JP5877741B2 - 細胞数モニタリング方法 - Google Patents

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Description

本発明は、細胞数のモニタリング方法に関する。
植物、微生物、動物等の細胞培養を利用して有用物質を生産する方法は、醸造、食品、化学、医薬品等の各分野の産業で利用されている。例えば、抗体医薬をはじめとする医薬品は、動物細胞が産生する物質を主成分として含有し、その物質は、動物細胞を培養し、培養液中に分泌された目的物質を分離精製することで得ることができる。
有用物質の生産では、培養工程において、品質管理や効率的なプロセス制御を目的として培養中の細胞数や細胞の状態をモニタリングすることが重要である。例えば、高生産性の培養プロセスとして流加培養プロセス及び連続培養プロセスが知られているが、それらのプロセスでは細胞の増殖に合わせてグルタミン等の添加量を制御するため、生細胞数のモニタリングが重要となる。細胞数をモニタリングする技術として、従来、以下のような技術が知られている。オフライン計測の場合、培養液を間欠的に無菌サンプリングし、培養液中に含まれる細胞を血球計算盤を用いて顕微鏡下で目視により計数を行う。また、測定原理は同様であるが、目視による計数の代わりに培養液中の細胞の画像を取得し、画像処理によって細胞数を計数する自動計数装置も存在する。一方、オンライン計測の場合、細胞の酸素消費量から細胞数を推定する方法、細胞の静電容量の測定を利用する方法がある。まず、細胞の酸素消費量から細胞数を推定する方法では、培養液中の溶存酸素をモニタリングしながら、培養液中の溶存酸素の濃度制御を停止し、溶存酸素濃度の減少が細胞による酸素消費によるものと仮定して細胞数を推定する。細胞の静電容量の測定を利用する方法では、培養液中に電場をかけ、電場がかけられたセンサ周辺に存在する生細胞が、細胞膜に覆われた形態から誘電体となるため、その静電容量を測定することで細胞数を推定する。
上述のような細胞数のモニタリング方法を有用物質の生産プロセスに用いるには、以下のような課題がある。
オフラインによる細胞数のモニタリング方法では、細胞を含んだ培養液を培養槽の外部へサンプリングするため、無菌に保たれた培養槽内と雑菌が浮遊する培養槽外との間が一時的に開放される。そのため、培養槽内が雑菌に汚染されるリスクが生じる。また、雑菌混入を防ぐ目的で、サンプリング後、サンプリング用配管を高温スチームで滅菌する操作を行うが、滅菌に要する時間(通常20分以上)、配管が目的温度に達するまでの時間、及び滅菌後に温度を室温に戻すまでの時間が必要であり、サンプリング間隔は通常1時間以上となる。そのため、計測した細胞数に基づき短時間で制御を行いたい場合には、オフラインでのモニタリングは不適である。
オンラインによる細胞数のモニタリング方法では、上述の雑菌混入、計測間隔に関する課題は解決されるが、以下に述べるような課題が生じる。すなわち、酸素消費量を測定する方法では、細胞数の計測の際に溶存酸素の制御を停止する。通常、培養プロセスでは溶存酸素を一定に制御しながら培養を行うが、酸素消費量を計測する際には溶存酸素の制御ができず、低酸素濃度となるため、有用物質の生産性低下や品質低下を招く恐れがある。また、静電容量を測定する方法では、生細胞と、アポトーシスのような細胞膜を残した細胞死の状態とを区別することが難しく、細胞の状態も含めたモニタリングには適さない。
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、オンラインで且つ細胞に対して非侵襲的に計測できる細胞数のモニタリング方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、細胞が発する蛍光を光学的に計測することでオンライン且つ非侵襲的に細胞数を計測する。具体的には、本発明の細胞数のモニタリング方法は、培地由来の蛍光を低減するか及び/又は細胞由来の蛍光を増強した上で、励起光により発生した蛍光強度を測定し、測定された蛍光強度に基づいて細胞数を算出することを特徴とする。
本発明に係る細胞モニタリング方法によれば、雑菌混入のリスクを低減し、細胞に対して非侵襲的に細胞数を計測することができる。そのため、有用物質、特に医薬品を、安全性に優れ且つ高い品質で製造することができる。また、計測した細胞数に応じた培養制御を行うことで、より高い収率で目的物質を生産することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
細胞数モニタリング装置の一実施形態を示す図である。 蛍光共鳴エネルギー移動を説明するための図である。 蛍光共鳴エネルギー移動を説明するための図である。 ドナー・アクセプター間の距離とエネルギー移動効率との関係を示すグラフである。 CFP−YFP蛍光タンパク質の蛍光スペクトルを示す図である。 アポトーシスを説明するための図である。 回分培養システムの一実施形態を示す図である。 流加培養システムの一実施形態を示す図である。 接着細胞培養システムの一実施形態を示す図である。 シングルユースを用いた培養システムの一実施形態を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
細胞の培養プロセスにおける細胞数のモニタリング方法の一実施形態について以下に述べる。図1に示すように、本発明の細胞数モニタリング方法に用いる装置は、光源1、光学フィルタ2、検出器3、記録装置4、演算装置5及び制御装置6を備えている。光源1を出た光は、光学フィルタ2を通過して特定の波長域の励起光となり、培養液中の細胞を含むサンプル7に照射される。励起光により細胞から発生した蛍光は、特定の波長域の光学フィルタ2を通過した後、検出器3に入る。そして、検出された蛍光強度を計測し、演算装置5において細胞数へ変換する演算処理を施し細胞数を算出する。計測におけるSN比は、細胞由来の蛍光と培地由来の蛍光(バックグラウンド)とに依存する。そのため、培地由来の蛍光を低減するか、及び/又は細胞由来の蛍光を増強することによりSN比を改善する。次に、細胞数モニタリング装置の各構成要素、SN比の改善方法、及び培養プロセスでの細胞数モニタリング方法等に関して詳細に説明する。
1.細胞数モニタリング装置
細胞数モニタリング装置は、使用する励起光、及び蛍光の波長域によって構成要素を適宜選択する必要がある。すなわち、測定条件により、図1の細胞数モニタリング装置における光源1、光学フィルタ2、検出器3等の各構成は適切なものを選択しなければならない。以下に、構成ごとに選択されうる要素を挙げる。必ずしも以下の要素である必要はなく、同等の性能を有するものであれば別の要素を使用しても構わない。また、選択すべき波長域に関しては、後述の「2.SN比の改善方法」及び表1に記載する。
(光源1)
LED:電気エネルギーを光エネルギーに変換する半導体素子であり、半導体レーザー(レーザーダイオード:LD)と比較すると、安価で長寿命である。
半導体レーザー(LD):半導体の再結合発光を利用したレーザーである。
キセノンランプ・水銀キセノンランプ:輝度・色温度が高く、紫外/可視/赤外領域にわたって連続スペクトルを有する。
キセノンフラッシュランプ:直流点灯タイプに比べて小型で発熱が少なく、紫外/可視/赤外領域にわたり強い連続したスペクトルを有する。また、アーク安定性に優れる。
重水素ランプ:2000時間〜4000時間の長寿命を有する。
ホローカソードランプ:金属蒸気放電タイプの光源である。
ペン型低圧水銀ランプ:ペン型の小型低圧水銀ランプであり、純粋な水銀スペクトル線を安定的に且つ再現性よく得ることができる。
フラッシュ光源:LF1、キセノンフラッシュランプ、電源、制御回路等を一体化し、ライトガイド等の光学系の選択により、さまざまな光を出力することが可能である。マイクロ秒単位でのストロボ光源に適し、光量が高い。
紫外−可視ファイバ光源:各種ポータブル装置等に応用することができる。
低エネルギー電子線照射源:フィラメントから生じた熱電子を高電圧で加速してエネルギーを高め、窓箔から電子線を大気中に取り出す装置である。
(光学フィルタ2)
ロングパスフィルタ:ある波長よりも長い波長の光だけを透過させる。
ショートパスフィルタ:ある波長より短い波長の光だけを透過させる。
バンドパスフィルタ:特定範囲の波長だけを透過させる。
NDフィルタ:波長によらずに一定の割合で光を弱める。
(検出器3)
フォトダイオード:近赤外から紫外・高エネルギーまでの波長域にわたり、高速・高感度・低雑音の検出を特徴とする。
光電子増倍管:入光窓や光電陰極の材料を選択することにより、115nmの真空紫外域から1700nmの赤外域に至る広い範囲で、波長選択的に光検出が可能である。
計測した蛍光強度は、以下の解析方法により細胞数へと変換することができる。すなわち、モニタリングを行うサンプルと同一条件(蛍光タンパク質発現細胞、培地等が同一)で細胞密度が既知であるサンプルの蛍光強度を測定し、検量線を作成する。この検量線を利用して、モニタリングした蛍光強度から細胞数を算出する。
2.SN比の改善方法
細胞は自家蛍光と呼ばれる弱い蛍光を発する。原理的にはこの自家蛍光を測定することで細胞数を計測することができるが、実際は培地中にも蛍光物質が含まれているため、計測に必要なSN比を得ることが困難である。SN比の関係は、下記の式(1)〜(4)で表される。このSN比の改善は、培地由来の蛍光(バックグランド)を低減するか、及び/又は細胞由来の蛍光(シグナル)を増強することにより行うことができる。以下、それぞれの方法を具体的に説明する。
(SN比)=(細胞の蛍光強度)/(ノイズ) (1)
(ノイズ)∝(培地の蛍光強度) (2)
(細胞の蛍光強度)=(細胞数)×(単位細胞当たりの蛍光強度) (3)
(培地の蛍光強度)=(血清の蛍光)+(フェノールレッドの蛍光)+・・・ (4)
2.1.培地由来の蛍光(バックグランド)の低減
培地成分に含まれる蛍光物質としては、主にpH指示薬としてのフェノールレッド、血清、ビタミン等が挙げられる。特に医薬品製造における培養プロセスでは、pH電極を用いてpHのモニタリングを行うため、フェノールレッドを培地から除いても問題がなく、また近年、無血清培地での培養が多くなっているため、血清を除いた状態で培養することも可能である。ビタミンに関しては細胞の生育に必要であるが、必要最低限の濃度とすることで培地由来の蛍光を低減することができる。通常、ビタミンは、初期培地に全培養工程分が含まれており、比較的高濃度で存在する。しかし、例えば流加培養プロセスを採用してビタミンを細胞が消費する分だけ適時添加することによって培地中のビタミン濃度を低濃度に保つことができ、それによって培地由来の蛍光を低減することが可能となる。
2.2.細胞由来の蛍光(シグナル)の増強
細胞に蛍光タンパク質の遺伝子を組み込むことにより細胞の発する蛍光強度を高めることができる。蛍光タンパク質は複数の種類が知られている。それぞれの蛍光タンパク質における励起波長及び蛍光波長を表1に示す。表1の励起波長及び蛍光波長は、蛍光タンパク質の検出効率が最も高い波長であり、記載されている波長の周辺域であれば効率は下がるが測定することは可能である。
Figure 0005877741
次に、蛍光タンパク質発現細胞の構築手順の一例を示すが、これに限定されるものではない。
(蛍光タンパク質遺伝子の細胞への導入)
培養哺乳動物細胞に対する発現ベクターとして、哺乳動物細胞系で高レベルのタンパク質発現を可能にするため、サイトメガロウイルス(CMV)の極初期プロモーターを利用し、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を組み込む。まず、pCMS−EGFPベクター(CMV IEプロモーター、マルチクローニングサイト、SV40プロモーター、EGFP遺伝子で構成される)を、エンドフリー・プラスミド・マキシ・キット(キアジェン社製)を用いて精製した後、スーパーフェクトトランスフェクション試薬(キアジェン社製)を用いたリポフェクションにより遺伝子導入を行う。この時点では蛍光タンパク質は一過性の発現であり、トランスフェクション後、プラスミドの多くはプラスミドのまま存在し、プラスミドの入っている細胞とプラスミドの入っていない細胞とが混在した状態となっている。一過性発現では正確に細胞数を計測できない可能性があるため、次の方法により全ての細胞の染色体に蛍光タンパク質遺伝子が組み込まれた安定発現株を構築する。
(発現安定株の構築)
使用するベクターに抗生物質(例えば、ネオマイシン/ハイグロマイシン/ピューロマイシン/ブラストサイジン/ゼオシン等)の耐性遺伝子を付加するか、もしくは蛍光タンパク質遺伝子がコードされているベクターとは別に、抗生物質耐性遺伝子をコードしているベクターをコトランスフェクションすることにより、抗生物質に対し耐性を有する細胞を構築することができる。トランスフェクションの直後、もしくは数日後に、培養液に対象の抗生物質を添加することによって、遺伝子導入された細胞だけを増殖させることができる。遺伝子が染色体に組み込まれた細胞は、増殖するとその遺伝子も複製されるが、プラスミドの場合は長期間の培養では引き継がれない。そのため長期間(数週間から数ヶ月間)培養することにより、蛍光タンパク質が染色体に組み込まれた細胞のみを増やすことができる。
一方、上記の方法では、染色体に組み込まれる遺伝子のコピー数が異なるため、1細胞当たりの蛍光強度が異なる。染色体に組み込まれる遺伝子のコピー数を一定にするため、コピー数の異なる細胞群から1つの細胞を採取し、その細胞を増殖させることで、コピー数が一定の細胞群を構築することができる。上記トランスフェクションによりプラスミドもしくは染色体に遺伝子が組み込まれた細胞を希釈し、96ウェルプレートの1ウェル当たり細胞が1個以下となるように播種する。必要であれば顕微鏡下で各ウェルに細胞が1個以下であることを確認し、抗生物質の入った培地で培養を行う。十分増殖したところで培養フラスコに播種しなおし、増殖及び凍結保存することにより、染色体に蛍光タンパク質遺伝子が組み込まれた安定発現株を構築する。
以上の方法で、蛍光タンパク質を発現する細胞を構築することができる。上記の例では、蛍光タンパク質はGFPであったが、同様の方法で表1示すような他の蛍光タンパク質を発現させることが可能である。また、上記の遺伝子導入では、プラスミドとしてpCMS−EGFPベクターを用いているが、蛍光タンパク質を発現させ得るものであれば他の種類のベクターを用いても構わない。プラスミドの精製では、トランスフェクションに必要十分な純度が得られる方法であれば、エンドフリー・プラスミド・マキシ・キットと異なる精製方法を用いても構わない。また、哺乳動物への遺伝子導入は、操作が簡便且つ短時間で終了することから、リポフェクション法が最も勧められるが、上記のリポフェクション法の他にも、レトロウイルスを用いた方法、電気穿孔法やカルシウムリン酸法等が適用可能である。
3.蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer:FRET)を利用した細胞数モニタリング方法
FRETを利用することで、より高度な細胞数の計測を行うことが可能となる。まず、FRETの原理を説明した上で、その応用例として細胞の状態がアポトーシス(細胞死の一種)であるか生細胞であるかを判断することができるアポトーシス細胞数のモニタリング方法について述べる。FRETは、アポトーシス細胞の検出に限らず、幅広い細胞の状態の検出に利用することができる。
3.1.FRETの原理
図2に示すように、2つの分子がリンカーを介して結合している場合を考える(図2の左)。励起された分子(ドナー:D)は、そのエネルギーを蛍光や熱エネルギーとして放出する(図3)。ここで、近隣(1〜10nm)の分子(アクセプター:A)が下記に示す特定の条件を満たすと、共鳴による励起エネルギーの移動(FRET)が起こる。この時、エネルギーを失ったドナーは基底状態に戻り、同時にエネルギーを受け取ったアクセプターは励起状態となる(A)。すなわち、ドナーを励起し、FRETが起こると、励起状態のアクセプターを得ることができる。したがって、アクセプターが蛍光タンパク質である場合、ドナーを励起することによって、アクセプターからの蛍光を得ることが可能となる。
(FRETが起こるための条件)
(a)ドナーの発光スペクトルとアクセプターの吸収スペクトルに重なりがあること。
(b)ドナーとアクセプターとがある程度近くに存在すること。
(c)ドナーとアクセプターとが適切な配向状態であること。
上記(a)〜(c)の条件を全て満たした分子の間でFRETが起こる。
蛍光共鳴エネルギー移動の効率は、図4の通りであり、近い位置に固定されていたドナーとアクセプターは、リンカーの切断によりその間の距離が無限遠になるとエネルギー移動は起こらなくなる。すなわち、図2の左の状態ではドナーの励起によりアクセプターからの蛍光を得ることができるが、図2の右の状態ではドナーからの蛍光のみとなるため、リンカーが切断される反応の進行に伴ってアクセプターの蛍光が減少し、ドナーの蛍光が増加する。したがって、蛍光スペクトルは図5に示すようにFRETを起こす場合とFRETを起こさない場合との間で経時的に変化することとなる。細胞の状態を知るために、このFRETの原理を利用することができる。
3.2.FRETを利用したアポトーシス細胞の計測
FRETを利用して生体内(細胞内)の状態をモニタリングする方法の例として、アポトーシスの検出方法を挙げる。
(アポトーシス)
動物細胞を用いた有用物質の生産プロセスでは、培養の進行に伴う環境の劣悪化が細胞死滅をもたらし、このことが物質生産の効率が低い一因となっている。この細胞死は、アポトーシスという細胞死の機序によることが多く、培養工程において細胞の状態がアポトーシスであるか否かをモニタリングすることは重要である。培養環境の悪化により細胞にアポトーシスの刺激が到来すると、ミトコンドリア外膜の透過性が亢進して、チトクロームC等のミトコンドリアタンパク質を漏出させる。すると、細胞質に漏れ出たこのタンパク質は、アポトーシスの実行者であるカスパーゼ3という酵素を活性化する。それによってDNA分解酵素の活性が高まり、核の中のDNAの細断化が進み、細胞死へと至る(図6参照)。
(アポトーシス検出のための蛍光タンパク質の設計)
アポトーシスの過程でサイトケラチン18がカスパーゼ3により分解されることが知られている。そこで、2つの蛍光タンパク質がサイトケラチン18の切断される部位を含むサイトケラチン断片をリンカーとして結合したものを、対象となる細胞に発現させる。このとき、上述のFRETが起こるための条件を満たすようにリンカー部分の立体配置を適宜設計する。
(アポトーシスの測定)
具体的には、上記のリンカーを介して結合した2種類の蛍光タンパク質(例えば、CFPとYFPの組み合わせ)を発現する遺伝子を、計測対象となる細胞に組み込む。細胞を培養し、475nmと527nmの2つの波長における蛍光強度の変化をモニタリングする。475nmの蛍光強度と527nmの蛍光強度の比をとり(以下、強度比と呼ぶ)、強度比の経時変化を記録する。一方、生細胞とアポトーシス細胞とが既知の割合で含まれたサンプルを準備し、各割合に対する強度比を事前に調べておくことで、測定した強度比をアポトーシスの割合として換算することが可能となる。細胞数に関しては、FRETのあるなしで蛍光スペクトルの蛍光強度が変化しない波長(図5の520nm)における既知の細胞数と蛍光強度との関係を事前に計測しておき、作成した検量線に基づいて細胞数を算出することができる。
なお、上記のアポトーシス検出のための蛍光タンパク質では、リンカーとしてサイトケラチン18断片を選択したが、アポトーシスによってリンカーの構造が変わり、FRETの変化が生じ得るものであれば他の分子をリンカーとして用いても構わない。
また、FRETを生じる代表的な蛍光タンパク質の組み合わせとしては、上記CFP−YFPの他に、Sirius−CFP、GFP−RFP等が挙げられる。ただし、これらに限定されるわけではなく、上述のFRETが起こるための3条件を満たし得る組み合わせであれば適用可能である。
4.培養プロセスでの細胞数モニタリング方法
4.1.回分培養プロセスにおける浮遊細胞への適用
続いて、本発明のモニタリング方法を利用した回分培養システムの一実施形態について図7に基づき説明する。図7の回分培養システムは、培養槽10、計測機器14及び制御機器23から概略構成される。
培養槽10には、温調機器11、攪拌翼12及び駆動部17からなる攪拌機構16、並びに焼結金属製の液中通気散気管(焼結スパージャー)13が設けられている。液中通気散気管13には、バルブ21を備えた液中通気用ガス供給管20が接続されている。また、培養槽10には、バルブ19を備えた気相用ガス供給管18が接続されている。そして、培養槽10に計測機器14が取り付けられている。計測機器14には、図1に示すような細胞数モニタリング装置に加えて、温度測定電極、pH電極、DO電極、培地成分計測機器等が備えられている。培養液15の温度の制御は、温度測定電極により温度をモニターし、加温用ヒーターによって目的の温度に制御する。pHの制御は、pH電極により培養液15中のpHを測定し、培養槽10の気相部に供給するガス中の炭酸ガスの濃度を増減させることにより行う。また、細胞が増殖して細胞密度が大きくなるとpHは酸性側に移動し、炭酸ガスの調整だけでは制御が困難となるため、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を適量添加することでpHの制御を行う。また、DO電極により培養液15中の溶存酸素濃度をモニタリングし、それに基づいて培養中に消費した酸素を補う。溶存酸素の調節は、液中通気散気管13及び培養槽10の気相部に、酸素含有ガス(DOを上げる場合)及び窒素含有ガス(DOを下げる場合)を供給することによって行われる。
計測機器14では、培養液15中に設置したセンサにより蛍光を検出し、その蛍光強度から細胞数をオンラインで計測することができる。細胞数をモニタリングする以外に、上述のように、例えばpH、溶存酸素、溶存二酸化炭素、温度等を計測機器14において計測することができる。
計測機器14で測定した値に基づき、解析装置22において解析を行い、その結果を制御機器23に伝えてpH、溶存酸素、溶存二酸化炭素、温度等の制御を行うことができる。
4.2.流加培養プロセスにおける浮遊細胞への適用
次に、本発明のモニタリング方法を利用した流加培養システムの一実施形態について図8に基づき説明する。図8の流加培養システムは、培養槽30、添加培地供給槽44、計測機器34及び制御機器43から概略構成される。
上記の回分培養システムと同様に、培養槽30には温調機器31、攪拌翼32及び駆動部37からなる攪拌機構36、並びに焼結金属製の液中通気散気管(焼結スパージャー)33が設けられている。液中通気散気管33には、バルブ41を備えた液中通気用ガス供給管40が接続されている。また、培養槽30には、バルブ39を備えた気相用ガス供給管38が接続されている。そして、培養槽30に計測機器34が取り付けられている。計測機器34には、図1に示すような細胞数モニタリング装置に加えて、温度測定電極、pH電極、DO電極、培地成分計測機器等が備えられている。これにより、培養液35の温度、pH、溶存酸素等の制御を行うことができる。
図8の流加培養システムは、細胞が消費した栄養を補うための添加培地供給槽44を備えている。これにより、培養槽30内の細胞数に応じて添加培地46の供給量を制御する。その際の培地の添加量は、解析装置42によって決定される。
具体的には、解析装置42では、細胞数を基に培地添加の供給量を以下の方法で算出する。すなわち、添加培地供給槽44からの添加培地46の供給量は、計測機器34による培養液35のモニタリング毎に解析装置42で算出される培養細胞の比増殖速度μに基づいて、次のようにして決定される。
まず、細胞の増殖は、次の式(5)に従う。
Figure 0005877741
: 生細胞数
μ: 生細胞の比増殖速度
制御機器43は、予め設定されているモニタリング間隔(添加培地46の供給間隔)で、計測機器34に培養槽30内の生細胞数Xの測定を行わせ、その測定結果を基に、今回(n回目)のモニタリング時点における生細胞の比増殖速度μを、式(5)を積分して得られる式(6)を用いて算出する。
Figure 0005877741
vn: n回目のモニタリング時点における生細胞数、
vn−1: (n−1)回目のモニタリング時点における生細胞数、
μ: n回目のモニタリング時点における生細胞の比増殖速度、
: n回目のモニタリング時点の時刻
n−1: (n−1)回目のモニタリング時点の時刻
解析装置42は、このように算出した今回(n回目)のモニタリング時点における生細胞の比増殖速度μの値を用いて、今回(n回目)のモニタリング時点から次回((n+1)回目)のモニタリング時点までの間における細胞の増殖の経時変化を予測する。すなわち、現時点tから次の(n+1)回目のモニタリング時点tn+1までにおける、時刻tが経過した時点の生細胞数X(t)を、式(6)から得られる式(7)によって求める。
Figure 0005877741
式(7)に示すように、今回(n回目)のモニタリング時点tにおける生細胞数をXvnとすると、その後の生細胞数X(t)は、自然対数eを底とし、指数を比増殖速度μとモニタリング時点tからの経過時間(t−t)との積とする指数関数に比例して増加する。したがって、今回(n回目)のモニタリング時点tから次回のモニタリング時点tn+1までの、培養対象となる生細胞の延べ総数XTotalは、式(8)に示すように、生細胞数X(t)の時間積分値に相当する。
Figure 0005877741
このように、今回(n回目)のモニタリング時点での生細胞数Xvnを取得できれば、今回(n回目)のモニタリング時点tから次回((n+1)回目)のモニタリング時点tn+1までの培養対象となる生細胞の延べ総数XTotalを取得することができる。この生細胞の延べ総数XTotalは、今回(n回目)のモニタリング時点tからtn+1までの添加培地46の供給量に対応する。
栄養素の消費量ΔVは、生細胞数の時間積分値との関係で、次の式(9)に従って求められる(kは、単位時間単位細胞数当たりに消費する栄養素の量)。
Figure 0005877741
したがって、解析装置42は、モニタリング毎に計測機器34により測定される培養液35中の生細胞数と式(9)とに基づいて、今回(n回目)のモニタリング時点tからtn+1までの間に供給すべき添加培地46の量を決定する。
図8の流加培養システムは、添加培地供給槽44及びポンプ48から構成される添加培地供給系を備えている。添加培地供給槽44には攪拌機構45及び温調機器47が設けられ、また、液面測定センサが取り付けられ(図示せず)、添加培地46の供給量を測定することができる。添加培地46の送液はポンプ48を用いて行う。供給量の制御は培養液35の分析結果に基づき、次のモニタリング時点までに必要な添加培地46の供給量を計算し、制御機器43によりポンプ48の制御を行うことで培地供給を行う。
4.3.接着細胞培養への適用
次に、本発明のモニタリング方法を利用して接着細胞培養を行う例について図9に基づき説明する。接着細胞の生産用培養では、図9のように培養フラスコ49を多段に積み上げた形式をとる。培養フラスコ49の底面から励起光をあて、光学フィルタを介して蛍光を検出する。細胞数は検出される蛍光強度に基づいて測定してもよいし、蛍光画像を取得し画像解析により細胞数を計数してもよい。図9の例では培養フラスコ49はコンパクト化のために多段に積んであるが、細胞数を計数する際には、ロボットで細胞数モニタリング装置まで移動し、計数が終了すれば元の位置に戻す制御を行ってもよい。
4.4.マイクロキャリア培養への適用
次に、本発明のモニタリング方法を利用してマイクロキャリア培養を行う例について説明する。装置構成は浮遊細胞培養である図7及び図8とおおよそ同じである。ただし、本培養の対象となる細胞は付着細胞であるため、足場となるマイクロキャリアを培養槽に入れて、マイクロキャリアに細胞を付着させ、浮遊培養と同様に温度、pH、溶存酸素等を制御しながら培養を進める。通常マイクロキャリアは蛍光を持つ材質で作られているため、細胞数のモニタリングに支障が生じる場合がある。そこで、本実施形態では、自家蛍光が少ない、例えばGlobal Eukaryotic Microcarrier(Global Cell Solutions社製)を用いて培養することが好ましく、これによって本発明の細胞数モニタリング方法を利用した培養制御及び品質管理を行うことができる。
4.5.シングルユースを用いた培養システムへの適用
図10に示すように、ディスポーザブル培養バッグ53に培地と細胞を入れ、シェイカー54で攪拌しながら培養を行う。ディスポーザブル培養バッグ53にはpHセンサ、溶存酸素センサ、温度センサが備えられ、pH、溶存酸素、温度等を制御しながら培養を行う。光源50からの照射により発生した蛍光は、検出器51で検出され、記録・表示・解析装置52において細胞数が算出される。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることが可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
1 光源
2 光学フィルタ
3 検出器
4 記録装置
5 演算装置
6 制御装置
7 サンプル
10 培養槽
11 温調機器
12 攪拌翼
13 液中通気散気管
14 計測機器
15 培養液
16 攪拌機構
17 駆動部
18 気相用ガス供給管
19 バルブ
20 液中通気用ガス供給管
21 バルブ
22 解析装置
23 制御機器
30 培養槽
31 温調機器
32 攪拌翼
33 液中通気散気管
34 計測機器
35 培養液
36 攪拌機構
37 駆動部
38 気相用ガス供給管
39 バルブ
40 液中通気用ガス供給管
41 バルブ
42 解析装置
43 制御機器
44 添加培地供給槽
45 攪拌機構
46 添加培地
47 温調機器
48 ポンプ
49 培養フラスコ
50 光源
51 検出器
52 記録・表示・解析装置
53 ディスポーザブル培養バッグ
54 シェイカー

Claims (3)

  1. 流加培養プロセスにおいて培養中の浮遊細胞の細胞数をモニタリングする方法であって、蛍光共鳴エネルギー移動を生じる組み合わせの2種類の蛍光タンパク質がリンカーを介して結合したものを細胞に発現させることにより細胞由来の蛍光を増強した上で、励起光により発生した蛍光強度を測定し、測定された蛍光強度に基づいて細胞数を算出し、算出した生細胞数に基づいて次回の測定時までに必要な添加培地の供給量を計算し、培地供給を制御する前記モニタリング方法。
  2. リンカーが、サイトケラチン18の全部又は一部を含む請求項に記載の細胞数モニタリング方法。
  3. 蛍光強度の測定が、攪拌されている培養中の細胞について行われる請求項1又は2に記載の細胞数モニタリング方法。
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