まず、トラクタ100の全体構成について簡単に説明する。なお、本発明の技術的思想は、以下に説明するトラクタ100に限るものではなく、その他の農業機械や建設機械等、作業車両全般に適用することが可能である。
図1は、トラクタ100の全体構成を示す図である。なお、図1に示す矢印Aの方向は、トラクタ100の前進方向を示している。
図1に示すように、トラクタ100は、車体フレーム1と、動力を発生させるエンジン2と、前後進の切り換えや変速を行なうトランスミッション3と、タイヤ4・4に動力を伝達するフロントアクスル5と、タイヤ6・6に動力を伝達するリアアクスル7と、各種の操作具が配置されたキャビン8と、で構成される。なお、タイヤ4・4とフロントアクスル5並びにタイヤ6・6とリアアクスル7は、「走行部」と定義できる。
車体フレーム1は、トラクタ100の主たる構造体であり、該トラクタ100の骨格をなすものである。
エンジン2は、燃料の燃焼によって動力を発生させる動力源である。エンジン2は、オペレータがハイローシフトレバー等を操作することによって運転状態を変更することができる。
トランスミッション3は、トラクタ100の前後進の切り換えや変速を行なう動力伝達装置である。トランスミッション3は、変速装置として油圧−機械式の無段変速装置(HMT)31を備えている(図2、図3参照)。しかし、静油圧式の無段変速装置(HST)であっても良く、これに限定するものではない。なお、無段変速装置31は、遊星歯車機構を用いずに、入力された回転動力の一部を油圧に変換することなく回転動力として出力できる油圧−機械式の無段変速装置(IHMT:例えば特開2008−128469号公報参照)である。無段変速装置31は、その構成に関わらず、「油圧式無段変速装置」と定義できる。
フロントアクスル5は、エンジン2の動力をタイヤ4・4に伝達する動力伝達装置である。フロントアクスル5には、トランスミッション3を介してエンジン2の動力が入力される。なお、フロントアクスル5には、操舵装置が並設されており、オペレータがハンドル81を操作することによってタイヤ4・4を操舵することができる。
リアアクスル7は、エンジン2の動力をタイヤ6・6に伝達する動力伝達装置である。リアアクスル7には、トランスミッション3を介してエンジン2の動力が入力される。
キャビン8は、各種の操作具が配置された操縦室である。キャビン8には、上述したハイローシフトレバーやハンドル81に加えて、トラクタ100の運転に用いるその他の操作具が配置されている。
次に、トラクタ100の動力伝達機構について説明する。
図2は、トラクタ100の動力伝達機構を示す図である。なお、図2は、簡単のために一部の構成を省略しており、動力伝達機構の全てを図示したものではない。
図2に示すように、トラクタ100の動力伝達機構は、主にトランスミッション3と、フロントアクスル5と、リアアクスル7と、で構成される。
まず、トランスミッション3について説明する。トランスミッション3は、主に無段変速装置31と、前後進切換装置32と、副変速装置33と、前輪駆動切換装置34と、で構成される。
無段変速装置31は、入力軸311と出力軸312の回転速度の比、即ち、変速比を連続的に変更可能としている。無段変速装置31は、入力軸311や出力軸312の他、油圧ポンプ31P、油圧モータ31M、油圧アクチュエータ31A等を具備する。
入力軸311は、エンジン2の動力を油圧ポンプ31Pに伝達する。入力軸311の一端部は、エンジン2の出力軸と連結され、入力軸311の他端部は、油圧ポンプ31Pの駆動軸と連結されている。出力軸312は、油圧モータ31Mの動力を前後進切換装置32へ伝達する。出力軸312の一端部は、油圧モータ31Mの駆動軸と連結され、出力軸312の中途部に設けられた第一出力ギヤ313等は、前後進切換装置32の前進用ギヤ324等と歯合されている。
無段変速装置31は、油圧ポンプ31Pからの作動油の吐出量を変化させることで変速比の変更を行なう。具体的に説明すると、無段変速装置31は、油圧ポンプ31Pからの作動油の吐出量を変化させて油圧モータ31Mの回転速度を調節することで、変速比の変更を行なう。
このような構成により、無段変速装置31は、トラクタ100の走行速度を変速できる。
前後進切換装置32は、前進用クラッチ321と後進用クラッチ322を備えて、各クラッチ321・322を独立して作動可能としている。前後進切換装置32は、前進用クラッチ321や後進用クラッチ322の他、カウンタ軸323、前進用ギヤ324、後進用ギヤ325、逆転ギヤ326等を具備する。
カウンタ軸323には、前進用ギヤ324が回動自在に支持されており、該前進用ギヤ324は、前進用クラッチ321と固設されている。また、カウンタ軸323には、後進用ギヤ325が回動自在に支持されており、該後進用ギヤ325は、後進用クラッチ322と固設されている。なお、前進用ギヤ324は、出力軸312に設けられた第一出力ギヤ313と歯合され、後進用ギヤ325は、逆転ギヤ326を介して出力軸312に設けられた第二出力ギヤ314と歯合されている。
前進用クラッチ321が作動した場合は、前進用ギヤ324とカウンタ軸323とが連結されて、エンジン2の動力が該カウンタ軸323へ伝達される。一方、後進用クラッチ322が作動した場合は、後進用ギヤ325とカウンタ軸323とが連結されて、エンジン2の動力が該カウンタ軸323へ伝達される。
このような構成により、前後進切換装置32は、トラクタ100の走行方向を前進又は後進のいずれかに切り換えることができる。なお、前後進切換装置32は、更に前進用クラッチ及び前進用ギヤ等を設けて多段化した構成であっても良い。また、トラクタ100の走行方向は、前後進切換装置32によらずとも、上述した油圧モータ31Mの回転方向により切り換える構成であっても良い。
副変速装置33は、第一従動ギヤ331と第二従動ギヤ332を備えて、いずれかのギヤ331・332によってエンジン2の動力を伝達可能としている。副変速装置33は、第一従動ギヤ331や第二従動ギヤ332の他、出力軸333、副変速シフタ334等を具備する。
出力軸333には、第一従動ギヤ331及び第二従動ギヤ332が回動自在に支持されている。なお、第一従動ギヤ331は、カウンタ軸323に設けられた第一主動ギヤ327と歯合され、第二従動ギヤ332は、カウンタ軸323に設けられた第二主動ギヤ328と歯合されている。また、第一従動ギヤ331と第二従動ギヤ332の間には、副変速シフタ334が配置されている。
副変速シフタ334がハブスリーブを一方向に摺動させた場合は、第一従動ギヤ331と出力軸333とが連結されて、エンジン2の動力が該出力軸333へ伝達される。一方、副変速シフタ334がハブスリーブを他方向に摺動させた場合は、第二従動ギヤ332と出力軸333とが連結されて、エンジン2の動力が該出力軸333へ伝達される。
このような構成により、副変速装置33は、トラクタ100の走行速度を変速できる。なお、副変速装置33は、更に従動ギヤ及び副変速シフタ等を設けて多段化した構成であっても良い。
前輪駆動切換装置34は、駆動クラッチ341を備えて、エンジン2の動力を伝達又は遮断可能としている。前輪駆動切換装置34は、駆動クラッチ341の他、中間軸342、中間ギヤ343、駆動ギヤ344、出力軸345、従動ギヤ346等を具備する。
中間軸342には、中間ギヤ343及び駆動ギヤ344が固設されている。なお、中間ギヤ343は、出力軸333に設けられた出力ギヤ335と歯合され、駆動ギヤ344は、出力軸345に回動自在に支持された従動ギヤ346と歯合されている。また、従動ギヤ346は、駆動クラッチ341と固設されている。
駆動クラッチ341が作動した場合は、従動ギヤ346と出力軸345とが連結されて、エンジン2の動力が該出力軸345へ伝達される。一方、駆動クラッチ341が作動しない場合は、従動ギヤ346と出力軸345とが連結されず、エンジン2の動力は出力軸345へ伝達されない。
このような構成により、前輪駆動切換装置34は、タイヤ4・4を駆動させるか否かを切り換えることができる。
次に、フロントアクスル5について説明する。フロントアクスル5は、主に差動装置51と、ドライブシャフト52・52と、で構成される。
差動装置51は、トラクタ100が旋回等する際に生じるタイヤ4・4の回転差を吸収できる。差動装置51は、ピニオンギヤ511・511やサイドギヤ512・512の他、ファイナルギヤ513、ディファレンシャルケース514等を具備する。
ファイナルギヤ513は、前輪駆動切換装置34の出力軸345に設けられた出力ギヤ347と歯合されている。ファイナルギヤ513の側面には、ディファレンシャルケース514が固設されており、ディファレンシャルケース514は、ファイナルギヤ513とともに回転する。ディファレンシャルケース514には、二つのピニオンギヤ511・511が対向して配置され、該ピニオンギヤ511・511に二つのサイドギヤ512・512が歯合されている。そして、各サイドギヤ512・512は、タイヤ4・4に連結されたドライブシャフト52・52と固設されている。
トラクタ100の旋回時においては、ドライブシャフト52・52へ動力を伝達する際に、ピニオンギヤ511・511が回転することによって左右のドライブシャフト52・52の回転速度を調節する。
このような構成により、フロントアクスル5は、適宜にドライブシャフト52・52に動力を伝達する。
次に、リアアクスル7について説明する。リアアクスル7は、主に差動装置71と、ドライブシャフト72・72と、で構成される。
差動装置71は、トラクタ100が旋回等する際に生じるタイヤ6・6の回転差を吸収できる。差動装置71は、ピニオンギヤ711・711やサイドギヤ712・712の他、ファイナルギヤ713、ディファレンシャルケース714等を具備する。
ファイナルギヤ713は、副変速装置33の出力軸333に設けられた出力ギヤ336と歯合されている。ファイナルギヤ713の側面には、ディファレンシャルケース714が固設されており、ディファレンシャルケース714は、ファイナルギヤ713とともに回転する。ディファレンシャルケース714には、二つのピニオンギヤ711・711が対向して配置され、該ピニオンギヤ711・711に二つのサイドギヤ712・712が歯合されている。そして、各サイドギヤ712・712は、タイヤ6・6に連結されたドライブシャフト72・72と固設されている。
トラクタ100の旋回時においては、ドライブシャフト72・72へ動力を伝達する際に、ピニオンギヤ711・711が回転することによって左右のドライブシャフト72・72の回転速度を調節する。
このような構成により、リアアクスル7は、適宜にドライブシャフト72・72に動力を伝達する。
次に、トラクタ100の油圧回路について説明する。
図3は、トラクタ100の油圧回路を示す図である。なお、図3は、簡単のために一部の構成を省略しており、油圧回路の全てを図示したものではない。
図3に示すように、トラクタ100の油圧回路は、主に油圧ポンプ35と、分流弁36と、クラッチバルブ37と、無段変速装置31と、で構成される。
油圧ポンプ35は、作動油を吸入するとともに、該作動油を各部へ圧送する。具体的には、油圧ポンプ35は、分流弁36や図示しない油圧アクチュエータ等に作動油を圧送する。なお、油圧ポンプ35は、エンジン2によって駆動される。
分流弁36は、作動油を分流し、該作動油を各部へ案内する。具体的には、分流弁36は、分流した一方をクラッチバルブ37へ案内する。また、分流弁36は、分流した他方を無段変速装置31へ案内する。
クラッチバルブ37は、前進用クラッチ321や後進用クラッチ322へ作動油を供給又は供給停止にできる。クラッチバルブ37は、前進用クラッチ321の油圧アクチュエータに作動油を供給又は供給停止にすることで、該前進用クラッチ321が動力を伝達するか否かを切り換える。また、クラッチバルブ37は、後進用クラッチ322の油圧アクチュエータに作動油を供給又は供給停止にすることで、該後進用クラッチ322が動力を伝達するか否かを切り換える。
なお、クラッチバルブ37を構成するメインバルブ371は、摺動自在に設けられたスプールシャフトによって作動油の流動方向を切り換える。スプールシャフトは、クラッチペダル82によって摺動自在に構成されている。メインバルブ371の第一出力ポートは、第一電磁バルブ372のポンプポート及び第二電磁バルブ373のポンプポートに配管を介して接続されている。メインバルブ371の第二出力ポートは、第一電磁バルブ372のタンクポート及び第二電磁バルブ373のタンクポートに配管を介して接続されている。
また、第一電磁バルブ372と第二電磁バルブ373は、摺動自在に設けられたスプールシャフトによって作動油の流動方向を切り換える。スプールシャフトは、それぞれのソレノイドバルブ372a・373aによって摺動自在に構成されている。第一電磁バルブ372の出力ポートは、前進用クラッチ321の油圧アクチュエータに配管を介して接続されている。第二電磁バルブ373の出力ポートは、後進用クラッチ322の油圧アクチュエータに配管を介して接続されている。
まず、分流弁36からクラッチバルブ37へ案内された作動油は、チェックバルブを通過してメインバルブ371へ送られる。メインバルブ371は、クラッチペダル82が踏まれていない場合、作動油を第一電磁バルブ372や第二電磁バルブ373へ供給できる。この場合、第一電磁バルブ372と第二電磁バルブ373は、後述する制御装置9からの制御信号に基づいて、作動油を前進用クラッチ321の油圧アクチュエータ又は後進用クラッチ322の油圧アクチュエータへ供給できる。
一方、メインバルブ371は、クラッチペダル82が踏まれている場合、第一電磁バルブ372や第二電磁バルブ373への作動油の供給を停止できる。この場合、第一電磁バルブ372と第二電磁バルブ373は、作動油を前進用クラッチ321の油圧アクチュエータや後進用クラッチ322の油圧アクチュエータへ供給できない。
このような構成により、オペレータは、クラッチペダル82を操作することによって前進用クラッチ321及び後進用クラッチ322に動力の伝達を行なわせるか否かを選択できる。即ち、オペレータは、クラッチペダル82を操作することによってエンジン2の動力を走行部(タイヤ6・6等)に伝達するか否かを選択できる。
なお、制御装置9は、オペレータの操作に応じてソレノイドバルブ372a・373aに制御信号を送信する。従って、オペレータは、操作具を操作することによって前進用クラッチ321又は後進用クラッチ322に動力の伝達を行なわせるか否かを選択できる。即ち、オペレータは、トラクタ100を前進させるか後進させるかを選択できる。
無段変速装置31は、入力された回転動力を作動油の油圧に変換し、作動油の油圧を再び回転動力として出力できる。上述したように、無段変速装置31は、遊星歯車機構を用いずに、入力された回転動力の一部を油圧に変換することなく回転動力として出力できる。
無段変速装置31を構成する油圧ポンプ31Pは、油圧アクチュエータ31Aによって任意に傾倒できる可動斜板と、環状に配列された複数のプランジャを備えている。油圧ポンプ31Pは、プランジャ群を可動斜板に当接した状態で回転させるため、各プランジャの摺動によって作動油を圧送できる。また、油圧ポンプ31Pは、油圧アクチュエータ31Aによって可動斜板の傾倒角度を変更できるため、作動油の圧送方向及び作動油の吐出量を調整できる。なお、油圧アクチュエータ31Aは、変速レバー83(図4参照)によって操作することができる。
無段変速装置31を構成する油圧モータ31Mは、環状に配列された複数のプランジャを備えている。油圧モータ31Mは、各プランジャが固定斜板に当接した状態で作動油によって摺動されるため、作動油の圧送方向に応じて回転することができる。また、油圧モータ31Mは、油圧ポンプ31Pから圧送される作動油の吐出量に応じて回転することができる。
まず、分流弁36から無段変速装置31へ案内された作動油は、カウンタバランス弁を通過して油圧ポンプ31Pと油圧モータ31Mが構成する閉回路へ送られる。油圧ポンプ31Pは、可動斜板の傾倒角度に基づいて作動油を閉回路の正方向に圧送し、該作動油を油圧モータ31Mへ供給できる。この場合、油圧モータ31Mは、油圧ポンプ31Pから圧送される作動油の吐出量に応じて正方向に回転し、出力軸312を正方向に回転させる。
一方、油圧ポンプ31Pは、可動斜板の傾倒角度に基づいて作動油を閉回路の逆方向に圧送し、該作動油を油圧モータ31Mへ供給できる。この場合、油圧モータ31Mは、油圧ポンプ31Pから圧送される作動油の吐出量に応じて逆方向に回転し、出力軸312の回転を停止させる。
このような構成により、オペレータは、変速レバー83を操作することによって変速比を変更することができる。即ち、オペレータは、変速レバー83を操作することによってトラクタ100の走行速度を変速できる。
なお、制御装置9は、予め設定された走行速度に基づいて油圧アクチュエータ31Aに制御信号を送信する(図4参照)。従って、制御装置9は、走行部の実回転数(本トラクタ100ではドライブシャフト72の実回転数)が目標回転数となるように制御できる。即ち、制御装置9は、トラクタ100の走行速度が予め設定された走行速度となるように制御できる。
次に、トラクタ100の制御システムの構成について説明する。
図4は、トラクタ100の制御システムの構成を示す図である。なお、図4は、簡単のために一部の構成を省略しており、制御システムの全てについて図示したものではない。
制御装置9は、目標回転数設定手段である変速レバー83の他、実回転数検出手段である回転センサ84、油圧検出手段である油圧センサ85、エンジン停止手段である電磁バルブ87、変速比変更手段である油圧アクチュエータ31A等と電気的に接続されている。制御装置9は、変速レバー83等からの入力信号や回転センサ84からの検出信号に基づいて制御信号を作成し、電磁バルブ87や油圧アクチュエータ31Aに制御信号を送信できる。即ち、制御装置9は、電磁バルブ87や油圧アクチュエータ31Aを制御できる。
目標回転数設定手段である変速レバー83は、上述したように、トラクタ100の走行速度を設定できる。即ち、変速レバー83は、ドライブシャフト72の目標回転数(単位時間当たりの目標回転数)を設定できる。なお、変速レバー83は、オペレータが操縦席に着座した状態で操作することができるよう、キャビン8内に配置されている。
実回転数検出手段である回転センサ84は、ドライブシャフト72の単位時間当たりの回転数を検出できる。具体的に説明すると、回転センサ84は、パルス盤の凹凸に応じて変化する起電力を検出信号として制御装置9へ送信できる。制御装置9は、単位時間当たりのパルス数からドライブシャフト72の実回転数を把握できる。なお、回転センサ84は、リアアクスル7のケーシング部に取り付けられているが(図2参照)、例えばトランスミッション3のケーシング部に取り付けて出力軸333等の回転を検出するとしても良い。
油圧検出手段である油圧センサ85は、無段変速装置31の作動油の油圧を検出できる。具体的に説明すると、油圧センサ85は、作動油の油圧に応じて変化する起電力を検出信号として制御装置9へ送信できる。制御装置9は、起電力の値から無段変速装置31の作動油の油圧を把握できる。なお、油圧センサ85は、無段変速装置31のケーシング部に取り付けられている(図3参照)。
エンジン停止手段である電磁バルブ87は、エンジン2の運転を停止できる。具体的に説明すると、電磁バルブ87は、エンジン2への燃料の供給を停止させることで、該エンジン2の運転を停止できる。なお、電磁バルブ87は、エンジン2へ燃料を圧送する燃料噴射ポンプに取り付けられている(図2参照)。なお、エンジン2の停止は、走行コントローラからCANを介してエンジンコントローラに指示し、該エンジンコントローラで停止する構成としても良い。また、走行コントローラから電圧を出力してエンジンコントローラに入力し、該エンジンコントローラで停止する構成としても良い。
変速比変更手段である油圧アクチュエータ31Aは、上述したように、油圧ポンプ31Pの可動斜板を傾倒させることで、作動油の圧送方向及び作動油の吐出量を調整できる。即ち、油圧アクチュエータ31Aは、油圧モータ31Mの回転方向及び回転速度を調節できる。なお、油圧アクチュエータ31Aは、無段変速装置31のケーシング部に取り付けられている(図2参照)。
制御装置9は、CPUやRAM、ROM等から構成される。CPUは、ROMに記憶された各種の制御プログラムに従って演算処理を行なう。なお、CPUは、計時機能部を備えており、これによってタイマー機能を実現している。また、CPUは、トラクタ100の走行状態に基づいてエンジン2にかかる負荷を検出する。負荷の検出の一例として負荷率Lを用いる。負荷率Lは、例えば下記の数式で定義できる。但し、負荷率Lを定義する手法や数式について限定するものではない。
L=(現在の燃料噴射量/現在のエンジン回転数での最大燃料噴射量)×100
更に、制御装置9には、選択スイッチ86が接続されている。オペレータは、選択スイッチ86を操作することで後述する制御を行なうか否かを選択できる。なお、選択スイッチ86は、オペレータが操縦席に着座した状態で操作することができるよう、キャビン8内に設けられたコントロールパネルに配置されている。
次に、図5を用いて、本発明の第一実施形態に係る制御フローについて説明する。
まず、ステップS101において制御装置9は、走行部の目標回転数を把握する。詳細に説明すると、制御装置9は、ドライブシャフト72の目標回転数(以降、目標回転数Rsと表す)を把握する。これは、オペレータによる変速レバー83の操作量に応じて、予め設定されている値である。
ステップS102において制御装置9は、走行部の実回転数を把握する。詳細に説明すると、制御装置9は、ドライブシャフト72の実回転数(以降、実回転数Rrと表す)を把握する。これは、回転センサ84が検出信号として送信した単位時間当たりのパルス数から算出される値である。
ステップS103において制御装置9は、目標回転数Rsと実回転数Rrの差の絶対値Dを算出する。詳細に説明すると、制御装置9は、以下の数式に基づいて絶対値Dを算出する。
D=|目標回転数Rs−実回転数Rr|
ステップS104において制御装置9は、絶対値Dが閾値Dlよりも大きいか否かを判断する。つまり、制御装置9は、目標回転数Rsと実回転数Rrの値から算出された差の絶対値Dが予め設定された閾値Dlよりも大きいか否かを判断する。ここで、閾値Dlとは、トラクタ100にかかる負荷の状態と絶対値Dの状態をパラメータとして、試験を行なうことによって定めた値であり、その具体的な数値について限定するものではない。
そして、制御装置9は、絶対値Dが閾値Dlよりも大きい場合に、トラクタ100が必要とする動力よりも大きな負荷がかかっている状態と判断して、ステップS105へ移行する。また、制御装置9は、絶対値Dが閾値Dl以下となる場合に、トラクタ100が必要とする動力に達していない状態と判断して、ステップS106へ移行する。
ステップS105において制御装置9は、電磁バルブ87に制御信号を送信してエンジン2の運転を停止させる。詳細に説明すると、制御装置9は、電磁バルブ87に制御信号を送信してエンジン2への燃料の供給を停止させることで、該エンジン2の運転を停止させる。なお、上述したように、エンジン2の停止は、走行コントローラからCANを介してエンジンコントローラに指示し、該エンジンコントローラで停止する構成としても良い。また、走行コントローラから電圧を出力してエンジンコントローラに入力し、該エンジンコントローラで停止する構成としても良い。
このように、本トラクタ100は、目標回転数Rsと実回転数Rrの差の絶対値Dが閾値Dlよりも大きい場合に、トラクタ100が必要とする動力よりも大きな負荷がかかっている状態と判断して、エンジン2を停止させる。これにより、トラクタ毎にリリーフ圧力の設定が必要とされていたリリーフバルブの共用化を図ることが可能となる。また、リリーフ圧力の確認工数を低減させることが可能となる。
なお、ステップS106において制御装置9は、引き続き実回転数Rrが目標回転数Rsとなるように油圧アクチュエータ31Aを制御する。つまり、制御装置9は、通常の制御を継続するように指示する。
次に、図6を用いて、本発明の第二実施形態に係る制御フローについて説明する。本実施形態においてエンジンコントローラは、エンジン2にかかる負荷を検出する検出手段としての役割を有する。
まず、ステップS201において制御装置9は、走行部の目標回転数を把握する。これは、第一実施形態に係る制御フローのステップS101と同様である。
ステップS202において制御装置9は、走行部の実回転数を把握する。これも、第一実施形態に係る制御フローのステップS102と同様である。
ステップS203においてエンジンコントローラは、トラクタ100の走行状態等に基づいてエンジン2の負荷率Lを算出する。詳細に説明すると、エンジンコントローラは、以下の数式に基づいて負荷率Lを算出する。そして、負荷率Lは、CANを介して制御装置9に送信され、制御装置9が以降の制御態様を行なう。但し、制御装置9がエンジンコントローラからデータを受信し、負荷率Lの算出を行なうとしても良い。
L=(現在の燃料噴射量/現在のエンジン回転数での最大燃料噴射量)×100
ステップS204において制御装置9は、負荷率Lが閾値Llよりも大きいか否かを判断する。つまり、制御装置9は、現在のエンジン回転数での最大燃料噴射量と現在の燃料噴射量から算出された負荷率Lが予め設定された閾値Llよりも大きいか否かを判断する。ここで、閾値Llとは、トラクタ100にかかる負荷の状態と負荷率Lの状態をパラメータとして、試験を行なうことによって定めた値であり、その具体的な数値について限定するものではない。
そして、制御装置9は、負荷率Lが閾値Llよりも大きい場合に、トラクタ100が必要とする動力よりも大きな負荷がかかっている状態と判断して、ステップS205へ移行する。また、制御装置9は、負荷率Lが閾値Ll以下となる場合に、トラクタ100が必要とする動力に達していない状態と判断して、ステップS206へ移行する。
ステップS205において制御装置9は、電磁バルブ87に制御信号を送信してエンジン2の運転を停止させる。詳細に説明すると、制御装置9は、電磁バルブ87に制御信号を送信してエンジン2への燃料の供給を停止させることで、該エンジン2の運転を停止させる。なお、上述したように、エンジン2の停止は、走行コントローラからCANを介してエンジンコントローラに指示し、該エンジンコントローラで停止する構成としても良い。また、走行コントローラから電圧を出力してエンジンコントローラに入力し、該エンジンコントローラで停止する構成としても良い。
このように、本トラクタ100は、エンジン2の負荷率Lが閾値Llよりも大きい場合に、トラクタ100が必要とする動力よりも大きな負荷がかかっている状態と判断して、エンジン2を停止させる。これにより、トラクタ毎にリリーフ圧力の設定が必要とされていたリリーフバルブの共用化を図ることが可能となる。また、リリーフ圧力の確認工数を低減させることが可能となる。
なお、ステップS206において制御装置9は、引き続き実回転数Rrが目標回転数Rsとなるように油圧アクチュエータ31Aを制御する。つまり、制御装置9は、通常の制御を継続するように指示する。
次に、図7を用いて、本発明の第三実施形態に係る制御フローについて説明する。
まず、ステップS301において制御装置9は、走行部の目標回転数を把握する。これは、第一実施形態及び第二実施形態に係る制御フローのステップS101・S201と同様である。
ステップS302において制御装置9は、走行部の実回転数を把握する。これも、第一実施形態及び第二実施形態に係る制御フローのステップS102・S202と同様である。
ステップS303において制御装置9は、無段変速装置31の作動油の油圧を把握する。詳細に説明すると、制御装置9は、油圧ポンプ31Pと油圧モータ31Mが構成する閉回路の油圧(以降、油圧Pと表す)を把握する。これは、油圧センサ85が検出信号として送信した起電力の値から求めることができる。
ステップS304において制御装置9は、油圧Pが閾値Plよりも大きいか否かを判断する。つまり、制御装置9は、油圧センサ85の検出信号から求められた油圧Pが予め設定された閾値Plよりも大きいか否かを判断する。ここで、閾値Plとは、トラクタ100にかかる負荷の状態と油圧Pの状態をパラメータとして、試験を行なうことによって定めた値であり、その具体的な数値について限定するものではない。
そして、制御装置9は、油圧Pが閾値Plよりも大きい場合に、トラクタ100が必要とする動力よりも大きな負荷がかかっている状態と判断して、ステップS305へ移行する。また、制御装置9は、油圧Pが閾値Pl以下となる場合に、トラクタ100が必要とする動力に達していない状態と判断して、ステップS306へ移行する。
ステップS305において制御装置9は、電磁バルブ87に制御信号を送信してエンジン2の運転を停止させる。詳細に説明すると、制御装置9は、電磁バルブ87に制御信号を送信してエンジン2への燃料の供給を停止させることで、該エンジン2の運転を停止させる。なお、上述したように、エンジン2の停止は、走行コントローラからCANを介してエンジンコントローラに指示し、該エンジンコントローラで停止する構成としても良い。また、走行コントローラから電圧を出力してエンジンコントローラに入力し、該エンジンコントローラで停止する構成としても良い。
このように、本トラクタ100は、無段変速装置31の油圧Pが閾値よりも大きい場合に、トラクタ100が必要とする動力よりも大きな負荷がかかっている状態と判断して、エンジン2を停止させる。これにより、トラクタ毎にリリーフ圧力の設定が必要とされていたリリーフバルブの共用化を図ることが可能となる。また、リリーフ圧力の確認工数を低減させることが可能となる。
なお、ステップS306において制御装置9は、引き続き実回転数Rrが目標回転数Rsとなるように油圧アクチュエータ31Aを制御する。つまり、制御装置9は、通常の制御を継続するように指示する。
また、トラクタ100に油圧作業機を装着した場合では、油圧ポンプ35から油圧作業機へ圧送された作動油の油圧を検出できるように構成し、トラクタ100が必要とする動力よりも大きな負荷がかかると、エンジン2の運転を停止させるとしても良い。
次に、図8を用いて、本発明の第四実施形態に係る制御フローについて説明する。本実施形態においては、上述した第一実施形態に係る制御フローと異なる部分を中心に説明する。なお、第一実施形態と同一の制御構成ついては同じ符号を付している。
第四実施形態に係る制御フローは、第一実施形態に係る制御フローのステップS101からステップS104に相当する部分が同様である。
ステップS405において制御装置9は、絶対値Dが閾値Dlよりも大きい状態で所定時間Tlよりも長く維持されるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、目標回転数Rsと実回転数Rrの値から算出された差の絶対値Dが閾値Dlよりも大きい状態で予め設定された所定時間Tlよりも長く維持されるか否かを判断する。ここで、所定時間Tlとは、トラクタ100にかかる負荷の状態と絶対値Dの状態をパラメータとして、試験を行なうことによって定めた値であり、その具体的な数値について限定するものではない。
そして、制御装置9は、絶対値Dが閾値Dlよりも大きい状態で所定時間Tlよりも長く維持された場合に、トラクタ100が必要とする動力よりも大きな負荷がかかっている状態と判断して、ステップS406へ移行する。また、制御装置9は、絶対値Dが閾値Dlよりも大きい状態で所定時間Tlよりも長く維持されなかった場合に、トラクタ100が必要とする動力に達していない状態と判断して、ステップS409へ移行する。
ステップS406において制御装置9は、電磁バルブ87に制御信号を送信してエンジン2の運転を停止させる。詳細に説明すると、制御装置9は、電磁バルブ87に制御信号を送信してエンジン2への燃料の供給を停止させることで、該エンジン2の運転を停止させる。なお、上述したように、エンジン2の停止は、走行コントローラからCANを介してエンジンコントローラに指示し、該エンジンコントローラで停止する構成としても良い。また、走行コントローラから電圧を出力してエンジンコントローラに入力し、該エンジンコントローラで停止する構成としても良い。
このように、本トラクタ100は、目標回転数Rsと実回転数Rrの差の絶対値Dが閾値Dlよりも大きい状態で所定時間Tlよりも長く継続した場合に、トラクタ100が必要とする動力よりも大きな負荷がかかっている状態と判断して、エンジン2を停止させる。これにより、トラクタ毎にリリーフ圧力の設定が必要とされていたリリーフバルブの共用化を図ることが可能となる。また、リリーフ圧力の確認工数を低減させることが可能となる。
なお、本実施形態に係る制御フローは、第一実施形態に係る制御フローに新たな制御構成(ステップS405)を加えたものである。しかし、第二実施形態に係る制御フローや第三実施形態に係る制御フローに新たな制御構成(ステップS405)を加えたとしても良い。
これにより、本トラクタ100は、エンジン2の負荷率Lが閾値Llよりも大きい状態、又は、無段変速装置31の油圧Pが閾値Plよりも大きい状態で、所定時間Tlよりも長く継続した場合に、トラクタ100が必要とする動力よりも大きな負荷がかかっている状態と判断して、エンジン2を停止させる。これにより、トラクタ毎にリリーフ圧力の設定が必要とされていたリリーフバルブの共用化を図ることが可能となる。また、リリーフ圧力の確認工数を低減させることが可能となる。
なお、ステップS409において制御装置9は、引き続き実回転数Rrが目標回転数Rsとなるように油圧アクチュエータ31Aを制御する。つまり、制御装置9は、通常の制御を継続するように指示する。
また、本実施形態に係る制御フローには、以下の制御構成(ステップS407、ステップS408)を加えている。
ステップS407において制御装置9は、走行部を制動させる。詳細に説明すると、制御装置9は、リアアクスル7に設けられた制動装置88(図2、図4参照)を制御してタイヤ6・6を制動させる。なお、制動装置88の取り付け位置や構成については限定しない。従って、いわゆるフットブレーキやパーキングブレーキのような既知の制動装置を作動させるとしても良い。また、いわゆるネガティブブレーキのような既知の制動装置を作動させるとしても良い。
これにより、本トラクタ100は、電磁バルブ87によってエンジン2が停止した場合に、タイヤ6・6等を制動できる。これにより、本トラクタ100は、例えば意図せずに坂道を下ることを防止でき、安全性を向上させることが可能となる。
ステップS408において制御装置9は、警報を発生させる。詳細に説明すると、制御装置9は、キャビン8内に配置された警報装置89(図4参照)を制御して警報を発生させる。
これにより、本トラクタ100は、電磁バルブ87によってエンジン2が停止した場合に、警報を発することができる。これにより、本トラクタ100は、オペレータが大きな負荷が掛かったことに起因してエンジン2が停止したと認識でき、安全性を向上させることが可能となる。
なお、図9に示すように、電動モータ73や遊星歯車機構74を設けて走行部(タイヤ6・6等)の駆動力を調節できる構成では、電磁バルブ87によってエンジン2が停止した場合に、電動モータ73の出力を変更して駆動力を補填させることも可能である。
以上が本発明の各実施形態に係る制御フローの説明である。なお、上述した制御フローは、選択スイッチ86を入状態にしている場合において実行され、選択スイッチ86を切状態にしている場合においては実行されない。
これにより、本トラクタ100は、上述した電磁バルブ87によってエンジン2を停止させる制御を行なうか否かを選択できる。これにより、エンジン2を停止させない制御を選択することも可能となる。