JP2014036660A - 幹細胞集合体懸濁液組成物、その分化方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】多分化能性幹細胞の多分化能を血清なしで維持可能な培養と安定化のための方法の提供。
【解決手段】基本栄養塩溶液と、分化可能な細胞におけるErbB2−由来チロシンキナーゼ活性を刺激するための手段を含む組成物に関する。分化可能な細胞を培養する方法。前記方法は細胞培養表面に分化可能な細胞をプレーティング(plating)し、分化可能な細胞に基本栄養塩溶液を提供して、ErbB3と特異的に結合するリガンドを提供する。生理学的に許容される媒体中に懸濁された霊長類幹細胞(pPSC)集合体の培地を含むローラーボトルに関する。
【選択図】図23

Description

連邦政府によって後援された研究または発育に関する声明
本発明の完成のための研究の一部は、米国政府資金のアメリカ国立衛生研究所グラントNo.5R24 RR021313−05を利用して為された。従って、米国政府は本発明に対してある種の権利を有する。
発明の背景
発明の分野
本発明は事実上血清およびフィーダーを含まない懸濁細胞集合体組成物、および細胞集合体懸濁液の分化方法に関する。
これまで、真核性のほ乳動物細胞のための大規模製造過程(「スケールアップ」)を提供する効率的システムは全くなく、特に、ヒト胚性幹(hES)細胞などの哺乳動物多能性細胞については全くなかった。生体外で未分化状態でhES細胞を維持するために、hES細胞は典型的にはマウス胎児線維芽細胞(MEF)フィーダーの上で維持され、手動の機械的な解離(例えば、微細手術)を経て、個々のコロニーへ継代された。これらの方法は未分化型hES細胞または分化型hES細胞の大量産生を必要としない調査研究、遺伝子ターゲッティング、薬物送達、試験管内毒性研究には十分である。酵素継代を含むhES細胞の安定した大規模なエキスパンジョンのための、将来的な臨床適用は改良された方法を要求する。
hES細胞の酵素のエキスパンションは実行できるが、これらの方法は、hES細胞が生存のためのパラ−およびオートクライン信号と同様に細胞間相互作用に依存するので、技術的な欠陥がある。したがって、単独細胞として存在する場合と比べて、hES細胞は細胞内微小環境を好む。また、hES細胞の酵素解離が異常核型に導き、遺伝的および後成的変化の結果につながることがあるという報告がある。その結果、高度に支持的な培養環境であって、同時に長い培養の期間、多分化能、多能性または遺伝的安定性において妥協せずに、未分化型hESまたは分化型hES細胞の確固とした大規模なエキスパンジョン(すなわち、製造プロセス)を考慮することが本質的である。
人間の多能性細胞は人間発達の初期段階を調査して、糖尿病やパーキンソン病のようないくつかの病状での治療関与のめったにないチャンスを提供する。例えば、ヒト胚性幹細胞(hESCs)から得られたインスリンを作り出すβ細胞の使用は、提供者膵からの細胞を利用する現在の細胞治療手順に大きな改良を提供するだろう。現在の、提供者膵からの細胞を利用する糖尿病に関する細胞治療は、移植に必要である高品質の小島細胞への不足によって制限される。I型糖尿病患者のための細胞治療は、約8×10のすい臓島細胞の移植を必要とする(Shapiroら,2000,N Engl J Med 343:230−238;Shapiroら,2001a,Best Pract Res Clin Endocrinol Metab 15:241−264;Shapiroら,2001,British Medical Journal 322:861)
そのため、少なくとも2つの健常ドナー臓器が、成功する臓器移植のための十分な小島細胞を得るのに必要である。
その結果、胚性幹(ES)細胞は早期胚中で多能性細胞生物学と分化の基礎となる機構の研究の強力なモデル系を示す。また、哺乳動物の遺伝操作の機会を与え、結果の商業的、医学的、農業的用途の機会を与える。さらに、胚性幹細胞の潜在的な増殖および分化は、細胞損傷または機能不全から生じる疾病の治療のための移殖に適合する細胞の無制限なソースを作るのに使用される。国際特許出願WO99/53021に記載された早期原始外胚葉(EPL)細胞、生体内または生体外の派生したICM/胚盤葉上層、生体内または生体外の派生した原始外胚葉、始原生殖細胞(EG細胞)、奇形しゅ細胞(EC細胞)、および脱分化または核移植で誘導された多能性細胞をはじめとする、他の多能性細胞および細胞ラインが、これらの特性と用途のいくつかまたはすべてを共有するだろう。国際特許出願WO97/32033と米国特許番号5,453,357は、齧歯動物以外の種からの細胞を含む多能性細胞を記述する。人間の胚性幹細胞は国際特許出願WO00/27995および米国特許番号6,200,806に記載されている。そしてヒトEG細胞は国際特許出願WO98/43679に記載されている。
胚性幹細胞多分化能と分化を規制する生化学的機構は、非常に不十分にしか理解されていない。しかしながら、利用可能な限られた実験によって得られるデータ(多くの事例証拠)は、in vitro培養条件下での多分化能胚性幹細胞の連続的維持は、細胞外環境に存在するシトキンと生育因子の存在に依存していることを示唆する。
人間のESCsが人間細胞療法のためにかなりの量の高品質の分化細胞を開発する出発物質のソースを提供する一方、臨床の安全と有効度を決定する期待される規定のガイドラインと等価な条件で、これらの細胞を得、および/または、培養しなければならない。
そのようなガイドラインは化学的に定義された培地の使用を必要とするだろう。
そのような化学的に定義された/GMP標準状態の開発が、治療目的でhESCsから得られた細胞とhESCsの人体での使用を容易にするために必要である。
さらに、hESCベースの細胞置換療法の最終の用途は、大量培養を可能にする方法と規定ガイドラインに対応する分化条件の開発を必要とするだろう。いくつかのグループがhESCsのための簡易型の生育条件を報告したが、これらの研究にはかなりの制限がある。しかしながら、一般に、これまで、多能性細胞の成功した単離、長期のクローン維持、遺伝操作、および生殖細胞系列移行(germ line transmission)は難しかった。
幹細胞のための細胞培養条件の大部分は、培地内に血清代用品(KSR)を含んでいる。(Xuら,2005 Stem Cells,23:315−323;Xuら,2005 Nature Methods,2:185−189;Beattieら,2005 Stem Cells,23:489−495;Amitら,2004 Biol.Reprod.,70:837−845;Jamesら,2005 Development,132:1279−1282)KSRは非常に浄化されたソースではなく、ウシ血清アルブミン(BSA)の粗精製物を含んでいる。他のものは短期試験を実行するだけであり、したがって、それらの条件が長期間の間、多分化能の維持を可能にするかどうかは、明確でない。(Satoら,(2004)Nature Med.,10:55−63;米国特許公開2006/0030042および2005/0233446)。他のものはFGF2、アクチビンA、およびインスリンで化学的に定義された培地における、多分化能の長期の維持を示したが、細胞はヒト血清でコーティングされたプレートであって、細胞のプレーティングの前に「洗い落とされた」ものの上で育てられた。(Valuerら,2005 J Cell Sci.,118(Pt 19):4495−509)FGF2はこれらのすべての培地の成分であるが、それが絶対必要であるかどうかは明確でない;特にいくつかの配合物では、高濃度でそれを使用することが必要である(最大100ng/mL、Xuら,2005 Nature Methods,2:185−189)。
さらに、これらのグループのすべてが、それらの培地にマイクロg/mLのレベルでインスリンを含んでいるか、またはKSRの使用により存在するインスリンを含む。
インスリンがインスリン受容器と結合することを通して、グルコース代謝と「細胞生存」シグナリングにおいて機能すると通常考えられている。
生理学的濃度を超えたレベルでは、しかしながら、インスリンは、低い効率でIGFl受容体と結合して、PI3 キナーゼ/AKT系路を通して古典的な増殖因子活性を与えることができる。KSRまたは他の培地におけるそのような高水準(マイクロg/mLのレベル)でのインスリンの存在/必要は、hESCsによって発現されるIGFl受容体に結合されることを介して主な活性が顕在化されることを示唆している(Spergerら,2003 PNAS,100(23):13350−13355)。IGFlRの完全な補体とhESCsでの細胞内信号系路メンバーの発現は、この系路の機能的活性を意味しそうである(Miuraら,2004 Aging Cell,3:333−343)。インスリンまたはIGFlがhESCsの自己再生に必要である主要な信号を顕在化させることができる。これは、hESCの培養のために開発された全ての条件は、インスリン、KSRにより提供されたインスリン、または血清により提供されたIGFlを含むという事実により示唆される。この概念を支持するものとして、PI3 キナーゼがhESC培養で禁止されると、細胞が分化することが示されている(D’Amourら,2005 Nat.Biotechnol.,23(12):1534−41;McLeanら,2007 Stem Cells 25:29−38)。
最近の刊行物は、hESCsについてのヒト化された、定義された培地について概説する(Ludwigら,Nature Biotechnology,published online January 1,2006,doi:10.1038/nbtl 177)。しかしながら、この最近の配合物は、FGF2、TGFβ、LiCl、γ−アミノ酪酸およびピペコリン酸のような、hESCsの増殖に影響を及ぼすことが示唆されるいくつかの要素を含んでいる。また、この最近定義された細胞培地はインスリンを含むことに留意すべきである。
EGF増殖因子ファミリーには、少なくとも14のメンバーが含まれ、EGF、TGFβ、ヘパリン結合EGF(hb−EGF)、ニューレグリン−β(また、ヘレグリン−β(HRG−β)、膠細胞生育因子などとも呼ばれる)、HRG−α、アンフィレグリン、ベタセルリン、およびエピレグリンがあげられるが、これらに限定されるものではない。これらのすべての増殖因子が、EGFドメインを含み、最初に、メタロプロテイナーゼ(具体的にはアダム:ADAM)タンパク質によって処理される、可溶性のエクトドメイン増殖因子を発生させる膜横断たんぱく質として発現される。または、EGFファミリーのメンバーは、異なる親和性を有するErbBl、2、3、および4細胞表面受容体のホモ−またはヘテロ−二量体と相互作用する(Jonesら,FEBS Lett,1999,447:227−231)。EGF、TGFα、およびhbEGFは、ErbBl/1(EGFR)ホモダイマと高い親和性(1−100nMの範囲)で結合するが、HRG−βはErbB3およびErbB4と非常に高い親和性(<1nMの範囲)で結合する。活性ErbB受容体はPI3 キナーゼ/AKT系路とMAPK系路に信号を発する。hESCsで最も発現する増殖因子受容体としてErbB2とErbB3がある(Sperger他、2003PNAS、100(23):13350−13355)。HRG−βは、先に、マウス始原生殖細胞のエキスパンションをサポートすることが示された(Toyoda−Ohnoら,1999 Dev.Biol.,215(2):399−406)。さらに、ErbB2の過剰発現と引き続く不適当な活性化が腫よう発生過程に関連している(Neveら,2001 Ann.Oncol.,12 Suppl 1:S9−13;Zhou & Hung,2003 Semin.Oncol.,30(5 Suppl 16):38−48;Yarden,2001 Oncology,61 Suppl 2:1−13)。ヒトErbB2(染色体17q)、およびErbB3(染色体12q)は、いくつかのhESCsの三染色体性として蓄積するのが観測された染色体上に存在している(Draperら,2004 Nat.Biotechnol.,22(l):53−4;Cowanら,2004 N Engl.J.Med.,350(13):1353−6;Brimbleら,2004 Stem Cells Dev.,13(6):585−97;Maitraら,2005 Nat.Genet.37(10):1099−103;Mitalipovaら,2005 Nat.Biotechnol.23(1):19−20;Draperら,2004 Stem Cells Dev.,13(4):325−36;Ludwigら,Nature Biotechnology,published online January 1,2006,doi:10.1038/nbtl 177)。
ErbB2とErbB3はマウス胚盤胞内で発現された(Brownら,2004 Biol.Reprod.,71:2003−2011;Salas−Vidal & Lomeli,2004,Dev Biol.,265:75−89)。しかし、明確に内細胞塊(ICM)には制限されず、ErbBl、EGF、およびTGFβが人間の胚盤胞で発現された(Chiaら,1995 Development,1221(2):299−307)。HB EGFはヒトIVF胚盤胞培養で増殖促進効果を有する(Martinら,1998 Hum.Reprod.,13(6):1645−52;Sargentら,1998 Hum.Reprod.13 Suppl 4:239−48)。そして15%の血清内でのマウス胚性幹細胞に対して追加の効果を有する(Heoら,2005,Am. J.Phy.Cell Physiol.,in press)。移植前または移植直後の現象は、ErbB2−/−,ErbB3−/−,ニューレグリン(Neuregulin)l−/−(Britschら,1998 Genes Dev.,12:1825−36)、ADAM17/−(Peschon,ら,1998 Science,282:1281−1284)、およびADAM19−/−、(Horiuchi,2005 Dev.Biol.,283(2):459−71)ヌル胚で影響を受けるように見えない。したがって、hESCsのErbB受容体ファミリーを通してシグナルする重要さはこれまで不明瞭である。
ニューレグリン−1(NRGl)は、多重スプライシングとタンパク質プロセシング異形を示す大きい遺伝子である。これは多くのタンパク質アイソフォームを発生させる。(タンパク質アイソフォームは本明細書においては集合的にニューレグリンと呼ばれる)。ニューレグリンは細胞表面膜横断たんぱく質として支配的に発現される。細胞外領域は免疫グロブリン様ドメイン、炭水化物改質領域、およびEGFドメインを含んでいる。NRGl発現アイソフォームは以前に、検討された(Falls,2003 Exp.Cell Res.,284:14−30)。細胞膜メタロプロテアーゼADAM17とADAM19は、ニューレグリン−1の膜貫通型を処理して可溶性のニューレグリン/ヘレグリンにすることが示された。HRG−αと−βは、EGFと他のドメインを含むニューレグリンの開裂されたエクトドメインである。EGFドメインがErbB受容体の結合および活性化の原因となるので、このドメインだけを含む組み換え分子は、本質的にはこのタンパク質の可溶性成長要因効果のすべてを示すことができる(Jonesら,1999 FEBS Lett.,447:227−231)。また、ErbB受容体とEGFドメインとの相互作用を通して、隣接している細胞にはジャクスタクリンシグナリング(juxtacrine signaling)の引き金となると思われるニューレグリンの処理加工膜横断アイソフォームが存在する。
国際特許出願WO99/53021 国際特許出願WO97/32033 米国特許番号5,453,357 国際特許出願WO00/27995 米国特許番号6,200,806 国際特許出願WO98/43679 米国特許公開2006/0030042 米国特許公開2005/0233446
Shapiroら,2000,N Engl J Med 343:230−238 Shapiroら,2001a,Best Pract Res Clin Endocrinol Metab 15:241−264 Shapiroら,2001,British Medical Journal 322:861 Xuら,2005 Stem Cells,23:315−323 Xuら,2005 Nature Methods,2:185−189 Beattieら,2005 Stem Cells,23:489−495 Amitら,2004 Biol.Reprod.,70:837−845 Jamesら,2005 Development,132:1279−128 Satoら,(2004)Nature Med.,10:55−632 Valuerら,2005 J Cell Sci.,118(Pt 19):4495−509 Spergerら,2003 PNAS,100(23):13350−13355 Miuraら,2004 Aging Cell,3:333−343 D’Amourら,2005 Nat.Biotechnol.,23(12):1534−41 McLeanら,2007 Stem Cells 25:29−38 Ludwigら,Nature Biotechnology,published online January 1,2006,doi:10.1038/nbtl 177 Jonesら,FEBS Lett,1999,447:227−231 Toyoda−Ohnoら,1999 Dev.Biol.,215(2):399−406 Neveら,2001 Ann.Oncol.,12 Suppl 1:S9−13 Zhou & Hung,2003 Semin.Oncol.,30(5 Suppl 16):38−48 Yarden,2001 Oncology,61 Suppl 2:1−13 Draperら,2004 Nat.Biotechnol.,22(l):53−4 Cowanら,2004 N Engl.J.Med.,350(13):1353−6 Brimbleら,2004 Stem Cells Dev.,13(6):585−97 Maitraら,2005 Nat.Genet.37(10):1099−103 Mitalipovaら,2005 Nat.Biotechnol.23(1):19−20 Draperら,2004 Stem Cells Dev.,13(4):325−36 Ludwigら,Nature Biotechnology,published online January 1,2006,doi:10.1038/nbtl 177 Brownら,2004 Biol.Reprod.,71:2003−2011 Salas−Vidal & Lomeli,2004,Dev Biol.,265:75−89 Chiaら,1995 Development,1221(2):299−307 Martinら,1998 Hum.Reprod.,13(6):1645−52 Sargentら,1998 Hum.Reprod.13 Suppl 4:239−48 Heoら,2005,Am. J.Phy.Cell Physiol.,in press Britschら,1998 Genes Dev.,12:1825−36 Peschon,ら,1998 Science,282:1281−1284 Horiuchi,2005 Dev.Biol.,283(2):459−71 Falls,2003 Exp.Cell Res.,284:14−30 Jonesら,1999 FEBS Lett.,447:227−231
それでも、培養で多分化能を維持することへのhESC研究の進行における重要な開発は、臨床の安全と有効度を決定する期待される規定のガイドラインと互換性がある培地と細胞培養条件の解明になるだろう。最も良い結果はhESCsのための化学的に定義された培地の有用性であるだろうが、それらがGMP規格に沿って製造されるなら、化学的に定義されないコンポーネンツは、許容できる。したがって、治療目的で使用できる多分化能性幹細胞の集団の培養と安定化のための方法と組成物であって、培養組成物が定義され、および/またはGMP規格に沿って製造されるものを特定することに対する必要がある。
本発明は基本栄養塩溶液(basal salt nutrient solution)とErbB3配位子を含む組成物に関し、該組成物には血清が本質的に含まれない。
また、本発明は基本栄養塩溶液と、分化可能な細胞におけるErbB2−由来チロシンキナーゼ活性を刺激するための手段を含む組成物に関する。
本発明は分化可能な細胞を培養する方法に関する。この方法は細胞培養表面に分化可能な細胞をプレーティング(plating)し、分化可能な細胞に基本栄養塩溶液を提供して、ErbB3と特異的に結合するリガンドを提供する。
本発明は分化可能な細胞を培養する方法に関する。この方法では、細胞培養表面で分化可能な細胞をプレーティングして、分化可能な細胞に基本栄養塩溶液と、分化可能な細胞中のErbB2−由来チロシンキナーゼ活性を刺激する手段を提供する。
また、本発明は分化可能な細胞を培養する方法であって、消化の前に培地チャンバー中に含まれている分化可能な細胞の層に消化液を提供し、消化が細胞の層を単独細胞にすることを含む方法に関する。消化の後に、単独細胞は分化可能な細胞培養液とともに新しい組織培養チャンバー内に置かれる。そこでは、分化可能な細胞培養液は基本栄養塩溶液とErbB3リガンドを含む。いったん培養されると、単独の分化可能な細胞は単独細胞の成長と分裂を可能にする条件に置かれる。
本発明は多分化能hESの接着培地からhES細胞集合体を懸濁液中に発生させるための方法に関する。この方法では未分化状態でエキスパンションを許容する接着成長培養条件でhES細胞を培養し;
接着したhES培養細胞を単独細胞懸濁液培養(single cell suspension culture)に分離し(diassociating);
単独の細胞懸濁培養液を、単独細胞懸濁培養液が懸濁液中にhES−由来細胞集合体を形成するまで撹拌することにより、懸濁液中のhES−由来細胞集合体(hES-derived cell aggregates)を形成することを許容する第一の分化可能培養条件と接触させ、
懸濁液中のhES−由来細胞集合体を発生させる。
好ましい実施態様では、単独細胞懸濁培養の撹はんは約80rpmから160rpmで実行される。
また、本発明はhES−由来単独細胞懸濁液から、hES−由来細胞集合体の懸濁液を発生させるための方法に関する。この方法は、未分化状態でエキスパンションを許容する接着性の成長培養条件でhES細胞を培養すること;
hES細胞を分化するのに好適な第一の分化培養条件に未分化hES細胞を接触させ、接着したhES−由来細胞を得ること;
接着したhES−由来細胞を単独細胞懸濁培養物に分離すること;
単独細胞懸濁培養物を、単独細胞懸濁培養液が、懸濁液中にhES−由来細胞集合体を形成するまで撹拌することにより、単独の細胞懸濁培養液を、懸濁液中のhES−由来細胞集合体を形成することを許容する第二の分化培養条件と接触させ、懸濁液中のhES−由来細胞集合体を発生させる。好適な実施態様では、単独細胞懸濁培養の撹はんは約80rpmから160rpmで実行される。
また、本発明は多能性細胞培養の細胞濃度を最適化するか、または様々な増殖因子、たとえばFGF10、EGF、KGF、ノギン(noggin)およびレチノイン酸、アポプトーシス阻害剤、Rho−キナーゼ阻害薬、および同様のものの濃度を変えることにより、得られた細胞培養物の組成を富化または変化させる方法、および/またはhES−由来細胞集合体懸濁液のポピュレーションを変化させる方法に関する。
図1は規定された条件(8ng/mL FGF2、100ng/mL LR−IGFl、1ng/mL アクチビンA(Activin A)における、BG01v中の、ADAM19、ニューレグリン1、およびErbBl−3のリアルタイムのRT PCR発現解析について示す。GAPDHとOCT4コントロール反応を示す。
図2は、AG879を使用した、BG01v細胞の増殖抑制について示す。BG01v細胞は、6−ウエルのトレー中にプレーティングされて、プレーティング後、DMSO(A)、50nM−20マイクロM AGl478(B)、または100mM−20マイクロM AG879(C)に24時間暴露された。培養5日後に、培養物は、アルカリホスファターゼ活性のために固定され、染色された。AGl478は、これらの濃度(Bに示された20マイクロM)では増殖に影響するように見えなかったが、AG879は5マイクロM(C)で実質的に細胞成育を遅くした。
図3は10ng/mL HRG−β、10ng/mL アクチビン A、200ng/mL LR−IGFl、および8ng/mL FGF2を含む定義された培養液であるDC−HAIF中で培養されたBG01v細胞のモルホロジー(AおよびB)について示す。また10ng/mL HRG−β、10ng/mL アクチビン A、および200ng/mL LR−IGFlを含む定義された培養液で培養されたBG01v細胞のモルホロジー(CおよびD)について示す。
図4はマウス胚性幹細胞(A)とMEFs(B)中のRT PCRによるADAM19、ニューレグリン l、およびErbBl−4の発現について示す。
図5はマウス胚性幹細胞中でのErbBlとErbB2シグナリングの抑制について示す。2×l0 Mouse RlES細胞が、10%のFBS中1:1000のMATRIGEL(登録商標)、10%のKSRと1000U/mLマウスLIF(ESGRO)上にプレーティングされた。翌日、DMSO(対照キャリア)、1−50マイクロMのAG1478、または1−50マイクロMのAG879が新鮮な培地と共に加えられた。培地は、8日目に固定されて、アルカリホスファターゼ活性のために染色された。DMSO(A)および1−50 マイクロMのAGl478(BおよびC)は増殖を明白に抑制しなかった。AG879は50マイクロMのときに実質的に細胞成育を禁止して(DおよびFの比較)、20マイクロM(E)で増殖を遅くしたかもしれない。
図6はコンディショニングされた培地(CM)中で育てられたBG02細胞の増殖抑制について示す。(A)50マイクロMのAG825は、CM中で育てられたBG02 hESCsの増殖を禁止した。(B)AG825はhESCs中のErbB2 Y1248リン酸化を抑制する。(C)増殖因子の異なった併用におけるCyT49 hESCsの連続継代のコロニー計数。(D)BG02細胞を使用するhESC増殖におけるIGFlおよびHRGの役割の細胞計数分析(左)。(E)繰返し実験のOCT4/DAPI免疫染色は、ActA/FGF2条件と比べて、IGFlとHRGがOCT4細胞の割合をかなり増加させたことを示した。(F)一夜増殖因子のない飢餓状態で、次いで15分、DC−HAIFでパルスされたBG01 DC−HAIF hESCsのRTKブロッティング分析。または、定常状態培養物が示される(左)。規格化された相対強度の平均と範囲がプロットされた(右)。
図7は異なった増殖因子の組み合わせに従って規定された条件で育てられたマウスES細胞について示す。(A)2×l0細胞が8日間異なった増殖因子の組み合わせで育てられた後の、APコロニーのスコアを示している。(B−G)異なった増殖因子の組み合わせで育てられたAPコロニーの4倍イメージを示す。
図8はDC−HAIF培地中で維持されるヒト胚性幹細胞のキャラクタリゼーションについて示す。(A)BG02 DC−HAIF p25細胞からの奇形腫の分析は外胚葉、中胚葉および内胚葉への多分化能分化能を示した。(B)分化した15%FCS/5%KSR中で培養されたBG02細胞の免疫染色。(C)CM中(64継代)またはDC−HAIF(規定された培地内で10または32継代)で維持されたBG02細胞中の47,296の転写プローブを含む高密度イルミナ セントリックス ヒューマン−6 エクスプレッション ビードチップス(Illumina Sentrix Human-6 Expression Beadchips)を使用して調査された転写の分配のベン図。(D)BG02 DC−HAIF p32細胞の転写プロフィールが、CM中で維持されたBG02細胞のものと非常に類似し(上部)、DC−HAIFでの初期および終期の継代培養と実質的に変化されなかった(下部)ことを示すスキャッタープロット分析。(E)ビードスタジオ(Beadstudio)ソフトウェアを使用することで作られた異なったポピュレーションにおける相対遺伝子表現の階層的な菌株群形成樹状図。
図9はDC−HAIF媒地の存在下で、ヒト化細胞外マトリックス(ECMs)上で培養された細胞のモルホロジーについて示す。(A)増殖因子の減少されたMATRIGEL(登録商標)(1:200に希釈)上で成長されたCyT49細胞(1:200に希釈)。CyT49細胞はまた、(B)全ヒト血清、(C)ヒトフィブロネクチン、および(D)VITROGRO(登録商標)でコーティングされた組織培養皿で成長された。
図10はヒト胚性幹細胞の単独細胞継代について示す。(A−D)ACCUTASE(登録商標)での継代および60mmの培養ざら中のおよそ5×10の細胞のプレーティングの後の、ステージごとのBG02細胞のイメージ。(A)初期の平板培養の1.5時間後、生存細胞が皿に接着していることを示す。(B)平板培養後20時間では、細胞の大多数は集合し、小さいコロニーを形成した。これらのコロニーは、平板培養後4日まで、増殖して拡大し(C)、5−6日間の経過で皿全体を覆いながら上皮のような単分子層を形成する(D)。(E)DC−HAIF中でACCUTASE(登録商標)とともに19回継代したBG02培養で示された正常な男性核型。
図11は、(A)ACCUTASE(登録商標)、(B)0.25%トリプシン(Trypsin)/EDTA、(C)TrypLE、または(D)バーシーン(Versene)を使用したヒト胚性幹細胞の単独細胞継代の後の細胞モルホロジーを示す。
図12はDC−HAIF中で培養されたヒト胚性幹細胞の大規模な成長について示す。(A)>1010の細胞へのエキスパンションの後のBG02細胞のフローサイトメトリー解析。> 85%の細胞はOCT4、CD9、SSEA−4、TRA−1−81を発現した。(B)OCT4、NANOG、REXl、SOX2、UTFl、CRIPTO、FOXD3、TERT、およびDPPA5の多分化能マーカーの発現のRT PCR分析。分化型リネッジ(differentiated lineages)のマーカー、α−フェトプロテイン(AFP)、MSXl、およびHANDlは検出されなかった。(C)ヒト染色体特異性反復配列(human chromosome-specific repeats)を使用する蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)が、hChr12、17、XおよびYの標準のコピー数の維持を示した。
図13は、7代または2カ月より長い期間、FGF2の非存在下で、HRG−βとIGFlを含む規定された培地中で成長されたhESC BG02細胞のモルホロジー(A)と正常核型(B)について示す。
図14は、DC−HAIF(32代)またはDC−HAI(10代)中で維持されたhESCs(BG02)からの転写のスキャッタープロット分析について示す。大部分の転写の発現が両方のサンプルで検出された。そして、転写性は、外因のFGF2が非存在下でのhESCsの培養によっては、実質的に変化されなかった。相関係数(R2)が、>0(すべてのドット)の発現水準でのすべての検出された転写を使用することで、または>0.99の検出信頼度を示す転写で求められた(R2 select、点線の楕円形により示される)。斜線は、平均および2フォールドディファレンス(2-fold difference)の限界を示す。
図15はDC−HAIFで維持された初期および晩期の継代BG02細胞の異なったポピュレーションにおける相対遺伝子発現の階層的な菌株群形成樹状図を示す。細胞は、密接(約0.0075)に群生し、コンディショニングされた培地(CM)でBG02およびBG03細胞が同様に維持された(約0.037)。また、DC−HAI中で維持されたBG02細胞は、他の評価されるhESCポピュレーションと密接して群生される。説明として、図15では、CMはコンディショニングされた媒体である。DCは、上で定義されるように、定義された培養液DC−HAIFである。apはACCUTASE(登録商標)単独細胞継代である。DC−HAIは、FGF2を含まないことを除いて、本明細書に定義されるような、DC−HAIFと同じである。
図16は96−ウエルおよび384−ウエルのDC−HAIF中で培養されたBG02細胞のモルホロジーとアルカリ性ホスファターゼ染色について示す。96−ウエルプレートの1つのウエルで成長したBG02細胞(10細胞/ウエル)の相コントラストイメージング(A)および(B)アルカリ性ホスファターゼ染色。384−ウエルプレートの1つのウエルで成長したBG02細胞(10細胞/ウエル)の相コントラストイメージング(C)および(D)アルカリ性ホスファターゼ染色。
図17はDC−HAIFで懸濁培養で育てられたBG02の暗視野イメージについて示す。2日目と6日目の培養物について示す。4倍率を使用することでイメージを得た。
図18はDC−HAIFの接着および懸濁培養での成長速度について示す。接着および懸濁培養で平行なウエルで1×10細胞のBG02がプレーティングされた。細胞数は1−6日で数えられた。
図19は懸濁および接着hESCsのqPCR分析について表現する。懸濁液で成長するBG02細胞(S.hESCs)と接着培地で成長するもの(hESCs)は同等なレベルのOCT4発現およびSOX17発現の欠如を示した。最終的な内胚葉(DE)に分化した接着細胞、および懸濁液中で最終的な内胚葉(S.DE d3)に分化した懸濁hESCsは、ともに期待された顕著なOCT4の少ない発現とSOXl7の多い発現を示した。
図20は懸濁培養におけるY27632の存在下でのhESC集合の増大について示す。3mLのDC−HAIFまたはDC−HAIF + Y27632中に、2×10のBG02細胞をシードし、6−ウエルのトレイ中で、100rpmの回転台上でインキュベータ内においた。1日目と3日目に集合体のイメージを得た。
図21はY27632の存在下での懸濁集合体のRT PCR分析について示す。RT−PCRは、多分化能のマーカーの発現を評価するために増殖した培養物に実行された。OCT4、NANOG、REXl、SOX2、UTFl、CRIPTO、FOXD3、TERT AND DPPA5は検出された。分化型リネッジのマーカーであるAFP、MSXl、およびHANDlは検出されなかった。
図22A−Nはマーカー遺伝子OCT4(パネルA)、BRACH(パネルB)、SOXl7(パネルC)、FOXA2またはHNF3beta(パネルD)、HNFlbeta(パネルE)、PDXl(パネルF)NKX6.1(パネルG)、NKX2.2(パネルH)、INS(パネルI)、GCG(パネルJ)、SST(パネルK)、SOX7(パネルL)、ZICl(パネルM)、AFP(パネルN)、HNF4A(パネルO)、およびPTFlA(パネルP)の発現様式を示す棒グラフである。これは完全なリストではないが、多分化能ヒト胚性幹(hES)細胞(ステージ0、d0)、最終的な内はい葉細胞(ステージl;d2)、PDXl−陰性の前腸内はい葉細胞(ステージ2;d5)、PDXl−陽性内はい葉細胞(ステージ3、d8)、膵性内はい葉細胞(ステージ4;d11)、膵性内分泌性先駆、および/またはホルモン分泌細胞(ステージ5;d15)を同定するために使用できる。
図23は、培養物における培地の全容積(mL)と相関した懸濁液の細胞集合体の直径(ミクロン)の範囲を示すグラフである。
図24A−Dは、hES−由来細胞中のPDXl(パネルA)、NKX6.1(パネルB)、NGN3(パネルC)、およびNKX2.2(パネルD)の、それらが由来するhES細胞培養の細胞濃度との相関での、マーカー遺伝子の発現パターンを示す棒グラフである。
発明の詳細な説明
ポリマーの足場、マトリクス、および/または、ゲル内に個別細胞をシードすることに基づいている再生医療の従来知られている方法と対照して、本明細書に記載された方法は、組織形成の構成用ブロックとして多分化能hES単独細胞懸濁液またはhES−由来(分化された)単独細胞懸濁液から形成された細胞集合体懸濁液を使用する。細胞集合体はしばしば数百ないし数千もの個別細胞により構成され、接着結合部と細胞外マトリックスを介して連結され、全体として最終的な分化された生成物に貢献する。この点で、より伝統的な設計された組織に対して多くの有用な特性を提供する組織のタイプとして細胞集合体を定義できる。
本発明の1つの実施態様では、多分化能性幹細胞培養物またはhES−由来細胞培養物の単独細胞懸濁液からhES細胞集合体懸濁液を製造する方法が提供される。多分化能性幹細胞は、初めは、線維芽細胞フィーダーの上で培養されるか、またはそれらはフィーダなしで培養されることができる。hESCの単離方法およびヒトフィーダー細胞上での培養は、ヒトフィーダー細胞上でのヒトES細胞の培養方法(METHODS FOR THE CULTURE OF HUMAN EMBRYONIC STEM CELLS ON HUMAN FEEDER CELLS)の名称の、米国特許第7,432,140号に記載され、その全体が本明細書の一部として参照される。フィーダーの上に培養されたhESCsから直接作られているか、またはそれから開始された多分化能ES細胞集合体懸濁培養は、例えば、接着培養におけるようなhESC単分子層作成の必要性を避ける。これらの方法は実施例17および18に詳細に記載される。
本発明の他の実施態様は、分化培地、例えば、TGFβファミリーまたは受容体を活性化することのできる分化培地試薬、望ましくはTGFβファミリーメンバー内に、直接細胞集合体懸濁液を製造する方法を提供する。そのような試薬としては、アクチビン A、アクチビン B、GDF−8、GDF−11、およびNodalがあげられるが、これらには限定されない。分化培地内に細胞集合体懸濁液を製造する方法は他の方法と区別され、多分化能性幹細胞培地、例えばStemPro内に細胞集合体懸濁液培養物の生産を提供する。
本発明のさらなる他の実施態様は、たとえば上掲のd’Amour2005と2006年に記載されたようなステージ1、2、3、4からの細胞である、分化型hES細胞培養物(hES−由来細胞培養物」または「hES−由来細胞」とも呼ばれる)から形成された細胞集合体懸濁液を製造する方法を提供する。したがって、本明細書に記載される細胞集合体を形成するための方法は、hESまたはhES−由来細胞多分化能または多分化能ステージのいずれかに制限されないで、むしろ使用方法と細胞タイプ最適化の必要性が、どの方法が好ましいかを決めるだろう。これらの方法は実施例19−22で詳細に記載される。
本発明の別の実施態様では、得られる細胞組成物の制御、例えば膵性内はい葉細胞、膵臓内分泌細胞、および/または、PDXl内はい葉細胞の割合の制御を、異なった増殖因子の濃度を変えることによって行う。これらの方法は実施例21に詳細に記載される。
別途記載されない限り、本明細書で使用する用語は、関連技術における当業者の慣例的用法によると理解されるべきである。また、以下に提供された用語の定義に加えて、分子生物学上の一般的な定義は以下の文献に見いだされる;Riegerら,1991 Glossary of genetics:classical and molecular,5th Ed.,Berlin:Springer−Verlag;およびCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubelら,Eds.,Current Protocols,ajoint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley&Sons,Inc.,(1998 Supplement)。単数形の表記が明細書と特許請求の範囲において使用される場合、それが使用されている文脈に基づいて、1つまたはそれ以上の意味であることが理解されるべきである。たとえば、「細胞」は少なくとも1つの細胞を意味する。
また明細書および特許請求の範囲において、特記の無い限り、成分の量、物質の割合または比率、反応条件および他の数値については、すべての場合に“約”という用語によって修飾されるものとして理解される。反する記述のない限り、明細書および特許請求の範囲において記載される数値パラメータは近似値であり、本発明により得られることが求められるものに応じて変化することができる。少なくとも、特許請求の範囲について均等論の適用を制限するものではなく、それぞれの数値パラメータは少なくとも有効数字として報告されており、通常の丸めの技術によっている。
本発明はhES−由来単独細胞懸濁液から、hES−由来細胞集合体の生産のための方法を提供する。種々の機械的および非生物学的要素は、培養における細胞の動きと集合、最適の細胞集合体の生育性と特性に相関する流体機械的なミクロ環境、並びにスケールアップに使用できる規格化された変数に影響を与えるので、様々な培養容器、皿、バイオリアクタなどにおける細胞の増殖および分化の動きおよび効果、および存在する場合には細胞に関する様々な培地条件を特徴付けることが必要である。それらの要因としては、これらに限定するものではないが、せん断速度、せん断応力、細胞濃度、および細胞媒体中の種々の増殖因子があげられる。
せん断速度とせん断応力は、システム中の流体せん断を定義する力学特性である。せん断速度は、特定の距離における流体速度と定義されて、秒−1の単位で表される。せん断速度は、せん断応力に比例し、せん断速度(γ)=せん断応力(t)/粘度(マイクロ)である。せん断応力は、細胞表面のタンジェント方向に作用する流体せん断力と定義されて、単位面積あたりの力(ダイン/cmまたはN/m)として表される。せん断応力は静置されていた細胞を含む流体を撹拌することにより、静置した液体を通して細胞を撹拌することにより、または撹拌された動的な液体環境の中を細胞を動かすことにより発生されることができる。流体粘度は典型的にはポイズで測定され、1ポイズ=1ダイン 秒/cm=100センチポイズ(cp)である。知られている最少の粘性流体の1つである水の粘度は0.01cpである。培地における、真核細胞の典型的な懸濁液の粘度は、25℃の温度で1.0から1.1cpの間である。密度と温度の両方が液体粘度に影響する。
また、流体速度は、流れが層流であるか、または乱流であるかを決める。層流は、粘性力が支配的である場合に生じ、低速での平滑で均一な流線によって特徴付けられる。対照的に、乱流においては高速度と慣性力が支配的であり、渦巻(eddies)と渦(vortices)の発生、および空間と時間にまたがる無秩序な流れにより特徴付けられる。レイノルズ数(Re)として知られる無次元の数値は、層流または乱流の流れの存在を定量化するのに通常使用される。レイノルズ数は、慣性対粘性力の比率であり、(密度×速度×長さスケール)/(粘度)として定量化される。層流はRe<2300の時に支配的であり、Re>4000の時には乱流が支配的である。流体速度とのこの相関に基づいて、レイノルズ数とその結果、すなわち流体流が層流であるかまたは乱流であるかの程度は、懸濁液中の細胞が経験するせん断速度とせん断応力に直接正比例する。しかしながら、高速せん断応力条件は層流の、そして乱流の両方の液体環境で発生しうる。初めは、液体が動きに抵抗する傾向がある。引力を受ける固体表面の最も近くの流体には、境界層または流れがない範囲がすぐ表面に隣接して発生する。これは表面から流体流れの中心まで流体速度の傾きを形成する。流体速度の傾きは、境界層から最も高い流体速度の領域までの距離と、流体の速度の関数である。容器を通る、または容器の周りの液体流れが加速するのに従って、流れの速度は液体の粘度に打ち勝ち、そして、平滑で、層状から成る傾きは破壊され、乱流が形成される。トーマス他は、乱流条件の下の細胞分解が、局所的に高速せん断応力と高エネルギー放散速度の領域で最も頻繁に起こることを示した。トーマス他、(1994)Cytotechnology 15:329−335を参照。これらの領域はランダムに発生するが、速度勾配が最も高い境界層でしばしば見つけられる。流体速度におけるこれらのランダムな変動は、細胞培養の製造システムのスケールアップで決定的なマイナスの影響を与える場合がある、非常に高いせん断応力の領域を発生させる場合がある。したがって、ほ乳類細胞培養製造スケールアップシステムにおいて、そのようなシステムのせん断力の主な供給源を制御することによる、細胞密度と生育性を維持できる方法の必要性が存在している。
Henzler(Henzler、2000、バイオリアクター中での粒子応力(Particle stress in bioreactors)、In Advances in Biochemical Engineering/Biotechnology、Scheper、T. Ed. Springer−Verlag、Berlin)およびColomer他(Colomer、J.ら 2005. 低せん断流れにおける粒子凝集の実験的分析(Experimental analysis of coagulation of particles under low-shear flow)、Water Res. 39:2994)により与えられた方法により、回転する6−ウエルの皿中のバルク流体の流体機械的特性が計算された。無次元の応力は、乱流定数×(集合体直径/コルモゴロフ マイクロスケール)Λ乱流指数と等しい。せん断応力は無次元応力×流体密度×(動粘度×力のインプット)0.5と等しい。せん断速度はせん断応力/動粘度と等しい。力のインプットとコルモゴロフのマイクロスケールの計算において、レイノルズ数は、各回転速度について必要であり、(回転速度×フラスコ直径)Λ2/粘度と等しい。力のインプットとコルモゴロフのマイクロスケールの両方がレイノルズ数の関数なので、すべてのせん断応力およびせん断速度の計算値は回転速度に従って変化する。
そのうえ、せん断応力とせん断速度は、形成される集合体の直径に依存する無次元応力の関数であり、その結果、集合体によって経験されるせん断応力および速度は回転の時間と共に増加すると予想される。計算の例が、100−200ミクロンの集合体直径と、60−140rpmの間の回転速度について、実施例17に示されている。これらの方法は、経時的なバルク流体の平均したせん断に関する見積りを提供するために使用された。しかしながら、容器の壁におけるせん断応力は、境界効果のために最も高くなると予想される。壁面せん断応力を予測するために、Ley他が、6−ウエルの皿の壁面せん断応力が回転半径×(密度×動粘度)(2×pi×回転速度)0.5に等しいとの提案をした。このアプローチを使用して、壁面せん断応力は、60rpmから140rpmまでの回転速度について計算されて、実施例18に示されている。バルク流体中で集合体によって経験される時間平均されたせん断応力と異なり、壁で起こるせん断応力は集合直径に非依存性であることに注意すべきである。
培養細胞濃度は、また、組織機能の重要な要素であり、2次元である伝統的な組織(例えば、接着して構成されたもの)で達成および/または最適化するのは難しい。細胞濃度の分化に対する効果はさらに詳細に実施例20で説明される。より正確に生体内の細胞密度と立体配座を反映する3次元(3D)の構造を仮定することによって、細胞集合体はこの限界を克服できる。その結果、細胞がそれらの意図している構造を達成する期間をかなり減少し、および/または、より一貫していて効率的にすることができる。そのうえ、3D集合形式の細胞は分化することができ、より最適に機能することができる。この構造が、接着培養よりもより正常な生理学的現象に類似しているからである。製造工程における機械的な困難は、たとえば接着培養における機械的な困難と比較して、懸濁培養において浮動している細胞集合体にほとんどダメージを与えない。
また、典型的な製造規模の懸濁培養は細胞濃度を最大にしている間、細胞生存率を維持するための方法として培地の連続かん流(continuous perfusion)を利用する。このような関係においては、培地交換は接着細胞と懸濁集合体に異なった影響の流体せん断を与える。培地流れが細胞表面を横切って流れるとき、不動化された接着細胞は流体せん断応力を受けることがある。対照的に、懸濁集合体は集合体表面を横切るせん断応力をほとんど受けない。集合体が適用されたせん断力に対応して自由に崩れることができるからである。長期間のせん断応力が接着胚性幹細胞に有害であり、懸濁している集合体の形式が最適な生存および機能のために好しいことが予想される。多分化能性幹細胞から由来される多分化能性幹細胞、および/または、多分化能前駆細胞(multipotent progenitor cells)の生産のための効率的な製造プロセスと、せん断速度とせん断応力に関連する上記の観測された機構の必要性に基づく必要性が存在している。本発明は、初めて多分化能性幹細胞から懸濁形式、特には細胞集合体懸濁液形式で得られた多分化能性幹細胞、および/または、多分化能前駆細胞の生産のための製造方法を提供する。
本明細書において使用される時、「単独細胞懸濁液(single cell suspension)」またはその同等な表現は、すべての機械的または化学意味において、hES細胞単独細胞懸濁液またはhES−由来(hES-derived)単独細胞懸濁液を意味する。細胞集塊を解離して、第1次組織、培養物中の接着細胞および集合体から、単独細胞懸濁液を形成するためにはいくつかの方法が存在し、例えば、物理的力(細胞スクレーパ、狭口径ピペット、細針吸引、渦離解、および細かいナイロンまたはステンレスメッシュを通した強制濾過などによる摩砕などの機械的な解離)、酵素(トリプシン、コラゲナーゼ、アキュターゼ(Acutase)などによる酵素的な解離)、または両者の併用があげられる。さらに、hES細胞の単独細胞への解離を支持するために役立つ方法および培養培地条件は、エキスパンション、細胞選別、マルチウェルプレート検定のためのシーディングの定義のために有用であり、培養手順とクローンエキスパンジョンの自動化を可能にする。したがって、本発明の1つの実施態様は、長期の維持と未分化の多分化能hES細胞または分化型hES細胞の効率的なエキスパンションをサポートすることができる、単独細胞の安定した酵素学的解離hES細胞またはhES−由来細胞培養系を発生させるための方法を提供する。
本明細書において使用される時、「接触」という用語(すなわち、細胞、例えば、分化可能な細胞と、化合物との接触)は、化合物と細胞を一緒に生体外(例えば、培養物中で化合物を細胞に追加する)でインキュベートすることを含んでいることを意図する。
「接触」という用語は、被検者中で自然に起こることがある、ErbB3リガンド、および任意にTGF−βファミリーのメンバーを含む定義された細胞媒地への細胞のin vivo暴露(すなわち、天然の生理学的過程の結果、起こることがある暴露)を含めないことを意図する。ErbB3リガンド、および任意にTGF−βファミリーのメンバーを含む定義された細胞培地と細胞が接触するステップは、任意の好適な方法で行うことができる。例えば、接着培養、または懸濁培養で細胞を処理できる。細胞を安定させるか、または細胞を分化するために、定義された培地と接触された細胞は、さらに細胞分化環境で処理できることが理解される。
本明細書において使用される時、「分化」という用語は、それが由来する細胞タイプよりも、より分化された型である細胞タイプの生産について言及する。したがって、用語は部分的にまたは最終的に分化された細胞形を包含する。一般に、hES細胞から得られた分化細胞とは、hES−由来細胞、hES−由来細胞集合体培養物、hES−由来単独細胞懸濁液、またはhES−由来細胞接着培養物、および同様のものをいう。
本明細書において使用される時、「実質的に」の用語は、大きい範囲又は程度をいい、たとえば方法において「実質的に同様」の用語が使用される場合には、大きい範囲又は程度において類似し、他の方法とは異なる方法をいう。本明細書に使用される場合、例えば「実質的に含まない」、たとえば「実質的に汚染物を含まない」、「実質的に血清を含まない」、「インスリンまたはインスリン様増殖因子を実質的に含まない」、またはそれの同等表現は、溶液、培地、サプリメントおよび賦形剤なとが少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%において、または少なくとも99.5%、または少なくとも100%、血清、汚染物または同等物を含まないことを意味する。1つの実施態様では、血清を含まない、100%血清を含まない、または実質的に血清を含まない定義された培地が提供される。逆に、組成物、プロセス、方法、溶液、培地、サプリメント、賦形剤、および同様のものが、「実質的に同様である」またはそれと同等の表現が記載された場合には、プロセス、方法、溶液等が、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%が、本明細書で先に記載された方法と、また全体として本明細書に組み込まれた方法と類似することをいう。
本発明のある実施態様では、「富化された」という用語は、希望の細胞リネッジを約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%以上で含む細胞培養物をいう。
本明細書において使用される時、化合物の「有効な量」という用語またはそれと同等の表現は、フィーダー細胞がないときまたは血清もしくは血清代替物がないときに、1カ月以上、培養物における分化可能な細胞の安定化に作用するように、定義された培地の残余の成分中に存在する化合物の十分な濃度をいう。この量は、当業者であれば容易に決定することができる。
本明細書において使用される時、「発現」という用語は、ポリヌクレオチドの転写または細胞の中のポリペプチドの翻訳についていい、分子のレベルは分子を発現する細胞では分子を発現しない細胞よりも測定可能に高くされることをいう。分子の発現を測定する方法は、当業者にとって周知であり、ノーザンブロット法、RT PCR、in situ ハイブリダイゼーション、ウェスタンブロット法、および免疫染色があげられるが、これらに限定されるものではない。
本明細書において使用される時、細胞、細胞ライン、細胞培養または細胞のポピュレーションについて述べる時、「単離された(isolated)」という用語は、細胞の天然源から実質的に分離され、細胞、細胞ライン、細胞培養、または細胞ポピュレーションが生体外で培養できるようにされることをいう。さらに、「単離」という用語は、二個以上の細胞のグループからの1種以上の細胞の物理的選択についていい、細胞は細胞のモルホロジーおよび/または様々なマーカーの発現に基づいて選択される。
本発明は、以下の本発明の好ましい実施態様の詳細な説明ならびにそこに含まれる実施例を参照することでさらによく理解され得る。しかしながら、本発明にかかる組成物と方法について説明する前に、本発明は特定の核酸、特定のポリペプチド、特定の細胞型、特定の宿主細胞、特定の条件、または特定の方法などに限定されないことが理解されるべきである。当業者には当然、種々の改良と変更が明らかである。
DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼなどを含む、クローン化、DNA単離、増幅、および精製のための標準的方法、酵素反応のための標準的方法、および様々な分離技法は当業者により知られていて、一般的に採用されているものである。
多くの標準的方法がSambrookら,1989 Molecular Cloning,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory,Plainview,New York;Maniatisら,1982 Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,Plainview,New York;Wu(Ed.)1993 Meth.Enzymol.218,Part I;Wu(Ed.)1979 Meth. Enzymol.68;Wuら,(Eds.)1983 Meth.Enzymol. 100 and 101;Grossman and Moldave(Eds.) 1980 Meth.Enzymol.65;Miller(ed.)1972 Experiments in Molecular Genetics,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York;Old and Primrose,1981 Principles of Gene Manipulation,University of California Press,Berkeley;Schleif and Wensink,1982 Practical Methods in Molecular Biology;Glover Ed.)1985 DNA Cloning Vol.I and II,IRL Press,Oxford,UK;Hames and Higgins(Eds.)1985 Nucleic Acid Hybridization,IRL Press,Oxford,UK;および Setlow and Hollaender 1979 Genetic Engineering: Principles and Methods,VoIs.1−4,Plenum Press、New York;に記載されている。使用される略語と用語体系は、この分野で標準であると考えられて、本明細書に引用されたものなどの専門雑誌で一般的に使用される。
本発明は基本栄養塩溶液、ErbB3リガンドの有効な量を含む組成物と方法に関し、本発明の組成物は実質的に血清を含まない。本発明の組成物および方法は、細胞、特には分化可能な細胞の培養に有用である。分化可能な細胞を培養する間の異なったポイントで、様々な成分を細胞培養に追加できることが理解される。培地は本明細書に記載されたもの以外の成分を含むことができる。しかしながら、培地の調製の間、または分化可能な細胞の培養の間の1つのポイントで、定義された培地は基本栄養塩溶液とErbB2−由来チロシンキナーゼの活性化手段を含むことが企図される。
本明細書に記載される基本栄養塩溶液は、hESの細胞成育と生育性を維持するのに使われるが、本発明の他の実施態様においては、多分化能または多能性細胞の分化を維持するために、代替の幹細胞培養液も実質的に同様に作用し、たとえばKSR(Invitrogen)、無異物性のKSR(xeno-free KSR)(Invitrogen)、StemPro(登録商標)(Invitrogen)、mTeSR(登録商標)l(StemCell Technologies)、HEScGRO(ミリポア)、DMEMベース培地などがあげられるが、これらに制限されるものではない。
別の実施態様では、hES細胞は、細胞外マトリックス蛋白質(ECM)、たとえばMATRIGELの存在下および/または非存在下で、本明細書に記載された定義された培地で培養される。ECMの非存在下で培養されたヒト胚性幹細胞は、約0.5〜10%ヒト血清(hS)を含んでいるか、または300Kおよび/または100Kカットオフスピンカラム(Microcon)からのhS濃縮画分を含む。直接hSまたはhS濃縮画分を含む培地でhES細胞を直接インキュベートすることによって、hES細胞集合体懸濁液を製造できる。hSまたはhS濃縮画分と培地容器を約30分、1時間、2時間、3時間、4、何時間、5時間、6時間、12時間、および24時間、37℃でインキュベートした後に、hES細胞集合体懸濁液を製造できる。hSまたはhS濃縮画分含有培地におけるhES細胞のためのコロニー形成率は、PCT/US2007/062755に記載されている、DC−HAIFで培養されたhES細胞、またはECMとしてMATRIGELを使用してDC−HAIF培地で培養されたhES細胞、または他の類似する培地で培養されたhES細胞において観察されたものと匹敵していた。実質的に血清を含まない定義された培地でhES細胞を培養することが、2007年10月19日に出願された、米国出願番号11/8875、057の、ヒト幹を含む多能性幹細胞培地のフィダーのための方法と組成物(METHODS AND COMPOSITIONS FOR FEEDER PLURIPOTENT STEM CELL MEDIA CONTAINING HUMAN SERUM)に記載され、これは本明細書の一部として組み込まれる。
異なる実施態様では、hES細胞集合体懸濁液は実質的に血清を含まない培地で、外因的に付加された繊維芽細胞生長因子(FGF)の非存在下で培養された。これはトムソンらの米国特許番号7,005,252の、血清を含まない培地であるが、FGFをはじめとする外因的に付加された増殖因子を含む培地でhES細胞を培養することを必要とする発明と区別される。
細胞制御は細胞の中で生化学経路を調節することに至る、膜を横切る細胞外シグナルの形質導入を通して作用できる。蛋白質燐酸化は最終的に細胞応答をもたらす、細胞内信号が分子から分子へ伝播される1つの経過を表す。これらの情報伝達カスケードは非常に規制され、ホスファターゼおよび多くのプロテインキナーゼの存在により証明されるように、しばしば重なる。プロテインチロシンキナーゼが人間では、糖尿病、癌腫を含む多くの病状の発展における重要な役割を有することが知られて、また、さまざまな先天性症候群に関係すると報告された。セリントレオニンキナーゼ(例えば、Rho−キナーゼ)は酵素類のクラスであり、阻害されたならば、糖尿病、癌腫、さまざまな炎症性の心臓血管疾患、およびAIDSをはじめとする、人間のかかる病気の治療に関連性を持つことができる。これまで特定されたか、または設計された阻害剤の大部分が、ATP結合部位で作用する。そのようなATP拮抗阻害剤は、ATP結合部位の、より不十分に保存された領域を狙う選択能を示した。
小さいGTP結合蛋白質のRho−キナーゼファミリーはRho A−EとG、Rac1および2、Cdc42、およびTC10を含む少なくとも10のメンバーを含む。
阻害物はしばしばROKまたはROCK阻害剤と呼ばれる、そして、それらは本明細書において互換性を持って使用される。RhoA、RhoB、およびRhoCのエフェクタドメインは、同じアミノ酸配列を持って、同様の細胞内標的を持っているように見える。Rho−キナーゼはRhOの原発性川下媒体(primary downstream mediator)として操作して、2つのアイソフォームα(ROCK2)とβ(ROCKl)として存在している。Rho−キナーゼファミリー蛋白質は、N末端ドメインに触媒作用(キナーゼ)ドメイン、中間部分にコイルドコイル領域、およびC末端領域に推定プレックストリン相同性(putative pleckstrin-homology)(PH)ドメインがある。ROCKのRho−結合ドメインは、コイルドコイル領域のC末端部分に局所化されて、RhoのGTP結合形式はキナーゼ活性の増進をもたらす。Rho/Rhoキナーゼ仲介経路は、アンジオテンシンII、セロトニン、トロンビン、エンドセリン−1、ノルエピネフリン、血小板由来増殖因子、ATP/ADP、および細胞外ヌクレオチド、およびウロテンシンIIをはじめとする多くのアゴニストにより開始される情報伝達で重要な役割を果たす。目標作動因子/基体の調節で、Rho−キナーゼは、平滑筋収縮、アクチン細胞骨格組織、細胞接着、自動運動性、および遺伝子発現を含む様々な細胞機能で重要な役割を果たす。また、動脈硬化の病因に関連していると知覚されている多くの細胞機能を調停することにおけるRho−キナーゼタンパク質の果たす役割により、このキナーゼの阻害剤は、アテローム性動脈硬化を進行すると思われる内皮の収縮と内皮透過性の増大に伴った様々な動脈硬化性心血管病の治療または予防の役に立つかもしれない。したがって、本発明の他の実施態様では、細胞生存を促進する、および/または、サポートする薬剤が、種々の細胞培養培地、例えば、Rho−キナーゼ阻害剤Y−27632、Fasudil、およびH−1152PおよびITS(インスリン/鉄結合性グロブリン/セレニウム;Gibco)に加えられる。これらの細胞生存促進薬は、たとえば前腸内胚葉、膵性内胚葉、膵性上皮、膵性幹細胞集団、および同様のもの、特には分離された膵性内胚葉および膵性幹細胞集団のような、部分的に分離したhES細胞またはhESによって由来された培養物の再会合を促進することにより機能する。hESまたはhES−由来の細胞の生存の増大は、細胞が懸濁された細胞集合体で生産されたか、または接着性の平板培養から製造されたかどうかの如何にかかわらず、細胞外マトリックスの有無、血清の有無、フィーダーの有無にかかわらず達成された。これらの細胞集団の生存の増大は、セルソータを使用した精製システムを容易にして、改良する。したがって、細胞の回収を改良した。Y27632などのRho−キナーゼ阻害剤の使用は、連続継代で分離した単独細胞、または極低温の保存からの生存を促進することによって、hES−由来の細胞タイプのエキスパンションを許容する。Y27632などのRho−キナーゼ阻害剤は、hESおよびhES由来細胞培養物でテストされ、Rho−キナーゼ阻害剤は他の細胞形に適用でき、たとえば一般に上皮性細胞、たとえば肺、胸腺、腎臓、神経性の細胞タイプ、たとえば網膜色素上皮細胞などに適用できる。
本明細書において使用される時、「分化可能な細胞」という用語は、少なくとも部分的に成熟した細胞に分化できる細胞または細胞集合、または細胞の分化、たとえば他の細胞との融合、または少なくとも部分的に成熟した細胞への分化に参加できるものを記載するために使用される。本明細書において使用される時,「部分的に成熟している細胞(partially mature cells)」、「前駆細胞(progenitor cells)」、「未熟細胞(immature cells)」、「前駆体細胞(precusor cells)」、「多能性細胞(multipotent cells)」、およびそれらと同等の用語は、例えば、最終的な内はい葉細胞、PDXl陰性前腸内胚葉細胞、PDXl陽性プレ膵性内はい葉細胞を含むPDXl陽性の膵性内はい葉細胞、PDXl陽性膵性内胚葉端細胞のような、末端分化細胞を含む。すべてが、同じ臓器または組織からの成熟細胞の、たとえばモルホロジーまたは蛋白質発現などの遺伝表現型の少なくとも1つの特徴を示すが、さらに他の少なくとも1つの細胞タイプに分化できる。例えば、正常の、成熟したヘパトサイトは、アルブミン、線維素原、α−1−アンチトリプシン、プロトロンビン凝固因子、鉄結合性グロブリン、およびシトクロムP−450などの解毒酵素のようなタンパク質を通常発現する。したがって、本発明において「部分的に成熟しているヘパトサイト」は、アルブミンまたは別の1種以上のタンパク質を発現することができるか、または正常で、成熟したヘパトサイトの外観または機能を持ち始めることができる。
サイズと形の両方で異なることがある以前に知られている方法で製造された細胞集合体と対照的に、本明細書に記載された細胞集合体と方法は、狭いサイズと形状の分布を有する。すなわち、細胞集合体はサイズおよび/または形が実質的に均一である。分化性能と培養均質性に、細胞集合体の大きさの均一性は重要である。透過性が等しいと仮定すると、基本的な質量輸送分析を集合体に適用した場合には、より小さい集合体への拡散と比べて、大きい集合体の中心への酸素および栄養物の拡散は遅くなると予想される。膵性リネッジ細胞への集合した胚性幹細胞の分化が特異的増殖因子の一時的適用に依存しているので、異なった直径の集合体の混合物を有する培養物は、均一(大きさ形状)な細胞集合体と比べて、同期していない培養物である傾向がある。細胞集合体のこの混合物は不均一をもたらして、低い分化性能をもたらして、結局製造、スケールアップ、および生産にそれ自体を適合させることができない。本明細書に使用された細胞集合体は、様々な形のものであることができる、例えば、球、シリンダ(望ましくは、等しい高さと直径を有する)、または棒状などであることができる。本発明の1つの実施態様で他の形状の集合体を使用できるが、一般に、細胞集合体が球体、または筒状であることが望ましい。別の実施態様では、細胞集合体は、球体であって大きさ形状が実質的に一定である。例えば、細胞集合体がサイズにおいて異なるか、または均一でないなら、細胞の大規模なスケールアッププロセスを信頼性良く製造して、実行するのは難しいだろう。したがって、本明細書に使用される場合、「実質的に一定」の、または「大きさ形状が実質的に一定」の句またはそれの同等表現は、集合体の均一性における広がりについて言及して、それは約20%以下である。別の実施態様では、集合体の均一性における広がりは、約15%以下、10%以下または5%以下である。
1つの集合あたりの細胞の正確な数は重要でないが、それぞれの集合のサイズ(その結果、1集合あたりの細胞数)が酸素および栄養物が中心細胞に拡散する能力によって制限され、またこの数は細胞タイプとこの細胞タイプの栄養需要量に応じて変化することが当業者によって認められるだろう。細胞集合体は、1集合あたりの細胞の最少数(例えば、2または3つの細胞)を含むことができるか、または1集合あたり数百または数千もの細胞を含むことができる。通常、細胞集合体は1集合あたり数百から数千の細胞を含む。本発明の目的のために、細胞集合体は典型的には約50ミクロンから約600ミクロンのサイズを有するが、細胞のタイプにより変化し、サイズはこの範囲内よりさらに少ないか、または大きいことができる。1つの実施態様では、細胞集合体のサイズは、約50ミクロンから約250ミクロン、または約75〜200ミクロン、望ましくは約100〜150ミクロンである。対照的に、懸濁液で得られることができる筒状の、または非球状細胞の集合体では、マイナー、およびメジャーな軸(例えば、X、Y、およびZ軸)に基づいた直径が等しくない。これらの非球状細胞集合体は、サイズが大きく、直径および高さが約500ミクロンから600ミクロンである傾向がある。しかしながら、それらが分化していなかった場合、本明細書に記載された方法で分化がいったん開始されると、これらの非球状hES細胞集合体は球体になる。非球状細胞集団は、筒状の、そして立方体様の細胞集合体を含み、これらに制限されないが、サイズと形状は依然として一定である。
本明細書に記載された細胞集合体を形成するのに多くの細胞タイプを使用できる。一般に、設計される(例えば、膵臓、肝臓、肺、腎臓、心、膀胱、血管、および同様のものを含む様々な臓器構造)三次元構造に応じて、細胞タイプの選択は異なるだろう。例えば、三次元構造が膵臓であれば、細胞集合体は膵臓で通常見られる1つまたは複数の細胞タイプ(例えば、インスリン、グルカゴン、グレリン、などの内分泌細胞ソマトスタチンタイプ細胞、内皮細胞、平滑筋細胞など)を有利に含むだろう。当業者は、立体的な組織または臓器のタイプに基づいて望ましいように細胞集合体のための適切な細胞形を選ぶことができる。適当な細胞タイプとしての非限定的な例としては、細胞(例えば、成人のおよび胚性)、収縮性または筋肉細胞(例えば、横紋筋細胞と平滑筋細胞)、神経系細胞(例えば、膠細胞、樹枝状、およびニューロン)、結合組織(骨、軟骨、骨形成細胞および軟骨形成細胞に分化する細胞、およびリンパ組織)、実質細胞、上皮系細胞(腔、脈管またはチャンネルでライニングを形成する内皮細胞)、外分泌上皮細胞、上皮系吸収細胞、角化上皮系細胞(例えば、角質細胞と角膜上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌細胞、粘膜上皮細胞、腎臓上皮細胞、肺上皮細胞、乳房上皮細胞、および同様のもの、および未分化細胞(たとえば胚細胞、幹細胞、他の前駆細胞など)があげられる。
本明細書に記載された細胞集合体は、ホモ細胞集合体またはヘテロ細胞の集合体である場合がある。本明細書において使用される時、「ホモ細胞」、「単細胞」の細胞集合体またはそれの同等の表現は懸濁液中の複数の細胞集合体を示す。ここで各細胞集合体は実質的に単独細胞の複数の生細胞を含む。たとえば本明細書の方法で製造されるhES細胞集合体は、実質的にホモ細胞であることができ、多分化能hES細胞から実質的に成ることができ、最終的な内はい葉細胞から実質的に成ることができ、前腸内はい葉細胞から実質的に成ることができ、膵性内はい葉細胞から実質的に成ることができ、さらにPDXl−陽性のプレ膵性内はい葉細胞、PDXl−陽性の膵性内はい葉細胞、PDXl−陽性の膵性内胚葉、膵性の内分泌性前駆細胞、膵臓内分泌細胞、および同様のものであることができる。
本明細書において使用される時、「実質的に」または「本質的に」との用語は、「デ ミニマム(de minimus)」または少量の成分または細胞が細胞集合体懸濁液タイプ内に存在することを意味し、たとえば本明細書に記載された懸濁液における細胞集合体は「本質的にまたは実質的に均質」であり、「本質的にまたは実質的にホモ細胞」であり、「本質的にhES細胞」であり、「本質的にまたは実質的に最終的な内はい葉細胞」であり、「本質的にまたは実質的に前腸内はい葉細胞」であり、「本質的にまたは実質的にPDXl−陰性の前腸内はい葉細胞」であり、「本質的にまたは実質的にPDXl−陽性のプレ膵性内はい葉細胞」であり、「本質的にまたは実質的にPDXl−陽性の膵性内胚葉または前駆細胞」であり、「本質的にまたは実質的にPDXl−陽性の膵性内胚葉端細胞」であり、「本質的にまたは実質的に膵性内分泌腺の前駆細胞」であり、「本質的にまたは実質的に膵性内分泌腺の細胞」、および同様のものである。
実質的にホモ−細胞の細胞集合体懸濁液培養液は、たとえば約50%未満のhESCs、約45%未満のhESCs、約40%未満のhESCs、約35%未満のhESCs、約30%未満のhESCs、約25%未満のhESCs、約20%未満のhESCs、約15%未満のhESCs、約10%未満のhESCs、約5%未満のhESCs、約4%未満のhESCs、約3%未満のhESCs、約2%未満のhESCsまたは約1%未満のhESCsを、培養物におけるhES−由来の細胞合計に基づいて含む、hES−由来細胞集合体懸濁液培養物である。別の表現をすれば、hES−由来細胞集合体懸濁液培養物、たとえばPDXl−陰性の前腸内胚葉、PDX−陽性のプレ膵性内はい葉細胞、PDXl−陽性の膵性内胚葉または前駆細胞、PDXl−陽性の膵性端細胞、膵性内分泌前駆細胞、および膵臓内分泌細胞を少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%で含む。
本明細書において使用される時、「ヘテロ細胞の(hetero-cellular)」および「多細胞の(multi-cellular)」またはそれらと同等な表現は、細胞集合体であって、それぞれの細胞集合体は少なくとも2、3、4、5、6以上の細胞タイプの複数の細胞を含む細胞集合体、または少なくとも1の細胞タイプと非細胞成分、例えば細胞外マトリックス(ECM)物質(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、および/または、プロテオグリカン)を含む細胞集合体をいう。そのようなECMコンポーネンツは細胞により自然に分泌できるか、または細胞はECM物質および/または、細胞接着分子、たとえばレクチン、インテグリン、免疫グロブリン、またはカドヘリンなどの発現水準を変えることが当該技術分野で知られている任意の適切な方法で遺伝子操作されることができる。別の実施態様では、集合体生成の間、天然のECM物質またはECM物質を模倣する任意の合成物質のいずれかを集合体に組み入れることができる。例えば、膵性上皮または膵性内胚葉細胞集合体(またはステージ4細胞集合体)などのhES−由来細胞集合体の本明細書に記載された生産方法は、膵性上皮または内はい葉細胞から実質的に成るが、小細胞数の他の非膵性上皮性タイプ細胞、または内胚葉前駆細胞、および膵性内分泌性細胞(例えば、インスリン分泌細胞)からなることもできる。
本明細書に記載された懸濁方法により生産されたホモ−、またはヘテロ−細胞集合体は、当該技術分野において記載された細胞集合体とは異なり、胚様体(EBs)と呼ばれた細胞集合体と同じではない。EBsは、ES細胞が単層培養中で過成長した時、または未定義の培地で内の懸濁培養で維持されるか、または多発性胚葉組織に向けた非由来性のプロトコール(すなわち、ランダムな分化)を介して分化された時に現れる分化したおよび未分化の細胞の細胞集合体であるので、胚様体は本明細書に記載された細胞集合体と明確に区別される。対照的に、実施例17と20で詳細に議論される本発明は、接着性の平板培養で酵素的にhES細胞を分離し、単独細胞懸濁液を形成し、ついで複数の細胞を一緒にして細胞集合体を形成し、上記のd’Amour2005および2006に実質的に記載されているように、これらの細胞集合体懸濁培養を分化のために使用する。以下でさらにEBsと本発明の細胞集合体の他の相違点について議論する。
さらに、胚様体(EBs)を形成する他の方法を説明する。本明細書において使用される時、「胚様体(embryoid bodies)」、「集合体(aggregate bodies)」との用語またはそれと同等の表現は、ES細胞が単層培養中で過成長した時、または未定義の培地で内の懸濁培養で維持されるか、または多発性胚葉組織に向けた非由来性のプロトコール(すなわち、ランダムな分化)を介して分化された時に現れる分化したおよび未分化の細胞の細胞集合体をいう。すなわち、EBsは、本明細書に記載されるような、多分化能性幹細胞の単独細胞懸濁液から形成されない。また、EBsはhES−由来の多能性細胞の接着培養から形成されない。これらの特徴のみによっても、胚様体と本発明は明確に区別される。
胚様体はモルホロジー的な評価基準により識別可能な通常、数個の胚葉である異なる細胞タイプの混合物である。胚様体とはそれの大部分が非由来分化、すなわち、たとえば未分化細胞が定義された増殖因子が存在していない血清の高濃縮に露出されたような、胚性幹(ES)細胞から得られる細胞の集団から構成される形態学的構造について通常言及する。EB形成(例えば、マウス胚性幹細胞のためのLeukemiaの抑制要素、または他の、同様のブロック因子の除去)に適した培養条件の下では、胚性幹細胞は増殖し、小塊の細胞を形成して分化し始める。最初に、ヒト胚性幹細胞のための約1−4日の分化に対応して、細胞の小塊は内胚葉細胞の層を外側の層の上に形成する。これは「単純性胚様体」であると考えられている。第二に、ヒト胚性幹細胞のための約3−20日の後分化に対応して、「複雑な胚様体」が形成される。これは外胚葉性および中胚葉細胞および誘導体組織の大規模な分化で特徴付けられる。本明細書において使用される時、文脈により異なるものと考えられない限り、EBsは単純性のものと複雑なEBsの両者を含んでいる。
ES細胞の培養で胚様体を形成した時に関する決定は、当技術分野の当業者によって例えば、モルホロジーの目視検査により、ルーチン的に行われる。培養条件に依存して、約20以上の細胞の浮いた塊はEBsであると考えられている。たとえばSchmittら、(1991)Genes Dev.5,728−740;Doetschmanら(1985)J.Embryol.Exp.Morph.87、27−45を参照。また、用語は胚性生殖腺領域から抽出された初期の細胞である、始原生殖細胞から得られたものと等価の構造をも意味する。例えば、Shamblott,ら(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,13726を参照。また当技術分野で時々EG細胞または胚芽細胞と呼ばれる始原生殖細胞は、適切な因子群で処理されると、胚様体を誘導することができる多分化能胚性幹細胞を形成できる。例えば、米国特許番号5,670,372、および上記のShamblottらを参照。
EBsを作るための様々な方法が存在している、例えば(2008)ネイチャープロトコル3(5):468−776に記載されたスピン胚様体(spin embryoid bodies)、上記のBauwens他(2008)に記載されているような、マイクロパターンド細胞外マトリックスアイランド上にプレーティングされた単独細胞懸濁液からEBsが形成される。しかしながら、これらの方法はhES細胞およびhESによって由来された細胞の大規模な生産(製造)には、費用的に採算が合わず、それほど効率的でない。スケールアップ生産が実際に始まるまでに、あまりに多くの工程を必要とするからである。たとえば、Bauwens他の方法では、細胞が懸濁培養を始めるために選択される前に、最初に低減した増殖因子MATRIGEL(登録商標)にhES細胞をシードしなければならない。この方法の時間と費用は、カスタム設計されたマイクロ−パターンド組織培養プレートが必要であるので、厄介である。さらに、Ngらの方法は、hES細胞とhES−由来の細胞の大規模な製造には、より均一なEBを作成するために遠心分離機の使用が必要であり、費用効率的でない。最後に、これらのすべての方法論では、本発明のようには、細胞集合体は多分化能性幹細胞の単独細胞懸濁液から作られない。
胚様体は本発明で記載される細胞集合体とは異なり、3つの胚葉からの多数の細胞タイプで作られた細胞集合体であり、典型的には未分化型胚性幹細胞の集合体を非有向性分化シグナル(non-directed differentiation signals)、たとえば20%のウシ胎仔血清などに暴露することによって作成される細胞集合体である。この非有向性方法論の結果は、生体外で通常の胎児成長をまねることを意図する細胞タイプの混合物である。このアプローチは基礎研究レベルで胎児成長を調べることの役に立つが、それは細胞収率、集団のアイデンティティ、集団の純粋さ、バッチの一貫性、安全性、細胞機能、および商品原価が主要な関心であるところのすべての大規模な細胞治療製造プロセスには適用できない。そのうえ、胚様体から所定の細胞タイプを精製するのに使われた任意の富化作用戦略にかかわらず、分化プロトコールは単独細胞タイプの大集団を発生させる直接的なアプローチを提供しない。それに続いて、汚染物集団がいつも支配的であり、特定集団を精製するどんな試みも妨げるだろう。胚性幹細胞の集合体を作成して、分化することへのすべての先行研究は、それらの方法論において以下のコンポーネンツの一個以上を有する:
1) ヒト胚性幹細胞ではなくマウスの使用
2) 通常の細胞接着過程ではなく、細胞を集合させるために遠心沈殿に依存する強制集合プロトコール
3) 静的条件における、細胞塊の集合
4) 非単独細胞解離または表面の細胞をこすり落とすことによる集合体の形成
5) すべての胚様体と胚葉の細胞タイプの形成をもたらす、15−20%の胎児ウシ血清を使用する細胞集合体の非直接分化。
我々の知識によれば、胚様体を分化するのに15−20%のFCSを利用しない唯一の研究が、細胞集合体が強制的な集合で形成されて、次に集合体がすぐに中胚葉に、適切な培地を使用して分化されるプロトコールについて説明する(Ngら、Blood.2005 106(5):1601)。しかしながら、この仕事では、10−12日間静的に集合された後、研究者が非集合の接着培養に胚様体を移しているので、本発明とは無関係である。従来の仕事と対照的に、本発明は
1) ヒト胚性幹細胞を単独細胞に分離し、集合直径および細胞生存のコントロールを改良するために最適化されたせん断速度で回転培養(rotational culture)することによる集合体の形成、
2) 次に直接、最終的な内胚葉へES細胞集合体を分化させ、前腸内胚葉に分化させ、プレ膵性前腸内胚葉へ分化させ、次いで膵性内胚葉および最終的に膵臓内分泌細胞へ分化させる。
この分化プロトコールは高能率と最小量の汚染物集団で、最終的な内胚葉および膵性リネッジ集団を発生させる。そのうえ、他のすべての公開された研究と対照的に、胚性幹細胞集合と分化へのこのアプローチは胚様体を作成しない。
分化型および未分化細胞の混合物であり、典型的には数個の胚葉からの細胞から成り、ランダムな分化を行う胚様体と対照的に、本明細書に記載された細胞集合体は、本質的にまたは実質的にホモ−セルであり、多分化能、バイポーテント(bipotent)、またはユニポーテント(unipotent)タイプの細胞の集団として存在し、たとえば胚細胞、最終的な内胚葉、前腸内胚葉、PDXl−陽性の膵性内胚葉、膵臓内分泌細胞、および同様のものとして存在する。
本発明は、再現可能に、容易に大規模製造に適用できるプロセスを使用し、実質的に大きさおよび形状が一定の細胞集合体を製造できる経済効率的な製造プロセスまたは方法を提供することによって、上記の課題を解決する。1つの特定の実施態様では、分化可能な細胞は本発明の細胞培地を使用して、懸濁培養中でエキスパンドする。別の特定の実施態様では、分化可能な細胞が懸濁液内に保持されエキスパンドされる。すなわち、それらは、未分化型のままで残っているか、またはさらに分化するのが阻まれる。当該技術分野において、細胞増殖に関連して「エキスパンド(expand)」の用語が使用される時、細胞増殖および細胞数の増加、好ましくは生菌細胞数の増加をいう。具体的な実施態様では、細胞は、培養懸濁液中で、約1日、すなわち約24時間以上の間培養することによって、エキスパンドする。より具体的な実施態様では、細胞は懸濁培養中で少なくとも1、2、3、4、5、6、7日間、または少なくとも2、3、4、5、6、7、8週間培養することによりエキスパンドする。
本明細書に記載された分化培養条件とhES−由来の細胞タイプは、実質的にd’Amour他、2006、上掲、で記載されていたものと同様である。d’Amour他、2006、は5ステップ分化プロトコールについて説明する:
ステージ1(実質的に最終的な内胚葉生産)
ステージ2(実質的にPDXl−陰性の前腸内胚葉生産)
ステージ3(実質的にPDXl−陽性の前腸内胚葉生産)
ステージ4(実質的に、膵性内胚葉、または上皮または膵性内分泌性前駆体生産)、および
ステージ5(実質的に、ホルモン発現性内分泌細胞生産)。
重要なことには、初めて、本明細書に記載された懸濁法でこれらのすべての細胞形を製造できる。
本明細書において使用される時、「最終的な内胚葉(DE)」は、腸管または腸管に由来する臓器細胞に分化できる多分化能内胚葉リネッジ細胞を示す。ある実施態様によると、最終的な内はい葉細胞はほ乳動物細胞である。そして、好適な実施態様では、最終的な内はい葉細胞はヒト細胞である。本発明のいくつかの実施態様では、最終的な内はい葉細胞は、発現するか、またはあるマーカーを有意に発現しない。いくつかの実施態様では、SOXl7、CXCR4、MXLl、GATA4、HNF3beta、GSC、FGFl7、VWF、CALCR、FOXQl、CMKORl、CRIPl、およびCERから選ばれた1種以上のマーカーは、最終的な内はい葉細胞の中で発現される。他の実施態様では、OCT4、α−フェトタンパク(AFP)、スロムボムデュリン(Thrombomodulin(登録商標))、SPARC、SOX7、およびHNF4alphaから選ばれた1種以上のマーカーは、最終的な内はい葉細胞の中で有意に発現されない。最終的な内胚葉細胞集合体とそれの生産方法は、2004年12月23日に出願された、名称が最終的内胚葉(DEFINITIVE ENDODERM)の、米国特許出願第11/021,618に記載されており、この出願は全体が本明細書に組み込まれる。
本発明のさらに異なる実施態様は、「PDXl−陰性の前腸内はい葉細胞」および「前腸内はい葉細胞」、およびそれらの同等物の細胞培養と細胞集合体に関する。PDXl−陰性の前腸内はい葉細胞は、また多分化能であり、様々な細胞と、胸腺、甲状腺、副甲状腺、肺/気管支、肝臓、咽頭部、鰓嚢、十二指腸の一部およびエウスターキオ管を含む組織をもたらすことができる。いくつかの実施態様では、前腸内胚葉細胞は、SOX17、HNFlB、HNFlα、FOXAlを非前腸内胚葉細胞、たとえばこれらのマーカーを有意に発現しない最終的な内胚葉またはPDX陽性の内胚葉と比べて、増加するレベルで発現する。PDXl−陰性の前腸内はい葉細胞は、PDXl、AFP、SOX7、およびSOXlを低レベルで発現するかまたは全く発現しない。PDXl−陰性の前腸内胚葉細胞集合体とその生産方法は、2006年10月27日に出願された、PDXI発現性の背側および腹側の前腸内はい葉細胞(PDXl-expressing dorsal and ventral foregut endoderm)のタイトルの米国特許出願第11/588,693に記載され、この出願は全体が本明細書に組み込まれる。
本発明の他の実施態様は「PDXl−陽性の膵性前腸内胚葉細胞」、および「PDXl−陽性のプレ膵性内胚葉」、またはそれの同等物の細胞培養に関する。PDXl−陽性のプレ膵性内はい葉細胞は、多分化能であり、様々な細胞および/または、胃、腸および膵臓をはじめとする組織をもたらすことができる。いくつかの実施態様では、これらのマーカーを多量には発現しない非プレ膵性内はい葉細胞と比べて、PDXl−陽性のプレ膵性内はい葉細胞は、PDXl、HNF6、SOX9、およびPROXlを増大したレベルで発現する。また、PDXl−陽性のプレ膵性内はい葉細胞は、NKX6.1、PTFlA、CPA、およびcMYCを低レベルで発現するかまたは全く発現しない。
本発明の他の実施態様は、「PDXl−陽性の膵性内はい葉細胞(PDXI-positive pancreatic endoderm cells)」、「PDXl陽性の膵性前駆(PDXI-positive pancreatic progenitor)」、「膵性上皮(pancreatic epithelium)」、「PE」またはそれらの同等物の細胞培養に関する。PDXl−陽性の膵性前駆細胞は、多分化能であり、腺房、管および内分泌細胞を含む膵の中の様々な細胞をもたらすことができる。いくつかの実施態様では、PDXl−陽性の膵性前駆細胞は、PDXlとNKX6.1を、これらのマーカーを多量には発現しない非プレ膵性内はい葉細胞と比べて、増大したレベルで発現させる。また、PDXl−陽性の膵性前駆細胞は、PTFlA、CPA、cMYC、NGN3、PAX4、ARX、NKX2.2、INS、GCG、GHRL、SST、およびPPを低レベルで発現するかまたは全く発現しない。
あるいはまた、本発明の他の実施態様は「PDXl−陽性の膵性内胚葉端細胞(PDXI-positive pancreatic endoderm tip cells)」、またはそれの同等物の細胞培養に関する。いくつかの実施態様では、PDXl−陽性の膵性内胚葉端細胞はPDXl−陽性の膵性前駆細胞と同様、増加したレベルのPDXlおよびNKX6.1を発現するが、PDXl陽性の膵性前駆細胞と異なり、PDXl−陽性の膵性内胚葉端細胞はさらに、PTFlA、CPAおよびcMYCを増加したレベルで発現する。PDXl−陽性の膵性内胚葉端細胞は、NGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2、INS、GCG、GHRL、SST、およびPPを低レベルで発現するかまたは全く発現しない。
本発明の他の実施態様は「膵性内分泌性前駆細胞」、「膵性内分泌前駆細胞」またはそれの同等物の細胞培養に関する。膵性内分泌前駆細胞は、多分化能であり、アルファ、ベータ、デルタおよびPP細胞を含む成熟している内分泌細胞をもたらす。いくつかの実施態様では、他の非内分泌性前駆細胞タイプと比べて、膵性内分泌前駆細胞はNGN3、PAX4、ARX、およびNKX2.2を増加したレベルで発現する。また、膵性前駆細胞はINS、GCG、GHRL、SST、およびPPを低レベルで発現するかまたは全く発現しない。
本発明のさらなる実施態様は、「膵臓内分泌細胞」、「膵臓ホルモン分泌細胞」、「膵性の小島ホルモン発現細胞」、またはそれの同等物の細胞培養に関し、多能性細胞から生体外で得られた細胞、例えば、アルファ、ベータ、デルタおよび/またはPP細胞またはそれらの組み合わせに関する。内分泌細胞はポリ−ホルモン性またはシングル−ホルモン性であることができ、たとえば、インスリン、グルカゴン、グレリン、ソマトスタチン、および膵臓ポリペプチドまたはそれらの組み合わせであることができる。したがって、内分泌細胞は1種以上の膵臓ホルモンを発現することができる。これは少なくともヒトすい島細胞の機能のいくつかを有する。膵島ホルモン発現細胞は、成熟または未熟であることができる。ある種のマーカーの示差的発現に基づいてか、または生体外または生体内での機能的な能力、例えば、グルコース反応性に基づいて、成熟している膵性小島ホルモン発現細胞と未熟な膵性小島ホルモン発現細胞を区別できる。また、膵臓内分泌細胞はNGN3、PAX4、ARX、およびNKX2.2を低レベルで発現するかまたは全く発現しない。
間葉の最終的な内はい葉細胞と比べて、上記の細胞形の大部分は上皮化される。いくつかの実施態様において、膵性内はい葉細胞は、2006年10月27日に出願された、PDXI発現性の背側および腹側の前腸内はい葉細胞(PDXl EXPRESSING DOSAL AND VENTRAL FOREGUT ENDODERM)の名称の米国特許出願11/588,693に記載された表3から選択される1つ以上のマーカー、および/または表4から選択される1つ以上のマーカー、および2005年4月26日に出願されたPDXI発現性の内はい葉細胞(PDXl-expressing endoderm)の名称の米国特許出願11/115,868の1種以上のマーカーを発現する。これらは本明細書中に参考として全体が援用される。
本発明は、それらのソースまたはそれらの形成性(plasticity)にかかわらず、分化可能な細胞に有用な組成物と方法を企図する。本明細書においては、当該技術分野においてそうであるように、細胞の「形成性」は概略的な意味で使用される。すなわち、細胞の形成性は、胎児、胎児または成長した有機体からの組織または臓器で見い出される特定の細胞タイプに分化する細胞の能力について言及する。細胞が「より形成性」であればあるほど、細胞が分化できるかもしれない組織はより多くなる。「多分化能細胞」は、細胞とそれらの子孫(progeny)を含んでいる。それらは多分化能(pluripotent)、マルチ分化能(multipotent)、オリゴポテント(oligopotent)、および単能性(unipotent)細胞に分化するか、それらをもたらすか、および/または、全部でない場合には数個の、胎児、胎児または成長した有機体からの臓器で見い出される成熟したまたは部分的に成熟した細胞タイプとなる。「マルチ分化能細胞」は細胞とそれらの子孫を含んでいる。それらはマルチ分化能、オリゴポテント、および単能性細胞に分化するか、それらをもたらすか、および/または、成熟したまたは部分的に成熟した細胞タイプが特定の組織、臓器または臓器システムに限定される場合を除き、1以上の成熟したまたは部分的に成熟した細胞タイプとなる。例えば、マルチ分化能造血剤前駆細胞、および/またはその子孫は、1種以上のタイプの骨髄性前駆細胞やリンパ前駆細胞細胞などのオリゴポテント細胞に分化するか、またはそれらをもたらす能力を有し、また、通常、血液の中で見つけられる他の成熟した細胞組成をもたらす。「オリゴポテント細胞」は、成熟した、または部分的に成熟した細胞に分化する能力が多能性細胞より制限されている細胞およびそれらの子孫を含む。しかしながら、オリゴポテント細胞は、オリゴポテントおよび単能性細胞、および/または、1種以上の成熟した、または部分的に成熟した細胞タイプの特定の組織、臓器または臓器系に分化するような能力をまだ持つことができる。オリゴポテント細胞の1つの例は、骨髄性の前駆細胞である。これは成熟した、または部分的に成熟した、赤血球、血小板、好塩基球、好酸球、好中性および単核細胞をもたらすことができる。「単能性細胞」は、他の単能性細胞、および/または、1つのタイプの成熟した、または部分的に成熟した細胞タイプに分化するか、それらをもたらす能力を持っている細胞とそれらの子孫を含む。
本明細書に使用される分化可能な細胞は多分化能、マルチポテント、オリゴポテント、または、ユニポテントであることができる。本発明のある実施態様では、分化可能な細胞は多分化能の分化可能な細胞である。より特異的な実施態様では、多分化能の分化可能な細胞は、はい幹細胞、ICM/胚盤葉上層細胞、原始外胚葉細胞、始原生殖細胞、および奇形癌細胞から成る群から選択される。1つの特定の実施例では、分化可能な細胞は哺乳動物はい幹細胞である。より特定の実施態様では、分化可能な細胞はヒト胚性幹細胞である。
本発明は、細胞が本明細書に定義されるような分化可能であるならば、動物の中の任意のソースからの分化可能な細胞をも企図する。例えば、分化可能な細胞は、胎児、またはその内部の任意の始原生殖層、胎盤またはじゅう毛膜組織、または成人の幹細胞などの、より成熟している組織から得ることができ、たとえば脂質、骨髄、神経組織、乳房組織、肝臓組織、膵臓組織、上皮性組織、呼吸器組織、生殖腺および筋肉組織から得ることができるが、これらに制限されるものではない。具体的な実施態様では、分化可能な細胞ははい幹細胞である。他の具体的な実施態様では、分化可能な細胞は成人の幹細胞である。
さらに、他の具体的な実施態様では、幹細胞は胎盤の、または、絨毛膜に由来する幹細胞である。
本発明は、もちろん分化可能な細胞を発生させることができるすべての動物からの分化可能な細胞も使用することを企図する。分化可能な細胞が得られる動物は、脊椎動物、無脊椎動物、哺乳動物、非哺乳動物、人間、または非人間であることができる。動物ソースの例としては、霊長動物、齧歯動物、犬科、ネコ科、ウマ科、うし科、およびブタ科の動物を含むが、これらに限定されない。
当業者に知られている任意の方法を使用することで本発明の分化可能な細胞を誘導できる。例えば、脱分化および核移植方法を使用することでヒト多能性細胞を製造できる。さらに、本発明に使用されるヒトICM/胚盤葉上層細胞または原始外胚葉細胞は生体内または生体外で誘導できる。原始外胚葉細胞はWO99/53021に記載されているように、接着培養または懸濁培養における細胞集合体として生産できる。さらに、ヒト多能性細胞は当業者に知られている任意の方法により継代することが可能で、手動の継代方法や、酵素的、または非酵素的継代方法などのバルク継代方法を使用することができる。
ある実施態様では胚性幹細胞が利用される場合、はい幹細胞は正常核型を持っているが、他の実施態様では、はい幹細胞が異常核型を持っている。1つの実施態様では、はい幹細胞の大部分が正常核型を持っている。調べられた有糸分裂の中期の50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上が正常核型を示すことが企図される。
別の実施態様では、はい幹細胞の大部分が異常核型を持っている。調べられた有糸分裂の中期の50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上が異常核型を示すことが企図される。ある実施態様では、細胞が5以上、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または20以上の継代培養された後には、異常核型が明白である。1つの具体的な実施態様では、異常核型は常染色体が染色体1、7、8、12、14および17から成る群から選択される少なくとも1つの常染色体の三染色体を含む。別の実施態様では、異常核型は少なくとも1よりも多い常染色体の1つが染色体1、7、8、12、14および17から成る群から選択される1よりも多い常染色体の三染色体を含む。1つの実施態様では、常染色体は、第12染色体または17染色体である。別の実施態様では、異常核型は性染色体をさらに含む。1つの実施態様では、核型は2個のX染色体と1個のY染色体を含む。また、染色体の転座が起こることがあると想定されて、そのような転座は「異常核型」という用語中に包含される。また、上記の染色体異常と他の染色体異常の組み合わせは本発明に包含される。
本発明の組成物と方法は基本栄養塩溶液を含む。本明細書において使用される時、基本栄養塩溶液とは、通常の細胞代謝のために本質的なある種のバルクな無機イオン類と水を細胞に提供する塩の混合物であり、細胞内と細胞外の浸透バランスを維持して、エネルギー源として炭水化物を提供して、生理的pH範囲内の中に媒体を維持するための緩衝化システムを提供する塩の混合物をいう。基本栄養塩溶液の例としては、ダルベッコの修正イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(Minimal Essential Medium)(MEM)、基本イーグル培地(Basal Medium Eagle)(BME)、RPMl1640、ハムズF−10(Ham's F-10)、ハムズF−12(Ham's F-12)、アルファ−最小必須培地(α-Minimal Essential Medium)(αMEM)、グラスゴー最小必須培地(Glasgow's Minimal Essential Medium)(G-MEM)、およびイスコブの改良ダルベッコ培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、およびそれらの混合物があげられるが、これらに限定されるものではない。1つの具体的な実施例では、基本栄養塩溶液はDMEMとハムズF12の約50:50混合物である。
組成物がさらに微量元素を含むことが企図される。商業的に微量元素を購入でき、例えば、Mediatechから購入できる。微量元素の非限定的な例としては、アルミニウム、塩素、硫酸、鉄、カドミウム、コバルト、クロム、ゲルマニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ホスフェートおよびマグネシウムがあげられるが、これらに制限されるものではない。微量元素を含む化合物の具体的な例としては、AlCl、硝酸銀、Ba(C、CdCl、CdSO、CoCl、CrCl、Cr(SO、CuSO、クエン酸第二鉄、GeO、KI、KBr、LI、モリブデン酸、MnSO、MnCl、NaF、NaSiO、NaVO、NHVO、(NHMo24、NiSO、RbCl、セレニウム、NaSeO、HSeO、亜セレン酸塩−2Na、セレノメチオノン、SnCl、ZnSO、ZrOCl、それらの混合物、およびそれの塩があげられるが、これらに制限されるものではない。セレニウム、亜セレン酸塩またはセレノメチオノンが存在している場合には、約0.002〜約0.02mg/Lの濃度で存在する。また、さらに、ヒドロキシルアパタイトも存在することができる。
定義された培地にアミノ酸類を加えることができると企図される。そのようなアミノ酸類の非限定的な例としては、グリシン、L−アラニン、L−アラニル−L−グルタミン、L−グルタミン/グルタマックス、L−塩酸アルギニン、L−アスパラギン−HO、L−アスパラギン酸、L−システイン ヒドロクロライド HO、L−シスチン2HCl、L−グルタミン酸、L−ヒスチジン塩酸塩−HO、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−塩酸リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−ヒドロキシプロリン、L−セリン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン二ナトリウム塩二水和物、およびL−バリンがあげられる。ある実施態様では、アミノ酸は、L−イソロイシン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−ヒドロキシプロリン、L−バリン、およびそれらの混合物質である。
また、定義された培地はアスコルビン酸を含むことができると企図される。望ましくは、アスコルビン酸は約1mg/Lから約1000mg/L、または2mg/Lから約500mg/L、または約5mg/Lから約100mg/L、または約10mg/Lから約100mg/L、または約50mg/Lの初期濃度において存在している。
さらに、本発明の組成物と方法は他の成分を含むことができ、たとえば血清アルブミン、鉄結合性グロブリン、L−グルタミン、リピド、抗生物質、βメルカプトエタノール、ビタミン、鉱物、ATP、および類似物が存在することができる。存在することができるビタミン類の例としてはビタミンA、B、B、B、B、B、B、B、B12、C、D、D、D、D、D、E、トコトリエノール、KおよびKを含むが、これらに限定されない。当業者はミネラル、ビタミン、ATP、リピド、必須脂肪酸などの、特定の培養における使用のための最適濃度を決定できる。例えば、サプリメントの濃度は約0.001マイクロMから約1mMまたはそれ以上であることができる。サプリメントが提供されることができる濃度の具体的な例は、約0.005マイクロM、0.01マイクロM、0.05マイクロM、0.1マイクロM、0.5マイクロM、1.0マイクロM、2.0マイクロM、2.5マイクロM、3.0マイクロM、4.0マイクロM、5.0マイクロM、10マイクロM、20マイクロM、100マイクロMなどがあげられるが、これらに限定されない。1つの具体的な実施態様では、本発明の組成物と方法はビタミンBとグルタミンを含む。別の具体的な的実施態様では、本発明の組成物と方法はビタミンCと鉄分サプリメントを含む。別の具体的な実施態様では、本発明の組成物および方法は、ビタミンKとビタミンAを含む。別の具体的な実施態様では、本発明の組成物および方法は、ビタミンDとATPを含む。別の具体的な実施態様では、本発明の組成物と方法はビタミンB12および鉄結合性グロブリンを含む。別の具体的な実施態様では、本発明の組成物と方法はトコトリエノールとβメルカプトエタノールを含む。別の具体的な実施態様では、本発明の組成物と方法はグルタミンとATPを含む。別の具体的な実施態様では、本発明の組成物と方法はオメガ3−脂肪酸とグルタミンを含む。別の具体的な実施態様では、本発明の組成物と方法はオメガ6−脂肪酸とビタミンBを含む。別の具体的な実施態様では、本発明の組成物と方法は、α−リノレン酸、およびBを含む。
本発明の組成物は事実上血清を含まない。本明細書において使用される時、「事実上血清を含まない」とは、本発明の溶液における、血清の非存在を示す。血清は、本発明の組成物と方法における必須成分ではない。したがって、すべての組成物における血清の存在は単に不純物とされ、たとえば細胞初代培養からの残留結成であるか、または出発物質からのものである。例えば、事実上血清を含まない培地または環境は、10%未満、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%未満の血清を含むことができ、媒体または環境の改良された生物活性維持能力が依然として観測される。本発明の具体的な実施態様では、事実上血清を含まない組成物は、血清または血清代替物を含んでいないか、または定義された培地に加えられる血清または血清代替物の成分の単離からの血清または血清代替物の痕跡量を含むだけである。
本発明の組成物および方法においては、分化可能な細胞の中にErbB2チロシンキナーゼ活性を刺激する手段を含む。本発明の具体的な実施態様では、本発明の組成物および方法は、少なくとも1つのErbB3リガンドの存在を含む。典型的には、ErbB3リガンドは、ErbB3受容体と結合して、ErbB2受容体と二量化する。ErbB2受容体は、次いで分化可能な細胞の中で細胞内のチロシンキナーゼ活性に応答性となる。
本明細書において使用される時、「ErbB3リガンド」はErbB3に結合するリガンドであって、ついでErbB2と二量化し、その結果、ErbB2/ErbB3ヘテロ二量体受容体のErbB2部分のチロシンキナーゼ活性を活性化するものをいう。ErbB3リガンドの非限定的な例としてはニューレグリン−1;HRG−β、HRG−α、ニュー分化因子(Neu Differentiation Factor:NDF)を含むニューレグリン−1のスプライス変異体とアイソフォーム、アセチルコリン受容体由来作用(ARIA)、膠細胞増殖因子2(GGF2)、および知覚性および運動性ニューロン−由来要素(Sensory And Motor Neuron-Derived Factor:SMDF)、ニューレグリン−2;NRG2−βを含むがこれに限定されないニューレグリン−2のスプライス変異体(splice variants)とアイソフォーム;エピレグリン;ビレグリン(Biregulin)があげられる。
1つの実施態様では、ErbB2−由来チロシンキナーゼ活性を刺激する手段は、ニューレグリン−1、ヘレグリン−β(Heregulin−β:HRG−β)、ヘレグリン−α(HRG−α)、ニュー分化因子(NDF)、アセチルコリンの受容体由来活性体(ARIA)、膠細胞増殖因子2(GGF2)、運動ニューロン由来要素(motor-neuron derived factor:SMDF)、ニューレグリン−2、ニューレグリン−2β(NRG2−β)、エピレグリン(Epiregulin)、ビレグリン、およびそれらの変異体、機能的な断片(functional fragments)からなる群から選択された少なくとも1つのErbB3リガンドを含む。別の具体的な実施態様では、本発明の組成物および方法は、たとえば二個以上ErbB3リガンドを使用することであるがこれらに限定されない、ErbB2−由来チロシンキナーゼ活性を刺激する1より多い手段を含む。
さらなる具体的な実施態様では、本発明の組成物と方法は、ErbB3リガンドは、HRG−β、またはそれらの変異体、機能的な断片である。1つの実施態様では、培地添加タンパク質、ポリペプチド、それらの変異体または由来体の機能的な断片は、培養される細胞種と同じである。例えば、マウス胚性幹細胞が培養されている場合、培養における添加物としてハツカネズミ(mus musculs) HRG−β配列と同じアミノ酸配列を有するHRG−βを使用でき、「同じ種」であると考えられる。他の実施態様では、生物学的添加物から誘導された種は、培養される細胞と異なっていると考えられる。例えば、マウス胚性幹細胞が培養されている場合、ヒトHRG−β配列と同じアミノ酸配列を有するHRG−βを使用でき、「異なる種」であると考えられる。
本明細書において使用される時、「機能的な断片」は、完全な長さのポリペプチドとして同様の生理的または細胞の効果を生む完全な長さのポリペプチドの断片またはスプライス変異体をいう。機能的な断片の生物学的な効果は、同様の生理的または細胞の効果が見られる限り、完全な長さのポリペプチドと同じ範囲または強度である必要はない。例えば、HRG−βの機能的な断片は検出可能にErbB2−由来チロシンキナーゼを刺激できる。
本明細書において使用される時、「変異体」という用語はキメラまたは融合ポリペプチド、同族体、類似物と、オーソログ、またはパラログを含む。さらに、参照される蛋白質またはポリペプチドの変異体は、アミノ酸配列が参照される蛋白質またはポリペプチドと少なくとも約80%同じであるタンパク質またはポリペプチドである。具体的な実施態様では、変異体は比較蛋白質またはポリペプチドと少なくとも約85%、90%、95%、95%、97%、98%、99%、または100%同じである。本明細書において配列アラインメントに関連して用語「対応する」が使用される時には、参照される蛋白質またはポリペプチド内の記載された位置を意味することを意図している。たとえば野生型ヒトまたはマウスのニューレグリン−1と、変成された蛋白質またはポリペプチドにおける参照される蛋白質またはポリペプチドにおける位置をいう。したがって、対象のタンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列が、参照される蛋白質またはポリペプチド配列のアミノ酸配列と並べられた時、参照される蛋白質またはポリペプチドのアミノ酸配列のある記載された位置に対応する配列は、参照される配列の位置と並ぶ配列であり、参照配列と正確な数字の同じ位置にある必要があるわけではない。以下で配列間で対応するアミノ酸を決定するための配列を整列する方法を説明する。
たとえばTGF−βである参照されるアミノ酸配列コードとたとえば少なくとも約95%「同じ」アミノ酸配列を有するポリペプチドは、ポリペプチドのアミノ酸配列が参照されるTGF−βをコード化する参照アミノ酸配列の100アミノ酸あたり最大およそ5つの変成を含むことができるのを除いて、ポリペプチドのアミノ酸配列が参照配列と同じであることを意味することが理解される。言い換えれば、参照アミノ酸配列と約95%同じアミノ酸配列を持っているペプチドを得るためには、参照配列のアミノ酸残基の約5%までを削除するか、または他のアミノ酸で置換でき、または参照配列に、総アミノ酸類の約5%までのアミノ酸を挿入できる。参照配列のこれらの修飾は参照アミノ酸配列のN末端またはC末端位置において、またはそれらの端末の位置の間のどこでも起こることができ、参照配列のアミノ酸の間に個別に存在するか、または参照配列中に1種以上の隣接するグループとして存在することができる。
本明細書において使用される時、「同一性」の用語は、参照されるヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比べた、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の同一性の尺度である。一般に、配列は最も高い順番の一致が得られるように並べられる。「同一性」自体は、当該技術分野で認識された意味を持ち、公知の技術により計算できる。(参照:、例えば、コンピュータによる分子生物学(Computational Molecular Biology)、Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York(1988);Biocomputing:インフォーマティクスおよびゲノムプロジェクト(Informatics And Genome Projects),Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York(1993);配列データのコンピュータ分析 パート(Computer Analysis of Sequence Data,Part I),Griffin,A.M.,and Griffin,H.G,eds.,Humana Press,New Jersey(1994);von Heinje,G,分子生物学における配列分析(Sequence Analysis In Molecular Biology),Academic Press(1987);および 配列分析プライマー(Sequence Analysis Primer),Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M Stockton Press,New York(1991))。2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の間の同一性を測定するいくつかの方法が存在しているが、「同一性」という用語は当業者には公知である(Carillo,H.&Lipton,D.,Siam J Applied Math 48:1073(1988))。2つの配列の間の同一性または類似性を決定するのに一般的に使われる方法は、これに限定されるものではないが、大規模コンピュータのガイド(Guide to Huge Computers),Martin J.Bishop,ed.,Academic Press,San Diego(1994)and Carillo,H.& Lipton,D.,Siam J Applied Math 48:1073(1988)に開示されている。コンピュータプログラムは同一性と類似性について計算する方法とアルゴリズムを含むことができる。2つの配列の間の同一性と類似性を決定するコンピュータプログラム方法の例は、これに限定されるものではないが、GCG プログラムパッケージ(Devereux,J.,ら,Nucleic Acids Research 12(i):387(1984)),BLASTP,ExPASy5 BLASTN, FASTA(Atschul,S.F.,ら,J Molec Biol 215:403(1990))および FASTDBに示される。同一性と類似性を決定する方法の例は、Michaels,G.and Garian,R.,Current Protocols in Protein Science,VoI 1,John Wiley & Sons,Inc.(2000)に記載され、これは参照され、本明細書に組み込まれる。本発明の1つの実施態様では、二つ以上のポリペプチドの間の同一性を決定するために使用されるアルゴリズムは、BLASTPである。
本発明の別の実施態様では、二つ以上のポリペプチドの間の同一性を決定するために使用されるアルゴリズムは、FASTDBである。これはBrutlagらのアルゴリズムによる(Comp.App.Biosci.6:237−245(1990))。これは参照され、本明細書に組み込まれる。FASTDB配列アラインメントでは、対照とされる配列はアミノ配列である。得られる配列アラインメントの同一性はパーセントで示される。同一性のパーセントを計算するためにアミノ酸配列のFASTDBアラインメントに使用されるパラメータ類は、これらに限定されないが、以下の通りである。マトリックス=PAM、k−tuple=2、ミスマッチペナルティ=1、ジョイニングペナルティ=20、ランダマイゼイショングループ長さ=0、カットオフスコア=1、ギャップペナルティ=5、ギャップサイズペナルティ 0.05、ウインドーサイズ=500、または対象とされるアミノ配列の長さの、どちらか短い方。
対象の配列がN末端またはC終点の付加または染色体欠失のために対象とされる配列よりも短いかまたは長い場合、内部の付加または染色体欠失のためであるかに関わらず、手作業で矯正をすることができる。なぜなら、パーセントの同一性について計算するとき、FASTDBプログラムが対象の配列のN末端とC末端のトランケーションまたは付加を計算しないからである。対象とされている配列に関し、5’または3’末端においてトランケーションされている配列について、同一性のパーセントは、マッチング/アラインしていない対象配列に対する、N−末端およびC末端である対象配列の塩基の数について計算することによって、対象配列の全塩基のパーセントとして修正される。FASTDB配列アラインメントの結果が、マッチング/アラインメントを決定する。アラインメントの割合は、具体的なパラメータ類を使用して上記のFASTDBプログラムで計算された同一性パーセントから引き算され、最終パーセント同一性スコアが得られる。アラインメントがどのようにお互いに「対応するか」を決定する目的に、同一性パーセントと同様に、この修正されたスコアを使用できる。手動で同一性パーセントスコアを調整する目的のために、参照または対象の配列のNまたはC末端を超えて伸びる質問(対象)の配列の残基を考慮することができる。すなわち、比較配列のNまたはC末端にマッチ/アラインされていない残基は、手動でパーセント同一性スコアまたはアラインメントナンバリングを調整するときに計算できる。
例えば、90アミノ酸残基被検配列は、パーセントの同一性を決定するために100残基参照配列と並べられる。染色体欠失は対象の配列のN末端で起こる。したがって、FASTDB配列はN末端で最初の10残基のマッチ/アラインメントを示さない。10の不対残基が配列の10%を示す時(NとC末端における残基数が被検配列における残基の総数と合っていない時)、FASTDBプログラムで計算されたパーセント同一性スコアから10%が引かれる。残っている90の残基が完全に合わせられているなら、最終的な同一性パーセントは90%である。別の例では、90残基の対象配列は100の対象配列と比較される。このとき、染色体欠失は、対象の配列のNまたはC末端には残基が全くない、対象とマッチしないかまたはアラインされていない内部欠損である。
この場合、FASTDBによって計算されたパーセントの同一性は、手動で修正されない。
また、本発明はキメラまたは融合ポリペプチド(chimeric or fusion polypeptides)を提供する。本明細書において使用される時、「キメラポリペプチド」または「融合ポリペプチド」は、少なくとも第二の異なったポリペプチドに有効にリンクされた参照ポリペプチドのメンバーの一部を含む。第二のポリペプチドは、実質的に参照ポリペプチドと同じでないポリペプチドに対応するアミノ酸配列を有し、該ポリペプチドは同じかまたは異なった有機体から誘導される。融合ポリペプチドに関して、「有効にリンクする」という用語は、参照ポリペプチドと第二のポリペプチドがお互いに融合し、両方の配列が使用される配列に生ずる期待される機能を実現させるようにされることを意図する。参照ポリペプチドのN末端またはC末端に第二のポリペプチドを融合できる。例えば、ある実施態様では、融合ポリペプチドは、IGF−1配列がGST配列のC末端に融合されたGST−IGF−1融合ポリペプチドである。そのような融合ポリペプチドは組換ポリペプチドの精製を容易にすることができる。別の実施態様では、融合ポリペプチドはN末端におけるヘテロロガスシグナル配列を含むことができる。ある宿主細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞)の中では、ポリペプチドの発現および/または分泌はヘテロロガスシグナル配列の使用で増加できる。
断片および融合ポリペプチドに加えて、本発明は天然存在ポリペプチドの同族体と類似物を含んでいる。「同族体」は本明細書において類似又は同一のヌクレオチドまたはアミノ酸配列を持つ2つの核酸またはポリペプチドと定義される。同族体は、以下に定義されるような、対立遺伝子多型、オーソログ、パラログ、アゴニスト、およびきっ抗体を含んでいる。「同族体」という用語はさらに遺伝コードの縮退のため参照ヌクレオチド配列と異なっていて、その結果参照ヌクレオチド配列によってコード化されたものと同じポリペプチドをコード化する核酸分子を包含する。本明細書において使用される時、「天然存在」は天然に発生する核酸またはアミノ酸配列を示す。
ポリペプチドのアゴニストは実質的にポリペプチドの生物活動と同じ、またはサブセットを保持できる。ポリペプチドの拮抗物質はポリペプチドから天然に発生する活性の一以上を禁止できる。
本発明の組成物および方法のより具体的な実施態様では、ErbB3リガンドは、HRG−β、その変異体または機能的な断片である。さらに、ErbB3リガンドの非限定的な例は以下に開示される。米国特許No.6,136,558、6,387,638、および7,063,961。これらは参考として本明細書に援用される。
一般に、ヘレグリンは2つの主要な型式に分類され、C末端部分で異なる2つの変異体のEGF−様ドメイン(EGF-like domains)に基づいて、アルファおよびベータとされる。しかしながら、これらのEGF−様ドメインは、そこに含まれる6つのシステイン残基のスペーシングが同じである。アミノ酸配列比較に基づいて、ホームズ他は、EGF−様ドメインの1番目から6番目のシステインの間において、HRGsがヘパリン結合EGF−様増殖因子(HB EGF)と45%類似し、アンフィレグリン(AR)と35%同一で、TGF−αと32%同一で、EGFと27%同一であることを見いだした。
44KDa ニュー分化因子(NDF)はヒトHRGのラット同等物である。HRGポリペプチドのように、NDFはEGF−様ドメインが免疫グロブリン(Ig)相同ドメインの(immunoglobulin (Ig) homology domain)あとに続き、N末端シグナルペプチドを欠いている。現在、EGF−様ドメインの配列に基づく、アルファまたはベータポリペプチドのどちらかとして分類された少なくとも6の異なった線維芽細胞 pro−NDFsがある。アイソフォーム1から4はEGF−様ドメインと膜貫通領域の間の変化するストレッチに基づいて特徴付けられる。したがって、異なったNDFアイソフォームは、スプライシングの変化により発生して、異なった組織特異的機能を実行できるように見える。EP 505148;WO93/22424;および WO94/28133を参照。これらは本明細書に援用される。
本発明の1つの実施態様では、本発明の組成物と方法は外因のインスリンとインスリン代用物を含まない。「外因のインスリンまたはインスリン代用物」を含まないという句は、インスリンまたはインスリン代用物を故意に本発明の組成物または方法に追加されないということを示すのに本明細書に使用される。本発明のある実施態様では、本発明の方法と組成物は、したがって、故意に供給されるインスリンまたはインスリン代用物を含まない。しかしながら、本発明の組成物または方法が必ずしも内因性インスリンを踏むことができないというわけではない。本明細書において使用される時、「内因性インスリン」は、本発明の方法により培養された時に、培養細胞が自らの作用としてインスリンを製造できることを示す。細胞初代培養からの不純物、または出発物質からの残留不純物を示すものとして内因性インスリンが使用されることもある。具体的例では、本発明の組成物および方法は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1マイクロg/mL以下のインスリンを含んでいる。
本明細書において使用される時、「インスリン」という用語は、正常な生理学的濃度でインスリン受容体と結合し、インスリン受容体を通してシグナルを引き起こすことができる、タンパク質、変異体またはその断片を示す。「インスリン」という用語は、すべての自然なヒトインスリン、他の哺乳動物インスリン、これらの配列の同族体やまたは変異体のポリペプチド配列を有するタンパク質を包含する。さらに、用語インスリンはインスリン受容体と結合し、インスリン受容体を通してシグナルを引き起こすことができる、ポリペプチド断片を包含する。「インスリン代用物」という用語はインスリンとして実質的に同様の結果を与えるためにインスリンに代わって使用されるすべての亜鉛含有化合物をも包含する。インスリン代用物の例としては、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、臭化亜鉛、および硫酸亜鉛を含むが、これらに限定されない。
はっきり言えば、インスリン様増殖因子は、本発明で企図されるインスリン代用物でなく、またインスリンの同族体でもない。従って、別の具体的実施態様では、本発明の組成物および方法は少なくとも1回のインスリン様増殖因子(IGF)、変異体またはそれの機能的な断片の使用を含む。別の実施態様では、本発明の組成物および方法はすべての外因のインスリン様増殖因子(IGFs)も含まない。具体的実施態様では、本発明の組成物および方法は200、150、100、75、50、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1ng/mL以下のIGF−1を含んでいる。
本明細書において使用される時、「IGF−1Rのアクチベータ」という用語は調整された細胞増殖、分化、およびアポプトーシスにおいて極めて重要な役割を果たす有糸分裂促進因子をいう。IGF−1Rのアクチベータの効果は、他の受容体を通して媒介されることもできるが、IGF−1Rを通して通常媒介される。また、IGF−1Rは腫瘍ウイルス蛋白質と癌遺伝子産物によって引き起こされた細胞形質転換を含み、相互作用は特異的結合蛋白質(IGFBPs)のグループによって規制される。さらに、IGFBPプロテアーゼの大きいグループはIGFBPsを加水分解し、IGFs結合を解離し、IGF−1Rと相互作用する能力を再開する。本発明の目的のために、リガンド、受容体、結合蛋白質、およびプロテアーゼはすべてIGF−1Rのアクチベータであると考えられている。ある実施態様では、IGF−1Rのアクチベータは、IGF−1、またはIGF−2である。更なる実施態様では、IGF−1RのアクチベータはIGF−1類似物である。IGF−1類似物の非限定的な例は、LongR3−IGFl,Des(l−3)IGF−1,[Arg]IGF−l,[Ala31]IFG−1,Des(2,3)[Ala31]IGF−1,[LeU24]IGF−l,Des(2,3)[Leu24]IGF−l,[Leu60]IGF−l,[Ala31][Leu60]IGF−l,[Leu24][Ala31]IGF−l,およびそれらの組み合わせである。更なる実施態様では、IFG−1類似物はLongR3−IGFlである。LongR3−IGFlはヒトインスリン増殖因子−1の組換え型の類似物である。LongR3−IGFlは、約1ng/mLから約1000ng/ml、より望ましくは約5ng/mlから約500ng/mL、より望ましくは約50ng/mlから約500ng/mL、より望ましくは約100ng/mlから約300ng/mL、または約100ng/mlの濃度において初期的に存在していると想定される。
ある実施態様では、本発明の組成物および方法は、形質転換増殖因子ベータ(transforming growth factor beta:TGF−β)、またはTGF−βファミリー、変異体またはそれの機能的な断片を含む。本明細書において使用される時、「TGF−βファミリーのメンバー」という用語または増殖因子に関連して使用される同様の語は、TGF−βファミリーに関連する当業者に使用される一般的なもの、またはTGF−βファミリーのメンバーに知られた相同性により、またはTGF−βファミリーのメンバーに知られた機能の類似性により特徴付けられる。本発明の具体的な実施対態様では、TGF−βファミリーのメンバーが存在する場合には、TGF−βファミリーのメンバー、変異体またはそれの機能的な断片がSMAD2または3を活性化する。ある実施態様では、TGF−βファミリーのメンバーは、ノーダル(Nodal)、アクチビン A、アクチビン B、TGF−β、骨形成タンパク質−2(BMP2)、および骨形成タンパク質−4(BMP4)から成るグループから選ばれる。1つの実施態様では、TGF−βファミリーのメンバーはアクチビン Aである。
ノーダル(Nodal)が存在している場合には、約0.1ng/mLから約2000ng/ml、より望ましくは約1ng/mlから約1000ng/mL、より望ましくは約10ng/mlから約750ng/mL、より望ましくは約25ng/mlから約500ng/mLの初期濃度で存在していることが企図される。使用される場合には、アクチビン Aは約0.01ng/mLから約1000ng/ml、より望ましくは約0.1ng/mlから約100ng/mL、より望ましくは約0.1ng/mlから約25ng/mL、または望ましくは約10ng/mlの初期濃度において存在していることが企図される。存在する場合には、TGF−βは約0.01ng/mlから約100ng/mL、より望ましくは約0.1ng/mlから約50ng/mL、より望ましくは約0.1ng/mlから約20ng/mLの初期濃度において存在していることが企図される。
本発明の追加の実施態様では、本発明の組成物および方法はFGF受容体のアクチベータを含まない。現在、繊維芽細胞生長因子のファミリーの少なくとも22の公知のメンバーがあり、これらの因子は4つのFGF受容体の少なくとも1つに結合する。本明細書において使用される時、「FGF受容体のアクチベータ」という用語は、一般に、FGF−βファミリーに関連する当業者に使用される一般的なもの、またはFGF−βファミリーのメンバーに知られた相同性により、またはFGF−βファミリーのメンバーに知られた機能の類似性により特徴付けられる増殖因子をいう。ある実施態様では、FGF受容体のアクチベータはFGFであり、たとえばαFGFおよびFGF2であるが、これらに限定されない。具体的な実施態様では、組成物および方法には外因のFGF2を含まない。「外因のFGF2」を含まないとの用語は、故意に本発明の組成物または方法に線維芽細胞増殖因子2、すなわち塩基性FGFが追加されないことを示すものとして本明細書に使用される。したがって、本発明のある実施態様では、本発明の方法と組成物は故意に供給されたFGF2を含まない。しかしながら、本発明の組成物または方法が必ずしも内因性のFGF2を含むことができないというわけではない。本明細書において使用される時、「内因性のFGF2」は、本発明の方法により培養された時に、培養細胞それ自身がFGF2を製造できることを示す。細胞初代培養からの不純物、または出発物質からの残留不純物を示すものとして内因性FGF2が使用されることもある。具体例としては、本発明の組成物または方法は、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1ng/mL以下のFGF2を含んでいる。
しかしながら、本発明の組成物および方法は、FGFポリペプチド、その機能的な断片またはその変異体を包含するFGF受容体の少なくとも1つのアクチベータを含むことができると企図される。FGF2が存在する場合には、約0.1ng/mLから約100ng/ml、より望ましくは約0.5ng/mlから約50ng/mL、より望ましくは約1ng/mlから約25ng/mL、より望ましくは約1ng/mlから約12ng/mL、また最も望ましくは約8ng/mlの初期濃度において存在することが企図される。別の具体的実施態様では、本発明の組成物および方法は、FGF2以外のFGF受容体の少なくとも1つのアクチベータを含むことができる。例えば、本発明の組成物および方法は、FGF−7、FGF10、FGF−22、それらの変異体またはそれらの機能的な断片の少なくとも1つを含むことができる。具体的実施態様では、FGF−7、FGF−10とFGF−22、それらの変異体またはそれらの機能的な断片の少なくとも2つが存在している。別の実施態様では、FGF−7、FGF−10、FGF−22、それらの変異体またはそれらの機能的な断片の3つのすべてが存在している。FGF−7、FGF−10、FGF−22、それらの変異体またはそれらの機能的な断片のいずれかが存在する場合には、それぞれが約0.1ng/mLから約100ng/ml、より望ましくは約0.5ng/mlから約50ng/mL、より望ましくは約1ng/mlから約25ng/mL、より望ましくは約1ng/mlから約12ng/mL、また最も望ましくは約8ng/mlの初期濃度において存在することが企図される。
さらなる実施態様では、本発明の組成物および方法は、血清アルブミン(SA)を含む。
具体的実施態様では、SAはウシのSA(BSA)またはヒトのSA(HAS)のどちらかである。具体的実施態様では、SAの濃度は容積(v/v)で約0.2%以上であるが、約10%v/v以下である。さらなる具体的な実施態様では、SAの濃度は、約0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、 0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.2%、1.4%、1.6%、1.8%、2.0%、2.2%、2.4%、2.6%、2.8%、3.0%、3.2%、3.4%、3.6%、3.8%、4.0%、4.2%、4.4%、4.6%、4.8%、5.0%、5.2%、5.4%、5.6%、5.8%、6.0%、6.2%、6.4%、6.6%、6.8%、7.0%、7.2%、7.4%、7.6%、7.8%、8.0%、8.2%、8.4%、8.6%、8.8%、9.0%、9.2%、9.4%、9.6% および 9.8%(v/v)よりも高い。
追加の実施態様では、本発明の組成物と方法は少なくとも1つの不溶性基質を含む。例えば、これらに制限されるものではないが、ポリスチレン、ポリプロピレンのような化合物を含む細胞培養表面に分化細胞を置くことができる、次いで不溶性基質で表面をコーティングできる。具体的実施態様では、不溶性基質はコラーゲン、フィブロネクチン、それらの断片またはそれらの変異体から成る群から選択される。不溶性基質の他の例はフィブリン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、およびニドゲンを含むが、これらに限定されない。
従って本発明の細胞培養環境および方法は接着培養に細胞をプレーティングすることを含む。本明細書において使用される時、「プレートされる」、および「プレーティング」という用語は、細胞が接着培養中で成長することを許容する任意のプロセスをいう。本明細書において使用される時、「接着培養」という用語は、細胞が個体表面で培養される培養システムであって、該個体表面は不溶性基体でコーティングされ、ついで以下に例示されるような基体の他の表面被覆でコーティングされるか、または細胞が増殖するか安定することを許容する任意の他の化学物質または生物物質などでコーティングされるものをいう。細胞はしっかりと固体表面、または基体に接着することができるし、またそうでないこともできる。接着培養のための基体は、ポリオルニチン(polyornithine)、ラミニン、ポリリシン、精製コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、テネイシン、ビトロネクチン、エンタクチン、ヘパリン硫酸塩プロテオグリカン、多糖分解酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、およびポリ乳酸グリコール酸(PLGA)の一つ又はそれらの任意の組み合わせを含むことができる。さらに、接着培養のための基体はフィーダー層または多分化能ヒト細胞または細胞培養物を含むマトリックスを含むことができる。本明細書において使用される時、「細胞外マトリックス」という用語は、上で説明した固体基体(ただしこれらに限定されない)を包含し、並びにフィーダー層または多分化能ヒト細胞または細胞培養物を含むマトリックスを包含する。1つの実施態様では、細胞はMATRIGEL(登録商標)でコーティングされたプレート上にプレーティングされる。別の実施態様では、細胞はフィブロネクチンコーティングされたプレート上にプレーティングされる。ある実施態様では、細胞がフィブロネクチン上にプレーティングされる場合、プレートは10マイクロg/mLのヒト血漿フィブロネクチン(インビトロゲン、#33016−015)のコーティングで調製され、組織グレード水で希釈され、室温で2〜3時間保持される。
別の実施態様では、細胞がプラスチック上にプレーティングされるのを許容するため、24時間までの間、血清を媒体中に置くことができる。細胞の接着を促進するために血清を使用する場合には、次に、培地が移されて、事実上血清を含まない組成物をプレーティングされた細胞に加える。
本発明の組成物および方法は、分化可能な細胞が本質的にはフィーダー細胞またはフィーダー層を含まない条件下で培養されることを企図する。本明細書において使用される時、「フィーダー細胞」は生体外で成長する細胞である。すなわち、標的細胞と共同培養され、分化の段階において標的細胞を安定させる細胞をいう。本明細書において使用される時、「フィーダー細胞」という用語と「フィーダ細胞層」とは互換性を持って使用できる。本明細書において使用される時、「フィーダー細胞を本質的に含まない」との用語は、フィーダー細胞を含まないか、または「デ ミニマス(de minimus)」の数のフィーダー細胞を含む組織培養条件を示す。「デ ミニマス」の用語は、分化された細胞がフィーダー細胞上で培養されていた先の培養条件から現在の培養条件へ持ち越された、フィーダー細胞の数を意味する。上記の方法の1つの実施態様では、分化の現状における標的細胞を安定させるフィーダー細胞から、コンディショニングされた培地を得る。別の実施態様では、定義された培地はコンディショニングされていない培地であり、これはフィーダー細胞から得られない培地である。
本明細書において使用される時、細胞または細胞培養物の細胞の分化状態に関連して使用される時に「安定」という用語は、細胞が複数の代にわたり培地中で増殖を続け、好ましくは培地中で増殖を続け、全部ではなくてもほとんどの培地中の細胞が同じ分化状態にあることを意味する。さらに安定した細胞が分裂するとき、分裂は同じ細胞タイプの細胞または同じ分化状態の細胞を通常もたらす。一般に、安定した細胞または細胞集団は、培養条件が変更されない場合には、さらなる分化又は再分化せず、細胞は継代され続け、過成長しない。1つの実施態様では、安定している細胞は、無期限に、または少なくとも2代以上にわたり、安定状態で増殖ができる。より具体的な実施態様では、細胞は3代以上、4代以上、5代以上、6代以上、7代以上、8代以上、9代以上、10代以上、15代以上、20代以上、25代以上、30代以上にわたり、細胞は安定している。1つの実施態様では、細胞は約1カ月以上、2カ月以上、3カ月以上、4カ月以上、5カ月以上、6カ月以上、7カ月以上、8カ月以上、9カ月以上、10カ月、または11カ月の連続した継代において安定である。別の実施態様では、約1年間以上の連続した継代において、細胞は安定している。1つの実施態様では、それらが分化されるのが望ましくなるまで、幹細胞は多分化能状態で定義された培地において通常の継代で維持される。本明細書において使用される時、「増殖」という用語は細胞培養における細胞の数の増大について言う。
ある実施態様では、本発明の組成物と方法はBMPシグナリングのイナクチベータを含む。本明細書において使用される時、「BMPシグナリングのイナクチベータ」とは、1種以上のBMPタンパク質の活性、またはそれらの上流または下流シグナルコンポーネンツのいずれかと、可能なシグナリング経路のいずれかを介して拮抗する薬剤をいう。BMPシグナリングのイナクチベートに使用される1つまたは複数の化合物は、当技術分野で知られているもの、または今後発見される任意の化合物であることができる。BMPシグナリングのイナクチベータの非限定的な例としては、ドミナント−陰性 トランケイティド (dominant-negative, truncated)BMP受容体、可溶性のBMP受容体、BMP受容体−Fcキメラ、ノギン(noggin)、ホリスタチン(follistatin)、神経由来因子(chordin)、グレムリン(gremlin)、セルベラス/DANファミリー蛋白質(cerberus/DAN family proteins)、ベントロピン(ventropin)、高ドーズアクチビン(high dose activin)、およびアムニオンレス(amnionless)があげられる。
ある実施態様では、本発明の組成物と方法は少なくとも1つのホルモン、シトキン、アディポカイン、成長ホルモン、それらの変異体またはそれらの機能的な断片を含むことができる。ある実施態様では、定義された培地に存在している成長ホルモンは、定義された培地で培養される分化可能な細胞と同じ種のものであると想定される。したがって、例えば、人間細胞が培養されているなら、成長ホルモンは人成長ホルモンである。また、培養細胞と異なった種から来ている成長ホルモンの使用も想定される。望ましくは、ホルモン、シトキン、アディポカイン、および/または成長ホルモンは、約0.001ng/mlから約1000ng/mL、より望ましくは約0.001ng/mlから約250ng/mL、または、より望ましくは約0.01ng/mlから約150ng/mlの初期濃度で存在する。
本発明の組成物と方法に含むことができるシトキンとアディポカインの例としては、シトキン類の4αヘリックスバンドルファミリー、シトキン類のインターロイキン−1(IL−I)ファミリー、シトキン類のIL−17ファミリー、およびシトキン類のケモカインファミリーを含むが、これらに限定されない。もちろん、本発明はシトキン類のこれらのファミリーのそれぞれのメンバーとサブクラスを企図し、たとえば、CCケモカイン類、CXCケモカイン類、Cケモカイン類およびCX3Cケモカイン類、インターフェロン類、インターロイキン類、リンホトキシン類、c‐kitリガンド、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte/Macrophage-Colony Stimulating Factor:GM-CSF)、単球−マクロファージコロニー刺激因子(monocyte-macrophage colony-stimulating factor M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、レプチン、アディポネクチン、レジスチン、プラスミノゲンアクチベータインヒビター−1(PAI−1)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFβ)、白血病阻止因子、ビスファチン、レチノール結合蛋白4(RBP4)、エリスロポイエチン(EPO)、スロンボポエチン(THPO)があげられるが、これらに限定されるものではない。もちろん、当業者は本発明が上に記載された要素の変異体または機能的な断片を企図していることを理解するだろう。
本発明は分化可能な細胞を培養する方法に関し、この方法は、細胞培養表面に分化可能な細胞をプレーティングすることを含み、基本栄養塩溶液を細胞に提供して、細胞にErbB2−由来チロシンキナーゼ活性を刺激する手段を提供することを含む。
1つの実施態様では、血清または血清代替物の非存在下、およびフィーダー細胞層の非存在下で、少なくとも1つの本発明の組成物と分化可能な細胞が接触し、細胞が少なくとも1カ月、未分化状態で維持されるようにされる。多分化能は表面マーカ−、転写性マーカー、核型、3つの胚葉層の細胞に分化する能力に関する細胞のキャラクタリゼーションを介して決定できる。当業者にとって、これらのキャラクタリゼーションは周知である。
本明細書に記載された細胞集合体は、任意の生理的に許容できる媒体中に懸濁でき、典型的には含まれる細胞タイプに従って選ばれる。組織培養液は例えば、糖類およびアミノ酸類のような基本的栄養、増殖因子類、抗生物質類(汚染を最小にするため)、および同様のものなどを含むことができる。別の実施態様では、分化可能な細胞は本明細書に記載された細胞培地を使用して懸濁液中で培養される。「懸濁」との用語が細胞培養の文脈で使用される場合、当技術分野で用いられる意味で使用される。すなわち、細胞培養懸濁液は、細胞または細胞集合体が表面に接着しない細胞培養環境である。当業者は懸濁培養技術に詳しく、たとえば、これらに限定されるものではないが、フローフード類(flow hoods)、インキュベータ、および/または、細胞を一定の動きに維持するために使用される装置、例えば、撹拌機プラットホーム、シェーカーなどを必要に応じて備えることができる。本明細書において使用される時、細胞が動いている場合、またはそれらの間の環境が細胞に対して動いている場合には、細胞には「動き」がある。細胞が「動き」の状態に維持されると、1つの実施態様では、動きは細胞をせん断力に暴露することを避けるか、または防ぐように設計されている「優しい動き」または「優しい撹はん」となるだろう。
細胞集合体を作るさまざまな方法が当該技術分野において公知であり、例えば「ハンギングドロップ(hanging drpo)」法が知られ、この方法では組織培養液の逆さの滴の中で細胞が滴の底部に沈み、集まり、実験フラスコ中で細胞懸濁液を震動させる。これらのテクニックの種々の変法も使用できる。例えば、N.E.Timminsら,(2004)Angiogenesis 7,97−103;W.Daiら,(1996)Biotechnology and Bioengineering 50,349−356;R.A.Fotyら,(1996)Development 122,1611−1620;G.Forgacsら,(2001)J.Biophys.74,2227−2234(1998);K.S.Fumkawaら,Cell Transplantation 10,441−445;R.Glicklisら,(2004)Biotechnology and Bioengineering 86,672−680;Carpenedoら,(2007)Stem Cells 25,2224−2234;およびT.Korffら,(2001)FASEB J.15,447−457を参照。これらの全体は本明細書に参照され組み込まれる。より最近では、細胞集合体はマイクロパターン化されたコロニーを懸濁液内にこすり落とし、マイクロタイタープレートのコロニーを遠心分離で取り出し懸濁液にするか、またはピペットを使用してパターンドマイクロウェルで成長されたコロニーを取り出し懸濁させる(Ungrin他、(2008)PLoS ONE 3(2)、1−12;Bauwens他、(2008)、Stem Cells Published online June 26,2008)。本明細書に記載された細胞集合体を製造するのにそのような方法を使用できるが、本明細書に製造された細胞集合体は、同期した有向分化(synchronous directed-differentiation)のために上記のd’Amour他2006に記載されているようにして、最適化される。これらの他の方法と異なって、本明細書に記載された懸濁液中における細胞集合体を製造するための方法は大規模製造に影響を受けやすい。
一般に、本発明の細胞培地組成は、少なくとも1日に1度リフレッシュされるが、よりしばしばまたは、より少なく懸濁培養物の具体的必要性と事情によって媒体を変えることができる。生体外で、細胞は、通常バッチ・モードにより培養液で育てられて、様々な培地条件に暴露される。本明細書に記載されたように、細胞は接着培養として、または懸濁中における細胞集合体として皿培地中に存在して、取り囲む培地に接触し;および定期的に廃棄物培地が取り替えられる。一般に、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、または24時間毎、またはそれの任意の時間で培養液をリフレッシュできる。追加例では、1.1日、1.2日、1.3日、1.4日、1.5日、1.6日、1.7日、1.8日、1.9日または2日またはそれ以上ごとに、またはそれらの間の任意の期間で培地はリフレッシュされることができるが、これらに限定されるものではない。
しかし、本発明の別の実施態様では、増殖因子および頻繁に取り替えられなければならない他の薬剤の分解を防止するために環流方法(perfusion method)が採用され、または一定期間の間に培地からの廃棄物を減耗する手段として環流方法が採用された。例えば、米国特許第5,320,963号は、懸濁細胞の潅流培養のためのバイオリアクタについて説明する。米国特許第5,605,822号は、環流による培養でのHSC細胞の成長のために、増殖因子を提供するのにストロマ細胞を使うバイオリアクタシステムについて説明する。米国特許第5,646,043号は、HSC細胞の成長のための培地組成物を含む連続した周期的環流でのHSC細胞の成長について説明する。米国特許第5,155,035号は、流体培地回転による細胞の懸濁培養のためのバイオリアクタについて説明する。これらは参照され本明細書にそれらの全体が取り入れられる。
一般に、本発明の培地組成物中で懸濁培養される細胞は、ほぼ毎週、「スプリット(split)」または「継代(passage)」されるが、細胞は具体的な必要性および懸濁培養の環境に応じて、より頻繁にまたはより少ない頻度で継代されることができる。例えば、細胞は1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日間、またはそれらの間の任意のタイムフレームで継代されることができる。本明細書において使用される時、それが細胞培養の文脈で使用される場合、「スプリット」または「継代」という用語は、当該技術分野における使用されている意味で使用される。すなわち、細胞培養スプリットまたは継代は、前の培養からの細胞の収集と、新しい細胞培養容器への、より少ない数の収集された(収穫された)細胞の移転である。一般に、継代細胞は、健康な細胞培養環境で成長し続けることができる。当業者は細胞培養継代のプロセスおよび方法になじみ深く、これは必ずではないがそれらの成長エキスパンションの間に一緒に集合している細胞を分けるために使用できる酵素的または非酵素的方法の使用を含む。
ある場合に、ある程度の細胞死が、継代直後の(懸濁または接着培養の)細胞で起こることがある。1つの実施態様では、分化可能な細胞は、24時間以上細胞媒体のリフレッシュを遅らせることによって継代から「回復できる」。その後、より頻繁に細胞媒体を変えることができる。別の実施態様では、細胞培地は、さらに細胞死の防止剤を含むことができる。例えば最近Wantanabe他は、解離の後にヒト胚性幹細胞を保護するためにRho−関連キナーゼ阻害薬(Rho-associated kinase inhibitor)、Y27632の使用を開示する。Wantanabe,K.,ら,Nat.Biotechnol,25(6):681−686(2007)を参照されたい。これは参照され、本明細書に援用される。
追加の実施態様では、細胞培地は、継代直後の細胞死を防ぐか、または減衰させるようにカスパーゼ阻害剤、増殖因子または他の栄養素を含むことができる。使用できる物の具体的例としては、HA1077、ジヒドロクロライド(Dihydrochloride)、ヒドロキシファスジル(Hydroxyfasudil)、Rho キナーゼ 阻害剤、Rho−キナーゼ 阻害剤 II、Rho キナーゼ 阻害剤 III、キナーゼ 阻害剤 IV、およびY27632があげられるが、これらに限定されるわけではない。なお、上記の物質はすべて商業的に利用可能である。さらに別の実施態様では、細胞継代直後またはその間の細胞死を防ぐかまたは減衰させるために使用される物質または要素は、細胞が継代のプロセスから回復した後に、細胞培地から取り除くことができる。追加の実施態様では、未分化型胚性幹細胞は、標準のベース培地中で有効に集合することができ、解離と集合の間、生育性を維持するためにY27632または他の関与を必要としない。
また、追加の実施態様では、本発明の組成物および方法は界面活性化合物の存在または使用を含むことができる。1つの特定の実施例では、本発明の組成物と方法は懸濁培養において少なくとも1つの表面活性剤を含む。界面活性化合物は、当技術分野で周知であり、一般的には両親媒性である。具体的実施態様では、本発明はアニオン系、カチオン性、ノニオン性または双性である少なくとも1つの表面活性剤の使用を含む。本発明の組成物および方法に使用される表面活性剤の濃度の決定は、ルーチン的な検査と最適化の問題である。たとえばオーエン他は、ヒーラ細胞とヒト羊膜細胞の細胞培養法における界面活性化合物の使用を報告する。Owenら,J.Cell.Sc,32:363−376(1978)を参照。これは参照して本明細書に組み込まれる。使用できる界面活性化合物の例としては、これらに限定されるわけではないが、以下の物質があげられる;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、アンモニウムラウリル硫酸、および他のアルキル硫酸塩;ナトリウムラウレススルフェート(SLES)、アルキルベンゼンスルホン酸エステル、石鹸、または脂肪酸塩、セチルトリメチルアンモニウム臭素(CTAB)(ヘキサデシルトリメチル臭化アンモニウム)、および他のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化セチルピリジニウム(CPC)、ポリエトキシル化獣脂アミン(POEA)、ベンズアルコニウム塩化物(BAC)、ベンズエトニウム塩化物(BZT)、ドデシルベタイン、ドデシルジメチルアミン酸化物、コカミドプロピルベタイン、ヤシアンフォグリシナート、アルキルポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレンオキシドとポリプロピレン・オキシドコポリマー、たとえばプルロニック(Pluronic)F68、アルキルポリグリコシド、たとえば、オクチルグルコシド、デシルマルトシド、脂肪アルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール、コカミド MEA、コカミドDEAおよびコカミドTEA、および/または、ポリオキシエチレン−ソルビタン モノラウレート(トゥイーン)があげられるが、これらに制限されるものではない。
本明細書に記載された実施態様は、低せん断環境を維持することにより、システムの細胞濃度を維持して、流体せん断応力を最小にし、hES細胞を増殖させ、および/または分化させる大規模製造のための方法を提供する。特に、本発明は60mmの皿、6ウェルのプレート、回転するボトル、バイオリアクタ(例えば、スピナーフラスコ)、および容器などで細胞懸濁液を培養することによる、真核細胞製造スケールアップシステムにおける低せん断環境を維持するための方法を提供する。あるいはまた、細胞を培養する連続かん流システムは、細胞の懸濁、酸化、および新鮮な栄養物の提供のため、すなわち成長および/または分化のために、バイオリアクタまたは容器内における撹拌または動きを必要とする。細胞懸濁液を得るために、バイオリアクタ容器は典型的にはせん断応力の可能なソースである1種以上の可動な機械的撹はん装置を使用する。
細胞成育と生育性を維持するのに、一定の、そして、最適化された攪拌せん断速度を確立して、維持することは重要である。例えば増加したせん断速度は、以下の点で有害である:
(1); 過度のせん断はエネルギー消費量を上げる。
(2); 過度のせん断は細胞膜表面での拡散を干渉する。
(3); 過度のせん断はある化合物から生理活性を奪うことがある。
(4); 過度のせん断は、融解(cell lysis)に通じる破壊の閾値張力を超えて細胞膜を変形する。
したがって、細胞集合体の直径、単独細胞解離およびせん断に対する特定の細胞ラインの感度に依存して、5〜500秒−1の範囲内の中のせん断を維持することが望ましい。本発明の方法で有用な構成におけるせん断速度の例は、6ウェルの皿において、60−140rpmの間の回転速度で、100−200ミクロンの直径の集合直径について、実施例17に示されている。これらの値は、回転の間にバルク流体に起こる時間平均のせん断応力を見積もっている。しかしながら、容器の壁におけるせん断応力は、境界効果のためより高くなると予想される。上記のLey他の方法を使用して、壁面せん断応力は、60rpmから140rpmまでの回転速度のために計算されて、実施例17−19に示されている。
そっと撹拌されている細胞懸濁液を発生させるための手段または装置の他の例も存在していて、当業者にとって周知である。例としては、プロペラのようなインペラー、または他の機械的手段、たとえばブラダー(bladders)、流体または気体の流れに基づく手段、超音波定在波発生器、前後にゆれるかまたは回転するプラットホーム、または細胞懸濁液を製造するそれらの組み合わせなどがあげられる。本発明の方法では、回転するプラットホームは、6ウェルのプレート内に細胞を分散させる例示的な手段であり、400秒−1未満のせん断速度を発生させる。撹拌された流体懸濁液を発生するための撹拌機タイプまたは機構にかかわらず、バルク流体内の見積もられた時間平均されたせん断速度とせん断応力は、すべての流体混合装置が関係づけられる規格化要素を提供する。装置の中の流れの状態はそれらのプロフィルおよび層流または乱流の流れの程度により異なることができ、せん断の計算は、異なった機構による混合により発生される装置内の流れを等しくする基礎を提供する。例えば、4cmのインペラー直径、6.4cmの容器幅、90度のインペラー角度、および0.1cmのインペラー幅を有する125mLスピナーフラスコでは、l00rpmで回転している5mL培地を有する6ウェルの皿で、直径l00μmの集団について、バルク流体で同じ時間平均せん断速度とせん断応力を発生する。
また、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、23、24、25、26、27、28、29、30日間、40日間以上、50日間以上にわたり、スケールアップ製造システムの低せん断環境を維持するのに本発明の方法を使用できる。例示的な稼働時間は少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、23、24、25、26、27、28、29、30日間、40日間以上、50日間以上である。
分化可能な細胞は、酵素学的または非酵素学的方法を使用して、または、本発明の規定培地との接触の前および接触の後の手動の解離方法により、継代することができる。酵素的な解離方法の非限定的な例としては、トリプシン、コラゲナーゼ、ジスパーゼ、ACCUTASE(登録商標)などのプロテーアーゼの使用を含む。1つの実施態様では、ACCUTASE(登録商標)は接触された細胞の継代に使用される。酵素的継代方法が使用されるとき、得られた培養物は、シングレット(singlet)、ダブレット(doublet)、トリプレット(triplet)および細胞のクランプ(clumps)を含むことができ、これらは使用された酵素の種類に応じてサイズが異なる。非酵素学的解離方法の非限定的な例は細胞分散バッファ(cell dispersal buffer)である。当技術分野において手動の継代技術についてはよく説明されており、たとえばSchulzら,2004 Stem Cells,22(7):1218−38に記載されている。存在する場合には、細胞外マトリックスの選択により継代方法の選択は影響を及ぼされるが、当業者によって容易に決定されることができる。
1つの具体的実施態様では、分化可能な細胞を培養する方法は、解離が単独細胞に細胞層を壊す解離の前に、培養チャンバーに含まれている分化可能な細胞の層の解離溶液を提供することを含む。解離の後に、単独細胞は幹細胞培養液と新しい組織培養チャンバーに置かれる;そこでは、幹細胞培養液は基本栄養塩溶液とErbB3リガンドを含む。いったん培養されると、単独幹細胞は単独細胞の成長と分裂を可能にする条件に置かれる。別の具体的実施態様では、分化可能な細胞を培養する方法は、先の培養チャンバーに含まれている分化可能な細胞集合へ解離溶液(dissociation solution)を提供することを含む、そこでは、解離により単独細胞または、より小さい集団に細胞の集団を壊す。
本発明の方法で使用される離解溶液(disaggregation solution)は、大規模な急性毒性を細胞に引き起こさずに、単独細胞に細胞をばらばらにするか、または離解することができる離解溶液であることができる。離解溶液の例は、トリプシン、ACCUTASE(登録商標)、0.25%のトリプシン/EDTA、TrypLE、またはVERSENE(登録商標)(EDTA)とトリプシンを含むが、これらに限定されない。本発明の方法は、少なくともいくつかの単独細胞が離解され再培養できることを条件として、集密層または懸濁液中のあらゆる細胞が単独細胞に離解されることを必要とするわけではない。
培養の始め、または継代の後に、どんな密度でも分化可能な細胞をシードでき、培養チャンバーにひとつの細胞でもよい。さまざまな要素によって、シードされる細胞の細胞濃度を調整できる。たとえば接着培養、懸濁培養の使用、使用される培養細胞培養液の具体的処方、生育条件、および培養される細胞の想定された使用を含む。細胞培養密度の例としては以下があげられる;0.01×10細胞/ml,0.05×10細胞/ml,0.1×10細胞/ml,0.5×10細胞/ml,1.0×10細胞/ml,1.2×10細胞/ml,1.4×10細胞/ml,1.6×10細胞/ml,1.8×10細胞/ml,2.0×10細胞/ml,3.0×10細胞/ml,4.0×10細胞/ml,5.0×10細胞/ml,6.0×10細胞/ml,7.0×10細胞/ml,8.0×10細胞/ml,9.0×10細胞/ml,または10.0×10細胞/ml、またはそれ以上、たとえば5×10細胞/mLまでが、良好な細胞の生存を示して培養される。これらの値の間の任意の値も採用できる。
上記に加えて、本明細書に使用される時には、「細胞濃度操作」という用語、「操作された細胞濃度」またはそれの等価な表現は、製造プロセスまたはシステムでの細胞密度が操作され、増殖性または分化性のhES細胞培養物を生産することをいう。そのような細胞濃度は、システムに供給されるビタミン、ミネラル、アミノ酸、代謝物などの栄養物、または酸素分圧などの環境条件が、細胞生育力を維持するために十分である下でのものをいう。あるいはまた、そのような細胞濃度は、細胞生育力を維持できるような速度でシステムから廃棄物を取り除くことができる下でのものをいう。当業者は容易にそのような細胞濃度を決定できる。
維持できる作動細胞濃度は、少なくとも約0.5×10細胞/mLからである。典型的なスケールアップシステム作動式細胞濃度は、約0.5×10細胞/mLから約25×10細胞/mLの間である。例示的な濃度は、約2.5×10細胞/ml、22×10細胞/mLから、最大5×10細胞/mLの間である。本発明の方法では、細胞生存率は少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、および約100%までである。他のスケールアップシステム作動細胞濃度と許容細胞生存率レベルは、当業者によって認められ、当業者にとって周知のテクニックにより決定できる。例えば、バッチ、フェドバッチ(fed-batch)および連続供給される構成では、約0.5×10細胞/mLから15×10細胞/mLの間の細胞濃度であってもよい。
また、それらの形成性または他の特性に影響を及ぼす分子類または要素について、分化可能な細胞をスクリーンに利用できる。例えば、アポプトーシス、分化または、増殖または分化可能な細胞から発生した分化されたリネッジを引き起こす薬剤を特定するのに分化可能な細胞を使用できる。
本発明の組成物および方法が単独細胞継代を許容するので、分化可能な細胞は大量処理設定、これらに制限されるものではないが、たとえば96ウェルプレートまたは384ウェルプレートで成功裏に培養された。図16は、本発明の方法を使用して、96ウェルプレートおよび384ウェルプレートの両方でDC−HAIF内で培養されたBG02細胞のモルホロジーとアルカリ性ホスファターゼ染色を示している。簡潔には、ACCUTASE(登録商標)を使用して継代され、96ウェルプレートおよび384ウェルプレートでプレーティングされたhESCs細胞は、他の培養ざらを使用して観測されたものと同様のコロニー形成率を示した。さらに、細胞はコロニーを形成して、より小さい環境で5日間成功裏にエキスパンドした。これらのより小さい培養物はモルホロジー的に未分化型のままで残り、未分化細胞のマーカーであるアルカリホスファターゼにより均一に陽性に染色された。さらに、ACEA Biosciences,Inc.(www.aceabio.com)からのRT−CES(登録商標)法を使用することで、細胞増殖と生育性を測定することができる、インピーダンスのリアルタイム測定値を提供する96ウェルの培養装置(図示せず)でhESCsを育てることができた。そのようなアプローチは分化可能な細胞における微妙であるか即座の効果のラベルを使用しない識別と定量化を可能にするだろう。また、増殖、アポプトーシスおよびモルホロジー変化のリアルタイム測定も可能にするだろう。
本発明の組成物および方法は、上記または本明細書のほかの場所に記載された線分の任意の組み合わせを実際には含むことができる。ただし、本発明の組成物と方法は基本栄養塩溶液と、ErbB2−由来チロシンキナーゼ活性を刺激する手段を含む。プロトコールのデザインにより、本発明の組成物および方法の成分が異なることは当業者には理解されるであろう。従って、本発明の1つの実施態様は、96ウェルプレートおよび/または384ウェルのプレートで分化可能な細胞を培養することに関する。本発明の組成物および方法を使用して、細胞培養チャンバー、すなわち培養ざらは特定の大きさに制限されない。したがって、本明細書に記載された方法は、具体的な培養チャンバー寸法、および/または、細胞集合体を発生させる手段と装置によっては決して制限されない。
本明細書に記載された組成物と方法は、いくつかの有用な特徴を持っている。例えば、本明細書に記載された組成物と方法は、人間の発達の初期をモデル化することの役に立つ。さらに、本明細書に記載された組成物と方法は、疾病の治療介入に有用であり、たとえば神経変性の障害、糖尿病または腎不全症などのように、純粋な組織または細胞タイプの発達によるものに有用である。
分化可能な細胞から分化する細胞タイプは、これらに制限されるものではないが、薬物発見、薬物開発および試験、毒性学、治療目的および基礎科学研究のための細胞の生産を含む研究開発の多くの分野で用途を持っている。これらの細胞タイプはさまざまな研究分野で対象となる分子類を発現する。これらは標準参照テキストに記載される様々な細胞タイプの機能に必要であることが知られている分子類を含んでいる。これらの分子類としてはサイトカイン類、増殖因子、サイトカイン受容体、細胞外マトリックス、転写因子、分泌されたポリペプチド類および他の分子、および増殖因子受容体を含むが、これらに限定されない。
本発明の分化可能な細胞が、細胞分化環境との接触を介して分化できることが企図される。本明細書において使用される時、「細胞分化環境」という用語は、分化可能な細胞の分化が誘導されるか、または分化細胞の中でヒト細胞培養が富化されるように誘導される細胞培養条件を示す。望ましくは、増殖因子によって引き起こされた分化型細胞リネッジは、均質になるだろう。「均一性」の用語は、約50%、60%、70%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%以上の希望の細胞リネッジを含む集団を示す。
部分的に、末端に、または可逆的に本発明の分化可能な細胞を分化するのに細胞分化媒体または環境を利用できる。本発明によると、細胞分化環境の培地は、さまざまな成分、たとえば、KODMEM培地(Knockout Dulbecco's Modified Eagle's Medium)、DMEM、HamのF12培地、FBS(ウシ胎仔血清)、FGF2(線維芽細胞増殖因子2)、KSRまたはhLIF(ヒト白血病阻止因子)を含むことができる。また、細胞分化環境は、たとえばL−グルタミン、NEAA(非必須アミノ酸)、P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)、N2、B27およびβメルカプトエタノール(βME)のようなサプリメントを含むことができる。以下のような追加要素を細胞分化環境に加えることができると企図される;フィブロネクチン、ラミニン、ヘパリン、ヘパリン硫酸塩、レチノイン酸、表皮細胞増殖因子ファミリー(EGFs)のメンバー;FGF2、FGF7、FGF8、および/またはFGF10を含む線維芽細胞増殖因子ファミリー(FGFs)のメンバー、血小板由来増殖因子ファミリー(PDGFs)のメンバー;転換増殖因子(TGF)/骨形成たん白質の(BMP)/成長および分化因子(GDF)ファミリーのアンタゴニスト、これらに限定されるものではないがたとえば、ノギン、ホリスタチン、コルジン、グレムリン、セルベラス/DANファミリー蛋白質、ベントピン、高ドーズアクチビン、およびアムニオンレス(amnionless);変異体またはそれらの機能的な断片。TGF/BMP/GDFアンタゴニストも、TGF/BMP/GDF受容体−Fcキメラの形で加えることができる。加えることができる他の要素としては、Notch受容体ファミリー(Notch receptor family)を介してシグナリングを活性化または不活性化できる分子類、これらに制限されるものではないが、たとえば、デルタ−様(Delta-like)およびジャグド(Jagged)ファミリーのタンパク質、並びにノッチ(Notch)プロセッシング、または解裂の阻害剤、またはそれらの変異体および機能的な断片を含んでいる。他の増殖因子としては、インスリンの様の増殖因子ファミリー(insulin like growth factor family:IGF)、インスリン、ウイングレスリレイテッド(WNT)因子ファミリー(wingless related (WNT) factor family)、ヘッジホッグ因子ファミリー(hedgehog factor family)、それらの変異体または機能的な断片があげられる。内胚葉系中胚葉幹/前駆細胞、内胚葉幹/前駆細胞、中胚葉幹/前駆細胞、または最終的な内胚葉幹/前駆細胞の増殖と生存を促進するため、並びにこれらの前駆細胞の由来体の生存や分化を促進するために、追加要素を加えることができる。
本明細書に記載された組成物は、試験化合物をスクリーニングして、試験化合物が分化可能な細胞の多分化能、増殖、および/または分化を調節するかどうか決定するために有用である。当業者は容易に分化可能な細胞の多分化能、増殖、および/または、分化を確かめることができる。非限定的な方法としては、細胞形態、様々なマーカーの発現、奇形腫形成、細胞数、およびインピーダンスの測定を含んでいる。
希望の細胞リネッジへの分化可能な細胞の進行、または未分化状態での維持は、希望の細胞リネッジのマーカー遺伝子特性の発現、並びに分化可能な細胞タイプのマーカー遺伝子特性の欠損を定量化することによって、モニターできる。そのようなマーカー遺伝子の遺伝子表現を定量化する1つの方法が定量的PCR(Q−PCR)の使用である。Q−PCRを実行する方法は当技術分野で周知である。また、当技術分野で知られている他の方法もマーカー遺伝子発現を定量化するために使用できる。対象となる標識遺伝子に特異的な抗体を使用することによって、マーカー遺伝子発現を検出できる。
ある実施態様では、スクリーニング法は分化可能な細胞の多分化能、増殖および/または分化を調節できる化合物を特定する、以下を含む方法を包含する;
(a); 分化可能な細胞を提供すること;
(b); 基本栄養塩溶液とErbB3リガンドを含み、事実上血清を含まない組成物中で細胞を培養すること;
(c); テスト化合物と細胞を接触させること;および
多分化能、増殖、および/または、分化の増大または減少が、化合物と接触された細胞で起こるかどうか決定すること。
ここで前記の増大が起こっていれば、化合物が多分化能、増殖、および/または、分化を調節することを示す。ある実施態様では、ErbB3リガンドはHRG−βである。他の実施態様では、テスト化合物でErbB3リガンドを置換して、テスト化合物の効果を決定できる。例えば、テスト化合物で起こる多分化能、増殖、および/または分化への効果は、ErbB3リガンドで起こる多分化能、増殖、および/または分化への効果と比較され、分化可能な細胞へのテスト化合物の効果を決定することができる。本発明のスクリーニング法に、本明細書に記載されたすべての組成物を使用できると想定される。
さらに別の実施態様では、ErbB3リガンド(ErbB2−由来チロシンキナーゼ(tyrosine kinase)活性)の、非存在下で培養され、ErbB3リガンド(ErbB2−由来チロシンキナーゼ活性)の欠損の際の細胞への効果を決定できる。
本明細書に記載された方法を使用して、希望の細胞リネッジを含む、他の細胞タイプを実質的に含まない組成物を製造できる。あるいはまた、分化可能な細胞と希望の細胞リネッジの混合物質を含む組成物を製造できる。
本発明のいくつかの実施態様では、そのような細胞に特異的なアフィニティータグを使用することによって、希望の細胞リネッジの細胞を分離できる。標的細胞に特異的なアフィニティータグの1つの例は、本明細書に記載された方法で生産された細胞培養において見い出される標的細胞の細胞表面に存在しているが、他の細胞タイプには実質的に存在していないマーカーポリペプチドに特異的である抗体である。
また、本発明はキットに関し、該キットはErbB2−由来チロシンキナーゼ活性を刺激することができる少なくとも1つの化合物と、基本栄養塩溶液を含む。1つの実施態様では、キットは本明細書に記載されるような少なくとも1つのErbB3リガンドを含む。別の実施態様では、キットは1より多いErbB3リガンドを含む。別の実施態様では、キットは、本明細書に記載されるように、少なくとも1つのTGF−β、TGF−βファミリー、それらの変異体または機能的な断片を含む。さらに別の実施態様では、キットは1より多いTGF−β、TGF−βファミリー、それらの変異体または機能的な断片を含む。さらに別の実施態様では、キットは少なくとも1つの繊維芽細胞生長因子、それらの変異体または機能的な断片を含む。別の実施態様では、キットは2以上の繊維芽細胞生長因子、それらの変異体または機能的な断片を含む。具体的実施態様では、キットは少なくとも1つのFGF−7、FGF−8、FGF−10、FGF−22、それらの変異体または機能的な断片の1つを含む。別の実施態様では、キットは血清アルブミンを含む。
さらに別の実施態様では、キットは血清、本明細書に記載される少なくとも1つの不溶性基体、および/または、少なくとも1つの離解溶液を含む。
本発明のキットは上記の、または本明細書に任意の場所に記載された成分のすべての組み合わせも含むことができる。当業者が認めるように、本発明のキットに供給された成分は、キットのための用途により異なるだろう。したがって、この出願に記載された様々な機能を実行するようにキットを設計できる、そして、そのようなキットの成分は従って、異なるだろう。
本出願を通じて、種々の文献が参照されている。これらの刊行物の開示内容は、本発明の技術分野における技術水準をより完全に記載するために、その全体が本願に参考として援用される。
実施例
ヒト胚性幹細胞ラインBG01v(BresaGen,Inc.、アセインズ、ジョージア州)は本明細書に記載された実験のいくつかに使用された。BG01v hESCラインは核型変異体細胞ラインである。その細胞ラインは特異的三染色体(核型:49,XXY,+12,+17)を含む安定した核型を示す。親培養は先に説明したように維持された(Schulzら,2003,BMC Neurosci.,4:27;Schulzら,2004,Stem Cells,22(7):1218−38;Rosieら,2004,Dev.Dynamics,229:259−274;Brimbleら,2004 Stem Cells Dev.,13:585−596)。簡潔にいえば、細胞はMATRIGEL(登録商標)またはフィブロネクチンでコーティングされた皿で、DMEM:F12と20%のKSR、8ng/mL FGF2、2mM L−グルタミン、1x 非必須アミノ酸、0.5U/mLペニシリン、0.5U/mLストレプトマイシン、0.1mMのβメルカプトエタノールを含むマウス胎児線維芽細胞(MEFs)(MEF−CM)からのコンディショニングされた培地(シグマ、セントルイス、ミズーリ州、米国)で、コラゲナーゼ継代で成長された。
本明細書でテストされた定義された培養(DC)培地は、DMEM/F12、2mM グルタマックス(Glutamax)、Ix 非必須アミノ酸、0.5U/mLペニシリン、0.5U/mLストレプトマイシン、10マイクロg/mLの鉄結合性グロブリン(すべてInvitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州、米国から)、0.1mM βメルカプトエタノール(シグマ)、0.2%脂肪酸非含有のコーンズ 画分(Cohn's fractions)V BSA(Serologicals)、1x トレースエレメントミックシィズ(Trace Element mixes) A、B、およびC(Cellgro)、並びに50マイクロg/mL アスコルビン酸(シグマ)で構成される。可変レベルの組換え型の増殖因子が使用された。該因子としては、FGF2(シグマ)、LongR3−IGFl(JRH Biosciences),ヘレグリン(Heregulin)−β EGF ドメイン(HRGβ,Peprotech),TGFβ(R&D systems),ノダル(nodal)(R&D systems),LIF(R&D systems),EGF(R&D systems),TGFα(R&D systems),HRGα(R&D systems),BMP4(R&D systems),およびアクチビン A(R&D Systems)があげられる。LongR3−IGFlは、IGFl結合蛋白質への親和性を減少させたIGFlの改質バージョンである。その或るものはhESCsで発現される。DC−HAIFは10ng/mL HRG−β、10ng/mL アクチビン A、200ng/mL LR−IGFl、および8ng/mL FGF2を含む、先のように定義された培養液である。DC−HAIは、10ng/mL HRG−β、10ng/mL アクチビン A、および200ng/mL LR−IGFlを含む、先に定義された培養液である。DC−HAIFとDC−HAI、LR−IGFl成分は、もちろんIFGlで置き換えられる。
MATRIGEL(登録商標)が塗布された皿は、増殖因子低減(Growth Factor Reduced)BD MATRIGEL(登録商標)マトリツクス(BD Biosciences,Franklin Lakes、ニュージャージー、米国)を冷DMEM/F−12中の約1:30から約1:1000への最終濃度範囲へ希釈することにより調製される。1つの実施態様では、MATRIGEL(登録商標)の濃度は約1:200である。1ml/35mmの皿は、室温で1〜2時間、または4℃で少なくとも一夜、皿をコーティングするのに使用された。最大1週間、4℃で、培養物は貯蔵された。使用の直前MATRIGEL(登録商標)溶液を取り除いた。テストされた条件に関しては、親培養は複数の条件の比較のために6ウェルの皿にプレーティングされた。培養物は、典型的には直接試験条件でプレーティングされた。培養物は、プレーティングの4〜5日後から毎日評価されて、形態学的な評価基準に基づいて等級付けされた。1〜5の評価尺度は、全体の培養を調べて、未分化型コロニーの総合的な比率、それらの相対的大きさ、明白な分化を示しているコロニー比率またはコルニーの部分を算定することによった。グレード5は大きい未分化型コロニーと無視できる分化で「理想的な」培養を示す。グレード4は非常に良い培養を示すが、幾分かの明白な分化を示す。グレード3は許容できる培養を示すが、コロニーのおよそ半分が明白な分化を示している。グレード2は、主として分化しており、時々の推定的な未分化細胞が存在する。グレード1の培養物は、分化したコロニーを含むか、または培養物は、接着しなかったか、生き残らなかった。未分化細胞の良いエキスパンションを示した培養物は、これらの条件での、より長い期間培養を評価するために継代された。
実施例1−BG01v細胞におけるErbBl−3、Nrgl、およびADAM19の発現
リアルタイムのRT PCRは、BG01v細胞中でのErbBl−3、ニューレグリン、およびADAM−19の発現を示すのに使用された(図1)。100ng/mL LongR3−IGFl(LR−IGFl)、8ng/mL FGF2、1ng/mL アクチビン Aを含む、上で説明したようなDC培地で培養されたBG01v細胞が収穫され、RNAがメーカーの取扱説明書にしたがって、RN イージーミニキット(RN easy mini kit)(Qiagen)を使用して調製された。最初のストランドcDNAは、iScriptキット(Biorad)を使用することで調製された。そして、リアルタイムPCRが、MJ リサーチ オプティコン ターミナルサイクラー(MJ Research Opticon thermal cycler)を使用して行われた。
ADAM19(Hs00224960_ミリリットル)、EGFR(Hs00l93306_ミリリットル)、ErbB2(Hs00170433_ミリリットル)、ErbB3(Hs00176538_ミリリットル)、NRGl(Hs00247620_ミリリットル)、OCT4(Hs00742896_sl)についてのタクマン(TaqMan)検定方法(アプライドバイオシステム)、およびコントロールGAPDHが、タクマン ユニバーサル PCR(TaqMan universal PCR)(アプライドバイオシステム)で使用された。未分化型BG01v細胞でのこれらの転写の発現を示す、リアルタイムの増幅プロットが図1に示される。
実施例2−ErbB2の抑制はBG01v 細胞の増殖を遅くすること
リガンドのEGFドメインファミリーは受容体チロシンキナーゼのErbBファミリーに結合する。hESCs中のErbBチロシンキナーゼの公知の阻害効果を調べるために、BG01v細胞は1000:1に希釈されたMATRIGEL(登録商標)の上の6ウエルトレーで、100ng/mL LongR3−IGFl、8ng/mL FGF2、および1ng/mL アクチビン Aを含む定義された培養液(DC)中にプレーティングされた。翌日、DMSO(キャリアコントロール)、50nM−20マイクロM AG1478(ErbBl阻害剤)、または100nM−20マイクロM AG879(ErbB2 阻害剤)が新鮮培地と共に加えられた。細胞は5日間、毎日培地を交換しつつ培養された。培養物は、アルカリホスファターゼ活性について固定され、染色された。
AP+BG01v細胞のサブコンフリューエント(subconfluent)コロニーが、コントロールとAG1478培養細胞の中で観察された(図2Aおよび2B)。DMSOもAGl478(50nM−20マイクロM)も細胞増殖に明白な影響を及ぼさないことが示された。AG879はしかしながら、5マイクロMで実質的に細胞成育を禁止して(図2C)、20マイクロMで細胞死を引き起こした(図示せず)。AG879で育てられた培養物は、分化を見せず、多分化能形態学とアルカリホスファターゼ活性を維持するように見えた。これはAG879が、分化を起こさずに増殖を抑制することを示し、細胞生存において、BG01v細胞がErbB2シグナリングに頼っていることを示唆している。逆に、上記と同様の条件で育てられたBG01v細胞は、増殖においてErbBl信号に頼っているように見えない。
実施例3−BG01v細胞はヘレグリンを含む定義された培地中で維持される
ErbB2とErbB3の発現とAG879での増殖抑制は、BG01v細胞が内因性のErbBシグナリングに活性であり、またそれらが外因性のHRG−βに反応することができることを示唆した。BG01v細胞は1:1000に希釈されたMATRIGEL(登録商標)上で、10ng/mL HRG−β、200ng/mL LongR3−IGFl、8ng/mL FGF2、および10ng/mL アクチビン Aを含むDC媒体中で成長された(図3AおよびB)。細胞は4代または20日より長く成長され、未分化型モルホロジーを示し、高い突発性分化を示さなかった。
さらに、BG01v細胞は2代、または13日より長い間にわたり、10ng/mL HRGβ、200ng/mL LongR3−IGFl、および10ng/mL アクチビン Aを含むDC媒体内で維持された。これらの培養物は通常通り増殖し、非常に低い突発性分化を示した。これはFGF2の非存在下で、HRGβの存在下で、定義された条件下でBG01v細胞を維持できたことを示している。
実施例4−ES細胞中のErbB2−由来チロシンキナーゼの役割
RT−PCRは、mESCsがADAM19、ニューレグリンl(Nrgl)、およびErbBl−4を発現することを示した(図4A)。mESCsでは、ErbB2と3はErbB1よりも高いレベルで発現したことが示され、ErbB4の低レベルが検出された。これらのデータは、内因性のHRG−βがmESC自己再生の推進にかかわることができたことを示唆する。
また、マウス胎児線維芽細胞(MEFs)中のErbB受容体転写物の発現も調べられた(図4B)。MEFsは、マウスおよびヒトEC細胞と胚性幹細胞を維持するのに歴史的に使用されてきたE12.5−13.5の内臓から得られた細胞の不均一集団である。この集団におけるNrglとAdam19の発現は、HRG−βエクトドメインが、MEF馴化培地内にも存在していて、多分化能に有意な効果を示すことができることを示唆する。
AG1478とAG879は、マウス胚性幹細胞でのHRG/ErbBシグナリングの役割を調べるのに使用された。RlマウスES細胞はDMEMの標準状態、10%FBS、10%KSR、0.5U/mLペニシリン、0.5U/mLストレプトマイシン、IxNEAA、1mMピルビン酸ナトリウム、1000U/mL LIF(ESGRO)、0.1mM βMEで維持されて、0.5%トリプシン/EDTAで継代された。2×l0細胞/ウェルは1:1000に希釈されたMATRIGEL(登録商標)上で6ウエルトレー中にプレーティングされた。プレーティングの翌日、DMSO(キャリアコントロール)、1−50マイクロM AG1478、または1−50マイクロM AG879が新鮮培地と共に加えられた。細胞は毎日培地を交換しつつ、さらに8日間培養された。培養物は、ついで固定されたアルカリホスファターゼ活性について、染色された。
DMSOと1−50 マイクロM AGl478は細胞増殖に明白な影響を有していなかった。アルカリホスファターゼポジティブのmESCsの「サブ−コンフルエント」コロニーが観察された(図5A−C)。しかしながら、AG879は50マイクロMで実質的に細胞成育を禁止して(図5Dおよび5Fの比較)、20マイクロMで増殖を遅くしたかもしれない(図5E)。AG879で育てられたmESCsは、分化を示さず、多分化能モルホロジーと、アルカリホスファターゼ活性を維持した。
結果は、AG879が増殖を抑制し、mESCsの分化を示さず、mESCsが増殖のためにErbB2シグナリングを必要とすることを示唆した。逆に、mESCsは、増殖のためのErbBlシグナリングに頼っていないように見える。増殖を抑制するために必要とされるAG879の濃度は、mESCsについて、定義された条件で育てられたBG01v細胞のためのそれより約10倍高かった。mESC条件で使用した血清が薬の活性を妨げたか、AG879はマウスErbB2チロシンキナーゼについてヒトErbB2チロシンキナーゼより低い親和性を有するか、またはErbB2が胚性幹細胞の異なった種でわずかに異なった役割を果たすことができるかを示している。
ErbB2チロシンキナーゼの別の高選択的阻害剤、チルホスチンAG825(Murillo,ら 2001 Cancer Res 61,7408−7412)が、ヒトESCsでのErbB2の役割を調査するのに使用された。AG825は、条件培地(CM)で成長するhESCsの増殖を顕著に禁止した(図6A)。AG825は広範囲の細胞死を起こさずに増殖を抑制し、5日間より長くhESCsの生存が維持できた(図示せず)。ウェスタンブロット法は、AG825が、DC−HAIFで成長する飢餓/ヘレグリン(HRG)パルストhESCs(starved/heregulin(HRG) pulsed hESCs)内で、チロシン−1248でErbB2の自動りん酸化を禁止したことを示した(図6B)。したがって、ErbB2の分裂のシグナリングはhESC増殖を厳しく抑制した。定義された生育条件でhESCsを確立するために、培養は、直接CM条件からDC−HAIFに継代され、最小の突発性分化を示した(図6C)。コロニーと細胞計量検定方法は、LongR3−IGFlとHRGが、本発明の実施態様の1つの文脈における自己再生および増殖における主要な役割を演ずることを確認した(図6Dおよび6E)。IGFlR、IR、FGF2α、ErbB2、およびErbB3のリン酸化は、定常状態DC−HAIF培養、およびDC−HAIFパルスト飢餓培地(starved cultures that were pulsed with DC-HAIF)の両者で観測された(図6F)。
実施例5、定義された条件における、マウスES細胞の培養
さらにマウス胚性幹細胞でのHRG/ErbB2シグナリングの役割を調べるために、Rl ES細胞の増殖が増殖因子の組み合わせを使用して、DC培地で調べられた。1×10細胞/ウェルが6ウェルのトレーの中にプレーティングされ、0.2%のゼラチンで被覆され、10ng/mL HRG−β、100ng/mL LongR3−IGFl、1ng/mL アクチビン A、1000U/mLマウスLIFまたは10ng/mL BMP4の組み合わせを含むDC中で培養された(以下の表1)。増殖は8日間観測された。
生存可能なコロニーは、少なくともLIF/HRG−βまたはLIF/BMP4を含む条件でのみ成長した(表1)。LongR3−IGFlまたはアクチビンがこれらの組み合わせに加えられたときには、明確な追加の利益は観測されなかった。通常の増殖はコントロール親培養で観測された。そして、生存可能なコロニーは増殖因子なしの定義された培地では観測されなかった。表1参照。
定量的測定法は6ウェルのトレー中の1:1000のMATRIGEL(登録商標)と、10または50ng/mLのHRG−ベータ、EGF、1000U/mL LIFまたは10ng/mL BMP4の選択された組み合わせに2×l0細胞/ウエルをプレーティングして行った。培養物は、8日間成長され、固定された。そして、アルカリ性ホスファターゼコロニーの数が数えられた(図7A)。定義された条件で増殖因子なしではコロニーは全く観測されなかった。そして、45よりも少ないコロニーがHRG−β、HRG−β/EGF、およびHRG−β/BMPの組み合わせで観測された。1358のコロニーがLIFのみで観測されたが、4114および3734コロニーが10ng/mL HRG−β/LIFと50ng/mL HRG−β/LIFの組み合わせでそれぞれ観測された。これは、定義された条件では、LIFだけが実質的な多分化能信号を提供したことを示した。そして、HRG−βはLIFと大きい相乗効果を示し、この分析評価において、増殖性mESCコロニーの数を倍以上にした。また、この分析評価の低倍率イメージはこの相乗的な増殖促進効果を示す(図7B−G)。
実施例6−DC−HAIF中で維持されたヒト胚幹細胞(hESCs)の多分化能のキャラクタリゼーション
複数のアプローチが、DC−HAIF内のhESCsの形成性の維持を確認するのに使用された。6カ月(25代)DC−HAIF内で培養されたBG02細胞は、複雑な奇形腫を形成する可能性を維持(図8A)し、生体外の3個の胚葉層の代表種であった。転写分析は、CMおよびDC−HAIF内で維持されたhESCs細胞(Liuら、2006,BMC Dev Biol 6,20)でグローバルな発現を比較するのに使用された。11,600より多くの転写がDC−HAIF中で育てられた10から32継代のBG02細胞で、およびCM中で64継代で育てられたBG02細胞で検出された。CD9、DNMT3、NANOG、OCT4、TERTおよびUTFl(図示せず)などの知られているhESCマーカーをはじめとするすべての集団では約10364の転写が一般にあった(図8C)。高い相関係数が、CMとDC−HAIF培養の比較(Rselect=0.928)と、早い段階および遅い段階での継代細胞(Rselect=0.959)で観測された(図8D)。階層的なクラスター分析は、DC−HAIF中で維持されたBG02細胞は、しっかりと保持され、CM中で維持されたBG02とBG03細胞に近い類似性を有していた(図8E)。これらのデータは前の分析と一致し、未分化型hESCsは、胚様体または線維芽細胞(Liuら、2006,BMC Dev Biol 6,20)と比べて、しっかりとクラスターされていることを示している。したがって、本発明の組成物で維持された細胞は、多分化能のキーマーカーを維持できる。従って、分化可能な細胞の自己再生を支持するための簡単な培地として本発明の組成物を使用できる。
実施例7−DC−HAIF中のヒト化細胞外マトリックス(ECMs)におけるヒト胚性幹細胞(hESCs)の維持
ErbB2シグナリングの役割を調査して、hESCsのための定義された培地を開発するために、DC−HAIF培養物を増殖因子の減少されたl:30のMATRIGEL(登録商標)でコーティングされた培養皿上に初期的に広げた。1:200、または1:1000で希釈された基体上に長期的に成功裏に維持できた(図9A)。また、ヒト血清(図9B);ヒトフィブロネクチン(図9C);またはプロプライアタリイ ヒューマナイズド ECM(proprietary humanized ECM)であるVITROGRO(登録商標)(図9D)でコーティングされた組織培養皿上で、BG02とCyT49 hESCsを5継代より長く維持できた。
実施例8−ヒト胚性幹細胞(hESCs)の単独細胞継代
複数の研究グループは、ある種の三倍体性、著しくはhChrl2と17は、hESCsに、ある部分的な最適培養条件の下で蓄積されることを示した(Bakerら,2007 Nat.Biotech.25(2):207−215)。三倍体性の外観は、培養物が継代時に単独細胞に分離される時に、最も直接的に不十分な細胞生存に関連するように思え、これらの異数性の細胞ハーバリング(harboring)のために推定される強い選択成長の利点が細胞に提供される。逆に、本発明の1つの実施態様でDC−HAIFで成長するhESCsが、単独細胞に分離された後のプレーティングで、高い生育性を維持した(図10A−D)。BG0lとBG02細胞は、ACCUTASE:登録商標でそれぞれ>18および19の継代の後、正常核型に維持された(図10E)。細胞における正常核型の維持は、単独細胞へのhESC培養物の離解が本来DC−HAIFで維持されたhESCsのこれらの三染色体性の蓄積につながらなかったことを示した。BG0lとBG02培養物も、複数の継代試薬を使用した単独細胞への離解により継代される(図11)。培地は、5継代のために、ACCUTASE(登録商標)、0.25%Trypsin/EDTA、TrypLE、またはバーシーン(VERSENE:登録商標)でスプリットされ、カリオタイプされた(karyotyped)。データは、本発明の組成物でのhESCsの培養および継代は、さまざまな細胞解離試薬を使用して、正常核型が少なくとも2のヒト胚性細胞ラインで維持されたことを示す。
また、本発明の組成物を使用して、未分化型hESCsの大規模なエキスパンションも可能である。60mmのプレート内のBG02細胞の最初のコンフルーエントな培地(confluent culture)は、DC−HAIF内で20日間の1つの実験で、1.12×l010より多くの細胞に4継代で増殖された。培養は未分化型のままで残り、流動細胞計測法によれば、バッチ内の細胞の85%より多くがOCT4、CD9、SSEA−4、TRA−1−81などの多分化能のマーカーの発現を維持した(図12A)。また、多分化能の他のマーカーの発現もRT PCR分析で観測された。一方分化型リネッジのα−フェトプロテイン、MSXl、およびHANDlのマーカーは検出されなかった(図12B)。蛍光 in situ ハイブリダイゼーション分析は、DC−HAIF内で培養され継代された細胞は、hChrl2(98% 2−コピー)、hChrl7(98%、2−コピー)、hChrX(95%、1−コピー)およびhChrY(98%、1−コピー)について、期待されたコピー数を維持した(図12C)。また、核型分析は、正常な倍数性染色体内容とバンディングプロフィール(banding profile)がこれらの細胞で維持されたことを示した。
実施例9−生理学的濃度で適用される際の、インスリン、およびIGFlのhESCsへの異なる効果
本質的にはこれまでのhESCsについての既報告培養条件のすべてが、IRとIGFlRの両方を刺激できるインスリンを生理学的に過剰な量で含んでいる。IGFlと比べて、インスリンおよびインスリン代用物が及ぼす活性を区別するために、hESCsがこれらの増殖因子の生理的濃度の定義された培地条件で培養される。インスリンとIGFlの濃度は約0.2〜約200ng/mLまでとされ、細胞増殖は、5日後に細胞を数えることによってモニターされる。成功裏に広がる培地は、連続的に5回継代される。インスリンの生理的濃度はhESC培養のエキスパンションをサポートしないが、IGFlの生理的濃度はhESC培養のエキスパンションをサポートする。これはインスリンまたはインスリン代用物の活性がIGFlを置き換えることができないことを示し、IGFlとインスリン(またはインスリン代用物)はhESCsへの作用に関して別々のクラスの生物的活性を及ぼす。
実施例10−サプリメントの効果をスクリーニングする方法
中間密度で成長するhESCsの成長または分化に対するビタミンB12とBの効果を初期的に評価するために、BG02細胞は、ACCUTASE(登録商標)を使用して、1×10細胞/ウエルで、6ウェルトレー中で定義された培養(DC)培地でプレーティングされ、分裂された。DC培地は10ng/mL HRG−β、200ng/mL LongR3−IGFl、および10ng/mL FGF10を含んでいる。ビタミンB6(0.5マイクロM)、および/または、ビタミンB12(0.5マイクロM)は試験ウエルに加えられる。各条件での細胞数は7日後に数えられる。両方の実験用および対照ウェルでの細胞数およびコロニー数は、ビタミンB12とBの細胞成長に与える効果の見通しを与える。
さらに、OCT4などの分化マーカーについて試験ウエル内で評価して、添加剤およびサプリメントの分化可能な細胞の分化状態への効果を決定できる。
実施例11−FGF2の非存在下でのhESCsの培地
BG02細胞は長い期間(20継代)、DC−HAI内で維持された(図13A)。BG0l細胞も、連続的にDC−HAI内で継代された。ともにFGF2の非存在下であった。培養は、悪化もしなかったし、明白な分化を示しもしないで、培養時期の全期間にわたり未分化型コロニーの通常のエキスパンションを示した。BG02培養における、正常男性核型の維持は、DC−HAI内での6継代の後に示された(図13B、20/20の正常な有糸分裂の中期の広がり)。
転写分析は、DC−HAIFとDC−HAIで維持されたhESCs細胞でグローバルな発現(global expression)を比較するのに使用された。総セルRNAは、hESCsからTrizol(Invitrogen)を使用して分離されて、メーカーの示唆された実験計画書によりDNase I(Invitrogen)で処理された。サンプル増幅は、全RNAの100ngで、イルミナ RNA 増幅(Illumina RNA Amplification)キットを使用して実行された。そして、ラベリングはラベルされていないUTPと1:1の比率でビオチン(biotin)−16−UTP(Perkin Elmer Life and Analytical Sciences)を加えることによって達成された。ラベルされた増幅物(1アレイあたりの700ng)は、メーカーの指示(Illumina,Inc.)により、47,296の転写プローブを含むイルミナ セントリックス ヒューマン−6 エクスプレッション ビードチップス(Illumina Sentrix Human-6 Expression Beadchips)とハイブリダイズされた。アレイはイルミナ ビード アレイ リーダー(Illumina Bead Array Reader)共焦点スキャナでスキャンされ、1次データ処理、バックグランド除去、およびデータ分析が、メーカーの指示によりイルミナ ビードスタジオ(Illumina BeadStudio)ソフトウェアを使用することで実行された。0.99(計算されたカットオフが、目標配列シグナルがネガティブコントロールから識別可能であったことを示した)の最小の検出信頼スコアが、転写産物の存在または欠如を区別するために使用された。データ分析は、他のhESCのサンプルのために説明した並列アプローチを使用することで実行された(Liuら 2006,BMC Dev Biol 6:20)。階層的なクラスター形成は、先に(Liuら、2005,BMC Dev Biol 6:20)説明したように実行されて、ANOVAによって特定された分化発現遺伝子(differentially expressed genes)を使用する類似性測定基準として平均連結とユークリッド距離に基づいた(p<0.05)。アレイ製造に使用される感度および品質管理試験の詳細、およびビードスタジオソフトウェアで使用されるアルゴリズムの詳細な説明はIllumina Inc(サンディエゴ(カリフォルニア))から利用可能である。検出された転写の大部分がDC−HAIFとDC−HAI BG02培養の両方で発現され、CD9、DNMT3、NANOG、OCT4、TERTおよびUTFlなどの公知のhESCマーカーを含んでいた(図示せず)。高い相関係数が、DC−HAIFとDC−HAI培養の比較で観測された(Rselect=0.961)(図14)。階層的なクラスター形成分析は、DC−HAI内で維持されたBG02細胞はしっかりとグループ化され(grouped tightly)、複数の培養形式のBG02や他のhESCラインと同様にDC−HAIF内で維持された細胞に近い類似性を保有した(図15)。これらのデータは、胚様体または線維芽細胞と比べて、未分化型hESCsが群生した(clustered tightly)ことを示している前の分析と一致している。(Liuら、2006,BMC Dev Biol 6:20)
さらに、DC−HAI内で維持されたBG02細胞は、SCIDベージュのネズミで形成された複雑な奇形腫における内胚葉、外胚葉および中胚葉の代表種に分化し(図示せず)、外因のFGF2の非存在下で育てられた培養における、多分化能の維持を示した。
外因のFGF2が単独細胞継代で必要であったかどうかを調べるために、BG0l細胞はACCUTASE(登録商標)で継代され、10ng/mL HRG−βおよび200ng/mL LongR3−IGFl(DC−HI)のみを含む定義された条件で成長された。これらのDC−HI培養物は、10継代維持されて、明白な分化または増殖の減速を示さなかった。
これらの研究は、hESCs最小含有ヘレグリンとIGFlを含む定義された培地内で維持されるとき、外因のFGF2は必要でないことを明確に示した。さらに、FGF2のない培養液は中胚葉、内胚葉、および外胚葉への生体内での分化と転写プロフィールをはじめとする、多分化能の基本性質を保有した。
実施例12−懸濁培養
BG02細胞の出発時の培地は、本明細書に記載されたように、1:200matrigelによってコーティングされた皿の上のDC−HAIF培地で維持されて、ACCUTASE(登録商標)で継代され分割された。懸濁培養を開始するために、BG02細胞はACCUTASE(登録商標)でばらばらにされ、DC−HAIF培地中、1.6、3、または6×l0細胞/mL(3mL体積中、0.5、1、または2×l0細胞)の密度でローアタッチメント6ウエルトレイに置いた。トレーは5%のCOの加湿されたインキュベータ内に、80−100rpmで回転プラットホーム上に置かれた。これらの条件下で、hESCsは24時間以内に形態学的に小球の生存細胞に融合した。
2日目、およびその後の毎日、ウェルの培地を変えた。懸濁集団は増殖し続け、時間とともに分化の明白な徴候なしで大きくなった(図17)。球のいくつかが、培養の過程の上で集合体であり続けたが、いくつかの集団が大部分よりはるかに大きくなった。さらに、培養の最初の数日の間に、合体過程において非球状集合体が観測できた。この連続的な集合に限れば、38マイクロg/mL DNaseIが最初の24時間の懸濁培養中に含まれていた。しかし、より少ない集団がDNaseIの存在下で形成されるので、このアプローチは比較的大きい初期の集合に役に立つように見えた。しかしながら、DNaseI処理が引き続く球の合体を減少させて、DNaseIへの暴露が一貫してこれらの集団をより堅くし、分離の際に破壊されるかどうかは明確でない。
懸濁培養はACCUTASE(登録商標)で約7日毎に離解され、新しい球が作られた。密度は実験により異なったが、この範囲内の密度(1.6−6×l0細胞/ミリリットル)で作られた球は12継代より長い間、または80日より長い間、分化の形態学的な徴候なしで培地中で維持できた。連続的に継代された懸濁hESCsのFISH分析が、一般的な異数性の染色体数を算定するために実行された。6継代の間懸濁液中で育てられたBG02細胞は、hChr12(96%、2−コピー、n=788)、hChr17(97%、2−コピー、n=587)、hChr X(97%、1コピー、n=724)、およびhChr Y(98%、1コピー、n=689)について通常のカウントを示した。
実施例13−懸濁培養における、分化可能な細胞のエキスパンション
血清または分化誘導剤の存在下での胚様体培養と異なり、DC−HAIF中のhESCsの懸濁集団は分化するように見えなかった。明白な臓器の内胚葉は観測されないで、また原腸腔(proamniotic cavities)類似構造の形成も、胚様体分化に関する古典的な徴候もなかった。より密接に分化の欠如を調べるために、培養物は1:200に希釈されたMATRIGEL(登録商標)上の接着条件にプレーティングして戻され、DC−HAIF中で培養された。これらの培養物は、本来未分化であり、より大きくて平らにされた細胞、または構造領域の存在などの増加する分化の明白なモルホロジー的な徴候を示さなかった。
細胞計数は、接着培養と比べて、懸濁培養中における細胞の相対成長率を評価するのに使用された。この実験では、BG02細胞の接着培養はACCUTASE(登録商標)で継代され、約1×10の細胞が懸濁培養または接着培養ウェルに置かれた。個々のウェルは、1−6日の間、計数され、対数スケールでプロットされた(図18)。接着培養中では、24時間後でのhESCsのより高い初期割合(約90%対約14%)を示したが、成長率はその後、同等であった。これは、hESCsが伝統的な接着培養と懸濁培養で、ほぼ同じくらい急速に増殖できることを示した。継代の間に行われた細胞の計数は、この単純懸濁系で可能なエキスパンションの量を測ることを許容する。いくつかの培養では、5×10の細胞の播種で、7日後には約10以上の細胞が発生した。懸濁培養における7日後のエキスパンションは、約20倍またはそれ以上のエキスパンションに等しく、観察された最大のエキスパンションは約24倍であった。
実施例14−懸濁培養でエキスパンドされた分化可能な細胞の特性
定量的RT−PCR(qPCR)は、DC−HAIF中での懸濁培養および接着培養で育てられたhESCsの遺伝子発現を比較するのに使用された。多能性細胞のマーカーであるOCT4の同程度が、両方の培養形式で観測され、懸濁培養で維持された培養が、本来未分化であったことが確認された。最終的な内胚葉のマーカーであるSOX17は、hESCsのどちらの集団でも発現されなかった。また、qPCR分析は懸濁培養hESCsが、懸濁における集団として最終的な内胚葉に分化する可能性を調べた。接着および懸濁hESCsは、同じ条件を使用して分化された。2%のBSA、100ng/mL アクチビン A、8ng/mL FGF2、および25ng/mL Wnt3Aを含むRPMIでhESC培養物が24時間処理され、次いで、Wnt3Aを含まずに同じ培地で2日間処理した。未分化型hESCsと比べて、両方の最終的な内胚葉のサンプルでOCT4の発現は減少され、SOXl7の発現は増大された。この分化分析は、DC−HAIFでの懸濁培養で培養されたhESCsが、最終的な内胚葉の同様な形成で証明されるように、それらの分化能を維持したことが確認された。
実施例15−懸濁培養におけるアポトーシス阻害剤の付加
懸濁中における初期の継代の後に細胞の損失を減衰させるために、アポプトーシスの阻害剤が媒体に追加された。細胞は実施例12のように継代された。ただし、Y−27632ではなく、pl60−Rho会合 コイルドコイルキナーゼ(pl60-Rho-associated coiled-coil kinase:ROCK)が培地に追加された。
BG02細胞の懸濁集団は、3mL DC−HAIF培地中、6ウェル皿に2×l0の単独細胞を播種し、インキュベーター内の100rpmの回転プラットホームに置くことにより形成された(表2、実験 A)。10μMのY27632 ROCK阻害剤は、実験計画にしたがって試験ウエルに加えられ、毎日観測され、24時間(1日目)後と4日または5日後に数えられた。図20に示されるように、Y27632の添加は懸濁培養の初期の集合フェーズで絶大な効果があった。阻害剤のない培地で集合された細胞と比べて、はるかに大きい集団がY27632の存在下で形成された(図20)。細胞計数は、より生存可能な細胞が阻害剤があるときに存在すると確認した(表2、実験 A)。細胞数におけるこの相違は、培養時期の経過中にわたり持続した。また、阻害剤のない培養と比べてより多くの細胞が4日目に観察された。先の懸濁培養の実験と同様、Y27632に暴露された細胞は連続的に継代されることができ、未分化状態で維持されることができた(図示せず)。再度分割される際、Y27632で処理されたもののほぼ2倍の細胞が観察された(表2の実験 A)。RT−PCR分析は、Y27632の存在下で、懸濁培養で育てられたBG02細胞は、未分化型のままで残っていたことを示した(図21)。
前の実験で、懸濁培養および接着培養における細胞の成長率が初期の24時間後に同様であったのを示したように、Y27632がこの当初期間の後に除去された実験が行われた(表2、実験 B)。前の観察と一致して、Y27632は初期の生存、最初の継代の後のhESCsの集合を増大させたが、24時間後に阻害剤を除去すると、5日目に分析された細胞の数と生育性カウントには否定的な影響は与えられなかった。未処置の培養における3.9×10の細胞と比べて、阻害剤が存在していたとき、1.4×l0(+Y27632)と1.8×l0(+/−Y27632)の生存細胞が発生した。この分析は、懸濁hESC培養の最初の24時間の間、Y27632は最も大きい影響力があったことを確認した。
Y27632の存在下で観測された向上された生存と集合のため、懸濁培養をシードするのに使用される細胞数を減少させることが可能かどうか調べるために実験が行われた(表2、実験 C)。前の実験では、3mL DC−HAIFあたりおよそ5×10以下の細胞の低密度での胚性幹細胞の播種では良好に作用しないことが示された。ROCK阻害物の添加は低い密度での細胞播種を許容するかどうかを確認するために、ある範囲の細胞濃度(2×10細胞から約1×10の細胞)が、3mL DC−HAIFで6ウェルトレー細胞で懸濁培養をシードするのに使用された。10マイクロMのY27632がすべての条件で加えられ、細胞数と生育性が5日目に評価された。成功裏の集合とエキスパンションが低い播種密度でさえ観測された。1×10の細胞でシードされただけである培地であっても、ほぼ13倍の生存細胞のエキスパンションが観察された。したがって、Y27632によるROCKの抑制は、この懸濁培養システムでは、より低い密度でhESCsの初期生存を容易にした。
Expt.:実験
p0は継代0、p1は継代1
N/Aは未測定
細胞数と割合はそれぞれ少数第0または1位で四捨五入される。
実施例16−様々な培地における懸濁培養
FGF2および/またはアクチビン Aの非存在下で胚性幹細胞の懸濁培養が可能かどうかを決定するために、これらの要素の有無により胚性幹細胞がさまざまな培地で培養された。表3は懸濁培養の細胞計数結果を示し、懸濁培養は外因のFGF2が存在しない場合(HAI条件)、または外因のFGF2またはアクチビン Aが存在しない場合(HI条件)にも、成功裏にエキスパンジョンさせることができたことを示す。Y27632の添加は、すべての条件下で、5日で細胞収率を増大させた。さらに、各培地における細胞は分化のモルホロジー的な徴候を示さず、成功裏に継代された。
実施例17−懸濁細胞集合体の増加する生存、一様な密度、およびサイズにおける最適化されたせん断速度
本明細書に開示されたシステム、方法および装置によれば、懸濁細胞の中で維持できるすべての細胞ラインが利益を受け、利用できると企図される。細胞としては、ヒト細胞ラインCyT49、CyT203、Cyt2S、BG0l、BG02、マウス、犬、非人間霊長類幹細胞ラインをはじめとするほ乳動物細胞、および他のものを含むが、これらに限定されない。
本明細書に提供された結果は、反応装置に関する操作パラメータ、特に培養物の流れ速度およびせん断力に応じて、細胞増殖と分化を制御されたレベルで維持するか、または減衰させることができることを示す。細胞培養物に加えられたせん断力は、細胞増殖に有意な効果を持つことができる。本明細書で使われた回転プラットホームなどの対称的システムは、均一な、主として層流のせん断応力を容器の周囲に提供し、撹はん槽バイオリアクタのような非対称システムとその取り付けは、局所性な高速せん断応力によって特徴付けられる乱流の領域を有する。バイオリアクタまたは細胞培養装置が対称的システムでなければ、培養物流れの方向は回転から生じるせん断応力の性質と程度の両方に影響する。
もちろん、最適の回転数は具体的な培地に依存し、培地中の細胞数、培養液の粘度、培地のタイプ、懸濁液における特定の細胞の丈夫さ(いくらかの細胞は他のものより大きなせん断力に耐えることができる)などに依存する。最適の回転数は特定の条件の組に応じて容易に決定できる。本明細書に説明され、想定された回転数は、層流条件を維持するために特に、役に立つ。本明細書に記載された実験は以下の条件で行われた:
1)細胞増殖と分化は制御されたレベルまたは制御されたレベルの近くに維持された。
および
2)細胞が増殖し分化する条件は減衰された。
以下は、hES細胞集合体培養物または分化型hES細胞集合体培養物を良好に維持することができる一般法である。当業者は本明細書に提供された説明に基づき細胞集合体の大きさおよび形状を最適化できる。
下記の表4は、細胞集合体の直径(μm)に関連する、せん断速度および応力を示す。
人間の胚性幹細胞はオービタルローテーター(Bamstead LabLine Multipurpose Rotator)を使用して様々な回転速度で、1、2、3および/または4日の間集合された:60rpm、80rpm、100rpm、120rpm、130rpm、140rpm、150rpm、および160rpm。また、表4は、細胞集合体の直径に依存する、細胞集合体により経験された効果的なせん断速度を示す。

回転速度がどのように、ES集合体の直径をコントロールするかを決定するために、100rpm、120rpmまたは140rpmで回転させてES集合体を発生させた。集合体の直径は2日後に回転培養物から得られた、5倍フェーズコントラスト画像から定量化された。l00rpm培養において、平均直径+/−SDは198μm+/−21μmであった。120rpmの培養において、平均直径+/−SDは225μm+/−28μmであった。140rpmの培養において、平均直径+/−SDは85μm+/−15μmであった。それぞれの直径分布は、ANOVAおよびターキー マルチプルコンパリゾン(Tukey Multiple Comparison)のポストテストを使用して統計的に有意である(p<.001)。表4に示されるように、せん断速度は60rpmから140rpmへ指数関数的に増える。例えば、100μmの直径集合体のための100rpmではせん断速度はほぼ30秒−1であるのに対し、140rpmではほぼ80秒−1であり、3倍に増大にする。典型的には、140rpmより高い回転速度はより大きく、均一度の低いhES細胞集合体をもたらした。細胞集合体培養物は、初めは減少した回転速度、例えば、約1日間、60rpmから80rpmで培養して、その後より高い回転速度(例えば、100rpm−140rpm、又はそれ以上)で、細胞集合体のサイズおよび形への悪影響を及ぼすことなく培養することができる。
細胞集合体の直径はせん断速度に従って変化するが、様々な条件、すなわち異なる回転速度、および/または細胞集合体の異なるサイズおよび形状において遺伝子発現には甚大な効果は全くないことに留意することは重要である。すなわち、多分化能hES細胞またはhES細胞−由来細胞タイプ(例えば、最終的な内胚葉、前腸内胚葉、PDXl内胚葉、膵性内胚葉、および内分泌細胞)のために観察された署名マーカーが、上記の本明細書に参照され組み込まれているd’Amour他の出願およびそれらの関連出願で説明されたことと一致していた。
細胞生存または細胞生存率に対する回転速度、せん断速度、およびせん断応力の効果を決定するために、生存が減少速度(例えば、60rpmから80rpm)での1日により改良されたことが示された。例えば、細胞生存は、60rpmから140rpmの間の回転速度において少なくとも60%以上に及んだ。また、より高い回転速度(例えば、l00rpm以上)と比べて、減少した回転速度培養であるd1、d2、およびd3では、細胞集合体の数もより多かった。また、細胞集合体が、より高い回転速度(例えば、140rpm以上)で培養されたとき、顕著な分裂および離解があった。しかしながら、同時にこれらのデータは、細胞集合体が最初に少なくとも1日間減少した回転速度で培養されたとき、細胞生存が増加されることを示して、回転速度がl00rpmに140rpmまで増加したとき、細胞生存には大幅ダウンが全くなかったことを示す。
もっとも、140rpm未満の回転速度での分化は好ましい。
また、培養体積は上で議論したように、せん断速度およびせん断応力に影響を及ぼし、これは細胞集合体の大きさおよび形状の均一性に影響する。たとえば単独細胞懸濁培養が開始され、6mLで細胞集合体が形成された場合、4mLで開始されたものと比べて、より均一な大きさと形状の細胞集合体が得られる。図23を参照する。4mLで培養されると、細胞集合体の直径は50ミクロン未満から250ミクロン以上まで変化するが、6mLで培養されると、直径はより狭い範囲となり、細胞集合体の直径は50ミクロン以上から200ミクロン以下になった。説明した細胞集合体は接着性のhES細胞培養からつくられた単独細胞懸濁培養から開始されたが、hES−由来接着性プレーティングから開始された細胞集合体懸濁培養も同様な挙動を取ることが期待される。したがって、培地の容積は、細胞集合体懸濁液培養が開始されるステージからほぼ独立している。
さらに、さまざまな異なった培地条件でhES細胞集合体を培養できる。例えば、StemPro(登録商標)含有培地、DMEM/F12含有培地;20%のKnockout血清代替物含有(KSR、Invitrogen)DMEM/F12含有培地;20ng/mL FGF(R&D Systems)と20ng/mL アクチビン A(R&D Systems)をさらに含むStemPro(登録商標)およびDMEM/F12培地;10ng/mL ヘレグリン(Heregulin)Bをさらに含むStemPro(登録商標)およびDMEM/F12培地;中でhES細胞集合体培養を維持できる。あるいはまた、無異物性のKSR(Invitrogen)が補われた状態で、本明細書に参照された培地と市販の培地のいずれも使用できる。最後に、細胞集合体は、上記の培地であってさらに外因のFGFを含んでいない培地でも、培養され製造された。
実施例18−懸濁培養におけるhES細胞集合体は内胚葉リネッジタイプ細胞に分化できる
上記のd’Amour他(2006)および米国特許出願番号2005/0266554、2005/0158853、2006/0003313、2006/0148081、2007/0122905と2007/0259421で記載されているように、ヒト胚性幹(hES)細胞は、生体外で維持され、最終的な内胚葉(ステージ1)、前腸内胚葉、およびPDXl内胚葉に分化する。上記の文献は参照され、その全体が本明細書の一部として組み込まれる。
簡潔にいえば、未分化型多分化能hES接着(プレート)細胞は、マウス胚線維芽細胞フィーダー層(ミリポア、先のChemiconまたはSpecialty Media)の上、または、20%のKnockOut血清代替物(Invitrogen/Gibco)、1mM非必須アミノ酸(Invitrogen/Gibco)、グルタマックス(Glutamax)(Invitrogen/Gibco)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen/Gibco)、0.55mM 2−メルカプトエタノール(Invitrogen/Gibco)、および4ng/mLから20ng/mLの組替えヒトFGF2(R&D Systems)が補われたDMEM/F12(Mediatech)内のヒト血清で被覆された60mmのプレート(0.1〜20%の最終濃度;Valley Biomedical)の上で維持された。あるいはまた、上記の培地は無異物性のKSR(Xeno-free KSR)(Gibco)とヒト血清を補うことができる。また、hES細胞がコーティングを施していない培養プレート上にシードされた後に、ヒト血清が培養に追加された。アクチビン Aの少用量は(2−25ng/ml、R&D Systems)、未分化増殖を維持するのを助けるために成長培地に追加された。0日目(d0)の接着性の多分化能hES細胞は、高水準の多分化能蛋白質マーカー、OCT4を発現する。図1、パネルA、d0のプレートコントロールを参照。
細胞は手動または酵素的に、実質的に上記のd’Amour他らに記載されているように、再度継代された。懸濁培養物は、分離されて、円錐管に移されて、約5分間1000rpmで遠心分離された。上澄を取り除き、バイセル セルアナライザー(ViCell Cell Analyzer)を使用して標準の細胞計数を実行した。60mmのプレートからの典型的な細胞数は3×l0から12×10の範囲で変化し、継代の前の培地中での日数および細胞ラインに依存する。一次細胞懸濁液中における細胞数がいったん測定されると、懸濁液はさらにStemPro(登録商標)または無異物性のKSRを含む培地で上記のように希釈され、1×10細胞/mLの最終的な容積に希釈された。この容積は、>4×10細胞/mLに増加できるが、より頻繁なフィーディングを必要とする。ROCK阻害剤Y27632(Axxora)は細胞懸濁液に約1−15マイクロM、典型的には10マイクロMの最終濃度まで加えられた。そして、チューブは優しい反転によって混ぜられた。いくつかの場合、Y27632は、集合体生成の速度を制御するために懸濁に加えられなかった。再懸濁された細胞は、次にローバインディング6ウェル皿(1ウェルあたりの細胞懸濁液約5mL)の各ウェルに等しく分配されて、分化の前に約1−4日間、100rpmから140rpmで回転プラットホーム上に置かれた。
この培養の間、hES細胞集合体が形成され、少なくとも毎日1−2回、Y27632を新鮮なStemPro(登録商標)培地からY27632を除いたものの4mLで、4mLの培地を取り替えることによって、培養物に毎日フィーデングするか、または前記のいずれかの培地に無異物性のKSRを補った。培地交換(「フィーデング」)は、集合体の分裂を回避し、回転の間に集合体を浮かせておける表面張力を破ることがあるために、できるだけ速く実行されるべきである。また、細胞集合体の成長を最適化し、集合体の大きさと形状の均一性を最適化するために、長期間、回転プラットホームまたは装置から細胞集合体を取り除くべきでない。かくして、当技術分野で確立しているhES細胞接着培養からhES細胞集合体を製造できる。
現在hES細胞集合体は、上記のD’Amour他(2006)に記載されているように、懸濁液中の集合体として直接分化できる。簡潔にいえば、ウェルからStemPro(登録商標)(マイナスY27632)培地または無異物性のKSRが補われた前記の任意の培地を取り除き(例えば、吸引される)、そして5mLの、hES細胞集合体は血清を含まないRMPI(Cat.15−040−CV;Mediated.)の5mL、ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)、およびグルタマックス(また、RMPI、ペン/ストレプ(Pen/Strep)、およびグルタマックス培地とも呼ばれる)、0% FBS、1% ペン/ストレプ、1% グルタマックスで洗浄された。そして、洗浄培地を取り除く1−2分前に、回転プラットホーム上に6ウェル皿を戻した。これは少なくとも二度またはインスリンおよび/または、IGF−1が十分取り除かれるまで繰り返された。多分化能の維持とES自己再生に必要であるが、同じ要素が制御された、シンクロした、リネッジ−由来された分化に有害だからである。
様々な外因性マイトジェンの添加および除去により、すべての内胚葉リネッジへの分化は、d’Amour他(2006)で説明したように、100rpmで実質的に実行された。さらに詳細に以下で説明する。
最終的な内胚葉(ステージI)への分化
ヒトES細胞集合体は初日はRPMI、100ng/mLアクチビンAおよび可変濃度のFBS(US Defined FBS、HyClone、カタログNo.SH30070.03)、および25ng/mL−75ng/mL Wnt3a、2日目と3日目(d0からd2)は、さらに100ng/mLアクチビンAおよび可変濃度のFBS(HyClone)を含むRMPI、ペン/ストレプ、およびグルタマックス培地において分化された。3日のステージ1実験計画が使用されるか、または望ましい場合には、ほとんどの分化実験FBS濃度は、最初の24時間(d1)では0%、第2の24時間(d2)については0.2%(d2)、および第3の24時間(d3)については0.2%(d3)である。望ましくは、2日のステージ1実験計画が実行される。
2日のステージ1実験計画の終わりの懸濁培養における、hES−由来細胞集合体のQPCR分析は、接着プレート対照と比べて、hES集合体の最終的な内胚葉へ向けての高能率的な有向分化を示す。細胞集合体は100rpm、120rpm、および140rpmで形成された。いくつかの実験では、hES−由来集合体が、分化の前にバイオリアクタ(スピナーフラスコ)に移された。最終的な内はい葉細胞に分化したhES細胞培養と、接着hES細胞培養物がコントロールとして使用された。未分化型hES細胞集合体と接着性のプレートコントロールと比べて、SOX17とFOXA2の増加した発現レベルが懸濁培養と接着培養の細胞集合体で観測された。図22、パネルC(SOXl7)、およびD(FOXA2)のステージ1(d2)を参照。さらに、内胚葉の最終的な接着プレートコントロールと比較して、SOX7、胚体外および臓器の内胚葉を汚染と関連する遺伝子の発現水準は、最終的な内胚葉細胞集合体内でかなり減少した。図22、パネルLのステージ1(d2)を参照。
CXCR4とHNF3beta(FoxA2)タンパク質を使用するフローサイトメトリー分析は、ES細胞−由来集合体の有向分化は、少なくとも97%CXCR4−陽性、少なくとも97%HNF3beta−陽性、および少なくとも95%CXCR4/HNF3beta コ−陽性の集団をもたらすことを示した。
さらにhES細胞集合体分化の効率を評価するために、ES−由来細胞集合体の凍結切片が、SOXl7およびHNF3beta発現について、免疫細胞学および共焦点顕微鏡を使用することで調べられた。染色された凍結切片の像解析は、ステージ1(最終的な内はい葉細胞)の終期のすべての細胞のほぼ90%以上が、HNF3betaおよび/または、SOXl7を発現したことを示した。
これらのデータはすべて、細胞集合体としての胚性幹細胞の高能率的な分化が達成でき、識別領域の最終的な内胚葉マーカー(signature definitive endoderm marker)の発現水準に基づいて、接着平板培養の分化と比べて、本明細書に記載されるように、最終的な内胚葉を製造するための方法は、より効率的であることを示す。
PDXI−陰性の前腸内はい葉細胞への分化(ステージ2)
ステージ1からのヒト最終内はい葉細胞(Human definitive endoderm cell)の集合体は、PBS+/+で簡単に洗浄され、ついでRMPI、ペン/ストレプおよびグルタマックス培地で更に2%FBS、25ng−50ng/mL KGF(R&D Systems)を含むものの中でさらに2ないし3日分化された。いくつかの実験では、ステージ2の初日の間、5マイクロMのSB431542(シグマオルドリッチInc.)または2.5マイクロMのTGF−beta Inhibitor IV(Calbiochem)が加えられた。あるいはまた、RMPI、ペン/ストレプ、およびグルタマックス培地/0.2%FBS/ITS(インスリン/鉄結合性グロブリン/セレニウム)が使用された。
QPCR分析は、実質的に上で議論したようにして実行された。接着性の平板培養のコントロールと比較して、HNFlβとHNF4alphaの増加した発現レベルが細胞集合体培養で観測された。図22、パネルE(HNFlB)、およびパネルO(HNF4alpha)のステージ2(d5)を参照。具体的ステージ0、1、2、および5hESまたはhES−由来細胞集合体(または、分化型集団についての「dAggs」)を製造する方法はパネルOでわずかに変更された。この文脈では、分化された細胞集合体は、対応するステージの、それらが由来する接着平板対照培養から開始された、分化されたhESまたはhES−由来細胞集合体をいう。例えば、ステージ1では、分化細胞集合体(「dAggs」)懸濁培養は、ステージ0の接着性プレートから開始され、l00rpmから140rpmの回転プラットホーム上で約24時間、本明細書に記載された培地のいずれでインキュベートされる。これらの分化型細胞集合体は、対応する接着性のプレート対照でステージ1の最終的な内はい葉細胞にさらに分化された。図22、パネルOは、ステージの1つの分化細胞の集合体または接着性のプレート対照のどちらかにも、顕著なHNF4alpha(HNF4A)発現がないことを示している。対照的に、同様の方法がステージ2のサンプルのために行われて、HNF4Aを発現量の増加したレベルで製造した。ステージ5のサンプルでは、HNF4Aの発現も確固としている。
さらに、平板培養コントロールと比較して、胚体外の内胚葉(SOX7)に関連する遺伝子の発現水準は、hES−由来細胞集合体培養でかなり減少した。図22、パネルL、ステージ2(d5)を参照。その結果、懸濁培養における細胞集合体によるPDXl−陰性の前腸内はい葉細胞の有向分化が胚体外の内胚葉汚染物を取り除くことを示す。
これらのデータはすべて、hES細胞集合体の有向分化が高能率的であることを示し、識別領域のPDXl−陰性の前腸内胚葉マーカーの発現水準に基づき、前腸内はい葉細胞を製造するための方法は、接着性の平板培養での分化と比較して改善されたことを示す。
PDXl−陽性の前腸内はい葉細胞への分化(ステージ3)
ステージ2からの前腸内胚葉細胞は1〜3日間、無血清RMPIで、グルタマックス(Invitrogen)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)、0.5X B27−サプリメント(Invitrogen/Gibco)、さらに1マイクロMないし2マイクロMのレチノイン酸(RA、Sigma)と0.25nM KAAD−シクロパミン(cyclopamine)(Toronto Research Chemicals);または1マイクロMないし2マイクロMのレチノイン酸、0.25nM KAAD−シクロパミン、および50ng/mL ノギン(R&D systems)を加えて分化させた。あるいはまた、0.2マイクロMないし0.5マイクロMのRAと、0.25nM KAAD−シクロパミンが1日間、培地に加えられた。さらに、いくつかの実験では、RAまたはKAAD−シクロパミンが、細胞集合体培養物に追加されなかった。他の実施態様では、0.1−0.2%の有効濃度のBSAが加えられた。
接着性の平板培養コントロールと比べて、PDXlの増大した発現レベルが、hES−由来細胞集合体で観測された。図22、パネルF(PDXl)、ステージ3(d8)を参照。さらに、平板培養コントロールと比べて、胚体外内胚葉(SOX7)に関連する遺伝子と臓器の内胚葉(AFP)の発現水準は、hES−由来細胞集合体培養で顕著に減少した。図22、パネルL(SOX7)、およびパネルN(AFP)、ステージ3(d8)を参照。したがって、懸濁培養における細胞集合体によるPDXl−陽性の前腸内はい葉細胞を製造する有向分化が、胚体外の内胚葉汚染物を取り除くことが示された。
これらのデータは、hES細胞集合体の有向分化が高能率的であることを示し、識別領域のPDXl−陽性の前腸内胚葉マーカーの発現水準に基づき、PDXI−陽性の内はい葉細胞を製造するための方法は、対照の接着性の平板培養での分化と比較して改善されることを示す。
膵性内胚葉または膵性内分泌前駆細胞への分化(ステージ4)
ステージ4では、ステージ3培養からRAが取り出され、DMEMプラスB27(1:100Gibco)で培地を一度洗浄した。ついで洗浄液を、4−8日間、DMEM+1XB27サプリメント単独、または以下の要素のいずれかまたはすべてとの組み合わせに取り替える:ノギン(50ng/ml)、FGF10(50ng/ml)、KGF(25−50ng/ml)、EGF(25−50ng/ml)、1−5%FBS。RAが加えられない場合では、1−9日間、30−100ng/mL(R&D systems)でノギンが培地に加えられた。さらに、いくつかの実験では、25ng/mLでFGF10が加えられた。
NKX6.1およびPDX−IおよびPTFlAの増大した発現レベルが、ES細胞−由来集合体と対応する接着性の平板培養コントロールで観測された。図22、パネルF(PDXl)、パネルG(NKX6.1)、およびパネルP(PTFAl)、ステージ4(d11)を参照。図22、パネルPでは、懸濁培養におけるhES、および/または、hES−由来集合体が、それらが由来する接着性の平板培養内の細胞数に影響を受けるか否かを決定するために、棒グラフが方法からの結果を表現する。パネル Pのみが1×10細胞の結果を示すが、細胞集合体懸濁液培養は様々な種子カウント(例えば、1×10から2×10細胞)から始められた。すべてが、実質的に同様であり、良い生育性とほとんどない細胞死を有する細胞集合培養を製造した。たとえばステージ4では、分化された細胞集合体懸濁培養細胞(「dAggs」)は、d5(ステージ2)の接着性の平板培養から始められて、再び本明細書に記載された培地のいずれかにより、24時間、100rpmから140rpmの回転プラットホーム上でインキュベートされた。これらの分化型細胞集合体はさらに、PTFlAを発現するステージ4膵性内胚葉タイプ細胞に分化された(パネルP)。対応するステージ4の接着性の平板培養コントロールと比べて、PTFlAの発現増加がみられる。
さらに、接着性の平板培養コントロールと比べて、AFPの発現水準はhES−由来細胞集合体でかなり減少した。図22、パネルN、ステージ4(d11)を参照。したがって、懸濁培養における細胞集合体によるPDXl−陽性の膵性内はい葉細胞を製造する有向分化は、臓器の内胚葉汚染物を取り除く。
NKX6.1、HNF3betaおよびクロモグラニン(Chromogranin)(CHG)タンパク質を使用したフローサイトメトリー分析は、hES−由来細胞集合体の有効分化が少なくとも53%のCHG−陽性、少なくとも40%のNKX6.1とCHGコ−陽性、および少量のHNF3betaと他のタイプの細胞である細胞集合体を与えたことを示した。
hES−由来の集団の低温断面が、NKX6.1、PDXlおよびNKX2.2の発現について、免疫細胞化学および共焦点顕微鏡を使用して、ステージ4の最後で調べられた。像解析は膵性内胚葉(または、PDXl−陽性の膵性内胚葉)への集合体細胞の高能率的な分化を示した。ほぼすべての細胞がPDXlを発現し、細胞の大集団がNKX6.1(約40%の細胞)および/またはNKX2.2(約40%の細胞)を発現した。
ホルモン発現性内分泌細胞への分化(ステージ5)
ステージ5分化において、ステージ4の分化細胞集合体が、CMRL(Invitrogen/Gibco)またはRMPI、ペン/ストレプ、およびグルタマックス培地および0.5X B27−サプリメントのどちらかで続けられていた。いくつかの実験では、培地はステージ5の間、0.2−5%の範囲のヒト血清(Valley Biomedical)または牛胎児血清で補われた。
再び、ステージ2−4からの細胞タイプと同様に、接着性の平板培養コントロールと比較して、特定の細胞型に関連する遺伝子の発現の増加が観測された。例えば、増加した発現レベルのホルモンインスリン(INS)、グルカゴン(GCG)、およびソマトスタチン(SST)が観察された。図22、パネルI(INS)、パネルJ(GCG)、およびパネルK(SST)のステージ5(dl5)を参照。さらに、接着性の平板培養コントロールと比較して、AFPとZICl、外胚葉に関連している遺伝子の発現水準はhES−由来の細胞集合体でかなり減少した。図22、パネルM(ZICl)、およびパネルN(AFP)のステージ5(dl5)を参照。したがって、懸濁培養における細胞集合体を通して膵臓内分泌細胞を製造する有向分化は、外はい葉のおよび臓器の内胚葉の汚染要因物を取り除く。
内分泌性集団細胞を発現するhES−由来のホルモンの生産は、説明したプロトコールでの23日目におけるフローサイトメトリー分析で確認された。集団は、初めは、5mL DMEM/F12で140rpmで形成され、別法としてノックアウト血清代替物(KSR;Gibco/Invitrogen、一貫性のため0063と比較)または無異物性のKSR(Invitrogen)を含み、次に、l00rpmで分化された。NKX6.1、クロモグラニン A、インスリン、グルカゴン、およびソマトスタチン蛋白質発現の分析は、ES細胞−由来の集団は約20%のNKX6.1+/クロモグラニンA−膵性上皮、および約74%のクロモグラニン A+内分泌組織を含むことを示す。さらに、細胞の11%はインスリンを、14%はグルカゴンを、および11%はソマトスタチンを発現する。これらでは、インスリン+細胞の68%はシングル−陽性(single positive)であり、グルカゴン+細胞の70%はシングル−陽性であり、ソマトスタチン陽性細胞の52%はシングル−陽性である。シングルホルモンの陽性の程度は、ほとんどポリホルモーナル(polyhormonal)細胞であった接着培養で説明された値を超えている。
さらにホルモン発現性内分泌細胞への集合体の分化の効率を評価するために、ES−由来の集団の低温断面が、グルカゴン、インスリンおよびソマトスタチン発現について、ステージ5の間、免疫細胞化学および共焦点顕微鏡を使用して調べられた。20倍の低温断面の像解析は集合体細胞のホルモン−陽性への高能率な分化を示し、ほとんどすべての細胞がグルカゴン、ソマトスタチンまたはインスリンを発現した。また、先の接着培養実験と対照して、集合体における細胞の大部分が、発達の間生体内で起こるように、シングルホルモン(single hormone)を発現するように見える。
実施例19−様々なステージからの接着培養は、細胞集合体を形成し、膵性内胚葉タイプ細胞に分化できる
以下は、hES−由来の細胞集合体の生産は多分化能hES細胞から開始できるだけではなく、細胞集合体は分化培地(0日目の細胞集合体)内に直接開始され、また分化されたかまたはhES−由来の細胞から開始でき、たとえば、ステージ1、2、4および5またはhES−由来の細胞から細胞集合体を製造できることを示す。
0日目の細胞集合体
ステージ1の初日(d0)で製造された細胞集合体:
接着性の多分化能hES細胞は成長され、手動または酵素的に継代され、分離され、数えられ、ペレットにされ、該ペレットはRMPI、ペン/ストレプおよびグルタマックス培地を含み、さらに100ng/mLアクチビンA、25ng/mL−75ng/mL Wnt3a、0.2%のFBS(HyClone)を含む分化培地中で1x10細胞/mLから約1×10細胞/mLの最終的な容積に再懸濁された。この容積は、>4×10細胞/mLに増加できるが、より頻繁なフィーディングを必要とする。時々DNaseが10−50ng/mLの濃度で含まれる。ROCK阻害剤Y27632(Axxora)は細胞懸濁液に約1−15マイクロM、典型的には10マイクロMの最終濃度まで加えられた。他のケースでは、約1:2000から1:5000のITS(インスリン/鉄結合性グロブリン/セレニウム、Gibco)が培地に追加された。Rho−キナーゼ阻害剤とITSの両方が、細胞生存をサポートするために加えられた。再懸濁された細胞は、実質的に上で説明された、ローバインディング6ウェルの皿の各ウェルに等しく分配され、一晩100rpmから140rpmで回転プラットホーム上に置かれた。この培養の期間、均一サイズと形の細胞集合体が形成された。その結果、高い密度の培養物は、PDXl−陽性の膵性内胚葉またはPDX−陽性の膵性前駆細胞について、効果的に又は実質的に豊化した。実施例21に詳細を提供する。
ステージ1のd0に製造された細胞集合体は、次に、RMPI、ペン/ストレプ、およびグルタマックス培地を含む分化培地で1−2Xで毎日フィードされ、次の2−3日間はさらに100ng/mLアクチビンAと0.2%のFBS(HyClone)を含むものがフィードされた。プロトコールの引き続くステップ(ステージ2−5)は、ES集団のために上で説明したものと実質的に同じである。
ステージ1−2日目と3日目
ステージ1のd2−d3に製造された細胞集合体:
接着性のhES細胞は、実質的に上で説明されたようにして発育され、継代され、次に、実質的にd’Amour他(2006)(上掲)で記載されているように、ステージ1に分化された。
ステージ1(分化プロトコールへの約d2またはd3;
最終的な内胚葉タイプ細胞)の終期で、接着培養はPBS+/−で1度洗浄され、1mLまたは5mLピペットを使用して37℃にあらかじめ暖かくされたアキュターゼ(Accutase)の2mLで、約2−5分、単独細胞に分離された。次に、RMPI、ペン/ストレプ、およびグルタマックス培地中の10%FBSの4mLが加えられ、単独細胞懸濁液は40ミクロンの青色フィルター(BD Biosciences)を通して濾過され、50mL円錐管に入れられた。細胞は、実質的に上で説明したように、数えられて、ペレットにされた(遠心分離された)。
次に、細胞ペレットはRMPI、ペン/ストレプ およびグルタマックス培地、さらに2%のFBS、プラスDNase(50−100 マイクロg/ml、ロシュ・ダイアグノスティックス)、および100ng/mLアクチビンAを含む培地中に再懸濁された。あるいはまた、細胞ペレットはRMPI、ペン/ストレプ、グルタマックス、および2%のFBS、およびDNase(50−100 マイクロg/mL)、25ng−50ng/mL KGF(R&D Systems)を含む培地中に再懸濁された。いくつかの実験では、5マイクロMのSB431542(シグマオルドリッチInc.)または2.5マイクロMのTGF−beta Inhibitor IV(Calbiochem)がKGFとともに含まれていた。いくつかの実験では、Y27332(l0マイクロM)が含まれた。再懸濁された細胞は、上記のようにローバインディング6ウェルの皿の各ウェルに等しく分配され、100rpmから140rpmの回転プラットホーム上に一晩おかれ、均一サイズと形の細胞集合体が形成された。
そして、ステージ1の最後に製造された細胞集合体は、さらに分化された。プロトコールの引き続くステップ(ステージ2−5)は、実施例17および18におけるES集合体と、実質的に同じである。
ステージ2、5日目から6日目
ステージ2でd5−d6に製造された細胞集合体:
接着性のhES細胞は、実質的に上で説明されたようにして発育され、継代され、次に、実質的にd’Amour他(2006)(上掲)で記載されているように、ステージ2に分化された。ステージ1からの接着細胞集合体は、ステージ2のためにPBS+/+で簡単に洗浄され、さらに2%FBS、グルタマックス、ペニシリン/ストレプトマイシン、および25ng−50ng/mL KGF(R&D Systems)が追加されたRPMI中で3日分化された。いくつかの実験では、5マイクロM SB431542(シグマオルドリッチInc.)または2.5マイクロM TGF−beta Inhibitor IV(Calbiochem)がステージ2の初日の間、加えられた。
ステージ2(分化プロトコールの約d5またはd6;前腸タイプ細胞)の終期の接着細胞は、実質的に上記のように単独細胞に分離され、計数され、ペレットにされた。次に、細胞ペレットはDMEM、ペン/ストレプおよびグルタマックス培地、さらにIX B27−サプリメントおよびDNase(50−100 マイクロg/ml、ロシュ・ダイアグノスティックス)を含み、FBSを含まないかもしくは1−2%のFBS、または0.5%から10%のヒト血清(hS)、並びに;1マイクロMのレチノイン酸(RA、Sigma)および0.25nM KAAD−シクロパミン(Toronto Research Chemicals);または1マイクロMないし2マイクロMのレチノイン酸、0.25nM KAAD−シクロパミン、および50ng/mLノギン(R&D systems);または0.25nM KAAD−シクロパミンと100ng/mLノギン;または100ng/mLノギン;または0.2μMないし0.5μMのRAと0.25nM KAAD−シクロパミン;または0.2マイクロMないし0.5マイクロMのRA、0.25nM KAAD−シクロパミンと50ng/mLノギン;のいずれかを含む分化培地中で再懸濁された。いくつかの実験では、Y27332(l0マイクロM)が含まれていた。
再懸濁された細胞は、等しく各ウェルに分配されて、回転プラットホーム上で100rpmから140rpmで一晩回転され、均一なサイズと形の細胞集合体がそれらの間に形成された。
ステージ2の終わりに製造された細胞集合体は、回転プラットホームでさらに分化されて、1−2X、毎日フィードされ、さらに0−2日は、DMEM、ペン/ストレプとグルタマックス培地、更にIX B27−サプリメント、1マイクロMから2マイクロMのレチノイン酸(RA、Sigma)、および;0.25nM KAAD−シクロパミン(Toronto Research Chemicals);1マイクロMから2マイクロMのレチノイン酸、0.25nM KAAD−シクロパミンおよび50ng/mLノギン(R&D systems);または0.25nM KAAD−シクロパミンと100ng/mLノギン;または100ng/mLノギン;または0.2マイクロMから0.5μMのRAと0.25nM KAAD−シクロパミン;または0.2μMから0.5マイクロMのRA、0.25nM KAAD−シクロパミン、および50ng/mLノギンのいずれかを含むものがフィードされた。
そして、ステージ2の終わりに製造された細胞集合体は、上で説明したように、さらにステージ3、4と5に分化された。
ステージ4および5−10日目から30日目
ステージ4でd10−dl4で細胞集合体が製造された:
再度、接着性のhES細胞は実質的に上で説明したように成長され継代され、ついでD’Amour他(2006)(上掲)に記載されているように、ステージ2に分化された。
ステージ3に関しては、ステージ2からの接着細胞は1〜3日間、DMEM、ペン/ストレプ、グルタマックス培地であって、更にIX B27−サプリメント、および1マイクロMから2マイクロMのRAと0.25nM KAAD−シクロパミンを含む培地中でさらに分化された。他の場合では、50ng/mLノギンがRAとKAAD−シクロパミンと共に加えられた。あるいはまた、0.2マイクロMから0.5マイクロMのRAと、KAAD−シクロパミンの0.25nMが、ちょうど1日間、培地に加えられた。他の実験では、RAもKAAD−シクロパミンも加えられなかった。ステージ4では、1−2X、毎日、グルタマックスが補われたDMEM、ペニシリン/ストレプトマイシン、およびIX B27−サプリメントを細胞に与えた。実施例17と18で既に記載されているように、さらにステージ4細胞をステージ5細胞に分化できる。
ステージ4(分化プロトコールの約dl0−d14;膵性上皮および内分泌性タイプ細胞)またはステージ5(分化プロトコールの約16日目から30日目;内分泌性先駆および内分泌細胞)の接着培養物は、同様に単独細胞に分離されて、計数され、ペレットにされた。そして、細胞ペレットはDMEM CMRLによって補われたペン/ストレプおよびグルタマックス、およびIX B27−サプリメント、DNase(50−100 マイクロg/ml、ロシュ・ダイアグノスティックス)、および0−2%のFBS中で再懸濁された。いくつかの実験では、Y27332(l0マイクロM)が含まれ、細胞生存をサポートした。細胞は、上で説明したように、等しく6ウェルのプレートに分配されて、4時間ないし一晩、100rpmから140rpmの回転プラットホーム上に置かれた。
さらに、実施例17−19のように、ステージ2およびステージ5で製造された細胞集合体は、それらが由来する接着性の平板培養と比べて膵性細胞タイプが富化された。例えば、1つの典型的な実験では、ステージ2で製造されて、ステージ4でフローサイトメトリーで分析された細胞集合体は、少なくとも98%の膵性細胞タイプ(73%のクロモグラニン(Chromogranin)A 陽性 内分泌細胞、25%のNkx6.l 陽性 膵性内胚葉(PE))、および2%の非すい臓細胞がタイプからなる。細胞集合体が由来する接着性の平板培養は約73%の膵性細胞タイプ(33%のクロモグラニン A 陽性 内分泌細胞、および40%のNkx6.1 陽性 PE)、および27%の非すい臓細胞タイプからなる。したがって、ステージ2における集合体は、膵性細胞タイプをもたらす前駆細胞を富化し、非すい臓細胞タイプを減少できる。同様に、典型的な実験では、ステージ5で製造されて、フローサイトメトリーで分析された細胞集合体は、少なくとも75%のクロモグラニン A 陽性 内分泌性細胞タイプから成ったが、細胞集合体が由来する接着性の平板培養は約25%のクロモグラニン A 陽性 内分泌性細胞タイプから成る。したがって、ステージ5での集合体は膵臓内分泌細胞を効果的に富化できる。
したがって本明細書に記載された方法は、細胞集合体懸濁液でhES細胞の有向分化の効率を向上するだけでなく、汚染物集団(例えば、外はい葉、栄養外胚葉、臓器の内胚葉、および胚体外の内胚葉)を有するhES−由来の膵性細胞タイプ(または、集団)を減少すると同時に膵性細胞タイプ(例えば、膵性内胚葉および内分泌細胞)を富化する方法を提供する。
実施例20−細胞密度のhES分化結果への効果
以下は、細胞密度の変化が特定の培地と増殖因子条件の中で分化結果に作用することを示す。細胞密度における調節から得られる分化効率は、内因的に製造された伝達分子の濃度の変化を反映し、細胞分化への影響を及ぼすこれらの分子の濃度依存性を反映する。
直接分化培地で生産されたd0細胞集合体を含むヒトES細胞集合体とhES−由来の細胞集合体は、実質的に上記のように発生された。ステージ1と2を経た分化の5日後、分化した細胞集合体はプールされて、異なる播種密度、例えば、前腸内胚葉の28mLの懸濁液で個々のウェルにリアリコートされ(re-aliquoted)、ステージ細胞集合体は、4、6、8または10mL/ウエルで(2.5倍の範囲内の細胞密度)播種されたか、またはリアリコートされた。この細胞分配が2回行われ、1組のウエルにステージ3培地(DMEM/PenStrep/グルタマックス+1% B27サプリメント(vol/vol)+0.25マイクロM KAAD−シクロパミン+3マイクロM TTNPB)で50ng/mLのノギンを含む培地が供給され、他のウエルの組は25ng/mLのノギンを含んでいた。ステージ3は3日間、毎日培地交換して続けられた。細胞試料は、リアルタイムQPCR分析のためにステージ3の最後の3日間(または約8日目)に2個取られ、また再びステージの4の後(または約14日目)に再度取られた。
ステージ3の間に使用される細胞密度とノギンの濃度は、膵性内胚葉前駆細胞、および/または、内分泌性前駆細胞または前駆体を示すそれらの遺伝子類の発現に異なった影響を与えた。簡潔にいえば、細胞密度の増大と膵性前駆細胞細胞タイプ(例えば、膵性内胚葉、膵性上皮、PDXl−陽性の膵性内胚葉)の対応する増大の間には、直線関係がある。例えば、ステージ3(または、8日目)の後に、細胞密度の増大は、PDXlとNKX6−1の高められた遺伝子発現で示したように、膵性前駆細胞の細胞数の増大に対応する。図24Aおよび24Bを参照。対照的に、ステージ4(または、14日目)の後の、細胞密度の増大と内分泌性前駆細胞細胞タイプにおける減少の間には逆相関性がにあった。
例えば、細胞密度が減少するにつれて、ステージ3(または、8日目)の後に、少なくともNGN3とNKX2−2の減少した発現がみられた。図24Cおよび24Dを参照。
しかし、与えられる任意の密度でのノギンの低い濃度(例えば、25ng/mL)は、NGN3とNKX2−2の減少した発現で示されるように、内分泌性前駆細胞タイプを減少させた。図24Cおよび24Dを参照。細胞培養における、ノギンの細胞密度非依存性作用は、細胞から内因的に生成されたBMPシグナルが外因的に加えられたノギンによって拮抗されることを示唆する。内因的に生成された信号の分化結果への影響は、BMPのみに制限されるのではなく、他の増殖因子、および/または、細胞によって培地中に分泌された薬剤が、単独または外因の増殖因子、および/または、薬剤と組み合わされて類似的または対照的な作用を持つことができる。
実施例21−膵性内胚葉または内分泌性細胞タイプが富化されて発生される細胞集合体懸濁液培養の最適化
hES−由来の細胞集合体集団の細胞組成は、様々な増殖因子、および/または、薬剤の濃縮を制御することによって、ある細胞タイプのために最適化される。本明細書に記載された膵性細胞組成物は、hES細胞接着培養、d0細胞集合体(細胞集合体はhES接着培養から開始されたか、多分化幹細胞培地ではなく、直接分化培地に置かれた)、または前の例に記載されているように、分化の様々なステージのhES−由来の細胞集合体懸濁液から開始された、単独細胞懸濁培養から生成された。ステージ4の間、細胞集合体はNOGGIN(N)、KGF(K),FGF10(F),およびEGF(E)の因子群の異なった濃度に暴露された。分化hES細胞集合体の細胞組成は、CHGA、NKX6.1、およびPDXlを含むマーカーのパネルを使用しながら、フローサイトメトリー分析で評価された。任意の集合体中の、内分泌細胞、膵性内はい葉細胞、PDX1+内はい葉細胞、および非−膵性細胞の合計パーセントが表4に示される。
表4のデータは、ある増殖因子の濃度と比率を制御することによって、得られた組成物をある種の細胞タイプのために最適化できることを示す。例えば、KGFおよびEGF(例えば、K(25)E(10)の71%対22.1%)の濃度を下げることによって、内分泌性タイプ細胞と比べて、膵性内胚葉タイプ細胞の割合は増加した。対照的に、KGFおよびEGFの高い濃度と、ノギンおよびFGF10(例えば、N(50)F(50)K(50)E(50))の包含は、膵性内胚葉タイプ細胞の数を減少させ、総数が内分泌性タイプ細胞(例えば、39.6%対40.1%)と匹敵した。より高い濃度におけるノギンおよびKGF(例えば、N(50)K(50))、または増殖因子を加えない時には、得られる集合体内で、膵性内胚葉細胞タイプと比べて、内分泌性タイプ細胞の集団を増加させた。また、非すい臓細胞タイプ(すなわち非PDXl−陽性タイプ細胞)の割合は、KGFおよびEGFの量を減らす(例えば、K(25)E(10);1.51%)ことにより、または増殖因子を加えない(1.53%)ことによって、顕著に低下できる。
したがって、表4は、分化のあるステージ(例えば、ステージ4)で培養培地における、異なった増殖因子の濃度を少なくとも変えると、膵性内胚葉、内分泌性、PDXl−陽性 内胚葉または非膵性細胞タイプのある集団がかなり増加および/または、減少することを明確に示す。
さらに、特定のhES−由来の細胞タイプを富化するかまたは精製する他の方法が存在している。これは2008年4月8日に出願された、米国特許出願第12/107,020,特発性好酸球増加症候群細胞から得られた内胚葉AND膵性内はい葉細胞を精製するための方法(METHODS FOR PURIFYING ENDODERM AND PANCREATIC ENDODERM CELLS DERIVED FROM HES CELLS)に記載され、この特許は本明細書で参照され、組み込まれる。この出願は上掲のd’Amourら2005の2006年に説明されるように、ステージ1、2、3、4と5のそれぞれのステージをもたらすすべての細胞タイプを含む様々なhES−細胞タイプを富化するための方法を説明する。この出願は、CD30、CD49a、CD49e、CD55、CD98、CD99、CD142、CD165、CD200、CD318、CD334およびCD340を含む(ただしこれらに限定されない)様々な抗体類を使用する。
hES−由来の細胞または細胞集合体を富化するための方法は、抗体親和性手段を使う方法に制限されず、ある細胞タイプの富化を許容する、当業者にとって周知の利用可能な、または将来利用可能なすべての方法を含むことができる。1つの細胞タイプを減少するかまたは、別の細胞タイプまたは培養物から分離することにより富化を行うことができる。
実施例22−生体内の成熟膵性内胚葉であってインスリン応答性の細胞集合体懸濁液
本明細書に記載される細胞集合体懸濁液を生成する方法は、生体内で機能する膵性前駆細胞を提供することを示すために、実施例17−21の、上記のhES−由来の細胞集合体(例えば、PDXl−陽性の内胚葉、膵性内胚葉、膵性上皮、内分泌性先駆、内分泌細胞、および同様のもの)が動物に移植された。正常、および糖尿病が誘発された動物への移殖の方法、動物の生体内のグルコース応答性の決定、および移植された成熟した細胞の生体内でのインスリン生産が実質的に、Kroonら(2008) Nature Biotechnology 26(4):443−452、および2007年7月5日に出願された、米国特許出願第11/773,944,膵性ホルモンの生成方法(METHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONES)に記載された方法で実行された。これらは本明細書で参照され、組み込まれる。実質的に、同じ水準のヒトC−ペプチドはKroon他の米国特許出願第11/773,944(上掲)にみられるものと同様の期間で、これらの動物の血清で観測された。
本明細書に記載された、方法、組成物、および装置は、好適な実施態様を代表するが、例示であり、本発明の範囲を制限することは意図されない。そこでの変化および他の用途は当業者によって考えられるであろうが、それらは本発明の精神の範囲内に包含され、請求の範囲によって定義される。本明細書中で開示された発明に対する種々の置換および変更が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく行われうることは、当業者に容易に理解されるであろう。
本発明に関する一定の態様においては、異なる実施態様として記載されていても、実施態様の組み合わせが提供されることができることが理解される。例えば、hES−由来の細胞集合体を懸濁培養中で作るための方法は、任意の内胚葉リネッジ細胞タイプ、たとえば膵性リネッジタイプ細胞、肝臓リネッジタイプ細胞、上皮性リネッジタイプ細胞、甲状腺リネッジ細胞、および胸腺リネッジ細胞を生成するために作られ、最適化できる。したがって本明細書に具体的に説明されたhES−由来の細胞タイプには制限されない。また逆に、本発明の様々な態様は、簡潔さのために単一の実施態様として記載されているが、それらを別々に行うこともできるし、また任意の適当なサブコンビネーションとしても提供できる。例えば、当業者には、hES細胞およびhES−由来の細胞集合体を接着性の平板培養または懸濁培養から、未分化型接着性の平板培養または懸濁培養から、分化型接着性の平板培養または懸濁培養から生成するための記載された方法は、例示に過ぎず、これらの方法の組み合わせも使用できることは、明らかである。
この明細書で参照されたすべての刊行物および特許は、本明細書に参考としてそれらの全体が援用される。
以下の特許請求の範囲および明細書で使用される「本質的に〜からなる」との用語は、この句に関連して列記された要素を含むことを意味し、列記された要素について開示された活性または作用を妨害し、またはこれに寄与しない他の要素に制限される。すなわち、「本質的に〜からなる」との用語は、列記された要素が必要とされ、義務的であることを示すが、列記された要素の活性および作用に影響を与えるか否かにより、他の要素も任意に存在することができ、または存在することができないことを意味する。

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  1. 生理学的に許容される培地中に懸濁された霊長類幹細胞(pPSC)集合体の培地を含むローラーボトル。
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