マルチパスフェージング(電波の瞬時的な振幅、位相の変動;電波が周辺の建物等で反射し、反射した複数の波が重なり合うことにより発生する)は、移動通信装置(以下、端末と呼ぶ)の移動に伴って発生する。従って、端末のアンテナが異なるルートを移動すれば、まったく異なるフェージング変動を受けることになる。
ダイバーシチ技術は、このフェージング変動の特徴を活用して受信特性を改善する技術である。例えば、端末において、適当な間隔で2本のアンテナを配置し、端末が移動すると、各々のアンテナで受信される信号のフェージング変動は独立の変動となる。
ダイバーシチの種類の1つに、空間ダイバーシチがある(非特許文献1参照)。空間ダイバーシチにおいては、独立な複数のフェージングを受けた信号は、空間的に離れたアンテナによって得られる。空間ダイバーシチの場合、その構成が比較的単純であり、ダイバーシチブランチ数(アンテナの本数)が任意の数に設定できる、帯域や送信電力を増す必要がない等の特徴があるので、多くのシステムに採用されている実用的な技術である。
ダイバーシチ合成方法の1つとして、選択合成が挙げられる。選択合成は、ダイバーシチブランチの中で最も受信信号レベル(電力)の高いブランチを選択する方法である。具体的な計算方法を以下に示す。
k番目のブランチの時間tにおける復調後の信号をxk(t)とする。信号の値は便宜上、複素数として表現され、絶対値が振幅、偏角が位相を表す。
ブランチ数が2の場合を考える(k=1又は2)。このとき、時間tにおける選択合成による合成後の信号y(t)は、(1)式又は(2)式に示すようになる。
なお、|x1(t)|2=|x2(t)|2の場合、y(t)=x1(t)としてもy(t)=x2(t)としても構わないが、ここではy(t)=x1(t)とした。
上記をブランチ数がMの場合に拡張すると(k=1,2,…,M)、(3)式に示すようになる。但し、(3)式において、iは(4)式を満たす値である。(4)式におけるmax(a
1,a
2,…,a
n)は括弧内要素a
1、a
2、…、a
nのうちの最大値を表している。
なお、ここでは電力(信号の絶対値の2乗)の比較によりブランチを選択したが、このことは振幅(信号の絶対値)の比較によりブランチを選択することと等価である(電力の大小関係と振幅の大小関係は入れ替わらない)。したがって、電力の代わりに振幅を比較し、振幅が最大となるブランチを選択する方法としても構わない。すなわち、(3)式及び、(4)式において、|xi(t)|2→|xi(t)|、|x1(t)|2→|x1(t)|、|x2(t)|2→|x2(t)|、…、|xM(t)|2→|xM(t)|と置き換えた式を適用して、選択合成を行う方法としても構わない。
以上が、空間ダイバーシチにおける選択合成法の理論的な説明である。以降は、この機能を備えた受信機の構成について説明する。
図10は、空間ダイバーシチ機能を備えた、一般的な受信機(適宜、ダイバーシチ受信機と呼ぶ)の構成を示すブロック図である。図10ではブランチ数は2としている。
ダイバーシチ受信機は、ブランチ数に等しい数のアンテナ10−1、10−2、ブランチ数に等しい数の復調部11−1、11−2、ダイバーシチ合成部12、判定部13を備える。
送信機により、情報ビット列はベースバンド(基底帯域)で符号化され、搬送波周波数(高周波)帯域に変調される。変調された信号は、送信機のアンテナより空間に放射され、ダイバーシチ受信機のアンテナ10−1及び10−2に入力される。
各アンテナ10−1、10−2に入力された搬送波周波数帯域の変調信号はそれぞれ、対応する復調部11−1、11−2によって復調されてベースバンドの信号が再生され、ダイバーシチ合成部12に入力される。ダイバーシチ合成部12では、2つのブランチからの信号を所定の方法により合成し、1つの信号として判定部13に出力する。ここで、合成方法として選択合成方法を想定する。すなわち、k番目のブランチの時間tにおける復調部からダイバーシチ合成部12への入力信号をxk(t)として、(3)式又は(4)式を適用し、得られたy(t)をダイバーシチ合成部12の出力信号とする。判定部13に入力されたベースバンド信号は、復号等の処理を行うことにより、元の情報ビット列として再生される。
なお、既述したように、電力の代わりに振幅を比較し、振幅が最大となるブランチを選択する方法としても構わない。すなわち、(3)式及び、(4)式において、|xi(t)|2→|xi(t)|、|x1(t)|2→|x1(t)|、|x2(t)|2→|x2(t)|、…、|xM(t)|2→|xM(t)|と置き換えた式を適用して、選択合成を行う方法としても構わない。
図11は、復調部11(11−1、11−2)の構成を示すブロック図である。
復調部11は、BPF(バンドパスフィルタ)101と、AGC(自動利得制御)アンプ102と、ダウンコンバータ103と、局部発振器104と、LPF(ローパスフィルタ)105と、AGC制御部106とを有する。
アンテナ10(10−1、10−2)からの信号は、BPF101で、所望する搬送波周波数を中心とした所定の帯域を通過させることにより、搬送波周波数帯域の変調信号が取り出され、AGCアンプ102に入力される。
AGCアンプ102に入力された変調信号は、AGC制御部106により決定された所定の利得で増幅され、ダウンコンバータ103に入力される。なお、ここではAGCアンプ102をBFP101の出力とダウンコンバータ103への入力との間の1個だけとしたが、AGCアンプを他の位置(ダウンコンバータ103の出力とLPF105への入力との間、又は、LPF105の出力段)に追加して複数個の構成とするようにしても良い。
ダウンコンバータ103は、AGCアンプ102からの搬送波周波数帯域の変調信号と局部発振器104からの基準信号を乗算することにより、ベースバンド信号を再生し、LPF105に出力する。なお、図11に示す構成ではダイレクトコンバージョンを想定し、基準信号の周波数を搬送波周波数と同一とすることで、直接ベースバンド信号を再生しているが、一旦、搬送波周波数帯域とベースバンドの中間となる周波数帯域の信号に変換後、ベースバンド信号に変換する方法等を適用しても良い。
ダウンコンバータ103からの信号は、LPF105で、所定の周波数以下の帯域(通常、希望信号(受信信号から付加雑音を除いた信号成分)の伝送に必要な帯域)のみを通過させることにより、不要な成分を取り除き、ダイバーシチ合成部12及びAGC制御部106に入力される。
AGC制御部106は、ダイバーシチ受信機内の各部の入出力信号のレベルが所定の範囲に維持されるように、AGCアンプ102の利得を決定する。すなわち、LPF105からのベースバンド信号の電力(または振幅)を観測し、この値が所定の目標値に収束するように、AGCアンプ102の利得を決定する。
AGC制御部106によるAGCアンプ102の利得の決定方法の一例を以下に示す。
k番目のブランチの時間tにおけるLPF105からAGC制御部106への信号をx
LPF,k(t)、その電力を(6)式に示すようにP
LPF,k(t)とすると、AGC制御部106は、j回目の電力の積分値Q
LPF,k,jを、(5)式に示すように計算する。(5)式におけるTは積分開始から終了までの時間(積分を行う周期)である。
一方、k番目のブランチの時間tにおけるアンテナ10に入力される信号の電力(アンテナ10での受信電力)をP
ANT,k(t)、AGCアンプ102の利得をG
k(t)、AGCアンプ102以外のアンテナ10からAGC制御部106までのRF回路の利得をF
k(t)とすると、これらは、P
LPF,k(t)と(7)式に示す関係がある。なお、(7)式では、希望信号に比べて付加雑音は十分に小さいものと仮定し、無視している。(5)式及び(7)式より、(8)式が導かれる。(8)式では、積分区間内においてF
k(t)、G
k(t)は一定であると仮定している。すなわち、(9)式及び(10)式が成り立つものとする。ここで、F
k,j、 G
k,jはk、 jにより決定される定数である。
(8)式〜(10)式より(11)式が導かれる。(11)式におけるP
ANT,k,jは(12)式で表され、k番目のブランチのj回目の電力積分区間内でアンテナ10に入力される信号の平均電力(アンテナ10での平均受信電力)を表している。今、k番目のブランチにおけるAGC制御部106により観測される信号の電力積分の目標値を^Q
LPF,kとする。(11)式において、Q
LPF,k,j→^Q
LPF,k、G
k,j→^G
k,jとおくと、(13)式のように表される。
(13)式おいて、^G
k,jはAGCアンプ102の利得の目標値となるため、AGC制御部106は、この値を次回のAGCアンプ102の利得に決定する。すなわち、^G
k,j→G
k,j+1とおくと、(11)式、(13)式より、以下の各式が導かれる。
ELPF,k,jは電力の積分値QLPF,k,jの目標値^QLPF,kとの比、Rk,jは外乱(QLPF,k,jの制御を乱す要因)を表す。従って、AGC制御部106は、LPF105からの信号の電力の積分値を観測し、この値が目標値に収束するように、AGCアンプ102の利得を決定するフィードバック回路として構成可能である。
以上により、AGC制御部106では、アンテナ10に入力される信号のレベルが小さく(アンテナ10での受信電力が低く)、その結果、復調部11に入力される信号のレベルが小さい場合には、AGCアンプ102の利得を大きくするように、値が決定される。一方、アンテナ10に入力される信号のレベルが大きく(アンテナ10での受信電力が高く)、その結果、復調部11に入力される信号のレベルが大きい場合には、AGCアンプ102の利得を小さくするように、値が決定される。
なお、ここでは電力の積分値が計算される信号(AGC制御部106への入力信号)をLPF105の出力信号としたが、BPF101の出力信号又はAGCアンプ102の出力信号又はダウンコンバータ103の出力信号とする場合でも同様の方法が可能である。
以上の説明では、AGC制御部106は、AGC制御部106に入力される信号の電力を観測するものとして説明したが、電力の代わりに振幅を観測する場合でも同様の手続きが可能である((14)式〜(17)式の両辺を1/2乗した(両辺をそれぞれ平方根した)式を適用すればよい)。
以上、ブランチ数が2の場合のダイバーシチ受信機の構成について説明したが、ブランチ数が3以上の場合も、同様の構成となる。すなわち、アンテナ10及び復調部11がブランチ数と同じ数だけ存在し、ダイバーシチ合成部12は、全ての復調部11からの信号を入力する。その他の説明は、ブランチ数が2の場合と同様であるため省略する。
ところで、ダイバーシチ合成部12でダイバーシチ合成を行う際には、各ブランチのアンテナに入力される信号のレベル(各ブランチのアンテナでの受信電力)の大小が正しく反映されている必要がある。すなわち、ブランチ数が2の場合、復調部11−1及び11−2からダイバーシチ合成部12に入力される2つの信号のレベルの比は、アンテナ10−1及び10−2に入力される2つの信号のレベル(2つのアンテナでの受信電力)の比と等しいことが要求される。
ところが、両ブランチのAGC制御部106(復調部11−1及び11−2内のAGC制御部106)は、各々が所定の信号レベル(または振幅。電力は振幅の2乗であるため、電力を一定にすること振幅を一定にすることは等価である)となるようAGCアンプ102の利得を互いに異なる値に決定する。両ブランチのAGC制御部106が目標とする所定の信号レベルは、通常、両ブランチで回路構成に差異がないため、互いに等しい値となる。このため、両ブランチのアンテナ10−1及び10−2での受信電力が異なる場合でも、両ブランチの復調部11−1及び11−2からダイバーシチ合成部12に入力される2つの信号のレベルは等しくなってしまう。よって、ダイバーシチ合成部12では、両ブランチのアンテナ10−1及び10−2での受信電力の大小が正しく反映されておらず、このままでは、ダイバーシチ合成が正しく行われないため、受信特性が悪くなる。
このような課題の対策の一例として、以下の方法がある。ダイバーシチ合成部12で、両ブランチのアンテナ10−1、10−2での受信電力の大小が正しく反映されるようになるための一手段としては、両ブランチの復調部11−1及び11−2からダイバーシチ合成部12に入力される2つの信号のレベルを、各々のブランチにおけるAGCアンプ102(復調部11−1、11−2内のAGCアンプ102)の利得の値で補正するようにすれば良い。例えば、ダイバーシチ合成部12に入力される信号を、AGCアンプ102の利得の値の平方根により除算すれば良い。これにより、両ブランチのアンテナ10−1、10−2での受信電力の大小が正しく反映されるようになり、ダイバーシチ合成部12によるダイバーシチ合成を正しく行うことが可能となる。上記の内容を、数式を用いて説明すると以下の通りである。
(7)式、(9)式、(10)式より、以下の(18)式が導かれる。ここで、1番目のブランチ及び2番目のブランチの回路構成は同様であるため、AGCアンプ102以外のアンテナ10からAGC制御部106までのRF回路の利得F
k,jは、両ブランチで等しいと仮定する。すなわち、(19)式が成り立つものとする。(18)式及び(19)式より、(20)式が導かれる。(20)式を変形すると、(21)式〜(23)式が導かれる。cは0でない任意の定数である。
上述した通り、復調部11−1及び11−2からダイバーシチ合成部12に入力される信号のレベルPLPF,1(t)及びPLPF,2(t)の比は、アンテナ10−1及び10−2に入力される信号のレベルPANT,1(t)及びPANT,2(t)の比と等しくなる必要があるが、PLPF,1(t)及びPLPF,2(t)をそれぞれ、(21)式〜(23)式の^PLPF,1(t)及び^PLPF,2(t)に置き換えれば(PLPF,k(t)を^PLPF,k(t)に補正すれば)、条件を満たすことが可能である。
(6)式、(22)式、(23)式より、復調部11−1及び11−2からダイバーシチ合成部12に入力される信号x
LPF,1(t)及びx
LPF,2(t)を(24)式及び(25)式のように、補正すれば良い。同様の計算手順で、ブランチ数がMの場合に拡張すると(k=1,2,…,M)、(26)式のようになる。
以上のようにして、ダイバーシチ合成部12に入力される信号を、AGCアンプ102の利得の値の平方根により除算すれば良いことが導かれる。すなわち、k番目のブランチの時間tにおける復調部からダイバーシチ合成部12への入力信号を^xLPF,k(t)とし、(3)式、(4)式内のxk(t)を^xLPF,k(t)(ここで、k=i及びk=1、2、…、M)に置き換えてこれらの式を適用し、y(t)をダイバーシチ合成部12の出力信号とする。
なお、既述したように、電力の代わりに振幅を比較し、振幅が最大となるブランチを選択する方法としても構わない。すなわち、(4)式において、|xi(t)|2→|xi(t)|、|x1(t)|2→|x1(t)|、|x2(t)|2→|x2(t)|、…、|xM(t)|2→|xM(t)|と置き換え、更に(3)式、(4)式内のxk(t)を^xLPF,k(t)(ここで、k=i及びk=1、2、…、M)に置き換えてこれらの式を適用し、選択合成を行う方法としても構わない。
(A)第1の実施形態
以下、本発明によるダイバーシチ受信機の第1の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
(A−1)第1の実施形態の構成
第1の実施形態に係るダイバーシチ受信機も、その全体構成は、上述した図10で表すことができる。第1の実施形態に係るダイバーシチ受信機は、復調部(第1の実施形態に関して符号「11A」を用いる)の内部構成が、従来のダイバーシチ受信機と異なっている。復調部11A(11−1、11−2)以外の処理部は、従来と同様であるため、その説明は省略する。
図1は、第1の実施形態のダイバーシチ受信機における復調部11A(図10の復調部11−1、11−2参照)の内部構成を示すブロック図であり、上述した図11との同一、対応部分には同一符号を付して示している。
第1の実施形態に係る復調部11Aは、従来と同様なBPF101、AGCアンプ102、ダウンコンバータ103、局部発振器104、LPF105及びAGC制御部106に加え、新たにLPF107を有する。LPF107は、ダウンコンバータ103及びLPF105間に介挿されたものである。第1の実施形態の場合、AGC制御部106への入力信号は、LPF105の出力信号ではなく、新たに追加されたLPF107の出力信号となされている。
LPF107は、LPF105と同様の機能であるが、通過可能な信号の帯域幅がLPF105よりも大きく(広く)なされている。以下、LPF107を「広帯域LPF」と呼び、LPF105を「狭帯域LPF」と呼び、ネーミング上も区別することとした。
また、AGC制御部106への入力信号が変わったことにより、第1の実施形態のAGC制御部106は、狭帯域LPF105からのベースバンド信号ではなく、狭帯域LPF105よりも広い通過帯域幅を持つ広帯域LPF107からのベースバンド信号の電力(または振幅)を観測し、この値が所定の目標値に収束するように、AGCアンプ102の利得を決定する。
なお、従来の復調部11の説明でも言及したように、この第1の実施形態においても、AGCアンプ102の介挿位置や介挿されたAGCアンプ数は、図1に示すものに限定されない。但し、以下では、AGCアンプ102が、BFP101及びダウンコンバータ103間に介挿された1個だけとして説明を行う。
また、図1に示す復調部11Aでは、AGC制御部106への入力信号、言い換えると、電力(または振幅)の積分値が計算される信号を、広帯域LPF107の出力信号としているものを示したが、狭帯域LPF105を通過することにより、一部の干渉信号及び付加雑音が除去される前の信号であれば良く、AGC制御部106への入力信号として、BPF101の出力信号、AGCアンプ102の出力信号又はダウンコンバータ103の出力信号を適用することも可能である。但し、以下では、電力(または振幅)の積分値が計算される信号(AGC制御部106への入力信号)が、広帯域LPF107の出力信号とした場合を説明する。
復調部11A内のその他の処理部は、図11に示した従来の復調部11の対応要素と同様であるため、その説明は省略する。
第1の実施形態のダイバーシチ受信機において、復調部11−1や11−2からダイバーシチ合成部12への入力信号のレベルを、AGCアンプ102の利得の値で補正する機能は持っていない(先に説明した、例えば(26)式に示すような補正は不要である)。
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態のダイバーシチ受信機における復調部11Aの動作(処理)を説明する。
k番目のブランチの時間tにおける広帯域LPF107からAGC制御部106(及び狭帯域LPF105;以下、適宜、狭帯域LPF105へ出力されることを言及しないこととする)へのAGC制御用の信号電力P
LPF1,k(t)は、(33)式を適用して、(40)式のように表される(ここでは、AGC制御部106は、信号の電力を観測するものとして説明するが、振幅を観測する場合には、観測した振幅を2乗した値がP
LPF1,k(t)に相当する)。
(40)式において、S
LPF1,k(t)、I
LPF1,k(t)、N
LPF1,k(t)はそれぞれ、k番目のブランチの時間tにおける広帯域LPF107からAGC制御部106への希望信号、干渉信号、付加雑音の電力である。ここで、広帯域LPF107の通過帯域幅は全てのブランチで同一とし、その値をf
LPF1、k番目のブランチの時間tにおける干渉信号及び雑音信号の周波数当たりの電力密度をそれぞれI
0,k(t)、N
0,k(t)とし、これらは通過帯域内で白色(全ての周波数で同じ強度)であると仮定すると、干渉信号の電力I
LPF1,k(t)、付加雑音の電力N
LPF1,k(t)はそれぞれ、(41)式、(42)式のように表される。
今、AGC制御部106の制御により、(43)式に示すように、AGC制御用の信号電力P
LPF1,k(t)が全てのブランチ(k=1,2,…,M)で等しい目標値P
TARGETに収束しているとする(AGC制御部106が信号の振幅を観測する場合、AGC制御用の信号の振幅が、全てのブランチで等しい目標値に収束しているとする。既述のように、信号の電力は振幅の2乗であるため、AGC制御用の信号の電力が全てのブランチで等しいことと、AGC制御用の信号の振幅が全てのブランチで等しいことは等価である。したがって、信号の振幅を観測する場合においても、以降の式は成立する)。すなわち、以下の式が成り立つものとする。また、(44)式に示すように、γ番目のブランチのSINRはδ番目のブランチのSINRよりも大きいものとする。このとき、(34)式及び(44)式より、(45)式が導かれる。また、(40)式及び(43)式より、(46)式、(47)式が導かれる。
(45)式〜(47)式より、γ番目のブランチについての干渉信号電力I
LPF1,γ(t)及び付加雑音電力N
LPF1,γ(t)と、δ番目のブランチについての干渉信号電力I
LPF1,δ(t)及び付加雑音電力N
LPF1,δ(t)を消去すると、(48)式が導かれる。同様に、(45)式〜(47)式より、γ番目及びδ番目のブランチについての希望信号電力S
LPF1,γ(t)及びS
LPF1,δ(t)を消去すると、(49)式が導かれる。
(48)式及び(49)式は、AGC制御部106により、両ブランチの信号の電力PLPF1,γ(t)及びPLPF1,δ(t)を同じ値に揃えたことにより、SINRの大きい方のブランチは、SINRの小さい方のブランチよりも、希望信号レベルは大きく、干渉信号レベルと付加雑音レベルの和は小さくなることを示している。
広帯域LPF107を通過した信号がさらに狭帯域LPF105を通過した信号である、k番目のブランチの時間tにおける狭帯域LPF105からダイバーシチ合成部12への選択合成用の信号電力P
LPF2,k(t)は、(40)式と同様に、(50)式のように、希望信号の電力S
LPF2,k(t)、干渉信号の電力I
LPF2,k(t)、付加雑音の電力N
LPF2,k(t)の和として表される。
今、狭帯域LPF105の通過帯域幅は全てのブランチで同一とし、その値をf
LPF2とし、その通過帯域幅f
LPF2は希望信号の帯域幅よりも大きいものとすると、(51)式が導かれる。一方、選択合成用の干渉信号の電力I
LPF2,k(t)、付加雑音の電力N
LPF2,k(t)はそれぞれ、(41)式、(42)式と同様に、(52)式、(53)式で表される。
また、広帯域LPF107及び狭帯域LPF105の通過帯域幅f
LPF1及びf
LPF2の関係は、(55)式に示す範囲をとる定数bを用いて、(54)式で表されるものとする。このとき、(41)式、(42)式、(52)式〜(54)式より、(56)式、(57)式が導かれ、(50)式、(51)式、(56)式、(57)式より、(58)式が導かれる。
(58)式は、狭帯域LPF105の通過により、狭帯域LPF105の通過帯域幅fLPF2よりも狭い希望信号の電力SLPF1,k(t)は維持され、狭帯域LPF105の通過帯域幅fLPF2よりも広い干渉信号及び付加雑音の電力ILPF1,k(t)及びNLPF1,k(t)は、フィルタの帯域幅が狭まった分だけ減少することを示している。
図2は、この様子を示したものである。図2(A)及び(B)はそれぞれ、k番目のブランチの時間tにおける広帯域LPF107からAGC制御部106(及び狭帯域LPF105)へのAGC制御用の信号電力を周波数領域及び時間領域で表したものである。また、図2(a)及び(b)はそれぞれ、k番目のブランチの時間tにおける狭帯域LPF105からダイバーシチ合成部12への選択合成用の信号電力を周波数領域及び時間領域で表したものである。図2(A)及び(a)の横軸は周波数、縦軸は電力であり、点Oは原点を表している。太線で囲まれた部分のうち、白色部分は希望信号の電力、斜線部分は干渉信号の電力と付加雑音の電力の和を表している。一方、図2(B)及び(b)の横軸は時間、縦軸は電力であり、点Oは原点を表している。/PLPF1,k、/PLPF2,kはそれぞれ、PLPF1,k(t)、PLPF2,k(t)の時間tに対する平均値を表している。
(40)式及び(43)式を用いて(58)式を書き換えると、(59)式のようになる。
(59)式より、上述したγ、δ番目のブランチの時間tにおける狭帯域LPF105からダイバーシチ合成部12への選択合成用の信号電力P
LPF2,γ(t)、P
LPF2,δ(t)は、(60)式、(61)式のようになる。(49)式、(60)式、(61)式より、(62)式が導かれる。
(62)式は、狭帯域LPF105の通過により、SINRが小さい方のブランチは、SINRが大きい方のブランチよりも、干渉信号及び付加雑音の減少分が大きいため、その分だけ、信号レベルが小さくなることを示している。
従って、各ブランチの狭帯域LPF105からダイバーシチ合成部12への選択合成用の信号電力(または振幅)の大小は、各ブランチのSINRの大小と一致している。すなわち、狭帯域LPF105からダイバーシチ合成部12への信号の電力(または振幅)が最も大きいブランチが、最もSINRが大きいことを示している。従って、先に説明した、例えば(26)式に示すようなAGCアンプ102の利得の値による補正は不要であり、このまま(3)式及び(4)式を適用して、選択合成が可能である。ここで、狭帯域LPF105からダイバーシチ合成部12への信号をxLPF2,k(t)とすると、(3)式及び(4)式におけるxk(t)=xLPF2,k(t)(k=i及びk=1、2、…、M)であり、(6)式と同様、PLPF2,k(t)=|xLPF2,k(t)|2の関係がある。すなわち、(3)式及び(4)式において、xk(t)=xLPF2,k(t)(k=i及びk=1、2、…、M)とし、y(t)をダイバーシチ合成部12の出力信号とする。
なお、既述したように、電力の代わりに振幅を比較し、振幅が最大となるブランチを選択する方法としても構わない。すなわち、(3)式及び、(4)式において、|xi(t)|2→|xi(t)|、|x1(t)|2→|x1(t)|、|x2(t)|2→|x2(t)|、…、|xM(t)|2→|xM(t)|と置き換えた式を適用して、選択合成を行う方法としても構わない(この場合も、置き換え後の(3)式及び(4)式において、xk(t)=xLPF2,k(t)(k=i及びk=1、2、…、M)とする)。しかも、(62)式は、干渉信号の電力ILPF1,k(t)及び付加雑音の電力NLPF1,k(t)が各ブランチで異なっていても成立するため、希望信号以外の干渉信号及び付加雑音のレベルがダイバーシチブランチ毎に異なる場合でも、ダイバーシチ合成(ここでは、選択合成による方法)を適切に動作することが可能になっていることが分かる。
(A−3)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態によれば、希望信号以外の干渉信号及び付加雑音のレベルがダイバーシチブランチ毎に異なる場合でも、ダイバーシチ合成(選択合成)を適切に動作させることができ、受信特性を劣化させないダイバーシチ受信機を実現することができる。
(B)第2の実施形態
次に、本発明によるダイバーシチ受信機の第2の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図3は、第2の実施形態のダイバーシチ受信機における復調部11B(図10の11−1、11−2参照)の詳細構成を示すブロック図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一符号を付して示している。
第2の実施形態の場合、復調部11Bは、アナログ回路及びデジタル回路により実現されている。広帯域LPF107の後段にA/D変換部108が追加されている点が、第1の実施形態と異なっている。狭帯域LPF105及びAGC制御部106はデジタル回路で実装され、それ以外の部分はアナログ回路で実装される。A/D変換部108は、広帯域LPF107からのアナログ信号を所定の周波数で標本化し、量子化したデジタル信号に変換する。その他の構成は、第1の実施形態と同様のため、その説明は省略する。
広帯域LPF107、A/D変換部108、狭帯域LPF105を接続した構成は、アナログ信号からデジタル信号への変換構成部分として、一般に用いられる回路構成である。
A/D変換部108は、希望信号をデジタル信号で再現可能とするため、標本化定理より、標本化周波数を希望信号の帯域幅の2倍以上とする必要がある。これに対し、広帯域LPF107は、A/D変換部108によるデジタル信号への変換時に、折り返し雑音の発生をなくすためのフィルタ(アンチエイリアスフィルタ)であり、通過帯域幅をナイキスト周波数(A/D変換部108の標本化周波数の1/2)以下とする必要がある。A/D変換部108の標本化周波数を必要以上とすることは消費電力の増大や実装上の困難さを生み出すため、最小値(希望信号の帯域幅の2倍)にすることが望ましい。この場合、広帯域LPF107の通過帯域幅は、ナイキスト周波数である希望信号の帯域幅以下とする必要があるが、希望信号を通過させる必要があるため、広帯域LPF107の通過帯域幅は、希望信号の帯域幅と同じ値しか取れない(希望信号よりも小さい帯域幅にはできない)。しかし、アナログフィルタにより実装された広帯域LPF107では急峻なフィルタ特性の実現は困難なため、広帯域LPF107の通過帯域幅は、希望信号の帯域幅よりも大きい値とする必要がある。上述した通り、通過帯域幅はナイキスト周波数(A/D変換部108の標本化周波数の1/2)以下とする必要があるため、結果として、A/D変換部の標本化周波数を、最小値(希望信号の帯域幅の2倍)から広帯域LPF107の通過帯域幅(希望信号の帯域幅よりも大きい値)の2倍以上に変更する必要がある。従って、A/D変換部108は、希望信号をデジタル信号で再現可能な最小値(希望信号の帯域幅の2倍)よりも大きな標本化周波数によるサンプリング(オーバーサンプリング)を行う。その結果、広帯域LPF107を設けた本来の目的外で(広帯域LPF107による急峻なフィルタ特性実現の困難さにより)、広帯域LPF107の通過帯域幅は、希望信号の帯域幅よりも十分に大きな値を取ることが多い。A/D変換部108により変換された希望信号よりも広い帯域幅を持つデジタル信号は、FIR等のデジタルフィルタにより実装された狭帯域LPF105により、希望信号の帯域幅に制限され、後段の処理に渡される。
従って、アナログ信号からデジタル信号への変換構成部分として一般的な構成をそのまま活用し、AGC制御部106の入力信号を、広帯域LPF107通過後にA/D変換部108により変換した、希望信号の帯域幅よりも広い帯域幅を持つデジタル信号とすることにより、第1の実施形態で説明した技術思想の実現が可能である。
第2の実施形態によっても、第1の実施形態と同様な効果を奏することができる。
(C)第3の実施形態
次に、本発明によるダイバーシチ受信機の第3の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図4は、第3の実施形態のダイバーシチ受信機における復調部11C(図10の11−1、11−2参照)の詳細構成を示すブロック図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一符号を付して示している。
第3の実施形態のダイバーシチ受信機における復調部11Cは、第1の実施形態と同様な構成に加え、狭帯域LPF105及びダイバーシチ合成部12との間に介挿されたAGCアンプ109と、そのAGCアンプ109への制御信号を生成するAGC制御部110とを有している。AGCアンプ109及びAGC制御部110以外の構成要素は、第1の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。なお、AGCアンプ109を「後段AGCアンプ」と呼び、AGCアンプ102とネーミング上も区別する。
後段AGCアンプ109は、AGCアンプ102と同様の機能であるが、AGC制御部110により決定した所定の利得に増幅される点が、AGCアンプ102とは異なっている。第1の実施形態の復調部11Aでは、ダイバーシチ合成部12への信号は、狭帯域LPF105を通過することにより、一部の干渉信号及び付加雑音が除去されるため、ダイバーシチ合成部12への信号のレベルは、広帯域LPF107の出力信号のレベルよりも減少するが、第3の実施形態の復調部11Cでは、後段AGCアンプ109により、所定のレベルに増幅する点が異なっている。これにより、ダイバーシチ合成部12の後段にある判定部13の性能が向上する場合、受信特性が改善する。しかしながら、各ブランチで所定のレベルに増幅されたことにより、各ブランチの後段AGCアンプ109からダイバーシチ合成部12への信号の電力(または振幅)の大小は、各ブランチのSINRの大小とは一致しなくなってしまう。従って、ダイバーシチ合成部12での選択合成を正しく行うには、所定のレベルに増幅する前の各ブランチの信号である狭帯域LPF105の出力信号(この出力信号は、第1の実施形態の復調部11Aにおけるダイバーシチ合成部12への信号と一致するため、この出力信号の振幅(信号の絶対値)または電力(信号の絶対値の2乗)の大小は、各ブランチのSINRの大小と一致している)を、ダイバーシチ合成部12への重みとして、ダイバーシチ合成部12に出力する必要がある。すなわち、k番目のブランチの時間tにおける狭帯域LPF105の出力信号をxLPF2,k(t)とした場合、ダイバーシチ合成部12への重みをwk(t)とすると、wk(t)=xLPF2,k(t)である。
以上のように、第3の実施形態の復調部11Cにおいては狭帯域LPF105の出力信号を、新たにダイバーシチ合成部12への重みとして、ダイバーシチ合成部12に出力している点が、第1の実施形態の復調部11Aとは異なっている。
k番目のブランチの時間tにおける、後段AGCアンプ109の出力であるダイバーシチ合成部12への信号をxk(t)、狭帯域LPF105の出力であるダイバーシチ合成部12への重みをwk(t)とする。
最初に、ダイバーシチ合成部12への重みの絶対値の2乗、すなわち電力に換算した値は、P
LPF2,k(t)に相当するので、(59)式より、(63)式のよう表される。また、ダイバーシチ合成部12への信号は、全てのブランチで同じ値となる所定のレベルに増幅され、この値はP
LPF1,k(t)に等しいものとすると、(43)式より、(64)式のように表される。
なお、図4では、AGCアンプが、BFP101及びダウンコンバータ103間に介挿されたAGCアンプ102と、狭帯域LPF105及びダイバーシチ合成部12間に介挿された後段AGCアンプ109の計2個としたが、さらに他のAGCアンプを他の位置に追加して3個以上の構成とするようにしても良い。但し、以下の説明では、図4のように2個のAGCアンプ102及び109の場合を説明する。
AGC制御部110は、AGC制御部106とほぼ同様の機能であるが、後段AGCアンプ109の利得を決定する点、その際に後段AGCアンプ109からのベースバンド信号のレベル(または振幅)を観測する点が、AGC制御部106とは異なっている。
第3の実施形態の復調部11Cをダイバーシチ合成部12に接続する場合、ダイバーシチ合成部12の入力は、復調部11Cの後段AGCアンプ109の出力であるダイバーシチ合成部への信号と、狭帯域LPF105の出力であるダイバーシチ合成部への重みの2種類となる点が、第1の実施形態の復調部11Aをダイバーシチ合成部12に接続する場合と異なっている。
ダイバーシチ合成部12への入力が2種類となる場合の合成方法について、以下に説明する。この場合、(3)式及び、x
k(t)をw
k(t)(ここで、k=i及びk=1、2、…、M)に置き換えた(4)式を適用して、ダイバーシチ合成部12の出力y(t)は、(65)式のように表される。但し、iは(66)式を満たす値である。
上記で説明した通り、各ブランチの|wi(t)|2の大小は、各ブランチのSINRの大小と一致しているため、(65)式、(66)式によるダイバーシチ合成は正しく行われる。
なお、既述したように、電力の代わりに振幅を比較し、振幅が最大となるブランチを選択する方法としても構わない。すなわち、(65)式及び、(66)式において、|wi(t)|2→|wi(t)|、|w1(t)|2→|w1(t)|、|w2(t)|2→|w2(t)|、…、|wM(t)|2→|wM(t)|と置き換えた式を適用して、選択合成を行う方法としても構わない。
第3の実施形態によっても、第1の実施形態と同様な効果を奏することができる。
(D)第4の実施形態
次に、本発明によるダイバーシチ受信機の第4の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図5は、第4の実施形態のダイバーシチ受信機における復調部11D(図10の11−1、11−2参照)の詳細構成を示すブロック図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一符号を付して示している。
第4の実施形態のダイバーシチ受信機における復調部11Dは、AGC制御部106に対して狭帯域LPF105の出力信号が入力される点が、第1の実施形態の復調部11Aとは異なっている。すなわち、第4の実施形態の場合、AGC制御部106は、広帯域LPF107からのベースバンド信号ではなく、広帯域LPF107よりも狭い通過帯域幅を持つ狭帯域LPF105からのベースバンド信号のレベル(または振幅)を観測し、この値が所定の目標値に収束するように、AGCアンプ102の利得を決定する。
上述した第1の実施形態では、ダイバーシチ合成部12への信号は、狭帯域LPF105を通過することにより、一部の干渉信号及び付加雑音が除去されるため、広帯域LPF107の出力信号中の干渉信号及び付加雑音の割合が大きいほど、ダイバーシチ合成部12への信号のレベルは、広帯域LPF107の出力信号のレベルからの減少量も大きくなるが、第4の実施形態では、AGC制御部106により、狭帯域LPF105を通過した信号が所定のレベルとなるように、AGCアンプ102の利得を決定するため、干渉信号及び付加雑音の割合に拘わらず、ダイバーシチ合成部12への信号の電力を所定のレベルに引き上げることが可能となる。これにより、ダイバーシチ合成部12の後段にある判定部13の性能が向上する場合、受信特性が改善する。しかしながら、上述した第3の実施形態と同様、各ブランチで所定のレベルに増幅されたことにより、各ブランチの狭帯域LPF105からダイバーシチ合成部12への信号の電力(または振幅)の大小は、各ブランチのSINRの大小とは一致しなくなってしまう。従って、ダイバーシチ合成部12での選択合成を正しく行うには、所定のレベルに増幅する前の各ブランチの信号である広帯域LPF107の出力信号を、ダイバーシチ合成部12への重みとして、ダイバーシチ合成部12に出力する必要がある。その理由は以下の通りである。広帯域LPF107の出力信号の振幅(信号の絶対値)または電力(信号の絶対値の2乗)が小さいほど、各ブランチのSINRは大きくなる。従って、各ブランチにおける広帯域LPF107の出力信号の振幅の逆数または電力の逆数の大小と、各ブランチのSINRの大小は一致している。なぜならば、狭帯域LPF105により除去された干渉信号及び付加雑音の電力は、SINRが大きいブランチほど小さいため、干渉信号及び付加雑音の全てが含まれる広帯域LPF107の出力信号は、SINRが大きいブランチほど小さくなる。そのため、広帯域LPF107の出力信号を、ダイバーシチ合成部12への重みとして、ダイバーシチ合成部12に出力する必要がある。すなわち、k番目のブランチの時間tにおける広帯域LPF107の出力信号をxLPF1,k(t)とした場合、ダイバーシチ合成部12への重みをwk(t)とすると、wk(t)=xLPF1,k(t)である。
以上のように、広帯域LPF107の出力信号を、新たにダイバーシチ合成部12への重みとして、ダイバーシチ合成部12に出力している点が第1の実施形態(〜第3の実施形態)と異なっている。
k番目のブランチの時間tにおける、狭帯域LPF105の出力であるダイバーシチ合成部12への信号をxk(t)、広帯域LPF107の出力であるダイバーシチ合成部12への重みをwk(t)とする。
ダイバーシチ合成部12への信号の電力はP
LPF2,k(t)に相当し、かつ、全てのブランチで同じ値となる所定のレベルに増幅されるものとし、この値をP
TARGETとすると、(43)式と同様に、(67)式のように表される。また、ダイバーシチ合成部12への重みの絶対値の2乗はP
LPF1,k(t)に相当し、(68)式のように表される。さらに、上述した(40)式及び(58)式より、(69)式が導かれる。
(69)式は、上述した通りの内容、すなわち、各ブランチの干渉信号の電力ILPF1,k(t)又は付加雑音の電力NLPF1,k(t)が大きいほど(すなわち、各ブランチのSINRが小さいほど)、各ブランチの広帯域LPF107の出力であるダイバーシチ合成部12への重みが大きくなることを示している。
AGC制御部106以外の構成要素は、第1の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
既述した実施形態の説明で言及した場合と同様に、AGCアンプ102の数や位置は、図5に示すものに限定されない。
第4の実施形態の復調部11Dをダイバーシチ合成部12に接続する場合、ダイバーシチ合成部12の入力は、狭帯域LPF105の出力であるダイバーシチ合成部12への信号と、広帯域LPF107の出力であるダイバーシチ合成部12への重みの2種類となる。
ダイバーシチ合成部12への入力がこのような2種類となる場合の合成方法について、以下に説明する。この場合、(3)式、及び、x
k(t)を1/w
k(t)に置き換えた(4)式を適用して、ダイバーシチ合成部12の出力y(t)は、(70)式のように表される。(70)式におけるiは、(71)式を満たす値である。(71)式のmin(a
1,a
2,…,a
n)は括弧内要素a
1、a
2、…、a
nのうちの最小値を表している。
なお、上述した第3の実施形態の場合、各ブランチの|wi(t)|2の大小と、各ブランチのSINRの大小は一致する。一方、第4の実施形態の場合、各ブランチの1/|wi(t)|2の大小と、各ブランチのSINRの大小が一致するため、xk(t)を1/wk(t)(ここで、k=i及びk=1、2、…、M)に置き換えた(4)式を適用している。これにより、(70)式、(71)式によるダイバーシチ合成は正しく行われる。
第4の実施形態によっても、第1の実施形態と同様な効果を奏することができる。
なお、既述したように、電力の代わりに振幅を比較し、振幅が最大となるブランチを選択する方法としても構わない。すなわち、(70)式及び、(71)式において、|wi(t)|2→|wi(t)|、|w1(t)|2→|w1(t)|、|w2(t)|2→|w2(t)|、…、|wM(t)|2→|wM(t)|と置き換えた式を適用して、選択合成を行う方法としても構わない。
(E)第5の実施形態
次に、本発明によるダイバーシチ受信機の第5の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図6は、第5の実施形態のダイバーシチ受信機における復調部11E(図10の11−1、11−2参照)の詳細構成を示すブロック図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一符号を付して示している。
第1の実施形態の復調部11Aにおいては、広帯域LPF107を通過した信号はLPF105を通過するように、広帯域LPF107及び狭帯域LPF105が直列接続されていたが、この第5の実施形態の復調部11Eにおいては、広帯域LPF107を通過した信号は狭帯域LPF105を通過しないように、すなわち、広帯域LPF107及び狭帯域LPF105は、それぞれにダウンコンバータ103の出力信号が与えられるように並列接続されている。
広帯域LPF107及び狭帯域LPF105回りの接続は変更になっているが、第5の実施形態でも、AGC制御部106に対しては広帯域LPF107の出力信号が与えられ、ダイバーシチ合成部102には狭帯域LPF105の出力信号が与えられているので、ダイバーシチ合成部102から見ると、第5の実施形態は第1の実施形態と同様に作用する。
すなわち、第5の実施形態によっても、第1の実施形態と同様な効果を奏することができる。
(F)他の実施形態
第5の実施形態は、第1の実施形態をベースとし、広帯域LPF107及び狭帯域LPF105をダウンコンバータ103の出力信号が与えられるように並列的に設けた変更を施したものであった。
このような広帯域LPF107及び狭帯域LPF105を並列的に設けるという技術思想は、上述した第3の実施形態や第4の実施形態をベースとした変更点にもなり得る。
図7は、詳述は避けるが、第3の実施形態をベースとし、広帯域LPF107及び狭帯域LPF105をダウンコンバータ103の出力信号が与えられるように並列的に設けた変更を施した復調部11Fを示している。
また、図8は、詳述は避けるが、第4の実施形態をベースとし、広帯域LPF107及び狭帯域LPF105をダウンコンバータ103の出力信号が与えられるように並列的に設けた変更を施した復調部11Gを示している。
図9は、図1、図3〜図8に示す各実施形態の相違などをまとめた説明図である。図9において、各実施形態の特定を、実施形態に対応する図番で表している。各実施形態は、広帯域LPF107の出力信号のレベル(または振幅)を観測するAGC制御を行っているか否か、狭帯域LPF105の出力信号のレベル(または振幅)を観測するAGC制御を行っているか否か、広帯域LPF107及び狭帯域LPF105の接続方法などの観点から区別することができる。
上記第2の実施形態では、アナログ回路とデジタル回路とを混在させた復調部の一例を示したが、アナログ回路とデジタル回路との振分けは、第2の実施形態のものに限定されるものではない。大半をデジタル回路で構成しても良く、逆に、大半をアナログ回路で構成するようにしても良い。復調部だけでなく、ダイバーシチ受信機の大半をデジタル回路で構成しても良く、逆に、大半をアナログ回路で構成するようにしても良い。さらに、デジタル回路で構成した部分を、CPUと、CPUが実行するプログラムで実現するようにしても良い。