JP5857334B2 - 上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体及び上皮性卵巣癌判定方法 - Google Patents

上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体及び上皮性卵巣癌判定方法 Download PDF

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Description

本発明は、上皮性卵巣癌マーカーを検出するための抗β1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5B抗体、前記抗体を産生するハイブリドーマ及び前記抗体を用いた上皮性卵巣癌判定方法に関する。
卵巣癌は、婦人科癌の中では乳癌、子宮がんと比較して発生率が低い癌であるが、近年発生率、死亡率ともに増加傾向にある。一般に、卵巣癌は、発症初期段階の自覚症状がほとんどないことから、発見時には既に症状が進行していることが多く、それ故、予後は不良であり、婦人科癌の中では最も死亡率が高い疾患となっている。卵巣癌は、発症部位により、卵巣の表層上皮細胞から発生する表層上皮性・間質性腫瘍(以下、「上皮性卵巣癌」とする)や胚細胞から発生する胚細胞腫瘍等が知られている。このうち上皮性卵巣癌が全卵巣癌中約90%を占め、特に40代以降の中高年に多く見られる。したがって、上皮性卵巣癌を早期段階で発見することが当該疾患の治療上、重要となってくる。
しかし、卵巣は、外界に接していない臓器のため、子宮のように開腹若しくは穿孔を行わずに内視鏡で検査することや細胞を採取することができない。また、上皮性卵巣癌は、症状が進行して卵巣が肥大した後でなければ触診による発見も一般的には困難である。それ故、通常の検査・診断方法では上皮性卵巣癌は、看過されてしまうことが多い。エコー検査、MRI、CT等は、上皮性卵巣癌の早期発見に比較的有効であるものの、検査自体が大掛かりな上に検査費用が高額であり、また良性、悪性の診断精度が必ずしも高くないという問題もある。
上記背景から、近年、腫瘍マーカーが注目されている。腫瘍マーカーとは、癌細胞が産生する物質、又は癌細胞に反応して周辺の細胞が産生する物質であって、体液中における存在量が腫瘍の有無や、その予後を反映することから、癌判定及び治療指針決定等の鑑別子となり得る。また、体液からの検査が可能であることから侵襲性が比較的低く、検査も簡便で、費用も安価である等の利点を有する。
上皮性卵巣癌に対する腫瘍マーカーとしては、現在までのところ、CA125、CA602、CA130、CA72-4、CA546、CA19-9、STN等のタンパク質からなる腫瘍マーカーが知られている(非特許文献1〜6)。これらの腫瘍マーカーを用いた癌判定方法では、通常、健常者と上皮性卵巣癌患者における当該腫瘍マーカーの血清中の発現量を測定し、その量差に基づいて癌罹患の有無を判定する。
しかし、これらのタンパク質は、CA125のように子宮内膜症等の癌以外の婦人科良性疾患や、CA72-4、CA19-9及びSTNのように卵巣癌以外にも胃、大腸等の各種消化器癌で陽性を示す等、特異性の問題を包含している。また上皮性卵巣癌は、組織型によりさらに漿液性、明細胞性、粘液性、及び類内膜性に分類されるが、マーカーの反応性が組織型により異なることから、必ずしも癌の進行を反映しないという問題が散見されている。例えば、CA125、CA602及びCA546等の卵巣癌マーカーでは、粘液性卵巣癌における陽性率が低いため当該組織型は進行期になっても検出されにくい等の問題がある。
特許文献1には、癌関連ヒト由来ガラクトース転移酵素(GAT)を腫瘍マーカーとして、卵巣癌をはじめとした癌の診断に使用するモノクローナル抗体、それを産生するハイブリドーマ及びそれを用いた検体中の癌関連ヒト由来ガラクトース転移酵素の測定方法が開示されている。また、特許文献2には、糖転移酵素であるβ1,3-ガラクトース転移酵素5、β1,3-ガラクトース転移酵素4、及びN-アセチルグルコサミン6-O-硫酸転移酵素2を腫瘍マーカーとして、婦人科癌を早期に検出する方法が開示されている。前記特許文献1及び2で腫瘍マーカーとして用いられる糖転移酵素は、糖タンパク質、糖脂質又はプロテオグリカン等に結合する糖鎖を合成する酵素であって、通常、ゴルジ体に局在する膜タンパク質としてゴルジ体膜に固定されている。したがって、細胞外に分泌されることはなく、それ故、健常者の体液中から検出されることはほとんどない。しかし、卵巣癌では、ある種のプロテアーゼの発現量が増加することによって糖転移酵素が異常切断され、細胞外に放出されることが知られている。その結果、体液中から有意な量の糖転移酵素断片が検出されることとなる。
特許文献1における糖転移酵素、β1,4-ガラクトース転移酵素は、糖転移酵素の中では極めて発現量が高く、細胞外への分泌量が多い。それ故、健常者でも約200ng/mLの血中濃度を示し、酵素活性のみでは良性疾患と癌との判別がつかない。そこで、特許文献1では、卵巣癌細胞培養上清及び卵巣癌患者腹水中に、異常に切断された当該糖転移酵素断片が存在することに着目し、この断片のみを認識する抗体を用いることで、卵巣癌特異性の高い測定系の構築を試みている。しかし、この測定系を利用した市販の臨床診断キットでは、健康女性でも陽性を示している例があり(非特許文献7)このためGATは、現在では主に卵巣癌の再発モニターとして使用され、早期発見用のマーカーとしてはほとんど利用されていない。
特許文献2では、一般に癌組織においては糖転移酵素をはじめとした様々なタンパク質の発現が亢進あるいは低下しているという報告をもとに、婦人科癌患者血中からマーカー候補となるタンパク質の検出を試みたところ、2種の糖転移酵素測定の有用性が見出された、としてその測定法を開示している。ただし、この場合、これらの糖転移酵素の発現又は合成産物は婦人科癌というよりはむしろ消化器癌との関連が報告されていたものである。その後卵巣癌細胞株における発現は、確認されたものの(非特許文献8)、卵巣癌あるいはその他の婦人科癌と消化器癌における発現量の比較検討の報告はない。
上述のように、特許文献1及び2では、卵巣癌における糖転移酵素の発現は殆ど考慮せず卵巣癌患者の体液中からの検出のみに着目し、たまたま測定可能であった糖転移酵素断片をもって卵巣癌マーカーとして開示している。このため、卵巣癌マーカーとしての特異性に問題があると考えられる。
特開平3-259093 WO2009/028417
Bast R.C. Jr. et al., 1983, N. Engl. J. Med., 309:883-887 Suzuki M. et al., 1990, Nippon Gan Chiryo Gakkai Shi,. 25:1454-1460 Inaba N. et al., 1989, Nippon Gan Chiryo Gakkai Shi, 24:2426-2435 Ohuchi N. et al., 1988, Gan To Kagaku Ryoho, 15 2767-2772 Nozawa S. et al., 1996, Nippon Rinsho, 54:1665-1673 Charpin C. et al., 1982, Int. J. Gynecol. Pathol., 1:231-245 コニカミノルタ社、GATテストキット添付文書 Seko A. et al., 2009, Tumor Biol., 30:43-50
本発明は、上皮性卵巣癌に特異性の高い腫瘍マーカーを特異的に認識し、定量的及び/又は定性的に検出することのできる抗体又はその断片を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記抗体又はその断片を用いて上皮性卵巣癌マーカーを定量的及び/又は定性的に検出することにより被験者が上皮性卵巣癌に罹患しているか否かを簡便に、比較的低い侵襲性で、かつ高い正診率で判定する方法を提供する。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、糖転移酵素β1,6,-N-アセチルグルコサミン転移酵素5B(以下、本明細書においては、しばしば当該酵素を「MGAT5B」と略称する)が健常者と比較して上皮性卵巣癌患者の試料中に多く存在することを見出した。本発明は、当該知見に基づくものであって、以下を提供する。
(1)配列番号1で示すアミノ酸配列からなるポリペプチドの一部をエピトープとして認識する上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体。
(2)モノクローナル抗体である、(1)に記載の抗体。
(3)国際受領番号がFERM ABP-11496、FERM ABP-11497、FERM ABP-11498又はFERM ABP-11499であるハイブリドーマにより産生される、(2)に記載の抗体。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体における少なくとも1組の対応する軽鎖相補鎖決定領域及び重鎖相補鎖決定領域を含む上皮性卵巣癌マーカー検出用抗MGAT5B組換え抗体。
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体又は(4)に記載の組換え抗体の断片であって、MGAT5Bを特異的に認識する活性を有する上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体断片。
(6)前記(2)に記載の抗体を産生するハイブリドーマ。
(7)国際受領番号がFERM ABP-11496である、(6)に記載のハイブリドーマ。
(8)国際受領番号がFERM ABP-11497である、(6)に記載のハイブリドーマ。
(9)国際受領番号がFERM ABP-11498である、(6)に記載のハイブリドーマ。
(10)国際受領番号がFERM ABP-11499である、(6)に記載のハイブリドーマ。
(11)被験者由来の試料中に存在するMGAT5Bポリペプチド断片を定量的及び/又は定性的に検出し、その検出結果に基づいて該被験者における上皮性卵巣癌の罹患の有無を判定する上皮性卵巣癌判定方法。
(12)前記MGAT5Bポリペプチド断片の定量検出結果においてMGAT5Bポリペプチド断片の定量値が所定の値以上であった場合、その被験者は上皮性卵巣癌に罹患している可能性が高いと判定する、(11)に記載の上皮性卵巣癌判定方法。
(13)前記MGAT5Bポリペプチド断片が配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全部又は一部である、(11)又は(12)に記載の上皮性卵巣癌判定方法。
(14)MGAT5Bポリペプチド断片を(1)〜(3)のいずれかに記載の抗体、(4)に記載の組換え抗体及び(5)に記載の抗体断片からなる群より選択される少なくとも1つの抗体、組換え抗体及び/又は抗体断片を用いて検出する、(11)〜(13)のいずれかに記載の上皮性卵巣癌判定方法。
(15)MGAT5Bポリペプチド断片上の異なるエピトープを認識する2つの抗体、組換え抗体及び/又は抗体断片を用いる、(14)に記載の上皮性卵巣癌判定方法。
(16)前記試料が、体液、腹腔洗浄液又は組織である、(11)〜(15)のいずれかに記載の上皮性卵巣癌判定方法。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2011-163323号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
本発明の抗体及び/又はその断片によれば、上皮性卵巣癌マーカーである糖転移酵素MGAT5Bポリペプチド断片を特異的に認識し、検出することができる。
本発明のハイブリドーマによれば、上皮性卵巣癌マーカーである糖転移酵素MGAT5Bを特異的に認識し、検出することのできる抗MGAT5Bモノクローナル抗体を安定的に供給することができる。
本発明の上皮性卵巣癌判定方法によれば、上皮性卵巣癌を簡便に、比較的低い侵襲性で、かつ高い正診率で検出することができる。それにより、被験者が上皮性卵巣癌に罹患しているか否かを早期に判定することが可能となる。
実施例1で得たハイブリドーマ由来の抗MGAT5Bモノクローナル抗体(a:GT131-12抗体、b:GT131-18抗体)の抗原特異性を検証したウェスタンブロッティングの結果を示す。レーン1は、FLAG-MGAT5Bポリペプチド断片、レーン2は、酵素処理でFLAGタグを切断、除去したMGAT5Bポリペプチド断片、レーン3は、免疫グロブリン及びアルブミンを除去した健常者の血清、レーン4は、未処理の健常者の血清を示す。 FLAG-MGAT5Bポリペプチド断片を抗MGAT5B抗体で免疫沈降した後、各種抗体で検出したウェスタンブロッティングの結果を示す(a:抗FLAG抗体、b:GT131-12抗体、c:GT131-18抗体)。レーン1はコントロールであるFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片、レーン2は健常者の血清と混合したFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片をGT131-2抗体により免疫沈降した試料、レーン3は健常者の血清と混合したFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片をGT131-7抗体により免疫沈降した試料、レーン4は健常者の血清と混合したFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片をGT131-12抗体により免疫沈降した試料またレーン5は健常者の血清と混合したFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片をGT131-18抗体により免疫沈降した試料、レーン6は免疫沈降していない健常者の血清と混合したFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片を示す。 抗MGAT5B抗体を用いた卵巣癌細胞株の免疫染色を示す。aはGT131-2抗体を、bはGT131-18抗体を、そしてcは陽性コントロールであるMAb8628抗体を用いて、上皮性卵巣癌細胞株RMUG-Sを免疫染色した染色図である。 サンドイッチELISA用抗体の組み合わせ検討における、濃度標準に対するシグナル強度を示す。 濃度標準品をGT131-7抗体及びGT131-12抗体を用いたサンドイッチCLEIA法を用いて測定した値より得たMGAT5Bポリペプチド断片の標準曲線を示す。 被験者から採取した腹腔洗浄液中の本発明の上皮性卵巣癌マーカーMGAT5Bポリペプチド断片の濃度をGT131-7抗体及びGT131-12抗体を用いたサンドイッチCLEIA法を用いて測定した値を示す。 上皮性卵巣癌患者から採取した腹腔洗浄液の、MGAT5Bポリペプチド断片測定値、及び既存の卵巣癌マーカーCA125(a)又はGAT(b)測定値との相関を示す。 上皮性卵巣癌患者から採取した腹腔洗浄液の、CA125測定値及びGAT測定値との相関を示す。
1.上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体
1−1.定義及び構成
本発明の第1の実施形態は、上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体である。本発明の抗体は、上皮性卵巣癌マーカーを検出するために用いる抗体であって、上皮性卵巣癌マーカーに含まれるエピトープを認識し、それに特異的に結合することを特徴とする。
本発明において「上皮性卵巣癌マーカー」とは、上皮性卵巣癌を検出するための生物学的マーカーであって、被検者が上皮性卵巣癌に罹患していることを示す指標となる生体内物質をいう。本発明における上皮性卵巣癌マーカーは、具体的には、β1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5Bポリペプチド断片である。
「β1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5B(MGAT5B)」は、主としてゴルジ体膜に膜タンパク質として局在し、N-結合型糖鎖の合成酵素の一種で、β1-6結合でN-アセチルグルコサミンを転移することが知られている(Kaneko M. et al., 2003, FEBS Letters, 554:515-519)。MGAT5Bは、N末端側に膜貫通ドメインを1つ含み、ゴルジ体内部に酵素活性領域であるC末端領域を有している。本発明におけるMGAT5Bは、GenBankアクセッションNO. NP_653278に登録された790アミノ酸からなるヒト由来の野生型MGAT5Bであって、具体的には、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。なお、本明細書において、MGAT5Bは、野生型MGAT5B及びその天然変異体を包含するものとする。
本明細書においてMGAT5Bの「天然変異体」とは、自然界に存在する変異体であって、配列番号2に示される野生型MGAT5Bを構成するアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜4個、1〜3個、又は1又は2個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を含む変異体、あるいは配列番号2に示されるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の同一性を示すポリペプチドをいう。ここで、「同一性」とは、配列番号2に示すアミノ酸配列及び対象アミノ酸配列を、両アミノ酸配列が最も高い一致度となるように必要に応じてギャップを導入して整列(アラインメント)させたときに、前記ギャップの数を含めたときの、配列番号2に示すアミノ酸配列の全アミノ酸残基数に対する対象アミノ酸配列の同一アミノ酸残基数の割合(%)をいう。この同一性は、BLASTPやFASTAによるタンパク質の検索システムを用いて決定することができる。天然変異体の具体例としては、SNP(一塩基多型)等の多型に基づく変異体やスプライス変異体などが挙げられる。ここで、MGAT5Bの天然変異体は、野生型MGAT5Bと同等の酵素活性を必ずしも有する必要はない。糖転移酵素の場合、わずか1個のアミノ酸置換により活性を著しく失う天然変異体の存在が報告されているからである(Nishihara S. et al., 1993, Biochem. Biophys. Res. Commun. 196:624-631)。
本明細書において「MGAT5Bポリペプチド断片」とは、上皮性卵巣癌細胞において、プロテアーゼによってゴルジ体膜から異常切断された結果、細胞外に放出されるMGAT5B由来のポリペプチド断片であり、上述のように上皮性卵巣癌マーカーとして機能し得るポリペプチドをいう。具体的には、MGAT5Bにおいて、膜貫通ドメインを含むN末端領域を除いたゴルジ体内部に位置するC末端側領域の全部又はその一部からなるポリペプチド、例えば、配列番号2に示されるヒトMGAT5Bの場合であれば、配列番号1で示される51位(開始メチオニンを1位とする)のグリシン残基以降のアミノ酸配列の全部又は一部からなるポリペプチド、及びそのポリペプチド由来の断片が該当する。
本発明の「上皮性卵巣癌検出用抗体」は、前記上皮性卵巣癌マーカーであるMGAT5Bポリペプチド断片を抗原として誘導される抗体である。したがって、本明細書においては、「上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体」をしばしば「抗MGAT5B抗体」として表記する。抗MGAT5B抗体は、上皮性卵巣癌マーカーの一部をエピトープとして認識して結合し、該上皮性卵巣癌マーカーを特異的に検出することができる。具体的には、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるアミノ酸の一部をエピトープとする。ここでいう「一部」とは、5〜15個、好ましくは5〜10個、より好ましくは6〜10個の連続するアミノ酸からなる一若しくは複数の領域をいう。
本発明の抗MGAT5B抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれであってもよい。より特異的な検出を可能にするためには、モノクローナル抗体が望ましい。抗MGAT5Bモノクローナル抗体の具体例としては、例えば、国際受領番号がFERM ABP-11496、FERM ABP-11497、FERM ABP-11498及びFERM ABP-11499であるハイブリドーマにより産生される抗MGAT5B抗体が挙げられる。これらの抗体については、「(3)抗MGAT5Bモノクローナル抗体の作製」の項で詳述する。
本発明の抗MGAT5B抗体は、修飾することができる。ここでいう「修飾」とは、グリコシル化のように抗原特異的結合活性化に必要な機能上の修飾、又は抗体検出に必要な標識を含む。抗体標識には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンによる標識が挙げられる。
また、抗MGAT5B抗体上の修飾を改変することもできる。例えば、標的抗原である上皮性卵巣癌マーカーに対する抗MGAT5B抗体の親和性を調整するために、抗MGAT5B抗体のグリコシル化を改変してもよい。具体的には、例えば、抗MGAT5B抗体のフレームワーク領域(FR:Framework region)において、グリコシル化部位を構成するアミノ酸残基に、置換を導入してグリコシル化部位を除去し、それによって、その部位のグリコシル化を喪失させる改変が挙げられる。
本発明の抗MGAT5B抗体は、上皮性卵巣癌マーカーとの解離定数が、10-8M以下、好ましくは10-9M以下、より好ましくは10-10M以下の高い親和性を有することが好ましい。上記解離定数は、当該分野で公知の技術を用いて測定することができる。例えば、BIAcoreシステム(GE Healthcare社)により速度評価キットソフトウェアを用いて測定してもよい。
本発明の抗MGAT5Bポリクローナル抗体又は抗MGAT5Bモノクローナル抗体は、後述する製造方法によって得ることができる。また、抗MGAT5Bモノクローナル抗体であれば、そのアミノ酸配列に基づいて、化学的合成法によって、又は組換えDNA技術を用いることによって、調製したものであってもよい。さらに、抗MGAT5Bモノクローナル抗体は、その抗体を産生するハイブリドーマから得ることもできる。
本発明の抗MGAT5B抗体の由来生物種は、特に限定はしない。鳥及び哺乳動物を含めたあらゆる動物源由来とすることができる。例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ロバ、ヒツジ、ラクダ、ウマ、ニワトリ、又はヒトなどが挙げられる。また、本発明の抗MGAT5B抗体のグロブリンタイプは、特に限定されるものではなく、IgG、IgM、IgA、IgE、IgD、IgYのいずれであってもよいが、IgG及びIgMが好ましい。
1−2.抗MGAT5B抗体の作製
本発明の抗MGAT5B抗体、すなわち抗MGAT5Bポリクローナル抗体及び抗MGAT5Bモノクローナル抗体、又は抗MGAT5Bモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、以下に記載する方法によって作製することができる。ただし、下記方法に限定されるものではなく、当該分野で公知の他のあらゆる方法を用いて作製することもできる。
(1)免疫原の調製
免疫原としての上皮性卵巣癌マーカーを調製する。本発明において免疫原として使用可能な上皮性卵巣癌マーカーは、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するヒトMGAT5Bポリペプチド断片の全部又は一部、あるいはその変異体のポリペプチド断片の全部又は一部である。
免疫原としてのMGAT5Bポリペプチド断片は、例えば、化学合成法又はDNA組換え技術を用いて調製することができる。
化学合成法を用いて調製する場合には、例えば、配列番号1のアミノ酸配列情報に基づいて、当技術分野で公知の手法、例えば、固相ペプチド合成法等により、免疫原として使用する適当なMGAT5Bポリペプチド断片を化学合成すればよい。
DNA組換え技術を用いて調製する場合には、MGAT5BをコードするcDNA(MGAT5B cDNA)を適当な発現システムに組み込み、発現させることでMGAT5Bポリペプチド断片として得ることができる。以下、MGAT5B ポリペプチド断片の調製方法について、具体例を挙げて説明する。
(MGAT5B cDNAの調製)
MGAT5B cDNAは、公知の技術、例えば、cDNAクローニング法によって調製することができる。具体的には、まず、ヒトcDNAライブラリーを作製する。ヒトcDNAライブラリーは、MGAT5B遺伝子等を発現するヒト線維芽細胞(neuroblastoma cell line SK-N-SH)等から常法に基づいて総RNAを抽出した後、オリゴdTセルロースカラムで処理してポリA(+)RNAを回収し、それを鋳型としてRT-PCR法によって作製することができる。この他、市販のヒトcDNAライブラリーを利用してもよい。
続いて、ヒトcDNAライブラリーから目的のMGAT5B cDNAクローンを単離する。具体的には、MGAT5B遺伝子配列に基づいて適当に設計したプライマー及び/又はプローブを用いて、ハイブリダイゼーションスクリーニング法、発現スクリーニング法、抗体スクリーニング法等の公知のスクリーニング法により単離すればよい。MGAT5B遺伝子配列は、GenBankデータベースに、アクセッションNo. NM-_144677で登録されている。また、前記プライマーを設計する場合には、配列番号1に示すアミノ酸配列をコードするMGAT5B遺伝子領域が増幅断片に包含されるようにする。フォワード/リバースプライマーの5’末端側には、単離後のクローニング用として適当な制限部位やタンパク質精製用のタグ配列(FLAG、HA、His、myc、GFP等)を導入しても構わない。また、前記プローブを設計する場合には、MGAT5B遺伝子において、配列番号1に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列が増幅領域内に包含されるように留意する。MGAT5B cDNAクローンは、単離後、必要に応じてPCR法等の核酸増幅法によって増幅してもよい。
上記cDNAクローニング技術の詳細については、例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載されているので、それを参考にすればよい。
(MGAT5B発現ベクターの調製)
次に、上記得られたMGAT5B cDNAクローンを発現ベクターに組み込む。具体的には、例えば、プラスミド又はウイルスを利用した発現ベクターが挙げられる。発現ベクターは、発現宿主に応じて、大腸菌用発現ベクター(例えば、pET21α系、pGEX4T系、pUC118系、pUC119系、pUC18系、pUC19系)、枯草菌由来発現ベクター(例えば、pUB110系、pTP5系)、酵母由来発現ベクター(例えば、YEp13系、YEp24系、YCp50系)、昆虫細胞用発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)、動物細胞用発現ベクター(例えば、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo)を利用することができる。発現ベクターは、通常、調節エレメントとして、例えば、プロモータ、ターミネータ、エンハンサ、ポリアデニル化シグナル、複製開始点、選択マーカー等を含むことができる。また、目的のcDNA断片のクローニング用として、マルチクローニング部位や、精製を容易にするための標識ペプチド(タグ)との融合ポリペプチドとして発現するように、cDNA断片の挿入部位の5’末端側又は3’末端側にタグ配列を有するものを用いてもよい。さらに挿入部位の5’末端側に分泌シグナル配列をコードする配列を有するものを用いてもよい。これによって細胞外に発現した成熟ポリペプチドを分泌させることができる。このような発現ベクターや他の発現系は、各メーカー(タカラバイオ社、第一化学薬品、Agilent Technologies社、Merck社、Qiagen社、Promega社、Roche Diagnostics社、Life Technologies社、GE Healthcare社等)から有用な製品が市販されているので、それらを利用してもよい。MGAT5B cDNAを発現ベクターに挿入するには、精製されたMGAT5B cDNAを適当な制限酵素で切断し、発現ベクター側の対応する適当な制限部位に挿入してベクターと連結させればよい。必要に応じて、発現ベクターに組み込む前に、適当なプラスミド等を用いてMGAT5B cDNAをサブクローニングしてもよい。
上記cDNAクローニング技術の詳細についても、例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載されているので、それを参考にすることができる。
(宿主細胞内でのMGAT5Bポリペプチド断片の発現)
続いて、得られたMGAT5B発現系(例えば、MGAT5B発現ベクター)を宿主細胞に導入し、免疫原である目的のMGAT5Bポリペプチド断片を発現させる。
使用する宿主細胞は、MGAT5B発現ベクターの調製に使用した発現ベクターに適合する宿主細胞であって、MGAT5Bを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌用発現ベクターを使用した場合には、大腸菌(Escherichia coli)を、枯草菌由来発現ベクターを使用した場合には、枯草菌(Bacillus subtilis)を、酵母由来発現ベクターを使用した場合には、酵母(例えば、出芽酵母:Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母:Schizosaccharomyces pombe)を、昆虫細胞用発現ベクターを使用した場合には、昆虫細胞(例えば、Sf細胞)を、動物細胞用発現ベクターを使用した場合には、哺乳動物細胞(例えば、HEK293、HeLa、COS、CHO、BHK)等を用いることができる。また、無細胞翻訳系も利用することができる。MGAT5B発現ベクターの宿主細胞への導入方法は、各宿主細胞にDNAを導入する公知の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、細菌に該ベクターを導入する方法であれば、熱ショック法、カルシウムイオン法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。これらの技術は、いずれも当該分野で公知であり、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkをはじめとする様々な文献に記載されている。また、動物細胞にMGAT5B発現ベクターを導入する方法であれば、例えば、リポフェクチン法(PNAS (1989) Vol.86, 6077)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(Virology (1973) Vol.52, 456−467)、DEAE−Dextran法等が好適に用いられる。また、Lipofectamin2000(Life Technologies社)のような市販の核酸導入剤を使用してもよい。以上の操作により、MGAT5B発現用形質転換体を得ることができる。
培養する培地としては、得られたMGAT5B発現用形質転換体が大腸菌や酵母菌等の微生物である場合、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いることもできる。例えば、大腸菌用であれば、LB培地が挙げられる。培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養等の好気的条件下、37℃で6〜24時間行えばよい。培養期間中、pHは、中性付近に保持することが好ましい。必要に応じて培地にアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を添加してもよい。
また、MGAT5B発現用形質転換体が哺乳類細胞等の場合、それぞれの細胞に適した培地中で培養すればよい。培地は、血清を含有していても、又はしていなくてもよいが、無血清培地での培養がより望ましい。
MGAT5B発現ベクターが、例えば、リプレッサー遺伝子及びオペレーター等を含むタンパク質発現誘導型ベクターである場合には、前記形質転換体に所定の処理を行い、MGAT5Bポリペプチド断片の発現を誘導させる必要がある。発現誘導の方法は、ベクターに含まれるタンパク質発現制御システムによって異なるため、そのシステムに適した誘導処理を行えばよい。例えば、細菌を宿主とするタンパク質発現誘導型ベクターにおいて最も一般的に利用されているタンパク質発現制御システムは、lacリプレッサー遺伝子及びlacオペレーターからなるシステムである。本システムは、IPTG(isopropyl-1-thio-β-D-Galactoside)処理により発現を誘導することが可能である。このシステムを含むMGAT5B発現ベクターを有する形質転換体において、目的とするMGAT5Bを発現させるためには、培地中に適当量(例えば、終濃度1mM)のIPTGを添加すればよい。
(MGAT5Bポリペプチド断片の回収)
次に、宿主細胞内で生産されたMGAT5Bポリペプチド断片を、細胞内又は培養上清から回収する。生産されたMGAT5Bポリペプチド断片が菌体内又は細胞内に蓄積される場合には、その菌体又は細胞を破砕してタンパク質を抽出する。また、MGAT5Bポリペプチド断片が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去し、上清を使用すればよい。その後、一般的なタンパク質の精製方法を用いることによって、MGAT5Bポリペプチド断片を単離精製することができる。MGAT5Bポリペプチド断片が標識ペプチド(タグ)との融合ペプチドとして発現する場合には、例えば、各標識ペプチドに適したアフィニティークロマトグラフィー法を利用すればよい。また、標識ペプチドのないMGAT5Bポリペプチド断片として発現する場合には、例えば、硫酸アンモニウム塩析法、ゲルクロマトグラフィー法、イオン交換クロマトグラフィー法、疎水性クロマトグラフィー法、等電点クロマトグラフィー法等を利用すればよい。あるいは、前記二以上の精製方法を適宜組み合わせて単離精製することもできる。
最終的に、目的のMGAT5Bポリペプチド断片が回収できたか否かは、SDS-PAGE等により確認すればよい。なお、上記方法で調製された組換えMGAT5Bポリペプチド断片は、糖転移酵素としての活性を保持し、可溶型である。
(2)動物への免疫と抗MGAT5Bポリクローナル抗体の作製
得られたMGAT5Bポリペプチド断片を免疫原として、該ポリペプチドを特異的に認識する抗MGAT5Bポリクローナル抗体を得ることができる。
まず、MGAT5Bポリペプチド断片を、緩衝液に溶解して免疫原溶液を調製する。この際、免疫を効果的に行うために、必要であればアジュバントを添加してもよい。アジュバントは、例えば、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムゲル、百日咳菌ワクチン、Titer Max Gold(Vaxel社)、GERBUアジュバント(GERBU Biotechnik社)等を、単独で又は混合して使用することができる。
次に、調製した免疫原溶液を哺乳動物に投与し、免疫する。免疫に用いる動物は、特に限定しない。例えば、非ヒト哺乳動物、より具体的には、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ヤギ、ロバ、ヒツジ、ラクダ及びウマ等を用いることができる。本発明においては、マウスを用いる方法を例に挙げて、以下で具体的に説明をすることにする。
免疫原溶液の投与方法としては、例えば、FIA若しくはFCAを用いた皮下注射、FIAを用いた腹腔内注射、又は生理食塩水を用いた静脈注射が挙げられるが、この限りではなく、他にも皮内注射や筋肉内注射によって投与してもよい。免疫原の1回の投与量は、免疫動物の種類、投与経路等により適宜決定されるものであるが、マウスの場合、通常、4〜10週齢の個体当たりに、約50〜200μgで投与すればよい。また、免疫の間隔は特に限定されないが、数日から数週間間隔、好ましくは1〜4週間間隔である。初回免疫後、追加免疫を行うのが好ましく、その回数は2〜6回、好ましくは3〜4回である。初回免疫より後に、免疫したマウスの眼底等より採血し、血清中の抗体価の測定をELISA法等により行うことが好ましい。抗体価が十分に上昇すれば、免疫原溶液を静脈内又は腹腔内に注射し、最終免疫とすればよい。最終免疫ではアジュバントを使用しないことが好ましい。最終免疫後3〜10日目、好適には3日目に、免疫したマウスより採血し、公知の方法(Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)に準じて血清を処理することにより抗MGAT5Bポリクローナル抗体を得ることができる。
(3)抗MGAT5Bモノクローナル抗体の作製
抗MGAT5Bモノクローナル抗体の作製は、ケラー&ミルシュタインの方法で調製することができる(Nature 256:495-497 (1975))。例えば、前記免疫した動物から得られる抗体産生細胞と、骨髄腫(ミエローマ)細胞との細胞融合によりハイブリドーマを調製し、得られたハイブリドーマから抗MGAT5Bモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することにより調製することができる。以下で、具体例を挙げて説明するが、本発明の抗体の作製は、以下の方法に限定されるものではない。
(抗体産生細胞の採取)
まず、上記免疫したマウスから抗体産生細胞を採取する。採取は、最終免疫の日から2〜5日後が好ましい。抗体産生細胞としては、脾細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。マウスからの抗体産生細胞の採取方法は、当該分野で公知の技術に従って行えばよい。
(ハイブリドーマの作製)
続いて、抗体産生細胞と骨髄腫(ミエローマ)細胞との細胞融合を行うことで、抗MGAT5Bモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを作製することができる。
細胞融合に使用する骨髄腫細胞としては、マウス由来の一般に入手可能な株化細胞であって、in vitroで増殖可能な骨髄腫細胞あれば特に限定はしないが、後述する工程でハイブリドーマを簡便に選抜するためには、薬剤選択性を有し、未融合の状態では選択培地で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生育できる性質を有するものが好ましい。
骨髄腫細胞は、既に公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(Kearney J.F. et al., 1979, J. Immunol., 123:1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Yelton D.E. et al., 1978, Curr. Top. Microbiol. Immunol., 81:1-7)、NS-1(Kohler G. et al., 1976, Eur. J. Immunol., 6:511-519)、MPC-11 (Margulies D.H. et al., 1976, Cell, 8:405-415)、SP2/0(Shulman M. et al., 1978, Nature, 276:269-270) 、FO(de St.Groth S.F. et al., 1980, J. Immunol. Methods, 35:1-21)、S194(Trowbridge I.S. 1978, J. Exp. Med., 148:313-323)、R210(Galfre G. et al., 1979, Nature, 277:131-133)等が好適に使用される。これらの細胞株は理化学研究所バイオリソースセンター、ATCC(American Type Culture Collection)又はECACC(European Collection of Cell Cultures)から入手可能であり、それらの培養及び継代については、公知の方法(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory, 1988、Selected Methods in Cellular Immunology W.H. Freeman and Company, 1980)に従い培養すればよい。なお、選択培地には、例えば、HAT培地(RPMI1640培地に100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン及び10% 牛胎児血清(FBS)、10-4Mヒポキサンチン、1.5×10-5Mチミジン及び4×10-7Mアミノプテリンを加えた培地)が挙げられる。
上記骨髄腫細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させるには、上記で得られた脾細胞と骨髄腫細胞とを洗浄したのち、MEM、DMEM、RPMI1640培地等の動物細胞培養用培地,市販のクローニング用又は細胞融合用培地(血清を含まないものが好ましい)中で、骨髄腫細胞と抗体産生細胞とを混合比1:1〜1:10で混合し、細胞融合促進剤の存在下にて30〜37℃で1〜15分間接触させればよい。細胞融合促進剤としては、平均分子量1,500〜4,000Daのポリエチレングリコール(以下、「PEG」とする。)等を約10〜80%の濃度で使用することができる。その他、ポリビニルアルコール又はセンダイウイルスのような融合促進剤や融合ウイルスを使用することもできる。通常は、平均分子量1,500DaのPEGが好適に使用される。融合効率を高めるために、必要に応じてジメチルスルホキシド等の補助剤を併用してもよい。さらに、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させることもできる(Nature、1977、Vol.266、550−552)。
細胞融合処理後、骨髄腫細胞の融合に使用した培地(例えば、RPMI1640培地)で細胞を洗浄した後、細胞懸濁液を調製し、続いて、細胞懸濁液を、例えば、FBS含有RPMI1640培地等で適当に希釈後、96ウェルプレート上に1×104個/ウェル程度入れ、各ウェルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行えばよい。培養温度は20〜40℃、好ましくは約37℃である。骨髄腫細胞がHGPRT欠損株又はチミジンキナーゼ(TK)欠損株のものである場合には、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む選択培地(HAT培地)を用いることにより、抗体産生細胞と骨髄腫細胞のハイブリドーマのみを選択的に生育、増殖させることができるため、選択培地で培養開始後約10日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして選択することができる。
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗MGAT5Bモノクローナル抗体が含まれる否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、例えば、ハイブリドーマを培養したウェル中に含まれる培養上清の一部を採取し、免疫原として使用したMGAT5Bポリペプチド断片に対する結合活性を指標として酵素免疫測定法(ELISA法等)、放射免疫測定法(RIA)等によってスクリーニングすることができる。さらに安定的にモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得るために、抗体産生ハイブリドーマのクローニングを行う。クローニングの方法としては、限界希釈法、蛍光励起セルソーター法等の通常の方法で行えばよく、特に限定されない。以上のスクリーニング法とクローニング法を組み合わせることによって、最終的に抗MGAT5Bモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立することができる。
必要に応じて、交差反応性の試験を行ってもよい。すなわち、他の糖転移酵素等を含む他のタンパク質への結合活性を検証し、許容できる交差反応性を示す抗体を産生するハイブリドーマのみを選択する。許容できる交差反応性とは、目的とする用途において無視し得る程度のモノクローナル抗体の非特異的結合活性を意味する。
上記スクリーニング法によって選抜された抗MGAT5Bモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの具体例として、例えば、GT131-2(国内受託番号:FERM P-22097;国際受領番号:FERM ABP-11496)、GT131-7(国内受託番号:FERM P-22098;国際受領番号:FERM ABP-11497)、GT131-12(国内受託番号:FERM P-22099;国際受領番号:FERM ABP-11498)及びGT131-18(国内受託番号:FERM P-22100;国際受領番号:FERM ABP-11499)が挙げられる。これらのハイブリドーマは、は、2011年4月4日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に国内寄託されたものを同日付で独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566))に国際寄託している。
これらのハイブリドーマ細胞株は、RPMI1640に10%FBSを添加した培地を用いて37℃で好適に培養することができる。
(抗MGAT5Bモノクローナル抗体の回収)
抗MGAT5Bモノクローナル抗体は、慣用的技術によって回収可能である。例えば、樹立したハイブリドーマから回収する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。細胞培養法においては、抗MGAT5Bモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを10%FBS含有RPMI1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、例えば、37℃、5%CO2濃度で2〜10日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物(上記方法の場合は、マウス)の腹腔内に抗MGAT5Bモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを約1000万個投与し、該ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水又は血清を採取することによって、回収できる。このような方法によって、前述の抗MGAT5Bモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの具体例として挙げた、GT131-2、GT131-7、GT131-12及びGT131-18からも、それぞれ「GT131-2抗体」、「GT131-7抗体」、「GT131-12抗体」及び「GT131-18抗体」を得ることができる。
抗体の精製が必要な場合には、公知の方法を適宜に用いて精製すればよい。例えば、イオン交換クロマトグラフィー法、プロテインA又はプロテインG等によるアフィニティークロマトグラフィー法、ゲルクロマトグラフィー法、硫酸アンモニウム塩析法等を用いて精製することができる。
1−3.上皮性卵巣癌検出試薬
本発明の抗MGAT5B抗体、後述する上皮性卵巣癌マーカー検出用組み換え抗体及び/又は上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体断片は、上皮性卵巣癌マーカーと特異的に反応するため、上皮性卵巣癌検出試薬における有効成分として用いることができる。この検出試薬を用いて、被験者から採取した試料中に含まれる上皮性卵巣癌マーカーを検出することによって、被験者の上皮性卵巣癌の罹患を判定することもできる。
本発明の検出試薬は、免疫学的手法を用いるいかなる手段でも利用することができる。例えば、全自動免疫学的測定装置用の試薬(CLEIA)と組み合わせて用いることによって、簡便かつ迅速に上皮性卵巣癌を検出することができる。これについては、第4実施形態で詳述する。また、上皮性卵巣癌検出試薬は、上皮性卵巣癌組織染色用としても利用することができる。例えば、開腹手術時や針刺しによって得られた組織において、上皮性卵巣癌マーカーの有無を免疫染色により検出することで、上皮性卵巣癌の罹患の有無を判定できる。また採取した組織の抽出物を用いウェスタンブロッティング等の方法により上皮性卵巣癌マーカーの有無を検出することで、上皮性卵巣癌の罹患の有無を判定できる。
1−4.効果
本発明の抗MGAT5B抗体は、上皮性卵巣癌マーカーである糖転移酵素MGAT5Bのゴルジ体内領域を特異的に認識し、結合することができる。したがって、本発明の抗MGAT5B抗体を用いることで、被験者の試料から上皮性卵巣癌マーカーを効率的に検出できる。
2.上皮性卵巣癌マーカー検出用組換え抗体
2−1.定義及び構成
本発明の第2の実施形態は、上皮性卵巣癌マーカー検出用組換え抗体である。本発明の組換え抗体は、第1実施形態に記載の上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体における対応する軽鎖相補鎖決定領域(CDR:Complementarity determining region)及び重鎖CDRを少なくとも一組含むことを特徴とする。本明細書では、「上皮性卵巣癌マーカー検出用組換え抗体」をしばしば「抗MGAT5B組換え抗体」と表記する。
本明細書において前記「組換え抗体」とは、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体及び合成抗体をいう。
「キメラ抗体」とは、ある抗体において、軽鎖及び重鎖の定常領域(C領域:Constant region)を他の抗体の軽鎖及び重鎖のC領域で置換した抗体である。例えば、マウス抗ヒトMGAT5Bモノクローナル抗体であるGT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-12抗体又はGT131-18抗体において、そのC領域を適当なヒト抗体のC領域と置換した抗体が該当する。すなわち、CDRを包含する可変領域(V領域:Variable region)は、GT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-12抗体又はGT131-18抗体由来であり、C領域はヒト抗体由来となる。
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えば抗ヒトMGAT5Bマウス抗体のV領域中のCDRのみを適当なヒト抗体のCDRと置換したモザイク抗体である。例えば、GT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-12抗体又はGT131-18抗体由来の各CDR領域(CDR1〜CDR 3)をコードするDNA配列を、ヒト抗体由来の対応する各CDRをコードするDNA配列と置換した組換え抗体遺伝子を調製し、それを発現させることにより、その特定の抗体の性質を模倣した組換え抗体を得ることができる。ヒト化抗体を調製する一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報)。例えば、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR)とを連結するように設計したDNA配列を、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成する方法が挙げられる。
「合成抗体」とは、化学的方法又は組換えDNA法を用いることによって合成した抗体をいう。例えば、適当な長さと配列を有するリンカーペプチド等を介して、特定の抗体の一以上の軽鎖V領域(VL)及び一以上の重鎖V領域(VH)を人工的に連結させた一量体ポリペプチド分子、又はその多量体ポリペプチドが該当する。このようなポリペプチドの具体例としては、一本鎖Fv(scFv :single chain Fragment of variable region)(Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995, Pierce Chemical Co., Rockford, IL参照)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。免疫グロブリン分子において、VL及びVHは、通常別々のポリペプチド鎖(軽鎖と重鎖)上に位置する。一本鎖Fvは、これら2つのポリペプチド鎖上のV領域を十分な長さの柔軟性リンカーによって連結し、1本のポリペプチド鎖に包含した構造を有する合成抗体断片である。一本鎖Fv内において両V領域は、互いに自己集合して1つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。一本鎖Fvは、それをコードする組換えDNAを、公知技術を用いてファージゲノムに組み込み、発現させることで得ることができる。ダイアボディは、一本鎖Fvの二量体構造を基礎とした構造を有する分子である(Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448)。例えば、上記リンカーの長さが約12アミノ酸残基よりも短い場合、一本鎖Fv内の2つの可変部位は自己集合できないが、ダイアボディを形成させることにより、すなわち、2つの一本鎖Fvを相互作用させることにより、一方のFv鎖のVLが他方のFv鎖のVHと集合可能となり、2つの機能的な抗原結合部位を形成することができる(Marvin et al., 2005, Acta Pharmacol. Sin. 26:649-658)。さらに、一本鎖FvのC末端にシステイン残基を付加させることにより、2本のFv鎖同士のジスルフィド結合が可能となり、安定的なダイアボディを形成させることもできる(Olafsen et al., 2004, Prot. Engr. Des. Sel. 17:21-27)。このようにダイアボディは二価の抗体断片であるが、それぞれの抗原結合部位は、同一エピトープと結合する必要はなく、それぞれが異なるエピトープを認識し、特異的に結合する二重特異性を有していてもよい。トリアボディ、及びテトラボディは、ダイアボディと同様に一本鎖Fv構造を基本としたその三量体、及び四量体構造を有する。それぞれ、三価、及び四価の抗体断片であり、多重特異性抗体であってもよい。
2−2.抗MGAT5B組換え抗体の作製
抗MGAT5B組換え抗体は、第1実施形態で作製された抗MGAT5B抗体を用いて、当該分野で公知のDNAクローニング技術によって作製すればよい。例えば、上記それぞれで引用した文献の他にも、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkを参照することができる。
2−3.効果
本発明の抗MGAT5B組換え抗体は、第1実施形態の抗MGAT5B抗体と同様に、上皮性卵巣癌マーカーである糖転移酵素MGAT5Bのゴルジ体内領域を特異的に認識し、結合することができる。したがって、本発明の抗MGAT5B組換え抗体を用いることで、被験者の試料から上皮性卵巣癌マーカーを効率的に検出できる。
3.上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体断片
3−1.定義及び構成
本発明の第3の実施形態は、上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体断片である。
本発明の「抗体断片」は、前記実施形態1に記載の抗MGAT5B抗体、又は実施形態2に記載の抗MGAT5B組換え抗体の部分領域であって、該抗体が有するMGAT5B特異的認識・結合活性と実質的に同等の活性を有するポリペプチド鎖又はその複合体をいう。具体的には、実施形態1の抗MGAT5B抗体又は実施形態2の抗MGAT5B抗体に含まれる抗原結合部位を少なくとも1つ包含する抗体部分領域、すなわち、少なくとも1組のVLとVHを有するポリペプチド鎖又はその複合体が該当する。例えば、実施形態1の抗MGAT5B抗体であれば、当該抗体を様々なペプチダーゼで切断することによって生じる多数の十分に特徴付けられた断片が挙げられる。具体的な例としては、Fab、F(ab')2、Fab'等が挙げられる。Fabは、パパインによりIgG分子がヒンジ部のジスルフィド結合よりもN末端側で切断されることによって生じる断片であって、VH及びH鎖C領域(重鎖定常領域:以下「CH」とする)を構成する3つのドメイン(CH1、CH2、CH3)のうちVHに隣接するCH1からなるポリペプチドと、軽鎖から構成される。F(ab')2は、ペプシンによりIgG分子がヒンジ部のジスルフィド結合よりもC末端側で切断されることによって生じるFab'の二量体である。Fab'は、Fabよりもヒンジ部を含む分だけH鎖が若干長いが実質的にはFabと同等の構造を有する。Fab'は、F(ab')2をマイルドな条件下で還元し、ヒンジ領域のジスルフィド連結を切断することによって得ることができる。これらの抗体断片は、いずれも抗原結合部位を包含していることから、抗原(すなわち、本発明においてはMGAT5B)と特異的に結合する能力を有している。
3−2.効果
本発明の上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体断片は、第1実施形態の抗MGAT5B抗体と同様に、上皮性卵巣癌マーカーである糖転移酵素MGAT5Bのゴルジ体内領域を特異的に認識し、結合することができる。したがって、本発明の上皮性卵巣癌マーカー検出用抗体断片を用いることで、被験者の試料から上皮性卵巣癌マーカーを効率的に検出できる。
4.上皮性卵巣癌判定方法
本発明の第4の実施形態は、上皮性卵巣癌判定方法である。本発明の上皮性卵巣癌判定方法は、被験者由来の試料中に存在する上皮性卵巣癌マーカーを定量的及び/又は定性的に検出し、その検出結果に基づいて、その被験者における上皮性卵巣癌の罹患の有無を判定する。
4−1.定義及び構成
本明細書において「被験者」とは、本発明の方法において検査に供される者、すなわち後述する試料を提供する者をいう。好ましい被験者は、上皮性卵巣癌に罹患しているおそれがある者又は上皮性卵巣癌患者である。なお、本明細書において、「健常者」とは、上皮性卵巣癌に関して健常である広義の健常者、すなわち、上皮性卵巣癌非罹患者をいう。したがって、上皮性卵巣癌に罹患していなければ、他の疾患、例えば、胃癌や子宮癌等に罹患している者であっても構わない。好ましくはいずれの疾患にも罹患していない狭義の健常者、すなわち健康者である。
「試料」とは、前記被験者から採取され、本発明の方法に直接供されるものであって、例えば、体液、腹腔洗浄液又は組織が該当する。「体液」とは、被験者から直接採取される液体状の生体試料をいう。例えば、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、リンパ液、髄液、腹水、胸水、痰、涙液、鼻汁、唾液、尿、膣液、精液等が挙げられる。「組織」には、切片及び抽出物が含まれる。本発明の方法において、好ましい試料は、血液、リンパ液、腹水等の体液、又は腹腔洗浄液である。
試料の採取は、当該分野の公知の方法に基づいて行なえばよい。例えば、血液やリンパ液であれば、公知の採血方法に従って得ることができる。具体的には、末梢血であれば、末梢部の静脈等に注射をして採取すればよい。また、腹水又は腹腔洗浄液であれば、経腹超音波断層法ガイド下に腸管を避けた穿刺吸引による採取、又は開腹時に生理食塩水約100mLを腹腔内に注入し、ダグラス窩より注射器等を用いた吸引によって採取することができる。組織であれば、直接臓器に穿刺し採取又は手術中に切除した部位より採取することができる。試料は、被験者から採取したものを、必要に応じて希釈若しくは濃縮、又はヘパリンのような血液凝固阻止剤を添加する又は組織の場合パラフィンのような固定化剤で固定する等の前処理を行なった後に使用することができる。また、そのような前処理を行なうことなく、そのまま使用してもよい。
試料は、採取後直ちに利用してもよいし、冷凍により一定期間保存した後、必要に応じて解凍等の処理を行ない、利用してもよい。本発明の方法において、試料として血清又は腹腔洗浄液を用いる場合、上皮性卵巣癌マーカーの検出には、通常、10μL〜100μLの容量があれば足りる。
本発明の方法において、検出すべき上皮性卵巣癌マーカーは、前記実施形態1に記載したMGAT5Bポリペプチド断片である。具体的には、ゴルジ体内領域に位置し、MGAT5BのC末端側に相当するアミノ酸配列からなるポリペプチド断片である。例えば、ヒトMGAT5Bであれば、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全部又は一部に相当する。
4−2.上皮性卵巣癌マーカーの検出方法
試料中の上皮性卵巣癌マーカーを検出する方法は、ポリペプチドである当該マーカーを検出できる公知の方法であれば、いずれの方法を用いてもよい。好ましくは上皮性卵巣癌マーカーを特異的に認識して、それに結合する抗体を用いる免疫学的反応を利用した検出方法(免疫学的検出法)である。
上皮性卵巣癌マーカー特異的抗体(以下「抗上皮性卵巣癌マーカー抗体」とする)には、前記実施形態1に記載の抗MGAT5B抗体(抗MGAT5Bポリクローナル抗体及び抗MGAT5Bモノクローナル抗体を含む)、実施形態2に記載の抗MGAT5B組換え抗体、及び/又は実施形態3に記載の抗体断片を使用することができる。具体的には、例えば、実施形態1に記載のマウス抗ヒトMGAT5Bモノクローナル抗体であるGT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-12抗体又はGT131-18抗体が挙げられる。
被検者由来の試料中に存在する上皮性卵巣癌マーカーの量を検出する免疫学的検出法としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA法、EIA法を含む)、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、表面プラズモン共鳴法(SPR法)、水晶振動子マイクロバランス(QCM)法、免疫比濁法、ラテックス凝集免疫測定法、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応法、金コロイド法、キャピラリー電気泳動法、ウェスタンブロット法又は免疫組織化学法(免疫染色法)が挙げられる。これらの方法は、いずれも公知の方法であり、原則として当該分野における通常の方法に準じて行えばよい。
本発明の上皮性卵巣癌マーカーの測定を、前述の酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法又は発光免疫測定法のような標識を用いた免疫学的測定法により実施する場合には、前記抗上皮性卵巣癌マーカー抗体等を固相化するか、又は試料中の成分(すなわち、上皮性卵巣癌マーカー)を固相化して、それらの免疫学的反応を行うことが好ましい。
固相担体としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、セルロース、セファロース、ガラス、金属、セラミックス又は磁性体等の材質よりなるビーズ、マイクロプレート、試験管、スティック又は試験片等の形状の不溶性担体を用いることができる。固相化は、固相担体に前記抗上皮性卵巣癌マーカー抗体又は上皮性卵巣癌マーカーを物理的吸着法、化学的結合法又はこれらの併用等の公知の方法に従って結合させることにより達成することができる。
抗上皮性卵巣癌マーカー抗体を標識する標識子としては、酵素免疫測定法の場合には、ペルオキシダーゼ(POD)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸脱水素酵素、アミラーゼ又はビオチン(若しくはアビジン)等が挙げられる。また、蛍光免疫測定法の場合には、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、置換ローダミンイソチオシアネート、ジクロロトリアジンイソチオシアネート、Alexa又はAlexaFluoro等が挙げられる。さらに、放射免疫測定法の場合には、トリチウム、ヨウ素125又はヨウ素131等が挙げられる。また、発光免疫測定法は、NADH、FMNH2、ルシフェラーゼ系、ルミノール-過酸化水素-POD系、アクリジニウムエステル系又はジオキセタン化合物系等を用いることができる。
標識物質と抗体との結合法は、酵素免疫測定法の場合にはグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法又は過ヨウ素酸法等の公知の方法を、放射免疫測定法の場合にはクロラミンT法、ボルトンハンター法等の公知の方法を用いればよい。測定の操作法は、公知の方法(Current protocols in Protein Sciences, 1995, John Wiley& Sons Inc.; Current protocols in Immunology, 2001, John Wiley& Sons Inc.)により行うことができる。
免疫学的測定法には、抗上皮性卵巣癌マーカー抗体を標識して試料中の上皮性卵巣癌マーカーを直接検出して定量する直接的検出方法、又は標識した二次抗体を用いることにより間接的に検出して定量する間接的検出方法があるが、本発明ではいずれであってもよい。
直接的検出方法の場合、例えば、試料中のポリペプチド断片を固相化し、標識した抗上皮性卵巣癌マーカー抗体と接触させて、本発明の上皮性卵巣癌マーカー/標識抗上皮性卵巣癌マーカー抗体の複合体を形成させる。そして、未結合の標識抗体を洗浄分離し、結合した標識抗体量又は未結合標識抗体量より試料中の上皮性卵巣癌マーカーを検出し、またその量を測定することができる。
間接的検出方法の場合、試料中の上皮性卵巣癌マーカーと一次抗体である抗上皮性卵巣癌マーカー抗体とを反応させ(一次反応)、さらに標識二次抗体を反応させる(二次反応)。一次反応と二次反応は、順序を逆に行ってもよいし、同時に行ってもよい。また、標識二次抗体は、一次抗体を特異的に認識し、結合するものであってもよいし、上皮性卵巣癌マーカーを認識し、結合するものであってもよい。一次反応及び二次反応により、固相化した上皮性卵巣癌マーカー/抗上皮性卵巣癌マーカー抗体/標識二次抗体からなる複合体、又は固相化した抗上皮性卵巣癌マーカー抗体/上皮性卵巣癌マーカー/標識二次抗体の複合体が形成される。
間接的検出方法のうち、固相化した抗上皮性卵巣癌マーカー抗体/上皮性卵巣癌マーカー/標識二次抗体の複合体を形成させる方法は、サンドイッチ法と呼ばれ、同一の抗原に同時に結合できる異なる2種類の抗体、すなわち、同一抗原上の異なるエピトープを認識する2種類以上のモノクローナル抗体(又はポリクローナル抗体であれば1種類でも構わない)を用いて、目的の抗原を検出する方法である。サンドイッチ法は、2種類の抗体の一方の抗体を固相化し、他方の抗体を標識化して目的の抗原を検出する、いわゆるサンドイッチELISA法が頻用されるが、この方法は、本発明の方法においても好適に用いることができる。複合体形成後、試料に含まれる上皮性卵巣癌マーカー以外のタンパク質及び未結合の標識二次抗体を洗浄分離して、結合標識二次抗体量又は未結合標識二次抗体量より試料中の上皮性卵巣癌マーカーを検出し、またその量を測定することができる。試料中の上皮性卵巣癌マーカーについて感度を犠牲にする事無く高精度に測定するという点で、サンドイッチ法による間接的検出方法を利用することが好ましい。この手法は、既存の自動免疫検出装置を用いた自動化にも適用可能である。
本発明の上皮性卵巣癌マーカーを検出する好ましい実施形態の一例を示す。まず、本発明の抗上皮性卵巣癌マーカー抗体(例えば、GT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-12抗体又はGT131-18抗体のいずれか一つ)を一次抗体として不溶性担体に固定する。固定化後、抗体が固定化されていない固相表面を、抗原である上皮性卵巣癌マーカーとは無関係のタンパク質(例えば、仔ウシ血清、ウシ血清アルブミン、ゼラチン等)又はスクロース、化学合成ポリマーなどの非タンパク質のブロッキング剤によりブロッキングする。次に、固定化された一次抗体と被験者の試料とを接触させる。続いて、上皮性卵巣癌マーカー上において一次抗体と異なるエピトープを認識し、結合する抗上皮性卵巣癌マーカー抗体(上記の場合であれば、GT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-12抗体及びGT131-18抗体からなる群から前記で選択した抗体以外で、同群から選択される他のいずれか一つ)を二次抗体として接触させる。なお、二次抗体は、上記方法によって標識した標識二次抗体を用いる。その後、洗浄して、未結合の標識二次抗体を除去した後、担体上に結合した標識二次抗体からの標識由来の信号を検出すればよい。
4−3.上皮性卵巣癌の罹患判定
被験者の上皮性卵巣癌罹患の判定は、上記被験者由来の試料中に存在する上皮性卵巣癌マーカーを定量的及び/又は定性的に検出し、その検出結果に基づいて行う。
上皮性卵巣癌マーカーの定性的な検出には、例えば、免疫組織化学法又はウェスタンブロット法等による検出が挙げられる。
上皮性卵巣癌マーカーを定量的に、例えば、免疫学的測定方法により検出した場合は、その定量測定結果に基づいて行う。MGAT5Bポリペプチド断片の定量値が所定の値以上であった場合、その被験者は上皮性卵巣癌に罹患している可能性が高いと判定する。
本明細書において、「定量値」とは、上述の測定方法によって得られた値であって、濃度のような絶対値であってもよいし、又は単位試料当たりの上皮性卵巣癌マーカーによるシグナル強度のような相対値であってもよい。
本発明者らが見出した上皮性卵巣癌マーカーである糖転移酵素MGAT5Bポリペプチド断片は、通常、健常者由来の試料中からは、ほとんど検出されることがない。したがって、対象とするMGAT5Bポリペプチド断片が検出された場合には、原則として、その被験者は、上皮性卵巣癌に罹患している可能性が高いと判定することができる。
より高精度の判定を求める場合には、定量値による方法が好ましい。すなわち、上記測定方法でMGAT5Bポリペプチド断片の定量値が所定の値以上の値で検出された場合には、その被験者は上皮性卵巣癌に罹患している可能性が高いと判定すればよい。「所定の値」とは、上皮性卵巣癌患者と健常者とを分離可能な定量値、例えば、カットオフ値をいう。具体的には、例えば、本発明の抗上皮性卵巣癌マーカー抗体を用いた場合であれば、後述するカットオフ値が挙げられる。
しかし、使用する抗上皮性卵巣癌マーカー抗体が、僅かでも交差反応性を有し、他の糖転移酵素を検出する可能性がある場合や、健常者や上皮性卵巣癌以外の癌患者において夾雑物による非特異的反応を排除できない場合には、上皮性卵巣癌マーカーの有無を検出するのみでは正確な判定ができていない可能性がある。
そこで、例えば、使用する抗上皮性卵巣癌マーカー抗体が交差反応性を有する可能性があれば、上述したサンドイッチ法を用いて上皮性卵巣癌マーカーを検出することで、その特異性を高めると共に、夾雑物による非特異的反応を著しく低減することができる。なお、本発明のGT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-12抗体及びGT131-18抗体は、いずれも交差反応性を示さないことが確認されている。
また、本発明の上皮性卵巣癌マーカーが健常者でも検出され得る可能性がある場合には、被験者由来の試料中の上皮性卵巣癌マーカーの測定値が、健常者のそれと比較して、統計学的に有意に高値であることに基づいて判断してもよい。上皮性卵巣癌マーカーの測定値は、上記定量方法による上皮性卵巣癌マーカーの定量値を利用することができる。このとき、被験者と健常者の試料において量的差異がないことが期待される公知のタンパク質を内部コントロールとして用いれば、被験者と健常者の定量検出結果の補正ができることから、より正確な上皮性卵巣癌マーカーの量を得ることができる。このような内部コントロール用のタンパク質として、例えば、アルブミンが挙げられる。
「統計学的に有意」とは、被験者と健常者のそれぞれに由来する試料中に含まれる上皮性卵巣癌マーカーの量的差異を統計学的に処理したときに、両者間に有意差があることをいう。具体的には、例えば、危険率(有意水準)が5%、1%又は0.1%より小さい場合が挙げられる。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法を用いることができる。「統計学的に有意に高値である」とは、具体的には、多検体解析において、常法によって設定される感度と特異度が最適になるよう上皮性卵巣癌罹患者と健常者等を分離できる値をカットオフ値と定め、そのカットオフ値よりも高い場合をいう。
例えば、本発明において、上述のサンドイッチ法でGT131-7抗体及びGT131-12抗体を抗上皮性卵巣癌マーカー抗体として使用した場合、上皮性卵巣癌罹患者と健常者とを分離するカットオフ値は、4.0 ng/mL(播種あり胃癌患者腹腔洗浄液の上方95%タイル)、好ましくは4.6 ng/mL(卵巣癌患者vs播種あり胃癌患者腹腔洗浄液のROC曲線を引いた時の最区分点)、より好ましくは14.3 ng/mL(卵巣癌患者腹腔洗浄液の下方95%タイル)である。したがって、被験者の試料中における上皮性卵巣癌マーカーの定量値が当該カットオフ値よりも高い場合には、その被験者は、上皮性卵巣癌に罹患している可能性が高いと判定することができる。
<実施例1:抗MGAT5B抗体及びその抗体産生ハイブリドーマの作製>
1.免疫原の選択と調製
免疫原となるMGAT5B遺伝子は、公知糖転移酵素全186種について卵巣癌細胞株RMG-I、RMG-II、RMG-V(以上明細胞性)、RMUG-S(粘液性)と末梢血細胞、大腸、肝臓、胃の正常組織の転写産物をリアルタイムPCR法にて解析することによって選択された。具体的には、卵巣癌細胞株と正常組織それぞれの転写量について、平均値の比較、及び最大値の比較による順位付けを行い、上位の糖転移酵素を卵巣癌マーカー候補として選択した。MGAT5Bは、そのうちの一つであり、平均値及び最大値がいずれも1位であり正常組織と比較して卵巣癌細胞で著しく転写量が多い。またGAT(平均値14位及び最大値13位)及びβ1,3-ガラクトース転移酵素4(平均値32位及び最大値17位)よりも高位であったことから、卵巣癌に特異的な有力マーカー候補として選択された。
MGAT5B遺伝子の発現のためにpIRESpuro3(Clontech社)を元にしたMGAT5B発現ベクターを作製した。まず、pFC3(Promega社)をEcoRI及びEcoRVで切断した。次に、ヒトMGAT5B遺伝子配列全長(配列番号5)を含むプラスミドは非特許文献(Kaneko M. et al., 2003, FEBS Letters, 554:515-519)に記載されている方法で得た物である。これを鋳型とし、プライマーA(aaagaattccGGGGACTCGC:配列番号6)とプライマーB(TCACAGACAGCCCTG:配列番号7)を用いてPCRにより増幅を行なった。PCRは94℃で30秒、続いて55℃で30秒、そして68℃で30秒を1サイクルとして30サイクル行った。増幅産物をQiagen社Minielute Kitを用いて精製した後、EcoRI及びEcoRVで消化し、前記切断したpFC3に挿入した(pFC3−MGAT5B)。得られたプラスミドpFC3−MGAT5Bは、配列番号1に示すMGAT5Bの51位Gly〜372位Leuからなる領域と、そのN末端側にプレプロトリプシン(MSALLILALVGAAVA:配列番号3)及びFLAG(DYKDDDDK:配列番号4)及びLAAANSE(リンカー)が連結された融合タンパク質(可溶型MGAT5Bポリペプチド断片)をコードしている。なお、プレプロトリプシン配列は、細胞から分泌される際に切断される。
続いて、pFC3−MGAT5Bを制限酵素NruIとBamHIで切断し、同様に切断したpIRESpuro3(Clontech社)に挿入した。これによって発現ベクターpIRES-F-puro3−MGAT5Bを得た。
pIRES-F-puro3−MGAT5Bを大腸菌DH5αに導入し、サブクローニングした後、常法によりLipofectamin2000を用いて、HEK293Tにトランスフェクトした。10μg/mLのピューロマイシン下で選択を行い、定常発現株を得た。目的の可溶型MGAT5Bポリペプチド断片は、Anti-FLAG M2 Affinity Gel (A2220;Sigma社)で回収後、SDS-PAGEを行いて、モノクローナルAnti-FLAG M2 Antibody Affinity purified (F1804;Sigma社)を用いてウェスタンブロッティングにより発現を確認した。
可溶型MGAT5Bポリペプチド断片を大量調製するために、1500mL の培地(DMEM high glucose、10%FBS、10μg/mL ピューロマイシン、500U/mL ペニシリン、10μg/mL ストレプトマイシン)で、37℃で培養を行なった。15%コンフルエントで培養を開始し、約2日間培養後、70%コンフルエントの状態で培養上清を回収した。
得られた培養上清は、Nalgen社 PES Bottle Top Filter, 0.45μm cut-offを用いて不溶性残渣を除去した。試料中にSigma社のAnti-FLAG M2 Affinity Gelを1.5mL添加し、4℃で撹拌放置した。レジンを回収後、空カラムに詰め、PBS 25mLで洗浄した後、PBSに溶解した濃度1g/mLのSigma社製FLAGペプチドを1mL用いて溶出した。溶出した画分を限外濾過により500μLに濃縮し、次いで、予め緩衝液(20mM Tris-HCl、50mM NaCl、pH 8.0)で平衡化したSuperdex 200 10/300 GL(GE Healthcare社)ゲル濾過カラムに供した。250μLずつ画分を分取し、各画分を電気泳動して、可溶型MGAT5Bポリペプチド断片を含む画分を取得した。これらをまとめた後、溶媒をPBSに置換しながら2.5mg/mLに濃縮したものを、可溶型MGAT5Bポリペプチド断片標品とした。これを免疫原として用いた。
2.免疫及び細胞融合
上記で調製した免疫原である可溶型MGAT5Bポリペプチド断片50μgを0.1mLの生理食塩水に溶解した後、フロイント完全アジュバント0.1mLを加えて充分に混合し、エマルションを調製した。0.2mLのエマルションを、Balb/cマウス(9週齢雌)の背面皮下に注射した。初回免疫から1週間後に、0.05mLの生理食塩水に25μgの免疫原を溶解した免疫原溶液に0.05mLのアルミニウムアジュバントを加え、十分に混合したエマルションを前記マウスの腹腔内に注射した。さらに、初回免疫から4週間後に生理食塩水0.1mLに免疫原50μgを溶解したものを、また初回免疫から5週間後に生理食塩水0.05mLに免疫原25μgを溶解したものを、それぞれ腹腔内に注射した。
最終免疫から3日後にマウスの脾臓を摘出し、抽出した脾細胞をRPMI1640培地で洗浄した。1.2×108個の脾細胞浮遊液と3×107個のマウス骨髄腫細胞(P3/X63-Ag8.U1)浮遊液を混合し、遠心分離後、培地を除去した。37℃に加温したポリエチレングリコール/RPMI1640培地2mLを徐々に加えて穏やかに撹拌させて融合を行った。その後、遠心分離により培地を除去し、20%エス・クロン/クローニングメデューム(三光純薬)及び60mLの10%FBS含有RPMI1640培地を加えた。続いて、96ウェルプレートに1ウェル当たり0.1mLずつ分注した。4時間後に通常の2倍濃度に調製したHAT培地(HAT培地×1濃度:0.1mM ヒポキサンチン、0.4μM アミノプテリン、16μM チミジン、20%エス・クロン、10%FBS含有RPMI1640培地)を0.1mLで各ウェルに加えた。各ウェルの培地は、融合後2日目及び4日目に、さらに半量ずつを交換した。培養10日後、約80%のウェルにハイブリドーマの成育が認められた。
3.ハイブリドーマの選択
ハイブリドーマ培養上清中の抗体の検索は、上記「1.免疫原の選択と調製」で調製したMGAT5Bポリペプチド断片を抗原として、ELISA法を用いて検証した。まず、抗原をPBS中1μg/mLの濃度でELISA用マイクロタイタープレートに吸着させ、5%スクロース及び5%Tween20含有PBSにてブロッキングした後、ハイブリドーマ培養上清を反応させた。さらに、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス免疫グロブリン抗体を反応させ、基質として3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を用いて450nmにおける吸光度を測定することにより目的の抗体を検出した。その結果、合計18個のウェルで抗体産生ハイブリドーマが得られた。これらのハイブリドーマは、HAT培地からアミノプテリンを除いたHT培地に移し、さらに10%FBS含有RPMI1640培地に移して培養した。
次に、ハイブリドーマを限界希釈法によりクローニングした。96ウェルプレートに1ウェルあたり約1個の密度となるように細胞を希釈して15%FBS含有RPMI1640培地で培養した。約10日後に検鏡して、ウェル内のコロニー成育と数を確認した。約14日後に培養上清0.1mLを回収し、それを用いてELISA法で抗体産生細胞を選択した。
また、免疫原に含まれる可能性のある夾雑物に対する反応性をELISA法で確認した。上記「1.免疫原の選択と調製」で用いた培養用FBS及びFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片と同じベクターを用いて発現した任意の異なるポリペプチド断片を、それぞれPBS中2μg/mLの濃度でELISA用マイクロタイタープレートに吸着させ、ELISA法で培養上清が反応するハイブリドーマを除去した。このようにしてクローニングの結果、22個の安定なモノクローナル抗体産生ハイブリドーマが得られた。
上記で得られた22個のハイブリドーマをさらに培養し、それぞれの培養上清10mLよりProtein-Gアガロースゲル(GE Healthcare社)に吸着する免疫グロブリンを粗精製した。FLAG-MGAT5Bポリペプチド断片、酵素処理でFLAGタグを切断、除去したMGAT5Bポリペプチド断片、FLAG-MGAT5Bポリペプチド断片と同じベクターを用いて発現した任意の異なるポリペプチド断片及びFBSをSDS-PAGE還元条件下電気泳動し転写したPVDF膜を用意し、濃度1μg/mLに調製した上記ハイブリドーマ由来免疫グロブリンをウェスタンブロット法にて反応させた。ウェスタンブロット法で強い反応性を示したハイブリドーマは11個であった。また、ウェスタンブロット法では反応性が弱いが、ELISA法では強い反応性を示したハイブリドーマも4個存在した。ウェスタンブロット法又はELISA法で強く反応したモノクローナル抗体については、マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(AbD Serotec社)を用いて免疫グロブリンサブクラスを決定した。これらの抗体は全てIgG1、κであった。
上記で得られた抗MGAT5Bモノクローナル抗体産生ハイブリドーマのうち、ウェスタンブロット法又はELISA法で特に強い反応性を示す等の特徴のある6個(GT131-2、GT131-7、GT131-9、GT131-12、GT131-14及びGT131-18)についてさらに大量に抗体を調製した。
具体的には、10%FBS含有RPMI1640培地中でハイブリドーマを100mLまで展開し、対数増殖期に回収した。2%FBS、ITS-A(10mg/Lインスリン、6.7mg/Lセレン酸ナトリウム、5.5mg/Lトランスフェリン、11.0mg/Lピルビン酸ナトリウム)含有RPMI1640培地500mLに分散させて、ローラーボトルによる回転培養を行った。回転培養開始2日目〜4日目にITS-A含有RPMI1640培地でさらに2倍希釈し10日目〜14日目まで維持した。最終的に、ローラーボトル2本で1Lの1%FBS、ITS-A含有RPMI1640培地由来の培養上清を得た。遠心と濾過により細胞を除去した後、NaCl、グリシン、アジ化ナトリウム及び水酸化ナトリウムを添加して、3M NaCl、1.5Mグリシン、0.1%アジ化ナトリウム含有pH8.9となるよう培養上清を調製した。その後、同じ緩衝液(3M NaCl、1.5Mグリシン、0.1%アジ化ナトリウム含有pH8.9)で平衡化したプロテインAセファロースアフィニティカラム4mL(GE Healthcare社)を通し抗体を結合させた。次に、カラムをカラムの20倍量の上記緩衝液で洗浄後、pH6.0の0.1%アジ化ナトリウム含有0.1Mクエン酸緩衝液で溶出し、フラクションコレクターでピークを分画した。分画したピーク画分は回収後50%飽和硫酸アンモニウムで塩析し、遠心分離後の沈殿物を0.15M NaCl、0.1%アジ化ナトリウム含有pH8.0の50mMトリス緩衝液で溶解した。このようにして、ハイブリドーマ6個についてそれぞれ約10〜40mgの精製IgGを得た。
なお、ハイブリドーマGT131-2、GT131-7、GT131-12及びGT131-18については、上述したように、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。
<実施例2:モノクローナル抗体の抗原特異性の確認>
実施例1で得たハイブリドーマ由来の抗MGAT5Bモノクローナル抗体(GT131-12抗体、GT131-18抗体)の抗原特異性について検証した。
(方法)
実施例1で得たFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片を10ng、及び該断片から酵素処理によってFLAGタグを切断したMGAT5Bポリペプチド断片を10ng、複数の健常者から得た血清を混合した健常者プール血清から免疫グロブリン及びアルブミンを除去した血清を1μL、健常者プール血清を0.5μLをそれぞれSDS-PAGE還元条件下で10%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、PVDF膜に転写した。5%スキムミルク含有PBSでブロッキング後、精製MGAT5Bモノクローナル抗体(1μg/mL)と室温で90分反応させた。洗浄後、二次抗体としてHRP標識抗マウスIgG抗体(GE Healthcare社)と混合して室温で60分反応させた。洗浄後、ウェスタンブロッティング検出試薬(Perkin Elmer社)により化学発光にて検出した。
(結果)
結果を図1に示す。GT131-12抗体及びGT131-18抗体は、いずれもFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片及びFLAGタグを切断、除去したMGAT5Bポリペプチド断片と、十分に結合することが確認された。しかし、健常者の血清に対しては、反応は弱い(GT131-12抗体)か、又は反応しなかった(GT131-18抗体)。この結果から、GT131-12抗体及びGT131-18抗体は、MGAT5Bポリペプチド断片と特異的に反応し、ヒト血清中に含まれる他のタンパク質とは反応しないことが立証された。
<実施例3:抗MGAT5B抗体を用いた免疫沈降によるMGAT5Bポリペプチド断片の検出>
(方法)
健常者プール血清を0.15M NaCl、0.1%アジ化ナトリウム含有50mMトリス緩衝液(pH8.0)で100倍に希釈し、実施例1で調製したFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片を最終濃度10μg/mLとなるように添加して、それを免疫沈降試料とした。この試料各0.5mLにモノクローナル抗体(GT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-12抗体又はGT131-18抗体)を2μg、及びプロテインGゲル(GE Healthcare社)を20μL加えて、ローテーターで4℃にて4時間混和した。遠心分離によりサンプル溶液を廃棄し、プロテインGゲルを上記トリス緩衝液で洗浄後、SDS-PAGEサンプルバッファー40μLを加え、98℃で5分間加熱し免疫沈降画分を得た。
続いて、FLAG-MGAT5Bポリペプチド断片、上記GT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-12抗体又はGT131-18抗体による免疫沈降画分、免疫沈降していない健常者プール血清とFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片の混合物をそれぞれSDS-PAGE還元条件下で10%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、PVDF膜に転写した。5%スキムミルク含有PBSでブロッキング後、HRP標識抗FLAG抗体(M2、Sigma社)と室温にて1時間反応させた。又は、ビオチンラベリングキット(同仁化学研究所)を用いて標識したGT131-12抗体(2μg/ml)又はGT131-18抗体(1μg/ml)と室温で2時間反応させた。洗浄後、HRP標識ストレプトアビジン(GE Healthcare社)と室温で60分反応させた。これらのPVDF膜を洗浄後ウェスタンブロッティング検出試薬(Perkin Elmer社)により化学発光にて検出した。
(結果)
結果を図2に示す。サンプルとして添加したFLAG-MGAT5Bポリペプチド断片が、いずれの免疫沈降画分からも検出された。これらにより本発明のモノクローナル抗体GT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-12抗体又はGT131-18抗体のいずれも、血清のような夾雑物の多いタンパク質溶液からでもMGAT5Bポリペプチド断片を特異的に免疫沈降できることが示された。
<実施例4:抗MGAT5B抗体を用いた卵巣癌細胞株の免疫染色>
実施例1で調製した抗MGAT5Bモノクローナル抗体(GT131-2抗体及びGT131-18抗体)を用いて、卵巣癌細胞株の免疫染色を行った。
(方法)
上皮性卵巣癌細胞RMUG-S株にGT131-2抗体産生ハイブリドーマの培養上清(GT131-2抗体を含む)、GT131-18抗体産生ハイブリドーマの培養上清(GT131-18抗体を含む)、又はトランスゴルジマーカーとして利用されている抗B4GALT1モノクローナル抗体MAb8628(Uemura M.et al., 1992, Cancer Res., 52:6153-6157)を添加し、4℃で一晩反応させた後、Anti-mouse alexa488(Life Technologies社)を用いて各種糖転移酵素と結合した抗体反応を可視化した。核をヘキスト33342(Life Technologies社)で染色し、キーエンス顕微鏡のBioZeroを使って、画像を取得した。
(結果)
結果を図3に示す。aはGT131-2抗体で、bはGT131-18抗体で、そしてcは染色の陽性コントロールである抗B4GALT1抗体で、上皮性卵巣癌細胞株RMUG-Sをそれぞれ免疫染色した図である。抗体で染色された部分を矢印で、核染色された部分を矢頭で示す。この結果から、GT131-2抗体及びGT131-18抗体のいずれを用いても、上皮性卵巣癌細胞を上皮性卵巣癌マーカー特異的に染色できることが確認された。抗B4GALT1抗体で検出される糖転移酵素の細胞内局在パターンと、GT131-2抗体又はGT131-18抗体で検出される糖転移酵素の細胞内局在パターンは、同一であった。したがって、MGAT5Bは、ゴルジ体に局在する糖転移酵素と考えられた。この結果から、本発明のGT131-2抗体及びGT131-18抗体を上皮性卵巣癌細胞及び組織の染色に用いることができることが示された。
<実施例5:サンドイッチELISA測定系のための抗体の選択>
(方法)
実施例1で得た抗MGAT5B抗体6種(GT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-9抗体、GT131-12抗体、GT131-14抗体及びGT131-18抗体)をそれぞれELISAプレート固相化側と検出側に用いサンドイッチELISA測定系の検討を行った。まず、各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100μL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルを洗浄した。次に、3%ウシアルブミン(BSA)含有PBSをブロッキング液として300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、0、31.25、62.5、125、250、500ng/mLに調製したMGAT5Bポリペプチド断片の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、洗浄した後、ビオチンラベリングキット(同仁化学研究所)を用いてビオチン標識化した6種の抗体(GT131-2抗体、GT131-7抗体、GT131-9抗体、GT131-12抗体、GT131-14抗体及びGT131-18抗体)をそれぞれ1μg/mLに調製して、室温で2時間反応させた.その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識アビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。実施例1で得たモノクローナル抗体6種のうち1種(GT131-9)は反応性が弱く、また2種(GT131-14とGT131-18)は互いのサンドイッチELISAでは反応が出なかったことから、同一部位を認識していることが推察された。その他の4種のモノクローナル抗体GT131-2、GT131-7、GT131-12及びGT131-18はいずれの組み合わせを用いた場合もMGAT5B濃度依存的に反応が見られ、4種ともサンドイッチELISA測定系に用いることができることが示された。結果を図4に示す。この中から抗原MGAT5Bを検出するに当たり好ましい組み合わせとして、マイクロプレート固相化用としてモノクローナル抗体GT131-12と、検出用としてモノクローナル抗体GT131-7を以後の実施例で用いることとした。
<実施例6:高感度サンドイッチCLEIA測定系の構築>
実施例5で選択したモノクローナル抗体GT131-7抗体とGT131-12抗体の組み合わせによるサンドイッチELISA測定系の感度を上げるため、化学発光を用いた検出系(化学発光酵素免疫測定法、Chemiluminescent Enzyme Immunoassay;CLEIA法)の適用を検討した。
(方法)
本発明のGT131-12抗体を4μg/mLに調製し、蛍光測光用96ウェルマイクロプレート(Nunc社)に100μL/ウェルずつ添加して、室温で7時間固定した。抗体溶液を廃棄した後、0.05% Tween20含有PBSで洗浄し、ブロッキング液(0.2%高純度カゼイン(I-Block、Life Technologies社)、0.1% Tween20、0.15M NaCl含有20mMトリス-pH8.0)を300μL/ウェルで加え、4℃で一晩ブロッキングした。濃度標準品としてMGAT5Bポリペプチド断片を、上記ブロッキング液で0、0.6125、1.25、2.5、5、10、20、40、80、160ng/mLに調製した。各濃度標準品10μLを90μLのブロッキング液と共に上記洗浄後のマイクロプレートに添加して37℃で2時間反応させた。反応後、0.05% Tween20含有PBSで5回洗浄し、アルカリフォスファターゼラベリングキット(同仁化学研究所)を用いてアルカリフォスファターゼ標識したGT131-7抗体を上記ブロッキング液で0.5μg/mLに調製して、100μL/ウェルで添加し、室温、暗所で1時間半反応させた。反応後、0.05% Tween20含有PBSで4回、1mM塩化マグネシウム含有20mMトリス(pH9.8)で2回洗浄して、化学発光試薬CSPD Substrate Sapphire-II(Life Technologies社)を1ウェルに100μLを添加し、室温、暗所で反応させて、45分後に発光強度を測定した。
(結果)
図5に濃度標準品の測定値より得た標準曲線を示す。本発明のGT131-12抗体及びGT131-7抗体を用いたサンドイッチCLEIA法により、検出感度約1ng/mLで被検者由来の試料中の糖転移酵素MGAT5Bポリペプチド断片を定量することができることが確認された。この標準曲線を用いて被験者から得た試料中に存在するMGAT5Bポリぺプチド断片の濃度を求めることができる。
<実施例7:上皮性卵巣癌患者の腹腔洗浄液等におけるMGAT5Bポリペプチド断片量の測定>
(方法)
(1)実験例1
実施例6で得たMGAT5Bポリペプチド断片の標準曲線とサンドイッチCLEIA法を用いて、上皮性卵巣癌患者から採取した腹腔洗浄液40例、その対照群として腹腔内播種のある胃癌患者から採取した腹腔洗浄液55例、及び腹腔内播種のない胃癌患者の腹腔洗浄液159例を試料として、それぞれの試料中における上皮性卵巣癌マーカー(MGAT5Bポリペプチド断片)の濃度を定量的に測定した。測定方法の詳細については、実施例6に記載の方法に準じて行った。
(2)比較例1
また、上記実験例1で用いた上皮性卵巣癌患者から採取した腹腔洗浄液40例を試料として、各試料における既存の卵巣癌マーカーCA125及びGATを測定した。CA125は、Abnova社のCA125 (Human) ELISAキット(カタログNo.:KA0205)、GATは、コニカミノルタ社のGATテストキットを用いて、それぞれの添付のプロトコールに従い測定した。得られたそれぞれのマーカーの測定値を、実験例1で得た卵巣癌患者腹腔洗浄液40例のMGAT5Bポリペプチド断片の濃度測定値と比較した。
(結果)
実験例1の結果を図6に、また比較例1の結果を図7及び図8に示す。
まず、図6に示すように、測定値(上皮性卵巣癌マーカー濃度)の統計解析を行ったところ、上記3群にはそれぞれ有意差があった。特に胃癌の2群と比較して卵巣癌では有意に高い測定値を示し、その平均値は、卵巣癌患者検体で19.6ng/mL、播種のある胃癌患者検体で3.3ng/mL、播種のない胃癌患者検体で2.1ng/mLであった。この結果から、本発明の2つの抗MGAT5B抗体、すなわちGT131-7抗体及びGT131-12抗体を用いたサンドイッチCLEIA法を用いて、そのカットオフ値を4.6ng/mLに設定することで、被験者由来の試料から上皮性卵巣癌の罹患を高い正診率で判定できることが立証された。
次に、図7に示すように、MGAT5Bポリペプチド断片の濃度は、既存の卵巣癌マーカーCA125(a)及びGAT(b)のいずれの測定値とも相関を示さなかった。一方、図8に示すように、CA125測定値とGAT測定値との間には正の相関が認められ、相関係数は、0.65であった。これらの結果から、本発明によるMGAT5Bポリペプチド断片の測定値は、既存の卵巣癌マーカーとは異なる機序で分泌される病態を反映することが示唆された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
GT131-2;国内受託番号:FERM P-22097;国際受領番号:FERM ABP-11496
GT131-7;国内受託番号:FERM P-22098;国際受領番号:FERM ABP-11497
GT131-12;国内受託番号:FERM P-22099;国際受領番号:FERM ABP-11498
GT131-18;国内受託番号:FERM P-22100;国際受領番号:FERM ABP-11499

Claims (11)

  1. 配列番号1で示すアミノ酸配列からなるポリペプチドの一部をエピトープとして認識するβ1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5B抗体を含む上皮性卵巣癌検出試薬
  2. 前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の上皮性卵巣癌検出試薬
  3. 国際受託番号がFERM BP-11496、FERM BP-11497、FERM BP-11498又はFERM BP-11499であるハイブリドーマにより産生される、請求項2に記載の上皮性卵巣癌検出試薬
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の上皮性卵巣癌検出試薬を構成する抗体に存在する少なくとも1組の対応する軽鎖相補鎖決定領域及び重鎖相補鎖決定領域を含むβ1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5B組換え抗体を含む上皮性卵巣癌検出試薬
  5. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の上皮性卵巣癌検出試薬を構成する抗体又は請求項4に記載の上皮性卵巣癌検出試薬を構成する組換え抗体の断片であって、β1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5Bを特異的に認識する活性を有する体断片を含む上皮性卵巣癌検出試薬
  6. 被験者由来の試料中に存在するβ1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5Bポリペプチド断片を定量的及び/又は定性的に検出し、その検出結果に基づいて該被験者における上皮性卵巣癌の罹患の有無を判定する上皮性卵巣癌判定方法。
  7. 前記β1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5Bポリペプチド断片の定量検出結果においてβ1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5Bポリペプチド断片の定量値が所定の値以上であった場合、その被験者は上皮性卵巣癌に罹患している可能性が高いと判定する、請求項に記載の上皮性卵巣癌判定方法。
  8. 前記β1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5Bポリペプチド断片が配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全部又は一部である、請求項又はに記載の上皮性卵巣癌判定方法。
  9. β1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5Bポリペプチド断片を請求項1〜3のいずれか
    一項に記載の上皮性卵巣癌検出試薬を構成する抗体、請求項4に記載の上皮性卵巣癌検出試薬を構成する組換え抗体及び請求項5に記載の上皮性卵巣癌検出試薬を構成する抗体断片からなる群より選択される少なくとも1つの抗体、組換え抗体及び/又は抗体断片を用いて検出する、請求項のいずれか一項に記載の上皮性卵巣癌判定方法。
  10. β1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素5Bポリペプチド断片上の異なるエピトープを認識する2つの抗体、組換え抗体及び/又は抗体断片を用いる、請求項に記載の上皮性卵巣癌判定方法。
  11. 前記試料が、体液、腹腔洗浄液又は組織である、請求項10のいずれか一項に記載の上皮性卵巣癌判定方法。
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