JP5874110B2 - パターン形成方法、モールドの回復方法、およびレプリカモールドの製造方法 - Google Patents

パターン形成方法、モールドの回復方法、およびレプリカモールドの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、パターンの形成の過程で樹脂等の付着物が付着したナノインプリント用モールドから付着物を除去するための技術に関する。
微細なパターンを量産する技術として、ナノインプリント法(以下、ナノインプリントリソグラフィともいう)が知られている。ナノインプリントリソグラフィでは、モールド(鋳型、金型ともいう)を基板上に塗布した樹脂材料に押しつけることにより、モールドに形成された微細な凹凸構造とポジ/ネガの関係にある凹凸構造が形成された樹脂層を有するパターンが形成される。ナノインプリントリソグラフィのメリットは、安価である点、高スループットである点、高解像度である(20nm未満の凹凸構造を有するパターンを製造できる)点、および大面積のパターンも製造できる点である。
しかし、ナノインプリントリソグラフィでパターンを形成する場合、樹脂として光硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれを用いた場合でも、樹脂の硬化後にモールドを樹脂から剥離する場合に、モールドに樹脂が付着してしまうという問題があった。モールドに形成された微細な凹凸構造に付着した樹脂を除去するのは非常に困難であったため、樹脂が付着したモールドは多くの場合廃棄されていた。これがナノインプリントリソグラフィを用いたパターンの形成において、生産性およびコストの向上を阻害する一因となっていた。
半導体デバイスや液晶ディスプレイ等を製造するために用いられるレジストを最終的に除去する方法としては、従来からいくつかの方法が知られている。最も一般的に行われるのは、硫酸と過酸化水素水の混合液、アンモニア水と過酸化水素水の混合液、アミン系溶剤などの非常に強い水溶液や溶剤を用いた方法である。他にも、加熱された触媒体による接触分解反応により生成させた原子状水素により、基板上に形成されたレジストを剥離する方法も知られている(特許文献1)。また、プラズマを用いて発生させた原子状水素により、電鋳によりマスターモールドを形成するための電鋳の鋳型として使用されたレジストがマスターモールドに付着した際に、レジストの付着物をマスターモールドから除去する技術が知られている(特許文献2)。なお、レジストとは、パターンを形成する際に使用され、露光を行うことで現像液への溶解性が変化する感光性の物質をいう。
特開2002−289586号公報 特開2010−52175号公報
しかし、従来の技術では、ナノインプリントリソグラフィによる現像を伴わないパターンの形成において、樹脂の硬化後にモールドを樹脂から剥離する過程でモールドに付着してしまった樹脂を除去することは、そもそも想定されていなかった。そのため、従来の技術では、マスターモールドから製造され、マスターモールドよりも耐久性が低い場合があるレプリカモールドにパターンの形成の過程で付着した樹脂を除去することも想定されていなかった。
たとえば、特許文献1の技術では、ナノインプリントリソグラフィにおいてパターンを形成する際に、マスターモールドやレプリカモールドから樹脂を除去することは全く想定されていなかった。また、特許文献2の技術では、マスターモールドの製造過程において現像を伴うレジストの除去が検討されるにとどまり、ナノインプリントリソグラフィによる現像を伴わないパターンの形成において、マスターモールドやレプリカモールドから樹脂を除去することは全く想定されていなかった。
本発明はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところは、ナノインプリントリソグラフィによるパターンの形成に使用されることによって樹脂等の付着物が付着したモールドから、付着物を効率的に除去する技術を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある態様のパターン形成方法は、ナノインプリント用モールドを用いて樹脂にパターンを形成する工程と、パターンの形成に使用されたナノインプリント用モールドに対して原子状水素を照射することにより、樹脂が付着している場合に当該樹脂を除去する工程と、を含む。
この態様によると、樹脂が付着したモールドに原子状水素を照射することにより、モールドから樹脂を容易に除去することができる。また、簡便な装置を用いて低環境負荷にて樹脂の除去を行うことができる。なお、本明細書中で単に「モールド」とした場合、ナノインプリント用のマスターモールドおよびレプリカモールドの少なくとも一方を指すものとする。
パターン形成方法は、原子状水素が照射されたナノインプリント用モールドを用いて、再び樹脂にパターンを形成する工程をさらに含んでもよい。この態様によると、従来は樹脂が付着したら廃棄されていたモールドを何度も再利用することが可能となる。これにより、1つのモールドにより製造できるパターンの数が増えるため、ナノインプリントリソグラフィによりパターンを生産する場合の生産性を大幅に向上させ、コストを大幅に低下させることができる。
パターン形成方法において、原子状水素は、加熱された触媒体に水素含有ガスを接触させることにより生成されてもよい。この態様によると、モールドの耐久性の低下を最小限に抑えつつ付着した樹脂を容易に除去することができる。
本発明の別の態様は、モールドの回復方法である。このモールドの回復方法は、樹脂へのパターンの形成に使用されることによって樹脂が付着したナノインプリント用モールドに対して原子状水素を照射することにより、付着した樹脂を除去する工程を含む。
この態様によると、樹脂が付着したモールドに原子状水素を照射することにより、モールドから樹脂を容易に除去することができる。
モールドの回復方法において、原子状水素は、加熱された触媒体に水素含有ガスを接触させることにより生成されてもよい。この態様によると、モールドの耐久性の低下を最小限に抑えつつ付着した樹脂を容易に除去することができる。
モールドは、レプリカモールドであってもよい。この態様によると、マスターモールドよりも耐久性が低いレプリカモールドを用いた場合にも、モールドの耐久性の低下を最小限に抑えつつ付着した樹脂を容易に除去することができる。
本発明の別の態様は、レプリカモールドの製造方法である。このレプリカモールドの製造方法は、マスターモールドを用いてレプリカモールドを成形する工程と、レプリカモールドの成形に使用されたマスターモールドに対して原子状水素を照射することにより、付着物が付着している場合に当該付着物を除去する工程と、を含む。
この態様によると、付着物が付着したマスターモールドに原子状水素を照射することにより、レプリカモールドの成形の過程で付着した樹脂などの付着物をマスターモールドから容易に除去することができる。
レプリカモールドの製造方法は、原子状水素が照射されたマスターモールドを用いて、再びレプリカモールドを成形する工程をさらに含んでもよい。この態様によると、従来はレプリカモールドの成形の過程で付着した付着物が付着したら廃棄されていたマスターモールドを何度も再利用することが可能となる。これにより、1つのマスターモールドにより製造できるレプリカモールドの数が増えるため、レプリカモールドを生産する場合の生産性を大幅に向上させ、コストを大幅に低下させることができる。
レプリカモールドの製造方法において、原子状水素は、加熱された触媒体に水素含有ガスを接触させることにより生成されてもよい。この態様によると、マスターモールドの耐久性の低下を最小限に抑えつつ、レプリカモールドの成形の過程で付着した樹脂などの付着物を容易に除去することができる。
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
本発明によれば、モールドに付着した樹脂などの付着物を容易に除去することができる。
光硬化性樹脂を用いたナノインプリントリソグラフィによるパターン形成方法の一般的な工程およびその問題点を示す概略図である。図1(A)は、光硬化性樹脂の塗布工程を示す概略図である。図1(B)は、モールドのプレス工程を示す概略図である。図1(C)は、紫外線(i線)の露光工程を示す概略図である。図1(D−1)は、モールドのリリース工程(成功)を示す概略図である。図1(D−2)は、モールドのリリース工程(失敗)を示す概略図である。図1(E)は、酸素RIE処理によりわずかに残る樹脂を除く工程を示す概略図である。図1(F)は、エッチングによりSi酸化膜等を削る工程を示す概略図である。 原子状水素照射装置を示す概略図である。 実施の形態に係る回復工程を含む、光硬化性樹脂を用いたナノインプリントリソグラフィによるパターン形成方法を示す概略図である。図3(A)は、光硬化性樹脂の塗布工程を示す概略図である。図3(B)は、モールドのプレス工程を示す概略図である。図3(C)は、紫外線(i線)の露光工程を示す概略図である。図3(D)は、モールドのリリース工程(失敗)を示す概略図である。図3(E)は、回復工程を示す概略図である。 実施の形態に係る回復工程における触媒体温度の影響を示すグラフである。図4(A)は、触媒体温度と樹脂の除去速度との関係を示すグラフである。図4(B)は、触媒体温度がSi板の温度に及ぼす影響を示すグラフである。 実施の形態に係る回復工程における樹脂の架橋度の影響を示すグラフである。図5(A)は、樹脂への紫外線(i線)の露光量が、樹脂の除去速度に及ぼす影響を示すグラフである。図5(B)は、回復工程の前におけるSi板の表面を平面視した一例を示す光学顕微鏡写真である。図5(C)は、回復工程の後におけるSi板の表面を平面視した一例を示す光学顕微鏡写真である。 Si板に付着した樹脂の残膜の有無を、X線光電子分光(XPS)を用いて解析した結果を示すグラフである。 回復工程の前後におけるモールドの表面の変化を示す光学顕微鏡写真である。図7(A)は、回復工程の前後においてモールドAを平面視した光学顕微鏡写真である。図7(B)は、回復工程の前後においてモールドBを平面視した光学顕微鏡写真である。 回復工程の後において図7(A)のモールドAの一部を10000倍に拡大した状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。図8(A)は、図7(A)のモールドAの領域Xを10000倍に拡大した状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。図8(B)は、図7(A)のモールドAの領域Yを10000倍に拡大した状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。図8(C)は、図8(B)のZ−Z断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。 図7(A)のモールドに付着した樹脂の残膜の有無を、X線光電子分光(XPS)を用いて解析した結果を示すグラフである。 触媒体温度(WT)がSi板の2乗平均粗さに及ぼす影響を示すグラフである。 熱可塑性樹脂の種類が原子状水素の照射時間と膜厚との関係に及ぼす影響を示すグラフである。 比較例として、Si板に付着した樹脂の除去を、溶剤(モノエタノールアミン(EA)/ジメチルスルホキシド(DMSO)混合液)を用いて試みた結果を示すグラフである。
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において重複する説明は適宜省略する。
本実施の形態のパターン形成方法は、ナノインプリント用モールドを用いて樹脂にパターンを形成する工程と、パターンの形成に使用されたナノインプリント用モールドに対して原子状水素を照射することにより、樹脂が付着している場合に当該樹脂を除去する工程と、を含む。
図1は、光硬化性樹脂を用いたナノインプリントリソグラフィによるパターン形成方法の一般的な工程およびその問題点を示す概略図である。図1(A)は、光硬化性樹脂の塗布工程を示す概略図である。図1(B)は、モールドのプレス工程を示す概略図である。図1(C)は、紫外線(i線)の露光工程を示す概略図である。図1(D−1)は、モールドのリリース工程(成功)を示す概略図である。図1(D−2)は、モールドのリリース工程(失敗)を示す概略図である。図1(E)は、酸素RIE処理によりわずかに残る樹脂を除く工程を示す概略図である。図1(F)は、エッチングによりSi酸化膜等を削る工程を示す概略図である。
光硬化性樹脂を用いたナノインプリントリソグラフィでは、まず基板10の上に樹脂12が塗布される(図1(A))。基板10は、Siなどから形成されている。
次に、モールド14の凸部16および凹部18の形成された面が、基板10の上に塗布された樹脂12に対してプレスされる(図1(B))。光硬化性樹脂を用いたナノインプリントリソグラフィでは、モールド14は石英などの透明な材質により形成されている。モールド14としては、マスターモールドを用いて成形されたレプリカモールドが主に想定されるが、マスターモールドを用いてもよい。
次に、樹脂12に接していない面の側から、モールド14に対し、紫外線(i線)が照射される(図1(C))。モールド14が透明であるため、モールド14を透過した紫外線(i線)により、樹脂12が架橋することにより硬化する。樹脂12が十分に硬化した後、樹脂12に対してプレスされていたモールド14がリリースされる(図1(D−1))。その結果、樹脂12には、モールド14の凸部16に対応して凹構造が、モールド14の凹部18に対応して凸構造が、それぞれ形成される。次に、酸素RIE処理により、基板10上の樹脂12の残膜が除去される(図1(E))。次に、エッチングにより図1(A)〜(E)の破線部までSi酸化膜等を削ることにより基板10が加工され、パターン20が製造される(図1(F))。
このナノインプリントリソグラフィでは、リリース工程においてモールドのリリースに成功した場合、樹脂12は基板10に付着したまま、剥がれない(図1(D−1))。一方、リリースに失敗した場合、樹脂12の一部(樹脂22)がモールド14に付着した状態で、基板10から剥離してしまう(図1(D−2))。リリース工程における樹脂12のモールド14への付着を抑制するために、剥離剤(離型剤ともいう)が用いられることもあった。しかし、剥離剤を用いたとしても、樹脂12のモールド14への付着を完全に防ぐことはできなかった。また、モールド14の表面には微細でアスペクト比が比較的高い凹凸構造が形成されているため、樹脂12が付着してしまったモールド14から樹脂12を除去することは困難であった。そのため、樹脂12が付着したモールド14は、多くの場合再度ナノインプリントリソグラフィに使用することはできず、廃棄されていた。ここでは例として光硬化性樹脂の場合を示したが、熱可塑性樹脂でも同様の問題があった。
発明者らは、樹脂22が付着してしまったモールド14に原子状水素を照射することにより、樹脂12を容易に除去できることを見いだした。モールド14に原子状水素を照射するための原子状水素照射装置100について次に説明する。
図2は、原子状水素照射装置100を示す概略図である。原子状水素照射装置100を用いてHot−Wire法により原子状水素を発生させる。
原子状水素照射装置100は、チャンバ102と底部112とから構成され、内部に空間が形成された筐体を有する。チャンバ102の上部にはガス供給口104が形成され、底部112には排気口106が形成されている。筐体の内部の空間には、触媒体108が取り付けられている。触媒体108は、タングステンフィラメント(タングステンワイヤ)から形成されている。触媒体108には、触媒体108を加熱するための電源110が取り付けられている。また、筐体の内部の空間には、底部112の上にヒータ114が配置されている。ヒータ114には、ヒータ114を昇温させてモールド14を加熱するための電源115が取り付けられている。ヒータ114には、ヒータ114の表面の温度を測定するための熱電対116が取り付けられている。熱電対116は、温度モニタ118に接続されている。熱電対116は、ヒータ114の表面の温度(モールド14の温度に等しいと考えられる)を測定する。
原子状水素照射装置100には、ガス供給口104から水素を含む処理ガスが供給される。ここでは、処理ガスとして水素/窒素混合ガス(H/Nガス)を使用している。触媒体108は、供給された処理ガス中の水素分子を接触分解して、原子状水素50を発生させる。具体的には、触媒体108の表面の各タングステン原子が有するダングリングボンドに、解離された状態の水素原子が吸着される。その後、水素原子が熱脱離することにより、原子状水素50が発生する。発生した原子状水素50は、ヒータ114の上に配置されたモールド14に向かって照射される。モールド14の表面に樹脂12の残膜(樹脂22)が付着している場合、原子状水素50は樹脂22を分解してモールド14の表面から除去する。原子状水素50は、モールド14の表面に照射された後、排気口106から原子状水素照射装置100の外に排出される。
触媒体108としては、タングステンフィラメントだけでなく、タンタルフィラメント、モリブデンフィラメント、イリジウムフィラメントも好適に使用することができる。ただし、原子状水素50の発生効率の観点からは、触媒体108としてタングステンフィラメントを用いることが好ましい。
モールド14としては、ナノインプリントリソグラフィに使用されるマスターモールドおよびレプリカモールドを使用することができる。マスターモールドの材質としては、シリコン(Si)、石英、ニッケル(Ni)、シリコンカーバイド(SiC)、タンタル(Ta)、グラッシーカーボンなどが考えられる。レプリカモールドの無機系の材質としては、シリコン(Si)やニッケル(Ni)などが考えられる。レプリカモールドの樹脂系の材質としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ウレタン系UV硬化ポリマー、テフロン、フルオロポリマーなどが考えられる。一般にレプリカモールドの方がマスターモールドよりも耐久性が低い材質により成形されることが多いと考えられるが、原子状水素照射装置100を用いれば、モールドの耐久性の低下を最小限に抑えつつ、レプリカモールドからも付着した樹脂を容易に除去することができる。
原子状水素50を用いて除去することができる樹脂には特に制限がない。樹脂の原料としては、光硬化性樹脂または熱可塑性樹脂などを使用することができる。これらの樹脂には特に制限がないが、光硬化性樹脂としては、たとえばPAK−01(東洋合成工業株式会社)、PAK−02(東洋合成工業株式会社)、MUR−XR01(丸善石油化学株式会社)、MUR−XR02(丸善石油化学株式会社)、TSR−820(シーメット株式会社)などを使用することができる。また、熱可塑性樹脂としては、たとえばポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)などを使用することができる。また、レプリカモールドの樹脂系の材質であるポリジメチルシロキサン(PDMS)、ウレタン系UV硬化ポリマー、テフロン、フルオロポリマーなどをマスターモールドから除去するために、原子状水素照射装置100が用いられてもよい。さらに、樹脂以外の付着物をマスターモールドから除去するために原子状水素照射装置100が用いられてもよい。
(照射条件)
以下、原子状水素照射装置100を用いて原子状水素50を照射する際の条件について説明する。
処理ガスとしては、水素ガスやアンモニアガス等の、水素を含む単一組成のガス、水素/窒素混合ガスや水素/アルゴン混合ガス等の、水素と不活性ガスとの混合ガスを使用することができる。また、処理ガス中の水素濃度には特に制限がないが、樹脂の除去効率の観点からは、水素濃度は処理ガスの全体積に対して4〜100体積%であることが好ましい。安全性と原子状水素50の発生効率のバランスを考慮すると、6〜80体積%がさらに好ましく、8〜60体積%が最も好ましい。また、水素ガスの流量は、真空排気装置の排気速度と処理時の水素ガスの分圧を考慮して決定すればよく、1sccm以上50sccm以下の範囲から選択できる。また、水素ガスの分圧は、樹脂22の除去速度と樹脂22が付着していない部分のモールド14への影響を考慮して決定すればよく、0.5Pa以上10Pa以下の範囲から選択できる。
回復工程においてヒータ114により加熱されるモールド14の温度は特に制限がないが、樹脂22の除去効率とモールド14の耐熱性とのバランスを考慮して決定すればよい。モールド14の温度は、20℃以上400℃以下であることが好ましい。20℃未満では、樹脂22の除去効率が低下する場合がある。また、400℃超では、モールド14の耐久性が低下する場合がある。
また、触媒体108の温度は特に制限がないが、樹脂22の除去効率と、樹脂22が付着していない部分のモールド14への影響やモールド14の耐熱性とのバランスを考慮して決定すればよい。触媒体108の温度は、1500℃以上2500℃以下であることが好ましい。1500℃未満では、原子状水素50の発生効率が低下し、樹脂22の除去効率が低下する場合がある。また、2500℃超では、モールド14の耐久性が低下する場合がある。
また、触媒体108とモールド14との距離は特に制限がないが、樹脂22の除去効率と、樹脂22が付着していない部分のモールド14への影響やモールド14の耐熱性とのバランスを考慮して決定すればよい。触媒体108とモールド14との距離は、5mm以上120mm以下であることが好ましい。120mm超では、樹脂22の除去効率が低下する場合がある。また、5mm未満では、モールド14の耐久性が低下する場合がある。
以上説明した樹脂22の除去速度に影響する処理ガスの種類、処理ガス中の水素の濃度、水素ガス流量、水素ガスの分圧、処理時のモールド14の温度、触媒体108の温度、触媒体108とモールド14との距離等の処理条件は、互いに独立ではなく、各処理条件の組み合わせにより樹脂22の除去速度が決定する。各処理条件の組み合わせは、モールド14の材質、処理する樹脂22の種類や量、樹脂22が付着していない部分のモールド14への影響、モールド14の耐熱性などを考慮して決定すれば良い。各処理条件の組み合わせは、一般的な紫外線(i線)用ポジ型レジストである、ノボラック樹脂/ジアゾナフトキノンレジストにおいて、たとえば約0.5μm/分以上の除去速度が得られる組み合わせが好ましい。この除去速度を満たす各処理条件の組み合わせの例を、以下に2つ示す。ここでは原子状水素照射装置100としてOAPM−400(東京応化工業株式会社)を使用する場合を示す。
処理ガスを水素/窒素混合ガス、処理ガス中の水素の濃度を10体積%、水素ガス流量を10sccm、水素ガスの分圧を2Pa、処理時のモールド14の温度を200℃、触媒体108の温度を1800℃、触媒体108とモールド14との距離を20mmとしたとき、0.5μm/分の除去速度が得られる。
また、処理ガスを水素/窒素混合ガス、処理ガス中の水素の濃度を10体積%、水素ガス流量を30sccm、水素ガスの分圧を4.5Pa、処理時のモールド14の温度を300℃、触媒体108の温度を2420℃、触媒体108とモールド14との距離を60mmとしたときも、0.5μm/分の除去速度が得られる。
なお、ここでは触媒体108を用いて原子状水素50を発生させる原子状水素照射装置100を用いたが、原子状水素50を発生させる方法はこれには限られない。たとえば、プラズマを用いて原子状水素50を発生させてもよい。ただし、Hot−Wire法を用いて原子状水素50を発生させるのがより好ましい。これにより、モールドの耐久性の低下を最小限に抑えることができる。また、処理時間を短縮することができるとともに、装置の小型化も可能となる。
図3は、実施の形態に係る回復工程を含む、光硬化性樹脂を用いたナノインプリントリソグラフィによるパターン20の製造方法を示す概略図である。図3(A)は、光硬化性樹脂の塗布工程を示す概略図である。図3(B)は、モールドのプレス工程を示す概略図である。図3(C)は、紫外線(i線)の露光工程を示す概略図である。図3(D)は、モールドのリリース工程(失敗)を示す概略図である。図3(E)は、回復工程を示す概略図である。ここに示すパターン20の製造方法は、回復工程を含む点が図1とは異なる。図3の(A)〜(D)は、図1の(A)〜(C)および(D−2)とそれぞれ共通であるため、説明は省略する。また、酸素RIE処理工程(図1(E))およびエッチング工程(図1(F))は図1と共通であるため、図示および説明を省略する。
図3(D)のようにモールド14に樹脂12が付着してしまった場合、モールド14から樹脂22を除去するのは困難であったため、従来はモールド14が廃棄されていた。一方、本実施の形態では、図2に示した原子状水素照射装置100に樹脂12が付着したモールド14を配置して原子状水素を照射する。これにより樹脂12を除去した上で、モールド14を再びプレス工程(図3(B))に使用する。最終的には、酸素RIE処理工程(図1(E))およびエッチング工程(図1(F))を経て、図1(F)に示したパターン20が製造される。
以上、本実施の形態の製造方法によると、樹脂が付着したモールドに原子状水素を照射することにより、モールドに与える損傷を最小限に抑えつつ、モールドから樹脂を容易に除去することができる。そのため、従来は樹脂が付着したら廃棄されていたモールドを何度も再利用することが可能となる。これにより、1つのモールドにより製造できるパターンの数が増えるため、ナノインプリントリソグラフィによりパターンを製造する場合の生産性を大幅に向上させ、コストを大幅に低下させることができる。また、簡便な装置を用いて低環境負荷にて樹脂の除去を行うことができる。
モールド14としては、マスターモールドを好適に使用することができるが、マスターモールドよりも安価で量産性に適したレプリカモールドを使用することがより好ましい。レプリカモールドは、一般にマスターモールドよりも耐久性の低い材料から形成されている。しかし、実施の形態に係る回復工程によれば、マスターモールドよりも耐久性の低いレプリカモールドであっても、耐久性の低下を最低限に抑制することにより、繰り返し使用することが可能となる。
なお、ここではモールドに樹脂が付着した場合に、回復工程によりモールドに付着した樹脂を除去する例を示したが(図3(E))、樹脂の付着の有無にかかわらず、モールドを樹脂12からリリースした後には必ず回復工程を経るとしてもよい。また、樹脂12からリリースした後にモールドに樹脂22が付着しているかどうかを目視または装置により判断し、樹脂22が付着していると判断された場合にのみ回復工程を経るとしてもよい。また、ここでは樹脂12、22を光硬化性樹脂として説明したが、樹脂12、22は熱可塑性樹脂であってもよい。
また、ナノインプリントではなくレプリカモールドを製造する場合に、マスターモールドに対して本実施の形態の回復工程が使用されてもよい。マスターモールドからレプリカモールドを製造する方法は、公知の方法を使用すればよい。この場合、レプリカモールドを製造する過程でマスターモールドに付着した付着物を除去するために、本実施の形態の回復工程が使用されてもよい。レプリカモールドを製造する過程で付着した付着物には樹脂以外の物質も含まれてもよいが、付着物は主に樹脂により形成されていることが好ましい。この態様によると、付着物が付着したマスターモールドに原子状水素を照射することにより、マスターモールドに損傷を与えることなく、マスターモールドからレプリカモールドを製造する過程で付着した樹脂などの付着物を容易に除去することができる。
また、ここではモールドを用いてパターンを製造する場合を例に示したが、本回復工程が単独で使用されてもよい。つまり、単にモールドに付着した樹脂を除去するモールドの回復方法として、本実施の形態の回復工程が使用されてもよい。この態様によると、樹脂が付着したモールドに原子状水素を照射することにより、モールドに与える損傷を最小限に抑えつつ、モールドから樹脂を容易に除去することができる。
(樹脂が除去できる原理)
原子状水素の平均自由行程(λ)は、以下の式1および2により推定できる。
・・・・・(式1)
Q=π(r+rN2・・・・・(式2)
式中、Qは衝突断面積(m)、nはガス分子の体積密度(個/cm)、rは水素原子の半径(m)、rN2は窒素分子の半径(m)をそれぞれ表す。
これらの式に基づくと、本実施の形態に係る窒素分子と原子状水素の混合系における原子状水素の平均自由行程は、λ=0.75mmと推定される。触媒体とモールドとの距離が100mmである場合、モールドに衝突するまでに原子状水素は約130回(=100mm/0.75mm)衝突すると考えられる。この衝突により原子状水素の向きが変わり、様々な方向から原子状水素がモールドに衝突するため、モールドの側壁にも満遍なく原子状水素が衝突できると考えられる。これにより、モールドの凹凸構造が微細で凹凸構造のアスペクト比が高い場合であっても、モールド全体の樹脂を容易に除去することができると推測される。
(有用性)
原子状水素は曲面に対しても照射可能であるため、たとえばロール式のインプリント用モールドに付着した樹脂も除去することができる。そのため、本技術はナノインプリントリソグラフィにおける生産性の向上とコストの低下に貢献することができる。
また、原子状水素のサイズはモールドの表面に形成されたパターンに比べて十分に小さく、かつ上述のとおり原子状水素の回り込みも良好である。そのため、本技術は、光学材料の作製などによく用いられるパターンサイズの大きなモールドにも、電子素子の作製などによく用いられるパターンサイズの小さなモールドにも、同様に使用することができる。したがって、本技術により、サイズやパターンの形状を問わず、欠陥のないパターンを継続的に転写するためのモールドの回復工程を含む製造方法を提供することができる。
そのため、本技術は、半導体、ディスプレイ、光学機器などの製造過程に幅広く使用することが可能である。半導体およびディスプレイの製造過程では、電子素子をナノインプリントリソグラフィにより製造する際のモールドの洗浄等に使用することができる。また、光学機器の製造過程では、凹凸構造(モスアイ構造)による無反射材をナノインプリントリソグラフィにより製造する際のモールドの洗浄などに使用することができる。
以下、実施例1〜3、7および比較例1には、樹脂が塗布された凹凸を有さないSi製の基板(以下、Si板)に対して回復工程を用いた実験結果を示す。実施例6には、樹脂が塗布されていないSi板を用いた実験結果を示す。一方、実施例4、5には、図3(A)〜(D)を経て形成された、樹脂が付着した凹凸構造が形成されたモールド(以下、単にモールド)に対して回復工程を適用した実験結果を示す。
(樹脂の塗布)
実施例1〜3では、Si板(3インチSi(100)ウエハ、K0G27、株式会社ワカテック)上に樹脂としてPAK−01(東洋合成工業株式会社)を回転塗布(4000rpm、20秒)することにより、約1.3μmの薄膜が形成された。薄膜の厚みの測定には、触針式表面形状測定器(DekTak 6M、株式会社ULVAC)を使用した。塗布後、窒素雰囲気下にて紫外線(i線:365nm、0.10mW/cm)で露光することにより樹脂を硬化させた。紫外線(i線)の露光量は、実施例1および3では100mJ/cm、実施例2では50mJ/cm、100mJ/cm、150mJ/cm、および200mJ/cmであった。なお、メーカーが推奨するPAK−01の露光量は100mJ/cmである。
実施例4、5では、電子線リソグラフィにより形成されたSi製のモールド(20×20mm)と石英製の基板(30×30mm、OPSQ−30S2.3−0.5−10、シグマ光機株式会社)とをまず洗浄した。洗浄は、(i)水洗、(ii)アセトン洗浄(20分間)、(iii)硫酸過酸化水素(硫酸:過酸化水素=1:1)洗浄(40分間)、UVオゾン照射(5分間)の順に行った。次に、石英製の基板上にPAK−01を回転塗布した。具体的には、500rpmで5秒間回転塗布後、1000rpmで30秒間さらに回転塗布することにより、石英製の基板上に10μmの薄膜が形成された。次に、離型剤を使用することなく図3(B)に示したモールドのプレス工程、図3(C)に示した紫外線(i線)の露光工程、および図3(D)に示したモールドのリリース工程(失敗)を再現した。これにより、樹脂の付着したモールドを得た。
(原子状水素照射装置の稼働条件)
原子状水素照射装置として、OAPM−400(東京応化工業株式会社)を用いた。処理ガスとして、水素/窒素混合ガス(水素濃度は10体積%)、水素ガスの流量を30sccm、水素ガスの分圧を2.13Pa、Si板またはモールドの初期温度を室温、触媒体の温度を2400℃、触媒体とSi板またはモールドとの距離を100mmとした。以下の実施例では、特に言及しない限り、これらの条件を使用した。
(実施例1)
触媒体温度が樹脂の除去速度に与える影響を調べた。図4は、実施の形態に係る回復工程における触媒体温度の影響を示すグラフである。図4(A)は、触媒体温度と樹脂の除去速度との関係を示すグラフである。いずれも露光量を100mJ/cmとした。図4(B)は、触媒体温度がSi板の温度に及ぼす影響を示すグラフである。
2000℃、2100℃、2300℃、および2400℃の4つの触媒体温度における樹脂の除去速度を調べた(図4(A))。各温度において、樹脂の除去を目視により確認し、Si板上に塗布された樹脂の厚さ(1.3μm)を樹脂が完全に除去されるまでに要する時間(分)で割ることにより、樹脂の除去速度(μm/分)を算出した。
その結果、2000℃と2100℃における樹脂の除去速度には大きな違いがなかったが、触媒体温度を2300℃、2400℃に上げると、樹脂の除去速度が指数関数的に大幅に上昇することが確認された。これは、触媒体温度の上昇により、原子状水素の濃度が増大したこと、および触媒体の輻射熱によりSi板が加熱されて原子状水素と樹脂との反応性が高まったためであると考えられる。なお、いずれの温度でも、最終的には同程度に樹脂が除去できることが確認された。
次に、2000℃、2100℃、2300℃、および2400℃の4つの触媒体温度における原子状水素の照射時間とSi板の温度との関係を調べた(図4(B))。触媒体温度が高いほど、高いSi板の温度が観察された。原子状水素を30分間照射した場合には、Si板の温度はそれぞれ約122℃、約140℃、約174℃、約208℃となった。
(実施例2)
触媒体温度を2400℃に固定し、樹脂への紫外線(i線)の露光量を50mJ/cm、100mJ/cm、150mJ/cm、および200mJ/cmの4つの条件とした以外は実施例1と同様にして、樹脂の架橋度が回復工程に及ぼす影響を調べた。
図5は、実施の形態に係る回復工程における樹脂の架橋度の影響を示すグラフである。図5(A)は、樹脂への紫外線(i線)の露光量が、樹脂の除去速度に及ぼす影響を示すグラフである。図5(B)は、回復工程の前におけるSi板の表面を平面視した一例を示す光学顕微鏡(ECLIPSE L150、株式会社ニコン)写真である。図5(C)は、回復工程の後におけるSi板の表面を平面視した一例を示す光学顕微鏡写真である。
図5(A)より、樹脂への紫外線(i線)の露光量に関係なく、Si板から約0.17μm/分の除去速度により樹脂を除去することができることが確認された。メーカーが推奨する露光量は100mJ/cmであるため、50mJ/cmでは架橋が不十分である可能性、200mJ/cmでは樹脂が通常よりも架橋して硬化している可能性があったが、いずれも同程度の除去速度により除去することができた。また、図5(B)と図5(C)により、回復工程により、Si板に付着した樹脂が完全に除去されたことが光学顕微鏡を用いた観察によって確認された。
(実施例3)
X線光電子分光(XPS)(ESCA−3400、株式会社島津製作所)を用いて、回復工程の前後における残膜の有無を解析した。図6は、Si板に付着した樹脂の残膜の有無を、X線光電子分光(XPS)を用いて解析した結果を示すグラフである。下から順に、樹脂を塗布する前のSi板の表面、樹脂をSi板に塗布したSi板の表面、回復工程を経た後のSi板の表面をそれぞれ解析した結果を示す。
樹脂を塗布する前のSi板の表面では、Siのピーク(2s、2p)が確認された。一方、樹脂をSi板に塗布した後、回復工程を経る前の樹脂の表面では、これらのピークは確認されなかった。しかし、回復工程を経た後のSi板の表面では、樹脂を塗布する前のSi板の表面と同程度にSiのピーク(2s、2p)が確認された。つまり、Si板の表面の組成が樹脂を塗布する前の組成とほぼ同じ状態に戻った。したがって、実施例2の光学顕微鏡による実験に加えてXPSによっても、回復工程により樹脂の残膜がほぼ完全に除去されたことが確認された。また、このことから、XPSを用いなくても光学顕微鏡による確認だけで樹脂の残膜の有無を確認できることも確認された。
(実施例4)
凹凸が形成されたモールドに原子状水素を照射した場合に、樹脂の残膜を除去できるかどうかを解析した。図7は、回復工程の前後におけるモールドの表面の変化を示す光学顕微鏡写真である。図7(A)は、回復工程の前後においてモールドAを平面視した光学顕微鏡写真である。図7(B)は、回復工程の前後においてモールドBを平面視した光学顕微鏡写真である。図8は、回復工程の後において図7(A)のモールドAの一部を10000倍に拡大した状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。図8(A)は、図7(A)のモールドAの領域Xを10000倍に拡大した状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。図8(B)は、図7(A)のモールドAの領域Yを10000倍に拡大した状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。図8(C)は、図8(B)のZ−Z断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。走査型電子顕微鏡としては、TM−1000(株式会社日立ハイテクノロジーズ)を使用した。
図7(A)および(B)により、照射前には樹脂の残膜により凹凸パターンの一部が覆われていたが、原子状水素の照射後には、モールドA、モールドBとも凹凸パターンの全体がはっきりと確認された。樹脂の残膜の除去は、モールドのパターンには依存しないことが光学顕微鏡を用いて確認された。また、図8(A)〜(C)に示した走査型電子顕微鏡による拡大写真によって、回復工程後にはモールドの凹凸パターンがはっきりと確認できた。回復工程前には凹凸パターン中に入り込んでいたと考えられる樹脂の残膜は確認されなかった。
(実施例5)
実施例3と同様にして、XPSにより実施例4のモールドを解析した。図9は、図7(A)のモールドに付着した樹脂の残膜の有無を、X線光電子分光(XPS)を用いて解析した結果を示すグラフである。下から順に、比較のために回復工程を経た後の凹凸を有さないSi板表面(実施例3)、回復工程を経た後の凹凸が形成されたモールド表面をそれぞれ解析した結果を示す。
回復工程を経た後の凹凸を有さないSi板表面(実施例3)と、回復工程を経た後の凹凸が形成されたモールド表面では、Siのピーク(2s、2p)が同程度に確認された。凹凸を有さないSi板(実施例3)だけでなく凹凸が形成されたモールドでも、回復工程により樹脂の残膜がほぼ完全に除去されたことがXPSによっても確認された。
(実施例6)
触媒体温度(WT)がSi板表面の表面粗さ(2乗平均粗さ)に及ぼす影響を調べた。樹脂を塗布していない点、触媒体温度(WT)を1560℃、1800℃、および2000℃とした点、触媒体−Si板間の距離を20mmとした点、水素ガスの分圧を4.53Paとした点以外は実施例1と同様の条件で、実験を行った。Si板表面の2乗平均粗さは、原子間力顕微鏡(JSPM−5200、日本電子株式会社)を用いてコンタクトモードにて測定した。
図10は、触媒体温度(WT)がSi板の2乗平均粗さに及ぼす影響を示すグラフである。触媒体温度(WT)が高いほど、Si板の2乗平均粗さが粗くなる傾向があることが確認された。また、いずれの触媒体温度(WT)でも、原子状水素の照射時間が約5分で2乗平均粗さが平衡状態に達した。触媒体温度2000℃で5分間、原子状水素を照射した後のSi板でも、ナノインプリントリソグラフィに再度使用できる程度に十分に平坦であることが確認された。
本実施例では、触媒体−Si板間の距離を20mmとし、水素ガスの分圧を4.53Paとした。これらの条件は、上述した原子状水素照射装置の稼働条件に比べて、Si板の表面に及ぼすダメージがより大きい条件であると考えられる。にもかかわらず、原子状水素を照射した後でもSi板にほとんどダメージが見られなかった。そのため、回復工程を複数回経たモールドでも、ナノインプリントリソグラフィに再度使用できることが推察された。
(実施例7)
実施の形態に係る回復工程を用いて、熱可塑性樹脂の除去を試みた。光硬化性樹脂に代えて熱可塑性樹脂を用いた点、熱可塑性樹脂であり露光が不必要であるため樹脂の露光工程を省略した点以外は、実施例2と同様にして実験を行った。熱可塑性樹脂としては、熱ナノインプリントリソグラフィで広く用いられるポリスチレン(PS)およびポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いた。
まず、熱可塑性樹脂の塗布条件を説明する。PSは、10質量%のポリマー濃度にてキシレン溶媒に溶解させた。この溶液を4000rpmで20秒間Si板に回転塗布した後、Si板を100℃で1分間ベークし、PS樹脂の薄膜が付着したSi板を得た。PMMAは、10質量%のポリマー濃度にて乳酸エチル溶媒に溶解させた。この溶液を500rpmで20秒間Si板に回転塗布した後、Si板を100℃で1分間ベークし、PMMA樹脂の薄膜が付着したSi板を得た。
図11は、熱可塑性樹脂の種類が原子状水素の照射時間と膜厚との関係に及ぼす影響を示すグラフである。樹脂の膜厚は、触針式表面形状測定器で測定した。原子状水素を照射することにより、PS、PMMAともにSi板の表面に付着した樹脂の膜厚は、原子状水素の照射時間とともに減少した。PS樹脂の除去速度は約0.05μm/分であり、PMMA樹脂の除去速度は約0.8μm/分であった。これらの除去速度は、実施例2の光硬化性樹脂の除去速度に比べて、それぞれ約0.29倍および約4.7倍であった。最終的にはいずれの熱可塑性樹脂も完全に除去できることが膜厚測定および光学顕微鏡による観察により確認された。これにより、実施の形態に係る回復工程を用いれば、光硬化性樹脂だけでなく熱可塑性樹脂もSi板上から容易に除去することができることが明らかとなった。
(比較例1)
比較例として、溶剤(剥離液)を用いてSi板に付着した樹脂の除去を試みた。溶剤として、レジストの剥離に広く用いられているモノエタノールアミン(EA)/ジメチルスルホキシド(DMSO)混合液(70質量%:30質量%:106溶剤ともいう)を用いた。溶剤温度は50℃であった。樹脂の除去に溶剤を用いた以外は、実施例2の100mJ/cmの場合と同様に実験を行った。
まず、樹脂を溶剤に浸漬する前の膜厚を触針式表面形状測定器により測定した。次に、Si板上の樹脂をEA/DMSO混合液に2分間浸漬した後、樹脂を溶剤から取り出して膜厚を測定した。その後、樹脂を再び溶剤に2分間浸漬し膜厚を測定する操作をさらに3回繰り返した(合計8分の浸漬時間)。
図12は、比較例として、Si板に付着した樹脂の除去を、溶剤(EA/DMSO混合液)を用いて試みた結果を示すグラフである。樹脂の膜厚は浸漬時間が増加しても減少しなかった。これにより、レジストの剥離に広く用いられている溶剤を用いて、Si板やモールドの表面に付着した樹脂を除去することはできないことが確認された。また、EA/DMSO混合液への浸漬前および8分間浸漬後の樹脂表面の光学顕微鏡写真を撮影した(図示せず)。この写真では、樹脂の表面状態は浸漬後でもほとんど変化しておらず、溶剤への浸漬により樹脂が除去された様子は観察されなかった。
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや工程の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。

Claims (6)

  1. ナノインプリント用モールドを用いて樹脂にパターンを形成する工程と、
    パターンの形成に使用された前記ナノインプリント用モールドに対して原子状水素を照射することにより、樹脂が付着している場合に当該樹脂を除去する工程と、を含み、
    前記原子状水素は、2300℃以上2500℃以下で加熱された触媒体に水素含有ガスを接触させることにより生成される、
    パターン形成方法。
  2. 原子状水素が照射された前記ナノインプリント用モールドを用いて、再び樹脂にパターンを形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のパターン形成方法。
  3. 樹脂へのパターンの形成に使用されることによって樹脂が付着したナノインプリント用モールドに対して原子状水素を照射することにより、付着した樹脂を除去する工程を含み、
    前記原子状水素は、2300℃以上2500℃以下で加熱された触媒体に水素含有ガスを接触させることにより生成される、
    モールドの回復方法。
  4. 前記モールドは、レプリカモールドであることを特徴とする請求項に記載のモールドの回復方法。
  5. マスターモールドを用いてレプリカモールドを成形する工程と、
    前記レプリカモールドの成形に使用された前記マスターモールドに対して原子状水素を照射することにより、付着物が付着している場合に当該付着物を除去する工程と、を含み、
    前記原子状水素は、2300℃以上2500℃以下で加熱された触媒体に水素含有ガスを接触させることにより生成される、
    レプリカモールドの製造方法。
  6. 原子状水素が照射された前記マスターモールドを用いて、再びレプリカモールドを成形する工程をさらに含むことを特徴とする請求項に記載のレプリカモールドの製造方法。
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