以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
[1.装置構成]
本実施形態に係る車両制御装置の構成について、図1を用いて説明する。ここでは、電気自動車に本制御装置を備えた場合を説明する。
図1に示すように、電気自動車(車両)10には、駆動用(車両動力用)の電気モータ11(以下、モータ11という),電力を蓄電するバッテリ12,交流電力を生成するインバータ13,冷却用のウォータポンプ(ポンプ)14,シフトレバー(セレクターを含む;シフト装置)15,アクセルペダル16が設けられている。
モータ11は、例えば高出力の永久磁石式同期型モータであり、インバータ13から供給される交流電力を受けてロータ(回転子)を回転させ、電気エネルギを機械エネルギに変換する電動機である。モータ11は図示しない駆動輪と機械的に接続され、モータ11の駆動力は駆動輪へ伝達されて車両10を走行させる。モータ11の回転数Nm[rpm]は、インバータ13で変換される交流電力の周波数に比例し、モータ11のトルクT[Nm]は、モータ11に供給する電流の大きさに比例する。そのため、インバータ13を制御することでモータ11の回転数Nm及びトルクTを調整することができる。なお、モータ11の近傍には、モータ11の回転数Nmを検出する回転数センサ21が設けられ、回転数センサ21で検出された回転数Nmは後述するインバータECU2へ随時伝達される。
バッテリ12は、例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池であり、高電圧直流電流がインバータ13によって交流に変換された後、モータ11へ供給される。
インバータ13は、バッテリ12と電気的に接続され、バッテリ12から供給される直流電流を三相交流電流へ変換して、モータ11へ供給する電力変換装置である。インバータ13には、複数(例えば三つ)のスイッチング素子が内蔵されており、複数の素子が後述するモータ制御部4からの指令に基づいてスイッチング制御されることで、三相交流電流を生成する。また、これらのスイッチング素子をスイッチングする切り換え周期ST(各スイッチング素子に電流が流れる時間)を変更することで交流電流の周波数を変更できるようになっている。例えば、スイッチング素子の切り換え周期STを長くすることで交流電流の周波数を小さくすることができ、これによりモータ11の回転数を低くすることができる。
スイッチング素子は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やサイリスタ等であり、ここでは高耐圧、大電流により適したIGBTを用いる。IGBTは、モータ11が作動しているときは常にスイッチング制御されて交流電力を生成している。このとき、IGBTには比較的大きな電流が流れているため、IGBTは発熱して高温になる。特にIGBTに大電流が流れたときは、最も発熱量が大きく、これによりインバータ13の温度も高温となる。これを冷却するために、インバータ13の周辺には冷却装置が設けられる。
なお、車両10には、インバータ13の温度Hを検出する温度センサ(温度取得手段)23が設けられる。温度センサ23は、例えばインバータ13の内部の発熱しやすいスイッチング素子近傍に設けられ、このスイッチング素子の温度をインバータ13の代表温度Hとして出力する。温度センサ23で検出されたインバータ温度Hは、随時インバータECU2へ伝達される。
冷却装置は、ウォータポンプ14,冷却通路17及びラジエータ18から構成される。ウォータポンプ14は、冷却通路17(図2参照)に冷却媒体(例えば、冷却水)を流通させる(送り込む)電動ポンプ(電動圧送装置)であり、バッテリ12から供給される電力によって作動する。なお、ここでは冷却媒体として冷却水が用いられる例を説明するが、冷却媒体として冷却オイルが用いられてもよい。
図2に示すように、インバータ13の周辺には冷却通路17が設けられ、冷却通路17を冷却媒体が流通することでインバータ13の熱を吸収し、これによりインバータ13が冷却される。冷却通路17は、冷却媒体が一方向に流れる循環回路であり、この冷却通路17上にはウォータポンプ14及びラジエータ18が介装されている。なお、ラジエータ18は冷却媒体の熱を放熱するための装置である。ここでは、ウォータポンプ14及び冷却通路17はインバータ13専用のポンプ及び冷却通路として構成されているが、他の装置(例えばバッテリ,モータ等)を冷却する構成と併用されていてもよい。
ウォータポンプ14の作動/非作動(停止)は、後述のポンプ制御部3によって制御される。ウォータポンプ14は、回転数(稼働速度)に応じて吐出量(冷却通路17に送り込むことができる冷却媒体の流量)が決定される。ここでは、ウォータポンプ14は、作動が開始されると、所定流量(必要流量)QNを吐出できる所定回転数NpQまでポンプ回転数を自動的に上昇させ、所定回転数NpQまで上昇した後は所定回転数NpQを維持する。つまり、ウォータポンプ14はポンプ制御部3によって作動/停止(オンオフ)制御のみ行われるものである。なお、この所定流量QNは、インバータ13を十分冷却可能な冷却媒体の流量である。
シフトレバー15は、ドライバの操作によって車両10の走行状態を選択して切り替えるための切替装置(シフト装置)であり、運転席近傍に設けられる。シフトレバー15は、パーキング(Pレンジ),ニュートラル(Nレンジ),ドライブ(Dレンジ),リバース(Rレンジ)の各レンジに切り替え可能に構成されている。ドライバはシフトレバー15の切り替え操作によって走行状態を選択する。なお、シフト装置はレバーに限られず、例えばボタン式であってもよい。
シフトレバー15には、シフトレバー15で選択されている現在のシフトポジション(操作位置)SPを検出するシフトポジションセンサ25が設けられる。シフトポジションセンサ25は、例えばシフトレバー15の操作位置に応じたポジション信号(ポジション情報)を出力する。シフトポジションセンサ25で検出されたポジション情報は、後述の車両ECU1に随時伝達される。
すなわち、シフトレバー15の切り替え操作とモータ11の作動とは連動しており、例えばシフトレバー15がPレンジ又はNレンジに切り替えられたときは、モータ11は停止されて無負荷状態となる。また、シフトレバー15がDレンジ又はRレンジに切り替えられたときは、モータ11は作動される。以下、Pレンジ及びNレンジ以外のレンジ(ここでは、Dレンジ及びRレンジ)を「走行レンジ」と呼ぶ。つまり走行レンジとは、モータ11が仕事をしている(モータ11に負荷がかかっている)状態を意味する。
アクセルペダル16の近傍には、アクセルペダル16の開度θを検出するアクセル開度センサ(APS)26が設けられる。アクセル開度センサ26は、例えばドライバによるアクセルペダル16の踏み込み操作量に応じた開度信号(開度情報)を出力する。アクセル開度センサ26で検出されたアクセル開度情報は、随時車両ECU1に伝達される。
また、車両10の任意の位置に設けられた車速センサ27は、自車両の車速Vを検出するものであり、例えば駆動輪の回転速度に応じた車速信号(車速情報)を出力する。車速センサ27で検出された車速情報は、随時車両ECU1に伝達される。
また、車両10には、これら装置を制御する電子制御装置(Electric Control Unit,以下ECUという)が設けられる。ここでは、インバータ13及びウォータポンプ14を制御するインバータECU2と車両10を統合制御する車両ECU(EV−ECU)1とが設けられている。インバータECU2及び車両ECU1は、それぞれメモリ(ROM,RAM)及びCPU等で構成されるコンピュータである。また、車両10には、これらの他にも図示しないバッテリECUや空調ECU,ブレーキECU等の各種ECUが設けられる。
車両ECU1は、各種ECUと情報伝達可能に接続されている。車両ECU1は、その入力側にシフトポジションセンサ25,アクセル開度センサ26及び車速センサ27が接続され、ドライバからの意思(要求)や車両の走行状態等を監視し、各種ECUへ情報を伝達する。また、インバータECU2は、その入力側に回転数センサ21及び温度センサ22が接続され、出力側にインバータ13及びウォータポンプ14が接続される。本制御装置は、主にインバータECU2に備えられる機能によって実現される。
[2.制御構成]
インバータECU2は、ポンプ制御部3としての機能要素と、モータ制御部4としての機能要素とを有する。
ポンプ制御部(ポンプ制御手段)3は、モータ11の作動状態とインバータ13の温度とに応じて、ウォータポンプ14の作動/非作動を制御するものであり、判定部3aとしての機能要素と、作動制御部3bとしての機能要素とを有する。
判定部3aは、ウォータポンプ14を作動させるか否かを判定するものであり、以下の三つの条件を判定して、それぞれの判定結果を作動制御部3bへ伝達する。
まず、判定部3aは、車両ECU1からシフトポジションセンサ25で検出されたポジション情報を取得し、第一条件として、シフトポジションSPが走行レンジでないかどうかを判定する。この判定では、モータ11が作動しているか否か(すなわち、インバータ13において交流電力が生成されているか否か)が判断される。シフトポジションSPが走行レンジでなければ、第一条件が成立していることを表す第一信号(F1=0)を作動制御部3bへ伝達する。一方、シフトポジションSPが走行レンジであるとき(すなわち、モータ11に負荷がかかっている場合)は、第一条件が不成立であることを表す第一信号(F1=1)を作動制御部3bへ伝達する。
次に、判定部3aは、第二条件として、回転数センサ21で検出されたモータ回転数Nmが所定回転数Nm0よりも大きいか否かを判定する。この判定では、インバータ13に内蔵されたIGBTの切り換え周期STが所定値ST0よりも長いか否かが判断される。IGBTの切り換え周期STはIGBTに電流が継続的に流れている時間(継続通電時間)に相当し、この周期STが長いということはIGBTがなかなか切り換えられないことを意味する。また、IGBTの継続通電時間は、モータ回転数Nmが低いほど延長される(長くなる)。つまり、モータ回転数Nmが小さく、切り換え周期STが長いほどIBGTの発熱量が増大し、インバータ13が過熱する(オーバーヒートする)おそれが高まる。
そこで、インバータ13がオーバーヒートしない切り換え周期STの上限値を所定値ST0とし、この所定値ST0に対応するモータ回転数Nmが所定回転数Nm0として予めインバータECU2に記憶されている。つまり、IGBTをこの所定値ST0でスイッチング制御した場合に生成される交流電流の周波数を予め求め、この周波数の交流電流でモータ11を作動させた場合の回転数を所定回転数Nm0として記憶しておく。
判定部3aは、モータ回転数Nmが所定回転数Nm0よりも大きいときは、第二条件が成立していることを表す第二信号(F2=0)を作動制御部3bへ伝達する。一方、モータ回転数Nmが所定回転数Nm0以下であるときは、第二条件が不成立であることを表す第二信号(F2=1)を作動制御部3bへ伝達する。
また、判定部3aは、第三条件として、温度センサ22で検出されたインバータ13の温度Hが所定温度H0以下であるか否かを判定する。この判定では、インバータ13を冷却する必要があるか否かが判断される。ここで、所定温度H0は、ウォータポンプ14を停止させて冷却通路17に冷却媒体を流通させていなくても、インバータ13がオーバーヒートしない温度であり、予めインバータECU2に記憶されている。インバータ13の温度Hが所定温度H0以下であれば、第三条件が成立していることを表す第三信号(F3=0)を作動制御部3bへ伝達する。一方、インバータ13の温度Hが所定温度H0よりも高いときは、第三条件が不成立であることを表す第三信号(F3=1)を作動制御部3bへ伝達する。
作動制御部3bは、判定部3aから伝達された各信号に基づいて、ウォータポンプ14を作動させるか停止させるかを決定して制御する。まず、作動制御部3bは、第一信号がF1=0であれば、ウォータポンプ14を停止させ、第一信号がF1=1であれば、第二信号及び第三信号を確認する。つまり、シフトポジションSPが走行レンジ以外では、ウォータポンプ14は常に停止され、シフトポジションSPが走行レンジの場合(F1=1)は、ウォータポンプ14を作動させるか否かを決定するためにモータ11の回転数Nm及びインバータ13の温度Hの状態を確認する。
作動制御部3bは、第一信号がF1=1の場合、第二信号がF2=1であれば、第三信号にかかわらずウォータポンプ14を作動させる。これは、モータ回転数Nmが所定回転数Nm0以下である場合(F2=1)は、インバータ13の温度Hが低い場合であっても急速に温度上昇する可能性があるため、ウォータポンプ14を作動させてインバータ13のオーバーヒートを確実に防止するためである。
一方、作動制御部3bは、第一信号がF1=1の場合に第二信号がF2=0であるときは、第三信号がF3=1であればウォータポンプ14を作動させ、第三信号がF3=0であればウォータポンプ14を停止させる。これは、モータ回転数Nmが所定回転数Nm0よりも高い場合(F2=0)は、インバータ13の温度Hが所定温度H0よりも高ければ(F3=1)、インバータ13を冷却する必要があるため、ウォータポンプ14を作動させてインバータ13のオーバーヒートを確実に防止する。反対に、モータ回転数Nmが所定回転数Nm0よりも高く(F2=0)、インバータ13の温度Hが所定温度H0以下であれば(F3=0)、ウォータポンプ14を停止させてもインバータ13がオーバーヒートするおそれが低いため、ウォータポンプ14を停止させてウォータポンプ14の駆動率を下げる。
なお、作動制御部3bは、第一信号がF1=1の場合に、まず第三信号を確認してもよい。この場合、作動制御部3bは、第三信号がF3=1であれば、第二信号にかかわらずウォータポンプ14を作動させ、インバータ13のオーバーヒートを確実に防止する。また、第三信号がF3=0であるときは、第二信号がF2=1であればウォータポンプ14を作動させ、第二信号がF2=0であればウォータポンプ14を停止させる。
以上のウォータポンプ14の作動状態をまとめると、以下の表1のようになる。なお、作動制御部3bは、ウォータポンプ14を作動させる場合は、モータ制御部4へウォータポンプ14の作動状態を伝達する。
モータ制御部(モータ制御手段)4は、ドライバからの出力要求と現在の走行状態とに基づいて、モータ11の作動を制御するためにインバータ13を制御するものであり、目標トルク設定部4aとしての機能要素と、出力トルク制御部4bとしての機能要素とを備える。
目標トルク設定部4aは、シフトポジションセンサ25で検出されたシフトポジションSP,アクセル開度センサ26で検出されたアクセル開度θ,車速センサ27で検出された車速Vから、ドライバの要求するトルク(目標トルク)TTGTを演算して設定するものである。具体的には、目標トルク設定部4aは、まず車両ECU1からポジション情報を取得して、シフトポジションSPがPレンジ又はNレンジであれば、目標トルクTTGTを0に設定する。
一方、目標トルク設定部4aは、シフトポジションSPが走行レンジであれば、続けて開度情報及び車速情報を取得し、アクセル開度θと車速Vとから目標トルクTTGTを設定する。目標トルクTTGTの設定手法は任意であり、例えば、シフトポジションSP毎に(ここではDレンジ及びRレンジ毎に)、アクセル開度θと車速Vと目標トルクTTGTとの関係を予めマップ化しておき、これらマップを用いて目標トルクTTGTを設定する。
出力トルク制御部4bは、目標トルク設定部4aで設定された目標トルクTTGTから指示トルク(トルク指令値)TCを設定し、指示トルクTCに応じたトルクをモータ11に出力させるためにインバータ13を制御するものである。出力トルク制御部4bは、図3(a)に示すマップを用いて目標トルクTTGTにフィルタ処理をして指示トルクTCを設定する。図3(a)は、時刻t0からの経過時間に対する出力トルク(車両出力トルク)Tの補正率Aを表した補正率マップである。なお、ここでいう「出力トルクT」とは、モータ11が実際に出力するトルクを意味し、出力トルク制御部4bが設定する指示トルクTCと同一であるとみなしてもよい。
出力トルク制御部4bは、目標トルク設定部4aで設定された目標トルクTTGTに補正率A(0<A≦1)を乗じた値を指示トルクTCとして設定する(すなわち、TC=A×TTGT)。つまり、この補正率Aは、実際にモータ11に出力させる出力トルクTを決定するために用いる補正係数である。図3(a)に示すように、補正率Aは、時刻t0では初期補正率A0(A0<1)に設定され、時間経過に伴って徐々に(滑らかに)大きくなるように設定されている。そして、時刻t1において補正率A=1に設定され、時刻t1以降は常に補正率Aは1に設定されている。
ここで、時刻t0は、ポンプ制御部3の作動制御部3bによってウォータポンプ14の作動が開始された場合の「開始時」であり、言い換えるとウォータポンプ14がオフ(停止)からオン(作動)に切り換えられた時刻である。また、時刻t1は、ウォータポンプ14の回転数Npが所定回転数NpQに達した時刻である。また、開始時t0から時刻t1までの時間は、ウォータポンプ14の作動開始からポンプ回転数Npが所定回転数Np0まで上昇するのに要する時間であり、これを所定時間Z(Z=t1−t0)とする。ここでは、ウォータポンプ14はオンオフ制御のみ行われるものであるため、所定回転数NpQまで上昇するのに要する所定時間Zは、予め所定の値が設定されている。
つまり、出力トルク制御部4bは、シフトポジションSPがPレンジ又はNレンジから走行レンジに切り換えられた後、作動制御部3bによってウォータポンプ14の作動が開始された場合に、開始時t0から所定時間Zが経過するまでの間は、目標トルクTTGTに1よりも小さい補正率Aを乗じて指示トルクTCを設定する。言い換えると、出力トルク制御部4bは、所定時間Zの間は目標トルクTTGよりも小さい指示トルクTCを設定して、モータ11の出力トルクTを制限する。なお、補正率Aは、開始時t0から徐々に大きく設定されているため、目標トルクTTGTに対する出力トルクTの制限は徐々に小さくなる。
出力トルク制御部4bが所定時間Zの間、モータ11の出力トルクTを制限する理由について説明する。作動制御部3bによってウォータポンプ14の作動が開始されても、ウォータポンプ14のポンプ回転数Npは、開始時から徐々に増大するため所定回転数NpQまで上昇するには所定の時間t1を要する。
つまり、所定時間Zの間は、ウォータポンプ14によるインバータ13の冷却が不足する可能性がある。例えば、この所定時間Zの間に、モータ11の出力トルクTを最大にしたいという要求がドライバから入力されると、インバータ13はモータ11へ大電流を流す必要があるためオーバーヒートしてしまうおそれがある。そのため、出力トルク制御部4bは、ウォータポンプ14のポンプ回転数Npが所定回転数NpQに上昇するまでの所定時間Zの間は、モータ11の出力トルクTを制限してインバータ13を保護する。
なお、補正率Aを別の表現にすると、モータ11の出力トルクTの制限率Rとも表すことができる。図3(b)は、開始時t0からの時間経過に対する出力トルクTの制限率Rを表した制限率フィルタである。なお、制限率Rとは、1から補正率Aを減じた値である(すなわち、R=1−A)。図3(b)に示すように、制限率Rは、時刻t0では初期制限率R0に設定され、時刻t1以降では0に設定される。また、時刻t0から時刻t1までの間は、制限率Rは徐々に(滑らかに)小さく設定される。
つまり、モータ11の出力トルクTは、ウォータポンプ14の作動開始時t0において最も制限され、その後は徐々に制限が小さくなる。換言すると、出力トルク制御部4bは、目標トルクTTGTに対して、制限率フィルタによってフィルタ処理をして指示トルクTCを設定し、出力トルクTを制限する。
なお、出力トルク制御部4bは、開始時t0から所定時間Z以上の時間が経過したときは、補正率Aは常に1(制限率Rは常に0)に設定されているため、目標トルクTTGTを指示トルクTCとして設定し、設定した指示トルクTCをモータ11が出力するようにインバータ13を制御する。つまり、ウォータポンプ14の回転数Npが所定回転数NpQまで上昇した後は、出力トルクTの制限は行わない。なお、ここでは、図3(a)の補正率マップが予めインバータEUC2に記憶されており、出力トルク制御部4bは、これを用いてモータ11の出力トルクTを制御する。つまり、補正率Aは、開始時t0から経過した時間によってある値に定まる。なお、補正率マップの代わりに図3(b)の制限率フィルタが記憶されていてもよい。
[3.フローチャート]
次に、図4(a)〜(d)及び図5を用いてインバータECU2で実行される制御の手順の例を説明する。図4(a)〜(d)はポンプ制御部3によって実行される制御フローPであり、このうち(a)〜(c)は判定部3aで行われる判定フロー、(d)は作動制御部3bで行われるウォータポンプ14の作動制御フローである。また、図5はモータ制御部4によって実行される制御フローMである。
これらフローチャートは、それぞれ所定の制御周期で互いに独立して動作するとともに、各フローチャートは互いにフラグ情報が伝達される。また、下記の各ステップは、コンピュータのハードウェアに割り当てられた各機能(手段)が、ソフトウェア(コンピュータプログラム)によって動作することによって実施される。本車両制御装置は、パワースイッチ(電源スイッチ)がオンにされたら、図4(a)〜(d)及び図5に示すフローチャートをスタートする。
図4(a)に示すように、フローP1のステップP10では、シフトポジションセンサ25で検出されたシフトポジションSPが車両ECU1から取得される。ステップP12では、取得されたシフトポジションSPがPレンジ又はNレンジであるか否かが判定される。シフトポジションSPがPレンジ又はNレンジであるときは、ステップP14へ進んでフラグF1がF1=0に設定されてフローP1がリターンされる。一方、シフトポジションSPがPレンジ又はNレンジでないときは、ステップP16へ進んでフラグF1がF1=1に設定されてフローP1がリターンされる。ここで、フラグF1は、上記した第一条件が成立しているか否かをチェックするための変数であり、上記の第一信号に対応する。
図4(b)に示すように、フローP2のステップP20では、フラグF1がF1=1であるか否かが判定される。フラグF1がF1=0のときはシフトポジションSPがNレンジ又はPレンジであるため、NOルートからフローP2がリターンされる。フラグF1がF1=1のときは、ステップP22においてモータ回転数Nmが検出され、続くステップP24ではこの回転数Nmが所定回転数Nm0よりも大きいか否かが判定される。
モータ回転数Nmが所定回転数Nm0よりも大きいときは、ステップP26へ進んでフラグF2がF2=0に設定されてフローP2がリターンされる。一方、モータ回転数Nmが所定回転数Nm0以下のときは、ステップP28へ進んでフラグF2がF2=1に設定されてフローP2がリターンされる。なお、フラグF2は、上記した第二条件が成立しているか否かをチェックするための変数であり、上記の第二信号に対応する。
図4(c)に示すように、フローP3のステップP30では、フラグF1がF1=1であるか否かが判定される。フラグF1がF1=0のときはシフトポジションSPがNレンジ又はPレンジであるため、NOルートからフローP3がリターンされる。フラグF1がF1=1のときは、ステップP32においてインバータ12の温度Hが検出され、続くステップP34ではこのインバータ温度Hが所定温度H0以下であるか否かが判定される。
インバータ温度Hが所定温度H0以下であるときは、ステップP36へ進んでフラグF3がF3=0に設定されてフローP3がリターンされる。一方、インバータ温度Hが所定温度H0よりも大きいときは、ステップP38へ進んでフラグF3がF3=1に設定されてフローP3がリターンされる。なお、フラグF3は、上記した第三条件が成立しているか否かをチェックするための変数であり、上記の第三信号に対応する。
図4(d)に示すように、フローP4のステップP40では、フラグF1がF1=1であるか否かが判定され、フラグF1がF1=1のときはステップP42へ進み、フラグF1がF1=0のときはステップP50へ進む。ステップP42では、フラグF2がF2=1であるか否かが判定され、フラグF2がF2=1のときはステップP46へ進み、フラグF2がF2=0のときはステップP44へ進む。ステップP44では、フラグF3がF3=1であるか否かが判定され、フラグF3がF3=1のときはステップP46へ進み、フラグF3がF3=0のときはステップP50へ進む。
ステップP46では、ウォータポンプ14が作動され、続くステップP48では、フラグF4がF4=1に設定されて、フローP4がリターンされる。つまり、ステップP46へ進んだ場合は、インバータ13を冷却する必要があるため、ウォータポンプ14を作動させることでインバータ13のオーバーヒートを防止することができる。
一方、ステップP50では、ウォータポンプ14が停止され、続くステップP52ではフラグF4がF4=0に設定されて、フローP4がリターンされる。つまり、ステップP50へ進んだ場合は、ウォータポンプ14を停止させてもインバータ13がオーバーヒートするおそれが低いため、ウォータポンプ14を停止させることで駆動率を下げることができる。
このフラグF4は、ウォータポンプ14が作動中であるか否かをチェックするための変数である。フラグF4がF=0のときは、ウォータポンプ14が停止していることを意味し、フラグF4がF4=1のときは、ウォータポンプ14が作動していることを意味する。このフラグF4はフローMで用いられる。
図5に示すように、フローMのステップM10では、フラグF4がF4=1であるか否かが判定される。このステップでは、ウォータポンプ14が作動しているか否かが判断される。フローPのステップP48においてフラグF4がF4=1に設定されていれば、ステップM20においてフラグGがG=0であるか否かが判定される。また、フローPのステップP52においてフラグF4がF4=0に設定されていれば、ステップM100へ進み、フラグGがG=0に設定される。
ここで、フラグGは、タイマによる計測が開始されているか否かをチェックするための変数であり、フラグG=0はタイマ計測が行われていないことを意味し、フラグG=1はタイマが計測中であることを意味する。ステップM10においてフラグF4がF4=1であると判定され、続くステップM20においてフラグGがG=0であると判定されたときは、ウォータポンプ14の作動が開始された開始時t0であるため、ステップM30においてタイマによる計測が開始される。これにより、図3(a)に示す補正率マップの横軸の時間が決定される。
続くステップM40では、フラグGがG=1に設定され、ステップM50では、車両ECU1からポジション情報,開度情報及び車速情報が取得される。ステップM60では、これらの各種情報から目標トルクTTGTが設定される。次いでステップM70では、補正率マップからタイマの計測時間tでの補正率Aが取得される。そして、ステップM80では、目標トルクTTGT及び補正率Aから指示トルクTCが設定され、続くステップM90では、設定された指示トルクTCがインバータ13に伝達され、モータ11が制御されてフローMがリターンされる。
次の制御周期において、フラグF4がF4=1であれば(ウォータポンプ14の作動が継続されていれば)、ステップM20の判定ではNOルートからステップM50へ進む。そして、この制御周期での各種情報が取得されて、目標トルクTTGTが再び設定される。次いで、この制御周期でのタイマの計測時間tに対応する補正率Aが新たに取得されて(ステップM70)、この時刻tでの指示トルクTCが設定される(ステップM80)。そして、ステップM90においてモータ制御が実行され、これらのステップが繰り返し実行される。次いで、この制御周期でのタイマの計測時間tに対応する補正率Aが新たに取得されて(ステップM70)、この時刻tでの指示トルクTCが設定される(ステップM80)。そして、ステップM90においてモータ制御が実行され、これらのステップが繰り返し実行される。
また、駐車や信号待ち等でシフトポジションSPが走行レンジからPレンジ又はNレンジに切り換えられた場合や、モータ回転数Nmが所定回転数Nm0よりも上昇してインバータ温度Hが所定温度H0以下である場合は、フローP4ではステップP52においてフラグF4がF4=0に設定される。これにより、フローMでは、ステップM10においてNOルートからステップM100,M110へ進み、タイマが停止させるとともに、それまでカウントしていた計測時間tがリセットされる。つまり、ウォータポンプ14が停止されるとシ、補正率マップの横軸の時間が0にリセットされる。そして、次にウォータポンプ14の作動が開始されたときは、その開始時t0からの経過時間(タイマの計測時間t)に応じた補正率Aが取得される。
[4.効果]
したがって、本実施形態に係る車両制御装置によれば、モータ回転数Nmが所定回転数Nm0以下のときはインバータ13の温度Hにかかわらずウォータポンプ14を作動させるため、インバータ13の温度Hが急速に上昇したときでもインバータ13のオーバーヒートを確実に防止することができる。
つまり、モータ11が低回転で作動しているときはIGBTの発熱量が急速に増大するので、インバータ13の温度Hをトリガにしてウォータポンプ14の作動を制御したのでは、インバータ13のオーバーヒートを確実に防止することが困難である。これに対して、モータ11が所定回転数Nm0以下の低回転で作動しているときは、インバータ13の温度Hが上昇する前に予めウォータポンプ14を作動させることにより、インバータ13のオーバーヒートを防止することができる。
また、モータ回転数Nmが所定回転数Nm0よりも高い場合に、インバータ13の温度に基づいてウォータポンプ14を作動又は停止させることで、インバータ13の温度Hを監視しながらウォータポンプ14の駆動率(作動時間)を下げることができ、ウォータポンプ14の寿命を確保することができる。したがって、本制御装置によれば、ウォータポンプ14の寿命確保とインバータ13の保護とを両立することができる。
また、シフトポジションSPが走行レンジでないときは、モータ11の回転数Nmが所定回転数Nm0以下(すなわち、回転数ゼロ)であってもウォータポンプ14を停止させるため、ウォータポンプ14の不要な作動を極力抑制し、ウォータポンプ14の寿命をより確保することができる。また、この場合はモータ11がトルクを発生しないため、ウォータポンプ14を停止させてもインバータ13がオーバーヒートするおそれはない。
また、ウォータポンプ14は、シフトポジションSPが走行レンジのときは作動される。ただし、ウォータポンプ14がインバータ13の冷却に必要とされる流量(必要流量)を冷却通路17に流通させるまでには、ある程度の時間がかかる。そのため、本制御装置では、ウォータポンプ14の作動が開始された場合は、その開始時t0から所定時間Zが経過するまでの間はモータ11の出力トルクTを制限することで、この所定時間Zはインバータ13の発熱量を抑制する。つまり、ウォータポンプ14の始動後、ウォータポンプ14が必要流量を送り込むことができるようになるまでの間は、モータ11の出力トルクTを抑制することでインバータ13のオーバーヒートを防止することができ、インバータ13をより確実に保護することができる。
また、モータ11の出力トルクTを制限するために、図3(a)に示す補正率マップを用いることで、簡素な制御構成でモータ11の出力トルクTを制限することができる。このとき、ウォータポンプ14の作動開始時t0からの時間経過に伴って、モータ11の出力トルクTの制限が徐々に小さくなるように設定されているため、開始時t0から所定時間Zが経過したときに、急激に出力トルクTが大きくなるようなことがなく、安全性を高めるとともにドライバビリティを向上させることができる。
[5.変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
[5−1.ポンプ制御の変形例]
上記実施形態では、ウォータポンプ14はポンプ制御部3の作動制御部3bによってオンオフ制御のみ行われるものであったが、冷却通路17に流通させる冷却媒体の流量Qを制御できるものであってもよい。つまり、ウォータポンプ14が、回転数(稼働速度)Npに基づいて冷却媒体の流量を増減するように構成されていてもよい。
この場合の本制御装置の一例として、車両10の走行する道(走行路)の路面勾配Grを検出し、路面勾配Grに応じて冷却媒体の流量Qを変化させてもよい。路面勾配Grを検出する手段としては、例えば図1中に二点鎖線で示すように、走行路の勾配を検出する勾配検出センサ(勾配検出手段)28が設けられ、勾配検出センサ28で検出された路面情報は、随時車両ECU1に伝達される。インバータECU2は、車両ECU1から必要に応じて路面情報を取得する。
なお、勾配検出センサ28は、車両周辺の路面情報を取得するセンサであって、例えばGセンサで構成される。Gセンサは、車両前後方向の加速度を検出するセンサである。例えば、車両10が路面勾配αを有する坂道で停車したとき、車両10に作用する重力は分力され、分力の一方は車両を路面勾配に沿って移動させる力として作用する。したがって、車両前後方向の分力の大きさ及び分力が作用する向き(前向きか後向きか)を検出することで、路面勾配Grの大きさと、登り勾配であるか下り勾配であるかを検出することができる。なお、ここでは、平坦路を路面勾配Gr=0とし、登り勾配を正の値,下り勾配を負の値とすることで、登り勾配か下り勾配かが区別されるものとする。
作動制御部3bは、例えば図6(a)に示すマップを用いて、勾配検出センサ28で検出された路面勾配Grが大きいほど(登り勾配が大きいほど)、冷却媒体の流量Qを増大させるようにウォータポンプ14の回転数Npを制御する。反対に、作業制御部3bは、路面勾配Grが小さいほど(下り勾配が大きいほど)、冷却媒体の流量Qを減少させるようにウォータポンプ14の回転数Npを制御する。なお、この実施例の場合は、図4(d)に示すフローP4のステップP46の前に、路面勾配Grを検出するステップと、検出した路面勾配Grに応じたポンプ回転数Npを取得するステップとを追加して、ステップP46においてウォータポンプ14を作動させる。
これは、車両10が平坦路を走行するときと同じ車速Vで登り坂を走行する場合は、平坦路に比べて大きな出力トルクTが必要となるため、平坦路を走行するときよりもインバータ13の温度Hが高温になりやすくなるからである。つまり、路面勾配Grが大きいほど、冷却媒体の流量Qを増大させるようにウォータポンプ14の回転数Npを制御することで、インバータ13の冷却能力を増大させることができ、インバータ13を適切に冷却することが可能となる。
また、車両10が平坦路を走行するときと同じ車速Vで下り坂を走行する場合は、平坦路に比べて小さな出力トルクTで走行が可能なため、平坦路を走行するときよりもインバータ13の温度Hが高温になりにくい。つまり、路面勾配Grが小さいほど、冷却媒体の流量Qを減少させるようにウォータポンプ14の回転数Npを制御することで、ウォータポンプ14の寿命を延ばすことができるとともに、インバータ13を適切に冷却することができる。
なお、路面勾配Grを検出する手段は勾配検出センサ28に限られず、例えばナビゲーション装置(図示略)として構成されていてもよい。ナビゲーション装置は、GPS受信機を介して受信されるGPS衛星からの信号と内蔵された地図データとに基づいて、自車位置を認識する。また、地図データには、車両10が走行する走行路の路面勾配Grが含まれた道路情報が記憶されている。そのため、ナビゲーション装置は、自車位置と道路情報とから路面勾配Grを検出することができる。
また、ウォータポンプ14が可変流量式の場合の本制御装置の他の例として、モータ制御部4の出力トルク制御部(指令値設定手段)4bで設定された指示トルク(車両出力トルク指令値)TCに応じて、冷却媒体の流量Qを変化させてもよい。
作動制御部3bは、例えば図6(b)に示すマップを用いて、モータ制御部4の出力トルク制御部4bで設定された指示トルクTCが大きいほど、冷却媒体の流量Qを増大させるようにウォータポンプ14の回転数Npを制御する。反対に、作業制御部3bは、指示トルクTCが小さいほど、冷却媒体の流量Qを減少させるようにウォータポンプ14の回転数Npを制御する。なお、この実施例の場合は、図4(d)に示すフローP4のステップP46の前に、図5のステップM80で設定された指示トルクTCを取得するステップと、取得した指示トルクTCに応じたポンプ回転数Npを取得するステップとを追加して、ステップP46においてウォータポンプ14を作動させる。
これにより、モータ11の出力トルクTが大きくなる場合は、インバータ13の冷却能力を増大させることができ、インバータ13を適切に冷却することが可能となる。また、出力トルクTが小さい場合はウォータポンプ14の寿命を延ばすことができるとともに、インバータ13を適切に冷却することができる。
[5−2.モータ制御の変形例]
上記実施形態では、モータ11の出力トルクTを制限するときに、図3(a)に示す補正率マップを用い、ウォータポンプ14の作動開始時t0からの時間経過に応じて補正率Aを取得しているが、モータ11の出力トルクTの制限手法は上記したものに限られない。
例えば、一例として、開始時t0から所定時間Zが経過するまでの間、図3(a)の補正率マップに加え、インバータ13の温度Hを監視しながらモータ11の出力トルクTをさらに制限する構成であってもよい。
出力トルク制御部4bは、上記実施形態と同様、図3(a)に示す補正率マップから、ウォータポンプ14の作動開始時t0からの経過時間に応じた補正率Aを取得する。さらに、開始時t0から所定時間Zが経過するまでの間、図7(a)に示すマップから、インバータ13の温度Hに応じた修正率Bを取得する。ここで、図7(a)は、インバータ13の温度Hが高くなるにつれて出力トルクTの制限が大きくなるように、出力トルクTの補正率A(又は制限率R)を修正する修正率Bを示したマップである。つまり、インバータ温度Hが低いほど修正率Bは高く、インバータ温度Hが高いほど修正率Bは低く設定されている。なお、修正率Bは、その値が低いほど補正率Aを低い値に修正する(つまり、出力トルクTの制限を大きくするように修正する)。
例えば、ある時間tX(t0<t<t1)において補正率AがA=0.8であった場合、上記実施形態では、指示トルクTCは目標トルクTTGTの0.8倍に設定されるが、ここでは、さらにこの時間tXにおけるインバータ温度Hに対応した修正率Bが取得され、補正率Aに修正率Bを乗じた値を目標トルクTTGTにさらに乗じて指示トルクTCとする。なお、修正率Bは、A×Bの値が0よりも大きく1以下(0<A×B≦1)となるような値である。このようにして設定された指示トルクTCをインバータ13に伝達してモータ11を制御することにより、出力トルクTの制限が修正される。
つまり、出力トルク制御部4bは、インバータ13の温度Hが高くなるにつれて、モータ11の出力トルクTの制限が大きくなるように修正する。これにより、インバータ13の温度Hを常に監視しながら出力トルクTの制限を修正することが可能なため、インバータ13のオーバーヒートを確実に防ぐことができる。さらに過剰な出力トルクTの制限が抑制されるため、ドライバビリティを向上させることができる。
なお、インバータ13の温度Hを取得する手段は、温度センサ23に限られない。例えば、外気温度を検出する外気温度センサを設け、インバータECU2においてインバータ13の作動時間と電流の大きさとに基づいてインバータ13の温度上昇を推定し、外気温度センサで検出した温度に推定した温度上昇を加算してインバータ13の温度Hを取得してもよい。
また、他の例として、開始時t0から所定時間Zが経過するまでの間、図3(a)の補正率マップに加え、ウォータポンプ14の回転数Npを監視しながらモータ11の出力トルクTを制限する構成であってもよい。ウォータポンプ14が可変流量式の場合、車両10には、図1中に二点鎖線で示すように、ウォータポンプ14の回転数Npを検出する回転数センサ24が設けられる。回転数センサ24は、例えばウォータポンプ14の回転軸の近傍に設けられている。回転数センサ24で検出されたポンプ回転数Npは、随時インバータECU2へ伝達される。
出力トルク制御部4bは、上記実施形態と同様、図3(a)に示す補正率マップから、開始時t0からの経過時間に応じた補正率Aを取得する。さらに、開始時t0から所定時間Zが経過するまでの間、図7(b)に示すマップから、ウォータポンプ14の回転数Npに応じた修正率Cを取得する。ここで、図7(b)は、ウォータポンプ14の回転数Npが増加するにつれて出力トルクTの制限が小さくなるように、出力トルクTの補正率A(又は制限率R)を修正する修正率Cを示したマップである。つまり、ポンプ回転数Npが低いほど修正率Cは低く、ポンプ回転数Npが高いほど修正率Cは高く設定されている。なお、修正率Cは、その値が高いほど補正率Aを高い値修正する(つまり、出力トルクTの制限を小さくするように修正する)。
例えば、ある時間tX(t0<t<t1)において補正率AがA=0.8であった場合、上記実施形態では、指示トルクTCは目標トルクTTGTの0.8倍に設定されるが、ここでは、さらにこの時間tXにおけるポンプ回転数Npに対応した修正率Cが取得され、補正率Aに修正率Cを乗じた値を目標トルクTTGTにさらに乗じて指示トルクTCとする。なお、修正率Cは、A×Cの値が0よりも大きく1以下(0<A×C≦1)となるような値である。このようにして設定された指示トルクTCをインバータ13に伝達してモータ11を制御することにより、出力トルクTの制限が修正される。
つまり、出力トルク制御部4bは、ウォータポンプ14の回転数Npが増加するにつれて、モータ11の出力トルクTの制限が小さくなるように修正する。これにより、ウォータポンプ14の冷却性能を監視しながら出力トルクTの制限を修正することが可能なため、インバータ13のオーバーヒートを確実に防ぐことができる。さらに過剰な出力トルクTの制限が抑制されるため、ドライバビリティを向上させることができる。
なお、出力トルク制御部4bは、図7(a)及び(b)に示すマップを両方用いてモータ11の出力トルクTの制限を修正してもよい。つまり、目標トルクTTGTに、補正率Aと修正率B及びCとを乗じて指示トルクTCを設定してもよい。
また、さらに他の例として、図3(a)に示す補正率マップの代わりに、図7(c)に示すようなマップを用いて出力トルクTの制限を行ってもよい。この図7(c)のマップは、予めインバータECU2に記憶されており、出力トルクTの上限値TULが設定されている。図7(c)に示すように、出力トルクTの上限値TULは、開始時t0では最も低く設定されており、所定時間Zになるまでの間は徐々に大きく設定され、所定時間Z以降はモータ11の最大トルクTMAXに設定されている。
出力トルク制御部4bは、設定した目標トルクTTGTがその時刻における上限値TUL以上の場合は、上限値TULを指示トルクTCとして設定する。一方、目標トルクTTGTがその時刻における上限値TULよりも小さい場合は、目標トルクTTGTを指示トルクTCとして設定する。つまり、出力トルク制御部4bは、設定された目標トルクTTGTが予め設定された上限値TUL以上になった場合のみ、目標トルクTTGTを上限値TULでクリップして指示トルクTCとする。このような構成により、出力トルクTの制限は本当に必要な場合のみ実施され、ドライバビリティを向上させることができる。
また、図3(a)に示す補正率マップの初期補正率A0をインバータ温度H又はポンプ回転数Npに応じて修正するように構成してもよい。例えば、開始時t0のインバータ温度Hが低いほど初期補正率A0を高く修正することで、最も出力トルクTが制限される開始時t0のトルク制限が小さくなり、ドライバビリティを向上させることができる。
また、図3(a)の補正率マップの所定時間Zをポンプ回転数Np又はインバータ温度Hに応じて修正するように構成してもよい。例えば、上記実施形態では、所定時間Zが予め設定された固定値とされているが、ポンプ制御部3によりウォータポンプ14の回転数Npが制御可能であれば、所定時間Zをポンプ回転数Npに応じて修正することで、出力トルクTが制限される時間を変更することができる。これにより、ウォータポンプ14の寿命確保とインバータ13の保護に加え、ドライバビリティを考慮した適切な制御を実施することができる。
なお、ここで説明したモータ制御の手法は例示であって、これら以外の方法によりモータ11の出力トルクTを制限してもよい。また、上記したマップはいずれも徐々に(滑らかに)変化するものを例示したが、例えばステップ状(階段状)に変化するマップを用いてもよい。
[5−3.その他]
上記したシフトポジションSPは一例であって、例えば、Lレンジ(低速モード)やBレンジ(ハイブリッド自動車や電気自動車においてエンジンブレーキ効果が強くなるモード)のように、上記四つのレンジ以外のレンジが設けられていてもよい。また、MT車のようにモータ11の作動状態が細かく分類されていてもよい。このような場合は、モータ11が無負荷状態とならない(すなわち、モータ11が停止していない)レンジは、モータ11が作動する走行レンジとなる。
また、上記実施形態では電気自動車10に本制御装置が適用された例を説明したが、電気モータとエンジンとを動力源とするハイブリッド自動車に本制御装置を適用することも当然可能である。また、ウォータポンプは、ハイブリッド車であれば電動ポンプに限らず、エンジンによって駆動されるものでもよい。