JP5863035B2 - 炎症性腸疾患の検出方法及びヒト唾液細菌叢の検査方法 - Google Patents
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Description
すなわち、本発明の第1は、被験者から採取した唾液検体中の細菌叢の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列を無作為に決定することによってその塩基配列のデータ群を得、得られた塩基配列のデータ群に基づいて炎症性腸疾患と評価される唾液検体を検出することを特徴とする炎症性腸疾患の検出方法を提供するものである。
後述の実施例において実証されるように、炎症性腸疾患の患者では唾液細菌叢を構成する細菌の菌種数が健常者よりも有意に少なくなっている。よって、任意の唾液検体について、上記のように得られた塩基配列のデータ群に基づいて、唾液細菌叢を構成する菌種数を求め、その値が健常者の値と比較して有意に低いと判定される場合に、唾液検体が炎症性腸疾患に由来するものと評価することができる。健常者の値と比較して有意に低いかどうかの判定は、集団検診などで多数の被験者がいる場合には、その被験者どうしの統計的差異に基づいて行ってもよく、一方、被験者が単独または少数の場合には、過去のデータから基準値(例えば所定の菌種数)を予め設定しておき、その基準値を閾値にして行なってもよい。なお、この方法の場合、安定に有意な評価を得るためには、上記データ群において1被験者あたり少なくともおよそ1000データ以上の配列データ数を有していることが好ましい(後述の実施例参照)。
高い配列類似度を互いに有する塩基配列データは、既知配列データベース等に照合して菌種を具体的に特定するまでもなく、同じ種の細菌に由来すると推測できる。したがって、上記のように得られた塩基配列のデータ群を、そのデータ群に含まれる各塩基配列間の類似度に基づいたクラスタリング(例えば96%塩基配列類似度を閾値として設定して)に供することによって得られるクラスターグループは、細菌叢を構成する細菌の菌種に対応し、そのクラスターグループ数は、細菌叢を構成する細菌の菌種数と等価と考えることができる。よって、上記(1)と同様に、そのクラスターグループ数の値が健常者の値と比較して有意に低いと判定される場合に、唾液検体が炎症性腸疾患に由来するものと評価することができる。健常者の値と比較して有意に低いかどうかの判定は、集団検診などで多数の被験者がいる場合には、その被験者どうしの統計的差異に基づいて行ってもよく、一方、被験者が単独または少数の場合には、過去のデータから基準値(例えば所定のクラスターグループ数)を予め設定しておき、その基準値を閾値にして行なってもよい。なお、この方法の場合も、上記(1)と同様、安定に有意な評価を得るためには、上記データ群において1被験者あたり少なくともおよそ1000データ以上の配列データ数を有していることが好ましい(後述の実施例参照)。
後述の実施例において実証されるように、唾液細菌叢の菌叢構造は、構成細菌の種類とその存在量の多寡によって特徴づけられ、その菌叢構造の特徴を、上記のように得られた塩基配列のデータ群の類似性として評価し得る。具体的には、上記データ群に基づいて、上述のクラスターグループ(例えば96%塩基配列類似度を閾値として設定して)を求め、各クラスターグループに含まれる塩基配列のデータ数と、各クラスターグループに属する代表塩基配列どうしの類似度を指標にして、他の複数の被験者から取得されたデータ群との系統樹上での系統距離を算出する。この系統距離は、各被験者から取得されたデータ群との類似性をあらわす群間類似距離とも定義することができる。このような群間類似距離は、塩基配列のデータ群から構成される任意の複数群ついて、各群に属する塩基配列の配列どうしの類似度と配列数から、各群間の類似度を数値化する手法であるUniFrac解析(Lozupone C and Knight R: UniFrac: a new phylogenetic method for comparing microbial communities. Appl Environ Microbiol 71: 8228-8235 (2005))などで行なうことができる。そして、この群間類似距離をもとに主座標分析で2次元散布図を得ると、例えば健常者群はすべてそのx軸上正の領域に布置され、一方患者群はすべてそのx軸上負の領域に布置されるといったように、健常者群と患者群とを明確に識別することが可能である。よって、任意の唾液検体について、基準となるデータ群との群間類似距離が、健常者群に近いか患者群に近いかで、唾液検体が炎症性腸疾患に由来するものか否かを評価することができる。健常者に近いかどうかの判定は、集団検診などで多数の被験者がいる場合には、その被験者どうしの統計的差異に基づいて行ってもよく、一方、被験者が単独または少数の場合には、過去のデータから基準値(例えば健常者群との所定の群間類似距離)を予め設定しておき、その基準値を閾値にして行なってもよい。また、既にある健常者群と患者群のデータ(過去のデータ)に被験者のデータを加えて上記のUniFrac解析とそれに基づく主座標分析を行い、得られた2次元散布図上で、その被験者が健常者群中またはそれに相対的に近いところにプロットされれば「健常」と判定し、患者群中またはそれに相対的に近いところにプロットされれば「疾患」と判定することなどで行ってもよい。更には、その判定は、過去のデータから群間類似距離に基づく主座標分析での散布図を求めておき、その散布図にあてはめて行なってもよい。
なお、この方法の場合、安定に有意な評価を得るためには、上記データ群において1被験者あたり少なくともおよそ50データ以上の配列データ数を有していることが好ましく、およそ100データ以上の配列データ数を有していることがより好ましく、およそ2000データ以上配列データ数を有していることが最も好ましい(後述の実施例参照)。
後述の実施例において実証されるように、炎症性腸疾患の患者の唾液細菌叢と健常者の唾液細菌叢とでは、特定の門、属、または種に属する細菌の存在量の多寡において、有意に相異している。また、上記のように得られた塩基配列のデータ群中に見出される配列データ数の大小は、唾液細菌叢を構成する細菌の存在量の多寡を反映しているものと考えられる。よって、任意の唾液検体について、上記データ群に基づいて、その特定の門、属、または種に属する細菌に帰属される塩基配列のデータ数を求め、その値が健常者の値と比較して有意に増減していると判定される場合に、唾液検体が炎症性腸疾患に由来するものと評価することができる。健常者の値と比較して有意に増減しているかどうかの判定は、集団検診などで多数の被験者がいる場合には、その被験者どうしの統計的差異に基づいて行ってもよく、一方、被験者が単独または少数の場合には、過去のデータから基準値(例えば所定の増減割合)を予め設定しておき、その基準値を閾値にして行なってもよい。その判定は門レベルで行ってもよく、属レベルで行なってもよく、種レベルで行ってもよく、それらの複数レベルを併用して評価してもよい。また、2種以上の門、属、及び/又は種についての判定を併用して評価してもよい。
後述の実施例において実証されるように、炎症性腸疾患の患者の唾液細菌叢と健常者の唾液細菌叢とでは、配列番号1〜30の塩基配列を有する細菌の存在量の多寡において、有意に相異している。また、上記のように得られた塩基配列のデータ群中に見出される配列データ数の大小は、唾液細菌叢を構成する細菌の存在量の多寡を反映しているものと考えられる。よって、任意の唾液検体について、上記のように得られた塩基配列のデータ群に基づいて、配列番号1〜30の塩基配列を有する細菌に帰属される塩基配列のデータ数を求め、その値が健常者の値と比較して有意に増減していると判定される場合に、唾液検体が炎症性腸疾患に由来するものと評価することができる。健常者の値と比較して有意に増減しているかどうかの判定は、集団検診などで多数の被験者がいる場合には、その被験者どうしの統計的差異に基づいて行ってもよく、一方、被験者が単独または少数の場合には、過去のデータから基準値(例えば所定の増減割合)を予め設定しておき、その基準値を閾値にして行なってもよい。また、2種以上の該塩基配列についての判定を併用して評価してもよい。
以下の方法により、被験者(健常者10名およびクローン患者10名)から唾液を採取し、その唾液検体中の細菌叢の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列を無作為に決定して、被験者ごとに塩基配列のデータ群を得た。
唾液は、被験者から採取した後、次のようにして長期に保存することもできる。即ち1mlの唾液に1mlのリン酸バッファー(pH7.2、以下、PBS)1mlを加え混和後、2mlの40%グリセロール溶液を加える。この懸濁液を液体窒素で急冷後、グリセロールストックとして−80℃で保存する。本方法により、細菌叢に大きな分解等が起こらない少なくとも1年間の保存が可能である。
唾液検体中の細菌叢のDNAの調製は、以下のようにして行った。
唾液DNA採取用のOrageneキット(DNAgenotek社, Ontario, Canada)を用いて、次のようにして唾液細菌叢DNAを調製した。即ちキットに付属している1.9mlのOragene・DNA溶液(保存溶液)に約2mlの唾液(または、相当量の唾液のグリセロールストック)を加えて、5秒間ほど転倒混合する(そのまま、常温保管が可能)。その唾液サンプル溶液を加温(50℃、1時間)する。その後、500μlのサンプル溶液を新しいチューブ(1.5ml)に入れ、これに20μlのOragene DNA精製溶液(キットに付属)を加え、数秒間ボルテックスし攪拌し、氷上で10分間冷却する。その後、室温で遠心し(13,000r.p.m.×5分間)、上清を回収して新しいチューブ(1.5ml)に入れ、これに5μlのグリコーゲン溶液(キットに付属)を加え、ついで500μlのエタノール(99.5%)を加えて、室温で10分間インキュベート放置する。溶液を室温で遠心し(13,000r.p.m.×2分間)、得られたDNAペレットを真空乾燥し、ついで300μlのTE溶液(10mM Tris、1mM EDTA)(以下、TE)を加えて、唾液細菌叢DNAの溶液とする。
腸内細菌叢DNAの調製法(Morita H, Kuwahara T, Ohshima K, Sasamoto H, Itoh K, Hattori M, Hayashi T, and Takami H.: An improved isolation method for metagenomic analysis of the microbial flora of the human intestine. Microbes Environ. 22, p214-222 (2007))に準じて、次のようにして唾液細菌叢DNAを調製した。即ち唾液のグリセロールストックを氷上にてゆっくり融解する(新鮮な唾液の場合は1mlの唾液に数mlのPBSを混合して唾液のPBS溶液を調製する。)。融解した溶液(または唾液のPBS溶液)を、孔径100μmフィルター(BD社製Falconセルストレーナー)でろ過し、不ろ過物をさらに2〜3mlのPBSで数回洗浄ろ過する。ろ液を混合し、遠心(5,000 r.p.m.×10分間)し、ペレットをPBSで1回洗浄し、TE10溶液(10 mM Tris、10 mM EDTA)(以下、TE10)でさらに2回洗浄し、遠心(5,000 r.p.m.×10分間)し、菌体ペレットを得る。菌体ペレットに3mlのTE10を加えて懸濁し、Lysozyme(Sigma社)を最終濃度が15mg/ml-cell suspensionになるように加え、軽く振とうする(37℃×1時間)。ついで、Achromopeptidase(和光純薬工業社の精製品)を最終濃度が2,000units/ml-cell suspensionになるように加え、軽く振とうする(37℃×30分間)。溶液に10% SDS (pH 7.2)を最終濃度が1%になるように加え、ついで、Proteinase K(Merck社)を最終濃度1mg/ml-lysate)になるように加え、軽く振とうする(55℃×1時間)。TE10を加えて全体量を10mlにし、10mlのフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1 [vol/vol/vol])を加え、よく混合し、遠心する(5,000r.p.m.×10分間)。上清を回収して、再度当量のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールを加え、よく混合し、遠心する(5,000 r.p.m.×10分間)。遠心後、回収した上清に1/10倍量の3M 酢酸ナトリウム(pH 5.2)を加えて混合し、さらに2倍量のエタノール(99.9%)を加え、氷上にて5分間静置する。遠心(5000 r.p.m.×10分間)してDNAペレットを得、そのDNAペレットを15mlの75% エタノールでリンスする。このリンス処理はさらに1回行う。真空乾燥したDNAペレットに600μlのTEを加えて、このDNA溶液に6μlのRNase A (10 mg/ml、Novagen社)を加え、加温する(37℃×1時間)。ついで、300μlの1.6M NaClと300μlの26(wt/vol)% PEG#6000(ナカライテスク社)を加え、氷上で1時間静置する。溶液を4℃で遠心(12,000r.p.m.×30分間)してDNAペレットを得る。得られたDNAペレットに1mlの75% ethanolを加えてリンスし、DNAペレットを真空乾燥後、300μlのTEを加えて、RNAの混入がない唾液細菌叢DNAの溶液とする。本方法により、他の既知方法に較べて高収率で高分子量の唾液細菌叢DNAを調製することができる。
唾液細菌叢DNAの溶液中の二本鎖DNA濃度を、Qubit 2.0 Fluorometer (Invitrogen社)を用いて測定した。その測定値に基づいて40ngのDNAを鋳型として、ユニバーサルプライマーセット(フォワードプライマー27Fmod-454A(配列番号31)とリバースプライマー338R-454B(配列番号32))を用いて、16SリボソームRNA遺伝子(以下、16S遺伝子)のV1-V2領域(図1)をPCR増幅した。PCRはタカラバイオ社製の「TaKaRa Ex Taq」(登録商標)を用いて、各プライマーを0.2μmolを含む反応液を作成し、94℃で2分間のプレヒーティングを行った後、変性、アニーリング、伸長をそれぞれ94℃×30秒間、55℃×30秒間、72℃×60秒間で行い25サイクル繰り返した。サイクル終了後、増幅DNA鎖を完全に伸長させるために72℃×14分間の処理を行った。
・27Fmod-454Aの配列(配列番号31)
5’-CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGACTCAG**MID**agrgtttgatymtggctcag-3’
(ただし、mはA又はC、rはG又はA、yはT又はCを意味する。)
・338R-454Bの配列(配列番号32)
5’-CCTATCCCCTGTGTGCCTTGGCAGTCTCAGtgctgcctcccgtaggagt-3’
各々の唾液細菌叢DNAから得られたPCR産物DNA(その細菌叢を構成する種々の細菌種の16S遺伝子のV1-V2領域を含むDNAの混合物)を、AMPure XP kit(BECKMAN COULTER社)にて処理して、過剰のプラーマーや基質のヌクレオチド等を除去し、精製した。精製DNAは10μlのTEで溶出・回収した。各検体から回収された精製PCR産物DNAの二本鎖DNA量をQuant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit(Invitrogen社)を用いてそれぞれ定量後、その定量値を得る。ついで、PCR産物DNAをその定量値に基づいて同じDNA量になるように厳密に混合する。この混合溶液中の二本鎖DNA量を、再度Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kitを用いて定量して、シークエンサーに供するDNA量を調整する。これを以下のシークエンスに用いるシークエンス用サンプルとした。
上記シークエンス用サンプルを、解析したい検体数に応じて、ロシュ社製GS FLX+ SystemまたはGS Junior Systemシークエンサーに供しシークエンスを行った。シークエンスの条件・工程等はメーカー所定のプロトコールに従った。なお、このシークエンサーでは、上記で調製したPCR産物DNAの1分子を1つのビーズに固定して、ついで、水(シークエンス用鋳型DNAの増幅のためのPCRプライマー、基質ヌクレオチド、DNA合成酵素を含む)と油のエマルジョン中に独立して形成された微小水滴の1つ1つに1つ1つのビーズを捕獲して、その中でPCRを行ってシークエンス用鋳型DNAを増幅して調製するようになっている。よって、この増幅した鋳型DNAが固定された各ビーズをタイタープレート上に区画した後に、その区画位置上でシークエンス反応のシグナルを読み取りことによって、上記シークエンス用サンプル中に含まれるPCR産物DNA(その細菌叢を構成する種々の細菌種の16S遺伝子のV1-V2領域を含むDNAの混合物)の塩基配列を無作為に決定することができる。また、フォワードプライマー27Fmod-454A中の上記バーコード配列を、各被験者に由来する検体ごとに特徴的な任意の配列にしておけば、GS FLX+ Systemシークエンサーを用いて少なくとも100種類の細菌叢サンプルを、小規模タイプのGS Junior Systemを用いて少なくとも10種類の細菌叢サンプルを同時解析でき、1人の被験者由来のサンプルにつき2,000〜10,000の16S遺伝子の配列データを、およそ10〜20時間で決定することができる。
試験例1のようにして取得した高精度配列データからランダムに抽出した3,000データ(各被験者当り)を、クラスタリング(類似度96%の閾値)によるOperational Taxonomic Unit解析(以下、OTU解析)に供した。図3にはOTU解析の概略説明図を示す。図3に示すように、OTU解析においては、配列データの類似度を基準にして各配列データをグループ化する操作を行う。ここでは96%以上の配列類似度を互いに有する配列データのクラスターグループ(以下、OTU)を検出している。なお、配列データのクラスタリングはフリーウェアUSEARCH(http://drive5.com/usearch/usearch3.0.html)などを用いて行うことができる。各OTUは同じ種の細菌に由来すると推測できる。よって、クラスタリングによって得られるOTUの総数(OTU数)は、検出可能な範囲において、その細菌叢を構成する細菌種の数と等価と考えることができる。また、各OTU中に含まれる配列データ数からは、配列データ数全体中の各OTUの割合、つまり菌種組成比を求めることができる。さらに、各OTUの代表配列データについて上記した16S及び細菌ゲノムのデータベースへの相同性検索を行うことにより、もっとも高い配列類似度を有する既知菌種へ帰属、つまり、OTUの菌種を特定できる。
試験例2では高精度配列データからランダムに抽出した3,000データ(各被験者当り)を用いたが、用いる配列データ数を300, 500, 700, 1,000, 1,200, 1,500と代えて同様に解析を行い、健常者群の平均OTU数とCD患者群の平均OTU数との有意差(t-testによるp値)を求めた。またそれを3回試行した。図5Aには試行回ごとのp値を示し、図5Bは各データ数における平均p値を示す。
10名の健常者群および10名のクローン病(CD)患者群について、試験例1のようにして取得した高精度配列データからランダムに抽出した3,000データ(各被験者当り)を、UniFrac解析に供して各被験者間の類似度を求め、その類似度に基づく主座標分析を行った。ここでUniFrac解析は、塩基配列のデータ群から構成される任意の複数群ついて、各群に属する塩基配列の配列どうしの類似度と配列数から、各群間の類似度を数値化する手法である(Lozupone C and Knight R: UniFrac: a new phylogenetic method for comparing microbial communities. Appl Environ Microbiol 71: 8228-8235 (2005))。また、主座標分析は、対象についての任意の基準の類似度を元にして、その対象をn次元座標上に布置する手法である。なお、UniFrac解析を行うにはフリーウェア(http://bmf.colorado.edu/unifrac/)などが利用可能である。また、主座標分析についても市販のプログラムなどが利用可能である。
試験例4では高精度配列データからランダムに抽出した3,000データ(各被験者当り)を用いたが、用いる配列データ数を50, 100, 2,000と代えて同様にUniFrac解析を行い、それに基づいて各群間の菌叢構造類似度を2次元散布図で表した。その結果を図7〜9に示す。
10名の健常者群および10名のクローン病(CD)患者群について、試験例1のようにして取得した高精度配列データからランダムに抽出した3,000データ(各被験者当り)を20名分まとめて、その60,000データをOTU解析に供した。クラスタリングのための閾値としては、上記した個別細菌叢のOTU解析と同じ96%の配列類似度を閾値として設定した。得られたOTUのうち、健常者群とCD患者群との群間での配列データ数の増減においてt-testによるp値が0.05以下(門レベルと属レベル)及び0.01以下(種レベル)を示すOTUを検出した。また、これらのOTUの門、属、種レベルでの菌種の帰属を、16S遺伝子配列のデータベースであるRDPとCORE、及びゲノム配列のデータベースであるNCBIとHMP(以下まとめてNCBI_genomeと表記)への相同性検索により行った。
OTU解析から、20名の唾液細菌叢に計12門の細菌種が検出された。その12門のうち、Firmicutes、Bacteroidetes、Actinobacteria、Proteobacteriaの4門に属する菌種の配列データ数が、健常者群とCD患者群の群間で有意に増減していた(t-testによるp値が0.05以下)。そして、Firmicutes門とBacteroidetes門に属する菌種の配列データ数において、CD患者群では健常者群に比べて有意な増加を示し、一方で、Actinobacteria門とProteobacteria門に属する菌種の配列データ数において、CD患者群では健常者群に比べて有意な減少を示した。
OTU解析から、20名の唾液細菌叢に計100属の細菌種が検出された。その100属のうち、Prevotella、Streptococcus、Veillonella、Atopobium、Megasphaera、Solobacterium、Actinomyces、Lachnospiraceae、Selenomonas、Rothia、Haemophilus、Neisseria、Gemella、Porphyromonas、Corynebacterium、Capnocytophaga、Bergeyella、Aggregatibacter、Lautropia、Paludibacter、Fusobacterium、Tannerella、Propionibacteriumの23属に属する菌種の配列データ数が、健常者群とCD患者群の群間で有意に増減していた(t-testによるp値が0.05以下)。この23属のうち、9属(Prevotella属、Streptococcus属、Veillonella属、Atopobium属、Megasphaera属、Solobacterium属、Actinomyces属、Uncultured Lachnospiraceae属、Selenomonas属)に属する菌種の配列データ数において、CD患者群では健常者群に比べて有意な増加を示し、一方で、14属(Rothia属、Haemophilus属、Neisseria属、Gemella属、Porphyromonas属、Corynebacterium属、Capnocytophaga属、Bergeyella属、Aggregatibacter属、Lautropia属、Paludibacter属、Fusobacterium属、Tannerella属、Propionibacterium属に属する菌種の配列データ数において、CD患者群では健常者群に比べて有意な減少を示した。
OTU解析から、20名の唾液細菌叢に計547種の細菌種が検出された。その547種のうち、Veillonella atypical、Granulicatella adiacens、Atopobium parvulum、Streptococcus sp. EO2001-02、Veillonella dispar、Streptococcus mitis、Prevotella DO039、Megasphaera micronuciformis、Prevotella salivae、Solobacterium moorei、Prevotella melaninogenica、Actinomyces graevenitzii、Neisseria subflava、Haemophilus nbw161b08c1、Haemophilus sp. CCUG 32367、Rothia aeria、Lautropia mirabilis、Rothia mucilaginosa、Campylobacter gracilis、Corynebacterium matruchotii、Bergeyella 602D02、Capnocytophaga gingivalis、Corynebacterium durum、Gemella haemolysans、Porphyromonas CW034、Streptococcus VG051、Fusobacterium nucleatum、Prevotella IK062、Veillonella dispar、Haemophilus parainfluenzaeの30菌種の配列データ数が、健常者群とCD患者群の群間で有意に増減していた(t-testによるp値が0.01以下)。この30菌種のうち、12菌種(Veillonella atypical、Granulicatella adiacens、Atopobium parvulum、Streptococcus sp. EO2001-02、Veillonella dispar、Streptococcus mitis、Prevotella DO039、Megasphaera micronuciformis、Prevotella salivae、Solobacterium moorei、Prevotella melaninogenica、Actinomyces graevenitzii)の配列データ数において、CD患者群では健常者群に比べて有意な増加を示し、一方で、18菌種(Neisseria subflava、Haemophilus nbw161b08c1、Haemophilus sp. CCUG 32367、Rothia aeria、Lautropia mirabilis、Rothia mucilaginosa、Campylobacter gracilis、Corynebacterium matruchotii、Bergeyella 602D02、Capnocytophaga gingivalis、Corynebacterium durum、Gemella haemolysans、Porphyromonas CW034、Streptococcus VG051、Fusobacterium nucleatum、Prevotella IK062、Veillonella dispar、Haemophilus parainfluenzae)の配列データ数において、CD患者群では健常者群に比べて有意な減少を示した。
配列番号31:16SリボソームRNA遺伝子のV1-V2領域のPCR増幅のためのフォワードプライマー27Fmod-454A
配列番号32:16SリボソームRNA遺伝子のV1-V2領域のPCR増幅のためのリバースプライマー338R-454B
Claims (7)
- 被験者から採取した唾液検体中の細菌叢の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列を無作為に決定することによってその塩基配列のデータ群を得、得られた塩基配列のデータ群を、該データ群に含まれる各塩基配列間の、閾値を96%以上に設定した類似度に基づいたクラスタリングに供してクラスターグループ数を求め、そのクラスターグループ数が、健常者群が呈する該クラスターグループ数の基準と比べて有意に減少しているか否かによって炎症性腸疾患と評価される唾液検体を検出することを特徴とする炎症性腸疾患の検出方法。
- 被験者から採取した唾液検体中の細菌叢の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列を無作為に決定することによってその塩基配列のデータ群を得、得られた塩基配列のデータ群を、該データ群に含まれる各塩基配列間の、閾値を96%以上に設定した類似度に基づいたクラスタリングに供してクラスターグループを求め、各クラスターグループに含まれる塩基配列のデータ数と、各クラスターグループに属する代表塩基配列どうしの類似度とに基づいてUniFrac解析を行い、健常者群との群間類似距離が有意に離れているか否かによって炎症性腸疾患と評価される唾液検体を検出することを特徴とする炎症性腸疾患の検出方法。
- 前記群間類似距離の評価を主座標分析により行う請求項2記載の炎症性腸疾患の検出方法。
- 被験者から採取した唾液検体中の細菌叢の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列を無作為に決定することによってその塩基配列のデータ群を得、Firmicutes門、Bacteroidetes門、Actinobacteria門、及びProteobacteria門から選ばれた1種又は2種以上の門に属する菌種について、前記データ群に含まれる該菌種に属する塩基配列のデータ数を求め、
Firmicutes門及び/又はBacteroidetes門の場合には、そのデータ数が、健常者群が呈する該データ数の基準と比べて有意に増加しているか否かによって、
Actinobacteria門及び/又はProteobacteria門の場合には、そのデータ数が、健常者群が呈する該データ数の基準と比べて有意に減少しているか否かによって、
炎症性腸疾患と評価される唾液検体を検出することを特徴とする炎症性腸疾患の検出方法。 - 被験者から採取した唾液検体中の細菌叢の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列を無作為に決定することによってその塩基配列のデータ群を得、Prevotella属、Streptococcus属、Veillonella属、Atopobium属、Megasphaera属、Solobacterium属、Actinomyces属、Lachnospiraceae属、Selenomonas属、Rothia属、Haemophilus属、Neisseria属、Gemella属、Porphyromonas属、Corynebacterium属、Capnocytophaga属、Bergeyella属、Aggregatibacter属、Lautropia属、Paludibacter属、Fusobacterium属、Tannerella属、及びPropionibacterium属から選ばれた1種又は2種以上の属に属する菌種について、前記データ群に含まれる該菌種に属する塩基配列のデータ数を求め、
Prevotella属、Streptococcus属、Veillonella属、Atopobium属、Megasphaera属、Solobacterium属、Actinomyces属、Lachnospiraceae属、及び/又はSelenomonas属の場合には、そのデータ数が、健常者群が呈する該データ数の基準と比べて有意に増加しているか否かによって、
Rothia属、Haemophilus属、Neisseria属、Gemella属、Porphyromonas属、Corynebacterium属、Capnocytophaga属、Bergeyella属、Aggregatibacter属、Lautropia属、Paludibacter属、Fusobacterium属、Tannerella属、及び/又はPropionibacterium属の場合には、そのデータ数が、健常者群が呈する該データ数の基準と比べて有意に減少しているか否かによって、
炎症性腸疾患と評価される唾液検体を検出することを特徴とする炎症性腸疾患の検出方法。 - 被験者から採取した唾液検体中の細菌叢の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列を無作為に決定することによってその塩基配列のデータ群を得、Veillonella atypical、Granulicatella adiacens、Atopobium parvulum、Streptococcus sp. EO2001-02、Veillonella dispar、Streptococcus mitis、Prevotella DO039、Megasphaera micronuciformis、Prevotella salivae、Solobacterium moorei、Prevotella melaninogenica、Actinomyces graevenitzii、Neisseria subflava、Haemophilus nbw161b08c1、Haemophilus sp. CCUG 32367、Rothia aeria、Lautropia mirabilis、Rothia mucilaginosa、Campylobacter gracilis、Corynebacterium matruchotii、Bergeyella 602D02、Capnocytophaga gingivalis、Corynebacterium durum、Gemella haemolysans、Porphyromonas CW034、Streptococcus VG051、Fusobacterium nucleatum、Prevotella IK062、Veillonella dispar、及びHaemophilus parainfluenzaeから選ばれた1種又は2種以上の菌種について、前記データ群に含まれる該菌種に属する塩基配列のデータ数を求め、
Veillonella atypical、Granulicatella adiacens、Atopobium parvulum、Streptococcus sp. EO2001-02、Veillonella dispar、Streptococcus mitis、Prevotella DO039、Megasphaera micronuciformis、Prevotella salivae、Solobacterium moorei、Prevotella melaninogenica、及び/又はActinomyces graevenitziiの場合には、そのデータ数が、健常者群が呈する該データ数の基準と比べて有意に増加しているか否かによって、
Neisseria subflava、Haemophilus nbw161b08c1、Haemophilus sp. CCUG 32367、Rothia aeria、Lautropia mirabilis、Rothia mucilaginosa、Campylobacter gracilis、Corynebacterium matruchotii、Bergeyella 602D02、Capnocytophaga gingivalis、Corynebacterium durum、Gemella haemolysans、Porphyromonas CW034、Streptococcus VG051、Fusobacterium nucleatum、Prevotella IK062、Veillonella dispar、及び/又はHaemophilus parainfluenzaeの場合には、そのデータ数が、健常者群が呈する該データ数の基準と比べて有意に減少しているか否かによって、
炎症性腸疾患と評価される唾液検体を検出することを特徴とする炎症性腸疾患の検出方法。 - 被験者から採取した唾液検体中の細菌叢の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列を無作為に決定することによってその塩基配列のデータ群を得、配列番号1〜30から選ばれた1種又は2種以上の塩基配列について、前記データ群に含まれる該塩基配列のデータ数を求め、
配列番号28、配列番号9、配列番号13、配列番号18、配列番号7、配列番号16、配列番号21、配列番号8、配列番号6、配列番号11、配列番号12、及び/又は配列番号14の場合には、そのデータ数が、健常者群が呈する該データ数の基準と比べて有意に増加しているか否かによって、
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号10、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号20、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号29、及び/又は配列番号30の場合には、そのデータ数が、健常者群が呈する該データ数の基準と比べて有意に減少しているか否かによって、
炎症性腸疾患と評価される唾液検体を検出することを特徴とする炎症性腸疾患の検出方法。
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