(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る通電加熱装置の概略平面図である。また、図2は、図1におけるYA方向、YB方向及びYC方向から見た通電加熱装置の側面図であり、図2(a)〜図2(c)はそれぞれ、YA方向、YB方向及びYC方向から見た通電加熱装置の側面図である。尚、図2(a)〜図2(c)ではそれぞれ、後述する位置決め部材の一部を二点鎖線で示し、これを透過状態で示している。図1、図2に示すように、x方向は通電方向に、y方向は後述する電極11、溶着防止部材14が延びる方向である。
通電加熱装置1は、略平板状に形成されたワーク(ブランク)に互いに離間する電極を取り付けて通電することによりワークに生じるジュール熱によってワークを加熱するものであり、本実施形態では、これに限定されるものではないが、重ね合わせられた2つのワークを加熱するものについて示している。
図1、図2に示すように、通電加熱装置1は、所定の電気抵抗を有する導電性の2つのワークW1,W2を電気的に加熱するための通電手段10を備えている。通電手段10は、互いに離間して平行に配置される一対の電極11と、電極11に直流又は交流の電力を供給する電源12と、電源12と電極11とを接続するケーブル13とを備え、重ね合わせられたワークW1,W2の両端部に一対の電極11を接触させて通電することによりワークW1,W2を加熱するように構成されている。一対の電極11は、例えば銅などの材料を用いて略直方体状に形成されたバー電極であり、一方の電極11aが正電極として使用され、他方の電極11bが負電極として使用される。
通電加熱装置1はまた、ワークW1,W2の間に、一対の溶着防止部材14a,14bを備えている。溶着防止部材14は、例えば電極11と同じく銅などの材料を用いて板状に形成されるが、これに限定されることなく、ワークW1,W2よりも電気抵抗率の小さい材料で構成することができる。また、溶着防止部材14は、電極と同じく略直方体状に形成することができる。
後述するように、ワークW1,W2は、端部でクランプ部材15により圧力を受ける。それゆえ、通電によりワークが加熱されると、クランプ部材15から圧力を受ける部分で溶着が発生しやすくなる。ワークW1,W2の間に、ワークよりも電気抵抗率の小さい材料で構成した溶着防止部材14を介在させることにより、ワーク及び溶着防止部材に同じ大きさの電流が流れても、鉄同士よりも鉄と銅との方が接触抵抗が小さく、発熱量が少ないため、溶着防止部材14の温度は溶着が起こる温度まで上昇せず、それゆえ溶着を防止することができる。
図1、図2においては、溶着防止部材14は、電極11と同じ長さ(x方向)、幅(y方向)を有している。溶着防止部材14は、ワークW1,W2をy方向にカバーする幅を有していればよく、例えば、電極より大きい幅を有していてもよい。
一方、溶着防止部材14は、x方向には、電極11より内側の通電範囲に入らないことが好ましい。これは、第1に、溶着防止部材14が電気抵抗率の小さい材料で構成されることによる。即ち、溶着防止部材14が電極より内側の通電範囲に入った場合、溶着防止部材14を優先的に電流が流れるため、ワークW1,W2をx方向に均一に加熱ができない。また、第2に、電極11より内側の通電範囲に溶着防止部材14が入ると、通電方向に直交する所定の断面における各ワークの断面積と電気抵抗率の逆数との積の総和が一定でなくなるため、均一に加熱ができない。さらに、第3に、通電時のワークW1,W2の接触が阻害される。第3の理由については、後述する。
さらに、溶着防止部材14がx方向において電極11より外側にある場合、クランプ部材15によって圧力を受けた際に、ワークW1,W2が接触する場合がある。この場合、ワークW1,W2の一部で溶着を充分防止できない可能性がある。
以上より、溶着防止部材14aの+x側の端部と電極11aの+x側の端部とが、また、溶着防止部材14bの−x側の端部と電極11bの−x側の端部とが、それぞれ略同位置になるように溶着防止部材14を配置することにより、溶着を好適に防止することができる。
通電加熱装置1はまた、図2に示すように、一対の電極11の上方にそれぞれ配置されるクランプ部材15を備えている。クランプ部材15は、電極11の延びる方向に略平行に延びる略直方体状のクランプ基部16と、ワークW1、W2に接触する先端部を備えたピン部17と、クランプ基部15及びピン部17に結合されるスプリング18とを備え、クランプ基部16が、クランプ基部移動手段(不図示)に連結されて矢印Z1に示すように上下方向(z方向)に移動可能に構成されている。
クランプ部材15は、ワークW1,W2を挟んで電極11の反対側に配置され、クランプ基部移動手段によってクランプ基部16が下方へ移動されることにより下方へ移動される。ワークW1,W2に電極11を取り付ける際には、クランプ部材15が下方へ移動され、電極11及びクランプ部材15によってワークW1,W2を挟持して取り付けることができる。これにより、比較的簡便な方法によってワークW1,W2に電極11を確実に取り付けることができる。
また、通電加熱装置1は、ワークW1,W2を所定位置に保持するための位置決め部材21,22を備えている。位置決め部材21は、略直方体状に形成されており、一対の電極11の外側に配置され、図2(a)に示すように、一対の電極11においてそれぞれ他方の電極11が配置される側と反対側の面に、電極11よりも上方へ延びるように結合されている。
これにより、位置決め部材21は、ワークW1,W2の周縁部の一部、具体的にはワークW1,W2の平行な対辺W1a,W2aを該位置決め部材21と係合させることで、電極11の延びる方向と略直交する方向においてワークW1,W2を所定位置に保持することができるようになっている。
一方、位置決め部材22は、略直方体状に形成され、一対の電極11の内側に配置されている。位置決め部材22は、図1に示すように、一対の電極11の対向する端部の間において電極11の延びる方向と略直交する方向に延び、図2(a)において二点鎖線で示すように、電極11よりも上方へ延びている。
これにより、位置決め部材22は、ワークW1,W2の周縁部の一部、具体的にはワークW1,W2の平行な対辺W1a,W2aと直角な辺W1b,W2bを該位置決め部材22と係合させることで、電極11の延びる方向においてワークW1,W2を所定位置に保持することができるようになっている。
通電加熱装置1にはまた、該通電加熱装置1に関連する構成を総合的に制御する制御ユニット(不図示)が備えられ、該制御ユニットは、通電手段10及びクランプ基部移動手段等の作動を制御することができるようになっている。尚、制御ユニットは、好ましくは、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
このようにして構成された通電加熱装置1では、クランプ部材15がそれぞれ上方へ移動された状態で、それぞれ所定形状に形成された2つのワークW1,W2を用意し、位置決め部材21、22によって所定位置に位置決めされた状態で電極11上に2つのワークW1,W2を重ね合わせ、重ね合わせられた2つのワークW1,W2に対してクランプ部材15を下方へ移動させることにより電極11とクランプ部材15とによってワークW1,W2を密着させた状態で挟持してワークW1,W2に一対の電極11を取り付け、その後に、両電極11間を通電して2つのワークW1,W2を加熱することが行われる。
ここで、本実施形態に係る通電加熱装置1において加熱されるワークW1,W2について説明する。図3は、通電加熱装置において加熱される板状ワークを説明するための説明図である。図3(a)、図3(b)は、それぞれ所定形状に形成される前後のワークを示す。
通電加熱装置1では、高張力鋼板などの所定の電気抵抗を有する導電性のワークW1,W2が通電加熱されるが、加熱されるワークW1,W2は、図3(a)に示すように、所定厚さを有する矩形状の板状ワークを、対角線の交点C1を通る(二点鎖線で示される)点対称な直線状のラインL1によって切断することによって形成される。図3(b)では、ワークW1を上下反転した状態で示しているが、この図に示すように、ワークW1,W2は、同一の電気抵抗率を有するとともに同一形状を有し、一対の対辺が互いに平行な直角台形状に形成されている。
矩形状の板状ワークを用いる場合、その他例えば、1)対角線の交点C1を通る点対称な直線状のラインによって切断し、同一の直角三角形に形成する、2)対角線の交点C1を通る点対称な階段状のラインによって切断する、3)対角線の交点C1を通る点対称な曲線状のラインによって切断する、などが可能である。
また、平行四辺形に形成された板状ワークを用いる場合も同様に、1)対角線の交点を通る点対称な直線状のラインによって切断して同一の等脚台形に形成する、2)対角線の交点を通る点対称な直線状のラインによって切断して同一形状を有する平行な対辺の間のもう1つの対辺の長さが異なる台形状に形成する、などが可能である。
図4は、通電加熱される板状ワークの断面積について説明するための説明図であり、図4(a)は、2つの板状ワークを電極上に重ね合わせた状態を示し、図4(b)は、電極間の通電方向における正電極からの距離と板状ワークの断面積との関係を示している。尚、図4(b)では、ワークW1,W2の通電方向に直交する断面における断面積をそれぞれラインL2、ラインL3で示し、ワークW1、W2の通電方向に直交する断面における断面積の総和をラインL4で示している。
通電加熱装置1では、電極11上にワークW1,W2が重ね合わせられて所定位置に配置される。ワークW1とワークW2とは、それらの直角部がそれぞれ一致するようにして重ね合わせられ、ワークW1,W2の両端部にそれぞれ電極11が取り付けられるように配置される。
図4(a)に示すように、電極11間の通電方向における正電極11aからの距離x1において、ワークW1,W2の通電方向に直交する幅をy1,y2とし、ワークW1,W2の厚さをtとすると、ワークW1,W2の通電方向に直交する断面における断面積S1,S2はそれぞれ、ワークW1,W2の幅y1,y2とワークW1,W2の厚さtとの積(y1・t),(y2・t)によって表され、ワークW1,W2の通電方向に直交する断面における断面積の総和(S1+S2)は、(y1・t+y2・t)で表される。
図4(b)に示すように、ワークW1は、通電方向における正電極11aからの距離が大きくなるにつれてワークW1の通電方向に直交する断面における断面積が大きくなる(ラインL2参照)一方、ワークW2は、通電方向における正電極11aからの距離が大きくなるにつれてワークW2の通電方向に直交する断面における断面積が小さくなる(ラインL3参照)が、本実施形態では、重ね合わせられたワークW1、W2の通電方向に直交する断面における断面積の総和が、通電方向における正電極11aからの距離に関わらず略一定となる(ラインL4参照)ようにワークW1,W2が用意され重ね合わせられる。
本実施形態では、ワークW1,W2が、通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるように形成され重ね合わせられるが、3つ以上のワークを重ね合わせ、3つ以上ワークの通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるようにしてもよい。
このように、本実施形態では、所定の電気抵抗を有する導電性の複数のワークW1,W2に互いに離間する一対の電極11を取り付けて通電することによりワークW1,W2を加熱する通電加熱において、それぞれ所定形状に形成されたワークW1,W2を用意し、ワークW1,W2を重ね合わせ、ワークW1,W2が重ね合わせられた状態で、複数のワークW1,W2に一対の電極11を取り付けて、両電極11間を通電する。その場合、ワークW1,W2は、通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるように用意され重ね合わせられる。
これにより、両電極11間を通電する際に、通電方向において重ね合わせられたワークW1,W2の抵抗値を略一定にしてワークW1,W2から発生するジュール熱を通電方向において略等しくすることができるので、比較的簡単にワークW1,W2の加熱温度のバラツキを抑制することができる。直角台形状などの非矩形状に形成されたワークW1,W2を加熱する場合においても、通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるようにワークW1,W2を用意して重ね合わせることで、非矩形状に形成されたワークW1,W2の加熱温度のバラツキを抑制することができる。
また、重ね合わせられた複数のワークW1,W2の周縁部の少なくとも一部W1a,W1b,W2a,W2bと係合してワークW1,W2を所定位置に位置決めする位置決め部材21,22を備えていることにより、ワークW1,W2の位置がずれることを防止してワークW1,W2を所定位置に精度良く保持することができ、前記効果を有効に奏することができる。
尚、通電加熱装置1では、一対の電極11にそれぞれ位置決め部材21が結合され、電極11と位置決め部材21とが別体で形成されているが、位置決め部材を電極によって形成し、電極と位置決め部材とを一体的に形成するようにしてもよい。
次に、図3(b)のように形成された板状ワークW1,W2を、間に溶着防止部材14を介在させた状態で、通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるように重ね合わせて通電加熱した結果について説明する。
図5は、通電加熱されるワークの温度測定条件を説明するための説明図である。図5では、ワークW1,W2及び電極11のみを示している。ワークW1,W2として、厚さ1.6mmを有する冷間圧延高張力鋼板SPFC440を用い、図3に示すように、長さが280mm、幅が110mmである矩形状に形成された板状ワークを対角線の交点C1を通る点対称な直線状のラインL1によって切断することにより、同一形状を有する直角台形状に形成したものを用意した。具体的には、板状ワークW1,W2は、図5(a)に示すように、上辺が22mm、下辺が88mm、長さが280mmである直角台形状に形成したものを用いた。また、電極間の距離は230mmに設定した。
通電には直流電源を用い、電流値を4.2kAに設定して10秒間行った。通電した結果を以下の表1に示す。「加熱状態」の判定は、通電直後のワークW1,W2のうち、最も高温な部分と最も低温な部分との温度差について、サーモグラフィを用いて調べた結果である。温度差が200℃未満であれば、加熱後のプレス成形を非常に良好に行うことができるため、結果を○(均一)とした。「通電加熱中の被加熱部材同士の接触」の判定は、通電中の目視によって確認した。「溶着」の判定は、ワークW1,W2を分離する際にワークの重さ以上の力が必要か否かで判断した。また、溶着が起こった場合には、ワークW1,W2に溶着の痕跡が視認される場合もあった。
表1に示したように、ワークW1,W2の間に溶着防止部材14を介在させた場合、溶着は起こらないことがわかる。ただし、溶着防止部材の厚さが大きすぎる場合には、ワーク同士が接触せず、従って加熱状態も、ワーク同士が接触しない場合に比べて均一でなくなる。それゆえ、溶着防止部材14の厚さを所定の値以下にすることで、溶着を防止しつつ、加熱温度のバラツキを抑制することができることがわかる。
次に、ワークW1,W2の間に介在させる溶着防止部材14の厚さを前記所定の値以下にした場合には、ワーク同士が接触する理由について説明する。
図6は、通電加熱前後の板状ワークを示す概念図である。図6(a)は、非通電時のワーク、図6(b),図6(c)は、通電時のワークを示す。図6(a)に示すように、ワークW1,W2の間には溶着防止部材14が介在しているため、非通電時にはワークW1,W2は接触していない。一方、図6(b)に示すように、通電時には、発生するジュール熱によってワークW1,W2は熱膨張する。さらに、ワークW1,W2には互いに同じ方向(+x方向)に電流が流れるため、一方のワークに流れる電流が他方のワークの位置に作る磁界によって、ワークW1,W2には互いに引き合う力が生じる。
ワークの変形量は、ワークを流れる電流の大きさ、ワークを構成する材料の物性値、例えば弾性率や熱膨張率に依存する。また、ワークW1,W2は、両端で電極11と接触し、上側からはクランプ部材15によって圧力を受ける。それゆえ、図6(b)に示すように、ワークW1,W2は、一点鎖線で示す中央部から撓んだように互いに接触する。つまり、ワークW1,W2は、中央部で最も変形量が大きくなる。よって、溶着防止部材14の前記所定の値は、通電時に、少なくとも中央部同士が接触する厚さに設定することができる。これにより、通電中にワークW1,W2を確実に接触させ、さらに加熱温度のバラツキを抑制することができる。
ここで、前述のように、溶着防止部材14は、x方向には、電極より内側の通電範囲に入らないことが好ましい。その第3の理由として、通電時のワークW1,W2の接触が阻害されることを述べた。図6(b),図6(c)は、それぞれ溶着防止部材が点線で示す電極の位置より内側に入らない場合、入った場合について図示している。ワークW1,W2は、溶着防止部材14と接する端部で上側からクランプ部材15により圧力を受けて固定される。それゆえ、溶着防止部材14が電極11よりも大きく内側に入った場合、図6(c)に示すように、ワークW1,W2の変形量が小さくなり、接触が阻害される場合がある。
このように、複数のワークW1,W2を、電極11間の通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるように用意して重ね合わせ、かつ、溶着防止部材14をワークW1,W2の間に介在させることで、非矩形状に形成された板状ワークを通電加熱によって加熱する際に、溶着を防止しつつ、ワークの加熱温度のバラツキを抑制することができる。また、溶着防止部材14を所定の位置に配置することで、ワークの加熱温度のバラツキの抑制が阻害されることはなく、さらに、溶着防止部材14の厚さを所定の値以下にすることで、通電中にワークW1,W2を確実に接触させ、さらに加熱温度のバラツキを抑制することができる。
このようにして、通電加熱装置1を用いてワークW1,W2を加熱した後には、加熱されたワークW1,W2を、搬送ロボットや搬送ベルトなどの搬送手段を用いて成形型を備えたプレス成形装置に搬送してプレス成形することで、ワークW1,W2を熱間プレス成形することができるが、通電加熱装置1をプレス成形装置に組み込んで、通電加熱によって加熱されたワークをプレス成形するようにしてもよい。
図7は、通電加熱装置を備えたプレス成形装置の一例を示す概略図である。図7に示す通電加熱装置1を備えたプレス成形装置31は、下方側へ突出する突出部41を備えたパンチ40と、突出部41に対応して凹状に形成された凹部51を備えたダイ50と有する成形型30を備え、突出部41と凹部51とを組み合わせることでワークを所定形状に形成することができるように構成されている。
パンチ40は、スプリング42及びスプリングガイド43を介してパンチプレート44に取り付けられ、該パンチプレート44がパンチホルダー45に取り付けられている。パンチホルダー45は、パンチ移動機構(不図示)に連結されており、パンチ移動機構によってパンチホルダー45が上下方向(z方向)に移動されることにより、パンチ40が上下方向に移動可能に構成されている。一方、ダイ50は、ダイホルダー52に取り付けられて固定されている。
プレス成形装置31にはまた、前述した通電手段10を有する通電加熱装置1が備えられ、ダイ50には、ダイ50の凹部51を挟んで凹部51の両側に一対の電極11が取り付けられている。一対の電極11は、ダイ50の上面よりも突出するように設けられ、ケーブル13によって電源12に接続されている。また、一対の電極11の上方にはそれぞれクランプ部材15が取り付けられている。
プレス成形装置31では、パンチ40が上方へ移動された状態で、ワークW1,W2の通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるように用意される。次に、間に溶着防止部材14が介在した状態で重ね合わせられたワークW1,W2を、電極11及びクランプ部材15によって挟持してワークW1,W2に一対の電極11を取り付けた後に、両電極11間を通電してワークW1,W2が通電加熱される。
続いて、ワークW1,W2の加熱後、クランプ部材15が上方へ移動され、搬送手段(不図示)を用いてワークW1がプレス成形装置31から取り除かれる。次に、パンチ40が下方へ移動され、加熱されたワークW2が成形型30を用いてプレス成形され、ワークW2の熱間プレス成形が行われる。
前述したように、通電加熱装置1を組み込んだプレス成形装置31を用い、通電加熱装置1によってワークW1,W2を加熱し、その後、成形型30を用いて加熱されたワークW2をプレス成形して、熱間プレス成形を行うようにしてもよい。尚、熱間プレス成形は、ワークを焼入れ温度以上に加熱してプレス成形するものに限らず、ワークを焼入れ温度未満の温度に加熱してプレス成形するものも含むものとする。
このように、間に溶着防止部材14が介在した状態で、通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるように重ね合わせられたワークW1,W2を通電加熱し、続いて成形型を用いて加熱されたワークW1,W2をプレス成形することにより、ワーク同士の溶着を防止し、ワークの加熱温度のバラツキを抑制しつつワークを迅速に加熱することができる。その結果、ワークの材料特性にバラツキが生じることを防止することができるとともに、ワークのプレス成形サイクルタイムを短縮することが可能である。
本実施形態では、複数のワークW1,W2を重ねる場合について説明した。一方、ワークW1と異なる材料で構成した加熱補助部材W2を重ねる場合でも、同様の効果を得ることができることを以下に示す。尚、これは以下の実施形態でも同様である。
(電気抵抗率が異なる被加熱部材を重ね合わせる場合)
図8は、電極間の通電方向における正電極からの距離と板状ワーク及び加熱補助部材の通電方向に直交する断面における断面積と電気抵抗率の逆数との積との関係を示している。尚、図8では、板状ワークW1及び加熱補助部材W2についてそれぞれ通電方向に直交する断面における断面積と電気抵抗率の逆数との積をラインL2、ラインL3で示し、通電方向に直交する断面における板状ワークの断面積と板状ワークの電気抵抗率の逆数との積と前記断面における加熱補助部材の断面積と加熱補助部材の電気抵抗率の逆数との積との総和をラインL4で示している。
通電加熱装置1では、電極11上にワークW1及び加熱補助部材W2が重ね合わせられて所定位置に配置される。ワークW1及び加熱補助部材W2は、それらの直角部がそれぞれ一致するようにして重ね合わせられ、ワークW1及び加熱補助部材W2の両端部にそれぞれ電極11が取り付けられるように配置される。
図8に示すように、電極11間の通電方向における正電極11aからの距離x1において、ワークW1、加熱補助部材W2の通電方向に直交する幅をy1,y2とし、ワークW1及び加熱補助部材W2がともに所定の厚さtを有するとする。ワークW1及び加熱補助部材W2の通電方向に直交する断面における断面積S1,S2はそれぞれ、(y1・t),(y2・t)で表される。
また、ワークW1が所定の電気抵抗率ρ1を有し、加熱補助部材W2が所定の電気抵抗率ρ2を有するとする。通電方向における正電極11aからの距離x1において、ワークW1の断面積S1とワークW1の電気抵抗率ρ1の逆数との積は、(S1/ρ1)で表され、加熱補助部材W2の断面積S2と加熱補助部材W2の電気抵抗率ρ2の逆数との積は、(S2/ρ2)で表される。
重ね合わせられたワークW1及び加熱補助部材W2では、通電方向における正電極11aからの距離x1において、通電方向に直交する断面におけるワークW1の断面積S1とワークW1の電気抵抗率ρ1の逆数との積(S1/ρ1)と通電方向に直交する断面における加熱補助部材W2の断面積S2と加熱補助部材W2の電気抵抗率ρ2の逆数との積(S2/ρ2)との総和(S1/ρ1+S2/ρ2)は、(y1・t/ρ1+y2・t/ρ2)で表される。
図8に示すワークW1及び加熱補助部材W2では、通電方向における正電極11aからの距離が大きくなるにつれて、ワークW1の通電方向に直交する断面における断面積S1とワークW1の電気抵抗率ρ1の逆数との積(S1/ρ1)は大きくなる(ラインL2参照)。一方、通電方向における正電極11aからの距離が大きくなるにつれて、加熱補助部材W2の通電方向に直交する断面における断面積S2と加熱補助部材W2の電気抵抗率ρ2の逆数との積(S2/ρ2)は小さくなる(ラインL3参照)。
しかしながら、本実施形態では、通電方向に直交する断面におけるワークW1の断面積S1とワークW1の電気抵抗率ρ1の逆数との積と、通電方向に直交する断面における加熱補助部材W2の断面積S2と加熱補助部材W2の電気抵抗率ρ2の逆数との積との総和(S1/ρ1+S2/ρ2)は、通電方向における正電極11aからの距離に関わらず略一定となるように(ラインL4参照)ワークW1及び加熱補助部材W2が用意され重ね合わせられる。
通電方向に直交する断面におけるワークW1の断面積S1とワークW1の電気抵抗率ρ1の逆数との積と、通電方向に直交する断面における加熱補助部材W2の断面積S2と加熱補助部材W2の電気抵抗率ρ2の逆数との積との総和(S1/ρ1+S2/ρ2)が、通電方向において略一定となるようにしたのは、通電方向においてワークW1の単位長さあたりの抵抗(ΔR1=ρ1・ΔL/S1)と加熱補助部材W2の単位長さあたりの抵抗(ΔR2=ρ2・ΔL/S2)とを並列回路とみなし、通電方向においてワークW1及び加熱補助部材W2の単位長さ当たりの合成抵抗を略一定にするためである。尚、ΔLは、通電方向の単位長さを表し、ΔR1,ΔR2はそれぞれ、通電方向におけるワークW1及び加熱補助部材W2の単位長さ当たりの抵抗を表している。
以上、1枚のワークW1に加熱補助部材W2を重ね合わせる場合について説明したが、2枚以上のワークに加熱補助部材を重ね合わせ、通電方向に直交する所定の断面における板状ワーク毎の断面積と板状ワーク毎の電気抵抗率の逆数との積と前記所定の断面における加熱補助部材の断面積と加熱補助部材の電気抵抗率の逆数との積との総和が通電方向において略一定となるようにしてもよい。
本実施形態で使用するワークとしては、例えばアルミニウム、ステンレス、マグネシウム、鋳鉄、チタン、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を想定している。また、加熱補助部材は、高張力鋼板、樹脂製、その他、例えば、酸化しにくいステンレスや鋳鉄などからなる部材を用いることができる。
(第2実施形態)
図9(a)〜図9(c)は、本発明の第2実施形態に係る通電加熱装置の側面図である。尚、図9(a)〜図9(c)は、図2(c)に対応する、YB方向から見た通電加熱装置の側面図である。第1実施形態の通電加熱装置1と同様の構成は、同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態の通電加熱装置61では、非矩形の板状ワークW1,W2を重ねた場合に負電極71bと溶着防止部材74bとの間に生じる隙間を埋めるために、厚肉部71dを有する電極71を用い(図9(a))、又は厚肉部74dを有する溶着防止部材74を用い(図9(b))、又は前記隙間に溶着防止補助部材19を設ける(図9(c))。
図2(b)に示したように、正電極71aの側では、電極71aと溶着防止部材74aとの間に隙間が生じない。それゆえ、正電極71a、溶着防止部材74a(不図示)は、通電加熱装置1の正電極11a、溶着防止部材14aとそれぞれ同様に形成される。
一方、図9(a)に示すように、負電極71bの形状を変更して電極71bと溶着防止部材74bとの間に生じる隙間を埋める場合、負電極71bは、通電加熱装置1の負電極11bと同様に略直方体状に形成された本体部71cと、該本体部71cから突出した厚肉部71dとを備え、本体部71cと厚肉部71dとは一体形成されている。
厚肉部71dは、本体部71cと通電方向(x方向)において同一長さを有するとともにワークW2の厚さ(z方向)と同一の厚さを有し、本体部71cと溶着防止部材74bとの間に形成される空間を埋めるように形成されている。
また、図9(b)に示すように、溶着防止部材74bの形状を変更する場合して前記隙間を埋める場合、溶着防止部材74bは、通電加熱装置1の溶着防止部材14bと同様に略直方体状に形成された本体部74cと、該本体部74cから突出する厚肉部71dとを備え、本体部74cと厚肉部74dとは一体形成されている。
厚肉部74dは、本体部74cと通電方向(x方向)において同一長さを有するとともにワークW2の厚さ(z方向)と同一の厚さを有し、本体部71cと溶着防止部材74bとの間に形成される空間を埋めるように形成されている。
さらに、図9(c)に示すように、溶着防止補助部材19を設けて前記隙間を埋める場合、溶着防止補助部材19は、電極71と通電方向(x方向)において同一長さを有するとともに、ワークW2の厚さ(y方向)と同一の厚さを有し、本体部71cと溶着防止部材74bとの間に形成される空間を埋めるように形成されている。溶着防止補助部材19は、電気抵抗率がワークW1,W2より小さい材料、例えば銅で構成することができる。これにより、溶着防止補助部材19についても、ワークの通電方向に直交するy方向全体に接触するように設けられている。
尚、本実施形態では、電極と溶着防止部材との間の隙間を埋める構成について説明したが、3枚以上の非矩形の板状ワークを重ね合わせた場合、各ワーク間に介在させる溶着防止部材同士の間にも隙間が生じる。この場合、厚肉部を有する溶着防止部材を用いるか、隙間に更なる溶着防止補助部材を介在させることにより、溶着防止部材同士の間の隙間を埋めることができる。
このようにして構成される通電加熱装置61においても、ワークW1,W2の通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるようにワークW1,W2が用意され重ね合わせられることにより、電極71間を通電する際にワークW1,W2から発生するジュール熱を通電方向において略等しくすることができるので、比較的簡単にワークの加熱温度のバラツキを抑制することができる。
また、非矩形のワークW1,W2を重ね合わせた場合に、負電極71bと溶着防止部材74bとの間に生じる隙間を埋める厚肉部を有する電極71b又は溶着防止部材74bを用い、或いは該隙間に溶着防止補助部材19を介在させることにより、正電極71aからの電流をワークW1全体に均一に流すことができる、つまり、電流が特定の部位に集中して流れることによる発熱を抑制できるので、ワークの加熱温度のバラツキをさらに抑制することができる。
(第3実施形態)
図10は、本発明の第3実施形態に係る通電加熱装置の概略図であり、図10(a)は、前記通電加熱装置の概略平面図、図10(b)は、図10(a)におけるYB方向から見た前記通電加熱装置の側面図である。尚、図10(b)では、位置決め部材22を二点鎖線で示し、これを透過状態で示している。本発明の第3実施形態に係る通電加熱装置81は、第1実施形態に係る通電加熱装置1において、ワークW1,W2を電極11間でクランプするクランプ手段がさらに設けられたものであり、通電加熱装置1と同様の構成については同一符号を付して説明を省略する。
前記通電加熱装置81では、電極11間の略中央部においてワークW1,W2をクランプするクランプ手段85が設けられ、クランプ手段85は、ワークW1,W2を上方からクランプする上側クランプ部材91と、ワークW1,W2を下方からクランプする下側クランプ部材95とによって構成されている。
上側クランプ91は、クランプ部材15と同様に構成され、電極11の延びる方向に略平行に延びる略直方体状のクランプ基部92と、ワークW1,W2に接触する先端部を備えたピン部93と、クランプ基部92とピン部93とに結合されるスプリング94とを備え、クランプ基部92が、上側クランプ移動手段(不図示)に連結されて矢印Z2に示すように上下方向(z方向)に移動可能に構成されている。
一方、下側クランプ95は、上側クランプ91を上下反転したものであり、電極11の延びる方向に略平行に延びる略直方体状のクランプ基部96と、ワークW1,W2に接触する先端部を備えたピン部97と、クランプ基部96とピン部97とに結合されるスプリング98とを備える。クランプ基部96は、下側クランプ移動手段(不図示)に連結されて、矢印Z3に示すように上下方向(z方向)に移動可能に構成されている。
クランプ手段85では、前記上側クランプ移動手段によってクランプ基部91が下方へ移動されることにより上側クランプ部材91が下方へ移動され、前記下側クランプ移動手段によってクランプ基部96が上方へ移動されることにより下側クランプ部材95が上方へ移動される。これにより、クランプ手段85は、電極11間の略中央部において電極11上に配置されたワークW1,W2を上側クランプ部材91と下側クランプ部材95とによってクランプすることができるようになっている。
尚、通電加熱装置81では、電極11間においてワークW1,W2をクランプするクランプ手段85が1つ設けられ、ワークW1,W2を電極11間の1ヶ所でクランプするように構成されているが、複数のクランプ手段を設けてワークW1,W2を電極11間の複数箇所でクランプするようにしてもよい。
このようにして構成される通電加熱装置81においても、クランプ部材15及び上側クランプ部材91がそれぞれ上方へ移動されるとともに下側クランプ部材95が下方へ移動された状態で、それぞれ所定形状に形成された2つのワークW1,W2を用意する。次に、電極11上に2つのワークW1,W2を重ね合わせ、重ね合わせられた2つのワークに対してクランプ部材15を下方へ移動させる。これにより、電極11及びクランプ部材15によってワークW1,W2を挟持して、ワークW1,W2に一対の電極11が取り付けられる。
前記通電加熱装置81ではまた、ワークW1,W2を重ね合わせた後、両電極11間を通電する前に、重ね合わせられたワークW1,W2に対して上側クランプ部材91を下方へ移動させる。また、下側クランプ部材95を上方へ移動させることにより上側クランプ部材91及び下側クランプ部材95によって電極11間においてワークW1,W2をクランプする。その後、両電極11間を通電してワークW1,W2を加熱する。
このように、通電加熱装置81を用いる場合においても、複数のワークW1,W2は、通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるように用意され重ね合わせられることにより、両電極11間を通電する際に、ワークW1,W2から発生するジュール熱を通電方向において略等しくすることができる。それゆえ、比較的簡単にワークW1,W2の加熱温度のバラツキを抑制することができる。また、非矩形状に形成されたワークW1,W2を加熱する場合においても、ワークW1,W2の加熱温度のバラツキを抑制することができる。
また、通電加熱装置81では、クランプ手段85を用いてワークW1,W2を電極11間の少なくとも1ヶ所以上でクランプすることにより、電極11間において、重ね合わせられたワークW1,W2の間に隙間が生じることを防止することができる。それゆえ、ワークW1,W2の間に溶着防止部材14を介在させた場合でも、ワークW1,W2を確実に接触させることができ、それゆえ加熱温度のバラツキをさらに抑制することができる。
(変形例)
以上の実施形態においては、前記通電加熱装置1,61,81では、ワークW1,W2は、一定の厚さを有して非矩形状に形成されている。一方、板状ワークW1,W2の厚さが長手方向(x方向)に変化するものを用いることも可能である。
図11は、本発明の実施形態に係る通電加熱装置において加熱される板状ワークの一変形例を示す図である。図15では、前記板状ワークを本発明の第1実施形態に係る通電加熱装置1に取り付けた状態で示している。図11(a)は、前記ワークが取り付けられた前記通電加熱装置の概略平面図、図11(b)、図11(c)及び図11(d)はそれぞれ、図11(a)におけるYB方向、YC方向及びYD方向から見た前記通電加熱装置の側面図である。
図11(b)に示すように、本変形例では、溶着防止部材14を、長手方向に変化する厚さに応じた略平行六面体形状に形成する。また、溶着防止部材14aの+x側の端部と電極11aの+x側の端部とが、また、溶着防止部材14bの−x側の端部と電極11bの−x側の端部とがそれぞれ略同位置になるように溶着防止部材14を配置する。
ワークW1,W2が、通電加熱装置1において通電方向に直交する断面における断面積の総和が通電方向において略一定となるように形成され重ね合わせられる場合には、矩形状に形成されるとともに厚さが長手方向に変化するワークW1,W2を用いることも可能である。
かかる場合においても、両電極11間を通電する際に、ワークW1,W2から発生するジュール熱を通電方向において略等しくすることができるので、ワークW1,W2の間の溶着を防止しつつ、比較的簡単にワークW1,W2の加熱温度のバラツキを抑制することができる。
以上、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明したが、本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。