウム、スクラルファート、銅クロロフィリンナトリウム等)を加えてもよい。
口腔用組成物には、前記有効成分のほか、その形態に応じて種々の成分を配合することができる。配合可能な成分として、例えば研磨剤、湿潤剤、粘結剤、歯質強化剤、殺菌剤、pH調整剤、酵素類、抗炎症剤・血行促進剤、甘味剤、防腐剤、着色剤・色素類、香料等を適宜使用することができる。
口腔用組成物に配合することができる成分としては、具体的に、第2リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、無水ケイ酸、水酸化アルミニウム、アルミナ、ハイドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ゼオライト、合成アルミノケイ酸塩、ベンガラ等の研磨剤;前記の研磨剤を結合剤を用いて造粒した顆粒状研磨剤;グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ソルビトール等の湿潤剤;モノフルオルリン酸ナトリウム、フッ化スズ、フッ化ナトリウム等の歯質強化剤;クロルヘキシジン及びその塩類、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、チモール類、塩化ベンザルコニウム等の殺菌剤;リン酸ナトリウム等のpH調整剤;デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、リゾチーム、ムタナーゼ等の酵素類;塩化ナトリウム、ヒノキチオール、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、アラントイン類、トコフェロール類、オクチルフタリド、ニコチン酸エステル類、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸及びその塩類、グリセロホスフェート、クロロフィル、水溶性無機リン酸化合物、アズレン類、カミツレ、センブリ、当帰、センキュウ、生薬類等の抗炎症剤・血行促進剤;サッカリンナトリウム、ステビオサイド、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル等の甘味剤;p−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸ブチル、安息香酸ナトリウム等の防腐剤;二酸化チタン等の着色剤・色素類;ペパーミント油、スペアミント油、メントール、カルボン、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネロール、α−テルピネオール、メチルアセテート、シトロネリルアセテート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、ワニリン、チモール、アニス油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、桂皮油、ピメント油、桂葉油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油等の香料等が挙げられる。
口腔用組成物には、本発明の効果を損なわない限り、界面活性剤を配合することもできる。界面活性剤としては特に制限はないが、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を好ましく用いることができる。
口腔用組成物は、前記有効成分を配合し、常法により製造することができる。口腔用組成物の形態は特に制限されず、粉歯磨、液状歯磨、練歯磨、潤製歯磨、口腔パスタ等のペースト状洗浄剤、洗口液、マウスウォッシュ等の液状洗浄剤、うがい用錠剤、歯肉マッサージクリーム、チューインガム、トローチ、キャンディ等の食品等の形態とすることができる。
食品組成物を調製する場合、その形態は特に制限されず、飲料も包含される。一般食品の他に、感染症(具体的には歯骨炎などの歯周病等)の予防・改善等をコンセプトとしてその旨を表示した飲食品、すなわち、健康食品、機能性食品、病者用食品及び特定保健用食品なども包含される。健康食品、機能性食品、病者用食品及び特定保健用食品は、具体的には、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、流動食等の各種製剤形態として使用することができ、これら製剤のために使用することができる。製剤形態の食品組成物は、医薬製剤と同様に製造することができ、前記有効成分と、食品として許容できる担体、例えば適当な賦形剤(例えば、でん粉、加工でん粉、乳糖、ブドウ糖、水等)等とを混合した後、慣用の手段を用いて製造することができる。さらに、食品組成物は、スープ類、ジュース類、乳飲料、茶飲料、コーヒー飲料、ココア飲料、ゼリー状飲料などの液状食品組成物、プリン、ヨーグルトなどの半固形食品組成物、パン類、うどんなどの麺類、クッキー、チョコレート、キャンディ、ガム、せんべいなどの菓子類、ふりかけ、バター、ジャムなどのスプレッド類等の形態もとりうる。また、食品には、飼料も含まれる。
食品組成物には、種々の食品添加物、例えば、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤などの添加剤を単独、あるいは併用して配合してもよい。
化粧料組成物を調製する場合、その形態は特に制限されず、溶液、乳液、粉末、水−油二層系、水−油−粉末三層系、ゲル、エアゾール、ミスト及びカプセル等任意の形態とすることができる。また、化粧料組成物の製品形態も任意であり、例えば、マッサージ剤及びフットスプレー等のボディー化粧料、化粧水、乳液、クリーム及びパック等のフェーシャル化粧料、ファンデーション、おしろい、頬紅、口紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ及びサンスクリーン等のメーキャップ化粧料、メーク落とし、洗顔料及びボディーシャンプー等の皮膚洗浄料、ヘアーリンス及びシャンプー等の毛髪化粧料、浴用剤、軟膏、医薬部外品、あぶら取り紙、芳香化粧料等が挙げられる。
化粧料組成物は、化粧品、医薬部外品及び医薬品等に慣用される他の成分、例えば、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水等を必要に応じて配合し、常法により製造することができる。
その他の化粧料組成物に配合可能な成分としては、例えば、防腐剤(エチルパラベン、ブチルパラベン等)、消炎剤(例えば、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒノキチオール、酸化亜鉛、アラントイン等)、美白剤(例えば、胎盤抽出物、ユキノシタ抽出物、アルブチン等)、各種抽出物(例えば、オウバク、オウレン、シコン、シャクヤク、センブリ、バーチ、セージ、ビワ、ニンジン、アロエ、ゼニアオイ、アイリス、ブドウ、ヨクイニン、ヘチマ、ユリ、サフラン、センキュウ、ショウキュウ、オトギリソウ、オノニス、ニンニク、トウガラシ、チンピ、トウキ、海藻等)、賦活剤(例えば、ローヤルゼリー、感光素、コレステロール誘導体等)、血行促進剤(例えば、ノニル酸ワレニルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β−ブトキシエチルエステル、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、タンニン酸、α−ボルネオール、ニコチン酸トコフェロール、イノシトールヘキサニコチネート、シクランデレート、シンナリジン、トラゾリン、アセチルコリン、ベラパミル、セファランチン、γ−オリザノール等)、抗脂漏剤(例えば、硫黄、チアントール等)、抗炎症剤(例えば、トラネキサム酸、チオタウリン、ヒポタウリン等)等が挙げられる。
本発明のAI−2阻害剤、並びに前記感染症の予防及び/又は治療剤における前記有効成分の投与量は、AI−2を阻害しうる量、又は感染症を予防及び/又は治療しうる量であればよく、投与方法、年齢、症状等により適宜決定することができる。例えば、前記有効成分の質量に基づき、1日あたり、体重1kgあたり、経口投与で通常0.001〜100mg、好ましくは0.01〜10mgである。
本発明のAI−2阻害剤、並びに前記感染症の予防及び/又は治療剤における前記有効成分の含有量は、上記投与量を達成するように適宜決定できる。例えば、本発明のAI−2阻害剤、並びに前記感染症の予防及び/又は治療剤において、前記有効成分の含有量は0.0001〜1質量%が好ましく、0.001〜0.01質量%がより好ましい。
前記有効成分を投与することにより、AI−2を阻害することができ、ひいては、感染症を予防及び/又は治療することができる。
従来、感染症の予防及び治療には抗生物質の投与が行われてきた。例えば、J.Nat.Prod.,59,p.987(1996)には、エラグ酸を1,250μg/mLの濃度で投与することにより、歯周病原因菌の1種であるポリフィロモナス・ジンジバリス、プレボテラ・インタメディア、ストレプトコッカス・ミュータンス等の生育を抑制することが記載されている。しかし、歯周病原因菌の生育を抑制する目的でエラグ酸をこのような高濃度で投与し続けると、細菌が薬剤耐性を獲得するため、抗生物質の効果が減弱してしまう。
一方、AI−2を阻害すれば、細菌が本来持つクオラムセンシングシステムを制御し、その病原性を制御することが可能となる。したがって、本発明のAI−2阻害剤、並びに前記感染症の予防及び/又は治療剤は、薬剤耐性を持っている細菌にも効果が期待できる。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
試験例1 AI−2活性の測定
Basslerらの方法(Mol.Microbiol.,9(4),p.773-786,1993)を参照し、AB(Autoinducer Bioassay)培地を下記のように調製した。
0.2%vitamine-free casamino acids(Difco社製)、0.3M NaCl(和光純薬社製)、0.05M MgSO4・7H2O(和光純薬社製)の溶液を任意の濃度のKOH溶液(和光純薬社製)でpH7.5に調整し、オートクレーブ後、室温で保存した。1Mリン酸カリウムバッファー(1M KH2PO4 21.1mL及び1M K2HPO4 28.9mL)10mL、0.1M L-arginine(free-base、和光純薬社製)10mL、1mg/mL thiamin・HCl(和光純薬社製)1mL、10μg/mL riboflavin(和光純薬社製)1mL、及びグリセロール(和光純薬社製)20mLをよく混和後、濾過滅菌したもの42mLを、前記溶液1Lに対して添加し、AB培地を調製した。
AI−2バイオアッセイ系のためのレポーター菌株としてのビブリオ・ハーベイBB170株(ATCC BAA−1117)をMarine Agar 2216培地(商品名、Difco社製)で30℃、好気条件下で培養した。このように培養したビブリオ・ハーベイBB170株の一白金耳をMarine Broth 2216培地(商品名、Difco社製)3mLに植菌し、好気条件下8時間、30℃、200rpmで振盪培養を行った。
上記菌液200μLをAB培地に植菌し、好気条件下16時間、30℃、200rpmで振盪培養を行った。この菌液をAB培地で5000倍に希釈し、レポーター菌液とした。
このレポーター菌液と、エラグ酸(エラグ酸・二水和物、東京化成社より購入)溶液を、9:1の割合で混和し、室温で10分プレインキュベートした。次いで、DPD(OMM Scientificに合成検討を依頼し、同社で合成したものを購入した)を終濃度が10μMとなるように添加し、30℃にて好気振盪培養を行った。4時間後の発光強度をケミルミネッセンス計(ベルトールド社製、Mitharas LB940(商品名))で測定した。なお、発光強度は、DPDが惹起する発光強度を100とし、エラグ酸を添加したときの発光強度を相対値で示した。さらに、ポジティブコントロールとして、AI−2阻害化合物として既知化合物(4−ブロモ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノン、Sigma社製)を用い、同様にAI−2活性を測定した。なお、エラグ酸溶液は、終濃度が5μM又は10μMになるように調製した。
その結果を表1に示す。
Figure 0005881287
表1の結果から明らかなように、本発明のAI−2阻害剤は、既知のAI−2阻害化合物に比して、同等もしくはそれ以上のAI−2阻害活性を有することが示された。
試験例2 歯垢中AI−2量と齲蝕病との関係
ビブリオ・ハーベイBB152株(ATCC BAA−1119)をMarine Agar2216培地で30℃、好気条件下で培養した。このように培養したビブリオ・ハーベイBB152株の一白金耳をMarine Broth2216培地に植菌し、好気条件下8時間、30℃、200rpmで振盪培養を行った。
上記菌液をAB培地に植菌し、さらに好気条件下16時間、30℃、200rpmで振盪培養を行った。遠心分離(8000rpm、15分、4℃)後の上清を取り出し、カットオフ値1Kのスピンカラム(ポール社製)を用いて分子量1000以下の画分を得、AI−2溶液とした(AI−2濃度:約0.1μM)。
齲蝕原性細菌であるストレプトコッカス・ミュータンスJCM5705株をBHI寒天培地(Difco社製)に播種・培養(嫌気条件下で37℃、1日)した。このようにして培養した、ストレプトコッカス・ミュータンスJCM5705株の一白金耳をBHI液体培地(Difco社製)に植菌し、嫌気条件下で37℃、16時間培養した。PBSにて洗浄後、2×1010個/mLになるように菌液を調製した。
抗生物質水溶液(アンピシリン、カナマイシン各2mg/mL)をSDラット(雄性、3週齢)に5日間自由飲水させた後、ストレプトコッカス・ミュータンス菌液をラットの左右下顎臼歯部に各50μL、1回/日で5日間滴下した。食餌は齲蝕誘導食であるDiet2000(商品名、オリエンタルバイオサービス社製)を与えた。その後、AI−2溶液又はAB培地(コントロール)を2回/日、1回当たり200μLを臼歯部に1ヶ月間滴下した(各群N=5)。また、ストレプトコッカス・ミュータンス菌液を滴下しない群も設定した(N=5)。
各群のSDラットの齲蝕の程度を示す齲蝕スコアを、Keyes P.H.et al.,J.Dent.Res.,37,6,p.1958に記載の方法に準じて測定した。その結果を表2に示す。
Figure 0005881287
表2の結果から、歯垢中AI−2量と齲蝕病とが相関関係を有し、従って、歯垢中のAI−2が齲蝕亢進に関与し、AI−2活性の阻害が齲蝕病の予防・改善に有効であることが示された。
試験例3 歯周病モデルにおける歯槽骨吸収深度の測定
シリアンハムスター(7週齢、雄)の下顎左右第一臼歯歯頚部に絹糸を結紮し、同日より同結紮部位に、0.001質量%(約30μM)エラグ酸(エラグ酸・二水和物、東京化成より入手)のDMSO/PBS溶液又は0.01%(w/v)DMSO/PBS(コントロール)200μLを1日2回、2週間滴下し、各群5匹にて飼育した。
飼育終了後、麻酔下にて下顎骨を摘出し、摘出下顎骨の舌側面における第一臼歯近心咬頭頂から歯槽骨頂上までの垂直距離を測定し、歯槽骨吸収量とした。
その結果を表3に示す。
Figure 0005881287
表3の結果から、本発明のAI−2阻害剤は、in vivoモデルにおいて歯槽骨吸収を有意に抑制することが示された。したがって、本発明のAI−2阻害剤は、感染症の1種である、歯骨炎等の歯周病の予防及び治療剤として有効である。
試験例4 ヒトにおける歯垢形成量の測定
健常男性6名を被験者とし、歯科衛生士による歯面清掃処理後、0.01質量%エラグ酸(ザクロ抽出物由来エラグ酸、サビンサジャパン・コーポレーションより入手)含有洗口剤水溶液、又はエラグ酸を含まないプラセボ洗口剤水溶液を2日間使用させた。所定の時間(歯面清掃直後、並びに毎食後及び就寝前の計9回/2日間)に、前記洗口剤水溶液20mLで30秒間の含嗽を行った。歯面清掃処理から約48時間後に、鈴木らの方法(口腔衛生学会誌,20(3),p.9-16,1971)に従い、歯肉辺縁からの歯垢付着距離を測定し、歯垢形成量とした。なお試験は、2品のクロスオーバーとし、ダブルブラインドにて実施した。
その結果を表4に示す。
Figure 0005881287
表4の結果から、本発明のAI−2阻害剤は、in vivoモデルにおいて歯垢形成を有意に抑制することが示された。したがって、本発明のAI−2阻害剤は、感染症の1種である歯周病の予防及び治療剤として有効である。
試験例5 抗菌試験
終濃度が0.001%(w/v)又は0.01%(w/v)になるように調製したエラグ酸(エラグ酸・二水和物、東京化成社より購入)溶液(溶媒:0.01%(w/v)DMSO/水)400μLと、生菌数を106〜108CFU/mLに調製したポリフィロモナス・ジンジバリス(ATCC33277株)菌液100μLとを30秒攪拌混合し、任意濃度に希釈後、GAM寒天培地(日水製薬社製)に播種した。37℃で2日嫌気培養後、生育コロニー数をカウントし生菌数を算出した。コントロールとして、エラグ酸溶液の代わりに0.01%(w/v)DMSO/水を用いた以外は同様にして生菌数を算出した。その結果を表5に示す。
Figure 0005881287
表5に示すように、0.01%(w/v)又は0.001%(w/v)の濃度では、エラグ酸のレポーター菌に対する抗菌作用は認められなかった。
なお、エラグ酸は、感染症原因菌であるポリフィロモナス・ジンジバリス、プレボテラ・インタメディア、ストレプトコッカス・ミュータンスなどに対し抗菌作用があることが報告されている(例えば、J.Nat.Prod.,59,p.987(1996)参照)。しかし、前記成分を1,250μg/mLという高濃度で添加した際の結果である。これに対して、表5に示すように、エラグ酸の濃度を0.001〜0.01質量%とした場合、本発明のAI−2阻害剤は病原性細菌に対する殺菌作用を示すものではなく、病原性細菌の種間連絡に利用されるAI−2の活性を阻害するものである。
試験例1〜5の結果から、本発明のAI−2阻害剤は、病原性細菌に対する殺菌作用を示すものではなく、病原性細菌の種間連絡に利用されるAI−2の活性を阻害する。さらには、本発明のAI−2阻害剤は、AI−2の活性を阻害することにより、歯周病、齲蝕病等の予防及び/又は治療することが可能であることが示された。
(処方例)
本発明の歯周病又は齲蝕病の予防及び/又は治療剤として、下記に示す組成のチューブ入り練歯磨、練歯磨及び樹脂製容器入りマウスウォッシュを常法により各々調製した。
処方例1 チューブ入り練歯磨の調製
ソルビトール 35質量%
無水ケイ酸 20質量%
濃グリセリン 5質量%
エラグ酸 0.01質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1質量%
香料 1質量%
フッ化ナトリウム 0.2質量%
サッカリンナトリウム 0.2質量%
酢酸dl−α−トコフェロール 0.1質量%
精製水 残余
計100質量%
処方例2 チューブ入り練歯磨の調製
炭酸カルシウム 30質量%
ソルビトール 28質量%
無水ケイ酸 8質量%
濃グリセリン 5質量%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1質量%
香料 1質量%
エラグ酸 0.01質量%
酢酸dl−α−トコフェロール 0.2質量%
フッ化ナトリウム 0.2質量%
サッカリンナトリウム 0.2質量%
イソプロピルメチルフェノール 0.1質量%
精製水 残余
計100質量%
処方例3 練歯磨の調製
ソルビトール 25質量%
無水ケイ酸 20質量%
プロピレングリコール 6質量%
ラクチトール 5質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1質量%
香料 1質量%
エラグ酸 0.01質量%
フッ化ナトリウム 0.2質量%
サッカリンナトリウム 0.2質量%
酢酸dl−α−トコフェロール 0.1質量%
精製水 残余
計100質量%
処方例4 練歯磨の調製
ソルビトール 28質量%
ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(40)共重合体 16質量%
無水ケイ酸 12質量%
濃グリセリン 8質量%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.5質量%
香料 1質量%
エラグ酸 0.01質量%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.7質量%
サッカリンナトリウム 0.2質量%
酢酸dl−α−トコフェロール 0.1質量%
精製水 残余
計100質量%
処方例5 練歯磨の調製
ソルビトール 28質量%
無水ケイ酸 15質量%
ポリエチレングリコール400 8質量%
キシリトール 5質量%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1質量%
香料 1質量%
エラグ酸 0.01質量%
酢酸dl−α−トコフェロール 0.2質量%
フッ化ナトリウム 0.2質量%
サッカリンナトリウム 0.2質量%
イソプロピルメチルフェノール 0.1質量%
精製水 残余
計100質量%
処方例6 樹脂製容器入りマウスウォッシュの調製
エタノール 15質量%
キシリトール 7質量%
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 2質量%
サッカリンナトリウム 0.5質量%
エラグ酸 0.01質量%
香料 0.2質量%
安息香酸ナトリウム 0.1質量%
酢酸dl−α−トコフェロール 0.05質量%
トリクロサン 0.02質量%
精製水 残余
計100質量%

Claims (2)

  1. エラグ酸又はその塩を有効成分とし、前記有効成分の含有量が0.0001〜0.01質量%である、オートインデューサー−2を介したクオラムセンシングシステムを有する病原性細菌を殺菌することなく、そのオートインデューサー−2活性を阻害するオートインデューサー−2阻害剤。
  2. 請求項1記載のオートインデューサー−2阻害剤を含有してなり、オートインデューサー−2を介したクオラムセンシングシステムを有する病原性細菌を殺菌することなく、そのオートインデューサー−2活性を阻害することで歯周病を予防又は治療する、歯周病の予防及び/又は治療剤。
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