JP5876755B2 - 高速断続切削加工においてすぐれた潤滑性、耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

高速断続切削加工においてすぐれた潤滑性、耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Description

この発明は、硬質被覆層がすぐれた潤滑性、耐チッピング性、耐摩耗性を備えることから、Ti合金、ステンレス鋼等の高速断続切削加工に用いた場合でも、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具に関する。
従来から、工具基体表面に、周期律表の4a、5a、6a族から選ばれた少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物、炭窒化物等からなる硬質皮膜を被覆形成することにより、切削工具の耐摩耗性向上を図ることが知られている。
そして、硬質皮膜のうちでも、α型酸化アルミニウム層は、熱安定性に優れ、反応性が低く、かつ、高硬度であるという点から、上記周期律表の4a、5a、6a族から選ばれた少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物、炭窒化物等からなる硬質皮膜の最表面層として、α型酸化アルミニウム層が被覆形成されることが多い。
酸化アルミニウム層の被覆形成方法としては、通常は、化学蒸着(CVD)法が採用されているが、その他に、物理蒸着(PVD)法、ゾル−ゲル法によって酸化アルミニウム層を形成することも知られている。
例えば、特許文献1に示すように、工具基体、硬質皮膜の特性の劣化・変形を招かないために、低温条件下(1000℃以下)でのα型アルミナ層の形成方法として、工具基体表面に、Alと、4a族、5a族、6a族およびSiよりなる群から選択される少なくとも1種の元素とを必須成分とする窒化物、炭化物、炭窒化物、ほう化物、窒酸化物、炭窒酸化物からなる硬質皮膜を物理蒸着(PVD)法で形成した後、該硬質皮膜を酸化することによって酸化物含有層を形成し、該酸化物含有層上に物理蒸着(PVD)することにより、最表面層としての耐摩耗性および耐熱性に優れたα型結晶構造を主体とするアルミナ層を蒸着形成することが提案されている。
また、特許文献2に示されるように、物理蒸着(PVD)法により硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、第1の層を(Ti、Al)N層で構成し、また、第2の層を酸化アルミニウム層(好ましくは、γ型アルミナ層)で構成することが提案されている。
さらに、特許文献3に示すように、機械特性、耐久性がある酸化アルミニウム被覆構造体の製造方法として、母材上に、結晶構造がアモルファス構造、又はγ型のアルミナ、又はそれらの混合物からなる第1のアルミナ層をゾル−ゲル法で被覆した後、スパッタリングにより、γ型を主体とする第2のアルミナ層を被覆形成することが提案されている。
特開2004−124246号公報 特開2007−75990号公報 特開2006−205558号公報
硬質被覆層として酸化アルミニウム層をCVD法により被覆形成した表面被覆切削工具においては、Ti合金、ステンレス鋼等の切削加工に際し、被覆工具のすくい面での耐摩耗性向上が挙げられるが、これは、特に、形成されるα型アルミナの熱安定性、非反応性が高いことによるものである。
上記特許文献1においては、物理蒸着(PVD)法による低温条件下でのα型アルミナ層の形成が提案されているが、酸化アルミニウム層の蒸着形成にあたっては、まず、硬質皮膜を酸化させてその表面に酸化物含有層を形成する必要があるが、酸化物含有層と酸化アルミニウム層との密着性が十分でないこと、また、酸化アルミニウムとして、α型アルミナばかりでなくγ型アルミナも存在するために十分な耐熱性が得られず、その結果、長期の使用にわたって満足できる切削性能を発揮し得ないという問題があった。
また、上記特許文献2,3においては、形成される酸化アルミニウムはγアルミナであるため、高温での安定性に乏しく、また、高速切削加工においては、満足できる切削性能を発揮し得ないという問題があった。
そこで、本発明者等は、ゾル−ゲル法により、工具基体表面に耐摩耗性に優れた酸化アルミニウム層を形成すべく鋭意検討したところ、ゾル−ゲル法で形成した素地を構成するアモルファスの酸化アルミニウム中に、アモルファス相およびαアルミナの針状結晶相、板状結晶相の集合体からなる耐摩耗性に優れた球状組織を分散分布させることにより、高熱を発生するとともに、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工に供した場合でも、潤滑性、耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具を得られることを見出したのである。
即ち、アルミナゾルの調製に際し、低温熟成処理として、通常よりも低温下での攪拌と長時間の保持を行うことで、加水分解及び重縮合の反応速度を抑制し、Al−Oの結合からなる酸化アルミニウム前駆体を密に形成させた場合にはコランダム型構造に近い八面体AlOをより多く形成することができるため、このアルミナゾルを工具基体の表面層として塗布し、乾燥・焼成すると、平滑性が高く、潤滑性、耐溶着性、耐チッピング性に優れるアモルファスの酸化アルミニウムの素地に、アモルファス相およびα型アルミナの針状結晶相、板状結晶相の集合体からなる耐摩耗性に優れた球状組織が分散分布した酸化アルミニウム層からなる硬質皮膜の表面層を形成し得ることを見出したのである。
なお、表面層の酸化アルミニウム層と接する下地層としての硬質皮膜を、該硬質皮膜中の金属成分に占めるAlの含有割合が40原子%以上である窒化物皮膜として形成した場合には、表面層の酸化アルミニウム層との密着強度が高くなるため、切削加工時の衝撃等による酸化アルミニウム層の剥離、欠損等の発生抑制という観点から好ましい。
つまり、本発明の表面被覆切削工具は、硬質被覆層の表面層が酸化アルミニウム層で構成されるとともに、該酸化アルミニウム層が、平滑性、潤滑性、耐溶着性、耐チッピング性に優れるアモルファスの酸化アルミニウムの素地と、該素地中に分散分布する耐摩耗性に優れた球状組織で構成されていることから、かかる硬質被覆層を備えた表面被覆切削工具は、Ti合金、ステンレス鋼等の高熱発生を伴うとともに、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合でも、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することを見出したのである。
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)上記硬質被覆層の表面層として、0.2〜5μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を備え、
(b)上記酸化アルミニウム層は、素地及び素地中に分散した球状組織からなり、
(c)上記素地は酸化アルミニウムのアモルファス相から構成され、また、上記球状組織は、アモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体からなることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 上記酸化アルミニウム層の縦断面に占める球状組織の面積割合が20〜60面積%であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 上記球状組織の近似円の半径は、0.02〜0.5μmであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 上記酸化アルミニウム層素地中には、1.0〜10原子%の塩素が含有されていることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(5) 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体の表面に、硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
上記工具基体の表面から深さ方向に0.5〜3.0μmの平均層厚を有する基体表面硬化層が形成されており、該基体表面硬化層に含まれる結合相金属としてのCoの平均含有量が、2.0質量%未満であることを特徴とする請求項(1)乃至(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(6) 炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、上記サーメット工具基体の表面から深さ方向に0.5〜3.0μmの平均層厚を有する基体表面硬化層が形成されており、該基体表面硬化層に含まれる結合相金属としてのCo及びNiの合計平均含有量が、2.0質量%未満であることを特徴とする請求項(1)乃至(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
以下、本発明について、詳細に説明する。
この発明の表面被覆切削工具は、硬質被覆層の表面層として、0.2〜5.0μmのゾル−ゲル法により成膜した酸化アルミニウム層を備えるが、酸化アルミニウム層の層厚が0.2μm未満であると、後記する球状組織の生成数が少ないため、十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、層厚が5.0μmを超えると、層の剥離が生じやすくなるため、酸化アルミニウム層の層厚は0.2〜5.0μmと定めた。
なお、上記酸化アルミニウム層は、工具基体に直接成膜することで、その性能を発揮することは可能であるが、炭窒化チタンを含む超硬合金を基体とする場合は窒素雰囲気中での焼成により、工具基体表面付近に、Ti、Ta、Nb、Zrのうち、少なくとも1種の耐摩耗性の高い炭窒化物を多く含有させ、基体表面硬化層を形成させるとともに、酸化アルミニウム層と工具基体との密着強度を向上させ、工具寿命を延長することが可能となる。なお、該基体表面硬化層形成後の超硬合金基体の硬さはビッカース硬さ(Hv)で2200以上、2800以下であることが好ましい。その際、炭窒化物を多く含有させることで基体表面付近におけるCoは相対的に減ることとなり、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた表面から深さ方向に0.5〜3.0μmの断面観察を行い、分析視野領域1×1μmの範囲にて波長分散型X線分光法による定量分析により、結合相金属としてのCoの含有量を検出した場合に、Coの含有量を2.0質量%未満にすれば、基体の表面硬化の要因となる炭窒化物が十分に形成され、耐摩耗性がより向上する。
また、炭窒化チタン基サーメットを基体とする場合には、焼結工程において昇温及び最高温度で保持する際の雰囲気を所定の窒素雰囲気とし、保持の途中もしくは降温する際に減圧することにより、全焼結工程を一定圧力の窒素雰囲気中で実施した場合よりも表面を硬化させることができる。これは、最高温度で保持するまでの工程を一定の窒素圧力下で実施すると、基体内部に均一に硬さの高い炭窒化物が分散形成されるが、これを昇温、または保持の途中までは比較的高い窒素圧力下で処理し、保持の途中もしくは降温時から、より減圧された窒素雰囲気にして処理すると、基体のごく表面のみ脱窒されることにより、NiやCo金属結合相へのTiやNbなどの溶解及び内部から基体表面への拡散が活発となり、TiやNbなどの炭窒化物の形成が表面にて促進され、基体表面硬化層が形成されるためである。なお、該基体表面硬化層形成後のサーメット基体の硬さはビッカース硬さ(Hv)で2000以上、2600以下であることが好ましい。また、その際は上記超硬基体と同様に、基体表面付近におけるNi及びCoは相対的に減ることとなり、結合相金属としてのNi及びCoの含有量を2.0質量%未満にすれば、基体の表面硬化の要因となる炭窒化物が十分に形成され、耐摩耗性がより向上する。
また、この発明の表面被覆切削工具では、工具基体の表面に直接上記酸化アルミニウム層を形成せずに、当業者において既に知られている硬質皮膜、即ち、周期律表の4a、5a、6a族およびSiから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含有する窒化物、もしくは酸化物からなる少なくとも1層以上の硬質皮膜を物理蒸着(PVD)法、化学蒸着(CVD)法、またはゾル−ゲル法により形成した後、該硬質皮膜の表面に上記酸化アルミニウム層を被覆形成してもよい。
なお、上記物理蒸着(PVD)法による硬質皮膜の形成に際して、酸化アルミニウム層と接する硬質皮膜については、密着性を高めるという観点から、該硬質皮膜中にAlを含有しており、該硬質皮膜の金属成分に占めるAlの含有割合は40原子%以上である窒化物皮膜(例えば、TiAlN膜、CrAlN膜等)として形成することが望ましい。
これは、硬質皮膜中の金属成分に占めるAlの含有割合が40原子%以上の窒化物皮膜であると、窒化物皮膜と酸化アルミニウム皮膜との界面にアルミニウム濃度の高い酸化物を形成し、この酸化物が窒化物皮膜と酸化アルミニウム皮膜を強固に接着する作用を有するようになるため、という理由による。
この発明の表面被覆切削工具の表面層を構成する酸化アルミニウム層は、後記するゾル−ゲル法により成膜することにより、その素地はアモルファスの酸化アルミニウムから構成され、また、該素地中には、アモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体からなる球状組織が形成される。
上記球状組織は、酸化アルミニウム層を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合に、図1、図2、図3に示すように、半径0.02〜0.5μmの球状集合体組織として観察され、また、該球状組織について、透過型電子顕微鏡(TEM)でさらに観察すると、アモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体組織として形成されていることがわかる。
さらに、該球状組織が酸化アルミニウム層中に占める面積割合を、例えば、視野領域5×7μmの範囲で縦断面SEM観察により求めると、20〜60面積%を占めることが分かる。
なお、図1によれば、球状組織と素地の酸化アルミニウムとの界面には、球状組織を取り囲むように凹部(図1中、白色のリング状部分)が形成されていることが観察される。
球状組織はその形状はもとより、各相が様々な方向に並んでいる複合組織であるために等方的に強く、その応力分散効果により、高負荷のかかる重切削においても安定した耐摩耗性に寄与する。酸化アルミニウム層中に占める上記球状組織の面積割合が、60面積%を超えると、球状組織を固定している素地の割合が少なくなるため、酸化アルミニウム層に脆化傾向があらわれるとともに、球状組織を取り囲む凹部(図1参照)の割合が大きくなり、切削加工時に層に不均一な負荷が作用するために破壊を生じる恐れがある。一方、面積割合が20面積%未満である場合には、耐摩耗性向上に寄与する球状組織が少ないため、酸化アルミニウム層の耐摩耗性が低下する。
したがって、本発明では、酸化アルミニウム層中に占める球状組織の面積割合を20〜60面積%と定めた。
上記球状組織の半径を該球状組織の面積と等しい面積を有する円の半径として求めた場合、半径0.02μm未満では、酸化アルミニウム層における耐摩耗性向上効果が少なく、一方、半径が0.5μmを超えると、粗大組織となるため、クラックの起点となり易く耐チッピング性の低下を招くこととなる。
したがって、上記球状組織のサイズは、半径0.02〜0.5μmと定めた。
本発明の表面被覆切削工具の表面層を構成する酸化アルミニウム層は、以下に示すゾル−ゲル法によって形成することができる。
アルミナゾルの調製:
まず、アルミニウムのアルコキシド(例えば、アルミニウムセカンダリブトキシド、アルミニウムプロポキシド)にアルコール(例えば、エタノール、1−ブタノール)を添加し、さらに、酸(例えば、塩酸、硝酸)を添加(同時に、平均粒径10〜300nmのαアルミナ粒子を添加してもよい)した後、15〜30℃以下の温度範囲にて攪拌し、かつ、例えば、12時間以上の熟成処理を行うことによってアルミナゾルを形成する。
なお、アルコール添加に際し、酸化アルミニウム層形成時における結晶核生成促進による低温成膜及び結晶性向上のために、平均粒径10〜300nmのαアルミナ粒子をあらかじめ含有させておいたアルコールを添加することが均一なゾルを作製する点から好ましい。また、それは、コーティングした際にαアルミナ粒子が結晶成長の起点となる核となり、それを中心として均一径の球状集合組織を分散性良く酸化アルミニウム層中に形成させる効果があるためであるが、αアルミナ粒子を含有するアルコールを添加する場合、αアルミナ粒子の平均粒径が10nm未満であると、結晶成長の起点となりうる臨界核サイズに達しないため、αアルミナ粒子周囲のアルミナゾルからの結晶成長が起きず、素地から孤立してしまい、焼成後は周囲の結晶粒との結合力が弱い箇所となりやすい。一方、平均粒径が300nmを超えると、αアルミナ粒子を起点とする結晶核が過度に粗大粒子として成長してしまい、膜硬度の低下、膜中欠陥を誘発するため、添加するαアルミナ粒子の平均粒径は10〜300nmとする。
また、アルコール中のαアルミナ粒子含有量は、アルミニウムのアルコキシドに対して0.5質量%未満であると、結晶核を一定密度以上で膜中に均一分布させるために必要な核生成数を満足できず、膜中の結晶性が場所によって不均一になってしまうため、切削の際に異常摩耗を誘発させやすい。アルミニウムのアルコキシドに対して5質量%を超えるとアルミナゾル中においてαアルミナ粒子の凝集が起きやすく、酸化アルミニウム層形成時に該凝集部が膜中の粗大粒子として形成し、膜中欠陥を誘発するという理由からαアルミナ粒子の添加量はアルミニウムのアルコキシドに対して0.5〜5質量%の範囲とすることが望ましい。
また、添加する酸の濃度は、0.01〜1.0Nが望ましく、アルコールに対する酸の添加量は、0.1〜2倍(容量)が望ましい。
なお、酸として塩酸を添加した場合、最終的に形成される酸化アルミニウム素地中に塩素が混入残留するが、塩素は鉄などの金属と反応し、潤滑性の高い塩化物を形成することで、結果的に、酸化アルミニウム層の潤滑性、耐溶着性向上に寄与するため、酸化アルミニウム層中における濃度として、1.0〜10原子%の範囲の含有が許容される。
通常行われるアルミナゾルの調製においては、40〜80℃での攪拌と、その攪拌温度で数時間程度の熟成処理が行われるが、この発明においては、15〜30℃の低温度範囲における攪拌を、例えば、12時間以上という長時間をかけた低温熟成処理を行う。
ここで、攪拌及び保持時の温度が30℃を超えると加水分解及び重縮合反応が急速に進んでしまうため、前駆体が密に形成されず、後工程の焼成工程でαアルミナが形成されなくなることから、攪拌及び時の温度の上限を30℃とし、一方、攪拌及び保持時の温度が15℃未満では、密に構築されたAl−O結合部がアルミナゾル中にて多数かつ均質に形成されるものの、本発明の大きさを有する球状組織を形成するためには密なAl−Oの結合部がアルミナゾル中に少数かつ局所的に形成された方が良いために、攪拌及び保持時の温度を加水分解、縮重合反応が局所的に進みやすい、15〜30℃の低温温度範囲とした。
なお、熟成時間を12時間以上という長時間にしたのは、低温で徐々に加水分解を促し、酸化アルミニウム前駆体を密に生成させるという理由による。
乾燥・焼成:
上記で調製したアルミナゾルを、工具基体の表面へ直接、あるいは、工具基体表面に物理蒸着(PVD)法で形成した下地層としての硬質皮膜の表面へ塗布し、それに続き100〜300℃、より好ましくは150〜200℃での乾燥処理を1回以上繰り返し行い、次いで、400〜650℃の温度範囲で焼成処理を行って酸化アルミニウム層を被覆形成する。
上記乾燥処理によってアルミナの乾燥ゲルが形成され、次いで行う焼成処理によって、硬質皮膜表面に、酸化アルミニウムのアモルファス相が素地として形成され、同時に、素地中には、アモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体からなる球状組織が素地中に分散分布して形成される。
上記酸化アルミニウム層の膜厚は、アルミナゾルの塗布厚さおよび塗布回数に依存するが、被覆形成された上記酸化アルミニウム層の膜厚が0.2μm未満では、長期の使用にわたって表面被覆切削工具としてすぐれた耐摩耗性を発揮することができず、一方、膜厚が5.0μmを越えると酸化アルミニウム層が剥離を生じやすくなることから、上記酸化アルミニウム層の膜厚は0.2〜5.0μmとする。
また、乾燥処理の温度範囲を100〜300℃、より好ましくは150〜200℃、焼成処理の温度範囲を400〜650℃と定めたのは、それぞれ、乾燥温度については、100℃未満では十分な乾燥が行えず、300℃を超えるとゲルの体積収縮が急激に進行してクラック等を発生し、皮膜が剥離等を生じやすくなるためであり、焼成温度については、400℃未満では断続切削に効果のある結晶性球状組織が形成されないため耐チッピング性が十分でなく、一方、650℃を越える温度で焼成した場合、球状組織の粗大化と素地の結晶化が進んでしまうために平滑性、潤滑性、耐溶着性が低下傾向を示すという理由による。
この発明の表面被覆切削工具によれば、工具基体の表面に、ゾル−ゲル法によって成膜した酸化アルミニウムを被覆形成するものであるが、形成された上記酸化アルミニウム層は、すぐれた表面平滑性、潤滑性、耐溶着性、耐チッピング性を備えることから、これを、高熱発生を伴うとともに、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用するTi合金、ステンレス鋼等の高速断続切削加工に用いた場合でも、チッピング、剥離等の異常損傷を発生することなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するのである。
本発明工具2について、その酸化アルミニウム層の縦断面をTEMで観察した組織写真を示す。 本発明工具2について、その酸化アルミニウム層の断面をSEMで観察した組織写真を示す。 本発明工具2について、その酸化アルミニウム層の表面をSEMで観察した組織写真を示す。
つぎに、この発明を実施例により具体的に説明する。
(a1) 原料粉末として、平均粒径0.8μmの微粒WC粉末、平均粒径2〜3μmの中粒WC粉末といずれも1〜3μmの平均粒径を有するTiCN粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示す所定の配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1400℃にて1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.05mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A,B,C,D,E(超硬基体A,B,C,D,Eという)を製造した。但し、1400℃にて1時間保持後1320℃までの冷却を、超硬基体Dについては、3.3kPaの窒素雰囲気中にて行い、超硬基体Eについては、2kPaの窒素雰囲気中にて行うことで基体表面を硬化処理した。
(b1) ついで、上記超硬基体Aを化学蒸着装置に装入し、下地層として表2に示す成膜条件を用いて、表4に示す膜厚を有する粒状結晶組織を有するTiN層及び、縦長成長結晶組織のTiCN層(以下、l−TiCNで示す)からなるTi化合物層を予め形成した。また、上記超硬基体Bについても、物理蒸着装置の一種であるアークイオンプレーティング装置に装入し、下地層として表4に示す膜厚2.0μmのTi0.5Al0.5N層または、Al0.7Cr0.3N層からなる硬質皮膜を物理蒸着により被覆形成した。
なお、上記超硬基体C、D、Eについては、特別な表面被覆処理を施していない。
(c1) 一方、硬質皮膜の最表面に、酸化アルミニウム層をゾル−ゲル法で被覆形成するためのアルミナゾルの調製を、次のように行った。
表3に示す所定量のアルミニウムのアルコキシドであるアルミニウムセカンダリブトキシドに、アルコールとして、同じく表3に示す所定量のエタノールを添加して、恒温槽中20℃で攪拌を行い、さらに、所定量の水を添加した塩酸を滴下により1時間かけて添加した。
(d1) これを、表3に示すように恒温槽中20℃に保持したまま、12時間以上攪拌を継続し、さらに、20℃で24時間低温熟成処理することにより、アルミナゾルを調製した。
最終的な溶液組成は、モル比で、
(アルミニウムセカンダリブトキシド):(水):(エタノール):(塩酸)
=1:(80〜120):20:(0.1〜1)
になるように調整を行った。
(e1) 次いで、上記超硬基体Aに化学蒸着法により形成した前記Ti化合物層、上記超硬基体Bに物理蒸着法により形成したTi0.5Al0.5N層、Al0.7Cr0.3N層からなる硬質皮膜上および特別な表面被覆処理を施していない超硬基体C、D上に、上記アルミナゾルを塗布した。
(f1) 次いで、上記塗布したアルミナゾルを、表3に示す所定条件の乾燥処理を行い、さらに塗布と乾燥を繰り返した後、大気中600℃で1時間の焼成処理を行い、本発明酸化アルミニウム層(即ち、アモルファス酸化アルミニウム相からなる素地中に、アモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体からなる球状組織が分散分布した酸化アルミニウム層)を最表面に被覆形成することにより、本発明の表面被覆切削工具1,2,3,4,5(本発明工具1、2、3、4、5という)を製造した。
上記本発明工具1〜5について、酸化アルミニウム層の縦断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、その素地は、アモルファス相からなり、一方、素地中に分散分布する球状組織は、アモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体から構成されていることが確認された。アモルファス相の確認には透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、制限視野電子回折法によりその素地と球状組織をそれぞれ解析したところ、その素地はハローパターン、球状組織は明瞭な電子線回折パターンとハローパターンが得られた。
図1に、一例として、本発明工具2の酸化アルミニウム層の縦断面TEM写真を、また、図2及び図3に、同じく本発明工具2について、その酸化アルミニウム層の表面と断面SEM写真を示す。図2、図3によれば、アモルファスの酸化アルミニウム層中に分散する球状組織が、アモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体から構成されていることが確認される。
上記本発明工具1〜5について、酸化アルミニウム層の縦断面に占める球状組織の面積割合および球状組織の平均半径を走査型電子顕微鏡により5万倍の視野で観察し、その結果を平面と仮定して球状組織の面積割合を、また、該球状組織の面積を円の面積として算出した場合の近似円の半径を5点測定し、その平均値を平均サイズとして、それぞれ測定した。
また、酸化アルミニウム層素地中に混入残留している塩素濃度及び超硬基体表面のCoの含有量は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた波長分散型X線分光法により、酸化アルミニウム層、または超硬基体の縦断面観察視野内を定量分析し、その平均値を採用した。酸化アルミニウム層素地中の塩素濃度は点分析にて5点測定し、超硬基体表面のCo含有量は基板表面から深さ方向に0.5〜3.0μmの範囲内における分析視野領域1×1μmの面分析にて5視野測定した。
また、同時に酸化アルミニウム層の平均層厚を走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
表4に、測定結果を示す。
比較例1
比較のため、以下の製造方法で表面被覆切削工具を製造した。
即ち、前記(a1)の工具基体A,B,C,D,Eに対して、前記(b1)の工程で、硬質皮膜を形成し、前記(c1)の工程(表3参照)で、アルミナゾルを調製した。
(なお、工具基体C,D,Eに対しては、前記(b1)の工程にしたがう硬質皮膜の形成は行っていない。)
次いで、前記(d1)の工程にかえて、恒温槽中40℃に保持したまま、12時間攪拌を継続し、さらに、40℃で24時間熟成するという処理を行うことによってアルミナゾルを調製した。
次いで、前記(e1)と同様にして、超硬基体A,Bに形成したTi0.5Al0.5N層、Al0.7Cr0.3N層からなる硬質皮膜上および特別な表面被覆処理を施していない超硬基体C,D,E上に、上記アルミナゾルを塗布した。
次いで、上記塗布したアルミナゾルを、前記(f1)と同様にして、乾燥処理を行い、さらに塗布と乾燥処理を繰り返した後、大気中600℃で1時間の焼成処理を行い、酸化アルミニウム層を最表面に被覆形成することにより、比較例の表面被覆切削工具1,2,3,4,5,6(比較例工具1、2、3、4、5、6という)を製造した。
参考のため、以下の製造方法で表面被覆切削工具を製造した。
即ち、前記(a1)の工具基体A,Bに対して、前記(b1)の工程で、硬質皮膜を形成(なお、工具基体C,D,Eに対しては、前記(b1)の工程にしたがう硬質皮膜の形成は行っていない。)し、前記(c1)の工程(表3参照)で、実施例1とは異なる溶液組成のアルミナゾルを調製し、前記(d1)の工程(表3参照)で低温熟成処理を施したゾルを前記(e1)の工程で超硬基体A,B,C,D,E上にそれぞれ塗布した。
次いで、上記塗布したアルミナゾルを、前記(f1)と同様にして、乾燥処理を行い、さらに塗布と乾燥処理を繰り返した後、大気中600℃で1時間の焼成処理を行い、酸化アルミニウム層を表面に被覆形成することにより、本発明の表面被覆切削工具6〜17(本発明工具6〜17という)を製造した。
上記比較例工具1〜6、本発明工具6〜17について、酸化アルミニウム層を走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したところ
、比較例工具は球状組織のない膜組織、本発明工具6〜17は球状組織を有するものの本発明工具1〜5とは異なる球状組織サイズ、面積率、残留塩素濃度を有する膜組織であることが確認された。球状組織はアモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体から構成されていることが確認された。
上記本発明工具6〜17について、酸化アルミニウム層の縦断面に占める球状組織の面積割合および球状組織の平均半径を走査型電子顕微鏡により5万倍の視野で観察し、その結果を平面と仮定して球状組織の面積割合を、また、該球状組織の面積を円の面積として算出した場合の近似円の半径を5点測定し、その平均値を平均サイズとして、それぞれ測定した。
表4に、測定結果を示す。
つぎに、上記本発明工具1〜17および比較例工具1〜6について、次の条件でTi合金の湿式高速断続切削加工試験を行った。
被削材:Ti−6Al−4V合金(HB250)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 120 m/min.、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.22 mm/rev.、
切削時間: 5分、
の条件での湿式高速断続切削加工試験(通常の切削速度は、それぞれ、80 m/min.)後の、それぞれの工具の摩耗状態について観察を行い、逃げ面摩耗量の測定を行った。
これらの結果を表4に示す。




(a2) 原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これらを表5に示す所定の配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体F、G、H、I、J(サーメット基体F、G、H、I、Jという)を製造した。但し、工具基体Iについては1.3kPaの窒素雰囲気中、昇温速度を2℃/minとし、室温より1540℃まで昇温させ30分保持した後、13Paの真空とし、さらに、1540℃にて30分保持後、降温し、表面硬化させた。工具基体Jについては、焼結時の窒素圧力を工具基体Iとは異なり、13Paの窒素雰囲気で、常に一定として表面硬化させた。
(b2) ついで、上記超硬基体Fを化学蒸着装置に装入し、下地層として表2に示す成膜条件を用いて、表7に示す膜厚を有する粒状結晶組織を有するTiN層及び、縦長成長結晶組織のl−TiCN層からなるTi化合物層を予め形成した。また、上記超硬基体Gについても、物理蒸着装置の一種であるアークイオンプレーティング装置に装入し、下地層として表7に示す膜厚2.0μmのTi0.5Al0.5N層または、Al0.7Cr0.3N層からなる硬質皮膜を物理蒸着により被覆形成した。
(c2) 一方、硬質皮膜の最表面に、酸化アルミニウム層をゾル−ゲル法で被覆形成するためのアルミナゾルの調製を、次のように行った。
表6に示す所定量のアルミニウムのアルコキシドであるアルミニウムイソプロポキシドに対して、アルコールとして、表6に示す所定の平均粒径のαアルミナ粒子を含有する所定量の1−ブタノールを添加して、恒温槽中20℃で攪拌を行いながら、所定量の水で希釈した硝酸を滴下により1時間かけて添加した。
(d2) これを、恒温槽中20℃に保持したまま、12時間攪拌を継続し、さらに、 20℃で24時間低温熟成処理することにより、アルミナゾルを調製した。
なお、上記でアルミナゾルに含まれるアルミニウムに対し、該ゾル中へ添加した水の量の比は1:(80〜120)であった。
(e2) つぎに、上記サーメット基体Fに化学蒸着法により形成した前記Ti化合物層、及び、上記サーメット基体Gに物理蒸着法により形成したTi0.5Al0.5N層、Al0.7Cr0.3N層からなる硬質皮膜上および特別な表面被覆処理を施していないサーメット基体H、I上に、上記アルミナゾルを塗布した。
(f2) 次いで、上記塗布したアルミナゾルを、表6に示す所定条件の乾燥処理を行い、さらに塗布と乾燥を繰り返した後、大気中600℃で1時間の焼成処理を行い、本発明酸化アルミニウム層(即ち、アモルファスの酸化アルミニウム相からなる素地中に、アモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体からなる球状組織が分散分布した酸化アルミニウム層)を表面に被覆形成することにより、本発明の表面被覆切削工具18〜22(本発明工具18〜22という)を製造した。
上記本発明工具18〜22について、酸化アルミニウム層の縦断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、その素地は、アモルファスの酸化アルミニウム相からなり、一方、素地中に分散分布する球状組織は、アモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体から構成されていることが確認された。
上記本発明工具18〜22について、酸化アルミニウム層の縦断面に占める球状組織の面積割合および球状組織の平均半径を走査型電子顕微鏡により5万倍の視野で観察し、その結果を平面と仮定して球状組織の面積割合を、また、該球状組織の面積を円の面積として算出した場合の近似円の半径を5点測定し、その平均値を平均サイズとして、それぞれ測定した。
表7に、測定結果を示す。
比較例2
比較のため、上記工具基体F、G、H、I、Jを用いて、比較例の表面被覆切削工具7〜12(比較例工具7〜12という)を製造した。
即ち、上記(b2)の工程で、サーメット基体FにTi化合物層、サーメット基体GにTi0.5Al0.5N層、及び、Al0.7Cr0.3N層をそれぞれ形成し、上記(c2)の工程で、アルミナゾルを調製した。
次いで、前記(d2)の工程において、恒温槽中40℃に保持したまま、12時間攪拌を継続し、さらに、40℃で24時間熟成するという処理を行うことによってアルミナゾルを調製した。
次いで、サーメット基体F,Gに形成した硬質皮膜上および特別な表面被覆処理を施していないサーメット基体H、I、Jに、上記アルミナゾルを塗布した。
次いで、上記塗布したアルミナゾルを、上記(f2)と同様にして、乾燥処理を行い、さらに塗布と乾燥処理を繰り返した後、大気中600℃で1時間の焼成処理を行い、酸化アルミニウム層を最表面に被覆形成することにより、比較例の表面被覆切削工具7〜12(比較例工具7〜12という)を製造した。
参考のため、以下の製造方法で表面被覆切削工具を製造した。
即ち、前記(a2)の工具基体F、G、H、I、Jに対して、前記(b2)の工程で、硬質皮膜を形成し、前記(c2)の工程で、実施例3とは異なる溶液組成のアルミナゾルを調製し、前記(d2)の工程で、低温熟成処理を施したゾルを前記(e2)の工程で、工具基体F、G、H、I、J上に塗布した。
次いで、上記塗布したアルミナゾルを、前記(f2)と同様にして、乾燥処理を行い、さらに塗布と乾燥処理を繰り返した後、大気中600℃で1時間の焼成処理を行い、酸化アルミニウム層を最表面に被覆形成することにより、本発明の表面被覆切削工具23〜28(本発明工具23〜28という)を製造した。
上記比較例工具7〜12、上記本発明工具23〜28について、酸化アルミニウム層を走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したところ、比較例工具は球状組織のない膜組織、本発明工具23〜28は球状組織を含有するものの本発明工具18〜22とは異なる球状組織サイズ、面積率、残留塩素濃度を有する膜組織であることが確認された。
上記本発明工具23〜28について、酸化アルミニウム層の縦断面に占める球状組織の面積割合および球状組織の平均半径を走査型電子顕微鏡により5万倍の視野で観察し、その結果を平面と仮定して球状組織の面積割合を、また、該球状組織の面積を円の面積として算出した場合の近似円の半径を5点測定し、その平均値を平均サイズとして、それぞれ測定した。 表7に、測定結果を示す。
つぎに、上記本発明工具18〜28および比較例工具7〜12について、次の条件でステンレス鋼の湿式高速断続切削加工試験を行った。
被削材: JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 160 m/min、
切り込み: 1.2 mm、
送り量: 0.22 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件での湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は、100m/min)後の、それぞれの工具の摩耗状態について観察を行い、逃げ面摩耗量の測定を行った。



表4、7に示される結果から、この発明の表面被覆切削工具1〜5、18〜22においては、工具基体の表面に、ゾル−ゲル法によって酸化アルミニウムが被覆形成され、該酸化アルミニウム層は、すぐれた表面平滑性、潤滑性、耐溶着性を備えることから、これを、Ti合金、ステンレス鋼等の高速断続切削加工に用いた場合でも、チッピング、剥離等の異常損傷を発生することなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性、切屑排出性を発揮するのである。
これに対して、表面の酸化アルミニウム層に球状組織を含有せず素地組織のみで構成される比較例の表面被覆切削工具1〜12においては、断続切削の大きな衝撃に耐えきれず、特にホーニング部付近での微小チッピングが起こりやすくなると共に、アモルファス相のみで構成されているために高温硬さが十分でなく、高速切削時に発生する大きな発熱により、クレータ摩耗が進行し、短時間で使用寿命に至ることは明らかである。
また、本発明工具6〜17,23〜28は表面の酸化アルミニウム層に結晶性の球状組織を含有するため、急激なクレータ摩耗の進行は見られないものの、球状組織のサイズや凹部に起因するクラックにより、ホーニング部付近での微小チッピングや工具基体の表面硬化層がないことにより、逃げ面摩耗の進行が進むといったことが起こることがあるが、比較例の表面被覆切削工具1〜12に比べれば、すぐれた耐摩耗性を示し、工具寿命が長寿命化していることが言える。
なお、前記実施例では、インサート形状の工具を用いて硬質被覆層の性能を評価したが、ドリル、エンドミルなどでも同様の結果が得られることはいうまでもない。
この発明の表面被覆切削工具によれば、表面に、ゾル−ゲル法によって酸化アルミニウムが被覆形成され、該酸化アルミニウム層は、すぐれた表面平滑性、潤滑性、耐溶着性、耐チッピング性を備えることから、これを、Ti合金、ステンレス鋼等の高速断続切削加工に用いた場合でも、チッピング、剥離等の異常損傷を発生することなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性および切屑排出性を発揮するものであり、工具寿命の長寿命化を図ることができ、実用上の効果が大である。


Claims (6)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
    (a)上記硬質被覆層の表面層として、0.2〜5μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を備え、
    (b)上記酸化アルミニウム層は、素地及び素地中に分散した球状組織からなり、
    (c)上記素地は酸化アルミニウムのアモルファス相から構成され、また、上記球状組織は、アモルファス相および針状結晶相、板状結晶相の集合体からなることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 上記酸化アルミニウム層の縦断面に占める球状組織の面積割合が20〜60面積%であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 上記球状組織の近似円の半径は、0.02〜0.5μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 上記酸化アルミニウム層素地中には、1.0〜10原子%の塩素が含有されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
  5. 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体の表面に、硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
    上記工具基体の表面から深さ方向に0.5〜3.0μmの平均層厚を有する基体表面硬化層が形成されており、該基体表面硬化層に含まれる結合相金属としてのCoの平均含有量が、2.0質量%未満であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
  6. 炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
    上記工具基体の表面から深さ方向に0.5〜3.0μmの平均層厚を有する基体表面硬化層が形成されており、該基体表面硬化層に含まれる結合相金属としてのCo及びNiの合計平均含有量が、2.0質量%未満であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
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