以下の本発明の詳細な説明および本明細書に含まれる実施例を参照することによって本発明をより容易に理解することができる。しかしながら、本組成物および方法を開示および説明する前に、本発明は特定の核酸、特定のポリペプチド、特定の細胞種、特定の宿主細胞、特定の条件または特定の方法などに限定されることはなく、したがって、当然変更が可能であり、そして、それらの様々な改変や変更が当業者に明らかになると理解されるものとする。Sambrookら(1989年)Molecular Cloning、第2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー、プレインビュー、ニューヨーク州;Maniatisら(1982年)Molecular Cloning、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー、プレインビュー、ニューヨーク州;Wu(編)、1993年、Meth.Enzymol.第218巻、パートI;Wu(編)、1979年、Meth.Enzymol.第68巻;Wuら(編)、1983年、Meth.Enzymol.第100巻および第101巻;GrossmanおよびMoldave(編)、1980年、Meth.Enzymol.第65巻;Miller(編)、1972年、Experiments in Molecular Genetics、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク州;OldおよびPrimrose、1981年、Principles of Gene Manipulation、カリフォルニア州立大学出版会、バークレイ;SchleifおよびWensink、1982年、Practical Methods
in Molecular Biology;Glover(編)、1985年、DNA Cloning第I巻および第II巻、IRLプレス、オックスフォード、英国;HamesおよびHiggins(編)、1985年、Nucleic Acid Hybridization、IRLプレス、オックスフォード、英国;ならびにSetlowおよびHollaender、1979年、Genetic Engineering:Principles and Methods、第1〜4巻、プレナム・プレス(Plenum Press)、ニューヨーク州、を参照のこと。最後に、略語と命名法が使用
される場合、それらは本分野で標準的であると見なされ、そして、本明細書において引用するような専門誌において一般的に使用されるものである。
別途、言及されない限り、本明細書において使用される用語は当該技術分野の当業者による従来の使用法に従って理解されるものとする。以下に提供される用語の定義に加えて、分子生物学で一般的な用語の定義をRiegerら、1991年、Glossary of genetics:classical and molecular、第5版、ベルリン:シュプリンガー・フェアラーク;およびCurrent Protocols
in Molecular Biology、Ausubelら編、Current Protocols、グリーン・パブリッシングアソシエーツ株式会社とジョンワイリ・アンド・サンズ株式会社のジョイントベンチャー(1998年、増刊号)に見つけ出すこともできる。明細書と特許請求の範囲において使用される場合、「a」または「an」は、それが使用される文脈に応じて、1以上を意味し得ることが理解されるものとする。したがって、例えば、「単数の細胞(a cell)」に対する言及は少なくとも1つの細胞、2つの細胞または複数の細胞を意味し得る。
また、本明細書および添付の特許請求の範囲の目的のため、別途、示されない限り、成分の量、物質のパーセンテージまたは割合、反応条件、および明細書および特許請求の範囲で用いられる他の数値を表す全ての数は全ての場合で「約」という用語によって修飾されると理解されるものとする。したがって、そうではないことが示されない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲で示される数値パラメータは、本発明が得ることを求める所望の性質に応じて変化し得る近似値である。せめて、そして、本特許請求の範囲への均等論の適用を制限することを試みるものではないが、各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数を考慮して、そして、従来の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。
「約」または「およそ」は、本明細書において使用される場合、「約」または「およそ」として言及された数が引用された数とその引用された数のプラスまたはマイナス1〜10%を含むことを意味する。例えば、約50ヌクレオチドは、状況に応じて、45〜55ヌクレオチドや少なくとも49〜51ヌクレオチドを意味し得る。本明細書において現れる場合、「45〜55」などの数値範囲は所与の範囲内の各整数を意味する。例えば、「45〜55%」は、そのパーセンテージが45%、46%など、55%を含む55%までのパーセンテージでありうることを意味する。本明細書において記載される範囲が「1.2%〜10.5%」のような10進法による数値を含む場合、その範囲は所与の範囲に示される最小単位で増える各10進法による数値を意味する。例えば、「1.2%〜10.5%」は、そのパーセンテージが1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、など、10.5%を含む10.5%までのパーセンテージであり得ることを意味する。一方、「1.20%〜10.50%」は、そのパーセンテージが1.20%、1.21%、1.22%、1.23%など、10.50%を含む10.50%までのパーセンテージであり得ることを意味する。
本明細書において使用される場合、「単一細胞懸濁液」または同等の表現は、あらゆる利用可能な機械的、生物学的または化学的手段によって調製され得る、互いに分離した(すなわち、凝集していない)細胞、より典型的には、複数の細胞と液体の混合物を意味する。本明細書において記載される単一細胞懸濁液は通常、基本塩溶液、生理食塩水、細胞培養培地などに懸濁した生存可能なhES細胞またはhES由来細胞である。一次組織、培養中の接着性細胞および細胞凝集体から単一細胞懸濁液を形成するために細胞クラスターを解離させるいくつかの方法が存在するが、それらには、物理的力(細胞をこすり落とすこと、先が細くて丸いピペットを通して粉砕すること、細いニードルでの吸引、ボルテックスによる脱凝集、および細かいナイロンメッシュまたはステンレスメッシュを通す強
制濾過などの機械的解離)、酵素(すなわち、トリプシン、コラゲナーゼ、アキュターゼ(商標)などを使用する酵素的解離)、またはそれらの組合せによって細胞を解離する方法が含まれるが、それらに限定されない。また、hES細胞の単一細胞懸濁液の増殖と生存度を補助することが可能な方法と培地の条件はクローンの増殖、セルソーティングおよびマルチウェルプレート分析のための限定的播種に有用であり、培養方法とクローンの増殖の自動化を可能にする。したがって、本発明の1つの実施形態は、安定した単一細胞酵素解離hES細胞または未分化万能性hES細胞もしくは分化hES細胞の長期の維持および効率的な増殖を補助することが可能なhES由来細胞培養系を作製する方法を提供する。
本明細書において使用される場合、「接触させること(contacting)」(すなわち、細胞、例えば、分化可能な細胞を化合物と接触させること)という用語は、インビトロで(例えば、培養中の細胞に化合物を加えて)化合物と細胞を一緒にインキュベートすることを含むものとする。「接触させること(contacting)」という用語には、成分、化合物、成長因子など(例えば、神経伝達物質、ErbB3リガンド、TGF‐βファミリーのメンバーなど)を含む限定細胞培養培地に細胞をインビボで曝露すること、または対象中で自然に生じるような成分、化合物、成長因子などに細胞をインビボで曝露すること(すなわち、自然な生理的過程の結果として起こり得る曝露)は含まれないものとする。例えば、神経伝達物質、ErbB3リガンド、およびTGF‐βファミリーのメンバーを含有する限定細胞培地に細胞を接触させる工程はあらゆる適切な方法で実行され得るが、それは、前述の成分と接触させるために細胞を曝露するものと理解される。例えば、接着培養または懸濁培養中で細胞を前記成分とともにインキュベート(培養)することによって細胞を接触させることができる。限定培地中で前記成分と接触した細胞は細胞分化環境でさらに処理されてその細胞を安定化する、またはその細胞を分化させることができると理解される。
細胞培養との関連で本明細書において使用される場合、「補助(support)」は、細胞培養物の成長、生存度、多様性および/または他の特徴にとって充分な培地組成物、その特定の成分および培養条件を意味する。したがって、hES細胞の未分化増殖を補助する限定培地は、さらなる因子、化合物、添加物などを加えることなくその中でhES細胞が培養されると、分化することなくその細胞が増殖する培地である。hES細胞の増殖を補助する化合物または因子は、記載された培地条件に添加されるとhES細胞の増殖を可能にするものである。
本明細書において使用される場合、「限定細胞培養培地」、「限定培養培地」および「限定培地」が互換的に使用され、実質的に類似した特質と共に忠実に再現され得る、特定の割合、量または活性の無機成分および有機成分(生物的成分および生理活性成分を含む)を含有する水性組成物を意味する。限定培地は、ロット間またはバッチ間で著しく変動することなくそれらが調製または精製されるという条件で、タンパク質、好ましくは、組換えタンパク質を含み得る。動物の血清は本質的に非限定的および可変的であり、したがって、限定培地は血清を含まない。しかしながら、質量、モル当量または活性(例えば、測定可能な生物活性)に基づいた量または割合で個々の高精製度の血清または他のタンパク質、因子などを限定培地に含み得る。
本明細書において使用される場合、「分化させる」という用語はそれが由来する細胞種よりも特殊化した細胞種の作製を意味する。したがって、その用語は部分的に分化した細胞種および最終的に分化した細胞種を包含する。hES細胞から得られた分化細胞は一般に「hES由来細胞」、「hES由来細胞凝集培養物」、「hES由来単一細胞懸濁液」、「hES由来細胞接着培養物」などと称される。
本明細書において使用される場合、「実質的に」という用語は非常に(great extent)または大いに(great degree)を意味する。例えば、本文中の「実質的に類似した」は、別の方法に非常にまたは大いに類似した方法を説明するために使用され得る。しかしながら、本明細書において使用される場合、「実質的に無い」(例えば、「実質的に無い」または「混入汚染物質が実質的に無い」または「血清が実質的に無い」または「インスリンもしくはインスリン様成長因子が実質的に無い」または同等の発現)という用語によって、前記の溶液、培地、栄養補助剤、添加剤などで血清、混入汚染物質、インスリンまたはインスリン様成長因子が少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または少なくとも約100%無いことを意味する。本発明の1つの実施形態において、血清を含まない、すなわち、100%血清が無い、すなわち、血清が実質的に無い限定培養培地が提供される。対照的に、「実質的に類似した」組成物、処理、方法、溶液、培地、栄養補助剤、添加剤などは、本明細書おいてこれまでに説明された、またはその全体が参照により本明細書に組み込まれる以前に記載された処理または方法においてこれまでに説明された基準組成物、処理、方法、溶液、培地、栄養補助剤、添加剤と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%類似している。
本発明のある実施形態において、「濃縮された(enriched)」という用語は約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%を超える所望の細胞系列を含有する細胞培養物を指す。
本明細書において使用される場合、薬剤、例えば、化合物の「有効量」という用語または同等の表現は、その他の成分および条件があるなかで所望の結果、例えば、万能性幹細胞の成長阻害をもたらすのに充分な薬剤の量を意味する。本発明のある態様において、例えば、万能性幹細胞培養物を安定化するための化合物または成長因子の有効量は、フィーダー細胞が無いなかで、および血清または血清代替物が無いなかで1日、1週間、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月を超える期間および/または6か月以上の期間にわたって万能性幹細胞培養物の安定化をもたらす量である。本発明の他の態様において、薬剤、例えば、化合物の「有効量」または同等の表現は、その他の成分があるなかで、フィーダー細胞が無くても、および血清または血清代替物が無くても5継代、10継代、15継代、20継代、25継代、30継代または40継代より長い期間にわたって万能性幹細胞培養物の安定化をもたらすのに充分な化合物の濃度を意味し得る。同様に、この濃度は当業者によって容易に決定される。
本明細書において使用される場合、「薬剤」という用語は、生物学的効果などの効果、好ましくは所望の効果をもたらす任意の分子、化合物および/または物質を意味する。ある実施形態において、本発明の薬剤は万能性幹細胞に対して細胞傷害性であり、また、万能性幹細胞の成長について阻害的である。1つの態様において、本発明の細胞傷害剤または阻害剤は、万能性幹細胞よりも分化した細胞であり得る少なくとも1つの他の細胞種と比較して、万能性幹細胞に対して選択的に細胞傷害性または細胞増殖抑制性である。
本発明の「候補細胞傷害剤または阻害剤」または「候補薬剤」は、しばしば有機化合物ではあるが、多数の化学薬品クラスを包含する合成または天然の生物学的製剤、生化学的製剤および化学的製剤を含むが、これらに限定されない。多くの場合、候補薬剤は低分子有機化合物、すなわち、約50Daより大きいが約2500Da未満、通常は約2000Da未満、しばしば約1500Da未満、多くの場合約1000Da未満そして通常約800Da以下の分子量の有機化合物であり、ポリペプチドおよび/または核酸との構造的相互作用に必要な機能性化学基を含み、少なくとも1つのアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基、典型的には前記機能性化学基のうちの少なくとも2つ、そして、より頻繁には、前記機能性化学基のうちの少なくとも3つを通常含む。候補薬
剤は、上に挙げた官能基のうちの1つ以上で置換された炭素環状構造または複素環構造および/または芳香族構造または多環芳香族構造を含み得る。候補薬剤は核酸、ペプチド、タンパク質、ペプチド模倣物、抗体、リボザイム、RNAiコンストラクト(siRNAを含む)、アンチセンスRNA、糖類、脂肪酸、ステロール、イソプレノイド類、プリン類、ピリミジン類、上記のものの派生物もしくは構造類似体、またはそれらの組合せなどのような生体分子でもあり得る。薬剤が核酸である場合、その薬剤は、修飾型核酸、異型体、類似体なども考慮されるが、通常DNA分子またはRNA分子である。
合成化合物または天然化合物のライブラリーまたはコレクションを含む多種多様な供給源から候補薬剤を得る。例えば、多種多様な有機化合物および生体分子の無作為的合成および指向性合成に、無作為化オリゴヌクレオチドの発現、合成有機コンビナトリアルライブラリー、ランダムペプチドのファージディスプレイライブラリーなどを含む多数の方法を用いることができる。あるいは、細菌、真菌、植物および動物の抽出物の形状の天然化合物のライブラリーが利用可能であり、または、直ぐに作製される。さらに、従来の化学的、物理的および生化学的手段により天然のおよび合成されたライブラリーおよび化合物を修飾することができる。また、公知の薬理活性薬剤にアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化および当技術分野において周知の他の方法などの指向性化学修飾または無作為的化学修飾を受けさせてその薬剤の構造類似体を作製することができる。
本明細書において使用される場合、「発現する」という用語は細胞でのポリヌクレオチドの転写および/またはポリペプチドの翻訳を意味するが、前記分子を発現する細胞では、その分子を発現しない細胞よりもその分子のレベルが測定可能なほど高くなる。分子の発現を測定する方法は当業者によく知られており、それらにはノーザンブロッティング、RT‐PCR、インサイチュハイブリダイゼーション、ウェスタンブロッティングおよび免疫染色が含まれるが、これらに限定されない。
細胞、細胞株、細胞培養物または細胞集団に言及するときに本明細書において使用される場合、「単離された」という用語は、その細胞、細胞株、細胞培養物または細胞集団がインビトロで培養されることが可能であるように、前記細胞の天然の供給源から実質的に分離されていることを意味する。さらに、「単離されている」という用語は、2つ以上の細胞を含む群から1つ以上の細胞が、細胞の形態および/またはマーカーの発現などの所望の特徴に基づいてその細胞が選択されて、物理的に分離されていることを意味するために使用される。本発明に記載の単離された細胞は混入汚染物質から部分的、実質的または完全に精製されていてもよいし、精製されていなくてもよい。
本明細書において使用される場合、「リガンド」は受容体などの生体分子に結合する化学物質を意味する。本明細書において使用される場合、「アゴニスト」は、細胞の受容体に結合し、その細胞の反応を引き起こすリガンドを意味するが、「アンタゴニスト」は、受容体に結合し、アゴニストの結合を妨げることにより細胞の反応を阻害するリガンドを意味する。
本明細書において使用される場合、「標準細胞密度」は、培養時に生存可能であり、増殖可能であることが通常知られている万能性幹細胞の濃度範囲を意味する。例えば、hES細胞は、細胞または細胞株の成長サイクルに応じて通常約30,000〜60,000細胞/cm2の密度でプレーティングされ、そして、約150,000〜350,000細胞/cm2、例えば、60mmディッシュまたは約19.6cm2当たり約2.5×106〜約5×107細胞を生じる。対照的に、「低細胞密度」は、例えば、標準細胞密度よりも著しく小さい細胞密度でプレーティングされた万能性幹細胞に当てはまる。当技術分野においてよく知られているが、ある閾値密度より下でプレーティングされた細胞は細胞分裂の遅れを経験することがある、または、継代を生き残ることができないことがある
。1cm2あたり約30,000以下でプレーティングされたhES細胞の培養物は低細胞密度であるとみなされる。
ある実施形態において、細胞外マトリックスタンパク質(ECM)、例えば、マトリゲル(商標)の非存在下および/または存在下で本明細書において記載される限定培地で万能性幹細胞が培養される。ECMが無い中で培養された万能性細胞は約0.5〜20%のヒト血清(hS)または300Kおよび/もしくは100K MWカットオフ・スピンカラム(Microcon、ミリポア社、ビレリカ、マサチューセッツ州)からのhS残余画分を含むことができる。最大20%のhS、例えば、0.2%、1%、2%、5%、10%、15%、20%のhSまたはhS残余画分を含有する培地にhES細胞を加えて37℃で一晩培養することによって、hES細胞凝集体懸濁液を作製することができる。hSまたはhS残余画分含有培地での幹細胞のプレーティング効率は、第PCT/US2007/062755号に記載されるようなDC‐HAIFに培養された、またはECMとしてマトリゲル(商標)もしくは他の類似のマトリックスを使用するDC‐HAIF培地に培養されたhES細胞について観察されたものに匹敵した。限定培地でhES細胞を培養する方法は、ヒト血清を含む無フィーダー万能性幹細胞培地の方法と組成物(METHODS AND COMPOSITIONS FOR FEEDER‐FREE PLURIPOTENT STEM CELL MEDIA CONTAINING HUMAN SERUM)という表題の2009年4月23日に提出された米国特許出願公開第2009/0104696号に記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
さらに、他の実施形態において、単層にしても凝集体懸濁液にしても、万能性幹細胞が、動物の血清(例えば、ウシ胎児血清などの哺乳類の胎児血清)が実質的に無く、さらに、外部から添加される線維芽細胞増殖因子(FGF)が無い培地に培養される。そのような方法はThomsonに属する米国特許第7,005,252号と区別可能であるが、その特許は、動物の血清は無いが、外部から添加されるFGFを含む成長因子を含む培地でhES細胞を培養することを必要とする。
本明細書において使用される場合、成熟細胞に分化することができる細胞もしくは細胞集団、すなわち、成熟細胞の始原細胞もしくは前駆細胞、または細胞の分化に関与することができる、例えば、成熟細胞に分化することができる他の細胞と融合することができる細胞もしくは細胞集団を説明するために「分化可能な細胞」という用語が使用される。特定の経路に沿った分化に拘束される多能性細胞、少能性細胞および単能性細胞を指すために「始原細胞」および「系譜限定始原細胞」という用語が本明細書において互換的に使用される。例えば、内胚葉系列の始原細胞は様々な内胚葉細胞種に分化することができるが、通常、外胚葉、中胚葉またはそれらの派生物に発生することはない。1つの実施形態において、本明細書において記載されるような膵臓内胚葉始原細胞または上皮は、様々な種類のインスリン、ソマチスタチン(somatistatin)、グルカゴン、グレリンなどの膵臓ホルモン分泌細胞および膵臓ポリペプチド分泌細胞にさらに発生することができる始原細胞である。ある成人性幹細胞は数種類の始原細胞である。
本発明はまた、その細胞が本明細書において定義されるように分化可能であるのならば、動物のあらゆる供給源に由来する分化可能な細胞を考慮する。例えば、胚またはその中のあらゆる始原胚葉から、胎盤組織または絨毛膜組織から、または、脂肪、骨髄、神経組織、乳腺組織、肝臓組織、膵臓、上皮組織、呼吸器組織、生殖腺組織および筋肉組織を含むが、これらに限定されない成人性幹細胞を含有する組織など、より発達した組織から分化可能な細胞を採取することができる。特定の実施形態において、分化可能な細胞は胚性幹細胞である。他の特定の実施形態において、分化可能な細胞は成人性幹細胞または脱分化細胞である。さらに他の特定の実施形態において、幹細胞は胎盤由来幹細胞または絨毛膜由来幹細胞である。
もちろん、本発明は、分化可能な細胞を形成することができるあらゆる動物に由来する分化可能な細胞を使用することを考慮している。それから分化可能な細胞を採取する動物は脊椎動物または無脊椎動物、哺乳類動物または非哺乳類動物、ヒトまたは非ヒト動物である。動物供給源の例には霊長類動物、げっ歯類動物、イヌ科動物、ネコ科動物、ウマ科動物、ウシ属動物およびブタが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において使用される場合、用語「前駆細胞」は、幹細胞の多能性の大半または全てを失った、一種の系譜限定された、部分的に分化した、通常は単能性の細胞である。前駆細胞は通常ただ1つの、2つの、または少数の極めて近縁の最終細胞種に分化することができる)。そこで説明される内分泌前駆細胞は、例えば、膵臓ホルモン発現細胞に分化することができる。
本明細書において使用される場合、腸管または腸管由来の器官の細胞にさらに分化することができる多能性内胚葉系細胞を指すために「胚体内胚葉」および「DE」が互換的に使用される。特定の実施形態に従うと、胚体内胚葉細胞は哺乳類細胞であり、そして、好ましい実施形態において、胚体内胚葉細胞はヒト細胞である。本発明のいくつかの実施形態において、胚体内胚葉細胞は特定のマーカーを発現し、および/または、他の特定のマーカーをあまり発現できない。いくつかの実施形態において、SOX17、CXCR4、MIXL1、GATA4、HNF3β、GSC、FGF17、VWF、CALCR、FOXQ1、CMKOR1、CRIP1およびCERから選択される1つ以上のマーカーが胚体内胚葉細胞で発現する。他の実施形態において、OCT4、α‐フェトタンパク質(AFP)、トロンボモジュリン(TM)、SPARC、SOX7およびHNF4αから選択される1つ以上のマーカーが胚体内胚葉細胞ではあまり発現しない。胚体内胚葉細胞集団およびその作製方法は、胚体内胚葉(DEFINITIVE ENDODERM)という表題の2004年12月23日に提出された米国特許出願公開第11/021,618号(現在では、米国特許第7,510,876号)にも記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本発明のさらに他の実施形態は「PDX1陰性前腸内胚葉細胞」、「前腸内胚葉細胞」またはそれらと同等の名称の細胞培養物および細胞凝集体に関連する。PDX1陰性前腸内胚葉細胞は多能性を有し、そして、胸腺、甲状腺、副甲状腺、肺/気管支、肝臓、咽頭、咽頭嚢、十二指腸の部分および耳管を含むが、これらに限定されない様々な細胞および組織を生ずることができる。いくつかの実施形態において、前腸内胚葉細胞は非前腸内胚葉細胞、例えば、胚体内胚葉またはPDX陽性内胚葉と比較して上昇したレベルのSOX17、HNF1β、HNF1α、FOXA1を発現するが、非前腸内胚葉細胞はこれらのマーカーを検知できるほど発現しない。PDX1陰性前腸内胚葉細胞はまた低レベル〜検出不能レベルのPDX1、AFP、SOX7およびSOX1を発現する。PDX1陰性前腸内胚葉細胞集団およびその作製方法は、PDX1発現背腹部前腸内胚葉(PDX1‐EXPRESSING DORSAL AND VENTRAL FOREGUT ENDODERM)という表題の2006年10月27日に提出された米国特許出願公開第11/588,693号にも記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本発明の他の実施形態は「PDX1陽性膵臓前腸内胚葉細胞」または「PDX1陽性前膵内胚葉」または「PDX1陽性前膵内胚葉始原細胞」またはそれらの同等物の細胞培養物に関連する。PDX1陽性前膵内胚葉細胞は多能性を有し、そして、胃、小腸および膵臓を含むが、これらに限定されない様々な細胞および/または組織を生ずることができる。いくつかの実施形態において、PDX1陽性前膵内胚葉細胞は非前膵内胚葉細胞と比較して上昇したレベルのPDX1、HNF6、SOX9およびPROX1を発現するが、非前膵内胚葉細胞はこれらのマーカーを検知できるほど発現しない。PDX1陽性前膵内胚
葉細胞はまた低レベル〜検出不能レベルのNKX6.1、PTF1A、CPAおよびcMYCを発現する。
本発明の他の実施形態は「PDX1陽性膵臓内胚葉細胞」または「PDX1陽性膵臓内胚葉始原細胞」または「膵臓始原細胞」または「膵臓上皮」または「PE」またはそれらの同等物の細胞培養物に関連する。PDX1陽性膵臓内胚葉始原細胞は多能性を有し、そして、腺房細胞、導管細胞、内分泌細胞を含むが、これらに限定されない膵臓中の様々な細胞を生ずることができる。いくつかの実施形態において、PDX1陽性膵臓始原細胞は非前膵内胚葉細胞と比較して上昇したレベルのPDX1およびNKX6.1を発現するが、非前膵内胚葉細胞はこれらのマーカーを検知できるほど発現しない。PDX1陽性膵臓始原細胞はまた低レベル〜検出不能レベルのPTF1A、CPA、cMYC、NGN3、PAX4、ARX、NKX2.2、INS、GCG、GHRL、SSTおよびPPを発現する。
あるいは、本発明の他の実施形態は「PDX1陽性膵臓内胚葉端細胞」またその同等物の細胞培養物に関連する。いくつかの実施形態において、PDX1陽性膵臓内胚葉端細胞はPDX1陽性膵臓始原細胞と同様に上昇したレベルのPDX1およびNKX6.1を発現するが、PDX1陽性膵臓始原細胞と異なり、PDX1陽性膵臓内胚葉端細胞は上昇したレベルのPTF1A、CPAおよびcMYCをさらに発現する。PDX1陽性膵臓内胚葉端細胞はまた低レベル〜検出不能レベルのNGN3、PAX4、ARX、NKX2.2、INS、GCG、GHRL、SSTおよびPPを発現する。
さらに、本発明の他の実施形態は「膵臓内分泌前駆細胞」、「膵臓内分泌始原細胞」またはそれらの同等物の細胞培養物に関連する。膵臓内分泌始原細胞は多能性または単能性を有し、そして、α細胞、β細胞、δ細胞および膵臓ポリペプチド(PP)細胞を含む成熟型内分泌細胞を生ずる。いくつかの実施形態において、膵臓内分泌始原細胞は他の非内分泌始原細胞種と比較して上昇したレベルのNGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2を発現する。膵臓始原細胞はまた低レベル〜検出不能レベルのINS、GCG、GHRL、SSTおよびPPを発現する。
本発明のさらに他の実施形態は「膵臓内分泌細胞」、「膵臓ホルモン分泌細胞」、「膵島ホルモン発現細胞」またはそれらの同等物の培養物に関連するが、それらはインビトロで万能性幹細胞から得られた細胞、例えば、α細胞、β細胞、δ細胞および/またはPP細胞またはそれらの組合せを指す。これらの内分泌細胞は複数ホルモン分泌性または単一ホルモン分泌性であり得るが、例えば、インスリン、グルカゴン、グレリン、ソマトスタチンおよび膵臓ポリペプチドまたはそれらの組合せを発現する。これらの内分泌細胞は、したがって、1つ以上の膵臓ホルモンを発現することができ、そして、ヒト膵島細胞の機能の少なくとも1つまたはいくつかを有する。膵島ホルモン発現細胞は成熟または未成熟であり得る。ある種のマーカーの差示的な発現または機能上の能力、例えば、インビトロまたはインビボでのグルコース応答に基づいて未成熟膵島ホルモン発現細胞を成熟膵島ホルモン発現細胞から区別することができる。膵臓内分泌細胞はまた低レベル〜検出不能レベルのNGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2を発現する。
細胞種
いくつかの実施形態において、内胚葉系、より具体的には、膵臓内胚葉系細胞への分化の出発物質として「万能性(幹)細胞」を使用する。本明細書において使用される場合、「万能性」、「万能性」、「万能性細胞」および同等の表現は、細胞培養中での増殖および自己再生も、多能性特性を示すものを含む様々な細胞集団への分化も可能である細胞を指す。例えば、万能性ES細胞は3つの胚性細胞系列の各々を生じることができ、そして、胚の全ての細胞種を形成することが可能であると一般に考えられている。しかしながら
、万能性細胞は一般に羊膜、絨毛膜、および胎盤の他の構成要素などの胚体外組織を生ずることができず、そして、器官全体を形成することができない可能性が有る、すなわち、万能性細胞は「全能性」細胞と区別される。1つの細胞の子孫細胞から3つの胚性胚葉全ての派生物を形成する、および、免疫抑制マウスへの注射後に奇形腫を形成する、安定した発生上の能力の証拠を提供することによって、万能性が示され得る。万能性の他の指標には、万能性細胞で発現することが知られている遺伝子の発現や当業者によって容易に特定される形態上の特徴が含まれる。当業者に知られている任意の方法を用いて本発明の万能性細胞を得ることができる。
ある実施形態において、本明細書において記載される方法の出発物質として使用される本発明の万能性幹細胞は、hES細胞、ヒト胚性生殖(EG)細胞、ヒト人工万能性幹(iPS)細胞などまたは単為発生性細胞さえ含む幹細胞である。
ある実施形態において、万能性細胞が利用されるとき、その万能性細胞は正常な核型を有する。例えば、検査された中期の万能性細胞培養物の50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%よりも多く、または95%よりも多くが正常な核型を示す。本明細書において使用される場合、「正常な核型」は正常な、または野生型の染色体数および/または全体形態を意味する。
「全能性」は、本明細書において使用される場合、3つの胚性胚葉細胞系列だけではなく、胚体外組織(例えば、胎盤)を含むあらゆる種類の細胞に発生し、そして、器官全体(例えば、マウスまたはヒト)を生ずる細胞の能力を意味する。
「自己再生」は細胞分裂して親幹細胞と同一の特質を有するより多くの幹細胞を形成する幹細胞の能力を意味し、それによって幹細胞集団の無期限の補充が可能になる。
本明細書において使用される場合、「胚性」は、単一の接合体から始まり、発生した配偶子細胞以外にはもはや万能性細胞や全能性細胞を含まない多細胞構造で終わる範囲の生物の発生段階を意味する。「胚性」という用語は配偶子の融合により得られる胚に加えて体細胞核移植により得られる胚にも当てはまる。
本発明の別の実施形態において、万能性幹細胞は胚に由来しない、または、直接由来しない。例えば、iPS細胞は「脱分化」または「再プログラミング」として知られる過程を介して非万能性細胞、例えば、多能性細胞または最終分化細胞から得られる。本明細書において使用される場合、「脱分化」または「再プログラミング」は、分化細胞があまり特殊化していない前駆細胞状態、始原細胞状態または幹細胞状態に戻る過程を意味する。
分化と万能性の維持をもたらす遺伝子の抑制を確実にする中核性調節複合体を形成する転写因子であるOct4、NanogおよびSox‐2;ならびに糖脂質であるSSEA3、SSEA4やケラチン硫酸抗原であるTra‐1‐60およびTra‐1‐81などの細胞表面抗原を含むいくつかの転写因子と細胞表面タンパク質によってヒト万能性幹細胞を限定または特徴づけることができる。
本明細書において使用される場合、「人工万能性幹細胞」、「iPS細胞」、「iPSC」、「再プログラム化細胞」またはそれらと同等の句は、非万能性細胞、典型的には、線維芽細胞、造血細胞、筋細胞、神経細胞、表皮細胞などのような成人性体細胞または分化細胞から人工的に調製された種類の万能性幹細胞を意味する。再プログラミング因子と称されるある遺伝子または遺伝子産物を細胞で発現することにより体細胞からiPS細胞を作製することができる。タカハシら(2007年)Cell誌、第131巻:頁861〜872;Wernigら(2007年)Nature誌、第448巻:頁318〜32
4;Parkら(2008年)Nature誌、第451巻:頁141〜146;米国特許出願公開第2009/0047263号を参照のこと。これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。さらに近年、外来性の核酸を添加することなくiPS細胞が作製されている。例えば、Zhouら(2009年)Cell Stem Cell誌、第4巻:頁381〜4を参照のこと。ある種の幹細胞遺伝子およびタンパク質、クロマチンメチル化パターン、倍化時間、胚様体の形成、奇形腫の形成、生存性キメラの形成、および分化性と分化能を含む多くの点で、人工万能性幹細胞はhES細胞などの天然のヒト万能性幹細胞と実質的に類似している。ヒトiPS細胞は、胚をそれに関連して使用することなく、万能性幹細胞の供給源を提供する。
本明細書において使用される場合、「多能性」または「多能性細胞」またはそれらの同等物は、限定的な数の他の特定の細胞種を生ずることができる細胞種を指す。すなわち、多能性細胞は1つ以上の胚性細胞運命に拘束され、したがって、万能性細胞と対照的に、3つの胚性細胞系列の各々または胚体外細胞を生ずることができない。多能性体細胞は万能性細胞と比較してより分化しているが、最終分化してはいない。したがって、万能性細胞は多能性細胞よりも高い分化性を有する。例えば、体細胞を再プログラム化することができる、または、iPS細胞を作製するために使用することができる分化性決定因子にはOct‐4、Sox2、FoxD3、UTF1、Stella、Rex1、ZNF206、Sox15、Myb12、Lin28、Nanog、DPPA2、ESG1、Otx2および/またはそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
本発明の1つの態様は、適切な条件で培養されると、異なる細胞系列に選択的に、いくつかの態様においては選択的に可逆的に、発生することができる万能性細胞、始原細胞または前駆細胞の集団を含む。本明細書において使用される場合、「集団」という用語は1つよりも多い細胞の集まり、通常は、細胞培養物を意味する。
「細胞系列」という用語は、胚の最初の卵割から完全に成熟した細胞(すなわち、特殊化した細胞)まで、特定の細胞種の発生段階の全てを意味する。しかしながら、細胞系列は胚から直接発生する細胞に限定されず、膵臓内胚葉系などの特定の系に沿って、例えば、万能性幹細胞から分化したものも含むことができる。本明細書において記載されるステージ1〜5の細胞は膵臓系列に含まれる。
本明細書において使用される場合、「発生する」、「分化する」、「成熟する」または「万能性細胞から形成される」、「万能性細胞から得られる」、「万能性細胞から分化される」という用語および同等の表現は、例えば、インビトロもしくはインビボで万能性細胞から分化もしくはより特殊化した細胞種、または、内分泌細胞の場合、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、膵臓ホルモンの生産法(METHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONES)という表題のPCT国際特許出願公開第2008/013664号に記載されるように、移植されたPDX1膵臓内胚葉細胞からインビボで成熟した細胞種の作製に当てはまる。全てが、特殊化により少なくとも2つの異なる細胞系列に分化し、そして、最終的には最終分化に至る能力を有する段階からの細胞の発達に当てはまる。本願の目的のため、このような用語を互換的に使用することができる。本発明は、万能性または少なくとも、1つよりも多い細胞系列に分化する能力を選択的に回復することができるように、そのような分化が可逆的であることを可能にする培養条件も考慮している。
万能性細胞の細胞傷害剤および阻害剤
本明細書において使用される場合、「細胞傷害剤」、「阻害剤」、「細胞傷害性および/または阻害剤」という用語および同等の表現は、細胞を殺す、細胞の成長、増殖および/または増大を阻害する、抑制する、妨害する、または低減させる薬剤を意味する。1つ
の実施形態において、混在した、異成分からなる細胞培養物においても、培養物中に比較的小さいパーセンテージの万能性細胞からなる実質的に均一な細胞培養物においても、細胞傷害剤は未分化万能性幹細胞の成長、増殖および/または増大を阻害または妨害する。細胞傷害剤および/または阻害剤という用語は、例えば、その薬剤が別の分子が反応に関わるのを抑制するにせよ、妨害するにせよ、その薬剤が生理的に機能する、または、反応を妨害もしくは反応速度を低減させる、または、別の因子もしくは分子、例えば、酵素もしくは器官の作用もしくは機能を減少、限定もしくは阻止する特定の機序に限定されない。本明細書において考慮されている細胞傷害剤または阻害剤は、万能性幹細胞の殺滅、万能性幹細胞の成長、増殖および/または増大の妨害、阻止、停止、低減または遅延化をもたらすものである。本発明は細胞の悪化および/または死をもたらす薬剤、ならびに、「細胞増殖抑制性」である、すなわち、細胞の分裂を妨げる薬剤を考慮しており、さらに、成長および/または細胞分裂を完全には阻止せずにそれらを低減させる薬剤は、全て、細胞増殖抑制性薬剤および/または阻害性薬剤という用語によって包含される。理論にとらわれるつもりはないが、細胞傷害性、細胞増殖抑制性および阻害性の間の違いは固有であり、および/もしくは可逆的ではないことがあり、または、用量に比例し得るし、可逆的でありことがあるということを本発明は考慮する。代表的な細胞傷害剤または阻害剤は潜在的に、LOPAC1280(商標)ライブラリーに記載される薬剤、好ましくは表4に記載される薬剤、さらにより好ましくは表5に記載される薬剤を含む。
例えば、そのような薬剤の候補のなかで、フラボノイドの構造的類縁体であるコーヒー酸(3,4‐ジヒドロキシケイ皮酸)またはコーヒー酸フェニルエチルエステル(CAPE)が本発明にあう。これらは抗ウイルス特性、抗炎症特性および免疫調節特性を持つことが示されており、様々な種類の形質転換細胞の成長を阻害することが示されている。Grunbergerら(1988年)Experientia誌、第44巻:頁230〜32;Burkeら(1995年)J.Med.Chem.誌、第38巻:頁4171〜78;Suら(1994年)Cancer Res.誌、第54巻:頁1865〜70;Suら(1991年)Moi.Carcinog.誌、第4巻:頁231〜42;Hlandonら(1980年)Arzneim.Forsch.誌、第30巻:頁1847〜48;およびGuariniら(1992年)Cell.Mol.Biol.誌、第38巻:頁513〜27を参照のこと。コーヒー酸に帰すものだとされる多くの活性の分子的基礎はあまり明らかになっていないが、コーヒー酸により阻害される活性の大半が核因子κB(NF‐κΒ)を活性化する。Natarajanら(1996年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA誌、第93巻:頁9090〜95を参照のこと。
別の選択的阻害剤は、ストレプトマイセス・アベルミチリス(Streptomyces avermitilis)の発酵産物から単離されたアベルメクチンに由来するラクトン系駆虫薬であるイベルメクチン(22,23‐ジヒドロアベルメクチンB1a + 22,23‐ジヒドロアベルメクチンB1b)である。それは、ストロメクトール(登録商標)(米国)、メクチザン(登録商標)(カナダ)およびイベクスターム(メキシコ)の商標で市販されている薬効範囲が広い抗寄生虫薬である。報告により、イベルメクチンは神経細胞または筋肉細胞に存在するグルタミン酸活性化クロライドチャネルに特異的で高い親和性で結合し、細胞膜を通過する塩化物イオンの膜透過性を上昇させることにより神経細胞または筋肉細胞の過分極を引き起こすことが示されている。
さらに別の選択的阻害剤は、グループAプロテインキナーゼC(PKC)アイソフォームおよびグループBプロテインキナーゼC(PKC)アイソフォームの選択的阻害剤である塩化ケレリトリンである。アポトーシスがインビトロでのケレリトリン誘導性細胞殺滅の主な機序であることが報告されている。Chmuraら(2000年)Clin.Cancer Res.誌、2000年2月、第6巻:頁737を参照のこと。Chmuraら(2000年)による前臨床発見は、ケレリトリンまたは他の類似の化合物は、本来、
標準的な最適治療計画に対して抵抗性を有するある種のヒト腫瘍に対して有効であり得ることを示唆している。ケレリトリンでの治療によってもたらされた毒性は最小であったことをChmuraら(2000年)は示している。
本明細書において使用される場合、「異型体」という用語は相同体、類似体、オルソログおよびパラログならびにキメラポリペプチドおよび融合ポリペプチドなどの合成および天然の種をふくむ。細胞傷害剤または阻害剤の異型体、特に構造類似体は本発明の範囲内にある。さらに、基準タンパク質またはポリペプチドの異型体は、そのアミノ酸配列が、異型体という用語に包含される基準タンパク質またはポリペプチドに対して少なくとも約80%同一であるタンパク質またはポリペプチドである。特定の実施形態において、異型体は基準タンパク質またはポリペプチドに対して少なくとも約85%、90%、95%、95%、97%、98%、99%または100%も同一である。
天然の神経伝達物質や神経伝達物質受容体の合成リガンドなどの低分子化合物との関連で本明細書において使用される場合、「類似体」という用語は構造的類似性および/または機能的類似性を共有する化合物を意味する。類似体には、機能的類似性を有する「構造類似体」および同様の薬理学的性質を示す、化学的に異なる化合物である「機能類似体」が含まれる。例えば、LOPAC1280(商標)化合物、または表4中の好ましい176候補、または表5中のより好ましい10候補、または図11F中の最も好ましい候補の構造的類似体および機能的類似体が本発明の方法での使用に適切であることが考えられている。
培養培地
本発明の組成物および方法には基本塩栄養溶液が含まれる。本明細書において使用される場合、「基本塩栄養溶液」は、正常な細胞の代謝に必須のある量の無機イオンを細胞に提供し、細胞内と細胞外の浸透圧バランスを維持する塩およびエネルギー源としての炭水化物および培地を生理的pH範囲に維持する緩衝系の水性溶液を意味する。基本塩栄養溶液の例にはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、RPMI‐1640、ハムF‐10、ハムF‐12、α‐最小必須培地(αMEM)、グラスゴウ最小必須培地(G‐MEM)、アイコーブ(Iscove’s)改変ダルベッコ培地、またはX‐VIVO(商標)(Lonza)血液性基本培地などの万能性細胞との使用のために改変された一般的目的用の培地、およびそれらの混合液が含まれるが、これらに限定されない。1つの特定の実施形態において、基本塩栄養溶液はDMEMとハムF12のおよそ50:50(体積:体積)の混合液である。
万能性細胞の細胞増殖と生存度を維持するために本明細書において記載されるような基本塩栄養溶液を用いるが、本発明の他の実施形態において、万能性細胞の万能性を維持するために、または万能性細胞の分化のために、KSR(インビトロジェン社)、xeno‐フリーKSR(インビトロジェン社)、StemPro(登録商標)hESC SFM(ライフ・テクノロジーズ社)、mTeSR(商標)1(ステムセル・テクノロジーズ社)およびHES cellGRO(ミリポア社)、DMEMおよびX Vivo(商標)(Lonza社)系の培地などを含むが、これらに限定されない代わりの万能性幹細胞培養培地を使用することができる。
本発明の限定培地は微量元素をさらに含むことができると考えられている。微量元素は、例えば、Mediatech社から購入することができる。微量元素の非限定的な例にはアルミニウム、塩素、硫酸塩、鉄、カドミウム、コバルト、クロム、ゲルマニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン酸塩およびマグネシウムを含む塩および化合物が挙げられるが、これらに限定されない。微量元素を含有する塩と化合物の具体的な例にはAlCl3、AgNO3、Ba(C2H3O2)2、CdCl2、CdSO4、CoCl
2、CrCl3、Cr2(SO4)3、CuSO4、クエン酸第二鉄、GeO2、KI、KBr、LI、モリブデン酸、MnSO4、MnCl2、NaF、Na2SiO3、NaVO3、NH4VO3、(NH4)6Mo7O24、NiSO4、RbCl、セレン、Na2SeO3、H2SeO3、亜セレン酸2Na、セレノメチオノン(selenomethionone)、SnCl2、ZnSO4、ZrOCl2、およびそれらの混合物およびそれらのさらなる塩が含まれるが、これらに限定されない。セレン、亜セレン酸またはセレノメチオノンが存在する場合、およそ0.002〜およそ0.02mg/Lの濃度である。さらに、ヒドロキシルアパタイトも存在してよい。
本発明の組成物および方法での使用に適切な限定培地にアミノ酸を添加することができると考えられている。そのようなアミノ酸の非限定的な例はグリシン、L‐アラニン、L‐アラニル‐L‐グルタミン、L‐グルタミン/グルタマックス、L‐アルギニン塩酸塩、L‐アスパラギン‐H2O、L‐アスパラギン酸、L‐システイン塩酸塩‐H2O、L‐システイン2塩酸塩、L‐グルタミン酸、L‐ヒスチジン塩酸塩‐H2O、L‐イソロイシン、L‐ロイシン、L‐リシン塩酸塩、L‐メチオニン、L‐フェニルアラニン、L‐プロリン、L‐ヒドロキシプロリン、L‐セリン、L‐トレオニン、L‐トリプトファン、L‐チロシン2ナトリウム塩二水和物およびL‐バリンである。ある実施形態において、アミノ酸はL‐イソロイシン、L‐フェニルアラニン、L‐プロリン、L‐ヒドロキシプロリン、L‐バリンおよびそれらの混合物である。
限定培地はアスコルビン酸を含むことができると考えられている。アスコルビン酸が存在するとき、それは通常およそ1mg/L〜およそ1000mg/L、またはおよそ2mg/Lからおよそ500mg/Lまで、またはおよそ5mg/Lからおよそ100mg/Lまで、またはおよそ10mg/Lからおよそ100mg/Lまで、またはおよそ50mg/Lの初期濃度で存在する。
さらに、本発明の組成物および方法は血清アルブミン、トランスフェリン、L‐グルタミン、脂質、抗生物質、β‐メルカプトエタノール、ビタミン、ミネラル、ATPおよび同様の成分などの他の成分を含むこともできる。存在してよいビタミンの例にはビタミンA、B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、D1、D2、D3、D4、D5、E、トコトリエノール、K1およびK2が含まれるが、これらに限定されない。当業者は所与の細胞培養物との使用に最適なミネラル、ビタミン、ATP、脂質、必須脂肪酸などの濃度を決定することができる。栄養補助剤の濃度は、例えば、約0.001μΜから約1mMまで、またはそれ以上であり得る。栄養補助剤が提供され得る濃度の具体的な例には約0.005μΜ、0.01μΜ、0.05μΜ、0.1μΜ、0.5μΜ、1.0μΜ、2.0μΜ、2.5μΜ、3.0μΜ、4.0μΜ、5.0μΜ、10μΜ、20μΜ、100μΜなどが含まれるが、これらに限定されない。1つの特定の実施形態において、前記組成物および方法はビタミンB6とグルタミンを含む。別の特定の実施形態において、前記組成物および方法はビタミンCと鉄栄養補助剤を含む。別の特定の実施形態において、前記組成物および方法はビタミンK1とビタミンAを含む。別の特定の実施形態において、前記組成物および方法はビタミンD3とATPを含む。別の特定の実施形態において、前記組成物および方法はビタミンB12とトランスフェリンを含む。別の特定の実施形態において、前記組成物および方法はトコトリエノールとβ‐メルカプトエタノールを含む。別の特定の実施形態において、前記組成物および方法はグルタミンとATPを含む。別の特定の実施形態において、前記組成物および方法はオメガ‐3脂肪酸とグルタミンを含む。別の特定の実施形態において、前記組成物および方法はオメガ‐6脂肪酸とビタミンΒ1を含む。別の特定の実施形態において、前記組成物および方法はα‐リノレン酸とB2を含む。
本発明のある組成物は基本的に動物血清フリーである。本明細書において使用される場
合、「基本的に」は、わずかな混入汚染物質および/またはささいな変化を考慮して、記述された量または質と本質的にまたは事実上同じ組成物、製剤、方法などに当てはまる。一般に、「基本的に」は少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約99.5%、または100%同じを意味する。したがって、「基本的に血清フリー」は動物の血清、例えば、胎児血清が無いこと、または本発明の溶液中に本質的にもしくは事実上動物血清が無いことを意味する。ある実施形態において、動物血清は本発明の組成物および方法の必須の成分ではない。したがって、基本的に動物血清フリーの組成物の中に非ヒト動物の血清が存在しても、それはただ、例えば、出発物質からの不純物または一次細胞培養物からの残存動物血清のせいである。例えば、基本的に動物血清フリーの培地または環境は5、4、3、2、1または0.5%未満の動物血清を含む場合がある。本発明の特定の実施形態において、基本的に動物血清フリーの組成物は動物血清もしくは血清代替物を含まない、または、限定培地に添加される動物血清もしくは血清代替物の成分を単離するため、痕跡的な量の動物血清もしくは血清代替物を含むだけである。
無血清限定培地は、分化可能細胞の培養に有用な組成物および方法(COMPOSITIONS AND METHODS USEFUL FOR CULTURING DIFFERENTIABLE CELLS)という表題の2007年8月13日に提出された米国特許出願公開第11/838,054号、ならびに幹細胞凝集懸濁組成物およびその分化方法(STEM CELL AGGREGATE SUSPENSION COMPOSITIONS AND METHODS OF DIFFERENTIATION
THEREOF)という表題の2008年10月4日に提出された米国特許出願公開第12/264,760号にさらに記載され、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
インスリンと関連の分子
本発明の1つの実施形態において、前記組成物および方法は外来性インスリンおよびインスリン代替物を含まない。「外来性インスリンおよびインスリン代替物」という句は本発明の組成物または方法に意図的に加えられるインスリンまたはインスリン代替物を示すために本明細書において使用される。したがって、本発明のある実施形態において、前記方法および組成物は意図的に補充されるインスリンまたはインスリン代替物が無い。しかしながら、前記組成物または方法は必ずしも内在性のインスリンが無いわけではない場合もある。本明細書において使用される場合、「内在性インスリン」は、本発明の方法に従って培養されると、培養細胞が自発的にインスリンを産生し得ることを示す。一次細胞培養物由来の残存性不純物または出発物質由来の不純物を示すために内在性インスリンを用いることもできる。具体的な例では、現在の前記組成物および方法は50、45、40、35、30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1μg/mL未満のインスリンを含有する。
本明細書において使用される場合、「インスリン」という用語は、通常の生理的濃度でインスリン受容体に結合し、そして、インスリン受容体を介したシグナル伝達を誘導することができるタンパク質またはその異型体もしくは断片を指す。「インスリン」という用語は、天然のヒトインスリンまたは別の哺乳類動物のインスリンのポリペプチド配列またはこれらの配列のあらゆる相同体または異型体を有するタンパク質を包含する。さらに、インスリンという用語は、インスリン受容体に結合し、インスリン受容体を介したシグナル伝達を誘導することができるポリペプチド断片(すなわち、機能性断片)を包含する。「インスリン代替物」という用語は、インスリンと実質的に同様の生物学的効果をもたらすためにインスリンの代わりに使用され得る任意の亜鉛含有化合物を指す。インスリン代替物の例には塩化亜鉛、硝酸亜鉛、臭化亜鉛および硫酸亜鉛が含まれるが、これらに限定されない。
明確にしておくと、本発明において考慮されるように、インスリン様成長因子はインスリン代替物でもインスリンの相同体でもない。したがって、別の特定の実施形態において、本発明の組成物および方法は少なくとも1つのインスリン様成長因子(IGF)またはその異型体もしくは機能性断片の使用を含む。他の実施形態において、本発明の組成物および方法はどのような外来性のインスリン様成長因子(IGF)も含まない、または実質的に含まない。特定の実施形態において、本発明の組成物および方法は200、150、100、75、50、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1ng/mL未満のIGF‐1を含有する。
本明細書において使用される場合、「IGF‐1Rの活性化因子」という用語は、細胞増殖、分化およびアポトーシスの調節に重要な役割を果たす有糸分裂促進因子を意味する。IGF‐1Rの活性化因子の効果は通常IGF‐1Rによって仲介されるが、他の受容体によって仲介されることがあり得る。IGF‐1Rはまた、腫瘍ウイルスタンパク質および癌遺伝子産物によって誘導される細胞トランスフォーメーションに関与し、そして、それらの間の相互作用は一群の特異的な結合タンパク質(IGFBP)によって調節される。さらに、大きな一群のIGFBPプロテアーゼがIGFBPを加水分解し、結合していたIGFを放出することになり、その後、そのIGFはIGF‐1Rと相互作用する能力を回復する。本発明の目的にとって、リガンド、受容体、結合タンパク質およびプロテアーゼは全てIGF‐1Rの活性化因子と考えられる。1つの実施形態において、IGF‐1Rの活性化因子はIGF‐1またはIGF‐2である。さらなる実施形態において、IGF‐1Rの活性化因子はIGF‐1類似体である。IGF‐1類似体の非限定的な例にはLongR3‐IGF1、Des(1‐3)IGF‐1、[Arg3]IGF‐1、[Ala31]IFG‐1、Des(2、3)[Ala31]IGF‐1、[Leu24]IGF1、Des(2、3)[Leu24]IGF‐1、[Leu60]IGF‐1、[Ala31][Leu60]IGF‐1、[Leu24][Ala31]IGF‐1およびそれらの組合せが含まれる。さらなる実施形態において、IFG‐1類似体は、ヒトインスリン成長因子‐1の組換え類似体であるLongR3‐IGF1である。LongR3‐IGF1はおよそ1ng/mL〜およそ1000ng/mL、通常はおよそ5ng/mL〜およそ500ng/mL、しばしばおよそ50ng/mL〜およそ500ng/mL、多くの場合およそ100ng/mL〜およそ300ng/mLの濃度で、またはほとんどの場合およそ100ng/mLの濃度で最初存在することが考えられている。
成長因子
ある実施形態において、本発明の組成物および方法はトランスフォーミング増殖因子β(TGF‐β)またはTGF‐βファミリーメンバーまたはその異型体もしくは機能性断片またはTGF受容体の活性化因子である薬剤を含む。本明細書において使用される場合、「TGF‐βファミリーメンバー」などという用語は、TGF‐βファミリーの既知のメンバーとの相同性か、TGF‐βファミリーの既知のメンバーとの機能の類似性のどちらかによってTGF‐βファミリーに属するものと当業者により一般に特徴づけられる成長因子を指す。本発明の特定の実施形態において、TGF‐βファミリーのメンバーが存在する場合、そのTGF‐βファミリーメンバーまたはその異型体もしくは機能性断片がSMAD2または3を活性化する。ある実施形態において、TGF‐βファミリーのメンバーは、ほんのわずかな例を挙げると、Nodal、アクチビンA、アクチビンB、TGF‐β、骨形成タンパク質‐2(BMP2)、GDF‐8、GDF‐11および骨形成タンパク質‐4(BMP4)からなる群より選択される。1つの実施形態において、TGF‐βファミリーのメンバーはアクチビンA、アクチビンB、Nodal、GDF‐8およびGDF‐11から選択される。万能性細胞を分化させるためにTGF‐βファミリーの成長因子を使用することは、胚体内胚葉の作製用の成長因子(GROWTH FACTORS FOR PRODUCTION OF DEFINITIVE ENDODERM
)という名称の、2008年6月3日に提出された米国特許出願公開第12/132,437号に記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本発明のさらなる実施形態において、本発明の組成物および方法はFGF受容体の活性化因子を含まない。本明細書において使用される場合、「FGF受容体の活性化因子」という用語は、FGFファミリーの既知のメンバーとの相同性か、FGFファミリーの既知のメンバーとの機能の類似性かのどちらかによってFGFファミリーに属するものと当業者により一般に認識される成長因子を指す。ある実施形態において、FGF受容体の活性化因子はα‐FGFおよびFGF2などの、しかし、これらに限定されないFGFである。特定の実施形態において、前記組成物および方法は外来性のFGF2を含まない。「外来性のFGF2」という句は、本発明の組成物または方法に意図的に加えられる線維芽細胞増殖因子2、すなわち、塩基性FGFを示すために本明細書において使用される。したがって、本発明のある実施形態において、前記方法および組成物は意図的に補充されるFGF2が無い。しかしながら、前記組成物または方法は必ずしも内在性FGF2が無いわけではない場合もある。本明細書において使用される場合、「内在性FGF2」は、本発明の方法に従って培養されると、培養細胞が自発的にFGF2を産生し得ることを示す。一次細胞培養物由来の残存性不純物または出発物質由来の不純物を示すために「内在性FGF2」を用いることもできる。具体的な例では、現在の組成物および方法は10、9、8、7、6、5、4、3、2または1ng/mL未満のFGF2を含有する。
しかしながら、本発明の組成物および方法は、FGFポリペプチド、その機能性断片またはその異型体のいずれかを含む、FGF受容体の少なくとも1つの活性化因子を含むことができると考えられている。FGF2が存在する場合、およそ0.1ng/mL〜およそ100ng/mL、通常はおよそ0.5ng/mL〜およそ50ng/mL、しばしばおよそ1ng/mL〜およそ25ng/mL、多くの場合およそ1ng/mL〜およそ12ng/mLの濃度、またはほとんどの場合およそ8ng/mLの濃度で最初存在することが考えられている。別の特定の実施形態において、本発明の組成物および方法はFGF2の他に少なくとも1つのFGF受容体の活性化因子を含むことができる。例えば、本発明の組成物および方法は、FGF‐7、FGF‐10もしくはFGF‐22またはそれらの異型体もしくは機能性断片のうちの少なくとも1つを含むことができる。特定の実施形態において、FGF‐7、FGF‐10およびFGF‐22またはそれらの異型体もしくは機能性断片のうちの少なくとも2つの組合せが存在する。別の実施形態において、FGF‐7、FGF‐10およびFGF‐22の3つ全て、またはそれらの異型体もしくは機能性断片が存在する。FGF‐7、FGF‐10またはFGF‐22または異型体または機能性断片のいずれかが存在する場合、およそ0.1ng/mL〜およそ100ng/mL、より具体的にはおよそ0.5ng/mLからおよそ50ng/mLまで、より具体的にはおよそ1ng/mLからおよそ25ng/mLまで、より具体的にはおよそ1ng/mLからおよそ12ng/mLまでの濃度で、または最も具体的にはおよそ8ng/mLの濃度で各々が最初存在すると考えられている。
特定のさらなる実施形態において、本発明の組成物および方法は血清アルブミン(SA)を含む。特定の実施形態において、SAはウシSA(BSA)か好ましくはヒトSA(HAS)のどちらかである。さらにより特定の実施形態において、SAの濃度は、体積に対する重量(重量/体積)パーセントで、約0.2%より高いが約10%重量/体積よりも低い。さらにより特定の実施形態において、SAの濃度は約0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.2%、1.4%、1.6%、1.8%、2.0%、2.2%、2.4%、2.6%、2.8%、3.0%、3.2%、3.4%、3.6%、3.8%、4.0%、4.2%、4.4%、4.6%、4.8%、5.0%、5.2%、5.4%、5.6%、5.8%、6.0%、6.2%、6.4%、6.6%、6.8%、7.0%、7.2%、7.4%、7.6%、7.8%、8.
0%、8.2%、8.4%、8.6%、8.8%、9.0%、9.2%、9.4%、9.6%および9.8%(重量/体積)よりも高い。
ローキナーゼ
細胞内の生化学的経路を順に調節する細胞外シグナルが細胞膜を通して伝達されることによって細胞制御がもたらされ得る。ローキナーゼは、阻害された場合、糖尿病、癌および様々な炎症性心循環系障害およびAIDSの治療と関連があり得るクラスの酵素である。
ローキナーゼファミリー低分子GTP結合タンパク質は、RhoA〜EおよびG、Rac1および2、Cdc42、ならびにTC10を含む、少なくとも10メンバーを含む。阻害剤は、多くの場合、ROK阻害剤またはROCK阻害剤と称され、そして、これらの名前は本明細書において互換的に使用される。RhoA、RhoBおよびRhoCのエフェクタードメインは同一のアミノ酸配列を持ち、類似した細胞内標的を持つようである。ローキナーゼはRhoの一次下流メディエーターとして機能し、2つのアイソフォーム、すなわち、α(ROCK2)とβ(ROCK1)が存在する。典型的なローキナーゼファミリータンパク質はそのN末端ドメインに触媒(キナーゼ)ドメイン、中央部分にコイルド‐コイルドメイン、そして、そのC末端ドメインに推定上のプレクストリン相同(PH)ドメインを持つ。ROCKのRho結合ドメインはコイルド‐コイルドメインのC末端部分に位置し、GTP結合型のRhoの結合によりキナーゼ活性の上昇がもたらされる。Rho/Rhoキナーゼ介在性経路は、アンジオテンシンII、セロトニン、トロンビン、エンドセリン‐1、ノルエピネフリン、血小板由来増殖因子、ATP/ADPおよび細胞外ヌクレオチド、およびウロテンシンIIを含む、多くのアゴニストによって開始されるシグナル伝達において重要な役割を果たす。その標的エフェクター/基質の修飾を介して、ローキナーゼは、平滑筋収縮、アクチン細胞骨格構築、細胞接着および/または運動能および遺伝子発現を含む、様々な細胞機能において重要な役割を果たす。
したがって、本発明の他の実施形態において、例えば、ローキナーゼ阻害剤であるY‐27632、Fasudil、およびH‐1152PならびにITS(インスリン/トランスフェリン/セレン;Gibco社)を含むが、これらに限定されない、細胞生存を促進および/または補助する薬剤が様々な細胞培養培地に添加される。これらの細胞生存薬剤は、部分的には、解離したhES細胞またはhES由来培養物、例えば、前腸内胚葉、膵臓内胚葉、膵臓上皮、膵臓内胚葉始原細胞の集団など、特に解離した膵臓内胚葉および膵臓始原細胞の集団の再会合を促進することにより機能する。hES細胞またはhES由来細胞は、その細胞が(細胞外マトリックスを用いてまたは用いずに、動物血清を用いてまたは用いずに、線維芽細胞フィーダー細胞を用いてまたは用いずに)懸濁状態の細胞凝集体から作製されたか、接着性プレート培養物から作製されたかに関係なく、生存細胞の増大が達成されている。これらの細胞集団の生存度の向上が(例えば、セルソーターを使用する)精製を促進および改善し、それ故、細胞の回収の改善を可能にする。Y27632などのローキナーゼ阻害剤の使用は、解離した単一細胞の連続継代中または低温保存からの回復中に生存を促進することにより、同様にhES由来細胞種の増殖を可能にし得る。Y27632などのローキナーゼ阻害剤はhES細胞培養物およびhES由来細胞培養物で試験されているが、他の細胞種、例えば、一般には、小腸、肺、胸腺、腎臓ならびに網膜色素上皮のような神経細胞種を含むが、これらに限定されない上皮性細胞種にローキナーゼ阻害剤を適用することができる。
細胞培養の方法
本発明の細胞培養の環境と方法は細胞をプレーティングして接着培養物にすることを含む。本明細書において使用される場合、「プレーティングする」、「プレーティングされた」および「プレーティング」という用語は、細胞が接着培養で培養されることを可能に
する任意の処理を意味する。本明細書において使用される場合、「接着培養」という用語は、以下に記載されるもののような基材、または、培養中に細胞が接着する、増殖する、および/または安定化するのを可能にする他のあらゆる化学物質または生物材料の表面被覆で被覆され得る不溶性基材で、同様に、被覆され得る、培養容器などの固相表面の上で細胞が培養される、その細胞培養系を指す。細胞は固相表面または基材にしっかりと接着してもよいし、しなくてもよい。
細胞基材、フィーダー層および条件培地
接着培養用の基材はポリオルニチン、ラミニン、ポリリシン、精製コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、テネイシン、ビトロネクチン、エンタクチン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン類、マトリゲル(商標)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)およびポリ(乳酸‐グリコール酸)(PLGA)のいずれか1つまたはそれらの組合せを含み得る。また、接着培養用の基材はフィーダー層が植えつけられたマトリックス、または細胞(例えば、万能性ヒト細胞)もしくはその細胞培養物が植えつけられたマトリックスを含み得る。本明細書において使用される場合、「細胞外マトリックス」という用語は、先に記載されたものならびにフィーダー細胞層または細胞(例えば、万能性ヒト細胞)もしくは細胞培養物が植えつけられたマトリックスまたは溶解した線維芽細胞フィーダー細胞からなるマトリックスなどの、しかし、これらに限定されない固形基材を包含する。1つの実施形態において、細胞はマトリゲル(商標)被覆プレートにプレーティングされる。別の実施形態において、細胞はフィブロネクチン被覆プレートにプレーティングされる。別の実施形態において、培地が細胞と接する前、培地が細胞と接するほぼ同時、または培地が細胞と接した後、培地に最大24時間ヒト血清を添加することができる。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、ヒト血清を含む無フィーダー万能性幹細胞培地の方法と組成物(METHODS AND COMPOSITIONS FOR FEEDER‐FREE PLURIPOTENT STEM CELL MEDIA CONTAINING HUMAN SERUM)という表題の2007年10月19日に提出された米国特許出願公開第2009‐0104696号を参照のこと。
本発明の組成物および方法は、基本的にフィーダー細胞またはフィーダー層が無い条件で万能性細胞および分化可能な細胞を培養することができることを考えている。本明細書において使用される場合、「フィーダー細胞」または「線維芽細胞フィーダー細胞」またはそれらの同等の表現は、インビトロで増殖し、標的細胞または目的の細胞と共培養される細胞である。本明細書において使用される場合、「フィーダー細胞層」は「フィーダー細胞」または「線維芽細胞フィーダー細胞」または「線維芽細胞フィーダー層」または「フィーダー」という用語またはそれらの同等の表現と互換的に使用される。本明細書において使用される場合、「基本的にフィーダー細胞が無い」という用語は、本明細書において記載されるもののような、少しもフィーダー細胞を含まない、または、最少のフィーダー細胞、もしくはフィーダー細胞からなるマトリックス、もしくは培養容器を被覆するために使用される、天然もしくは合成の細胞外マトリックスを含む組織培養条件、特に万能性幹細胞(例えば、hESまたはiPS細胞)の培養条件に当てはまる。「最少の」は、フィーダー細胞との関連では、細胞がフィーダー細胞上で培養されていたかもしれない場合、それまでの培養条件から現在の培養条件に不注意に、いくつかの場合ではやむをえず、持ち越された最少のフィーダー細胞を意味する。
本発明のある態様において、どのような種類のフィーダー細胞もしくは、細胞から形成されているにしても、それらの細胞から溶解されたタンパク質から形成されているにしても、フィーダー層も必要とすることなく、または他の種類の、ヒト血清での被覆などの表面被覆を使用することなく、万能性幹細胞を培養することができる。
本発明の1つの実施形態において、細胞は、分化途中の状態でその細胞を安定化するフ
ィーダー細胞から得られた条件培地で培養される。別の実施形態において、本明細書において使用される限定培地は非条件培地であって、フィーダー細胞から得られるものではない培地である。
本明細書において使用される場合、「安定化する」という用語は、細胞または細胞培養物の分化状態に言及するために用いられるとき、培養物中の細胞の全てではないとしても大半が同じ分化状態にある場合、培養中に複数の代にわたって細胞が増殖し続ける、好ましくは培養中に無限に培養し続けることを表す。さらに、安定化した細胞が分裂するとき、その分裂は通常同じ細胞種の細胞を生ずる、または同じ分化状態にある細胞を生ずる。安定化した細胞または細胞集団は、細胞培養条件が変えられず、細胞が過成長させることなく継代される場合、一般にさらに分化することも脱分化することもない。1つの実施形態において、安定化される細胞はその安定な状態で無限に、または少なくとも2継代よりも長い間増殖することができる。さらに特定の実施形態において、前記細胞は3継代、4継代、5継代、6継代、7継代、8継代、9継代より長い、10継代より長い、15継代より長い、20継代より長い、25継代より長い、または30継代より長い間安定である。ある実施形態において、前記細胞は連続継代の間、およそ1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月または11か月より長い間安定である。別の実施形態において、前記細胞は連続継代の間、およそ1年よりも長い間安定である。1つの実施形態において、万能性幹細胞は、それらを分化させることが望まれるまで、限定培地中でのルーチン的な継代により万能性状態のまま培養されて維持される。本明細書において使用される場合、「増殖する」という用語は細胞培養物中の細胞の数が増加することを意味する。
1つの実施形態において、分化可能な細胞が、動物胎児血清または血清代替物が無く、かつ、フィーダー細胞層または天然もしくは合成のマトリックスが無い状態で、本発明の組成物の少なくとも1つと接触すると、少なくとも1か月未分化状態で細胞が維持されるようになる。形態、表面マーカー、転写マーカー、核型、および3つの胚葉の細胞に分化する能力について細胞の特徴解析を行うことにより万能性を判定することができる。これらの特徴解析は当業者によく知られている。
懸濁培養
本明細書において使用される場合、「胚様体」または「EB」または「凝集塊」という用語または同等の表現は非限定培地中の懸濁培養物における分化細胞種を指し、または、それは非指向性プロトコルによって複数の胚葉組織へ分化する。例えば、形態的な基準によって、胚様体を懸濁状態の万能性幹細胞凝集体と区別することができる。当業者は、いつ胚性幹細胞の培養物に胚様体が存在するか日常的に決定する。例えば、約20細胞または培養条件に応じてそれ以上の細胞からなる浮遊細胞塊がEBとみなされる。例えば、Schmittら(1991年)Genes Dev.誌、第5巻:頁728〜740;Doetschmanら(1985年)J.Embryol.Exp.Morph.誌、第87巻:頁27〜45を参照のこと。前記の用語はまた、胚生殖巣領域から得られる初期細胞である、始原生殖細胞に由来する同等の構造体を指す。例えば、Shamblottら(1998年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA誌、第95巻:頁13726を参照のこと。時には当技術分野においてEG細胞または胚性生殖細胞とも称される始原生殖細胞は、適切な因子で処理されると、万能性ES細胞を形成し、それから胚様体を得ることができる。例えば、米国特許第5,670,372号および前述のShamblottらを参照のこと。
例えば、Ngら(2008年)(Nature Protocols誌、第3巻:頁468〜776)に記載されるようなスピン胚様体、および前述のBauwensら(2008年)に記載されるようなマイクロパターン細胞外マトリックスアイランドにプレーテ
ィングされた単一細胞懸濁液から作製される胚様体などの胚様体を作製する様々な方法が存在する。しかしながら、これらの方法は、スケールアップ生産を実際に始めることができるようになるまでにあまりに多くの工程を必要とするため、hES細胞およびhES由来細胞の大規模生産(製造)にはコストがかかりすぎ、そして、効率が悪い。例えば、Bauwensらのプロトコルは、懸濁培養物を初めて創るために細胞を選択することができるようになる前に成長因子低減化マトリゲル(商標)上にhES細胞を蒔くことを必要とする。特注のマイクロパターン組織培養プレートを必要とするため、この方法にかかる時間と費用がこの方法を扱いにくいものとしている。さらに、Ngらによって用いられる方法は、均一な胚様体を作製するために遠心分離機を使用することを必要とするため、hES細胞およびhES由来細胞の製造についてコストにみあうように規模を拡大することができない。最後に、これらの方法論全てにおいて、本明細書において記載される単一細胞凝集体懸濁培養物がそうであるように、万能性幹細胞の単一細胞懸濁液から細胞凝集体が作製されるのではない。
未分化ES細胞の凝集体を非指向性分化シグナル、例えば、20%ウシ胎児血清に曝露することによって胚様体を作製することもできる。この非指向性方法論の結果、インビトロで通常の胚発生を模倣するとされている細胞種の混合物がもたらされる。このアプローチは基礎研究のレベルでは胚発生の調査に有用であるが、細胞の収量、集団の同一性、集団の純度、バッチ間の一貫性、安全性、細胞機能および原価が主な関心事項である細胞療法の材料の生産に適切な大規模の製造工程に受け入れられるものではない。さらに、胚様体から所与の細胞種を精製するために用いられるどのような濃縮戦略にも関係なく、その分化プロトコルは、単一細胞種の均一な大集団を作製する指向性アプローチを提供しない。次いで、特定の集団を精製しようとするいかなる試みも妨害する混入細胞集団が常に存在するであろうし、それが優位を占める可能性が有る。
万能性幹細胞の凝集体を作製し、分化させることについて以前に報告された全ての研究が、それらの方法論に次の要素、すなわち、1)ヒトES細胞よりもむしろマウスES細胞の使用;2)通常の細胞接着処理よりもむしろ、細胞を凝集させるために遠心分離に依存する強制凝集プロトコル;3)静置状態での細胞塊の凝集;4)凝集体を作製するための非単一細胞解離または表面からの細胞剥離;および5)15〜20%のウシ胎児血清(FCS)を使用する細胞凝集体の非指向性分化、のうちの1つ以上を有し、胚様体および全ての胚葉の細胞種の形成がもたらされる。出願人の知る限りでは、胚様体を分化させるために15〜20%のFCSを使用することがない唯一の報告された研究は、強制凝集によって細胞凝集体が形成され、その後、形成された凝集体を中胚葉に適切な培地を使用して直ちに分化させた(Ngら、Blood誌(2005年)第106巻:頁1601)プロトコルを含む。しかしながら、この報告では、研究者らは、10〜12日の静置凝集培養後に胚様体を非凝集性接着培養に移行させたため、本願との比較を不適切なものとしている。
対照的に、本明細書において記載される単一細胞凝集体は、1)ヒト万能性幹細胞(例えば、ヒトES細胞またはヒトIPS細胞)を単一細胞に解離させ、その後、凝集体の直径と細胞生存の制御を改善するために最適化したせん断速度での回転培養により凝集体を作製し;そして2)万能性幹細胞凝集体の、例えば、胚体内胚葉への、そして、その後に他の内胚葉系細胞種への指向性分化を可能にするアプローチによって作製される。それらの全体の開示が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2008/0268534号(2007年2月23日に提出、表題「分化可能細胞の培養に有用な組成物および方法(COMPOSITIONS AND METHODS USEFUL FOR CULTURING DIFFERENTIABLE CELLS)」);第2008/0113433号(2007年8月13日に提出、表題「分化可能細胞の培養に有用な組成物および方法(COMPOSITIONS AND METHODS USEFU
L FOR CULTURING DIFFERENTIABLE CELLS)」);第2010/0112691号(2008年11月4日に提出、表題「幹細胞凝集懸濁組成物およびその分化方法(STEM CELL AGGREGATE SUSPENSION COMPOSITIONS AND METHODS OF DIFFERENTIATION THEREOF)」)を参照のこと。この分化プロトコルは高い効率で、そして、混入集団を最小にして胚体内胚葉集団および膵臓系列集団を形成する。さらに、万能性幹細胞の凝集と分化へのこのアプローチは胚様体を形成せず、他の公開されている研究全てとは際立って対照的である。
1つの特定の実施形態において、本発明の細胞培養培地を使用して、懸濁培養物として未分化細胞ならびに分化可能な細胞を増殖させる。別の特定の実施形態において、懸濁状態で分化可能な細胞が維持され、増殖することができる、すなわち、それらは未分化のままでいるか、さらに分化することを妨げられている。細胞培養との関連では「増殖させる」、「増殖した」および「増殖」という用語は、当技術分野で使用される通りに使用され、そして、細胞増殖および細胞の数の増加、好ましくは生存可能細胞の数の増加を意味する。特定の実施形態において、約1日、すなわち、約24時間よりも長く培養することによって、懸濁状態で細胞が増殖する。さらに特定の実施形態において、少なくとも1、2、3、4、5、6、7日もしくはそれ以上、または少なくとも2、3、4、5、6、7、8週間またはそれ以上培養することにより懸濁状態で細胞が増殖する。
凝集懸濁培養
例えば、逆涙滴型容器内の組織培養培地中の細胞その涙滴型容器の底に沈み、そこでそれらが凝集する「ハンギング・ドロップ」;実験室用フラスコ中の細胞懸濁液の振盪;およびこれらの技法の様々な修正法などの、細胞凝集体を作製する様々な方法が当技術分野においてにおいて公知である。例えば、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、Timminsら(2004年)Angiogenesis誌、第7巻:頁97〜103;Daiら(1996年)Biotechnol.Bioengineering誌、第50巻:頁349〜356;Fotyら(1996年)Development誌、第122巻:頁1611〜20;Forgacsら(2001年)J.Biophys.誌、第74巻:頁2227〜34(1998年);Furukawaら(2001年)Cell Transplant.誌、第10巻:頁441〜445;Glicklisら(2004年)Biotechnol.Bioengineering誌、第86巻:頁672〜80;Carpenedoら(2007年)Stem Cells誌、第25巻:頁2224〜34;およびKorffら(2001年)FASEB J.誌、第15巻:頁447〜57を参照のこと。さらに近年、マイクロパターンプレート上のコロニーをこそぎ落として懸濁状にすること、マイクロタイタープレートからコロニーを遠心分離し、そして、懸濁状にすること、または、パターン化マイクロウェルに培養されたコロニーを、ピペットを使用して取り外し、そして、懸濁することにより細胞凝集体が形成された(Ungrinら、(2008年)PLoS ONE誌、第3巻(第2号)、頁1〜12;Bauwensら(2008年)Stem Cells誌、オンライン出版、2008年6月26日)。本明細書において記載される細胞凝集体を作製するためにそのような方法を用いることができるが、前述のD’Amourら(2006年)に記載されるように、同期した指向性分化について本明細書において作製される細胞凝集体を最適化する。また、これらの他の方法と異なり、本明細書において記載される、懸濁状態の細胞凝集体を作製する方法は大規模製造に適している。
細胞培養との関連で使用される場合、「懸濁」という用語は当技術分野で使用されている通りに使用される。すなわち、細胞培養懸濁液は、細胞または細胞凝集体が培養容器などの表面に接着しない細胞培養環境である。フローフード、恒温培養器および/または必要に応じて細胞を一定に動かし続けるために使用される他の装置、例えば、回転培養器、
振盪培養器などのような装置の使用を含むが、これに限定されない懸濁培養技術に当業者は精通しているであろう。本明細書において使用されるとき、細胞が動いている場合、または細胞の直近の環境がその細胞と相対的に動いている場合、細胞は「動いている(in
motion)」。細胞が「動き」続けている場合、その動きは、1つの実施形態においては、せん断応力に細胞を曝すことを避けるような、または防ぐような「軽い動き」または「軽い撹拌」である。
一般に、本発明の細胞培地組成物は少なくとも毎日1回新しくされるが、培養および閉鎖系ループ型バイオリアクターシステムなどの培養容器の特殊な必要品および環境に応じて、それよりも多い頻度で、または、それよりも少ない頻度で培地が交換され得る。インビトロでは、細胞は通常バッチモードで培養培地中に培養され、様々な培地条件に曝される。本発明のいくつかの実施形態において、培養物中の細胞は接着培養物か懸濁状態の細胞凝集体のどちらかとして維持され得るが、それらは周囲の培養培地と接して維持され、そして、定期的に廃棄培地が交換される。一般に、培養培地は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23もしくは24時間毎に、またはそれらのあらゆる端数毎に新しくされ得る。さらなる例では、培地は、より少ない頻度で、例えば、これらに限定されないが1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9日毎、または2日以上毎、またはそれらの間のあらゆる時間枠で新しくされ得る。
本発明の別の実施形態において、大規模製造方法を用いるが、その方法は、頻繁に交換されなくてはならない成長因子や他の薬剤の分解を防ぐために培地を新しくする灌流方法を用いる大規模バイオリアクターでの細胞の増殖、培養および分化を含み得る。ある一定時間にわたって、培養培地から老廃物を除去するための手段として灌流を用いることもできる。例えば、米国特許第5,320,963号は懸濁細胞の灌流培養のためのバイオリアクターについて記載している。米国特許第5,605,822号は、培養中の細胞の増殖のために、灌流により成長因子を供給する間質細胞を用いるバイオリアクター系について記載している。米国特許第5,646,043号は、細胞増殖用培地組成物を含む連続灌流および定期的灌流による細胞の増殖について記載している。米国特許第5,155,035号は液体培地循環による細胞の懸濁培養用のバイオリアクターについて記載している。これらの引用文献は全てその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
一般に、本発明の培地組成物で培養される細胞は毎週かそれ位で「分割される」または「継代される」が、懸濁培養の特殊な必要品および環境に応じて、それよりも多い頻度で、または、それよりも少ない頻度で細胞が分割され得る。例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日毎もしくはそれ以上、またはそれらの間のあらゆる時間枠で細胞が分割され得る。本明細書において使用される場合、「分割される」または「継代される」という用語は、細胞培養との関連で、当技術分野で使用されている通りに使用される。すなわち、細胞培養物の分割または継代とは、それまでの培養物から細胞を採取し、引き続いて、採取した(回収した)細胞のうちの少数の細胞を同じサイズの新しい細胞培養容器に移植(「播種」)することである。当業者は、「分割」または「継代」は回収した細胞の全てまたは一部のより大きい容器への移植、またはそれらをいくつかの容器用に分割することも包含することを理解する。一般に、細胞は細胞の継代によって健全な細胞培養環境で増殖し続けることができる。当業者は、細胞が増殖増大する間に凝集した細胞を脱凝集させるために使用され得る酵素的方法または非酵素的方法の使用を含みうるが、必ずしもそうではない、細胞培養物の継代処理および継代方法に精通している。
本明細書において記載される実施形態は、低せん断環境を維持し、それにより系の操作上の細胞密度を維持し、そして、流体せん断応力を最小化することにより、増殖中および
/または分化中の万能性幹細胞(例えば、hES細胞およびiPS細胞)を大規模に製造する方法を提供する。特に、本発明は、60mmディッシュ、6ウェルプレート、回転ボトル、バイオリアクター(例えば、大きいスピナーフラスコ)、カルチャーベセル、閉鎖系ループ型システムなどで細胞懸濁液を培養することによって、大規模真核細胞製造系で低せん断環境を維持する方法を包含する。あるいは、細胞培養用の連続灌流システムは、例えば、増殖および/または分化のために細胞の懸濁、酸素供給および新鮮な栄養の供給を提供するバイオリアクターまたはカルチャーベセル内での撹拌または運動を必要とする。細胞を懸濁状態に保つために、バイオリアクター容器は、通常はせん断応力の潜在的な供給源でもある、1つ以上の可動式機械的撹拌装置を使用する。
一定の、最適化された撹拌せん断速度を確立、維持することは細胞の増殖と生存能力を維持するために重要である。例えば、せん断速度の上昇は次の面で有害である:(1)過剰なせん断がエネルギー消費を増加させる、(2)過剰なせん断が膜表面での拡散を妨げる、(3)過剰なせん断が生物活性を有するある種の化合物を除去し得る、および(4)過剰なせん断が、細胞溶解を引き起こす破裂張力の閾値を越えて、細胞膜を変形させ得る。したがって、細胞凝集体の直径ならびに単一細胞解離およびせん断への特定の細胞株の感受性に応じて5〜500秒−1という最適範囲内にせん断を維持することが望ましい。本発明の方法において有用な機器構成によりもたらされる例示的なせん断速度は、米国特許出願公開第12/264,760号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)の実施例17に示され、そこでは凝集体の直径は100〜200μmであり、そして、6ウェルディッシュの回転速度は60〜140rpmの間である。これらの値によって、大量の流体の回転中に生じる時間平均せん断応力が推定される。しかしながら、容器の璧でのせん断応力は境界効果のためより高いと予想される。
さらに、プロペラなどのインペラ、または他の機械的手段、ブラダー、流体流もしくは気体流ベースの手段、超音波定常波発生機、振盪プラットフォームもしくは回転プラットフォーム、または細胞懸濁液を作製するそれらの組合せを含む、軽く撹拌された細胞懸濁液を作製する方法または装置の他の例が存在し、それは当業者によく知られている。本発明の方法では、回転プラットフォームは、細胞が6ウェルプレート中にあるとき、細胞を懸濁するための代表的手段であり、400秒−1未満のせん断速度を生じる。回転機の種類または撹拌混合液体懸濁物を作製する機序に関わりなく、大量の流体での時間平均せん断速度およびせん断応力の推定値によって、全ての液体混合装置が関連し得る標準化係数が提供される。装置の間では流動様式は装置のプロファイルと層流または乱流の程度の点で異なる可能性があるが、様々な機序で混合する装置での流動を等しくするための基準がせん断の計算によって提供される。例えば、4cmの直径のインペラ、6.4cmの容器の幅、90°のインペラの角度、および0.1cmのインペラの幅を有する125mLのスピナーフラスコについて、135rpmのインペラ回転速度は、100μmの直径の凝集体について100rpmで回転する5mLの培地を含む6ウェルディッシュと同じ大量の流体での時間平均せん断速度およびせん断応力を発生させる。
本発明の限定培地との接触の前および/または後に、酵素的解離方法、非酵素的解離方法または手動解離方法を用いて分化可能な細胞を継代させることができると考えられている。手動継代技法は、Schulzら(2004年)Stem Cells誌、第22巻:頁1218〜38など、当技術分野においてよく説明されている。機械的継代にはいかなる付加的な物質も関わらないが、それは万能性幹細胞やそれに由来する多くの細胞の大規模製造に効率的ではない。例えば、バイオリアクターまたは大きいフラスコでは、酵素の使用、例えば、GMPコラゲナーゼの使用が考慮されている。酵素的解離方法の非限定的な例にはトリプシン、コラゲナーゼ、ジスパーゼ、アキュターゼ(商標)(ライフ・テクノロジーズ社、カールスバード、カリフォルニア州)などのプロテアーゼの使用が含まれる。1つの実施形態において、接触細胞を継代させるためにアキュターゼ(商標)を用
いる。酵素的継代方法が用いられるとき、その結果の培養物は、使用された酵素に応じてサイズが異なる、細胞の一重体、二重体、三重体および凝集体の混合物を含む。非酵素的解離方法の非限定的な例は細胞分散緩衝液である。継代方法の選択は、存在するとすれば、細胞外マトリックスの選択によって影響され、当業者によって容易に決定される。
本発明の方法において使用される解離溶液は、細胞に対する過度の傷害性を引き起こすことなく細胞を単一の細胞に分ける、または脱凝集させることができる任意の解離溶液であり得る。脱凝集溶液の例にはトリプシン、アキュターゼ(商標)、0.25%トリプシン/EDTA、TrypLE、またはバーゼン(商標)(EDTA)およびトリプシンが含まれるが、これらに限定されない。本発明の方法は、少なくとも少数の単一細胞(またはより好ましくは大半の細胞)が脱凝集され、再度培養されることが可能であるのならば、結果として集密層または懸濁液の全ての細胞が単一細胞に脱凝集することを必要としない。
培養の開始時か継代後のどちらかで、培養チャンバーにつき1細胞を含む任意の密度で分化可能な細胞を播種することができる。接着培養または懸濁培養の使用、使用する細胞培養培地の特殊なレシピ、増殖条件および培養された細胞の予期される使用を含むが、これらに限定されない様々な要因に応じて播種される細胞の細胞密度が調節され得る。本発明の方法での使用に適切であり得る細胞培養密度の例には0.01×105細胞/mL、0.05×105細胞/mL、0.1×105細胞/mL、0.5×105細胞/mL、1.0×105細胞/mL、1.2×105細胞/mL、1.4×105細胞/mL、1.6×105細胞/mL、1.8×105細胞/mL、2.0×105細胞/mL、3.0×105細胞/mL、4.0×105細胞/mL、5.0×105細胞/mL、6.0×105細胞/mL、7.0×105細胞/mL、8.0×105細胞/mL、9.0×105細胞/mLもしくは10.0×105細胞/mL、または、好適な細胞生存度で懸濁状に培養されるのなら、それよりも高い密度、またはそれらの間の任意の数値を含むが、それらに限定されない。
上記に加えて、本明細書において使用される場合、「操作上の細胞密度」または「操作可能細胞密度」という用語または同等の表現は、増殖中または分化中のhES細胞培養物を作製するために細胞培養プロトコルまたは製造工程もしくは系が運用される、その細胞密度を意味する。系に加えられるビタミン、ミネラル、アミノ酸または代謝物などの栄養ならびに酸素分圧などの環境条件が細胞の生存度を維持するのに充分であるときの細胞密度がそのような細胞密度である。あるいは、細胞の生存度を維持するのに充分である速度で系から老廃物を除去することができるときの細胞密度がそのような細胞密度である。当業者によって、そのような細胞密度が容易に決定され得る。
また、インピーダンスのリアルタイム測定を可能にする96ウェル培養装置に万能細胞を培養することもでき、ACEAバイオサイエンシズ株式会社(www.aceabio.com)のRT‐CES(商標)法または他の同様の細胞アッセイ研究ツールを用いて細胞増殖と生存度を測定するためにそれを使用することができる。そのようなアプローチによって、リアルタイムでの、分化可能な細胞への微妙な効果または即時の効果の無標識特定および定量ならびに増殖、アポトーシスおよび形態に対する変化の測定が可能になる。
内胚葉系譜に沿った万能性幹細胞の分化と膵臓内胚葉系列株:ステージ1〜4の細胞の作製についての要約
ある種の内胚葉系細胞および膵臓内胚葉系細胞を作製する方法が本明細書において提供され、そして、内分泌前駆細胞、膵臓ホルモン発現細胞および作製法(ENDOCRINE PRECURSOR CELLS,PANCREATIC HORMONE‐EXP
RESSING CELLS AND METHODS OF PRODUCTION)という表題の2007年3月2日に提出された米国特許出願公開第11/681,687号の一部継続出願である、膵臓ホルモンの生産法(METHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONES)という表題の2007年7月5日に提出された米国特許出願公開第11/773,944号などの関連出願のどこかで説明される。それらの文献の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
簡単に説明すると、本明細書において記載される万能性幹細胞、例えば、hES細胞およびiPS細胞のための指向性分化方法を少なくとも4つまたは5つのステージに分けることができる。ステージ1は万能性幹細胞からの胚体内胚葉の作製であり、それは約2〜5日、通常2日または3日かかる。まず、成長、生存および増殖を向上させ、ならびに細胞間接着を促進するために、(動物血清を含まない、または非常に低いレベル、例えば、0.2%の動物血清を含む)RPMI;アクチビンA、アクチビンB、GDF‐8またはGDF‐11(少なくとも100ng/mL)などのTGFβスーパーファミリーメンバー増殖因子;Wnt3a(少なくとも25ng/mL)などのWntファミリーメンバーまたはWnt経路活性化因子;および場合によりY‐27632(約10μΜ)などのローキナーゼ阻害剤またはROCK阻害剤を含む培地に万能性幹細胞を約24時間懸濁する。あるいは、約1:5000の割合で少量のITS(インビトロジェン社、カールスバード、カリフォルニア州)を使用することもできるが、なお細胞培養培地中のインスリンと血清の含有量を低く保つ。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、胚体内胚葉の作製用の成長因子(GROWTH FACTORS FOR PRODUCTION OF DEFINITIVE ENDODERM)という表題の2008年6月3日に提出された米国特許出願公開第12/132,437号を参照のこと。約24時間後、さらに24時間(第2日)〜48時間(第3日)のために培地を、0.2%胎児ウシ血清(FBS)などの少量の動物血清;アクチビンA、アクチビンB、GDF‐8またはGDF‐11(約100ng/mL)などのTGFβスーパーファミリーメンバー増殖因子;場合により、ローキナーゼ阻害剤またはROCK阻害剤を、そして、場合により1:5000のITSを有するRPMIを含む培地と交換する。重要なことに、胚体内胚葉の作製は、動物血清を含まない、または非常に低い濃度の動物血清を含む、およびインスリンもしくはインスリン様成長因子を含まない、または非常に低い濃度、例えば、0.2μg/mL未満のインスリンもしくはインスリン様成長因子を含む細胞培養条件を必要とする。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、McLeanら(2007年)Stem Cells誌、第25巻:頁29〜38を参照のこと。McLeanらはまた、0.2μg/mLもの低い濃度でもステージ1でインスリンとhES細胞を接触させることが胚体内胚葉の作製に有害であり得ることを示した。当業者は、実質的に本明細書およびD’Amourら(2005年)において記載されるように、万能性幹細胞の胚体内胚葉へのステージ1分化を改変した。例えば、Agarwalら(2008年)第26巻:頁1117〜1127;Ameriら(2010年)Stem Cells誌、第28巻:頁45〜56;Binghamら(2009年)Stem Cells & Development誌、第18巻(第7号):頁1〜10;Borowiakら(2009年)Cell Stem Cell誌、第4巻:頁348〜358;Brolenら(2010年)J.Biotechnology誌、第145巻(2010年)頁284〜294;Brunnerら(2009年)Genome Res.誌、第19巻:頁1044〜56;Chenら(2008年)Nature Chemical Biology誌、第5巻(第4号):頁258〜265;Duanら(2010年)Stem Cells誌、第28巻(第4号):頁674〜86.Hintonら(2009年)Stem Cells & Development誌、第19巻(第6号):頁797〜807;Gibsonら(2009年)Integr.Biol.誌、第1巻、頁540〜551;Johannessonら(2009年)Plos ONE誌、第4巻(第3号):頁e4794;King、C、「プロテオミクスベースの用途のためのヒト胚性幹細胞の培養と調製(C
ulture and Preparation of Human Embryonic Stem Cells for Proteomics‐Based Applications)」ヒト胚性幹細胞プロトコル(Human Embryonic Stem Cell Protocols)第19章、Methods in Molecular Biology、Turksen(編)Humana Press;Kingら(2008年)Regenerative Medicine誌、第3巻(第2号):頁175〜180;Maehrら(2009年)Proc Nat’l Aca Sci誌、第106巻(第37号):頁15768〜15773;Synnergrenら(2009年)Stems Cells & Development誌、第19巻(第7号):頁961〜78;およびZhouら(2008年)Stem Cells & Development誌、第17巻:頁737〜750を参照のこと。これらの文献全てについて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。他の内胚葉系細胞を得るために、胚体内胚葉の適切な分化、分化運命決定、特徴解析および同定が必要である。このステージの胚体内胚葉細胞はSOX17およびHNF3β(FOXA2)を共発現し、そして、少なくともHNF4α、HNF6、PDX1、SOX6、PROX1、PTF1A、CPA、cMYC、NKX6.1、NGN3、PAX3、ARX、NKX2.2、INS、GHRL、SSTまたはPPを検知できるほど発現しない。
好ましい実施形態において、それらの開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる、胚体内胚葉(DEFINITIVE ENDODERM)という表題の2004年12月23日に提出された米国特許出願公開第11/021,618号(現在では、米国特許第7,510,876号);胚体内胚葉のマーカー(MARKERS OF DEFINITIVE ENDODERM)という表題の2005年11月14日に提出された米国特許仮出願第60/736,598号;胚体内胚葉細胞の増殖(EXPANSION OF DEFINITIVE ENDODERMCELLS)という表題の2005年12月22日に提出された米国特許出願公開第11/317,387号(現在では、米国特許第7,625,753号);胚体内胚葉のマーカー(MARKERS OF DEFINITIVE ENDODERM)という表題の2008年7月21日に提出された米国特許出願公開第12/093,590号;および胚体内胚葉細胞の増殖(EXPANSION OF DEFINITIVE ENDODERMCELLS)という表題の2009年10月20日に提出された米国特許出願公開第12/582,600号に記載される方法のうちの1つ以上を用いて胚体内胚葉細胞を濃縮、単離および/または精製する。
ステージ2は適切に分化運命が決定され、特徴解析された胚体内胚葉細胞培養物をステージ1から受け継ぎ、そして、成長、生存および増殖を向上させ、ならびに細胞間接着を促進するために、場合により量を増やした非ヒト動物血清(例えば、0.2〜2%FBS);1:1000に希釈したITS;25ng/mLのKGF(またはFGF7);場合により、ROCK阻害剤またはローキナーゼ阻害剤を、および、場合により、SB‐431542または阻害剤IVなどのTGFβ受容体キナーゼ阻害剤を含むRPMIを用いてその懸濁培養物を24時間(第3日または第4日)培養することによって、前腸内胚葉または具体的にはPDX1陰性前腸内胚葉を作製する。約24時間後、少なくともさらに24時間〜48時間のために培地を、同じ配合だが、場合によりTGFβ受容体キナーゼ阻害剤および/またはROCK阻害剤を含まない培地に交換する。前腸内胚葉の適切な分化運命決定のために重要な工程はTGFβファミリー成長因子の除去である。したがって、胚体内胚葉の誘導後またはステージ1の後、約24時間、TGFβI型受容体であるアクチビン受容体様キナーゼ(ALK)の特異的な阻害剤である、TGFβ阻害剤第IV番またはSB431542などのTGFβ受容体キナーゼ阻害剤を場合によりステージ2の細胞培養物に添加することができる。ステージ2の間に作製された前腸内胚葉細胞またはPDX1陰性前腸内胚葉細胞はSOX17、HNF1βおよびHNF4αを共発現し、そして、胚体内胚葉細胞、PDX1陽性前腸内胚葉細胞、PDX1陽性膵臓内胚葉始原細胞ま
たは内分泌前駆細胞ならびに単一ホルモン分泌性細胞または複数ホルモン分泌性細胞の特徴である、少なくともPDX1またはHNF6、PDX1、SOX6、PROX1、PTF1A、CPA、cMYC、NKX6.1、NGN3、PAX3、ARX、NKX2.2、INS、GSC、GHRL、SSTまたはPPを検知できるほど共発現しない。
さらに別の実施形態において、胚体内胚葉細胞培養物または細胞集団に供給されるFGFファミリー増殖因子はFGF10および/またはFGF7である。しかしながら、FGF10および/もしくはFGF7の代わりに、またはFGF10および/もしくはFGF7に加えて、他のFGFファミリー成長因子またはFGFファミリー増殖因子類似体もしくは模倣物を供給することができることが理解される。例えば、FGF1、FGF2、FGF3などFGF23までを含む群から選択されるFGFファミリー増殖因子を提供することができる。
他の実施形態において、ヘッジホグ(hedgehog)阻害剤はKAAD‐シクロパミンである。しかしながら、他のヘッジホグ阻害剤を使用することができることが理解される。そのような阻害剤にはKAAD‐シクロパミン類似体、ジェルビン、ジェルビン類似体、ヘッジホグ経路阻止抗体および当業者に知られているヘッジホグ経路機能の他の任意の阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。単独で、またはFGFファミリー増殖因子と併せて使用されるとき、少なくとも約0.01μΜ〜約50μΜの濃度でヘッジホグ阻害剤が提供され得る。
ステージ3は適切に分化運命が決定されたPDX陰性前腸内胚葉細胞培養物をステージ2から受け継ぎ、そして、1%(体積/体積)のB27;25μΜのKAADシクロパミン;約0.2μΜのレチノイン酸(RA)などのレチノイドまたは約3nMのアロチノイド酸、すなわち、4‐[(E)‐2‐(5,6,7,8‐テトラヒドロ‐5,5,8,8‐テトラメチル‐2‐ナフタレニル)‐1-プロペニル]安息香酸もしくはTTNPBなどのレチノイン酸類似体;および約50ng/mLのノギン(Noggin)を含むDMEMまたはRPMIで約24時間〜72時間培養することによって、PDX1陽性前腸内胚葉細胞を作製する。また、成長、生存および増殖を向上させ、ならびに細胞間接着を促進するためにY‐27632などのROCK阻害剤を使用することができる。ステージ3の間に作製されるPDX1陽性前腸細胞はPDX1およびHNF6ならびにSOX9およびPROX1を共発現し、そして、ステージ1および2の上述したような胚体内胚葉細胞またはPDX1陰性前腸内胚葉細胞に特徴的なマーカーを検知できるほど共発現しない。ステージ2および3について、PDX1発現背腹部前腸内胚葉(PDX1‐EXPRESSING DORSAL AND VENTRAL FOREGUT ENDODERM)という表題の2006年10月27日に提出された米国特許出願公開第11/588,693号にさらなる詳細が記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
ステージ4は適切に分化運命が決定された細胞をステージ3から受け継ぎ、そして、約24時間〜96時間(約1〜4日)またはそれ以上のため、培養培地を、約1%(体積/体積)のB27補充物、約50ng/mLのKGFおよび50ng/mLのEGFおよび約50ng/mLのノギンを有するDMEMを含む培地と交換する。また、成長、生存および増殖を向上させ、ならびに細胞間接着を促進するためにY‐27632などのROCK阻害剤を使用することができる。ステージ4の間に作製されたPDX1陽性膵臓内胚葉始原細胞は少なくともPDX1およびNkx6.1ならびにPTF1Aを共発現し、そして、ステージ1、2および3の上述したような胚体内胚葉細胞およびPDX1陰性細胞およびPDX1陽性前腸内胚葉細胞、または内分泌細胞または内分泌前駆細胞に特徴的な他のある種のマーカーまたは全てのマーカーを検知できるほど発現しない。
本発明の別の実施形態において、ステージ1〜4は細胞の混合集団からなる分化細胞培
養物をもたらす。例えば、ステージ4分化過程は、天然のヒトβ細胞に機能の上で生理的に類似した機能性インスリン分泌細胞にインビボで発生し、成熟する能力を有するPDX1陽性膵臓内胚葉始原細胞を作製するが、他の細胞集団を作製することもできる。例えば、ステージ4細胞培養物はまた内分泌前駆細胞またはCHGA陽性細胞のかなり大きい集団を作製する。ステージ4分化過程の後のこれらの様々な細胞集団について、hES細胞由来の内胚葉細胞および膵臓内胚葉細胞の精製方法(METHODS FOR PURIFYING ENDODERM AND PANCREATIC ENDODERM CELLS DERIVED FROM HES CELLS)という表題の2008年6月3日に提出された米国特許出願公開第12/132,437号にさらなる詳細が記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
万能性細胞の胚体内胚葉細胞への分化についての処理のいくつかに関して、上述の成長因子が細胞に供給され、万能性細胞の少なくとも一部の胚体内胚葉細胞への分化を促進するに充分である濃度で成長因子が培養物中に存在する。いくつかの処理では、上述の成長因子は少なくとも5ng/mL、少なくとも10ng/mL、少なくとも25ng/mL、少なくとも50ng/mL、少なくとも75ng/mL、少なくとも100ng/mL、少なくとも200ng/mL、少なくとも300ng/mL、少なくとも400ng/mL、少なくとも500ng/mL、少なくとも1000ng/mL、少なくとも2000ng/mL、少なくとも3000ng/mL、少なくとも4000ng/mL、少なくとも5000ng/mLまたは5000ng/mLよりも高い濃度で培養物中に存在し、または、レチノイン酸(RA)の場合、少なくとも0.05μΜ、少なくとも.1μΜ、少なくとも1.5μΜもしくは少なくとも2μΜのRAがステージ2培養物(またはPDX‐1陰性前腸内胚葉細胞培養物)に供給され、またはTTNPBなどのRA類似体を使用する場合は同等の効果を有する濃度の類似体が供給される。分化した胚体内胚葉細胞および内胚葉系細胞への万能性細胞の分化のためのある処理では、上述の成長因子は添加された後に細胞培養物から除去される。例えば、成長因子は、それらの添加から約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日または約10日またはそれ以上の後に除去され得る。典型的な処理では、成長因子は、それらの添加から約1、2または3日の後に除去される。
他の実施形態において、γセクレターゼ阻害剤(上記のどこかでこれについて説明しているだろうか?)が分化処理の開始時、例えば、万能性ステージで供給され、そして、膵島ホルモン発現細胞への分化過程を通して細胞培養物中に維持される。さらに他の実施形態において、分化開始後だがPDX1陽性前腸内胚葉ステージへの分化の前にγセクレターゼ阻害剤が添加される。好ましい実施形態において、胚体内胚葉のPDX1陽性内胚葉への転換を促進する分化因子を供給するのとほぼ同じ時間に細胞培養物または細胞集団にγセクレターゼ阻害剤を供給する。他の好ましい実施形態において、細胞培養物または細胞集団中の細胞のかなりの部分がPDX1陽性前腸内胚葉細胞に分化した後で、γセクレターゼ阻害剤を細胞培養物または細胞集団に供給する。
PDX1陽性膵臓内胚葉始原細胞のカプセル化
ステージ4により作製されたPDX1陽性膵臓内胚葉始原細胞を含む培養物がマクロカプセル化装置に負荷され、そして、全てその装置に含まれ、そして、患者に移植され、そして、PDX1陽性膵臓内胚葉始原細胞が生理的に機能する膵臓ホルモン分泌細胞、例えば、インスリン分泌細胞にインビボで成熟する。PDX1陽性膵臓内胚葉始原細胞のカプセル化とインスリンのインビボ作製について、hES細胞由来の膵臓始原細胞のカプセル化(ENCAPSULATION OF PANCREATIC PROGENITORS DERIVED FROM HES CELLS)という表題の2008年11月14日に提出された特許仮出願第61/114,857号、および膵臓内胚葉細胞のカプセル化(ENCAPSULATION OF PANCREATIC ENDODERM
CELLS)という表題の2008年12月9日に提出された米国特許仮出願第61/121,084号の優先権の利益を主張する、ヒト万能性幹細胞由来の膵臓毛列細胞のカプセル化(ENCAPSULATION OF PANCREATIC LINEAGE CELLS DERIVED FROM HUMAN PLURIPOTENT STEM CELLS)という表題の2009年11月13日に提出された米国特許出願公開第12/618,659号に詳細が記載される。これらの出願の各々の開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本明細書において記載される方法、組成物および装置は好ましい実施形態を現在のところ表すものであり、例示的なものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。それらの変更および他のものの使用が当業者に想起されるであろうが、それらは本発明の精神の範囲内に包含され、本開示の範囲によって限定される。したがって、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、様々な置換および改変が本明細書において開示される発明に対してなされ得ることが当業者に明らかである。
例えば、万能性幹細胞、例えば、hES細胞およびiPS細胞から胚体内胚葉を作製するためにTGFβスーパーファミリーの成長因子またはシグナル伝達タンパク質のメンバーであるアクチビンAを使用するが、しかしながら、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、胚体内胚葉の作製のための成長因子胚体内胚葉の作製用の成長因子(GROWTH FACTORS FOR PRODUCTION OF DEFINITIVE
ENDODERM)という表題の2008年6月3日に提出されたPCT国際特許出願公開第2009/154606号に記載されるように、胚体内胚葉を作製するために他のTGFβスーパーファミリーメンバー、例えば、GDF‐8およびGDF‐11を使用することができる。
ステージ2のPDX1陰性前腸内胚葉細胞をステージ3のPDX1陽性前腸細胞に分化させるためにレチノイン酸(RA)を使用する。しかしながら、4‐[(E)‐2‐(5,6,7,8‐テトラヒドロ‐5,5,8,8‐テトラメチル‐2‐ナフタレニル)‐1-プロペニル]安息香酸(TTNPB)および同様の類似体(例えば、4‐HBTTNPB)などの他のレチノイドまたはレチノイン酸類似体を使用することができる。
例えば、ノギンは骨形成タンパク質‐4(BMP4)などのTGFβスーパーファミリーのシグナル伝達タンパク質のメンバーを不活性化するタンパク質である。しかしながら、コーディン(Chordin)およびツイステッド・ガスチュレーション(Twisted Gastrulation)(Tsg)などの他のBMP4阻害因子または抗BMP中和抗体はBMPのその細胞表面受容体への結合を防ぐことができ、それによってBMPシグナル伝達を効果的に阻害する。さらに、例えば、BMPを不活性化または阻害するために、化合物Cとしても知られるドルソモルフィン(6‐[4‐(2‐ピペリジン‐1‐イル‐エトキシ)フェニル]‐3‐ピリジン‐4‐イル‐ピラゾロ[1,5‐a]ピリミジン)などの低分子およびその派生物を使用することもできる。あるいは、ノギンの代替物は、クローン化され配列決定されているヒトノギンに由来し得る。参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,075,007号を参照のこと。ノギン配列の解析によってクニッツ型プロテアーゼ阻害因子に対する相同性を有するカルボキシ末端領域が示されているが、これは、他のクニッツ型プロテアーゼ阻害剤がBMPを阻害する同様の効果を潜在的に持ち得ることを意味している。本明細書と(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)米国特許出願公開第12/618,659号において記載されるマクロカプセル化装置も例示的なものであるだけで、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。特に、装置の大きさ、装置のチャンバーまたはサブコンパートメントの数、ポートの数に対する変更、または、装置を読み込みおよび抽出する機構に対する変更ですら全て本発明の精神の範囲内に包含される。したがって、本発明の範囲および精神から逸
脱することなく、本明細書において記載される分化方法ばかりかプセル化装置に関する置換および改変も同様に本明細書において開示される発明に対してなされ得ることが当業者に明らかである。
多能性細胞または分化細胞の作製のモニタリング
本発明の分化可能な細胞を部分的に、最終的にまたは可逆的に分化させるために細胞分化培地または細胞分化環境を活用することができる。本発明に従えば、細胞分化培地または細胞分化環境は、例えば、KODMEM培地(ノックアウト・ダルベッコ改変イーグル培地)、DMEM、ハムF12培地、FBS(胎児ウシ血清)、FGF2(線維芽細胞増殖因子2)、KSRまたはhLIF(ヒト白血病阻害性因子)を含む、様々な成分を含有することができる。細胞分化培地または細胞分化環境はL‐グルタミン、NEAA(非必須アミノ酸)、P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)、N2、B27およびβ‐メルカプトエタノール(β‐ΜΕ)などの栄養補助剤を含有することもできる。フィブロネクチン、ラミニン、ヘパリン、ヘパリン硫酸、レチノイン酸、上皮成長因子ファミリー(EGF)メンバー、FGF2、FGF7、FGF8、および/もしくはFGF10を含む線維芽細胞増殖因子ファミリー(FGF)メンバー、増殖因子ファミリー(PDGF)メンバー、ノギン、ホリスタチン、コーディン、グレムリン(gremLin)、サーベラス(cerberus)/DANファミリータンパク質、ベントロピン(ventropin)、高用量アクチビン、およびアムニオンレス(amnionless)を含むが、これらに限定されないトランスフォーミング増殖因子(TGF)/骨形成タンパク質(BMP)/成長分化因子(GDF)因子ファミリーアンタゴニストまたはそれらの異型体もしくは機能性断片を含むが、これらに限定されない追加的な因子を細胞分化培地または細胞分化環境に添加することができると考えられている。TGF/BMP/GDF受容体‐Fcキメラの形態でTGF/BMP/GDFアンタゴニストを添加することもできる。添加され得る他の因子には、デルタ様(Delta‐like)ファミリーとJaggedファミリーのタンパク質ならびにNotchのプロセッシングまたは切断の阻害因子またはそれらの異型体もしくは機能性断片を含むが、これらに限定されない、Notch受容体ファミリーを介するシグナル伝達を活性化または不活性化し得る分子が含まれる。他の成長因子には、インスリン様成長因子ファミリー(IGF)、インスリン、ウィングレス(wingless)関連(WNT)因子ファミリー、およびヘッジホグ因子ファミリーのメンバーまたはそれらの異型体もしくは機能性断片が含まれ得る。内胚葉系中胚葉幹/始原細胞、内胚葉系幹/始原細胞、中胚葉系幹/始原細胞、または胚体内胚葉系幹/始原細胞の増殖および生存、ならびにこれらの始原細胞の派生物の生存および分化を促進するために付加的な因子を添加することができる。
本明細書において記載される組成物は、試験化合物が分化可能な細胞の万能性、増殖、および/または分化を調節するかどうか判定するための試験化合物のスクリーニングに有用である。分化可能な細胞の万能性、増殖および/または分化は当業者によって容易に確認され得る。非限定的な方法には細胞の形態、様々なマーカーの発現、奇形腫の形成、細胞数の調査およびインピーダンスの測定が含まれる。
万能性細胞の多能性細胞への、さらに多能性細胞または分化細胞への進行は、外来性因子、例えば、TGF‐βシグナル伝達因子の添加前および添加後の様々な時点で特定の遺伝子マーカーの有無を検出することなど、ある種の遺伝子マーカーの発現レベルを測定および定量することによりモニターされ得る。あるいは、細胞培養物または細胞集団の細胞にある種のマーカーが存在するそのレベルを測定することによってそのマーカーの発現を判定することができる。例えば、ある処理では、万能性細胞に特徴的なマーカーの発現ならびに多能性細胞または分化細胞に特徴的なマーカーの有意な発現の欠如が判定される。
別の実施形態、すなわち、胚体内胚葉系列の他のあまり分化していない細胞種の作製の
モニターでは、マーカーの発現を測定するために、ブロットトランスファー法および免疫細胞化学(ICC)または免疫組織化学(IHC)などの定性的または半定量的技法を用いることができる。あるいは、Q‐PCRなどの技法を用いてマーカーの発現を正確に定量することができる。さらに、ポリペプチドレベルでは、膵島ホルモン発現細胞のマーカーの多くが分泌タンパク質であることが認識される。したがって、ELISAなどの、細胞外マーカーの含量を測定する技法を活用することができる。このモニタリングおよびスクリーニング方法論ならびに他のモニタリングおよびスクリーニング方法論について、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、胚体内胚葉の因子の特定方法(METHODS FOR IDENTIFYING FACTORS FOR DEFINITIVE ENDODERM)という表題の、現在では米国特許第7,541,185号である、2005年6月23日に提出された米国特許出願公開第11/165,305号に詳細が記載される。
発生経路に沿って、各万能性細胞由来細胞種に特徴的なマーカーの発現を決定することにより、本明細書において記載される万能性細胞(例えば、ステージもしくはステップ1〜4または前述のD’Amourら、2006年に記載されるステップ1〜5の結果として作製される細胞)の発生の進行をモニターすることができる。例えば、いくつかの処理では、万能性細胞由来細胞種の特定と特徴解析はある種のマーカーの発現または1つよりも多くのマーカーの様々な発現レベルおよび発現パターンによる。すなわち、前記マーカーの1つ以上の有無、高レベルの発現または低レベルの発現が細胞種を典型的に表し、そして、特定する。また、ある種のマーカーは一過的に発現することができ、そのマーカーは1つの発生ステージでは高発現するが別の発生ステージではあまり発現しない。ある種のマーカーが細胞培養物または細胞集団の細胞に存在するそのレベルを測定し、標準化または正規化した対照マーカーと比較することによりそのマーカーの発現を決定することができる。そのような処理では、マーカーの発現の測定は定性的または定量的であり得る。マーカー遺伝子によって産生されるマーカーの発現を定量する1つの方法は定量的PCR(Q‐PCR)の使用によるものである。Q‐PCRを実行する方法は当技術分野において周知である。
さらに他の実施形態において、細胞種を効率的および正確に特徴解析および特定し、そして、対象細胞種でのそのようなマーカーの量および相対的な割合を決定するために免疫組織化学技法またはフローサイトメトリー技法と併せてQ‐PCRを用いることができる。1つの実施形態において、Q‐PCRは、混在した細胞の集団を含む細胞培養物におけるRNA発現のレベルを定量することができる。しかしながら、Q‐PCRは、対象マーカーまたはタンパク質が同じ細胞で共発現しているか規定または識別することができない。別の実施形態において、フローサイトメトリー法と併せてQ‐PCRを用いて細胞種を特徴解析および特定する。したがって、本明細書において記載される方法および上述したもののような方法の組合せを用いることによって、内胚葉系列系細胞を含む様々な細胞種の完全な特徴解析と特定を達成および実証することができる。
混在した細胞集団の中の、特定の遺伝子を差示的に発現する細胞の相対量を正確に推定するために、その特定の遺伝子の発現のQ‐PCRによる測定を用いることができることが示されている。したがって、遺伝子発現のQ‐PCRベースの測定を用いて、様々な細胞培養条件下のある混在した細胞集団で万能性細胞、分化した多能性細胞、分化した単能性細胞および/または最終的な分化細胞の量を決定することができる。例えば、万能性細胞およびステージ1(胚体内胚葉)細胞などの分化細胞の集団を既知の割合で1つに混合し、胚体内胚葉マーカーの遺伝子発現について分析した。10,000個の細胞全体から全RNAを単離し、そして、各条件(試料)について3回の反復実験を行った。次に単離したRNAの3分の1(1/3)をcDNA合成に使用し、cDNA反応の40分の1(1/40)を各Q‐PCR増幅に用いた。したがって、各PCRデータポイントは大本の
10,000細胞インプットのおよそ1/120(または、約83個の細胞全体に等しいRNA)に由来する。当技術分野においてよく確立されている方法論を用いてQ‐PCRを実行した。前述のD’Amourら(2006年)を参照のこと。
図1Aは、ステージ1細胞(胚体内胚葉、DE)で発現するが、万能性細胞、例えば、hESCでは発現しないSOX17マーカーについて得られたQ‐PCR遺伝子発現データのグラフによる表示を提供する。図1Aの最初のカラム(最も左)は100%のhESCに由来するQ‐PCRによりもたらされたシグナルを示し、最も右のカラムは100%のDE細胞に由来するPCRによりもたらされたシグナルを示す。100%のhESCと100%のDE細胞の間のカラムは既知の希釈混合(または割合)のhESC:DE細胞に由来するQ‐PCRによりもたらされたシグナルを示す。例えば、カラム2は99:1のhESC:DE細胞の混合物に由来するQ‐PCRによりもたらされたシグナルを示し、カラム3は95:5のhESC:DE細胞の混合物に由来するQ‐PCRによりもたらされたシグナルを示し、カラム4は90:10のhESC:DE細胞の混合物に由来するQ‐PCRによりもたらされたシグナルを示し、1:99のhESC:DE細胞の混合物に由来するQ‐PCRによりもたらされたシグナルを示す最後から2番目のカラムまで同様である。
図1Aにおいて提示されるデータは、混在した集団におけるヒト胚体内胚葉細胞の数が増加するにつけ、胚体内胚葉特異的遺伝子の遺伝子発現レベルが上昇することを示す。さらに、このQ‐PCRアッセイは非常に感度がよく、胚体内胚葉が細胞集団のわずか1%を構成する、例えば、パネルAのカラム2が99:1のhESC:DE比を有するときに胚体内胚葉マーカー遺伝子の発現を検出する。このことは、このQ‐PCR方法は混在した細胞培養物において単一の胚体内胚葉細胞に相当するものでさえ検出することができることを示している。さらに、Q‐PRCシグナル反応は細胞濃度の範囲の大半(1%から90%までの胚体内胚葉)にわたって適度に線形である。
試料サイズが50,000細胞/試料であったとき、ヒト胚体内胚葉細胞の量と胚体内胚葉マーカーの発現の間の関係も観察された。さらに、胚体内胚葉細胞に存在する他の遺伝子マーカーを分析し、そして、その結果はSOX17について観察された結果と一致した。
別の実施形態において、万能性幹細胞マーカー遺伝子についての相対的遺伝子発現値を決定することによって、混在した細胞集団に存在する万能性細胞の相対量を測定することができる。例えば、未分化hESCをヒト胚性線維芽細胞(HEF)と既知の割合で、すなわち、100:0のHEF:hESC;99:1のHEF:hESC;90:10のHEF:hESC;50:50のHEF:hESC;および0:100のHEF:hESCで混合した。基本的に本明細書において記載されるような懸濁凝集培養物を形成するために、未クラスター化細胞の記載の混合物を含む各試料を回転培養にかけた。培養48時間目にQ‐PCR試料を採取し、OCT4などの、表1に記載されるものを含む万能性マーカー遺伝子の発現について分析した。図1Aにおいて先に説明された結果と同様に、万能性細胞マーカー遺伝子であるOCT4の相対的発現は培養された万能性細胞のパーセンテージ(割合)に比例する。図1Bを参照のこと。したがって、特定の細胞種の遺伝子マーカーの発現レベルを決定することにより相対的細胞量を決定する、説明された方法はどのような特定の細胞種にも依存せず、むしろ、その方法は万能性細胞(例えば、hESC)とステージ1(胚体内胚葉またはSOX17およびHNF3β胚体内胚葉)細胞、ステージ2(前腸、またはPDX1陰性前腸内胚葉またはSOX17、HNF3βおよびHNF4α前腸内胚葉)細胞、ステージ3(後部前腸内胚葉またはPDX1陽性前腸内胚葉)細胞、ステージ4(膵臓始原細胞または膵臓内胚葉もしくは上皮またはPDX1/NKX6.1共陽性膵臓内胚葉)細胞およびステージ5(内分泌細胞もしくは内分泌前駆細胞また
はNGN3/NKX2.2共陽性内分泌前駆細胞またはインスリン陽性内分泌細胞)細胞などの万能性細胞由来細胞について等しく再現性が有る。表1に記載されるものなどのさらに他の万能性細胞マーカー遺伝子、特にSOX2、を同様に解析することができる。
フローサイトメトリーを用いてQ‐PCRの結果を確認することができる。ヒトESCをステージ5(膵臓内分泌細胞)に分化させた。前述のD’Amourら(2006年)を参照のこと。インスリンに対する抗体を使用するフローサイトメトリーにより膵臓内分泌細胞に分化した細胞集団の割合を決定した。およそ1%、10%または20%のインスリン発現内分泌細胞を有する集団が得られた。次に、これらの3つの集団からメッセンジャーRNA試料を採取し、そして、Q‐PCRを行った。図1Cに示される結果は、インスリン遺伝子の相対的発現は前記集団において前記マーカー遺伝子を発現する細胞の数に実際に比例することを示した。この方法は非常に再現性があったが、それはマーカー遺伝子の発現量と前記マーカー遺伝子を発現する細胞集団中の細胞のパーセンテージの間の相関をさらに示す。さらに、他の膵臓内分泌細胞遺伝子マーカーを解析したが、結果はインスリンについて観察された結果と一致した。
マーカー遺伝子の発現を定量するために、当技術分野において公知である、さらに他の方法を使用することもできる。例えば、目的のマーカー遺伝子産物に特異的な抗体を用いることにより(例えば、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー分析、ELISA、免疫組織化学または免疫蛍光などにより)マーカー遺伝子産物の発現を検出することができる。ある処理では、万能性細胞由来細胞に特徴的なマーカー遺伝子の発現ならびに万能性細胞由来細胞に特徴的なマーカー遺伝子の有意な発現の欠如が判定され得る。万能性細胞由来細胞種を特徴解析し、特定するなおさらなる方法は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、先に示したような関連出願に記載されている。
増幅分析での使用に適切な増幅プローブ/プライマーの組合せは次のものを含む:イン
スリン(INS)(GenBank NM_000207):プライマー AAGAGGCCATCAAGCAGATCA(配列番号1)、CAGGAGGCGCATCCACA(配列番号2);Nkx6.1(NM_006168):プライマー CTGGCCTGTACCCCTCATCA(配列番号3)、CTTCCCGTCTTTGTCCAACAA(配列番号4);Pdx1(NM_000209):プライマー AAGTCTACCAAAGCTCACGCG(配列番号5)、GTAGGCGCCGCCTGC(配列番号6);Ngn3(NM_020999):プライマー GCTCATCGCTCTCTATTCTTTTGC(配列番号7)、GGTTGAGGCGTCATCCTTTCT(配列番号8);FOXA2(HNF3B)(NM_021784):プライマー GGGAGCGGTGAAGATGGA(配列番号9)、TCATGTTGCTCACGGAGGAGTA(配列番号10);グルカゴン(GCG)(NM002054):プライマー AAGCATTTACTTTGTGGCTGGATT(配列番号11)、TGATCTGGATTTCTCCTCTGTGTCT(配列番号12);HNF6(NM_030712):プライマー CGCTCCGCTTAGCAGCAT(配列番号13)、GTGTTGCCTCTATCCTTCCCAT(配列番号14);HNF4α(NM_000457):プライマー GAAGAAGGAAGCCGTCCAGA(配列番号15)、GACCTTCGAGTGCTGATCCG(配列番号16);Sox17(NM_022454):プライマー GGCGCAGCAGAATCCAGA(配列番号17)、CCACGACTTGCCCAGCAT(配列番号18);HLxB9(NM_005515):プライマー CACCGCGGGCATGATC(配列番号19)、ACTTCCCCAGGAGGTTCGA(配列番号20);Nkx2.2(NM_002509):プライマー GGCCTTCAGTACTCCCTGCA(配列番号21)、GGGACTTGGAGCTTGAGTCCT(配列番号22);PTF1a(NM_178161):プライマー GAAGGTCATCATCTGCCATCG(配列番号23)、GGCCATAATCAGGGTCGCT(配列番号24);SST(NM_001048):プライマー CCCCAGACTCCGTCAGTTTC(配列番号25)、TCCGTCTGGTTGGGTTCAG(配列番号26);PAX6(NM_000280):プライマー CCAGAAAGGATGCCTCATAAAGG(配列番号27)、TCTGCGCGCCCCTAGTTA(配列番号28);Oct4プライマー TGGGCTCGAGAAGGATGTG(配列番号29)、GCATAGTCGCTGCTTGATCG(配列番号30);MIXL1プライマー CCGAGTCCAGGATCCAGGTA(配列番号31)、CTCTGACGCCGAGACTTGG(配列番号32);GATA4プライマー CCTCTTGCAATGCGGAAAG(配列番号33)、CGGGAGGAAGGCTCTCACT(配列番号34);GSCプライマー GAGGAGAAAGTGGAGGTCTGGTT(配列番号35)CTCTGATGAGGACCGCTTCTG(配列番号36);CERプライマー ACAGTGCCCTTCAGCCAGACT(配列番号37)、ACAACTACTTTTTCACAGCCTTCGT(配列番号38);AFPプライマー GAGAAACCCACTGGAGATGAACA(配列番号39)、CTCATGGCAAAGTTCTTCCAGAA(配列番号40);SOX1プライマー ATGCACCGCTACGACATGG(配列番号41)、CTCATGTAGCCCTGCGAGTTG(配列番号42);ZIC1プライマー CTGGCTGTGGCAAGGTCTTC(配列番号43)、CAGCCCTCAAACTCGCACTT(配列番号44);NFMプライマー ATCGAGGAGCGCCACAAC(配列番号45)、TGCTGGATGGTGTCCTGGT(配列番号46)。FGF17(HsOO182599m1)、VWF(Hs00169795_m1)、CMKOR1(Hs00604567_m1)、CRIP1(Hs00832816_g1)、FOXQ1(Hs00536425_s1)、CALCR(Hs00156229_m1)およびCHGA(Hs00154441_m1)を含む他のプライマーはABI Taqman社より入手可能である。
万能性細胞のモニタリング
上述した特定の遺伝子を発現する混在した細胞集団における万能性細胞または万能性細胞由来細胞の相対量の推定値をモニタリングし、決定する方法の他には、少なくとも万能性細胞のレベルをモニタリングし、決定する別の方法は万能性細胞の培養条件で図2に記載されるように分化細胞培養物を再プレーティングすることである。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、幹細胞凝集懸濁組成物およびその分化方法(STEM CELL AGGREGATE SUSPENSION COMPOSITIONS AND
MEDHOD S OF DIFFERENTIATION THEREOF)という表題の2008年11月4日に提出された米国特許出願公開第12/264,760号に記載されるように、接着性細胞培養物または懸濁凝集培養物を用いてこれを行うことができる。万能性細胞の培養条件は、フィーダー層上での成長、または無フィーダー条件だが、溶解した線維芽細胞フィーダー細胞に由来する細胞外マトリックス上での成長、または合成表面マトリックス(Corning社)上の成長、または、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、ヒト血清を含む無フィーダー万能性幹細胞培地の方法と組成物(METHODS AND COMPOSITIONS FOR FEEDER‐FREE
PLURIPOTENT STEM CELL MEDIA CONTAINING HUMAN SERUM)という表題の2008年10月20日に提出された関連する米国特許出願公開第11/875,057号に記載されるような無フィーダー万能性細胞培養培地での成長を含む、万能性成長と増殖を促進する条件である。移植または再プレーティングされ、そして、万能性細胞の培養条件下で培養されると、少数の万能性細胞であってもより早く増殖し、万能性培養条件での他の万能性細胞の倍化時間(例えば、hESCは一晩または約18〜24時間で倍加する)に類似した倍化時間を獲得するので、このアプローチはどんな培養でも少数の万能性細胞を増幅する。再プレーティングされた培養物の細胞が増殖していることがKi67での陽性染色により確認された。
万能性懸濁凝集培養物を用いるスクリーニング方法
いくつかの実施形態において、万能性細胞、多能性細胞および/または分化細胞を含むある細胞集団を得るためのスクリーニング方法が用いられる。次に、その細胞集団に候補分化因子を供給する。候補分化因子を供給する前またはほぼ同じ時間である第1時点で、マーカーの発現を測定する。あるいは、候補分化因子を供給した後でマーカーの発現を測定することができる。第1時点の後であり、候補分化因子を細胞集団に供給する工程の後である第2時点で、同じマーカーの発現を再度測定する。第1時点での前記マーカーの発現と第2時点での前記マーカーの発現を比較することによって、候補分化因子が膵臓前駆細胞の分化を促進することができるかどうか判定する。第1時点での前記マーカーの発現と比較して第2時点での前記マーカーの発現が上昇または低下している場合、候補分化因子は膵臓始原細胞の分化を促進することができる。
本明細書において記載されるスクリーニング方法の実施形態において、候補(試験)分化因子もしくは細胞傷害性因子もしくは阻害性因子と細胞集団を接触させる、または他の方法では、細胞集団に候補(試験)分化因子もしくは細胞傷害性因子もしくは阻害性因子を供給する。候補分化因子または細胞傷害性因子または阻害性因子は、上述の細胞のいずれかの分化を促進する、または万能性幹細胞の増殖を防ぐ、またはそれら万能性幹細胞を殺滅する能力を有する可能性が有る任意の分子を含み得る。別の実施形態において、候補分化因子または細胞傷害性因子または阻害性因子は、細胞分化を促進することが知られていない分子を含む。好ましい実施形態において、候補分化因子または細胞傷害性因子または阻害性因子は、ヒト膵臓始原細胞の分化を促進することが知られていない分子を含む。
本明細書において記載されるスクリーニング方法のいくつかの実施形態において、候補分化因子または細胞傷害性因子または阻害性因子は低分子を含む。「低分子」は、当技術分野において、定義では重合体ではない低分子量有機化合物を意味するように、本明細書
において使用される。低分子は天然に生じたもの(例えば、内在性神経伝達物質)であり得るし、当技術分野において公知の合成有機化学方法によって調製され得る。ある実施形態において、低分子は約800ダルトン以下の分子質量を有する分子である。
本明細書において記載される他の実施形態において、候補分化因子または細胞傷害剤または阻害剤は高分子、例えば、ポリペプチドを含む。そのポリペプチドは、糖タンパク質、リポタンパク質、細胞外マトリックスタンパク質、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモン、インターロイキンまたは成長因子を含むが、これらに限定されない任意のポリペプチドであり得る。好ましいポリペプチドには成長因子が挙げられる。
本明細書において記載されるスクリーニング方法のいくつかの実施形態において、1つ以上の濃度で候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤を細胞集団に供給する。いくつかの実施形態において、細胞の周囲の培地中の候補分化因子の濃度が約0.1ng/mLから約10mg/mLまでの範囲にあるように、候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤を細胞集団に供給する。いくつかの実施形態において、細胞の周囲の培地中の候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤の濃度は約1ng/mLから約1mg/mLまでの範囲である。他の実施形態において、細胞の周囲の培地中の候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤の濃度は約10ng/mLから約100μg/mLまでの範囲である。さらに他の実施形態において、細胞の周囲の培地中の候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤の濃度は約100ng/mLから約10μg/mLまでの範囲である。好ましい実施形態において、細胞の周囲の培地中の候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤の濃度は約5ng/mL〜1000μg/mLである。
いくつかの実施形態において、本明細書において記載されるスクリーニング方法の工程は第1時点および第2時点で少なくとも1つのマーカーの発現を測定することを含む。これらの実施形態のいくつかにおいて、第1時点は、候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤を細胞集団に供給する前またはおよそ同じ時間であり得る。あるいは、いくつかの実施形態において、第1時点は候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤を細胞集団に供給した後である。いくつかの実施形態において、第1時点で複数のマーカーの発現を測定する。
前述の方法は、細胞傷害性である、または万能性幹細胞の成長、増大および/もしくは増殖を阻害する、または、候補分化因子の場合、生存度を改善する、分化状態を安定化する、成長を増大させる、およびhES細胞の万能性を維持する低分子化合物または他の化合物のスクリーニングに等しく応用可能である。本明細書において記載される教示をそのようなスクリーニング方法に適合させることは充分に当技術分野の技術水準の範囲内である。
第1時点での少なくとも1つのマーカーの発現の測定に加えて、本明細書において記載されるスクリーニング方法のいくつかの実施形態は、第1時点の後であり、細胞集団に候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤を供給した後である第2時点で少なくとも1つのマーカーの発現を測定することを考えている。そのような実施形態において、第1時点と第2時点の両方で同じマーカーの発現を測定する。いくつかの実施形態において、第1時点と第2時点の両方で複数のマーカーの発現を測定する。そのような実施形態において、第1時点と第2時点の両方で同じ複数のマーカーの発現を測定する。いくつかの実施形態において、各々が第1時点の後であり、細胞集団に候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤を供給した後である複数の時点でマーカーの発現を測定する。ある実施形態において、Q‐PCRによりマーカーの発現を測定する。他の実施形態において、免疫細胞化学によりマーカーの発現を測定する。
本明細書において記載されるスクリーニング方法のいくつかの実施形態において、細胞集団に候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤を供給することと第2時点でマーカーの発現を測定することの間に充分な時間を経過させる。細胞集団に候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤を供給することと第2時点でマーカーの発現を測定することの間の充分な時間はわずか約1時間〜約10日もの時間であり得る。いくつかの実施形態において、細胞集団に候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤を供給した後に少なくとも1つのマーカーの発現を複数回測定する。いくつかの実施形態において、充分な時間は少なくとも約1時間、少なくとも約6時間、少なくとも約12時間〜数日〜数週間である。
本明細書において記載される方法のいくつかの実施形態において、第2時点でのマーカーの発現が第1時点でのこのマーカーの発現と比べて上昇したか、低下したかさらに判定する。少なくとも1つのマーカーの発現の上昇または低下は、候補分化因子または候補細胞傷害剤または阻害剤が細胞の分化を促進する、または細胞を阻止または抑制することができることを示す。同様に、複数のマーカーの発現を測定する場合、第2時点でのその複数のマーカーの発現が第1時点でのこの複数のマーカーの発現と比べて上昇したか、低下したかさらに判定する。第1時点および第2時点での細胞集団における前記マーカーの量、レベルまたは活性を測定することにより、そうでなければ、評価することにより、マーカーの発現の上昇または低下を判定することができる。そのような判定は他のマーカー、例えば、ハウスキーピング遺伝子の発現に対して相対的または絶対的である。マーカーの発現が第1時点に比べて第2時点で上昇するある実施形態において、上昇した量は少なくとも約2倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、少なくとも約60倍、少なくとも約70倍、少なくとも約80倍、少なくとも約90倍、少なくとも約100倍である、または少なくとも約100倍よりも多い上昇である。いくつかの実施形態において、上昇した量は2倍未満である。マーカーの発現が第1時点に比べて第2時点で低下する実施形態において、低下した量は少なくとも約2倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、少なくとも約60倍、少なくとも約70倍、少なくとも約80倍、少なくとも約90倍、少なくとも約100倍である、または少なくとも約100倍よりも多い低下である。いくつかの実施形態において、低下した量は2倍未満である。
本願を通して、様々な文献が参照されている。本発明が関係する最新の状況をより充分に説明するために、これらの文献とそれらの文献の全体で引用されている参考文献の全ての開示の全体が本願への参照により本明細書に組み込まれる。
以下の実施例で使用される単純限定培地(DC)はDC‐HAIFという名称であり、基本的にDMEM/F12;2mMのグルタマックス;1×非必須アミノ酸;0.5U/mLのペニシリン;0.5U/mLのストレプトマイシン;10μg/mLのトランスフェリン(全て、インビトロジェン社、カールスバード、カリフォルニア州、米国より);0.1mMのβ‐メルカプトエタノール(Sigma社);0.2%の脂肪酸フリー第Vコーン画分のBSA(Serologicals社);1×微量元素ミックスA、BおよびC(Cellgro社);50μg/mLのアスコルビン酸(Sigma社);10ng/mLのHRG‐β(H);10ng/mLのアクチビンA(A);200ng/mLのLR‐IGF1(I)ならびに8ng/mLのFGF2(F)からなる。DC‐HAIFが長期の万能性hES細胞の維持ならびにアキュターゼ(商標)を使用するhES細胞の単一細胞継代および培養規模拡大を助けた。Wang,L.ら(2007年)Blood誌、第110巻(第12号):頁4111〜4119を参照のこと。StemPro(登録商標)hESC SFMの商標で市販されているバッチ検査済みのDC‐HAIF配
合物がインビトロジェン社から入手可能である。
背景となる研究を通して、FGF2は限定培地に必要な成分ではないことが明らかになった。たとえ高濃度であっても成長因子による刺激の後にわずかな、または中程度のFGF受容体のリン酸化だけが観察され、そして、増殖、突発的な分化または万能性の維持に関して培養物にいかなる測定可能な影響も与えることなく限定培地からFGF2を省略することができた。前述のWang,L.ら(2007年)を参照のこと。したがって、本文および図の説明文に示されているように、FGF2を添加することなく、下記の特定の研究を行った。また、いくつかの分析は様々な成長因子の組合せを必要としたので、成長因子無しのバッチのStemPro(登録商標)hESC SFMを、そのような柔軟性をもたらすために、ライフ・テクノロジーズ社に特別注文し、購入した。
hES細胞培養において重要な機能を有する付加的なシグナル伝達経路を強調することを目的として、既知の生物活性を有する低分子化合物のライブラリーから基本的になるLOPACライブラリーを、hES細胞培養物に対してスクリーニングを行うために用いた。その目的は培養物の増殖および/または万能性に負の影響を与える低分子を特定することであった。重要な経路の阻害が増殖の遅滞化、細胞傷害性、アポトーシスまたは分化を引き起こすことが予想された。重要なことに、血清または半分画化アルブミンなどの非限定成分により通常引き起こされる可変性を低下させる、上述した、および本明細書において説明される単純限定培地の背景でこれらの一次スクリーニングおよび二次スクリーニングを行った。化合物の活性を決定するために、アルカリホスファターゼ染色アッセイを行った。アルカリホスファターゼは未分化万能性幹細胞に関連した幹細胞マーカーである。このアッセイを用いると、約50種の低分子化合物が、hES細胞の増殖および生存度の低下を含む負の影響をhES細胞に与えるそれらの能力に関して、いくらか測定可能な量の活性を示した。これらの化合物のうち、細胞表面神経伝達物質受容体の阻害剤が多数特定されたが、このことは、自己再生に関するこれらの受容体の少なくともシグナル伝達における役割を示唆する。天然のリガンドまたは薬理的に関連する派生物を用いて、ホルモンとしても作用することができるいくつかのクラスの低分子神経伝達物質が特定され、そして、それらは低密度でのhES細胞の増殖と生存の補助および/または拡大を示した。そのような活性は、信頼できる単一細胞クローニング、完全に限定的かつ医薬品製造品質管理基準(GMP)に準拠した条件での新しいhES細胞株の効率的な誘導、懸濁状態でのhES細胞の増殖および継代時の生存度の向上など、hES細胞の商業的用途および臨床用途のための先進技術の開発にとって重要であり得た。以下の研究のゴールは万能性幹細胞に対して反対の効果を持つ薬剤を同様に特定することであった。より具体的には、指向性インビトロ分化過程の間に未分化細胞の集団を減少させるために使用することが可能な万能性幹細胞阻害剤および細胞傷害剤を特定するために本発明のスクリーニング方法を用いた。
上述のことは本発明の例示的な実施形態に関連し、そして、本発明の範囲から逸脱することなくそれらに多数の変更を行うことができることが理解されるものとする。本発明は以下の実施例によりさらに説明されるが、それらは本発明の範囲を限定するものとして多少なりとも解釈されてはならない。反対に、本明細書中の説明を読んだ後に当業者に自明となる、本発明の精神および/または添付される特許請求項の範囲から逸脱しない多様な他の実施形態、改変および同等の表現を行うことができることが明確に理解されるものとする。
本明細書において記載される方法、組成物および装置は好ましい実施形態を現在のところ表すものであり、例示的なものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。例えば、あるhES細胞株が使用されたが、本発明は、ヒトiPS細胞株ならびにそれぞれ下記の表1および表2の中の細胞株などの、言及されていない他のhES細胞
株およびiPS細胞株を含む任意の万能性幹細胞株を使用することを考えている。それらの表はwww.stemcells.nih.gov/research/registry上にある米国衛生研究所の幹細胞登録ならびに米国マサチューセッツ州ウースターのマサチューセッツ大学医学部にあるヒト胚性幹細胞登録および国際幹細胞登録から翻案されたものである。これらのデータベースは、細胞株が利用可能になり登録されると、定期的に最新のものにされる。その細胞株のいくつかはNSCB幹細胞登録所から発送不可能である。それでも、少なくとも下記のhES細胞株は本発明の日付の時点では商業的に利用可能とされている可能性がある。
実施例1:hES細胞に対して細胞傷害性だが分化細胞には細胞傷害性ではない化合物の特定
ヒト胚性幹細胞(hESC)を抑制する、またはヒト胚性幹細胞(hESC)に対して細胞傷害性を有する候補化合物のスクリーニング。
薬理活性化合物ライブラリー(LOPAC)、具体的にはLOPAC1280(商標)コレクション(Sigma‐Aldrich、カタログ番号LO1280)からある化合物を選択した。LOPAC1280(商標)化合物は公知であり、または、よく特徴解析された特質を有する。LOPAC1280(商標)の完全なリストはwww.sigmaaldrich.com/chemistry/drug‐discovery/validation‐libraries/lopac1280‐navigator.htmlで見ることができる。細胞シグナル伝達経路、リン酸化事象または受容体などの公知の阻害剤であるという理由で選択された176種の化合物からなるLOPAC1280(商標)ライブラリーのサブセットを使用して最初のスクリーニングを行った。選択された176種の化合物を記載する表4を参照のこと。これらの化合物は、DMSOを含有する対照ウェルを含む、2×96ウェルトレイに配列された。
次に、リアルタイムインピーダンス分析(ACEAバイオサイエンシズRT‐CESシステム)を用いてヒト万能性幹細胞、例えば、hESCとステージ1(胚体内胚葉)の分化中の培養物をスクリーニングにかけるために、完全LOPAC1280(商標)ライブラリーに由来する前述の176種の選択された化合物を用いた。RT‐CESシステムは、細胞インデックスの尺度に解釈される電気的インピーダンスの変化をモニターする埋め込み型マイクロセンサーを含む96ウェルトレイを用いる。細胞増殖、移動、細胞拡散、アポトーシス、分化などを含むが、これらに限定されない細胞培養物内でのいかなる明白な変化も検出することができる。RT‐CESトレイ内でhES細胞が効率的に接着し、増殖することが以前の実験により示されている。細胞インデックスの増加は細胞の増殖、例えば、未分化細胞の増殖を示す。Q‐PCRによって増殖を確認した。図1も参照のこと。細胞インデックス(インピーダンス)の減少または低下が、化合物が細胞に対して阻害性効果または細胞傷害性効果を有することを示した。対照的に、不活性化合物、すなわ
ち、阻害性および/または細胞傷害性ではないことが分かった化合物は通常、DMSO対照で示されたものと類似した細胞インデックス(インピーダンス)を有する。「スキャロップ」細胞インデックスは、集密細胞培養物であるため高いままであるが、毎日の栄養補充の間に高下する(スキャロップ)細胞インデックスである。逆に、分化しつつある細胞は、上皮間葉転換、扁平化、細胞移動、アポトーシスまたは同様の分化と増殖に関連する変化を示す可能性がある、細胞インデックスのピークとトラフなどの固有のパターンを有する。
阻害剤および細胞傷害剤向けのインピーダンス分析。
ヒト万能性幹細胞、例えば、2×104個のhESC(BG02)をインピーダンスモニタリングプレート中のヘレグリン系の限定培地であるDC‐HAIF中で毎日栄養補充して培養した。約24時間後、10μΜの選択されたLOPAC1280(商標)化合物を各ウェルに添加し(図3AおよびBの矢頭を参照のこと)、そして、さらに約5日培養した。7種の化合物(BTO‐1(化合物番号16)、塩化ケレリトリン(化合物番号25)、デホスタチン(化合物番号48)、チルホスチンAG494(AGA494;化合物番号146)、チルホスチンAG490(AGA490;化合物番号152)、SU6656(化合物番号126)およびノルジヒドログアラレチン酸(NDGA;化合物番号111))が、DMSO対照と比較して、hESCに対する阻害性効果または細胞傷害性効果を示す細胞インデックス(すなわち、インピーダンス)の著しい減少を引き起こしたので、それらが特定された。これらの研究の最中にそれらは並行して行われた。約112時間でのデホスタチンのウェルで観察されたインピーダンスのスパイクは混入汚染物質によるものであったが、それは人為的結果である(図3A)。
上記の表4の化合物を用いるhESCに対するインピーダンス分析では20を超えるヒットが生じた。しかしながら、本発明の理想的な候補化合物はhESCまたはhIPSCなどのヒト万能性幹細胞に対して阻害性または細胞傷害性を持つだけではなく、同時に、ステージ1、2、3、4および5のタイプの細胞培養物(それぞれ、胚体内胚葉細胞、前腸内胚葉細胞、後部前腸細胞、膵臓内胚葉細胞および内分泌細胞)を含む分化細胞集団または分化中の細胞集団の細胞生存度に効果を持たないものとする。したがって、次に、分化中の胚体内胚葉(DE)細胞培養物(図3CおよびD)に対して表4の化合物をスクリーニングにかけた。ウェル当たりおよそ3×10
4個のhES細胞を蒔き、DC‐HAIF限定培地(すなわち、StemPro(登録商標)hESC SFM培地(ライフ・テクノロジーズ社、カールスバード、カリフォルニア州)に24時間培養した。次に、培地を交換し、100ng/mLのアクチビンA、および10ng/mLのFGF2を含むRPMIで培養することにより、ステージ1または胚体内胚葉分化過程を誘導した。分化過程の最初の24時間だけ、10nM/mLのGSK‐3β阻害剤15(Calbiochem社、カタログ番号361558)を培養物に添加した。分化が誘導されてから約48時間すなわち2日後に10μΜの各々の候補化合物を添加し(図3CおよびD、大矢頭を参照のこと)、そして、細胞をさらに2日培養した。表4に記載される化合物のうち、下記の表5中の以下の化合物がhESCの成長と増殖の細胞傷害性効果または阻害性効果を示したが、同時に、分化中のhESCまたは分化した内胚葉細胞の細胞生存度に明確に影響することはなかった。
選択された化合物を用いる二次スクリーニング。
上述したように分化中のステージ1培養物(胚体内胚葉)に化合物を添加することにより、表5の10種の候補化合物のうちの9種を用いる二次スクリーニングを行った。二次スクリーニングのために、インピーダンス分析を用いる一次スクリーニングで使用されたRT‐CEAS96ウェル培養プレートの代わりにより大きい標準6ウェルトレイを使用した。表5の10種の化合物のうち9種だけが試験された。というのも、分析が行われた時点では10番目の化合物は充分な量が利用可能ではなかったためである。より大きい6ウェルトレイでは、表5に記載した9種の化合物のうちの5種は分化中の細胞または分化した胚体内胚葉の生存度に効果を持たなかった。つまり、胚体内胚葉細胞は次の5種の化合物、すなわち、塩化ケレリトリン(Ch.Cl;化合物番号25)、デホスタチン(Deph.;化合物番号)、SU6656(SU;化合物番号126)およびチルホスチンAG490(AG490;化合物番号152)の存在下で成長および増殖することができた。分化中の細胞および分化した胚体内胚葉細胞の生存度は、試験した細胞の数またはサイズ、体積、または培養容器の供給源に無関係に、明らかに一貫していたことがこの分析によっても確認された。
ステージ1〜5分化過程への効果に対するスクリーニング。
ステージ1で添加されたこれらの5種の候補化合物が他の分化細胞種(例えば、ステージ2〜5:それぞれ、前腸内胚葉細胞、後部前腸内胚葉細胞、膵臓内胚葉細胞および内分泌前駆細胞)に影響を与えるかさらに判定するために、化合物の存在下または非存在下でhES細胞を分化させ、そして、Q‐PCRによる遺伝子発現解析のために、様々なステージでRNA試料を採取した。
ステージ1の最後でのDMSO処理対照と比べて(図4)、そして、未分化hESC凝集体と比べて(図5および6)遺伝子発現レベルをプロットした。図4、5および6中の「対照」を参照のこと。塩化ケレリトリン(Ch.Cl;化合物番号25);デホスタチ
ン(Deph;化合物番号248);SU6656(SU;化合物番号126)およびチルホスチンAG490(AG;化合物番号152)で処理された培養物(図4Aおよび4B、2番目、3番目、5番目および6番目の棒)はDMSO対照と比較して(図4Aおよび4B、1番目の棒)OCT4およびNANOGの遺伝子発現の微妙な相対的低下を示した。塩化ケレリトリン、デホスタチン、SU6656およびチルホスチンAG490化合物はそれぞれDMSO対照と比較してSOX17遺伝子発現の上昇を引き起こしたが、これはステージ1胚体内胚葉細胞培養物(図4D)の遺伝子発現プロファイルと一致した。しかしながら、チルホスチンAG490(AG)とSU6656(SU)はそれぞれDMSO対照と比較してFOXA2(HNF3β)発現の低下を引き起こしたが、これはこれらの2種の化合物の胚体内胚葉(図4C)への有害効果を表す。さらに、いずれの化合物も、SOX7、PAX6またはZIC1を含む非胚体内胚葉マーカーの発現にあまり影響を与えないようであったので(図4E、4Fおよび4G)、他の細胞種に対する分化誘導を基準にそれらを排除しなかった。BTO‐1(BTO1;化合物番号16)はどのような効果も持たないようであったので(図4A、4B、4Cおよび4D)、さらなる解析からそれを排除した。この化合物は、万能性幹細胞選択性阻害剤/細胞傷害剤に期待されているように、OCT4またはNANOGの発現を低下させることもFOXA2(HNF3β)またはSOX17の発現を上昇させることもなかった。
懸濁凝集培養における候補阻害剤/細胞傷害剤の効果。
細胞療法用の理想の阻害剤候補は、スケールアップ製造工程(例えば、大きいバイオリアクターで増殖され得るであろう懸濁凝集培養物)ならびに96ウェルプレートまたは6ウェルトレイなどでの小規模細胞培養において膵臓細胞系列の生存と両立する。したがって、さらなるスクリーニングは、商用スケール工程での条件に類似した条件を含む。先に言及したように、BTO‐1はOCT4、NANOG、FOXA2またはSOX17に対してどのような効果も持たないようであったので、BTO‐1をこの実験に含めなかった。スケールアップ製造工程に対応することができる懸濁凝集タイプの培養物中で増殖する万能性幹細胞の選択的阻害について残りの4種の化合物、すなわち、塩化ケレリトリン(Ch.Cl;化合物番号25)、チルホスチンAG490(AG;化合物番号152)、デホスタチン(Deph;化合物番号48)およびSU6656(SU;化合物番号126)をスクリーニングにかけた。簡単に説明すると、回転培養でヒトESCを凝集させ、そして、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、分化可能細胞の培養に有用な組成物および方法(COMPOSITIONS AND METHODS USEFUL
FOR CULTURING DIFFERENTIABLE CELLS)という表題の2007年8月13日に提出された米国特許出願公開第11/838,054号および幹細胞凝集懸濁組成物およびその分化方法(STEM CELL AGGREGATE
SUSPENSION COMPOSITIONS AND METHODS OF DIFFERENTIATION THEREOF)という表題の2008年11月4日に提出された米国特許出願公開第12/264,760号に実質的に記載される通りにステージ1〜4まで分化させて膵臓内胚葉を作製した。Q‐PCRによる解析のために、上記のような分化の最中の様々な時点で対照化合物および化合物で処理した細胞培養物からRNA試料を採取した。図5A〜5Mは万能性幹細胞またはステージ1〜5のうちの少なくとも1つに特徴的なマーカーの発現を示す。図6A〜6Fは、万能性幹細胞またはステージ1〜5では通常発現しないマーカーの発現を示す。各グラフは5つの区分を含む。図5A〜5Mの各グラフの最も左にある「対照」区分である第0日(hESC)に対してQPCR試料が正規化された。対照区分の右側にある他の4つの区分は細胞を処理するために使用された4種の化合物に対応する(左から右に、それぞれ、塩化ケレリトリン(Ch.Cl;化合物番号25);チルホスチンAG490(AG490;化合物番号152)、デホスタチン(Deph;化合物番号48)およびSU6656(SU6656;化合物番号126))。対照は未処理細胞(d0およびd2)とDMSO処理細胞(d3、d5、d7、d9およびd11(左から右に))を含んだ。4種の化合物のうちの3種、す
なわち塩化ケレリトリン、デホスタチンおよびSU6656が、対照と比較して、ステージ2、3および4(それぞれ、前腸、後部前腸および膵臓内胚葉)でPDX1およびNKX6.1の遺伝子発現を上昇させることがデータの解析により示された。図5Hおよび5Kの最後の3つの棒を参照のこと。チルホスチンAG490で処理された培養物が少なくともPDX1とNKX6.1の遺伝子発現を低下させたが、これは膵臓内胚葉分化の低下を示唆する。図5Hおよび5Lを参照のこと。さらに、チルホスチンAG490とSU6656が、それぞれ、AFPとCDX2の遺伝子発現の上昇を誘導することが非膵臓内胚葉細胞種(図6A〜6F)のマーカーの解析により示された。図6Eおよび6Fを参照のこと。
上述したスクリーニングパラダイムは、未分化hESCに対する選択的細胞傷害性を示す、および/または未分化hESCの成長と増殖を阻害するが、同時に、ステージ1、2、3および4の細胞(それぞれ、胚体内胚葉、前腸内胚葉、後部前腸内胚葉、膵臓始原細胞または膵臓内胚葉)を含む分化中のhESCおよび/または分化細胞に対して実質的にほとんどまたは全く効果を持たない化合物を特定するアプローチを概説する。
実施例2:完全LOPAC1280(商標)コレクション中の選択的細胞傷害性化合物/阻害性化合物の特定
潜在的な候補hESC細胞傷害性化合物および阻害性化合物の数を拡大するために、完全LOPAC1280(商標)コレクション(1,280種の化合物を含む)がスクリーニングにかけられた。一次スクリーニングでは、16枚の標準96ウェルトレイ内の、1:200に希釈して成長因子を低減させたマトリゲル(商標)上のDC‐HAIF限定培地中の、毎日栄養補充される、未分化hESC(約3×104個のBG01細胞)に対して細胞傷害性を試験した(図7A)。プレーティングから1日後に10μΜの各化合物をhESCに添加し、そして、細胞をさらに2日培養した。次に、プレートを固定し、そして、(AP染色の低下として)hESCの増殖または成長の相対的減少を特定するためにアルカリホスファターゼ(AP)について染色したが、プレートはhESCの割合の低下を示した。図7Aの丸で囲ったウェルを参照のこと。
さらに、hESCから得られる神経始原細胞(NPC)に対する効果についても完全LOPAC1280(商標)コレクションをスクリーニングにかけた。無血清MedII条件培地に6×104細胞/ウェルの割合で神経始原細胞をプレーティングし、毎日栄養補充をした。プレーティングから2日後に10μΜの各化合物を添加し、そして、細胞をさらに2日培養した。次に、プレートを固定し、そして、相対的な増殖または成長活性を明らかにすることができる一般的細胞染色剤であるクリスタルバイオレットで染色した。クリスタルバイオレット染色の低減がNPCの割合の低下を示した。図7Bの丸で囲ったウェルを参照のこと。化合物を分配するためのLOPAC1280(商標)プレートの左と右のカラムは空であり、それらは未処理対照として機能した。細胞傷害性および/または成長阻害(すなわち、AP染色またはクリスタルバイオレット染色の低下)を示すhESC試料またはNPC試料を特定した。図7AおよびBの丸で囲ったウェルを参照のこと。少なくとも2つの異なる細胞種、すなわち、hESCとNPCに対していくらか細胞傷害性効果または阻害性効果を示す41種の異なる化合物が一次スクリーニングにより特定された。このスクリーニングにおいて特定された各候補化合物の名称と活性の分類を記載する下記の表6を参照のこと(表5に記載される塩化ケレリトリンを除く)。その後のスクリーニングの回にはChClを含めなかった。したがって、40種の化合物だけをさらに試験した。
0.1μΜから50μΜまでの範囲の様々な濃度を用いて、表6の40種の化合物を、hESCおよびNPCを用いる再スクリーニング(二次スクリーニング)にかけた。二次スクリーニングの間に細胞傷害性を生じた化合物の最低濃度を有効用量(ED)として定
義した。図8は、細胞を含むウェルをAPで染色した結果を示す。色が濃いウェルが、ウェル内で増殖または成長する万能性幹細胞の数またはパーセンテージの増加を示した。さらに、分化中の胚体内胚葉(DE)細胞培養物について(上述した)96ウェルプレートインピーダンス分析でこれらの40種の化合物をスクリーニングにかけ、これらの化合物のうちのどれが、hESCかNPCに対しての最小有効用量で胚体内胚葉細胞に対して細胞傷害性を持たないか判定した。分化中のDE培養物に対して細胞傷害性を持たないようであった化合物に「生存可能」と印をつけたが、それは、その化合物が分化細胞の生存、成長、増殖または分化に影響を与えなかったことを意味する。表6の「ACEA DE」カラムを参照のこと。前の焦点を当てたスクリーニングで特定された2種の化合物(実施例1を参照のこと)を含む20種の化合物がhESCに対して細胞傷害性を持っていたが、同時に、それらは胚体内胚葉(DE)細胞の生存、成長、増殖または分化に明確な影響を与えなかった。
次に、懸濁凝集培養の分化したhESCを用いて上記の20種の候補化合物(表6:ACEA DE「生存可能」)をスクリーニングにかけた。ヒトESC(CyT49細胞)を培養し、そして、ステージ1(胚体内胚葉)とステージ2(前腸内胚葉)に懸濁状態で分化させた。上述したように、そして、表6に示されるように各化合物の最小有効用量を決定し、そして、この濃度の化合物に分化中の細胞培養物を第1日(d1)から第2日(d2)まで曝露した。次に、ステージ2の最後(約第5日、d5)まで培養物をさらに分化させた。Q‐PCRによるマーカー遺伝子の発現解析のためにd2およびd5でRNA試料を採取した。化合物で処理した試料を分化中の未処理対照試料と比較し、そして、以前に認定された胚体内胚葉分化過程のd2試料に対して正規化した。図9の対照を参照のこと。処理された分化中の凝集体が悪化した、生存できなかった、またはQ‐PCRによってそれらを調べることができなかったので、いくつかの化合物をさらなる検討から排除
した。対象外の分化(非内胚葉系列または非膵臓系列)とPAX6またはCDX2の発現の上昇を誘導するようであったので(図9Gおよび9H)、さらなる検討からその他の化合物をいくつか排除した。
(対象外の分化を誘導した化合物を除いた)上記の化合物の効果をさらに決定するために、膵臓分化の後期のステージ(例えば、ステージ2〜5)での効果について、3種の選択された化合物(塩化ケレリトリン(図5および6)、コーヒー酸およびイベルメクチン)をスクリーニングにかけた。まず、上記と同様に、ヒトESCをステージ1に、次にステージ2〜5に懸濁凝集培養物中で分化させた。実質的に上述した通りにDMSO、コーヒー酸またはイベルメクチンでステージ1培養物を処理した。未処理対照試料をd0(hESC)およびd1で採取し(図10、左のパネル)、処理試料を第2日、第3日、第5日、第7日、第9日、第11日および第13日で採取した(それぞれ、図10のd2、d3、d5、d7、d9、d11およびd13)。採取した試料における遺伝子発現レベルを、Q‐PCRを用いて解析し、そして、d0(hESC)試料ならびに認定された膵臓内胚葉(図10、右パネル)と比較した。認定された膵臓内胚葉対照は、フローサイトメトリーによって判定されたように、約50%の膵臓内胚葉、約46%の内分泌細胞および約4%の「他の」細胞からなる。コーヒー酸もイベルメクチンも膵臓内胚葉分化の生存、成長および/または増殖に影響を与えなかった。すなわち、選択された化合物はhESCの成長と増殖を阻害もしくは妨害した、または、hESCに対して細胞傷害性を有したが、同時に、膵臓内胚葉の生存度には影響を与えなかった。ステージ3、4および5の細胞に典型的な遺伝子発現レベルは正常であった。例えば、ステージ4、すなわち、膵臓内胚葉でのNKX6.1およびPTF1A(図10Hおよび10I)、ならびにステージ5、すなわち、内分泌前駆細胞および内分泌細胞でのNGN3およびNKX2.2(図10Fおよび10G)の発現の上昇が観察された。
要約すると、一次および二次スクリーニング(実施例1)とLOPAC1280(商標)コレクションの完全スクリーニング(実施例2)の両方から特定された最後の3種の候補は塩化ケレリトリン、コーヒー酸およびイベルメクチンであった。図11はこれらの3種の化合物の公知または推測される作用モードならびにそれらの構造を記載する。リアルタイムインピーダンス分析を用いて、接着培養で増殖する未分化hESCに対するそれぞれの細胞傷害性効果のEC50値を決定した。
実施例3:分化細胞集団中の万能性幹細胞に対する選択
細胞培養物(例えば、分化中の細胞または分化細胞培養集団)における未分化万能性幹細胞の存在および/または除去を追跡するために、万能性幹細胞の検出と、したがって、除去を向上する分析法を開発した。Q‐PCRによってmRNA発現の変化を測定することができるが、既に低レベルの未分化万能性幹細胞での低下を検出するにはこの方法だけでは充分に機能的ではない。同様に、分化の最中の細胞は低レベルの、時には中間レベルのOCT4タンパク質をなお発現するような場合があり、例えば、胚体内胚葉細胞に移行しているところのhES細胞はOCT4+/SOX17+について共陽性であり得るので、ステージ1(胚体内胚葉分化)でのOCT4タンパク質だけの免疫蛍光検出(または免疫組織化学)は決定的ではない。
上述したように、回転培養でヒトES細胞懸濁凝集物を形成し、そして、ステージ1(胚体内胚葉)に分化させた。1:200に希釈したマトリゲル(商標)で被覆した4ウェル組織培養ディッシュにウェル当たり約20〜30個の凝集体をプレーティングし、そして、hESC培地(DMEM/F12、10%のXF‐KSR、10ng/mLのアクチビンAおよび10ng/mLのヘレグリン)中で24時間培養した。このアプローチは、未分化hESCと分化過程に拘束された細胞の間でのOCT4の発現の差異を増大させることを意図するものであった。ヘレグリン‐ERBB2/3およびインスリン‐インスリ
ン受容体/IGF1Rシグナル伝達の存在下では、未分化hESCは高いOCT4遺伝子の発現を示すであろうが、分化段階に拘束された細胞はOCT4遺伝子発現の下方制御を示すであろう。つまり、hESC培地での混合集団細胞培養物は残存する未分化(hESC)の増大/増殖を助ける可能性があるが、それによって、OCT4遺伝子の発現を低下させていたであろう分化過程に拘束された細胞と比較して上昇したOCT4遺伝子の発現を示す。プレーティングされた凝集体をOCT4タンパク質について免疫染色し、そして、細胞核染色剤であるDAPIで対比染色した(図12)。プレーティングされた細胞凝集体が24時間の内に扁平化し、拡散した。一方、凝集体の中央はなお盛り上がっていた。その盛り上がりは目に見えるものであったが、それは、凝集体は高さがたった約20〜40μmであることを示唆した。薄く染色されているOCT4陽性細胞が簡単に特定され、そして、大多数のOCT4陰性細胞から区別できた。OCT4陽性細胞は一般に、プレーティングされた凝集体の盛り上がった領域内に最も頻繁にクラスター状に見つかった。通常はプレーティングされた最小の凝集物にたった1つのOCT4陽性クラスターが観察されたが、より大きい凝集体には2つ以上のクラスターがあった。図12C〜Eと比較して、図12Aおよび12Bを参照のこと。DAPIで染色された細胞培養物の解析によると、複数のOCT4陽性クラスターが同定された場合、それぞれが異なるより小さい凝集体または比較的大きい凝集体内の亜領域と関連しているようであったので、比較的大きい凝集体はより小さい凝集体からなることが示唆された。より大きい凝集体の中に在るより小さい凝集体は、小さいクラスター(一次凝集体)が最初に形成する回転培養の初期ステージまたは凝集過程の結果として生じる可能性がある。2つ以上の一次凝集体の凝集が、その直径が100〜150μmになり得るより大きい二次凝集体の形成を引き起こすようである。したがって、一次凝集体の中央にOCT4陽性細胞の任意の1つのクラスターが存在し、そして、それが分化に抵抗する可能性がある。そのようなクラスターが実質的に未分化のままであり、そして、OCT4陽性に染色されるのであろう。一次凝集体は、それらの一次凝集体と二次凝集体での配置に呼応して分化するよう分化運命が決定されるというのが1つの仮説である。例えば、図12A〜12Eは、OCT4陽性クラスター(黒色の円)を含む、プレーティングされた小さい(一次)凝集体(例えば、図12Aおよび12B)およびプレーティングされたより大きい(二次)凝集体(例えば、図12C〜12E)からの一連の代表的な画像を示す。したがって、凝集の過程および/またはカイネティクスを変えることが分化の全体的な効率を改善するが、また、明らかに分化に抵抗している、または分化していない細胞に対する影響を持つ可能性がある。
上述したプレーティングアッセイを用いてステージ1分化過程でのOCT4陽性細胞の除去が調査された。hES細胞に対するEC50濃度の実施例2に記載した候補化合物(塩化ケレリトリン、コーヒー酸およびイベルメクチン)で第1日から第2日までステージ1分化過程のhES細胞を処理した。プレーティングされた未処理凝集体およびDMSO処理凝集体は区別がつかず、両方が別々に分離したOCT4陽性細胞のクラスターを含有した。DMSO処理試料について図13Aの上のパネルと下のパネルを参照のこと。DMSOで処理した分化中の凝集細胞培養物(対照)でのOCT4陽性染色の強度は未分化hES細胞と同等であった。しかしながら、1.4μΜの塩化ケレリトリン(図13B)、0.17μΜのイベルメクチン(図13C)または0.1μΜのコーヒー酸(図13E)で処理した凝集細胞培養物は著しく低下したOCT4染色の強度を示した。OCT4陽性細胞のクラスターを観察することができたが、未処理対照またはDMSO対照と比較してずっと低いレベルであった。さらに、別の研究では、hESC培地にプレーティングしてから24時間後に存在するOCT4陽性クラスターのサイズが、0.1μΜのコーヒー酸での処理によってさらに著しく減少することになった。図14を参照のこと。
より高い濃度の化合物を用いて追加実験を行ったが、その実験は、染色前に24時間または72時間hESC培地で培養された細胞培養物播種凝集体でのその化合物の効果を拡大した(図15および16)。hESC培地での培養時間の延長がDMSO処理された凝
集体のOCT4陽性クラスターのサイズの全般的な拡大を助けたが(図15A)、このことは、細胞が増殖し、分化過程に拘束されていない未分化細胞をさらに生成することができたことを強く示唆する。別のグループのステージ1の分化中の培養物を並行して処理したが、10μMの塩化ケレリトリンで処理した。プレーティングしてから24時間後にOCT4陽性細胞の数が塩化ケレリトリンによってかなり少なくなった。約72時間まで、OCT4陽性細胞が増殖していたようであったが、対照培養物でOCT4陽性細胞について観察された程度よりも明らかに低かった。同様に、5μMまたは10μMのコーヒー酸(図16)で処理された細胞懸濁凝集物では、OCT4陽性細胞のクラスターは、DMSO処理(または未処理)対照のものと比較して、24時間でそのサイズが小さいようであったし、72時間でDMSO処理対照と比較してOCT4陽性細胞のクラスターがあまり拡大しなかった。図16を参照のこと。
hESC培地に曝され、hESC培地で維持される場合、未分化万能性細胞は2日間のステージ1分化過程の最後までそのままでいることができ、増殖することができ、そして、OCT4タンパク質の発現の存在によって示されるように、それらの未分化状態または万能性状態を維持することができることをこれらのデータは示している。少なくとも、塩化ケレリトリンおよびコーヒー酸を含む候補選択的細胞傷害性化合物での処理により、未処理対照またはDMSO対照と比較して、OCT4陽性細胞の割合(または数)が減少し、ならびに、長期培養物におけるOCT4陽性細胞の残留性が低下する。したがって、選択的万能性細胞傷害性化合物の使用によって未分化細胞または万能性細胞のレベルを効果的に低下させることができ、そして、仮に細胞療法のために移植される場合、インビボでの奇形腫の発生頻度を最終的に低下させる。さらに、未分化細胞または万能性細胞のレベルの低下が、I型およびII型糖尿病の治療のための治療法など、細胞ベースの治療法において、望ましくない対象外の(非内胚葉)系列の過剰増殖の可能性をさらに低下させることができる。
実施例4:その他の細胞傷害性/阻害性化合物の特定
対象外の細胞種または非内胚葉細胞種に対して選択的に細胞傷害性または阻害性である化合物、ならびにhESCの他の細胞種への分化に有用な化合物を特定することも興味深い。選択的阻害性または細胞傷害性活性についてhESC細胞傷害性化合物および阻害性化合物ならびに/または、ライブラリーの化合物など、その他の候補細胞傷害性化合物および阻害性化合物をスクリーニングにかける。一次スクリーニングでは、hESC、内胚葉系細胞(すなわち、非膵臓内胚葉系細胞または膵臓内胚葉系細胞)、外胚葉系細胞または中胚葉系細胞に対して細胞傷害性を試験する。標準96ウェルトレイのウェル当たり約3×104個の細胞を適切な培地中で培養し、そして、毎日栄養補充する。プレーティングの1日後に10μΜの各候補化合物を添加し、そして、細胞をさらに1〜2日から約2週間培養する。
次に、プレートを固定し、そして、クリスタルバイオレットまたは相対的な増殖もしくは成長活性を明らかにすることができる別の一般的な細胞染色剤で染色する。アルカリホスファターゼについてhESCを含むプレートを染色する。染色の低下は、候補化合物で処理した試料における細胞の数または割合の低減を示す。細胞傷害性および/または成長阻害を示す試料が特定される。分析した細胞種に対して細胞傷害性または阻害性効果を示す化合物が一次スクリーニングによって特定される。
約0.1から約50μΜまでの範囲の様々な濃度を用いて、一次スクリーニングで特定された化合物をhESC、および非標的内胚葉系細胞、外胚葉系細胞または中胚葉系細胞から選択される2種以上の細胞種に対して再スクリーニング(二次スクリーニング)にかける。二次スクリーニングの間に細胞傷害性を生じる化合物の最低濃度を有効用量(ED)として決定する。次に、二次スクリーニングからの化合物を対象の分化中の細胞培養物
、例えば、胚体内胚葉(DE)に対してスクリーニングにかける。ある実験では、二次スクリーニングからの候補化合物のどれが最小有効用量で対象の分化中の細胞(例えば、胚体内胚葉)に対して細胞傷害性を持たないか決定するために、(上述した)96ウェルプレートインピーダンス分析を用いる。対象の分化中の細胞に対して細胞傷害性を持たないようである化合物に「生存可能」と印をつけるが、それは、その化合物が対象の分化細胞の生存、成長、増殖または分化に影響を与えないことを意味する。
次に、懸濁凝集培養の分化したhESCを用いて、「生存可能」とスコアされた候補化合物をスクリーニングにかける。ヒトESCを培養し、懸濁状態で対象の分化細胞種に分化させる。(上述した)二次スクリーニングから最小有効量を決定し、そして、対象の系譜に沿って分化する細胞培養物を分化過程中の様々な時点でこの濃度の化合物に曝露する。場合により、その分化過程の最後まで培養物をさらに分化させる。対象の分化および対象外の分化に特徴的なマーカーの遺伝子発現を解析するために、処理および分化過程の様々な時点でRNA試料を採取する。化合物で処理された試料を未処理の分化中の対照試料と比較し、そして、以前に認定された対象の分化過程の試料に対して正規化する。対象の細胞種の分化が影響を受ける、または、対象の分化中の細胞が処理によって悪化する、もしくは生存できなくなることを理由に、化合物がさらなる検討から排除される。対象外の分化を誘導することを理由に、その他の化合物がさらなる検討から排除される。
こうして特定された化合物の効果をさらに決定するために、対象の分化過程の後期のステージでの効果について選択された化合物をスクリーニングにかける。ヒトESCを懸濁凝集培養状態で対象の分化過程の初期から中期のステージまで分化させる。分化過程の初期から中期のステージの間に実質的に上述した通りにDMSOまたは候補化合物で培養物を処理する。未処理試料、DMSO処理試料および候補化合物処理試料をd0(hESC)、d1および分化過程中に時折採取する。採取した試料中の対象の分化過程および対象外の分化過程のマーカーの遺伝子発現レベルを解析し、そして、d0(hESC)試料ならびに認定された対象の分化過程に対して比較する。いくつかの実験では、上記のように採取された試料内に存在する細胞種はフローサイトメトリー、直接的観察または免疫組織化学によっても決定される。hESCまたは対象外の分化のパーセンテージまたは数が小さいとき、分析の前に非分化条件で(例えば、ES細胞培地中で)細胞試料を増大させることができる。対象の分化の生存、成長および/または増殖に影響を与えないが、hESCおよび/もしくは対象外の分化細胞種の成長および増殖を妨害し、またはhESCおよび/もしくは対象外の分化細胞種に対して細胞傷害性である候補化合物をさらなる研究のために選択する。
したがって、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書において開示された実施形態に対して様々な置換、改変もしくは最適化、またはその組合せを行うことができることが当業者に明らかとなる。
下記の特許請求の範囲およびこの開示において使用される場合、「基本的に〜からなる(consisting essentially of)」という句は、その句の後に記載されるあらゆる要素、および記載された要素に関する開示において特定化された活性または作用に干渉も寄与もしない他の要素に限定されるあらゆる要素を含むことを意味する。したがって、「基本的に〜からなる(consisting essentially of)」という句は、記載された要素は必要または必須であるが、他の要素は選択的であり、記載された要素の活性または作用に影響を与えるか否かに応じてあってもなくてもよいということを表す。